「旅行に行けないんじゃなくて、どうやったら行けるかを考える。PDの10年間は最大 のメリットである“時間的な自由”を生かして、HDに移行した現在も『悔いのないよ うやりたいことは全部やる』の精神で、充実した日々を送っています」 昨年1月に、とりあえずCAPD10年の区切りだからとシャントをつくり、今 年の1月に血液透析に移行しました。いまは、週3回の血液透析と一日1回 の腹膜洗浄をしています。洗浄液を調べながら、カテーテルを抜く日を決 めるみたい。でも、そろそろウズウズしてきて、12月ぐらいに国外への脱 出を企てています。10年前にCAPDを導入したときも、半年目に、まずは国 内ということで沖縄に行って、1年たたないうちにハワイに行きましたか ら。 66年群馬県生まれ。 中央大学法学部卒業後、高崎市の百 貨店内の旅行代理店に勤務。94年に IgA腎症を発症。その後、急性憎悪 し、1年間の徹底した低たんぱく療 法を経て、 97年CAPDを導入して10 年。その間に、スキーの公認パトロ ール資格を取得したほか、スイスの ツェルマットからイタリアへの国境 越え滑降をはじめ、アメリカ、オー ストラリア、中国など世界各国を旅 する。今年1月に血液透析を導入。 で、次は本土進出で西海岸、次に東海岸のマイアミ~キーウェストという 具合。遠いところが続いたので、貯まったマイレージで、近場のソウルに でも行こうとしたら、担当の先生が「どこか具合でも悪いんですか?」な んて。海外旅行では、医療器具などを機内に持ち込むために書類をいくつ も作らなくちゃならないし、先生も最初は驚きの連続だったでしょうね。 いまはスラスラ記入してくれますが。 東京の病院でCAPDを導入したんですが、そのとき同室に、CAPDで腹膜炎を 起こしてしまい、血液透析に移るという方が入院していらしたんです。そ の人曰く、旅行はCAPDに慣れてからと先延ばしにしていて、今年ようやく 家族でシンガポール辺りにでも行ってみようかと思っていた矢先、こうな ってしまったと。私の二の舞は踏んでほしくないと言われて、決心したん です。我慢はするまい。行きたいところはどこにでも行こう、やりたいこ とは何でもやろうと。 スキーの公認パトロールの資格も昔から欲しかったので、3回目の挑戦で 取りました。先生は経験者の話を神妙に聞くようにとすすめたのに、違っ たことをしちゃったのかもしれない。海外ではたいてい7泊か8泊するの で、宿泊先のホテルにバッグを配達しておいてもらうんですが、オースト ラリアのカカドゥやカンガルー島とか、アメリカのイエローストーンと か、ハイウエイを車で運転しながら、ああ、こんなところまで私の透析液 を運んでくれる人がいるんだなと思うと、毎回感激でした。 1 珍しいところにもあちこち行きましたけど、無謀な旅行というのは一度も したことがないと思います。できるだけ準備をして、英文の書類を揃え て。アメリカやオーストラリアはCAPDの認知度が高いのでラクですが、国 内でもちゃんと説明すればわかってもらえますよ。バッグ交換の場所にし ても、トイレや車の中はできるだけ避けたいので、行く先々で、お土産屋 さんの休憩室、デパートの試着室、駅の事務室など、安全でスムースな場 所を確保するわけです。行けないんじゃなくて、どうやったら行けるかを 考える。 最近はインターネットが普及しているので、ずいぶんラクになりました し、私は仕事柄自分でできますけど、手配なんて、旅行会社に頼んじゃえ ばいいんですよ。病院と同じように、かかりつけの旅行代理店を見つけて おくのも、おススメですね。CAPDのメリットは、自分が気をつけさえすれ ば、限りなくリスクを下げられるところ。時間的な自由より何より、それ が最大の利点ですね。だから、それを生かして、悔いのないよう、やりた いことはぜんぶやる。慣れてから、なんて待っていると、何もできないと 思います。 透析に慣れるなんてことは、たぶん一生ないと思う。いえ、むしろ、慣れ ちゃったら逆に気が緩んで、トラブルを招くかもしれない。私も毎回、バ ッグ交換のときは、衛生面に細心の注意を払って、必ず深呼吸してから始 めます。そうやって一つ一つクリアしてきたから、時期を逃さず、すんな り透析に入れたんだと思います。後悔が残っていたら、引き延ばしたくな りますものね。保存期のときも、1年間、びっしり低たんぱく療法を実行 しました。朝昼晩の食事のたんぱく質とカロリーをノートにつけて、完全 計量食。 でも、海外にも行ってましたよ。コンドミニアムで100%自炊したりし て。それだけ徹底していれば、自己コントロールできる人間として、先生 も信頼してくれるんですよね。本格的に血液透析に移ったら、まず足慣ら しにハワイにでも行こうかなと。もちろん不安もあるけれど、先日も遠出 して、いつもと違う透析センターを試してきました。血液透析のいいとこ ろは、丸々一日活用できること。こんどはそのメリットをたくさん探して いきたいですね。 2
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