日本植物分類学会 ニュースレター

日本植物分類学会ニュースレター
Nov. 2012
日 本植物 分類学会
ニュー スレター
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No. 47
Nov. 2012
今号のトピックス
学会講演会が 12 月 22 日(土)に開催されます(於:大阪学院大)
年次大会(2013 年 3 月,千葉大学)の発表参加申込受付がもうすぐ始まります
(発表申込〆切は 2 月 1 日)
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目
次
次期の庶務幹事,会計幹事,ニュースレター幹事について ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 2
諸報告
第 5 回日中韓合同国際シンポジウムの報告 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 2
第 5 回日中韓合同国際シンポジウムに参加して ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 3
2012 年度野外研修会実施報告 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 4
妙高高原,植物の妙 (野外研修会参加レポート) ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 6
国際花粉学・古植物学合同大会の報告 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 8
2012 年度第 2 回メール評議員会議事抄録 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 9
庶務報告 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 9
お知らせ
2012 年度日本植物分類学会講演会のお知らせ ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 10
日本植物分類学会第 12 回および 2013 年度総会のご案内 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 12
いきもの便り ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 16
書評 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 17
書籍紹介 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 18
会員消息 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 20
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The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
次期の庶務幹事,会計幹事,ニュースレター幹事について
庶務幹事 西野 貴子
次期の庶務幹事を新潟大学の志賀さん,会計幹事を国立科学博物館の池田さん,ニュースレター幹
事も同じく国立科学博物館の海老原さんにお引き受けいただきました。これに伴い,2013 年 1 月 1 日
から学会事務局の連絡先,会計連絡先が次のとおりに変更されます。お間違えのないようご注意くださ
い。
事務局・庶務幹事(会務全般)
志賀 隆(しが たかし)
〒950−2181 新潟市西区五十嵐 2 の町 8050
新潟大学 教育学部 自然情報講座
電話&ファックス:025-262-7154
電子メール:[email protected]
会計幹事(入会申込み,住所変更,退会,会費納入,購読申込みなど)
池田 啓(いけだ はじめ)
〒305−0005 茨城県つくば市天久保 4-1-1
国立科学博物館 植物研究部
電話/ファックス:029-853-8459/029-853-8998
電子メール:[email protected]
ニュースレター担当幹事(ニュースレター原稿送付先)
海老原 淳(えびはら あつし)
〒305−0005 茨城県つくば市天久保 4-1-1
国立科学博物館 植物研究部
電話&ファックス:029-853-8988
電子メール:[email protected]
諸報告
第 5 回日中韓合同国際シンポジウムの報告 ────────────────────
日中韓合同国際シンポジウム担当 村上 哲明
第 5 回日中韓合同植物分類学シンポジウム「East Asian Botany Symposium 2012」が 8 月 21
~23 日の期間,中国黒龍江省のハルビンにある黒龍江省大学を会場として開催された。テーマは,
「DNA バーコーディング」であった。この合同シンポジウムは,第 1 回は 2008 年夏に札幌で,第 2 回は
2009 年秋に中国の北京で,第 3 回は 2010 年夏に韓国のソウルで開催されたものである。そして,第
4 回は 2011 年春に日本のつくばで開催することになっていたが,東日本大震災の影響で要旨集の出
版のみによる開催となってしまった。そして,今回,第 5 回が中国のハルビンで開催されたというわけである。
ただ,第 4 回の悪影響が残っていたせいかもしれないが(もしそうなら,第 4 回合同シンポの責任者で
あった私は,本当に申し訳なく思う),今回,合同シンポのお世話をする中国の先生方にも多少の混乱
が見られた。今回の合同シンポは,中国国内向けの第 10 回生物多様性保護・持続的利用検討会の
中で開催されたが,合同シンポのための特別な補助金などは取れなかったそうである。そこで,日本や韓
国からの講演者も中国人参加者と同額の登録料 1,200 人民元を支払ってほしいとのことであった。これ
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までの 4 回の合同シンポジウムの運営方法(外国人の登録料は無料)を継承しなかったことに対する反
発も少しはあったのかも知れないが,最終的に韓国植物分類学会からの参加・発表希望者はゼロであ
ったと韓国の窓口責任者の先生から伺った。
さらに,日本側の窓口責任者である私自身も,私が大会会長を務める日本進化学会の年次大会と
日程が完全に重なって,今回の合同シンポに参加できなくなってしまっていた。これで,日本からの参加
者もゼロであったら,日中韓合同シンポジウムは存続の危機をむかえるところだっただろう。幸い,日本から
は以下に示す 3 名の方がハルビンに行って,下記のようなタイトルで発表をしてくださった。このうち,安藤
温子さんは,先にご案内した日本植物分類学会からの若手参加者への旅費支援を受けてハルビンに
行かれた。このお三方の研究内容については,私もよく存じ上げており,「DNA バーコーディング」というテ
ーマにふさわしい優れた発表をしてくださったと確信している。お三方には,私からも心よりお礼を申し上げ
たい。
いずれにしても,日本で再び日中韓合同シンポジウムを開催し,中国と韓国からの研究者をおもてなし
できる機会が遠くない将来に訪れることを私は願っている。
安藤 温子 (Graduate School of Agriculture, Kyoto University)
An application of DNA barcoding technique in detection of food plants for endangered redheaded wood pigeons.
伊藤 元己 (Department of System Sciences, The University of Tokyo)
Present status of plant DNA barcoding in Japan.
瀬戸口 浩彰 (Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University)
Rehabitation of wild-extinct plant using DNA information.
(五十音順)
第 5 回日中韓合同国際シンポジウムに参加して ──────────────────
安藤 温子(京都大学大学院農学研究科 森林科学専攻 森林生物学分野)
8 月 21 日から 23 日にかけて,中国ハルビンの
黒龍江省大学で開催された日中韓合同シンポ
ジウムに参加させていただきました。ハルビンは中
国東北部の黒龍江省の首都で,気温は日本よ
りも 10 度くらい低く,避暑地として快適な場所で
した。
私は,アカガシラカラスバトという,小笠原諸島
の固有亜種で絶滅が危惧される鳥類を対象に,
DNA バーコーディングを用いた食性解析を行って
います。具体的には,ハトの糞に含まれる植物の
葉緑体 DNA の一部を PCR 増幅し,次世代シ
ーケンサーを用いたパイロシーケンスによって塩基
配列を決定します。得られた配列をデータベース
と照合することによって,採食植物を同定するとい
うものです。分析の結果,これまで行われていた
顕微鏡による糞分析では検出されなかった,多く
の採食植物が確認されました。今まで,英語の
発表はポスターでしか行ったことがなかったので,
初めての口頭発表で緊張しました。しかし,返答
に困る質問もなく,無難に発表を終えました。興
味を持ってくださる方もおり,後で個人的に質問
していただけたのが嬉しかったです。中国では,私
と同じような手法で漢方薬の内容物を分析し,
希少生物の密売摘発などに活用するとのこと。い
ろいろな利用方法があるものだと,興味深かった
です。中国,韓国の方々の発表も楽しみにして
いたのですが,なんと,韓国勢が不参加。私たち
3 人の日本人発表者の他は,全て中国語で発
表されてしまい,残念ながらほとんど理解できませ
んでした。
発表の後,ハルビン観光にも出かけました。ハル
ビンは,中国東北部とロシアの文化が混在する,
とてもユニークな街です。中心街には,ロシア正教
の教会や,西洋風の建築物が立ち並んでいて,
落ち着いたおしゃれな雰囲気が漂っていました。し
かし,百貨店に入ればまさにイメージ通りの中国
で,数々の得体の知れない食べ物や漢方薬が
所狭しと並んでおり,見ているだけでワクワクしまし
た。乾燥ナマコは目玉商品のようです。また,中
国人の勢いのよさには圧倒されました。空港のロ
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The Japanese Society for Plant Systematics
ビーでも食堂でも,目的に向かって我先にと殺到
する姿には驚かされます。車間距離もやたらと近
く,隙あらば割って入る勢いで,道路では一日中
クラクションが鳴り響いていました。タクシーに乗っ
て危険を感じたのは初めてでしたが,世界各地へ
進出する中国人パワーの源を体感することができ,
貴重な経験となりました。
私は,もともと植物分類学会の会員ではありま
No. 47
せん でし た が ,今 回の シン ポ ジウ ム のテ ーマ が
DNA バーコーディングであったため,村上先生と
井鷺先生からご紹介いただき,急遽入会,参加
するに至りました。植物分類を専門としないにも
関わらず,このような発表の機会を与えていただ
いたことに大変感謝しております。本当にありがと
うございました。
2012 年度野外研修会実施報告 ──────────────────────────
五百川 裕(上越教育大学)
2012 年度野外研修会は,9 月 21 日から 23 日の 2 泊 3 日で,新潟県妙高市の妙高山麓におい
て開催された。参加者は会員 25 名(日帰り地元会員含む)の他,準備に協力いただいた新潟県生態
研究会会員等 6 名も加わって,総勢 31 名であった。
1 日目(21 日),JR 妙高高原駅前に 13 時半に集合いただき,受付で研修会資料一式をエコバック
(2015 年北陸新幹線開業 PR 用)に入れてお渡しして,7 名の会員の自家用車に分乗し,妙高高原
ビジターセンターに移動した。センター内のスペースを借りて開会式を行い,3 日間の研修日程等と,研
修地は全て上信越国立公園の特別地域内であることを説明させていただいた。研修資料については,
コピーで一部を配布した「妙高山の植物」(平松・吉川 1964)と「新潟県妙高山笹ヶ峰の維管束植物」
(石澤 2009)の他,センター内の売店で写真入りの妙高市の植物ガイドブックが販売されていることを紹
介したところ,購入される方も多くおられた。
妙高山東麓の標高 740m にある妙高高原ビジターセンターのすぐ裏の沼沢地には,いもり池と呼ばれ
る池を周遊する 500m 程の遊歩道があり,まずは,ここで湿生植物の観察を行った。午前中降っていた
雨は止み,陽も差して,野外散策に気持ち良い天候となった中,開花期のタチアザミを材料に国立科
学博物館の門田裕一氏からアザミ属の分類について解説をしていただき,新潟大学の志賀隆氏からは
ヒツジグサとスイレンの根茎での見分け方の説明も聞くことができた。ミヤマカワラハンノキ,タニウツギ,ヤマ
モミジ,シロヤナギなど日本海側山地の湿生地では多く見られる樹種についても確認いただけた。
この後,当初予定ではスキー場となっている萱場で,オミナエシ,キキョウなどを観察していただくこととな
っていたが,秋の草刈りにより歩道沿いでは殆ど見られなくなってしまったことから,宿泊場所の燕温泉の
周辺で散策時間をとることに変更して,再び,車に分乗して移動した。途中,最短ルートが土砂崩れで
通行止めとの情報で,遠回りをすることになったので,時間の余裕を持ったのは結果的には良かった。
燕温泉は標高 1,100m にあり,妙高山の馬蹄形カルデラ外輪山の割れ目である谷間に位置し,数
軒の温泉宿が急坂に建ち並んでいる。その中の一軒,針村屋に宿泊していただいた。夕食までは自由
散策時間としたが,多くの方々は,少し登った妙高山登山道沿いにある露天風呂「河原の湯」まで入浴
に出かけ,その途中の湿生斜面でウメバチソウやトリアシショウマ,ヒメヤシャブシなどの花や果実を観察さ
れていた。
夕食後,大広間で DVD「火打山の四季・火打山の花」の上映会を行った。これは,妙高山の西に連
なる火打山の山小屋管理人をされていた築田博氏が作成されたもので,妙高山塊の高山・亜高山帯
の植物を自身が撮影された画像を編集し紹介されたものである。観賞後,新潟県生態研究会会長の
松井浩氏より,補足解説もしていただいた。部屋を変えての情報交換会は,松井氏に差し入れいただい
た地元の飲み物で口を潤しながら,翌日の研修に配慮しつつも賑やかに行われた。
2 日目(22 日)も好天となり,計画通り,妙高山登山グループと笹ヶ峰高原散策グループに分かれて
実施した。
妙高山登山グループは,体力に自身のある(?)4 名の会員が希望し,新潟県生態研究会の小池秀
則氏に案内いただき,早朝,4 時半に朝食と昼食のおにぎりを持って出発した。途中,ゆっくりと植物観
察をしている余裕は無かったようであるが,チシマザサ,ヒメアオキなどが林床に生育する日本海側のブナ
林,樹林帯と言うにはやや貧弱な亜高山帯針葉樹の林,中央火口丘の岩隗上の風雪の影響を受け
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た灌木林,そして,火口原の湿原「長助池」の湿生植物などを観察し,夕方,17 時頃に燕温泉に下
山した。実に 12 時間行程の研修であった(図 1)。
笹ヶ峰高原散策グループは,宿での朝食後,燕温泉から妙高山の反対側にあたる南西山麓に位置
する笹ヶ峰高原(1,250~1,350m)まで車に分乗して移動し,研修を実施した。午前中は,笹ヶ峰キャ
ンプ場駐車場から真川上流の杉野沢橋までの約 3km の林道を歩いた。車の運転手以外の方々に先
に歩き始めていただき,運転手は車をゴールの杉野沢橋脇の広場まで移動させて置き,1 台に分乗して
先行の方々の所に戻ってくることで,歩きは片道のみとして帰路は車で戻れるようにした。林道は真川沿
いの河畔林と笹ヶ峰山麓のブナ林やカラマツ植林の間をほぼ平坦に続いており,河畔林はハルニレとミズ
ナラが優占している。林縁部では,ちょうど開花期のミョウコウアザミ,ミョウコウトリカブト,シロウマレイジン
ソウを観察することができ,門田氏から形態的,生態的な特徴を解説して頂いた。タチフウロ,ミヤマタム
ラソウ,ハンゴンソウ,ミヤマアキノキリンソウなども林道脇の所々に花を咲かせており適当な研修材料とな
った。
昼食は,牧場近くの笹ヶ峰グリーンハウスに予約しておいた定食で済ませ,午後は,そこから,ブナやミズ
ナラの林とドイツトウヒ植林地の中に整備されている遊歩道を歩いた。ここでも歩道沿いにはアザミが多く
開花しており,門田氏から解説していただき,違いを見比べながら,それぞれのペースで散策研修を進め
た。キクバドコロとウチワドコロ,シオデとタチシオデの違いも話題となり,果期の実物を見比べることもでき
た。高原の湧き水を集めた溜池である清水池の畔ではオオシラヒゲソウが咲いており,小休止して,妙高
山南麓を背景にして集合写真を撮った(図 2)。帰路,松井氏の案内で,ワニグチソウの小群落を観察
させていただいたが,林床の一部だけにひっそりと生育しており,長期にわたり丁寧に植物観察を継続して
いる調査成果に一同感心させられた。
図 1. 妙高山山頂にて登山グループ
(田村実氏提供)。
図 2. 清水池にて妙高山南麓を背景に笹ヶ峰
散策グループ。
この日の宿泊は,再び妙高山東麓に戻って赤倉温泉にある上越教育大学野外活動施設を利用した。
宿泊室は学生用で 2 段ベッドとなっておりやや狭いが,使用料の安さに免じて我慢をお願いし,その分,
夕食と入浴は,近くのホテル太閤で,ゆったりとっていただいた。食事をとりながら,参加者の皆さんから一
言ずつ研修の感想等をお話しいただき,ホテルのサービスでフーテンの寅さん(?)も登場して,会話の弾
む楽しい夕食会となった。
夕食後は野外活動施設の食堂兼研修室で,門田氏から日本のアザミ属植物の分類について講演い
ただいた。北村四郎先生以降,残されていた課題を全国各地での野外調査と,標本調査,染色体調
査を丹念に行って,ようやくまとまりつつある研究の成果を,多くの鮮明な写真を使ってわかりやすく説明し
てくださった。また,新潟大学元教授の石澤進氏から,新潟県を中心に分布する典型的な日本海要素
植物であるユキツバキの形態的,生態的な特徴を紹介した著書「新潟県の木 雪椿」の紹介があり,早
速に買い求められた方もおられたようであった。その後,教員宿泊用和室に移り情報交換会を行った。
各県の植物研究会や自然環境保全の近況なども話題となり,地域の植物調査の現状を理解し合うの
に有意義な会であった。
3 日目(23 日)は,朝から雨となった。研修地は,妙高山南麓を関川が侵食して出来た渓谷にある日
本の滝百選の一つ,苗名滝の周辺とした。車分乗で滝の下流 1.5km 程の関川右岸の林道終点まで
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行き,石澤氏の案内で,滝に向かう山道を歩き始めていただき,志賀氏に協力いただいて幹事の車を関
川左岸の苗名滝の近くの駐車場まで移動させておき,運転手が到着後に車をとりに戻れるようにした。
関川は県境となっており右岸は長野県信濃町であるが,その山道では新潟県では分布の限られるタマア
ジサイ,クロイチゴ,アサノハカエデなどと共に,日本海要素の一つ,サワアザミが大きな頭花を着けて群落
をなして生育しているのを観察することができた。谷沿いの斜面は火成岩が崩壊した岩隗が堆積してで
きており,トチノキ,サワグルミ,カツラなどからなる渓畔林となっていて,林床にはユキツバキの群落も広が
っている。苗名滝への下り道では,雨で岩の表面が滑りやすくなっていて,足元にご苦労をお掛けしてしま
ったが,木々の間から見えてくる名瀑を眺めながら,ゆっくりと下っていただいた。滝壺下流にかかる吊り橋
を渡った対岸の滝見台にある東屋で,早く着かれた方々には雨宿りをして待っていていただき,全員が揃
ったところで,苗名滝を背景にして集合写真を撮った(図 3)。滝から駐車場までは,岩隗の間をぬって遊
歩道が整備されていて,時々,観光客ともすれ違うが,渓畔林の林床に生育するユキツバキ,ハイイヌガ
ヤ,ケキブシ,ケアブラチャンなどの日本海側に分布の偏る低木や,淡紫色を帯びた頭花のタマバシロヨメ
ナ,チシマネコノメソウ,トリアシショウマなどを見ながら歩くことができた。
閉会式は,また車に分乗して JR 妙高高原駅まで移動して,駅の軒下を使って行った。石澤氏がユキ
ツバキの果実を着けた枝を素材にして研修の締めをしてくださり,京都大学の田村実氏から学会事務局
を代表して閉会の挨拶をいただいた。最後に,お世話になった運転手の方々に改めて感謝し,正午過ぎ
頃に研修会を終了し解散した。
今年度の野外研修会に参加された会員は以下
の方々である(敬称略,五十音順)。飯田順子,
石澤進,宇那木隆,織田二郎,門田裕一,久
米修,黒沢高秀,汪光熙,古賀佳好,櫻井幸
枝,志賀隆,首藤光太郎,須賀瑛文,竹内紀
夫,田村実,中澤利雄,中村直樹,西野友子,
橋本光政,長谷川義人,早坂英介,藤沢美穂,
松井浩,山田隆彦。開催にあたり大変にお世話
になった松井浩会長をはじめとする新潟県生態研
究会の皆様に深く感謝いたします。
図 3. 苗名滝を背景に集合写真。
妙高高原,植物の妙 (野外研修会参加レポート) ──────────────────
首藤 光太郎 (福島大学・院・共生システム理工)
参加者が集まると,早速いもり池に移動し,妙
高高原ビジターセンターで挨拶が行われた後,初
日の観察が始まった。いもり池を一周する遊歩道
で,ミヤマカワラハンノキ,クロバナヒキオコシ,ヘラ
オモダカなどを観察した。太平洋側の地域で育
ち,まだ学生の自分にとって,ミヤマカワラハンノキ
やクロバナヒキオコシなどの日本海要素の植物の
多くが新鮮なものであった。しかし,数年前に行わ
れた水面を確保するための浚渫工事の後,ヒツ
ジグサとコウホネが全く見られなくなったと言われ,
植栽されたと思われるスイレンが水面を覆う現在
の変わり果てたいもり池の姿をみて,胸が痛んだ
(図 1)。出発する直前,今回の感想文を,幹事
である五百川先生から依頼された。今春に分類
学会に入会したばかりで,野外研修会にも初め
6
て参加する自分が執筆してもいいのかと困惑した
が,むしろ論文一本もまともに書いたことがなかっ
た自分にこのような話がくることは有難く,喜んで
引き受けることにした。
宿舎のある燕温泉に到着すると,花が紫色を
帯びたキバナアキギリが迎えてくれた。翌朝に,新
潟大学の志賀先生からアキギリとの見分け方を
お教え頂き,自分で花筒の内部を観察したが,
基部近くにのみ毛環があり,確かにキバナアキギリ
であった。宿に到着し部屋に荷物を置く頃には日
も傾きはじめていたが,外はまだ明るく,夕食の時
間まで妙高山登山道を散策することにした。川
沿いに設置してあった露天風呂には心が惹かれ
たが,既に気温は肌寒く,妙高山の植物を観察
するにはまたとない機会であるので,露天風呂に
Nov. 2012
は入らず登山道を進んだ。登山道脇の岩上で
は,ダイモンジソウ,チョウジギク,イワショウブ,オヤ
マリンドウなどを見ることができた。宿舎に戻った後
の夕食や,妙高山の植物の映像の上映会など
は,大いに盛り上がった。先生方の会話が若輩
者の自分には難しいこともあったが,興味深い話
も多く聞くことができた。自分が研修会に参加し
た唯一の学生であることもあり,たくさんの話を聞
いて頂いた。
図 1. スイレンの浮葉に一面を覆われたいもり池。
二日目は通常の散策を行うグループと妙高山
登山グループとに分かれた。自分は通常の散策
グループに参加した。午前中は笹ケ峰高原で林
道沿いを歩き,ミョウコウアザミ,タチフウロ,ミョウコ
ウトリカブト,フジアザミなどを見た。アザミ属とトリ
カブト属は門田先生の解説付き観察という贅沢
であった。ミョウコウアザミは典型的なものは明瞭
であるが,ナンブアザミと区別することが難しい中
間的な個体にも多く出くわし,この 2 種を見るた
びに頭を抱えた。周りを見渡すと,自分の他にも
唸っている参加者の方々が多く,少し安心した。
昼食を笹ケ峰グリーンハウスで食べ,午後はグリ
ーンハウスの周辺を散策した。ズダヤクシュ,エゾ
スズラン,ジンヨウイチヤクソウなどを見た。清水池
で集合写真を撮った後には,現在の自分の研究
テーマであるヒトツバイチヤクソウに遭遇し,じっくり
と観察することができた(図 2)。まさか研修会で
出会うとは思っていなかったので,大変幸運であっ
た。宿舎に到着した後は,ホテル太閤に移動し,
入浴後,夕食となった。学生には豪華すぎるメニ
ューの数々に心が踊った。夕食後,門田先生の
講話が始まった。次々と登場するアザミ属植物を
全て覚えきることはさすがにできなかったが,様々
なアザミを追って日本中を飛び回る門田先生の
日本植物分類学会ニュースレター
講話にはロマンを感じた。
三日目は生憎の雨模様であった。しかし参加
者の方々は雨など気にしていないようで,陰湿な
天気とは裏腹に,足運びは陽気であった。苗名
滝周辺の遊歩道を歩き,ユキツバキ,サワアザ
ミ,キオンなどを観察した。苗名滝は壮大で,圧
倒的であった。自分達が帰路に使った遊歩道は
大変きれいに整備されており,雨にも関わらず,
苗名滝を訪れる観光客は多いようであった。すぐ
下流の砂防ダムの脇にはオオハンゴンソウが生育
しており,人為的影響が少なからずある観光地で
あることを思わせた。五百川先生から,オオハンゴ
ンソウは砂防ダムの工事が行われた際に侵入し
たと伺った。
その後,妙高高原駅まで戻り,解散となった。
多くの先生方でも首をひねるような数々の植物と
の出会いは,学生の自分には投げる匙がいくらあ
っても足りなかった。しかし,参加者の中で一番
若く,かつ植物の知識が乏しい自分が,一番学
ぶことの多かった参加者であると自負している。来
年も参加したいものである。研修会の幹事である
五百川先生や,地元の植物を教えて下さった新
潟県生態研究会の方々,ならびにこの研修会に
かかわられた多くの方々に改めて感謝したい。
図 2. 笹ケ峰のヒトツバイチヤクソウ。
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No. 47
国際花粉学・古植物学合同大会の報告 ──────────────────────
西田 治文(中央大学)
2008 年のドイツ,ボン大会に続いて,国際花
粉学会,国際古植物学会が合同で開催する学
術大会(第 13 回国際花粉学会・第 9 回国際
古植物学会合同大会)が 2012 年 8 月 23 日
~30 日に,中央大学理工学部(東京都文京
区)で開催された。日本では初の開催であった。
日本植物分類学会にも後援団体として協力し
ていただいたので,大会組織委員会役員の一人
として報告かたがた,御礼申し上げる(図 1)。
最終申込時には 52 カ国,570 名以上の参加
申込みがあったが,中東諸国においてはビザ発給
の目処が立たない国もあって,最終的には 50 カ
国 514 名の参加となった。大会と付随して,野
外巡見も企画され(大会前 1 件,大会後 3 件,
大会中日 5 件),総計 166 名が参加した。
本大会においては,口頭発表 411 件,ポスタ
ー発表 165 件,総計 576 件の学術発表があっ
た(図 2)。これ以外に,関連集会や個別の発表
も加わり,学術的にも大きな成功を収めたといえ
る。本大会で扱う分野は多岐にわたるため,ここ
では項目別に内容と意義を概説するに留める。
図 1. 集合写真。
本大会の発表は,1)基調講演,2)シンポジウ
ムセッション講演,3)一般セッション講演,4)公
開講演,5)ランチョンセミナー,6)関連学会セミ
ナー,に分けられた。2)の事前企画シンポジウム
には,1.アレルギー源としての空中花粉・胞子,
2.花粉学,古植物学における機器の革新,3.
人と植物の関係史,4.第四紀の生態系と気候,
5.新生代の植物と周囲の生物圏,6.古生代
及び中生代の植物地理と分類体系,7.古植
物学からみた進化と発生,8.IOP 会長主催シ
ンポジウム,の 8 セッションが立てられた。シンポジ
8
ウムセッション以外の多様な主題はすべて一般セ
ッションとなった。それぞれにおいて,現在の花粉
学,古植物学が抱える学問的課題,それぞれの
学問と社会とのつながりなど幅広い話題が議題
に上った。花粉学では,伝統的な花粉形態の観
察,花粉を用いた過去の植生と環境の復元,温
暖化のモデルとなる過去の気候変動と植生の変
化,観察と分析の技術革新,花粉アレルギーを
めぐる医療,分析,飛散と被害予測について特
に進展があった。古植物学においては恒久的課
題といえる植物の形態,進化,古生態などの知
見が加えられたが,特に初期の陸上植物化石の
形態を近代的な分子レベルの発生学と結びつけ
て植物の形態進化を明らかにすること,被子植
物の起源についての新知見が発表された。
日本語による公開講演会「東日本における農
業の起源に関する古民俗植物学的研究の最近
の進展」が 25 日に,「いま,植物化石が面白
い!-植物の化石から探る進化,地球環境,
人との関わり」が 26 日に開催された。本大会の
主催団体である日本花粉学会は,会期中に日
本語による口頭発表 6 件,ポスター発表 8 件,
公開講演「花粉症とのたたかい」1 件を行った。
日本アレルギー学会はランチョンセミナー「内モン
ゴルにおける鼻炎患者の花粉感受性」を行った。
国際木材解剖学会は評議員会と懇親会を行っ
た。大会の国際主催団体である国際花粉学会
(IFPS)と国際古植物学会(IOP)はそれぞれ役
員会議を開き,会長以下全役員の改選を行っ
た。次回の合同大会は 2016 年にブラジルで開
催される。
大会業務に忙殺されてほとんど発表を聞く機
会がなかったので,報告者として適任とは言えな
いが,詳細に興味のある方は,英文の大会要旨
集(日本花粉学会誌 58 特別号)とプログラムが
あるので報告者あて請求されたい。
図 2. 会議の様子。
日本植物分類学会ニュースレター
Nov. 2012
2012 年度第 2 回メール評議員会議事抄録 ─────────────────────
庶務幹事 西野 貴子
2012 年 10 月 1 日から 18 日に 2012 年度第 2 回メール評議員会が開かれましたので,その議事
抄録を報告します。今回のメール評議員会ではニュースレターへの商業広告掲載に関して議案が提出さ
れ,広告掲載の可否について採決が行われました。
開催期間:2012 年 10 月 1 日~18 日
開催方法:電子メール等の媒体をもちいた会議
参加者:評議員全員
議長選出
慣例にしたがい戸部博氏を議長とすることに反対はなかった。
審議事項
第 1 号議案 ニュースレターへの商業広告の掲載承認に関する件
審議結果
第 1 号議案は,賛成 13 票,反対 0 票,白票 0 票で承認された。
議事録署名人として仲田崇志氏と藤井紀行氏が選出された。
庶務報告(2012 年 8 月~10 月) ──────────────────────────
庶務幹事 西野 貴子
内閣府日本学術会議事務局からの新公益法人制度への移行状況に関するアンケートに回答を行っ
た。(10 月 29 日)
日本学術日本学術会議の東日本大震災に係る学術調査検討委員会からの東日本大震災にかか
わる協力学術研究団体の活動の調査に回答を行った。(10 月 31 日)
会費納入の季節です!
・会費は前納制です。
・来年度(2013 年 1 月~12 月)の会費は 2012 年末までに納付しなければなりません。
・同封された郵便振替用紙をご利用ください。
・適正な学会運営のために,皆様のご協力をよろしくお願いします。
(金額,振込先は最後ページをご覧下さい)
・なお,長期滞納者に対しては,規約第 10 条(2)に基づき,除名を行っております。
・ご不明の点があれば,会計幹事までご連絡ください。
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The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
お知らせ
2012 年度日本植物分類学会講演会のお知らせ ──────────────────
講演会担当委員 岡崎 純子
2012 年度の日本植物分類学会講演会を次のとおり開催します。なお,会場は大阪学院大学の林
一彦先生に会場をお世話いただきます。
【日時】
2012 年 12 月 22 日(土) 午前 10 時~午後 5 時 00 分
【講演会場】
大阪学院大学
2 号館地下 1 階 2 号教室(02-B1-02 教室)
〒564-8511 大阪府吹田市岸辺南 2 丁目 36 番 1 号(電話:06-6381-8434)
【プログラム】
10:00–10:05
ご挨拶
10:05–11:05
川窪 伸光「微速度・高速度撮影によるナチュラリスト感性の映像化の試み」
11:15–12:15
田中 伸幸「カンナ科とはどんな植物か~その混乱する分類と課題~」
12:15–13:20
(昼食)
13:20–13:50
山本 武能「ビーベルシュタイニア科の花と生殖器官の発生学的研究」
13:50–14:20
水田 光雄「新しい帰化植物の話題と侵入経路」
14:30–15:30
高橋 正道「白亜紀に咲いていた初期の被子植物の花を探す遙かなる旅路の先
にあるものは?」
15:40–16:40
中西 弘樹「南方系植物分布北上の植物地理」
【その他】
参加費としてお茶代(100 円程度)を徴収いたします。また講演会終了後,大阪学院大学職員食堂
(17 号 1 階)で懇親会を行います(当日申し込み,学生割引もあります)。
【会場までのアクセス】
JR 東海道本線岸辺駅あるいは阪急京都線正雀駅から大阪学院大学までともに徒歩 5 分。
http://www.osaka-gu.ac.jp/p_student/index.html の「交通アクセス」と「キャンパス案内」からをご覧
下さい。
【講演要旨(執筆は各演者)】
「微速度・高速度撮影によるナチュラリスト感性の映像化の試み」
川窪 伸光(岐阜大学応用生物科学部)
植物分類学徒の自然の捉え方は一般の方々と多少とも異なるようです。良く言われるときは「自然を
見る目をもっている」と表現され,悪く言われるときは「偏執的で理解しがたい」と囁かれます。そこで,その
学徒の端くれの私が,自然に対する自らの感性を映像化に挑戦し,試行錯誤の末に捉えた映像を紹
介しながら,ナチュラリストの世界観を考えてみます。
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Nov. 2012
日本植物分類学会ニュースレター
「カンナ科とはどんな植物か~その混乱する分類と課題~」
田中 伸幸(高知県立牧野植物園)
カンナ科は中南米の熱帯を中心に分布するショウガ目の大型多年草である。園芸植物としてはよく知
られているが,野生種はあまり知られておらず,分類の研究事例も非常に少ない。カンナ科は変異が大
きく比較形質にも乏しいため分類が難しく,少ない研究例の中でも種の認識には研究者によって大きな
差がある。カンナ科とはどんな植物かについて,混乱するその分類と研究課題などについて紹介する。
「ビーベルシュタイニア科の花と生殖器官の発生学的研究」
山本 武能(京都大学大学院理学研究科)
最新の APG 分類体系ではビーベルシュタイニア科はムクロジ目に属するが,塊茎を発達させる草本植
物であるなど,他のムクロジ目とは異なった外見的特徴を備えている。本講演ではムクロジ目の変わり者
であるビーベルシュタイニア科について紹介すると共に,花や生殖器官の発生学的な観察に基づいて他
のムクロジ目植物との類縁性を考察する。
「新しい帰化植物の話題と侵入経路」
水田 光雄(近畿植物同好会)
帰化植物の侵入は,人の経済活動に伴い毎年どこかで新しい種類が記録されている。この様な現状
の中,2001 年に新しい帰化植物図鑑が出版され,2010 年には第2巻が出版されました。この出版社
の提供により 2002 年「日本帰化植物友の会」発足し,友の会通信が発行されるなど会員間の情報
収集の場となっている。また,同年,筑波にある農林水産省計算センターが管理するホストコンピューター
を媒体として,メーリングリストへ登録することで,登録者の発した情報をリアルタイムに共有するシステム
が開始された。今回の発表では,友の会通信と,このメーリングリストで紹介されたものと,私が記録した
帰化植物の中で,侵入経路別に分別できた種類を紹介する。
「白亜紀に咲いていた初期の被子植物の花を探す遙かなる旅路の先にあるものは?」
高橋 正道(新潟大学理学部自然環境科学科)
地球に恐竜がいた頃に,被子植物はどのような花を咲かせていたのだろうか?1 億年前もの太古の堆
積岩の中に眠っていた花の化石を,福島県の双葉層群やモンゴルのゴビ砂漠から探し出し,大型加速
器による 3 次元構造解析によって,被子植物の初期進化を解明しようとしてきたこれまでの研究を,3D
ステレオムービー画像を使いながら,分かりやすく紹介します。
「南方系植物分布北上の植物地理」
中西 弘樹(長崎大学教育学部)
私は海岸植物の生態と種子散布を中心にフィールドでの研究を重視して行ってきたが,それらの内容
はフロラや分布にも深い関係をもっている。サブテーマとして行ってきた「九州西廻り分布型植物」「島嶼
偏在植物」,そして最近特に興味をもっている「海流散布植物の分布拡大」の 3 つの内容について紹介
したい。
11
The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
日本植物分類学会第 12 回および 2013 年度総会のご案内 ───────────
第 12 回大会会長 綿野 泰行
日本植物分類学会会員の皆様
日本植物分類学会第 12 回大会を 2013 年 3 月 14 日
から 17 日の日程で,千葉大学で開催します。皆様のご参加
を心からお待ちしています。本大会では,
1.受付業務を自動化して,参加費を下げる
2.発表申し込み締切を,例年より 2 週間遅らせる
3.学生の懇親会参加費を,可能な限り下げる
という 3 つの試みを実施します。1,2はいずれも,大勢の
方々に参加していただき,沢山の素晴らしい研究をご発表い
ただくことを目的としています。3は,なるべく大勢の学生の方々に懇親会に参加していただき,多くの研
究者と交流して頂くことで,講演では聞くことのできない研究の楽しさや魅力を知って貰うことを目的として
います。懇親会に参加する学生数は,ここ数年の大会では,参加学生数の 6-7 割にとどまっていますの
で,これを 8 割にまで引き上げることが目標です。これまでに,懇親会に参加したことの無い学生の皆さん
も,どうか,気軽にご参加下さい。もちろん,一般参加者の皆さんの懇親会費も,例年よりは引き下げて
おります。どうか本大会の懇親会の趣旨にご賛同頂き,多数ご参加の上,植物分類学を志す若者達に,
研究の魅力をお伝え下さい。
皆様のご参加を,早春の千葉大西千葉キャンパスでお待ちしています。
[本会場] 千葉大学西千葉キャンパス(千葉市稲毛区弥生町 1-33)
けやき会館 (http://www.chiba-u.ac.jp/pdf/keyaki_map.pdf)
大ホール (口頭発表・総会・授賞式・授賞記念講演・公開シンポジウム)
2 階・3 階 (ポスター発表)
[日程] 2013 年 3 月 14 日~3 月 17 日
3 月 14 日(木) 編集委員会,評議員会 (於:千葉大学西千葉キャンパス)
3 月 15 日(金) 午前 口頭発表(大会発表賞エントリー者)
午後 口頭発表・ポスターセッション
3 月 16 日(土) 午前 口頭発表・ポスターセッション
午後 総会,授賞式,授賞記念講演
夜 懇親会(千葉大学生協)
3 月 17 日(日) 午前 口頭発表
午後 公開シンポジウム:
『千葉県における植物の個体群保全・生態系再生の試み』
[大会ホームページ] http://bean.bio.chiba-u.jp/jsps2013/
大会準備の進捗状況やプログラムなど,情報を随時アップロードします。
12
日本植物分類学会ニュースレター
Nov. 2012
[お問い合わせ先]
大会実行委員長:梶田 忠
連絡先:日本植物分類学会第 12 回大会準備委員会
〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33 千葉大学理学部生物学科・梶田 忠
e-mail: [email protected]
Tel: 043-290-2818
(お問い合わせの場合には,できるだけ電子メールをお使い下さい)
[発表の要領]
○口頭発表(一般講演)
発表時間は,講演 12 分,質疑応答 3 分の計 15 分です。会場の都合により,口頭発表は,会場
備え付けの設備(液晶プ
ロシ゚
ェクター)に接続した Windows のノート PC で,PowerPoint 2007 を用
いた発表に限らせてい たた゚き ま す。Mac を 用いてプレ ゼンテ ーションを 作成され た方は,事前に
Windows PC の PowerPoint で,映写に支障が無いことを十分に確認しておいて下さい。会場には試
写室も準備しますので,プレゼンテーションが正しく投影されることを,前もってご確認下さい。
発表に用いるプレゼンテーションのファイル受付は会場て゚
行います。ファイルは「発表番号+演者フルネ
ーム」(例:1A03 千葉太郎.ppt, pptx)というファイル名で,USB フラッシュメモリに保存してご持参下さい。
発表番号とファイルの受付時間は,プ
ロク゚
ラム確定後に大会準備委員会から各発表者にお知らせしま
す。
ス ライ ドの 作 成 に当 た っ て は,「 色 盲の 人 に も わか る バ リ ア フリ ープ レ ゼンテ ーシ ョン 法」 の サイト
http://www.nig.ac.jp/color をぜひご一読下さい。
○ポスター
ポスターは,横 90cm×縦 180cm 以内の大きさで作成してください。貼付用テープ等は大会準備委
員会で用意します。15 日 13 時までに貼り付けを終えてください。会場の都合上,17 日 13 時までにポ
スターの撤去をお願いします。
[発表・参加申込・要旨登録の方法]
大会には日本植物分類学会会員・非会員を問わず参加していただけますが,発表者のうち演者(口
頭およびポスターで実際に発表する方)は特別な場合を除き,会員に限ります。非会員の講演者は,発
表当日までに,日本植物分類学会への入会手続きを行ってください。演者として発表できる演題数は,
一人につき一題です。
参 加 ・ 発 表 申 し 込 み , 及 び , 発 表 要 旨 の 登 録 は 大 会 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://bean.bio.chibau.jp/jsps2013/)から行ってください。12 月初旬をめどに,大会ホームページで,「参加発表登録ページ」
へのリンクを公開します。発表要旨には画像は使用できません。登録後表示される登録番号は,かなら
ず控えておいてください。もし,1 日経っても登録確認メールが届かない場合は,入力した email アドレス
が間違っている可能性があります。その場合は,登録番号と氏名を,大会準備委員会までお知らせ下さ
い。大会ホームページにどうしてもアクセスできない方や,お近くに大会ホームページへのアクセスを手伝っ
てくださる方がいない方に限って,電子メールや書簡での発表・参加申し込みを受け付けることができます。
ご希望の場合は,上記,大会準備委員会まで,電子メールでお問い合わせ下さい。なお,本大会では,
ウェブページから発表・参加申し込みを行うことで経費を削減し,参加費を抑え,なるべく多くの方々にご
参加頂こうとしています。皆様のご協力を,よろしくお願いします。
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The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
[大会発表賞へのエントリー]
大会発表賞(口頭発表賞またはポスター発表賞)にエントリーされる方は,「参加発表登録ページ」で,
大会発表賞へのエントリーの項目をチェックしてください。エントリーされた方の発表様式に応じて,自動的
に口頭発表賞,ポスター発表賞それぞれの候補者として割り振られます。なお,大会発表賞へのエントリ
ー資格のある方は,日本植物分類学会の会員で,パーマネント・ポストに就いていない若手研究者(た
だし年齢制限はありません)で,筆頭発表者かつ演者である方本人です。
[大会参加・発表申込の締め切り]
発表申込・要旨登録締切:
2013 年 2 月 1 日(金)24:00
参加申し込みウェブ登録締切: 2013 年 2 月 20 日(水)24:00
各締切日を境に,参加費・懇親会費が増額されますので,なるべくお早めにお申し込み下さい。2 月
21 日以降は,当日参加をご利用下さい。
[参加費送金先]
郵便振替口座番号:00110–1–599966
口座名義:日本植物分類学会第 12 回大会準備委員会
(銀行口座から振込をご利用の場合)
ゆうちょ銀行 019 店 当座・口座番号: 0599966
送金には同封の振込用紙を用いるか,郵便局備え付けの振込用紙を使用するか,ご自身の口座を
利用して下さい。参加登録の際に,振込受付書の受付番号かご自身の口座番号が必要になりますの
で,必ず,参加登録の前に振込を終えてください。振込用紙を用いる場合は,1 枚につき 1 名分の振込
とし,また,振込者名は参加者名と必ず同じにしてください。振込手数料の 80 円はご自身でご負担下
さい。
口座間送金を用いる場合も,1 件につき 1 名分の送金とし,また,送金者名は参加者名と必ず同じ
にしてください。現在,ゆうちょ銀行の口座をお持ちの方が,ご自身の口座から ATM を介して送金する場
合,手数料は無料です。
[懇親会]
千葉大学生協で行います。会場等の詳細情報は決まり次第,ホームページでお知らせします。なお,
千葉大学生協のご厚意により,酒類の持ち込みは無料となっています。各地の日本酒等,皆様からの
差し入れを歓迎いたします。
[ホテル]
大学の所在地は千葉市内で,千葉駅から列車で一駅です。JR 千葉駅周辺には宿泊施設がたくさん
ありますので,各自でご予約下さい。
[託児について]
3 月 15-17 日,けやき会館内に託児室を開設します。ご利用は事前にお申込みいただいた方に限
ります。利用希望者は,2013 年 2 月 1 日までに,利用希望人数,2013 年 3 月 15 日時点のお子
様の年齢及び利用希望日を,メールで大会準備委員長までお知らせください。詳細は個別にご連絡い
たします。
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日本植物分類学会ニュースレター
Nov. 2012
[大会会場へのアクセス]
JR 総武線・西千葉駅から徒歩 7 分,京成電鉄みどり台駅から徒歩 7 分。大学構内への自家用車
の乗り入れはできません。
詳しいアクセスは下記リンクを参照して下さい。
http://www.chiba-u.ac.jp/pdf/keyaki_map.pdf
[参加費]
大会参加費(発表要旨集 1 部代金を含む):
2 月 1 日(発表登録締切)までに振込
一般 3,500 円
学生 1,500 円
2 月 2 日から 20 日までに振込
一般 4,000 円
学生 1,500 円
当日参加申込
一般 5,000 円
学生 2,000 円
2 月 1 日までに振込
一般 5,000 円
学生 1,500 円
2 月 2 日から 20 日までに振込
一般 5,500 円
学生 1,500 円
当日参加申込
一般 6,000 円
学生 2,000 円
追加発表要旨集 1 部 1,000 円
懇親会参加費:
[昼食]
けやき会館内のレストラン・コルザは会期中,昼食時には営業しています。また,大学周辺には多くの
食堂がありますので,ご利用下さい。大学近辺および駅周辺に,コンビニエンスストアも数件あります。3
月 15 日には,学生食堂も営業しています。昼食のお弁当は販売しません。
[公開シンポジウム]
日時: 3 月 17 日(日) 13 時 00 分~16 時 00 分
『千葉県における植物の個体群保全・生態系再生の試み』について,公開シンポジウムを開催します。
参加は無料です。詳細は大会ホームページ等でお知らせします。
編集室より
次号よりニュースレター編集担当が代わります.2年間の短い間でしたが、情報提供・寄稿
のほか叱咤激励をいただきありがとうございました.次号より国立科学博物館の海老原淳氏
がニュースレターを担当します.今まで以上に充実したニュースレターになることと思います.新
ニュースレター担当の連絡先は本号 2 ページに載っております.情報提供・寄稿等は新担当
までお寄せください.(あずまひろし)
15
The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
いきもの便り
コケとキノコとインカ帝国 ────────────────────────────────
大崩貴之 (京都大学理学部)
似たような言い回しはどこにでもあるもので,「木を見て森を見ず」ということわざは英語で‘You can’t
イ ン カ
see the wood for the trees.’と言うのだそうだ。同窓の友人がコケ群落(隠花帝国と私は呼んでいる)
にへばりついている私にその言葉を掛けたのには,彼の素晴らしいユーモアも含まれているのだろう(そのま
まの意味でないことを願う)。
コケの勉強をしているなどと言うと,初対面の人はおろか親族にすら微妙な顔をされるが,それなりに面
白いこともある。日本で初めてダンゴゴケが見つかったと聞けば,それを見るためだけに岡山の田んぼまで
行ったり,成り行きでブロンド美女(残念ながらカップルであった)に銀閣寺のコケを紹介したり,コケ盆栽の
ためのコケ同定を依頼されたりと,未熟なりに楽しいコケライフを送っている。今回は京都・芦生の森で垣
間見た,隠花帝国の一面を紹介したい。
コケほど扱いやすい標本はないと言われるくらいコケは食われない。しかし実際にはコケ食の昆虫もいる
し,昆虫以外にも敵はいる。実は,あまり知られていないのだが、コケ(蘚類)に寄生する菌類というものが
存在する。タマゴケ寄生菌という名で知られる Eocronartium muscicola という担子菌がそれである。こ
の菌はコケの造卵器に寄生し,胞子体がそうするように配偶体から養分をもらっているのだという。そのため,
E. musucicola に寄生されたコケでは,胞子体の代わりにキノコが生える(図 1)。日本では,そのキュー
トな胞子体からコケ屋にもファンの多いタマゴケ(図 2)に寄生していることが多いが、報告されているホスト
は意外と多く,Boehm & McLaughlin (1987)によれば 21 種に上る。京都の芦生でも寄生されたタマ
ゴケを見る機会は多いのだが,去る 7 月,私にとっては初めてとなるタマゴケ以外のホストを発見した。寄
生されていたのはヒメシノブゴケという蘚類で,上記の Boehm & McLaughlin の論文では同属の他の種
が記載されていたが本種に関する記述は見られなかった。ホストにあまり見境のない菌なのでこの発見が
さほど重要とも思えないが,とりあえず関連する文献を探しているところである。
私がこのエッセイで伝えたかったのは,新ホスト発見の可能性ではなく,ブロンド美女とのやりとりでもなく,
何よりコケからキノコが生えているその素晴らしい情景である。まさに隠花の熾烈な攻防ではないか。一本
の木を見ずしては見えない森というものもある。見ようとする者にしか見えない,深い深い世界がそこには
あるのである。
図 1. コケ(ヒメシノブゴケ)から生えるキノコ。
16
図 2. タマゴケのキュートな胞子体。目玉親父
の名で親しまれている。(田村英子氏提供)
Nov. 2012
日本植物分類学会ニュースレター
書評
生き生き植物観察記 ─────────────────────────────────
南光重毅/著 神戸新聞総合出版センター/発行 ISBN:9784343007094 定価:3,150 円(税込) A4 版 228 ページ
見て楽しく,感動すらおぼえる本が出版された。淡路島に生まれ,淡
路島で育ち,多くを淡路島で小・中学校の教員,教頭,校長を務めら
れた南光重毅氏が,在職中から退職後までの 60 年を費やして完成さ
せた淡路島の植物生活史図鑑「生き生き植物観察記」である。身近に
生えている野生植物(一部菌類)を合わせて 143 種。それぞれの種につ
いて,和名のアイウエオ順(ただし草本・木本別に)に,1 ページあるいは
2 ページを使って,生育地における様子,そして蕾から開花を経て果実ま
での成長の様子をきれいな写真で紹介している。画像が美しいのは写
真画質や構図が良いというのではなく、著者が最も興味を惹かれるところを好奇の目で捉え,各写真に
観察メモがついているためであろう。そのため,こちらもつい見入ってしまうのである。
例えば,ガガブタ(ミツガシワ科)の写真がある。春に水底で発芽した個体に沈水葉(水中葉)と浮水葉
がつくられる。やがて浮水葉をつけた茎が茎頂ごと水底から水面に伸び,浮水葉が水面に展開する。夏,
水面近くに引き上げられた茎頂から次々に花が咲く。そうした様子を伝える写真の他に,朝開いた花が
12 時を過ぎると咲き終わり,ゆっくりと水中に入り,それと交替に翌朝開花する花の蕾が水中から水面
上に出てくる様子を時間を追いながら連続写真で紹介している。秋になると水面の浮水葉が枯れ,水
面近くで成長した果実が(たくさんの不定根とともに)殖芽(越冬芽)として水底に落下し,新たな株として
越年する。こうして四季を通したガガブタの一生を写真で見る(知る)ことができる。これまでにこのような分
かりやすい写真は見たことがない。写真は水面に生えたガガブタの大群落の夏の様子から始まっている。
その群落は全て短花柱花ばかりで種子がつくられず,そのため,翌年には完全に姿を消すという湖沼水
面の激変も紹介している。
この本には,カンザシギボウシの花序の展開の様子,夕方から咲きだすユウスゲの開花の様子,キンラン
の花が毎日開閉し 1 週間続いて終わる様子,ヒツジグサの種子が,それを包む果皮を浮袋にして水面
に浮かび種子散布する様子,イワタバコの葉が縮んで小さな塊として雪の下で越冬し,雪が融け春にな
ると数週間かけてゆっくりとしわが伸び,大きなつやつやした葉に成長していく様子,デンジソウの 4 小葉の
展開の様子,それを食べる何かの虫の幼虫,オオカラスウリ(夜 23 時に開花する)の雄花に産卵するミス
ジミバエの幼虫から成虫へと変わる様子,マタタビの虫こぶに強く反応するネコの様子,などなど,植物と
植物に関わることなら何でも興味をもって,著者の感動を伝えている。
身近な植物とは言え,シロバナハンショウズル,キビノヒトリシズカ,クマガイソウ,サイコクイカリソウ,タコノ
アシ,ハマウツボ,ベニバナヤマシャクヤク,ホンゴウソウなど,町に住んでいると目にすることができない植物
も多く,淡路島にこのような植物も生育しているのかと感じ入ってしまう。
今日,植物分類学に各種の顕微鏡,分子系統解析,統計といったさまざま技術や方法論が持ち込
まれている。その一方,私たちは植物そのものを観察する目を失いかけていないだろうか。この本は,そうし
たことを問いかけ,植物を観察することの楽しさを改めて教えてくれている。
(戸部 博,京都大学理学研究科)
改訂増補 淡路島の植物誌 ─────────────────────────────
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也/著,自然環境研究所 特別出版物第 9 集(CD-ROM 版),
自然環境研究所/発行 ISBN なし 頒価 3000 円
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The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
1992 年に出版された『淡路島の植物誌(小林禧樹著)』から 20 年ぶりに,改訂増補版が出版され
ました。この 20 年の間に,開発やシカ食害等の影響でチョウジソウとヤマジオウが淡路島で絶滅し,ヒメ
ノダケは最近 16 年間姿が確認されていない状況です。一方,旧版出版後,淡路島の植物に対する関
心が高まったことで調査が進み,モメンヅル,ハチジョウシダモドキ,タシロランなど兵庫県から初報告となる
植物が発見され,イズハハコが兵庫県で 53 年ぶりに再発見されるなど,新たに分布が判明した植物も
います。改訂増補版では,新たに帰化・逸出 90 分類群を含む 306 分類群を追加して,1524 種が目
録に記載されることになりました。本書の内容ですが,前書きに続いて淡路島の地形や気候・地質地史
など自然環境の概要が述べられ,淡路島の植物研究史,淡路島の植物相の概略に続いて,植物地
理上注目される種(17 種),淡路島に特徴的な種(100 種)について 10 行程度の説明文が付されて
います。島内で分布が限定される植物についての言及,瀬戸内海をはさんだ近隣エリアである西神戸の
植物相との比較,淡路島にあって徳島に分布しない植物についても触れられています。これらはそれぞれ
面白い将来の研究材料として提供されています。そして最後に淡路島の植物目録が証拠標本リストとと
もに掲載されています。まさに著者らの長年にわたる淡路島植物調査の集大成といってよいでしょう。
旧版よりも分量が 80 ページほど増えて約 300 ページになり,一部の注目される種については,カラー
写真が冒頭に掲載されています。旧版をお持ちの方のために,どこが改訂されたのか下線や*でわかりや
すく表示してあります。淡路の植物について勉強したい方には,これ以上のテキストはないといって良い充
実した内容となっています。CD-ROM に PDF ファイルが入っている形の出版なので廉価でもありますし,
淡路島周辺の地域フロラに興味のある方にお勧めします。(高野 温子,兵庫県立人と自然の博物館)
購入のお問い合わせは
兵庫県植物誌研究会代表 小林禧樹氏([email protected]),または
自然環境研究所代表 大草伸治氏([email protected])まで
書籍紹介
「日本日誌」 A Journal from Japan ───────────────────────
マリー・ストープス/著,松原 徳弘/訳 自費出版 非売品
日本の鉱化化石研究に先鞭をつけた,マリー・ストープス Marie Stopes が 1907 年 7 月から 1909
年初頭まで日本に滞在した間の日記を来日後に整理した表記出版物については,これまで国内であま
り紹介する機会がありませんでした。化石の研究にはあえて触れずに黎明期の日本を科学者らしい目で
描写しており,後年,女性の地位改革でも活躍する著者の人柄と感性もうかがえます。原著では登場
人物をなぜか本人の苗字のアルファベット 1 文字で表していて,当時の学会関係者が誰なのか謎解きも
楽しめそうでしたから,紹介者はそのうちに訳本でも作ろうかなどと考えていました。ところが,なんと個人で
これを翻訳出版した方がおられ最近寄贈してくださいました。A5 サイズの立派なハードカバーです。訳者
の松原徳弘さんは,化石同好の士で,全く植物学とも関係なさそうな本職をお持ちです。生物学的な
表現や,動植物の名前などに少し検討の余地があるものの,訳書全体の価値を下げるものではありませ
ん。登場人物などもよく調べ上げて,ご自身の解説や当時の関係写真も付されています。100 部を自
費で作られたようですが,まだ在庫があるそうです。非売品ですから連絡をいただければさし上げますとおっ
しゃっていますが,送料などはご各自配慮下さい。興味がおありの方は,紹介者あてお問い合わせ下さい。
(西田 治文,中央大学)
問い合わせ先: 西田 治文([email protected])
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Nov. 2012
日本植物分類学会ニュースレター
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The Japanese Society for Plant Systematics
No. 47
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平成 24(2012)年 11 月 21 日印刷
平成 24(2012)年 11 月 26 日発行
編集兼
発行人
京都市左京区北白川追分町
京都大学大学院理学研究科
生物科学専攻植物学系
東 浩司
発行所
大阪府堺市中区学園町 1-1
大阪府立大学大学院
理学系研究科
日本植物分類学会
*ニュースレターに掲載された記事の著作権は日本植物分類学会が管理いたします。
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