七飯高校における海外交流の取り組み

北海道七飯高等学校の海外交流の取り組み
北海道七飯高等学校
英語科教諭
桜井
みちる
平成9年、七飯町がアメリカのマサチューセッツ州コンコード町と姉妹都市提携したのをきっか
けに、七飯高校には毎年同町の生徒や教員が訪れ、学校見学や授業参加を通し生徒間・教員
間の交流が続けられてきました。平成10年からは3年に1度、コンコードカーライル高校(以下
CCHS)のバンドの生徒約100名が七飯町を訪問し、今まで4回本校の吹奏楽局の生徒との合同
演奏会を町の文化センターにて開催しています。また、毎年七飯町の代表として、七飯町内の中
学生5名と町民代表3名と共に、本校2年生から3名がコンコードに派遣されています。このよう
な積み重なる交流の結果、平成22年4月、念願であったCCHSと七飯高校との正式な姉妹校提
携が実現し、町の文化センターで姉妹校提携調印式と両校生徒による合同演奏会が開催されま
した。国際理解教育を教育の軸として長年取り組んできた七飯高校とっては、新しい歴史の第一
歩となりました。
コンコードはボストンから車で30分くらいの場所にある、自然豊かな人口1万7千人の静かな
町です。ヘンリー=ソローの『森の生活』の舞台にもなったウォールデンポンドがあり、森の中を
抜けるくねくねとした町道沿いに、閑静な住宅が点在しています。ワイルドターキーがその辺を歩
いていたり、訪問した9月末にはちょうどハロウィーンのオレンジ色のカボチャが山積みされるな
ど、四季折々の彩り豊かな風景が見られます。文化的著名人も数多く輩出しており、ソローの他
にも『自然』のラルフ=エマソン、『若草物語』のルイザ=メイ=オルコットが傑作を生み出した地
としても有名です。1775年、イギリス兵とアメリカ農民兵が対峙しここから独立戦争が始まった
オールドノースブリッジもあり、歴史的にも重要な役割を果たしてきました。町の雰囲気としては、
ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学のあるボストンが近いこともあり、知識階級層が多
く、CCHSはほとんど全員が大学に進学するような学校で、親の教育への意識も高い印象を受け
ました。
そして、平成23年9月、校長を団長として、吹奏楽局45名、英語部8名、生徒会2名、吹奏楽
局顧問教諭1名、英語科教諭3名で構成された姉妹校提携記念親善訪問団が初めてコンコード
を訪れました。訪問の大きな目的は、コンコードでの合同記念演奏会と生徒全員のホームステイ
でした。飛行機に乗って初めての旅行がアメリカ、という生徒が多い中、引率者としては心配なこ
とがたくさんありました。無事に全員アメリカに着けるだろうか、言葉の壁、体調不良、海外での
迷子、盗難事故、ホームシック、ホーム
ステイ先とのミスマッチ・・・等々挙げれ
ばきりがありませんでした。吹奏楽局は
演奏会に向けての練習とオープニング
の和太鼓の有志による練習、英語部・
生徒会は日本舞踊の練習など文化交
流の準備に忙しく、その合間を縫って
『挨拶・自己紹介』『食事』『要求を伝え
る』『予定を伝える』等のテーマを絞り、
このくらいは最低限準備しておこうとい
-1-
う表現を集めて、英会話教室も実施しました。生徒も教員も準備に追われているうちに春、
夏があっという間に過ぎました。生徒たちはいよいよ渡米が間近に迫り、期待も膨らんでゆく
一方で、ホームステイへの不安も増していったようです。そもそも七飯高校はいわゆる進学
校、受験校ではなく、英語に関して生徒は中学校からの苦手意識を引きずっており、キライ、
必要ないという感情を持つ生徒がクラスの半数以上はいるという状態です。そんな彼らが、
10日間の海外生活とホームステイのなかに放り込まれるわけですから、並々ならぬ勇気と
覚悟が必要だったはずです。 吹奏楽局は全員が参加しましたが、初めは正直『行きたくな
い』という生徒もいたようです。
9月23日、いよいよ出発の日がやってきました。生徒の大きなスーツケースはホームステ
イ先へのお土産がぎっしり詰まっており、国内制限の20㎏ぎりぎりという生徒も多くいまし
た。函館空港から羽田空港までが1時間、成田空港からミネアポリスまでが12時間、ミネア
ポリスからボストンが4時間、計17時間の長時間のフライトです。初めての機内食に大喜
び、初めての機内英会話にドキドキ、入国審査にオドオド、と初めて尽くしの1日で大層緊張
しただろうと思います。概ね全員元気に過ごしていましたが、中には緊張から酷い飛行機酔
いになり、飲食物を何も受け付けられず、脱水症状になって医師と看護師が呼ばれるという
ハプニングもありました。55名を海外に引率する難しさを初めて感じた瞬間でした。それで
も夜9時には全員無事にコンコードに到着し、それぞれのホームステイ先に引き取られてい
きました。
9月25日にはCCHSのホールにて地域住民向けの合同演奏会が開催され、七飯高校の
み、CCHSバンドのみ、ジョイントコンサートという流れで進行しました。オープニングでは練
習してきた和太鼓の音が力強く会場に響きました。演奏中は会場はしんと静まり、空気は緊
張で張り詰めていましたが、演奏が終わっ
た途端割れんばかりの拍手が湧き起こりま
した。七飯高校の吹奏局の演奏はスタンダ
ードなものから、アメリカングラフィティ、パイ
レーツオブカリビアン、リトルマーメイドと幅
広い年齢層に親しまれるような多彩なプロ
グラム構成でした。気迫と若いエネルギー
に溢れた演奏を披露し、私が今まで聞いた
中でも一番と言える程の感動的な演奏でし
た。顧問と生徒がこの演奏会に向けて一丸
となって創りあげてきた強い想いが伝わってくる演奏でした。その想いが客席にも届いたの
か、地域のお客さんからは鳴り止まない拍手とスタンディングオーベーションをもって讃えら
れました。CCHSのバンドに関しては2軍も持っているような大規模な楽団で、地域でも有名
な伝統校です。3年に1度の七飯での演奏会でもその実力を存分に知らしめています。常に
伝統校らしく、大人らしい、安定した演奏を披露していますが、七飯高校とのジョイントになっ
たときには両校の生徒がとたんに高校生らしい表情になりました。笑顔で本当に楽しそうに
演奏をし、会場全体から手拍子が自然と出て、音楽の交流が会場全体の心の交流になった
-2-
ひとときでした。後に生徒も『音楽に国境はない』、『音楽を通じて、違う国の者同士が一つに
なれたことを一生忘れない』、『これからも音
楽を続けていきたいと強く思った』、『今まで
の演奏の中で一番楽しかった』と語っていま
す。この演奏会で七飯高校の吹奏楽局は
優れた演奏を披露するだけでなく、はるばる
日本からアメリカにやって来た喜び、感動、
感謝の想いを音楽を通じて伝えることがで
きたと思っています。
さて、旅の大きな目的であった演奏会は大成功に終わりましたが、次なる目的のホームス
テイについてお話しします。普段から基礎的な英文法、語彙もよく身に着いていないままに
生徒のホームステイ生活は始まりました。55人が2人、もしくは1人でCCHSの生徒の家で
面倒を見てもらうことになりました。これだけの数の生徒がホームステイしている以上、当然
生徒やホストファミリーからの苦情やミスマッチはあるだろうと想定していました。ところが、
そのような問題は一切ありませんでした。ホストファミリーは日本の学生が来るということで、
普段食べ慣れていない日本食を購入したり、きちんと個人の部屋やバスルームなど生活ス
ペースを整えてくれて、万全の準備で生徒を迎えてくれました。中には、2名の日本の学生
が来るので、この機会に新たに家を購入したという家庭まであり、生徒が「家にある家具の
あちこちに、値札やビニールがついている!」とびっくりしていました。体調不良、ホームシッ
クになる生徒はいましたが、教員がケアしなくてもホストファミリーが自分たちの子どものよう
に(または自分の子ども以上に)生徒を大事にしてくれました。私の所には、毎日のように生
徒がやってきて、「昨日大きなショッピングモールに連れて行ったもらった」、「ピクニックに連
れて行ってもらった」、「レストランに行って大きなハンバーガーを食べた」、「盛大なホームパ
ーティーがあった」、「朝食に焼き鮭が一本丸ごとでてきた」、「プールやバスケットコートつき
のすごい家に住んでいる」など目をきらきらさせて報告にやってきました。家族と過ごせるわ
ずかな時間の中で、生徒を存分に楽しませ、経験させてくれようとしているホストファミリーの
心遣いがわかりました。また、お母さんたちからは「ほんとうに(生徒たちは)かわいい」、「一
生懸命伝えてくれるから、なにも不安は感じない」、「日本から着物をおみやげに持ってきて
くれて、着せてくれた」、「具合が悪そうだから、どんなスープを食べさせてあげたら良いだろ
うか」など大変心あることばをかけてもらい、安心したと同時に皆さんの心の広さとあたたか
さに感謝しました。1週間のホームステイが終わる頃には生徒は「パパ」「ママ」と呼ぶほどに
ホストファミリーに馴染み、別れの時にはハグしたままホストファミリーからなかなか離れら
れませんでした。生徒にとってはホームステイでの交流が一番の思い出となり、海外で思い
を伝えられて、受け入れられたことは今後の彼らの人生を支える自信になることでしょう。
学校生活では、2日間授業参加の機会がありました。数学、化学、スペイン語などの一般
の生徒に混じって受ける授業もあり、言っている内容はほとんどわからなくてもアメリカの生
徒が積極的に挙手して発言する姿や、自分の意見を堂々と発表している様子に、カルチャ
ーショックを受けたようです。飲食をしたり、立ち歩くことも授業によっては許されていることも
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驚きだったようですが、それ以上にそんな中でも授業には集中して規律を守って臨んでいる
ことを見て、日本での自分たちの振る舞いや考え方がいかに子どもっぽく他人まかせだった
かを反省し、帰国したら普段の授業をもっと自発的にがんばろうと思ったと言う生徒の声が
聞かれました。英語の授業では、CCHSの生徒と本校の生徒が、日本とアメリカの違いにつ
いて話し合う意見交換がありました。「7:30
授業開始なんて、CCHSは学校が始まるのが
早い」、「授業で飲食をできるなんて、日本で
は考えられない」、「休み時間が6分しかなく
て、次の授業の教室に全校生徒が移動するこ
とに驚いた」、「車で学校に通えてうらやまし
い」、「日本はお弁当やコンビニだけど、メニュ
ー豊富なカフェテリアがあってうらやましい」、
「車がハイウェイ並みに猛スピードで走るので
怖い」、「日本の一般家庭では考えられないくらい家が広い」など生徒が口を開くと、それに
ついてアメリカ人の生徒からどんどん質問がでて、日本の日常が意外とアメリカの生徒に知
られていなくてとても関心が高いことを知りました。日本の生徒も日本や日本の文化をたど
たどしい英語や身振り手振り、時には絵を描いて一生懸命説明し、最後にはポスターセッシ
ョンで話し合った内容を発表し全体で共有しました。両校の生徒にとっては実際のところを率
直に話し合い、国は違ってもお互いの共通点や相違点を見いだす新鮮な体験となりました。
その他にもCCHSにはラジオステーションやテレビステーションがあり、その模様はローカ
ルテレビやインターネットを通じて放送されています。本校の生徒もラジオ番組に出演した
り、CCHSに在学している台湾、中国、ドイツ、トルクメニスタン等から来た外国人留学生と対
談するテレビ番組に出演したりと、七飯や北海道、日本をアピールできる様々な機会を用意
していただきました。
このようにCCHSの先生方、関係者の方々には今回の訪問が実り多いものになるように、
企画運営面において全面的なサポートをしていただきました。ボストンミュージアムやハーバ
ード大学の見学、バークリー音楽大学でのタイガー大越氏・寺久保エレナ氏らによるジャズ
演奏鑑賞、コンコードの名所・旧跡を巡るツアーなど、限られた時間内で最大限の経験を生
徒たちに与えてくれました。今回の親善訪問が成功したのは、CCHSとその生徒、保護者の
手厚い支援とあたたかいおもてなしの心のおかげです。これを機に、七飯高校の生徒、教
員、保護者もコンコードとの繋がりをより大切な
ものとして意識するようになりました。今後は互
いの学校の交流がより活発になることと思いま
す。
帰国後は全校生徒向けに吹奏楽局による記
念演奏と、パワーポイントやスライドを使っての
報告会を行いました。今回参加しなかった生徒
も、身近な友達が経験してきた海外生活の話を
-4-
熱心に聞き、未知の世界への憧れや夢を膨らませるきっかけを作りました。また、生徒とホ
ストファミリーは手紙やeメール、フェイスブックで交流を続けています。簡単な英作文を書く
ことでさえ大きな負担だった生徒たちが、まだまだ拙いものではありますが英語を使って自
由にやりとりをしています。今年の春には、CCHSから日本文化研究部の生徒たち25名が
また七飯を訪れます。夏にはいくつかのホストファミリーがグループで七飯を訪れ、日本のこ
どもたちに会いに来るようです。今回の訪問をきっかけに、交流が一気に活発化し、交流の
輪が多くの人々のものになったのを目の当たりにして、七飯高校に着任以来ずっと国際交
流に携わってきた者としては、夢のような現実を本当に嬉しく思います。
この親善訪問にあたっては事前、事後指導や企画・運営にあたってきましたが、それらす
べての過程を経て生徒は大きく成長しました。苦手ながらも英語は大切だということを実感
し、英語の学習に自分から取り組む生徒が多くなり、英検を受ける生徒数も今年本校では
過去最高になりました。外国や外国人はなんだか怖いと避けていた彼らが、海外に行きた
い、もっと違う世界を見たい、海外で勉強したいという夢を描いています。これからの未来を
創る彼らの前に新しい世界や可能性を開けることを信じて、これからも英語教員として英語
学習の楽しさと世界のコミュニケーションツールとしての生きた英語を伝えていきたいと思い
ます。
七飯高等学校-コンコード姉妹校提携記念親善訪問
日次
1
月
日
9月23日(金)
時
間
旅程
/
行
程
函館空港集合(7:15)
函館空港発(8:45)→羽田空港着(10:10)
ANA-4782
羽田→成田(貸切バスにて移動)
成田空港発(15:55)
DL-622
飛行時間約11時間
【日付変更線通過】
ミネアポリス着(12:55)
入国審査
ミネアポリス発(15:20)→ボストン着(19:10)
ボストン→コンコードカーライル高校
DL-1330
(スクールバスにて移動)
ホストファミリーと対面・各家庭へ
2
3
9月24日(土)
9月25日(日)
午
前
吹奏楽局CCHSにてリハーサル
午
後
オーチャードハウス訪問・見学
午
前
吹奏楽局CCHSにてリハーサル
午
後
コミュニティ-コンサート開演
(和太鼓披露・合同演奏会)
18:30
バーベキューパーティー
(日舞披露・記念品交換・ダンスパーティー)
21:00
4
9月26日(月)
8:30
ホストファミリーと帰宅
コンコード学生向けコンサート
(和太鼓披露・七飯高校演奏)
-5-
5
6
9月27日(火)
9月28日(水)
11:45
楽屋にて昼食・キンバールスのアイスクリーム
15:00
コンコード市街散策
17:00
ホストファミリーと帰宅
7:15
CCHS集合
7:30
校内見学と授業参加
10:37
カフェテリアにて昼食
11:45
コンコード→ボストン(スクールバスにて移動)
13:00
ハーバード大学見学
17:00
ホストファミリーと帰宅
7:30
CCHS集合
コンコード→ボストン(スクールバスにて移動)
10:00
ボストン美術館見学
12:30
美術館内にて昼食
14:00
CCHSに戻る
14:30
グループ別研修
1年サッカー:2年ウォールデン湖:3年コンコード市街散策
英語部・生徒会:サイファイクラブとの交流
17:00
7
9月29日(木)
9:00
ホストファミリーと帰宅
CCHS集合
コンコード→ボストン(スクールバスにて移動)
11:00
バークリー音楽大学見学・ジャズ演奏鑑賞
(タイガー大越氏・寺久保エレナ氏)
8
9月30日(金)
12:30
クインシ-マーケットにてホストファミリーと合流・昼食
14:30
大型ショッピングモールにてお土産購入
17:00
ホストファミリーと帰宅
5:30
CCHS集合
コンコード→ボストンローガン空港(スクールバスにて移動)
7:00
ボストンローガン空港着
9:10
ボストン発→デトロイト着(11:27)
15:40
9
10
デトロイト発→成田空港着
10月 1日(土)
10月 2日(日)
出国審査
DL-187
DL-275
【日付変更線通過】
17:40
成田空港着
19:00
成田ビューホテル着
各部屋にて夕食
6:00
起床・朝食
8:00
貸切バスにて羽田空港へ
10:30
羽田空港発→函館空港着(11:50)
12:15
解団式・解散
-6-