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2016 年 6 月 24 日
BREXIT の影響を考える
ビジネスリーダーたちは、英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)が企業や産業にどのような影響をもたらすか
を問い続けている。本稿では、今後考えられる経済的影響やその他の波及的影響など、現時点でわかってい
ることを述べるとともに、リーダーが今すぐ実行すべきことのチェックリストを提示する。英国が EU から離脱する
プロセスについては、依然として詳細が見通せないままであるが、はっきりしていることが一つある。それは、
不確実な状況下での戦略を習得し、やり遂げることがかつてないほど重要になるということだ。
具体的に何が起こったのか?
英国の国民投票で、EU「離脱」が「残留」を 3.8 ポイント上回り、「離脱」派が勝利した。
次に何が起こりそうなのか?
英国は EU の基本条約(リスボン条約)50 条に則り、EU から離脱する手続きを開始しなければならないが、
どのように行われるのかは明確ではない。
英国は、交渉を通じて EEA(欧州経済領域)または EFTA(欧州自由貿易連合)への参加を目指すか、ある
いは個別に自由貿易協定を結ぶ道を模索する可能性がある。
離脱と新たな協定の締結に向けた交渉には数年かかる可能性が高い。つまり、今すぐに変わることはほと
んどないが、経済の不確実性は長期にわたる可能性がきわめて高い。
経済への影響はどのようなものになりそうか?
大多数のエコノミストの見解は、英国経済にマイナスの影響がおよび、GDP が 3~8%ポイントの幅で押し下
げられるというものだ。
英国の世界貿易におけるシェアはわずか 3%にすぎず、しかも今後は(EU やその他の国々との)この水準
の貿易と、EU 加盟国としてのその他のメリットを再び手にできる保証はない。そのうえ EU は、他の国による離
脱の連鎖を阻止するために、英国にとって好ましい条件での離脱には簡単に応じようとしないかもしれない。
後述するような波及効果が影響をさらに大きくする恐れもある。
株式市場や為替市場の直後の反応は、こうした予測を支持するかのように、いずれもボラティリティ(変動幅)
が非常に高くなっている。
成長、貿易、投資、金利、金融市場など、多くの面で不確実性とボラティリティの高い状況が長期化する
可能性がきわめて高い。移民や法的手続きへの影響は言うまでもない。
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考えられる波及効果にはどのようなものがあるか?
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政治の不確実性
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有権者の過半数が EU 残留に票を投じたスコットランドなど、地域による投票結果の相違から生じる、
英国の国家体制への疑問

他の EU 加盟国が英国に続いて離脱を求める可能性
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不満と保護主義に根ざした政治勢力の台頭。これはすでに米国や他の地域でも表面化しているが、
経済成長や貿易をさらに減速させ、経済の不確実性を一段と高めるおそれがある。
業界や企業への影響をどう考えたらよいか?
業界や企業により、英国や EU での生産・需要・貿易、世界貿易、そして EU の規制や助成(研究開発への
補助金など)への依存度は大きく異なる。
このため各企業は、具体的な影響を独自に分析する(もしくは分析レベルを一段階上げる)必要がある。
離脱の条件やタイミング、さらには波及効果が見通せないため、確信を持って予測することは不可能だ。
したがって、シナリオベースのプランニング・アプローチ(複数の結果をモデル化するアプローチ)を取ることを
推奨する。
シナリオに盛り込む要素としては、たとえば、英国とその他の国における高/低成長、貿易の拡大/縮小、
政治の不確実要素の早期解決/解決の長期化、などがおよぼす影響が挙げられる。
リーダーが今すぐに実行すべきこと、伝えるべきこと: チェックリスト
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従業員とステークホルダーに、流動性や既存の取引の安定性など、業界と自社に関する具体的な
事実を伝える。
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課題を入念に検討していることを示して信頼を得る。プロセスを定義する。
時間がかかることを確認する。法律や雇用、取引について、短期的には何らかの変化がある可能性は
ほとんどないことを強調する。
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業界や自社について精査する。シナリオを基にしたプランニングを行う。コンティンジェンシー・プラン
を策定して、成長戦略や、グローバル展開、グローバル・サプライチェーン、リスクの各戦略に結果を
反映させる。
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コミュニケーションを絶やさない。目標に対する進捗を発信し続ける。
長期的に、未知の領域での不確実な状況下でビジネスのダイナミクスはどう変わるのか?
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柔軟性や適応力、レジリエンス(復元力)を軸とする「不確実な状況下での戦略」の重要性がさらに高ま
る。
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経済や政治の分析の重要性が増す。ビジネスはマクロ経済や政治のダイナミクスと深く結びついてお
り、その影響を強く受ける。マクロ経済や政治の分析が不可欠になるだろう。
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イノベーションと成長に向けた新たな戦略。英国の EU 離脱は、ただでさえ後退していた成長見通しに
追い討ちをかけるものであり、単に市場に参加するだけではなく、自ら積極的に成長オプションを作り
出すことに注力すべきだ。
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Martin Reeves
ボストン コンサルティング グループ(BCG) ニューヨーク・オフィス シニア・パートナー&マネージング・ディレクター、
BCG ブルース・ヘンダーソン研究所(BHI)所長
Philipp Carlsson-Szlezak
BCG ニューヨーク・オフィス チーフ・エコノミスト、BHI 傘下の BCG マクロ経済センターのリーダー
Stuart Quickenden
BCG ロンドン・オフィス シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
原題: Examining Brexit: What’s Next?
https://www.bcgperspectives.com/content/articles/strategy-strategic-planning-examing-brexit-whats-next/
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