労働者派遣法の見直しに向けて

労働者派遣法の見直しに向けて
Vol.42
1
製造業解禁で急増、
偽装請負の問題も
派遣法の流れ
2004年の法改正では、①
しを検討するとした。
るが、非正規労働の中でも労
一定期間同一企業などで同一
この動きをふまえつつ、厚
働者派遣・請負労働をめぐる
業務に受け入れている派遣労
生労働省の労働政策審議会・
状況は極めて深刻である」と
働者がいる場合、派遣労働者
職業安定分科会・労働力需給
の認識に立ち、来春闘に向け
が希望すれば受け入れ先企業
制度部会(以下、部会)は、
て高木会長自らが「格差社会
などが直接雇用をしなければ
2006年8月から法改正も見
の背景であるパート・派遣労
ならない「雇用契約申し込み」
据えた議論を開始した。部会
働の劣悪な処遇の改善に、力
では議論すべき項目として、
を合わせて取り組む必要性が
労働者派遣法(正式名称:
の義務化②派遣先企業などの
労働者派遣事業の適正な運営
労働組合への通知・意見聴取
「派遣対象業務の制限」「偽装
いっそう高まっている」と春
の確保及び派遣労働者の就業
を義務付ける―など見直し
請負への指導監督強化」
「事前
闘討論集会のあいさつで述べ
条件の整備等に関する法律)
が図られた。
面接」「均衡処遇」
「雇用契約
るなど、積極的に取り組む姿
勢を示している。
は元来、
「派遣労働者の就業に
一方で派遣労働が可能な期
の申し込み義務」などを掲げ
関する条件の整備等を図るこ
間の上限を延長し、それまで
ており、検討を深めていくと
とで、派遣労働者の雇用の安
禁止されていた「物の製造業
している。
定、福祉の増進に資すること」
務」への労働者派遣が解禁さ
を目的に制定されたものであ
れた結果、派遣先件数は約
る。したがって、労働者派遣
50 万件、派遣労働者数は約
法が作られた1985年当初は、
227万人、労働者派遣事業の
派遣労働の対象となる業務は
年間売上高は約2兆9000億
専門性の強い13の職種(ソフ
円と、労働者派遣事業の規模
トウエア開発、OA 機器操作、
は大きく拡大することとなっ
秘書など)に限定されていた。
た。
しかし、1993年に対象業
務が23職種(研究開発・企画
立案、テレマーケティングな
ど)に拡大されると、1999
年には対象業種の限定から禁
止業種を限定する制度(ネガ
具体的には、法制定の目的
と実態との隔たりや派遣労働
3
格差社会の背景、
処遇改善が急務
連合の考え方
者の置かれた厳しい状況をふ
まえ、派遣労働者保護を強化
する視点から「労働者派遣制
度は、常用者の代替を防止し、
臨時的・一時的な労働力の需
給調整制度であるとの位置づ
けを堅持しつつ、派遣労働者
連合は「対象業務拡大によ
の雇用安定と格差是正を柱に
2
る労働者派遣の広がりの一方
据えた見直しを求める」との
で、①現場では短期間での契
考え方を示した。
法改正を見据えた
論議を開始
約更新を繰り返す雇用の不安
その考え方に立ち、連合は
定さ②技能向上が賃金に反映
部会での論議に向けて労働者
されないなどの処遇の問題③
派遣法見直しに向けた対応を
政府の動向
社会・労働保険への未加入④
策定。派遣労働や請負などの
能力開発の機会に恵まれない
外部労働力について、問題点
ティブリスト方式)に改定さ
れた。その結果、派遣労働者
政府は「規制改革・民間開
―など派遣の負の側面が指
や政策課題、労働組合として
は事業者にとって雇用に伴う
放推進3 ヵ年計画(再改定)」
摘されている。さらに物の製
の対応について整理・検討し、
責任・義務のない安価な労働
(2006.3.31 閣議決定)に
造業務解禁後の偽装請負や違
取り組みを進める観点から
者を確保する手段としての色
おいて労働者派遣制度につい
法派遣など、法令違反は後を
『労働者派遣・請負問題検討
彩が濃くなり、非正規労働者
て、①派遣労働者の事前面接
絶たない。雇用における格差
会』を雇用法制委員会の下に
の中でも厳しい就労の実態が
の解禁②派遣先企業などによ
や二極化として、非正規労働
設置した。
指摘されるようになった(別
る「雇用契約申し込み義務」
者の雇用の安定性や処遇、能
表を参照)
。
を廃止する―方向での見直
力開発などが問題となってい
25
REPORT 2006.12
規制緩和に伴いその数が急増している派遣労働者。
「雇
用にともなう責任・義務のない安価な労働者」という意味
合いが濃くなる一方で、派遣労働者の権利が置き去りにさ
れている。派遣労働者のための抜本的な見直しが必要だ。
政策調査室
だより
執筆/縄倉 繁(中央執行委員)
労働者派遣法について(概要)
種
特定労働者派遣
常時雇用される労働者(自社の社員など)を派遣する形態
「常用型」といわれる
一般労働者派遣
特定労働者派遣以外の労働者派遣。派遣元と派遣先の契約期間のみ雇用される労働者を派遣する
「登録型」といわれる
紹介予定派遣
者が合意すれば、派遣先企業で雇用される形態。派遣事業者は労働者派遣事業と職業紹介事業の双
派遣先企業への雇用(就職)を前提に、派遣形態で一定期間勤務し、期間内に派遣先企業と派遣労働
別
方の許可(届出)が必要。派遣期間は6ヵ月以内に限定
労働者派遣の禁止
公的資格業務、建設・警備・港湾作業業務および医療業務(2006年3月より、社会福祉施設での一部
業種
業務は可能となった)
制
再派遣ならびに同
派遣社員を、派遣先企業などからさらに派遣させることは禁止
限
意なき派遣の禁止
派遣労働者として雇い入れた者以外は常用雇用者であっても本人の同意なき派遣は禁止
派遣先企業などが事前面接や派遣労働者の履歴書の提出を求めるなど派遣社員を特定する行為は禁
事前面接の禁止
止(年齢・性別・容姿などによる差別を回避するため)
下記の場合以外は、最長3年までとされ、
これを超える場合、派遣先企業などは当該の派遣労働者に直
期
派遣労働者の受け
入れ期間
間
接雇用を申し入れる義務が生じる
物 の 製 造 業につ い
・政令で定める専門業務・産休・育休・介護休業者の代替業務については制限無し
ては、2007年2月
・有期プロジェクト業務については当該の期間内
から最長3年に緩和
・物の製造業は1年以内
就業形態別年収分布(2002年平均)
70
(%)
就業形態別週労働時間の分布(2002年平均)
(%)
内職者
60
60
50
50
正規の職員・従業員
パート・アルバイト
自営業
家族
40 従業者
40
派遣社員
契約社員・嘱託など
30
正規の職員・従業員
内職者
30
家族従業者
20
自営業主
10
0
上
円
満
なし
万円 99万円 99万円 99万円 99万円 99万円 99万円 99万円 0万以
収入 万円未 〜99万 149
〜 50〜1 00〜2 00〜3 00〜4 00〜6 00〜9 〜1,4 1,50
0
50
50
0
0
4
1
5
1
7
2
3
0
1,0
資料出所
契約社員・
嘱託など
20
総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」
(2002年平均)
派遣社員
10
パート・アルバイト
0
1-14
資料出所
15-29
30-34
35-39
40-48
49(時間)
総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」
(2002年平均)
たことから、労働者派遣法を
対し、①雇用契約申し込み義
派遣元・派遣先の双方で連携
見直すにあたっては制定時の
務の強化について、一定期間
して取り組むべきであり、派
高度かつ専門性のある
労働者に限定を
趣旨をふまえ、将来的には一
を空けなければ連続した契約
遣先企業の協力義務について、
般事務などへの派遣労働を廃
として直接雇用契約が成立し
派遣先の指針に明記する―
止し、派遣労働の対象者は高
たものとみなすなどの、運用
などの補強意見を提起してき
情報労連の考え方
度かつ専門性のあるスキルを
上での歯止め措置についても
たところである。
4
有する労働者に限定した制度
講じる②派遣契約の更新にお
情報労連は、連合が設置し
とすることが望ましい」との
いて、引き続き同一労働に派
た「検討会」での論議を通じ、
を受け止め、「労働者派遣法
見解を執行委員会で確認した。
遣する場合は、賃金引き下げ
労働者派遣法の抜本的な見直
は、本来限定された職種の労
合わせて、連合の「労働者派
を法令で禁止する③派遣労働
しに向け、積極的に取り組ん
働者に認められた制度であっ
遣法見直しに向けた対応」に
者の就業環境確保に向けては
でいく。
情報労連は、連合の考え方
REPORT 2006.12
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