中小企業のためのヒューマンエラー防止ハン ドブック V。ー-ー

中小企業のための ヒ ユ ー マ ン エ ラ ー 防 止 ハ ン ドブ ック VOI.1
ヽ
1.中 小企業 に お ける ヒュー マ ンエ ラー
ヽ
私 が メ ー カ ー に 勤 務 して い た 頃 の 経 験 で は 、 協 力 会
社 (中 小 企 業 )で 製 造 され る 部 品 の 品 質 は 高 く、 普 段
は 受 け 入 れ 検 査 な しで 使 用 して い て も 問 題 は あ りま せ
ん で した 。 しか し各 社 と も 時 々 (年 に 数 回 程 度 )不 良
品 が 納 入 され ま した 。
協 力 会 社 に と っ て も 不 良 品 を納 入 して しま う と 、不 良
の選 別 、代 替 品 の 製 作 、報 告 書 の 作 成 、 再 発 防止 の処
置 な ど の 労 力 を か け な けれ ば な りま せ ん 。 こ れ は そ の
企 業 の 収 益 に 少 な か らず 影 響 を 与 え ま す 。 こ の 時 々 発
図
1
不 良 が 出 れ ば処 理 は大 変
生 す る 不 良 の 原 因 の 大 半 が ヒュー マ ン エ ラー に よ る も
の で した 。
ヒュ ー マ ン エ ラ ー の 対 策 に つ い て は 、多 くの 書 籍 や セ ミナ ー で は 、1.手 順 書 や 規
定 類 に よ る 仕 組 み の 構 築 、2.物 理 的 に 不 良 を発 生 させ な い ポ カ よ け の 構 築 、3.再 発
防 止 な ど事 後 の 対 策 、 こ の
3つ が 主 に 説 明 され て い ま す 。
しか し多 品 種 少 量 生 産 が 主 の 中 小 企 業 で は 、 製 品 毎
饒
に ポ カ よ け を 作 る の は 容 易 で は な く、 品 質 の 確 保 は
作 業 者 の 注 意 力 に 依 存 す る 場 合 が 少 な く あ りま せ ん 。
鞭 │■ 鑽
黎
作 業 者 の 注 意 力 に は 限 界 が あ り、 そ の 結 果 頻 度 は 多 く
な い も の の 不 良 が 流 出 して しま い ま す 。 例 え 発 生 した
巫 胚
が
良
流
図
「
I:「 弾
憲
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層
言
31「 翼
∬
2 対 策 しても、別 の 原 因 で不 良 発 生
この よ うに定形化 で きず 、ポ カよけも組み 込 めな い不 良 (ヒ ュー マ ンエ ラー )を 防
止 す る 方 法 は な い の で し ょ うか 。
そ の ヒ ン トが 、鉄 道 `航 空 機 な ど ミス の 許 され な い 業
界 に あ りま す 。 こ れ ら の 業 界 は 過 去 に ヒ ュ ー マ ン エ ラ
ー に よ る 大 き な 事 故 が 発 生 した た め 、 こ れ を 防 止 す る
ノ ウ ハ ウ が 蓄 積 して い ま す 。 本 ハ ン ドブ ッ ク で は 、 こ
れ らを参 考 に 中 小 企 業 で も で き る ヒュー マ ンエ ラー を
防 止 す る 方 法 を紹 介 しま す 。
た だ し、こ れ らの 方 法 が 仕 組 み や ポ カ よ け に 勝 る わ け
で は あ りま せ ん 。作 業 の 標 準 化 や ル ー ル の 策 定 を 行 い 、
ポ カ よ け が 構 築 で き る も の は ポ カ よ け を構 築 した 上 で 、
本 ハ ン ドブ ッ ク の 手 法 を 取 入 れ る こ と を お 薦 め しま す 。
写真
1,2ヒ
ュー マ ン エ ラー 防 止 の
ヒントは 交 通 機 関 な どか ら
2.不
良 の発 生 原 因 と ヒュー マ ンエ ラー の分 類
一 口に ヒュー マ ン エ ラ ー と言 つて も、その原 因 は 、無 知 、あ る いはス キ ル 不 足 に
よ る物 か ら、故意 に行 うも の ま で 様 々で す 。下 図 に ヒ ュー マ ン エ ラ ー の 原 因 の分 類
を示 します 。
スキル 不足か らくるエテ
入カミス、操作ミス
過失
スリップ
人的ミス
目分 で は そ つず べ き と思 つて いた の に
違 う行 動 をして しまう
例 アクセルとブレーキの踏み間違 い
(ヒ ューマンエラー)
の発生
近道行動
より楽な方法を取る
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じ 素 ■LCイ レ ヽ し ■
ひ リ イ し:よ 月 日 Xじ
lよ 73・ レ
・ノ
例 遠 回 りになるので横 断歩道を使わな い
故意
手抜き
悪質なものは、犯 罪
規 定通 りの作 業をしない
(ル ール違反 )
例 時間がな いため全数検査を抜き取 りにする
(全 数検 査が規定されていれ ば、違 反 )
違反行為
図
3人 的 ミス(ヒ ュー マンエラー )の 原 因
こ の ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー を 作 業 者 の 行 動 か ら分 類 した も の を 下 図 に 示 しま す 。
無知・理解 していない
知 らない、又 は理解 していないため、
認知 できない
事実を誤つて認識してしまう
人 的 ミス
(ヒ ューマンエラー)
事実 に対し、誤つた判断をする
の分類
本 人の意 思 とは違う行動をしてしまう
手抜きなどで意 図的 に不適切な行動 を取る
能 力が不十分で適 切な行動が できない
図 4人 的 ミス(ヒ ューマンエラー)の 分 類
本 ハ ン ドブ ック Vol.1 で は 、 上 記 ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー の 原 因 の 内 、 認 知 に 関 す る
もの を取 り上 げます 。 図 4の 残 り 2項 目 (行 動 と判 断 )に つ い て は 、 Vol.2で 取
り上 げ る予 定 です 。
3.不
良 と ス イ ス コチ ー ズ モ デ ル
不 良 と事 故 は、 よ く似 た 点 が あ ります 。
不 良 =作 業 の 結 果 、要 求 され た 品質 を満 た さな い 。
事 故 =作 業 の結 果 、要 求 され た安 全 が維 持 で きな い 。
で は 、事 故 は ど う して起 き るの で しょ うか 。事 故 は単 独 の 原 因 で起 き る こ とは
多 くあ りませ ん 。 一 つ の 不 安 全 行 動 だ けで は 、誰 か が 気 が つ き事 故 に至 らな い よ
うに対 処 して い ます 。 しか し、 複 数 の 原 因 が 重 な る と重 大 な事 故 が 発 生 して しま
す 。 これ は以 下 の 「ス イス ・ チー ズ モ デ ル 」 で説 明 され ます 。
太 陽 の光
貫通
(事 故 )発 生
同様 に個 々 の 作 業 に 不 注 意 、 作 業 ミ
ス 、 ル ー ル の 無 視 が あ つて も即 座 に不
良 (=事 故 )は 発 生 しま せ ん 。 しか し
これ を放 置 す る と い つ か 穴 が 重 な り、
重 大 な 不 良 (=事 故 )が 発 生 して しま い
ます 。
ス ラ イ ス した チ ー ズ
(個 々 の 作 業 工 程 )
が種/ψ
と図 の よ うに な り、 穴 の位 置 が 全 部 ―
致 す る と光 が 通 ります 。
/撮
ス イ ス の チ ー ズ は穴 が た くさん 空 い
て い ます 。 これ を ス ラ イ ス して 重 ね る
図5
ス イ ス ・ チー ズ モ デ ル
例 え ば制 限 速 度 を 大 幅 に 超 え て 自動 車 を運 転 して も 、す ぐに 事 故 に な る わ け で は
あ りま せ ん 。しか し、そ の と き 交 差 点 で 信 号 を無 視 して 進 入 した 自動 車 が あ つ た 場
合 、制 限 速 度 で 走 つ て い れ ば 避 け る こ と が で き た の に 、速 度 を 出 しす ぎ た た め に 避
け る こ とが で き ず に 事 故 が 起 き て しま い ま す 。 こ の よ う に ル ー ル を逸 脱 す る と 、
安 全 に 対 す る マ ー ジ ン が 減 少 し、一 つ の ミス で 大 事 故 に つ な が つ て しま い ま す 。同
様 に 今 は 不 良 が 発 生 して い な くて も 、ミ ス や 問 題 を放 置 す れ ば 、い つ か 不 良 が 発 生
して しま い ま す 。
従 つ て 個 々 に 危 険 (問 題 )を 感 じた り、ル ー ル の 逸 脱 な ど 問 題 行 動 が 発 覚 した 時 点
で 、適 切 な 処 置 と 対 策 を講 じて お く こ とが 重 要 で す 。 (普 段 か らチ ー ズ の 穴 を埋 め
て お くの が 大 事 で す 。 )
4.認
知 ミス に よ る ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー の 種 類
認 知 ミス の 中 に は、知 らなか った こ と (無 知 ・ 無理 解 )に よ る もの と、 誤 つた 認
知 (誤 認 識 )の 2種 類 が あ ります 。 それ ぞれ 以下 の よ うに分 類 します 。
表
1
認 知 ミス の 分 類
内容
分 類
無知・ 無理解
誤認識
対 策
正確 に伝わ つて い な い
復誦・ 確 認会 話 ・掲 示
正 確 に伝 え な い
現 地 ・現 物 での確 認
あ いま いな こ とが聞 けな い
伝 え方 に問題 が ある
教 育・ 聞 きや す い雰 囲 気 作 り
腹 に落 ちて い な い
図 で伝 え る、体 験 す る
伝 え る情 報 が 少 な い
暗 黙 知 の 顕 在 化 、裏 図 面
短 期 記 憶 を忘 れ る
メモ 、 中 断 カー ド
残 像 記 憶 に よ り間 違 え る
再度確認
差が小 さす ぎて気づか な い
配置の変更
情 報 が 多 す ぎ て 、 見 落 とす
余 分 な 情 報 を カ ッ ト、 強 調
感 覚 の 間 違 い 、 見 落 と しや す
補 助線 、強調
指導者 の教育
い要 素
意 味 の な いもの は間違 え る
具 体 的 な名前 をつ け る
目立 た な い
強 調 す る表 示
計器 が見間違 いやす い
アナ ログか らデ ジタル ヘ
発生確率が低 く見落 とす
自働 化
経 験 に よ る思 い込 み
手 順 書 な ど紙 に よ る伝 達
5.無 知
4.1.正
口無 理 解 に よ る ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー と 、 そ の 対 策
確 に伝 わ って い な い
相 手 に 口頭 で伝 え た 場 合 、そ の 内容 は どの くらい相 手 に正確 に伝 わ つて い るで し
ょ うか 。過 去 に「言 つた こ とが 相 手 に正 確 に伝 わ らなか った 」た め に 発 生 した事 故
は少 な くあ りませ ん 。
事例
1
オ レン ジ色 の パ ネ ル → オ レ ン ジ 色 の ロケ ッ ト
2003年 3月
28日
イ ラ ク 戦 争 に お い て 、 ア メ リカ 軍 の
し、 イ ギ リ ス 軍 の
一
一
兵 士 人 が 死 亡 、 人 が 負 傷 しま した 。 原 因 は 、 味 方 の
象 徴 で あ る車 列 の オ レン ジ色 の パ ネ ル を 、 オ レン ジ色 の
ロ ケ ッ トラ ン チ ャ ー と 誤 認 識 した た め で す 。 2機 の A10
│
攻 撃 機 の パ イ ロ ッ トが 最 初 オ レ ン ジ色 の パ ネ ル と呼 ん で
い た も の は 、 次 に オ レ ン ジ 色 の も の 、 そ して 敵 の ロ ケ ッ
トラ ン チ ャ ー に 変 わ っ て しま い ま した 。
■襲一
一
瑚
﹁
一
争
掛13
A10攻 撃 機 が イ ギ リス 軍 の 車 列 を 誤 爆
■■■i■
写真
i■ ■
'■
3 A10攻 撃 機
ノ
■クノタ F中 /
対策
指 示 を 受 け た 場 合 、受 け た 側 が 「 復 誦 」す る の が 効 果 的 で す 。指 示 した 側 も相 手
の 復 誦 を 聞 い て 、間 違 っ て い れ ば 指 摘 す る こ とが で き ま す 。ま た 、指 示 が 長 い 場 合
は 内 容 を要 約 して 、復 誦 しま す 。 (確 認 会 話 )
い も の は 必 ず 確 認 しま す 。
特 に 時 刻 、数 、品 番 な ど 間 違 え や す
〈確 認 会 話 の 事 例 〉
Aさ ん 「 明 日 10時 ま で に 、 A製 品 を 500 個 トラ ック に 積 ん
で お い て くだ さ い 。 」
「
Bさ ん
は い 、 明 日の 10時 に 、 A製 品 を 500個 です ね 。」
證
指 示 を 受 け た と き は 理 解 して い て も 、時 間 が 経 つ と あ い ま
い に な つ て しま い ま す 。重 要 な こ と は 、紙 に 書 い て 掲 示 して
図
お き 、 後 で 作 業 者 が 確 認 で き る よ うに して お き ま す 。
6重 要 な こ と は 掲 示
4.2.正
確 に伝 えて いな い
事 実 を言 葉 で正 確 に伝 え る こ と は 、意 外 と 難 し い も の で す 。 さ ら に 人 は 伝 え る 相
手 に 自分 に好感 を持 つて 欲 し い と考 え る た め に 、言 葉 に は 伝 え る 相 手 の 意 思 が 反 映
され て いま す 。
事例
コ ロ ン ビア 大 学 の バ ー バ ラ ロ トブ ア ス キ ー 教 授 は 、
ディテールの 省 略
誇 張 、最 小 化 、ね つ造
学 生 が 他 人 に 話 した こ と を 数 週 間 に わ た り調 査 しま
した 。 そ の 結 果 、 全 会 話 の 61%が 事 実 と異 な っ て い ま
した 。 最 も 多 か つ た 改 変 は 、 デ ィ テ ー ル の 省 略 (36%)
で 、次 い で 誇 張 (26%)と 最 小 化 (25%)、 そ して 全 くの ね
つ 造 も 13%あ りま した 。学 生 は 話 を 聞 き手 の 好 み に 合
わ せ た だ け で な く、自分 の 目 的 に も合 わ せ て 改 変 して
い ま した 。
対策
図
7
ど こま で が 真 実 ?
作 業 者 が 「 や つ ち や い ま した 」 と失 敗 を 報 告 した 時
頭 ご な しに 叱 られ る と 自分 へ の 非 難 を軽 くす る た め に
θ
,“
報 告 は 脚 色 され 不 正 確 に な りま す 。 この 誤 つ た 情 報 に 基
づ き 不 良 の 対 策 を す る と 、 問 題 が 解 決 せ ず 再 発 して し ま
要
重い
ヽな
8
勒
図
崚
理 者 が 報 告 内 容 を現 地 現 物 主 義 で 確 認 しま す 。
を報
敗情
失な
い ま す 。 作 業 者 が 失 敗 を報 告 した 時 は 事 実 確 認 に 徹 し
批 判 ・ 指 導 を行 わ な い よ う に しま す 。 ま た 可 能 な 限 り管
1,・
4.3.聞
けな い
‐
・ 1:‐
│:‐
111
'7,デ
浄
∼ 人 は 他 人 に 聞 くの を い や が る
作 業 の 内 容 に 不 明 な 点 や あ い ま い な 点 が あ っ た 時 、多 くの 人 は他 人 に 聞 く こ と に
抵 抗 感 が あ りま す 。 こ れ は 女 性 よ り男 性 に 顕 著 に 出 ま す 。
事例
ア ル バ ー タ 大 学 教 授 エ ド・コ ー ネ ル は 、 6歳 、 12歳 、 20歳
の 3つ の グ ル ー プ の 移 動 能 力 を調 査 しま した 。大 学 内 の キ ャ
ンパ ス を移 動 し、そ れ ぞ れ の グ ル ー プ が どれ だ け早 く正 しい
道 を 見 つ け 出 し、 どれ だ け迷 つ た か 調 べ ま した 。 そ の 結 果 、
い ち ばん 道 に迷 った の は
6歳 の 男 の 子 の グ ル ー プ で した 。ま
方?
9
し
図
男
止 め て 人 に 道 を尋 ね 、 男 性 は 道 を探 して 闇 雲 に 歩 き 回 る 。 」
と い う典 型 的 な 例 を表 して い ま す 。
し
す
¨
や
ヽ
た 迷 っ て い る 間 、女 子 は 男 子 よ り人 の 助 け を借 りて ル ー トを
正 す こ とが 多 い こ とが わ か りま した 。 これ は 、 「 女 性 は 足 を
が 迷
聞 き や す さ は 、 相 手 との 親 密 さ に 影 響 され ま す 。 (他 人 に は 聞 け な い け ど 、 家 族
に 聞 け る こ と は 多 い は ず で す 。 )特 に 昨 今 の 製 造 現 場 は 、 正 社 員 、 パ ー ト社 員 の
み な らず 、派 遣 社 員 や 外 国 人 研 修 生 な ど 多様 な 経 歴 日立 場 の 人 が い ま す 。そ の た め 、
職 場 内 で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン が 不 十 分 と な り、「 聞 け ば す む よ うな こ と 」を 聞 か
ず に 作 業 を行 う と不 良 が 発 生 して しま い ま す 。
対策
職 場 で の ミー テ ィ ン グ や 親 睦 会 な ど 、互 い に親 し くな る機 会 を設 け ま す 。そ して
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン を高 め 、 気 軽 に 聞 け る よ うな 人 間 関 係 を構 築 しま す 。
図 10気 軽 に 聞 け る 人 間 関 係
4.4.伝
Tで
図
12
親睦会
∼ ○ 」 T(On the Job Tralning)の 落 と し穴
教 え て も 、細 か な ノ ウ ハ ウ が 伝 わ らな い 、技 能 が 伝 承 され な
え方 に 問題 が あ る
先 輩 社 員 が 0」
図 11ミ ー テ ィ ング
い と い う問 題 が あ りま す 。
O」 Tの 落 と し穴
仕 事 の仕 方 や ノ ウ ハ ウ を伝 え る方 法 と して 、日常 の業 務 を
通 して 0」 Tで 行 うケ ー ス が あ ります 。しか し実 際 に は きち
ん と教 育 して い な い こ との 逃 げ 口上 に使 わ れ て い る場 合 が
あ ります 。
O」 Tの 効 果 を出す に は、習 得 す べ き知 識 や技 能 を明確 に
し、い つ ま で に習 得 す るか計 画 を 立 て る必 要 が あ ります 。現
実 に は 、教 え る時 間 が な く仕 事 の全 体 構 造 や必 要 な要 素 の抽
出が で きず ち ゃん と教 え る こ とが で きな い 先輩 と、学 ぶ意 思
が な いの に 先 輩 と いれ ば 自然 と学 べ て しま う と勘 違 い して
い る後 輩 が 、 O」 Tを 行 つて い る ことが 少 な くあ りま せ ん 。 図 13何 を い つ ま で に教 え
る の で し よ うか
対策
習得 す べ き知識 や 能 力 を明確 に した 上 で 、伝 え る方 法 を 工 夫 します 。
効 果 的 な O」 T ① 図 で伝 え る
A社 で は 、海 外 工 場 の作 業 指 示書 に文章 と絵 を併 用 して います 。海 外 工 場 で も当
初 は文 字 を主 とす る 日本 式 の作 業 指 示書 を踏襲 して いま したが 、作 業 員 の識 字 率 が
低 く、意 図 が うま く伝 わ らな いた め 、日本 と同 じよ うな質 の 高 い 製 品 を作 る こ とが
で きま せ ん で した 。そ こで 「わ か りやす い伝 達 法 」を模 索 し、絵 と文 字 を組 み 合 わ
せ た と ころ 非 常 に効 果 的 だ つた た め、 これ を国 内 の 工 場 に も展 開 しま した 。
① バリなきこと
(面 取り不可)
①
② この面キズ不可
②
③
φ 10の 左端 面 の角 はバ リなきこと。
(面 取 りも不可 )
φ10の 側面 はキズ不可
φ3部 の長 さ5は 、123-456が 6で
異なるため、混在 に注意
作業指示書B
③ 123-456は 、A寸 法 が 6で 異なる
混在注意
作 業指示書
Bの よ うな 文 字 だ けの 表
現 は 、 以 外 と現 場 に あ りま す 。
作 業指示書 A
図
14
作 業指 示書 Aと B、 どち らが 分 か りやす いです か
効 果 的 な O」 T ② ア クテ イ ブ学 習
座 学 中心 の パ ッシ ブ学 習 と異 な り、自 ら考 えて行 動 し経 験 す る こ とで学 ぶ 学 習 方
法 です 。ア クテ イ ブ学 習 は 自分 の 頭 の 中 に モ デル を作 り、それ を頭 の 中 で トライ ア
ン ドエ ラ ー で動 か しなが ら検 証 します 。そ して そ の 知識 に関す る思 考 回路 が頭 の 中
で作 られ ます 。
パ ッ シ ブ学 習 (講 義 形 式 )
知 識 が バ ラ バ ラ に 頭 の 中 に 入 り、 頭 の 中 で 互 い に 結 び つ い て 構 造 化 され ま せ ん 。
参考
そ の た め 実 際 の 場 面 で そ の 知 識 を使 つ て 応 用 す る こ とが で き ま せ ん 。
〇
O o
\
∼
勒
体 験 に よ り、 各 作 業 が 頭 の 中 で
構 造 化 され る た め 応 用 が 利 き ま す
図
15
ア ク テ ィ ブ学 習
一 方 的 に 聞 くだ け で は 、知 識 は 頭 の 中 に
バ ラ バ ラ に 存 在 し、 応 用 が 利 き ま せ ん
図
16
パ ッ シ ブ学 習
4.5.情
報 量 が 少 な く、 表 面 的 に しか 伝 わ らな い
作 業 指 示 書 や マ ニ ュ ア ル に ど う して そ の や り方 に な つ た の か 、根 拠 や 理 由 が 書 か
れ て い な い と 、そ の 作 業 に 対 す る 理 解 が 浅 く、作 業 指 示 書 や マ ニ ュ ア ル を何 も考 え
ず に 守 る だ け に な つ て しま い ま す 。
作 業 指 示 書 ・ マ ニ ュ ア ル の デ メ リ ッ トと形 骸 化
時 間 の 経 過 と共 に 作 業 指 示 書 ・ マ ニ ュ ア ル の 経 緯 を知 る 人 が い な くな り、作 業 手
順 書 ロマ ニ ュ ア ル 以 外 の こ と を 「 試 して は い け な い 、考 え て も 行 け な い 」 と い う融
事例
通 の 利 か な い 運 用 に な つて しま い ま す 。そ の 結 果 、条 件 の 変 化 に 対 応 で き な くな り
「作 業 手 順 書 ・ マ ニ ュ ア ル が 形 骸 化 」 して しま い ま す 。 こ れ を 防 ぐた め に は 作 業 手
順 書 ロマ ニ ュ ア ル は 、「 守 る た め の も の だ が 、され ど変 え る た め に も あ る 」と考 え 、
定 期 的 に 見 直 し を 図 る 必 要 が あ りま す 。
対策
作 業 手 順 書 ・ マ ニ ュ ア ル に そ の 方 法 を 決 め た 根 拠 や 理 由 を 追 記 しま す 。 同 様 に
NCプ ロ グ ラ ム や 加 工 図 を作 成 した 時 も 、 そ の や り方 を決 め た 理 由 を 記 録 しま す 。
後 日工 程 や 加 工 図 を 変 更 す る 際 に 、 以 前 ど の よ う に 決 め た の か 理 由 を 確 認 で き 、
変 え て は い け な い と こ ろ を 変 え て しま い 問 題 が 生 じる こ と を 防 ぐ こ とが で き ま す 。
こ れ を裏 図 面 と呼 ぶ 場 合 も あ り、 暗 黙 知 の 形 式 知 化 と言 え ま す 。
…1/夕 淵 f
〓o判 ∞S A︶
⑦
決定 ・選 択 の理 由の例
A 理 屈 の つ く理 由
8.
o判 ors の︶
バリなきこと⑥
(面 取り不可)
B
右記 の 中 で、⑦ の「 えいや !」 は直感 とい う
「理屈の つ く理 由」 と して います 。
17
規格
相手部品形状
工具寸法
加 工上の制約
強度要求
機能要求
えいや
!
理 属 の つ か な い理 由
③ 昔 か ら決まって いた
⑨ 言 い伝 え
⑩ よ くわか らない
図 面 に 右 の 理 由 の 番 号 を 朱 記 で 記 入 し保 管
しま す 。
図
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
根 拠 や理 由 を明記 した裏 図面 の例
誤 認 識 に よ る ヒュー マ ンエ ラー と、 そ の 対 策
6.1.短
期記憶 は忘れ る
た った 今 見 た も の を記 憶 で き る時 間 は 、 一 般 的
に は 3秒 と い わ れ て い ま す 。
右 図 の ネ ッカー の 立 方 体 は 、右 下 に伸 び て い る
よ うに も 、 左 上 に伸 び て い る よ うに も見 え ます 。
こ れ を 訓 練 して で き る 限 り早 く反 転 で き る よ うに
す る と 、 3秒 後 に は 自動 的 に も う 一 つ の 見 え 方 に
反 転 す る よ う に な りま す 。
こ れ は 人 間 の 意 識 が 3秒 しか 持 続 しな い た め で
す 。例 え ば連 続 す る会 話 に お い て も、 個 々 の 発 話
の長 さは お よそ
図
3秒 で す 。
18
ネ ッカー の 立 方 体
従 つ て 、作 業 中 に 確 認 した こ と も 3秒 以 内 に処 理
で きな けれ ば 、忘 れ て しま い ま す 。
事例
ス ー パ ー の レジ
か つ て ス ー パ ー で は 、受 け 取 つ た お 札 を 、
お 客 様 は 「 1万 円 だ !」 、 レ ジ 係 は 「 千 円
です !」 と い う トラ ブル が あ りま した 。 そ
こで 今 で は会 計 が 終 わ る ま で 、 お札 を マ グ
ネ ッ トで レジに留 め て いま す 。
図
19
スー パ ー の レジ
ド
瑯
︼
・
訳
力
にを 記
の 特 性 か ら忘 れ て しま い ま す 。そ の 結 果 作 業 を
中 次 マ入
ま で 作 業 した か 記 憶 に 頼 つ て い る と 、短 期 記 憶
断のジ﹂
製 造 現 場 に お い て 、作 業 を 中 断 した 時 、 ど こ
再 開 した 時 に 工 程 を 飛 ば して しま う こ と が あ
りま す 。
薇16か エ ネ
対策
作 業 を中断す る際 は 、ど こ ま で 終 わ つた か 、
「 中断 カー ド」 に書 いて お きます 。
図
20
中断 カー ドの例
6.2.残
像 記 憶 が 災 いす る
前 記 と逆 に 、今 まで の 作 業 の記 憶 が残像 記 憶 とな り、今 見 た情 報 とす り替 わ つて
しま う こ とが あ ります 。ある人 は 、前 日、一 日中ポー カー をや つて いた た め に翌 日
作業 中に
1, 2,3… 10,jack、
Queenと 数 えて いま した 。
事例
前 の 帳 票 で 、 198.2ば か り記 入 した い た た め 、
今 度 の 帳 票 に 189.2と 記 入 す べ き と こ ろ 、 198.2
と記 入 して しま っ た 。
対策
①
記 入 後 の確 認
あ りきた りです が 、数字 を記 入 した後 は 、必 ず
確 認 しま す 。 日々の 業 務 で 何 千 回 とデ ー タ を記
入 す れ ば 、 ど こか で 記 入 ミス が 生 じます 。毎 回
図 21 同 じ数 ばか り書 いて い る と つ
か り記 入 ミス を して しま う
必 ず 確 認 し、少 しで も ミス を減 ら します 。
記 入 しな い
記 入 ミス を防 ぐ最 良 の 方 法 は記 入 そ の も の を
や め て しま う こ とで す 。例 え ば 、 プ リ ン タ付 き
②
の計 測 器 に変 え て 、測 定結 果 を印刷 し検 査 成 績
書 に貼 りま す 。 又 は デ ー タ転 送 機 能 付 きの計 測
器 を使 用 して 、 パ ソ コ ンに デ ー タ を送 り、検 査
成 績 書 は パ ソ コ ン内 部 の デ ー タ に して しま い
写真
4
プ リ ン タ 付 き温 度 計
ます 。
B社 で は 工 程 内不 良 を調 べ た と ころ 、最 も 多 か
つた の は 、検 査 成 績 書 に検 印 を忘 れ た り、 チ エ
ック 印 を忘 れ た りと い つた 記 入 ミス で した 。 そ
こで 検 査 成 績 書 の 記 入 内容 を大 幅 に減 ら した と
ころ 、記入 ミス は減 少 しま した。
写真
5
デ ー タ転 送 機 能 付 き ノ ギ ス
つ
II■
―ツ>‖
ll…・
ン■ソノI
`111ハ
6.3.差
が小 さす ぎて気 が つ か な い
間違 つて違 う部 品 を手 に して しま つて も差が小 さ い と、間違 いに気が つ きません。
饉
事例
2007年 11月 ロサ ン ジ エ ル の シ ナ ー ズ サ イ タ イ 病 院 で
双 子 の 未 熟 児 に 抗 血 液 凝 固 剤 ヘ パ リ ン を 注 射 した 際 、
看 護 師 が 希 釈 率 を 誤 り規 定 量 1ミ リ リ ッ トル あ た り 10
10000単 位 と い う高 濃 度 を 投 与 して
しま い ま した 。原 因 は 10単 位 と 10000単 位 の 容 器 が 同
単 位 の 所 、 1000倍
じ形 で 、 ラ ベ ル の 色 が 一 方 は 明 る い 青 、 も う 一 方 は 暗
6
ヘパ リンの 参 考 写 真
(こ れ は 事 故 品 で は あ りま せ ん )
写真
め の 青 と混 同 じや す か つ た た め で した 。
この 二 種 を 取 り違 え る こ と は 関 係 者 の 間 で は周 知 の 事 実 で 、 2001∼ 2006年 の 間
に 1万 6000件 以 上 の ヘ パ リ ン の 投 与 ミス が 発 生 して い ま した 。 この 事 故 の 後 よ う
や く製 薬 会 社 は 薬 剤 の ラ ベ ル を青 か ら赤 に 変 更 しま した 。
ピッキ ング ミス
倉 庫 か ら部 品 を ピ ッキ ングす る際 に、直
事例
直 径 φO.9
直 径 φO.8
径 0.8mmの ピンの入 つた 箱 の隣 は、直 径
0.9mmの ピンが 入 つた 箱 で した 。担 当者 は
誤 つて 0.9mmの ピン を気 づ か ず に ピッキ
ング して しま いま した 。
図
22
ぱ つ と見 て気 が つ くで しょ うか
′″
対策
可能 で あれ ば、直 径 0.8mmは 黒 い表 面 処 理 を行 い 、直 径 0.9mmは 地 金 の銀 色 に し
て 、現 物 を見 て 一 日で違 いが わ か る よ う に します 。
現 物 に違 い を付 け られ な い 場 合 は、似 て い る部 品 は離 して配 置 し、誤 つて ピツキ
ング して もす ぐに分 か る よ うに します 。
ピ ン ΦO.8と 、 ピン ΦO.9を
間 違 え て も気 が つ き に くい
図
23
部 品 の保 管 の工 夫
12-410
ヮッシャ Φ 8
12-346
ピ ン Φ O.9
ピン ΦO.8と 、 ワ ッシ ヤ Φ8
を間 違 えれ ばす ぐに 気 が つ く
/ /
ワ ッシャ Φ
ピ ン Φ O.8
︰1 l Л ﹃
12-345
J ′
′
ピ ン Φ O.9
12-410
︱1lЛ
ピ ン Φ 08
12-346
〃7/
鰤
一
●
″″一
12-345
譴
6.4.情
報 が 多す ぎて見 落 とす
人 は情 報 が 多 い と、目的 の情 報 をな か な か 見 つ け られ な いだ けで な く、見 落 と
て しま い ます 。
事例
ナ イ キ に は視 界 を乱 す もの を排 除 す る よ うに設
計 され た 「 ICパ タ ー 」 が あ りま した 。 この パ タ
ー の 上 面 の ア ラ イ メ ン トラ イ ン は 鮮 や か な 白 を採
用 し、 視 線 を ク ラ ブ とボ ー ル の 接 触 面 に 集 中 させ
る事 を狙 つ て い ま した 。
対 象 を 整 列 す る だ け で 情 報 が 整 理 され て 、 見 落
と しを 防 ぐ こ とが で き ま す 。 そ の 際 整 列 の 方 向 に
写真 7
ICパ
ター の上面
よ つ て 見 や す さが 大 き く変 わ りま す 。
A
B
団□
田□
[ⅢコEコ
│
ON
カ
ら
ヽ
ち
じ
ど
か
B
う
A,
よ
は
図 24
、
力
″わ
OFF
目視検査 で は視界 に不要 な情報 が 多 い と、検査対象 に集 中 で きず不 良 を見落 と
やす くな ります。
対策
1
ガバ リを 当 て て 、
溶 接 ビー ドの 有 無 、
ガバ リ
ガ バ リと呼 ばれ る板 を当 て て 、検 査 箇 所
以 外 は見 え な い よ う に します 。 ま た ガ バ リ
大 き さ を検 査
に検 査 箇 所 を矢 印 で 指 示 します 。検 査 箇 所
以外 が 見 え な くな り余 分 な情 報 が減 少 して 、
日視 検 査 で の 見 逃 しを防 ぐ事 が で きます 。
ま た見 や す くな る た め 、検 査 時 間 が短 縮 で
溶 接 ビー ド
きます 。
(a)DIPス イ ッチ の 設 定 の 検 査
図
25
12
ガ バ リの 例
(b)ビ ー ドの 検 査
曲 げ方 向が
対策
2整
に列
き 整
向 に
して お け ば 、 曲 げ方 向 を間 違 え て も、 す
同 よ
れ る と違 いが わ か りませ ん 。 しか し整 列
じ う
がるる
穴なす
列
加 工 後 の 品 物 を箱 の 中 に ラ ン ダ ム に 入
ぐに分 か ります 。
26
部 品の整 列
1と 2の 合 わ せ 技 も あ ります 。これ に よ り今 まで あ った Oリ ング取付 け忘れ の検
査 漏 れ が な くな りま した 。
0リ ン グ
0リ ン グ の 取 付 け 忘 れ
の 目視 検 査
Oリ ン グ が 小 さ く数 も
多 い た め 、 整 列 して も
見 逃 しが 発 生 して い ま
した ゛
〈改 善 前 〉
板 で他 の部分 を
隠 して 、 1列 ず つ
検 査 す る よ うに
変 更 した 結 果 、見
逃 しが ゼ ロ に な
りま した 。
〈改善後〉
27
図
整 列 とガ バ リの 併 用
6.5.前
後 の 情 報 で判 断 し間違 え る
人 は もの を認識 す る時 に、 そ の もの だ けで な く、 そ の 周 りあ る いは 前 後 の 情 報
か ら認 識 します 。前 後 の情 報 が 異 な る と違 う認 識 結 果 を もた ら します 。
事例
1 13
か 、 Bで す か
l
:
:
:
:
:
図 28
事例
2
14
12
:
中央 の表 記 は 、 どち らも同 じ
何 で し よ う か (フ ィ ッシ ャー の あ いま い 図形 )
(1)
(2)
(3)
(3)は 何 で しよ うか 。
図
29
フ ィ ッシ ャ ー の あ いま い 図形
1
な濃 ― プン駐 ラ ー齢 鷲 /:ンドゾック ソθ′̀:
(4)
(D
図
30
6)
前 ペ ー ジ の 図 の (3)と 、
左 の 図 の (6)は 同 じ 図
形 です :
フ ィ ッシ ャー の あ いま い 図形 2
この よ うに対 象 物 の周 りや前 後 の 情 報 が 、対 象 物 の 認 知 に重 大 な影 響 を与 え ます 。
例 え ば製 品 や部 品 が 作 業 の流れ に対 して 不 自然 だ と、前 後 関係 の 情 報 が おか し くな
り、誤 認 知 の原 因 とな ります 。
事例
未 加 工 箇 所 が あ る 品物 が 流 出 した た め調 査 した と こ ろ、加 工 前 と加 工 後 の 品物 を
入 れ る箱 が 同 じ場 所 に あ り、箱 の色 も同 じで した 。
加 工 前 の 品 物 と加 工 後 を 入 れ
る箱 が 同 じ場 所 に あ り、色 も 同
じた め 間 違 え や す い 。
/入
加工後の品物 を
れ た箱
\組 立 前 の 品 物 を
図
31
工 程 飛 ば しが 発 生 した 配 置
入れ た箱
対策
加 工 場 所 を真 ん 中 に し、未 加 工 品 と加 工 済 み 品 を 入 れ る 箱 は 作 業 の 流 れ に 沿 つ て
左 右 に 分 け る と と も に 、 箱 の 色 を 変 え ま した 。
箱 の位 置 を変 え る
箱 の色 を変 え る
図
32
箱 の色 と配 置 の 変更
14
6.6.感
覚 の 間 違 い 、 見 落 と しや す い 要 素
人 は水 平 、 垂 直 に は敏 感 で す が 、 斜 め の 感 覚 は鈍 感 で す 。特 に傾 斜 の 向 き は間
違 い を起 こ しや す い と い わ れ て い ま す 。
事例
普 段 見 て い る駐 車 禁 止 の 道 路 標 識 、
正 しい の は
(I解
は
、
左
ど ち らで し ょ う か
図 33
)
圧 力 計 な ど斜 め の 指 針 を 読 む 場 合 は 、
傾 き 方 向 を 間 違 え る と 値 が 全 く違 つ て
しま い ま す 。
駐車禁止 の道路標識
補助線
色分 け
対策
メー ター に補 助 線 や 色 分 け を追加 し
読 み 間違 い を防 ぎ ます 。
図
34
角 度 読 み 間違 いの 防止
6.フ .意 味 の な い も の は 間 違 え る
人 は 数 字 や 記 号 よ り、 意 味 の あ る も の の 方 を 正 確 に 認 識 しま す 。
事例
1
ウ ェイ ソ ンの
4枚 カ ー
ド問 題
ど ち らが 早 く答 え られ る で し ょ うか 。
Ql「 母 音 文 字 の 裏 は必 ず 奇 数 」 を確 か
め る の に 必 要 な カ ー ドは どれ で す
か
。
面 に ア ル フ ア ベ ッ ト、 片 面 に 数
が
字 印字 され て い ます 。 )
(片
Q2「 20歳 未 満 の 裏 は必 ず ソ フ ト ドリ
ン ク」 を確 か め るの に必 要 な カー ド
は どれ で す か 。
(片 面 に 名 前 と年 齢 、 片 面 に 飲 ん で
い る もの が 印字 され て い ま す 。 )
図
35ウ
卜嗜
:R
ェイ ソ ンの
実 験 で は 、 最 初 の 例 (Ql)で は 回 答 者 4 人 の 内
後 の 例 (Q2)で は ほ ぼ 全 員 が 正 答 しま した 。
4枚 カ ー
ド問 題
3人 が 間 違 え て ま
した が 、
/:レ
=
事例
2 FAA空
ァト,IFI・
:
の 位 置 の ポ イ ン ト名
ア メ リカ 連 邦 航 空 局 (FAA)は 、 主 要 な 航 行 ポ イ ン トに 独 自の 識 別 名 を つ け通 常 5
文 字 の コー ドで「フ ィ ク ス 」 (決 め られ た 地 点 )と 呼 ば れ て い ま す 。「フ ィ ク ス 」は
そ の 土 地 の よ く知 られ た 特 徴 を表 して
いて 、例 え ばサ ンア ン トニ オ な ら ALAMO
(ア ラ モ 砦 )、 オ ー ラ ン ド(デ ィ ズ ニ ー
ヽ`1/
BUXOM(巨 乳 )?
ワー ル ドの 所在 地 )な ら、MICKI、 MINEE、
G00FYが 付 け られ て いま す 。さ らに イ ン
パ ク トの あ る も の に は 、 オ レゴ ン 州 の
BUXOM(巨 乳 )、 ア イ ダホ 州 の 」UGGS(爆 乳 )
図 36 忘れ られ な い ポ イ ン ト名
な ども あ ります 。
実 際 の 製 造 現 場 で 、 部 品 ・ 製 品 の 識 別 に 型 式 の み で 行 う と、 う つ か り型 式 を誤 認
識 して しま い ま す 。 型 式 以 外 に 、 部 品 の 大 き さや 特 徴 を併 記 しま す 。
12-345
ラベル
カ ラー
改善前
12… 345
カ ラー
φ 30X2 ,失
図
37
表 記 の改 善
改善後
6.8.目
立 た な いため気 が つか な い
そ れ が 何 で あ る か 見 た だ け で わ か ら な い と 、 誤 認 識 の 原 因 と な りま す 。 製 造
現 場 に お い て は 、現 場 に あ る もの 全 て が 、見 た だ けで 「 ど うい うもの か 」 「 ど う
い う状 態 か 」 わ か る よ う に す る の が 望 ま しい と い え ま す 。
事例
ある病 院 で は、移 植 用 の 腎臓 を 一 般 的 な ク ー
ラー ボ ック ス に入 れ て いま した 。そ の結 果 、手
術室 を片付 け よ う と した看 護 師 が 、ク ー ラ ー ボ
ック ス に移 植 用 の 腎 臓 が 入 つ て い る こ とに 気
づか ず 別 室 に移 して しま い ま した 。そ の結 果 ク
ー ラー ボ ック ス は放 置 され 、移 植 用 の 腎臓 が ダ
メに な つて しま い ま した 。
図 38 大事 な もの が 入 つて い る
こ とがわ か らな い と …
ぎ薫 … ■).イ 子 …ぷ 計 /411'● :′ フオ ンち
回回
を 設 定 す る ス イ ッチ や ボ タ ン を 誤 操 作 す る
と加 工 条 件 が 変 わ っ て しま い ま す 。 ラ ベ ル
で 作 業 者 に 注 意 を 促 した り、 カ バ ー を 付 け
□回
回 回回回
同様 に製 造 現 場 で も 、加 工 機 の 加 工 条 件
て 作 業 者 が 不 用 意 に 押 さ な い よ う に しま す 。
図 39 重 要 なス イ ッチ に は 、注 意 書 き を
器 が 見 間違 いや す い
アナ ロ グ式 の計 器 は、表 示 の 変 化 を確 認 す る に は 良 いの です が 、値 を読 む際 に
は 目盛 りの読 み 間 違 いが 発 生 しやす い とい う特徴 が あ ります 。特 にマ イ ク ロメー
タ ー の よ うに 目盛 りの細 か い測 定器 は 、 ベ テ ラ ンで も読 み 間 違 え る こ とが あ りま
6.9.計
す。
oヽ
10
15
20
25
30
ib1 0 2 4(.
│'
町
(a)→ (b)→
(c)
の 順 に間 違 いや す い
写真
図
45
8
ベ テ ラ ン で も 間 違 え る 目盛 りの 例
読 み 間違 いや す い 目盛 り
対策
デ ジ タル 式 に変 え ます 。
真
9
ア ナ ロ グ か らデ ジ タ ル ヘ 変 更
一 方 デ ジ タ ル 式 は値 の 変 化
表
を監 視 す る の に 弱 い と い う特
徴 が あ ります 。アナ ロ グ 、デ ジ
2
表 示方 式 の特徴
タル それ ぞれ 特徴 を理 解 し、作
業 の 目的 に応 じて選 択 します 。
′
ナ ログ表 示
ギ ●〕ん ‖^ヨ ヒ
=
読みやすさ
△
◎
変化 の検 出
◎
X
調節 しやすさ
◎
△
17
6.10.発
生 確率が低 く見落 とす
発 生 確 率 の 低 い もの の検 査 は、不 良 の 検 出率 が 低 下 します 。 これ は 「人 は捜 し
物 が な さそ うな ら早 め に あ き らめ る」 よ うに プ ロ グ ラ ム され て い るか らです 。
事例
2002年 にア メ リカ国 内の空 港検 査 員 5万 人 に つ
いて 銃 を見過 ごす 確 率 を調 査 しま した 。そ の結 果 、
見 過 ごす 確 率 は 25%で 、 なん と 4丁 に 1丁 は見 過
ご され て いた こ とが 判 明 しま した 。 この と きの発
生 確 率 は lPPM(100万 の 1)、 650万 人 の乗 客 に対 し、
検 査 員 が 見 つ けた銃 は 598丁 で した 。
図
40
め ったに出 な い もの
は見過 ご しや す い
目視 検 査 の 限 界
この よ うに 目視 検 査 で は 、不 良 の 発 生 確 率 が 低 い と不 良 を 発 見 す る 熱 意 が な く
な り、 不 良 を 見 過 ご して しま い ま す 。 か と い つ て 不 良 が 多 い 時 は 、 全 部 の 不 良 を
検 出 しきれ ず 、 や は り見 過 ご して しま い ま す 。 従 つ て 、 で き る 限 り前 工 程 を 改 善
し、 日視 検 査 に 頼 らな い 工 夫 が 必 要 で す 。 や む を 得 ず 目視 検 査 で 品 質 を確 保 す る
場 合 は 、 検 査 員 を 二 重 に す る な ど の 工 夫 を しま す 。
検 査 の 自働 化
市 販 の 画 像 検 査 装 置 が 使 い や す く安 価 に
な つた た め 、自働 化 で きる箇 所 は 自働 化 す る
対策
こ と を お 薦 め しま す 。 (右 の 画 像 セ ンサ は
15万 円前 後 )
色 あ いや 細 か な キ ズ な ど微 妙 な違 いは 画像
検 査 装 置 は苦 手 です が 、装 置 が は つ き り識 別
で き る 不 良 は 人 間 よ り高 い 信 頼 度 で 検 査 で
きます 。簡 単 な電 気 の 知識 が あれ ば 、図 の よ
う に画 像 検 査 装 置 と、 押 しボ タ ンス イ ッチ 、
電源 、 ブザ ー 、 リ レー を組 み 合 わ せ て作 る こ
とが で きます 。
写真
10
画 像 セ ンサ (オ ム ロ ン 製 )
画像検査装置の
カメラ
スタン ド
画像検査装置の
リ レー
コ ン トロー ラ
ワー ク
ブザ ー
押 しボ タ
ス イ ッチ
図
6. 11
41
画 像 検 査 装 置 の例
思 い込 み に よ る 誤 認 識
18
6.5.で
述 べ た よ う に 人 は 前 後 の 情 報 に よ り判 断 が 変 わ りま す 。 そ の た め
先 入 観 を持 っ て い る と入 手 した 情 報 を誤 認 知 して しま い ま す 。
事例
1989年 1月 8日 、ヒース ロー 空港 を出発 した ブ リテ ィ
ッシ ュ ミッ ドラン ド航空 92便 (ボ ー イ ング 737-400型 )
は高度 8500mの 地点で左 エ ンジンが 損傷 しま した。 しか
しパ イ ロ ッ トは右 エ ンジンの 火災 と判断 し、右 エ ンジン
を停 止 させ 、緊急着陸のためイース トミッ ドランズ 空港
に向か いま した。 その結果着陸態勢 中に損傷 した左 エ ン
ジンが停止 し、推 力を失 つた機体 は地面に激 突。乗客
(ボ ー イ ング 737-400)
¬ 18名 の内 47名 が犠牲 にな りま した。
従来 の機種 は空調 システムの 吸気 口が右 エ ンジンコンプ レッサー にあつたため 、副操縦士
は機 内が焦 げ臭 いことか ら、右 エ ンジンが損傷 した と思 い込んでいま した。 しか しこの新型
機 (ボ ー イ ング 737-400型 )は 、両側 の エ ンジンか ら空気 を取 り込む よ うにな って いて 、実
際 に火 災 を起 こ したの は左 エ ンジンで した。客室 内か らは右 の エ ンジンか ら炎が上が ってい
るのが見 えたのですが 、その ことを副操縦士 は確認 しませんで した。
思 い 込 み の 問 題 は 、 他 の 現 場 か ら移 動 した り、 他 の 会 社 で 色 々 な 経 験 を した 作
業 者 で よ く発 生 しま す 。 彼 らは 経 験 が あ る た め に 不 明 な 点 が あ っ て も 自 らの 判 断
で 作 業 を行 つ て しま い ま す 。 特 に 緊 急 時 や 不 良 品 の 選 別 な ど で 他 の 職 場 か ら応 援
が あ つた 時 は要 注 意 で す 。
対策
例 え 経 験 豊 富 な ベ テ ラ ンで も 、 応 援 な ど で 新 た な 作 業 を行 う場 合 、 日 頭 の 説 明
だ け で な く作 業 手 順 書 を 元 に 正 し い 作 業 を 伝 え ま す 。 作 業 手 順 書 が な い 場 合 も 、
要 点 を メ モ 書 き して で き る 限 り紙 に 書 き ま す 。伝 え る 際 は ど う して この よ うな 手
順 に な っ た の か 、 理 由 を説 明 しま す 。
7.ま
とめ
認 知 ミス の うちの 一 つ 、 「無 知 口無理 解 」 の 大 半 は今 まで述 べ た よ うに 「伝 え
て い な い ・ 伝 わ つて い な い 」 こ とが 原 因 で す 。 この 「伝 え る こ と」 は こ こで 述 べ
た方 法 以外 に も様 々 な手 法 が あ ります 。 「伝 え る こ と」 を工 夫 す る ことで 、 ミス
を減 ら し、 今 まで 以 上 に作 業者 の能 力 を引 き出す こ とが で きます 。
も う一 方 の 「誤 認 識 」 は、完 全 に な くす こと は難 しい もの の 、人 間 の 認 知特 性
を理 解 し、間 違 いや す い と こ ろ を改 善 す る こ とで 、減 らす こ とは可 能 で す 。
ぜ ひ本 ハ ン ドブ ック を参 考 に ミス の な い もの造 りを実 現 で き る こ と を願 つて い
ます 。
19