254 最新印刷講座(第 VIII 講) J. Jpn. Soc. Colour Mater., 85〔6〕,254 – 258(2012) 最新インクジェット印刷技術 小 関 健 一 *,† * 千葉大学大学院融合科学研究科 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33(〒 263-8522) †Corresponding Author, E-mail: [email protected] (2012 年 5 月 15 日受付; 2012 年 5 月 23 日受理) 要 旨 インクジェット技術は,必要な場所に,必要量のさまざまな機能性材料を,非接触で高速かつ正確に着弾させる技術である。そこに は銀塩写真のような高画質な画像形成ができ,商業印刷機のスピードに迫る高速性を可能にしているさまざまな技術がある。ここでは プリントヘッド技術,紙などのメディアおよびインク材料,さらには各種の応用例について紹介する。それぞれの技術が協力し最適化 されることにより,プリンテッドエレクトロニクスを含め,さらに幅広い分野への広がりが期待される技術である。 キーワード:インクジェット印刷,ヘッド技術,メディア,ジェットインク 1.はじめに 2.プリントヘッド技術 インクジェットプリンターは,身近なコンピュータの出力デ 現在使用されているインクジェットプリンターの方式は,大 バイスとして,また産業用プリンターとして広く使われるよう きく二つに分けられる。産業用途で使われる高速吐出の連続方 になり,とくに画質の向上や低価格化により,パーソナルユー スでの使用が飛躍的に伸びている。それは,耐久性のある高品 式と,パーソナルユースなどで使われるドロップオンデマンド (DOD)方式である。 位の画像情報を高速に印字できる出力機器としての地位を築い 連続方式は,インク室に高圧をかけ,超音波によって振動さ せることで微小な液滴を吐出させる。吐出したインク滴に電荷 たことによる。 しかし,この技術は,ジョルジュ・スーラの点描絵画のよう を与え,電界により飛翔方向をコントロールし画像形成を行う。 に,色材を一点一点紙面に置いて画像を形成するもので,実用 使われなかったインクは回収し再利用する。高粘度や速乾性の 化技術が検討され始めた 1970 年代に,誰が今日のような高速で インクも使用できる特長を有し,約 400 kHz での駆動が可能で, 高画質な応用範囲の広い技術にまでなると想像し得たであろう 300 m/分という高速印刷が可能である。構造的に小型化に課題 か。液滴を飛翔させて画像を形成するユニークなインクジェッ があるが,工業用のマーキングやフォーム印刷のナンバリング ト技術は,ヘッドのマルチノズル化やシングルパス方式の開発 などに利用されている。ヘッドからメディアまでの距離を 1 cm などの装置の進歩により,印刷機に匹敵するような高速化を成 以上とることも可能で,凹凸のあるものにも印字できる。 し遂げ,液滴の微小化技術や色材の高性能化,さらにインク吸 DOD 方式はさらに,サーマル方式とピエゾ方式に分けられ 収層としてのメディアの材料開発などにより 1,2),銀塩写真にせ る。ヘッドからメディアまでの距離は 1 mm 程度で,駆動周波 まる高画質で耐候性のある画像が得られるまでになった。 数は 30 kHz 前後である。サーマル方式は,インク室内のヒータ インクジェット技術は,必要な場所に,必要量の機能性材料 ーを瞬間的に数百度に加熱することにより気泡を発生させ,そ を,非接触で高速かつ正確に着弾させる技術である。それらを の体積変化により 20 ∼ 30 µm 程度の小さなノズルからインクを 支えているプリントヘッド技術,メディアおよびインク材料に 吐出させる。構造が単純であることから高密度化が可能であ ついて,また産業分野での適用例について紹介する。さまざま る。ピエゾ方式は,インク室のピエゾ素子の電圧印加による変 な機能性材料をインク化できれば,基本的にヘッドから打ち出 形を利用し,インクを吐出させる。ヘッド構造は複雑だが噴射 すことができるので,エレクトロニクスを含めさまざまな分野 量の制御が比較的容易に行える。気泡が入ると圧力制御が困難 から期待されている技術である 3,4)。 になる。一般に,各種の機能材料をインクとして用いる場合に 〔氏名〕 こせき けんいち 〔現職〕 千葉大学大学院融合科学研究科画像マテリ アルコース 准教授 〔趣味〕 写真,木工細工,切手収集 〔経歴〕 1973 年千葉大学大学院工学研究科修士課程 修了。1986 年工学博士(東京大学)。1973 年㈱冨士合成化学研究所入社。千葉大学工 学部印刷工学科専攻生。1975 年千葉大学工 学部助手。1995 年助教授。2007 年 4 月現職。 フォトポリマー材料に関する基礎から応用 に関する研究を行っている。 は,インクを加熱しないことからピエゾ方式のヘッドが用いら れることが多い。 高精細印刷のためには,液滴サイズの微小化が必要であり, 1990 年代当初 100 pL 程度だったサイズが,年を追うごとに微小 化が進み,2004 年頃には高精細画像を得るためには十分な 1 pL に達した。そのため,一般向けのプリンターヘッドにおいては, それ以上の液滴の微小化は行われていない。もちろん,プリン − 26 −
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