生態学と経済学の基礎(IGES仮訳)PDF, 2.3MB

The Economics of Ecosystems and Biodiversity:
The Ecological and Economic Foundations
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
(TEEB D0)
【注記】
※本編は仮訳です
※正本は英文であり、日本語訳を引用して問題が生じても責任は負いかねます
のでご了承ください。
第1章
生態学と経済学の視点を統合して、
生物多様性と生態系サービスの価値を測る
代表主筆:
Rudolf de Groot
主筆:
Brendan Fisher, Mike Christie
共同執筆:
James Aronson, Leon Braat, Roy Haines-Young, John Gowdy, Edward Maltby,
Aude Neuville, Stephen Polasky, Rosimeiry Portela, Irene Ring
監修:
James Blignaut, Eduardo Brondizio, Robert Costanza, Kurt Jax, Gopal K. Kadekodi,
Peter H. May, Stanislav Shmelev
編集監修:
Gopal K. Kadekodi
2009年9月
目次
主要なメッセージ ........................................................................................................................ 1
1 はじめに...................................................................................................................................... 2
2 生態学と経済学をつなぐ、今あるフレームワーク(概観).............................................. 4
2.1 生態系サービス:初期における議論と最近のフレームワーク....................................... 5
2.2 TEEB中間報告及び関連研究 ................................................................................................. 7
2.3 生態系の機能、サービス、便益の定義............................................................................... 9
2.3.1生物物理学的な構造と過程から生態系サービスと便益へ............................................ 10
2.3.2 生態系サービスから(経済的)価値へ ............................................................................... 12
3 TEEBの概念的枠組み .............................................................................................................. 15
3.1 生態系の構造、プロセス、機能......................................................................................... 20
3.2 生態系サービス:定義と分類............................................................................................. 20
3.3 人間の福利;便益と価値の分類......................................................................................... 23
3.3.1 生態学的便益と価値.......................................................................................................... 24
3.3.2 社会文化的便益と価値...................................................................................................... 24
3.3.3 経済的便益と価値.............................................................................................................. 24
3.4 ガバナンスと意思決定......................................................................................................... 25
3.5 変化のシナリオと誘導因子................................................................................................. 27
3.6 生態系サービスの価値を意志決定に関連づける:TEEBによる手引き ...................... 29
参考文献........................................................................................................................................ 30
付属文書1:TEEBで用いられる生態系の分類. .................................................................... 38
付属文書2:生態系サービスの分類:簡単な文献調査とTEEB分類 ................................. 39
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
Key messages
主要なメッセージ
z
生態系の持つ生物物理学的な側面と私たちの便益を、生態系サービスの概念を通して関
連付けることは、生態系と生物多様性の損失に伴う生態学的・社会文化的・経済的・金銭勘
定上のトレード・オフを、明確で首尾一貫した評価にするための基本となる。
z
生態系のアセスメントが政策の策定または提言で利用するために有意義であるためには、
空間や時間の状況に生態学的な機能や経済的な価値のどちらもが影響を受けがちである
としても、利用の視点からみて空間的かつ時間的に曖昧さを残してはいけない。
z
生態系のアセスメントでは、生態的な価値評価あるいは代替の基準によって評価するた
めに、まず、生物物理学的にどんなサービスが提供されているか、生態学的な確固たる
根拠を提供することをいつも目標としなければならない。
z
生態系のアセスメントが経済的な評価に利用されるための重要なポイントは、仕分けに
ついては合意されてはいないものの、機能とサービスと便益とを明確に区別することで
ある。
z
生態系のアセスメントで、代替案同士の機能の違いを測る最良の方法は、シナリオでの
生態系サービスの価値と活動のコストを算定してシナリオを対比することである。
z
生態系の利用の選択肢のトレード・オフを評価するにあたっては、変化や管理状態の違
いによって生じうる生態系サービスのすべての変化も評価しなければならない。
z
価値の評価を調べるときは、必ず、それにともなう「コスト」の側面を十分に意識する必
要がある。便益のみに焦点を当てると、機会の喪失など重要な社会的なコストを無視す
ることになるからだ。またコストの側面にも配慮することによって、社会的価値全般の
広がりを考慮できるようになる。
z
生態系のアセスメントには、生態系及び生態系サービスに対する人間活動の影響や、生
態系及び生態系サービスが人類に幸せや豊かさをどれだけもたらすかについて、未知の
領域があることを認めたうえで、リスクと不確実性に関する分析を組み込まなければな
らない。
z
インセンティブのしくみや制度を改善するためには、生態系サービスの受け手、自然保
護のコストを負担する人々、意思決定のさまざまな段階に関与する人々、などの
さま
ざまなステークホルダー(利害関係者)をはっきりと特定しなければならない。また、
意思決定過程が透明でなければならない。
1
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
1 はじめに
生態系と生物多様性がわたしたちの豊かさや幸せ(福利)にどれくらい重要性があるのかに
ついてわからないことが多いにも関わらず、ますます大規模に、生物多様性は喪失し、生態
系は悪化している。このため、生物多様性 1 や生態系サービスに対する社会の見方や、評価方
法は根本的に変わらなければならない。しかし、たいへん難しい問題なのは、多くの生態系
サービス1には公共財が混ざり合っており、このために、ほとんど枯渇またはその近くにあっ
たとしても利用の程度を制御することが困難であるからだ。多くの人々が生態系サービスの
便益を受けているが、個人でも、グループでも、これからもサービスの提供を継続して受け
続けるために生態系を維持しようと、たいていの場合、十分に動機付けられてはいない。た
とえば、誰でも入れる釣り場は貴重な収獲を提供してくれるが、たいてい、乱獲によって魚
の個体数が減少してしまい、そのうちに漁獲量が減少する。
生態系の管理とガバナンスが問題になるのは、情報の不足と制度的な不具合があるからだ。
1つには、生態系プロセスと生物多様性がわたしたちの豊かさや幸せ(福利)にもたらす貢
献や、人間活動がどのようにして人類の豊かさや幸せ(福利)に影響を与えるような環境変
化をもたらすかについて、わたしたちがわかっていない場合であり、またもう1つは、市場
システムが正しい動機付けに失敗する場合を与える場合がある。
この2つのタイプの不具合のせいで、そして、生態学と経済学の境界領域における複雑なダイ
ナミックスによって、頻繁に持続的に大規模な自然環境悪化が生じ、また生態系サービスと
生物多様性の喪失が加速される。この惑星にこれからも人類が大規模な活動を行うことが前
提とすれば、私たちは、生態系サービスがこれ以上喪失しないためにも、生態系サービスの
価値をどのようにしたら社会的意思決定に組み込むことができるかを考え直さざるを得ない。
ミレニアム生態系評価(MA 2005a)の発表を受けて、政策立案者と企業が生態系サービスと
いう概念を利用することが増えてきた。しかしながら、土地利用計画や意思決定にすみやか
に実際に適用されるということまでには至らなかった(例えば, Daily et al. 2009, Naidoo et al.
2008)。
速やかとは言えない理由は市場と経済の分析や、(GDPで代表される)会計システムが生態
系サービスの価値を捕らえることに失敗したことだけではなく、以下の事柄についてのわた
したちはまだよく知らないからである。
つまり、
a)さまざまな生態系サービスが相互にどのようにつながりあっているのか。またさまざま
な生態系の機能の構成要素や、生物多様性の役割と、生態系サービスがどのようにつながり
1 生態系と生物多様性という二つの述語を常に同時に使うということを避けるために、この章を通して特に記載のない限り、
『生態系』という言葉は『生物多様性』の意味も持つこととする。
2
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
あっているのか。b)さまざまな人間活動が、どのように生態系に影響を与え、生態系サー
ビスの提供を変えるのか。c)異なる生態系サービスの間のトレード・オフの可能性。d)
生態系サービスの需要と供給に対する空間的・時間的なスケールの違いの影響。e)生物多
様性の保全と生態系サービスの持続的なフローを長期的に確保させるのに最善の方法は何か。
である。
このまま制度とインセンティブが変わらないとしたら、自然資本は今後も衰退しつづけるで
あろう。なぜならば、自然資本を枯渇させて便益を得る活動をする人々は、今後も引き続き
活動のコストを支払うことをすべて拒否し続け、それを貧困社会や将来の世代に覆い被せる
だろうからである。この予測はたいへん悩ましいものであるが、『自然資本』(詳細参照)
が累積的に失われてきたため、地球規模の共同社会は過去何十年間にわたって、自然資本の
枯渇によって破損、修復、及び置き換えのための多額の金額を支払って来たし、そして今な
お支払っている、といえる(Bartelmus 2009)。
本書の目的の一つは、生物多様性の地球規模、地域規模、現場など様々なスケールにおける、
生物多様性の喪失の意味と、その喪失をくい止めるための行動を政府がとらないことから起
こる結果について、より多くのより良いデータを提供し、理解を深めることである。本書は
生態系サービスの喪失による経済面、特に金銭換算の評価を強調してはいるが、生態学的「価
値」(生態系の健全さと生命を支える機能)や、社会文化的な意味付けについても配慮を行
っている。
このTEEB D0報告は生態系と生物多様性の経済学の科学的な基礎を提供し、一方TEEBの他
の成果物(D1 - D4)は、それぞれ政策立案者(D1)、行政担当者(D2)、企業(D3)、
または消費者など個別の対象(D4)に向けたものである。
第1章では、TEEB中間報告(TEEB 2008)に基づいて、生物多様性と生態系サービスの経済
学をさらに実用的なものとすべく、最近の発展について要約しながらTEEBの枠組みについて
紹介している。
第2章と第3章では、生態学的な評価の基礎を紹介する。第2章では、生物多様性、生態系、お
よび生態系サービスの関係についてのわたしたちの現状の知見を述べる。関連する生態学的
概念についての研究を示し、次第に速いペースで人為的な原因によって生態系が変化し続け
ることに伴う不確実性とリスクに焦点を当てる。一旦、生物多様性が失われ、生態系が不可
逆的に変化してしまうと、生態系を修復し、それに関連した生態系サービスを回復させるに
は、莫大な金額を必要とするか、または回復の可能性がないことさえある。第3章では、生物
多様性と生態系サービスに関するわたしたちの知識を数値化し、図式化するために現在使わ
れている生物物理学的な手段と指標を提示し、その長所と欠点を示す。特に生物多様性の変
化を測定するためのより良い指標、また経済的な価値づけの基礎となるような、生態系サー
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ビスの提供に関する研究への努力が、求められる。
第4章から6章では、生物多様性と生態系サービスによる「人々の豊かさと幸せ」への貢献を
取り扱う。第4章では、生態学的、経済的、および社会的価値を含む価値評価を包括的に理解
するための考え方をまとめ、生物多様性と生態系サービスの価値評価について、個別的な社
会的・文化的背景に関して議論の準備を行う。次に第5章では、
(i)金銭的価値づけの方法、
そして(ⅱ)便益の伝達、を行うにあたっての利点と問題点と課題について詳しく紹介する。
第6章においては、経済的な価値評価の倫理的な問題点について紹介する。特に、割引率の採
用と選択は、生態学的不確実性と公平な分配の視点から、批判的な検討が欠かせない問題で
ある。
第7章から第9章は、この枠組みを用いて、第2章から6章で展開した方法論に基づいて、生態
系サービスの喪失の経済学的な意味付けを分析する。なお、ここで提供している生物多様性
の保全と持続的な生態系サービス提供の便益とコストを説明するために選んだ評価は、さま
ざまな状況、さまざまな地理的広がりがあり、データにも方法論にも未だ限界がある中での
評価であることは、ご了承いただきたい。つまり、これらによって生態系サービスの地球規
模における全経済的価値を試算することを意図したものではない。第7章は経験的な経済学的
文献を、主要なタイプの生態系と生態系サービスの価値に関して表の形でまとめたものであ
る。前章までの分析に基づき、さまざまな地理的区分と評価段階に対応した価値を選び、デ
ータベースに収集した。第8章では陸生及び海生生物を含むいくつかの生物相に対する活動及
び活動を行わないことへのコストについての予備的に分析を行っている。この分析は、現存
のモデルと、最近の地球規模の評価を使ったレビューに基づき、シナリオの選択次第でどの
ように便益とコストの金銭的価値が変わるか?を紹介する。第9章は生態系サービスの変化の
影響を評価し、マクロ経済学のスケールにおいて、活動を行う場合と活動を行わない場合の
それぞれコストを比較することについて、今わかっているところまでを紹介する。
最後に、第10章では、TEEB D0報告の主要な結論と提言を紹介している。
2 生態学と経済学をつなぐ、今あるフレームワーク(概観)
過去数十年間、生態系の機能をわたしたちの豊かさと幸せに体系的につなごうとする多くの
研究が行われてきた。自然資本と呼ばれる「ストック」と、自然資本から利子または配当の
ように提供される生態系サービスと呼ばれる「フロー」が、概念の中心的な要素である。ミ
レニアム生態系評価(MA 2005a)では、自然資本は、地球上に存在する物理的・生物的資源
の限られた備蓄に関する「経済学上の比喩的表現」と呼ばれている。減少と悪化の一途をた
どる自然資本を見かねて、経済制度が自然資本の損失を人為的な資本によって果たして補い
4
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
うるのか?、また、何世代にもわたって悪化することのない豊かさと幸せが得るための持続
可能な開発の条件とは何か?についてさまざまな議論がなされてきている(Pezzey 1992;
Pearce et al. 1989)。自然資本を代替できる可能性はつまりは経験的な問題ではあるが、その
代替には限界があること(Barbier 1994; Daly 1996; Prugh 1999; Daly and Farley 2004)、また、
決定的な量の自然資本が保護されなければならないことは広く認識されている(この議論の
TEEB研究における意味については第4,5,6章を参照のこと)。
この章においては、生態系の機能と生態系サービスの理論と実践の発展について概観し、文
献とTEEB中間報告(2008)によるいくつかの重要な視点と課題について紹介する。
2.1 生態系サービス:初期における議論と最近のフレームワーク
人間と環境の相互作用と、この相互作用が人間の豊かさや幸せ(福利)に及ぼす効果/影響に
ついての考察は何世紀 2 もさかのぼることができる。わたしたちが生態系サービスと呼んでい
るものの衰退と人口の増加に関するローマ時代の著作もある(Johnson 2000)。近代初期には、
たとえば、Marsh (1874)、Leopold (1949)、Carson (1962)、Krutilla and Fisher (1975) など多くの
著者がこのテーマを扱っている。1977年に、Westman が「Science」誌に、生態学的・経済学
的システムのつながりについて検討した「自然のサービスはいくらの価値があるのか?How
much are Nature’s Services Worth?」(Westman 1977)論文を発表し、その後 Ehrlich and Ehrlich
(1981) が「生態系サービス」という用語を作り出し、それに続く10年間で、生態学者たちが、
生態系サービスと、経済的便益との提供者である、生命を支えるシステムとしての生態系と
いう概念をさらに練り上げた(例えば以下を参照: Ehrlich and Mooney 1983; De Groot 1987;
Odum 1989; Folke et al. 1991; De Groot 1992)。また経済学者たちもこの時期に生態系の機能と
サービスについて書き始めた(例えば、Hueting 1980; Pearce 1987)。しかし、この概念が広
く注目されるようになったのは Costanza et al.(1997) 及び Daily (1997) が発表された1990年
代になってからである。同時に、エコロジー経済学という学際分野において、自然資本
(Costanza and Daly 1992; Jansson et al. 1994; Dasgupta et al. 2000)という概念が、社会としての
発展と、全人類の経済の生物物理学的な基盤を提供するものとしての生態系の重要性を表現
するため、再生可能な資源、再生不能な資源、及び生態系サービスを含む概念として展開さ
れた(Common
and
Perrings 1992; Arrow et al. 1995)。De Groot et al. (2002) は、生態系サー
ビスについての議論と系統的な分析を助ける試みとして、生態系のプロセスと構成要素から
財とサービスへの関係と移行を明示する分類システムを作った。
ミレニアム生態系評価(MA 2005a)では、上記とその他の研究 3 に基づいて、サービスを4つ
2 インドの哲学者 Kautilya は約 2700 年前にその著書「アルタ・シャストラ(経済学)
」でガバナンスの経済原理について議
論している。
3
付属文書5 Balmford et al. (2008)「科学のスコーピング」が、生態系サービスの概念の展開に貢献したすべての人の名前
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
のカテゴリーに分類した。支援サービス(たとえば、栄養分の循環、土壌形成、そして一次
生産)、供給サービス(たとえば、食糧、水、木材、及び繊維と燃料)、調整サービス(た
とえば、気候の調整、洪水及び病気の調整、そして、水質浄化)、そして、文化的サービス
(審美的、精神的、教育的、及びレクリエーション)である(図1参照)。
MAによって地球規模の議論にエコシステムサービスの概念が導入されたことで、生物多様
性の維持という命題と、ミレニアム開発目標が達成できないという結果の間に、重要なかけ
橋がかけられた。
短期
長期
地球規模
地域規模
地方規模
人類の福利と貧困の削減
変化の間接的要因
„
„
„
„
„
„
„
よい生活のための基本的な
原料
健康
良好な社会的関係
安全
選択と行動の自由
„
„
„
人口の要因
経済的要因(例、グローバリ
ゼーション、貿易、市場、政
策の枠組み)
社会政治的要因(例:ガバナ
ンス、制度と法の枠組み)
科学技術的要因
文化的・宗教的要因(例:信
仰、消費選択)
生態系サービス
変化の直接要因
„
„
„
„
„
供給(例:食料、水、繊維、
燃料)
„
調整(例:気候調節、水、病
気)
„
文化的サービス(例:精神的、
審美的、レクレーション、教
育)
„
支援(例:一次生産物・土壌
形成)
地球上の生活-生物多様性
„
„
„
地方の土地利用と土地被覆
種の導入と除去
技術の採用と利用
外部からのインプット(例:肥料の
利用、害虫駆除、潅漑)
収穫と資源の消費
気候変動
自然的・物理的・生物学的要因(例:
進化、火山)
戦略と介入
出典:ミレニアム生態系評価
図1:生態系サービスと人類の豊かさや幸せ(福利)を結ぶMAの概念的枠組み
出典:MA (2005a)
を列挙することは不可能に近いことを指摘しつつ、何人かの中心的な著者やイニシアティブを列挙する。
6
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
2.2 TEEB中間報告及び関連関連研究
ミレニアム評価では、生態系の変化の経済学に意図的に多くの関心を払わなかった。このた
め、TEEB研究の第一段階(TEEB 2008)では、生物多様性の喪失と生態系の劣化の価値評価
のために必要となる生態学的側面及び経済学的側面の分析を統合するために、枠組みが提案
された(図2参照) (Balmford et al. 2008) 。
この枠組みで強調されたのは、相反する事実に基づいたシナリオの必要性である。生物多様
性の喪失の主要因に対処するための具体的な行動に従ってこのシナリオは異なってくる。シ
ナリオを作成するためには、まず、提供されるサービスの変化を推測し、生物物理学的な用
語によって写し取ることが必要である、また、そのためには生態系サービスの生産を促す要
因と、実際に実行された行動によってどのような影響を受けるかについての充分な理解が必
要である。この上で、生態系サービスの変化に経済的価値評価を下す。しかし、このために
は生態系サービスのフローと、その需要の決定要因に関する充分な理解が必要になる。
生態系サービスのフローと、それに付与できる経済的価値が場所によって不均一となること
を考慮に入れるためには、保全のコストが可変的であり場所によって曖昧さがないことが重
要なこととなる。こうすることによって、スケールの不適合を判定できるだけでなく、生態
系に影響を与えるような決定の分布上の意味あいを分析し、トレード・オフを検討すること
ができる。
生物多様性
の喪失と生
態系の劣化
の要因
世界 A:行動なし
喪失をとめる
政策行動
シナリオ A
シナリオ B
生態系サービス
の提供を数量化
し、説明する
世界 B:行動あり
生態系サービス
の提供の違いを
数量化し、説明
する
生態系サービス
の提供を数量化
し、説明する
キーワード
生態学
行動のコス
トを数量化
し、描写する
行動の経済学的結果を数値
化し描写する
生態系サービ
スの違いによ
る経済的価値
を数量化し、描
写する
経済
政策
貧困、衡平、地球規模の
GDP にどのように影響する
か?
図2:経済的な価値付けの枠組み:世界の状態の比較
出典:Balmford et al. (2008) and TEEB (2008)を修正
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
経済学理論による限界価値に基づく価格付けの考え方は、ある財はさまざまな財やサービス
との間での代替可能性を前提としているので、生態学から見れば、不可逆的な変化が起こら
ない生態系というある限定された範囲内のみでしか適用できない(詳細は第2,4章参照)。
このような限界価値の適用の制約は、生態学ばかりではなく社会文化的な立場からの事例も
ある(Turner et al. 2003)。従って、生物多様性と生態系サービスに価格を付けるためには、
常に、経済的価値付けでカバーできない生態系や社会文化的な価値の範囲を考慮に入れるこ
とが必要であり、意思決定への反映のためには、市場評価だけではない別のアプローチと方
法論が必要である。
TEEB中間報告の価値評価のフレームワークは、最近行われている他の調査で採用したフレー
ムワークとおよそ同じである。たとえば、米国全国調査委員会 the US National Research
Council (NRC 2005)、自然資本プロジェクト the Natural Capital Project (Daily et al. 2009)、EPA
科学的助言評議会 the EPA Science Advisory Board (EPA-SAB 2009)、Arcの価値評価 Valuing
the Arc (Mwakalila et al. 2009)、フランス戦略分析評議会 the French Council for Strategic
Analysis (Chevassus-au-Louis et al. 2009) などの調査である。これらの調査はすべて、人間活動、
生態系、生態系サービスおよび、それらの人類の福利の間の基本的な結びつきを示している
(Daily et al. 2009に基づく図3と比較のこと)。
人間の決定によって、生態系に影響を与える活動が行われ、それによって、生態系の構造と
機能は変化する。この変化によって、今度は提供される生態系サービスが変化することにな
る。生態系サービスの変化は人間の豊かさや幸せ(福利)に影響を及ぼすことになる。この
つながりが明確に理解されれば、究極的には、生態系の状態と生態系サービスを改善できる
ような、誌組織の改善と、よりよい決定につながる情報が提供できるだろう。
生態系サービス:
研究主題
インセンティブ
決定
機関
活動
生態系
生物物理学的モデル
情報
価値
サービス
経済的・
文化的モデル
図3:生態系サービス:研究主題
出典:Daily et al. (2009)
8
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
2.3 生態系の機能、サービス、便益の定義
過去10年間、生態系サービスの究明に対して大きな研究努力が傾けられてきた(Fisher et al.
2009)。この研究を通して、生態系サービスの研究が確固たる科学的根拠を持ち、信頼に足
るものとなり、また同時に行政と企業において意思決定に関わる人々に明確なメッセージを
確実に伝える方法について、多くの洞察が得られてきた。
しかし、まだ定義及び分類についてはいまだに多くの議論が残されており(e.g., Daily 1997;
Boyd and Banzhaf 2007; Wallace 2008; Costanza 2008; Fisher and Turner 2008; Fisher et al. 2009;
Granek et al. 2009)、また、生態系が人間生活を支え、人間の豊かさや幸せ(福利)に貢献し
ている数え切れないほどの方法を網羅できる最終的な分類方法はまだない。しかしながら、
TEEBのような地球規模の評価のためには、使用される用語と分類が明確である必要がある。
社会的かつ生態学的なシステムの結合という複雑な事柄を取り扱うためには、それらのシス
テムの異なる特徴と相互作用を記述するための豊かな言語表現力も要求される。このような
複雑なシステムに対しては基本的な分類法もなく、不明瞭さを全く持たない定義がなく、ま
た、どのような体系化も議論可能ではあるにもかかわらず、しかし、中心的に使用される用
語の意味については明確でなければならない。
図4は、TEEBが提案している生態系と生物多様性から人間の豊かさや幸せ(福利)につなが
る筋道を解きほぐすための図式化した表現である。
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス(の利用)を決
定する制度と人間の判断
管理/復元
価 値の 認知と 生態 系サ
ービスの利用の間の
フィードバック
生態系と生物多様性
人間の豊かさや幸せ(福利)
(社会・文化的側面)
生物物理的
な構造また
はプロセス
機能*
(例:植生被覆
率または純一
次生産量)
(例:遅い
流れ、バイ
オマス)
サービス
(例:洪水
防止、生産
物
便益
(健康・安全等
への貢献)
1)
(経済的)価値
(例:保護また
は生産物のた
めの WTP)
*) サービスを提供する生物学的な構造
又は課程の部分集合
Haines-Young & Potschin, 2009 and Maltby
(ed.), 2009 から作成
図4:生態系の構造と過程から人間の豊かさや幸せ(福利)への筋道
1) いくつかのサービスが提供されるときに、普通は機能の一つが含まれており、
普通、いくつかのサービスを利用するとき、そこにある生物物理学的な構造と過程
にさまざまなやりかたで影響を与える。生態系サービスを評価するとき、このよう
なフィードバックのループを考慮に入れなければならない。
2.3.1 生物物理学的な構造と過程から生態系サービスと便益へ
サービスまたは便益が作られるまでに、図4が示すように、様々なことがおこなわれ、その意
味を理解しなければならない。従って、「機能」を、生態系がサービスを提供する「能力」
であるというより深い意味合いの生態系の構造と過程と区別することが役に立つ。ある生態
系サービスを供給するには、機能という「もの」が必要である。例えば、食料(=サービス)
の供給に十分な魚の個体数(=機能)、またはきれいな水(=供給サービス)4 を提供する水
の浄化(=機能)である。底辺にあってこれらの機能を維持している構造と過程は、この場合、
食物連鎖の仕組みと栄養分の循環である。これらのサービスの便益は重層的である(例:食
料は栄養分を提供するが、同時に楽しみと、ある時には社会的なアイデンティティを提供し、
4
付属書2では水の浄化は、便益が廃棄物処理に関係する場合、調節サービスにも分類されている。第 2.3 節に述べたよう
に、追求される便益に従ってサービスを提供する生態系の構造-過程-機能が混合が変化するので、全く不明瞭な点のない分
類法はおそらく存在しない。
10
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
きれいな水は飲料水としても使うことができるが、同時に水泳(楽しみ)や、他の必要や欲
望を満たす活動にも使うことができる。)従って、林が集水域を流れていく水の流れを遅ら
せる役割という便益(安全)を享受する者がもしいるとすれば、この役割はサービス(水流
の調節→洪水のリスクの減少)を提供する能力を持つ機能である。
生態系サービスとは実際上、人々に対して、直接的及び間接的に、生態系が「行う有益な事
柄」を概念化(「ラベルづけ」)したものであり(TEEBで使用される基本用語とその意味に
ついては語彙集を参照のこと)、そのため、生態系そのものが変わらなくても、人々が「役
に立つ」とみなす生態系の特性が時間とともに変わることもある、ということは認識してお
かなければならない。
ある生態系サービス(特に支援サービス・調節サービス)が他のサービスを生み出すための
生産要素となるという事実から起きるダブルカウントという問題を避けるためには、生態学
的現象(機能)と、その人間の豊かさや幸せ(福利)に対する直接的・間接的な貢献(サー
ビス)、そしてそれから作り出される豊かさや幸せ(福利)の面での獲得物(便益)の関係
を明確に区別することが有効である(Boyd and Banzhaf 2007; Wallace 2008; Fisher and Turner
2008; Balmford et al. 2008)。このような区別は、機能がどこで起こるか、サービスの提供を
どこで評価するか、そして便益が究極的にどこで享受されるかという空間的な分布を明確に
理解するために、決定的に重要なことである。特に経済的な価値評価に当たっては、機能、
サービス、便益を区別することが重要ではあるが、完全に首尾一貫した分類は不可能なこと
が多く、特に調節サービスの場合はそれが著しい(詳しくは第3節を参照のこと)。
以上より、生態系サービスに関する研究ではサービスと考えられているものが一体何である
のか、またそれらはどのように価値付けされ、どのように測定されるのかについて常に透明
でなければならない。ある種の生態系サービスは、それがどのようにして作り出され、維持
され、生態系または非生物的な変化によってどのような影響を受けるのか、そしてそれらが
生物多様性の各レベルにどのように関連しているのかということに関して、乏しい知識をつ
なぐ知識の輪が決定的に欠落している。生態系サービスの研究を通して情報は常に不足し、
「生態系(システム)」がどのように働くかを確実に知りえぬことを、わたしたちは常に肝
に銘じなければならない。
多くの人々はそれとは自覚せずにも生態系サービスの便益を受けており、そのためにその価
値(重要さ)を認めることが出来ないことを常に認識することが必要である。従って、価値
評価の研究においては、生態系サービスに起因する直接・間接的な便益を正当に取り扱う必要
がある。もう一つの問題は便益につながる可能性、すなわち「(将来)使われる可能性のあ
ること」をどう扱うかということである。たとえば、(将来的な食料源としての)野生生物
や、遠隔地にある魅力的な風景は今は使われないかもしれないが、将来の利用という大きな
(経済的な)可能性を持っているかもしれない。
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
最後に、生態系が「逆サービス(悪影響)」を生むこともあることを認識することが必要で
ある。たとえば、収穫や人類の健康を損なうような種の繁殖や分布を助けるような場合があ
る 5 。トレード・オフの分析においてはこれらの逆サービスを考慮することが必要であり、究
極的には、首尾一貫した生態系の説明では、便益と逆便益が捉えられていなければならない
(例えば EEA 2009)。
2.3.2生態系サービスから(経済的)価値へ
生態系の働きと生態系サービスは人間の豊かさや幸せ(福利)の非常に多くの側面に影響を
与えるので、影響の大きさ(「価値」)を測るためには、一連の広い指標を使うことができ、
また使わなければならない。「機能」「サービス」「利便」の解釈(上記参照)同様、生態
系の人間の豊かさや幸せ(福利)に及ぼす利便を評価する「価値」という用語の使用に関し
ても今なお様々な議論がある。オクスフォード英語辞典では value (価値)を、「物事の価
値、役に立つこと、重要さ」と定義される。ミレニアム生態系評価は、価値を「利用者が決
定した目標、目的、または条件に対する、ある行動または事物の貢献」と定義し(Farber et al.
2002 に基づく)、その測定は様々な科学的分野、例えば生態学、社会学、経済学、からのあ
らゆる尺度が含まれる可能性があるとする(MA 2003)。
経済学において「価値」はいつもトレード・オフと関連している。すなわち、何かが経済的
価値を持つのは、人が何かを得たり楽しんだりするために、何かをあきらめたいと思ってい
るときだけである。経済学の共通の尺度は金銭による価値づけである。何人かの批評家たち
によれば、この尺度への依存により、社会と自然の間の関係を理解する決定的ないくつかの
タイプの価値の組み込に失敗し、多くの生態系サービスの評価が損なわれた(例えば、
Norgaard et al. 1998; Wilson and Howarth 2002; MA 2005a; Christie et al. 2006; EPA-SAB 2009)。
また、議論の詳細についてはBox1と第4章を参照のこと。
経済学的な価値評価の他には、生態系サービスを分析する方法には生計としての評価、人々
の選択の余地を強調する
能力アプローチ(例えばSen 1993)、そして危険性評価がある。
人間の豊かさや幸せ(福利)における、選択の自由や、人権や、生来の価値など、金銭で測
ることのできない、または測ってはいけない次元を、分析に組み込むためには、こうした考
慮を欠かすことはできない。これらは、文化的、哲学的(精神的)価値をもつサービスと便
益を測る時にもやはり重要である。しかしながら、金銭的評価は生態系サービスの全体的な
重要性―すなわち価値―を部分的にとらえるものではあるが、それは、いわゆる外部存在を
経済的な会計手続きの中に、そして生態系に影響を与える政策の中に、内在化するためには
決定的に重要であり、そうすることによって、すべてのレベルでの意思決定に影響を与える
5 これら逆サービスの多くは悪しき計画と管理の結果であり、したがって、ほとんどが人為的なものである。たとえば、河川
を「直線化」すること(洪水につながる)
、丘陵斜面の森林を伐採すること(土壌流出と地滑りが起こる)また、自然的な食物
連鎖を乱すこと(病害の発生につながる)
。
12
第 1 章:生態学と経済学の視点を統合して、生物多様性と生態系サービスの価値を測る
ことができる。
Box 1:新古典派経済学とその不満
伝統的な新古典派経済学者と、より多元的なアプローチをとる新古典派経済学者との間には長い対立
の歴史がある。両者ともに、何が批判され、何を守るべきかを明確にしてこなかったため、論争の成
果は、期待されたほどではなかった。
標準的な経済価値評価法に対して批判的なとき、何を批判しているかを厳密に捉えることが必要であ
る。スターンレポートに関する経済学からは、現在の財政危機、そして行動経済学の発見の重要性と
いう広い範囲にわたるに議論を通して、新古典派経済学の問題は価格づけそのものに関してではなく、
その核であるワルラスモデル(スイスの経済学者レオン・ワルラスの名をとった)の前提にあること
が示された。このモデルの目的は競争的な市場はパレート効率を達成するということを証明すること
であった。つまり、誰かほかの人の生活を悪くすることなしには良い生活をすることはできない、と
いうことである。これは厚生経済学の第一法則と呼ばれている。市場のプレイヤー(企業と消費者)
が互いに独立して行動しなければ、この証明は成り立たない。つまり、個人の経済的な決定は自分の
好みに基づいており、個人の決定は決して、他の人たちが考え、行動し、またはどれだけ持っている
か、ということには影響されないということである。同様に、ある企業の生産と価格の決定は他の企
業の活動とは独立しているということである。この独立の前提は何千という経験的なテストを通して
誤りとされている。この誤った前提から現実の経済的活動を上手に予測することはできないし、経済
政策に対しては貧弱な指針しか提供できない。わたしたちは「理性的な経済人」を、科学的な基盤に
基づいた人間行動のモデルに、また、企業が完全に競争的であるというモデルを競争的な制度、文化
的基準、また生物物理学的な変容を含んだモデルに、置き換えなければならない。ワルラスモデルに
従って消費者と企業を性格付けることは、制限のなかでの最適化という数式の要請に引きずられるこ
とであり、現実の世界の経済学的行動とはほとんど関係を持たない。
しかしこのことは、市場はいつも非効率的であるとか、また価格が意味を持たないというわけではな
い。これは単純に、経済政策の議論は、随意的な数式や紙の上の線に基づくのでなく、利点と証拠と
いう基盤の上に決定されなければならないということを意味するだけである。最低賃金法の効果がよ
い例である。この法律が単純なグラフを描いて失業率を上昇させるということを「証明する」ことは
易しい。しかし、現実の世界の証拠はずっと複雑である。
経済学者たちはしばしば、自分たちのモデルを正当化するために、「おとり商法」のテクニックを使
う。私たちはまず、「人々は、自分たちが扱うことのできる限られた手段の中で最善を尽くす」とい
う無理のない前提から始める。しかしながら、ワルラス学派の枠組みではこれは「よく定義され、安
定した、自分を考えて嗜好を持つ人々が、2回微分可能で、滑らかで連続的な、一価関数の最大値をと
らせる・・・など」となる。このモデルで使われる数式を使って、私たちは天然資源の隠された価格、
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
代替物の弾力性、全因子の生産性などを計算することができる。しかし、これらの見積もりが経験的
証拠に基づいたものであるのか、または、計算のための数学的前提によって行われたのかは明確でな
い。
将来のコストと便益の割引に関して、一般的に個人は、何であれ、遠い将来よりも、今持ちたいと思
うものだ、ということ(もちろんいつもというわけではないが)は理にかなっている。しかし、その
ことは、10年先または何世紀も先の、生物多様性の喪失から、季報変動の影響に至るすべてのものの
価値をつけるのに、厳密に一つの割引率を使うことと同じではない。
ワルラス数学という上着を脱ぎ棄てれば、何に価格をつけることができるのか、価格を付けずに測定
できるのが何か、そして、全く測定できないがそれでも価値があるものが何なのか、を区別し始める
ことができる。
14
3 TEEBの概念的枠組み
1.2節で論じた考察に従い、TEEBの第一段階で実行した作業に基づいて、本節では、TEEBに
適用され本報告書の以下の章の「骨格」を形成するフレームワークについて述べる。
生態系と生物多様性
生態学的構造
とプロセス
(1
機能(2
生産
-バイオマス
調整
サービス
供給
-食料
調整
-治水
(光合成、栄養
-水調整
食物循環、食物
生息地
生息地
-要件
-生育の場
情報
文化的
-地形
-レクレーション
連鎖力学など)
外部推進力
(気候変動など)
直接的推進力(1
・土地利用(変更)
・生息地破壊
・汚染と撹乱
・資源利用、他
間接的推進力(1:人口統計、技術、
経済など
1)4 つの実践で囲まれた茶色の資格は、偶然
MA の枠組み全体と一致する
人間の豊かさや幸せ(福利)
経済
(福祉)
(1
便益と価値
指標
経済的
(価格、GDP など)
社会的
(福利)
社会文化的
(人間の豊かさや幸せ)
生態学的
(持続可能性)
生物物理的
(回復力)
ガバナンスと意志決定
異なる関係者のニーズ
意志決定支援のための
価値総計
・政府(間)政策立案者(D1)
-トレード・オフ分析
・地方政策立案者/行政官(D2) (CBA、MCDA を含む)
-会計システム
・生産者/企業(D3)
(SEEA など)
・消費者/市民(D4)
TEEB 報告書
2)サービス提供に直接関与している生態系プロセ
スと構成要素の部分集合
図5: 生態系と人間の豊かさや幸せ(福利)をつなぐ概念的枠組み
「生態系と生物多様性の経済学」を分析するためには、生態系(及び生物多様性)の実践的かつ
一貫した定義及び分類が不可欠である。TEEB評価では、わたしたちは主に1992年国連生物多
様性会議における決議に従っている。従って、わたしたちは生態系を生物と非生物の環境が
特定の場所で相互作用をする生物と環境の複合体として捉えている。生物多様性とは、種内
(遺伝的多様性を含む)、種間、生態系間における生命体の間の量と変異性のことをさす。
さまざまなソースに基づいて、TEEBは、さらに多くの生態系タイプに再分類される(付表1参
照)12の主要バイオーム(生物群系) (表1参照)の分類を提案する。
15
表1: TEEB及び残存表面面積の主要生物群系の分類
生物群系タイプ (a
残存表面面積(1,000 km2当たり) (f
内、おおよそ
MODIS
2005年全地
2000年土地
LC 2005 (b
球被覆(b
被覆 (c
自然状態 (c
1
海洋/外洋
2
沿岸システム
3
湿地
1,799
?% (i
4
湖と河川
6,713
?% (i
5
森林
416,546
10-15% (g
40% (h
28,936
46,652
森林ツンドラ
2,596
93%
17,611
85%
冷帯針葉樹林
3,130
72%
温帯混成林
5,914
49%
温帯落葉樹林
4,718
43%
暖帯混成林
5,835
52%
熱帯林
9,149
76%
7,870
67%
8,773
44%
1,741
38%
19,056
50%
15,604
57%
34,753
22,174
83%
6,453
6,375
94%
2,290
100%
亜寒帯樹林
6
高木林地と灌木地
地中海灌木
7
35,829
9,766
(e
草地と放牧地
(d
サバンナのみ
(e
23,883
8,879
8
砂漠
9
ツンドラ
10
氷/岩/極地
15,930
3,166
11
耕作地
20,617
26,472
該当せず
12
都市部
656
336
該当せず
18,154
a) この分類は、さまざまなソースを基にしている(付表1参照。各生物群系の生態系のより詳細なリス
トがある)。 森林、森林地帯、草原の生物群系は、ここでは人間の影響の度合いに関するデータ(右
端の欄)に適合させるために再分されている。従ってこの再分は付表1と完全に一致するものではない。
b) 表面積のデータは、Conservation InternationalのMarc Steiningerと Fabiano Godoyの協力を得て
Rosimeiry Portelaから提供されたものである。
c)陸地系のみに関するCOPI-II 用にRIVMによって実施された作業を基にしてLeon Braatから提供され
たデータ(Braat et al. 2008)。このソースによると、世界の合計陸地面積は132,836,113 km2で、その内
の平均67 %がほぼ自然状態である。
d) RIVMデータセットにステップを含む (Braat et al. 2008)。
e)これらのカテゴリ(地中海灌木とサバンナ)はRIVMデータセットでは別々に記載されている。それら
の表面積は、それぞれの主要生物群系カテゴリの総計の中に含まれていない。
f) 表面積に関するデータは、生物群系(土地被覆)等級の解釈が異なるために、ソースにより実質上異な
16
る。
g) 水界系に関するデータは、陸地系よりさらに検出と解釈が困難である。しかしHalpern et al. (2008)
は、少なくとも海洋系の40%は、人間の影響により中程度から非常に高程度の影響を受けており、残
りの60%は、低程度から中程度の影響を受けていると推計した。人間の活動からの影響が非常に低い
のは、わずかに4%未満である(Halpern personal communication, August 2009)。
h) 沿岸系については、数字を推計するのがさらに難しい。しかしHalpern et al. (2009)によると、地球の
海岸線の60% が人間の活動に基づいた陸上からの影響を、低程度から高程度受けている。この推計
は、沿岸系への最も普及した陸上の影響の4つに基づく。つまり、栄養塩類の流入、有機性汚濁、無
機性汚濁、沿岸部住民による直接的影響である。海上の人間の影響(すなわち乱獲、船からの汚染な
ど)を加えると、この数字は間違いなくずっと高くなるだろう。UNEP発行の地図 (2006)によると人
間の活動の影響を「ほとんど」または「まったく」受けていない海洋は約40%に過ぎない。
i) 湿地、河川、湖に関しては、信頼できる(世界規模の)データがTEEB研究のこの段階では検出されて
いない。しかし、今後数カ月内には実証され、上記の表を完成することができるだろう。
表1が示すように、生物群系と関連する生態系のほとんどは、規模の大小の違いはあれ(平均
でその面積の約1/3)人間が優先するシステムに転用されてきた(農業、水産養殖、プランテー
ションなど)。もしくは、乱開発、海洋系汚染(Nelleman et al. 2008)や河川のダム建設など人間
の活動によって影響を受けてきた。従って、「生物群系」または他の生態学に基づく土地区
分は、実際には「構造物」になって来た(例えば Ellis and Ramankutty 2008; Kareiva et al. 2007)。
きめ細かい空間的分析は、いわゆる「社会生態学的モザイク」(同一の地形内にある、集約的
管理地域から非管理地域までを含む地形単位のパッチワーク)が優位性を持つため、生態系サ
ービス評価において中核とすべき分析である(Box2を参照)。
Box 2:空間的明示性と割合
初期の生態系サービス評価作業への主な批判は、生物群系を基準にした生態系の扱いが未発達であっ
たこと、また、全地球の空間的価値を推計したことである(Bockstael et al. 2000, Naidoo et al. 2008)。他
方、政策策定のための小区画での実験の有用性は、疑わしい。このトレード・オフを認めて、生態系
サービスの最新研究は、空間的に明確な経済的生態学的モデルに焦点を当ててきており、一定の限界
値を仮定とする標準的な検索表は使わずに、生態系タイプに基づいた便益移転を使っている。
生態学的に理解可能かつ政策的にも適切な規模にすることで、研究者たちは、また、利害関係者の価
値や認識をよりしっかりと理解することができる(Hein et al. 2006; Fisher et al. 2008; Granek et al. 2009)。
空間的明示性が重要なもうひとつの大きな理由は、生態系サービスの生産と使用と、それが産出する
経済的利益(その多くが本来は地域限定的) 、そしてもちろん、活動費用が、空間的に変化するからで
ある。従ってどこで保全活動が実施されるかが人間の豊かさや幸せ(福利)にとって重要である。行
動の影響の空間的明示性評価及び利益と費用の数量化はまた、生態学的、社会経済学的規模の意思決
定、サービス提供と利用の間の、また異なるシナリオの勝者と敗者との間に生じうる不釣り合いを示
すことに役立つ。従ってそれは、効果的で公平な政策介入を策定するために必要不可欠である。
(Balmford et al. 2008)。
17
土地利用変化のトレード・オフ分析において、理想的には移行の費用と利益、また全てまた
は少なくとも主な中間的状態(図6参照)は、各移行または管理状態によって提供されるサービ
スの総計の経済価値に基づいているべきである。TEEB評価のこの段階で、この詳細レベルま
で分析するのは、時間的限界と代替管理下の生態系によるサービスの提供を比較する研究が
不十分であるという2つの理由から不可能である(Balmford et al.
2002; ICSU-UNESCO-UNU
2008)が、フォローアップ研究で優先度の高い項目とすべきである。
18
森林
草地
原種
天然林
天然林
平均的な原種の豊かさ
択伐
二次植生
プランテーション
自給自足農業
土地の劣化
集約農業
劣化した土地
粗放的利用
焼畑
プランテーション
粗放的利用
粗放的利用
原種
集約的利用
化石燃料へ
の助成
図6: 自然と人間優占(生態)系の移行段階を示す劣化経緯の2つの例
出典: Braat et al. (2008).
生態系の目に見える生態学的または物理的境界の認識は、時に恣意的ではあるが、特定の機
能と地形単位のマッピング、またいわゆる「サービス提供単位」を通じた適応を助ける実践
的管理のための重要な基礎を提供する(第2章参照)。
19
3.1 生態系構造、プロセス、機能
TEEBの枠組み(図5)は、生態系構造、プロセス、機能を区別する図の左上から始まる。生態系
機能は、モノとサービスを提供する生態系の容量を実証する生態系構造とプロセスとの間の
相互作用の小分類であると定義される。生態系機能を構築するブロックは、構造とプロセス
の間の相互作用であり、これは物理的(例えば水の浸透、堆積物の移動)、化学的(例えば還元、
酸化)、または生物学的(例えば光合成と脱窒作用)であるかもしれない。関係の正確な詳細は、
多くの場合、明確でなかったり、限られているとしても、「生物多様性」は多かれ少なかれ
これら全てに関係している(第2章参照)。
根本的な課題は、世界中の研究が未だ比較的少ない(再現された研究は稀)現状で、定義された
生態系単位の実際の機能を完全に予測することができる程度である。わたしたちは、個々の
ケースというよりも、理論上一般的に応用されうる生態系の状態や機能(第3章参照)の、適切
だと思われる指標をさまざまに組み合わせたものに頼ることが多い。
3.2 生態系サービス:定義と分類
生態系サービスは、TEEBでは、「人間の豊かさや幸せ(福利)への生態系の直接間接的寄与」
と定義される。これは基本的には、MAの定義に従ったものだが、ただし、サービスと便益を
より厳しく区別する場合や、サービスが多様かつ間接的方法で人々に便益を与えることがで
きると明確に認められる場合を除く(詳細の論述については第3節を参照)。
TEEBの準備段階と他の評価及び後続分析(第2節参照)に基づいて、TEEBは、22の生態系サー
ビスを供給、調整、生息地、文化的サービスの4つの主要区分に分ける分類法を提案する。こ
れは主にMAの分類に従っている。(詳細リストと主要文献との比較については表2及び付表2
参照)。
わたしたちがここで採用するものがMAと大きく異なるのは、栄養循環や食物連鎖力学といっ
た支持サービスを省いた点である。これらはTEEBでは、生態学的プロセスのサブセットとし
て扱っている。その代わりに、生息地サービスは、生態系が移動性の種のための生息地(例え
ば生育場の提供など)や遺伝子プールを「保護する物」(自然の生息地が自然淘汰をして遺伝子
プールの活力を維持できるようにする例など)を提供する生態系の重要性を強調するために
別の分類として識別している。このようなサービスが利用できるか否かは、まさしくサービ
スを提供する生息地の状態(生息地要件)次第である。商業用の種、魚やエビなどマングローブ
林(つまり保育サービス)で産卵し成魚が離れた場所で捕獲される場合には、このサービスは、
それ自体経済的(金銭的)価値を有する。また、生態系の遺伝子プール保護サービスは、(投資
が増加されつつある)保全の「ホットスポット」として、また、商用種の原初の遺伝子プール
を維持するために(植物園、動物園、遺伝子バンクの創設など、模倣する機会が多くなってき
20
ている)、その重要性がますます認識されている。
経済的評価が適応される前に、生態系サービスの機能または有用性は、生物物理学的用語で
測定される必要がある(第2章及び第3章参照)。生態的知見やデータ有用性の状態によっては、
サービスの直接的尺度を使用できる場合もあるが、代用尺度を使用することが必要な場合も
ある。
21
表2: TEEBにおける生態系サービスの分類
主要サービスのタイプ
供給サービス
1
食料(例:魚、獲物、果物)
2
水 (例:飲用、灌漑用、冷却用)
3
原材料
4
遺伝資源 (例:穀物の改良と医学的用途)
5
医薬品資源 (例:生化学製品、モデル及び試験生物)
6
観賞資源
(例:繊維、木材、薪、飼料、肥料)
(例:工芸品、観賞植物、ペット動物、ファッション)
調整サービス
7
大気質調整 (例:微粒塵・化学物質などの捕捉)
8
気候調整 (炭素固定、植生が降雨量に与える影響など)
9
異常気象の緩和 (例:暴風と洪水の防止)
10
水流調整
11
廃棄物処理 (特に浄水)
12
浸食防止
13
土壌肥沃度維持 (土壌形成を含む)
14
授粉
15
生物学的コントロール (例:種子の散布、病害虫のコントロール)
(例:自然排水、灌漑、干ばつ防止)
生息地サービス
16
渡り性のライフサイクル維持
17
遺伝的多様性の維持 (特に遺伝子プール保護)
(保育サービスを含む)
文化的サービス
18
美観的情報
19
レクレーションと観光の機会
20
文化、芸術、デザインへのインスピレーション
21
霊的経験
22
認知発達のための情報
出典:(主に)、Costanza et al. (1997)、De Groot et al. (2002)、MA (2005a)、Daily et al.(2008)に基づくまたは
採用。詳細は付表 2参照。
生態系サービスの実際の測定は、a) サービスを提供する生態系の容量(例:ひとつの湖が何匹
の魚を持続可能なベースで提供することができるか)と、b) そのサービスの実際の利用(例:
食用または工業加工用の漁獲)とに分けられるべきである。栄養価、収入源または生活様式の
点からみたその魚の重要性(価値)の測定は、「人間の価値領域」の一部である。
評価を適用する場合は、直接的利用価値(特に供給と文化的サービス)を持つサービスの潜在的
または実際的利用と間接的利用をされるサービス(特に調整や生息地サービス)とを明確に区
22
別する必要がある。ほとんどの生態系が多くのサービスを提供し、ひとつのサービスの利用
は通常他のサービスの有用性に影響を与えるので、(経済的)評価は、個々のサービスの流れか
ら(重要でない)価値を考慮するだけでなく、サービスの総計 6 を提供している「ストックの価
値」(すなわち生態系全体)をも当然ながら考慮すべきである。経済的評価を適用する場合、生
態系の実際の管理形態(制度的調整によって決定されている)を考慮すべきである。この形態は、
持続可能な利用に導くか、持続不可能な利用に導くかによって異なってくるサービスの将来
の期待値に影響を与えることになる(Mäler 2008)。
3.3 人間の福利:便益と価値の分類
MAアプローチに従って、TEEBの枠組み(図5)は、生態学的便益と価値、社会文化的便益と価
値、経済的な便益と価値を区別している。便益と価値を分ける理由は、人々はニーズを持っ
ており、それが満たされた場合には(多かれ少なかれ客観的に測定可能な)便益として解釈され
るからである。例えば、海洋から魚を捕獲することはわたしたちに食料(健康)をもたらすが、
また(漁業従事者としての)文化的アイデンティティや収入をももたらす。わたしたちがこれら
の便益をどのように価値づけるかはもっと主観的である。例えば、収入を文化的アイデンテ
ィティ(社会的絆など)よりも高く評価し、福利(文化的アイデンティティ)のひとつの側面を別
のもの(例えば物質的富)とひきかえに、快くあきらめる人々もいるだろう。従って、異なる価
値が特定の便益に付帯されることがありうる。
TEEBの調査は、厚生経済学のアプローチにおける経済的価値の測定と費用と便益の評価に主
な焦点を当てているとはいえ、特に時間や人々の階層を超えた便益の総計を考慮した公平性
を含んでいる。具体的には生態系と貧困(「貧困層のGDP」)の関係を分析している。なぜなら
貧困層の生態系サービスへの生計依存度は他の階層より高いからである(TEEB中間報告書、
TEEB 2008)。
もちろん、まだ多くの先住民共同体(「生態系の人々」)がおり、彼らは、生存するために全体
的かつ直接的に生態系とそのサービスに依存していること、また生態系が、人々が価値を置
く一定の生活様式を選ぶ能力を提供する重要性について、認識すべきである。
以下に、便益(福利の側面) 3つの主要なタイプと関連する価値、及び評価測定基準を簡単に紹
介する (詳細な情報についてはD0第3章(生物物理学的指標---生態学的「価値」に関連して)、
第4章(社会的文化的価値)、第5章(経済的価値)を参照)。
6
この意味において、わたしたちは生態系を(多くの)サービスを提供する「工場」とみなすこと
ができる。例えば自動車工場では、機械や建屋の保全費用が自動車価格に含まれることをわたし
たちは当然のことであると考える。しかし、森林から伐採される木材や湖で捕獲される魚につい
ては、サービスを提供する自然資本(ストック)の維持費用を、わたしたちは通常除外する。
23
3.3.1生態学的便益と価値
生態系の生態学的重要性(価値)は、例えば、特定の樹木の種が浸食をコントロールする価値が
あるかとか、ある種が他の種や生態系全体の生存にとって価値があるかといったような生態
系の部分の間でのおおざっぱな関係に関して、自然科学者たちによってこれまで述べられて
きた(Farber et al. 2002)。地球的規模では、異なる生態系とその構成要素をなす種は、エネルギ
ー保全、生物学地質科学的サイクル、進化といった基本的な生命維持プロセスの維持におい
て異なる役割を果たしている(MA 2003)。
価値(重要性)の生態学的尺度は、例えば生態系サービス提供に不可欠な閾値と最小限の要件を
決定するための重要な指標である健全性、「健康」、または回復力である。これらの価値の
尺度は、経済価値に含まれうるものとは区別されるべきである。なぜならそれらが人々の湯
豊かさや幸せ(福祉)に寄与していても、個人の選択として考慮されることはないからであ
る。というのは、それらの要件はわたしたちの生存に必要不可欠であると考えられるにもか
かわらず、非常に間接的で複雑であるからである。関連する価値のパラダイムは、人類の生
存(手段的価値)に寄与し、本来備わっている理由(価値)の両方の理由で、わたしたちが健康や
生態学的に安定した環境に付随している重要性として形成されうるであろう。生態学的価値
の概念は、今でも多くの議論がなされているが、自然の生態系および人類の生存それ自体を
含む地球上の生物維持への貢献の点で、自然の生態系の構成要素を認識することが重要であ
る(Farber et al. 2002)。
3.3.2 社会文化的便益と価値
多くの人々にとって、生物多様性と自然の生態系は、精神衛生や、歴史的、倫理的、宗教的、
霊的価値に影響をもたらしており、非物質的な豊かさと幸せにおいて必要不可欠な源となっ
ている。経済的評価における概念的な方法的発展では、無形のもの(以下の総合的経済価値の
概念を参照)を含む広範囲な価値を扱おうとしてきたが、一方で社会的文化的価値は経済評価
の方法 (第4章及び第5章参照)によっても完全に把握することはできず、意思決定をするため
には、他のアプローチで補完しなければならない。いくつかの生態系サービスが人々のまさ
にアイデンティティと存在に必要不可欠である場合、このことは特に顕著である。社会的文
化的恩恵と価値の重要性の特定の尺度を得るために、「人間の豊かさや幸せ(福利)指標」
などのいくつかの測定基準が開発されてきた。
3.3.3経済的便益と価値
生物多様性と生態系サービスは多くの理由によりわたしたち人間にとって重要である。経済
24
的な点においては、わたしたちはこれを「経済的価値の総計」の異なる要素に寄与するもの
として考えることができる。これは利用価値(資源の利用、レクレーションなどの直接的利用
と調整サービスなどの間接的利用を含む)と非利用価値(例えば、人々は自然保護の価値を将来
の利用(選択的価値)や、倫理的理由(遺産や存在価値)に置く)の両方から構成される。
3.4 ガバナンスと意思決定
いかなるレベル(個人、法人、政府)の意思決定においても、わたしたちは生態学的価値、社会
的文化的価値、経済的価値の間でいかにバランスをとるか(重点を置くか)というジレンマに直
面している。できれば、これらの価値要素のそれぞれの重要性は、例えば「多基準における
意思決定分析」などを通じて、それ自体(質的及び量的)の特質において重視されるべきである。
しかし、TEEBでは、生物多様性の損失の経済的、特に金銭的な結果を重要視しているので、
わたしたちはここでは経済的トレード・オフ(1)と総計の問題(2)に絞って論じる。標準的なマ
クロ経済学指標-環境における生態系サービスの役割-と関連づけるために、経済勘定(3)もま
た、経済的意思決定を伝達するための有望な分析分野として言及する (EEA 2009)。最後に、
普及啓発と積極的インセンティブ(4)はよりよい意思決定のための不可欠なツールである。
(1) 金銭的価値の総計
総計は、生態系サービスの金銭的価値に関する全ての情報を、生態系のタイプ別に集計して、
ひとつのマトリックスとし、提供された生態系サービス全ての金銭的価値の総計の値を得る。
これは第7章で紹介するが、効果的な総計は難しい問題である。考慮すべき重要な点を以下に
挙げる。
z
個々のサービスの金銭的評価における不確定性を説明する
異なる評価方法を使用したことによる評価の偏りの可能性など(第5章の論述を参照)。
z
生態系の規模における生態系サービスの間の相互依存
計上の重複、競合するサービス、一括りのサービスの問題など。
z
個人や人々の階層を越えた価値の総計
生態系サービスの相対的重要性は、例えば収入レベルや生態系サービスへの依存度などに
関して異なる人々の階層間では異なる。このような考慮を統合するために、公平加重値な
どの調整を適用しなければならない(Anthoff et al. 2009)。
z
空間的規模を越えた価値の総計
異なる生態系サービスは異なる空間的規模で考慮されるのがおそらく最良であろう。例え
ば、水の調整は流域規模で考察されるのが最良であるし、一方、炭素隔離は、国レベルあ
25
るいは地球レベルで考察することが可能である。総計は、このような相違を考慮すべきで
ある。
時間を越えた価値の総計:
z
今日、生物多様性の保護は、将来世代への代価であり便益である。経済学では、「割引」
が将来の費用と便益を現在価値と比較するための一般的な方法である。異なる意思決定の
状況において最も適切な割引率を選定することは、重要な問題である。第6章で、この問
題をさらに掘り下げて論じる。
(2)トレード・オフ分析
生態系サービスが他のサービス提供にマイナスの影響を与える場合にトレード・オフが発生
する。例えば、森林からの木材伐採は、時が経過するにつれて、特に植生の構造や組成、景
観や、他のサービス(例えば野生生物の収穫、炭素隔離、レクレーション)の継続的提供を妨げ、
少なくとも影響を与えうる水質に影響する。構造の損失は、機能の損失を意味し、その結果、
他のサービスとそれらがもたらす便益を損失することを意味する。トレード・オフ分析のア
プローチには、多基準(決定)分析、費用便益分析、費用対効果分析が含まれる。
費用-便益分析 (CBA)の基本的長所は、ある活動の「実質上の」便益を検出することである。
ある活動(またはシナリオ)の費用と便益は、異なる状況においては、機能的関係が異なるので、
「便益のみ」のアプローチを使用すると意思決定を大きく誤った方向に導く可能性がある
(Naidoo et al. 2006)。注目に値する初期の例外は、南アフリカのフィンボスにおける研究であ
る。ここでは研究者たちは、外来種撲滅キャンペーンと何も実施しないアプローチの両方の
便益と費用を列挙した(Van Wilgen et al. 1996)。費用を理解することは、生態系サービス研究
では重要である。なぜなら、便益提供の複雑性のために、サービス提供の完全な理解が妨げ
られかねないからである。これらのケースで、費用効果アプローチは、特に費用が便益より
も多く変化する場合には、より多くの情報が得られる(Ando et al. 1998; Balmford et al. 2003;
Naidoo et al. 2006; EEA 2009)。
(3)生態学的-経済勘定システム:マクロ経済的意味
政策決定で最も広く認識され活用されているマクロ経済指標に、生態系サービスの豊かさや
幸せ(福利)への寄与が確実に反映するために、生態系サービスを経済勘定に組み込むべき
だという認識はますます高まってきている。もし生態系が人々にサービスを提供する財産と
みなされるならば、時間の経過とともに生態系がストックやフロー面で変化する様子を説明
するために、会計勘定を使用することができる。生態系の変化は、生態系の量的質的に異な
る指標を使って物理的な点と、最終的に金銭的価値の両方で記述することが可能である(EEA
2009)。従って、地理情報システムと社会経済的データに連動した生態系勘定は、生態系の空
26
間的異質性を考慮しつつ、生産と生態系サービスの利用における変化の評価を裏付けるデー
タの体系的収集と解析に役立つ枠組みを提供することができる。
これについてのいくつかのイニシアティブが現在進行中である。例えば、欧州環境機関では、
土地被覆データを構築し、国連の環境・経済統合勘定体系(SEEA)ガイドラインに沿って、ヨ
ーロッパのための土地と生態系勘定の枠組みを開発中である。
生態系勘定の開発は、徐々により多くの生態系サービスを統合し、各国の既存の情報に基づ
いて、次第に行われる必要がある。これについては、TEEB D1報告書でより詳しく論じられ
ている。いくつかの生態系サービスの価値をいくつかの経済部門のためのマクロ経済学レベ
ルでどのようにして記録することが可能かは本報告書の第9章で述べている。
(4)普及啓発と積極的インセンティブ
TEEBで特に重要なものは、生態系に影響を与える生産者と消費者によるさまざまな意思決定
(TEEB 報告書 D3 及びD4)と、さまざまな政府レベルでもたらす必要がある政策変更(TEEB
報告書D1及びD2)であり、その結果を受けた決定は生態系をこれ以上劣化させることはない
(3.6節を参照)。
生物多様性と生態系サービスの保全及び持続可能な利用に向けて、人間の活動と結び付いた
プラスとマイナスの外在性を計上することは、重要なステップである。環境サービス支出 (例
えば Landell-Mills and Porras 2002; Wunder 2005)を通じた保全や生態学的会計上の移譲(Ring
2008)に報酬を与えることは、持続不可能な行いに報奨を与えることがあまりにも多過ぎる誤
った補助金の再編成と同じくらい重要である。
研究開発や、政策、施行、法律の変更の必要性に対して社会の意識が向上すればするほど、
持続可能な生態系管理、資源利用、エコリージョンの計画策定、再生可能な耕作、自然資本
の大規模な再生とリハビリテーションを推進する上での助けになり得る(Aronson et al. 2007)。
3.5変化のシナリオと誘導因子
私たちが生態系と生物多様性に対してふるまいや影響を変えようと努力するときには、生態
系は内部的にもまた変化する外部環境に対応する上でも常に動的に変化していることを考慮
に入れなければならない。
生態系は、急速に変化する世界であるにもかかわらず、当初は静止画で評価していたことに
気づくことで、生態系サービス評価にシナリオを利用する重要性に気がつくだろう。相反す
る事実を提供する必要性は、現在の保全研究で求められており(Ferraro and Pattanayak 2006)、
27
また生態系サービス研究で標準になるべきである。シナリオの作成は特に金銭的評価のため
に重要である。なぜならシナリオ分析を通して、サービス提供における変化の限界値を分析
することが可能となるからである。シナリオ分析は変化の大きさによって変わってしまう方
法論的な困難を漸増での分析で避けることができる(もしくは少なくとも減じることができ
る)。このような難しさは、生態系サービスの完全な損失につながる限界値がわからない中で
生態系サービスの総計価値を推計する場合に発生する。また、シナリオ分析は一般的に実生
活においては、意思決定により密接に関連している。
TEEBにおいて、異なるシナリオの下でのアウトプットを比較することで、意思決定者は、代
替案の潜在的将来と、異なる関連する政策パッケージにおける人々の豊かさと幸せ(福利)
の損失を知ることができる。これはまた、分析の確かさというより、社会的理解の側面から、
非金銭評価の変化にとっても重要である。
作成されるべきそれぞれのシナリオについて、わたしたちは生態系と生物多様性の(さらにそ
れらが表すサービスと価値の)状態、現在の管理と将来の軌跡に直接影響を与える推進力とな
りそうな結果を分析しなければならない。
生態系変化の間接的推進力には、人口統計学的変化、技術革新、経済発展、政策機関を含む
法的制度的枠組み、伝統的知識と文化的多様性の漸進的損失、わたしたちの集団的決定に影
響を与える他の多くの要因がある(OECD 2003; MA 2005b; OECD 2008)。これらの(間接的)推進
力はわたしたちが生態系とそのサービスを直接利用し、管理する方法に影響を及ぼす。
直接的推進力は、マイナス、中立、プラスで組織されることが可能である。マイナスの推進
力の中には、特に生息地の破壊、制限されていない世界の海洋での乱獲などの資源の過剰利
用、汚染(特に気候変動をもたらす)が含まれる。中立的推進力の例は、土地利用の変更(内容
と管理体制によっては生態系と生物多様性にプラスとマイナスの結果をもたらし得る)があ
るだろう。また農業や畜産の集約化と工業化がより広い状況で起きている:集約化(持続可能
な方法で行われるとすれば)によって、自然の生息地に余分の空間を提供することが可能であ
る。最後に、自然資本の再強化のためのプラスの推進力には、生態系と生物多様性への人間
の圧力を減じることを目的とする生態系保全と再生、持続可能な管理体制の開発と環境に配
慮した技術の使用が含まれるだろう。明らかに、「プラスの推進力」でさえも、間違った場
所や状況で適用された場合には、生態系と生物多様性にマイナスの影響を与えかねない。従
って生態系へのすべての直接的推進力の結果は、TEEBの枠組みを通して慎重に分析される必
要がある。
28
3.6 生態系サービスの価値を意思決定に関連づける:TEEBによる手引き
TEEBは、政策立案者、地方自治体、企業や個人が生物多様性保護におけるそれぞれの責任に
おいて意思決定する際に役立つために、生態系サービスの査定と評価に関して最新の研究を
まとめた。官民問わず異なる組織レベルにおける意思決定者は、人口統計的、経済的、社会
政治学的、化学的、技術的、また文化的、宗教的推進力などを通し代わるがわる、生態系の
変化に影響を与え、生態系サービスと人間の豊かさや幸せ(福利)に影響を与える。経済価
値と政策関連情報を把握するために、より適したより精度の高い評価の枠組みや方法を構築
することにより、TEEBは、異なる遂行者による異なる状況における異なるレベルでの意思決
定に的を絞った具体的な手引きである。
最初の文書(D1)は政策立案者向けである。これは、生物多様性と生態系に関する国際、国内
政策の結果を探究し、多様な政府レベルの意思決定者のためにTEEB-政策ツールキットを提
案している。生態系サービスに付随する価値を明示し、それらを具体的な政策、機関、手段(例
えば補助金と報奨金、環境負債、市場創出、国民収入勘定基準、貿易取引ルール、報告要件、
エコラベル制度など)を考慮することにより、生物多様性と生態系保護を自然サービスレベル
維持の前提条件として強化することを目的としている。
地方自治体の行政官向けには、2番目のTEEB成果(D2)がある。これは、地域限定的、費用便
益、費用対効果分析における生態系サービスの価値と生態系サービスの支払い実行のための
方法とガイドラインにそれらを使用すること、また遺伝資源と保護地域のための便益共用調
整と公平なアクセスを盛り込んでいる。
3つ目のTEEB 成果 (D3)は、ビジネスユーザーを対象としている。これは、リスクを測定し
管理し、また民間企業への新規市場機会を特定し把握するために、生物多様性と生態系にビ
ジネスが与える影響を査定する枠組みを提供することを目的としている。
最後に忘れてならないのは、個人と消費者団体向けの4番目のTEEB成果 (D4)である。個人的
な購入決定を通じて生産者に影響を与える一方で、野生自然に彼らが与える影響をいかに少
なくするかを論じる。これには、食料品と消費財の製造において使用される土地、水、エネ
ルギー源に関する消費者情報を改善するステップも含むことになる。
29
参考文献
Ando, A., J. Camm, S. Polasky and A. Solow, 1998. Species distributions, land values, and efficient
conservation. Science 279: 2126–2128.
Anthoff, D., Hepburn, C. and Tol, R.S.J., 2009. Equity weighting and the marginal damage costs of
climate change. Ecological Economics 68(3): 836–849.
Aronson, J., S.J. Milton and J.N. Blignaut (Eds.) 2007. Restoring Natural Capital: The Science,
Business, and Practice. Island Press, Washington D.C.
Arrow, K., B. Bolin, R. Costanza, P. Dasgupta, C. Folke, C.S. Holling, B.O. Jansson, S. Levin, K.-G.
Maler, C. Perrings & D. Pimentel. 1995. Economic growth, carrying capacity, and the
environment. Science 268: 520–521.
Balmford, A., A. Bruner, P. Cooper, R. Costanza, S. Farber, R. Green, M. Jenkins, P. Jefferiss, V.
Jessamay, J. Madden, K. Munro, N. Myers, S. Naeem, J. Paavola, M. Rayment, S. Rosendo, J.
Roughgarden, K. Trumper, and R.K. Turner, 2002. Economic reasons for conserving wild nature.
Science 297: 950–953.
Balmford, A., K.J. Gaston, S. Blyth, A. James, V. Kapos, 2003. Global variation in terrestrial
conservation costs, conservation benefits, and unmet conservation needs. PNAS 100(3): 1046–
1050.
Balmford, A., Rodrigues, A., Walpole, M. J., ten Brink, P., Kettunen, M., Braat, L., & de Groot, R.,
2008. Review of the Economics of Biodiversity Loss: Scoping the Science. European
Commission, Brussels.
Barbier, E. B., 1994. Natural Capital and the Economics of Environment and Development. In:
Jansson, A.-M., Hammer, M., Folke, C. and R. Costanza (Eds.). Investing in Natural Capital.
Island Press, Washington D.C. 505 pp.
Barbier, E.B., E.W. Koch, B.R. Silliman, S. D. Hacker, E. Wolanski, J. Primavera, E. F. Granek, S.
Polasky, S. Aswani, L.A. Cramer, D. Stoms, C.J. Kennedy, D.Bael, C.V. Kappel, G.M.E. Perillo
and D.J. Reed, 2008. Coastal ecosystem-based management with non-linear ecological functions
and values. Science 319: 321–323.
Bartelmus, P., 2009. The cost of natural capital consumption: Accounting for a sustainable world
30
economy. Ecological Economics 68(6): 1850–1857.
Bateman, I.J., A.P. Jones, A.A. Lovett, I.R. Lake, and B.H. Day, 2002. Applying Geographical
Information Systems (GIS) to Environmental and Resource Economics. Environmental and
Resource Economics 22(1): 219–269.
Bockstael N., A.M. Freeman III, R.J. Kopp. P.R. Portney and V.K. Smith, 2000. On measuring
economic values for nature. Environmental Science and Technology 34: 1384–1389.
Boyd, J. and Banzhaf, S., 2007. What Are Ecosystem Services? The Need for Standardized
Environmental Accounting Units. Ecological Economics 63(2-3): 616–626.
Braat L., and P. ten Brink (Eds.) with J. Bakkes, K. Bolt, I. Braeuer, B. ten Brink, A. Chiabai, H. Ding,
H. Gerdes, M. Jeuken, M. Kettunen, U. Kirchholtes, C. Klok, A. Markandya, P. Nunes, M. van
Oorschot, N. Peralta-Bezerra, M. Rayment, C. Travisi, and M. Walpole, (2008). The Cost of
Policy Inaction (COPI): The Case of not Meeting the 2010 Biodiversity Target. European
Commission, Brussels.
Carson, R., 1962. Silent Spring. Fawcett Publications, Greenwich Connecticut.
Chevassus-au-Louis, B., J.-M. Salles, J.-L. Pujol, 2009. Approche économique de la biodiversité et
des services liés aux écosystèmes. Contribution à la décision publique. Report to the Prime
Minister. April 2009. Centre d’analyse stratégique, Paris.
Christie, M., Hanley, N., Warren, J., Murphy, K., Wright, R., and Hyde, T., 2006. Valuing the
Diversity of Biodiversity. Ecological Economics, 58(2): 304–317.
Common M. and C. Perrings, 1992. Towards an ecological economics of sustainability. Ecological
Economics 6: 7–34.
Costanza, R., 2008. Ecosystem services: Multiple classification systems are needed. Biological
Conservation 141: 350–352.
Costanza, R., Daly, H., 1992. Natural Capital and Sustainable Development. Conservation Biology 6:
37–46.
Costanza, R., R. d'Arge, R. de Groot, S. Farber, M. Grasso, M., B. Hannon, K. Limburg, S. Naeem,
R.V. O'Neill, J. Paruelo, R.G. Raskin, P. Sutton and M. van den Belt, 1997. The value of the
world's ecosystem services and natural capital. Nature 387: 253–259.
31
Daily, G., (Ed.), 1997. Nature’s Services. Societal Dependence on Natural Ecosystems. Island Press.
Washington D.C.
Daily, G., S. Polasky, J. Goldstein, P.M. Kareiva, H.A. Mooney, L.Pejchar, T.H. Ricketts, J. Salzman
and R. Shallenberger, 2009. Ecosystem services in decision-making: time to deliver. Frontiers in
Ecology and the Environment 7(1): 21–28.
Daly, H., 1996. Introduction to Essays toward a Steady-State Economy. In: Daly, H. and Townsend,
K.N. (Eds.). Valuing the Earth: Economics, Ecology, Ethics. The MIT Press, Cambridge,
Massachusetts, p. 11–47.
Daly, H., Farley, J., 2004. Ecological Economics: Principles and Applications. Island Press,
Washington D.C., 488pp.
Dasgupta, P., S. Levin & J. Lubchenko, 2000. Economic pathways to ecological sustainability.
BioScience 50: 339–345.
De Groot, R.S., 1987. Environmental Functions as a Unifying Concept for Ecology and Economics.
The Environmentalist 7(2): 105–109.
De Groot, R.S., 1992. Functions of Nature: evaluation of nature in environmental planning,
management and decision-making. Wolters Noordhoff BV, Groningen, 345 pp.
De Groot, R.S., M.A.Wilson & R.M.J. Boumans. 2002. A typology for the classification, description
and valuation of ecosystem functions, goods and services. Ecological Economics 41: 393–408.
Ellis, E.C., and N. Ramankutty, 2008. Putting people in the map: anthropogenic biomes of the world.
Frontiers in Ecology and the Environment 6(8): 439–447.
EEA (European Environment Agency), 2009. Ecosystem accounting for the costs of biodiversity
losses: framework and case study for coastal Mediterranean wetlands. Copenhague: European
Environment Agency. Draft final report. Available at
http://ec.europa.eu/environment/nature/biodiversity/economics/pdf/medwetlands_report.zip.
Ehrlich, P.R. and A.H. Ehrlich, 1981. Extinction: the causes and consequences of the disappearance
of species. 1st edition. Random House, New York. xiv, 305 pp.
Ehrlich, P.R. and H.A. Mooney, 1983. Extinction, substitution, and ecosystem services. Bioscience
32
33: 248–254.
EPA-SAB (U.S. Environmental Protection Agency – Science Advisory Board), 2009. Valuing the
protection of ecological systems and services. U.S. Environmental Protection Agency,
Washington D.C.
Farber, S.C., Costanza, R., Wilson, M.A., 2002. Economic and ecological concepts for valuing
ecosystem services. In: the dynamics and value of ecosystem services: integrating economic and
ecological perspectives. Ecological Economics (41): 375–392.
Ferraro, P.J. and S.K. Pattanayak, 2006. Money for nothing? A call for empirical evaluation of
biodiversity conservation investments. Plos Biology 4: 482–488.
Fisher, B. and R.K. Turner, 2008. Ecosystem Services: classification for valuation. Biological
Conservation 141: 1167–1169.
Fisher B., R.K. Turner, M. Zylstra, R. Brouwer, R.S. de Groot, S. Farber P.J. Ferraro R.E. Green, D.
Hadley, J. Harlow, P. Jefferiss, C. Kirkby, P. Morling, S. Mowatt, R. Naidoo, J. Paavola, B.
Strassburg, D. Yu, and A. Balmford, 2008. Ecosystem services and economic theory: integration
for policy-relevant research. Ecological Applications 18(8): 2050–2067.
Fisher, B., R.K. Turner, P. Morling, 2009. Defining and Classifying Ecosystem Services for Decision
Making. Ecological Economics 68: 643–653.
Folke, C. M. Hammer and A.M. Jansson, 1991. Life-support value of ecosystems: a case study of the
Baltic region. Ecological Economics 3(2): 123–137.
Granek, E.F., S. Polasky, C.V. Kappel, D.J. Reed, D.M. Stoms, E.W. Koch, C.J. Kennedy, L.A.
Cramer, S.D. Hacker, E.B. Barbier, S. Aswani, M. Ruckelshaus, G.M.E. Perillo, B.R. Silliman, N.
Muthiga, D. Bael, and E. Wolanski. 2009. Ecosystem services as a common language for coastal
ecosystem-based management. Conservation Biology, forthcoming.
Haines-Young, R. and M. Potschin, 2009. The links between biodiversity, ecosystem services and
human well-being. Ch 7 in: Raffaelli, D. and C. Frid (Eds.). Ecosystem Ecology: a new synthesis.
BES ecological reviews series, CUP, Cambridge, in press.
Halpern, B.S., Walbridge, S., Selkoe, K.A., Kappel, C.V., Micheli, F., D’Agrosa, C., Bruno, J.F.,
Casey, K.S., Ebert, C., Fox, H.E.., Fujita, R., Heinmenann, D., Lenihan, H.S., Madin, E.M.P.,
Perry, M.T., Sellig, E.R., Spalding, M., Steneck, R. and R. Watson, 2008. A Global Map of
33
Human Impact on Marine Ecosystems. Science 319: 948–952.
Halpern, B.S., Ebert, C.M., Kappel, C.V., Madin, E.M.P., Micheli, F., Perry, M., Selkoe, K.A. and S.
Walbridge, 2009. Global priority areas for incorporating land-sea connections in marine
conservation. Conservation Letters 2(2009): 189–196.
Hein, L., K. van Koppen, R.S. de Groot and E.C. van Ierland, 2006. Spatial scales, stakeholders and
the valuation of ecosystem services. Ecological Economics 57: 209–228.
Hueting, R., 1980. New scarcity and economic growth, more welfare through less production? North
Holland Publ. Co., Amsterdam/New York, Oxford, 269 pp.
ICSU-UNESCO-UNU, 2008. Ecosystem Change and Human Well-being: Research and Monitoring
Priorities Based on the Millennium Ecosystem Assessment. International Council for Science, Paris.
Jansson, A-M. et al., 1994. Investing in Natural Capital: The Ecological Economics Approach to
Sustainability. Island Press, Washington, D.C., 504 pp.
Johnson, D.G., 2000. Population, food, and knowledge. American Economic Review 90(1): 1–14.
Kareiva, P., S. Watts, R. McDonald and T. Boucher, 2007. Domesticated nature: Shaping landscapes
and ecosystems for human welfare. Science 316: 1866–1869.
Krutilla, J. and A.C. Fisher, 1975. The Economics of Natural Environments. Resources for the Future,
Johns Hopkins University Press, Washington D.C.
Landell-Mills, N., I:T. Porras, T. I., 2002. “Silver bullet or fools’ gold? A global review of markets
for forest environmental services and their impact on the poor”. Instruments for sustainable private
sector forestry series. International Institute for Environment and Development, London.
Leopold, A., 1949. A Sand County Almanac and Sketches Here and There. Oxford University Press,
Oxford. 226 pp.
Limburg, K.E., R.V. O’Neil, R. Costanza and S. Farber, 2002. Complex systems and valuation.
Ecological Economics 41: 409–420.
MA (Millennium Ecosystem Assessment), 2003. Ecosystems and Human Well-being: a framework
for assessment. Island Press, 245 pp.
34
MA (Millennium Ecosystem Assemssment), 2005a. Ecosystems and Human Well-being: Synthesis.
Island Press, Washington D.C.
MA (Millennium Ecosystem Assessment), 2005b. Ecosystems and Human Well-being: Current State
and Trends, Volume 1, Island Press, Washington D.C.
Mäler, K.G., S. Aniyar and A. Jansson, 2008. Accounting for ecosystem services as a way to
understand the requirements for sustainable development. Proceedings of the National Academy
of Sciences of the United States of America 105: 9501–9506.
Maltby, E. (ed.), 2009. Functional Assessment of Wetlands. Towards Evaluation of Ecosystem
Services. Woodhead Publ., Abington, Cambridge.
Marsh, G. F. (1874). The Earth as Modified by Human Action. Arno, New York.
Mwakalila, S., Burgess, N, Ricketts, T, Olwero, N., Swetnam, R., Mbilinyi, B., Marchant,R.,
Mtalo,F., White,S., Munishi,P., Malimbwi,R., Smith,C., Jambiya,G., Marshall, A., Madoffe, S.,
Fisher, B., Kajembe,G., Morse-Jones, S., Kulindwa, K., Green, R., Turner,R.K., Green, J., and
Balmford, A., 2009. Valuing the Arc: Linking Science with Stakeholders to Sustain Natural
Capital. The Arc Journal 23: 25–30.
Naidoo, R., A. Balmford, P.J. Ferraro, S. Polasky, T.H. Ricketts, and M. Rouget, 2006. Integrating
economic cost into conservation planning. Trends in Ecology and Evolution 21(12): 681–687.
Naidoo, R., A. Balmford, R. Costanza, B. Fisher, R.E. Green, B. Lehner, M. T.R. and T.H. Ricketts,
2008. Global mapping of ecosystem services and conservation priorities. PNAS 105(28):
9495–9500.
Naidoo, R. and T.H. Ricketts, 2006. Mapping the economic costs and benefits of conservation. Plos
Biology 4: 2153–2164.
NRC (National Research Council), 2005. Valuing Ecosystem Services: Towards Better
Environmental Decision-making. National Academies Press, Washington, D.C.
Nelson, E., G. Mendoza, J. Regetz, S. Polasky, H. Tallis, D.R. Cameron, K.M.A. Chan, G. Daily, J.
Goldstein, P. Kareiva, E. Lonsdorf, R. Naidoo, T.H. Ricketts and M. R. Shaw. 2009. Modeling
multiple ecosystem services, biodiversity conservation, commodity production, and trade-offs at
landscape scales. Frontiers in Ecology and the Environment 7(1): 4–11.
35
Norgaard, R. B., C. Bode with the Values Reading Group, 1998. Next, the Value of God, and Other
Reactions (A response to The Value of the World’s Ecosystem Services and Natural Capital by
Costanza et al.). Ecological Economics 25(1): 37–39.
Odum, E.P., 1989. Ecology and our Endangered Life-Support Systems. Sinauer Ass., North Scituate,
MA, USA (283 pp).
OECD, 2003. OECD Environmental indicators: Development, measurement and use. OECD, Paris.
OECD, 2008. Environmental Outlook to 2030. OECD, Paris.
Pearce, D., 1987. Economic Values and the Natural Environment. University College London.
Discussion papers in Economics 87(8): 1–20.
Pearce, D., A. Markandya, and E.B. Barbier, 1989. Blueprint for a green economy, Earthscan,
London.
Pezzey, J., 1992. Sustainable Development Concepts; An Economic Analysis. The World Bank
Environment Paper, No. 2. The World Bank, Washington D.C.
Polasky, S., E. Nelson, J. Camm, B. Csuti, P. Fackler, E. Lonsdorf, C. Montgomery, D. White, J.
Arthur, B. Garber-Yonts, R. Haight, J. Kagan, A. Starfield, and C. Tobalske, 2008. Where to put
things? Spatial land management to sustain biodiversity and economic returns. Biological
Conservation 141(6): 1505–1524.
Prugh, T., with R. Costanza, J.H. Cumberland, H.E. Daly, R. Goodland, and R.B. Norgaard, 1999.
Natural Capital and Human Economic Survival. Lewis Publishers, Boca Raton, FL.
Ring, I., 2008. Integrating local ecological services into intergovernmental fiscal transfers: the case
of the ecological ICMS in Brazil. Land use policy 25(4): 485–497.
Sen, A., 1993. Capability and well-being. In: Nussbaum M.C. and A. Sen (Eds.). The Quality of Life.
Oxford University Press, Oxford, pp. 30–53.
TEEB, 2008. The Economics of Ecosystems and Biodiversity: An interim report. European
Commission, Brussels. Available at www.teebweb.org (last access 1 September 2009).
Turner, R.K., J. Paavola, P. Cooper, S. Farber, V. Jessamy and S. Georgiou, 2003. Valuing nature:
lessons learned and future research directions. Ecological Economics 46: 493–510.
36
van Wilgen, B.W., R.M. Cowling and C.J. Burgers, 1996. Valuation of ecosystem services.
Bioscience 46: 184–189.
Wallace, K.J., 2008. Classification of ecosystem services: Problems and solutions. Biological
Conservation 139: 235–246.
Westman, W., 1977. How much are nature's services worth. Science 197: 960–964.
White, R., 2001. Evacuation of sediments from reservoirs. Thomas Telford, London.
Wilson, M.A. and Howarth, R.B., 2002. Valuation techniques for achieving social fairness in the
distribution of ecosystem services. Ecological Economics 41: 431–443.
Wunder, S., 2005. Payments for Environmental Services: Some Nuts and Bolts. CIFOR Occasional
Paper No. 42, Center for International Forestry Research, Jakarta.
付表
1. TEEBで用いられる生態系の分類
2. 生態系サービス分類:簡単な文献調査とTEEB分類
3. TEEBの枠組みの適用方法:アマゾンの例
付表3は現在作成中で、作成され次第アップロードされる。
37
付属文書1: TEEBで用いられる生態系の分類
1
レベル 1 (バイオーム)
海洋/外洋
2
沿岸系
3
湿地
1.0
1.1
1.2
2.0
2.1
2.2
2.3
2.3
3.0
3.1
3.2
4
湖と河川
5
森林
3.3
3.4
4.0
4.1
4.2
5.0
5.1
5.2
6
高木林地と灌木地
7
草地と放牧地
8
砂漠
9
10
11
ツンドラ
氷/岩/極地
耕作地
12
都市部
5.3
5.4
5.5
6.0
6.1
6.2
6.3
7.0
7.1
8.0
8.1
8.2
9.0
10.0
11.0
11.1
11.2
11.3
12.0
レベル 2 (生態系)
海洋/外洋
外洋
サンゴ礁(*, (#
沿岸系(湿地を除く)
- 海草/藻場
- 沿海
- 河口域
- 海岸 (礫性海岸と砂浜)
湿地-全般(海洋沿岸域と内陸)
(海洋沿岸域湿地)
- 潮間帯沼沢地(海洋沿岸域湿地)
- マングローブ林(#
(内陸湿地)
- 氾濫原 (沼地/沼沢地を含む)
- 泥炭湿地 (湿原、沼地など)
湖と河川
- 湖
- 川
森林- 全て
(熱帯林)
- 熱帯雨林 (#
- 乾燥熱帯林
(温帯林)
- 温帯雨林/常緑樹林
- 温帯落葉樹林
- 亜寒帯/針葉樹林
高木林地と灌木地 (「乾燥地」)
- ヒース原野
- 地中海低木林
- 雑木林
草地と放牧地
- サバンナなど
砂漠
- 準砂漠
- 真砂漠 (砂/岩)
ツンドラ
氷/岩/極地
耕作地
農耕地 (耕作適地、牧草地など)
プランテーション/果樹園/併農林業地など
養殖/水田など
都市部
出典:主に、US Geol. Survey、IUCN、WWF、UNEP、FAOに基づいたMA (2005a)と Costanza et al. (1997)の分類の
混合。
*) 通常は、「沿岸域」の下に置かれるが、「海洋」の下に置くことが提案されている。
#) これら3つの生態系は金銭的評価の中で別途取り扱う(第7章)。
38
付属文書2: 生態系サービス分類: 簡単な文献調査とTEEB 分類
さまざまな出典(1
供給
食料(魚、獲物、果物)
水の入手可能性[RS] (2
原材料 (例:木材)
燃料とエネルギー(薪、有機性
物質など)
飼料と肥料
有用な遺伝資源
薬品と薬剤
モデルと試験生物
ファッション、工芸品、装飾用
などの資源
調整
良質な大気質
好ましい気候(炭素固定を含む)
ミレニアム生態系評
価 (2005)
供給
食料
淡水
繊維
TEEB 分類
Daily et al. (2008)
海産物、獲物
木材、繊維
バイオマス燃料
1
2
供給
食料
水(2
3
原材料
4
遺伝資源
5
医療資源
6
観賞用資源
,, ?
,, ?
遺伝資源
生化学製品
-?
観賞用資源
茎葉飼料
-工業製品
薬剤
-工業製品
- ?
調整
大気質調整
気候調整
大気浄化
気候安定化
暴風防止
洪水予防
排水と自然灌漑(干ばつ防止)
浄水 (廃棄物処理)
-?
水調整
‘’
‘’
異常事象の緩和
洪水緩和
干ばつ緩和
浄水
浸食防止
生産性の高い「清浄な」土壌の
維持
授粉
(生物学的コントロール)
病害虫コントロール
浸食調整
土壌形成[支持サービ
ス]
授粉
浸食保護
土壌産出と保全
12
13
調整
大気浄化
気候調整(炭素固定を
含む)
撹乱の防止または緩
和
水流調整
廃棄物処理(特に浄
水)
浸食防止
土壌肥沃度維持
授粉
種子の散布
害虫コントロー
ル
14
授粉
15
生物学的コントロー
ル
16
生息地
ライフサイクルの維
持
遺伝子プール保護
生息地/支持機能
保育サービス
生物多様性の維持
文化的(及びアメニティ)
観賞風景(静穏を含む)
レクレーションと観光
文化などへのインスピレーシ
ョン
文化的遺産
霊的、宗教的利用
科学と教育における利用
害虫調整
ヒト病気調整
支持機能
(3
例:光合成、一次生産、
栄養循環
生物多様性の維
持
文化的
美観的価値
美観的美しさ
レクレーションとエ
コツーリズム
-?
7
8
9
10
11
17
18
19
20
文化的多様性
霊的、宗教的価値
知識システム、教育的
価値
知的刺激
21
22
文化的
美観的情報
レクレーションと観
光
文化、芸術、デザイン
へのインスピレーシ
ョン
霊的経験
認知発達のための情
報
1) 主にCostanza et al. (1997)とDe Groot et al. (2002)に基づいている、または採用した。
2) 水はしばしば調整サービス [RS]の下に置かれるが、TEEBでは、水の消費的利用は供給サービスの下に置かれ
る。
3) Daily et al. (2008)は主要カテゴリを使用しておらず、また廃棄物の無毒化と分解、栄養循環、UVb-保護をサービ
スとして含んでいない。
39
第2章
生物多様性、生態系及び生態系サービス
代表主筆:
Thomas Elmqvist, Edward Maltby
主筆:
Tom Barker, Martin Mortimer, Charles Perrings
執筆協力者:
James Aronson, Rudolf De Groot, Alastair Fitter, Georgina Mace, Jon Norberg,
Isabel Sousa Pinto, Irene Ring
監修:
Volker Grimm, Kurt Jax, Rik Leemans, Jean-Michel Salles
査読編集者:
Jean-Michel Salles
2010年3月
目次
主要なメッセージ ......................................................... 1
1序論 ..................................................................... 2
2生物多様性と生態系 ....................................................... 2
2.1理論及び定義 ........................................................... 2
2.2生態系の機能における多様性の役割 ....................................... 9
2.2.1 種の多様性と生産性-陸生系 .......................................... 9
2.2.2 種の多様性と生産性-海生系 ......................................... 11
2.3 機能群及び機能的多様性 ............................................... 12
2.4 生物多様性と生態系サービスの間に定量的関係の複雑性 ................... 13
3 生物多様性、生態系機能、及び生態系サービスの関連 ....................... 16
3.1 食料供給 ............................................................. 16
3.2 水流(10)の調整及び浄水(11)を含む水供給(2) ............................ 19
3.3 燃料及び繊維 ......................................................... 22
3.4 遺伝資源 ............................................................. 24
3.5 薬用資源及び他の生化学資源 ........................................... 26
3.6 観賞用資源 ........................................................... 28
3.7 大気質の調整及び他の都市環境品質の調整 ............................... 29
3.8 気候調整 ............................................................. 32
3.9 極端な事象の緩和 ..................................................... 34
3.12 浸食防止 ............................................................ 36
3.13 土壌品質の維持 ...................................................... 36
3.14 授粉サービス ........................................................ 38
3.15 生物的防除 .......................................................... 40
3.16 移動性生物種のライフサイクルの維持 .................................. 42
3.17 遺伝的多様性の維持 .................................................. 43
3.18-22 文化的サービス: 美的情報、レクリエーション及び観光の機会、文化のイン
スピレーション、芸術とデザイン、スピリチュアルな体験、認知発達の情報 ..... 44
4 複数の生態系サービスの管理 ............................................. 46
4.1 生態系サービスのバンドル ............................................. 46
4.2 トレードオフ ......................................................... 47
4.3 供給の規模 ........................................................... 50
5 生態系サービスの管理: 不確実性及び変化への対応 ......................... 52
5.1 生態系、サービス、そして回復力(レジリエンス) ....................... 52
5.1.1 閾値、回復、及び生態復元 ........................................... 56
5.2 政策及び実践における回復力(レジリエンス)の思考 ..................... 57
6 生物多様性、生態系サービス、そして人間の福利 ........................... 60
7 結論及びさらなる研究 ................................................... 66
参考文献 ................................................................. 68
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
主要なメッセージ
z
生態系は、すべて直接的または間接的に人によって形作られ、人は、必要不可欠な
生態系サービスを生み出すのに、富者であれ貧者であれ、都市であれ地方であれ、
すべて生態系の能力に依存する。この意味において、人と生態系は相互依存的な社
会生態システムである。
z
生態系の概念は、生物(人を含む)と非生物的環境の相互関係を説明し、人に恩恵を
もたらすとともに、コストをも強いる環境からのサービスの生成を理解するための
全体論的アプローチを提供する。
z
生物多様性の変化は、少なくとも次の 3 つの形で生態系の働きに関連する。
1. 多様性の増大は、種の資源利用の補完的特性により、しばしば生産性の増大につ
ながり、生産性それ自体が多くの生態系サービスを支持する。
2. 多様性の増大は、反応の多様性(同じ機能群内の種の環境推進力に対する反応性
の範囲)につながり、結果的に環境の変化に伴う長期的な機能の変動が減少する。
3. 個々の種を無作為に失うことの影響と比較して、ある特定の種を失うことで過度
の影響がもたらされ得る、キーストーン種の特性及び独自特性の組み合わせによ
る特異的影響。
z
生態系は複数のサービスを生み出し、これらは複雑な方法で相互に作用して、さま
ざまなサービスがプラスにもマイナスにも関連し合う。従って、多くのサービスの
提供は相互に関連して変化するが、生態系が種として単一のサービス(たとえば食糧
生産)のために管理されるとき、他のサービスはたいてい悪影響を受ける。
z
生態系は、自然変化と人為的変化の双方をバッファーし、それらに適応する能力、
そして変化から回復する能力(つまりレジリエンス)が異なる。重度の変化にさらさ
れると、生態系は閾値を越え、異なり、そしてしばしば望ましくない生態学的状況
または方向へと移行する。大きな課題は、回復力(レジリエンス)を保ち、望まし
くない閾値を越えることのないように、いかに生態系管理を設計するかということ
にある。
z
個々に見て、すべてではないものの、一部のサービスの提供において、生物多様性
が主要な役割を果たしていることは明らかである。しかし、生態系は、人間の福利
を維持すべく、複数のサービスを提供するために管理する必要があり、また、危険
な転換点を越えることのない景観及び海景のレベルで管理する必要がある。複数の
サービスを提供することのできる、機能する生態系の維持には、単一のサービスが
焦点である際には長期的にも、生物多様性を維持する一般的なアプローチが必要で
あると高い確信をもって言うことができる。
1
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
1
序論
本章では、生態系の生物多様性、構造、及び機能の関係、そして生態系サービス提供の
現時点での理解について検討する。具体的には、以下を明確にすることを目標とする。
z
生物多様性、生態系、そして生態系サービスの関係の性質及び証拠。
z
人為的影響に対する生態系の反応。
z
人類が進化するはるか前に発展した生態系の管理に内在するリスク及び不確実性。
基本的なレベルの理解は、経済分析の適切な適用に欠かせない前提条件である。本章で
は、生物多様性及び生態系の概念の複雑さを浮き彫りにし、生物多様性、生態系の機能、
そして生態系サービスの関係について検討する。生態系への生物的要素と非生物的要素
のさまざまな集団の相互作用は、我々の現在の科学的知見に基づいて評価される。この
証拠は、生物多様性と生態系サービスのつながりに関する政策課題の表出を支援する方
法という文脈で、さらに論じられる。
本章では、個々の生態系サービスそれ自体の検討を、それらのサービスを支える重要な
要素、知識のギャップ、そして不確実性に関する注釈及び分析とともに示す。生態系は
実際には複数のサービスを生成することを認識し、本章では、戦略的優先順位がサービ
ス提供にトレードオフをもたらし得る、生態系サービスの「バンドル」から生じる複雑
性を検討する。生態系サービスの認識、定量化、及びマッピングの実践的なアプローチ
の必要性が検討され、生物多様性と生態系の変化と、地球規模の変化の既知の影響の増
大に伴うそれらの機能の変化の統合が提示される。増大する生物物理学的知識の分析は、
経済学者による、生物、非生物的環境、そしてさまざまな文化的及び社会経済的状況の
力学や複雑な相互作用の理解ならびに解釈を促す。
2
2.1
生物多様性と生態系
理論及び定義
生物多様性は、増大する生態系内の組織のレベル及び複雑さの階層、すなわち遺伝子、
個人、個体群、種、コミュニティ、生態系、そして生物相のレベルを反映する。生態系
2
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
を構成し、特徴づけるのは、非生物的環境と接触する生物のコミュニティである。生態
系は、規模、そしておそらくは複雑さの双方において多様であり、また、他の生態系内
に入れ子になっている場合がある。
生態系モデル(Tansley 1935; Odum 1969)の適用は、独自の生態系の種類に関与する相
互作用の包括的な理解を示唆するが、残念ながらこの知識が入手できることはめったに
ない。結果的に、森林、草原、湿地、または砂漠といった実体を表す際、生態系という
用語の使用は、相互作用の明確な空間構成に基づくよりも、より直観的である。
生物の群集が動的平衡にあって長期にわたり存続し、同じ物理的な空間を占有している
場合、生態系は個々の物理的境界を有しているように見える場合があるものの、これら
の境界は生物及び物質にとって侵入しやすいものである。当然ながら、境界は非生物的
環境に大きな違いがあるとき(たとえば湖と高原)に最も目立ち、確かに一部の陸上生態
系は、たとえばサバンナや熱帯雨林など、地球上の非常に広い地域にわたってさらに広
がる。それでもなお、これらの生態系内の種の豊富さと種の組成は、時間的及び空間的
に変化する。種の個体群動態は時間的不均質性を生じさせる一方、非生物的変量の勾配
は、しばしば桁違いの(Ettama and Wardle 2002)空間的不均質性をもたらす(Whittaker
1975)。
生態系プロセス(表 1.a)は、生物の複数種の集団の生命過程及びそれらの非生物的環境と
の相互作用、そして非生物的環境それ自体から生じる。これらのプロセスが利用される
際には、最終的にサービスをうみだす(表 1.b 参照)。生物多様性の変化は、生態系の機
能の極めて顕著な変化を生じさせ得る。たとえば、個々の遺伝子が農作物のストレス耐
性や農業生態系の生産性向上をもたらしたり、侵入種が窒素循環などの基本的な生態系
プロセスを転換したりする場合がある(第 3 節参照)。生物多様性の側面と、その人間の
福利との関係は、Levin (2000)によって広く取り上げられており、これには、生態学的
プロセスの基本的なパターン及び傾向とともに、生物多様性が支えるサービスと、生物
多様性の進化的な起源の双方が含まれる。
生物多様性と生態系の機能の関係は、ある場所における種及び個体群の構造と挙動に焦
点を合わせる群集の生態学的研究では明らかでない。加えて必要とされるのは、生態系
を通じたエネルギーと物質の流れを取り上げた研究である。使用される方策は異なる場
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
合がある。たとえば、コミュニティの研究では生物多様性の側面を測定する指標が使用
される場合がある一方、生態系の研究では立木の測定または栄養分の流れが利用される。
生態系サービスの評価においては、どちらも重要である。たとえば食料供給などの主要
植物生産性に直接関連付けられるサービスは、単位面積当たりのバイオマス、あるいは
単位バイオマス当たりの栄養分で測定される一方で、文化的サービスには、たとえば空
間を単位としたその景観内の種の豊かさなど、適切なスケールでの生物多様性の複雑さ
の測定が必要な場合がある(Srivastava and Vellend 2005)。しかし、これはそのような
方策が相互排他的であると言っているわけではない。たとえば、生物学的害虫駆除のサ
ービスは、昆虫捕食者ギルドと、それらの一時的な相対存在量を単位とした生物多様性
の測定の双方の点から、最良に見積もられる。
表 1.a. 生物学的及び物理的プロセスならびに生態系サービスにとって重要な生態系機
能を構成する相互作用の一部の例(Virginia and Wall, 2000 より)。
生態系機能
プロセス
一次生産:
光合成
植物養分吸収
分解:
微生物呼吸
土壌及び堆積物食物網ダイナミクス
窒素循環:
添加栄養素
脱窒素
窒素固定
水循環:
植物蒸散
根の活性
土壌生成:
鉱物風化
土壌生物擾乱
植生遷移
生物的防除:
4
捕食者-被食者相互作用
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
表 1.b: 生物多様性と生態系サービスの関係の例
生物多様性の要素
生態系サービスの例(併せて
出典
第 3 節参照)
遺伝的変異性
医薬品
Chai et al.(1989)
個体群の大きさとバイオマ
農作物及び動物からの食品
Kontoleon et al.(2008)
生息地の提供とレクリエー
Rosenberg et al.(2000)
ス
種の集団、群集、及び構造
ション
生物とその非生物的環境の
浄水
Hefting et al.(2003)
公害及び生物的防除
Messelink et al.(2008)
相互作用
個体と種の相互作用
どのような生物の群集でも、一部のグループが特定のプロセスに対して主に貢献し、自
らが属する生態系の全般的な機能に寄与する。従って、土壌生物群集の重要な機能は、
分解と栄養、そして元素循環である一方、植物群落は光合成を通じてバイオマス生産に
寄与する。土壌中の土壌群集は(根と微生物の相互関係を通じて)密接に植物と連結し、
動物群集は、一次的植物生産それ自体のみならず、生息地の植物群落の組成及び物理的
構造にも依存する。この生態系の地上と地下の部分の連関は、作付け周期内のマメ科植
物の役割による、低投入型農業への生態系サービスの提供によって実証されるとおり、
あらゆるケースにおいて基本となる。
Box1 は、各々の主な機能に関する、さまざまな生物の群集の連関の一部を示す。これ
らの相互作用は、生態系におけるバイオマスの調整と、群集内における種の集団の多様
性の双方に寄与する。
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box1: 生物群集とその主な機能
一次生産者
高木、灌木、つる草、被覆植物
土壌処理者
分解者、合成者、転換者
一次調整者
草食動物、授粉媒介者、微小共生体
二次調整者
重寄生者、捕食者
図 1: 生態系の異なる機能群間の実例となる関係。(Swift et al.2004 に従う)。
一次生産者:
機能群への植物の分類には、長い歴史がある。グループ分けは、繁殖、構造、及び生理学
上の基準をベースとすることが可能であるが、主な基準として資源獲得の規模と効率がし
ばしば示唆される。これは、構造(たとえばキャノピーの位置及び形状や、発根システムの
深さ及びパターン)と、生理学的効率の双方の特性によって決定されることになる(Smith
et al.1997 参照)。一部の農業生態系では、たとえば水稲など、光合成微生物が重要なグル
ープを構成する場合がある。
土壌処理者:
これは、有機物の分解(分解者)、土壌合成(合成者)、そして栄養循環(転換者)に関与する、
非常に多様な生物の群集である。
分解者:
これは、分類学的に、細菌、菌類、無脊椎動物、及びその他に細分することのできる、植
物または動物起源の有機物の分解及び無機化に機能的役割を有する、多様性の著しいグル
ープである。
合成者:
これらは、穴掘りによる土壌の構造及びその水の間隙率、土壌横断層の間の土壌粒子の移
動、そして団粒構造の形成を変える種である。これらの種の多くは、分解にも寄与する。
転換者:
これには、有機物以外のエネルギー源を利用し(従って、分解者には分類されない)、養分
循環において、元素(炭素、窒素、リン、硫黄など)の転換者として重要な役割を果たす、
6
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
さまざまな独立栄養細菌が含まれる。分解者の機能を有する一部の従属栄養生物も、無機
化を超えた基本的な転換を実行する(たとえば、自由生活性二窒素固定細菌)。
一次調整者:
一次生産に重要な調節効果を与え、ひいては植物によって与えられる商品及びサービスに
影響を及ぼす生物
授粉媒介者:
授粉媒介者は、鳥やコウモリなど、数多くの昆虫及び脊椎動物のグループを含む、分類学
的に非常に異なる生物のグループである。
草食動物:
その影響は機能的に同様であり、生態系レベルでは重要な場合があるものの、脊椎動物の
草食動物と木の葉を好んで食べる草食動物は、草食無脊椎動物と容易に区別される。種類
の異なる草食動物の影響のバランスは、被覆植物の構造に影響を及ぼす可能性がある。
寄生生物:
植物の微生物及び真菌感染により、草食と類似した形で一次生産が制限される場合があ
る。また、寄生的関係は、植物の成長パターン、そしてひいてはそれらの構造及び生理学
的効率にも影響を及ぼし得る。
微小共生体:
たとえば二窒素固定細菌や菌根菌など、植物と微生物の共生的関係。
二次調整者:
重寄生者及び捕食者:
これは、他のグループ及び他の栄養段階の生物を食物とする、さまざまな微生物寄生体そ
して脊椎動物及び無脊椎動物捕食者である。
空間的な結びつきは、種の個体群間の関連性及び遺伝子交換を維持し、物理的接続を通
じて、生態系の機能を直接支持する。たとえば、養分が下流に「スパイラル」したり
(Newbold et al.1981)、あるいは、特に洪水の「パルス」により、氾濫原の湿地帯及び
河川の生態系で移動したりする場合など(Junk et al.1989)、エネルギーと養分の収支を
考えれば、これは明らかである。このようにして、アフリカの河川の魚類個体群は、乾
季に氾濫原を食する野生の草食動物及び家畜化された草食動物の双方によって堆積され
る有機物及び養分の恩恵を受ける(Drijver and Marchand 1985)。
「異地性」有機物(つま
り、生態系の外部で生成され、生態系に移送される枯死有機物)は、生態系の安定性にと
って重要な場合がある。局所的なスケールでは、溶解性または粒子状有機物は、洪水の
際、河川によって分散される可能性がある(Junk et al.1989)。より大きなスケールでは、
太平洋サケ(Oncorhynchus spp.)の 1 年間の回遊は、広範囲にわたる海洋-淡水栄養再
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
循環において重要な役割を果たしており(Mitchell and Lamberti 2005)、アラスカの河
川の水生昆虫群集(Lessard and Merritt 2006)、ヒグマ Ursus arctos、そして捕食鳥
(Hilderbrand et al.1999; Helfield and Naiman 2006)及び周囲の森林生態系への依存関
係が知られている。Polis et al.(1997)は、これらのシステムの動態の理解に対する、生
態系境界にわたる栄養素移動の影響を理解することの重要性を強調している。
個体群及び群集レベルでの生物群集内の相互作用は、生態系全体としての安定性及び回
復力(レジリエンス)を決定するのに重要な役割を果たす。群集は、複数の生物的プロ
セスで構築され、外的条件が結果に強く影響を及ぼす場合がある。たとえば Mouritsen
et al.(1998)は、デンマークの干潟のタニシ Hydrobia uvae 及び端脚類 Corophium
volutator の寄生虫感染(吸虫類 microphallid trematodes による)への、夏の高温の劇的
な影響を説明できる。1990 年の高い気温で感染率は高まり、それが端脚類個体群の全壊
につながった。堆積物を安定させるこの個体群の局所的な絶滅により、顕著な干潟の浸
食と地質の変化がもたらされた。その結果、特に大型無脊椎動物において群集が実質的
に萎縮し、生態系の変化がもたらされた(Griffin et al.2009 を併せて参照)。
生態系機能における生物多様性の役割の理解は、栄養ネットワークを通じたエネルギー
及び物質の流れと、生態系内の種の機能的多様性の補足的研究によって大幅に前進した
(Srivastava et al.2009; Suding et al.2008; Diaz et al.2007a; Diaz and Cabido 2001 参
照)。Villeger et al.(2008)は、先頃、両タイプの研究の成果を網羅することを目指した機
能的多様性指数を検討した。De Leo and Levin (1997)は、これら 2 つのアプローチの有
益な区別を行った。実際には、それらは相互排他的なものではなく、どちらも社会にと
って価値あるサービスをサポートする生態系の能力を支えている。ただし、たとえば生
産性(Tilman et al.1997a; Hooper and Dukes 2004; Petchey et al.2004)、摂動または侵
入に対する回復力(レジリエンス)(Dukes 2001; Bellwood et al.2004)、そして物質の
流れの調節(Waldbusser et al.2004)など、種の多様性それ自体ではなく、機能的多様性
が生態系の機能を強化していることを、ますます多くの科学的証拠が示している。
一部の種には、そのバイオマスや豊富さと比較して、生態系機能に対して不相応な影響
があり、そのようなキーストーン種を失うことは、群集の多様性と生態系の機能に対し
てカスケード効果を有する(Bond 1993)。たとえば、カリフォルニアの沿岸生態系から
の太平洋ラッコ(Enhydra lutris)がいなくなったことにより、昆布群集及び多くの魚種
8
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
が失われた。アマゾンの一部の領域からの食魚性カイマンがいなくなったことにより、
食物連鎖の栄養循環の低下を原因とする魚の個体群及び収獲の減少がもたらされた
(Williams and Dodd 1980)。アフリカゾウ(Loxodonta africana)の数の大きな変化は、
サバンナの林地及び森林における植物生産性、土壌栄養分循環、そして植生多様性に大
きな影響がある。そして、草食動物のサバンナ植物群落への影響は、ツェツェバエが多
数を占める生態系では変化する。
機能形質、機能群、及び機能的多様性の詳細な議論は、Hooper et al.(2005)によって提
供され、次のような結論が下された。
I. 種の機能特性は、生態系の特性に強く影響する。種の間の資源利用の補完的特性によ
り、多様性の増大は生産性の増大へとつながる。
II. 多様性の増大は、対応の多様性(同じ機能群内の種の環境推進力に対する反応性の範
囲 ) へ と つ な が り 、 結 果 的 に 長 期 的 な 機 能 の 変 動 が 減 少 す る (Elmqvist et al.2003;
Hughes et al.2002)。
III. ある「平均的」な種を失うことの影響と比較して、ある特定の種を失うことで過度
の影響がもたらされ得る、キーストーン種の特性及び独自特性の組み合わせによる特異
的影響。
2.2
生態系の機能における多様性の役割
本節では、生態系の安定性と変化の因子、及びサービスの維持と生成を検討する前に、
多様性と生産性の問題、そして機能的多様性の役割について論じる。
2.2.1 種の多様性と生産性-陸生系
群集を占める種は、一般的にシステム機能の主なコントローラーであるが、証拠からは、
あまり明らかでない、あるいは豊富でない種が、生態系の機能において主な役割を有す
ることが示唆されている。これらの「生態系エンジニア」(Swift et al.2004)及び「キー
ストーン種」(Lyons et al.2005)は、たとえば種の侵入に対する回復力(レジリエンス)
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
の強化(Lyons and Schwartz, 2001)、あるいは授粉媒介者及び種子散布者としての役割
を通じて(Cox et al.1991)、群集の動態に大きな影響を及ぼす、まれな種である可能性が
ある。まれな種の個体群は、特定の状況に反応して、個体数及び重要度が劇的に変化す
る場合があり(Hobbs et al.2007)、たとえば温帯湖では、プランクトン種は、水温及び混
合、そして関連する栄養素の入手可能性の季節的な変化に反応し、種の急激な連続的変
化がもたらされる(Abrantes et al.2006)。
土壌における機能の種類の多様性は、生産性と強く関係する。多くの実験において、土
壌動物が存在することにより、そして特にミミズの場合、それらの多様性により、植物
生産が著しく強化されることが示されている(Lavelle et al.2006)。一次生産の強化は、
分解からの養分放出の増加、相利共生微生物の増大(van der Heijden et al.1998)、病気
の予防、そして土壌の物理的構造の影響の結果である可能性がある。しかし、実験的に
主な分類群を土壌食物網から除去しても、たとえば土壌呼吸や生態系の純生産量といっ
たプロセスの速度にほとんど影響を及ぼさない場合があるが(Ingham et al.1985; Liiri
et al.2002; Wertz et al.2006)、これはおそらく、土壌生物の並外れた多様性と、多くの
群における比較的低い特化の程度により、多くの異なる種が同様のプロセスを実行し得
るためである(Bradford et al.2002; Fitter et al.2005)。
生産性の維持における生物多様性の役割は、理論的な制御環境ならびに小規模及び大規
模実地調査で調査されているが(たとえば Naeem et al.1995; Tilman et al.1996, 1997b;
Lawton et al.1998 参照)、
「成熟」した自然生態系からのデータはほとんどない。Grace
et al.(2007)は、大規模な自然生態系のセットを比較し、小さな空間規模で観察した際、
生産性への多様性の影響は弱かったことを示した。とはいえ、発表された研究のメタ分
析では、生物多様性が測定される同じ栄養段階で、生物多様性の生産性への好ましい効
果の明白な証拠が得られた(Balvanera et al.2006)。さらに、Balvanera et al.(2006)は、
現在のデータの検討に基づき、次のような結論を下している。1) 植物の多様性は、地下
植物と微生物バイオマスを増進させるようである。2) 植物の多様性は、分解者の活動及
び多様性にプラスの効果があり、植物と菌根双方の多様性は、生態系の植物区分に蓄え
られる栄養を増やす。3) 一次生産者の多様性を増大させることは、一次消費者の多様性
の向上に寄与する。4) 植物の多様性の向上は、有害生物による植物被害の低下に寄与す
る。そして、5) 侵入種の存在量、生存、繁殖、そして多様性は、植物の多様性が増すと
減少する。大きな空間規模では、Costanza et al.(2007)は、温度と降水量の影響を考慮
10
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
に入れた場合、北米における純生産量の空間的変動の過半数は、生物多様性のパターン
で説明可能であること示した。
集中的に管理され、攪乱された生態系では、最大生産性は、通常、たとえば多量に施肥
された単一栽培など、非常に多様性の低いシステムで達成される。しかし、こうした場
合、肥料、殺生物剤、及び水を含む、大量の資源投入が求められ、一般的に環境的また
は経済的に持続可能であるとはいえない(Wright 2008)。人為的な資源増強を伴わない持
続的な高生産は、普通、成熟した生態系の高度の生物多様性と関連付けられる。8 年間
の調査で、Bullock et al.(2007)は、英国南部全域にわたるさまざまな土壌タイプの復旧
された草原の生態系の生産性に及ぼす種の豊かさの好ましい影響を報告しているのと同
時に、Potvin and Gotelli (2008)は、生物学的に多様な熱帯の植林における生産性の向
上について報告し、木材プランテーションの多様性を増やすことは、木材の生産量と生
物多様性の保全のための有望な戦略となり得ることを示唆した。
2.2.2 種の多様性と生産性-海生系
生物多様性は、海生系の生産性の増大とも関連する(Worm et al. 2006)。Arenas et
al.(2009)は、生物多様性のさまざまな要素が、自然群落内の大型藻類集団の能力にどの
様に影響をもたらすか説明している。彼らは、バイオマス及び種の豊富さと生産性との
望ましい関係を見いだしたが、空間集成及び種の均一性と、生産性に関連した一部の変
数との関係も解析した。発表された実験データのメタ分析では(Balvanera et al.2006)、
一次生産者と消費者の双方の生物多様性の増大により、調査の行われた生態系プロセス
が強化されたことが分かり、また、海洋生態系の修復によって生産性の大幅な向上も示
された。魚の乱獲は、気候変動及びその他の圧力とともに、かつてない強度と頻度の影
響を生態系にもたらし、直接的、間接的に、海生集団の生物多様性、構造、そして組織
に変化を生じさせる(Worm et al. 2006)。大型海洋捕食者の数及び多様性は激減してお
り、この損失の影響は海洋群集全体に連鎖する恐れがある(Heithause et al.2008)。海洋
捕食者の減少に対する群集の反応のしかたについての予測では、リスク効果及び行動を
介した間接相互作用を考慮しなければならない。脊椎動物捕食者、そして特に、長寿命
の捕食種の場合、直接捕食を唯一の焦点とすれば、捕食者喪失による群集への影響が著
しく過小評価される場合がある(Heithause et al.2008)。
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
さまざまな実験による証明は、非常に多くの場合、肯定的でありながら普遍的な、生物
多様性と生態系機能の間の飽和関係を示しているものの(Loreau 2008)、深海生態系の分
析は、非常に異なるパターンを示している。116 の深海サイトの 270 のデータセットに
基づいた最近の世界規模の調査では、これらの生態系の機能が、調査の行われたすべて
の深海域の生物多様性と明確に関連しているだけでなく、指数関数的に関連しているこ
とを示している(Danovaro et al.2008)。3 つの独立した生態系効率の指標が使用されて
おり、それらは、1) 透光層の一次生産を使用するシステムの能力を見積もるための、中
型底生動物のバイオマスと有機炭素フラックスの比、2) 海底に堆積した有機物を使用及
び再利用するシステムの能力を見積もるための、原核生物の炭素生産と有機炭素フラッ
クスの比、そして、3) 有機堆積物をより高い栄養段階へと導くシステムの能力を見積も
るための、深海底の中型底生動物バイオマスと堆積物の生物高分子炭素含有量の総比率
である。生物多様性とこれら 3 つの独立した指標の間には、著しい指数関数的関係が見
られた。結果は、生物多様性が大きいほど、より高率の生態系プロセスがサポートされ、
こ れ ら の プ ロ セ ス が 実 行 さ れ る 効 率 が 向 上 す る こ と を 示 し て い る (Danovaro et al.
2008)。これらの深海生態系では、相互に肯定的な機能的相補作用(生態学的促進)が行き
渡っているという仮説を、これらの指数的関係は裏付ける。深海の食物網及び各々の種
の生態学的役割を調整するすべてのプロセスの完全な理解はまだ得られていないものの、
海底の生物攪乱の増大によって、深海底のフラックスと堆積物中の食物の再分配が増し、
生態系の機能の増大につながると仮定される。これらの結果は、深海生態系における生
物多様性の喪失が、機能の大幅な減少と関連付けられる可能性があることを示唆する。
深海堆積物は世界の表面の 65%を覆っており、深海生態系は地球規模での生態学的及び
生物地球化学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。世界の大洋の持続可能な機能を
維持する上での、深海の生物多様性の重要性は、まだ著しく過小評価されている可能性
がある(Danovaro et al.2008)。
2.3 機能群及び機能的多様性
機能群とは、生態系において特定の活動を行う生物のグループである。それらは、たと
えばバイオマスの生産、授粉、窒素固定、種子の分散、他の生物の摂取、バイオマスの
分解、土壌の混合、水流の変更、そして再組織化及びコロニー形成の促進を行う場合が
ある。主要な機能群の喪失は、生態系の機能に劇的な変化を生じさせる場合がある
(Chapin et al.1997; Jackson et al.2001)。Hooper et al.(2005)は、特定の種の組み合わ
12
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
せがそれらの資源利用パターンにおいて相補的であり、生産性と栄養保持の平均速度を
加速させ、機能形質の多様性を生態系の特性の主要な制御装置の 1 つとすることができ
ると結論付けた。
生態系内の種の多様性がさまざまな機能的反応のタイプを含む場合、生態系内の機能形
質及び反応の冗長性(つまり、複数の種が同じプロセスの役割を実行する)は、攪乱及び
個々の種の喪失に対する「保険」として機能し得る(Hooper et al.2005; Winfree and
Kremen 2009)。反応の多様性、つまり、同じ生態系機能に寄与する種の間の、環境変
化に対するさまざまな反応は、生態系の回復力(レジリエンス)にとって重要であると
論じられている(Elmqvist et al.2003)。そのような種は、時とともに互いに入れ替わり、
さまざまな環境条件にわたって生態系機能の保全に寄与する場合がある。そのような種
を地域的に喪失すると、攪乱後に生態系を再編成するための空間的なソースが失われる
ため、生態系が大規模かつ壊滅的に変化するリスクが高まる(O.Neill and Kahn 2000;
Bellwood et al.2004)。これはよく理解されていない領域であるが、それにもかかわらず、
現在の環境理論では、多くの種が連帯して生態系サービスを提供しているとき、さまざ
まな「安定化メカニズム」により、攪乱に対して安定化されるものと予測される。人為
的干渉の影響を受けた景観における安定化メカニズムの存在を調査した研究はほとんど
ない。Winfree and Kremen (2009)は、固有の野生ミツバチによる作物授粉に関する 2
つのデータセットを使用して、密度補償(種の豊富さの負の共分散)、反応の多様性(種の
環境変数に対する反応)、そしてクロススケール回復力(レジリエンス)(異なる種によ
る異なるスケールでの同じ環境変数に対する反応)という 3 つの潜在的な安定化メカニ
ズムを評価した。彼らは、密度補償についての証拠を見いだせなかったものの、反応の
多様性とスケール間の回復力(レジリエンス)については証拠を確保し、これらのメカ
ニズムが授粉サービスの安定化に貢献する可能性があると結論づけ、一見したところ余
剰な種であっても保険的価値があることを強調した。
2.4 生物多様性と生態系サービスの間に見られる定量的関係の複雑性
生物多様性の評価基準を生態系サービスの提供に関連付けることは原理的には容易なは
ずであるが、実際はいくつかの要因によって複雑なものとなる(併せて第 3 章参照)。第
一に、生物多様性は多次元的概念であり、従って、その記述及び尺度はさまざまな形を
とる。生物多様性の記述には、さまざまな階層レベル(群落、種、個体、遺伝子)の分類
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
のみならず、たとえば相互作用網(栄養、宿主寄生体、授粉媒介者)、系統樹に基づいた
進化的多様性、種に固有の特性に基づいた形質の多様性、または、複数の尺度の集約を
試みる複合測定尺度といった、他の次元の分類も含まれる。これらの評価基準の一部は
特定の目的を念頭に開発され、また、他の評価基準は複雑さを単純化しようとするもの
である。
第二の問題は、開発されてきた生物多様性のさまざまな評価基準の目的が多様であるこ
とに関連する。利用可能なほとんどの評価基準は特定の目的のために開発されたもので
あり、従って、利用できる評価基準は特定の目的に必要とされるものではない場合があ
る。たとえば、生物多様性の大規模な分布(地球、大陸、主な生物群系)を示す入手可能
な多くのデータセットは、主として保全の報告及び計画のために得られた種の豊かさの
評価基準であり、種の豊かさのカウントもしくは大型の動物及び植物の個体数推移の尺
度となりがちである。より小さな空間及び地理的スケールでは、情報の多様さが増すも
のの、先と同様、これも特定の目的(たとえば、食品、農産物の生産及び貿易の国際機関
への国の報告、保全報告、環境品質モニタリング)のために集められた情報であることが
多い。従って、利用可能なデータの多くは、別の目的のために収集されたものであり、
生態系サービス提供の分析に情報を提供することが可能な生物多様性の変化の測定には
当然ながら適用できない。
第三の問題は、生態系サービスの提供は、生物多様性の増大とともに質、量、または回
復力(レジリエンス)が増すものの、関係の強さと形、そして、生態系サービスの質ま
たは量の最良の予測因子である生物多様性の尺度は、考慮される生態系サービスによっ
て大きく異なる。
上記の考察は、生物多様性の役割も、その減少が生態系サービスの提供全般に及ぼす可
能性のある影響も、まだ正確に説明し得ないことを意味する。一方で、脊椎動物及び一
部の植物群落については地球規模で入手可能な、種の豊かさの評価基準(及び、固有性、
希少性、脅威といったサブセット)は、生態系の機能及びプロセスと直接結び付けるのが
困難である。他方で、局所的に入手可能な、機能種類もしくは機能多様性の生態系別ま
たは分類群別の評価基準は、ある特定の生態系機能に十分関連付けられる場合があるも
のの、その生態系内の他の価値あるサービスには一般的に適用できないことがある。残
念ながら、これらの局所的な評価基準は、より大きな領域にスケールアップしたり、他
14
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
の生態系の種類に移転したりすることはできない。
生物多様性の測定基準をどの程度生態系サービスの評価に使用できるかは、結果として、
その評価基準がその状況に対して適正かどうかということに直接的に帰結する。残念な
ことに、生物多様性の役割に対する理解がまだ不完全であるため、生態系サービスの評
価をサポートする、有効な既知のデータを入手することのできるいくつかのケースにつ
いてしか、確信は得られない。たとえば以下のとおりである。
販売される食品、燃料、または繊維の陸生及び水生系の生産性は、生産統計を使用して
測定可能である。耕作システムの多様性の適切な評価基準は、農作物の遺伝的多様性、
在来種及び野生近縁種の多様性、そして有害生物、病原菌、捕食者、及び共生者の多様
性に関連する。最も適切な農作物の生物多様性の測定基準は、遺伝的多様性である。
食糧生産の生態系サービスは、多くの場合、授粉媒介者に依存する。ここではサービス
との生物多様性の関係が強く、適切な測定基準は授粉媒介者の種の豊さである。これら
の関係は極めて普遍的であり、授粉媒介者の喪失に対する異なる領域の抵抗性は、生態
系における植物-授粉媒介者相互作用網の性質と、授粉媒介者及び植物の最近の減少歴
に応じて、非常に大きな違いがみられるようである。
多くの文化的サービスは、主として種の多様性に依存しており、大型のカリスマ的な植
物、鳥類、及び哺乳類に集中する傾向がある。これらのケースにおけるサービスと生物
多様性の関係は、決して飽和されない多様性の基準に非常に強く支配されている。実際、
価値は、より多くの珍しい外見とともに増す。これらの目的には、地球規模の保護種デ
ータセットが有用であり、高い関連性がある。しかし、この関係は、単純に国または地
域の範囲内に縮小しない。
淡水水質の生態系サービスは、弱いながら、生物多様性と急速に飽和する関係を示し、
スケールとシステムの双方にわたって一般的に適用される可能性が高い、いくつかの機
能型に強力に集中化されている。
一次生産や分解など、生態系プロセスで行われた一部の働き(ミレニアム生態系評価(MA
2005)で基盤サービスと呼ばれる)も、最終的にそれらに依存する多くの生態系サービス
15
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
に関連する場合がある。特定の特性値の有無も非常に重要な場合もあるが、調査におい
ては、たとえば葉面積や植物のサイズといった機能形質は、生態系プロセスの強力な判
断材料であり、また、群落内の植物の加重平均などの測定は最良の判断材料である(Diaz
et al.2007b; Suding et al.2008)。
3
生物多様性、生態系機能、及び生態系サービスの関連
以下の、生物多様性、生態系機能、そして特定の生態系サービスの関連の根拠について
の検討は、Balmford et al.(2008)と EASAC 報告「欧州における生態系サービスと生物
多様性」という最近の 2 つの検討に基づいており、また、付加的な調査及び報告書で更
新されている。かなりの知見の格差が残存し、いくつかのサービス生成の基本的なプロ
セスについての理解は限定されたものであり、以下の説明はこの様々な知見を反映して
いる。本節では、第 1 章で示されたサービスの一般的な類型に従い、第 4 節においてさ
らに論じられる複数の生態系サービスの潜在的な関連とともに、サービスを 1 つずつ論
じる。サービスが供給、調整、生息環境、及び文化的として分類される類型は、主に、
情報を構築する方法として使用され、たとえば魚などの供給サービスは、タンパク源と
なるだけでなく、収獲技術、調理、象徴的意味など、強力な文化的側面をも伝達すると
いうような、本質的な複雑さを反映しない。従って、文化的価値を別のカテゴリーに置
くことは、他のカテゴリーの多くのサービスの文化的側面を過小評価することになり、
これはさらなる進展が求められる領域である。
供給サービス
3.1
食料供給
サービスの背景と重要性
農業生態系は、海洋及び淡水漁業をサポートする関連生態系とともに、人間が消費する
食料を供給し、地球規模の食料安全保障を支える。今日、地球表面の 35%は、農作物の
育成または家畜の飼育に使用されている(MA 2005)。放牧地だけで地球表面の 26%を占
め、動物飼料作物は耕作地全体の 3 分の 1 を占めている(FAO 1999)。Heywood (1999)
は、6,000 を超える植物種がさまざまな時期に栽培されていることが知られており、ま
た、局所的に生育される何千もの植物種は、ほとんどあるいは一部しか環境に適応しな
16
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
い一方、それ以上ではないにせよ、同じくらい多くの種が野生地から採取されていると
見積もっている。これにもかかわらず、およそ 30 の作物種が人類の食糧の 95%を提供
し(Williams and Haq 2002)、世界は現在、わずかな植物種に依存しすぎていると論じ
られている。
海洋生物多様性から直接得られる動植物は、人の食事のかなりの部分を提供する。漁業
及び水産養殖は、2006 年に、1 人当たり 16.7 kg の供給量となる、1 億 1000 万トンの
食用魚を産出した(FAO 2009)。そのほぼ半数(47%)は、水産養殖によって算出された。
およそ 30 億人については、魚類は 1 人あたりの平均タンパク摂取量の 15%に相当する。
公式の統計では、低所得食料不足国において、動物タンパク摂取量に占める魚類の割合
は 20%未満と推定されているが、小規模の生業的漁業の寄与分が過少に記録されている
ことを考慮すると、実際の比率はおそらくこれを上回る(FAO 2009)。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性-陸生農業生態系
Harlan (1975)は、より少ない作物種への依存を高めることは、固有の遺伝資源の喪失を
招き、より収穫の多い現代種が、地域の状況に特異的に適応した「在来種」に置き換わ
りつつあると主張した。遺伝的には、在来種は一般的に多くの遺伝子座においてヘテロ
接合であり、この現場遺伝子プールは、野生作物系統とともに、植物育種家にとって新
品種のための遺伝的多様性の重要な源であることに変わりはない。作物の遺伝的多様性
が十分に維持されないと、大きな経済的、社会的コストを被る恐れがある。19 世紀のア
イルランドにおけるジャガイモ飢饉は、一般的に、そこで栽培されるジャガイモの遺伝
的多様性の低さに帰され、作物全体をジャガイモ病原菌に感染しやすくしたが、南米の
元の遺伝子プールの抵抗性品種を使用することで、この問題は解決された。大きな変動
があり、しばしば相反する結論が導き出されるものの、品種を混合すると、病気の発生
を十分に減少させ、たとえば欧州のオオムギのケースのように(Hajjar et al., 2008; de
Vallavieille-Pope 2004 の一般概説を参照のこと)、収穫高を増加させることができる。
Hooper and Chapin (2005)は、単一栽培で長期にわたって高い生産性を維持するには、
ほぼ常に、持続不可能な大量の化学薬品、エネルギー、及び財務的資本の補助が必要で
あると論じている(EASAC 2009)。彼らは、経済的及び生態学的観点から、多様性が管
理目標としてますます重要になるに違いないとの考えを示している。生物と地勢への影
響は一貫していないものの、有機農法は、生物多様性(種の豊かさと豊富さ)を上げるこ
17
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
とができる(Bengtsson et al.2005)。有機農法のシステムでは作物生産量が 20%低下する
場合があるものの、肥料とエネルギーの投入量は 30.50%減少し、農薬投入量の削減量
は 90%を超える場合があり、有機区に見られる土壌肥沃度の強化と生物多様性の増大が、
これらのシステムの外的インプットへの依存を低下させている可能性のあることを示唆
している(Mader et al.2002)。さらに、それらは従来の農工業システムと同じか、ある
いはそれ以上に収益性が高い可能性がある。しかし、有機農法の収穫高の減少は、農業
のための土地と野生生物多様性を維持するための土地との間にトレードオフを生じさせ
る。生物多様性は、集約農業を使用し、余分な土地を生物多様性に充てるか、あるいは、
生物多様性を促進する「有機」または統合農業システム(Fischer et al.2008)を広げるこ
とによって促進させることができるが、これら 2 つの方法の結果は極めて異なるものと
なる。
生物多様性の価値は、永久草地及び牧草の生態系において明らかであり、ここでは、種
の豊かさの増大が、バイオマス生産性と生態系機能をしばしば強化する(Bullock et
al.2007; Tilman et al.1996, 1997a, b; Naeem et al.1995)。そのような利益は、種の補
完 性 を 生 か し て い る よ う で あ る が (Cardinale et al.2007) 、「 サ ン プ リ ン グ 効 果 」
(McNaughton 1993)、すなわち、混合内でより生産的な種の出現が相対的に高まること
を反映している可能性もある。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性-海洋システム及び水産養殖
海水魚種資源が世界的に減少する中、水産養殖は、増加する人口を養うのに必要な魚類
を増産するための方法と考えられる。しかし、急速に増大し、今や世界の魚類生産の半
数を占めるこの活動は、播種及び給餌について、依然として野生魚に(FAO 2009)、そし
てひいては機能する自然生態系及び生物多様性に大きく依存する。集約的に養殖される
魚及びエビは、主に漁業によってもたらされる魚粉及び魚油が与えられる(Deutsch et
al.2007)。さらに、ほとんどの水産養殖は、他の生態系サービス、とりわけ栄養塩再循
環及び浄水を使用する。それらは沿岸地域に集中しているため、一部の場所(たとえばチ
リやタイ)では強力な影響がすでに感じられており、これが水産養殖の拡大を困難にして
いる。多くの研究は、魚粉及び魚油を陸生植物原料(たとえば大豆やその他の穀類)に置
き換えることをテーマとし、非常に優れた結果を伴っているものの(Carter and Hauler
2000; Clayton et al.2008)、これらの食材それ自体に重要な環境影響があり(Fearnside
2001; Steinfeld et al.2006; FOE 2008)、それらを魚の餌に転用することには、多くの貧
18
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
しい人々の栄養を奪い(Delgado et al.2003)、大きな社会的代償を伴う。自然生態系から
収穫した海草、または海水で栽培された海草の使用(たとえば Valente et al.2006)は、漁
場または農地に負担を強いることなく草食魚の餌を製造する方法となり得る。
サービスはどこで生成されるのか?
食料は、主に、集中的に管理される農業生態系で生産されるが、野生生物の保護または
再形成に充てられた領域、そしてその他の生産システム(たとえば林業)に使用される領
域は別として、ほとんどの景観/海景はある程度、食料生産に関与している。とりわけ開
発途上国では、都市及び郊外に、食料生産に使用される市民農園や他の形式の菜園があ
る。農業生産が至る所に存在するということは、食料を生産する土地に他の生態系が隣
接していることも意味し、従って、農業のプロセス及び慣行はより広範な影響を及ぼし
得る。これには、分散した人々が環境の変化に抵抗する能力への悪影響を伴う、農薬の
散布ドリフト、栄養素汚染、移動障壁、そして、非農耕地の残りの区画内の生物の拡散
が含まれる場合がある。
サービス提供の不確実性
現在の消費水準では、増加する人口の需要を満たすのに、今後 40 年間で世界の食糧生
産を 50%増産する必要があり(UN 2009)、消費水準と世界の食品価格の上昇に伴い、低
生産地域の生産を最大化する圧力が増すであろう。急速に高まる地球上の生態系への要
求を考えると(Rockström et al. 2009)、農業生産の劇的な増大と土地利用の変化が、気
候変動と相まって、どのように生物圏の自然過程及び主な調整的生態系サービスのレベ
ル(たとえば CO2、窒素フロー、真水消費)に影響するかを理解することが不可欠となっ
ている。これらの複雑な相互作用の結果については、大きな不確実性が残る。食品用の
魚及び海草を生産するための海上水産養殖の増加は、結果として食糧生産のための海の
利用を大幅に強化することへとつながり、外洋は普通、栄養が乏しいため、(深海水また
は人工授精とともに)栄養は追加されなければならなくなる。これら外洋の生態系及びプ
ロセスの実践の影響は、十分に解明されていない。
3.2
水流(10)の調整及び浄水(11)を含む水供給(2)
サービスの背景及び重要性-水供給
生態系は、地球規模の水循環において重要な役割を果たし、水の供給(総産出水として定
19
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
められる量)、調整(タイミング、フローの季節分布)、及び浄化(生物学的純度と堆積負荷
を 含 む 品 質 )に 寄 与 す る (Dudley and Stolton 2003; Bruijnzeel 2004; Brauman et
al.2007)。地球規模の水利用は、家畜の生産を含む、農業使用が多数を占め(すべての使
用の 70%、消費的使用の 85%)、工業及び家庭内の使用がそれに続く。草木、特に森林
は、流域内を循環する水質に大きな影響を及ぼす。一般に、森林は、降雨を発生させ、
放牧や農業に比べ、より高い蒸発散比とより大きな空気力学的粗度を促進し、大気湿度
及び水蒸気収束を増大させ、ひいては雲の形成と降雨生成の確率を上げると考えられて
いる。大規模土地利用転換は雲の形成と降雨のパターンに影響するということの証拠は
増しているものの(Bruijnzeel 2004)、この効果は非常に変わりやすく、限定されたもの
である。「生物ポンプ」の仮説は、Makarieva et al.(2006)、そして Makarieva and
Gorshkov (2007)により、アマゾン及びコンゴ川流域の大陸内部で降雨量が多いことの
説明として詳述されている。Marengo et al.(2004)は、大陸各地の天水農業及び他の生
態系システムを維持していると考えられる、アマゾンの「送水ポンプ」(第 1 章、図 7
参照)の役割について論じた。Shiel and Murdiyarso (2009)は、その仕組みを再調査し、
「送水ポンプ」仮説が正確であると立証されるならば、軽度の森林損失は大陸内部の状
態を湿潤から乾燥に転換する場合があり、また、森林の生物多様性は地域的な降雨量調
整において過小評価されている可能性があるという説を出した。
背景と重要性-水の調整及び浄化
季節的な降雨のある地域では、1 年を通じた降水量のばらつきの方が、年間の降水の総
量よりも重要なことが多い。乾期の間は灌漑が最も重要であるため、これは農業生産に
とって特に重要である。水分浸透を増大させる状況と同じ状況が、下面の流出でも生じ
る。土壌または生態系を通り過ぎる水流は、変質が生じる可能性のある時間を短縮する
ことから、給水の調整と水質との関連性は強く、その結果、異常気象は水質の低下につ
ながる。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
植生は、水流及び水質の主な決定要因であり、微生物は地下水の水質に重要な役割を果
たすが、水の調節と浄化の生物多様化との関係は、土壌及び植生の状態が水の流れと保
持を決定する場合を除き、よく理解されていない。土壌生物の活動は、土壌構造、そし
てひいては浸透率及び保持率に対して、直接的に大きな影響を与える。被覆植物や根系
が損傷を受けていない森林や湿地などの生態系は、水の流れを調節し、水質を改善する
20
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
のに非常に効果的であると考えられる。植生、微生物、そして土壌は、水と堆積物を物
理的に閉じ込める、汚染物質に付着する、流速を落として浸透を増進させる、栄養素を
生化学的に変換する、根域から水及び栄養素を吸収する、侵食されている堤防を安定さ
せる、そして汚染水を希薄化するなどを含むさまざまな方法で、地表流及び地下水から
汚染物質を取り除く(Brauman et al.2007)。土壌中で生じた水質の変化には、残留性有
機汚染物質(POP)の変質、無機イオン(窒素、リン酸、金属)の隔離及び転換、そして、ク
リプトスポリジウムなどの病原体の除去が含まれる(Lake et al.2007)。栄養分の取り込
みや病原体の消費を含む同様のプロセスは、良好な生態学的品質の湖沼及び河川を含む
水塊で生じる。
サービスはどこで生成されるのか?
水は、直接的な降水、地表流及び地中流、そして人間の介入を含むさまざまな経路で、
真水の貯蔵場所(湖沼、河川、帯水層)に達する。あらゆるケースにおいて、水は、生物
及び物質の追加と除去によって変質する。従って、生態系は水質の決定に大きな役割を
果たす。特に、土壌を通る水路は、無機化合物(たとえば窒素、リン酸)と有機化合物(溶
存有機炭素化合物、農薬)の溶解、そして、土壌生物によるこれらの多くの変質の双方を
通じて、多大な影響を及ぼす。従って、このサービスは、あらゆる陸上生態系に関係す
るが、とりわけ都市生態系及び集中管理される生態系において重要となる。
サービス提供の不確実性
淡水を調整及び提供する生態系の能力の変化の多くは、土地利用の変化に由来し、また、
一般的にそれに比例するようである。しかし、場合によっては、比較的小さな付加的変
化が、過度の、そして時に回復困難な生態系の水理学的機能の反応を引き起こす場合が
ある(Gordon et al.2008)。たとえば、人為的な富栄養化は、淡水漁業及び水域の余暇的
利用に影響を及ぼす青粉が原因で(Scheffer et al.1993)、澄んだ状態から濁った状態へと
水質を急転させる恐れがある。栄養素濃度の削減は、普通、原状回復するのには不十分
であり、復元にはレジームシフトが生じた時点のレベルを大幅に下回る栄養素のレベル
が求められる(後述の第 5.1 項参照)。もう 1 つの例は雲霧林の喪失で、これはほぼ回復
不可能であると考えられるレジームシフトをもたらす。一部の地域では、そのような森
林は、より多湿な降水型の下で数千年前に確立された。必要な水分は、林冠で遮られた
雲からの水の凝縮を通じて供給される。樹木が伐採されると、この水の投入は止まり、
それによってもたらされる条件は森林の回復には乾燥し過ぎたものとなる可能性がある
21
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
(Folke et al.2004 参照)。さらに、気候変動は、とりわけすでに大きな水ストレスが生態
系に与えられている地域において、潜在的に急激な変化の引き金となり得る。
3.3
燃料及び繊維
サービスの背景及び重要性
たとえば木材、綿、ジュート、サイザル麻、砂糖、そしてオイルなどの燃料及び繊維の
供給は、歴史的に非常に重要な生態系サービスである。自然のシステムは、建築と燃料
用に、極めて多種多様な原料、特に野生または栽培植物種から直接得られるオイルと木
材を提供する。木材及び非木材林産物の生産は、世界の森林の 34%の主な商業的機能で
ある一方、全体の半数を超える森林が、そのような生産のために、たとえば土壌と水の
保護、生物多様性の保全、そしてレクリエーションといった他の機能と組み合わせて使
用される。しかし、人工林に相当するのは世界の森林被覆の 3.8%に過ぎず、自然林の相
当な部分が生産用途に使用されることを示している(FAO 2006)。
現在、生物由来物質が大部分を占める再生可能資源から得られるエネルギーの比率を上
げることへの強い関心と強力な政策がある。これは、今のところ、一部はバイオマス作
物の栽培によって、そして一部は人または動物の食料として使用可能な、小麦及びトウ
モロコシを含む材料の転用によって、ガソリンや他のオイル由来燃料の代用品としてエ
タノールを製造することにより、実現されている。最近では、バイオ燃料のための藻類
栽培に向け、多大な取り組みがなされている。ほとんどの栽培の試みにおいては、油分
が多いことが知られている微細藻類が選択されているものの、大型藻類バイオマスを使
用した調査もいくつか進行中である(Ross et al.2008; Adams et al.2009)。耕地も淡水も
必要としないこの生産は、陸地における代替手段の社会的費用を伴うことなくクリーン
エネルギーを作り出す 1 つの方法かもしれない。ただし、これらの栽培は非常に大規模
な事業となることから、そのより幅広い環境影響が明らかにされなければならない。こ
れに関連して、Hill et al.(2006)は、バイオエタノールに比べ、バイオディーゼルは著し
い環境上の利益を生み出すため、補助を受けるに値すると主張している。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
食料生産の場合と同様に、生産林で栽培される種の組み合わせは、木材生産の収益率が
最大になるように選択され、また、一般に、木材とともに生み出される、流域の保護、
生息環境の提供、気候の改善といった生態系サービスの範囲を反映しない。保管林は、
22
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
通常、農場と同様に、少数の種に依存する。樹種の多様性が大きければ、バイオマスの
観点から森林はより生産的なものになるかどうかという問題は、いくつかの研究で取り
上げられており、結果はまちまちである。たとえば、樹種の多様性は、中欧の自然林の
地上バイオマスとは負の相関があり(Szwagrzyk and Gazda 2007)、スペインのアレッポ
マツ及びピレネースコッツの森林の生産性とは相関がなく(Vilà et al. 2003)、地中海型
先駆森林の木材生産にはプラスの効果があることが発見された(Vilà et al.2007)。種の多
様性は森林の生産性向上につながる場合があるものの、多様性の高いサイトでは、一般
的に商業種の割合が低い(FAO 2006)。その一方で、種の豊かさは、個々の木の成長が促
進されることにより、熱帯樹植林地の生産量を増大させることが分かっており(Potvin
and Gotelli 2008)、また、樹種への害虫の影響を減じる場合がある。しかし、今のとこ
ろ、商用木材生産は少数の種によって占められている。
土地をベースとしたすべてのバイオ燃料生産は、土壌生物の生物多様性が重要な、たと
えば栄養や水の循環といった基盤及び調整のサービスに依然として依存するものの、バ
イオ燃料については、ほとんどの生産システムで作物の生物多様性が直接的な役割を果
たすことはなさそうである。例外は、第 2 世代のバイオ燃料として刈り取られた草地を
使用する提案である。そのようなシステムでの持続的生産は、おそらく、多様な植物種
の混合によって最良に達成し得る。藻類を使用したバイオ燃料の生産は、栽培が行われ
るさまざまな場所に適した種を提供するという面で、水生生物多様性に依存する。
サービスはどこで生成されるのか?
ほとんどの生態系はサービスを提供するのに重要であり、これには、森林、サバンナ、
草地、そして海洋及び沿岸システムが含まれる。バイオ燃料の生産に利用される可能性
がある生態系には、森林、耕地一般、そして草地が含まれる。市場投入までの時間の問
題は、食料生産システムの場合よりも重要性が低いことから、現在、農業の耕作限界と
見なされている土地には、バイオ燃料を生産させる強力な圧力が存在するようである。
地価の低い、比較的近づきにくい遠隔エリアは、バイオ燃料システムの対象となり、レ
クリエーションと生物多様性保全の対立をもたらす可能性がある。
サービス提供の不確実性
植林面積の減少に比例して、天然の木材、植物繊維、及び薪の供給の低下が生じるであ
ろうと考えられる。残された森林の総面積を考えると、断片化は、予期されるよりもは
23
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
るかに急速な森林生産性の低下をもたらし得る(Laurance et al.2001)。気候変動は森林
火災のリスク増大にも関与していて(たとえば Westerling et al.2006)、断片化と気候変
動の複合的影響は、相重なって火災リスクを急激に上昇させる場合があり、種は生態学
的に火災に適応しておらず、各々の火災事象は、将来、火災が発生する可能性を高める
傾向があることから、これは熱帯雨林では特に壊滅的である(また、可逆的である可能性
が低い)可能性がある。
3.4
遺伝資源
サービスの背景及び重要性
農作物の遺伝的多様性は、生産性を上げ、有害生物及び気候変動に対する脆弱性を下げ
る(Ewel 1986; Altieri 1990; Zhu et al.2000)。特に低投入型システムでは、局所的に適
用した変種は、最適条件下で高い能力を実現すべく改良された品種よりも、しばしばよ
り多くの収穫高を生み出すか、あるいは、害虫に対する抵抗性が高い(Joshi et al.2001)。
農業では、遺伝資源の多様性は、伝統的資源(野生型及び栽培された古い在来種)と現品
種から成る。遺伝資源は、生産量の増加、病害抵抗性、栄養価の最大化、そして地域的
な環境及び気候変動への適応の広範な目的とともに、育種計画(たとえば作物、家畜、漁
業、及び水産養殖)のサポートにおいて重要性を増すであろう。育種では、遺伝子研究の
進歩によって新たな時代が開かれつつあり、ここでは、遺伝子と形質の関連(マーカー利
用選抜)によって、従来の育種計画よりも効率的で予測可能な改良種への径路が提供され
る。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
生物多様性が低下すると、必然的に遺伝的多様性は失われることから、これは、生物多
様性が最も重要となるサービスである。サービスとしての遺伝的多様性への最大の焦点
は、農業のための遺伝子プールの保護にある。国連の食糧農業機関(FAO)は、食用作物、
家畜、漁業/水産養殖、及び林業のセクターにおいて、遺伝資源の特性化をサポートすべ
く、地球規模で極めて重要な作業を行ったが、遺伝資源のトレンド分析に関して定量化
できるデータは非常に限られており、また、比較的短い期間についてのみ収集されてい
る。現在、世界中の生息場所(たとえば育成中の作物)及び生息場所以外(たとえば種子及
び DNA バンク)に、遺伝資源を収集、保全、調査、及び管理するためのイニシアチブが
多数存在する。分子マーカーを使用する新たな技法は、コレクション内の生物多様性(分
24
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
子系統分類学及び分類学のレベル)及び遺伝的多様性の特性化に新たな精度を提供して
おり、これはギャップと冗長性を特定する管理戦略の開発に大きな助けとなる(Fears
2007)。Box2 は、作物のストレス耐性の改良に対する、この遺伝的多様性の蓄積の根本
的な重要性(オプション/保険価値)を浮き彫りにする。
Box2: 遺伝子レベルでの生物多様性
サクセスストーリー
たとえばバングラデシュやインドなど、世界の低地農業地域では、農民は、洪水によっ
て、3,000 万人を養うに足る、最大で 400 万トンの米(Oryza sativa)の作物損失を 1 年間
に被っており、広大なアジアの天水低地地域におけるそのコストは、およそ 10 億ドルに
達する。伝統的なインドの品種である FR13A にもともと見られ、後に分子マーカーによ
って確認され、従来の植物育種によって現品種に移された冠水耐性(Xu et al.2006)は、多
遺伝子「Submergence-1」(Sub1)遺伝子座の Sub1A-1 遺伝子という特定の遺伝子によっ
て与えられる。この遺伝子は、洪水に反応して米の茎が伸びるのを止め、洪水が引いた
際のさらなる成長のために炭水化物を確実に保存し、感受性品種よりも収穫高を高める
(図 2 参照)。系統発生解析は、南アジア及び東南アジアの湿地帯に残る野生類縁種 O.
rufipogon 及び O. nivara にも、この特定の遺伝子が存在することを示している。たとえ
ばベトナム南部の Plain of Reeds など、これらの湿地帯は、水流及び水質の調整に生態
系サービスを提供するのみならず、Oryza 種の遺伝的多様性進化のための生息環境とし
ても機能する。
穀粒収量(ヘクタールあたりのトン数)
水没日数
図 2:米品種 Swarna の収穫高への Sub-1 遺伝子挿入の影響。この遺伝子は、初期の浸
水に対する耐性を与える。イネは、国際稲研究所の野外試験において、14 日目の
苗を移植してから 14 日後、完全に水に浸された(Mackill 2006)。
25
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
現在の脅威
東アフリカ高地における 1999 年の小麦さび病(Puccinia graminis)の新種(Ug99)の進化
と、それに続くケニアからエチオピアへの範囲拡大の後には、胞子を拡散する西から東
への気流が続いた。最新の品種には抵抗性がないため、これは世界の小麦生産を脅かす。
東アフリカからアラビア半島を経て地中海、そしてヒンドスタン平野の米小麦地帯に至
る潜在的な移動経路は、南アジアの食糧安全保障にとって大きな脅威となっている。数
百万の人々の暮らしを支える作物の収穫を失うリスクを緩和するための戦略には、生産
力のため、局所適応型品種に長期耐病性を仕込む必要がある。品種別の耐性遺伝子のさ
まざまな組み合わせを新たな品種に組み入れることは、事態を前進させる一法である。
そのような遺伝的多様性は、小麦の野生類縁種(たとえば Triticum speltoides 及び T.
monococcum)や、伝統的なケニアの在来種の生殖質には存在する(Singh et al.2006)。
サービスはどこで生成されるのか?
すべての生態系は、それらの遺伝資源にとって重要である。農業生物多様性は、人間に
よるこれまでの品種改良の取り組みにより、特別な状況を有し、従って、食糧及び農業
の資源を保全するための、植物遺伝資源条約の固有の焦点を有するものと考えられる。
多収穫食用作物品種による品種の置き換えは、農作業の他の変更とともに、栽培物にお
ける遺伝的多様性の低下を促進している。より集約的な農業に関連した遺伝的多様性の
喪失は、生態系内の栽培化されていない植物や家畜化されていない動物にも有害な影響
を及ぼす。作物の遺伝的多様性の低下は、それらの遺伝的脆弱性や、たとえば生物的及
び非生物的ストレスに対応するための柔軟性に影響を与える。
サービス提供の不確実性
場所と遺伝的多様性の関係が線形ではなさそうなことを考えると、場合によっては、場
所内の小さな変化(生息環境または伝統的な農地)が、不相応な作物または家畜の遺伝的
多様性の損失をもたらすことも考えられる。これは、特定の品種及び種族の残りの個体
群が極めて少数であるような、広範な生息地の喪失や土地転換をすでに被っている場所
で、おそらく可能性が高まる。気候変動も、作物及び家畜の遺伝的多様性に非線形的な
影響を及ぼす場合がある。
26
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
3.5
薬用資源及び他の生化学資源
サービスの背景及び重要性
生化学薬品には、たとえば代謝産物、調合薬、栄養物、作物保護薬品、化粧品、そして
他の工業用天然物(たとえば酵素、ゴム、エッセンシャルオイル、樹脂、染料、ろう)や、
ナノテクノロジーへの適用ならびにより幅広い状況においてますます重要になる可能性
のあるバイオミメティックスの基礎としての天然物など、さまざまな高価値の化学薬品
が含まれる(Ninan 2009)。最もよく特徴が分かる例の一部は調合剤で、その価値は、先
住民族の知識で長く認識されている。
「米国で使用される上位 150 の処方薬のうち、118
は自然源に由来し、その 74%は植物、18%は菌類、5%はバクテリア、そして 3%は 1 つ
の脊椎動物(ヘビの種)からのものである」と推定されている(ESA 2000)。これらの高価
値生化学生産物に加え、バイオエネルギーの他にも、化学原料へのバイオマスの使用に
おいて、関連する重要な考慮点があり、ここでは、統合生物精製所の開発により、工業
化学の基礎的要素(基礎化学物質)が生成される。米国環境保護庁の報告(2007)は、たと
えばセルロース、タンパク質、ポリラクチド、植物油ベースのプラスチック、そしてポ
リヒドロキシアルカノエートには、(オイル由来と比較して)経済的に競争力のある製品
が手の届く範囲にあると結論付けている(Ahmann and Dorgan 2007)。高価値生成物は
採算の合うバイオマスを利用し、大きな土地利用紛争につながる場合がある。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
生物多様性は生物資源調査の基本的な供給源であるが、どの種または生態系が重要な情
報源となるかはめったに予測できない。さまざまな種、すなわち微生物、植物、及び動
物は、生化学薬品の貴重な源であるものの、これまでの実績は、より系統的なスクリー
ニングによって可能なもののごくわずかな割合に過ぎないと考えられる。現在の世界的
な生物多様性の減少が、新たな生化学薬品の発見に及ぼす影響は、おそらく大幅に過小
評価されている。たとえば木材の切り出しなど、比較的価値の低い活動に起因する生物
多様性の喪失は、新たな生化学薬品及び薬品の探求に関連した、将来の(まだ発見されて
いない)高価値活動を危うくする恐れがある。
サービスはどこで生成されるのか?
すべての生態系は、生化学薬品の潜在的な供給源である。海や海岸線、淡水系、森林、
草地、そして農地から、数々の例を挙げることができる。たとえば熱帯林など、種が豊
27
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
かな環境は、しばしば、生成物の大半を供給するものと考えられてきた。しかし、生態
系の商業的価値または他の価値を評価するための、確固とした信頼できる方策が全般的
な欠如しているという問題は、ほとんどの生化学的資源はまだ発見及び利用されていな
いという予想によって悪化する。微生物は、未発見の代謝能において特に豊かだと考え
られ、土壌生態系の複雑さは、そこで新たな生化学薬品を探索することの可能性を示唆
する。
サービス提供の不確実性
種の豊かさは、多様性に富んだ地域で生息地破壊が進むにつれ、急減する場合があり(た
とえば Forest et al.2007)、生化学薬品の供給源は、たとえば状態の変化を経るサンゴ礁
において、突然変わることがある。
3.6
観賞用資源
サービスの背景及び重要性
生物多様性は、人間社会の発展を通じて、象徴的な、飾りだけの役割を果たしてきた。
植物及び動物の一部、とりわけ羽毛の使用は、個人に地位、身分、そして影響力を付与
するのに重要であった。観賞植物は、通常、花を見せるために育てられるが、その他の
一般的な観賞用の特徴には、葉、香り、果実、幹、そして樹皮が含まれる。多大な探査
の取り組みと、発見の旅の根本的な理由のいくつかは、生物多様性にあまり恵まれてい
ない社会の富裕層が、公園、庭園、個人の温室、そして動物園で楽しむために、種を探
索し、移動することによって支えられた。
現代の例は、観賞魚は世界で最も一般的なペットであり、1999 年の年間売上高が 30 億
ドルに相当するような業界となっている、というロンドン動物学協会の声明で与えられ
る。種のおよそ 10%は野生地から捕獲され、種族の生存に懸念を生じさせている(ZSL
2006)。2000 万を超える淡水魚がブラジルのアマゾン川から毎年輸出され、これにより
2006 年には 300 万ドルの利益が生み出された(Prang 2007)。鳥類は、生物多様性の観
賞的価値の、もう 1 つの焦点である。1992 年には、CITES (絶滅のおそれのある種の国
際取引に関する条約)に示された野鳥の取引が米国で禁じられ、
「取引の 87%は EU が占
めることとなった」(RSPB 2007)。動物と人間の健康を危惧し、EU は 2007 年 7 月から
取引の禁止を発令し、おそらく年間 200 万羽を超える野鳥をペット取引から救った。禁
28
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
止の後、英国鳥類保護協会は、CITES に示された絶滅の危機にある鳥の取引が、年間約
800,000 件から数百件に減少する可能性があると見積もっているが、これは「動物園や
一部のペットオーナーによる EU 内への少数の野鳥の輸入がまだ可能である」ことによ
る(RSPB 2007)。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
サービスは完全に個々の種と関連しており、存続可能な個体群の維持に対して極めて敏
感である。
サービスはどこで生成されるのか?
第 3.5 項のサービスと同様である。
サービス提供の不確実性
第 3.5 項のサービスと同様である。
調整サービス
3.7
大気質の調整及び他の都市環境品質の調整
サービスの背景及び重要性
生態系は、とりわけ、植物が大気汚染や騒音を大幅に低下させ、
「都市部のヒートアイラ
ンド」の影響を軽減し(たとえば Santomouris 2001)、気候変動に関連した影響を和らげ
ることのできる(Bolund and Hunhammar 1999)都市地域において、人間の福利にとっ
て重要な、いくつかの環境調整サービスに寄与する。この可能性は、大きなものである
ことが多い(たとえば Pickett et al.2008)。たとえば、シカゴ地域では、樹木が年間 5,500
トンもの大気汚染物質を除去し、大気質を大幅に改善していることが分かった
(McPherson et al.1997)。植物は騒音のレベルを減じ、密集した低木(幅 5 m 以上)は騒
音レベルを 2 dB(A)減じることができる一方、幅 50 m の栽培樹木はノイズレベルを 3.6
dB(A)低下させることが可能である(Bolund and Hunhammar 1999)。1 年を通して騒音
の削減に寄与することから、常緑樹が望ましい(Ozer et al. 2008)。都市部の公園及び植
物は、都市のヒートアイランド現象を減じ、グリーンルーフやグリーンウォールのよう
に建物外面が植物で覆われると、都市部の温度を下げる重要な潜在能力を持っており、
29
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
その効果は暑くて乾燥した気候で最大となる(Alexandri and Jones 2007)。全般的な気
候変動の緩和に関しては、都市生態系は無視できない量の炭素を吸収することができ、
たとえばストックホルム郡では、生態系がすべての人為起源の CO2 の約 17%を吸収し
(Jansson and Nohrstedt 2001)、また、米国本土の住宅の樹木は、1 年間に 20~40 テラ
グラムの C を隔離することができる(Jenkins and Riemann 2003)。
緑地、植物、及び樹木にも直接的な健康効果があり、たとえばニューヨークの調査では、
街路樹の存在が、著しく少ない初期小児ぜんそくの患者数と関連付けられた(Lovasi et
al.2008)。緑地のアクセシビリティは、死亡率の低下(Mitchell and Popham 2008)や、
全体的な健康の感覚(たとえば Maas et al.2006)にも結び付けられている。Bird (2007)
の調査では、たとえば、不安やストレスへの対処、自制心の乏しい児童の治療、活動過
剰及び注意欠陥多動性障害(ADHD)、老人介護の利用及び認知症治療、児童及び会社員
の集中力、児童の健全な認知発達、犯罪及び攻撃性を減少させる戦略、コミュニティの
強化、そして福利と心の健康といった、数多くの健康指標と、緑地へのアクセスとの間
に関連性が示された。しかし、緑地の分布とさまざまな社会経済的集団の緑地のアクセ
シビリティは、都市の間に大きな格差があることを示し(たとえば Pickett et al.2008)、
複合的な影響は常に区別できるわけではないものの、社会経済的集団の健康の不均衡に
寄与している(Bird 2007)。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
生物多様性と種組成の変動が、環境品質サービスの生成にどの程度の役割を果たすのか
については、まだ十分な調査がなされていない(Elmqvist et al.2008)。大気質について
は、フィルタリングの能力は葉の面積とともに増し、従って低木の茂みや草地よりも樹
木の方が高い(Givoni 1991)。針葉樹は、落葉樹よりもフィルタリング能力が大きい
(Givoni 1991)。図 3 は、人為的影響の度合いに対して仮定される種の豊かさの分布を示
す。都心は種が少なく、違いの大きな種が生態系サービスの生成に関与することが地方
よりも多い。興味深いことに、都市部の植物種の数はしばしば人口の大きさと相関し、
植物の多様性は、たとえば米国のフェニックスで示されるとおり、経済的な豊かさの程
度と正の相関関係を有する可能性がある(Kinzig et al.2005)。
30
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
種の多様性
郊外順応者
都市回避者
都市開拓者
郊外
都市
人為的影響の程度
図 3:生物は、増大する人間の影響に対して異なった反応を示す。都市回避者は、大型
種もしくは後期遷移段階に関連付けられる種である。これらの種は、非常に感受
性が強い可能性があり、中程度の人間の影響ですでに減少を示している。郊外順
応種は、さまざまな度合いで人間による地勢の変更を利用する場合があり、数多
くの植物及び動物の種がこのグループに属するものと思われる。都市開拓者は、
食料、繁殖、または保護について、人間の存在から直接的に恩恵を受けており、
普遍種、ジェネラリスト種である場合が多い。出典: Elmqvist et al., (2008)。
サービスはどこで生成されるのか?
都市生態系サービスは、さまざまな生息環境で生成される場合があり、これには、公園、
墓地、空き地、川、湖、庭、キャンパスエリア、ゴルフコース、橋、空港、そして埋立
地が含まれる。外来種が生態系サービスのフローの縮小または増大に寄与する度合いは、
どの都市部においても実質的に知られていないが、外来種は都市生物相のかなりの部分
を占めることから、外来種がどの程度有害なのかということだけでなく、一部の外来種
がどの程度局所的な多様性を強化し、重要な機能的役割を維持することができるのか、
ということを知ることが重要である。
サービス提供の不確実性
都市生態系サービスの不確実性とダイナミクスについては、かなりの知識のギャップが
残っている。世界の生態系をほぼすべて網羅したミレニアム生態系評価(MA 2005)では、
概して都市システムが無視されたのに対して、世界最大の都市化評価である世界開発報
告(世界銀行 2009)では、生態系が除外された。都市景観の孤立及び断片化が環境品質サ
ービスの持続的な生成に影響する度合い、そして、これらのサービスにとって重要な生
態系機能に対する、気候変動と種の急速なターンオーバーの影響には、相当な不確実性
31
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
が関連する。
3.8
気候調整
サービスの背景及び重要性
気候は、生命の進化と維持を促す温度に地球の表面を保つ、天然の「温室効果」によっ
て地球上で調整される。気候の変動には幾多の因子が相互に作用し、これには、大気中
の雲、粉塵、及びエアロゾルによる太陽放射の反射が含まれる。近年、気候は変動して
おり、地球は温暖化している。現在の変動は、主として土地利用の変化、そして化石燃
料の燃焼率の急増による、大気中の微量ガス濃度の増加によって主にもたらされている。
主な温室効果ガス(CO2)は、直接的には水、間接的には(光合成を通じて)植物によって吸
収され、バイオマス及び土壌内に有機物として貯蔵されるに至る。炭素を貯蔵する土壌
の能力は、気候の主な調整因子である。その他の温室効果ガス、とりわけメタン(CH4)
と亜酸化窒素(N2O)は、土壌微生物によって調整される。海洋環境内の生物は、生体組
織内に CO2 を蓄えたり、あるいは吸い込んだり制御することにより、また、海底の沈
殿物内への炭素の埋没を促すことにより、炭素フラックスの調整を通じた気候変動対策
において重要な役割を果たす(Beaumont et al.2007)。ガスまたは気候の調整者としての
海洋環境の能力は、その生物多様性に大きく依存する。
もう 1 つの問題は、アルベド、つまり陸地表面による入射放射線の反射への、植物の影
響である。濃い色の表面、特に常緑樹で覆われた表面は、明るい色の表面、とりわけ雪
で覆われた表面よりも多くの放射線を吸収する。従って、寒帯の植林は、温暖化のレベ
ルの上昇につながり、潜在的に新たな木々による炭素隔離の強化から予想される減少を
上回る可能性がある。
エアロゾルは、放射線を遮断及び分散し、また、雲凝結核として機能することによって、
地球の表面に達する太陽放射を減じ、気候に大きな影響を及ぼす。海洋システムによる
エアロゾルの生成は十分に解明されており、気候モデルにおいて考慮されている。しか
し、エアロゾル粒子を形成する可能性のある生物起源の揮発性有機化合物を、森林がか
なりの量放出することの証拠が増している。従って、森林は、CO2 を吸い込む装置でも
あり、エアロゾル粒子の源でもあり、また、アルベドの決定因子でもある(Kulmala et
al.2004)。
32
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
生物多様性と気候調整の相互作用は、十分に理解されていない。陸上生態系の炭素の最
大の単一貯蔵場所は、地球規模では寒帯及び北半球の冷温域の泥炭土内である。泥炭地
の気候変動に対する反応は、地球規模炭素循環の潜在的なフィードバックを予測するの
に不可欠である(Belyea and Malmer 2004)。土地利用の増大は、土壌の炭素蓄積や微量
ガスの放出にも大きな影響を与える可能性があることから、泥炭地の気候調整機能は土
地利用にも依存する。排水され、採掘された泥炭地のエリアを考えると、採掘され、放
棄された泥炭地の復元は、炭素隔離の強化を通じ、重要な生物的オフセットとなり得る
(Waddington et al.2001)。しかし、泥沼も強力な温暖化ガスの主な発生源であり、土壌
微生物の生物多様性は、微量ガス(メタン)の生成に重要な役割を果たしている可能性が
ある(Roulet 2000)。土壌の生物多様性が、炭素隔離または微量ガス放出のいずれかにつ
ながる主なプロセスに果たす役割の根拠は、今のところ薄弱である。
大気と海の間の CO2 交換は、大気と陸上生態系の間の CO2 交換よりも大きい。この一
部は、CO2 と炭酸塩の平衡が関与する物理的なプロセスによって生じるが、大部分は生
物学的プロセスによって説明される。海洋大型植物は地球上のバイオマス炭素の 1%に
満たないものの、海の純一次生産力は、すべての陸生システムのそれにほぼ等しい。
サービスはどこで生成されるのか?
土壌はすべて炭素を貯蔵するが、その程度は大きく異なる。最大の貯蔵場所は泥炭地で
あるが、有機物の豊富な土壌は、特に低温、低 pH、または湛水によって分解が妨げら
れるような、数多くの生態系においてうまれる。森林は、植物のバイオマスに貯蔵され
た炭素の量が、土壌中のそれを上回る唯一の主要生態系であり、従って、森林破壊も気
候調整に影響を及ぼす。農業生態系は、集約的生産方法のために、現在のところ土壌の
炭素貯蔵量が少なく、従ってそれらの貯蔵は強化の余地がある。海洋生態系も、炭素隔
離とエアロゾル放出を通じて、気候調整に大きな役割を果たす。
サービス提供の不確実性
多くの不確実性はこのサービスに関連しており、特に、生態系プロセスと大気の変化の
間の、フィードバックの大きな時間差に関係する。地球規模炭素循環は強力にバッファ
リングされ、人間の活動によって大気中に放出される CO2 の多くは、海及び陸上の生
33
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
態系で吸収される(Janzen 2004)。しかし、放出率は吸収能力を次第に超え、また、同時
にこの能力は生態系への人為的ダメージによってさらに減じられる。この複雑な相互作
用と大きな時間差により、最終的な結果、もしくは、重要な閾値を超えるかどうか、あ
るいはいつそれが起こるか予測することが極めて困難になる。
3.9
極端な事象の緩和
サービスの背景及び重要性
極端な事象又は「自然災害」は、ここでは、生命、健康、または財産に高いレベルの脅
威を及ぼし得る希少な現象として定義される。生物は、たとえば森林(マングローブを含
む)、サンゴ礁、海草、海中林、湿地帯、そして砂丘など、天然の障壁または緩衝を形成
及び創出することができ、これらは、海岸暴風(Wells et al. 2006)、ハリケーン(Costanza
et al.2006)、 貯 水 池 に 由 来 す る 洪 水 (Bradshaw et al.2007)、 津 波 (Kathiresan and
Rajendran 2005)、雪崩(Gruber and Bartelt 2007)、野火(Guenni et al.2005)、地滑り
(Sidle et al.2006)といったいくつかの自然災害の影響を軽減することが可能である。こ
れらの影響の一部について入手可能な証拠はまだ少なく、意見が分かれる場合もある。
多くの危険は、人間と自然環境の相互作用から生じ、環境の変動に対して敏感である。
それらの例には以下が含まれる。
z
雨水を保持することのできない、密に管理された生態系への異常降雨事象による鉄
砲水
z
地滑り及び雪崩
z
海面上昇による高潮と海岸周縁部の利用増大
z
夏の極端な温度と相まった化石燃料の集中的な利用による空気汚染
z
人間の介在の有無に関係なく、長引く干ばつによって生じた火災
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
自然災害からの保護の提供における役割は一般的に小さいものの、生物多様性には、そ
のような擾乱からの回復を促進する役割がある。一部の特定のケースでは、影響を受け
る生態系の生態学的完全性が最も重要であり、生物多様性の喪失は回復力(レジリエン
ス)を低下させる可能性がある。生物多様性は、たとえばかなりの生態系サービスを提
供するマングローブなど、湿地帯及び沿岸システムの保全において、中心的役割を果た
34
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
す。たとえば、海面の上昇は、塩性沼沢や他の遷移生態系の存亡にとって極めて重要な
塩性植物に強い選択圧を加える(Marani et al.2004)。山林においては、樹種の増加は、
たとえば落石に対する保護的価値を高めると考えられる(たとえば Dorren et al.2004 参
照)。
サービスはどこで生成されるのか?
洪水は、切り立った森林伐採地域の貯水池、平坦な沖積平野、そして、水の流れが制約
された都市生態系を含む、さまざまな生態系の問題である。また、洪水は、異常に満潮
位や高潮によっても発生し、上昇する海面によって悪化する問題である。沿岸湿地は、
潮による洪水の防御に大きな役割を果たすことが知られている。管理林または自然林の
防風は、激しい嵐と強風への暴露による一般的な損害の双方から作物や住居を保護する
ための、伝統的な方法である。これらすべてのケースにおいて、植物の役割は構造的な
ものであり、種の組成がシステムの安定性と回復力(レジリエンス)の制御に果たす役
割は、普通、間接的なものとなる。
海洋植物相及び動物相は、沿岸地域の防御に重要な役割を果たすとともに、高潮、嵐、
そして洪水の影響を緩和ならびに防止することができる。この攪乱軽減サービスは、主
として、堆積物を結合して安定させ、たとえば塩性沼沢、マングローブ林、海中林、そ
して藻場など、海の天然の防御物を作り出す、さまざまな種によって提供される
(Rönnbäck et al.2007)。自然災害制御サービスは、湿地やマングローブといった天然の
緩衝の喪失により、減少傾向を示している。たとえば、1980 年には、地球を覆うマング
ローブ林 1,880 万ヘクタールの 20%、すなわち 360 万ヘクタールが失われ(FAO 2007)、
サンゴ礁の 20%はこれまでのわずか 20 年で深刻に荒廃し(Wilkinson 2006)、沿岸湿地
の喪失は急激に進んで、一部のエリアでは年間 20%に達している。一方、自然災害に対
する人間の脆弱性をかんがみて、これらの生態系によって提供される調整の価値は高ま
っていると思われる。
サービス提供の不確実性
自然災害の軽減への生態系の影響は、まだ十分に理解されておらず、このサービスの急
激な変化が、たとえば気候変動によるサンゴ礁または森林の規模縮小といった、生態系
の拡張及び状態の急激な変化とどの程度関連付けられるのかは定かでない。災害制御と
生態系拡張の関係が逆漸近的関係ならば、過去の生態系損失が広範囲に及んでいる地域
35
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
は、このサービスの提供において、先々、過度に低下する可能性がある。
3.12
浸食防止
サービスの背景及び重要性
たとえば、植被の欠如が、干ばつと相まって、未曾有の風食をもたらし、農地や生活を
破壊した、1930 年代のアメリカの黄塵地帯など、歴史的な典型例が示すとおり、植被は
土壌の浸食を防止する大きな要因である(Cooke et al.1936)。地滑りの頻度は増加してい
るようであり、土地利用の変化、とりわけ森林破壊は、その原因の 1 つである。急傾斜
地では、森林は、土壌の水分状況を変更することによって、地滑りを防ぐ(Sidle et
al.2006)。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
多雨または極端な流出がみられる地域では、森林は、草地や草本中心群落よりも効果的
な場合があるものの、この生態系サービスは、種に限定されたものではなく、生物多様
性一般に依存するものでもない。
サービス提供の不確実性
第 3.9 項のサービスと同様である。
3.13
土壌品質の維持
サービスの背景及び重要性
土壌形成の過程は、母材の性質、生物学的過程、地質、そして気候によって決定される。
これには、養分循環を支える能力が限られている鉱物マトリックスの、無機成分と有機
成分の双方、そして化学的及び生物学的変換が生じる固相、液相、及び気相を有する複
合培地への変換が含まれる。有機物質の進行性の蓄積は、ほとんどの土壌の発達の特性
であり、さまざまな微生物、植物、及び関連生物の活動に依存する(Brussaard et al.1997;
Lavelle and Spain 2001)。土壌成分は養分循環に支えられており、これはすべての生態
系で生じ、また、生産性と強力に結び付く。主要な要素は窒素で、これは、大気中で大
量に発生し、バクテリアによって生物学的に利用可能な形式(アンモニウム)へと変換さ
れる。窒素肥料は次第に値上がりし(コストのおよそ 90%は、通常、ガスからのエネル
ギー)、従って供給は持続可能でない。生物による窒素固定は、世界のあらゆる窒素固定
36
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
のほぼ半数を占めており、持続可能な農業システムは、将来、ますますこのプロセスに
依存しなければならなくなる。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
多くの土壌中の有機物質の大部分は、土壌動物の排泄物に由来し、土壌の全体構造及び
微細構造の双方は、生物学的活動によって決定される。微細なスケールでは、構造は、
真菌菌糸、菌根菌の活動、ほとんどの土壌において最も菌類の豊富な植物の根との共生
に依存する場合がある(Miller and Jastrow 2000)。
養分循環には多くの異なる種が関与し、これにはしばしば複雑な生化学が関係する数々
の要素の変換が含まれる。窒素循環は、植物群落の多様性、とりわけ特定の機能群の存
在に依存する場合がある。土壌の生物多様性は、特に養分循環に強力な影響を及ぼす。
Barrios (2007)は、生態系サービスと土地生産性に対する土壌生物相の重要性について
再検討し、植物の可給態養分、とりわけ、たとえば根粒菌などの土壌バクテリアによる
生物窒素固定を通じた窒素と、アーバスキュラー菌根菌を通じたリンの増大という、微
生物共生体の作物生産量への肯定的な影響を強調した。
土壌による強力な固定により、作物では、5~10%の添加リン酸塩しか回収されない。自
然生態系では、共生菌根菌は土壌から植物へのリンの移動の主な径路であり、菌根菌の
多様性は、植物の多様性と養分効率の双方、そして場合によっては水利用効率も調整す
ることが可能である(Brussaard et al.2007)。持続可能な農業システムでは、現在、耕地
システムにおける多様性が非常に低い菌根菌のさらなる利用が必要となる(Helgason et
al.1998)。種の多様性というより、むしろ機能的多様性(及び栄養相互作用へのその影響)
が分解、養分循環、そして土壌プロセスの安定性の鍵のようである。
サービスはどこで生成されるのか?
土壌形成は、すべての陸上生態系において連続したプロセスであるが、地面が露出した
後(たとえば氷河作用の後)の初期の段階において特に重要かつ活発である。
サービス提供の不確実性
新たな地域への農業の拡大においては、特に農業には適していない領域が使用されるこ
とが多々あり、作物が効果的に土壌の養分を摂取すると、土壌肥沃度が急激に低下する
37
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
場合がある(Carr et al.2006)。
3.14
授粉サービス
サービスの背景及び重要性
一部の見積もりでは、75%を超える世界の作物及び調合薬の素となる種の植物の多くは、
授粉媒介動物による授粉に依存する(Nabhan and Buchman 1997)。主食作物が授粉媒
介 者 サ ー ビ ス に 依 存 す る 度 合 い に は 疑 問 が 呈 さ れ て い る も の の (た と え ば Ghazoul
2005)、Klein et al.(2007)は、115 の主要なグローバル作物(世界的な食料供給の最大 35%
に相当)のうち、87 の作物では、動物媒を通じて果実または種子の数や質が増大したこ
とを発見した。多くの農業システムで、授粉は、飼養化された授粉媒介者、とりわけミ
ツバチ(Apis mellifera)の個体群の形成を通じて、積極的に管理されている。しかし、農
業生産にとっての野生の授粉媒介者の重要性は認知されつつあり(たとえば
Westerkamp and Gottsberger 2000; Kremen et al.2007)、野生の授粉媒介者が養蜂と
相乗的に相互作用し、作物の生産量を増加させる場合もある(Greenleaf and Kremen
2006)。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
蜂は、作物の授粉サービスを提供する主要な分類群であるが、鳥、コウモリ、蛾、ハエ、
及び他の昆虫も重要である可能性がある。農地の調査では、一般に、森林断片からの距
離が増すと、訪花蜂の豊富さと種の豊かさの双方が減少することが示され(たとえば
Steffan-Dewenter and Tscharntke 1999)、また、最近行われた 23 の調査の量的見直し
では(Ricketts et al.2008)、自然または半自然の生息環境までの距離とともに、授粉媒介
者 の 豊 か さ と 、 在 来 授 粉 媒 介 者 の 訪 問 率 に 指 数 関 数 的 減 衰 が 見 ら れ た 。 Hajjar et
al.(2008)は、農業集約化と生息環境の喪失による農業生態系の多様性の喪失は、授粉シ
ステムの維持に悪影響を及ぼし、世界中の授粉媒介者の喪失をもたらすとした(Kearns
et al.1998; Kremen and Ricketts 2000; Kremen et al.2004; Richards 2001)。Richards
(2001)は、作物種の結実または結種不良と、結果として生じた作物収量の減少の原因が、
授粉媒介者の多様性の貧困化に帰される、十分に裏付けられた事例を検討しなおした。
農業に隣接した生息地の野生の授粉媒介者を保護することは、授粉サービスのレベルと
安定性の双方を向上させ、収穫高と収益の増大につながることを、ますます多くの証拠
が示している(Klein et al.2003)。さらに、在来授粉媒介者の多様な集団は、年ごとの個
体群の変動や、特定種の授粉媒介者の喪失に対する保険を提供するとともに(Ricketts
38
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
2004; Tscharntke et al.2005; Hoehn et al.2008)、授粉媒介者に特有の、顕花植物また
は作物畑に対する空間選好により、花に対してより良い働きをする可能性がある(Klein
et al.2007)。養蜂ミツバチの個体群の現在の減少と(Johnson 2007)、ミツバチの「アフ
リカ化」の影響を受ける地域の養蜂の放棄(Brosi et al.2007)を考えると、野生の授粉媒
介者の重要性は増すものと思われる。
サービスはどこで生成されるのか?
ほとんどの種が風媒授粉である、種に乏しい寒帯及び北極圏のシステムでは重要性が最
も低い可能性があるものの、このサービスは、すべての生態系にとって重要である。授
粉媒介者の種は、営巣の供給(たとえば樹洞や適切な土壌基質)や、作物畑では見つけ出
すことのできない花資源について、自然または半自然の生息環境に依存することが多い
(Kremen et al.2004)。従って、利用可能な自然の生息環境は、授粉媒介者の種の豊かさ
(Steffan-Dewenter 2003)、豊富さ(Heard et al.2007; Morandin et al.2007)、そして授
粉媒介者群集の組成(Steffan-Dewenter et al.2002; Brosi et al.2007)に大きな影響を及
ぼす。適切な生息環境の喪失は、野生の授粉媒介者による授粉サービスの低下の主な原
因であり、農業集約化を通じた生息環境の劣化は、多くの種にとって必要不可欠の花及
び営巣資源の欠乏を招く。中国南部では、野生の授粉媒介者が消失したために、今や果
樹園の大部分は手作業で授粉を行う必要があり、以前は 1 つの蜂群で行われていた作業
に、およそ 10 名の人手が必要である。
サービス提供の不確実性
授粉媒介者の種の機能的多様性には閾値が存在し、それを下回ると、授粉サービスは不
足するか、または不安定になって持続できない可能性がある(Klein et al.2007)。そのよ
うな転換点は、地形の文脈において、複数の授粉媒介者の集団的消滅を引き起こすのに
十分な生息環境が破壊された際に、次のささいな変動が生じる可能性がある。あるいは、
生息環境喪失の閾値は、特に重要な授粉媒介者の衰弱につながり、より広範な衰弱を授
粉サービスにもたらす恐れがある。Larsen et al.(2005)は、この予測を裏付けつつ、大
型授粉媒介者は最も絶滅しやすいと同時に、機能的に最も効果的に、生息地の喪失に伴
う急激な機能低下の一因となりやすいことを見いだした。生物季節学的な変化は、植物
と授粉媒介者の相互作用の異時性と分裂をもたらす恐れがあるため、不確実性の増大は
気候変動によっても示される。
39
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
4.15
生物的防除
サービスの背景及び重要性
有害生物及び病気は、捕食者や寄生生物の行動を通じて、また、それらの餌の防御機構
によって、生態系内で制御される。植物病害虫の自然制御は、鳥、コウモリ、クモ、甲
虫、カマキリ、ハエ、及びカリバチ、そして昆虫病原菌を含む、ジェネラリスト捕食者
及びスペシャリスト捕食者、そして捕食寄生者によって提供される(Way and Heong
1994; Naylor and Ehrlich 1997; Zhang et al.2007)。このプロセスは、短期的には虫害
を抑え、収穫高を増加させる一方、長期的には草食性昆虫が害虫となるのを防ぐ生態学
的平衡を保つ(Zhang et al.2007, Heong et al.2007)。農業病害虫は、世界中でかなりの
経済的損失をもたらしている。300 億キログラムを超える農薬が、その他の制御手段に
加えて作物に適用されているにも関わらず、世界的には、40%を超える食糧生産が害虫、
植物病原菌、及び雑草のために失われている(Pimentel 2008)。気候変動が新たな有害生
物をもたらし、寄生生物や捕食者に対する種の脆弱性が増すことから、調整のサービス
は、今後、需要が増す見通しである。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
天敵の多様性は、さまざまな仕組みを通じて生物的防除を向上させるようであり、これ
には、i) 複数の捕食者または捕食寄生者が有害生物種の制御を増大する種の相補性、ii)
複数の種が存在する際、特に効果的な天敵が偶然によってのみ生じる可能性が高いとい
うサンプリング効果、iii) より多くの種が攪乱または生態系の変化の影響を和らげる冗
長性、そして、iv) 種の相互作用のために全体が部分の総和を上回る特異性、が含まれ
る(Tscharntke et al.2005; Kremen and Chaplin-Kramer 2007)。
多様な土壌群集は、土壌媒介性害虫及び疫病による損失を防ぐのに役立つだけでなく、
その他の重要な土壌の生物学的機能も促進する(Wall and Virginia 2000)。根腐病菌など
の土壌媒介性害虫及び疫病は、世界中で 1 年間に膨大な作物の損失を生じさせているが
(Haas and Défago 2005)、根圏(根を取り巻く土壌)内のバクテリアは、根腐病菌を原因
とする病気から植物の根を保護する可能性があり(Haas and Keel 2003)、また同様に、
共生菌根菌は、病原性真菌から根を保護する可能性がある(Newsham et al.1995)。植物
寄生性線虫は、多くの作物の生産量及び品質を低下させ、多大な経済的損失を生じさせ
ることから、農業土壌の大きな問題となる。ただし線虫には、線虫捕食菌及び内生菌、
40
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
放線菌、そしてバクテリアを含む、さまざまな拮抗微生物がある(Dong and Zhang 2006)。
サービスはどこで生成されるのか?
病気及び侵入の自然制御は、すべての生態系で起こる。人間の活動の影響を強く受ける
生態系には、病気の発生と侵入の双方の最も大きなリスクが伴う。生物防除剤の個体群
に関するデータは少ないものの、農業集約化(農業拡大、田畑面積の拡張、そして、個体
群の維持に必要な自然景観の特徴の喪失をもたらす非農作物生息地の除去)と農薬使用
の増大により、その傾向はマイナスであると推定される。他方、有機農法の世界的な増
加は、この傾向を反転させる一助となるかもしれない(Bengtsson et al.2005; Willer et
al.2008)。
サービス提供の不確実性
天敵の密度とそれらが提供する生物的防除サービスの関係が線形である可能性は低く
(Losey and Vaughan 2006)、天敵が多様性の転換点を超えると、生物的防除機能が極端
に低下する場合がある。この論理を裏付ける経験的証拠は少ないものの、生物的防除の
一部のケースにおける天敵集団構成の重要性(Shennan 2008)は、構成の変化が、生態系
サービスにおいて、極端に大きく、不可逆的で、しばしば負のシフトにつながる可能性
のあることを示唆している(Diaz et al.2006)。
生息地サービス
生息地「サービス」は、a) さまざまな生態系が、固有かつ重要な生息地を移動性生物種
の特定のライフサイクルの段階に提供するという意味で、生態系の相互関連性を明らか
にするため、そして、b) 地球上の生命(遺伝的多様性)と自然順応プロセスを維持するた
めに非常に重要な、とりわけ高いレベルの遺伝的多様性を示すことが判明したという点
において、独特の重要性を持つ特定の生態系が識別されているということを明らかにす
るため、第 1 章では、別個のカテゴリーとして識別された。これら双方の機能は、供給、
調整、及び文化的サービスのすべて、もしくはほとんどを支えるが(しばしば「基盤サー
ビス」と呼ばれる所以である)、以下で説明するとおり、それらはそれ自体独特なサービ
スであり、生態系内の特定の空間条件に依存する。
41
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
3.16
移動性生物種のライフサイクルの維持
サービスの背景及び重要性
いかなる種のライフサイクルも、他の多くの生産物及び非生物的環境によって、その全
部または一部が支えられている。生態系の生産物(たとえば養分や種子)は、風、水、ま
たは動物(人間を含む)によって持ち出され、別の場所のライフサイクルを支える場合が
ある。ある地域の生態的または経済的重要性を評価する際は、これらの生態系間の相互
作用を考慮に入れる必要がある。
移動性生物種、たとえば魚、鳥、哺乳動物、及び昆虫の一部の種は、そのライフサイク
ルの一部にしか生態系を使用しない場合がある。たとえば、サケ科魚類は、空気を含ん
だきれいな水の流れの浅瀬を求愛行動と産卵に利用し、また、幼魚にきれいな水と餌を
与えるために、これらの生態系に依存する(Kunz 2004)。サケの成魚は、人間を含む他
の捕食種を支え、死ぬと川の生態系にかなりの量の有機物を提供する。雁などの渡り鳥
は、移動「飛路」の途中において、草本の入手について生態系を頼りとし、また、植物
群落の構成を形作り、選択採食によって、競合的相互作用及び潜在的に増大する空間的
不均一性に影響を与えることができる(van den Wyngaert and Bobbink 2009)。一部の
移動性生物種には商業的価値があり、その場合、繁殖環境を提供する生態系は、それ自
体(経済的に)価値あるものと考えられる、重要ないわゆる「生育サービス」を提供する(た
とえば、成長した際、産卵域から離れて捕獲される、多くの魚類及び甲殻類の種に繁殖
環境を提供するマングローブなど)。マングローブ生態系の経済的評価を行う際は、この
生育サービスを考慮に入れるべきである。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
種の間には高い相互依存性が存在し、いかなる種の喪失にも影響があり、その一部は人
間観察者によっては気づかれないままであるが、一部は移動性生物種のための生態系サ
ービスの機能及び提供にとって重要となる。生物多様性の喪失は、必然的に機能の喪失
を、そしてその結果として、これらの生態系サービスの喪失または劣化をもたらす
(Naeem et al.1995)。
42
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
3.17
遺伝的多様性の維持
サービスの背景及び重要性
種個体群内及び種個体群間の遺伝的多様性は、すべての生態系の特性であり、自然淘汰
を通じて特定の生息環境への種の進化及び適応放散をもたらす。種に存在する(さまざま
な方法で表すことが可能な(Nei 1987))遺伝的多様性の度合いは、突然変異事象に加え、
個々の種の繁殖行動、つまり個体群間で遺伝子流動が生じる程度と、選択を推進する生
物的及び非生物的な力の双方に依存する。小進化(たとえば草の金属耐性のもの)は、数
メートルという非常に短い距離の、数世代の範囲内で生じる可能性がある(Antonovics
and Bradshaw 1970)。一方、特定の種は特定の生態系及び世界の地域に固有であり
(Morrone 1994)、大進化を反映する。固有種が並外れた集中をしている、特に高いレベ
ルの生物多様性を示す生態系(生物多様性ホットスポット)は、劇的に生息地を喪失をし
ている。
「 維管束植物のすべての種の 44%、そして 4 つの脊椎動物群のすべての種の 35%
が、地球の陸地表面のわずか 1.4%を構成する 25 のホットスポットに収容されている」
(Myers et al.2000)。遺伝的多様性の維持におけるこれらの「ホットスポット」の総合的
な重要性に加え、このサービスには、我々の商品作物種及び家畜種のほとんどの遺伝子
プールを保護することにおいても、格別の差し迫った重要性がある。保全の仕組みであ
る遺伝子バンクには、新たな遺伝的多様性や、自然淘汰による環境変化への適応をもた
らすプロセスは含まれない。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
ホットスポットそれ自体は、種の豊かさや種内の遺伝的多様性を含むのみならず、進化
が起こり得る自然の実験場ともなることから、これらのホットスポット内の(残された)
遺伝的多様性を保護することは、生態系サービスの供給にとって戦略的価値がある。生
物多様性のホットスポット、固有性、そして絶滅の脅威の関係には、引き続き保全生物
学の議論が残されている(Prendergast et al.1993; Orme et al.2005 参照)。遺伝資源の生
息域内保全と生息域外保全に関する議論も、繁殖を目的とした作物と動物双方の生殖質
の供給源の保全の面で、等しく注目を集めている(先の項を参照のこと)。Vavilov (1992)
は、栽培植物の起源の中心という概念を最初に発展させ、この概念において、特定の温
帯及び熱帯生態系が、作物の栽培化が起こった遺伝的多様性の源であったことが認識さ
れた。まさにその本質から、遺伝的多様性の喪失は、現地での野生種、野生化種、そし
て栽培種間の継続的進化を妨げる、遺伝子バンクでの生息域外保全では、これらの生態
43
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
系の生息地内での遺伝的多様性の喪失に対して部分的にしか拮抗し得ない(Nevo 1998)。
文化的サービス及びアメニティサービス
3.18-22 文化的サービス: 美的情報、レクリエーション及び観光の機会、文
化のインスピレーション、芸術とデザイン、スピリチュアルな体験、認知発
達の情報
サービスの背景及び重要性
文化的サービス及びアメニティサービスとは、人間が生態系との接触から得る、審美的、
精神的、心理的、及びその他の利益をさす。そのような接触は、書籍、芸術、映画、及
びテレビを通じた遠方の生態系の仮想体験の人気が示すとおり、直接的である必要はな
い。また、そのような接触は、たとえば都市庭園の遍在が示すとおり、野生的もしくは
エキゾチックな性質のものである必要もない(Butler and Oluoch-Kosura 2006)。これら
のサービスから得られるさまざまな利益をいかに分類すべきかについては、議論の余地
があるものの、ここでの分類は、主として、ミレニアム生態系評価(MA 2005)のものに
従っている。これらのサービスの多くは、より適切には、食料や水などと同様、人間の
福利にとって重要な暫定的サービスに置かれるべきであるとの提案がなされている
(K.Tidball 個人通信)。便宜上、これらのサービスは、ここでは、i) 精神的、宗教的、審
美的、インスピレーション、及び場所の感覚、そして、ii) レクリエーション、エコツー
リズム、文化遺産、及び教育サービスという主な 2 つのグループに分類されるものと見
なす。
最初のグループのサービスに経済的価値を適用するのは困難である一方、後のグループ
は伝統的な評価のアプローチにより適している。すべての社会が、生態系の提供する精
神的及び審美的「サービス」を価値あるものと考えているが、それらの重要性は、豊か
で安定した、民主的な社会では異なる場合がある。それでもなお、生物多様性は、ほと
んどの社会において、場所の感覚を育てるのに重要な役割を果たし、また、本質的な文
化的価値を少なからず有する。最近話題の調査は、米国と日本において、1 人あたりの
自 然 レ ク リ エ ー シ ョ ン が 減 少 し つ つ あ る こ と を 示 唆 し て い る も の の (Pergams and
Zaradic 2008)、この傾向は世界のその他多くの地域には見られず、保護地域の訪問は、
全体として少なくとも国際的な観光と同程度のペースで成長している。英国では、毎年
44
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
人口の過半数が 25 億回以上、都市緑地を訪れ(Woolley and Rose 2004)、またアメリカ
では、2006 年に、10 年間で 13%の増加となる 8,700 万の人々が、野生生物に関連した
レクリエーションに参加したものと推定されるが(USFWS 2007)、その他の種類の野外
活動については、入手可能なデータが少なくなる。たとえばクジラやイルカの見物など、
野生生物をベースとした海洋観光も、機能する生態系に大きく依存する、利益になる活
動である(Wilson and Tisdell 2003)。
多くの文化的サービスは都市地域に関連しており、都市地域の生物多様性は、人間の福
利に積極的な役割を果たすことを強力な証拠が示している(第 3.7 項参照)。たとえば、
Fuller et al.(2007)は、緑地の心理的利益が生物多様性とともに増大する一方、窓からの
緑の眺めは仕事の満足度を高め、仕事のストレスを減じることを示している(Lee et
al.2009)。これには、経済生産性、ひいては地域振興に強力なプラスの効果があるかも
しれない。いくつかの調査は、緑地に近接するほど繁栄の値(ヘドニック価格法で測定)
が増すことを示している(Tyrväinen 1997; Cho et al.2008)。また、Nihan (2009)及び
Shu Yang et al.(2004)も、建築そして都市及び地域計画のエコデザインの文脈で利用可
能なコミュニティデザイン機能の提供における生態系の役割を指摘している。
生物多様性の変動に対するサービスの感受性
生物多様性の役割は、これらのサービス間で大きく異なるが、それはエコツーリズムと
生態系の教育的利用においてとりわけ大きくなる可能性が高い。しかし多くの場合、生
物多様性は、生態系に置かれる価値の典型的な名標ではない場合がある。それでもなお、
訪問者によって認識される特徴の根拠をなす。
サービスはどこで生成されるのか?
都市部ではかなり異なる場合があるものの、生物多様性に基づいた文化的サービス及び
レクリエーションサービスは、半自然のビオトープが占めるような、集中管理の度合い
の低いエリアと最も強力に関連する。低投入型農業システムも、土地の管理とそれに関
連した生物資源に基づく、数多くの地域的伝統によって、文化的サービスを支える可能
性がある。新たに創出された緑地または復元された緑地は、このサービスを提供する都
市環境の、ますます重要な要素となっている。
45
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス提供の不確実性
観光に対する不確実性は評価され、ここでは、さまざまな理由から、観光の便益の提供
において、急激な変化が生じることができる。これらの一部は、転換点に達した際、生
態学的なものとなる場合がある。主な野生生物の個体群が病気や他の要因によって絶滅
したり、絵のように美しい風景が火災によって失われたり、サンゴが温度の急変で白化
したり、生態系が突然、ある(好ましい)状態から別の(あまり望ましくない)安定状態へと
変化したりする場合がある。これらの中には、元に戻されるものもあれば、定常化して
しまうものもある。急激な変化は、社会的に引き起こされる場合もある(おそらくはその
方が多い)。戦争、テロ行為、社会政治的混乱、自然災害、そして保健の危機は、すべて
国際観光の需要に急速にマイナスの影響を及ぼしがちである。同様に、2001 年の英国に
おける口蹄疫の発生といった出来事は、人々がレクリエーションのために地方を訪れる
のを妨げるため、劇的な影響があった。現在の石油価格(ひいては航空燃料費)の不安定
さと炭素税の可能性は、そのような変化があまりに突然に生じる場合、国際観光に同様
の影響を及ぼす場合があり、都市中心部に近い地区のレクリエーション訪問を増加させ
る結果になる(都市のレクリエーションサービスについては、第 3.7 項を参照のこと)。
4
4.1
複数の生態系サービスの管理
生態系サービスのバンドル
機能的な生態系は複数のサービスを生成し、これらは複雑な仕方で相互に作用して、異
なるサービスを 1 つに連結、つまり「バンドル」し、その結果、1 つのサービス(たとえ
ば食料)の 増加に伴い、マイナスまたはプラスの影響を及ぼす(た とえば Bennet et
al.2009)。これまでのほとんどの調査は、授粉あるいは食料及び水質と水量など、1 つ
またはいくつかのサービスに集中してきた。同じ地域の複数の生態系サービス及び生物
多様性の特徴づけが研究分野として登場したのは最近のことであり(たとえば Schroter
et al.2005)、今までに入手することのできる、複合的な結論をもたらす定量的証明はほ
とんどない(たとえば Bohensky et al.2006)。土地利用、土地被覆、そしてサービス供給
の関係は、世界のほとんどの地域のほとんどのサービスについて、ほとんど試行が行わ
れていないにもかかわらず、科学者は、サービス供給の代理として、土地利用/土地被覆
を使用する傾向がある(Naidoo et al.2008)。複数の生態系が「バンドル」内でどのよう
に相互接続され、互いに連結されているのか評価する方法を探し出すことは、MA によ
46
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
って識別された生態系サービスの大きなリサーチギャップの 1 つである(Carpenter et
al.2009)。さらに、たとえば炭素と水のサービスのように、生態系サービスの「バンド
ル」による生物多様性保全のための支払いを目標とし、それを実施する方法を見つけ出
すことも、後の第 5.2 項で論じられる重要な優先事項である(Wendland et al.2009)。
4.2
トレードオフ
一部の生態系サービスは、正に共変し(1 つが増えると、他も増える)、たとえば土壌成分
を維持することは、養分循環と一次生産を促進し、炭素貯蔵ひいては気候調整を強化し、
水流や水質の調整を支援し、ほとんどの供給サービス、特に食料、繊維、そして他の化
学薬品を向上させる場合がある。供給サービスを増やすと調整サービスが減るなどのよ
うに、他のサービスは負に共変し(1 つが増えると、他が減る)、たとえば農作物の供給は、
土壌中の炭素貯蔵、水の調整、文化的サービスなどを減少させる場合がある。
供給及び調整の生態系サービスには、さまざまなトレードオフが起こり得る。トレード
オフの種類(図 4 の A、B、または C)に応じて、調整サービスの提供は、同レベルの供給
サービスに対して低かったり、中程度であったり、あるいは高かったりする可能性があ
る。これは、景観の設計及び管理に極めて異なる影響を与える。たとえば、生態系の深
刻な悪化は、複数の生態系サービスの同時障害として発生する傾向のあることが示唆さ
れている(Carpenter et al.2006)。サハラ以南のアフリカの乾燥地は、これらの多重障害
の最も明らかな例の 1 つを提供するもので、作物と牧草の不作の併発、真水の量と質の
低下、そして樹木被覆の喪失をもたらす。しかし、世界の途上国における 250 を超える
有機農業への投資の事例をまとめたものでは(乾燥地と非乾燥地の双方)、作物の生産量
が維持されたにもかかわらず、さまざまな新しい農耕技術及び方式により、生態系サー
ビスのトレードオフの削減と、調整サービスのレベルの増大が可能であったことが示さ
れた(Pretty et al.2005)(図 4 の B、あるいはさらに C に対応)。
47
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
調整の
生態系サービス
供給の生態系サービス
図 4: 供給サービスと調整の生態系サービスのトレードオフの可能性。A)では、供給サ
ービス増加への生態系のシフトが、調整サービスの急速な喪失を生じさせ、B)で
は、調整サービスが供給サービスの増加とともに線形的に減少し、C)では、調整
サービスが低下するまでに、供給サービスが非常に高いレベルに増加する可能性
がある。出典: Elmqvist et al.(2010)。
一部のサービスの発生は、逆サービスと呼ばれることもある、あまり望ましくない他の
影響が生じる場合もあり、たとえば、栄養と住まいに対する人間の基本的要求を満たす
べく生育される食料、燃料、及び繊維には高い価値が置かれる可能性があるものの、同
じ生態系から派生する有害生物や病原体は負の価値を有する。どちらも、基礎をなす生
態系が管理される過程での生成物であり、トレードオフの判断がなされなければならな
い結果を伴う(Box3 参照)。これらの関係の知識は、方針の決定が、運用上有効で、予測
可能な結果につながるよう保証するのに不可欠である。
48
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Box3: 生態系サービス間のトレードオフ
いくつかの異なるトレードオフの種類が識別可能であり、それらは相互排他的ではない。
1. 時間的トレードオフ: 利益は今-費用は後
時間的トレードオフは、
「将来の世代のニーズを危うくすることなく、現在の世代のニー
ズを満たす(中略)」持続可能な開発の中心的理念である(WCED 1987)。
2. 空間的トレードオフ: 利益はこちら-費用はあちら
空間的トレードオフは、コミュニティと国々の間の多大な協議の背後にあり(特に水)、ま
た、生態系と生産景観の間にも生じる。景観レベルのトレードオフの一例は、上流での
水生産性(穀物 1 トンあたりに使用される蒸発散量)の向上と、農業投入材の使用に関連し
た水質低下の結果として生じる下流での問題とのトレードオフである。
3. 受益者トレードオフ: 一部は勝ち-あとは負け
これらのトレードオフは現実のものであるが、生態系サービスに関する情報とそれらの
評価へのアクセスを改善すること、適切な誘因や市場を構成し、使用すること、そして、
各々の資源に対する地元の人々の権利を明確化し、強化することによって、
「勝ちを増や
し、負けを減らす」方向へと移行することは可能である。
4. サービストレードオフ: 一方のサービスの管理-他方の喪失
ある特定のサービスを最大化するような生態系の操作には、他のサービスを減じるリス
クがあり、たとえば、単一種の単作を維持すると(食料、繊維、及びエネルギー生産のた
め)、授粉や疫病の制御を含む、生物多様性の保全に依存するサービスの供給が減少する
ことになる(以下の図 4 及び 5 参照)。
大気降下
地球温暖化
マイナス
大気プール
プラス
水質改善
水質改善
微生物の生物多様性
土壌/堆積物の特性
水文学
管理
図 5: 湿地帯のトレードオフのジレンマ-水質と気候変動対策
多くの湿地土壌は、中間生産物として亜酸化窒素を伴う 2 段階のプロセスにより、硝酸
49
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
エステルを二窒素ガスに変換する、脱窒微生物をサポートする。これは、浄水という重
要なサービスをもたらし、近海の生物多様性を保護する場合がある(Barker et al.2008)。
しかし、土壌生態系の特性によって制御される N2O または N2 産出のバランスは、強力
な温暖化ガス(N2O)の放出、そして、万一、十分な脱窒が達成されない場合、大気 N 降
下の潜在的発生源を通じて、深刻な逆サービスを生み出す場合がある。
4.3
供給の規模
生態系サービスの知識を効果的に運用実務へと転化する場合、数々の重要な要件を満た
す必要がある。相互作用から生じるトレードオフについての理解と検証可能なエビデン
スベースの必要性は、生態系サービス提供の規模、そして時間的及び空間的なダイナミ
クスと配分が求められる。これは、たとえば「サービスはどこでどの程度提供されてい
るのか?」や、「特定のサービスまたはサービスの組み合わせを提供するのに、特定の生
態系または個々の要素がどの程度必要なのか?」といった主要な問題への対処を可能にす
る。
生態系の回復力(レジリエンス)にとっての、他の生態系との生態学的なつながりの重
要性にもかかわらず、一部のサービスは、それらを生成するシステムと同じ時間的また
は空間的スケールで実現できる一方、他のサービスはまったく異なるスケールで実現す
ることができる。これらには、地域規模で機能し地目の寄せ集めで授粉媒介者の個体群
を維持する土地があることを保証することによって管理可能な授粉、貯水池または河川
流域で機能しその規模で土地管理者間の協調を必要とする水文サービス、そして地域及
び地球規模で機能しまた、現地の土地管理者に求められる行動を確保すべく適切な誘因
が実施されるように保証するため、政府ならびに国際機関による政策決定を必要とする
土壌有機物中の炭素隔離が含まれる。
複数のサービスの空間的側面を定量化する試みには、Luck et al.(2003)により、
「特定の
空間規模で一定のサービスを提供する生態系の構造及びプロセス」として定義された、
サービス提供ユニット(SPU)が含まれる。たとえば、SPU は、単一の果樹園の授粉に寄
与するすべての生物からなる場合や、特定の集水地域の浄水に寄与するすべての生物か
らなる場合がある(Luck et al.2003; 2009)。これは、水文地形学的ユニット(HGMU)の
50
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
手法を使用して、湿地生態系の機能及びサービス提供を予測する手法の並列的手法であ
る(Maltby et al.1994; Maltby 2009)。HGMU の概念は、空間的に定義されるユニット
を使用して、さまざまな景観規模で機能を評価するものであり、この方法は、他の生態
系の評価のために、都合よく拡大することができる。SPU の概念を適用することの主な
課題の 1 つは、そのユニットを、生態系及び陸景/海景の具体的な、そして理想的にはマ
ッピング可能なユニットへと変換することであるが、この概念は、複数のサービスを念
頭に置いた、主な種または個体群の特性への変化がサービスの提供に直接影響するよう
な方法を提供する可能性がある。
51
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
5
生態系サービスの管理: 不確実性及び変化への対応
ますますグローバル化する世界では、社会状況、保健、文化、民主主義、そして安全保
障、生存、及び環境の問題は織り合わされ、加速的な変化にさらされる。変化は免れな
いが、変化の性質、とりわけ閾値の存在と、望ましくない、実際のところ不可逆的なレ
ジームシフトを理解することが不可欠である。危険性を秘めたこれらの閾値がどこに位
置するのかを知ることは不可能であり、社会が変化に対処し、その利益、つまり社会-
生態回復力(レジリエンス)を得るのであれば、気候変動やその他のストレス要因に適
応する現在の試みに、予防手段、より深い回復力(レジリエンス)の理解、そして社会
と経済の両システムの複合能力が求められる(Folke et al.2004)。国連事務総長が述べた
とおり、「『回復力(レジリエンス)の思考』を政策や実践に組み入れることは、新たな
世紀を通じ、世界のあらゆる市民にとって重大な責務となるであろう」(2007 年 9 月 24
日の国連気候サミット)。
5.1
生態系、サービス、そして回復力(レジリエンス)
生態系への物理的影響には、地質、気候、地形、水文学、他の生態系との接続性、そし
て人的活動の結果が含まれる。頻繁な軽度の攪乱は、生態系の機能の特徴である。普通、
これらは、栄養素や生物の季節的な流入、温度や水文の変動、あるいは、たとえば居住
種が順応した樹木など、構造生物に対する天候や寿命による損傷の場合がある(たとえば
Titlyanova 2009)。地質学的な擾乱、人為的富栄養化(栄養素の投入の増大)または毒性汚
染、生息環境の喪失、隣接した生態系からの分離、種の侵略、気候変動、そして、生態
系変化の他の外的要因(後述)の後に、大規模な低頻度の攪乱が続く場合がある。より規
模の大きなこれらの攪乱は、生態系の物理的構造を変えることにより、また、種の除去
及び種の相互作用の変化を通して、恒久的または長期的な生態系の変化を推し進める可
能性がある。たとえば、象の放牧圧は、長期的に森林地帯を草地に置き換える可能性が
ある(de Knegt et al.2008)。化学物質の大気降下などの人為的活動(Vitousek et al.1997;
Phoenix et al.2006)により、地球上に手つかずの環境がまったく残っていないことが確
実になった(Lawton 1997)。
たとえば気温、栄養素の投入、水文、または牧草といった主な変項の変化に対する生態
52
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
系の反応は、生産性の増大をもたらしたり(たとえば Aberle et al.2007)、あるいは、反
応の多様性の関数として、一方の種が他方よりも有利になるようにすることによって、
種の間の競争を変えたりする可能性がある(Rahlao et al.2008)。この種の変化は、変化
の度合いに応じて、どちらの向きにも戻すことが可能である。たとえば、本来は養分の
乏しい生態系の富栄養化は、より少数の頑強な種が支配するようになる高栄養負荷のポ
イントに達するまでは、普通、生産性と種の多様性の増大をもたらす(Grime 1988; Badia
et al.2008)。過放牧や森林生態系の開墾は、新たな樹木の補充を止めることにより、ま
た、放牧や蹄害に強い草本類に有利に働くことにより、植生を変える場合がある
(Mysterud 2006)。富栄養化または放牧推進力が取り除かれた場合、主要な種が除去さ
れていない限り、その場所は元の状態に戻る場合がある。
軽度の環境変化の間は、緩衝の仕組みによって生態系が一定の状態に保たれる場合があ
る。これらは負のフィードバックで、一部の種が急激に増加する可能性を抑制すること
によって、現在の生態系を維持する。たとえば、浅い低地の湖では、養分を蓄え、藻類
がそれらを利用できないようにする大型植物(植物及び大型藻類)との競合によって、ま
た、藻類を摂取する無脊椎動物プランクトンによって、成長の早い植物プランクトン藻
類の増加は制御される。これらの動物プランクトンは、大型植物内で捕食者から身を隠
す一方、キタカワカマス(Esox lucius)などの補食魚は、大型植物床に潜み、動物プラン
クトンを摂取する小型魚を攻撃する。これらの緩衝の仕組みが一つになって、湖の澄ん
だ水の状態を増進させる役割を果たす(Scheffer et al.1993)。
その機能特性を一切失うことなく、摂動に耐える生態系の能力は、生態系回復力(レジ
リエンス)と呼ばれることが多い。実際のところ、生態系の安定性の軽度の攪乱は、柔
軟さの必要性を種の相互作用に課すことから(Gunderson 2000)、回復力(レジリエンス)
全体を増進させる役割を果たす場合があり、そこから Holling によるこの用語の元の定
義は、
「摂動や変化を吸収及び利用したり、さらにはそこから利益を得たりして、システ
ムの質的変化を伴うことなくそれを持続させるシステムの能力」となった。Westman
(1978)は、回復力(レジリエンス)を、人間の介入なしに攪乱から回復する生態系の能
力と表現した。今日の最も一般的な回復力(レジリエンス)の解釈は、質的に異なる状
態に転じることなく、攪乱(たとえば財政的危機、洪水、火災など)に対処するシステム(た
とえばコミュニティ、社会、生態系など)の能力を表す、というものである(Gunderson
and Holling 2002)。回復力(レジリエンス)を有するシステムは、衝撃や驚きに耐え、
53
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ダメージを受けた場合、自ら再構築できる能力を持つ。従って、回復力(レジリエンス)
とは、システムの変化に対応する能力と、発展し続ける能力の双方である(併せて Brand
2005; Brand and Jax 2007 を参照のこと)。
環境推進力が持続的か、または強力な場合、生態系は閾値を超え、突然、破局的な構造
変化を起こすことがある(Thom 1969; Loehle 1989; Walker and Meyers 2004)。これは、
生態系を別の状態へと変えてしまう可能性があり(Holling 1973; May 1977; Scheffer et
al.2001)、これは「レジームシフト」と呼ばれることもある(Folke et al.2004)。そのよ
うなレジームシフトは、大規模な予想外の変化を生態系サービスに生じさせ得る。局地
及び地域のレベルでの例には、湖の富栄養化、放牧地の劣化、魚種資源のシフト、サン
ゴ礁の破壊、そして長引く干ばつによる絶滅が含まれる(Folke et al.2004)。環境推進力
は、直接にはレジームシフトを引き起こさないかもしれないが、それにより、何らかの
攪乱に続く変化に対して、生態系が影響を受けやすくなる場合がある。これは、とりわ
け 浅 い 湖 の 生 態 系 に お い て 詳 細 に 説 明 さ れ て い る (Irvine et al.1989; Scheffer et
al.1993; Moss 2001)。上の湖の例を続けると、生態系がいったん富栄養化のストレス下
に置かれると、その大型植物の喪失(おそらくは物理的または化学的損傷による)によっ
て藻類支配の道が開かれ、濁りが生じるが、これは、動物プランクトンの捕食からの避
難場所と、それまで動物プランクトン食の魚類の数を少数に保っていた補食魚が必要と
するシェルターが除去されることによる。加えて、植物の喪失は混合と再懸濁を増大さ
せ、栄養物の獲得競争を除去し、植物プランクトンに生態系を支配させる(Ibelings et
al.2007)。これらの透き通った水のバッファリングフィードバックが一度除去されると、
生態系は優勢な富栄養化の推進力にさらされ、新たなバッファリングフィードバック機
構がその劣化した生態系の状態を強める。
重要なことに、澄んだ状態と濁った状態は、類似した栄養素レジームの下での別の可能
性である。各々は、独自のバッファリングフィードバック機構によって適切に保たれる
(Jeppesen et al.2007)。これは、湖への栄養負荷を削減するだけでは、元の澄んだ水の
状態に戻らないことを意味する。従って、この変化は非線形であると考えられる。この
バッファリング機構を克服するのは、容易でも、安価でもなく、不可能であることも多
い(たとえば Phillips et al.1999 参照)。とりわけ、沿岸系(Palumbi et al.2008)や陸域生
態系(Schmitz et al.2006)、そして森林地帯(Walker et al.1981)において、同様の例が記
録されている。
54
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
仮説例は、土地のほとんどを農業に使用し、基本的な供給サービスを提供する農場で与
えられる。食虫鳥類が、害虫発生の予防において、調整サービスを提供するものと仮定
する。鳥の存在度が高い限り、毎年良好な作物が生産され、これは図 6 の上の線で図式
的に与えられる。鳥による十分な虫の捕食が起こらないと、害虫が発生し、作物生産は
大幅に減少することになる(下の線)。その時の虫の数度は、鳥の補食能力をはるかに上
回るため(非凸摂食反応関数による)、ヒステリシス効果、すなわち応答遅延があり、非
線形となる。虫を補食するすべての鳥種の年ごとの豊富さは、経年的に変動し、年ごと
の鳥の総捕食量については、一定の確率分布となる。ある状態から別の状態への交差の
種の豊かさ
確率は、図 6 において、それぞれ a 及び b として与えられている。
供給サービス
有効生息場
種の豊かさ
種の豊かさ
調整サービス
図 6:供給サービス(作物)と調整サービス(生物的防除)の相互作用。上の線、つまり高
い生物的防除(食中鳥類)の生成は、高い作物生産量につながる。下の線、つまり
生物的防除の減少は、作物生産量の低下を意味する。大きな景観の特性(挿入され
たグラフ)は、非線形性と閾値(a 及び b)を生じさせ、供給サービスのダイナミク
スは周囲の景観の管理によって決定される(詳細は本文参照)。
このシステムの重要な特性は、調整サービスの確率関数の形状である。このサービスは
種の機能群である食虫鳥類によって提供されることから、この種群の種の豊かさがその
能力にいかに影響するか検討することは有意義である。第一に、種の数は、鳥にとって
適切な生息場所の面積に依存し、標準的な種-面積関係と一致する(上の差し込みグラ
55
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
フ)。種の豊かさは、中央の差し込みグラフで示されるとおり、さまざまな鳥種間の相補
的な資源利用により、一般的に、全存在量と正に相関する。異なる種の間にある程度の
負の自己相関がある場合、種の豊かさが上がると、鳥の全存在量における変動係数(CV)
も低下する(Hughes et al.2002)。この負の自己相関は、異なる応答関数を持つ種と考え
られ、鳥の全存在量の CV への影響は、下の差し込みグラフで示される。これらの影響
の結果は、点線で示されるとおり、昆虫類補食の調整サービスの確率分布の変化である。
野性鳥類個体群が利用できる土地が増すことにより、昆虫の大発生による望ましくない
状態(下の線)に陥る確率が大きく減少する。同時に、このようなことがあった場合でも、
回復する確率が増加する。そのような関係の 1 つの結果として、期待される供給サービ
スの長期的な価値は、周辺地域の管理活動に大きく依存する。
5.1.1 閾値、回復、及び生態復元
多くの場合、
「軽度」に劣化した生態系を、定められた何らかの以前の状態に復元するこ
とは可能であるものの、厳密な意味での復元がもはや不可能なほど、生態系が著しく変
化している可能性もある。生物圏への人間の影響の範囲を考えると、復元及び復元可能
性という概念は、多くの注意を念頭において伝達する必要がある。
国際自然再生学会の『生態復元入門』(SER 2002)では、生態復元は、「劣化、損傷、ま
たは破壊した生態系の回復を支援するプロセス」と定義されている。目標は、より大き
な景観に統合され、
「環境にやさしい」人間の活動に適していながら、構造、種組成、及
び機能に関して自立的な、回復力(レジリエンス)を有する生態系である。しかし、1
つ以上の閾値を超えるほど生態系が攪乱されている場合、復元は、可能であるにせよ、
多大な困難と費用を伴わずには達成し得ない。さらに、主観的な選択やトレードオフは
避けられず、非財務的価値または市場価値、そして金銭や生態学に基づくものとなる。
復元管理者にとっては、これらの事例における過去の閾値の逸脱を認識することが、復
元プログラムを導くのに役立つ(Clewell and Aronson 2007)。容易さとコストも生態系
の間で異なり、これにより現実主義の必要性が強いられる。たとえば、世界最長の期間
及び最大規模の復元であるコスタリカ北西部のグアナカステ保全地域において、Janzen
とその共働者たちは、乾燥熱帯林が付近の湿性熱帯林よりもはるかに急速に回復するこ
とを発見した(Janzen 2002)。労働費やその他の費用への投資の予算編成は、それに応じ
て配分される。
56
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
この例は、生態系の回復力(レジリエンス)は規範的方法で解釈されるべきでない、と
いう事実も強調する。たとえば外来種の草とともに牛の牧草の種が蒔かれるなど、望ま
しくない生態系の状態は、変化に対する回復力が非常に高まる場合があり、復元には、
望ましくない回復力(レジリエンス)の状態をいかに低下させるかについての理解が必
要となる。また、管理者は、元の、あるいは「攪乱前」の生態系の状態または軌道とい
う観点で、復元を求めるべきではない。生態系プロセスの再活性化を通じた生態系サー
ビスの復元は、より良い選択かもしれない。特定の種のインベントリーではなく(Falk et
al.2006)、復元のプロセス、従って最終的には生態系サービスに重点を置くことも、評
価ならびに資金調達を円滑にする(De Groot et al.2007; Holmes et al.2007; 後の第 5.2
項参照)。これは、生物の多様性に関する条約(CBD 2000-2008)の下では「生態系アプロ
ーチ」を適用するという、最初の原則と一致する。
5.2
政策及び実践における回復力(レジリエンス)の思考
政策及び実践に関連するより深い回復力(レジリエンス)の思考を発展させるには、理
解する必要のある要素が少なくとも 3 つある。
再生不能資源の枯渇。環境条件の歴史的または地質的遺産は、現在の使用パターンには
対応できているものの、これらは人間の時間スケールでは更新されていない。鉱物及び
化石燃料の他に、その例には、地下水資源や、これまでの何千年間のさまざまな気候条
件の下で作り上げられた「化石」水を効果的に収容した帯水層(Foster and Loucks 2006)、
そして、泥炭の正味蓄積がもはや起こらない最終氷期の終わり以来、開発されてきた、
泥炭をベースとした生態系内の炭素貯蔵が含まれる。これらは、使用を通じて使い果た
されてしまう可能性のある資源である。
変化する環境「エンベロープ」。生物が進化し、生物多様性及と生態系のパターン及び
プロセスが発展する環境エンベロープは、人間の活動のために変化しつつある。これは、
生物多様性と生態系への依存、そして、それらの環境サポート及び使用圧力の基準が変
化している際の、それらの実現性という、広範囲に及ぶ問題を提起する。Pauly (1995)
によって作り出された「シフティングベースライン」という関連用語は、後に続く世代
が、気づいたらそこにいたという環境に順応してしまう、つまり、すでに劣化している
57
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
生態系の状態が、
「正常」なものとして受け入れられてしまう場合がある、という事実を
浮き彫りにする。Jackson et al.(2001)は、世界のデータを照合して、海洋システムでは、
人間は長きにわたって連続的に種の豊かさを減少させるという顕著な影響を及ぼしてき
たため、今日では、以前のレベルの生物多様性は想像するのが困難であることを示した。
シフティングベースラインは、資源利用の持続可能性に重大な影響がある。
環境の衝撃及び攪乱の影響。自然の影響(たとえば気候、洪水、火災、地滑り)と人為的
な影響(たとえば気候、海面変動、森林破壊、過放牧、魚の乱獲、河川調整、貯水、汚染)
は、どちらも予測不可能で不確実な場合があり、大きな変化や驚き、そしてレジームシ
フトを生じさせる。環境ストレスによる変化に直面した際、生態系は、既存の生態系構
造が崩壊する、重大な閾値を超える場合がある(Folke et al.2004)。回復力(レジリエン
ス)の弱体化は、人為的な環境変化や生物多様性の喪失といった変動の影響である場合
がある。
これらの関係は、単純なプロセス-応答スキーマを使用して描写される(図 7)。これは、
生態系を機能エンティティとして、また、その構造及び生物学的組成とプロセス間の相
互作用の結果として表す。
58
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
生態系構造
及び組成
生態系機能
管理:たとえば排
水、燃焼、施肥
または
衝撃
変更され
た構造
M1
更なる
変更
変更され
た生態系
A1
回復・復元の可能性
プロセス
の変更
継続的
変更
閾値
T1
生態系機能
生態系機能
全体的なサービス提供の減少
プロセス
領域:
食物網、
遷移、
径路
ストレスの増大、全体的なサービス提供の減少
自然環境の「エンベロープ」
機能ユニット
生態系機能
地球規模の変化がエンベ
ロープを移動
図 7:生態系機能のプロセス-応答モデルとインパクトの影響。地球規模の環境条件の
変化する環境エンベロープは、摂動に対する生態系応答の予測可能性を変える
出典: Maltby et al.(1994)から編集。
生態系には、すべて一般的な環境条件の特定の「エンベロープ」内にある、特定の遺伝
子、種、及び群集のスケールの要素を表す生物学的要素が含まれる。直接的及び間接的
な人間の影響、そして自然環境のインパクトは、生態系の構造またはプロセス領域を変
更し、それによって生態系の機能を変える可能性がある。影響の強度増大に起因する一
連の変更の増大は、(たとえば農業生産性のように、個々の機能は実際には増大する場合
があるものの)機能の組み合わせ全体の減少として示される。ある程度明確な「転換点」
は、ある状態から別の状態への遷移またはシフトを示す場合がある。以前の生態系の状
態を回復する可能性は、上述の外部推進力に一部依存するが、大部分は生態系の固有の
59
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
特性と生態系の健全性、そして時間スケールに依存する。ただし、新たなエンベロープ
の境界内ではもはや発生し得ないため(つまり、生態系力学の変化のため)、回復力(レ
ジリエンス)の衰退により、特定の機能、構造、またはプロセスの状態に回復すること
が不可能になる場合もある。
この枠組みでは、最適なソリューションに主眼を置き、線形力学の前提に基づくモデル
及び政策が論議される。そのような理論及び世界観の適用は、特定の資源を生産して、
経済的または社会的目的を果たそうとする衝動から、いくつかの選択された生態系プロ
セスを管理することに投資する統治システムを開発し、重要な生態系サポート機能の喪
失を引き起こす傾向がある(Holling and Meffe 1996)。代替的アプローチは、複雑で順
応できるものとして捉えられる、歴史的(径路)依存性、非線形レジームシフト、そして
限られた予測可能性を特徴とする生態系に基づく。自然と社会の動的視座は、自然の評
価に重大な影響がある。システムが非連続的ならば、厚生経済学の基本定理は有効でな
く、たとえ明確に定義された財産権があっても、資源配分の結果は最適から遠いものと
なる場合がある(Mäler 2000)。これは、生産性、消費、及び貿易に重大な影響を及ぼし、
また、経済政策にも重大な影響がある。最適な管理は、複雑な力学のために、実施する
のが極めて困難である。
6
生物多様性、生態系サービス、そして人間の福利
生態系サービスは生態系から人々が得る利益であることから、従って、生物多様性の変
化に関連した生態系サービスの変化は、人間の福利に重大な影響を及ぼすということに
なる。後の章では、市場で売買されない生態系サービスの価値を推測するのに経済学者
が使用する方法を検討するとともに、既存の評価研究の結果をまとめる。ここでは、生
態系システムがどのように評価されるかではなく、生態系サービスの生産物が生物多様
性を含む価値を、どのように生物圏のあらゆる要素に与えるのかを検討する。生物多様
性の価値は、生態系サービスの提供におけるその役割と、それらのサービスに対する人々
の需要に由来する。経済学者たちは、一般に、生態系そのものではなく、生態系の個々
の要素または生態系によって生み出される特定のサービスを評価しようとしてきた。適
切に機能する市場が存在するような一部のケースでは、特定のサービスの評価は単純明
快である。ほとんどの場合、これは当てはまらない。そして、特定のサービスの市場が
存在する場合でさえ、生態系の個々の要素の価値を導出することは難しい。サービスの
60
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
「バンドル」(第 4.1 項)と、特定の種が多くの異なるサービスの生産物に寄与している
可能性があるという事実は、特定のサービスへのそれらの限界貢献が、それらの価値の
部分的な評価に過ぎないことを意味する。加えて、人間に恩恵をもたらす生態系機能に
おける個々の種の正確な役割は、一般に、市販される食品、燃料、及び繊維を生産する、
十分に調査され、高度に制御されるプロセス以外では知られていない。しかし、この知
識なしには、個々の生態系サービスの基本構成要素(いかに定義されようとも)、または
数々のサービスをサポートする機能的生態系の基本構成要素のどちらも、価値を導出す
ることはできない。特定の機能が生成され、その結果得られるサービスが提供される経
路は、異なるさまざまなものが存在する可能性がある。これらすべての既知の経路は例
外に過ぎず、種の「冗長性」の問い全体に凝縮される問題である。
原則として、生態系の価値は、一式のサービス、つまりそれらが生み出す、割り引かれ
た利益の流れから派生する(Barbier et al.2009; Barbier 2007)。従って Bt を、時間 t に
おいて生態系によって提供されるサービス全一式から得られる社会的利益と定義するな
らば、そのシステムの現在の(割り引かれた)社会的利益は次のとおりである。
(式)
上式中、δは社会的割引率である。各期間について、Bt は生態系から得られるすべての
利益の合計である。つまり、(式)である。それらの利益は生態系サービスのセットに、
そしてひいては生物多様性に依存することから、生物多様性の価値は、それらから導き
出すことができる。たとえば、St が生み出される一式のサービス、Xt が一式の種であ
るような(式)の場合、i 番目の種の限界価値は微分係数(式)で与えられる。生態系からの
利益の流れを計算するにあたっての大きな困難は、経済内では多くのサービスが売買さ
れているものの、生物多様性によって支えられる多くの生態系サービスは売買されてい
ないという点である。人間の福利に寄与する一部の利益には価格が付けられておらず、
従って、通常の市場取引では無視されている(Freeman 2003; Heal et al.2005)。生態系
は、常に多機能である。管理システムの場合を除き(たとえば農業生態系など)、それら
の構造と機能は、環境条件及び歴史的パターンには一致するものの、意図的なサービス
提供には一致しない。しかし通常は、管理システムであってもさまざまな利益を生み出
し、システムの価値は、管理の主たる目的である利益の価値のみならず、一次サービス
の副産物として提供される付帯的なサービスにも依存する(Perrings et al.2009)。
61
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
生態系サービスのバンドルがどのように構成されるかが重要である。サービスの受益者
は、かなり異なる利害関係者の権益の間に広がっており、また、オフサイトとオンサイ
トの双方に分散している。従って、淡水の水質改善の価値は、その仕事を実行する生態
系の下流のさまざまな地点で実現される可能性があり、さらには、河口、沿岸、そして
より遠くの海の水や、それらがサポートするサービスにとって特に重要な場合がある。
生態系要素の価値を明らかにするには、生態系サービスの生成への、それらの寄与の仕
方を理解する必要がある。個々の種も、それらが含まれる生態系も、まったく同等ある
いは同一ということはない。微生物からカリスマ的な最上位肉食動物種に至るスペクト
ラムには、広範なプロセス及び機能が含まれる。最もカリスマ性のある種は、生態系の
状態の優れた指標になり得るが、必ずしも機能的重要性が最大というわけではない。生
態系の特性は、空間と時間の双方の要因に応じて、詳細が異なる。評価される商品及び
サービスの生産への限界影響から生態系要素の価値を導き出すには、商品及びサービス
の環境入力と環境成果の関係を定める生態学的生産関数の形状を知る必要がある。上述
のとおり、生態学的生産関数は、生態系とそれが提供するサービスの間の生物物理学的
関係、そして、隔離、補食、及び栄養循環といった、相関するプロセスと機能を捉える。
従ってそれらには、人間が直接的に制御する十分に理解された入力と、人間が可変的な、
そしてしばしば限られた制御を有する、あまり理解されていない入力の双方が含まれる。
生態学的生産関数の特定には、i) 当該生態系サービスの仕様、そして、ii) 生態系の構
造及び機能から、関連する生態系サービスの供給への完全なマッピングの作成が求めら
れる。炭素隔離など、一部の生態系サービスの生態学的生産関数を理解及び定義するこ
とにおいては進歩しているものの、数多くの重要な生態系サービスの生産関数の仕様は
未発達である(Perrings et al.2009)。
とはいえ、一部の事柄はよく理解されている。特定のサービスを生み出すために生態系
を変形させると、一般的に、他のサービスを提供するそれらの能力が低下する。この種
の特化が生態系の価値を高めるか否かは、実施されないサービスの価値に依存する
(Balmford et al.2002)。転換地は、供給サービスの点では価値が高まる場合があるもの
の、たとえば水の調整、浸食制御、生息環境の提供、火災規制など、他の種類のサービ
スに関しては価値が低下する。東南アジアの多くの地域における、自然林から水田、そ
してマングローブ林からエビ養殖池への転換は、嵐の緩衝から沈泥の封入に至るさまざ
62
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
まな調整機能の減少をもたらした(Barbier 2007)。たとえばメコンデルタでは、地下水
面の低下と海底堆積物の酸化に起因する、潜在的な酸性硫酸塩土壌の酸性化により、わ
ずか数年後に作物生産及び収穫高が減少し、しばしば放棄につながっている(Maltby et
al.1996)。そのような生態系の変化は、明らかな補填的利益を生み出さない。そのよう
な場合、低下した水質のコスト、防風及び洪水の防止、野生動物の生息環境、または野
生個体群からのエビや魚の補充は、依然として、生態系変化につながる決定に向けて考
慮されていない(Barbier 2007)。関与する調整の生態系サービスの変化を理解し評価す
ることは、おそらく、目下のところ、生物多様性の経済学の最大の課題である。
調整サービスに対する生物多様性の寄与の評価は、格別の難題をもたらす。調整サービ
スは、空間または時間を越え、環境インパクトに対するシステムの回復力(レジリエン
ス)によって表される場合のある、供給サービスの信頼性を保証する役割を通じて、価
値を提供する。つまりそれらは、供給サービス及び文化的サービスの提供の変動性また
は不確実性を緩和する。しかし、このサービスに対する個々の種の寄与の見積もりには、
問題がある。ごく一部の種と、それらに随伴する共生生物、共生種、または片利共生生
物は、人間が生き残るのに必要な生態系サービスを提供する。生物多様性の増大は生産
性を増大させる場合がある一方で、実験データは、所与の環境条件で、この効果が小さ
いことを示している。たとえば、一部の生物学的に多様なコミュニティの生産性は、モ
ノカルチャーの生産性よりも 10%ほど高いことが分かったが、この効果は 10 未満の種
で飽和状態となることが多い。しかし、環境条件が一定でない場合、種が異なる生態的
地位、ひいては環境条件の攪乱または変化に対して異なる反応を有することを条件とし
て、この効果は種の数とともに増す場合がある。たとえば、有害生物や病気の発生の調
整は、食物網の複雑さの影響を受ける。単純な捕食者・被食者系は「ブームと破たん」
の疫学の傾向がある一方、いくつかの栄養段階で作用し、被食者切り替えを含む、複数
の捕食者と被食者の存在には、はるかに安定したダイナミクスが伴う(Thebault and
Loreau 2006)。
図 8 には、供給サービス及び文化的サービスの調整における生物多様性の価値が示され
る。人々は、これらのサービスの供給の信頼性(または変動性)を気にかけることから(人
はリスク回避的である)、信頼性を高める(変動性を低下させる)ものはすべて高く評価さ
れることになる。従って、調整サービスの価値は、供給サービス及び文化的サービスの
提供の変動性に及ぼすその影響にある。これの重要な因子は、関与するサービスを担当
63
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
する機能群の多様性である。機能群内の種の特殊化または生態的地位の分化が大きいほ
ど、その群が耐え得る環境条件の範囲が広がる。時には、機能群の多様性の増大が、そ
の群のサポートするサービスの平均レベルを上げ、変動性を下げることもある。実際、
このポートフォリオ効果は、機能群の多様性維持の最も強い理由の 1 つとなっている。
社会
生態系使用
個々の人間の福利
自由と選択
安全保障 物質的ニーズ 保健 社会的関係
の決定
市場及び
非市場価値
保険価値
非自然ベースの
商品及びサービ
スの出所
供給
文化
食料、繊維、水、木、
薬
美学
観光
精神的
種と生態系を
保護する行動
調整
気候、洪水、有害物、病気
ほとんど負
のフィード
バック
基盤
生態系プロセス、生息環境の提供
応答の多様性、機能種類、景観の多様性
生物多様性
図 8:生物多様性及び調整サービスの価値の導出。
出典: Kinzig et al.(2009)。
ここでの一般的なポイントは、生物相の多様性を含む、生態系要素の価値は、それらが
生み出す商品及びサービスの価値から得られるという点である。本章で述べた生態系サ
ービスの各々について、生物多様性の変化に対する感受性を特定してきた。多様性の増
大によって、貴重なサービスの平均生産量が強化されるならば、多様性に価値があるこ
とは明白である。しかし、多様性の増大が貴重なサービスの生産量の変動を軽減するな
らば、それも価値の源となる、ということも事実である。人は、非信頼性よりも信頼性
を、不確実性よりも確実性を、そして変動性よりも安定性を好むことから、一般的に、
狭いよりは幅広い資産のポートフォリオを選択する。生物多様性は、生物資源のポート
フォリオと考えることができ、その価値は、平均生産量と生産量の変動の双方への影響
に依存する。
64
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
要するに、調整サービスの確保における生物多様性の価値と、生態系の回復力(レジリ
エンス)の確保におけるその価値との間には、密接な関係があるということである。回
復力(レジリエンス)は、さまざまな環境条件で機能する生態系の能力の評価基準であ
るため、回復力(レジリエンス)の大きなシステムは、より効果的な調整サービスを提
供する可能性もある。回復力(レジリエンス)の経済学は、第 5 章でさらに詳しく検討
する。
生命及び経済的生産に欠かすことのできない生態系サービスの流れは、さまざまな形式
の自然資本(MA 2005 参照)が提供し、調整する(de Groot et al.2002)。しかし、農地を除
き、それは、国の経済分析システムと国際的な経済分析システムの双方、そして、国内
総生産(GDP)などの指標において、現在のところ過小評価されており、目につかないこ
とさえある(Arrow et al.1995; Dasgupta et al.2000; TEEB 2008; TEEB 2009)。さらに、
国際社会は、関与する生産量をはるかに上回る自然資本ストックの引き出しを行ってお
り(生態系サービス、たとえば炭素隔離)、これまでの自然資本への社会的な再投資は、
限られたものである。しかし、再生可能な、栽培される自然資源の復元と補充への投資
は、経済的及び政治的観点から「割に合う」ものであることを、ますます多くの証拠が
示している(たとえば Goldstein et al.2008)。
第 1 章で示されるとおり、自然資本の復元という概念は、再生可能な、栽培される自然
資本ストックへのすべての投資、そして、社会経済的な人間福利に寄与しつつ、天然の
生態系と人が管理する生態系の双方の機能を向上させる方法によるそれらの維持として
定義される関連概念である(Aronson et al.2007)。従って、それは生態復元(第 5.1.1 項)
よりも幅広い概念であり、景観または地域規模で適用でき、大幅な経済的節約をもたら
すことができる。例としては、ドラケンズバーグ山脈プロジェクトにおける、劣化した
自然システムの回復と、生産システムの復帰を目指した統合プログラムが挙げられる
(Blignaut et al.2008)。
65
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
7
結論及びさらなる研究
これで、生体動力学の複雑さと結果、そして、人間社会への商品及びサービスの提供に
おける、これらのプロセスの表現については、十分な理解が得られた。我われの知識に
は大きなギャップが残っているものの、生態系サービスの提供を保護するため、生物多
様性を維持することの必要性に関しては、新たな科学的合意がなされている。それでも
なお、たとえば、生物多様性の変化が生態系サービスの供給の変動に及ぼす影響を予測
したいならば、さまざまな環境条件にわたって生物多様性保全の影響を測定する必要が
ある。同様に、価値を喪失することなく、人為的ストレスや環境的なストレス及びイン
パクトを吸収する社会生態系の能力に、生物多様性の変化が及ぼす影響が特定可能であ
る必要がある(Kinzig et al.2006; Scheffer et al.2000; 図 8 及び 9 参照)。そのためには、
生物多様性の変化、生態機能、生態系プロセス、そして価値ある商品及びサービスの供
給の連関を分析する必要がある。従って、そのような複雑な連結システムの回復力(レ
ジリエンス)を理解し、さらに補強するには、生物多様性と生態系サービスの連関、そ
して生物多様性の変化と人間の福利の連関のロバストモデルが必要である(Perrings
2007)。
知識の大きなギャップは、サービスの提供において、さまざまな生態系がどのように相
互作用するかという点である。生態系が均一であることはめったにない。広大な森林生
態系には、しばしば川、湖、及び湿地帯、そして、耕作されたり、野生生物のための開
かれた生息環境として管理されたりする場合のある土地区画が含まれる。生態系のさま
ざまな組み合わせが、いかにまとまって機能し、相互作用によって強化されたり、妨げ
られたりする場合のあるサービスを生成するのかを知ることは重要である。それと同時
に、とりわけ食料または燃料の生産のために集中的に管理される場合、個々の生態系か
らの幅広いサービスの提供を最大化する、根拠に基づく管理実務を早急に開発する必要
がある。
既存の知識は、本報告書内の別の場所において論じられている生態系サービスに対する
支払い(PES)システムを含む、生態系サービスに基づく生物多様性保護の、より効果的
な手段を開発するのに十分である(TEEB 2009)。これらの手段は、生態系サービスの対
外的な非市場価値を、現地の関係者がそのようなサービスを提供するための、実際の金
銭的インセンティブに変換する仕組みを提供する(Ferraro and Kiss 2002; Engel et
66
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
al.2008)。同様に、既存の知識は、より効果的なガバナンスの制度を開発するのに十分
であり、これには財産権の管理形態や規制構造が含まれる。そのような仕組みが確立さ
れれば、生態系サービス供給への保全の影響に関する、入手可能な情報の質を改善する
ことによって、それらの効果を高めることができる。
将来の研究において取り上げる必要のある主な質問には、以下が含まれる。
1. 生物多様性、生態系、及び回復力(レジリエンス)の関連性の理解:
z
生態系の回復力(レジリエンス)における種の相互作用及び機能の多様性の役割は
何か?
z
何が回復力(レジリエンス)喪失を後押しし、それらはさまざまなスケールでどの
ように相互に作用するのか?
z
種の(再)分配、数、及びプロセス速度への影響を通じた、気候及び関連する環境変
化の生態系機能への影響は何か?
2. 生態系サービスの力学の理解:
z
供給サービスの増大が調整の生態系サービスに与える影響の分析は、いかにして向
上させることが可能か?
z
機能及びサービスのサポート/供給の点で、土地及び景観ユニットの正確なマッピン
グに寄与できるツールは何か?
z
特に、受益者、場所、及び程度の定義に関して、サービス供給の空間的及び時間的
動態の評価向上に寄与できる具体的なツールは何か?
3. 生態系及び生態系サービスのガバナンスと管理の動学の理解:
z
すべての生態系サービスを考慮に入れた場合、
「 さまざまな生態系サービスを生成す
る、より多様な景観」と、食糧生産における単一栽培のような、より集中的に管理
される生態系との適切なバランスとはどのようなものか?
z
さまざまな生態系サービスの提供に関係するトレードオフ及び相補性はどのような
ものか? また、生態系の構成の変化は、それらの価値にどのように影響するか?
z
非市場的生態系サービスのガバナンスの最も効果的な仕組みは何か? また、それら
は、いかにして、生物多様性、生態系機能、そして生態系サービスの関係に関する
将来の理解の向上を利用できるように設計できるか?
67
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
参考文献
Aberle, N., Lengfellner, K. and Sommer, U. 2007. Spring bloom succession, grazing
impact and herbivore selectivity of ciliate communities in response to winter
warming. Oecologia 150(4): 668–681.
Abrantes, N., Antunes, S.C., Pereira, M.J. and Gonçalves, F. 2006. Seasonal
succession of cladocerans and phytoplankton and their interactions in a shallow
eutrophic lake (Lake Vela, Portugal). Acta Oecologica 29(1): 54–64.
Adams, J.M., Gallagher, J.A. and Donnison, I.S. 2008. Fermentation study on
Saccharina latissima for bioethanol production considering variable pre-treatments.
Journal of Applied Phycology. doi: 10.1007/s10811-008-9384-7.
Adams, H.D., Guardiola-Claramonte, M., Barron-Gafford, G.A., Camilo Villegas, J.,
Breshears, D.D., Zou, C.B., Troch, P.A. and Huxman, T.E. 2009. Temperature
sensitivity of drought-induced tree mortality portends increased regional die-off
under global-change-type drought. Proceedings of the National Academy of Sciences
106(17): 7063–7066.
Ahmann, D. and Dorgan, J.R. 2007. Bioengineering for Pollution Prevention through
Development of Biobased Energy and Materials. State of the Science Report. U.S.
Environmental Protection Agency, Office of Research and Development, National
Center for Environmental Research. Report No. 600/R-07/028, Washington, D.C.
Alexandri, E. and Jones, P. 2008. Temperature decreases in an urban canyon due to
green walls and green roofs in diverse climates. Building and Environment 43(4):
480–493.
Altieri, M.A. 1990. Agroecology and rural development in Latin America. In: Altieri,
M.A. and Hecht, S.B. (eds.) Agroecology and Small Farm Development, CRC Press,
Florida, pp.113–118.
Antonovics, J. and Bradshaw, A.D. 1970. Evolution in closely adjacent plant
populations VIII. Clinal patterns at a mine boundary. Heredity 25: 349–362.
Arenas, F., Rey, F. and Sousa-Pinto, I. 2009. Diversity effects beyond species
richness: evidence from intertidal macroalgal assemblages. Marine Ecology Progress
Series 381: 99–108.
Aronson, J., Milton S.J. and Blignaut J.N. (eds.) 2007. Restoring Natural Capital:
The Science, Business, and Practice. Island Press. Washington, D.C.
Arrow, K., Bolin, B., Costanza, R., Dasgupta, P., Folke, C., Holling, C.S., Jansson,
B.O., Levin, S., Maler, K.-G., Perrings, C. and Pimentel, D. 1995. Economic growth,
carrying capacity, and the environment. Science 268: 520–521.
Badia, D., Marti, C., Sánchez, J.R., Fillat, F., Aguirre, J. and Gómez, D. 2008.
68
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Influence of livestock soil eutrophication on floral composition in the Pyrenees
mountains. Journal of Mountain Science 5(1): 63–72.
Balmford, A., Bruner, A., Cooper, P., Costanza, R., Farber, S., Green, R.E., Jenkins,
M., Jefferiss, P., Jessamy, V., Madden, J., Munro, K., Myers, N., Naeem, S., Paavola,
J., Rayment, M., Rosendo, S., Roughgarden, J., Trumper, K. and Turner, R.K. 2002.
Economic reasons for conserving wild nature. Science 297: 950–953.
Balmford, A., Rodrigues, A.S.L., Walpole, M., ten Brink, P., Kettunen, M., Braat, L.
and de Groot, R. 2008. The Economics of Ecosystems and Biodiversity: Scoping the
Science. European Commission, Cambridge, UK.
Balvanera, P., Pfisterer, A.B., Buchmann, N., He, J.S., Nakashizuka, T., Raffaelli, D.
and Schmid, B. 2006. Quantifying the evidence for biodiversity effects on ecosystem
functioning and services. Ecology Letters 9(10): 1146–1156.
Barbier, E. B. (2007) Valuing ecosystems services as productive inputs. Economic
Policy, 22, 177-229.
Barbier, E.B., Baumgärtner, S., Chopra, K., Costello, C., Duraiappah, A., Hassan, R.,
Kinzig, A., Lehman, M., Pascual, U., Polasky, S., and Perrings, C. 2009. The
Valuation of Ecosystem Services In: Naeem S., Bunker, D., Hector, A., Loreau M. and
Perrings C. (eds.), Biodiversity, Ecosystem Functioning, and Human Wellbeing: An
Ecological and Economic Perspective. Oxford University Press, Oxford, pp. 248–262.
Barker, T., Hatton, K., O‟Connor, M., Connor, L. and Moss, B. 2008. Effects of
nitrate load on submerged plant biomass and species richness: results of a mesocosm
experiment. Fundamental and Applied Limnology/Archiv für Hydrobiologie 173(2):
89–100.
Barrios, E. 2007. Soil biota, ecosystem services and land productivity. Ecological
Economics 64: 269–285.
Beaumont, N.J., Austen, M.C., Atkins, J., Burdon, D., Degraer, S., Dentinho, T.P.,
Derous, S., Holm, P., Horton, T., van Ierland, E., Marboe, A.H., Starkey, D.J.,
Townsend, M., Zarzycki T. 2007. Identification, Definition and Quantification of
Goods and Services provided by Marine Biodiversity: Implications for the Ecosystem
Approach. Marine Pollution Bulletin 54: 253–265.
Begon, M., Townsend, C.R., and Harper, J.L. 2006. Ecology: From individuals to
ecosystems. Blackwell Publishing, Oxford, 738pp.
Bellwood, D.R., Hughes, T.P, Folke, C., Nyström, M. 2004. Confronting the coral reef
crisis. Nature 429: 827–833.
Belyea, L.R. and Malmer, N. 2004. Carbon sequestration in peatland: patterns and
mechanisms of response to climate change. Global Change Biology 10: 1043–1052.
Bengtsson, J., Ahnstrom, J. and Weibull, A.-C. 2005. The effects of organic
agriculture on biodiversity and abundance: a meta-analysis. Journal of Applied
69
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Ecology 42: 261–269.
Bennett, H.H., Cooke, M.L., Fowler, F.H., Harrington F.C., Moore, R.C., Page, J.C.,
Tugwell, R.G. and Wallace, H.A. 1936. A report of the Great Plains Area Drought
Committee. Hopkins Papers. F.D. Roosevelt Library.
Bennett, E.M., Peterson G.D., and Gordon L.J. 2009. Understanding relationships
among multiple ecosystem services. Ecology Letters 12: 1–11
Bird, W. 2007. Natural Thinking - Investigating the links between the Natural
Environment, Biodiversity and Mental Health. RSPB.
Blignaut, J.N., Aronson, J., Mander, M. and Marais, C. 2008. Investing in natural
capital and economic development: South Africa ‟ s Drakensberg Mountains.
Ecological Restoration 26: 143–150.
Bohensky, E.L., Reyers, B., Van Jaarsveld, A.S. 2006. Future ecosystem services in a
Southern African river basin: A scenario planning approach to uncertainty.
Conservation Biology 20: 1051–1061.
Bolund, P. and Hunhammar, S. 1999. Ecosystem services in urban areas. Ecological
Economics 29: 293–301.
Bond, W.J. 1993. Keystone species. In: Schulze, E.-D. and Mooney, H.A. (eds.)
Biodiversity and Ecosystem Function Springer Verlag, New York. pp 237–253.
Bradford, M.A., Jones, T.H., Bardgett, R.D., Black, H.I.J., Boag, B., Bonkowski, M.,
Cook, R., Eggers, T., Gange, A.C., Grayston, S.J., Kandeler, E., McCaig, A.E.,
Newington, J.E., Prosser, J.I., Setälä, H., Staddon, P.L., Tordoff, G.M., Tscherko, D.
and Lawton J.H. 2002. Impacts of soil faunal community composition on model
grassland ecosystems. Science 298: 615–618.
Bradshaw, C.J.A., Sodhi, N.S., Peh, K.S.H. and Brook, B.W. 2007. Global evidence
that deforestation amplifies flood risk and severity in the developing world. Global
Change Biology 13: 1–17.
Brand, F. 2005. Ecological resilience and its relevance within a theory of sustainable
development. UFZ-Report 03/2005. UFZ Centre for Environmental Research,
Leipzig, Germany.
Brand, F.S. and Jax, K. 2007. Focusing the meaning(s) of resilience: resilience as a
descriptive concept and a boundary object. Ecology and Society 12(1): 23.
Brauman, K.A., Daily, G.C., Duarte, T.K. and Mooney, H.A. 2007. The Nature and
Value of Ecosystem Services: An Overview Highlighting Hydrologic Services. The
Annual Review of Environment and Resources 32: 6.1–6.32.
Brosi, B.J., Daily, G.C., Shih, T.M., Oviedo, F., and Duran, G. 2008. The effects of
forest fragmentation on bee communities in tropical countryside. Journal of Applied
70
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Ecology 45(3): 773–783
Bruijnzeel, L.A. 2004. Hydrological functions of tropical forests: not seeing the soil
for the trees? Agriculture, Ecosystems & Environment 104: 185–228.
Brussaard L., de Ruiter, P.C. and Brown, G.G. 2007. Soil biodiversity for agricultural
sustainability. Agriculture, Ecosystems and Environment 121(3): 233–244.
Bullock, J.M., Pywell, R.F. and Walker, K.J. 2007. Long-term enhancement of
agricultural production by restoration of biodiversity. Journal of Applied Ecology
44(1): 6–12.
Butler, C.D. and Oluoch-Kosura, W. 2006. Linking future ecosystem services and
future human well-being. Ecology and Society 11(1): 30.
Cardinale, B.J., Wright, J.P., Cadotte, M.W., Carroll, I.T., Hector, A., Srivastava, D.S.,
Loreau, M. and Weis, J.J. 2007. Impacts of plant diversity on biomass production
increase through time because of species complementarity. Proceedings of the
National Academy of Sciences 104: 18123–18128.
Carpenter, S.R., DeFries, R., Dietz, T., Mooney, H.A., Polasky, S., Reid, W.V. and
Scholes, R.J. 2006. Millennium Ecosystem Assessment: Research needs. Science 314:
257–258.
Carpenter, S.R., Mooney, H.A., Agard, J., Capistrano, D., DeFries, R.S., Diaz, S.,
Dietz, T., Duraiappah, A.K., Oteng-Yeboah, A., Pereira, H.M., Perrings, C., Reid,
W.V., Sarukhan, J., Scholes, R.J., Whyte, A. 2009. Science for managing ecosystem
services: Beyond the Millennium Ecosystem Assessment. Proceedings of the
National Academy of Sciences 106(5): 1305–1312.
Carr, D., Barbieri, A., Pan, W. and Iranavi, H. 2006. Agricultural change and limits
to deforestation in Central America. In: Brouwer, F. and McCarl, B.A. (eds.)
Agriculture and Climate Beyond 2015. Springer, Dordrecht, Netherlands. pp.
91–107.
Carter, C.G. and Hauler, R.C. 2000. Fish meal replacement by plant meals in
extruded feeds for Atlantic salmon, Salmo salar L. Aquaculture 185: 299–311.
CBD 2000-2008. The Convention on Biological Diversity web pages: The Ecosystem
Approach homepage. Decision V/6: Ecosystem Approach, COP5 2000; Decision VI/12:
Ecosystem Approach, COP6 2002; Decision VII/11: Ecosystem approach, COP7 2004;
Decision VIII/15: Ecosystem approach, COP8 2006; Decision IX/7: Ecosystem
approach, COP9 2008. http://www.biodiv.org/programmes/cross-cutting/ecosystem/,
last access 2 Sept. 2009.
Chai, P.P.K., Lee, B.M.H. and Ismawi, H.O. 1989. Native Medicinal Plants of
Sarawak (Report FB1) Forestry Department, Sarawak.
Chapin, F.S., Walker, B.H., Hobbs, R.J., Hooper, D.U., Lawton, J.H., Sala, O.E. and
71
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Tilman, D. 1997. Biotic Control over the Functioning of Ecosystems. Science
277(5325): 500–504.
Cho, S.H., Poudyal, N.C., Roberts, R.K. 2008. Spatial analysis of the amenity value
of green open space. Ecological Economics 66(2-3): 403–416.
Clayton, R.D., Morris, J.E. and Summerfelt, R.C. 2008. Comparison of Soy and Fish
Oils in Practical Diets for Fingerling Walleyes. North American Journal of
Aquaculture 70: 171–174.
Clewell, A.F. and Aronson, J. 2007. Ecological Restoration: Principles, Values, and
Structure of an Emerging Profession. Island Press, Washington, D.C.
Cooke, M.L., Bennett, H.H., Fowler, F.H., Harrington, F.C., Moore, R.C., Page, J.C.,
Wallace, H.A. and Tugwell, R.G. 1936. Report of the Great Plains Drought Area
Committee. Franklin D. Roosevelt Library, Hopkins Papers, Box 13.
Costanza, R., Mitsch, W.J., and Day, J. 2006. Creating a sustainable and desirable
New Orleans. Ecological Engineering 26: 317–320.
Costanza, R. Graumlich, L., Steffen, W., Crumley, C., Dearing, J., Hibbard, K.,
Leemans, R., Redman, C. and Schimel, D. 2007. Sustainability or collapse: what can
we learn from integrating the history of humans and the rest of nature. Ambio 36(7):
522–527.
Cox, P. A., Elmqvist, T., Rainey, E. E. and Pierson, E. D. 1991. Flying foxes as strong
interactors in South Pacific Island ecosystems: A conservation Hypothesis.
Conservation Biology vol 5:448-454.
Dahl, E., Ervik, A., Iversen, S.A., Moksness, E. and Saetre, R. 2008. Reconciling
Fisheries with Conservation in the Coastal Zones - The Norwegian Experience and
Status. American Fisheries Society Symposium 49: 1519–1531.
Danovaro, R., Gambi, C., Dell‟Anno, A., Corinaldesi, C., Fraschetti, S., Vanreusel, A.,
Vincx, M. and Gooday, A.J. 2008. Exponential decline of deep-sea ecosystem
functioning linked to benthic biodiversity loss. Current Biology 18(1): 1–8.
Dasgupta, P., Levin S. and Lubchenko J. 2000. Economic pathways to ecological
sustainability. BioScience 50: 339–345.
de Groot, R.S., Wilson, M.A. and Boumans, R.M.J. 2002. A typology for the
classification, description and valuation of ecosystem functions, goods and services.
Ecological Economics 41: 393–408.
de Groot, R., de Wit, M., Brown Gaddis, E.J., Kousky, C., McGhee, W. and Young,
M.D. 2007. Making restoration work: Financial mechanisms. In: Aronson, J., Milton,
S.J. and Blignaut J.N., (eds.) Restoring Natural Capital: Science, Business, and
Practice. Island Press, Washington, D.C., pp. 286–293.
72
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
de Knegt, H.J., Groen, T.A., van de Vijver, C.A.D.M., Prins, H.H.T. and van
Langevelde, F. 2008. Herbivores as architects of savannas: inducing and modifying
spatial vegetation patterning. Oikos 117(4): 543–554.
de Leo, G.A. and Levin, S. 1997. The multifaceted aspects of ecosystem integrity.
Conservation Ecology 1(1): 3.
Delgado, C.L., Wada, N., Rosegrant, M.W., Meijer, S. and Mahfuzuddin, A. 2003.
Fish to 2020: supply and demand in changing global markets. International Food
Policy Research Institute, World Fish Center Technical report 62. The WorldFish
Center. Penang. 226 pp.
Deutsch, L., Gräslund, S., Folke, C., Huitric, M., Kautsky, N., Troell M., and Lebel, L.
2007. Feeding Aquaculture Growth through Globalization; Exploitation of Marine
Ecosystems for Fishmeal. Global Environmental Change 17: 238–249.
de Vallavielle-Pope, C. 2004. Management of disease resistance diversity of cultivars
of a species in single fields: controlling epidemics. Comptes Rendus Biologique 327:
611–620.
Díaz, S. and
Cabido, M. 2001. Vive la difference: plant functional diversity matters to ecosystem
processes. Trends in Ecology and Evolution 16: 646–655.
Díaz S., Fargione J., Chapin, F.S. III. and Tilman, D. 2006. Biodiversity Loss
Threatens Human Well-Being. PLoS Biology 4(8): e277.
Díaz, S., Lavorel, S., Chapin, F.S. III., Tecco, P.A., Gurvich, D.E. and Grigulis, K.
2007a. Functional Diversity – at the Crossroads between Ecosystem Functioning
and Environmental Filters, Chapter 7. In: Canadell, J.G., Pataki, D.E. and Pitelka,
L.F. (eds.) Terrestrial Ecosystems in a Changing World Part B. Global Change, The
IGBP Series, Springer, Berlin and Heidelberg, pp. 81–91.
Diaz, S., Lavorel, S., de Bello, F., Quetier, F., Grigulis, K. and Robson, M. 2007b.
Incorporating plant functional diversity effects in ecosystem service assessments.
Proceedings of the National Academy of Sciences 104(52): 20684–20689.
Dobson, A., Lodge, D., Alder, J., Cumming, G.S., Keymer, J., Mcglade, J., Mooney, H.,
Rusak, J.A., Sala, O., Wolters, V., Wall, D., Winfree, R. and Xenopoulos, M.A. 2006.
Habitat loss, trophic collapse, and the decline of ecosystem services, Ecology 87:
1915–1924.
Dong L.Q. and Zhang K.Q. 2006. Microbial control of plant-parasitic nematodes: a
five-party interaction. Plant and Soil 288: 31– 45.
Dorren, L.K.A., Berger, F., Imeson, A.C., Maier, B. and Rey, F. 2004. Integrity,
stability and management of protection forests in the European Alps. Forest Ecology
and Management 195: 165–176.
Drijver, C.A. and Marchand, M. 1985. Taming the Floods: Environmental Aspects of
73
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Floodplain Development in Africa. Centre for Environmental Studies, State
University of Leiden, Netherlands.
Dudley, N., and Stolton, S. 2003. Running pure: the importance of forest protected
areas to drinking water. World Bank/WWF Alliance for Forest Conservation and
Sustainable Use.
Dukes, J.S. 2001. Biodiversity and invasibility in grassland microcosms. Oecologia
126: 563–568.
EASAC (European Academies Science Advisory Council) 2009. Ecosystem services
and biodiversity in Europe – EASAC policy report 09. The Royal Society, London.
Ellaway, A., Macintyre, S., Mutrie, N. and Kirk, A. 2007. Nowhere to play? The
relationship between the location of outdoor play areas and deprivation in Glasgow.
Health & Place 13: 557–561.
Elmqvist, T. 2010. Ecosystem services: How to deal with trade-offs. Stockholm
University, Stockholm, unpublished.
Elmqvist, T., Folke, C., Nyström, M., Peterson, G., Bengtsson, J., Walker, B. and
Norberg J. 2003. Response diversity, ecosystem change, and resilience. Frontiers in
Ecology and the Environment 1(9): 488–494.
Elmqvist, T., Alfsen, C., and Colding, J. 2008. Urban Systems. In: S.E. Jørgensen
and B.D. Fath (eds.) Ecosystems. Encyclopedia of Ecology Vol. 5. Elsevier, Oxford. pp.
3665–3672.
Engel, S., Pagiola, S. and Wunder, S. 2008. Designing payments for environmental
services in theory and practice: an overview of the issues. Ecological Economics 65:
663–674.
ESA (Ecological Society of America) 2000. Ecosystem Services: A Primer.
http://www.actionbioscience.org/environment/esa.html, accessed 1 September 2009.
Ettama, C.H. and Wardle, D.A. 2002. Spatial soil ecology. Trends in Ecology and
Evolution 17: 177–183.
Ewel, J. 1986. Designing agricultural systems for the humid tropics. Annual Review
of Ecology and Systematics 17: 245–271.
Falk, D.A., Palmer, M.A. and Zedler, J.B. (eds.) 2006. Foundations of Restoration
Ecology. Island Press, Washington D.C.
FAO (Food and Agriculture Organization) 1999. Sustaining agricultural biodiversity
and agro-ecosystem functions: Opportunities, incentives and approaches for the
conservation and sustainable use of agricultural biodiversity in agro-ecosystems and
production systems. Food and Agriculture Organization of the United Nations. Rome,
Italy.
74
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
FAO 2006. Global Forest Resources Assessment 2005: Progress Towards Sustainable
Forest Management. Food and Agriculture Organization of the United Nations.
Rome, Italy.
FAO 2007. The World's Mangroves 1980-2005. Food and Agriculture Organization of
the United Nations (FAO). Rome, Italy.
FAO 2009. State of World Fisheries and Aquaculture, 2008. Food and Agriculture
Organization of the United Nations. Rome, Italy.
Fearnside, P.M. 2001. Soybean cultivation as a threat to the environment in Brazil.
Environmental Conservation 28(1): 23–38.
Fears, R. 2007. Genomics and Genetic Resources for Food and Agriculture.
Background Study Paper 34. Commission on Genetic Resources for Food and
Agriculture. Food and Agriculture Organization of the United Nations. Rome, Italy.
Ferraro, P. and Kiss, A. 2002. Direct payments to conserve biodiversity. Science 298:
718–1719.
Fischer, J., Brosi, B., Daily, G.C., Ehrlich, P.R., Goldman, R., Goldstein, J.,
Lindenmayer, D.B., Manning, A.D., Mooney, H.A., Pejchar, L., Ranganathan, J. and
Tallis, H. 2008. Should agricultural policies encourage land sparing or
wildlife-friendly farming? Frontiers in Ecology and the Environment 6(7): 380–385.
Fitter, A.H., Gilligan, C.A., Hollingworth, K., Kleczkowski, A., Twyman, R.M.,
Pitchford, J.W. and the Members of the NERC Soil Biodiversity Programme. 2005.
Biodiversity and ecosystem function in soils. Functional Ecology 19: 369–377.
FOE 2008. What’s feeding our food? The environmental and social impacts of the
livestock
sector.
Friends
of
the
Earth,
London.
www.foe.co.uk/resource/briefings/livestock_impacts.pdf.
Folke, C., Carpenter, S., Walker, B., Scheffer, M., Elmqvist, T., Gunderson, L. and
Holling, C.S. 2004. Regime shifts, resilience, and biodiversity in ecosystem
management. Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics 35: 557–581.
Forest, F., Grenyer, R., Rouget, M., Davies, T.J., Cowling, R.M., Faith, D.P., Balmford,
A., Manning, J.C., Proches, S., van der Bank, M., Reeves, G., Hedderson, T.A.J. and
Savolainen, V. 2007. Preserving the evolutionary potential of floras in biodiversity
hotspots. Nature 445: 757–760.
Foster, S. and Loucks, D.P. (eds.) 2006. Non-renewable Groundwater Resources. A
Guidebook on Socially-Sustainable Management for Water Policy Makers. IHP- VI
Series on Groundwater No. 10. UNESCO, Paris. 97 pp.
Freeman, A.M. III. 2003. The Measurement of Environmental and Resource Values:
Theory and Methods, 2nd edition. Resources for the Future, Washington D.C.
75
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Fuller, R.A., Irvine, K.N., Devine-Wright, P., Warren, P.H. and Gaston, K.J. (2007).
Psychological benefits of greenspace increase with biodiversity. Biology Letters 3:
390–394.
Ghazoul, J. 2005. Buzziness as usual? Questioning the global pollination crisis.
Trends in Ecology and Evolution 20(7): 367–373.
Givoni, B., 1991. Impact of planted areas on urban environmental quality: a review.
Atmospheric Environment 25B(3): 289–299.
Goldstein, J.H., Pejchar L. and Daily, G.C. 2008. Using return-on-investment to
guide restoration: a case study from Hawaii. Conservation Letters 1: 236–243.
Gordon, L.J., Peterson, G.D. and Bennett, E. 2008, Agricultural Modifications of
Hydrological Flows Create Ecological Surprises. Trends in Ecology and Evolution 23:
211–219.
Grace, J.B., Anderson, T.M., Smith, M.D., Seabloom, E., Andelman, S.J., Meche, G.,
Weiher, E., Allain, L.K., Jutila, H., Sankaran, M., Knops, J., Ritchie, M. and Willig,
M.R. 2007. Does species diversity limit productivity in natural grassland
communities? Ecology Letters 10: 680–689.
Greenleaf, S.S., and Kremen, C. 2006. Wild bees enhance honey bees' pollination of
hybrid sunflower. Proceedings of the National Academy of Sciences 103(37):
13890–13895.
Griffin, John.N., Eoin J. O ‟ Gorman, Mark C. Emmerson, Stuart, R. Jenkins,
Alexandra-Maria Klein, Michel Loreau, and Amy Symstad. 2009. Biodiversity and
the stability of ecosystem functioning, pp 78-93 in Naeem S., D. Bunker, A. Hector, M.
Loreau and C. Perrings (eds) 2009. Biodiversity, Ecosystem Functioning, and Human
Wellbeing: An Ecological and Economic Perspective, Oxford, Oxford University
Press.
Grime, J.P. 1988. Comparative plant ecology: a functional approach to common
British species. Unwin Hyman. London.
Gruber, U. and Bartelt, P. 2007. Snow avalanche hazard modelling of large areas
using shallow water numerical methods and GIS. Environmental Modelling and
Software 22(10): 1472–1481.
Guenni, L.B., Cardoso, M., Goldammer, J., Hurtt, G., Mata, L.J., Ebi, K., House, J.,
Valdes, J. and Norgaa, R. 2005. Regulation of Natural Hazards: Floods and Fires. In:
Millennium Ecosystem Assessment. Ecosystems and Human Well-being: Current
States and Trends. Island Press, Washington D.C., pp. 441–454.
Gunderson, L.H. 2000. Ecological resilience – in theory and application. Annual
Review of Ecology and Systematics 31: 425–439.
76
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Gunderson, L. H. and Holling, C. S. 2002, Panarchy: understanding transformations
in human and natural systems, Island Press, Washington, DC
Haas, D. and Défago, G. 2005. Biological control of soil-borne pathogens by
fluorescent pseudomonads. Nature Reviews in Microbiology 3: 307–319.
Haas, D. and Keel, C. 2003. Regulation of antibiotic production in root-colonizing
Pseudomonas spp. and relevance for biological control of plant disease. Annual
Reviews in Phytopathology 41: 117–153.
Hajjar, R., Jarvis, D.I. and Gemmill-Herren, B. 2008. The utility of crop genetic
diversity in maintaining ecosystem services. Agriculture, Ecosystems and
Environment 123: 261–270.
Harlan, J. R. 1975. Crops and man. American Society of Agronomy, Madison
Wisconsin, 295 p.
Heal, G.M., Barbier, E.B., Boyle, K.J., Covich, A.P., Gloss, S.P., Hershner, C.H.,
Hoehn, J.P., Pringle, C.M., Polasky, S., Segerson, K. and Shrader-Frechette, K. 2005.
Valuing Ecosystem Services: Toward Better Environmental Decision Making. The
National Academies Press, Washington D.C.
Heard, M.S., Carvell, C., Carreck, N.L., Rothery, P., Osborne, J.L., and Bourke, A.F.G.
2007. Landscape context not patch size determines bumble-bee density on flower
mixtures sown for agri-environment schemes. Biology Letters 3: 638–641.
Hefting, M., Bobbink, R. and Janssens, M. 2003. Nitrous oxide emission and
denitrification in chemically nitrate-loaded riparian buffer zones. Journal of
Environmental Quality 32: 1194–1203.
Heithaus, M.R., Frid, A., Wirsing, A.J., Worm, B. 2008. Predicting ecological
consequences of marine top predator declines. Trends in Ecology and Evolution 23:
202–210.
Helfield, J. H. and Robert J. Naiman (2006) Keystone Interactions: Salmon and Bear
in Riparian Forests of Alaska Ecosystems 9, (2) 167-180.
Helgason, T., Daniell, T.J., Husband, R., Fitter, A.H. and Young, J.P.W. 1998.
Ploughing up the wood-wide web? Nature 394: 431.
Heong, K. L. , Manza,A., Catindig, J., Villareal, S. and Jacobsen, T. 2007. Changes in
pesticide use and arthropod biodiversity in the IRRI research farm. Outlooks in Pest
Management, October 2007 issue.
Heywood, V.H. 1999. Use and potential of wild plants in farm households. Food and
Agriculture Organization, Rome.
Hilderbrand, G.V, Thomas A. Hanley, Charles T. Robbins and C. C. Schwartz (1999).
Role of brown bears (Ursus arctos) in the flow of marine nitrogen into a terrestrial
77
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ecosystem Oecologia, 121 (4) 546 - 550
Hill J, Erik Nelson, David Tilman, Stephen Polasky, and Douglas Tiffany. 2006
Environmental, economic, and energetic costs and benefits of biodiesel and ethanol
biofuels. PNAS vol. 103 no. 30:11206–11210
Hobbs, R.J., Yates, S. and Mooney, H.A. 2007. Long-term data reveal complex
dynamics in grassland in relation to climate and disturbance. Ecological
Monographs 77(4): 545–568.
Hoehn, P., Tscharntke, T., Tylianakis, J.M. et al. 2008. Functional group diversity of
bee pollinators increases crop yield. Proceedings of the Royal Society B – Biological
Sciences 275(1648): 2283–2291.
Holling, C.S. 1973. Resilience and stability of ecological systems. Annual Review of
Ecology and Systematics 4: 1–23.
Holling, C.S. and Meffe, G.K. 1996. Command and control and the pathology of
natural resource management. Conservation Biology 10: 328–337.
Holmes, P.M., Richardon, D.M. and Marais, C. 2007. Costs and benefits of restoring
natural capital following alien plant invasions in fynbos ecosystems in South Africa.
In: Aronson, J., Milton, S.J. and Blignaut, J.N. (eds.) Restoring Natural Capital:
Science, Business, and Practice. Island Press. Washington, D.C. pp.188–197.
Hooper, D.U., Chapin III, F.S., Ewel, J.J., Hector, A., Inchausti, P., Lavorel, S.,
Lawton, J.H., Lodge, D.M., Loreau, M., Naeem, S., Schmid, B., Setälä, H., Symstad,
A.J., Vandermeer, J., Wardle, D.A., 2005. Effects of biodiversity on ecosystem
functioning: a consensus of current knowledge. Ecological Monographs 75(1): 3–35.
Hooper, D.U. and Dukes, J.S. 2004. Overyielding among plant functional groups in a
long-term experiment. Ecology Letters 7: 95–105.
Hughes, J. B., Anthony, R. Ives, A.R., Norberg, J. 2002. Do species interactions
buffer environmental variation (in theory)? In: Loreau et al. (eds.) Biodiversity and
Ecosystem Functioning, Oxford University Press, Oxford, pp. 92–101.
Ibelings, B.W., Portielje, R., Lammens, E.H.R.R., Noordhuis, R., van den Berg, M.S.,
Joose, W. and Meijer, M.L. 2007. Resilience of Alternative Stable States during the
Recovery of Shallow Lakes from Eutrophication: Lake Veluwe as a Case Study.
Ecosystems 10: 4–16.
Ingham, R.E., Trofymov, J.A., Ingham, E.R. and Coleman, D.C. 1985. Interaction of
bacteria, fungi, and their nematode grazers: effects on nutrient cycling and plant
growth. Ecological Modelling 55: 119–140.
Ings, T.C., Montoya, J.M., Bascompte, J., Blüthgen, N., Brown, L., Dormann, C.F.,
Edwards, F., Figueroa, D., Jacob, U., Jones, J.I., Lauridsen, R.B., Ledger, M.E.,
Lewis, H.M., Olesen, J.M., van Veen, F., Warren, P.H. and Woodward, G. 2008.
78
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Ecological networks – beyond food webs. Review. Journal of Animal Ecology 78(1):
253–269.
IPCC 2007. Climate Change 2007: The Physical Science Basis. IPCC Secretariat,
Geneva.
Irvine, K., Moss, B. and Balls, H.R. 1989. The loss of submerged plants with
eutrophication II. Relationships between fish and zooplankton in a set of
experimental ponds, and conclusions. Freshwater Biology 22: 89–107.
Jackson, J.B.C., Kirby, M.X., Berger, W.H., Bjorndal, K.A., Botsford, L.W., Bourque,
B.J., Bradbury, R.H., Cooke, R., Erlandson, J., Estes, J.A., Hughes, T.P., Kidwell, S.,
Lange, C.B., Lenihan, H.S., Pandolfi, J.M., Peterson, C.H., Steneck, R.S., Tegner,
M.J. and Warner, R.R. 2001. Historical overfishing and the recent collapse of coastal
ecosystems. Science 293: 629–638.
Jansson, Å. and Nohrstedt, P. 2001. Carbon sinks and human freshwater
dependence in Stockholm County. Ecological Economics 39: 361–370.
Janzen, D.H. 2002. Tropical dry forest: Area de Conservacion Guancaste,
northwestern Costa Rica. In: Perrow, M.R. and Davy, A.J. (eds.), Handbook of
Ecological Restoration. Cambridge University Press, Cambridge, UK, pp. 559–583.
Janzen, H.H. 2004. Carbon cycling in earth systems – a soil science perspective.
Agriculture, Ecosystems and Environment 104: 399– 417.
Jenkins, I.C., Riemann, R. 2003. What does nonforest land contribute to the global C
balance? In: McRoberts, R.E., Reams, G.A., van Deusen, P.C. and Moser, J.W. (eds.),
Proceedings of the Third Annual Forest Inventory and Analysis Symposium. US
Department of Agriculture, Forest Service. pp. 173–179.
Jeppesen, E., Søndergaard, M., Meerhoff, M., Lauridsen, T.L. and Jensen, J.P. 2007.
Shallow lake restoration by nutrient loading reduction - some recent findings and
challenges ahead. Hydrobiologia 584(1): 239–252.
Johnson, R., 2007. Recent Honey Bee Colony Declines. Congressional Research
Service Report for Congress. RL 33938. Washington, D.C.
Joshi, J., Schmid, B., Caldeira, M.C., Dimitrakopoulos, P.G., Good, J., Harris, R.,
Hector, A., Huss-Danell, K., Jumpponen, A., Minns, A., Mulder, C.P.H., Pereira, J.S.,
Prinz, A., Scherer-Lorenzen, M., Siamantziouras, A.-S.D., Terry, A.C., Troumbis, A.Y.
and Lawton, J.H. 2001. Local adaptation enhances performance of common plant
species. Ecology Letters 4(6): 536–544.
Junk, W.J., Bayley, P.B. and Sparks, R.E. 1989. The flood-pulse concept in
river-floodplain systems Canadian Special Publications in Fisheries and Aquatic
Sciences 106: 110–127.
Kathiresan, K., and Rajendran, N. 2005. Coastal mangrove forests mitigated
79
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
tsunami. Estuarine, Coastal and Shelf Science 65: 601–606.
Kearns, C.A., Inouye, D.W. and Waser, N.M. 1998. Endangered mutualisms: the
conservation of plant-pollinator interactions. Annual Review of Ecology and
Systematics 29: 83–112.
Kinzig, A.P., Warren, P.S.. Martin, C., Mope, D., Katti, M. 2005. The effects of human
socioeconomic status and cultural characteristics on urban patterns of biodiversity.
Ecology and Society 10: 23.
Kinzig, A.P., Ryan, P., Etienne, M., Allyson, H., Elmqvist, T., and Walker, B.H. 2006.
Resilience and regime shifts: assessing cascading effects. Ecology and Society
11(1):20.
Kinzig, A.P., Perrings, C. and Scholes, R. 2009. Ecosystem Services and the
Economics of Biodiversity Conservation, in preparation.
Klein, A.M., Steffan-Dewenter, I. and Tscharntke, T. 2003. Fruit set of highland
coffee increases with the diversity of pollinating bees. Proceedings of the Royal
Society B – Biological Sciences 270(1518): 955–961.
Klein, A.M., Vaissière, B.E., Cane, J.H., Steffan-Dewenter, I., Cunningham, S.A.,
Kremen, C. and Tscharntke, T. 2007. Importance of pollinators in changing
landscapes for world crops. Proceedings of the Royal Society B – Biological Sciences
274: 303–313.
Kontoleon, A., Pascual, U. and Smale, M. (eds.) 2008. Agrobiodiversity, Conservation
and Economic Development. Taylor and Francis, New York, 432 pp.
Kremen, C. and Chaplin-Kramer, R. 2007. Insects as providers of ecosystem services:
Crop pollination and pest control. In: Stewart, A.J.A., New, T.R. and Lewis O.T.
(eds.), Insect Conservation Biology. Royal Entomological Society, London, pp.
349–382.
Kremen, C. and Ricketts, T. 2000. Global perspectives on pollination disruptions.
Conservation Biology 14(5): 1226–1228.
Kremen, C., Williams, N.M., Bugg, R.L., Fay, J.P. and Thorp, R.W. 2004. The area
requirements of an ecosystem service: crop pollination by native bee communities in
California. Ecology Letters 7: 1109–1119.
Kremen, C., Williams, N.M., Aizen, M.A., et al. 2007. Pollination and other
ecosystem services produced by mobile organisms: a conceptual framework for the
effects of land-use change. Ecology Letters 10(4): 299–314.
Kulmala, M., Suni, T., Lehtinen, K.E.J., Dal Maso, M., Boy, M., Reissell, A., Rannik,
Ü, Aalto, P., Keronen, P., Hakola, H., Bäck, J., Hoffmann, T., Vesala, T. and Hari, P.
2004. A new feedback mechanism linking forests, aerosols, and climate. Atmospheric
Chemistry and Physics 4: 557–562.
80
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Kunz, Y.W. 2004. Developmental Biology of Teleost Fishes. Springer, Heidelberg,
Germany, 638 pp.
Lake, I.R., Harrison, F.C.D., Chalmers, R.M., Bentham, G., Nichols, G., Hunter, P.R.,
Kovats, R.S. and Grundy, C. 2007. Case-control study of environmental and social
factors influencing cryptosporidiosis. European Journal of Epidemiology 22:
805–811.
Larsen, T.H., Williams, N.M., and Kremen, C. 2005. Extinction order and altered
community structure rapidly disrupt ecosystem functioning. Ecology Letters 8: 538–
547.
Laurance, W., Salicrup, P., Delamônica, P., Fearnside, P., D'Angelo, S., Jerozolinksi,
A., Pohl, L. and Lovejoy, T. 2001. Rain forest fragmentation and the structure of
Amazonian liana communities. Ecology 82: 105–116.
Lavelle, P. and Spain, A.V. 2001. Soil Ecology. Kluwer Academic Publishers, The
Netherlands.
Lavelle, P., Decaëns, T., Aubert, M. Barota, S., Blouina, M., Bureau, F., Margerieb, P.,
Mora, P. and Rossi, J.-P. 2006. Soil invertebrates and ecosystem services. European
Journal of Soil Biology 42 (Supplement 1): S3–S15.
Lawton, J. 1997. The science and non-science of conservation biology. Oikos 79(1):
3–5.
Lawton, J.H., Naeem, S., Thompson, L.J., Hector, A. and Crawley, M.J. 1998.
Biodiversity and ecosystem function: getting the Ecotron experiment in its correct
context. Functional Ecology 12: 848–852.
Lee, J., Park, B.-J.., Tsunetsugu, Y., Takahide, K. and Miyazaki, Y. 2009. Restorative
effects of viewing real forest landscapes, based on a comparison with urban
landscapes. Scandinavian Journal of Forest Research 24(3): 227–234.
Lessard, J.L. and Merritt, R.W. 2006. Influence of marine-derived nutrients from
spawning salmon on aquatic insect communities in southeast Alaskan streams.
Oikos 113: 334–343..
Levin, S.A. (ed.) 2000. Encyclopedia of Biodiversity, Five-Volume Set, 2nd edition.
Academic Press. 4666 pp.
Liiri, M., Setälä, H., Haimi, J., Pennanen, T. and Fritze, H. 2002. Soil processes are
not influenced by the functional complexity of soil decomposer food webs under
disturbance. Soil Biology and Biochemistry 34: 1009–1020.
Loehle, C. 1989. Catastrophe theory in ecology: a critical review and an example of
the butterfly catastrophe. Ecological Modelling 49: 125–152.
81
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Loreau, M. 2008. Biodiversity and Ecosystem Functioning: The Mystery of the Deep
Sea. Current Biology 18(3): R126–R128.
Losey, J.E. and Vaughan, M. 2006. The economic value of ecological services provided
by insects. Bioscience 56: 331–323.
Lovasi, G.S., Quinn, J.W., Neckerman, K.M., Perzanowski, M.S. and Rundle, A. 2008.
Children living in areas with more street trees have lower prevalence of asthma.
Journal of Epidemiology and Community Health 62: 647–649.
Luck, G.W., Daily, G.C. and Ehrlich, P.R. 2003. Population diversity and ecosystem
services. Trends in Ecology and Evolution 18(7): 331–336.
Luck, G.W., Harrington, R., Harrison, P.A., Kremen, C., and Berry, P.M. et al. 2009.
Quantifying the contribution of organisms to the provision of ecosystem services.
Bioscience 59: 223–235.
Lyons, K.G. and Schwartz, M.W. 2001. Rare species loss alters ecosystem function –
invasion resistance. Ecology Letters 4: 358–365.
Lyons, K.G., Brigham, C.A., Traut, B.H. and Schwartz, M.W. 2005. Rare Species and
Ecosystem Functioning. Conservation Biology 19(4): 1019–1024.
MA 2005. Millennium Ecosystem Assessment. Ecosystems and Human Well-being:
Synthesis. Island Press, Washington, D.C.
Maas J, Verheij RA, Groenewegen PP, et al. 2006. Green space, urbanity, and health:
how strong is the relation? Journal of Epidemiology and Community Health. 60(7):
587Mackill, D. 2006. From genes to farmer‟s fields. Rice Today (October-December):
28–31.
Mader, P., Fliessbach, A., Dubois, D., Gunst, L., Fried, P. and Niggli, U. 2002. Soil
fertility and biodiversity in organic farming. Science 296: 1694–1697.
Makarieva, A.M., Gorshkov, V.G. and Bai-Lian, Li. 2006. Conservation of water cycle
on land via restoration of natural closed-canopy forests: implications for regional
landscape planning. Ecological Research 21(6): 897–906.
Makarieva, A.M. and Gorshkov, V.G. 2007. Biotic pump of atmospheric moisture as
driver of the hydrological cycle on land. Hydrology and Earth Systems Science 11:
1013–1033.
.Mäler, K.-G. 2000. Development, ecological resources and their management: A
study of complex dynamic systems. European Economic Review 44(4-6): 645–665.
Maltby, E., Hogan, D.V., Immirzi, C.P., Tellam, J.H. and van der Peijl, M.J. 1994.
Building a new approach to the investigation and assessment of wetland ecosystem
82
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
functioning. In: Mitsch, W.J. (ed.) Global Wetlands: Old World and New. Elsevier,
Amsterdam, pp. 637–658.
Maltby, E., Burbridge, P. and Fraser, A. 1996. Peat and acid sulphate soils: a case
study from Vietnam. In: Maltby, E., Immirzi, C.P. and Safford, R.J. (eds.) Tropical
Lowland Peatlands of Southeast Asia. IUCN, Gland.
Marani, M., Lanzoni, S., Silvestric, S. and Rinaldo, A. 2004. Tidal landforms,
patterns of halophytic vegetation and the fate of the lagoon of Venice. Journal of
Marine Systems 51: 191–210.
Marengo, J.A., Soares, W.R., Saulo, C. and Nicolini, M. 2004. Climatology of the
low-level jet east of the Andes as derived from the NCEP–NCAR reanalyses:
characteristics and temporal variability. Journal of Climate 17(12): 2261–2280.
Mark, A.F. and Dickinson, K.J.M. 2008. Maximizing water yield with indigenous
non-forest vegetation: a New Zealand perspective. Frontiers in Ecology and the
Environment 6: 25–34.
May, R.M. 1977. Thresholds and breakpoints in ecosystems with a multiplicity of
stable states. Nature 269: 471–477.
McNaughton, S.J. 1993. Biodiversity and function of grazing ecosystems. In: Schulze,
E.D. and Mooney, H.A. (eds.) Biodiversity and Ecosystem Function. Springer-Verlag,
Berlin, pp. 361–383.
McPherson, E.G., Nowak, D., Heisler, G., Grimmond, S., Souch, C., Grant, R.,
Rowntree, R. 1997. Quantifying urban forest structure, function and value: the
Chicago Urban Forest Climate Project. Urban Ecosystems 1: 49–61.
Memmott, J., Craze, P.G., Waser, N.M. and Price, M.V. 2007. Global warming and the
disruption of plant-pollinator interactions. Ecology Letters 10: 710–717.
Messelink, G.J., van Maanen, R., van Steenpaal, S.E.F. and Janssen, A. 2008.
Biological control of thrips and whiteflies by a shared predator: Two pests are better
than one. Biological Control 44(3): 372–379.
Miller, R.M. and Jastrow, J.D. (eds.) 2000. Mycorrhizal fungi influence soil structure.
Arbuscular mycorrhizas: molecular biology and physiology. Kluwer Academic Press,
Dordrecht, Netherlands.
Mitchell, N.L. and Lamberti, G.A. 2005. Responses in dissolved nutrients and
epilithon abundance to spawning salmon in southeast Alaska streams. Limnology
and Oceanography 50: 217–227.
Mitchell R, Popham F 2008.Effect of exposure to natural environment on health
inequalities: an observational population study. Lancet 372(9650): 1655-1660.
Morandin, L.A., Winston, M.L., Abbott, V.A., and Franklin, M.T. 2007. Can
83
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
pastureland increase wild bee abundance in agriculturally intense areas? Basic and
Applied Ecology 8: 117–124.
Morrone, J.J. 1994. On the identification of areas of endemism. Systematic Biology
43(3): 438–441.
Moss, B. 2001. The Broads – the People’s Wetland. The New Naturalist Series,
Harper Collins, London, 392 pp.
Mouritsen, K.N., Mouritsen, L.T. and Jensen, K.T. 1998. Change of topography and
sediment characteristics on an intertidal mud-flat following mass-mortality of the
amphipod Corophium volutator. Journal of the Marine biological Association of the
United Kingdom 78: 1167–1180.
Myers, N., Mittermeier, R.A., Mittermeier, C.G., da Fonseca, G.A.B. and Kent, J.
2000. Biodiversity hotspots for conservation priorities. Nature 403: 853–858.
Myers, E. C. (2007) Policies to Reduce Emissions from Deforestation and
Degradation (REDD) in Tropical Forests: An Examination of the Issues Facing the
Incorporation of REDD into Market-Based Climate Policies Resources for the Future
Discussion Paper 07-50, . Resources for the Future, Washington, D.C. (rff.org).
Mysterud, A. 2006. The concept of overgrazing and its role in management of large
herbivores. Wildlife Biology 12(2): 129–141.
Nabhan, G.P. and Buchmann, S.L. 1997. Services provided by pollinators. In: Daily
G.C. (ed.) Nature’s Services: Societal Dependence on Natural Ecosystems. Island
Press, Washington, D.C. pp. 133–150.
Naeem, S., Thompson, L.J., Lawler, S.P., Lawton, J.H. and Woodfin, R.M. 1995.
Empirical evidence that declining species diversity may alter the performance of
terrestrial ecosystems. Philosophical Transactions: Biological Sciences 347(1321):
249–262.
Naidoo, R., Balmford, A., Costanza, R., Fisher, B., Green, R.E., Lehner, B., Malcolm,
T.R. and Ricketts, T.H. 2008. Global mapping of ecosystem services and conservation
priorities. Proceedings of the National Academy of Sciences 105: 9495–9500.
Naylor, R. and Ehrlich, P. 1997. Natural pest control services and agriculture. In:
Daily, G. (ed.) Nature's Services: Societal Dependence on Natural Ecosystems. Island
Press, Washington, D.C., pp. 151–174.
Nei, M. 1987. Molecular Evolutionary Genetics. Columbia University Press,
Irvington, New York.
Nelson, E., Mendoza, G., Regetz, J., Polasky, S., Tallis, H., Cameron, D.R. et al.
(2009). Modeling multiple ecosystem services, biodiversity conservation, commodity
production, and tradeoffs at landscape scales. Front. Ecol. Environ., 7, 4–11.
84
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Nevo, E. 1998. Genetic diversity in wild cereals: regional and local studies and their
bearing on conservation ex situ and in situ. Genetic Resources and Crop Evolution
45(4): 355–370.
Newbold, J.D., Elwood, J.W., O‟Neill, R.V. and van Winkle, W. 1981. Nutrient
spiralling in streams: the concept and its field measurements. Canadian Journal of
Fisheries and Aquatic Sciences 38: 860–863.
Newsham, K.K., Fitter, A.H. and Watkinson, A.R. 1995. Arbuscular mycorrhiza
protect an annual grass from root pathogenic fungi in the field. Journal of Ecology
83: 991–1000.
Ninan, K.N. (ed) (2009). Conserving and Valuing Ecosystem Services and
Biodiversity. London, Earthscan.
Odum, E.P. 1969. The strategy of ecosystem development. Science 164: 262–270.
O‟Neill, R.V. 2001. Is it time to bury the ecosystem concept? (with full military
honours, of course!). Ecology 82(12): 3275–3284.
O‟Neill, R.V. and Kahn, J.R. 2000. Homo economus as a keystone species. BioScience
50(4): 333–337.
Orme, C.D.L., Davies, R.G., Burgess, M., Eigenbrod, F., Pickup, N., Olson, V.A.,
Webster, A.J., Ding, T.-S., Rasmussen, P.C., Ridgely, R.S., Stattersfield, A.J., Bennett
P.M., Blackburn T.M., Gaston K.J. and Owens I.P.F. 2005. Global hotspots of species
richness are not congruent with endemism or threat. Nature 436: 1016–1019.
Ozer, S., Irmak, M.A. and Yilmaz, H. 2008. Determination of roadside noise
reduction effectiveness of Pinus sylvestris L. and Populus nigra L. in Erzurum,
Turkey. Environmental Monitoring and Assessment 144: 191–197.
Palumbi, S.R., McLeod, K.L. and Grünbaum, D. 2008. Ecosystems in Action: Lessons
from Marine Ecology about Recovery, Resistance, and Reversibility. BioScience 58(1):
33–42.
Pauly, D. 1995. Anecdotes and the shifting baseline syndrome of fisheries. Trends in
Ecology and Evolution 10(10): 430.
Pergams, O.R.W. and Zaradic, P.A. 2008. Evidence for a fundamental and pervasive
shift away from nature-based recreation. Proceedings of the National Academy of
Sciences 105: 2295–2300.
Perrings, C. 2007. Going beyond panaceas: future challenges. Proceedings of the
National Academy of Sciences 104: 15179–15180.
Perrings, C., Baumgärtner, S., Brock, W.A., Chopra, K., Conte, M., Costello, C.,
Duraiappah, A., Kinzig, A.P., Pascual, U., Polasky, S., Tschirhart, J. and Xepapadeas,
A. 2009. The Economics of Biodiversity and Ecosystem Services. In: Naeem, S.,
85
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Bunker, D., Hector, A., Loreau, M. and Perrings, C. (eds.) Biodiversity, Ecosystem
Functioning, and Human Wellbeing: An Ecological and Economic Perspective.
Oxford University Press, Oxford, pp. 230–247.
Perrings, C. and Gadgil, M. 2003. Conserving biodiversity: reconciling local and
global public benefits. In: Kaul, I., Conceicao, P., le Goulven, K. and Mendoza, R.L.
(eds.) Providing Global Public Goods: Managing Globalization. Oxford University
Press, Oxford, pp. 532–555.
Petchey, O.L., Hector, A. and Gaston, K.J. 2004. How do different measures of
functional diversity perform? Ecology 85: 847–857.
Phillips, G., Bramwell, A., Pitt, J., Stansfield, J. and Perrow, M. 1999. Practical
application of 25 years ‟ research into the management of shallow lakes.
Hydrobiologia 395/396: 61–76.
Phoenix, G.K., Hicks, W.K., Cinderby, S., Kuylenstierna, J.C.I., Stock, W.D.,
Dentener, F.J., Giller, K.E., Austin, A.T., Lefroy, R.D.B., Gimeno, B.S., Ashmore, M.R.
and Ineson, P. 2006. Atmospheric nitrogen deposition in world biodiversity hotspots:
the need for a greater global perspective in assessing N deposition impacts. Global
Change Biology 12(3): 470–476.
Pickett, S.T.A., Cadenasso, M.L., Grove J.M. et al. 2008. Beyond Urban Legends: An
Emerging Framework of Urban Ecology, as Illustrated by the Baltimore Ecosystem
Study. BioScience 58(2): 139–150.
Pimentel, D. 2008. Conservation biological control. Biological Control 45: 171.
Polis, G.A., Anderson, W.B. and Holt, D.R. 1997. Toward an integration of landscape
and food web ecology; the dynamics of spatially subsidized food webs. Annual Review
of Ecology and Systematics 28: 289–316.
Potvin, C. and Gotelli, N.J. 2008. Biodiversity enhances individual performance but
does not affect survivorship in tropical trees. Ecology Letters 11: 217–223.
Prang, G. 2007. An industry analysis of the freshwater ornamental fishery with
particular reference to supply of Brazilian freshwater ornamentals to the UK market.
UAKARI 3(1): 7–51.
Prendergast, J.R., Quinn, R.M., Lawton, J.H., Eversham, B.C. and Gibbons, D.W.
1993. Rare species, the coincidence of diversity hotspots and conservation strategies.
Nature 365: 335–337.
Pretty JN, Noble AD, Bossio D, Dixon J, Hine RE, de Vries FWTP, Morison JIL.2006.
Resource-conserving agriculture increases yields in developing countries.
Environmental Science & Technology. 40(4): 1114-1119.
Rahlao, S.J., Hoffman, M.T., Todd, S.W. and McGrath, K. 2008. Long-term vegetation
change in the Succulent Karoo, South Africa following 67 years of rest from grazing.
86
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Journal of Arid Environments 72(5): 808–819.
Raven, P.H. 2001. Science and the Future of Mankind. Science for Man and Man for
Science., Proceedings of the Preparatory Session, 12-14 November 1999, and the
Jubilee Plenary Session, 10-13 November 2000, The Pontifical Academy of Sciences,
Vatican City, pp. 132–154.
Richards, A.J. 2001. Does Low Biodiversity Resulting from Modern Agricultural
Practice Affect Crop Pollination and Yield? Annals of Botany 88: 165–172.
Ricketts, T.H. 2004. Tropical Forest Fragments Enhance Pollinator Activity in
Nearby Coffee Crops. Conservation Biology 18: 1262–1271.
Ricketts, T.H., Regetz, J., Steffan-Dewenter, I., Cunningham, S.A., Kremen, C.,
Bogdanski, A., Gemmill-Herren, B.,Mayfield, M.M., Klein, A.M., Morandin, L.A.,
Greenleaf, S.S., Ochieng A. and Viana B.F. 2008. Landscape effects on crop
pollination services: are there general patterns? Ecology Letters 11(5): 499–515.
Rockström J., Steffen W., Noone K., Persson Å., Chapin F.S., Lambin E., Lenton T.M.,
Scheffer M., Folke C., Schellnhuber H.J., Nykvist B., de Wit C.A., Hughes T., van der
Leeuw S., Rodhe H., Sörlin S., Snyder P.K., Costanza R., Svedin U., Falkenmark M.,
Karlberg L., Corell R.W., Fabry V.J., Hansen J., Walker B., Liverman D., Richardson
K., Crutzen P. and Foley J. 2009. Planetary Boundaries: Exploring the Safe
Operating Space for Humanity. Ecology and Society 14(2) 32. (online).
Rönnbäck, P., Kautsky, N., Pihl, L., Troell, M., Söderqvist, T. and Wennhage, H. 2007.
Ecosystem Goods and Services from Swedish Coastal Habitats: Identification,
Valuation, and Implications of Ecosystem Shifts. AMBIO 36: 534–544.
Rosenberg, A., Bigford, T.E., Leathery, S., Hill, R.L. and Bickers, K. 2000. Ecosystem
approaches to fishery management through essential fish habitat. Bulletin of
Marine Science 66(3): 535–542.
Ross, A.B., Jones, J.M., Kubacki, M.L. and Bridgeman, T. 2008. Classification of
macroalgae as fuel and its thermochemical behaviour. Bioresource Technology 99:
6494–6504.
Roulet, N.T. 2000. Peatlands, carbon storage, greenhouse gases, and the Kyoto
Protocol: prospects and significance for Canada. Wetlands 20(4): 605–615.
RSPB (Royal Society for the Protection of Birds) 2007. Trade ban will save two
million
wild
birds.
http://www.rspb.org.uk/ourwork/policy/wildbirdslaw/birdtradeban.asp, accessed 1
September 2009
Santamouris, M. (ed.) 2001. Energy and climate in the urban built environment.
James and James, London.
Scheffer, M., Hosper, S. H., Meijer, M.-L., Moss, B. and Jeppesen, E. 1993.
87
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Alternative equilibria in shallow lakes. Trends in Ecology and Evolution 8: 275–279.
Scheffer, M., Brock, W. and Westley, F. 2000. Socioeconomic mechanisms preventing
optimum use of ecosystem services: an interdisciplinary theoretical analysis.
Ecosystems 3: 451–471.
Scheffer, M., Carpenter, S.R., Foley, J.A., Folke, C. and Walker, B. 2001.
Catastrophic shifts in ecosystems. Nature 413: 591–596.
Schmitz, O.J., Kalies, E.L. and Booth, M.G. 2006. Alternative Dynamic Regimes and
Trophic Control of Plant Succession. Ecosystems 9(4): 659–672.
Schröter, D., Cramer, W., Leemans, R. et al. 2005. Ecosystem service supply and
vulnerability to global change in Europe. Science 310:1333–1337.
SER (Society for Ecological Restoration) 2002. The SER Primer on Ecological
Restoration. SER, Science and Policy Working Group, Tucson. http://www.ser.org/,
accessed 1 September 2009.
Sheil, D, Murdiyarso, D. 2009. How Forests Attract Rain: An Examination of a New
Hypothesis. Bioscience 59(4): 341–347.
Shennan, C. 2008. Biotic interactions, ecological knowledge and agriculture.
Philosophical Transactions of the Royal Society B 363(1492): 717–739.
Shu-Yang, F. Bill Freedman, and Raymond Cote (2004) Principles and practice of
ecological design Environ. Rev. 12(2): 97–112
Sidle, R.C., Ziegler, A.D., Negishi, J.N., Nik, A.R., Siew, R. and Turkelboom, F. 2006.
Erosion processes in steep terrain – Truths, myths, and uncertainties related to
forest management in Southeast Asia. Forest Ecology and Management 224(1-2):
199–225.
Sills, E., K. Jones, S. Pattanayak, K. Alger, J. Alvarez, K. Cassingham, J.
Krishnaswamy, and N. Phillips. (2006) Watershed protection by forests: Vital
ecosystem service or smoke and mirrors? Tercer Congreso Chileno de Ciencias
Forestales, Concepción, Chile, Chile.
Singh, R.P., Hodson, D.P., Jin, Y., Huerta-Espino, J., Kinyua, M.G., Wanyera, R.,
Njau, P. and Ward, R.W. 2006. Current status, likely migration and strategies to
mitigate the threat to wheat production from race Ug99 (TTKS) of stem rust
pathogen. CAB Reviews: Perspectives in Agriculture, Veterinary Science, Nutrition
and Natural Resources 1 No. 054. 13pp.
Smith, T.M., Shugart, H.H. and Woodward, F.I. 1997. Plant Functional Types: Their
Relevance to Ecosystem Properties and Global Change. Cambridge University Press,
Cambridge.
Srinivasan, U.T., Carey, S.P., Hallstein, E., Higgins, P.A.T., Kerr, A.C., Koteen, L.E.,
88
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Smith, A.B., Watson, R., Harte, J. and Norgaard, R.B. 2008. The debt of nations and
the distribution of ecological impacts from human activities. Proceedings of the
National Academy of Sciences 105(5): 1768–1773.
Srivastava, D.S., Cardinale, B.J., Downing, A.L., Duffy, J.E., Jouseau, C., Sankaran,
M. and Wright, J.P. 2009. Diversity has stronger top-down than bottom-up effects on
decomposition. Ecology 90(4): 1073–1083.
Srivastava, D.S and Vellend, M. 2005. Biodiversity-ecosystem function research: Is it
relevant to conservation? Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics 36:
267–294.
Steffan-Dewenter, I. 2003. Importance of Habitat Area and Landscape Context for
Species Richness of Bees and Wasps in Fragmented Orchard Meadows. Conservation
Biology 17(4): 1036–1044.
Steffan-Dewenter, I. and Tscharntke, T. 1999. Effects of habitat isolation on
pollinator communities and seed set. Oecologia 121(3): 432–440.
Steffan-Dewenter, I., Münzenberg, U., Bürger, C., Thies, C. and Tscharntke T. 2002.
Scale-dependent effects of landscape context on three pollinator guilds. Ecology
83(5): 1421–1432.
Steinfeld, H., Gerber, P., Wassenaar, T., Castel, V., Rosales, N. and de Haan, C. 2006.
Livestock’s Long Shadow, Environmental Issues and Options. Food and Agriculture
Organization
of
the
United
Nations.
FAO,
Rome.
See:
http://www.fao.org/docrep/010/a0701e/a0701e00.htm
Suding, K.N. and Hobbs, R.J. 2009. Threshold models in restoration and
conservation: a developing framework. Trends in Ecology and Evolution 24(5):
271–279.
Suding, K.N., Lavorel, S., Chapin, F.S., Cornelissen, J.H.C., Diaz, S., Garnier, E.,
Goldberg, D., Hooper, D.U., Jackson, S.T., Navas, M.L. 2008. Scaling environmental
change through the community-level: a trait-based response-and-effect framework
for plants. Global Change Biology 14(5): 1125–1140.
Swift, M.J., Izac, A.-M.N. and van Noordwijk, M. 2004. Biodiversity and ecosystem
services in agricultural landscapes – are we asking the right questions? Agriculture,
Ecosystems and Environment 104: 113–134.
Szwagrzyk, J. and Gazda, A. 2007. Above-ground standing biomass and tree species
diversity in natural stands of Central Europe. Journal of Vegetation Science 18(4):
555–562.
Tansley, A.G. 1935. The use and abuse of vegetational concepts and terms. Ecology
16: 284–307.
TEEB 2008. The Economics of Ecosystems and Biodiversity: An Interim Report.
89
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Available at www.teebweb.org, accessed 1 November 2009.
TEEB 2009. The Economics of Ecosystems and Biodiversity for National and
International Policy Makers. Available at www.teebweb.org, accessed 15 December
2010.
Thebault, E. and Loreau, M. 2006. The relationships between biodiversity and
ecosystem functioning in food webs. Ecological Research 21: 17–25.
Thom, R. 1969. Topological models in biology. Topology 8: 313–335.
Tilman, D., Wedin, D. and Knops, J. 1996. Productivity and sustainability influenced
by biodiversity in grassland ecosystems. Nature 379: 718–720.
Tilman, D., Knops, J., Weldin, D., Reich, P., Ritchie, M. and Siemann, E. 1997a. The
influence of functional diversity and composition on ecosystem processes. Science
277: 1300–1302.
Tilman, D., Lehman, C.L. and Thomson, K.T. 1997b. Plant diversity and ecosystem
productivity: theoretical considerations. Proceedings of the National Academy of
Sciences 94: 1857–1861.
Titlyanova, A.A. 2009. Stability of grass ecosystems. Contemporary Problems of
Ecology 2(2): 119–123.
Tscharntke, T., Klein, A.M., Kruess, A., Steffan-Dewenter, I. and Thies, C. 2005.
Landscape perspectives on agricultural intensification and biodiversity – ecosystem
service management. Ecology Letters 8: 857–874.
Tyrvainen, L. 1997. The amenity value of the urban forest: An application of the
hedonic pricing method. Landscape and Urban Planning 37(3-4): 211–222.
UN 2009. World Population Prospects: The 2008 Revision. UN Population Division
Policy
Brief
No.
2009/1,
United
Nations,
New
York.
http://www.un.org/esa/population/unpop.htm, accessed 1 September 2009.
US Environmental Protection Agency (2007). Bioengineering for pollution
prevention
through
development
of
biobased
materials
and
energy.
State-of-the-science report. US Environmental Protection Agency: Washington, DC
USFWS (U.S. Fish and Wildlife Service) 2007. 2006 National Survey of Fishing,
Hunting, and Wildlife-Associated Recreation – State Overview (Preliminary
Findings). U.S. Fish and Wildlife Service, Washington, D.C.
Usher, M.B., Sier, A.R.J., Hornung, M., Millard, P. 2006. Understanding biological
diversity in soil: the UK‟s Soil Biodiversity Research Programme. Applied Soil
Ecology 33: 101–113.
Valente, L.M.P., Gouveia, A., Rema, P., Matos, J., Gomes, E.F. and Pinto, I.S. 2006.
90
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
Evaluation of three seaweeds Gracilaria bursa-pastoris, Ulva rigida and Gracilaria
cornea as dietary ingredients in European sea bass (Dicentrarchus labrax) juveniles.
Aquaculture 252: 85–96.
van der Heijden, M.G.A., Klironomos, J.N., Ursic, M., Moutoglis, P., Streitwolf-Engel,
R., Boller, T., Wiemken, A. and Sanders, I.R. 1998. Mycorrhizal fungal diversity
determines plant biodiversity, ecosystem variability and productivity. Nature 396:
69–72.
van den Wyngaert, I.J.J. and Bobbink, R. 2009. The influences of vertebrate
herbivory on ecological dynamics in wetland ecosystems. In: Maltby E. and Barker T.
(eds.), The Wetlands Handbook. Wiley-Blackwell, Oxford, pp. 304–325.
Vavilov, N.I. 1992. Origin and Geography of Cultivated Plants. (Translated by Doris
Love). Cambridge University Press, Cambridge UK, 532pp.
Vilà, M., Vayreda, J., Gracia, C. and Ibanez, J.J. 2003. Does tree diversity increase
wood production in pine forests? Oecologia 135(2): 299–303.
Vilà, M., Vayreda, J., Comas, L., Ibanez, J.J., Mata, T. and Obon, B. 2007. Species
richness and wood production: a positive association in Mediterranean forests.
Ecology Letters 10: 241–250.
Villéger, S., Mason, N.W.H. and Mouillot, D. 2008. New mullti-dimernsional
functional diversity indices for a multifaceted framework in functional ecology.
Ecology 89: 2290–2301.
Virginia, R.A. and Wall, D.H. 2000. Ecosystem function, basic principles of. In: Levin
S.A. (ed.) Encyclopedia of Biodiversity Vol. 2. Academic Press, San Diego, pp.
345–352.
Vitousek, P.M., Mooney, H.A., Lubchenco, J. and Melillo, J.M. 1997. Human
Domination of Earth‟s Ecosystems. Science 277(5325): 494–499.
Waddington, J.M. and Warner, K.D. 2001. Atmospheric CO2 sequestration in
restored mined peatlands. Ecoscience 8: 359–368.
Waldbusser, G.G., Marinelli, R.L., Whitlatch, R.B. and Visscher, P.T. 2004. The
effects of infaunal biodiversity on biogeochemistry of coastal marine sediments.
Limnology and Oceanography 49: 1482–1492.
Walker, B. and Meyers, J.A. 2004. Thresholds in ecological and social-ecological
systems: a developing database. Ecology and Society 9(2): 3.
Walker, B.H., Ludwig, D., Holling, C.S., and Peterman R.M. 1981. Stability of
semi-arid savanna grazing systems. Journal of Ecology 69: 473–498.
Wall, D.H. and Virginia, R.A. 2000. The world beneath our feet: soil biodiversity and
ecosystem functioning. In: Raven, P. and Williams, T.A. (eds.) Nature and Human
91
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Society: The Quest for a Sustainable World. National Academy of Sciences Press. pp.
225–241.
Way, M.J. and Heong, K.L. 1994. The role of biodiversity in the dynamics and
management of insect pests of tropical irrigated rice – a review. Bulletin of
Entomological Research 84, 567-587.
WCED (World Commission on Environment and Development) 1987. Our common
future. Oxford University Press, Oxford.
Wells, S., Ravilious, C., and Corcoran, E. 2006. In the front line: Shoreline protection
and other ecosystem services from mangroves and coral reefs. UNEP World
Conservation Monitoring Centre, Cambridge, UK.
Wendland, K.J., Honzák, M., Portela, R., Vitale, B., Rubinoff, S. and Randrianarisoa,
J. 2009. Targeting and implementing payments for ecosystem services:
Opportunities for bundling biodiversity conservation with carbon and water services
in Madagascar. Ecological Economics doi:10.1016/j.ecolecon.2009.01.002.
Wertz, S., Degrange, V., Prosser, J., Poly, F., Commeaux, C., Freitag, T., Guillaumaud,
N. and Xavier Le, R. 2006. Maintenance of soil functioning following erosion of
microbial diversity. Environmental Microbiology 8: 2162–2169.
Westerkamp, C. and Gottsberger, G. 2000. Diversity Pays in Crop Pollination. Crop
Science 40: 1209–1222.
Westerling, A.L., Hidalgo, H.G., Cayan, D.R. and Swetnam, T.W. 2006. Warming and
Earlier Spring Increase Western U.S. Forest Wildfire Activity. Science 313: 940–943.
Westman, W.E. 1978. Measuring the inertia and resilience of ecosystems. BioScience
28: 705–710.
Whittaker, R.H. 1975. Communities and Ecosystems 2nd Edn. MacMillan, London.
Willer, H., Yussefi-Menzler, M. and Sorensen, N. (eds.) 2008. The World of Organic
Agriculture - Statistics and Emerging Trends 2008. IFOAM (International
Federation of Organic Agriculture Movements) Bonn, Germany. FiBL (Research
Institute of Organic Agriculture), Frick, Switzerland.
Williams, J.D. and Dodd, C.K. Jr. 1980. Importance of wetlands to endangered and
threatened species. In: Greeson, P.E., Clark, JR., and Clark, J.E. (eds.) Wetland
functions and values: the state of our understanding. American Water Resources
Association, Minneapolis, pp. 565–575.
Williams, J. and Haq, N. 2002. Global research on underutilized crops: an
assessment of current activities and proposals for enhanced cooperation. ICUC,
Southampton, UK.
Wilkinson, C., Caillaud, A., DeVantier, L. and South, R. 2006. Strategies to reverse
92
第 2 章:生物多様性、生態系及び生態系サービス
the decline in valuable and diverse coral reefs, mangroves and fisheries: The bottom
of the J-Curve in Southeast Asia? Ocean & Coastal Management 49(9-10): 764–778.
Wilson, C. and Tisdell, C. 2003. Conservation and Economic Benefits of
Wildlife-Based Marine Tourism: Sea Turtles and Whales as Case Studies. Human
Dimensions of Wildlife 8: 49–58.
Winfree, R. and Kremen, C. 2009. Are ecosystem services stabilized by differences
among species? A test using crop pollination. Proceedings of the Royal Society B Biological sciences 276(1655): 229–237.
Woodworth, P. 2006. Working for Water in South Africa: saving the world on a single
budget? World Policy Journal Summer: 31–43.
Woolley, H. and Rose, S. 2004. The Value of Public Space. CABE Space, London, UK.
World Bank 2009. Reshaping Economic Geography. World Development Report.
World Bank, Washington, D.C.
Worm, B., Barbier, E.B., Beaumont, N., et al. 2006. Impacts of biodiversity loss on
ocean ecosystem services. Science 314: 787–790.
Wright, J. 2008. Sustainable Agriculture and Food Security in an Era of Oil Scarcity;
Lessons from Cuba. Earthscan, London.
Xu, K., Xu, X., Fukao, T., Canlas, P., Maghirang-Rodriguez, R., Heuer, S., Ismail,
A.M., Bailey-Serres, J., Ronald, P.C. and Mackill, D.J. 2006. Sub1A is an
ethylene-response-factor-like gene that confers submergence tolerance to rice.
Nature 442: 705–708.
Zhang, W., Ricketts, T.H., Kremen, C., Carney, K. and Swinton, S.M. 2007.
Ecosystem services and dis-services to agriculture. Ecological Economics 64:
253–260.
Zhu, Y.Y., Chen, H., Fan, J., Wang, Y.,Li, Y., Chen, J., Fan, J.X., Yang, S., Hu, L.,
Leung, H., Mew, T.W., Teng, P.S., Wang, Z. and Mundt, C.C. 2000. Genetic diversity
and disease control in rice. Nature 406: 718–722.
ZSL (Zoological Society of London) 2006. Ornamental Fish in the Brazilian Amazon.
http://www.zsl.org/conservation/regions/americas/fish-amazon/,
accessed
1
September 2009.
93
第3章
生物物理学的数量の測定と指標の利用法
代表主筆:
Belinda Reyers
主筆:
Patrick O’Farrell, Frederik Schutyser and Giovanni Bidoglio
共同執筆:
Uppeandra Dhar, Haripriya Gundimeda, Maria Luisa Paracchini, Oscar Gomez Prieto
監修:
Klaus Henle, Georgina M. Mace, Simon Stuart, Matt Walpole, Allan D. Watt
編集監修:
Allan D. Watt
2009年9月
目次
主要なメッセージ ........................................................................................................................ 1
1 はじめに...................................................................................................................................... 2
1.1 この章の目的と範囲............................................................................................................... 2
1.2 なぜ指標が必要か?................................................................................................................. 2
1.3 何が良い指標となるか?......................................................................................................... 3
2 既存の測定手段と指標.............................................................................................................. 6
3生態系サービスのための適切な指標を求めて...................................................................... 20
3.1 適切な指標の開発................................................................................................................. 20
3.2 供給サービス:木材生産..................................................................................................... 21
3.3文化サービス:農地景観への社会的評価........................................................................... 22
3.4 各地に適切な指標................................................................................................................. 24
3.5 今後の方向性......................................................................................................................... 24
4 経済評価など更なる作業へ .................................................................................................. 26
参考文献........................................................................................................................................ 28
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
主要なメッセージ
z さまざまな規模での情報の不足のせいで、生態系や生物多様性の損失の経済的な評価が
妨げられている。
z 現在の生物多様性や生態系の測定手段や指標のたいていのものは、TEEBが描こうと
する経済学的評価と異なる目的のために開発されたものである。従って生物多様性の構
成要素とそれらが人類に提供するサービス・恩恵との間の関係を明確に示すことができ
ず、TEEBの利用者にとって使い勝手が良くない。
z 既存の測定手段では、せいぜい食料生産や繊維生産にかかわるいくつかの種や生態系の
価値を捉えられるまでで、生物多様性と生態系が果たすその恩恵全体を支える役割や、
その将来的な回復力を、見逃すことになるだろう。
z 必要とされる指標群は、生物多様性の損失の結果を適切に伝えうるばかりか、関係する
生物多様性の側面とその重要なサービスを反映する方法に基づき、生態系と生態系が提
供する恩恵とさまざまな規模の関係を多くの場合非線形として捉えることができ、かつ、
経済的な表現に変換できるものでなければならない。
z 既存のデータや測定手段を用いて生物多様性や生態系の損失の結果を予備的に推定する
ことは可能であるが、それらは有効な調査研究をもって、生物多様性や生態系の変化や、
変化が及ぼす便益のフローへの影響、またそのフローの価値などの測定に発展するなど、
生物多様性と生態系の管理の全体的な価値の把握のために補完がなされなければならな
い。
1
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
1 はじめに
1.1 この章の目的と範囲
生物多様性や生態系、ならびにそれらが提供する生態系サービスは究極的に、全ての人々に
影響を及ぼす(ミレニアム生態系評価(MA)2005b)。地球規模での生物多様性と生態系の衰
退、生態系サービスの劣化の進行と持続可能でない利用、そしてその結果としてのわたした
ちの豊かさや幸せ(福利)への影響、これらが、この悪化傾向を食い止め、好転させようと
する多数の国際的ならびに各国の挑戦を導いてきた(Balmford et al. 2005)
。
しかし、生態系や生物多様性の現状と変化や、変化要因、管理対応の結果などに関する情報
の欠如のせいで、生態系と生物多様性の衰退を食い止め好転させようとするこのような挑戦
は、妨げられている(Pereira and Cooper 2006)
。情報は断片的にしか存在せず、場所を変える
と比べることもできず、高度に技術的で政策立案者には適当でなかったり、あるいはまった
く利用できない(Scholes et al. 2008; Schmeller 2008)
。
この 10 年間で、これらの情報不足を補おうとするプログラムが地方規模から地球規模までさ
まざまに進められてきた(Royal Society 2003; Pereira and Cooper 2006; Scholes et al. 2008)。T
EEBならびにこの章の目的は次の2つである。ひとつは、生物多様性と生態系の現状や変
化に対して利用可能な測定手段や指標の強みと弱みに関する手引きを経済的な評価を与えう
るものに焦点を絞って利害関係者に提供することである(TEEB 2008)
。もうひとつは、生物
多様性や生態系の指標の科学的な基礎を既存の指標から、TEEBならびに関連の取組みが
必要とする指標のためには何が必要なのか、その概略を述べることである。
この章では木材生産と景観の社会的価値のふたつの指標について詳述し、生物多様性と生態
系の変化の結果を経済的に評価する際に用いることができる指標を開発するにあたって関連
する機会と困難に注目した。また、地域(sub-global)規模の利害関係者のために、地方規模
で開発された測定手段や指標の例を検討した。
1.2 なぜ指標が必要か?
生態系と生物多様性の指標は多種多様な目的に供される。それらの目的は次の3つの主要な
機能に大きく分けられる:
(1)実施状況を追跡すること、
(2)新しい政策の結果をモニタ
リングすること、
(3)学術的探究(Failing and Gregory 2003)。この章ではこのうち(1)と
(2)の役割に焦点を絞る。指標とは、何かを測定の対象や過程と論理的関係を持って表す、
政策立案者や政策決定者にとって重要性や関連がある変数と定義する。対象の現状や原因(要
因)あるいは過程や成果を、定量的に明確に表すものである(ミレニアム生態系評価(MA)
印刷中)
。指標は、情報を単純化し数量化を行い、容易に伝わり直観的に理解され、政策立案
2
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
者や政策決定者が証拠をもった決定をなす基礎となる(Layke 2009)
。
読者のためにこの章で用いる「測定手段」と「指標」ならびに「指数」の言葉の区別をする。
「測定手段(ならびに測定値)
」は、状態、数量、過程を観察やモニタリングから実際に測定
することを指す。例えば、鳥類の個体数の計数は観察という「測定手段」を通して行われる。
「指標」は、関連する何かについて示唆を与えるのに役立つ、測定結果から導かれる情報で
ある。鳥類の個体数の計数結果を時間軸に沿って比較すると傾向を読み取ることができるの
で、当該種に対する保全行動の成功度を示すため、
「指標」としてその傾向値を用いることが
できる。指標は、例えば政策立案者に対してある目標に向けた進展についての情報を提供す
るといった、特定の目的のために用いられることが典型的である。単一または複数の「指数」
は、特にその感度、信頼度、あるいは伝わり易さを高めることができるように多数の測定手
段を結びつけて構成される。これら指数は、生物多様性評価において広い範囲の政策に関連
した多種多様な属性や測定結果のためにその測定手段や指標など長々と書き連ねることにな
ってしまう状況下に役立つものである。その傾向を少しの数の単純かつ有意な指数をもって
伝えようとすることは道理にかなっている(Balmford et al. 2005)
。例えば、鳥類に対するレ
ッドリスト指数(Red List Index (RLI))においては、脅威の時間的変化が、特定の計算式から
得られるひとつの数値で示される。複数の指数の混成の場合に懸念されることは、多くの場
合その基礎になった測定手段が見えなくなることである。理想的にはもとの測定手段まで分
けてたどることができるようにすべきである(Scholes and Biggs 2005)。
1.3 何が良い指標となるか?
生物多様性条約(CBD 2003)は、他の多くの出版物(ロンドン王立協会(Royal Society)2003;
Mace and Baillie 2007; ミレニアム生態系評価 MA と同様に、生態系と生物多様性の指標や測
定手段を選択し開発する際に検討すべき基準を多数並べている。本書にとっては、それらの
基準の中で、指標をその目的に対して妥当な情報にすることが欠かせない。そのためには指
標を開発する過程において明確な最終目標と標的を定めることだけでなく、標的とする対象
者と彼らのニーズを徹底的に理解しておくことが必要である(Mace and Baillie 2007)
。
標的が現時点で不明瞭なこと、標的とする対象者と彼らのニーズが多様であること、測定手
段を効力のある指標に変換するために必要な資金、ならびに現在の測定手段や指標が利用可
能になっているデータに頼らざるを得ないこと、これらが妥当かつ役立つ指標を開発する大
きな妨げになっている(ロンドン王立協会(Royal Society)2003; Green et al. 2005; Mace and
Baillie 2007; Layke 2009)
。
指標開発における現在の取組みの多くは、ミレニアム生態系評価(MA)の作業と同様に(MA
2005b)
、生物多様性条約の生物多様性2010年目標ならびにこれに対処する地域的あるい
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
は各国の対応(例.欧州環境機関(European Environment Agency (EEA))2009a)から立ち上
げられたものである。ミレニアム生態系評価では指標の開発がその狙いにされたわけではな
いが、地球規模ならびに地域(sub-global)規模の生態系の現状と傾向の評価において生態系
および生態系サービスにかかる測定手段が数多く照合された(Layke 2009)。これらの取組み
はともに、指標開発に多大なる努力と資金を注ぐ結果となり、生物多様性や生態系ならびに
生態系サービスの現状と傾向の評価のいくつかの面では良好な進展をみた(Mace et al. 2005;
Mace and Baillie 2007; 欧州環境機関(EEA)2009a; Layke 2009; 2010 年生物多様性指標パート
ナーシップ(2010 Biodiversity Indicators Partnership)http://www.twentyten.net; 国連環境計画
(UNEP)世界自然保護モニタリングセンター(World Conservation Monitoring Center (WCMC))
「Biodiversity Indicators for National Use (BINU)」
http://www.unep-wcmc.org/collaborations/BINU/)。とはいえ、多くの不足と大きな困難が、測定
手段や指標を高感度で現実的かつ役立つものに確実にしようとする科学者や政策立案者のま
えに立ちはだかっている(ミレニアム生態系評価(MA)2005b; Mace and Baille 2007; Scholes et
al. 2008; Layke 2009)。
TEEBの観点から認識すべき重要な点は、TEEBの目標や対象者が、生物多様性201
0年目標やミレニアム生態系評価(MA)といった既存の取組みにおける指標と異なるという
ことである。TEEBは、生物多様性と生態系の現状や変化を測定するということから一歩
踏み込んで、生物多様性と生態系の変化の経済上の意味の評価に向かおうとするものである
(TEEB 2008)。このため、生物多様性2010年目標やミレニアム生態系評価(MA)の目
的のために開発された指標や測定手段は、TEEBの目標をうまく扱うことが必ずしもでき
るわけではない。
TEEBの読者は、過去の指標プログラムの対象よりも広範で多彩である。それはさまざま
な段階の利害関係者であり、生計を自然資源の採取に直接的に依存している個人から、資源
管理者、全段階の政治上の意思決定者、そして市民社会一般までも含んでいる。科学界もま
た利害関係者のひとつである。さまざまな規模で広範な生物多様性と生態系にかかる測定手
段のモニタリングや観察に関与するからである(Schmeller 2008)
。このように多彩な読者は
それぞれ異なる組合せで、各分野と規模で、そして横断的に、妥当で理解しうる良好な指標
を必要とするだろう。分野別の見方としては、当該規模の生態系の状況を長期的に提供する
測定手段を、例えば雇用や商取引などに関わる指標など適切な社会経済上の指標とも結びつ
けることも含まれる。
生物多様性と生態系の変化がもたらす経済的な結果にTEEBが焦点を合わせることによっ
て、生物多様性と生態系の指標開発の科学とその実践に新たな課題がもたらされる。
第一は、TEEBは生物多様性の変化を測定することに関心があるということである。これ
は生物多様性2010年目標の指標の開発において取組まれた概念である。生物多様性は、
一連の階層をなす遺伝子や種ならびに生態系が各々の階層段階のなかで構造や機能ならびに
4
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
構成の側面を持つといった、多面的で種々の属性を持つ概念であるが(Noss 1990)
、生物多
様性の変化もまた多面的であり、各段階や側面のすべてで数量的損失(存在量や分布)、質的
損失(生態系の劣化)あるいは変異性(種や遺伝子の多様性)の損失を含みうるものである
(Balmford et al. 2008)。Mace et al. (2005) が強調したように、変化のさまざまな面はさまざま
な生態系サービスにとってのさまざまな意味を含んでいるであろう。例えば、種における機
能的ならびに構造的な変異性の変化はたいていの生態系サービスに対して広範な悪影響をも
たらすが、個体群や生態系の数量や分布の変化は供給サービスや調整サービスの多くのもの
にとって重大であろう。従って最も適切な測定手段や指標には、かかる生物多様性の面と重
大な生態系サービスの両面を考慮に入れる必要があろう。
第二は、生物多様性の変化の結果を評価するためにTEEBでは、生物多様性と生態系サー
ビスおよび人間の豊かさと幸せ(福利)とのあいだの関連づけを目指したことである。生物
多様性や生態系サービスならびに人間の豊かさと幸せ(福利)における個別の現状や傾向を
測定するための指標の開発がうまく進展しても、TEEBが必要としているのは生態系と生
態系が提供する恩恵とのあいだの、多くの場合非線形でさまざまな規模の関係を捉える測定
手段である(van Jaarsveld et al. 2005; Fisher and Turner 2008)
。これは現在、特定の開発やその
投資において行われているのみであり、特に地球規模では、ほとんど存在しない。
第三に、TEEBは生物多様性の変化の経済的な結果であるということである。従ってTE
EBに用いられる指標や測定手段は経済的な表現に変換でき、経済学的分析に適さなければ
ならない。これには、金銭的価値の算出にとどまらず、生計の状態や、リスク、資源へのア
クセス、利益の分配、貧困などへの考慮を含める必要がある(Balmford et al. 2008)(第4章
と第5章を参照のこと)
。TEEBの究極的なねらいは自然資源の利用をより持続可能なもの
にすることであるから、指標は測定される利用パターンの持続可能性を扱うものとなる。自
然の内在的で経済的に測りえない価値、例えば全ての種の権利に関する倫理的検討を含む場
合は、TEEBでは扱わない。現段階では、TEEBは、生態学的プロセスを組み立ててい
る種間の相互作用についても、それが生態系サービスの評価に関連するものではあっても、
その経済的な価値は含めていない。これは将来の試みとなるであろう。
本章では、これらの課題を考慮しつつ、既存の測定手段や指標の評価を通じて、生物多様性
と生態系の変化の経済的結果を評価するという目的に最も適した利用可能な測定手段は何か
を特定する。この観点からみた良い測定手段とは、精密であり、測ることができ、しかるべ
く妥当な場所や生態系の範囲を標本抽出しており、理想的には繰り返し可能で、発達史を有
し、人々が生物多様性や生態系から受ける恩恵との明確な関連を持つ手段である。これらの
一般的特徴に加えて、指標と測定手段は適当な時間的および地理的範囲をカバーする必要が
あり、空間的に明確であると理想的である。
TEEBにおいては空間的に明確であることの重要性が強調されている(Balmford et al.
2008)。生物多様性や生態系サービスの生産とフローならびに効用は、施策の影響と同様に、
場所によってさまざまである。利用可能なデータや情報を空間的に明確にすることが、推測
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
の範囲を明確にすることを助け、またいかなる情報が更に必要かが特定される。生物多様性
や生態系の恩恵が生じるところと役立つところとは地理的に異なる範囲に生じることがよく
あり、従って空間的に明確にしようとする取組み方は生態系サービスの重要性や関連する政
策的行動の影響を完全に評価するために欠かせない。
2 既存の測定手段と指標
最近 10 年間に、大きくは生物多様性条約の生物多様性2010年目標やミレニアム生態系評
価(MA)ならびにその地域(sub-global)活動に応じて、生物多様性や生態系ならびに生態
系サービスにかかる指標や測定手段が、急増した。これら指標や測定手段の全てを総括する
ことはここでは意図しない(指標群の詳細な検討は Mace and Baillie 2007 や Layke 2009 を
参照のこと)
。むしろ本節では、いかなるタイプの指標や測定手段が利用可能であるかを紹介
し、生物多様性と生態系の変化の経済的結果を評価・予測のための利用に適切な指標と測定
手段の選定と開発に役立つように、それぞれの強みと弱みを総括する。
生物多様性とそれが構成する生態系は、測定したり評価するには複雑な存在であることはよ
く知られている。その測定や評価はさまざまな方法で着手しうる。ミレニアム生態系評価(MA
2005a)や Balmford et al. (2008) は、生物多様性の指標が生物多様性の階層構造の異なる段階
(遺伝子、種、生態系)の全てを評価するために、多様性、数量、状態という3つのレベル
の異なる属性を測定するために、利用可能であると強調する。この3つのレベルの属性類別
をここでの総括ならびに表1に示した。第4の指標類別は環境に対して働く圧力を測定する。
また、生態系サービスに焦点を絞った測定手段と指標の類別を、ミレニアム生態系評価なら
びにその事後活動を通じて多くの測定手段が利用可能になったことを認めて加えた。この類
別は供給サービスと調整サービスのふたつに分けた。それは、この2種類のサービスにかか
る生物多様性の側面で異なる関係がみられこと(第2章参照)、ならびに、これら2種類のサ
ービスを評価するときの利用可能なツールも、特に評価の二重計上問題を検討する際に異な
っている(第5章参照)からである。
6
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
表1.既存の生物物理学的測定手段のまとめ。生物多様性と生態系を測定する際の適用性(欄「適用性」)
、情報を伝える能力(欄「情報伝達能
力」)
、地球規模でのデータの現時点での利用可能性(欄「データ利用可能性」
)を示す。
大類別
類別
生物多様性の 多様性の測
測定手段と指 定手段
標
測定手段の例
適用性
種の多様性、豊富さ、 生物多様性に対して:生物多様性の価値が高
いところや保全の優先順位の高いところを地
固有
球規模や地域規模で特定するために用いられ
β多様性(種の入れ る。地球規模の変化を測定するために用いら
れることはめったにないが、地域規模の多様
替わり)
性の減少に伴う機能的ならびに構造的変化の
指標のために用いられたことがある。種の遺
系統学的多様性
伝的多様性の傾向は生物多様性の2010年
目標の指標である。
遺伝的多様性
機能の多様性
情報伝達能力
種の多様性や固有の
性の高さの測定手段
や地図は、その方法
やデータの合意に基
づき、幅広い対象者
に容易に理解され
る。短期的な変化の
感度は低い。
データ利用可能性
地球規模で利用可
能な種の測定手段
もいくつかの分類
群ではみられる
が、時間軸に沿っ
たものはない。
他に地球規模で利
用できる測定手段
はない。
生態系サービスに対して:提案される機能多
様性の測定手段を除いて、特定の供給サービ
スや調整サービスに容易には結びつかない。
多様性とサービスの水準とのあいだの一致性
の分析が混成の支援を示す。種の多様性と遺
伝的多様性は、生態系サービスを通して生態
系の回復力を増進に重要な役割を示す研究が
ある。遺伝的多様性はまた、資源として利用
できる可能性を探る生物調査(バイオ・プロ
スペクティング)や食物安全保障のためのオ
プション価値に結びつく。生態系の文化サー
ビスに結びついて、多様性の文化的価値は、
特に教育、研究、審美的価値などにより測定
される。
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
経済価値評価:特定ではなく広範囲に利益を
提供しているため、容易に評価ができない。
生物資源探査や作物種の多様性の評価はいく
ぶん評価可能である。多様性に付属する文化
的価値の評価も可能であるがまだ一般的では
ない。
数量の測定
手段
種や生態系の範囲と
地理学的分布
存在量/個体群の大
きさ
生物体量/一次純生
産(Net Primary
Production (NPP))
8
生息地や種の個体群
の傾向の測定手段や
指標は、幅広い対象
者に直観的にわかり
やすい(例.森林伐
採速度)
。生物体量/
一次純生産はそれほ
ど直感的でない。た
いていの測定手段
生態系サービスに対して:
(森林、湿地、サン は、受容された方法
(データに
ゴ礁などの)生態系の現状と傾向、ならびに に基づき、
供給サービスと明確なつながりのある(薬用 もよるが)変化に対
植物、食用などの)種の現状と傾向の測定手 して高感度である。
段である。これらの指標は、生態系サービス
の蓄えや流れの測定手段として用いられる。
文化サービスに結びつきのある社会的ならび
に文化的価値を有する生態系や種に対しても
同様に役立つ。生物体量や特定の生息場所/
植生被覆に依存する調整サービス(例.炭素
隔離、受粉、浸食の制御、水流調節)を測定
する際に用いられるものもある。
生物多様性に対して:基礎的な研究や記述に
おいて記述的に用いられる生物多様性の尺度
である。時間軸に沿って利用可能な場合は、
生物多様性の現状と傾向の指標や、優先順位
付けやリスク評価手順に組入れが可能であ
る。指定されている生態系や種の傾向は、生
物多様性2010年目標の指標となってい
る。
広い生態系やいく
つかの分類群につ
いては地球規模の
データセットが一
時的なものでは利
用可能である。時
間軸に沿ったデー
タが利用できる種
や個体群もある。
一次純生産や生物
体量は地球規模で
利用可能であり、
時間軸に沿って多
重にモデル化する
ことも可能であ
る。
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
経済価値評価:供給サービス、文化サービス、
調整サービスの測定手段が、本書第5章に一
覧されるさまざまな取組み方(例.市場価格、
仮想市場評価法、要素所得あるいは代償費用)
を用いて評価される。
状態の測定
手段
絶滅が危惧される種
や生態系
レッドリスト指数
(Red List Index
(RLI))
生態系の連結性/分
断化(フラクタル次
元(Fractal
dimension)
、中核地指
数(Core Area Index)、
連結性
(Connectivity)
、パッ
チ凝集性(Patch
Cohesion))
生態系の劣化
生物多様性に対して:生物多様性や生態系の
現状や傾向を評価し指標化するために用いら
れる。絶滅危惧種の状況の変化、海洋栄養指
数(Marine Trophic Index)、連結性/分断化、
人為的影響による生態系の機能不全が生物多
様性2010年目標の指標である。
生態系サービスに対して:生態系と生態系サ
ービスの現状と傾向の指標を提供するが、こ
れらの指標が生態系サービスの水準の数量化
した変化に結びつくことはあまりない。持続
可能性や閾ならびに生態系への人為的影響の
大きさの、特に明確で論証可能なつながりが
あるところでは、役立つ指標である。
絶滅危惧種の現状
や、RLI、MTI が、
受容される方法とデ
ータに基づき、変化
に高感度なものとし
て、生物多様性の損
失の指標に用いられ
認められている。他
の測定手段は、直感
的わかりやすさが低
く、専門的すぎたり
し、方法やデータの
合意がとれていない
ものがある。
絶滅危惧種の現状
と傾向が限られた
分類群ではあるが
地球規模で利用可
能である。他の測
定手段のたいてい
は、地域規模のみ
で、多くの場合一
時的なデータが利
用可能である。
経済価値評価:これまでのところ金銭的価値
に換算されていないが、経済損失リスクを測
定するには潜在的に役立つ。
栄養十全性(海洋栄
養十全性(Marine
Trophic Integrity
(MTI)))
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
撹乱機構の変化(人
為的影響による生態
系の機能不全、野火
の頻度や強度の変
化)
個体群の健全さ/存
在量の尺度(平均種
存在量(Mean Species
Abundance (MSA))、
生物多様性完全度指
数(Biodiversity
Intactness Index
(BII))、自然資本指数
(Natural Capital
Index (NCI)))
圧力の測定
手段
土地被覆の変化
気候変動
汚染と富栄養化(窒
素水準評価)
生物多様性に対して:これらは生物多様性に
迫る圧力や脅威を測定する手段である。生物
多様性の現状や傾向は測定しないが、生物多
様性に及ぶ圧力の大きさや傾向を指標にし、
国の規模でその環境レポートなどの生物多様
性の評価に用いられることも多い。生物多様
性の現状と傾向についての対話に用いられる
頻度も高く、多くは生物多様性2010年目
標に関係する。
フットプリント指標
(人類が収奪した一
次純生産力(Human
生態系サービスに対して:生態系サービスを
Appropriated Net
提供するあるいは支える特定の種(例えば魚
Primary Productivity
(HANPP))、生きてい 類)や生態系(例えば湿地)に結びつけられ
10
これらの測定手段と
指標の多くのもの
は、幅広い(一般な
らびに政策に関わり
のある)対象者に生
物多様性の現状を伝
えるのに用いられ
る。方法の合意は進
められているところ
である。多くの指標
は変化に高感度であ
る。
土地被覆のデータ
は地球規模で利用
できるが、時間軸
に沿っては利用で
きない。
気候変動のモデル
は将来の期間に対
して地球規模で利
用可能である。圧
力を生物多様性の
変化に結びつける
ことはまだ不足し
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
る地球指数(Living
Planet Index (LPI))、
環境債)
利用水準(収穫、抽
出)
外来侵入種
ると、これらの測定手段は生態系サービスの
水準や減衰の役立つ指標となる。生態系サー
ビスの利用と供給の持続可能性を指標化する
ためにも用いられる。
複合的なフットプリ
ント指標は徐々に分
解可能になってきて
いる。
経済価値評価:生態系サービス水準の変化が、
損失か向上かを評価するのに役立つ。特定の
サービスに対する閾効果についての情報が得
られるならばこれらの指標は経済リスクを測
るために役立つ。
ている。
地球規模で時間軸
に沿って利用可能
な汚染にかかる測
定手段はいくつか
ある(例.窒素沈
着)
。
複合的なフットプ
リント指標は地球
規模で時間軸に沿
って利用可能であ
る。
利用水準や外来種
については発展途
上である。
生態系サービ 供給サービ
スの測定手段 スの測定手
と指標[原注 段
1]
木材・燃料・繊維の
生産
畜産
生物多様性に対して:供給サービスの測定手
段は現在のところ生物多様性や生態系の利用
とその持続可能性を指標化するために用いら
れている。より近年は生物多様性と生態系の
経済価値を指標化するためにも用いられる。
水産
野生生物の生産品
薬用植物の収穫
生態系サービスに対して:生態系サービスの
水準と変化を直接測定する手段である。持続
可能な生産の指標として計算されると、持続
可能な生産の場合を実際と対比することによ
って、生態系サービスのモニタリングと管理
あるものは単純で強
力な指標である。モ
デル化の方法やその
発展についてはまだ
合意されていない。
変化に高感度であ
る。
木材生産や畜産に
ついては地球規模
で利用可能であ
る。たいていのデ
ータは地域規模
で、また一時的な
ものが利用でき
る。規模の拡大や
モデル化もいくつ
かは可能である
(第3章参照)
。
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
取水と調整
調整サービ
スの指標
のための指標に用いることができる。
自然に根ざしたレク
リエーションに必要
な生物学的基盤
経済価値評価:指標の大半は生物物理学的単
位で表現され、市場があるのならば金銭的価
値に変換できる。
炭素隔離
生物多様性に対して:多くは生態系が存続す
るために重要な生態学的プロセスを測定する
手段である。従って、生物多様性の機能の状
態と傾向を指標化するために用いることがで
きる。生物多様性と生態系の経済価値を指標
化するためにも用いられる。
水流調節と生産
大気の質の調整
自然災害の調節
廃棄物処理
浸食の制御/土壌保
全
病気の調整
受粉
生態系サービスに対して:生態系サービスの
水準と変化を直接測定する。
経済価値評価:調整サービスは経済評価する
ことがいっそう難しいが、回避や代償、再生
やその他の費用を通じた評価の進展について
第5章を参照のこと。二重計上がこのサービ
スのいくつかに伴う問題として残されてい
る。
総生産や直接利用
値のほうが、持続
可能な生産の指標
よりも一般的であ
る。
供給サービスの測定
手段に比べると幅広
い対象者への直感的
わかりやすさに乏し
い。測定やモデル化
の方法論の合意は限
られている。短期の
変化に対する感度は
低い。
たいていの指標は
地域規模でのみ利
用できるが、多く
の指標が潜在的に
は地球規模でも作
成可能である。
炭素隔離のデータ
は地球規模で利用
可能である。
データがあれば時
間軸に沿ったモデ
ル化が可能である
が、一般的ではな
い。
遺伝的多様性の維持
病害虫防除
[原注1]生態系サービスの測定手段と指標のデータの利用可能状況ならびに情報伝達能力については Layke (2009) に詳細にまとめられてい
る。
12
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
本章では、前述のように異なる対象者は異なる指標の組合せを必要としているため、特定の
指標と測定手段の組合せを提唱することは行わない。生物多様性と生態系に関わる既存の指
標や測定手段とTEEBのような取組みにおける利用可能性を概括する。本章では、既存の
指標と測定手段のうち空間的に明確なものに焦点を絞る(開発途中と知られているものも一
部言及する)
。以下に、生物多様性ならびに生態系サービスのの測定や変化の評価へのそれら
指標と測定手段の適用の現況と、それらの情報を伝える能力、およびそれらのデータの利用
可能性について評価する。後二つの評価点(情報を伝える能力とデータの利用可能性)は世
界資源研究所(World Resources Institute (WRI))によるミレニアム生態系評価の測定手段や指
標の検討(Layke 2009)において開発され適用された指標である。ここでは、指標の情報を
伝える能力については、その直感的わかりやすさ、感度、容認性などを組合せて位置づけ、
データの利用可能性については、十分なモニタリングシステムの有無や、処理されたデータ
の利用可能性、データが正規化されているか、データが集計されていないかどうかなどに基
づいて位置づけた。効用や入手方法ならびに人間の豊かさや幸せ(福利)に関わる指標その
ものについてはここでは評価しない。
表1に示されるように、生物多様性や生態系サービスを評価するための測定手段や指標が多
数さまざまな地理学的規模や地域に見られる。ここに見られるのは生物多様性や生態系サー
ビスの測定手段や指標についてのこれまでの総括(ロンドン王立協会(Royal Society)2003;
Layke 2009; Mace and Baillie 2007)と同様、既存のデータや指標の多くはTEEBが関心のあ
る指標とは異なる目的のために収集ならびに開発された指標であり、従って必ずしも生物多
様性と生態系の変化の経済学的結果を評価するために適切な測定手段ではない。さらに、既
存の指標のたいていは特定の観点から開発され適用されているため、いくぶん良い生物多様
性の指標となり生態系サービスの指標の開発にも進展が見られるものの、見方を広げ生物多
様性の構成要素と人間に提供するサービス・恩恵との間の関係を明確に示すような測定手段
となる指標としては現時点では欠けている。このため、既存の測定手段と指標は、TEEB
読者に魅力的ではない。表1に類別してまとめた指標を(1)既存の測定手段でTEEBと
その短期的な課題に役立つ指標を特定すること、ならびに(2)長期的に目的に適した主要
な指標を開発するのにさらに必要な作業を明らかにすること、という2つの目標を持って以
下に検討した。
多様性の指標
地球規模では、種の多様性や豊富さ及び固有について、例えば、哺乳類や両生類など(Myers
et al. 2000; ミレニアム生態系評価(MA)2005a)、測定手段や地図が得られる分類群がいくつ
かあり、地域(sub-global)規模になると遺伝的多様性や生態系の多様性にかかる測定手段や
指標が加わる(例.Bagley et al. 2002)
。多くの保全機関や保全政策の注目にもかかわらず、
また生物多様性の高い価値をうまく伝えるにもかかわらず、それらの測定手段は遺伝子や種
ならびに生態系の多様性による人類や経済に対する恩恵を評価することにはめったに用いら
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
れていない。これは、多様性と生態系サービスのあいだの複雑で弱い関係の結果である
(Balvanera et al. 2001; Hooper et al. 2005; Mace et al. 2005)。多様性が生物多様性や生態系の回
復力ならびに適応能力において重要であるという証拠もいくつかある(Johnson et al 1996;
Naeem 1998; Swift et al. 2004; Balvanera et al. 2006; Diaz et al. 2006)が、この保険価値はめった
に算出されていない(詳しくは第2章を参照のこと)
。生物多様性の重要性に関して頻繁に引
用されている例は農業ならびに資源として利用できる可能性を探る生物調査(バイオ・プロ
スペクティング)における遺伝的多様性の価値(Esquinas-Alcázar 2005)があるが、これらの
恩恵は利用の選択肢次第という特徴があるため、従って数量化して経済評価することが難し
い。生物多様性の他の恩恵には多様性を楽しんだり鑑賞することに結びついた文化サービス
があるが、これらは、例えば支払い意欲の研究法(例.Esquinas-Alcázar 2005)を用いるなど
により、経済評価が行いやすい。しかし、このような研究法が信頼できるかどうかは論証さ
れていない(第5章を参照のこと)
。最後に、機能多様性(即ち、機能グループや機能タイプ
の多様性)が調整サービスにとって重要であると言われている(Bunker et al. 2005; Diaz et al.
2006)が、機能多様性の指標を開発は困難であり、また、調整サービスの経済評価に付随す
る困難(第5章)によって経済評価の取組みにこれら指標の適用が制限されている。
生物多様性のこれらの指標は、直感的わかりやすく、すでに広く行き渡り、容認された精密
な方法やデータに基づくものも多いという点で、その意味するところを伝える可能性がある。
但し、政策関与期間を通じた変化に対する感度が弱い。それは、データの不足のためであっ
たり、そのような変化には地方規模あるいは地球規模で種や生態系の絶滅を必要としたりす
るからである。Balmford et al. (2003) が指摘するように、そのような変化はたいていは短期的
な変化には感じられない長期である。遺伝的多様性を除いて、この類の指標は、指標や経済
評価の取組みの多くでその焦点になっていないため、生物多様性と人間の豊かさと幸せ(福
利)とのあいだの現時点では希薄なつながりを数量化するためにいっそうの研究が必要であ
る。
数量の指標
数量の指標と測定手段は個体群や種ならびに生態系のレベルを元に、での総数や数の変化で
作成することができる。広範に用いられている数量の指標には、生態系の範囲の変化に注目
したもの(例.国連食糧農業機関(FAO 2001) の森林面積)や、種の存在量の変化を示すも
の(例.Revenga and Kura (2003) の水鳥の数)が含まれる。これらの指標の多くは、分類学
的なグループ分けよりもむしろ機能グループに焦点を絞っている(例.水鳥、外洋域魚類、
湿地生態系)
。
生態系や種あるいは機能グループに対してこれらの測定手段や指標が存在し、加えてそれら
対象からの便益フローや伴う経済的価値評価に関する十分なデータが評価されているときは
(例.国連食糧農業機関(FAO 2000) の漁業資源)、Finlayson et al. (2005) の湿地生態系サー
14
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
ビス)、これら測定手段は、生物多様性の変化の経済的影響を論証する有用性が高い指標にな
る。地球規模で重要な漁業資源の変化が直接的に経済評価されている(例.Wood et al. 2005)
一方、地方規模では生態系の範囲の一時的な変化が渇水や浸食の制御、炭素の貯留、自然環
境へのツーリズムなどの数量化に用いられている(Reyers et al. 2009)
。
数量の指標にはまた、一次生産力や生物体量といった尺度が含まれる。これらは、種や生態
系の分類学的単位あるいは機能的単位を測定しないという点で生物多様性を見分けない指標
と見られるかもしれない(とはいえ Costanza et al. (2007) を参照のこと)が、炭素の貯留
(Naidoo et al. 2008)や木材生産(Balmford et al. 2008)、放牧(O’Farrell et al. 2007)を含むい
くつもの恩恵に結びつく生態系の生産性の指標として潜在的に役立つものである。これらは、
天然または本来の生産と人類が向上させた生産とを現在のところ区別しておらず、従って特
定の区域における生態系や生物多様性の変化の経済的結果を計算する際は注意深く解釈しな
ければならない。
データが不足しているところとして、例えば、哺乳類や鳥類、森林生態系(ロンドン王立協
会(Royal Society)2003; Collen et al. 2008; Schmeller et al. 2009)など、一般的でよく知られ測
定容易な種や生態系に地理学的ならびに分類学的な選択が明らかに偏っていることが挙げら
れる。さらに例えば有用動植物といったものの存在量についての知識やデータが不足してい
ることによって、これらの指標の開発が制限され、種や生態系の損失の経済学的影響を有意
に低く見積もってしまう結果になりうる。
これらの指標の伝達能力についてまとめると、強みとして、直感的にわかりやすいこと(特
に、魚類や森林などよく知られた種や生態系の測定手段)や、方法やデータに関して全般的
に合意されていること、また変化に対して高感度であることが挙げられる。生産力や生物体
量の測定手段の方法や効用ならびに伝達について弱ったががあるが、だんだん進歩しつつあ
る(Imhoff et al. 2004)
。
容易に経済評価できる供給サービスに明確に結びつくため、この類別の測定手段と指標は生
物多様性や生態系サービスの変化の経済学的結果のいくつかを測定し予測するにはたいへん
有望である。地方規模では生態系の範囲や種の存在量のデータがあるところでこれはすでに
可能である(Balmford et al. 2003; Reyers et al. 2009)
。地球規模では、生態系の範囲や広範な有
用種の存在量についての情報ならびにこれらの尺度の変化に関する地球規模のデータベース
の開発と照合が必要となる。生態系の範囲の変化(Czúcz et al. 2009)や種の存在量の変化
(Scholes and Biggs 2005; Diaz et al. 2006; MNP 2006)をモデル化する現在の能力に鑑み、この
ことがTEEBにとって役立つ焦点となっている。機能タイプや機能グループに焦点を合わ
せると、複数の種や生態系がひとつのサービスを提供するといった重複性の問題に伴う困難
を避けることを助け大いに役立つことになるだろう(Diaz et al. 2006)
。
15
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
状態の指標
この測定手段は、生態系や生物多様性の状態や質の変化を、個体群レベルから生態系全体ま
で生物多様性を構成する要素の劣化を反映させて映し出すものである。前段の数量の指標に
密接につながっているが、状態の指標は、種や生態系の総量はあまり焦点にせず、評価しよ
うとする要素の質や健全さに焦点を合わせるものである。例としては、絶滅の危機にある種
や生態系(Mace and Lande 1991; 欧州環境機関(EEA)2009a)、栄養塩類の水準(例えば、
土壌の状態、窒素の沈着と枯渇;ミレニアム生態系評価(MA)2005b)、生態系の分断化の
度合い(Rodriguez et al. 2007)、栄養段階の変化(Pauly et al. 1998)、個体群の健全さの尺度
(Scholes and Biggs 2005)、撹乱の機構の変化(Carpenter et al. 2008)などが挙げられる。
しきい(閾)
(生物個体が栄養物質をとりこむ際のとりこみの限界)に関連した種の存在量の
変化(Mace and Lande 1991)や、より近年ではしきい(閾)に関連した生態系の範囲の変化
(Rodriguez et al. 2007)が、生物多様性の絶滅リスクの高い特徴を強調するリスク評価手順の
開発に用いられている。レッドリスト指数(Red List Index (RLI))は、一連の種が絶滅に向か
おうとする総合的な速度を要約した複合的な尺度であり(例.欧州環境機関(EEA 2009a)の
欧州の鳥類)、生物多様性2010年目標に向けた進展を測定する際に広く適用されている。
これらの取組みは、生物多様性の損失の経済的なリスクを評価する際に、特に評価対象の種
や生態系が高い絶滅リスクを負いかつそれらが恩恵と明確に結びついている場合には役立つ
可能性があるが、まだ探究されていない。
個体群の健全さの指標には、近年に開発された存在量の変化に焦点を合わせた複合的な指数
が含まれる。その例には、生物多様性完全度指数(Biodiversity Intactness Index (BII))(Scholes
and Biggs 2005)や、平均種存在量(Mean Species Abundance (MSA))という指数(オランダ
政府環境局(Milieu- en Natuurplanbureau (MNP))2006)がある。これらの指数は、土地利用
被覆が種の個体群に及ぼす影響にかかるデータや専門家からの入力を用い、土地利用の過去
の変化ならびに予測される変化についての情報とあわせて、それら変化の集合的影響を個体
群レベルでモデル化するものである。土地利用の変化の結果を個体群レベルで評価するため
に役立つツールであっても、平均あるいは総計を用いた集合的な測定手段はそれらの変化を
(モデル化の対象にされた種や機能タイプあるいは個体群のうち、ふつうほんのいくつかの
ものとしか結びつかない)しか、便益のフローの変化に結びつけることが難しい。分解可能
で追跡可能な特徴をもつ生物多様性完全度指数(BII)は、生物多様性の状態の指標として役
立ち、さらなる研究とデータが蓄積されれば恩恵との明確なつながりを提供する機能グルー
プの健全さの測定まで拡張できるであろう。
平均種存在量(MSA)は一連の種に対する人為的な変化要因の平均的な影響を捉える指標で
ある。この尺度は、撹乱の影響、なかでも土地被覆の変化が種数に及ぼす影響を、撹乱があ
る場合とない場合との平均種数を測定することにより提供する。これはまた地球規模のさま
16
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
ざまなシナリオとも結びつきTEEBの下でも役立つものである。この指標は独立検証可能
な尺度ではなく、最初に推測された種の集合に大きく影響される。個体群の反応の平均の尺
度であるため、著しく異なる条件下でも同じ値となることがある。さらに、平均の尺度のせ
いで、種の絶滅や侵入といった種構成の変化を扱うことができず、特定の種の損失に伴う重
大な機能の変化を見落とす。生物多様性の損失から起きる生態系の機能の変化を組入れる能
力を欠くことから、この指数は生態系サービスとの結びつきを潜在的に希薄である。
これらの測定手段や指標の多くは、地球規模ならびに地域(sub-global)規模でこれまでにも
適用されており(ミレニアム生態系評価(MA)2005b; Biggs et al. 2006; 欧州環境機関(EEA)
2009a)
、生物多様性の状態や傾向を明確に適切に伝えているように見える。データや方法論
の不足が、生態系の分断化や撹乱機構の変更の測定に対して存在し、これらの指標の利用の
大部分を地域(sub-global)規模に制限している。概して、これらの指標はデータと知識に集
中しており(専門家からの入力に補足されうるが)、多くの場合地域(sub-global)規模でのみ
利用可能である。
現状ではこれら状態の測定手段のほとんどはTEEBの狙いに応えられないが、幅が拡がり
適用が容易になり利用可能なデータやモデルが増えれば生物多様性や生態系の評価の中心に
据えられるであろう。しかし、生態系の健全さと便益のフローとの関係の知識の不十分さや、
機能的限界についての知識不足によって、いっそう生物多様性の恩恵の提供との結びつきが、
希薄となっている。
圧力の指標
多くの場合、生態系や生物多様性の測定とモデル化は、生物多様性の損失や生態系の変化の
指標としての生物多様性や生態系にかかる圧力についての測定手段に依存する。このような
圧力には、ミレニアム生態系評価(MA)により生物多様性や生態系に影響を及ぼす最も重要
な要因として強調された直接変化要因、即ち、生息地の破壊、外来侵入種の導入、過剰搾取、
病気、気候変動など(Mace et al. 2005)が含まれる。その測定手段は、土地利用被覆のデータ
や、気候変動のモデル、外来種の分布と密度のデータ、利用水準のデータなどに依存する。
指標には、複数の圧力を組入れて生態系への人為的な影響を指標しようとする複合的な指数
がいくつかある。主要な例として、(WWFによる)生きている地球指数(Living Planet Index
(LPI))、エコロジカル・フットプリント(Ecological Footprint (EF))、人類が収奪した一次純
生産力(Human Appropriated Net Primary Productivity (HANPP))が挙げられ、これらは全て地
球規模で一定の期間に対して利用可能である。これらの複合的な測定手段の多くは、これら
の悪影響の持続可能性を示すために、環境収容力や生産力の年間合計の限界を含んでいる。
土地被覆の変化は広く用いられている尺度であり、リモートセンシングや衛星画像によって
世界の全ての部分に対して利用可能になっている(例.欧州委員会の全球土地被覆データベ
17
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
ースプロジェクト Global Land Cover 2000 (GLC2000)(Bartholome and Belward 2005)
)
。時間を
追った土地被覆のデータは、将来の土地被覆変化のモデルとともに、地球規模(Mace et al.
2005)から地方規模(Fox et al. 2005)まで、生物多様性と生態系サービスの変化の評価に用
いられている。汚染物質ならびに富栄養化の水準は、地球規模の人類の圧力を測定する手段
としてふつうに用いられている(ミレニアム生態系評価(MA)2005b; 欧州環境機関(EEA)
2009a)
。
これらの圧力の指標の歴史や広範な利用は、生物多様性に対する人類の圧力について伝える
能力を確実に有することを示している。近年に加わった収容力の限界に関係する複合的な指
数も役立つ妥当な伝達ツールであることがわかっている。
土地被覆を生態系と混同してはならないが、土地被覆のデータは、特定の種類の土地被覆に
伴う便益のフローの変化を幅広く評価するために役立つ。このようにして土地被覆の変化の
経済的結果を数量化しようとした最初の成果は Costanza et al. (1997) による研究がある。生態
系サービスの変化を測定しようとする地方規模の研究には、
(リモートセンシングから得られ
た)土地被覆の変化のデータや、
(ふつう Costanza et al. (1997) より引用した)生態系サービ
ス経済価値係数(ecosystem service value coefficients)を用いたこのような取組み方に頼るもの
がいくつか見られる(Kreuter et al. 2001; Zhao et al. 2004; Viglizzo and Frank 2006; Li et al. 2007)
。
土地被覆の変化の事例研究やシミュレーションも生態系サービスや生態学的プロセスのある
一面(Turner II et al. (2003) の窒素水準、Priess et al. (2007) の受粉、O’Farrell et al. (2007) の畜
産へのサービス、Yadav and Malanson (2008) の土壌炭素)に対する影響を検査するために用
いられている。生態系マッピング(Olson et al. 2001)や、地球観測(Bartholome and Belward 2005)
、
経済評価(本書第5章)などにおける近年の進展によって、この種の取組み方が生物多様性
と生態系の変化の経済学的結果を評価するための補足的かつ実際的な方法になるはずである。
変化要因に関するデータを将来の変化を予測するために用いる可能性がこの指標を採るさら
に強力な理由になる(例.Schröter et al. 2005)
。
生態系サービスの指標
生態系サービスの測定手段は(Layke (2009) に総括されているように)いくつもあり、さら
に生態系サービスの測定と経済評価を進めようとする国際的なプロジェクトも見られる(例.
自然資本プロジェクト(Natural Capital Project)、世界資源研究所(WRI)の生態系サービス主
流化イニシアティブ(Mainstreaming Ecosystem Services Initiative (MESI)))
。これらの測定手段
は、非生物的要因、生物的要因、人為的要因、ならびにこれら要因のあいだの関係の知識に
基づいて、特定の生態系サービスの生産をモデル化やマッピングするために用いられる。例
えば受粉(Kremen 2005)のように、種の多様性や存在量、分布や景観パターンなどに依存す
る極めて複雑な測定手段が開発されている。
18
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
Balmford et al. (2008) や Troy and Wilson (2006)、Wendland et al. (2009) といった近年の研究な
どのように、生態系サービスを地域規模や地球規模で空間的にマッピングする研究領域は急
速に成長しつつある。米国のハインツセンターのプロジェクト(Heinz Center 2008)や欧州で
の陸域生態系高度分析モデル化(Advanced Terrestrial Ecosystem Analysis and Modelling
(ATEAM))プロジェクトで、指標開発や生態系サービスのマッピングに良好な進展がみられ、
将来の変化のシナリオを含むところまで到達している(Metzger et al. 2006)
。
Wendland et al. (2009) は、環境サービスに対する支払い(PES)の仕組みでマダガスカルにお
ける生物多様性保全の資金を調達するために用いる際の得失を検討した。この検討のために、
哺乳類・鳥類・両生類の種の範囲に関する地球規模のベクターデータや地球規模の植被率の
データが、マダガスカル国内での個体群分布や水質、水流方向、森林伐採の確率モデルに結
びつけられた。地理情報システム(GIS)やリモートセンシング画像で地上調査とともに用い
て正確さを裏打ちした。Troy and Wilson (2006) は、生態系サービスをマッピングして価値の
移転を研究するための決定枠組みにおける核心的な5つの手順を特定した。しかし、Naidoo et
al. (2008) は、生態系サービスの空間的な推定や遠近合わせた人間への便益のフローの例証が、
いくつかの地方規模の事例研究を除いては限られていることを観察した。既存の数量的分析
のたいていはまだ、広大な地域をまとめた値を提供する傾向があり、データの利用可能性も
空間データの分解性もまだ生態系サービスのマッピングの制限要因である。さらに、これら
生態系サービスの指標が多変量であるという特徴のせいで、生態系サービスの供給における
生物多様性の役割の分離が難しく、サービス供給にかかわる生物的・非生物的・人為的など
他の要因から生物多様性の損失の経済的結果を解くことが難しい。このことについては、次
節以降でさらに探究する。
まとめると、サービスのストックやフローを数量化することから、サービスを実際に経済評
価することに進めうるような指標は現在のところほとんどない。開発の取組みにもかかわら
ず、生物多様性の貢献およびその状態の変化の影響を経済評価まで計算することは課題のま
ま残されている。
教訓
生物多様性と生態系サービスの一連の指標があるにもかかわらず、生物多様性と生態系の変
化の経済学的結果の測定に直接適用できるものはほとんどない。生物多様性と生態系の変化
の全ての側面を確実に捉え経済評価する、多様性の指標から状態の指標まで、代表的な組合
せが必要である。既存の指標に頼っていたのでは、せいぜい食料生産や繊維生産にかかる二
三の種や生態系の価値を捉えるくらいで、生物多様性と生態系が果たす生態系サービス全体
を支える役割を、またその将来的回復力を、見逃すことになるだろう。
代わる道筋のひとつに、圧力に焦点を合わせて土地被覆や気候変動の舞台で政策行動を採ら
19
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
ない場合の経済学的結果のモデル化に用いることがある。この取組み方は、生物多様性と生
態系の変化を実際に測定することやモデル化することを迂回して、土地被覆の変化や気候変
動の生態系サービスへの直接的な意味を調べるものである(例.Schröter et al. 2005; Metzger et
al. 2006)
。これは、TEEBの主目的である生物多様性と生態系のガバナンスの論拠を必ずし
も高めるとは限らないが、生態系サービスのガバナンスの観点からの土地利用ならびに気候
にかかる政策と行動の必要性を強調することにおそらくつながるだろう。
手持ちのものを政策立案者や政策決定者の短期的な必要性を満たすように用いることは重要
だが、数量や要因の測定手段を多様性や状態の測定手段に結びつけて、生物多様性と生態系
の価値を政策決定に確実に十分に組入れることが決定的に必要である。ゆえに、既存のデー
タを統合しようとする現在の焦点は、生物多様性と生態系の変化やその便益フローとのつな
がりの測定、およびそれらフローの経済評価における活発な研究開発で補って完全になされ
ねばならない。
現在手持ちの測定手段の多くは利用可能な情報によってまず決まるものであり、ゆえに良い
測定手段や良い指標にはならない。TEEBにとっても生物多様性の損失の経済学的な価値
や結果にかかわる他の評価にとっても、目的に適合した指標やそれを得るための新たなデー
タが必要である。このような目的に適う指標は、本章第1節にその概略を述べた課題に対処
し、妥当で効力を持ったコミュニケーションが可能であるだけでなく、正確で、関連する生
態系や場所にも適用可能で、繰り返し可能で、防御可能で、恩恵とそれを提供する生物多様
性の構成要素とのあいだのつながりを明確に指し示すものでなければならない。
3. 生態系サービスのための適切な指標を求めて
3.1 適切な指標の開発
第2節より明らかなように、生物多様性や生態系ならびに生態系サービスの既存の指標のた
いていはTEEBや同様のプロジェクトが生物多様性と生態系サービスの変化の経済学的結
果を、また特に生物多様性の限界損失を、検査する目的のために開発されたものではない。
ここでは、ありうる全ての場合に適用できるひとつに統合された方法論を求める議論よりも、
並行したモデル化の取組みや方法がいくつも必要であるということを提案する。TEEBや
生物多様性の損失の経済学的結果に関心のある他のプロジェクトの目的に関連する指標の開
発を支えるために、以下にみるいくつかの可能性のある指標を用いてこれらの指標における
主要な機会と制限を明らかにする。ひとつは、よく引用され容易に測定できる木材生産の供
給サービスで、それに比べるとあまり容易には測定できない農地景観の社会的価値の文化サ
ービスと対比する。地方規模での指標開発の前進について、また最後に指標開発における基
準と許容限界の重要性についても議論する。
20
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
3.2 供給サービス:木材生産
(生産機能を明確に伴う)供給サービスは、生態系サービスのマッピングの演習に大きな注
意が払われてきた(Balmford et al. 2008; Naidoo et al. 2008)
。供給サービスのひとつとしてよく
知られている木材生産は、リモートセンシング画像を気象データと組合わせることによって
得られた森林域の物質生産力(Dry Matter Productivity (DMP))の推定(フランデレン地域科
学技術研究所(Vlaamse Instelling voor Technologisch Onderzoek (VITO))2009)を用いてモデル
化しマッピングすることが可能である。この生産力の関数には、生態系の広がり(森林面積)
の尺度と生物学的数量(乾燥物質量)の尺度が含まれる。この物質生産力の指数は、1ヘク
タール当りの乾燥物質キログラム量(KgDM/ha)で植生の成長の尺度を提供する。これは、
生態系が1年間に新たに生産した乾燥物質量であり、毎年その生態系が提供する新たな木材
と理解することができる。この物質生産力を年ごとに比較することによって、植生の活動が
異なる範囲を示すことができる。このようにして物質生産力の変化を得て、自然の木材生産
力が増加している範囲や減少している範囲を見つけ出すことができる。
図1の世界地図にどこで物質生産力が高いか(高いほど緑色が濃い)を示す。国の規模の地
図では、2001 年と 2004 年の植生の活動の違いを、西アフリカ地域とマダガスカルについて
示す。マダガスカルの場合、2001 年から 20004 年のあいだに物質生産力の合計が、森林伐採
により6%低下した。
この尺度は、森林面積と自然の木材生産(表1の数量の測定手段)の変化がその生産サービ
スに及ぼす影響を測定しモデル化する良い機会を提供している。とはいえ、TEEBにとっ
て理想的な指標にはまだ達しておらず、物質生産力の単位を経済的価値評価に換算できるよ
う(即ち、商業的重要種を特定し、その用い方や入手方法を決めるなど)発展させる必要が
ある。持続可能な生産水準に関する情報を、例えばある特定の年に成長したヘクタール当り
の乾燥物質重を用いて含めることもいっそう役立つ発展となりうる。生物多様性の役割を木
材生産に伴う人為的要因と切り離すことが課題の一つである。
21
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
図1.森林域の物質生産力(Dry Matter Productivity (DMP))として測定された木材生産の
地図。⒜世界全域 2001 年の物質生産力(ヘクタール当り乾燥物質キログラム量
(KgDM/ha)
)、⒝西アフリカ地域ならびに⒞マダガスカルにおける 2001 年と 2004 年の
木材生産の変化(物質生産力の増減値(ヘクタール当り乾燥物質キログラム量
(KgDM/ha)
))。データ出典:欧州委員会共同研究センター(Joint Research Centre (JRC),
European Commission)の農業資源モニタリングユニット(The Monitoring Agricultural
ResourceS (MARS) Unit)のリモートセンシングデータベース。
3.3 文化サービス:農地景観への社会的評価
わたしたちが生態系と関わる中で得られる審美的、精神的、余暇的、教育的、その他の非物
質的な利益を、生態系の文化サービスと呼ぶ(MA 2005b; Butler and Oluoch-Kosura 2006)。文化
サービスをマッピングすることはほとんど進展していない。良く知られた自然と関わるアウ
トドア活動でさえ、Balmford et al. (2008) は、生物多様性とツーリズムの需要と効用とのあい
だのつながりに関する知識の不足と、理解と認識といった主観的で状況次第の特徴のゆえに、
そのサービス・恩恵をまだマッピングできていないと指摘する。それでも特定の景観タイプ
であれば、生態系の文化サービスに対する社会の関心を代わりに表すことを基礎にそれを数
量化しマッピングする取組みもある。その例に農地景観の社会的価値の指数がある。
地球規模や地域規模の評価で景観の需要は、たとえ対象を絞ってインタビューを行ったり
人々の嗜好を記録しようとアンケートをとったとしても、現在のところ扱えない。 従って、
この例では、社会が景観を守るためにとる行動や社会が田園・農地景観から得る効用や楽し
22
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
みといった価値を通じて間接的に実証されうるという推測に基づいて、田園・農地景観に対
して社会が有する経済価値がモデル化されている。これらの側面を代表するようにこの例で
は、方法論ならびに欧州連合規模でデータが利用できることを考慮して、保護された農業地
域・田園ツーリズム・ラベル付与生産物の有無という3つの変数が特定された。
図2.欧州における農地景観の社会的価値。
【図中の英語凡例】景観評価指標
斜線部 ツーリズムのデータが欠如するところ。
図2に最終的に作成された地図を示す。欧州中部と南部に社会的価値の高いところが見える。
この例は社会的価値の分布を示す新しいものではあるが、生物多様性と生態系の変化の経済
的な価値を測定しモデル化するために用いるという目的に適した指標には程遠い。文化サー
ビスをマッピングする方法はまだ開発されていないし合意されていない。価値を直接的に移
転することができ測定手段のあいだの得失や相乗作用を扱わないと仮定すると、これらの方
法は異なる価値を混同する危険性がある。もとにする測定方法は分解可能で追跡可能なフォ
ーマットで利用できなければならない。さらに、経済的価値評価を社会学的価値に割り当て
ることは困難である(この分野の発展については第5章を参照のこと)
。生物多様性の変化の
影響やサービスの過去ならびに将来の傾向を測定することもまだ不可能である。そのほか評
価に用いることが可能なサービスには、バードウォッチングやスキューバダイビングなど、
生物多様性と文化的・余暇的恩恵とのつながりが単純で明確に定義できるものが含まれ、評
価研究もある(Losey and Vaughan 2006; Tapuswan and Asafu-Adiaye 2008; Lee et al. 2009)。保護
地への訪問者の数値も潜在的な指標であるが地球規模や地域規模では現在のところ利用でき
ない。
23
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
3.4 各地に適切な指標
前述の地球規模ならびに地域規模の指標は、生物多様性と生態系の変化の経済的結果の指標
のなかでも、難しい。経済的価値評価地方規模では、最近の出版物に良好な進展が示されて
いる。Chan et al. (2006)、Nelson et al. (2009)、Reyers et al. (2009) などが、生態系と生物多様性
(なかでも機能タイプ)
、土地被覆、個体群、アクセス、水文学、経済的価値評価などからの
データを用いて、米国や南アフリカなどにおける地方規模の生態系サービスをモデル化しマ
ッピングしている。マッピングにより、Chan et al. (2006) では得失と計画選択肢を調べ、Reyers
et al. (2009) は土地利用の変化が生態系サービスに及ぼした結果を数量化し、Nelson et al.
(2009) は将来へのシナリオが生態系サービスに及ぼす結果を調べている。これらの指標の多
くは生態系と生物多様性の変化が生態系サービスに及ぼす結果を観察するために用いられて
いる。いくつかの指標は生物物理学的数量で表現されており、これらの数量(リットルの水、
トンの炭素)が経済学的用語に変換可能である。このような変換は Naidoo and Ricketts (2006)
のもうひとつの地方規模の事例研究でも明らかに実証されている。それは、パラグアイで生
物多様性保全の恩恵のコストを評価するために生態系サービスの経済評価をモデル化し空間
的に明らかにした研究である。
3.5 今後の方向性
木材生産と景観の社会的価値のふたつの例における開発過程は、経済評価のために生態系サ
ービスをマッピングし生態系の変化や生物多様性の損失の限界費用便益のシナリオを用いる
ことに対して、次のような教訓を強調する:
z 地球規模の空間的な所在を明示することは必要であるが、広域的なマップに頼ることで
供給サービスにおいて特に、現在マッピング可能な生態系サービスの組合せを減少させ
ている。
z 一次生産力や植生被覆の地球規模のデータセットは、現在利用可能な地球規模の生態系
サービスのマッピングに多くの場合、重要な役割を果たしている(例.Naidoo et al. 2008)
。
z 生態系サービスのマッピングには、生物物理学的数量や放牧資源といった生物学的蓄積
を示すような地図からさらに進展が必要である。
z 生態系サービスの流れや効用を地球規模で空間的に明示するデータは稀であるために、
生物物理学的数量のマッピングを元に経済的価値評価評価のマッピングを行うことが困
難である。地方規模ならびに地域規模の評価ではそれほどでもない。
z 生態系サービスのマップを改良して経済価値評価するために必要な最初のステップは、
24
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
空間的に明示的なデータや地方規模と地域規模の投資することである。
。
z 今、利用可能な生態系サービスのマッピングと、将来の変化を予測する既存のモデルや
シナリオとのあいだの関係づけが不十分であるため、生態系サービスの水準や価値の変
化のアセスメントを困難にしている。
最後に、本章から得られる教訓は、サービスの生産水準ならびにその水準の変化の地球規模
のマッピングを、経済評価や価値の変化の代わりに用いることによって、生態系管理のそも
そもに決定的に関わるふたつの面を見失う危険性がある。その二つの面とは持続可能性と脆
弱性である。ひとつめの持続可能性に対する課題が、図3に栄養生物体量のマッピングで示
した生物学的安全限界を超えて必ずしも捕獲する必要のない魚類資源の事例(EEA 2009b)に
強調することができる。
図3.生物学的安全限界を超える魚類資源。データ出典:EEA (2009b)。円グ
ラフは生物学的安全限界範囲を超えて過剰漁獲された割合(赤色)と生物学
的安全限界範囲内の漁獲の割合(青色)
。円グラフの中の数字は当該地域内で
評価に用いた資源の数。円の大きさは地域ごとの漁獲高の大きさに比例する。
濃い水色の各区画はICESならびにGFCM漁業地域の範囲を示す。
脆弱性を描くという課題が図4に示される。図4は水の供給の需要に対する割合を示したア
フリカ南部の地図(Scholes and Biggs 2004)である。この図では、現在の需要に水の供給が満
たされないところに高い脆弱性を強調している。このサービスの地球規模あるいはローカル
な地図であれば、この値が高くとも社会的限界や各地の需要を満たさないような低い水供給
の実際の範囲を正しく描くとは限らない。非常に脆弱なところであれば、水供給のわずかな
変化であっても、その地の人々の豊かさや幸せ(福利)に有意な影響や、必ずしも金銭価値
25
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
に評価して表せないような影響を及ぼし、その価値の変化をもたらすであろう。サービスに
対する需要について供給と理論的に結びつけてさらに検討し微分してゆくと、サービスのよ
り社会的に現実的な評価に結びつきうる。
図4.アフリカ南部における水の供給の需要に対する割合として表現さ
れる水の利用可能性。データ出典:Scholes and Biggs (2004)。赤色:過酷
な不足、黄色:脆弱、青色:十分な供給。
これらふたつの例はともに、生態系や生態系サービスの変化は直線的・独立的であることが
めったになく多くの場合加速的で突発的で潜在的に逆行不能であるというミレニアム生態系
評価に強調された課題(MA 2005b)を映し出している。生物多様性の損失や生態系への変化
要因から増加する圧力は、このような非直線的な変化の可能性を高めている。科学はこれら
の危険性やその非直線性を予測する可能性を高めつつあるが、これらの変化が発生するしき
い(閾)を予測することはふつう可能ではない。このことを念頭において、また可能な場合
は既知あるいは潜在的な生態学的しきい(閾)ならびに社会学的しきい(閾)を反映して、
かつ生物多様性の損失とその結果が直線的な関係を持つとは決めてかからないで、生態系の
変化とその帰結を評価する指標を開発する必要がある。
4. 経済評価など更なる作業へ
生産から消費まで生態系サービスのフローは、各地において生産されたり利用されたりする
サービス(例.土壌生成)から地球規模に広がる恩恵(例.炭素隔離・気候調整)までサー
ビスのフローの規模に影響する生物物理学的プロセス(例.海流・気流、渡り・移動)と人
26
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
為的プロセス(例.商取引、アクセス)の両方に影響される。恩恵のフローとその規模は、
空間的にも時間的にも変異の多い需要と供給の変化のために、サービスの経済評価に影響す
る。これらのサービスの用い方は本来的に人間中心過程であり、社会経済学的データに大き
く依存し、生物物理学的情報にも少ないながらも依存するものである。それらの情報には、
利用者の分布や、利用者の社会経済学的状況、行政システム、生態系に対する人為的圧力、
その他の意思や理解といった社会学的尺度などが含まれる。空間的データには、人口分布と
経済状態の地図、土地利用や商取引データの地図、政治的単位や行政境界などその他の空間
データの地図が含まれるだろう。
生態系と生物多様性の保全を包括的かつ経済学的に強く訴えるためには、生態系や生物多様
性から受ける恩恵を理解し、数量化し、マッピングし、かつそれら恩恵の価値を割り当てる
ようになることが必須である。これには、生物多様性がこの価値に及ぼす貢献度を(非生物
的要因と人為的要因から分けて)評価し、生態系と生物多様性の変化がこの価値に及ぼす結
果もともに評価することができるようにならなければならない。本章では、生物物理学的数
量(水、食物、木材)や生態系と生物多様性が提供する恩恵を数値化し空間的に明示しよう
とする現在の能力を総括することに焦点を置いてきた。人類の生活を支えるシステムを形づ
くる(例えば、受粉や炭素隔離、文化サービスなど)生態系と生物多様性からのその他の有
益なプロセスを空間的に明示する能力もまた総括することを狙っていた。
生物多様性と生態系サービスを経済評価しようとする際に用いる方法論と直面する課題につ
いてはさらに第5章で詳しく見る。経済評価においては、生態系サービスのフロー(株式資
本の利子)が焦点となる。第5章では経済評価の既存の文献が生物多様性を詳細には検討し
ていないことが述べられている。生態系における実際の生物多様性に対して価値を割り当て
ることは、生物体の量などとは違って簡単ではない。同時に、生物多様性は生産性に結びつ
くため、この面の測定も組込む必要がある。この章で記述した道具は、一方、生物多様性(資
本本体)に伝統的に焦点を合わせるものである。
生物物理学的測定結果は、生物多様性が生態系サービスを支え、価値の基礎として重要であ
る。総経済価値(Total Economic Value (TEV))の枠組みは、指標をさらに開発する必要がある
分析を助けるのに役立つ(TEVに含まれる価値タイプについては第5章を参照のこと)。生
態系勘定(Ecosystem accounting)がまた TEEB D1 (2009) Report の第3章に扱われており、
勘定枠組みのいくつかの要素が(例えば、データ問題、評価アプローチ、社会生態学的勘定
単位などが)
、相互につながる三段階の統治レベル、即ち、地球規模、大陸規模、国規模/地
域規模、地方規模のそれぞれに対して検討されている。
27
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
参考文献
Bagley, M.J., Franson, S.E., Christ, S.A. Waits, E.R. and Toth, G.P. (2002). Genetic Diversity as an
Indicator of Ecosystem Condition and Sustainability Utility for Regional Assessments of Stream
Condition in the Eastern United States. U.S. Environmental Protection Agency. EPA/600/R-03/056,
September 2002.
Balmford, A., Bennun, L., Ten Brink, B., Cooper, D., Cote, I.M., Crane, P., Dobson, A., Dudley, N.,
Dutton, I., Green, R.E., Gregory, R.D., Harrison, J., Kennedy, E.T., Kremen, C., Leader-Williams,
N., Lovejoy, T.E., Mace, G., May, R., Mayaux, P., Morling, P., Phillips, J., Redford, K., Ricketts,
The Economics of Ecosystems and Biodiversity: The Ecological and Economic Foundations (TEEB D0)
26
T.H., Rodriguez, J.P., Sanjayan, M., Schei, P.J., Van Jaarsveld, A.S. and Walther, B.A. (2005). The
Convention on Biological Diversity's 2010 Target. Science 307: 212–213.
Balmford, A., Green, R.E. and Jenkins, M. (2003). Measuring the changing state of nature. Trends in
Ecology & Evolution 18(7): 326–330.
Balmford, A., Rodrigues, A.S.L., Walpole, M., ten Brink, P., Kettunen, M., Braat, L. and de Groot, R.
(2008). The Economics of Ecosystems and Biodiversity: Scoping the Science. European
Commission, Cambridge, UK.
Bartholomé, E. and Belward, A.S. (2005). GLC2000: a new approach to global land cover mapping
from Earth observation data. Int. J. Remote Sens. 26(9): 1959–1977.
Balvanera, P., Daily, G.C., Ehrlich, P.R., Ricketts, T.H., Bailey, S.A., Kark, S., Kremen, C., Pereira,
H.
(2001). Conserving biodiversity and ecosystem services. Science 291(5511): 2047–2047.
Balvanera, P., Pfisterer, A.B., Buchmann, N., He, J.S., Nakashizuka, T., Raffaelli, D. and Schmid, B.
(2006). Quantifying the evidence for biodiversity effects on ecosystem functioning and services.
Ecology Letters 9(10): 1146–1156.
Biggs, R., Reyers, B. and Scholes, R.J. (2006). A Biodiversity Intactness Score for South Africa.
South
African Journal of Science 102: 277–283.
Bunker, D.E., F. DeClerck, J.C. Bradford, R.K. Colwell, I. Perfecto, O.L. Phillips, M. Sankaran and S.
Naeem (2005). Species Loss and Above-ground Carbon Storage in a Tropical Forest. Science 310:
1029–1031.
Butler, C.D. and Oluoch-Kosura, W. (2006). Linking future ecosystem services and future human
wellbeing.
Ecology and Society 11(1).
Carpenter, S.R., Brock, W.A., Cole, J.J. Kitchell, J.F. and Pace, M.L. (2008). Leading indicators of
trophic cascades. Ecology Letters 11: 128–138.
CBD (2003). Monitoring and indicators: designing national-level monitoring programmes and
28
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
indicators. UNEP/CBD/SBSTTA/9/10. Convention on Biological Diversity, Montreal.
Chan, K.M.A., Shaw, M.R. Cameron, D.R. Underwood E.C. and Daily, G.C. (2006). Conservation
planning for ecosystem services. PLoS Biology 4(11): e379. doi:10.1371/journal.pbio.0040379.
Collen, B., Loh, J., Whitmee, S., McRae, L., Amin, R. and Baillie, J.E.M. (2008). Monitoring Change
in Vertebrate Abundance: the Living Planet Index. Conservation Biology 23(2): 317–327.
Chapter 3: Measuring biophysical quantities and the use of indicators
27
Costanza, R., d’Arge, R., de Groot, R., Farber, S., Grasso, M., Hannon, B., Limburg, K., Naeem, S.,
ONeill, R.V., Paruelo, J., Raskin, R.G., Sutton, P. and van den Belt, M. (1997). The value of the
world’s ecosystem services and natural capital. Nature 387: 253–260.
Costanza, R., Fisher, B., Mulder, K., Liu, S. and Christopher, T. (2007). Biodiversity and ecosystem
services: A multi-scale empirical study of the relationship between species richness and net primary
production. Ecological Economics 61(2-3): 478–491.
Czúcz, B., Horváth, F., Botta-Dukát, Z. and Molnár, Z. (2009). Modelling changes in ecosystem
service supply based on vegetation projections. IOP Conf. Series: Earth and Environmental Science
6 (2009) 302011 doi:10.1088/1755-1307/6/0/302011.
Diaz S., Fargione J., Chapin, F.S. and Tilman, D. (2006). Biodiversity loss threatens human wellbeing.
Plos Biology 4(8): 1300–1305.
EEA (European Environment Agency) (2009a). Progress towards the European 2010 biodiversity
target. European Environment Agency, Copenhagen. Available at
http://www.eea.europa.eu/publications/progress-towards-the-european-2010-biodiversity-target/
ENV/070307/2007/486089/ETU/B2), accessed 2 September 2009.
EEA (European Environment Agency) (2009b). CSI 032 – Status of marine fish stocks – Assessment
published February 2009. Available at
http://themes.eea.europa.eu/IMS/ISpecs/ISpecification20041007132227/IAssessment11997883447
28/view_content, accessed 2 September 2009.
Esquinas-Alcázar, J. (2005). Protecting crop genetic diversity for food security: political, ethical and
technical challenges. Nature Reviews Genetics 6(12): 946–953.
Failing, L., and R. Gregory (2003). Ten common mistakes in designing biodiversity indicators for
forest policy. Journal of Environmental Management 68: 121–132.
FAO (Food and Agriculture Organization) (2000). Forest Resources of Europe, CIS, North America,
Australia, Japan and New Zealand. Main Report. ECE/TIM/SP/17, UN, New York and Geneva.
FAO (Food and Agriculture Organization) (2001). Forest Resources Assessment 2000. Available at
www.fao.org/forestry/fo/fra/index/jsp., accessed 2 September 2009.
Fisher, B. and Turner, R.K. (2008). Ecosystem services: Classification for valuation. Biological
Conservation 141(5): 1167–1169.
Finlayson, C.M., D’Cruz, R., Aladin, N., Barker, D.R., Beltram, G., Brouwer, Davidson, N., Duker,
L.,
29
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
Junk, W., Kaplowitz, M.D., Ketelaars, H., Kreuzberg-Mukhina, E., Espino, G.D.L.L., Leveque, C.,
The Economics of Ecosystems and Biodiversity: The Ecological and Economic Foundations (TEEB D0)
28
Lopez, A., et al. (2005). Inland Water Systems. In: Millennium Ecosystem Assessment. Ecosystems
and Human Well-being: Current States and Trends. Washington D.C.: Island Press, pp. 551–583.
Fox, S.C., Hoffman, M.T. and Hoare, D. (2005). The phenological pattern of vegetation in
Namaqualand, South Africa and its climate correlates using NOAA-AVHRR data. S. Afr. Geogr. J.
87(2): 85–94.
Green, R.E., A. Balmford, P.R. Crane, G.M. Mace, J.D. Reynolds and R.K. Turner (2005). A
framework for improved monitoring of biodiversity: responses to the World Summit on Sustainable
Development. Conservation Biology 19: 56–65.
Hooper D.U.; Chapin III, F.S; Ewel, J.J.; Hector, A.; Inchausti, P.; Lavorel, S.; Lawton, J.H.; Lodge,
D.M.; Loreau, M.; Naeem, S.; Schmid, B.; Setala, H.; Systad, A.J.; Vandermeer, J. and Wardle,
D.A. (2005). Effects of biodiversity on ecosystem functioning: a consensus of current knowledge.
Ecological Monographs 75(1): 3–35.
Imhoff, M.L., L. Bounoua, T. Ricketts, C. Loucks, R. Harriss, and W.T. Lawrence. (2004). Global
patterns in human consumption of net primary production. Nature 429, 24 June 2004: 870–873.
Johnson, K.H., Vogt, K.A., Clark, H.J., Schmitz, O.J. and Vogt, D.J. (1996). Biodiversity and the
productivity and stability of ecosystems. Trends in Ecology & Evolution. 11: 372–377.
Kremen, C. (2005). Managing ecosystem services: what do we need to know about their ecology?
Ecology Letters 8: 468–479.
Kreuter, U.P., Harris, H.G., Matlock, M.D., and Lacey, R.E. (2001). Change in ecosystem service
values in the San Antonio area, Texas. Ecological Economics 39: 333–346.
Layke, C. (2009). Measuring Nature’s Benefits: A Preliminary Roadmap for Improving Ecosystem
Service Indicators. WRI Working Paper. World Resources Institute, Washington D.C. Available at
http://www.wri.org/project/ecosystem-service-indicators, accessed 2 September 2009.
Lee, C.K., Lee, J.H., Mjelde, J.W., Scott, D. and Kim, T.K. (2009). Assessing the economic value of a
public birdwatching interpretative service using a contingent valuation method. International
Journal of Tourism Research. Published online in Wiley InterScience, www.interscience.wiley.com,
DOI: 10.1002/jtr.730.
Li, R.-Q., Dong, M., Cui, J.-Y., Zhang, L.-L., Cui, Q.-G. and He, W.-M. (2007). Quantification of the
impact of land-use changes on ecosystem services: a case study in Pingbian County, China.
Environmental Monitoring and Assessment 28: 503–510.
Chapter 3: Measuring biophysical quantities and the use of indicators
29
Losey, J.E. and Vaughan, M. (2006). The economic value of ecological services provided by insects.
Bioscience 56(4): 311–323.
MA (Millennium Ecosystem Assessment) (2005a). Ecosystems and Human Well-being: Biodiversity
30
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
Synthesis. World Resources Institute, Washington, D.C.
MA (Millennium Ecosystem Assessment) (2005b). Millennium Ecosystem Assessment Synthesis
Report. Island Press, Washington, D.C.
MA (Millennium Ecosystem Assessment) (in press). Ecosystems and human well-being a manual for
assessment practitioners. World Resources Institute, Washington, D.C.
Mace G.M., Masundire H., Baillie J., Ricketts T.H., Brooks T.M., Hoffmann M.T., Stuart S.,
Balmford
A., Purvis A., Reyers B., Wang J., Revenga C., Kennedy E., Naeem S., Alkemade J.R.M., Allnutt
T.F., Bakarr M., Bond W.J., Chanson J., Cox N., Fonseca G., Hilton-Taylor C., Loucks C.J.,
Rodrigues A., Sechrest, W., Stattersfield A.J., Janse van Rensburg B., Whiteman C., Abell R.,
Cokeliss Z., Lamoreux J.F., Pereira H., Thönell J. and Williams P. (2005). Biodiversity. In
Ecosystems and Human Well-being: Current State and Trends, pp. 77–122.
Mace, G.M. and Lande, R. (1991). Assessing the extinction threats – towards a reevaluation of IUCN
threatened species categories. Conservation Biology 5(2): 148–157.
Mace, G.M. and Baillie, J. (2007). The 2010 biodiversity indicators: Challenges for science and
policy.
Conservation Biology 21(6): 1406–1413.
Metzger, M.J., Rounsevell, M.D.A., Acosta-Michlik, L., Leemans, R. and Schröter, D. (2006). The
vulnerability of ecosystem services to land use change. Agriculture, Ecosystems & Environment
114: 69–85.
MNP (Netherlands Environmental Assessment Agency) (2006). The International Biodiversity
Project:
Understanding biodiversity, ecosystem services, and poverty in order to support policy makers.
2002-2008. Available at www.unep-wcmc.org/GLOBIO/PDF/Flyer_%20IB_Project_LR.pdf,
accessed 2 September 2009.
Myers, N., Mittermeier, R.A., Mittermeier, C.G., da Fonseca, G.A.B. and Kent, J. (2000). Biodiversity
hotspots for conservation priorities. Nature 403(6772): 853–858.
Naeem, S. (1998). Species redundancy and ecosystem reliability. Conservation Biology 12: 39–45.
Naidoo, R. and Ricketts, T.H. (2006). Mapping the Economic Costs and Benefits of Conservation.
PLoS Biol 4(11): e360. DOI: 10.1371/journal.pbio.0040360.
The Economics of Ecosystems and Biodiversity: The Ecological and Economic Foundations (TEEB D0)
30
Naidoo, R., Balmford, A., Costanza, R. Fisher, B., Green, R.E., Lehner, B. Malcolm, T.R. and
Ricketts, T.H. (2008). Global mapping of ecosystem services and onservation priorities. PNAS 105
(28): 9495–9500.
Nelson, E., Mendozam G., Regetz, J., Polasky, S., Tallis, H., Cameron, D., Chan, K.M., Daily, G.C.,
Goldstein, J., Kareiva, P.M., Lonsdorf, E., Naidoo, R., Ricketts, T.H. and Shaw, M. (2009).
Modeling multiple ecosystem services, biodiversity conservation, commodity production, and
31
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
tradeoffs at landscape scales. doi:10.1890/080023. Frontiers in Ecology and the Environment 7: 4–
11.
Noss, R.F. (1990). Indicators for Monitoring Biodiversity – a Hierarchical Approach. Conservation
Biology 4(4): 355–364.
O’Farrell, P.J., Donaldson, J.S. and Hoffman, M.T. (2007). The influence of ecosystem goods and
services on livestock management practices on the Bokkeveld Plateau, South Africa. Agriculture,
Ecosystem and Environment 122: 312–324.
Olson D.M.D.; Wikramanayake, E.D.; Burgess, N.D.; Powell, G.V.N.; Underwood, E.C.; D'Amico,
J.A.; Itoua, I.; Strand, H.E.; Morrison, J.C.; Loucks, C.J.; Allnutt, T.F.; Ricketts, T.H.; Kura, Y.;
Lamoreux, J.F.; Wettengel, W.W.; Hedao, P. and Kasseem, K.R. (2001). Terrestrial Ecoregions of
the World: A New Map of Life on Earth. BioScience 51: 933–938.
Pauly, D., Christensen, V., Dalsgaard, J., Froese, R. and Torres, F. (1998). Fishing down marine food
webs. Science 279: 860–863.
Pereira, H. and Cooper, H.D. (2006). Towards the global monitoring of biodiversity change. Trends in
Ecology & Evolution 21: 123 – 129.
Priess, J.A., Mimler, M., Klein, A., Schwarze, S., Tscharntke, T. and Steffan-Dewenter, I. (2007).
Linking deforestation scenarios to pollination services and economic returns in coffee agroforestry
systems. Ecological Applications 17(2): 407–417.
Revenga, C. and Kura, Y. (2003). Status and Trends of Biodiversity of Inland Water Ecosystems.
Secretariat of the Convention on Biological Diversity, Montreal, Technical Series no.11.
Reyers, B., O’Farrell, P.J., Cowling, R.M., Egoh, B.N., Le Maitre, D.C. and Vlok J.H.J. (2009).
Ecosystem services, land-cover change, and stakeholders: finding a sustainable foothold for a
semiarid biodiversity hotspot. Ecology and Society 14(1): 38. [online] URL:
http://www.ecologyandsociety.org/vol14/iss1/art38/
Chapter 3: Measuring biophysical quantities and the use of indicators
31
Rodriguez, J.P., Balch, J.K. and Rodriguez-Clark, K.M. (2007). Assessing extinction risk in the
absence of species-level data: quantitative criteria for terrestrial ecosystems. Biodiversity and
Conservation 16: 183–209.
Royal Society (2003). Measuring Biodiversity for Conservation. Royal Society, London.
Scholes, R.J. and Biggs, R. (2005). A biodiversity intactness index. Nature 434 (7029): 45–49.
Scholes, R.J., Mace, G.M., Turner, W., Geller, G.N., Jürgens, N., Larigauderie, A., Muchoney, D.,
Walther, B.A. and Mooney, H.A. (2008). Toward a Global Biodiversity Observing System. Science
321: 1044–1045.
Scholes, R.J. and Biggs, R. 2004. Ecosystem Services In Southern Africa: A Regional Assessment.
Council for Scientific and Industrial Research, Pretoria, South Africa, pp 84.
Schmeller, D.S. (2008). European species and habitat monitoring: where are we now? Biodiversity &
Conservation 17: 3321–3326.
32
第 3 章:生物物理学的数量の測定と指標の利用法
Schmeller, D.S., Henry, P.Y., Julliard, R., Gruber, B., Clobert, J., Dziock, F., Lengyel, S., Nowicki, P.,
Deri, E., Budrys, E., Kull, T., Tali, K., Bauch, B., Settele, J., Van Swaay, C., Kobler, A., Babij, V.,
Papastergiadou, E. and Henle, K. (2009). Advantages of Volunteer-Based Biodiversity Monitoring
in Europe. Conservation Biology 23: 307–316.
Schröter D., Cramer W., Leemans R., Prentice I.C., Araujo M.B., Arnell N.W., Bondeau A., Bugmann
H., Carter T.R., Gracia C.A., de la Vega-Leinert A.C., Erhard M., Ewert .F, Glendining M., House
J.I., Kankaanpaa S., Klein R.J.T., Lavorel S., Lindner M., Metzger M.J., Meyer J., Mitchell T.D.,
Reginster I., Rounsevell M., Sabate S., Sitch S., Smith B., Smith J., Smith P., Sykes M.T., Thonicke
K., Thuiller W., Tuck G., Zaehle S. and Zierl B. (2005). Ecosystem Service Supply and
Vulnerability to Global Change in Europe. Science 310: 1333–1337.
Swift, M.J., Izac, A.M.N. and van Noordwijk, M. (2004). Biodiversity and ecosystem services in
agricultural landscapes – are we asking the right questions? Agriculture Ecosystems & Environment
104(1): 113–134.
Tapsuwan, S. and Asafu-Adjaye, J. (2008). Estimating the Economic Benefit of SCUBA Diving in the
Similan Islands, Thailand. Coastal Management 36: 431–442.
TEEB (The Economic of Ecosystems and Biodiversity) (2008). The Economics of Ecosystems and
Biodiversity: An interim report. European Commission, Brussels. www.teebweb.org, accessed 1
September 2009.
The Economics of Ecosystems and Biodiversity: The Ecological and Economic Foundations (TEEB D0)
32
TEEB D1 (2009). The Economics of Ecosystems and Biodiversity for International and National
Policy-makers. Draft for discussion available in November 2009 at www.teebweb.org, forthcoming.
The Heinz Center (2008). The State of the Nation's Ecosystems 2008: Measuring the Land, Waters,
and Living Resources of the United States. The H. John Heinz III Center for Science, Economics
and the Environment, Island Press, New York.
Troy, A. and Wilson, M.A. (2006). Mapping ecosystem services: Practical challenges and
opportunities in linking GIS and value transfer. Ecological Economics 60: 435–449.
Turner, B.L. II, Matson, P.A., McCarthy, J., Corell, R.W., Christensen, L., Eckley, N., HovelsrudBroda, G.K., Kasperson, J.X., Kasperson, R.E., Luers, A., Martello, M.L., Mathiesen, S., Naylor,
R., Polsky, C., Pulsipher, A., Schiller, A. Selink, H. and Tyler, N. (2003). Illustrating the coupled
human–environment system for vulnerability analysis: three case studies. Proceedings of the
National Academy of Sciences 100: 8080–8085.
van Jaarsveld, A.S., Biggs, R., Scholes, R.J., Bohensky, E., Reyers, B., Lynam, T., Musvoto, C. and
Fabricius, C. (2005). Measuring conditions and trends in ecosystem services at multiple scales: the
Southern African Millennium Ecosystem Assessment (SAfMA) experience. Philosophical
Transactions of the Royal Society B-Biological Sciences 360(1454): 425–441.
Viglizzo, F. and Frank, F.C. (2006). Land-use options for Del Plata Basin in South America: tradeoffs
analysis based on ecosystem service provision. Ecological Economics 57: 140–151.
33
生態系と生物多様性の経済学:生態学的・経済学的基礎
VITO (Flemish Institute for Technological Research) (2009). Dry Matter Productivity. Available at
http://geofront.vgt.vito.be/geosuccess/relay.do?dispatch=DMP_info, accessed 2 September 2009.
Wendland, K.J., Honzak, M., Portela, R., Vitale, B., Rubinoff, S. and Randrianarisoa, J. (2009).
Targeting and implementing payments for ecosystem services: Opportunities for bundling
biodiversity conservation with carbon and water services in Madagascar, Ecological Economics:
doi:10.1016/j.ecolecon.2009.01.002.
Wood, S. Ehui, S., Alder, J., Benin, S., Cassman, K.G., Cooper, H.D., Johns, T., Gaskell, J., Grainger,
R., Kadungure, S., Otte, J., Rola, A., Watson, R., Wijkstrom, U., Devendra, C., Kanbar, N. et al.
(2005). Food. In: Millennium Ecosystem Assessment. Ecosystems and Human Well-being: Current
States and Trends. Washington D.C.: World Resources Institute, pp. 209–241.
Yadav, V. and Malanson, G. (2008). Spatially explicit historical land use land cover and soil organic
carbon transformations in Southern Illinois. Agriculture, Ecosystems and Environment 123: 280–292.
Zhao, B., Kreuter, U., Li, B. Ma, Z., Chen, J. and Nakagoshi, N. (2004). An ecosystem service value
assessment of land-use change on Chong
34
第4章
生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
主筆:
Eduardo S. Brondizio, Franz Gatzweiler
共同執筆:
Manasi Kumar, Christos Zografos
監修:
Xu Jianchu, Joan Martinez-Alier
編集監修:
Joan Martinez-Alier
2009 年 9 月
目次
1 はじめに................................................................................................................................ 1
2 評価のトレード・オフ ........................................................................................................ 8
2.1 評価の長期的意味、変化する所有権と資産の概念 ..................................................... 8
2.2 自然の内在する価値とValue articulating institution(VAI)................................... 11
2.3 フィードバック・メカニズムとしての評価 ............................................................... 16
3 価値評価の課題:生態系、生物多様性、分析のレベル .............................................. 18
3.1 資源利用の価値の変化と経済的な収益(リターン)の問題.................................... 18
3.2 価値評価の根底にある複雑さと機能的な相互依存性 ............................................... 22
3.3 価値評価の方法をどのように選ぶか ........................................................................... 24
4 終わりに.............................................................................................................................. 29
謝辞 ........................................................................................................................................... 31
参考文献 ................................................................................................................................. 31
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
1.はじめに
生態系と生態系サービス、生物多様性の経済的評価は難しい。一方、経済的な評価を下
そうとすると、評価者の文化を投影してしまいがちである。評価においては、考え方、
環境
1
との関係が反映され、また、財産や所有権に関する特定の概念や、発達観、人間
の豊かさや幸福(福祉)を構成するものとは何か?などに対する考え方も反映される。
Arrow などの論文や、特に Sen の自由のパラドックスでは、このような世界観が評価に
不適切であることを示している(Sen 1973; Arrow 1982)。一方で、価値評価は、自然環
境と私たちの関係を再考するための内省のツールとしても役立ち、また、遠い地域や遠
い人々に対して、私たちの選択と行動の影響について注意を喚起することにも役立つ。
内省のための中心的課題は、たとえば、自然との関係で人間のどんな要素が影響を及ぼ
すのか、社会的において個人的なアイデンティティの形成に関して自然が果たす役割は
何か、環境を使用する方法が環境に与える影響はどんなであるかといった疑問である
(Zavestowski, 2004; Clayton and Optorow 2004)。このように、価値評価は、資源を採
取した環境から遠い社会に対してフィードバック・メカニズムとしても役に立つ。また、
特に経済的な評価のおかげで、世界の支配的な経済と政治的見解に対して、自然と価値
の異なった人間が対話することができる。評価の実施では、私たちが何を評価するか、
誰の価値を考慮したか、誰が恩恵を受けるか、ますます強まる社会的体系と生態系の相
互依存をどのように説明するかによってその結果が決まる。この意味で、生態系サービ
スと生物多様性をどのように評価するかについて、質問と評価方法を選択することは、
特定の価値を生物多様性に付与することと同じくらい重要である。そのためには、異次
元の価値の相互接続だけでなく、異なった文化的な見解と分析のレベルを説明するため
に概念的で、方法論的な課題が必要である。
さまざまな分野にわたって、学者たちは、人間が環境に対して抱き、関わる方法に
よって文化の違いを特徴付けてきた。私たちの意向は、それらの試みを比較、見直
しすることではなく、概観することによって、問題としている課題に関連する見解
を提供することである。例えば、Philippe Discolor は、それぞれ異なる社会が自然と
の関係を具体化するために用いる黙示的な実践の枠組みを特徴付けるために次のよ
うな3段階の分析モデルを提案している。1.識別方法(アニミズム。[例えば、人
間と人間以外ものとの関係の社会的性格、つまり、自然と社会的なものとしての社
会の間にある空間、結果社会的存在としての自然と社会の間の空間])、トーテミズ
1
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ム(自然と文化との関係を基盤とした社会的特徴を比喩的に概念化すること)、ナチ
ュラリズム(自然、生物学的なものとしてとしての自然と社会の間の空間)2.相
互作用の方法(すなわち、相互関係、捕食、保護に基づいた)、そして3.識別の方
法(比喩的、例えばトーテムの構造と換喩的、階層的なアニミズム、および自然主
義的構造で例示される)(Descola 1996)。彼のアプローチは、私たち自身の西洋的な
観点を植えつけている(すなわち、科学的であり、保護貿易主義者、そして換喩の
自然主義)、それは、コントロールとユーティリタリズムのユダヤ教とキリスト教が
融合した伝統だけでなく、社会的で生物学的な科学の歴史的な分離と、文化と自然
の結果の認識論の区別の中にも根付くのに似ている。また、先住民群との対比で、
この先住民は相互関係と捕食の大きな繋がりの一部として、人間と非人間の間の連
続性を認識する。対照的に、例えばデスコラは、保護運動を次のように表現する。
「先
験的客観としての自然崇拝や、侵略的資本主義から近代経営学が置き換える合理的
な管理や、自然保護者運動は、西洋の新たなる世界観の基盤を探求しているとは言
い難い。むしろ典型的な現代のイデオロギーの存在的な二元性「文化―自然」を永
続させる傾向がある。」(1996: 97)。
しかし、Discolor はさらに踏み込み、結局この議題が環境との私たちの関係を完全に
移行させるかもしれないと予測する。
「しかし、環境活動家によって説明するプログラムは、おそらく無意識に、自然主
義の解体を導くであろう。やがて現在の人間の損害からますます保護され、まもな
くあらゆる種類の非人間の生存はもっぱら社会習慣と人間の活動に頼るだろう。動
物園の野生種か、生物学的データバンクでの遺伝子と同じく、シロナガスクジラの
存在条件や、オゾン層や南極は、それ故に「自然」でないのである。伝統的な定義
から離れて、自然は自立した発展原理に基づく再生産が次第に減少する。予見でき
る終焉が、多分概念として私たち自身の歴史の長い章を閉じるということである」
(1996: 97-98)。
G isli Palsson も、同じような方向に沿って、人間環境の相互作用を特定の形式を示
す3種類のパラダイムで区別している。この3つのパラダイムとは管理主義
(orientalism)、保護主義(paternalism)、コミュニティ主義(communalism)である。
3つのうち最初の2つは、自然と社会を分離する度合いに基づいているが、後のひ
とつは「社会と自然、主体と対象を根本的に区別することを拒否し、対話の概念を
2
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
重視している」(1996: 65)。その一方で、Roy Ellen は、人間の認識規範に関する比較
的観点に基づき、自然と人間の関係についての文化的相違を解釈するモデルを提案
している。
1.感覚、状況、価値に基づいて、物事をどのように特定しているのか
2.自己と他人を対比するのに、どのコード体系を使用しているのか
3.自然の内なる力と本質を認識するのにそれぞれ異なった方法を使用しているか
しかし、Ellen’s のモデルでは、
「無限の関連性」の危険に注目しながら、現在の私
たちの環境問題の考え方に対して異なる体系が何を意味しているのかを理解しよう
とする。つまり(言い換え Ellen 1996: 28)、環境について抱くある特定の発想法は、
どのようにして、特定のグループ、つまり環境保護運動、産業、教会、政党、学術
界、原住民などのグループの利益となるのか。高潔な環境野蛮人のイメージを新た
に考えようが、自然に値札を打ち付けて定義しようとも、また、地球環境について
共通のイメージを構築しようとも、このようなモデルは政治的、社会的目標を支援
するもので、長い間かけて結論が出るものである(Ellen 1996: 28)。
しかし、人間と環境の関係の状況に焦点を合わせる学者もいれば、環境に対する関
係についての様式も人間の進化の歴史に対して本来備わったものによる(Wilson
1984; Kellert and Wilson 1993)と提言している学者もいる。例えば、生体仮説は、全
てのものは、実用的特徴と同様に、精神的、感情的な意味で、生まれながらの欲求
と自然とのつながりを持っているとはっきりと述べている。しかし、この関係は、
違う確度からの関係性や依存性をもたらすほど、歴史に的であったり重要な変化を
もたらすといった関係ではない。Stephen Kellert は、人間と環境が関係する方法にあ
る本質的な9つの側面を述べているおり、このうちのいくつかは、経験と状況によ
って支配されるものがあり、わたしたちの豊かさと幸せ(福利)に影響を及ぼすバ
ランスを特徴づけている。この9つとは、功利主義者、自然主義的、科学的/生態的、
審美的、象徴的、人道的、道徳的、支配的、悲観的側面である(1996: 38)。 その他
の科学や哲学の領域のように、人間が環境を評価し、それに関係する方法について、
人間が如何に変化するかを定義する二分論と類型論は、役に立ったり誤解を招いた
りするが、必ずしも真実か誤りかというというのでもない。私たちの目的は、環境
に対する文化の相違と見解を認識に関して Roy Ellen がここで提案しているアプロー
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
チに沿って、功利的と審美的、実利的と象徴的の間の相乗効果を見つけることであ
る。
さらに、経済学の認識論の伝統は、特定の社会文化的背景から生まれたものだが、
これによって、経済的価値は、人間によって事前に定義され、優先権として保持さ
れ、また、既定の方法または明らかにされた優先方法のいずれかによって導出する
ことができるという考えを導いた。経済学は、近代科学の Discolor の自然主義の世
界が巨大な時計仕掛けとして機械学的に働いているデカルト派、ニュートン派の伝
統で明らかにされているように、このような「信念体系」に基づいて構築されてい
る。その複雑さを理解するには、分析が必要である。個々の要素を徹底的に分析し、
心は身体から、自然からの文化は分離されるという Cartesian 世界観によるものとし
て客観的に理解できる。この意味で、私たち自身の特定の背景、またどのような生
態系機能と人間の行動に関する予測分析的な仮定を置くことができる。実際、社会
的ニーズに従い科学的研究法に基づいて TEEB では価値を算定している。Gowdy
(1998: xvi)は、そのことについて触れ、「私自身の特定の仲間、専門の経済学者は、
独自の信念体系を持ち、私たちが生み出した商業の世界について説明して、それを
正当化している。これは、「経済人」の概念によって代表される」。と述べた。西洋
の社会文化的背景では、
「経済人」は、ユダヤ教とキリスト教の人間性の概念に基づ
いている。また、人間性に引き継がれているアダムも原罪によって、
「必要を求める
生き物」、「常に不完全で、力を越えてほしいものを求める存在であることに悩んで
いる」として人間は見なされる(Sahlins 1996: 397)
。また、
「ヘブライ宗教では、古
代の神と自然の絆が破壊されていた」(Frankfort 1948: 343)、「キリスト教では、汎神
論に対する反対によって、人間と自然の対立がますます拡大した」
(自然/宇宙は、神
または精神の出現であるとする信念)と主張する者もおり、これによって、自然が
非神聖化され、自然資源として見直されている (Gatzweiler 2003: 61)。
また、科学的方法論に基づいてはいるが、経済的評価と評価の過程は、生態系や生
物多様性等と言った概念のように、社会的にまた文化的に構築されている。経済的
価値は、主体的事実ではなく、普遍の真理を反映してはいない。経済的価値は、文
化的に構築された現実、世界観、物の見方、特定の社会および/または、社会部門の
信念体系を反映している(Wilk and Cligget2006)。また、外因的でなく、むしろ日常生
活の社会的な相互作用によって形成される(Henrich et al. 2001)。生態系と生物多様性
4
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
の価値の主流にある経済的信念は、それに支払いをする人々の意思、市場の存在ま
たは構築によって定義されるが、同時期の環境保護と評価をする広範な歴史的背景
の一部として理解されなければならない。
1960 年代のいわゆる新環境保護主義の高まりによって、
「何もない」土地と特定の種
を保全しようとする環境問題は、人間環境への関心へと転換していった(McCormick
1989; Caldwell 1990)。このことは、1972 年の国連ストックホルム会議
「人間環境
会議」で詳細に示された。その後、開発の規制、経済の成長を環境保護の調整を目
指す多くの取り組みがなされたが、この過程による最もインパクトのある結果は、
保護区(conservation units)と保護地域(protected areas)の急増であった(Zimmerer
2006)。世界的な広がりと現地住民への影響のために、保護のグローバル化と呼ばれ
ることもある
(West et al. 2006)。現在でも、商品市場を再検討したり規制するより
も、むしろ生態系を経済発展と商品市場から保護し、切り離すことに政治的な焦点
が多く当てられている。
1980 年代には、国連ブルントラント(Brundtland)委員会は、画期的な「われら共通
の未来(Our Common Future)」というレポートにおいて、経済で環境を内在化させ
る 取 り 組 み に つ い て 直 接 的 に 記 載 し た 。 こ れ は 、 世 代 間 責 任 ( intergenerational
responsibility)の原則に基づいた新しい開発概念を、ゆっくりと開いていった。例え
ば 、 国 連 環 境 計 画 (UNEP) の 最 新 の 第 4 次 地 球 環 境 概 況 ( Global Environmental
Outlook :GEO 4)は、「われら共通の未来」以降、定期的評価として開始され、こ
こ 20 年間、例えば「周辺から意思決定の中心まで」などの政府と企業アジェンダで、
環境問題を主流にすることを認識している (UNEP 2007; King et al. 2007)。
1992 年の国連リオ地球サミットでの持続的で著名な条約の1つである生物多様性条
約(CBD)は、保護の大きな傾向を反映して、国際的保護機関によって擁護された
種を基にした保護から、生態系およびバイオームの保護への転換を示している。ま
た、現地住民は、自然の管理人として、また保護と持続可能な開発に関する知識源
として重要であるとしている。さらに、TEEBの取り組みと類似しているが、経
済的価値を含む生物多様性の価値や、生物資源調査などへのインセンティブによる
現地の知識の価値に重点を置いている(Reid et al. 1993)、これらのほとんどは、社会
的な成果をとりまとめている途上にある (Moran et al. 2001)。
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
「ミレニアム生態系評価」(MA)は、さらに重要な移行、つまり、環境をグローバル
な規模で見、それを政策と経済学的考察に内面化させる取り組みへの移行について
述べている。生態系サービスの中心概念では、例えば人間中心的でかつ実利的なア
プローチが強調されるが、その一方で、資源だけでなく、またそれ自体が機能し、
社会から当然のことと見なされている極めて広範に渡る生態学的、生物物理学的機
能を見える化するために、役立つ生態系にも依存していることを中心とする枠組み
を提供している(MA 2005)。これにより、わたしたちは MA によって、人間のインパ
クトと負荷を圧倒的なスケールで、現在と将来の経済的、社会的な結果としてより
広く理解することができる。
通常、評価の実施では、課題は、異なる社会的、文化的な観点から生物多様性およ
び生態系を評価する課題と、分析レベルを認識している。
生態系および生物多様性に取り入れられた価値の多くの局面と概念については、幅
広く認識されており、そして評定の実施は、所定の個人または人間のグループに対
して行われる(Turner et al. 2003; Shmelev 2008)。例えば、「米環境保護局」(EPA)に
よる包括的な報告書は、異なる利害関係者の見解と同様、生物多様性と生態系サー
ビスの異なる局面を捉えるのに役立つ、多重法によるアプローチを提案している。
基本的に、結合的多次元アプローチは、すべての範囲の貢献をよりよく捉える可能
性が高く、従って、明確な背景(全世界、国家、地方、現地)の価値等、より広い
生物多様性と生態系の範囲を捉えることができる可能性が高い(EPA 2009)。
また、
人的優先権(例えば、考え方、判断、経済価値、地域密着型の値、構築された優先
権)や、物理学的な環境(生物生態学的、エネルギーベースの値)など幅広い価値
を組み込み、定義づけている。このような側面を把握するために、経済モデルとツ
ールを使用するばかりでなく、社会的態度、好み、意志、都市の評定価格、決定化
学アプローチ、生態系利益指標、生物物理学的な序列法、および費用を得るための
方法を保護局(EPA)に対して推薦している(EPA 2009)。
英国自然環境研究委員会(Natural Environmental Research Council)(NERC 2009)は、
生物多様性と生態系を評価するための、多次元で文脈依存の性質を同様に認識する
ことを取り入れている。同委員会は、OECD (2002)類型論に基づいて、異なる種類の
価値(例えば、直接使用消耗価値、直接使用非消耗価値、間接使用価値、保険価額、
6
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
オプション価値、遺産価値)を区別して、特定の評価枠組みと専門分野の専門的知
識に関してそれぞれ定義された価格づけのために一連の8つの経路を提案し、評価
プロセスのさらなる総合描写を提示するのを合わせて目的とする。これらの経路は、
生態系サービス、存在価値、レクリエーションおよび快適性、福祉、直接資源利用、
遺伝子と生物資源調査値、保護およびエネルギー価等に関する評価を含んでいる
(NERC 2009)。
これらの進歩にもかかわらず、経済的価値の限界を認識することは重要である。例
えば、社会的、文化的な基準の包含は、どれに価値があるのか生物多様性と生態系
サービスを評価するために難しい試みの長期的な局面を検討する研究のように、方
法論の制限により制限される(Shmelev 2008; see also chapter 5)。特に、価格評価の研
究において、同じ生態系の異なる部分の相互依存性を認識することが難しい。そし
て同じ生態系の異なる部分で競合していたり、または異なる利益グループ同士が関
係があっても同様に難しい。
上記の問題を考える上で、私たちが妥協点を見つけるためには、経済的価値の意味
を理解するためにさらに考えるか、経済評価の影響、私たちが評価し、評価すべき
でないことの制限および課題を理解することである。本章の目的は、決定的な解決
案を提案するだけでなく、評価の矛盾と課題に関して疑問点を示すことによって、
この議論と TEEB に対して貢献することである。価値評価は、ある特定の物の見方
つまり環境に対する合理的な管理手法に基づいて、生物多様性の価値とその他のト
レード・オフの特定の資源を使用し競合するその他の無形の資源(例えば、農業拡
大のための土地に対する森林)に対しても注意をうながす重要な役割を果たすこと
ができる。これは、何らかのレベルの客観的評価の値と価値体系に何らか負うこと
になるが、コモディティとして環境にアプローチすることは、市場の力のプレッシ
ャーに立ち向かうひとつの方法である。しかし、妥協点を見つけることで、自然の
価値に対する質問は、いつ、どのようにして、価値に対して何を、どの価値を勘定
するかなど、二次的質問へと関心が移動することになる可能性がある。
以下において、評価の課題に続いて、評価の社会文化的背景についての議論として
は、トレード・オフについても触れる。評価のトレード・オフに関する議論では、
(A1)
変化する資産の概念、評価によって生じた資産の関係、
( A2)本質的価値の役割、
( A3)
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
社会的および経済的フィードバック・メカニズムとして評価の重要性について述べ
る。章の最後の部分では、次の方法論的課題に焦点をあてる。その課題は、
(B1)公
正さの問題と価値連鎖に沿った資源価値の変換、
(B2)増加している生態系の複雑さ
と相互依存性、資源の「島」の評価に対する制限、最後に(B3)Value articulating
institution(VAI)の重要性である。
2評価のトレード・オフ
2.1
評価の長期的意味、変化する所有権と資産の概念
生物多様性および生態系サービスの評価は、多元的で、論争があり、状況に特定されて
認識されるものであるにもかかわらず、環境の普遍的な概念として促進するべく取り組
まれている結果、評価の実践の結果は、広範で、長期的な結果であると導かれる。生物
多様性と生態系から得られた恩恵の価値を認識することによって、おそらく経済的評価
の最も重要な結果は、一般的には環境に対して、また特に生物多様性に対して適用され
た所有権と資産の概念を変更する方法である。このような背景では、Karl Polyani (1944:
73)から参照すると、評価によって「商品の作り話」が生まれる。または、Marshall
Sahlins(1996: 411)が話すように、「・・・純粋に西洋的(概念)で、ここでは自然は純
粋な実体である。」商品の作り話の危険性は、商品化された環境は、それ自体で不自然な
加工品になるということである。つまり、生態系と生物多様性は、ドルで所有され、市
場体系で取引される(Vatn and Bromley 1994: 137)。
環境評価は、それ自体、多様性を評価するための状況を生み出し、所有権と資産の新し
い概念を暗に伝え、負わせる。しかし、人間は生物多様性のような非市場財(Cummings
et al. 1986; Mitchell と Carson 1989)に対して常に貨幣価値を定義する必要はなく、価
値評価の過程で、内部システムでの価値と外部システムでの価値の間で交渉を行うこと
ができる (Sagoff 1998, Hanemann 1994)。これは、環境の価値評価、が、第一に生物
多様性と生態系システムの貨幣価値評価を無視することができるばかりではなく、新し
い 実 用 性 が 保 持 さ れ た フ レ ー ム ワ ー ク を 創 り 上 げ る こ と を 意 味 す る 。 Gowdy と
Erickson (2005)は、個別の優先権のみが考慮する意思決定の枠組みでは、協力的な合意
形成や集団的意思決定等の行動を求めることは困難となると述べている。つまり、制度
設計は、特定の動機と合理性(Vatn 2005)を活性化することによって、選択状況の優先権
8
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
に影響を及ぼす。
相互に関係する a.制度上からの批判と、b.心理学からの批判の2つは、ここで示す価値
がある。文化、社会的人間学からは、経済的評価(Discolor の理論は、人間環境関係を
概念化する際に根本的に異なるアプローチを示している)の構造的、制度的概観の「フ
ロー」の偏重を批判している一方、心理学からは、人間活動に心の動きを無視すること
に批判がなされている。たとえば、選好理論では、人間活動の精神内部や人間同士相互
の関係はほとんど評価されていない。経済学と心理学の連携は、うまくいっているとは
いえない。数人の著者、特に Sen (1973), Lewin (1996), Johansson-Stenman (2002) 、
Muramatsu (2009)は、同じ批判をしている。つまり、経済学は、主に合理的な選択パ
ラダイムを支持することによって、経済的活動を説明するのに矛盾した方法で、心理的
理論と概念を使用していると述べた。Sen (1973, 1979)によると、行動の動機を探すこ
となく、経済学者は単に結果だけに焦点を当てる。結果として発生する行動に焦点を当
てて、、まるで価格と物理的な量があるかのように合計する。、根本的に心情が異なる状
況では、個人とグループ、グループと社会的な組織のあいだに、相互作用が影響し、こ
のプロセスで妥協がなされ理解は感情に影響を受けると心理学では説明される。また、
標準的な経済学で仮説されている人間は選好に基づいて行動することに関しては、は人
間学における実証的研究である行動経済学や心理学と道徳哲学が繰り返し拒絶している
(Sen 1973; Wilk 1993; Kahneman 2003; Nussbaum 2001; Muramatsu 2009)。心理学
的に基づかない選好理論は効力がないとまた、直感に反しており、かつ、説明できるこ
とが限定的であると次第に証明されてきている。 (Lewin 1996)。
最新の行動経済学の研究によると、効用と感情はお互いに不可分で感情から効用は生ま
れるし、人間の判断と選択は合理的であるというよりむしろ直感であり変化や人々の判
断や選択が感情に無縁ではない(Kahneman 2003: 1457; see also Bernoulli 1954)
。痛
み、過ち、後悔のような感情を完全に無視している選択の理論は、研究者の実験結果で
は、非現実的ではないばかりか、結果の効用の最大化をもたらさない不確かな打ち手で
ある。(Kahneman 2000; Kahneman ら 1997)。
文化にあたらしい資産の形態と概念に自然と文化(例えば、民族、指標、知識体系)を
付け加える議論は、人間学
( 例 え ば Dove 2006; Hames 2007; Commaroff と
Commaroff 2009)において継続中であるが、環境科学と保護政策では先送りにされて
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
いる。1980 年代の後半以降、以前は人口が密集していた地域に保護領域が形成されたこ
とと同時に、数多くの政策が、先住民および「伝統的である」と考えられる農村人口に
対して、資源の使用権と所有権を付与することに焦点を当ててきた。このような政策は、
明らかな祖先、民族への所属、資源使用に関する知識に基づいて、貨幣価値を支配し、
除外し、導出する権利の観点から、先住民と農村人口の内部、およびその間の現地の関
係を大きく変化させている。Martinez-Alier(パーソナル・コミュニケーション、2007)
は、彼が、市場にすら存在していないが、貨幣用語では評価されている環境商品に関し
て、「架空の商品の物神崇拝(フェティシズム)」と呼ぶ現象に関心を向けている。
Charles Hale (2002)は、ラテンアメリカでのこのような過程を、「新自由主義的多文化
主義(neoliberal multiculturalism)」の形態として記述した。つまり、この形態は、一
部は文化的に抑圧、除外され、権利の要求に応え、一部は階級による政治から逃れ、よ
り普遍的な社会政策へと移動した 1980 年代以降の新自由主義の高まりの間に発生した
ものである。新しい政治的な空間が開かれたにもかかわらず、民族を基盤とする政策へ
の偏重は、社会が寸断され、認知された共通の利益と特性をほとんど持っていない多数
のアイデンティティーグループに分かれたことの原因とも考えられる。このような変化
は、現地の人々が自然への敬意を払って行動することを期待する「高貴な野蛮人」とし
ての現代版の倫理的なアイデンティティという無形の財を生み出している。 (Dove ibid;
Hames ibid; Pedrosa、 Brondizio 2008)。現地住人の必要性と権利だけが認識されるべ
きではなく、住民が自ら備える相互依存と自然への愛着も、もっと理解される必要があ
る。多文化的政策と環境保護の連携によって、自然の資源についての体系的な知識シス
テムのための所有権を競い合うステージがセットされた(Escobar 1998)。同時に、批判
的な理論とそれが人間学、精神分析学、社会学、エコロジーなどの分野の原理へ与えた
影響は、大多数を占め、よく教育され、論理的な思考ができ、弱者や社会で疎外されて
いる人々への代弁者の独占(参照, Roughgarden 2004; Agarwal 1994; Martinez-Alier、
Thrupp 1992; Martinez-Alier 2008)
と、代替的でとりとめもない有力なパラダイム
(Howarth and Farber 2000; Zografos and Howarth 2008)への挑戦となった。
企業の連合体(例えば製薬、農学関係企業)、政府、現地住民などを基にした生物資源調
査プログラムは、
「それを保護するために生物多様性の販売を保証する」として世界中で
頻繁に実施されている (Hayden 2003)。このような実験による経済的利益は、多くの場
合において具体化していないが、その一方で、コミュニティ、政府、企業内の問題は山
10
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
積みである(Greene 1997; Hayden 2003)。生物資源調査は、植民地主義の別の形態であ
るとする疑問も上がっている。つまり、社会や環境についての世論を活用して、資源と
知識を貧しい人々から力ずくで奪い、企業に与えるという「生物帝国主義」である(Moran
et al. 2001)。こうした場合、「生物資源には自由にアクセスできるという生物多様性条
約以前の価値観に従うために、生物多様性や生物多様性に関する知識を’共通の遺産‘と
は一切考えない。」ということが、主要な論点である(Moran et al. 2001: 501)。
Virg inia Nazarea (1998; 2006)は、生物多様性のもてる価値への注目を促した。特に農
業の多様化(例えば品種とそれらの特定の品質)ばかりではなく、大部分については、
文化的な記憶とそれに関連する知恵への注目の喚起である。
「 現地の知恵や文化的な伝承
は文化や生物多様性の繁栄を維持するためのオルタネティブな選択肢を提供する知恵の
データベースであり、生物多様性を保全する上で本質的に大切である。」(Nazarea 2006:
318)。
例えば、生物資源調査の範囲内では、薬用植物、穀物の品種、森林資源の価値
は、資源の使い方と管理法を特定して、それを認識する知識と関連づけられた時のみ価
値あるものとしての意味が得られる。つまり、生物多様性に関連するほとんどの知識体
系は、集合的にまた、世代間で保有されている。集合的な基盤において歴史的に進化し
た知識の商品化は、産業的特許や知的財産、印税などの財産権の「従来型」の法的およ
び経済的ツールの応用には役立たないということが明確になっている。メキシコ
(Hayden 2003) 、 ペ ル ー (Greene 2004) 、 南 ア フ リ カ (Commaroff and Commaroff
2009)の例などは、少なくても利益の分配に関して言えば、アプローチを保護するため
に評価と販売のトレード・オフについて説明している。80 年度から 90 年代にはじまっ
た生物資源調査プログラムで展開される教訓は、経済価値評価の長期かつ潜在的な否定
的な意味合いを持っている、他のプログラムパワフルな事例を提供している。
2.2
自然の内在する価値とValue articulating institution(VAI)
生態系のもつさまざまな価値は、特定の文化(例えば、聖なる木への信念)でそれぞれ
持つ、文化的な価値として挙げられる。しかし、すべてのそのような価値は文化的に構
築されており、また文化の文脈中に埋め込まれている。価値観は制度であり、また、行
動の決定やそれを支えるものである。文化的な価値は、特定の評価法を適用することで
明らかにされ、また評価方法自体は、価値を導く規則を定義する社会文化的な構造物で
ある。また、評価の社会文化的背景を選択することも、それぞれの評価方法を選択する
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ということになる。評価方法自体は、ある程度設計されており、どんな値であるか、ま
たどんな価値であるべきか、どのようにして価値を決定するかを理解することによって
明確なものとなる。例えば、評価方法は、人間、自然、およびそれらの相互関係の一定
のモデルを意味するもので、価値が明らかとなり、発見され、構築されるか、または評
価過程で変化するかどうかを定義する (Vatn、Bromley 1994)。Vatn (2005)は、価値の
評価法は価値を統合する制度であるとしている。従って、同じ生態系の財またはサービ
スの価値は、制度の設定によって変化する。
また、自然の価値評価に関しての問いも、価値の性質についてまったく異なる問いかけ
になる(Gatzweiler 2003)。価値観とは、文化にとって、規範、信念、社会の習慣と同じ
く、欠かせない一部である。価値観は、世界観と、何が正しくて誤りか、善か悪か、価
値があるかないか
といった社会認識から、生まれてくる。また、価値は、文化が深く
発現したものである。しかし、合理的な選択(Wilk and Cligget 2007)のモデルでは、そ
の文化の全てを直接認識したり、予測できるというわけではない(Wilk and Cligget
2007)。実験的社会心理学や実験的ゲームを基にした多くの実証的研究では、利己的な
利用は別として、ホモエコノミクスの例と想定して、
「人は、経済モデルが予測するより
もさらに利他的である傾向がある」(Gowdy et al.。2003: 469)を最大限に活用し、利己
的に協力的に行動するとしている (Alesina and Ferrara 2000; Fehr and Tougareva
1995; G intis 2000; Guth and Tietz 1990; Manski 2000; Nowak et al.2000; Ostrom
1990; Etzioni 1986; Caporael 1997; Kahneman 2000; 2003)。Bowles と G intis (2004)
によるホモ・リシブロカンズのモデルは、協力する人々と利他的に行動し、利他的行動
に報いることを提案している。他者の行動が利益があるか、有害であるかとを判断した
り、行動でこれに報いる。。
しかし、Gowdy (2003)らは、ナイジェリアの村で見た別の種類の活動を示している。そ
こでは、公平さは、報復ではなく、経済活動を予測する重要な指針であった。このケー
スは、非協力的の活動は協力的な返答と導き、
「伝統社会では、報復は西洋社会に比べて
ずっと少ない」と言うことを示している。この調査結果が持つ重要な意味は、文化の間
の行動の違いは大きく、それは個人の属性ではなく、集団の規範と価値に関連している
ということである。これは、私たちが、西洋の非常に特定された文化の伝統から得たモ
デルに従って生態系および生物多様性を評価する試みを検討する中で、明確にすべきこ
とである。
12
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
これまで議論したように、明確に区別されている自然と人間に対する見方は、経済学の
本質的価値を示している-人間に対する現在、または未来の人間に対する有用性にかか
わらず、単に存在のために自然の価値である(Gatzweiler 2008)。しかし、ニュートンの
現実に関する概念は、量子物理学を根本から変えた。これは哲学的概念で、観察者(主
体)と観測されるもの(対象)、または人間と自然の間には、明らかな区別は何もないと
している。これは、人間の認識に影響を与える。なぜなら、それはひとが作り出したソ
フトウェアとハードウェア、つまり、環境(ソフトウェア)を認識する方法と、それを
測定、評価、構築する方法(ハードウェア)を理解する方法には密接な関係があるとい
うことを意味する。全体的な観点からすると、
「私たちが認識しているものは、自然その
ものではなく、自らの質問の方法に対する自然である。[…]
観察者は測定をどのよう
に設定するか決め、そして、この調整によって、ある程度まで、観察する対象の特性を
決定するだろう」(Capra 1991: 140; Heisenberg 1958: 107)。
このような状況では、価値を導くために使用する方法によって、実際に私たちが導く価
値が限定される。もし、人々に対して生態系と生物多様性に対して支払う意思があるか
尋ねるなら、人々は実際、生態系と生物多様性に支払う意思があると答える可能性が高
い。ここで述べるポイントは、人々から生態系する価値を導く方法、私たちの理解、認
識、価値が発生する基準的立場、つまり分析前の概念を反映する方法である。そして、
まさにこの分析前の概念によって、私たちが発見したり、創出することをと望んでいる
価値が定義される。極端な2つは、人々にそれぞれ支払いの意志を訪ねること、または
人々が慎重になるようにすることである。支払いの意志に関する質問では、人々が以下
に挙げるような状態について尋ねる。
z
z
z
z
z
z
事前にこれらの価値観を保有している。またはそのような価値観を容易に創出する
ことができる。
十分な情報を持ち、十分理解して価値評価している。
生態系についての価値を(自分で)決定することができる。
費用-便益の規則に従って行動する。
価値評価が一貫している。
価値は、個人の合理性に従って行われる。
一方で、こうした評価法では、生態系と生物多様性に対して既存の価値を想定していな
い。価値観は、人々が生活する制度的、文化的な背景の一部であり、この社会背景が長
い期間にわたって共に進化してきたという事実を踏まえると、価値観をあらかじめ保有
されておらず、人々は価値評価が必要になってから対話し議論をしてきたと考えていい
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
だろう。このような議論のプロセスを経て、社会の対話コミュニケーションの中でプロ
セスの中から価値観が生まれてきた(Zografos and Paavola 2008)。参加型農村調査法
(PRA)(Chambers 1991)や、市民陪臣あるいはラウンドテーブルといったよく知ら
れている方法論は、このような方法論を経て生まれてきている。
以下では、評価を表明する課程で、どのような影響やどの価値が発生し、その価値を基
盤にどのような結論に達するかという枠組みである Value articulating institution
(VAI)(Jacobs 1997)における環境価値評価の例を紹介する。Vatn (2005)は、Value
articulating institution(VAI)を、「構築された一連の規則および象徴」として定義す
る。この方法論では、価値が表明される状況を特定する。例えば、どの種類のデータが
関連したものであると見なすか(例えば、環境評価は貨幣の付値のみを関連データと見
なす)、評価には誰が参加するのか(例えば、フェミニスト経済学による同様の問題があ
る。Agarwal ら 2005)、能力はどうか(例えば、環境評価では、個人が消費者として
参加するよう依頼する)についてである。彼はさらに、それぞれの Value articulating
institution(VAI)は「異なった結果、または都合のよい解決策を与える傾向がある」
と説明しているが、
「確かにそのような制度の選択は、重要である」と言うことを意味し
ている (ibid: 211)。
Value articulating institution(VAI)として、特に環境評価は、貨幣に換算できないと
価値があるとすれば、複数の環境価値は含まない。しかし、また第5章で論じるように、
環境価値や、多基準評価や審議過程(例えば、市民陪審員など)などの環境価値と動機
づけの多くを手に入れようとする代替の Value articulating institution(VAI)が存在
している(表 1)。これらの代替的制度は、また、市民が消費者ではなく環境の意思決定
に参加したいと望んでいる環境評価への批判について検討しようとしている(Sagoff
1988)。
14
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
表 1
評価統合機構とそれぞれの規範と認識
Value articulating institution 標準的、認識論的立場
(VAI)
仮想評価法
デカルト哲学:価値は既に存在しており、発見するこ
とが必要。
価値と事実、人間と自然の区別。
貨幣と生態系の財・サービスの代替性。
価値を示す。
審議的または社会的プロセ 民主主義的立場:価値は社会的過程で構築。
スの方法論
審議と討論による以前に知られていない価値。
知識と判断に役立つよう社会のメンバーを優先。
多基準法
複雑性:ランク付けした重要性で理解した価値。
通常の質問に対する分析的観点の既約多様性。
出典: O’Connor (1998)から変更
特に、審議方法は、認識する必要を知ることに基づいており、公共政策と意思決定にあ
る複数の価値を合法化している。審議民主主義の学者たちは、他の結果を超えて、政策
によって公有財産を創出するようを求めている。公有財産では、優先権の反映が、情報
提供と審議 (Dryzek 2000)による非強制的な方法で刺激を受けている。そのような公的
領域を追求する審議民主主義の目的は、環境的価値の多様性とで調和するので、審議フ
ォーラム(例えば、市民陪審)は、Value articulating institution(VAI)に関する望ま
しいモデルを提供すると考えられる。しかし、審議する意思決定の可能性については懐
疑もある。例えば、審議する計画の支持者は、「計画の実施に関係する力関係について、
実際の背景に十分な注意が払われていない」として非難されている(McGuirk 2001: 196)。
同様に、
「 力とリーダーシップの行使が実質的に変化することによって時事される場合に
限り、応援される場合に限り、持続性に関する審議と民主的な習慣は有効かもしれない」
と主張するものもいる(Stratford and Jaskolski 2004: 311)。審議の意志決定過程によっ
て、生物多様性の管理に対しても、同様の懸念が高まっている (O’Riordan 2002)。
評価する学者は、環境評価の審議方法を発展させることによって、環境評価の審議過程
を統合することを試みている(Sagoff 1998)。これが実施されるのは、仮想評価法(CV)
に関する批判への対応と考えることができる。また、環境価値が集団価値であり、個別
の価値の集合体を追求すべきではないと批判している。また、このような実施において
は、環境優先権は事前には存在しておらず、社会的に構築されたものであり (Vatn 2005)、
また、価値は、価値の導出過程において公的な注目を引いた課題の作成や情報の変更に
15
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
敏感だとする批判を理解しようとしている。基本的に、審議による評価は、価値の導出
過程を、優先権構築過程へと変更しようとしている。その目的は、人間が環境に対して
既定の優先権を持っていなこと、また、そのような優先権に十分精通し、審議によって
導出すべきという課題に対処するためである(Zografos and Howarth 2008)。しかし、
審議による環境評価の批評家たちが指摘していることは、しばしば審議または討議が表
面的形式で行われることで、所定の優先権を正当化する手段として適用されてきたこと、
また、本質的に関連の研究では、使用される経済モデルが、環境に関する特定の一連の
社会的価値を理解するには不適切だということである(Spash 2008)。
2.3 フィードバック・メカニズムとしての評価
評価を実施することは、生物多様性の価値に注意を促す際において、また、他に損害を
与える特定の資源の使用を競うその他の勢力に対する無形の生態系サービスに注意を促
す際に、重要な役割を果たす。これは、あるレベルで対象を測定することと価値体系を
設定することが必要であるが、環境を商品として扱う市場の力の圧力に立ち向かう方法
である。さらに生態系サービスの評価は、土地利用の変化のための誘因を創出する。例
えば、生産と環境サービスの評価を和解さるための、農業生態学的変遷と呼ばれている
促進がある(Mattos et al.2008)。章のいくつかの箇所で、経済的評価の潜在的マイナス
の意味にも注意を促したが、意思決定と社会への認識メカニズムとしての価値も明確で
ある。このアプローチは実際、長期的に、環境を西洋的思考と経済学へ内在化すること
に通じるとする意見もある。このような状況では、この評価方法は、生産、消費、貿易、
為替がかなりかけ離れおり複雑であるために、環境内で実施する習慣や活動の影響を認
識させる力を弱めている体系の中において、フィードバックを提供するメカニズムとし
て機能することが可能である(Moran 2006; Wilk 2002)。また、この過程を、調整的順応
の形態と見なす意見もある。このような形態では、有害と認識される環境の変化に対処
するために、特定の文化や社会の状況で積極的な行動反応が取られる (Moran 2000)。
このような状況では、評価方法はフィードバック・メカニズムとして考えることができ
るが、このメカニズムでは、商品に対する市場の需要の問題に対峙し、また価値および
費用などの同じツール、言語により外部性の説明が欠如している。しかし、生物多様性
および生態系を保護する価値と行動を認識することを仲介する過程では、個別レベルの
行動反応と人間全体の間において時間的ずれがある。ここでは、後者の無活動が前者の
活動を圧倒している。このような状況では、社会に影響を与えるその他の過程と同じく、
16
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
行動変化の評価による影響は、文化的背景の機能(例えば、変化を文化的に受け入れる
か否かに関係なく、評価の概念であると認識される)、社会および経済学の機能(例えば、
より大きい社会の参加の程度、集団行動を容易にする利用可能な制度上の調整)、および
認知された環境利益(例えば、資源や望ましい土地へのアクセスの有用性)などである
(Brondizio and Moran 2008)。さらに、環境の変化に如何に適応するかは、レベル内部
でまたレベルを越えて、これらの活動を容易にする制度上の調整形態に依存する。
経済価値の社会文化的構築は、固定しておらず、社会の環境の現実に関する認識の変化
と共に進化する(Norgaard 1987; 1984: 165)。この共進化のこの過程は、相互の規定
と共同決定論を認識することによって裏付けされ(Varela 1999, Maturana and Varela
1928)。人間は、自身のドメインの(環境)問題に関する自らの領域を提示し、自然と
の相互作用に順番を付ける能力に従って問題を解決する。また、人間と自然との相互作
用を支持するこの過程は、制度によって容易になる。
「制度が生活を形成する」からであ
る (Tool 1986: 51)。従って、私たちは生態系の悪化と生物多様性のトレード・オフに直
面しているので、自然に対する考え方や価値観を変更することである(しなければらな
い)。そのため、私たちが自らの生活を形成するための制度は、結果として変化するだろ
うが、時間的ずれは長いかもしれない。
生態系と生物多様性(または、他の何か)に付随する価値は、単に、構築された倫理的
環境やそれぞれの制度にのみによって決定されるものではない。それだけでなく、社会
的感情と感覚にもよって決定される。シロナガスクジラの絶滅は、経済的には合理的で
あるかもしれない。しかし、倫理的には、多くの人間がシロナガスクジラの絶滅を不安
に感じるだろう。しかし、課題が複雑であるため、シロナガスクジラが絶滅するまでな
ぜ捕獲すべきでないのか、その理由を科学的に、そして倫理的に推論できない。単に不
安感を表しているにすぎない。双方の立場は、まさに自らの倫理を用いている。経済的
立場は、個人の合理性(「良い」「悪い」決定する定義)の倫理に基づいている。そして
「倫理的な姿勢」は、「良い」と「悪い」である何らかの感情に基づいている。
Antonio Damasio (2003: 162)は、感情を「倫理的行動の初期段階」、
「生体防御の総合的
プログラム」の一部であると認識する。また、Damasio は、制度がちょうど不安定な状
態で、社会的、社会環境的な相互作用を保っているように、肉体と精神をバランスよく
保つための恒常的装置として、感情を定義している。また、倫理的行動は、倫理のみで
17
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
なく、生物学的規制、記憶、意思決定、創造性に対しても向けられた特定の脳体系の働
きによるものだと述べている。これらを基にすると、感情の役割は、自然の生命監視機
能と連結している。
「感情が始まって以来、その自然の役割は、生命の状態を心にとめて
おき、行動の組織において生命の状況を捉える事であった。(・・・)私たちの生命は、
願望や感情だけでなく、社会的慣習や倫理的行動の規則等で表される他人の願望や感情
に対して配慮して規制しなければならない。
(・・・)感情は、考案や方法や手段の交渉
を導くのに不可欠で、これによって、基本的生活の規制とぶつかることなく、目標の背
後となる意向が歪められることがない。[感情は] 他人を殺すことは、問題のある行動だ
と、最初に人間が最初に考えた時と同じくらい重要なままである」。感情は、意思決定と
って重要で、すべての複雑な意思決定状況に備わっている不確実性対して対応すること
ができる。また、抽象的であるが、コミュニケーションの相互作用、社会的な合理性、
複雑な資産体系を考慮するところに位置し、その結果私たちの行動の重要な側面として、
依然として評価の中心的構成要素である。
3. 価値評価の課題:生態系、生物多様性、分析のレベル
このセクションでは、まず、価値評価法と計算によって多様なレベルの分析を行う
際の主要な問題点を示し、続いて、価値評価を行うには、現在の資源利用体系と生
態系に内在する複雑さに留意する必要があるという点について考察を加える。これ
に即して、本文は 3 つのパートに分け、3.1 は、資源が変換され形を変えていく様々
な段階での付加価値計算(保護を促進するために、
「使わないことに対価を払う」vs.
「資源から収入を生み出す」)の問題について、3.2 は、生物多様性と生態系の複雑
さ、および機能的な相互依存性の計算について(たとえば、あるレベルでは価値を
付与され保護される資源も、別のレベルでの圧力によって害を受ける可能性がある)、
3.3 は、どのように価値評価を行うか、その方法の選び方について、それぞれ焦点を
合わせる。
3.1 資源利用の価値の変化と経済的な収益(リターン)の問題
先住民と農村人口は、しばしば現地の生物多様性を守っている人々と見なされるが、資
源の商品連鎖全体の中では不平等な立場に置かれ、一般にローエンドに位置している。
世界のどこでも、資源の価値は、通常、資源の産出地から遠く離れた市場連鎖の中を移
18
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
動していくとともに増大し、利益の不平等な分配と、保護・管理に対するインセンティ
ブ(刺激要因/利益・報奨金)の低下という状況を生んでいる。資源が素材・原材料の
状態から多様なレベルの産業加工品に変わっていくとともに、その経済的な価値には
次々と、異なる消費者集団をターゲットにした市場のシンボルが付与されていく
(Brondizio 2008)。これは、熱帯林や世界中の水系からもたらされる価値ある資源の多
くにとって、昔ながらの状況である。現状の森を管理している熱帯林果実の生産者は 1
籠の果物に数ドルしかもらえない一方で、合衆国の消費者は、時として同じ果物のほん
の痕跡しか入っていない製品-宣伝広告と「持続可能な開発」という主張だけはあふれ
んばかりに入っている-に高い金を払っている。こうした状況下で、特定の資源の価値
評価をするには、どんなパラメーターを用いるべきだろうか?
商品連鎖を移動してい
く中で価格が 70 倍にも変化する局面で資源の価値を見積もるには、いったいどのよう
な基盤に立てばよいのだろうか?
生物多様性の経済価値評価が産出現場の保護を拡大
するためのツールになるとすれば、考えられるのは、生産現場の利害関係者が、他の形
での資源利用の要求に抗して、既存の生態系を維持していこうとする気になるだけのイ
ンセンティブを得ることだろう(Appadurai 1996; Haugerud et al. 2000; Brondizio
2008 など)。資源に埋め込まれたシンボルとしての価値は、商品連鎖の中での経済価値
に大きく影響する(Appadurai 1996; Haugerud et al. 2000; Brondizio 2008 など)。た
とえば、森林資源の経済価値は、素材・原材料としての需要だけでなく、産業加工品の
レベルと、そして、最も重要な、消費者向けの最終製品として市場される際に付与され
るシンボルの意味のレベルに依存している。実際の事例として、以下の Box1 にアマゾ
ンのアサイヤシの実、Box2にエチオピアの野生種のコーヒーの例を示したが、プラグ
マティックな局面では、産出現場での資源の価値を高くすることが重要になる。つまり、
他の形で利用できるように変えよという市場の圧力に直面しても、地域の森林を管理し
ていこうとするだけのインセンティブを作り出す形にする必要があるということだ。ア
マゾンは、こうした市場と現場の緊張関係を明瞭に示している。野菜(大豆)や動物タ
ンパク質(牛肉)の需要が高まる状況下で、耕作に適した土地は世界的に限られている。
一方、アマゾンには広大な土地が広がっており、余剰生産物の輸出が政府の方針の上位
にあり、地域レベルでの森林資源の価値は低い-これらが結びついたところに、過去 20
年の間にアマゾンの森林伐採・開拓が進んできた最大の要因がある。
19
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box1
アマゾン産アサイヤシの実のブーム
アマゾン一帯の開発と森林保護を両立させる有望な経済的展望を示すものとして、
アサイヤシ(Euterpe oleracea Mart.)の実の生産体系のケースに優る事例はないだろう
(Brondizio 2008)。アサイヤシの実への市場需要が高まるのに呼応して、地元生産者
のイニシアティヴで始まり、森林維持に関しては地元でつちかわれた技術と知識を
用いることによって、アサイヤシの実の生産は、アマゾン地域の持続可能な開発を
訴える主張に広く見られる 「社会と環境の原則」 を具体的な形で実現することに成
功した。同時に、この生産体系の形成には、熱帯林経済のブームがもたらした恩恵
の広がりと継続という面に関して重大な問題がいくつかある。社会-文化的偏見の歴
史によって消滅した森林資源、土地の保有権の不安定さ、経済的インセンティブへ
の格差のあるアクセス-これらは、どの程度までを生産の機会/市場の機会として
評価すればよいのだろうか? アサイヤシの実の経済の拡大には、地域全体にかか
わる内部な要因と外部な要因が結びついており、さらにその消費基盤も関係してい
る。ここには、1970 年代から始まった地方人口の大量移出と都市圏の拡大、1980 年
代に進展した、アサイヤシ以外のアマゾンの果物を輸出するための組織化と市場戦
略、1990 年代の 「エコ商品(グリーン・プロダクツ)」産業の成長が含まれる。アサ
イヤシの実の消費拡大を後押ししているのは、様々な注目点-実の成分が健康によ
く活力を与えてくれること、熱帯雨林の保護、現地の必要性と産物の尊重、アマゾ
ンでの土地利用の多様な形態を提起する「持続可能な開発計画」のシンボルとしての
位置など-に関連する主張だ。地元の人々に好まれる主要食品としての、地域レベ
ルでの安定した位置とともに、国内・国外での市場の拡大によって、アサイヤシの
実は、アマゾン、とりわけアマゾン河口地域の小農家の人々にとって、文化的アイ
デンティティと地域の誇りのシンボルとなった。今日、アサイヤシの実は、ヨーグ
ルト、濃縮ジュース、アイスクリーム、活力増進飲料、ビタミン剤、さらにはシャ
ンプーや石鹸など、広範囲の大衆消費製品に加工・利用されるようになっている。
全般的に見て、アサイヤシの実の経済の歴史が始まって以降ほとんどの期間、生産
者は、この地域の農業・酪農・養鶏の産物の平均価格より高い金額を受け取ってき
た。価格の推移を分析すると、アサイヤシの実の生産者が、アサイヤシを生産する
ために森林を管理するインセンティブを得たことが明らかになる。結果として、過
去 30 年間、アマゾン河口地域は、アマゾンの他の地域とは対照的に、森林移行(高
い率の森林再生)を実現し、森林面積が増大する一方で、森林伐採・開拓は最小限に
とどめられてきた。小規模の地方経済に始まったアサイヤシの実の産業は、今や、
マルチレベルの経済複合体として機能している。このプロセスの中で、森林管理者
とアサイヤシの実の生産者は、地域および国際的な投資会社・企業の間に自分たち
の位置を確保することに成功したのだが、しかし、生産物を商品化するためのイン
フラと、価値の蓄積に参画するインセンティブがないことが問題となっている。ア
サイヤシの実の経済規模が拡大を続ける一方、地元に入る歳入の割合は小さくなっ
ているという、逆説的な状況が生まれているのだ。市場の拡大で生産者が恩恵を受
けてきたのは確かだが、この経済の新しい領域-商品化と在庫のコントロール、加
工、市場の連鎖を進んでいく中での価値の蓄積に、生産者はずっと参加できないで
いる。生産者は特殊な活動に従事する者という烙印を押され、自分たちが強化した
現状の森林の管理と保護(今なお、特殊な活動の体系として言及されることが多い)
が一般の目に見えていないこと、自分たちが原材料の提供者の位置に置かれつづけ
20
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
ている状況に苛立ちをおぼえている8(Brondizio and Siqueira 1997)。新規参入の事業
者や地域の大規模生産者が市場で最も儲けられる位置を占め、生産、商品化、加
工、市場での取引をコントロールしつづけているのだ。地域と外国でのアサイヤシ
の実の市場の、現在の経済的な影響力の推定値は、年間 1 億レアルから5億レアル
(1レアル=約 0.57 米ドル)と幅があるが、この幅は、算出者が、どのように、何
を、どこで、そして商品連鎖のどのあたりで計算しているかで大きく変わると考え
られる(Brondizio 2008)。
アサイヤシ経済のほとんどは、しかし、生産者地域からは遠く離れたところで価値
の蓄積がなされている。たとえば、1ヘクタールの管理された森林からの収穫で得
られるアサイヤシの実の果肉の価格は、農家から出荷される段階(収穫した実のま
ま)で、1000 米ドルから 1200 米ドル。同じ量(果肉の状態にしたもの)が、ブラジ
ル南部の消費者のもとに届く時には 20 倍から 50 倍の価格となり(最終製品の形態に
よる)、外国の消費者のもとに届く時には 70 倍以上にもなっている(最終製品の形
態による)。加えて、新しい生産エリアおよび供給のコントロールを目論む企業プラ
ンテーションとの競争が激化し、単一種栽培の体系化(森林管理と対立する形態)が
急速に進んでいる。生産者が利用できる加工産業が地元にあれば、地元で(生産者と
自治体にとって)の価値の蓄積が可能になるのだが、現在、そうした産業・施設はな
く、結果、多彩な現状の森林――小規模農家が、ほかの形で土地利用をせず、複数
の種を管理している場―を維持・管理していくインセンティブは著しく低減しつつ
ある。
Box2
エチオピアの森林地帯の野生種のコーヒーに対する商品価格とシンボ
ル価格
エチオピアは、アフリカ最大のアラビカ種コーヒーの生産・輸出国だが、国内生産の
98%は 1 ヘクタール以下の小規模自作農家で生産され、その 95%は、森林系、セミ
森林系、ガーデン系の生産物である。商品連鎖には、生産者、協同組合、輸出業者、
輸入業者、焙煎業者、小売業者、消費者が含まれる。コーヒーは先物取引可能な商品
として売買され、エチオピアの生産農家から出荷される際の価格は、ニューヨーク商
品取引所(New York Commodity Exchange)の価格変動に連動している。野生種のフォレ
ストコーヒーなど特別な種類のコーヒーは小売価格と連動しているが、最大の価格マ
ージンが付与されるのは依然として、焙煎業から小売業者の間、および小売業から消
費者の間である。消費者の段階になると、コーヒーはもはや、原材料の品質で評価さ
れたり、需要と供給の力で価格が決まったりする、単なる商品ではなくなってしまう。
今日の消費者にとって、コーヒーは、自分の必要性、欲望、考え、信念に呼応してい
るからという理由で喜んで金を払う、そんな 「ライフスタイル商品」 である。
2006/2007 年、エチオピア西部のヤユー(Yayu)の農家が受け取った金額は、野生種
のフォレストコーヒーの生豆 1kg 当たり 0.5-1 米ドル(0.4-0.8 ユーロ)。それが協同
組合に運ばれて 1kg ずつパックされ、焙煎業者のもとで焙煎されると、38 ユーロ/kg
で販売される。その 1kg のコーヒーが 100 杯のコーヒーとして供される場合には、1
カップ当たり 2-3 ユーロ-この段階ですでに、コーヒーの価格は 200-300 ユーロ/kg
になっている。
21
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
一方、生物多様性の価値評価は現状保護のツールになる可能性があるとはいえ、バリュ
ーチェーンの中で上昇していく森林資源の経済価値は、生物多様性保護にとってのイン
センティブを低下させることもある。Seyoum (2009) によれば、コーヒーの木がある森
林に近いエリアのエチオピアの世帯当たりの収入が多くなると、それが森林内のコーヒ
ーの木を管理するインセンティブになり、結果、野生のコーヒーの木と森林の多様性が
低減されてしまうという。しかし、土地利用の強化が森林伐採・開拓につながるかどう
かの議論は、まだあまりよく理解されているとは言いがたい(Angelsen and Kaimowitz
2001)。理由のひとつは、この関係は、一方で、市場の役割と配分利益(つまり、地元
レベルでの価値の蓄積の度合い)に左右され、また一方で、資源の利用を規制する制度
の効果にも左右されるからである。上記の 2 つの事例は、価値の蓄積と、強化という対
抗力の問題をよく示している。
商品連鎖を進んでいくとともに価格が変わっていくところには、利益の分配にとって潜
在的な重要性があり、保護に対するインセンティブのレベルに影響を与える-この認識
は、経済価値評価にとって重要な方法上の課題となる。地元で価値を累積するインセン
ティブ・体系を(そして、そのようにして地方での雇用を)創出するための保護と開発
のプログラムが機能しないというのは、途上国だけにとどまらず、世界中で広く見られ
る問題である。証明書や土地台帳による承認・許可といったイニシアティヴが世界各地
で広まり、多様な形で成功をおさめつつある。しかし、全体としては、地元での価値累
積を推進し、生産者と消費者の間の距離を縮めるための政策・基本方針の枠組みの欠如
が、経済の論理に拍車をかけ、単一種栽培プランテーションや森林を切り拓いた土地の
ための市場のほうが、現状のままの森林や何世代にもわたって受け継がれてきた豊かな
土地の多様性という[本当に価値のある]資源の何倍も高いという事態を作り出してい
るのである。
3.2
価値評価の根底にある複雑さと機能的な相互依存性
経済価値評価は、複雑で空間的・制度的な、そして、様々なスケールが交錯する問題で
あることを認識しておかなくてはならない(Turner et al. 2003)。第5章のセクション3
でも指摘したように、生態系の財と生態系サービスの価値は、生態的な特性を変えるも
のではなく、また、受益者集団の大きさや特徴によって変わるものでもない。ある場所
のレクリエーション的な価値が、その場所への訪問者によって、ローカルなスケールで
22
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
の直接的な利用として評価されるのに対し、ハイレベルな生物多様性の価値は、そのオ
プション、遺産、存在、利他的な恩恵のために、グローバルなスケールで、グローバル
なコミュニティによって評価されることになる。
保護領域を作るなど、生態系や生物種の特定の部分にフォーカスした多くの取り組みは、
ひとつのレベルでは効果的であるとはいえ、そのエリアを囲む土地資源に向けられた商
品市場の圧力をコントロールするという視野を欠いている。それぞれの地域の生物物理
的コンテクストに依拠したこうした活動は、より大きな生態系の内にあって発展してい
く様々な資源利用体系の機能的な相互依存によって作り出される横のつながりや上下の
相互作用をとらえる点で限界がある(Young 2006; Brondizio et al.。 2009)。序で触れた
ように、世界中で増えつつある 「保護された生態系の島々」 は、より高いレベルやよ
り小さいレベルの様々な体系に支えられ、それら多様な体系の影響を受けている。した
がって、長期的に見ると、この 「島」には、保護・存続を保証するには多大な限界があ
るということになる。さらに、これら 「島」の状況は、文化によって異なる環境に対す
る考え方を理解する重要性を如実に示している。例を挙げて説明すると-あるテリトリ
ー、ひとつのエリアや生態系の内にある森林に価値を見出し、その保護に成功している
土地固有の集団がある。その保護領域は、しかし、より大きな分水界域の内部に位置し
ている。この、より大きな分水界域には、環境に対してまったく異なった考えを持つ、
まったく別の集団が住んでいて、彼らは、グローバルな農業生産物の市場と密接な関係
を持っている。結果、保留区の外側の見境いない森林伐採・開拓が水の汚染・土壌の侵
食・森林火災をもたらし、
[保護された]環境を根底からシステマティックに崩壊させて
いくことになる。このシナリオは、過去 20 年にわたるブラジルのアマゾンでの開発と
保護のストーリーそのものである。記録的な数の保護領域と本来の状態を保存する保留
区-今日では、一帯の 30%近くに及ぶ-が作られたが、それに伴って、過去に例を見な
い超高率の森林伐採・開拓の時代が始まったのである。一帯には次々と、森林および森
林の断片で 「島」が形成されていき、現在も同じ状況が続いている。このシナリオは世
界中の多くの地域がたどった典型的な例であり、社会と環境の相互依存性の問題と、そ
して、ひとつのレベルで資源を評価し、長期的な持続可能性に影響を及ぼすその他の多
くのレベルは無視してしまう評価方法の限界とをはっきりと示している。
様々な制度が上下に相互作用している状況(Young 2006)-こうした制度は、資源を統
括する行政当局に協力する集団、あるいは反対する集団、それぞれの意向を反映してい
23
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
る-のもとでは、マルチなスケールの観点に立って、排除不能性(subtractability)
(あ
る利用者にとって望ましい資源の利用の仕方が、ほかの利用者の利用の可能性を妨げる
ことにならないかどうか)と排他(恩恵をもたらす流れの外にある、潜在的な恩恵の可
能性を保持するには、たいへんなコストがかかる)の問題をとらえなければならない
(Brondizio et al. 2009)。ローカルな形態の資源の利用と規制(利用と除外の慣習的な
規則に基づく、など)は、あるレベルでは効果的に働く可能性もあるが、より大きな生
態系の内の別の区域の資源利用の影響を受けるばかりか、時にはそちらに飲み込まれて
しまうこともある。ミレニアム生態系評価(Millennium Ecosystem Assessment:MA)
が注意を喚起したとおり、現在の環境ガバナンスの最大の課題は、保護領域の「外側の」
保護を推進することにある(Bhattacharya et al. 2005)。
こうしたラインに即して、資源の価値評価と生態系の保護においては、土地(ランドス
ケープ)レベルのつながり・連結性の価値に留意することが求められる。たとえば、石
炭の備蓄量に基づいた測定基準を使い、石炭の埋蔵量に着目した保護を過度に強調する
ことは、複数の居住環境、居住環境と種の多様性、ひとつの分水界域内の水質など、居
住環境の連結性が果たしている役割を軽視することになりかねない。相互に結びついた
社会-生態系体系は動的で、継続的なモニタリングと制度の調整を必要とするものだが、
制度とインセンティブの形態のほとんどは規定のレベルのもとで設定されている。
Görg (2006) は、環境ガバナンスにとって緊急の課題としてマルチレベルの意思決定に
注意を向ける必要があるとし、土地(ランドスケープ)のガバナンスというコンセプト
を提示している。これは、社会と自然との関係性に基づくアプローチで、彼が 「スケー
ルの政治学」
(「社会的に構築された空間」)と呼ぶものと、場所同士の生物物理的な相互
連結性との間に橋をかけることを企図している。このコンテクストにおける価値評価の
課題は、共進化と適応性のある管理という、より大きなプロセスの一部として機能する
ことであり、生態系の内部での、また、複数の生態系の間での、フローと連結性の価値
に力点を置く一方で、知識の普及、および、様々なレベルでの制度と社会集団の対応を
促進していくということになる。
3.3
価値評価の方法をどのように選ぶか
意思決定者にとって重要な問題は、まず、選ぶべき評価方法はどれなのかを、どのよう
にして判定するか。そして、どの評価方法の結果を実際に決定を下す際のガイドにすべ
24
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
きか。さらに─これもまた基準を定めるための問いで、それゆえに、序で指摘したよう
に 「二次的な問題」 と考えられているのだが─生態系と生物多様性のための「Value
articulating institution(VAI)」を、どのように評価して、最終的にどのように選ぶの
か。Arrow (1963) and Sen (1970) によれば、社会的な選択の問題は、すなわち「判定
を下すこと」である。というのも、社会は、利害も価値観も違う様々な構成員からなっ
ているからである。
Vincent Ostrom と Elinor Ostrom は(Ostrom 1990; McG innis 1999; Ostrom et al.
1994、など)、複雑な資源管理体制(水や森林や知識など)のガバナンスにとって制度
をどう設定すべきかという問いに答えるべく、長く考察を続けてきた。彼らがガイドに
しているのは、精神科医で、サイバネティクスの基礎を築いた人物のひとり、William
Ross Ashby (1903-1972) によって定義された規則である。
「多様性必須の法則」
(1952)
と呼ばれるこの規則は、いかなる制御体系も、制御している体系内で可能な限り多様な
アクションがとれるようにする必要がある-というものだ。Elinor Ostrom and Roger
Parks は(McG innis 1999: 284 で)こう結論づけている。
「社会科学者たちが、複雑な問
題に対して単純な解決方法の必要性を説けば説くほど、世界に害を与える可能性がどん
どん大きくなる」(Ostrom 2009 も参照)
今日、環境変化に貨幣価値を付与することは、たいへんな労力を要す仕事となっており、
これを裏づける証拠は枚挙にいとまがない。貨幣価値評価には、文化的文脈に依存する
様々な簡素化された選択の規則が使われがちであり、したがって、成果は往々にして解
釈が難しいものとなる(Schkade, Payne 1994; Vatn, Bromley 1994)。Kahneman、
Tverskry らの心理学者たちは、人間はごくわずかな身近なものだけを好む/選ぶという
性向を発達させ、ほとんどの状況に対して、多種多様な経験的選択規則を採用するよう
になるということを、40 年もの時間をかけて示そうとしてきた(Johansson-Stenman
2002)。
25
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
社会的
物品/システムの性質
意思決定の単純な状況と
複雑な状況
コミ
手
段
ケ
ュニ
ー
ン
ショ
的
士の
同
間 作用
人
相互
的
個人的
単純なシステム
私的
財/システムの性質
複雑なシステム
共同保有、公的
図1:価値評価方法を選ぶ次元
出典:Vatn(2005: 419)を改変
Ashby の法則は、ビジネス・マネジメントの領域に応用され、複雑さを管理するビジネ
ス分野を発展させてきた(Malik 2008)。高度に複雑で充分な情報・知識が与えられてい
ない状況で意思決定をするという状況は、生態系や生物多様性に関連する意思決定の場
に特徴的なものである。Ashby の法則によれば、こうした状況では、価値の多様性・生
態系の複雑さ・生物多様性をとらえることのできる方法が必須となる。このためには、
個々の価値を足し合わせることから、共通の優先順位の組み合わせを論理的に考える方
向に変化することが求められる。
「……共有の財の局面を扱うには、社会的な合理的見解
と、ある種の形のコミュニケーションのプロセスを考慮に入れなければならない。これ
が、近い将来の選択の問題にとって正しいものとなりうる唯一の制度的構造である」
(Vatn 2005: 421) 複雑な体系の管理のための戦略もいろいろ開発されている(Malik
2008)(図 1)。
これを生物多様性保護という複雑な問題に適用する場合には、問題のある状況の複雑さ
を、公的な取り組みの組織化と結びつける必要がある。これによって(まず第一に)、保
護しようとしている体系内の多様性(価値の多様性、種々の種類の合理的見解、など)
26
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
を可能なかぎり多くとらえることができるようになる。社会-生態学的な複雑さを無視す
ると(経済人間と市場体系の合理的見解だけに限定する、など)、体系の脆弱性が増大し、
体系崩壊の危険性も増すという状況に至ってしまう。私たちが現在直面している複雑な
体系を簡素化したモデルに適用するような価値評価方法、たとえば、貨幣価値評価を使
うのは、有用性の低い結果しかもたらさないばかりか、最初から価値の多様性を切り捨
てていることになる。
O'Connor and Frame (2008) は次のように提起する。「経済価値評価のロジックは……
1. 問題となっている環境の特徴やコミュニティの形態を維持・保護するための案を作
る(有毒な廃棄物の産生を抑止する、指定された森林系やその他の自然の特性を保存す
る、など)、2. かかわりを持つ様々なコミュニティの利益に対して-そして、それらコ
ミュニティ間のインターフェイスの上に-この案がどのようなコミットメントをなすか、
あるいは、どのようなコミットメントを必然的に伴うことになるかを調べる」
体系的
な方法論のもとにこの難題に取り組むために、O'Connor and Frame (2008) は、弁証法
的に簡約化する強力な手続きを導入する。2人の論によると-2つの主要な種類の境界
域があり、境界を超えたところで、貨幣のものさしだけに基づいた選択の結果やトレー
ド・オフ(一方を選択した場合、他方は犠牲にしなければならないという二律背反の関
係)を査定するのは、適切さに疑問がある。科学的な推計が非常に難しいのと同時に、
暗黙の内に機会費用(実際に選択したものとは異なったものを選択していた場合に得ら
れたと考えられる最大の価値・利益)を考慮に入れている 「トレード・オフ」 の案は、
道義上、不適切であると見なされることになる(図2)。
27
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
システムの複雑さ
規模と構成要
素の多様性が
貨幣による価値評価 は科学的な制
度質が低く政策に不適切
(誤差が大きい)
貨幣価値評価は
安定していて
有用
日用品タイプの価値
価値の多様性
倫理的/文化的な信念と
"非利用"の 価値
図2:システムの複雑さと価値の多様性が増大していくと貨幣価値評価は科学的な質が
低下し、政策・方針としての適切さに疑問が生じる
出典:O'Connor and Frame(2008)の図版を描き直し
価値評価の方法は 「Value articulating institution(VAI)」 であること、そして、方
法の選択は価値評価実施の結果に強く影響し、したがって現実の行動にも大きな影響を
及ぼす可能性があること-この事実を受け入れると、人間は制度を変化させる共同プロ
デューサーであり "共同創造者" であるという Atlee (2003)の論が裏づけられる。(グ
ローバルな)環境変化は集合的なプロセスであり、その結果を、私たちひとりひとりは、
全領域にわたって細部まで深く把握することはできない。したがって、地球の状態を理
解し、考察するには、別のよりよい方法が必要になる。Atlee は、個々人の不十分な理
解を寄せ集めるのではなく、集合的な知性-個々人の多様な理解と価値を一貫した形で
統合したもの-こそが必要だと述べる。 「共同知性(co-intelligence)」 とは、創造的
な対応を生み出す人間のキャパシティであり能力であると、Atlee は定義している。
それゆえに、価値評価方法論である Value articulating institution(VAI)を選ぶとい
うことは価値評価の実践の中で定義される。たとえば、
z
28
共同保有や公共性を持たない生態系と生物多様性の、私有財の側面
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
z
z
z
複雑ではなく、単純な体系
社会的ではなく、人間の行動と合理性の、個人として、利己的な側面
対話的ではなく、人間同士の機械的な関係
といった人間の行動と社会-生態学体系の同じ側面と特徴だけからとらえた価値を提示
し、見る者の目で眺め理解した世界だけを提示するということになってしまいかねない。
要するに、私たちが生態系と生物多様性を理解する形が、その価値評価をする方法を決
定し、私たちが価値評価をする方法が、私たちと自然環境との相互作用の形、自然環境
の利用(ないし誤った利用)の形を決定するということである。生態系と生物多様性に
関する決定を行う状況は、単に、価値を除外するという問題ではない。つまるところ、
私たちはこれまで、端的に、生態系と生物多様性の価値を考慮の範囲外に置き去りにし
てきたということなのだ。決定を行う状況は、生態系と生物多様性の価値評価に対して
(私たちの考えるところの)正しい価値評価のための参照の枠組みを適用することにか
かわるものである。
4.
終わりに
生物多様性と生態系サービスの価値評価を試みる場合、様々なトレード・オフ(二律背
反の状況)が現れる。経済的価値評価に関する多くの論文が、そうした課題や問題、こ
れらのアプローチの、論争のある多元的な性格に言及している。社会科学の論文は、経
済的価値評価にいくつかの落とし穴と、潜在する長期的な問題があることを指摘してい
る。残された課題は多い。異なる生態系サービスの間の相互のつながりを説明すること
の難しさ、価値統合制度を推進するためのレベル横断的なツールとメカニズムの欠如、
ローカル・レベルでの資源と生態系に対する衡平な分配と価値累積を推進するための評
価ツールの限界、ほかにもまだまだある。その一方で、経済価値評価は、自分たちが使
っている資源からも、遠く離れた地の生態系とそこに住む人々に与える影響からも、み
ずからを遠ざけつづけてきた社会にとって、現状を認識するツールとして、また、フィ
ードバック・メカニズムとして機能する可能性を持っている。
経済学者たちには、ずっと以前から(単に、エコロジー経済学が台頭しはじめた時から
ではない)、自分たちの価値がすべてを含んでいるわけではないことがわかっていたし、
今もわかっている。つまり、これは、人間そのもののとらえ方、自然における人間の場
のとらえ方、自然そのもののとらえ方を選ぶという問題なのだ。なぜなら、私たちが自
然環境をとらえる形が、自然の価値を評価する形、自然を変える形を決定するからであ
29
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
る。人間-環境の多層的な理解を統合し、人間-環境の価値と、両者の間の意義ある結び
つきを理解するひとつの方法は、生態系サービスに対する人々の好み・選択が引き出さ
れる言葉と、人々がよりくつろぎを感じる言葉との間の大きなギャップに取り組むこと
である。調査研究と政策の言葉にも、同様の不協和音が聞き取れる。議論が日常生活と
現実世界の関心事から離れて、難解な数量化と還元主義の方向に行けば行くほど、人々
は、いい加減に作り上げられた支離滅裂な選択のほうに目を向けてしまうだろう。それ
は単に、私たちが提示する選択肢が、適切というレベルに程遠いからにすぎない(Kumar
and Kumar 2008: 814)。複雑な社会-生態学体系に取り組むことを目指す価値評価体系
は、様々な知識体系の交差する場での信頼性、重要点、正当性の問題、そして、異なる
レベル、異なる集団による情報へのアクセスの問題を理解するという課題に注意を向け
ることを要求する(Cash ら。 2006)。この意味で、価値評価メカニズムは、複雑な社
会-生態学体系の理解を助けてくれる、より広範な領域の診断・査定ツール、政治的-制
度的メカニズムの一部と考えなければならない(Ostrom 2009)。同時に、価値評価メカ
ニズムは、様々なレベル内にある、そして様々なレベルを横断する情報と知識の共同生
産、仲介、翻訳、協議も促進してくれる(Cash et al. 2006; Brondizio et al. 2009)。こ
れらを通して得られた教訓は、文献で価値評価をレビューするとき「1つのサイズです
べてにフィットする」誤りを避けなければならないということである。あるいは、Elinor
Ostrom が複雑な社会-生態学体系を分析する枠組みを提案するとき(Ostrom 2007)の
ように、万能薬幻想を乗り越える必要がある。
私たちの無能力さ、怠慢、イデオロギー上の不寛容さを理解したり、制度(価値統合の
制度も併せて)を整備したり、生態系と生物多様性と人間に対する私たちの知識に、経
済的な価値評価は貢献するはずだ。経済価値評価は、それ自体で、より包括的な経済的
な計算とプランニング、そして、人間でないものに対するより包括的な見解に寄与する
ことができる。一方で、経済的価値評価は異なった人々や自然を、自然や人間社会の意
味を単純化することで、さらにかけはなれたものにしてしまうこともできる。以上を踏
まえると、価値評価のアプローチが価値評価の万能薬として期待するのは難しいが、長
期においては、自然に対する敬意を西洋的世界観と社会生活の中に溶け込ませることに
一役買ってくれるツールとはいえるかもしれない。
30
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
謝辞
次の方々の建設的なコメントと提案に感謝する。Pushpam Kumar、Irene Ring、Luciano
Mattos、Roldan Muradian、Florian Eppink、Erik Gomez、Unai Pascual。 また、E.S.
Brondizio か ら 、 以 下 の 研 究 機 関 の サ ポ ー ト に 対 し て 感 謝 の 意 を 表 し た い 。 the
Laboratoire d’Anthropolog ie Sociale (Collège de France) 、 the Department of
Anthropology and the Anthropolog ical Center for Training and Research on Global
Environmental Change (ACT) at Indiana University-Bloomington。
参考文献
Agarwal, B. Humphries, J. and I. Robeyns 2005. Amartya Sen’s work and ideas: A gender
perspective. New York: Routledge.Alesina, A. and F. Ferrara 2000. Participation in
Heterogeneous Communities. The Quarterly Journal of Economics 105: 847–904.
Angelsen, A. and D. Kaimowitz (eds.) 2001. Agricultural Technolog ies and Tropical
Deforestation.Wallingford, UK: CAB International.
Appadurai, A. (ed.) 1986. The Social Life of Things. Commodities in Cultural Perspective,
Cambridge University Press, Cambridge.
Arrow, K. 1963. Individual values and social choice. 2nd ed. New York: Wiley.
Atlee, T. 2003. The Tao of Democracy. Using Co-Intelligence to Create a World that Works
for All.Cranston: The Writer’s Collective.
Bhattacharya, D.K., Brondizio, E.S, M. Spiemberg, A. Ghosh, and M. Traverse, F. Castro, C.
Morsello, A. Siqueira 2005. Cultural services of ecosystems. In: Kanchan Chopra et al. (eds.)
Ecosystems and Human Well-Being: Policy Responses: Findings of the Responses Working
Group of the Millennium Ecosystem Assessment. London: Island Press. Chapter 14, pp.
401–422.
Bernoulli, Daniel. 1954. Exposition of a New Theory on the Measurement of Risk.
Econometrica,22(1): 23–36. (Orig inal work published 1738.)
Bohnet, I. and B. Frey 1999. Social Distance and Other-Regarding Behavior in Dictator
Games:Comment. American Economic Review 89: 335–339.
Bowles, S. and H. G intis 2004. The Evolution of Strong Reciprocity. Theoretical Population
Biology 65: 17–28.
Brondizio, E.S., E. Ostrom and O. Young. 2009.Connectivity and the Governance of
Multilevel Socioecolog ical Systems: The Role of Social Capital. Annual Review of
Environment and Resource 34.
31
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
DOI: 10.1146/annurev.environ.020708.100707, in press.
Brondizio, E.S. 2008. The Amazonian Caboclo and the Açaí palm: Forest Farmers in the
Global Market. New York: New York Botanical Garden Press.
Brondizio, E.S. and E.F. Moran 2008. Human Dimensions of Climate Change: The
vulnerability of small farmers in the Amazon. Philosophical Transactions of the Royal Society
363: 1803–1809.
Brondízio, E.S. and A.D. Siqueira 1997. From extractivists to forest farmers: chang ing
concepts of agricultural intensification and peasantry in the Amazon estuary. Research in
Economic Anthropology 18: 233–279.
Brush, S. and D. Stabinsky 1997. Valuing local knowledge: indigenous people and intellectual
property rights. Washington, D.C.: Island Press.
Caldwell, L.K. 1990. International environmental policy: Emergence and dimensions, 2d ed.
Durham:Duke University Press.
Capra, F. 1991. The Tao of Physics. Shambhala: Boston.
Caporael, I. 1997. The Evolution of Truly Social Cognition: The core configurations model.
Personality and Social Cognition Review 1: 276–298.
Cash D.W., Adger W.N., Berkes F., Garden P., Lebel L., et al. 2006. Scale and cross-scale
dynamics;governance and information in a multilevel world. Ecology and Society 11(2): 8.
Cason, T. and V-L. Mui 1997. A laboratory study of group polarization in the team dictator
game.Economic Journal 107: 1465–1483.
Clayton, S. and N. Opotow (eds.) 2004. Identity and the Natural Environment: The Psycholog
ical Significance of Nature. The M.I.T. Press, Massachusetts.
Comaroff, J. and J. Comaroff 2009. Ethnicity, Inc.. Chicago: The University of Chicago
Press.Cummings, R., D. Brookshire and W. Schultze 1986. Valuing Environmental Goods: An
Assesment of the Contingent Valuation Method. Totowa: Roman and Allenheld.
Daly, H. and K. Townsend 1993. Valuing the Earth Cambridge: MIT Press.
Damasio, A. 2003. Looking for Spinoza. Joy, Sorrow and the Feeling Brain. London:
Harcourt.
Descola, P. (1996). Constructing natures. In: P. Descola and G. Palsson (eds.), Nature and
Society:Anthropolog ical Perspectives. New York: Routledge.
Descola, P. 1996. Constructing natures: symbolic ecology and social practice. In: P. Descola
and G.Palsson (eds.), Nature and Society: Anthropolog ical Perspectives New York:
Routledge, pp. 81–102.
32
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
Dove, M. 2006. Indigenous people and environmental Politics. Annual Review of
Anthropology 35:191–208.
Diamond, J. 2005. Collapse. How Societies Choose to Fail or Succeed. New York: Penguin.
Dryzek, J. 2000. Deliberative Democracy and Beyond: Liberals, Critics and Contestations.
Oxford:Oxford University Press.
Ellen, R.F. 1996. Introduction. In: R.F. Ellen and K. Fukui (eds.), Redefining nature: ecology,
culture,and domestication (pp. xxii, 664 p.). Oxford; Washington, DC: Berg.
Ellen, R.F. and K. Fukui (eds.) 1996. Redefining nature: ecology, culture, and domestication
(pp. xxii,664 p.). Oxford; Washington, DC: Berg.
EPA [Environmental Protection Agency]. 2009. Valuing the Protection of Ecolog ical Systems
and Services: A Report of the EPA Science Advisory Board. Washington, DC: EPA.
EPA-SAB-09-012 | May 2009 | www.epa.gov/sab
Escobar, A. 1998. Whose knowledge, whose nature? Biodiversity, conservation, and the
Political Ecology of Social Movements. Journal of Political Ecology 5: 53–82.
Etzioni, A. 1986. The case for a multiple utility concept. Economics and Philosophy 2:
159–183.
Fehr, E. and E. Tougareva 1995. Do high stakes remove reciprocal fairness—evidence from
Russia.Working Paper. Zürich: University of Zürich, Department of Economics.
Foster, J. (ed.) 1997. Valuing Nature: Economics, Ethics and Environment. NewYork:
Routledge.
Gatzweiler, F.W. 2003. The Chang ing Nature of Economic Value. Indigenous Forest Garden
Values in Kalimantan, Indonesia. Aachen: Shaker.
Gatzweiler, F.W. 2008. Beyond Economic Efficiency in Biodiversity Conservation. Journal of
Interdisciplinary Economics 19(2&3): 215–238.
G intis, H. 2000. Game Theory Evolving. Princeton: Princeton University Press.
Görg, C. 2007. Landscape governance. The “politics of scale” and the “natural” conditions of
places.Geoforum 38(5): 954–966.
Gowdy, J. 1998. Limited Wants, Unlimited Means. A Reader on Hunter-Gatherer Economics
and the Environment. Washington D.C.: Island Press.
Gowdy, J., R. Iorgulescu and S. Onyeiwu 2003. Fairness and retaliation in a Rural Nigerian
Village.Journal of Economic Behavior & Organization 52: 469–479.
Gowdy, J. and J. Erickson 2005. The approach of ecolog ical economics. Cambridge Journal
of Economics 29: 207–222.
33
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Güth, W. and R. Tietz 1990. Ultimatum bargaining behavior: a survey and comparison of
experimental results. Journal of Economic Psychology 11: 417–449.
Granovetter, M. 1985. Economic Action and Social Structure: The Problem of Embeddedness.
American Journal of Sociology: 481–510.
Greene, L.S. 2004. Indigenous people incorporated? culture as politics, culture as property in
pharmaceutical bioprospecting. Current Anthropology, 45(2): 211–237.
Haugerud, A., M.P. Stone and P.D. Little (eds.) 2000. Commodities and Globalization.
Anthropolog ical Perspectives. Lanham, Maryland: Rowman & Littlefiled Pubishers, Inc.
Hale, C. 2002. Does multiculturalism menace? Governance, cultural rights and the politics of
identity in Guatemala. Journal of Latin American Studies 34: 485–524.
Hames, R. 2007. The ecolog ically noble savage debate. Annual Review of Anthropology 36:
177–190.
Hanemann, W.M. 1988. Economics and the preservation of biodiversity. In: E.O. Wilson and
F.M.Peter (eds.), Biodiversity. National Academy Press, Washington DC, pp. 193–199.
Hanemann, W.M. 1994. Valuing the Environment Through Contingent Valuation. The Journal
of Economic Perspectives (8)4: 19–43.
Heisenberg, W. 1958. Physics and Philosophy. New York: Harper.
Henrich, J., R. Boyd, S. Bowles, C. Camerer, E. Fehr, H. G intis and R. McElreath 2001. In
Search of Homo Economicus: Behavioral Experiments in 15 Small-Scale Societies. The
American Economic Review 91(2): 73–78.
Hayden, C. 2003. When nature goes public. The making and unmaking of bioprospecting in
Mexico.Princeton and Oxford: Princeton University Press. 284 pp.
Johansson-Stenman, O. 2002. What to do with inconsistent, Non-welfaristic, and undeveloped
preferences? In: D.W. Bromley and J. Paavola (eds.), Economics, Ethics and Environmental
Policy: Contested Choices, Wiley Blackwell.
Kahneman, D. 2000. Evaluation by Moments: Past and Future. In: D. Kahneman and A.
Tversky,(eds.), Choices, values, and frames. New York: Cambridge University Press, pp.
693–708.
Kahneman, D. 2003. Maps of bounded rationality: Psychology for behavioral economics. The
American Economic Review 93(5): 1449–1475.
Kasper, W. and M.E. Streit 1998. Institutional Economics. Social Order and Public Policy.
Cheltenham: Edward Elgar.
Kellert, S.R. 1996. The Value of Life: biolog ical diversity and human society. Washington,
34
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
D.C.:Island Press/Shearwater Books.
Kellert, S.R. and E.O. Wilson. (eds.) 1993. The Biophilia Hypothesis. Washington, D.C.:
Island Press.
King, P.N., M. A. Levy, and G. C. Varughese, A. Al-Ajmi, F. Brzovic, G. Castro-Herrera, B.
Clark, E.Diaz-Lara, M. Kamal Gueye, K. Jacob, S. Jalala, H. Mori, H. Rensvik, O. Ullsten, C.
Wall, and Guang Xia, C. Ambala, B. Anderson, J. Barr, I.Baste, E. Brondizio, M. Chenje, M.
Chernyak, P. Clements-Hunt, I. Dankelman, S. Draggan, P. Kameri-Mbote, S. Karlsson, C.
Lagos, V. Mehta, V.Narain, H. Peters, O. Salem, V. Rabesahala, C. Rumbaitis del Rio, M.
Sabet, J. Simpson, and D. Stanners 2007. Chapter 10: From the Periphery to the Core of
Decision Making – Options for Action. Global Environmental Outlook 4 (GEO-4). Nairobi:
United Nations Environmental Program, pp. 455–496.
Kuik, O.J., F.H. Oosterhuis, H.M.A. Jansen, K. Holm and H.J. Ewers 1992. Assessment of
benefits of environmental measures, European Communities, Graham & Trotman.
Kumar, M. and P. Kumar. 2008. Valuation of ecosystem services: A psychocultural
perspective.Ecolog ical Economics 64: 808–819.
Lewin, S. 1996. Economics and Psychology: Lessons for our own day from the early twentieth
century. Journal of Economic Literature 34: 1293–1323.
Malik, F. Strateg ie des Managements komplexer Systeme. Ein Beitrag zur Management
Kybernetik evolutionärer Systeme. Bern: Haupt-Verlag.
Manski, C.F. 2000. Economic Analysis of Social Interactions. Journal of Economic
Perspectives 14:115–136.
Martinez-Alier, J. and L.A. Thrupp. 1992. Reviewed work(s): Ecolog ia y capital: Hacia una
perspectiva ambiental del desarrollo. by Enrique Leff. Latin American Perspectives 19(1):
148–152.
Martinez-Alier, J. 2008. Social metabolism, ecolog ical distribution conflicts and languages of
valuation. Opening lecture. Conference on ‘Common Ground, Converg ing Gazes. Integrating
the social and environmental in History’ at EHEES, Paris, 11-13 Sept. 2008.
Mattos, L., A.R. Romeiro and M. Hercowit, 2009. Economia do meio ambiente. In: L. Mattos
and M.Hercowitz,. (org.). Parte I - Economia do meio ambiente e serviços ambientais no
contexto de populações tradicionais e povos indígenas. Capítulo 3. In: Novion, H. and Valle, R.
É pagando que se preserva? Subsídios para políticas de compensação por serviços ambientais.
Documentos ISA, No 10.
Maturana, H. and F.J. Varela 1928. Autopoeiesis and Cognition. Dordrecht: New Holland.
McCormick, J. 1989. Reclaiming Paradise: The Global Environmental Movement.
Bloomington:Indiana University Press.
35
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
McG innis, M. 1999. Polycentricity and Local Public Economies. Readings from the
Workshop in Political Theory and Policy Analysis. Ann Arbor: University of Michigan Press.
McGuirk, P.M. 2001. Situating communicative planning theory: context, power, and
knowledge.Environment and Planning A 33: 195–217.
Mehra, J. (ed.) 1973. The Physicists´s Conception of Nature. D. Reidel, Dordrecht-Holland.
Mitchell, R. and R. Carson 1989. Using Surveys to Value Public Goods: The Contingent
Valuation Method. Washington: Resources for the Future.
Moran, E.F. 2000. Human Adaptability. 2nd ed. Boulder, CO: Westview Press.
Moran, E.F. 2006. People and nature: an introduction to human ecolog ical relations.
Cambridge:Blackwell Publishers.
Moran, K., S.R. King and T. Carlson 2001. Biodiversity prospecting: lessons and prospects.
AnnualReview of Anthropology 30: 505–526.
Muramatsu, M. 2009. The death and resurrection of ‘economics with psychology’: remarks
from a methodolog ical standpoint. Brazilian Journal of Political Economy 29, No.1 (113):
62–81.
Nazarea, V. 2006. Local knowledge and memory in biodiversity conservation. Annual Review
of Anthropology 35: 317–335.
Nazarea, N. 1998. Cultural memory and biodiversity. Tucson, AZ: The University of Arizona
Press.
NERC (Natural Environment Research Council) 2009. Valuation of Biodiversity: A NERC
scoping study, Final Report. United Kingdom: Natural Environment Research Council.
Norgaard, R.B. 1984. Co-evolutionary Development Potential. Land Economics 60: 160–173.
Norgaard, R.B. 1987. Economics as Mechanics and the Demise of Biolog ical Diversity.
Ecolog ical Modeling 38: 107–121.
North, D.C. 1991. Institutions. The Journal of Economic Perspectives 5(1): 97–112.
OECD 2002. Handbook of biodiversity valuation: a guide for policy makers. Organisation for
Economic Co-operation and Development, Paris.
Ostrom, E. 1990. Governing the Commons. Cambridge, UK, Cambridge University Press.
Ostrom, E., R. Gardner and J. Walker 1994. Rules, games, and common pool resources. Ann
Arbor,The University of Michigan Press.
Ostrom, E. 2007. A diagnostic approach for going beyond panaceas. PNAS 104:
36
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
15181–15187.
Ostrom, E. 2009. A General Framework for Analyzing Sustainability of Social-Ecological
Systems.Science 325: 419–422.
O´Connor, M. 2000. The VALSE project: an introduction. Ecological Economics 34:
165–174.
O’Connor, M. and Frame, B. 2008. In a Wilderness of Mirrors: Complexity, Confounded
Metanarratives and Sustainability Assessment. Centre d'Economie et d'Ethique pour
l’Environnement et le Développement (C3ED), Cahiers du C3ED, France.
O’Riordan, T. (ed.) 2002. Biodiversity, Sustainability and Human Communities: Protecting
Beyond the Protected. Cambridge: Cambridge University Press.
Palsson, G. 1996. Human-Environmental relations: orientalism, paternalism and communalism.
In: P.Descola and G. Palsson (eds.), Nature and Society: Anthropolog ical Perspectives New
York:Routledge, pp. 65–81.
Payutto, V.P.A. 1994. Buddhist Economics. A Middle Way for the Market Place.
Buddhadhamma Foundation Bangkok, Thailand.
Pedrosa, R.P.F. and E.S. Brondizio 2008. The risks of commodifying poverty: rural
communities,Quilombola identity, and nature conservation in Brazil. Habitus Pedrosa and
Brondizio Habitus 5(2): 355–373.
Polyani, K. 1944. The Great Transformation. Boston: Beacon.
Reid, W.V., S.A. Laird, C.A. Meyer, R. Gamez, A. Sittenfield, D. Janzen, M.A. Gollin and C.
Juma 1993. Biodiversity Prospecting: Using Genetic Resources for Sustainable Development.
Washington, D.C.: World Resources Institute.
Roughgarden, J. 2004. Evolution’s Rainbow: Diversity, Gender and Sexuality in Nature and
People.Los Angeles: University of California.
Sagoff, M. 1988. The Economy of the Earth. Cambridge: Cambridge University Press.
Sagoff, M. 1998. Aggregation and deliberation in valuing environmental public goods: a look
beyond contingent pricing. Ecolog ical Economics 24(2–3): 213–230.
Sahlins, M. 1996. The Native Anthropology of Western Cosmology. Current Anthropology
37(3):395–428.
Schkade, D.A. and J.W. Payne 1994. How People Respond to Contingent Valuation
Questions: AVerbal Protocol Analysis of Willingness to Pay for an Environmental Regulation.
Journal ofEnvironmental Economics and Management 26: 88–109.
Schumacher, E.F. 1973. Small is beautiful. A study of economics as if people mattered.
37
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
London:Blond and Briggs.
Sen, A. 1970. The impossibility of a Paretian Liberal. Journal of Political Economy 78:
152–157.
Sen, A.K. 1973. Behaviour and the concept of preference. Economica 40 (159): 241–259.
Seyoum, A. 2009. Microeconomics of wild coffee genetic resources conservation in
Southwestern Ethiopia. PhD Thesis, Humboldt University of Berlin, Division of Resource
Economics,Department of Agricultural Economics, Berlin, Germany.
Shmelev, S.E. 2008. Multicriteria Analysis of Biodiversity Compensation Schemes: Review of
theory and practice with a focus on integrating socioeconomic and ecolog ical information.
UK:Environment Europe.
Slovic, P., N. Kraus and V. Covello 1990. What should we know about making risk
comparisons?Risk Analysis 10: 389–392.
Spash, C.L. 2008. Deliberative monetary valuation (DMV) and evidence for a new theory of
value.Land Economics 84(3): 469–488.
Stratford, E. and M. Jaskolski 2004. In pursuit of sustainability? Challenges for deliberative
democracy in a Tasmanian local government. Environment and Planning B 31: 311–324.
Temper, L. and J. Martinez-Alier 2007. Is India too poor to be green? Economic and Political
Weekly 28 April 2007.
Tool, M.R. 1986. Essays in Social Value Theory. A Neoclassical Contribution. New York:
Armonk.
Tversky, A. and D. Kahnemann. 1974. Judgements under uncertainty: Heuristics and Biases
Science,185: 1124–1131.
Tversky, A., P. Slovic and D. Kahneman 1990. The causes of preference reversal. American
Economic Review 80(1): 204–217.
Turner, R.K., J. Paavola, P. Cooper, S. Farber, V. Jessamy and S. Georg iou 2003. Valuing
nature:lessons learned and future research directions. Ecolog ical Economics 46: 493–510.
Tylor, E.B. 1871. Primitive Cultures. New York: G. P. Putman’s Sons.
UNEP 2007. Global Environmental Outlook 4 (GEO-4). Nairobi: United Nations
Environmental Program.
Varela, F.J. 1999. Ethical know-how: action, wisdom, and cognition. Stanford, CA: Stanford
University Press.
Vatn, A. 2005. Institutions and the Environment. Cheltenham: Edward Elgar.
38
第 4 章:生態系と生物多様性の評価への社会経済学的評価
Vatn, A. and D. Bromley 1994. Choices without prices without apolog ies. Journal of
environmental economics and management 26: 129–148.
West, P., Igoe, J. and Brockington, D. 2006. Parks and peoples: the social impact of protected
areas.Annual Review of Anthropology 25: 251–277.
Wilk, R. 1993. Towards a Unified Anthropolog ical Theory of Decision Making in: I. Barry
(ed.),Research in Economic Anthropology. Greenwich, CT.: JAI Press, pp. 191–212.
Wilk, R. 2002. Consumption, Human Needs, and Global Environmental Change. Global
Environmental Change 12(1): 5–13.
Wilk, R. and L. Cliggett 2006. Economies and Cultures: Foundations of Economic
Anthropology.Second Edition. Westview Press.
Williamson, O.E. 2000. The New Institutional Economics: Taking Stock, Looking Ahead.
Journal of Economic Literature 38(3): 595–613.
Wilson, E.O. 1984. Biophilia. Cambridge MA: Harvard University Press.
Young O.R. 2006. Vertical interplay among scale-dependent environmental and resource reg
imes.Ecology and Society 11(1): 27 [online].
http://www.ecologyandsociety.org/vol11/iss1/art27/
Zavestoski, S. 2004. Constructing and maintaining ecolog ical identities: the strateg ies of
deep ecolog ists. In: Clayton, S., et al. (eds.), Identity and the Natural Environment: The
Psycholog ical Significance of Nature. The M.I.T. Press, Massachusetts, pp. 297–316.
Zimmerer, K.S. (ed.) 2006. Globalization and New Geographies of Conservation. Chicago:
University of Chicago Press.
Zografos, C. and Howarth, R.B. (eds.) 2008. Deliberative Ecolog ical Economics. Oxford:
Oxford University Press.
Zografos, C. and J. Paavola 2008. Critical perspectives on human action and deliberative
ecolog ical economics. In C. Zografos and R.B. Howarth (eds.), Deliberative Ecolog ical
Economics, Delhi: Oxford University Pre
39
第5章
生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
代表主筆:
Unai Pascual、Roldan Muradian
主筆:
Luke Brander、Erik Gómez-Baggethun、Berta Martín-López、Madhu Verma
寄稿者:
Paul Armsworth、Michael Christie、Hans Cornelissen、Florian Eppink、Joshua Farley、
John Loomis、Leonie Pearson、Charles Perrings、Stephen Polasky
査読者:
Jeffrey McNeely、Richard Norgaard、Rehana Siddiqui、R. David Simpson、
R. Kerry Turner
査読編集者:
R. David Simpson
2010年3月
目次
主要なメッセージ ......................................................... 1
1 はじめに ................................................................ 2
2 生態系サービスの経済的価値評価 .......................................... 5
2.1 価値評価はなぜ必要か .................................................. 6
2.2 価値評価の理論的枠組み ................................................ 7
2.3 TEVの枠組み及び価値の種類 ............................................ 10
3. 価値評価手法、厚生の評価、不確実性 .................................... 15
3.1 TEVアプローチにおける価値評価手法 .................................... 15
3.1.1 直接的市場評価法 ................................................... 16
3.1.2 顕示選好アプローチ ................................................. 18
3.1.3 表明選好アプローチ ................................................. 19
3.1.4 価値評価法の選択と適用: 森林及び湿地帯 ............................. 25
3.2. 価値評価における不確実性の認識 ...................................... 33
3.2.1 生態系サービスの供給に関する不確実性 ............................... 34
3.2.2 生態系サービスについての選好に関する不確実性 ....................... 36
3.2.3 価値評価ツールの適用による技術的な不確実性 ......................... 39
3.2.4
今後の対策としてのデータ補強モデルと選好較正 ...................... 41
4. 保険価値、回復力、(準)オプション価値 .................................. 43
4.1 生態系の回復力の価値とは ............................................. 46
4.2 生態系回復力評価の主な課題 ........................................... 48
4.3 (準)オプション価値の扱い ............................................. 50
5 関係者横断的な価値評価及び発展途上国での価値評価の適用 ................. 52
5.1 関係者横断的な価値評価 ............................................... 52
5.2 開発途上国における金銭的価値評価の利用 ............................... 54
6 便益の伝達と価値のスケールアップ ....................................... 58
6.1 生態系サービス価値評価の手法としての便益の伝達 ....................... 58
6.2 個別生態系サイトの生態系サービスの便益伝達の課題 ..................... 60
6.2.1 伝達誤差 ........................................................... 60
6.2.2 伝達される価値の集計 ............................................... 61
6.2.3 空間規模に関連する課題 ............................................. 62
6.2.4 生態系の特性及び文脈による価値の変動 ............................... 63
6.2.5 一定しない限界価値 ................................................. 64
6.2.6 距離減衰及び空間割引 ............................................... 65
6.2.7 公平性の重み付け ................................................... 67
6.2.8 生態系サービスの価値の一次評価の可用性 ............................. 67
6.3 生態系サービスの価値のスケールアップ ................................. 68
7 結論 ................................................................... 71
参考文献 ................................................................. 77
付属文書A. ............................................................... 105
付属文書B ............................................................... 106
5章の付属文書の参考文献 ................................................. 131
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
主要なメッセージ
z
総経済価値(TEV)の枠組みにおいて、生態系は、産出価値(現在の状態の生態系で生
み出される価値、たとえば、食物生産、気候調整、レクリエーション価値など)に加
えて保険価値も生み出すことができる。後者(保険価値)は、
「オプション価値」と密
接に関係しており、人間の厚生に対する取り返しのつかない負の影響を伴う構造転
換(レジームシフト)が生態系で起きないようにする価値である。生態系又は生態
系の一部の要素が現在は産出価値をまったく生み出していない場合でも、そのオプ
ション価値は重要である可能性がある。
z
生態系及び生物多様性が生み出す様々なサービス及び便益の価値を評価する手法に
は、さまざまな価値評価アプローチが存在する。それらのどのアプローチにも、利
点と欠点があるが、ハイブリダイゼーション・アプローチは、特定の価値評価手法
の欠点を克服する可能性がある。
z
一般に価値評価技術は、特に表明選好法は、生態系力学に関する知識の欠如、人間
の選好、価値評価プロセスにおける技術的な問題などが原因で生じる不確実性の影
響を受ける。不確実性の問題を価値評価調査に含め、不確実性が高い状況、あるい
は構造転換(レジームシフト)に関する知識がない状況での価値評価技術には限界
があることを認識する必要がある。
z
価値評価の結果は、社会的、文化的、及び経済的文脈に大きく依存するが、文脈の
境界が関連する生態系の構図と重なっていない場合がある。関係する利害関係者を
特定し、参加させることによって、より良い価値評価を達成することができる。
z
価値評価アプローチとその結果を世界の地域間で伝達することは難しいが、特に、
多くの多様な生態系を評価することが目的である場合、便益の伝達は、地域の生態
系の価値を評価するための実用的で迅速かつ低コストの方法になり得る。価値は、
生態系の特性及び生態系が提供するサービスの受益者によって異なる。したがって、
一次的価値が得られる場所と価値が伝達される場所が著しく異なっている場合は、
価値を補正することが推奨されている。 誤った伝達が行われるのを避けることは難
しく、精度の高い評価が必要な場合は、一次的価値の調査を行う必要がある。
z
金銭的価値評価は、生態系管理活動によって生じる厚生の変化に関して有益な情報
を提供できるが、価値評価技術には、まだ解決されていない限界がある。価値評価
実行者は結果をそのような限界があるものとして提示する必要があり、また政策立
案者は、それに応じて価値評価データを解析及び使用する必要がある。
z
生態系が臨界閾値に近づいており、また生態系の変化は元に戻すことができないか、
戻せたとしても莫大な費用がかかるため、金銭的価値評価に限界があることは、特
に重要である。不確実性が非常に高く、生態学的閾値が存在する状況では、政策は、
「安全最小基準」及び「予防的措置」の原則を指針として決定されるべきである。
1
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
1
はじめに
経済学とは、限られた資源をどのように割り当てるかの研究であり、価値評価に基づい
て資源不足の相対的な水準に関する情報を社会に提供する。生態系サービス及び生物多
様性の価値は、我々社会がこれらの天然資源を保護するために何を代償とする意思があ
るかを反映する。生態系サービス及び生物多様性の経済的価値評価を行うことにより、
生態系サービス及び生物多様性が十分でないこと、これらの価値の下落又は劣化は社会
にとっての関連コストになることを、社会一般、特に政策決定者に対して明確に示すこ
とができる。これらのコストが転嫁されない場合、政策は誤った方向へ導かれ、資源の
誤った配分が原因で社会につけが回ることになる。
経済的に言えば、資産の使用が機会費用を伴う場合、その資産は不足している。すなわ
ち、ある量の商品をさらに得るためには、一定量の何か別のものをあきらめなければな
らない。経済的観点から見れば、生態系サービスの定量化及び価値評価は、人間が生産
する商品又はサービスの定量化及び価値評価と何ら変わりはない。しかし、実際には、
生態系サービスの価値評価には問題がある。多くの供給サービスの価値については合理
的な評価がなされているが(十分に発達した市場が存在する場合)、ほとんどの市場化さ
れていない文化的サービス及び調整サービスの価値については、信頼できる評価はほと
んどない(Carpenter 2006, Barbier et al. 2009 年)。問題は、ほとんどの生態系サービス
及び生物多様性は公共財であるため、社会によって過剰消費される傾向があることであ
る。
経済的な観点から、生物多様性(及び生態系)は、我々の自然資本の一部と広く捉えるこ
とができ、生態系サービスのフローは、社会が受け取るその資本の「利子」である
(Costanza and Daly 1992 年)。個人投資家が資本ポートフォリオを選択してリスクを伴
う運用益を管理するのと同様に、生態系サービスの将来のフローを維持するのに必要な
水準の生物多様性及び自然資本を選択して、環境の質及び貧困の削減を含む人間の厚生
を確実に持続させる必要がある(Perrings et al. 2006)。
この章は、基本的には、生態系サービス及び生物多様性が直接的又は間接的に人間のニ
ーズを満たす又は人間に満足を与える範囲内においては、社会は生態系サービス及び生
物多様性に価値を与えることができる、という前提に立っている(ただし、さまざまな形
2
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
の功利主義が存在する。Goulder and Kennedy 1997 を参照)。生態系サービスの価値を
評価するためのこのアプローチは、商品やサービスの量や質がわずかに変化した際に
人々の選好に現れる変化の度合いに基づいている。価値の経済学的概念は、このように
人間中心的であるが、これらの価値が政策決定の指針となり得る情報を提供するという
意味で、ほとんどの場合、有益である。この価値評価アプローチは、第 4 章で論じたよ
うに、生物多様性保全に関する他の合理的、倫理的、科学的推論及び議論を補完する目
的で使用すべきであり、これらの代替とすべきではない(Turner and Daily 2008)。
価値評価は、生物多様性及び生態系サービス保全のための市場を、たとえば、生態系サ
ービスに対する支払いを通じて創造しようとする際に、重要な役割を果たす(Engel et al.
2008; Pascual et al.2010)。このような市場を創造するには、主に、価値の見える化、
価値の割り当て、保全による便益の共有という 3 つの段階のプロセスを経る必要がある
(Kontoleon and Pascual 2007)。
見える化とは、生態系サービスのフロー及びその価値を特定し測定することである(第 2
章及び第 3 章も参照)。割り当てとは、持続的な供給を可能にするための動機を与えるた
めに、見える化され測定された生態系サービスの価値の一部またはすべてに関する情報
を捕捉するプロセスである。この段階は、基本的には、生態系サービスの見える化され
た価値を市場システムを通じて「内部化」し、これにより、それらの価値が生物多様性
資源の利用の決定に影響を及ぼすようにする。内部化は、市場が「不完全」な場合は市
場を改善し、市場が全く存在しない場合は市場を創造することによって達成される。便
益共有の段階では、対象となる生態系サービスの便益が保全コストを負担した者に分配
されるように、割り当てのメカニズムを設計する必要がある。
生態系及び生物多様性の総経済価値(TEV)の概念は、本章全体を通じて使用されている。
この概念は、自然資本が現在及び将来において生み出すすべてのサービスフローの価値
の合計から適切な値を割り引いた値と定義されている。これらのサービスフローは、サ
ービスの供給における限界変化に対して価値が評価される。TEV には、一般的な勘定単
位(貨幣、あるいはさまざまな商品の便益の比較を可能にする市場ベースの測定単位)を
使用して、生態系サービスから生じる、有用、非有用に限らないすべての要素が含めら
れる。多くの社会では、人々は勘定単位として貨幣に既に馴染みがあるため、貨幣価値
を単位として相対的選好を表すことは、政策決定者に対して有益な情報を提供すること
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ができる。
本章では、TEV の要素の様々な分類法及び分類、ならびに、さまざまな種類の生態系サ
ービスの要素を評価するために使用できる価値評価ツールについて概説する。生態系サ
ービスが複雑な性質を持つことを考えると、経済的価値評価は、生態学的閾値や非線形
性の存在、社会生態学的システムの回復力の概念をどのように取り込むか、不確実性の
影響、生態系サービスの評価価値の増大など、重要な課題に直面しているといえる。本
章ではこれらの課題について概説し、最良の事例から、生態系、生態系サービス、及び
生物多様性の価値評価を行う際にそれらを扱うための指針を提供する。
本章を読み進める際に留意すべき重要な注意点は、本章の内容は、生態系サービスに対
する概念的アプローチについては前章(第 1 章及び第 2 章参照)に従っているが、生態学
者が生態系を定義し理解する方法には複数の方法があること、また、本章で示すように、
それらの方法のうち、経済学のストック-フローモデル、すなわち、資本と利子のアナロ
ジーに対応できる方法はわずかであることも認識していることである。
本章の構成は次のとおりである。セクション 2 では、まず、なぜ生態系サービスの価値
を評価する必要があるのか、環境問題に関する政策決定に影響を及ぼす可能性がある価
値の種類は何かといった基本的な問題について、TEV アプローチの説明も含めて論じる。
セクション 3 では、生態系サービス及び生物多様性の TEV の様々な要素を評価するた
めに使用される主要な手法について、その欠点も含めて検討する。各手法について概要
と簡単な説明を提供するとともに、特定の生態系サービスや要素の価値を評価するため
に特定の手法を使用することの妥当性について論じる。また、価値評価技術に内在する
様々な種類の不確実性についても取り上げる。
セクション 4 では、生物多様性の回復力、オプション価値、準オプション価値、保険価
値など関連する概念について論じることにより、生態系の保険価値について考察を加え
る。価値評価の結果は、社会的、文化的、及び経済的勾配によって異なり、制度的規模
が関連する生態系や生態系サービスの空間規模に対応していることはめったにない。セ
クション 5 では、これらの話題について、利害関係者の関与、参加型価値評価手法、開
発途上国での価値評価調査実施に特有の課題などを含めて議論する。
4
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
セクション 6 では、便益の伝達について考察する。これは、一次調査を実施するには時
間的にも金銭的にも費用がかかりすぎる場合に、価値を評価するために広く用いられて
いる技術である。このセクションでは、便益の伝達を行うための既存の技術を示し、生
態学的、社会的、経済的に異なる文脈をまたいで技術を適用した場合に生じる可能性が
ある問題を解決するために必要な修正について論じる。またセクション 7 では、生態系
政策に情報を与えるために価値評価が果たす役割について検討し、結論付ける。
2
生態系サービスの経済的価値評価
自然の本質的価値と利用価値の相対的な重さを比較するための哲学的基礎について合意
を得ることは困難である。Box1 に、この議論におけるいくつかの主要な見解を簡単に
示した。第 4 章で述べたように、価値評価については別の考え方もあるが、本章では、
実用的な観点から、経済的価値評価の背景及び手法を採用している。経済的価値とは、
人間の目標が精神的啓もう、審美的喜び、あるいは何らかの市販品の製造のいずれであ
る場合でも、その目標の達成において役割を果たしている資産の価値をいう(Barbier et
al. 2009)。天然資源などの資産に固有の特性というよりはむしろ、資産から生じるサー
ビスに対して支払う意思を通じて経済主体が与えた価値である。これは資産の客観的な
特性(たとえば、物理的特性、生態学的特性)によって決定されるが、支払い意思額は、
価値評価が行われる社会経済状況、すなわち、人間の選好、制度、文化などに大きく依
存する(Pearce 1993, Barbier et al. 2009)。
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box1: 本質的価値と利用価値に関する議論
これまで現代の環境保護主義の背後にある論理的根拠の核心を成してきたのは、倫理的価
値及び審美的価値であるが、実利的な議論が最近組み込まれたことにより、環境保全団体
では激しい議論が始まっている。一般的に、生態学者は、本質的な生態学的価値に基づく
生物中心の見方を主張してきたのに対し、経済学者は利用価値に重点を置いた人間中心の
見方を採用している。この議論における主な争点は、生物多様性及び生態系サービスの保
全に関する決定を行う際における、これら 2 つの異なるアプローチの補完性又は代替性の
程度である。一部の執筆者は、これら 2 つの論理的根拠は補完性があると考え、これらを
併用することに矛盾を認めていない(たとえば、Costanza 2006)。一方で、他の執筆者は、
実利的な見方を採用することは、人間と自然の関係がますます費用-便益原理に基づいて道
具的に捉えられるようになるような社会的変化を引き起こす可能性があると主張してい
る(McAuley 2006)。行動実験から得られた所見は、何らかの補完性が存在する可能性があ
る一方で、経済的インセンティブは、保全に対する道徳的動機を弱める可能性もあること
を示唆している(Bowles 2008)。
2.1
価値評価はなぜ必要か
重要な疑問の 1 つは、なぜ生態系サービス及び生物多様性の価値を評価する必要がある
のか、ということである。経済学とは選択に関する学問であり、すべての決定に先立っ
て、さまざまな代替物間で価値の重さが計られる(Bingham et al. 1995)。生態系生命維
持システムは、経済的成果及び人間の厚生にとって欠くことのできない多種多様な生態
系サービスを支えている。しかし、現在の市場からは、 商品又はサービスとして価格が
付けられ取引に組み込まれているごく一部の生態系プロセス及び生態系構成要素につい
てしか、価値に関する情報が得られていない。このことが構造的な制約となり、市場は、
決定プロセスに関わる生態学的価値の実態を包括的に提示することが難しい状態にある
(MA 2005)。さらに、ほとんどの生態系サービスは、人間が作り出した資産から生じる
サービスと比較できる単位で定量化することが難しいことから、情報の不備も生じてい
る(Costanza et al., 1997)。この観点から、生態系価値評価の背後にある論理は、社会と
生態系の関係の複雑さを解明し、人間の決定が生態系サービスの価値にどのように影響
を与えるかを明確にし、価値を公的な意思決定プロセスに組み込むことを可能にする単
位(たとえば、貨幣)で価値の変化を表す必要がある(Mooney et al. 2005)。
6
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
経済的な意思決定は、たとえば、森林の木の伐採や、汚染された池の回復が原因で生態
系に加えられたわずかな変化によって生じた経済的厚生の変化を理解することによって
なされるべきである(Turner et al. 2003)。つまり、価値は、世界自体の状態ではなく、
世界の状態におけるわずかな変化がもたらす影響に言及する限りにおいて、限界概念で
ある。この点において、生態学的資産の価値は、他の資産の価値と同様に、個人的かつ
主観的であり、文脈依存的、状態依存的である(Goulder and Kennedy 1997、Nunes and
van den Bergh 2001)。したがって、経済的価値の評価には、選好、所得と富の分配、
自然環境の状態、生産技術、将来に対する期待など数多くの社会生態学的条件を前提と
した、すべての資源(人工資源、財務資源、天然資源)の現在の選択パターンのみが反映
される(Barbier et al. 2009)。 これらの変数のどれが変化しても、経済的価値の評価は
影響を受ける。
まとめると、価値評価調査を実施する理由として少なくとも次の 6 点が挙げられる。
z
市場が存在しない
z
市場が不完全かつ不備がある
z
一部の生物多様性の商品及びサービスについては、代替物及び代替利用を理解し正
しく評価することが必須である。
z
天然資源の需要と供給が、特に将来において不確実である。
z
政府は、生物多様性/生態系保全プログラムを設計するために、制約があったり管理
されている、あるいは経営上の観点から設定されている市場価格ではなく、価値評
価を使用したい場合がある。
z
正味現在価値法などの手法で利用するために天然資源の勘定を行うためには、価値
評価は必須である。
2.2
価値評価の理論的枠組み
価値については複数の理論が存在するため、価値評価を実施する際は、理想的には、i)
代替の、相反する場合がある、価値評価理論が存在することを認識し、ii)使用している
価値評価理論とその前提について明確に理解しておくべきである。価値評価のためのさ
まざまなアプローチを調査してみると、さまざまな生物物理学アプローチから成る生物
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
物理学的手法と、経済学でよく使用される選好ベースの手法という、2 つの違いのはっ
きりした価値評価理論を特定することができる。これらの手法を図 1 にまとめた。
生物物理学的価値評価では、特定の商品又はサービスを生産するための物理的費用(労働
力、仕上げ加工要件、エネルギー投入、原料投入など)の測定から価値を導き出す「製造
原価」の視点を用いる。生態系サービス及び生物多様性の価値評価においては、このア
プローチは、特定の生態学的状況を維持するための物理的費用について検討する。Box2
では、圧倒的に使用されている選好ベースの手法の代替の方法として、価値評価及び勘
定に生物物理学的アプローチを適用する是非を簡単に論じている。
Box 2: 価値評価及び勘定への生物物理学的アプローチの適用
多くの経済学者が、価値評価を実施するための基盤として生物物理学的測定を支持してき
た。選好ベースのアプローチとは対照的に、生物物理学的価値評価法は、古典派経済学の
一部の価値理論(たとえば、リカード派やマルクス主義者による価値の体化労働理論)と同
様に、「製造原価」アプローチを使用する。生物物理学的アプローチは、基礎にある物理
的パラメータを測定することにより、対象物の本質的特性に基づいて価値を評価する
(Patterson 1998 を参照)。生物物理学的測定は、一般的に、生態系サービスのフローの余
力の価値評価より、自然資本の価値評価に有用である。これは、一部の文化的サービスの
ように、生態系サービスを直接生物物理学的に表現することができない場合に、特に当て
はまる。具体的には、生物物理学的測定は、(人工資源と天然資源間の置換は行えないと仮
定している)強力な持続可能性フレームワークにおいて、自然資本の減価償却を計算する際
に特に役立つ。自然資本の価値評価又は勘定のために生物物理学的手法を使用する例とし
ては、内包エネルギー分析(Costanza 1980)、エマージー分析(Odum 1996)、エクセルギ
ー分析(Naredo 2001; Valero et al.(近刊))、エコロジカルフットプリント(Wackernagel et
al. 1999)、物質フロー分析(Daniels and Moore 2002)、土地被覆フロー(EEA 2006)、純一
次生産の人間による専用率(HANPP)(Schandl et al. 2002)などがある。
8
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
手法/ツール/
モデル
価値評価/会計処理
の対象
概念的
アプローチ
選好ベースのアプローチ
保険
価値
算出価値
利用
価値
非利用
価値
物理的消費
回復
価値
社会的正義
物理的
コスト
義務論的価値
辞書的選好
オプション
又は準オプ
ション
直接的利
関節的利
用価値
用価値
市場分析
市場分析
原価法
取替原価法
ヘドニック
価格
軽減原価法
原価法
生産関数
回避原価法
遺産
生存
利他主義
非人道的価値
仮想市場
評価
グループ価
値評価
仮想選択
審議型価値
評価
仮想市場
評価
規律の
枠組み
生物学的アプローチ
新古典派経済学/
市場理論
政治学
反転の
可能性
構造転換(レジー
ムシフト)分析
エネルギー/
エクセルギ
ー/
エマージー
物質/
地表面/
土地被覆
リスク分析
物質フロー
総合
分析
エネルギー
投入産出分析
エクセルギーエコロジカルフ
分析
ットプリント
エマージー 土地被覆
フロー
合成
回復理論
産業生態学/熱力学
適応循環
パナーキー
出展: Gómez-Baggethun 及び de Groot 作成(近刊)
図 1: 自然の価値評価アプローチ
価値評価に対する生物物理学的アプローチとは対照的に、選好ベースの手法は、人間の
行動モデルに依存しており、価値は個人の主観的選好から生じるという前提に基づいて
いる。この考え方は、生態系の価値は、生態系価値同士だけでなく、人工資源や財務資
源などとも、貨幣価値で共約可能であること、そして、貨幣による測定は、生態系の代
替使用で発生するトレードオフを確立する方法を提供することを前提としている(さま
ざまな価値の共約可能性に関する議論については、Box3 を参照)。
生物物理学的アプローチと選好ベースのアプローチは、異なる公理的枠組み及び価値理
論に基づいており、したがって、一般的には互換性がないことに注意する必要がある。
環境の価値評価における価値の測定及び提示に複数の単位を使用する必要性については、
現在、議論が続いている(さまざまな価値の共約可能性に関する議論についての簡単な概
要については、Box3 を参照)。本章では、主として選好ベースのアプローチを扱ってお
り、経済的価値評価と金銭的価値評価の用語は、同じ意味で用いている。
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box3: 相反する価値評価用語と価値の共約可能性
さまざまな種類又は次元の価値を、単一の測定尺度にどの程度共約させることができるか
については議論が残っている。Georgescu-Roegen(1979)は、価値の理論(選好ベースアプ
ローチ又は生物物理学的アプローチ)を単純化の方法として適用するような一元論的立場
を批判している。同様に、Martinez-Alier(2002)は、天然資源の価値評価では、経済的、
審美的、生態学的、精神的など価値評価に関するさまざまな相反する用語を使用する必要
があり、これらは単一の測定尺度に共約することはできないと述べている。このような考
え方では、価値の「弱い比較可能性」が強調されており(O'Neill 1993; Martinez-Alier et al.
1998)、価値は互いに「共約不可能」な関係にあるとされている。この考え方によれば、
意思決定支援ツールは、複数の共約不可能な価値の統合を可能にするようなものでなけれ
ばならない。多基準分析(MCA)は、複数の価値のそれぞれに相対的な重みを割り当てた後、
それらの価値の形式的積分を可能にする(Munda 2004)。金銭的分析と同様に、MCA の結
果は、選好が順位付けされたものであり、さまざまな代替物間での決定を行うための基礎
とすることができるが、MCA の場合は、すべての価値を単一の単位に変換する必要はな
い(結果は、計数的順位ではなく、序数的順位である)。このように、MCA は、意思決定プ
ロセスにおける複雑性を考慮に入れたツールである。この手法の弱点は、科学者、又は、
一般参加型プロセスの場合は、利害関係者間の力の不均衡によって、価値の重みづけが簡
単に偏ったものになる可能性がある点である。このようなリスクは透明性のある審議プロ
セスにより減じることができるが、それには、時間と資源を大量に費やすことにもなるた
め、一般的に、意思決定者には利用されていない(Gomez-Baggethun 及び de Groot 2007)。
2.3
TEVの枠組み及び価値の種類
経済的な観点から言えば、生態系の価値(又はシステム価値)については、2 つの異なる側
面を考慮する必要がある。第一は、特定の状態で提供される生態系サービスの便益の価
値の総額で、これは TEV の概念に類似している。第二の側面は、変動や外乱に直面し
てもこれらの価値を維持できるシステムの能力に関する価値である。前者は「産出」価
値と呼ばれることもあり、また後者は「保険」価値と名付けられている(Gren et al. 1994;
Turner et al. 2003; Balmford et al. 2008)(図 2)。
10
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
「総経済価値」の「総」は、社会生態学的システムにおける限界変化の下で測定された
価値を種類(利用価値及び非利用価値)をまたいで合計していることを意味しており、一
定した状態にある生態系又は生物多様性(資源)を単位をまたいで合計していることは意
味しないことを強調しておく必要がある。生態系サービスの分野における最近の文献で
は、生態系サービスの価値を評価する際に最終生産物(便益)に焦点を当てる必要がある
ことが強調されている。このアプローチは、生態系機能、中間サービス、及び最終サー
ビスの二重勘定を防ぐのに役立つ(Boyd and Banzhaf 2007; Fisher et al. 2009)。
回復力
機能
構造
保険価値
コア生態系プロセス
例: 水循環
便益の持続的フロー
を維持する生態系の
能力
生態系機能
生態系の経済
的価値
例: 水の供給、浄化、調整
算出価値
生態系サービスの便益
直接的生態系サー
家庭、工業、及び灌漑用水
ビス及び便益に伴
う価値
図 2:生態系の経済的価値に含まれる保険価値及び産出価値
図は、生態系の経済的価値の 2 つの主要な要素として、保険価値(生態系の回復力
に関連する価値)と産出価値(生態系サービスの便益に関連する価値)を示してい
る。
生態系の保険価値は、生態系システムの回復力及び自己組織化能力と密接に関係してい
る。回復力の概念は、衝撃を吸収し再組織化して基本的な構造と機能を維持しようとす
る生態系の能力、すなわち、特定の生態学的状態を保つ、つまり構造転換(レジームシ
フト)を防ぐ能力に関係している(Holling 1973; Walker et al. 2004)。生態系の回復力
を確保するには、
「健全な」機能発揮を可能にする最低限の量の生態系インフラ及び処理
能力を維持する必要がある。このような最低限の生態系インフラには、「臨界自然資本」
の概念を通じてアプローチすることができる(Deutsch et al. 2003; Brand 2009)。 臨界
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
自然資本の状態及び関連する保険価値は、ストックの予防保全または最小安全基準の設
定によって認識される場合が多い。しかし、回復力や臨界自然資本を経済的観点からど
のように測定するかという問題は残る。これらの難問については、本章第 4 項でさらに
詳細に論じる。
生態系の「産出価値」に対応する便益は、熱帯雲霧林による水流の制御や、マングロー
ブによる嵐などの自然災害による被害の緩和など、全く異なるさまざまな価値に広く及
んでいる。このような種類の価値の導出は、一般に、直接的市場に基づく金銭的価値評
価のために使用できる手法、あるいは、そのような手法がない場合は、後述する顕示選
好法又は表明選好法によって処理することができる。
新古典派経済学の理論では、市場取引が存在しない状態で提供され消費される生態系サ
ービスは、正の外部性と考えることができる。これを市場の不完全さと捉えて、環境経
済学では、1960 年代初め以降、生態系からのこのような「見えざる」便益の価値を評価
するためのさまざまな方法がされてきたが、これらの手法は、多くの場合、「見えざる」
便益を拡張費用便益分析に組み込み、外部性を内部化すること目指している。環境の経
済的価値を総合的に把握するため、市場によって無視されてきたさまざまな種類の経済
的価値が特定され、測定方法が徐々に改善されてきている。実際、市場化されていない
環境商品及びサービスの価値評価に関して、環境経済学の分野では、膨大な数の関連文
献が発表されており、今なお増え続けている。
Krutilla(1967)による重要な研究以降、生態系の総(産出)価値は、一般的に、利用価値と
非利用価値の 2 つに分類され、それぞれの分類がさらにさまざまな価値要素に分けられ
るようになっている(図 3)。Pearce and Turner(1991)、de Groot et al.(2002)、de
Groot(2006)、Balmford et al.(2008)によって定義された各要素の意味を表 1 にまとめた。
12
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
総経済価値
利用価値
非利用価値
間接
利用
直接
利用
消費的
作物、
家畜、
漁業、
野生植物、
水産養殖
生物多様性
に対する
利他主義
博愛的
価値
オプション
価値
実在価値
遺産
価値
利他的
価値
存在
価値
非消費的
レクリエーション、 害虫防除、
精神的/文化的
受粉、
福祉、
水の調整及び浄化、
研究、
土壌生産性
教育
既知/未知の便
益の将来におけ
る利用
将来の世代が自
然の便益を利用
できることを知
る満足感
他の人が自然の 種又は生態系が
便益を利用でき 存在することを
知る満足感
ることを知る満
足感
図 3:TEV アプローチにおける価値の種類
図 3 は、自然の価値評価に関する文献で取り上げられている価値の種類を概観したもの
である。 濃い灰色で網掛けした四角形及び矢印の下に記載した例は、TEV の枠組みに
関連する価値導出方法によって直接取り上げられている価値である。
表 1:価値の類型
価値の類型
利用価値
価値の小類型
直接利用価値
間接利用価値
オプション価値
非利用価値
遺産価値
利他的価値
存在価値
意味
生物多様性の人間による直接的な利用の結果(消費的
及び非消費的)。
種及び生態系によって提供される環境調整サービス
から生じる。
個人の便益に関する生態系サービスの将来の利用可
能性に人々が与える重要性を扱う(厳密な意味でのオ
プション価値)。
将来の世代も種及び生態系からの便益を利用できる
という事実に個人が与える価値(世代間公平に対する
関心)。
現世代の他の人が種及び生態系によって提供される
便益を利用できるという事実に個人が与える価値(現
世代内の公平に対する関心)。
個人が種及び生態系が存在し続けるという知識だけ
から得る満足感に関連する価値。
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
利用価値は、私的財又は準私的財に関する価値で、通常、市場価格が存在する。利用価
値は、さらに次の 2 つの分類に分けられる場合が多い。第一に、(a)生態系サービスの直
接的な利用から得られる便益に関係する直接利用価値である。このような利用は、消費
を伴う収奪利用(たとえば、食物や原材料)である場合も、非収奪利用(たとえば、風景か
ら得られる審美的便益)である場合もある。(b)間接利用価値は、通常、大気質調整、浸
食防止などの調整サービスと関連しており、一般的に市場取引に反映されない公共サー
ビスとみることができる。
価値を検討する際の時間的な枠組みを拡張することで、特定の生態系サービスの将来に
おける利用の可能性の価値を評価することができる。このような価値は、多くの場合「オ
プション価値」と呼ばれる(Krutilla and Fisher 1975)。しかし、オプション価値を TEV
の真の要素として検討することには異論があることを述べておく必要がある(Freeman
1993)。この観点から、オプション価値は、不確実な条件下で TEV を定義する方法、保
険料、あるいは不確実性の解消を待つ価値として、理解することができる。後者の場合、
オプション価値は、一般に、準オプション価値と呼ばれる。
生態系の将来における利用可能性及び関連するオプション価値に関わる不確実性を示す
例として、たとえば、植物の医薬としての利用の可能性を発見するための生物資源調査
活動がある。この例における非常に重要な問題は、特定の有機体が将来、商業的利用可
能であることが判明するかどうか、また、どのような商業的利用を開発する必要がある
かである。これについては、セクション 4 でさらに詳細な議論を行っている。
生態系の非利用価値とは、対象となる生態系サービスの直接的又は間接的利用を伴わな
い価値である。非利用価値は、個人が、生物多様性及び生態系サービスが維持されるこ
と、また他の人が現在及び将来にわたってそれを利用できることを知ることから得られ
る満足感を反映する(Kolstad 2000)。前者のケースの非利用価値は、通常、「存在価値」
と呼ばれる。一方、後者は、利他的価値(同世代内公平に対する関心)又は遺産価値(世代
間公平に対する関心)に関連している。
非利用価値は、道徳的、宗教的、又は審美的特性に関連するが、通常、これらの市場は
存在しないため、非利用価値の評価は利用価値の評価に比べてかなり困難であることを
指摘する必要がある。これは、具体的な物や条件の生産や価値評価に関連している他の
14
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
サービスと異なる点である。文化的サービス及び非利用価値は、一般に、価値査定者の
心の中で起こる経験を生産する。これらのサービスは、したがって、他のサービスより
深い意味で生態系と人によって共同生産される(Chan et al. (近刊))。表 2 に、生態系サ
ービスのさまざまな価値の分類間の関係について概要を示した。これらの価値の分類の
総計が TEV に反映される。
表 2:TEV の枠組みによる生態系サービスの価値評価
NA: 該当なし
グループ
サービス
供給
以下を含む
食物、繊維及び燃料、
生化学、
*
NA
*
NA
自然薬品、
調合薬、淡水供給
以下を含む
大気質調整、
気候調整、水調整、
自然災害の調整、
NA
*
*
NA
炭素貯蔵、
栄養分の再循環、微
気候機能など。
以下を含む。
文化遺産、
レクリエーション、
*
NA
*
*
ツーリズム
審美的価値
以下を含む。
生息環境サービスは、他の分類の生態系サービスを通
一次生産、
じて評価される。
栄養分の循環、
土壌形成
調整
文化的
生息環境
直接利用
間接利用
3.
価値評価手法、厚生の評価、不確実性
3.1
TEVアプローチにおける価値評価手法
オプション
価値
非利用価値
TEV の枠組みでは、価値は、生態系サービスに直接関係する市場取引によって提供され
る個人の行動に関する情報から導き出される(可能な場合)。このような情報がない場合
は、評価する商品に間接的に関係する並行市場の取引から価格情報を導き出す必要があ
る。生態系サービスについて、直接的/間接的価格情報がいずれも存在しない場合は、価
15
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
値を導き出すために仮想の市場が作られる場合がある。これらの状況は、生態系サービ
スの価値評価に使用される手法の一般的な分類、(a)直接的市場評価法、(b)顕示選好法、
及び(c)表明選好法に対応している(Chee 2004)。以下では、各手法について簡単に説明
するとともに、それぞれの利点と欠点について論じる。また、さまざまな価値評価条件、
目的、生態系サービスの種類、価値の種類を評価する場合の各手法の妥当性についても
論じる。
3.1.1 直接的市場評価法
直接的市場評価アプローチは、(a)市場価格ベースのアプローチ、(b)費用ベースのアプロ
ーチ、及び(c)生産関数に基づくアプローチの 3 つの主要なアプローチに分けられる。こ
れらのアプローチを使用する主な利点は、実際の市場から得たデータが使用されるため、
実際の個人の選好や費用が反映される点である。しかも、このようなデータ、すなわち、
価格、数量、費用などは現実に存在するものであり、したがって比較的容易に入手でき
る。
市場価格ベースのアプローチは、ほとんどの場合、供給サービスの価値を得るために使
用される。これは、供給サービスによって生産される商品は、たとえば農産物市場など
で販売されることが多いためである。良く機能している市場では、生産物の選好や限界
費用が市場価格に反映されており、このことは、商品の価値に関する正確な情報として
これらの情報を使用できることを意味している。商品の価格に生態系サービスの限界生
産量をかけたものがサービスの価値の指標であり、したがって、市場価格は、調査対象
の生態系サービスの価値の良い指標として利用できる。
費用ベースのアプローチは、生態系サービスの便益を人工的な手段で再生産する必要が
ある場合に発生する費用の推定額に基づいている(Garrod and Willis 1999)。様々な手法
があり、たとえば、(a)回避原価法は、生態系サービスが存在しない場合に発生したであ
ろう費用を推定する。また、(b)取替原価法は、生態系サービスを人工的な技術に置き換
えることによって発生する費用を推定し、(c)軽減原価法又は回復原価法は、生態系サー
ビスの喪失によって発生した影響を軽減するための費用またはそれらのサービスを回復
させるための費用を推定する。
16
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
生産関数ベースのアプローチ(PF)は、特定の生態系サービス(たとえば調整サービス)が
既存の市場で取引されている別のサービス又は商品の提供にどの程度寄与しているかを
評価する方法である。言い換えると、PF アプローチは、収入または生産性の増大に対
する生態系サービスの寄与に基づいている(Mäler 1994; Patanayak and Kramer 2001)。
つまり、生態系サービスを強化した結果として「資源基盤や環境品質が向上すると、コ
ストや価格を押し下げ、販売される商品の数量を増大させ、消費者の剰余金、及び恐ら
くは生産者の剰余金も増大させることにつながる」という考え方である(Freeman 2003、
259 ページ)。PF アプローチは、一般に、次の 2 段階の手順から成る(Barbier 1994)。
まず第一段階では、経済活動において、生物資源又は生態系サービスの変化の物理的な
影響を判定する。第二段階では、これらの変化の影響を、取引活動で販売された産出物
の対応する変化の観点から評価する。この際、産出物の価値の総計と投入物に対する限
界生産物の価値は、明確に区別する必要がある。
したがって、PF アプローチでは、通常、評価対象の生態系サービスと販売される商品
の産出レベルとの原因-結果関係に関して、科学的な知識を使用する。PF アプローチで
は、生物物理パラメータの客観的計測値が使用される。Barbier et al.(2009)が述べてい
るように、多くの生息環境では、経済活動を支援又は保護する特定の生態系サービスに
これらがどのように関係しているかについて十分な科学的知識があるため、生産関数ア
プローチを用いてサービスの価値を評価することが可能である。
直接的市場評価アプローチの限界
直接的市場評価アプローチは、主に、生産又は費用データに基づいて評価を行うが、こ
れらのデータは一般に、生態系サービスに対する需要を把握するために必要な種類のデ
ータに比べて容易に入手できる(Ellis and Fisher 1987)。しかし、生態系サービスの価
値評価に適用する場合、これらのアプローチには、重要な限界がある。この限界は、主
に、生態系サービスには市場がない又は市場が歪められていることが原因である。
発生する直接的な問題には 2 つの要素がある。生態系サービス自体にも、間接的に関係
している商品又はサービスにも市場が存在しない場合、直接的市場評価アプローチに必
要なデータは入手できない。また、たとえば、補助金政策(TEEB D1 参照)が原因で、あ
るいは市場が十分に競争的でないために、市場は存在するが歪められている場合、価格
に選好及び限界費用が適切に反映されない。したがって、生態系サービスの推定価値は
17
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
偏ったものになり、政策決定の根拠とすることができる信頼できる情報が提供されない。
直接的市場評価アプローチの中には、固有の問題があるものもある。Barbier(2007)は、
取替原価法は、特に不確実性が高い状況では、慎重に使用する必要があることを説明し
ている。PF アプローチには、評価する生態系サービスと販売されている商品の因果関
係についての十分なデータと理解がしばしば不足しているという問題がさらに存在する
(Daily et al. 2000; Spash 2000)。言い換えると、生態系サービスの「生産関数」が十分
に理解されていて、生産されるサービスの量を数値化したり、生態系の状態や機能の変
化を提供される生態系サービスの変化にどのように変換するかを数値化できる、という
ことはめったにない(Daily et al. 1997)。また、生態系サービスの相互接続性および相互
依存性により、生態系サービスが二重に勘定される可能性が高い場合もある(Barbier
1994; Costanza and Folke 1997)。
3.1.2 顕示選好アプローチ
顕示選好手法は、価値評価の対象である生態系サービスに関連する既存市場における個
人の選択の観察に基づく手法である。この場合、経済主体は選択を通じて選好を「顕示」
するという。 このアプローチには、次に説明する 2 つの主要な手法がある。
(a)トラベルコスト法(TC)は、主として、生物多様性及び生態系サービスに関連するレク
リエーション価値の評価に関わる手法である。この手法は、レクリエーション体験は費
用(直接費用及び時間の機会費用)に関連付けられるという論拠に基づいている。(生物
多様性の変化の結果として生じた)レクリエーション地の質又は量の変化の値は、評価対
象のレクリエーション地への訪問に関する需要関数を評価することにより推測できる
(Bateman et al. 2002; Kontoleon and Pascual 2007)。
(b)ヘドニック価格(HP)アプローチは、販売されている商品の環境要素に対する黙示的な
需要に関する情報を利用する。たとえば、一般に住宅や地所は複数の要素で構成されて
いるが、そのうちの一部は、住宅の森までの近さや素晴らしい景色が見えるかなど、環
境的な性質を持つ要素である。したがって、生物多様性又は生態系サービスの変化の値
は、不動産(建物又は(半)自然状態の土地)の価値の変化に反映される。不動産に対する需
要関数を評価することにより、分析者は、環境財によって生み出される非市場環境便益
18
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
の変化の値を推定することができる。
顕示選好評価調査を実施する主な手順は次のとおりである。
1. 対象となる環境資源に関連する代替市場が存在するかどうかを判定する。
2. 使用する適切な手法(トラベルコスト法、ヘドニック価格法など)を選択する。
3. 代替市場で取引されている商品の需要関数の推定に使用できる市場データを収集す
る。
4. 推定した需要関数を基に、環境資源の質/量の変化の値を推定する。
5. 適切な母集団全体の価値を集計する。
6. 必要に応じて価値を割り引く。
顕示選好アプローチの限界
顕示選好法では、市場の不完全性や政策の失敗によって、生態系サービスについて推定
した金銭的価値が歪められる可能性がある。科学者は、各取引に関する良質なデータ、
大量のデータセット、複雑な統計分析を必要とする。結果的に、顕示選好アプローチは、
費用と時間のかかる手法である。一般に、顕示選好アプローチの手法は、実際の観察さ
れた行動に基づいているという点で魅力的であるが、主な欠点は、非利用価値を評価で
きないこと、環境財と代替市場商品との関係に基づいてなされた技術的な前提に基づい
て推定された価値に依存している点である(Kontoleon and Pascual 2007)。
3.1.3 表明選好アプローチ
表明選好アプローチは、生態系サービスの供給における仮想的な(政策誘導型)変化に関
する調査を行うことにより、生態系サービスの市場及び需要をシミュレーションする手
法である。表明選好法は、生態系の価値が割り引かれる可能性がある代替市場が存在し
ない場合に、生態系の利用価値及び非利用価値の両方の評価に使用できる。表明選好法
の主な種類は次のとおりである。
(a)仮想市場評価法(CV): アンケートを用いて、生態系サービスの供給を増加又は拡張す
るためにいくら支払う意思があるか(支払意思額)、あるいは、生態系サービスの損失又
は劣化に対していくら受け取りたいか(受入補償額)を人々に尋ねる手法である。
19
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
(b)選択モデル(CM):
特定の状況における個人の意思決定プロセスをモデル化しようと
する試みである(Hanley and Wright 1998; Philip and MacMillan 2005)。個人に対して、
評価対象のサービスについて共通の要素を持つが、要素のレベルは異なる 2 つ以上の選
択肢が示される(要素のうちの 1 つはサービスに対して人々が支払う必要がある金額)。
(c)グループ評価: 表明選好法を政治学の審議プロセスの要素と組み合わせた手法で
(Spash 2001; Wilson and Howarth 2002)、価値多元主義、共約不可能性、非人的価値、
社会正義などの個人ベースの調査では抜け落ちてしまうような価値の種類を捉える方法
としてますます利用されるようになっている(Spash 2008)。
Kontoleon and Pascual(2007)が指摘しているように、CV と CM の主な違いは、CV 調
査では通常、回答者には選択肢が 1 つだけ示されることである。この選択肢は、何らか
の(回答者によって異なる)価格に関連付けられている。回答者は、この選択肢を支持し
て支払いを行う意思があるか、あるいは現状を支持するか(追加の支払いは行わない)を
選択するよう求められる i。市場主体としての選択と市民としての選択の違いは、CV の
結果の解析に重要な影響を及ぼす(Blamey et al.1995)。
20
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Box4:仮想市場評価調査実施手順(Kontoleon and Pascual 2006)
1. 調査の設計
z
z
z
z
z
z
まず、フォーカスグループによる討論、利害関係者との協議を行い、評価対象の商品
を定義する。
市場の性格を決定する。すなわち、取引される商品、現状、評価する商品の改善又は
劣化レベルを決定する。
取引される「商品」について提供される情報(商品に対して支払うのは誰か、商品か
ら利益を得るのは誰か)の質と量を決定する。
財産権の配分を設定する(支払意思額(WTP)又は受入補償額(WTA))のどちらのシナ
リオを提示するかを決定する)。
信頼できるシナリオ及び支払手段(税、寄付、価格)を決定する。
誘出方法を選択する(たとえば、二項選択法か自由誘出法か)。
2. 調査の実施とサンプリング
z
z
z
インタビューの実施: 現地、対面、メール、電話、インターネット、グループなど。
回答率を上げるための誘因を検討する。
インタビュアー: 民間企業、調査者自身
サンプリング: 便宜的サンプル、代表及び層化サンプル
3. 厚生変化の量を計算する
z
z
自由誘出法: 単純平均又はトリム平均(外れ値を除外。これについては異論があるこ
とに注意)。
二項選択法: WTP 又は WTA の期待値を推定する
4. 技術的な検証
z
ほとんどの CV 調査は、付け値関数を推定することにより回答者の WTP(又は WTA)
付け値を調査することで、回答の検証を試みる。
5. 集計と割引
z
z
たとえば、ある場所への訪問者の標本平均 WTP に年間の合計訪問者数をかけること
で、適切な母集団について、平均/中央 WTP から総 WTP を計算する。
計算された値を必要に応じて割り引く。
6. 調査評価
z
作成された評価の検証及び信頼性をテストする。
CM 調査では、調査の回答者は複数の選択肢から選択できる。それぞれの選択肢はさま
21
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ざまな要素で構成され、そのうちの 1 つは価格または補助金である。回答者は、次に、
さまざまな要素を比較(トレードオフ)して、すべての選択肢を検討するよう求められる。
これらの手法はどちらも、生物多様性又は生態系サービスの量の変化から TEV を算定
するために使用することができる。CV 法のほうが設計及び実施が複雑でないが、CM 法
は、環境資源の特定の特性(又は要素)の変化の価値評価を行うのにより優れている。Box4
に CV 調査を実施するための手順を、Box5 に生物多様性の価値評価を目的とした CM
調査の例を示した。
Box5:選択モデル調査による生物多様性における変化の価値評価例
Christie et al.(2007)による調査では、英国における代替生物多様性保全政策の価値が
CM 法を用いて評価された。この調査では、代替保全政策の下での生物多様性の総価値、
及び政策の要素(又は特性)の 1 つについて変化の限界価値が算定された。調査された政策
特性は、保護される種の親密性、種の希少性、生息環境特性、及び保存される生態系サ
ービスの種類である。政策は、毎年の税収から資金が供給される。調査対象の個人に提
示された選択肢の例を以下に示す。
政策レベル 1
政策レベル 2
馴染みのある野生生物種
馴染みのある種の
うち希少種をさら
なる減少から保護
する
珍しい/馴染みのない野
生生物種
珍しい/馴染みの
ない種の減少の速
度を遅らせる
生息環境の質
既存の生息環境の
管理を改善するな
どして、生息環境
を回復させる
ヒトに直接的な影
響がある生態系サ
ービス(洪水防止
など)のみ回復さ
せる。
₤100
馴染みのある種の
うち希少種及び一
般種のどちらも、
さらなる減少から
保護する
珍しい/馴染みの
ない種の減少を止
め、確実に回復さ
せる
生息地を新たに作
るなどして、生息
環境を再構築する
生態系プロセス
年税の増加
22
何もしない
(生物多様性の劣
化が継続する)
馴染みのある種の
個体数が引き続き
減少する
珍しい/馴染みの
ない種の固体数が
引き続き減少する
野生生物の生息環
境が引き続き劣化
し失われる
すべての生態系サ
ービスを回復させ
る
生態系プロセスの
機能が引き続き減
少する
₤260
税金の請求額は増
加しない
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
回答者は、政策 1、政策 2、現状維持(何もしない)からの選択を求められた。このような
調査は、生物多様性に対する通商政策の影響を総合的に評価する際の有益な情報を提供
できる。英国の農地に影響を与える可能性がある EU の農業従事者助成政策の変更を考
えてみよう。英国の田園地方に存在し、生物多様性を維持し豊かな生物多様性を育み、
重要な生物多様性サービスを生み出している網の目のように張り巡らされた生垣は、こ
の改訂された助成政策の影響を受けるだろう。前述の CE 調査の結果を利用すれば、政
策立案者は現在の生垣網の変化から生じる可能性がある生物多様性の損失の概算値を得
ることができる。
グループ評価アプローチは、従来の金銭的価値評価法の短所を克服する方法として認め
られてきた。このアプローチに含まれる主な手法には、環境の変化の価値を金銭的に表
すことを目的とする審議型貨幣評価(DMV)(Spash 2007,2008)、媒介モデルなどがある。
表明選好法の枠組みでは、表明認知、態度スケール、事前知識など、生態系サービス評
価のための他の重要なデータも簡単に得ることができる。
これらの情報はすべて、選択と選好を理解するのに有益であることが分かっている
(Adamowicz 2004)。 表明選好法は、利害関係者がさまざまな生態系サービスをどの程
度重要視しているかの度合いを相対的に概算するのに適した方法であり(Nunes 2002;
Martín-López et al. 2007; García-Llorente et al. 2008)、利害関係者間、及び代替管理
オプション間の潜在的な対立を明らかにで切る場合が多い(Nunes et al. 2008)。
表明選好アプローチの限界
表明選好法は、非利用価値を評価できる唯一の方法である場合が多い。選択対象の理解
に関しては、インタビューの過程で選択対象は「確実に」理解されると主張されること
が多いが、市場の仮想的な性質から、評価の妥当性に関して多くの問題が提起されてい
る(Kontoleon and Pascual 2007)。主な問題点は、回答者の仮説に基づいた回答が、現
実の世界で実際に費用が発生した場合に回答者がとる行動と一致するかどうかである。
表明選好法に関する文献で注意が喚起されている主要な問題の 1 つは、支払意思額
(WTP) と受入補償額(WTA)の相違である(Hanneman 1991; Diamond 1996)。理論的な
23
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
見方をすれば、WTP と WTA は、完全に競争的な民間市場では似たような値になるはず
である(Willing 1976; Diamond 1996)。しかし、複数の調査は、同一の生態系サービス
に対して、WTA の金額が WTP を制度的に上回ることを示している(Vatn and Bromley
1994)。このような相違が生まれるのは、作成したアンケートの不備、インタビュー技
術、回答者による戦略的行動、「損失回避」「授かり効果」などの心理的な影響など複数
の原因による(Garrod and Willis 1999)。
もう 1 つの重要な問題は、
「包含効果」、
「部分-全体バイアス」、あるいは「スコープ無反
応性」と呼ばれる問題である(Veisten 2007)。中でも Kahneman(1986)は、いち早く、
CV 調査の回答者はスコープに対して無反応であると主張した。彼がこのスコープ無反
応性を観察した調査では、人々は、魚の固体数の減少を防ぐための支払意思額として、
オンタリオ州の小さい地域に対しても、オンタリオ州全体に対しても同じ金額を支払う
と回答した(以下も参照。Kahneman and Knetsch 1992; Boyle et al. 1994、1998;
Desvousges et al.1993; Diamond and Hausman 1994; Diamond et al. 1993; Svedsäter
2000)。
また、非利用価値を貨幣価値で共約できるかという議論もある(Martínez-Alier et al.
1998; Carson et al. 2001)。ここでの問題点は、たとえば、森林に起因することがある
宗教的価値や遺産価値を、その森林の伐採やレクリエーションなどの経済的価値と同じ
枠組みの中で考えることができるかどうかである。このような広範な範囲の価値が、す
べての政策問題に同じように関係することはないかもしれないが、この問題は今のとこ
ろ未解決のままである。
さらに、表明選好法を複雑であまり馴染みのない公共財に適用することは、回答者の選
好が十分に定義されないため、回答者が正確な回答を行うことができないという理由で
問題視されてきた(Svedsäter 2003)。表明選好法では、アンケートに基本的な事前情報
が組み込まれることがある(例: García-Llorente et al. 2008; Tisdell and Wilson 2006;
Wilson and Tisdell 2005)。また、Christie et al. (2006)は、価値評価ワークショップを
開催すると、選好について議論し検討する機会を回答者に与えることができ、表明選好
法に関連して存在する可能性がある認識及び知識の制約を克服するのに役立つと主張し
ている。通常、審議型貨幣評価法では、利害関係者に事前情報が提供される。審議型貨
幣評価法のバイアスは、個別に行われる CV 調査に比べて少ないといわれている(de
24
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Groot et al. 2006)。このような手法は、さらに非回答率を減少させ、回答者の参加を促
す可能性がある。
3.1.4 価値評価法の選択と適用: 森林及び湿地帯
このセクションの主な目的は、さまざまな種類の生態系の価値を導き出すために価値評
価手法がどのように適用されているかについて例を示すことである。ここでは、特に森
林及び湿地帯のさまざまな価値を評価するために適用された価値評価技術について豊富
な文献レビューを行い、その結果を表にまとめて示した。ここで提示されている情報は、
価値評価実施者が関心のある価値に応じて適切な価値評価手法を選択する際に役立つだ
ろう。価値評価技術の分類と適用については既に数多くの文献で扱われているため、こ
のセクションでは、対象範囲を限定している。
他の文献でも詳しく論じられているように(NRC 1997; 2004; Turner et al. 2004; Chee
2004)、他の価値評価手法に比べて特定の生態系サービスの評価に適している手法もあ
れば、特定の価値要素の導出に適している手法もある。表 3 に、特定の手法と価値要素
との関係を示した。
表 3:価値評価手法と価値の種類の関係
アプローチ
市場評価
手法
価値
価格ベース
市場価格法
直接的及び間接的利用価値
費用ベース
回避原価法
直接的及び間接的利用価値
取替原価法
直接的及び間接的利用価値
軽減原価法/回復費用法
直接的及び間接的利用価値
生産関数アプローチ
間接的利用価値
要素所得法
間接的利用価値
トラベルコスト法
直接的(間接的)利用価値
ヘドニック価格法
直接的及び間接的利用価値
仮想市場評価法
利用価値及び非利用価値
選択モデル/コンジョイント分析
利用価値及び非利用価値
仮想ランキング法
利用価値及び非利用価値
審議型グループ評価法
利用価値及び非利用価値
生産高ベース
顕示選好
表明選好
25
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表 4 では、生態系サービスの価値評価に適用される可能性がある手法の一部を示して簡
単な説明を行うとともに、参照先の文献を示している。
表 4:金銭的価値評価法と価値: 文献からの
出展: King and Mazotta(2001)、Wilson and Carpenter(1999)、de Groot et
al.(2006)から作成
手法
市場評
価
市場価格
価 格 ベ
ース
回避原価
取替原価
軽減原価/
回復費用
生産関数/要素所得
顕示選
好
トラベルコスト法
ヘドニック価格法
シミュ
レーシ
ョン評
価
仮 想 市 場 評 価 法
(CVM)
選択モデル
グループ評価
26
説明/例
主に「商品」(例: 魚)に適用され
るが、文化(例: レクリエーショ
ン )や調 整 サ ー ビ ス(例 : 受 粉 )に
適用される場合もある。
洪水調節サービスの価値は、洪水
が発生した場合に推定される損
害から導き出すことができる。
地下水涵養の価値は、別の水源か
ら水を得る場合にかかる費用(代
替費用)から評価できる。
たとえば、湿地帯のサービス(例:
洪水防壁)が存在しない場合の事
前防止費用、移転費用など。
土壌の肥沃度が作物の収量を上
げ、ひいては農家の収入を増加さ
せる度合、あるいは水質の改善が
商業漁獲高を増やし、ひいては漁
師の収入を増加させる度合。
たとえば、ある土地のレクリエー
ション価値の一部は、人々がその
土地を旅行する際に費やす時間
や金額に反映される。
たとえば、きれいな空気、水辺の
存在、美しい風景は、周辺の不動
産価格を上昇させる。
非利用価値を評価する唯一の方
法である場合が多い。調査のアン
ケートでは、たとえば、回答者は、
水泳、ボート、釣りなどの活動を
楽しめるようにするために水路、
湖、川などの水質を改善する意欲
を示すよう求められる。
選択実験、仮想ランキング、仮想
評定、一対比較などさまざまな手
法により適用できる。
調査時の選好形成、価値を割り当
てるよう求められている事柄に
ついての回答者の知識の不足な
ど、顕示選好法の欠点を解決でき
る。
参照先
Brown et al. 1990;
Kanazawa 1993
Gunawardena&Rowan
2005;
Ammour et al.2000;
Breaux et al.1995;
Gren 1993
Pattanayak&Kramer
2001
Whitten&Bennet2002;
Martín-López
et.al.2009b
Bolitzer&Netusil2002;
Garrod&Willis 1991
Wilson & Carpenter
2000; Martín-López
et.al.2007
Hanley
&
Wright
1998;Lii
et
al.2004;Philip&MacMi
llan2005
Wilson&Howarth2002;
Spash2008
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
主に、調整サービスは回避原価、取替原価、回復原価、仮想市場評価によって、文化的
サービスはトラベルコスト(レクリエーション、ツーリズム、化学的発見)、ヘドニック
価格(審美的情報)、仮想市場評価(精神的便益、すなわち存在価値)によって、また供給サ
ービスは、生産関数アプローチや直接市場価値評価アプローチに基づく手法によって評
価されている(Martín-López et al. 2009a)。
専門家によって検証された 314 件の価値評価事例研究(添付書類参照)を調査し、その結
果を、生態系サービスの特定のカテゴリ又は種類の評価に使用された価値評価アプロー
チ及び特定の価値評価技術に関する定量的情報として表 5~表 6 にまとめた。また、湿
地帯及び森林という 2 つの生物群系に絞って価値評価調査を検証し、表 7 及び図 4 に湿
地帯及び森林の価値をまとめた。
添付書類 A の表では、さまざまな種類の生態系サービスの経済的価値を評価するための
価値評価手法の使用に関する文献について、広範な概要を提供している。調査の範囲は
湿地帯と森林に限られているが、これは、これら 2 つの生物群系に関する調査が最も多
かったためである。添付書類 A では、これらの生物群系によって提供される生態系サー
ビスと、それらに適用された評価技術について概要を示すとともに、表 1 に示した価値
の類型に従ってこれらの情報を整理した表を提供している。
表 A1(a、b)は、(a)湿地帯及び(b)森林の主要な生態系サービスカテゴリー(供給、調整、
文化、及び基盤サービス)内の便益/価値の種類を示している。また、経済的価値を評価
するために用いられた価値評価アプローチを特定している。表 A2(a、b)は、これら 2 つ
の生物群系の生態系サービスを価値評価アプローチと関連付けて補足的に示している。
表 A3 には、(a)湿地帯及び(b)森林の生態系サービスの便益と価値の種類を、価値の種類
ごとに関連付けてしめした (さまざまな利用/非利用価値を含む)。
27
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表 5:価値評価文献における生態系サービス評価のための様々な価値評価手法の使用
価値評価手法
回避原価
便益の伝達
生物経済学モデル
選択モデル
消費者余剰
仮想ランキング
変換費用
CVM
損害費用
要素所得/生産関数
ヘドニック価格
市場価格
軽減原価
純価格法
機会費用
参加型価値評価
公共投資
取替原価
回復費用
代替商品
トラベルコスト法
総計
文化
1
9
0
16
1
1
0
26
0
1
5
0
0
0
1
2
0
2
1
0
32
100%
供給
2
3
1
4
0
2
1
10
0
33
1
7
2
1
17
3
1
3
2
4
3
100%
調整
26
4
0
7
0
0
0
9
6
9
0
3
3
0
1
3
1
20
6
0
3
100%
基盤
0
6
0
17
0
0
0
33
0
0
0
0
0
0
6
0
28
11
0
0
0
100%
表 6:生態系サービス評価に使用されている価値評価アプローチ
価値評価アプローチの種類
文化
供給
調整
基盤
便益の伝達
9
3
4
6
費用ベース
5
27
61
17
生産高ベース
1
33
9
0
顕示選好
38
18
7
28
表明選好
46
19
19
50
総計
100%
100%
100%
100%
注:データは、専門家によって検証された文献で公表されている価値評価調査の
ものである。価値評価調査の総数は 314 である。参考文献については、添付
書類を参照されたい。
i
WTA シナリオが使用される場合は、特定の助成金に関連付けられるように、政策の
選択肢が回答者に示される。回答者は、その政策を支持し助成金を受け取るかどうか、
又は現状を支持し助成金を受け取らないかを決定する必要がある。
28
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
森林
項目名
便益の伝達
便益の伝達
費用ベース
回避原価
変換費用
損害費用
軽減原価
機会費用
取替原価
回復費用
生産高ベース
生物経済学モデル
要素所得/生産関数
顕示選好
消費者余剰
ヘドニック価格
市場価格
純価格法
公共投資
代替商品
トラベルコスト法
表明選好
選択モデル
仮想ランキング
CVM
参加型価値評価
総計
文化
2
2
2
0
0
0
0
0
0
2
2
0
2
57
0
7
0
0
0
0
50
37
11
2
22
2
100%
森林
小計
供給
1
1
30
2
0
0
4
20
2
1
30
0
30
27
0
2
12
1
0
6
5
12
0
2
9
1
100%
調整
5
5
69
33
0
10
3
3
18
3
8
0
8
13
0
0
5
0
3
0
5
5
0
0
5
0
100%
基盤
0
0
14
0
0
0
0
7
7
0
0
0
0
36
0
0
0
0
36
0
0
50
14
0
36
0
100%
2
2
30
8
0
2
2
10
6
2
16
0
16
32
0
3
7
1
3
3
16
20
4
2
13
1
100%
湿地帯
文化
16
16
9
2
0
0
0
2
4
0
0
0
0
20
2
4
0
0
0
0
13
56
22
0
31
2
100%
供給
6
6
24
2
2
0
0
13
4
4
39
2
37
4
0
0
0
0
4
0
0
28
9
2
11
6
100%
調整
3
3
52
16
0
0
3
0
23
10
10
0
10
0
0
0
0
0
0
0
0
35
16
0
13
6
100%
基盤
25
25
25
0
0
0
0
0
25
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
50
25
0
25
0
100%
湿地帯小
計
総計
9
9
25
5
1
0
1
6
9
4
18
1
17
8
1
1
0
0
1
0
4
40
16
1
19
4
100%
5
5
28
7
0
1
2
8
7
3
17
0
16
22
0
2
4
0
3
2
11
28
9
1
16
3
100%
表 7:森林及び湿地帯に関する生態系サービスに適用された価値評価手法の比率(調査対象文献に基づく)(添付書類参照)
29
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表明選好
顕示選好
生産高ベース
基盤
調整
供給
文化
基盤
調整
供給
文化
森林
費用ベース
便益の伝達
湿地帯
図 4:森林及び湿地帯によって提供される生態系サービスの価値評価に使用された価値
評価アプローチ
まとめると、ここで説明した各手法には利点と欠点があるが(Hanley and Spash 1993;
Pearce and Moran 1994)、それぞれ、特定の生態系サービスや価値の種類に特に適して
いる可能性がある。表 8 に、湿地帯のケースを使用してさまざまな技術の利点と欠点を
まとめたが、この情報は、他の生物群系にも使用できる。
最後に、検討対象に加えることができる「複合的な」価値評価手法が存在することも述
べておく必要がある。たとえば、生産関数アプローチを表明選好法にリンクさせて、ト
ーテム種によって提供される文化的サービスなどの経済的価値を評価することも、理論
的には可能である。Allen and Loomis(2006)は、このようなアプローチを使用して、高
栄養段階の種の保全に対する支払意思額を調査した結果から低栄養段階の種の価値を導
き出している。具体的には、最上位捕食者の WTP の直接評価から、餌となる種の保全
に対する黙示的な WTP を導き出している。
30
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 8:湿地帯調査に適用された価値評価手法
価値評価技術
市場価格法。国内外で取引さ
れる商品及びサービスの実勢
価格を使用する。
有効(影の)価格法。市場価格
を使用するが、価格は、輸送
費、市場の不完全さ、政策の
歪みに応じて補正される。分
布重みづけを組み込むことも
でき、この場合、公平性に関
する懸念が明確になる。影の
価格は、市場化されていない
商品についても計算できる。
ヘドニック価格法。環境アメ
ニティ(景色など)の価値を不
動産市場又は労働市場から取
得する。基本的に、観察され
る財産価値(又は賃金)は便益
の流れ(又は労働条件)を反映
し、関連する環境アメニティ
又は環境要素の価値を分離す
ることができることを前提と
している。
トラベルコスト法。トラベル
コスト法は、人々がある場所
を訪問するために費やした金
額と時間に関する情報を使用
して、その特定の場所におけ
る環境の便益に対する支払意
思額を導き出す。
生産関数アプローチ。資源又
は機能の物理的寄与を経済的
産出にモデル化することによ
り、経済活動の変化の観点か
ら、非市場資源または生態学
的機能の価値を評価する。
利点
市場価格は、取引される湿地
帯の費用と便益(魚、木材、薪、
レクリエ ー ションな ど)に対
する私的な支払意思額を反映
する。市場価格を用いて財務
会計を構築することで、私的
な損益に関心がある個人また
は企業の観点から代替湿地帯
利用を比較できる。価格デー
タは比較的得られやすい。
有効価格は、国内外の市場で
取引される商品又はサービス
(魚、薪、泥炭など)の社会全
体にとっての真の経済的価値
又は機会費用を反映する。
欠点
不完全な市場や政策の失敗に
よって市場価格が歪められ、
そのために、商品またはサー
ビスの社会全体にとっての経
済価値が反映されない場合が
ある。市場価格を経済分析で
使用する場合は、季節的な変
動などが価格に与える影響を
考慮する必要がある。
ヘドニック価格は、特定の湿
地帯機能(防風、地下水涵養な
ど)の価 値を その機能 が 土地
の価値に与える影響の観点か
ら評価することができる。た
だし、湿地帯の機能は完全に
地価に反映されることを前提
としている。
湿地帯の環境機能に対してヘ
ドニック価格を適用するに
は、これらの価値が代替市場
で反映されている必要があ
る。市場が歪められていたり、
選択が所得による制約を受け
る、環境の状態に関する情報
が広く行き渡っていない、デ
ータが十分でないなどの場合
には、このアプローチは限定
されたものになる。
データ量が多い。消費者の行
動に関する前提が限定的であ
る(多目的な旅行など)。需要
関係を特定するために使用さ
れる統計的手法によって結果
が非常に影響を受けやすい。
都市公園や開発途上国の野生
生物公社などのレクリエーシ
ョン地の価値の評価に広く使
用されている。一部の開発途
上国では、熱帯湿地帯へのエ
コツーリズムに対する支払意
思額の評価にも使用可能であ
る。
漁業、狩猟、農業などの生産
活動に対する、湿地帯や礁の
破壊、森林破壊、水質汚染な
どの影響を評価するために広
く使用されている。
有効化価格の導出は複雑で、
かなりのデータが必要になる
場合がある。政策決定者が「人
為的な」価格を認めない場合
がある。
資源と経済的産出間の「用量
反応」関係を明確にモデル化
する必要がある。このアプロ
ーチは、単回使用システムの
場合に最も容易に適用でき、
頻回使用システムでは複雑に
なる。生態系-経済の関係を複
数指定したり、二重勘定する
と、問題が発生する。
31
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
価値評価技術
市場構築法。消費者の選好を
直接導き出すことにより、支
払意思額を測定する。
利点
ヒックス流厚生測定を直接評
価する。支払意思額の最良の
理論的測定を提供する。
シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 市 場 (SM)
は、貨幣のやり取りが実際に
行われる実験的な市場を構築
する手法である。
仮想市場評価法(CVM)は、仮
想的な市場を構築し、回答者
の支払意思額を導き出す手法
である。
仮想ランキング(CR)は、アメ
ニティに対する相対的な選好
を貨幣価値ではなく定量的に
順位付け、点数をつける手法
である。
実験の設定を制御することに
より、選好を決定付ける要因
を詳細に調査できる。
費用ベース価値評価法。環境
便益を維持するための費用
は、その価値の合理的な評価
になるという前提に基づく手
法である。支払意思額の評価
法には以下がある。
商品、サービス、便益が市場
化されていない場合は、便益
自体よりも便益を生み出す費
用を測定するほうが容易であ
る。このアプローチでは、デ
ータ、リソースとも少なくて
済む。
回復費用(RSC)法は、生態系
の商品又はサービスを回復す
るための費用を使用する。
特定の環境機能の価値の評価
に有効な可能性がある。
取替原価(RPC)法は、環境財
または環境サービスの人工的
代替物のコストを使用する。
最善の手法を使用して損害を
受けた機能を評価するために
生態系データを使用できない
場合に、間接的な使用便益を
評価する際に有用である。
32
オプション価値及び存在価値
を測定できる唯一の手法であ
り、総経済価値の真の測定を
提供する。
さまざまな生産物やサービス
について、個別に支払意思額
を導き出す必要なく、価値評
価を行うことができる。
欠点
市場構築法には実際には限界
があるため、理論的利点が損
なわれ、真の支払意思額の推
定にはつながらない可能性が
ある。
決定と実施には高度な技術が
必要なため、開発途上国での
適用は限られる可能性があ
る。
調査を設計及び実施する際に
生じる数多くのバイアスの原
因によって、結果が影響を受
けやすい。
支払意思額を直接導き出すこ
とはしないため、他のアプロ
ーチのような理論的優位性に
欠ける。性質上、政策(租税、
税などの決 定)に直接使 用す
ることはできない。
この次善の策のアプローチで
は、支出は正の便益を提供し、
支出によって生み出される純
便益は元の便益のレベルと一
致することを前提としてい
る。この前提が満たされる場
合でも、費用は、通常、便益
の正確な測定値とはならな
い。費用が損害を受けた資産
の代替に相当するかどうかが
明確でない限り、便益を維持
するための費用は、損害の十
分な測定値とはならない。
収穫逓減の法則及び以前の生
態系の状態を回復することの
困難さから、RSC の適用には
問題が多い。
代替の純便益が元の機能の便
益を確実に上回らないように
するのは難しい。便益の物理
的指標しか使用できない場
合、支払意思額が誇張される
場合がある。
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
価値評価技術
移転原価(RLC)法は、脅かさ
れている群生を移転する費用
を使用する。
事前回避費用(PE)アプローチ
は、環境便益の損害又は劣化
を防ぐための費用を使用す
る。
損害回避費用(D)アプローチ
は、損害の評価は価値の評価
につながるという前提に立っ
ている。前述の価値評価法の
使用に基づいているため、費
用ベースのアプローチとは異
なる。
利点
ダム計画や保護地域の設置な
ど、大規模な移転に直面して
いる環境アメニティの価値を
評価する場合にのみ有用であ
る。
回避技術を用いて間接的な使
用便益を評価する場合に有用
である。
この手法では、予防原則が適
用される。
欠点
実際には、新しい場所で提供
される便益が元の場所の便益
と一致する可能性は少ない。
回避策への投資による便益が
元の便益の水準と一致しない
場合、支払意思額の評価が誤
ったものになる。
データ又はリソースが限られ
ている場合は、最善の価値評
価手法からは除外される。
(出展: Barbier et al. 1997)
3.2.
価値評価における不確実性の認識
これまでに論じてきた問題点に加えて、生態系サービス及び生物多様性の価値評価には、
もう 1 つ不確実性という重要な問題が存在する。ここでは、価値評価に関する最新の文
献を検証することにより、不確実性の役割について考える。それには、まずリスクと不
確実性を明確に区別することが有用である。
「リスク」の語は、決定によって生じる可能
性がある結果を、自然の状態及びそれぞれの可能性に割り当てられた確率の観点から、
完全に列挙できる状況に対して使用される(Knight 1921(Perman et al. 2003 で引用))。
Knight による意味では、「不確実性」とは、決定によって生じる可能性がある結果を十
分に列挙することはできるが、意思決定者がそれらの状態に客観的に確率を割り当てる
ことはできない状況と考えられる。また、意思決定者が決定によって生じる可能性があ
る結果をすべて列挙することはできない、より強いタイプの不確実性も存在する。この
タイプの不確実性は、通常「極端な不確実性」あるいは「無知」と呼ばれ(Perman et al.
2003)、生態系や生物多様性の複雑な機能を科学が説明できない場合には、認識される
べき不確実性である ii。本章では、
「極端な不確実性」又は「無知」の語が使用されてい
ない限りは、「不確実性」の語は、環境の経済的価値評価で一般に使用されている意味、
すなわち、Freeman(1993)が述べているようなリスクと不確実性が融合した概念を意味
するものとする。
33
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
さらに、不確実性及び極端な不確実性/無知を生じる 3 つの原因を明確に認識しておくこ
とも大切である。第一に、評価する生態系サービスが持つ性質から不確実性や無知の問
題が生じる場合がある。第二に、人々が生態系サービスに対して選好を形成する方法、
つまり、生態系サービス及び生物多様性の提供の変化を人々がどのように主観的に評価
するかに関して、不確実性/無知が生じる場合がある。最後に、価値評価ツールの適用に
関して、別の面の不確実性も存在する。ここでは、これは、技術的な不確実性として認
識している。以降のセクションでは、これらの用語についてそれぞれ該当箇所で論じた
後、最良の解決策を検討する。
3.2.1 生態系サービスの供給に関する不確実性
確率分布の割り当ての問題に加えて、極端な不確実性は、生物多様性及び生態系サービ
スの価値評価に多大な影響を与える。科学は、基盤サービスの提供という点で生物多様
性が果たす役割を解明しつつあるが、社会にとっての具体的な便益に転換される生態学
的機能に生物多様性がどのように寄与しているかについては、まだ膨大な量の情報が不
足している。たとえば、農地の川岸林コリドーは、明らかに水質を改善し、上流の浸食
による堆積負荷を減少させるが、川岸地帯の種の豊かさがこのような生態系サービスに
どのように寄与しているかについては、生態学者はまだ限定的な理解しか得ていない
(Jackson et al. 2007)。同じ観点から、樹木バイオマスのストックや生態系全体にでは
なく、樹種の多様性に起因するサービスに価値を割り当てるのは容易ではない。通常、
表明選好法を用いた価値評価調査では、
「生物多様性」(樹種の多様性など)と多様性に対
する人々の選好との関係についての直接的な証拠に焦点が当てられるよりはむしろ、多
くの場合、より容易に特定できる生物「資源」やストック(森林、湿地帯、カリスマ的な
種など)に焦点が当てられている(Nunes and van den Bergh 2001)。
極端な不確実性という困難な影響があっても、自然の状態が特定可能で、かつ調査者が
確率分布を客観的に割り当てることができる場合には、事前に正確な値がわからない変
数に予想値を使用することが可能である。このように、不確実性には、発生の確率によ
って可能性のある結果それぞれに重み付けすることにより対処できる。ここで我々が扱
っているのは、Knight が言う「リスク」のより許容範囲の広い概念、経済的価値評価に
おける不確実性の一般的な概念と融合した概念である。この場合、生態系サービスの変
34
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
化の価値評価は、世界の代替状態の重み付けされた結果に基づいたものになる。たとえ
ば、森林の樹種は、さまざまな降雨パターン(自然の状態)で予想される炭素吸収レベル
に関連付けることができる。この降雨パターンに確率を割り当てることができれば、森
林が吸収すると予想される炭素の量は、確率で重み付けされた吸収量を合計することで
推定できる。この場合、評価されるのは、降雨パターンに確率分布が客観的に割り当て
られていることを前提とした、樹種の多様性に関連付けられた炭素吸収量の予想変化で
ある。
不確実な状況での生態系サービスの価値評価を扱った文献で取り上げられている例には、
川の流量調整機能や沿岸の生態系のサージ保護機能などがあるが、これらは、基本的に
確率的である。有望なアプローチとして、予想損害関数(EDF)に基づく手法がある。こ
れは、用量反応アプローチに似ているが、リスク分析で用いられる手法に基づいている。
Barbier(2007)は、沿岸湿地帯によって提供される防風サービスの価値評価に EDF アプ
ローチを適用している。基礎となっている前提は、湿地帯地域の変化は、沿岸地域の経
済への打撃が大きい暴風雨(自然の状態)の確率及び重大性に影響を及ぼすというもので
ある。一般的に、このアプローチは、生態系ストックの変化によって生じる予想損害の
合計を測定することで WTP を測定する。このアプローチは、リスク分析や医療経済学
で日常的に使用されている(Barbier et al. 2009 など)。
Barbier(2007)によって提供されている沿岸湿地帯の例では、経済への打撃が大きい自然
の災害に対する湿地帯の価値を評価するうえで、ある重要な情報が欠かせないものとな
っている。すなわち、暴風雨の予想される発生率に対する湿地帯地域の影響である。過
去の自然災害の発生と沿岸地域の湿地帯の変化に関するデータが十分にある場合は、カ
ウントデータモデルを採用して沿岸湿地帯地域の変化が経済への打撃が大きい暴風雨の
予想発生率を減少させるかどうかを推定することで、最初の要素(暴風雨の発生率に対す
る湿地帯の影響)の情報を得ることができる。防風雨ごとの損害額が分かれば、カウント
データモデルによって生成された情報を使用して、自然災害に対する保護機能という観
点から湿地帯の価値を計算できる。
生態系サービスの供給の不確実性は、表明選好法を非常に複雑なものにする。不確実な
状況での価値評価に CV の使用が検討されている例がほとんどないのは、このためだと
思われる。Brookshire et al.(1983)が行った画期的な調査では、供給の不確実性(確率的
35
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
リスクに基づく)が減じられるとオプション価格がどのように変化するかが示されてい
る。この調査の WTP 付け値は、ワイオミング州のハイイログマやオオツノヒツジのよ
うな絶滅危惧種の供給についてさまざまな確率のシナリオを示して、ハンターに WTP
を尋ねることで評価された。Crocker and Shogren(1991)によって初期に実施された別
の不確実な状況での CV の適用例では、調査対象の個人のサンプルのアクセス可能性に
関してさまざまな偶発性が存在する状況で、景観の可視性の変化が評価された。このア
プローチは、代替の景観の可視状態の可能性に関する個人の主観的な認知を導き出すこ
とに基づいている。
一般に、CV 調査では、回答者が確信が持てない問題を検討する際に懸念を感じたかど
うかについての情報を得るために、回答者のリスク認知を、特にいわゆる「リスク指標」
を使用して、測定してきた。リスク指標は、特定の事象(特定の種の損失など)が発生す
る主観的確率に関する個人の信念を反映する。Rekola and Pouta (2005)による別の CV
適用例では、森林の更新伐に関して不確実性が存在する状況で、フィンランドの森林ア
メニティの価値を測定している。この調査では、回答者のリスク認知が測定され、期待
値の確率密度関数の計算に使用された。彼らは、調査対象の個人のリスク認知に関する
質問に対する回答には一貫性がない場合があると結論付けている。人は、確率が好まし
くない結果に結びついている場合は特に、確率を過小評価する傾向があるためである。
これは、個人は、事象が発生する主観的な確率と、認識されている事象の重大性に関す
る主観的な知見(種の損失に関する感情など)とを混同する場合があるからである。この
ため、CV で確率的なアプローチを使用するためにリスク指標を使用することは、信頼
性に欠ける場合がある(Poe and Bishop 1999, Rekola 2004 を参照)。表明選好実施者が、
生態系サービスの供給の確率に関して定量的情報を使用することを避ける傾向があるの
は、このためである。このような情報は、選好の誘因両立の状況が結果に影響を与える
可能性があるのと同様に、調査を損なう可能性がある(Carson and Groves 2007)。
3.2.2 生態系サービスについての選好に関する不確実性
価値評価調査は、回答者が自分の選好を確実にわかっている、つまり、生態系サービス
の供給に対して自分はいくら支払う意思があるかを自覚していることを前提としている
場合が多い。しかし、表明選好に関する文献に見られる経験から得られた証拠は、回答
者は自分の回答について不確実であることを示唆している(Ready et al. 1995; Champ
36
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
et al. 1997; Alberini et al. 2003; Akter et al. 2008)。これは主に、回答者が仮想市場評
価の複数の形式(インタビュー、電子メールなど)のいずれかで提供されている情報を処
理する際に発見的問題解決法で行うことが原因であり、発見的問題解決法は、政策決定
に用いられる系統だった情報処理法よりも優位に立つ傾向がある(Bateman et al. 2004)。
よく知らない場所の希少な鳥の種の保護といった、よく知らないあるいは漠然とした商
品のために、よく知らない仮想市場の再生について検討するような場合は、さらにこの
傾向が強まる(Champ and Bishop 2001; Schunn et al. 2000; Bateman 2004)。
選好の不確実性に対処するためのその場しのぎの方法として、人は期待効用を最大にす
る傾向があるという前提を用いる場合も多い。この前提に立つことにより、生態系サー
ビスの変化に対する予想支払意思額の推定値を計算することが可能になる。このような
計算では、個人の効用関数にランダム変数を追加する必要がある。これは、ほぼ間違い
なく、個人が確信を持ってサービスに対する真の WTP を認識していることはないから
である(Hanemann et al. 1996)。むしろ、サービスの真の価値はある一定の範囲内にあ
ると考えられている。同様のアプローチでは、個人の選好の不確実性のレベルは、個人
の効用差加算関数の決定論的部分と確率論的部分の差の大きさによって決定できると提
案している(Loomis and Ekstrand 1998)。
どの手法が表明選好法における選好の不確実性を測定するためにより適しているかにつ
いて、一致した意見はない iii。CVM でこの種の不確実性を扱う方法として 3 つの主要
なアプローチがある。第 1 の方法は、WTP の質問に対する答えについて回答者がどの
程度確信があるかを回答者に述べてもらう方法である(Loomis and Ekstrand 1998 な
ど)。第 2 の方法は、複数の境界を区切った WTP を提示する質問又は多分岐選択モデル
を使用して、不確実性を調査に直接導入する方法である(Alberini et al. 2003 など)。ま
た、第 3 の方法は、生態系サービスの供給の変化に対して、特定の値ではなく、一定の
範囲の値を回答するよう回答者に求める方法である(Hanley et al. 2009 など)。
表明選好法における選好の不確実性を扱う第 1 のアプローチは、最も容易な手法である
が、不確実性の問題を本質的には解決しない。この方法は、評価する商品またはサービ
スに対する個人の認知および態度が自己報告の「確実性スコア」と相関性があるかどう
かを明らかにしようとするものである。文献は、確実性スコアと、評価対象の特定の商
品についての回答者の予備知識との間、又は提示されている仮想上の市場に対する回答
37
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
者の 態 度 と の間 に は 明 らか に 何 ら かの 関 連 が ある こ と を 示唆 し て い る (Loomis and
Ekstrand 1998) iv。
第 2 のアプローチは、不確実性オプションを含めることによって、WTP の質問に直接
不確実性を導入する。これは、行に複数の提案費用(WTP)を示し、列に商品又はサービ
スを示したパネルを回答者に提示し、示された商品又はサービスと引き換えに回答者が
提案されている費用を払う意思があるかどうかについての確実性の分類(たとえば、「極
めて低い」から「極めて高い」まで)の回答を求めることによって、離散選択に複数の付
け値を含めるという手法である(Alberini et al. 2003、Akter et al.(近刊))。このアプロ
ーチの利点は、データを秩序だった構造にモデル化し、閾値を特定できるため、人々が
ある不確実性のレベルから別の不確実性のレベルに切り替わる付け値の平均値を示すこ
とができる点である(Broberg 2007)。ただし、表明選好法で不確実性についての質問に
対する回答を使用して WTP についての意見を再分類する際に生じる問題と同様に、こ
の多分岐選択アプローチには、
「非常に低い」などの概念を回答者がどのように解釈する
か、またすべての回答者が同じように解釈するかは不明であるという問題がある v。
第 3 のアプローチは、人々が生態系サービスの提供の変化について、特定の値ではなく、
一定の範囲値を回答する方を好む場合に、前者 2 つのアプローチの代替となる方法とし
て期待できる。Hanley et al.(2009)は、生態系サービスの変化に対する人々の WTP を
導出するために段階的な金額を使用することを提案している。彼らの事例では、スコッ
トランドの沿岸地域の水質の改善の価値が評価されているが、範囲値を用いた場合、不
確実性は、商品についての知識や経験のレベルに反比例することが示されている。ただ
し、この影響がみられるのは、特定の最低レベルの経験が得られたときだけである。
上述した 3 つのアプローチのうち、3 番目のアプローチが選好の不確実性を扱う手法と
して最も期待できると思われる。しかし、この導出方法でどのような値の範囲を使用す
べきかについての問題は、依然として残っている。また、Hanley et al.(2009)によって
提示された手法を用いた生態系サービスの価値評価は、選好に関する不確実性の 1 つの
側面しか扱っていないことも述べておく必要がある。地方の回答者に関係する生態系サ
ービスは、科学的に説明されている生態系の機能と一致しない場合があるためである
(Barkman et al. 2008)。
38
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
3.2.3 価値評価ツールの適用による技術的な不確実性
使用する価値評価ツールを決定する際は、あらゆる価値評価手法に付きものの概念的、
方法論的、技術的欠点についても検討する必要がある。このような欠点は、評価される
価値にさらにある程度の不確実性を加える。これらの問題については、Kontoleon et
al.(2002)が広範な検証を行っている。TEEB で認識される必要がある技術的不確実性に
ついては、2 種類の問題に留意する必要がある。1 つは価値評価の正確さに関するもの、
もう 1 つは将来の価値の割引に関する問題である。以下では、標準的な価値評価アプロ
ーチを使用して導出された価値評価の正確さの問題について論じる。評価される価値の
範囲に対して適用されるさまざまな割引率の影響については、セクション 5 で扱う。
測定の問題は、表明選好調査の正確さに関する問題の少なくとも 2 つの重要な側面に関
係する。1 つは、表明選好の信頼性である。通常、CV などの表明選好法を使用する場合
は、この手法が仮想的な性質を持つことから、回答者は質問に正直に回答することが前
提とされている。この問題は、上向きの「仮想バイアス」(真に仮想に基づく価値の表明
と実際の価値の表明との違い)が CV 評価にかかっているかどうかにという議論として
扱われている。興味深いことに、CV 調査による評価から顕示行動テクニックに基づく
同等の調査による評価までを対象としたメタ分析では、CV 法について統計的に有意な
上向きの仮想バイアスは認められなかった(Carson et al. 1996)。ただし、非利用価値に
ついては、これを直接比較できるアプローチがほかに存在しないため、表明選好法によ
って導出された非利用価値の評価が信頼できるかどうかという問題は残る。
第 2 の論点は、回答者は、正直に回答することが自分の利益になる場合だけ正直に回答
するのかという問題である。この問題は一般的な経済理論と一致しているが、一方で、
真の選好の表明を促すような誘因を調査が生み出すかどうかに回答が大きく依存してい
ることも意味している(Carson et al. 2008)。たとえば、個人が調査の結果を歪めたいと
望んだ場合、調査には、一般的に、この種の行為を抑制するような明確な内在的誘因も
メカニズムも含まれていない。このため、調査結果の信頼性は、調査の設計の質に依存
する。正確さについてのもう 1 つの問題は、価値評価に関する誤差限界に関するもので
ある。この誤差は、ある程度、サンプルのサイズと評価される商品の性質によって決ま
るが、使用される技術が原因で必然的にかなり大きく不確実なものになる場合がある。
39
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
セクション 2 で述べたように、表明選好調査で、特に、評価対象の商品またはサービス
の財産権から WTA の質問を行うのが当然である場合に、WTA タイプの質問ではなく
WTP タイプの質問を使用するという間違いが、特によく見られることにも注意が必要
である。この間違いは、
「授かり効果」の存在を確認する文献がかなりの数存在するにも
かかわらず、頻繁にみられる(Knetsch 2005)。慎重に行われた実験では、市場商品(たと
えば、マグカップ、ペン、チョコバーなど)の場合であっても、WTA は概して WTP を
上回る(Kahneman et al. 1990)。さらに、表明選好ベースの調査では、WTP の結果と
WTA の結果の間にむしろかなり大きな相違が出るという証拠もある。45 件の調査のメ
タ分析では、この 2 つの測定値の間に平均して 7 倍を超える相違が見つかっている
(Horowitz and McConnell 2002)。このような相違についての理論的議論は、依然とし
て価値評価実施者にとって重要問題となっている。また、この議論は、表明選好法の使
用に対する批判材料となっており、CVM が欠陥のある価値評価アプローチであること
の証拠と捉えられている。CVM は、一般に新古典派消費者理論と、またその消費者選
好を測定できる機能とも、矛盾するためである(Diamond 1996, Hausman 1993 など)。
このようなよく知られた批判に対して、CVM の実施者(Mitchell and Carson 1989 など)
や NOAA パネル(1993)のメンバーは、WTP 形式を実際の調査に使用することを推奨し
ている vi。彼らの理由は、WTP は一般に WTA より小さくなることが分かっているため、
WTP 形式の使用は、問題を回避するために「保守的選択」を適用することと合致して
いるというものである(NOAA 1993)。しかし、この提言では、CV の結果の有意性に関
してはある程度断念していると受け取ることもできなくはない。
正確性の問題は、顕示選好法や価格設定法にも影響する。第 1 の問題は、顕示選好法及
びこのような価値評価調査を行うために必要な市場データの可用性に関するものである。
市場データの可用性はデータの量と質両方に関わっており、特に、発展途上国では、市
場データの質が悪く事実を正確に表していない場合がある。顕示選好法及び価格設定法
の正確性に関する第 2 の問題点は、これらの手法が(その設計上)非利用価値を示すこと
ができないという事実に関係している。このため、市場データは、生物多様性又は生態
系サービスの変化の価値の下限評価しか提供できない。
まとめると、さまざまな技術を使用する価値評価調査は、正確性の問題やバイアスなど
が原因で生じる技術的な不確実性の影響を受ける可能性がある。たとえば、i) 表明選好
法では、アンケートの設計によって、潜在的バイアス(仮想バイアス、戦略的バイアスな
40
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
ど)が生じる場合がある(Bateman et al. 2002)。また、ii) 生産関数ベースのアプローチ
では、確率的シナリオの採用による影響、iii) 顕示選好法(トラベルコスト法など)では、
天然資源の代替物又は補完物の不安定な市場価格による影響などがある。
3.2.4 今後の対策としてのデータ補強モデルと選好較正
不確実性の原因のうちの少なくとも 2 つ、すなわち技術的な不確実性とそれほどではな
いにせよ選好の不確実性、に対処できる実際的な方法の 1 つは、データ補強、つまり「デ
ータ融合」アプローチの使用である。これは、少なくとも明確な直接的利用価値に関連
付けられている特定の生態系サービスを評価する場合は、顕示選好法と表明選好法を組
み合わせて評価を行おうという考え方である。このアプローチは、価値評価に関する文
献では主流になっていないが、たとえば、レクリエーション、環境アメニティ、文化遺
産、農生物多様性などの価値を導き出すためにデータとモデルを組み合わせることによ
って価値評価の信頼性を高めた過去の調査から、必要性を訴える声がますます高まって
いる(Cameron 1992, Adamowicz et al. 1994, Earnhart 2001; Haab and McConnell
2002; Birol et al. 2006 など)。顕示選好法と表明選好法を組み合わせるデータ補強アプ
ローチの主な利点は、この 2 つの手法のそれぞれに関わる主要な問題のうちの 2 点を克
服できることである。
まず一方で、顕示選好法を使用する利点は、データが実際の選択を反映しており、市場
の不完全さ、予算、時間など個人の決定に対するさまざまな制約が考慮に入れられるた
め、「表面的妥当性」が高いことである(Louviere et al. 2000)。しかし、(生態系サービ
スの質又は量が変化した後の)新しい政策の状況が現在の経験に含まれない、つまりデー
タの範囲に含まれないという理由で生じる欠点もある。このため、新たな状況をシミュ
レーションするには、モデルを評価する際に使用した範囲には含まれていないデータを
外挿する必要がある。このような場合、個人の実際の行動経歴に関する情報と、表明選
好法による仮想上の行動の変化とを組み合わせる手法は、データ融合の明らかな利点と
考えられる。
他方で、表明選好法の純粋に仮想的な側面は、顕示選好法によって明らかにできる実際
の行動に照らしてみることで、チェックできる。顕示選好法のデータを用いると、評価
を観察された行動に基づいたものにすることができ、データをの生態系差ビスの仮想上
41
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
の変化に対する回答と組み合わせる表明選好法と、他の方法では特定することのできな
い範囲値を特定することができる。このように、情報量が増え、調査結果を交差検証で
きる(Haab and McConnell 2002)。
データ補強アプローチの 1 例として、Earnhart(2001)による調査がある。彼は、住居地
域に近接した沿岸湿地帯の質を改善することで生み出される審美的便益に関する評価価
値の信頼性を上げるために、ヘドニック分析(顕示選好アプローチ)と選択型コンジョイ
ント分析(表明選好アプローチ)を組み合わせた。また、Birol et al.(2006)による別の例で
は、管理者である農家にもたらされる、家庭菜園で管理されている農生物多様性の私的
な利用価値から成るハンガリーの農生物多様性の価値について、選択型実験モデルと離
散選択農家モデルを組み合わせてより信頼性の高い評価が導出されている。
もう 1 つの補完的なオプションは、「選好較正」アプローチの使用である。この手法で
は、ヘドニック財産価値、旅行費用需要、仮想市場評価などさまざまな価値評価手法か
ら導出された生態系サービス及び生物多様性についての複数の価値評価を使用して、単
一の選好関数を較正して、潜在的な差を調整することができる(Smith et al. 2002)。こ
の手法は、特定の選好制約を使用して、環境品質改善の仮想市場評価を、同じ生物多様
性要素又は生態系サービスで発生する綿密に選択した価値の変化に対する顕示選好測定
にリンクさせる手法に類似している。これは、異なる顕示選好法(及び表明選好法)を用
いて評価されたパラメータをリンクして制約を分離しようという考え方である(Smith
et al. 2003 など)。
42
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
4.
保険価値、回復力、(準)オプション価値
生態系の保険価値(セクション 2.3 参照)は、生態系の回復力によって左右され、回復力
に関係する。ある生態系の回復力の一般的な評価基準は、現在の生態系の状態と現在の
攪乱レジームを前提とした場合に、その生態系がある安定領域から別の領域へ反転する
条件付き確率である(Perrings 1998)。これらのレジームは、生態系の状態と生態系サー
ビスの供給に劇的な変化を引き起こす攪乱のレベルによって特定される閾値によって区
別される(Luck 2005; Muradian 2001)。回復力は生態系の脆弱性、すなわち、特定の状
況において機能を失うことなく攪乱に適応する能力に関係する(Box 4 参照)。このセク
ションでは、生態系の回復力は、複数のレジームが存在する可能性がある生態系におい
て、生態系が特定の状態構造「レジーム」に留まることができる能力であるとする
(Walker et al. 2006)。
Box 4: 生物多様性と回復力
回復力は、生態系の内部機能や規模横断的相互作用に同時に関係する、生態系の複雑な
特性である(Holling 2001; Holling and Gunderson 2002)。回復力の意味論には混乱が見
られるが、調査は、回復力は生態系内の機能的多様性などの機能(Schulze and Mooney
1993; Folke et al. 1996)や、特定の生態系の機能内の機能的余剰性に関係することを示唆
している。生態系内の種の変化は、さまざまな条件の下で生態系が生態系サービスを支
える能力、すなわち機能的余剰性に影響を与える。生物多様性の変化と生態系機能の相
互関係は、生態学において現在大変注目を集めている研究テーマとなっている(Loreau et
al. 2003; Caldeira et al. 2005; Hooper et al. 2005; Spehn et al., 2005)。これは、生物多
様性と生態系システムの関係についても同様である(Scheffer et al. 2001,2003; Walker
et al. 2004; Walker et al. 2006)。生態学者のこれらの問題に対する関心が増しているの
にも関わらず、調整サービスの機能と様々な環境条件下で生態系が機能を維持する能力
についての我々の知識は、未だに限られたものである。
生態系の回復力に関する文献は、離散攪乱又は累積圧力の結果、臨界閾値に達した場合、
生態系でジームシフトが生じるという証拠を相次いで提供している(Scheffer et al.
2001; Folke 2004; Walker and Meyers 2004)。このことは、たとえば、温帯湖(Carpenter
et al. 2001)、熱帯湖(Scheffer et al. 2003)、沿岸水域(Jansson and Jansson 2002)、サ
43
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
バンナ(Anderies et al. 2002)などを含む幅広い生態系において研究されている。このよ
うなシフトが発生すると、生態系が生態系サービスを支える能力は、急激かつ非線形的
に変化する可能性がある (Folke et al. 2002)。
生態学的閾値までの幅は、生態系の状態を前提として、生態系サービスの経済的価値に
影響を与える(Limburg et al. 2002)。この幅を明らかにしない限り、信頼できる価値評
価を実施できるはずがない。なぜなら、生態系が十分に閾値に近づいている場合、構造
転換(レジームシフト)の可能性や非線形的になることが多い構造転換(レジームシフ
ト)の結果に関する極端な不確実性や無知は、重大な問題となるからである。この場合、
標準的な価値評価アプローチはほとんど役に立たないものになってしまう。言い換える
と、このような状況での従来の価値評価は、まったく頼りにならない(Pritchard et al.
2000; Limburg et al. 2002)。実際、そのような転換点への接近を早期に予測する警告の
指標を開発することは可能かもしれないが、利用できる科学的知識は、構造転換(レジ
ームシフト)を正確に予測するのに十分なほどにはまだ進歩していない(Biggs et al.
2009)。このことは極端な不確実性が存在することを意味し、このため、価値評価には、
非常に困難な課題が存在する。問題は、生態系サービスの総経済価値を評価する一般的
なアプローチは、重要でない範囲の限界変化に基づいていることである(Turner et al.
2003)。このような状況では、政策は、安全最小基準や予防原則を使用するなど、他の
補完的な手段を用いる必要がある(Turner 2007)。
科学が生態系の回復力に関する不確実性を処理できるより望ましい状況では、政策決定
者は、構造転換(レジームシフト)を引き起こす可能性がある状況、人間社会のこのよ
うな転換に対応する能力、転換の社会経済的意味についての情報を依然として必要とす
る。生態系サービスの回復力の評価を実施する必要が生じる問題が、少なくとも 3 つあ
る。
z
特定の生態系において、代替の安定したレジームへの遷移によって、生態系サービ
スの供給に大きな変化が引き起こされる可能性があるか。
z
変化が起こる場合、代替レジームへのシフトは、生態系サービスについての人々の
価値評価にどのように影響するか。すなわち、経済的費用と便益の点で、どのよう
な結果が生じるか。
44
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
z
閾値を超える確率はどの程度か。これには、閾値の値、現在の攪乱レベル、生態系
の特性についての知識が必要である(第 2 章参照)。
後者の問題は、動的なアプローチを採用し、攪乱のレベルを前提として、代替状態の確
率を考慮に入れる必要があることを示している。たとえば、人の介入などにより回復力
が低下すると、(自然に発生した攪乱又は人為的な攪乱のどちらが原因でも)構造転換(レ
ジームシフト)の確率は上昇する(Scheffer et al. 2001)。
一例として、カリブ海のサンゴ礁で発生した構造転換(レジームシフト)が上げられる
(本来のサンゴ礁から藻が優勢な生態系へ移行)。シフト前の段階は、集約的漁業に伴っ
て栄養塩負荷が増大したことが特徴で、これにより、草食性の魚の数が減少した。構造
転換(レジームシフト)を引き起こした事象は、病原菌によって誘発された Diadema
antillarum というウニの種の大量死である。食魚の個体数がそれほどまでに減少してい
なければ、藻の個体数をコントロールして、ウニの生態学的機能の代替を果たすことが
できた可能性がある(deYoung et al. 2008)。構造転換(レジームシフト)は 1980 年代に
1~2 年以内の期間に起こり、新しい状態(藻が支配的な生態系)はその後 20 年以上にわ
たって続いている。
偶 然 に せ よ 故 意 に せ よ 持 ち 込 ま れ た 侵 入 生 物 種 が 、 水 中 で あ れ (Mills et al. 1993;
Knowler, 2005)、陸上であれ(Cook et al. 2007)、生態系及び生態系サービスを劇的に変
化させ、時には全体的かつ犠牲の大きい生態系の構造転換(レジームシフト)を引き起
こすことがある(Maron et al. 2006; Vitule et al. 2009; Perrings et al. 2000; Pimentel
et al. 2005)ことを示す例は、数多く存在する。たとえば、ミコニアカルヴェセンスは、
観賞樹として 20 世紀にハワイに持ち込まれたが、その後急速に数を増やした。ミコニ
アは今ではハワイの「パープルペスト」と呼ばれ、ハワイで 1,000km2 を超える地域に
繁殖しているが、その中には、広大な単一特異的な木立も含まれる。ミコニアは川の流
域を脅かし、在来の絶滅危惧種を局所全滅に追いやることで生物多様性を著しく低下さ
せ、レクリエーション価値及び審美的価値を低下させている(Kaiser, 2006)。
生態系における構造転換(レジームシフト)の特徴の一つは、新しいレジーム自体が高
いレベルの回復力を持っている場合があることである。したがって、前のレジームへの
45
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
遷移に関連する費用、すなわち回復費用は、非常に高額になる可能性がある。修正する
のがさらに困難な構造転換(レジームシフト)の確率が高くなることは、生態系の経済
的価値にとって重大な意味を持つ。生態系が閾値に達すると、人間が生態系に与えたわ
ずかな影響が、次第に、決してわずかではない不確実な影響を生じることになる。この
ような状況では、信頼できる TEV の評価は、不可能ではないにしろ、ますます困難に
なる。
4.1
生態系の回復力の価値とは
生態系の回復力の価値は、特定の攪乱レジームの下で生態系が便益の供給を維持できる
能 力 に あ る 。 生 態 系 の 機 能 を 支 え る 生 物 多 様 性 の 役 割 は 、 例 え ば Perrings and
Gadgil(2003)、あるいは Figge (2004)によって研究されている。種内の多様性(Haldane
and Jayakar 1963; Bascompte et al. 2002)、及び種間の多様性(Ives 及び Hughes 2002)
は、生態系サービスの便益の安定したフローに寄与し得る。機能群内に重複余剰種が存
在する生態学的システムでは、重複余剰種を含まないシステムに比べて、さまざまな環
境条件下におけるこのような群のメンバーの「収穫」の共分散は低いレベルにとどまる。
このように、生態系回復力の価値のわずかな変化は、一定の範囲の環境条件を前提とし
た場合にその生態系が生み出す便益の流れの予想される価値の違いと一致する。
したがって、生態系の回復力の価値評価は、ある状況においては、特定の状況における
資 産 の ポ ー ト フ ォ リ オ の 価 値 評 価 と 似 て い る と 考 え る こ と が で き る (Brock and
Xepapadeas 2002)。資産の構成割合「ポートフォリオ」の価値は、それに含まれる個々
の資産の利益の共分散によって決まる。一例として、Sanchirico et al.(2008)は、金融資
産管理ツールを複数種漁業に適用している。彼らは、個々の種を捕ることで得られる収
入間の項分散構造を知ることで、費用をかけず、また収入全体を減少させることもなく
リスクを減少させることができることを示している。
金融資産のポートフォリオの価値が資産の保持者のリスク選好によって決まるのと同様
に、生態系の回復力の価値も社会のリスク選好によって決まることは注目に値する。社
会は、よりリスク回避的であればあるほど、生態系回復力を保護又は構築する戦略によ
り重きを置き、より変化が少ない、つまりより回復力ある生態系の構造により高い価値
46
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
を割り当てるだろう(Armsworth and Roughgarden 2003)。
これまでのところ、生態系の回復力の価値評価に関心がある環境経済学者は、回復力を、
資産としてではなく、
「自然の保険」サービス(フロー)を生み出す自然資本(ストック)
とみなしており、このサービスは、費用対効果分析に問題なく含めることができる便益
として解釈できる(Mäler et al. 2007, Walker et al. 2009b)。次に示す例は、回復力を資
産としてどのように、またなぜ評価するのかを理解する助けになるだろう。
世界の多くの場所で、灌漑農業は塩分濃度の上昇の脅威にさらされている。実際、かつ
ては生産性が高かった多くの土地が今では塩性化し、農業にとって価値がほとんどなく
なっている。その原因は、開墾と灌漑の複合的な影響によって引き起こされた地下水面
の上昇である。上昇する地下水面は、それとともに塩を土壌の深い層から表面の層へ運
ぶ。オーストラリア東南部の例は、元の地下水面は非常に深いところ(30m)にあったこ
とを示している(Walker et al. 2009)。降雨量の変動は、地下水面の深さに変動を引き起
こしたが、このことは問題ではなかった。ただ、地下水面の深さには臨界閾値があり、
これは、土壌の種類にもよるが、およそ 2m である。地下水面がいったんこの水準に達
すると、塩は毛細管現象によって地表まで引き上げられる。地下水面が地表下 3mにあ
る場合、土壌の最上部 1m、すなわち農業生産を決定づける表土の「ストック」は、地
下水面が地表下 30m にあったときと全く同じである。しかし、この場合は、地下水面の
変動及び塩性化進行のリスクに対する回復力が非常に少ない。この場合の回復力は、地
下水面から地表下 2m までの距離として評価することができる。この距離が短くなるに
つれて、生産性の高い表土のストックの価値は減少する。したがって、表土のストック
の状態だけを含み、地下水面の変動に対する回復力を無視するような価値評価の実施は
不適切で適切ではなく、誤解を招く恐れがある。
Walker et al.(2009b)は、回復力ストック「塩分濃度」の価値を評価している。この価値
は、現在の地下水面のわずかな変化によって得られた回復力の限界変化に基づいて、将
来の社会福祉で予想される変化を反映している。回復力(X)は、現在の地下水面から
閾値すなわち地表下 2mまでの距離に等しい。過去の地下水面変動と環境条件(降雨、開
墾など)に基づいた初期回復力が X0 であるとした場合、F(X0, t)を時間 t までのフリッ
プ(flip)の累積確率分布とする。フリップは、元に戻すことができないか、できたとして
も非常にコストがかかると見なされている。Walker et al.(2009b)は、時間 t の時点で生
47
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
態系が構造転換(レジームシフト)を起こしていない場合の、時間 t におけるすべての
生態系サービスの便益の純現在価値として U1(t)を定義し、また、生態系が時間 t 以前
に構造転換(レジームシフト)を起こした場合の代替レジームにおける生態系サービス
の便益の純現在価値として U2(t)を定義している。すると、回復力の予想される社会福
祉の価値 W(X0)は、次の式で示すことができる。
現在のレジームは農業生産性が高い(塩分を含まない)土地であり、その生態系サービス
の価値は、生産を行っているすべての現在の土地の純現在価値として評価された(評価さ
れた市場価値)。代替レジーム(塩分濃度の高い土地)は、現在の地域の社会的経済的条件
の基礎となっている農業生産性をすべて失うため、土地の最低限の価値しか産出しない
と仮定された(つまり U2 は U1 に対してほんのわずかの値になる)。現在の農業レジーム
が継続する確率 S(X0,t)は、過去の地下水面の変動と現在と将来の農業実践の既知の関係
から評価された。評価は、塩分濃度が原因で、厚生の重大な損失が予想されることを示
した。
この回復力の公式化はこの事例に固有のものであるが、一般化することが可能である。
この式を簡単に拡張して、可逆的な閾値、複数(3 つ以上)のレジーム、異なる分母(貨幣
など)、2 種類以上の回復力などを扱うことができる。課題は、経営上の意思決定に関係
する、確率関数、費用、割引率などなどを評価するために使用できる正確な生態学的経
済的データを決定することにある。
4.2
生態系回復力評価の主な課題
経済的価値評価に関しては、非線形的な作用と生態系の回復力に関する重要な問題が少
なくとも 3 つ存在する。第一に、遷移がいつ起こるかは不確実で、突然、劇的に起きる
という事実のため、ほとんどの価値評価手法の基礎にある限界的アプローチは厳しい制
限を受ける。手法の大半は、人間による小さな攪乱は、生態系の状態に、ひいては生態
系サービスを提供する生態系の能力にも、それに応じた変化を作り出すという前提にた
って、限界における変化に経済的価値を割り当てる。しかし、閾値効果が存在する場合
は、限界変化に基づいて経済的価値を推定することはもはや有効ではない。Barbier et
48
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
al.(2008)が述べているように、線形前提は、保護か開発かの論争のいずれかの側にバイ
アスを作ると、
「(生態系)サービスに固有の経済的価値を不正確に伝える可能性がある」。
第二に、生態学者の回復力のレベルを評価する能力も、生態系がいつ閾値に接近するか
を見出す能力も、いずれもまだ未熟である。Contamin and Ellison (2009)は、「構造転
換(レジームシフト)の指標の候補となるものは存在するが、生態系を動かすプロセス
についての情報が不十分だったり、集中的な管理行動を迅速に実施することができない
場合は、構造転換(レジームシフト)を防ぐためには、何年もの事前の警告期間が必要
である」と指摘している。さらに、彼らは、予測能力を高めるには、一般に相当量の資
源と時間が必要であるが、これは意思決定者が通常利用できない程度の量であると付け
加えている。開発登場国の場合は、なおさらである。加えて、空間規模が大きければ大
きいほど、複雑さも増し、したがって、構造転換(レジームシフト)に気づき、予測す
るのはさらに困難になる(deYoung et al. 2008)。
第三に、我々は、特定の種又は生態系を失ってはじめて、それらによって提供されてい
た便益に気づく場合が多い(Vatn and Bromley 1994)。たとえば、北アメリカのリョコ
ウバトは、かつて地球上で最も個体数の多い鳥類であり、その個体数は無尽蔵だと思わ
れていた。しかし、過度の狩猟により、二十世紀初めには絶滅に至った。その後、リョ
コウバトが莫大な量のドングリを消費していたことが明らかになった。科学者の立てた
仮説によると、ハトの絶滅が原因となってドングリはシカとネズミによって消費される
ようになり、これらの種の個体数の急上昇に繋がり、続いてシカやネズミに寄生するダ
ニの個体数が急上昇し、そして最後に、ダニの中に住むスピロヘータの個体数が上昇し
た。その結果、全く予測できなかったライム病のエピデミックが、ハトの絶滅の数十年
後に起きたのである(Blockstein 1998)。
まとめると、標準的な価値評価アプローチは、重大ではない範囲に対して、生態学的な
閾値から遠いところで使用すべきである。これに対して、科学によって生態学的閾値が
「十分に」近いことが認められ、構造転換(レジームシフト)の重要な影響の潜在的な
不可逆性と大きさが十分に重大であると見なされた場合は、従来の経済的価値評価手法
は大幅な制約を受ける。我々の生態系及び生物多様性の力学を観察し予測する能力は常
に限定的で(Harwood and Stokes 2003)、生態系の管理戦略は、将来の便益についての
不確実性の原因を減らすことができない状況で我々がどう生きていくかを検討する必要
49
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
がある。極端な不確実性がある状況では、回復力は、予防原則と最小安全基準を用いて
取り組まれるべきである。
経済学者は、(これまでのセクションで述べたように)伝統的に表明選好法及び顕示選好
法を用いて生態系の金銭的価値を決定してきた。極端な不確実性が問題とならない場合
には、これらの手法の閾値や回復力を処理する能力は依然として期待されており、回復
力を生態系の単なる資産としてではなくストックと見なす生物経済学的なモデルなど、
不確実性を考慮に入れた新しい価値評価アプローチが試みられている。
4.3
(準)オプション価値の扱い
期待される結果の価値評価という文脈では、「オプション価値」と「準オプション価値」
の概念は期待効用理論に基づいている(セクション 2.3 参照)。生態系(又は生態系の要素)
に現在は効用がない場合でも、オプション価値はある場合がある。Barbier et al.(2009)
は、次のように指摘している。たとえば、将来、現在は未知のヒトの病気や農業病害虫
が発生したとする。この場合、既存の植物の多様性に、今は未知の病気に対する治療法
や未知の農業病害虫の生物学的コントロールを既に含まれている限りにおいて、今日の
生物多様性はオプション価値を有しているといえる(Polasky and Solow 1995; Simpson
et al. 1996; Goeschl and Swanson 2003)。この意味において、生物多様性保全のオプシ
ョン価値は、「保険料」(Perrings 1995, Baumgartner 2007)、すなわち、将来発生する
可能性がある有害事象による損失を減らすための今日の支払意思額に相当する。したが
って、オプション価値は次のように定義できる。
「アメニティの将来の可用性が不確実で
ある場合に、アメニティを将来も使用可能にするためのオプションを保持するために、
リスクを嫌う人が、現在消費されている価値を上回る額をそのアメニティに対して支払
う場合の、追加で支払われる金額」である(Bulte et al. 2002: 151)。
オプション価値は、生態系サービスの供給の不確実性を前提とし、そのようなサービス
の受益者の側のリスク回避に由来する。オプション価値は、通常、オプション価格(個人
が不確実性が解消する前に政策に対して支払う最高支払額)と、期待消費者余剰(世界の
可能性のある状態すべてに対する消費者余剰を確率で重み付けして合計した額)との違
いとして測定される(Pearce and Turner 1991)。オプション価値の大きさと記号は、経
験主義的議論の的とされてきており、不確実性の原因によって左右されることが明らか
50
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
になっている(Perman et al. 2004)。vii
生態系に関する科学的情報を時間をかけてさらに得ることで、生態系サービスに関する
供給の不確実性を減らすことができる場合は、準オプション価値の概念がより意味のあ
るものになる。これは、知識が深まることが期待されることを前提として、将来の使用
のためにオプションを保全する価値である。このような知識の深まりが実際の生態系の
変化から独立している場合は、準オプション価値は、一般に正であるという合意がある
(Pearce and Turner 1991)。この場合、準オプション価値は情報の便益を測定し、でき
るだけ不可逆の変化を避けることによって柔軟性を保ち続ける。
準オプション価値に焦点を当てる価値評価調査は、主として生物資源探査の役割を担っ
てきた。これは、生態系に存在する遺伝物質の将来の消費価値に関する不確実性は、そ
れを保全する動機付けになるからである(Arrow and Fisher 1974)。生態系に関する不確
実性が解消されると(すなわち、生態系内の遺伝物質が確認されると)、資源保全の準オ
プション価値は減少する(Barrett and Lybbert 2000) viii。
Bulte et al.(2002)は、コスタリカにおける原生林の非利用価値の文脈において、準オプ
ション価値を計算するための手法として可能性がある手法を提供している。森林の生態
系サービスの供給は不確実であるが、増えることが予想される。また、原生林の森林破
壊は、そのようなサービスの供給に不可逆的な悪影響を与えると考えられる。原生林を
維持するための準オプション価値は、自然資本における投資の構成要素として含まれて
いる。この場合の生態系サービスの供給の不確実性は、他の多くの場合と同様に、基本
的には、選好に影響し、ひいては森林保全の要求にも影響する不確実な所得の伸び率が
原因であると同時に、森林によって供給される生態系サービスの代替物の将来の可用性
も原因になっている。
オプション価値及び準オプション価値の計算が簡単なものではないということは明らか
なはずだ。第一に、個人のリスク選好を知る必要がある。オプション価値がリスク回避
の程度と関係がある一方で、リスク中立性は準オプション価値を保持することを前提と
している(Bulte et al. 2002)。しかし、リスク選好を見出すことは簡単なことではない。
加えて、リスク選好と経済状況との関係に関する実験的な調査は、特に個人が非常に危
険な環境に直面した場合、単純な一般化を支持しない(Mosley and Verschoor 2005)。
51
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
このように、オプション価値と準オプション価値の計算は、おそらく、生態系サービス
の価値評価を取り巻く問題の中でも、最も解決の難しい問題の一つである。しかし、こ
のような価値は、特に自然資本の不可逆な変化に関しては重要である。将来、生態系サ
ービスがどの程度必要とされるか、またどのサービスが利用できなくなる可能性がある
かを知ることは、重要である。オプション及び準オプション価値を計算する必要が最も
高いのは、このサービスの将来の選好及び将来の可用性に関する情報である。
オプション及び準オプションの概念が依拠している期待効用の理論は、経済行為の正確
なモデルではないことを示す実験的証拠が増えてきている。分析者は、(修正)期待効用
モデルを使用して生み出された評価の結果を、プロスペクト理論、リグレット理論、及
び他の非期待効用モデルに基づいて得られた評価と比較する必要がある(詳細な議論に
ついては、Rekola(2004)、ならびに Mosley and Verschoor (2005)のレビューを参照)。
このような代替理論はより多くの支持を得ており、(準)オプション価値を評価する以前
のやり方は修正される必要があるかもしれない。個人は、体系的に確率を重み付けした
結果よりも、代替の行動ルールを通じて生態系サービスを選択し、価値を評価する可能
性がある。
5
5.1
関係者横断的な価値評価及び発展途上国での価値評価の適用
関係者横断的な価値評価
生態系サービスの経済的価値評価では、関係する利害関係者の特定は重要な課題である
(Hein et al. 2006)。価値評価手順のほとんどすべての段階で、主要な政策や管理目標を
決定する、主要な関連サービスを特定しその価値を評価する、あるいは生態系サービス
の利用又は享受に関わるトレードオフを議論するなどのために、利害関係者の関与は必
須である(de Groot et al. 2006)。ここで、利害関係者とは、特定の生態系サービスの利
用、享受、または管理のされ方に関心がある個人、組織、またはグループを言う。
経済的価値評価における利害関係者指向のアプローチは、社会的紛争を解決するために、
価値評価を有効な代替管理に結びつける。生態系サービスの価値評価で利害関係者分析
を用いると、社会生態システムである管理戦略が実施された場合に、誰が利益を得て誰
が利益を失うのかを特定し評価する際の裏付けとすることができる。このことから、利
52
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
害関係者、及びさまざまな生態系サービスを保護する彼らの個人的な理由を特定し特性
を理解することは、紛争を解決し、より良い政策を策定するのに役立つ。
事前に利害関係者の社会文化的特性評価を行うことが、これらの基礎となる要因を決定
する際に欠かせない場合がある。しかし、この特性評価は、経済的価値評価調査ではこ
れまでほとんど行われてこなかった (Manski 2000)。Adamowicz (2004)が述べている
ように、金銭的価値に影響を与える要因に基づいて経済的価値評価を行うと、単純に価
値の一覧を作成するよりも有益な情報を生み出す。
利害関係者が生態系サービスに与える価値は、文化的背景やサービスが生活環境に与え
る影響によって、利害関係者ごとに異なる場合が多い(Hein et al. 2006; Kremen et al.
2000)。 また、波及効果が大きい商品ほど「公共財的」性格が強く、より広範なドナー
の寄与を必要とする。この理由から、分析の空間的規模が異なるため、生態系サービス
の種類が異なれば、価値の評価方法も異なってくる(Hein et al. 2006; Martín-López et
al. 2007)。地域主体は、国家主体やグローバル主体に比べて、供給サービスに高い価値
を与える傾向があり、後者は調整サービスや文化的サービスにより多くの価値を与える
傾向がある。
空間規模及び利害関係者を考慮に入れることにより、生態系サービスの価値評価調査が
政策決定の裏付けとなる能力は強化される。すべての利害関係者が受け入れることがで
きる管理計画を策定するには、さまざまな規模で彼らの利益を調整する必要がある
(Hein et al. 2006)。利害関係者ごとに生態系サービスの利用及び享受に対する関心は異
なるため(Martín-López et al. 2009b)、生態系管理から地域レベルで生じる費用と、国
及び国際レベルで生じる便益の間に不均衡が生まれる可能性がある。このような差異を
認識している政策立案者は、社会的不公正を制限する、あるいは減じさえする管理方法
を導入できる。現在広く検討されているオプションの 1 つは、サービスを提供している
保護地域内又は近くに居住している人々に対して「生態系サービスへの支払い」により
損失を補償する方法である(Ferraro and Kramer 1997)。 この政策の実施方法について
は、TEEB D1(2009)及び TEEB D2 (近刊予定)で詳細に示されている。
価値評価プロセスにおける利害関係者アプローチは、プロセス全体への利害関係者の関
与を必要とするため、課題もある。プロセスが進むにつれて、知識のギャップが明らか
53
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
になり、調査の必要が出てくる場合がある(Hermans et al. 2006)。このような利害関係
者の関与は、参加型分析ツール及び審議型貨幣評価により支援できる(Spash 2007、
2008)。参加型分析ツールを使用する場合は、プロセスで 1 つのタイプの利害関係者だ
けが影響力を持つことがないようにするために、すべてのタイプの利害関係者の代表が
公平に参加する必要がある。したがって、組織や利害関係者の代表者を決定及び選択す
る作業は、生態系サービスの経済的価値評価に不可欠な部分である。
生態系サービス価値評価プロセスにおける利害関係者指向のアプローチの手順には、将
来は、(1)利害関係者の生態系サービス管理に与える影響の程度、及び生態系サービスへ
の依存度に基づいて利害関係者に優先順位を付け(de Groot et al. 2006)、(2)長期間にわ
たって生物多様性によって提供される生態系サービスを管理することができる者を特定
するために、利害関係者の攪乱への適応能力や統治能力に基づいて利害関係者を特定す
る、というプロセスを含める必要がある(Fabricius et al. 2007)。
5.2
開発途上国における金銭的価値評価の利用
生物多様性は、健康、厚生、生活、生存のために人々にとって根本的に重要なさまざま
な範囲の商品及びサービスを支えている(Daily 1997、MA 2005)。これらのストックに
対して最も直接的に依存しているのは、発展途上国の最貧地域の人々であることが多く、
食物、燃料、建築資材、自然薬品などの天然資源に直接的に依存している。生物多様性
の役割についてさらによく理解することは、開発途上国の人々の生活や厚生を守るため
の基本である。
近年、人々が生物多様性をどのように重視しているかについて、多くの調査が行われて
いる(Nunes 及び Van den Bergh 2001; Christie et al. 2004、2007)。この調査の大半は、
先進国で実施されており、開発途上国での実施は限られたものでしかない(Abaza and
Rietbergen-McCracken 1998; Georgiou et al. 2006; Van Beukering et al., 2007)。価値
評価調査を集めた環境評価調査機構(EVRI)のデータベース(http://www.evri.ca)を調査
して、Christie et al. (2008)は、最近、開発途上国における生物多様性の評価を目指し
た研究として 195 件を特定した。この数は、その時点で公表されていたすべての生物多
様性価値評価研究の数のおよそ 10 分の 1 である。また、これらの調査は、「低中所得」
国及び「低所得」国に等しく分散しているが、最貧の「移行経済国」における価値評価
54
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
の調査は見つかっていない。確認された調査の半分はアジアで、18%はアフリカ、5%
は南アメリカで実施されたものであった。したがって、開発途上国における価値評価の
適用に大きなばらつきがあることは明らかで、最貧国や一部の地域はほとんど、あるい
はまったくカバーされていない。
開発途上国における経済的価値評価の適用は、明らかにまだ初期の段階にある。さらに、
開発途上国での価値評価技術の適用に関係して、方法論、実務、政策面で大きな課題が
あることも明らかである。これらの課題の多くは、開発途上国の地域の社会経済的、政
治的状況から生じており、このことは、手法の直接的な伝達は適切でないことを意味す
る。したがって、開発途上国で適切な価値評価調査を実施するためには、標準的なアプ
ローチに何らかの手直しが必要であると思われる。Christie et al.(2008)による開発途上
国における生物多様性の価値評価の検証は、これらの課題の多くを明らかにしている。
ここでは、方法論、実務、政策面の問題に特に注目する。
方法論的問題に関しては、識字能力、教育、及び言語の水準の低さが、複雑な環境財の
価値評価を行う際の障害になっているほか、アンケートやインタビューなどの従来の調
査技術の使用を困難にしている。より審議型、参加型のアプローチによりデータを収集
することが、このような問題の克服に繋がる可能性がある(Bourque and Fielder 1995、
Jackson and Ingles 1998; Asia Forest Network 2002、Fazey et al. 2007)( Box 6 を参
照)。
多くの開発途上国には、非公式経済又は自給自足経済が存在し、人々は貨幣を扱う経験
がほとんどあるいは全くない。このため、彼らは、複雑な環境財を金銭的に評価するこ
とは非常に困難に感じる。他の富の尺度、たとえば米袋数などで支払意思額を評価する
ことによってこの問題に対処しようとした調査者も、複数存在する(Shyamsundar and
Kramer 1996; Rowcroft et al. 2004)。
大多数の価値評価手法は、開発途上国の調査者によって開発され改善されてきている。
これらの手法の現時点での最良の実施ガイドラインが、開発途上国での適用には適さな
い場合があることを示す証拠がある。たとえば、仮想市場評価の NOAA ガイドラインは、
最も適切な支払い手段として税を提案している。しかし、開発途上国の多くの人は税を
支払っておらず、また政府が政策を実施するかどうか信頼できていない場合がある
55
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
(McCauley and Mendes 2006)。
価値評価調査の実施者に関しては、多くの開発途上国は、調査者の地域を評価するある
いは調査を効果的に実施する能力に影響を及ぼす場合がある極限環境条件の影響を受け
ていることを指摘しておく必要がある(Bush et al. 2004; Fazey et al. 2007)。多くの開
発途上国では、調査プロジェクトを設計、管理、分析するための地域の調査能力が不足
している場合が多い。しかし、地域の人々の関与は、地方の微妙なニュアンスや価値が
確実に含まれるようにするためには、調査プロセスにおいて必須である(Whittington
1998; Alberini and Cooper 2000; Bourque and Fielder 1995) ix。
最後に、開発途上国で価値評価を行う際に留意する必要がある主要な側面のいくつかは、
地域の調査能力の不足に関するものであり、これは価値評価手法の認識の不足に繋がる
場合がある。このような問題に関するプログラムを構築する能力は、開発途上国が生物
多様性の問題に効果的に対処する必要がある場合には、重要と考えられる。既存の生物
多様性価値評価調査の多くは抜粋的であり、地域の政策からの情報提供はほとんどなく、
またh地域の政策に影響を及ぼすこともほとんどない(Barton et al. 1997)。実地調査の
考え方を価値評価に組み込むことは、この種の調査が政策に意味のある影響を及ぼすよ
うにするために、欠かせないと思われる(Wadsworth 1998)。
56
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Box 6: 参加型価値評価手法
参加型価値評価手法は、次に示すいくつかの点で経済的価値評価手法と異なっている。
z
フォーカス: 参加型価値評価手法は、価値評価のニーズにデータの範囲を制限して焦
点を絞った視点を持つ必要がある。文脈に即したデータを集めることは、地域の状況
を理解するために重要であるが、無関係なあるいは不必要な情報の収集は時間の無駄
になり、価値評価対象の目的を混乱させる可能性がある。
z
柔軟性: 変化する地域の状況、価値評価調査設計時の予期しない問題の発生、参加者
と協力して特定の価値評価技術を開発及び適用する過程等に、柔軟に対応できるよう
にすることが大切である。
z
重複技術: 参加型価値評価手法は、異なる技術を使用して異なる参加者から少なくと
もある程度は同じデータを収集した場合、価値評価結果の相互チェックが可能になる
ため、有効性が増す。
z
協力: 価値評価調査を設計及び実施する際には、地域の利害関係者の十分な支援を得
ることが、信頼できる情報を入手し、すべての参加者に学習意識を育てるために重要
である。
z
共有: 価値評価調査の結果は、より的を絞った価値評価アプローチを可能にするため
に、利害関係者にフィードバックする必要がある。
出展: Jarvis et al. (2000)
開発途上国の国民の自然環境についての考え方が、先進国の国民の考え方とは異なって
いるのは明らかである。ここまでに論じてきた問題のすべては、開発途上国の人々は、
通常、市場経済により密接に関連しているさまざまな価値の概念を保持している先進経
済国の人々と比べて、生態系サービスや生物多様性の価値評価を表現することが非常に
難しい場合があることを意味している。したがって、開発途上国においては、標準的な
価値評価アプローチは、かなり慎重に実施する必要がある。また、これらの問題は、(i)
57
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
調査プロセスを通じて地域の調査者を使用し、かつ(ii)審議型、参加型、実地研究アプロ
ーチなどを価値評価手法に組み入れた場合、価値評価がより効果的にかちっ評価を実施
できる可能性があることを示唆している。
6
6.1
便益の伝達と価値のスケールアップ
生態系サービス価値評価の手法としての便益の伝達
生態系サービスの価値を評価する場合、関心のあるそれぞれの生態系について詳細な生
態学的及び経済的調査を行うことができれば理想的である。しかし、新たに生態学的及
び経済的調査を開始するのは費用と時間がかかり、多くの政策決定では現実的といえな
い。便益(または価値)の伝達(以下「BT」)は、生態系固有の情報の不足を比較的費用を
かけずに時宜に即したやり方で克服するアプローチである。BT は、類似した生態系か
ら既存の価値評価を伝達することで、生態系サービスの価値を評価する方法である。価
値の伝達先の生態系は「政策サイト」、価値評価の借用元の生態系は「調査サイト」と呼
ばれる。政策サイトと調査サイトを緊密に一致させる、あるいは 2 つのサイト間の重要
な違いを反映するように価値を調整するという配慮がなされた場合、BT は、生態系サ
ービスの価値を評価する有用なアプローチとなりえる(Smith et al. 2002) x。
BT 法は、i)単位 BT、ii)調整単位 BT、iii)価値関数伝達、iv)メタ分析関数伝達の 4 種類
に分類することができる。
単位 BT では、調査サイトで評価された単位価値の平均値に政策サイトの該当する生態
系サービスの量をかけることにより、政策サイトの生態系サービスの価値を評価する。
単位価値は、一般的に、家庭当たりの価値又は単位面積あたりの価値として表される。
前者の場合、価値の集計は、評価対象の生態系の価値を保持する関連住民を対象として
行われる。後者の場合は、価値の集計は、生態系の面積に対して行われる。
調整単位伝達では、伝達される単位価値に単純な調整を行って、サイトの特性の違いを
反映させるようにする。最もよくおこなわれる調整は、調査サイトと政策サイトの所得
の差や、経時による又はサイト間の価格水準の違いに関するものである。
58
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
価値関数または需要関数伝達法は、調査サイトに対する価値評価の適用(トラベルコスト、
ヘドニック価格、仮想市場評価、選択モデルなど)によって計算された関数を、価値の伝
達先である政策サイトのパラメータ値に関する情報と共に使用する。政策サイトのパラ
メータ値を価値関数に入力して、伝達される価値を計算するが、政策サイトの特性をよ
りよく反映できる。
最後に、メタ分析関数伝達では、複数の調査結果から計算された価値関数を、価値を評
価する政策サイトのパラメータ値に関する情報と共に使用する。つまり、価値関数は、
単一の調査ではなく、調査の集合に由来する。このため、価値関数には、サイトの特性
((社会経済的要素や物理的要素など)と調査の特性(価値評価手法など)の両方の変動値を
より多く含めることができる。ただし、このような情報は、1 つの一次価値評価調査か
ら生成することはできない。Rosenberger and Phipps(2007)は、BT にメタ分析価値関
数を使用する場合の基礎となる重要な前提を特定している。第一に、資源の評価対象の
価値をサイトの特性及び調査の特性に結びつける、基礎となるメタ価値評価関数が存在
すること。一次価値評価調査は、この基礎となる関数に関する推定値を提供し、後に、
メタ分析でこの関数を使用して価値が評価される。第二に、サイト間の違いを価格ベク
トルにより捕捉できること。第三に、時間が経過しても価値が安定していること。また
は価値の変動が系統的であること。そして、最後に、サンプリングされた一次価値評価
調査が「正しい」価値評価を提供することである。
以上に挙げた BT 法は、説明した順番で、適用が複雑になる。単位 BT は比較的容易に
適用できるが、調査サイトと政策サイトの重要な違いが無視される場合がある。一方、
メタ分析関数伝達は、調査サイトと政策サイトの違いに応じて制御が可能であるが、既
存のメタ分析価値関数を利用できない場合(つまり、一次調査のデータを集め、データベ
ースにコード化し、価値関数を評価する必要がある場合)、複雑で時間がかかる。また、
BT 法が複雑だからといって、必ずしも伝達誤差が減るわけではない。政策サイトと非
常によく似た特性を持つ調査サイトについて質の高い一次価値評価調査を利用できる場
合は、単純な単位 BT が最も正確な価値評価につながる場合もある。
一般に、BT 法は、受益者あたりの価値(たとえば、個人又は家庭当たりの価値)、又は生
態系の単位面積当たりの価値(たとえば、ヘクタール当たりの価値)のいずれかを単位と
して価値を伝達する。前者のアプローチは、生態系サービスに対する価値を保持するの
59
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
は人であると明確に認識している。一方、後者のアプローチは、サービスの提供に関し
て、生態系の空間的範囲に重きを置いている。実際的に言って、生態系サービスの受益
者を特定することは難しい場合が多く、多くの価値評価手法は、個人/家庭単位の価値評
価(たとえば、生産関数アプローチ、純要素所得法など)は行わない。したがって、単位
面積を単位として伝達する価値を定義するほうが実際的である場合が多い。
6.2
個別生態系サイトの生態系サービスの便益伝達の課題
6.2.1 伝達誤差
前述の BT 手法の何れを適用する場合でも、重大な伝達誤差が生じる可能性がある。す
なわち、伝達される価値が、検討中の生態系の実際の価値と大きく異なってしまう場合
がある。価値の伝達を使用して評価する価値に誤差が生じる一般的な原因には、次の 3
つがある。
1. 調査サイトの価値のオリジナルの測定値の評価に関する誤差。脆弱な方法論、信頼で
きないデータ、分析者のミス、価値評価手法に関連するあらゆるバイアス及び不正確
さなどが原因で、一次価値評価の測定に誤差が生じる場合がある。
2. 調査サイトの価値の政策サイトへの伝達によって生じる誤差。異なる政策サイトに、
相違点を十分に考慮に入れずに調査サイトの価値を伝達した場合は、いわゆる一般化
誤差が発生する。相違点としては、人口特性(所得、文化、人口動態、教育など)や環
境特性/物理的特性(商品又はサービスの量/質、代替品の可用性、アクセス可能性など)
に関するものが考えられる。この誤差の原因は、調査サイトと政策サイトの特性の対
応性と反比例の関係にある。また、生態系サービスの選好や価値が長期にわたって変
わらずにいるということはないため、一時的に一般化誤差の原因が生じる場合もある。
将来の政策シナリオの下で、BT を使用して生態系サービスの価値を評価することは、
したがって、将来の世代が現在又は過去の世代と同じ選好を持つかどうかに関してあ
る程度の不確実性を伴う。
3. 公表選択バイアスによって、知識のストックが生態系の価値を表さないものになる場合
60
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
がある。公表選択バイアスは、価値評価の結果が広く周知される公表の過程で、特定の
タイプの結果に歪められるような知識のストックや、価値伝達の実施者が必要とする情
報のニーズを満たさない知識のストックが生み出される場合に、発生する。経済学の文
献では、一般に、複製ではなく統計的に有意な結果や新しい価値評価の適用を公表した
いという編集者の選好が存在し、これが公表バイアスを生み出す結果になる場合がある。
BT を適用する際に誤差が生じる可能性があることを考えると、これらの誤差の大きさ
を調べて、価値伝達の使用に関係している決定者に情報を伝えることが有用である。伝
達される価値に基づいて意思決定を行う際、あるいは BT を適用するか一次価値評価調
査を実施するかを選択する際に、政策立案者は、生じる可能性がある誤差を知っておく
必要がある。このニーズに応えて、BT の正確さをテストしたかなりの規模の文献が存
在する。Rosenberger and Stanley(2006)、ならびに Eshet et al.(2007)は、この文献に
ついて有益な概論を提供している。国際的な便益伝達の代替 BT 法の相対的なパフォー
マンスを調査した最近の研究による証拠は、価値関数及びメタ分析関数を使用した伝達
は、平均伝達誤差が低い結果になることを示唆している(Rosenberger and Phipps 2007;
Lindhjem and Navrud 2007)。
政策意思決定のために、伝達誤差の一定の許容レベルを規定することは不可能である。
伝達誤差の許容レベルは、価値評価が行われる文脈にのみ依存するからである。環境被
害の補償の決定に使用するためには、価値の正確な評価が必要だと考えられる。一方で、
生態系サービスの価値の地域別の評価には、伝達誤差が多少高くても許容される。特に、
サイト固有の誤差が集計された時点で相殺される場合はなおさらである。
6.2.2 伝達される価値の集計
集計とは、生態系サービスの総価値を評価するために、単位価値に需要又は供給数量を
掛けることをいう。価値を伝達する際の単位(受益者又は単位面積当たり)は、総価値を
評価するための価値の集計において重要な意味を持つ。価値が受益者ごとに表される場
合、集計は、関係住民の合計 WTP の推定額を意味し、この値は、代表的なサンプルの
個別 WTP の値を対象となる生態系サービスの価値を保持する関係住民に適用すること
で得られる。これを行うためには、分析者は、生態系サービスの市場規模を評価する必
要がある。つまり、生態系の価値を保持する人口を特定する必要がある。価値が単位面
61
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
積当たりで表される場合は、価値は、対象となる生態系の合計面積に対して集計される。
このアプローチは、生態系の需要レベルより供給に重点を置いており、評価されるのは
受け取られるサービスで、潜在的な供給力ではないことに注意する必要がある。
この場合、単位面積当たりで評価された価値に、生態系サービスの市場規模の影響を反
映する必要がある。
集計は、また、同じ環境財のさまざまな生態系サービスの価値を合計することを指す場
合もある。特定の生態系によって提供されるすべてのサービスの合計は、その生態系の
総経済価値の評価額を表す。この手法は、生態系サービスの価値をダブルカウントしな
いように注意して行う必要がある。生態系サービスが完全に独立している限りは、価値
を合計することは可能である。しかし、生態系サービスどうしは、相互に排他的、相互
作用的、あるいは相互に不可欠などの関係になり得る(Turner et al. 2004)。生態系サー
ビス及び価値の相互作用は、たとえば、空間依存である代替サービスとの相対的な地理
的位置に左右される可能性もある。
生態系サービスの価値を非常に多くのサービスにまたがって集計すると、信じがたいほ
ど大きな結果になる可能性がある(Brown and Shogren 1998)。単一の生態系サービスを
維持する評価価値が比較的大きい場合(家計資産の 1%の 10 分の 1)、1 家庭が支えるよ
う求められる全生態系サービスを合計すると、信じがたいほど評価額が大きくなる場合
がある。
6.2.3 空間規模に関連する課題
空間規模は、生態系サービスの価値の伝達にとって重要な問題として認識されている
(Hein et al. 2006)。生態系サービスの需要と供給が発生する空間規模は、サイト間の価
値の伝達を複雑にする一因となっている。供給面では、生態系自体の空間規模がさまざ
まであり(たとえば、小規模な個別の区域、大規模な連続区域、地域ネットワークなど)、
さまざまな空間規模でサービスが提供されている。生態系が提供するサービスは、オン
サイト、オフサイト両方の可能性がある。たとえば、森林は、レクリエーション機会(オ
ンサイト)、下流域の洪水防止(地域のオフサイト)、気候調整(地球規模のオフサイト)な
どを提供する。需要の面では、生態系サービスの受益者も、評価対象の生態系サービス
62
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
に対する相対的な位置という点でさまざまである。多くの生態系サービスは地域で使用
されているが、より広い地理的規模にいる受益者が受け取る多機能サービスも存在する。
空間規模は、正確な BT の実施に多くの課題を発生させる。これらの課題のほとんどは
個別の項で扱っているが、ここでは、空間規模の分野横断的な重要性を強調するために
言及している。生態系サービスの供給の空間規模と受益者の場所を検討することは、価
値を集計してサービスの総経済価値を計算するうえで、また、サイトや文脈の特性に含
まれる異質性を扱ううえで重要である。代替及び補完的な生態系サイト及びサービスの
可用性と近接性の問題には、明らかに空間次元が関係する。さらに、空間規模は、距離
減衰や空間割引の問題にも大いに関連している。
BT にとって重要な空間変数及び関係は、GIS を使用して有効に定義しモデル化できる。
本質的には空間変数ではない受益者の社会経済的特性(所得、文化、選好など)も、GIS
を利用して空間的に(行政区画、地域、国など)に有用な定義を行えるできる場合が多い。
BT の実施に GIS を利用する調査の数は増えている(Lovett et al. 1997; Bateman et al.
2003; Brander et al. 2008 など)。
6.2.4 生態系の特性及び文脈による価値の変動
生態系サービスの価値は、生態系サイトの特性(面積、統合性、生態系の種類)、受益者(サ
イトまでの距離、受益者数、所得、選好、文化)、及び文脈(代替/補完サイト及びサービ
スの可用性)などによってさまざまである可能性がある。したがって、この価値の変動を
認識し、特性や文脈の異なる調査サイトと政策サイト間で価値を伝達する場合には、適
切な調整を行うことが大切である。
生態系の特性は、その生態系が提供するサービスの価値に影響する。たとえば、海岸湿
地の植物によってどの程度波が弱められ高潮から沿岸地域が保護されるかは、水柱の植
物の高さ(時節、潮の干満によって異なる)、植物帯の幅、植物密度、波の高さ(嵐の強さ
によって異なる)、沿岸の海底地形など様々な要因によって決まる(Das and Vincent
2009; Koch et al. 2009)。したがって、BT の手法はサイトの特性の違いを考慮する必要
がある。単位伝達法の場合は、調査サイトと政策サイトを注意深く適合させる必要があ
る。価値関数伝達やメタ分析関数伝達の場合は、パラメータを関数に含めて、サイトの
63
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
重要な特性に応じた調整を行う必要がある。生態系の規模は重要なサイト特性であるた
め、生態系の規模の一定しない限界価値の問題をこの章では取り上げる。
生態系には、多くの場合、異質な受益者グループ (空間的位置、社会経済的特性などの
点で異なる)が複数存在する。たとえば、生態系によるレクリエーション機会や審美的楽
しみの提供は、一般的に、ごく近くに住む住民にのみ便益をもたらすが、高レベルの生
物多様性の存在は、はるかに大きい空間規模の人々によって評価される場合がある。各
生態系サービスの価値を伝達及び集計する際には、生態系サービスごとの受益者グルー
プの規模や特性の違いを考慮に入れる必要がある。BT を実施する際は、調査サイトと
政策サイトの受益者の特性の違いに応じて調整を行うことが重要である。この場合も、
やはり、単位伝達で非常によく似た土地を使用するか、伝達される価値の調整に使用で
きるパラメータを価値関数に含めることによって、調整を行うことができる。たとえば、
伝達される価値は、所得に関して WTP の評価の弾力性を使用して、所得の違いを反映
するように調整することができる(例については以下を参照。Brander et al. 2006;
Schlapfer 2006; Brander et al. 2007; Jacobsen and Hanley 2008)。
BT では、また、代替/補完生態系サイト及びサービスの可用性の違いというような文脈
の重要な違いも考慮する必要がある。生態系の近接地域にある代替(補完)サイトの可用
性は、その生態系による生態系サービスの価値を低下(又は増加)させると予想される。
たとえば、湿地帯の価値調査のメタ分析で、Ghermandi et al.(2008)は、湿地帯の生態
系サービスの価値と湿地帯の豊富さの間に有意な負の関係を認めている(評価した湿地
帯サイトそれぞれの半径 50km 以内を湿地帯地域として測定)。この問題は、生態系サー
ビスの価値のスケールアップにも重要な意味を持っている。
6.2.5 一定しない限界価値
多くの生態系サービスの価値は、規模に関して収穫不一定である。生態系サービスの価
値の中には、規模に関して収穫逓減を示すものもある。すなわち、小規模な生態系に追
加単位面積を追加するよりも、大規模な生態系に単位地域を追加する場合のほうが、生
態系サービスの総価値の増加率は少ない(Brander et al. 2006, 2007)。収穫の減退が発生
するのは、基礎となっている生態的関係(種数-面積曲線など)、またはサービスの利用者
による限界効用の減少が原因である。対称的に、生息環境の提供のような他の生態系サ
64
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
ービスは、規模に関する収穫逓増をある程度示す場合がある。たとえば、主たる目的が、
ある大型捕食動物の存続可能個体数の維持である場合、存続するには生息環境が小さす
ぎる場合、生息環境が存続可能個体数を維持できるだけ十分な大きさになるまでは、価
値は限定される。したがって、たとえば、規模に関して評価される価値の弾力性を使用
して、評価対象の生態系の規模及びこの生態系の変化の規模を考慮に入れることが重要
である(Brander et al. 2007 の例を参照)。このアプローチの妥当性は、生態系サービス
の提供が非線形性、段階変化、閾値などの点で複雑であるため、限定的である(第 2 章参
照)。生態系の規模の変化についての単純な線形の調整では、このような影響を捕捉でき
ない。
6.2.6 距離減衰及び空間割引
多くの生態系サービスの価値は、受益者と生態系間の距離が大きくなるにしたがって減
少すると予想される(いわゆる距離減衰)。生態系サービスの価値が距離と共に減少する
割合は、空間割引によってあらわすことができる。すなわち、距離が遠い生態系サービ
スの価値により低い重み付けをする(又は、逆に、生態系サイトから遠い位置にいる受益
者が保持する価値の評価を下方修正する)。
距離減衰を考慮に入れずに伝達される価値を受益者をまたがって集計すると、総価値の
重大な過大評価につながる。分かりやすい例が Bateman et al.(2006)によって提供され
ている。彼らは、さまざまな集計法を比較し、距離効果を無視した場合の影響を評価し
ている。また、サンプルの中間値を単純に集計する代わりに、サイトまでの距離及び住
民の社会経済的特性を考慮に入れた空間感応的な価値評価関数を価値の計算に提供して
いる。これにより、経済市場地域全体の価値の変動性が、総 WTP によりよく表される。
彼らは、集計手続きに距離を考慮に入れない場合、総純益額は最大 600%まで過大評価
される可能性があることを発見した。
距離減衰率は、生態系サービスによって異なる可能性が高い。直接的利用価値は、一般
に、生態系までの距離にともなって減少すると予想されるが、減衰率は、受益者が特定
のサービスにアクセスするためにどの程度遠くまで移動する意思があるかや、代替サー
ビスの差別化可用性、生態系によって生態系サービスが「提供」される場所の空間規模
などに応じて、生態系サービスごとに異なっている。したがって、特定の生態系によっ
65
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
て提供される生態系サービスの市場規模又は経済区はサービス間で異なる。たとえば、
受益者は、珍しい動物を見に遠距離を旅行する意思がある場合もあれば(価値の距離減衰
は低く、地理的に広い地域の人々が、関心のある生態系や種に対して価値を保持する)、
泳ぐためにきれいな水を求めてはそれほど遠くまで旅行しない場合もある(泳ぐための
代替サイトが利用可能であるため、価値の距離減衰は高く、生態系から近い距離にいる
人々だけが泳ぐことができるように水質を維持することに価値を保持する)。非利用価値
も、生態系と受益者間の距離に応じて減少する場合があるが、この関係は、文化的又は
政治的境界ほどは距離に関係しない。空間割引に関する文献は、非利用価値の空間割引
率は利用価値に比べてかなり低くすべきだと提言している(Brown et al. 2002)。場合に
よっては、非利用価値は、距離と共に減少することがまったくない、すなわち、空間割
引率が 0 の場合もある。たとえば、世界的に知られている特定のカリスマ的種の存在価
値の場合などが、これにあたる。
Loomis (2000)は、米国の脅威を受けている広範な環境財(ニシアメリカフクロウ、サケ、
湿地帯、ならびに 62 種の応急種及び絶滅危惧種)の保護のための空間割引を調査してい
る。この調査でまず分かったことは、WTP が距離とともに減少することである。しか
し、これらの種の生息地域から 1,000 マイルも離れたところに住む家庭にも依然として
かなりの便益が存在している。このことは、家庭の便益の総和を近い場所に限定するこ
とは、総便益がかなり過小評価される結果になることを意味している。これらの結果は、
BT について 2 つの意味を持つ。第一に、WTP は、一般的に使用されている行政区(た
とえば米国内の州、また恐らくは欧州連合の 1 つの国内の州)を越えて移動しても、ゼロ
になることはない。しかし、使用できるデータがあったとしても、価値が国をまたいで
変化するかどうかを確認する手段はない。生態系サービスの価値のこのような国家横断
的な比較は、将来の調査では重要な意味を持つだろう。第二に、家庭当たりの価値は距
離が 1,000 マイル以上離れても 0 になることはないが、空間割引が存在することを認識
することは重要である。したがって、種が存在する地域から得られた価値をより広い地
理的地域の住民に対して一般化すると、WTP の価値を過大評価することになる。前述
した限られたデータは、知名度の高い種や環境は、1,000 マイル離れた地点で家庭当た
りの価値が 20%割り引かれ、2,000 マイルの地点で 40~50%割り引かれる場合があるこ
とを示している。
66
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
6.2.7 公平性の重み付け
社会経済的特性が異なる調査サイトと政策サイト間で BT を実施する際は、所得水準の
違いを考慮することが大切である。一般に、環境改善のための WTP は所得と正の関係
が見られると予想されている。伝達される価値は、評価された所得の弾力性を使用して
調整することができる(Brander et al. 2006; Schläpfer 2006; Brander et al. 2007;
Jacobsen and Hanley 2008 など)。しかし、貧困国、特に開発途上国の生態系サービス、
特に供給サービス(食物、シェルター)への依存度の大きさを反映するために公平性の重
み付けを使用することには、異論がある可能性もある。公平性重み付けは、
「貧しい者に
とっての 1 ドルは豊かな者にとっての 1 ドルと同じではない」という洞察に対応してい
る。正式に言えば、消費の限界効用は消費に伴って減少する。つまり、豊かな者が消費
に使用できる余剰の 1 ドルから得る効用は、貧しい者に比べて少ない。
公平性の重み付けがされた生態系サービスの価値評価では、生態系サービスの提供の減
少は、貧しい者にとっては、同じサービスの変化が豊かな者に起こった場合に比べて、
より大きい厚生の損失を生むことが考慮に入れられる。このような調査では、国レベル
のデータの代わりに地方又は地域のデータを使用することが、大きい地域を使用して一
人当たりの平均所得を計算することによる所得不均衡の平滑化を避けるために重要であ
る。公平性重み付けの使用は、影響を受ける住民の所得に大きな違いがあり、真の厚生
の損失を評価することが難しいことを考えると、生態系サービスの価値を先進国から発
展途上国に伝達する場合に特に適している (Anthoff et al. 2007)。
6.2.8 生態系サービスの価値の一次評価の可用性
生態系サービスの価値を評価するために BT を使用できる範囲は、すべての関連する生
態系の種類、生態系サービス、社会経済及び文化的文脈について高品質な一次価値評価
調査を利用できるかどうかによって制限される。重要なことは、十分に設計されていな
い実証主義的調査から得られるデータは、BT の信頼性を損ねるということである(「ご
みを入れればごみしか出てこない」というフレーズがこの問題をよく表している)。一部
の種類の生態系(湿地帯、森林など)については経済的価値評価の文献に良い調査がある
が、他の種類(海洋、草原、山岳などの生態系)については、価値の伝達に使用できる一
次価値評価調査は比較的少ない。同様に、価値評価文献で取り上げられれているかどう
67
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
かも、生態系サービスによっていろいろである。たとえば、レクリエーションや環境ア
メニティはよく調査されているが、調整サービスに関する価値評価調査はまれである。
また、発展途上国で実施される生態系サービスの価値評価調査も、比較的不足している
(Christie et al. 2008)。これは、BT に使用できる基礎的情報に大きなギャップがあるこ
とを表している。生態系サービスへの依存度及び選好、ならびにその結果としての価値
は、先進国と発展途上国では大きく異なる可能性があるためである。
また、(当然のことではあるが)代替及び補完生態系の現在の可用性の文脈の外で生態系
サービスの変化の価値を評価している一次価値評価調査の可用性の限界もある。提供レ
ベル全体が大きく減少している状況の生態系サービス提供の変化の限界価値は、したが
って、一般的な観察の範囲を越えており、ゆえにほとんど不明である。これは、大きな
地理的地域又は生態系のストック全体に対して生態系サービスの価値のスケールアップ
の可能性を意味している。
6.3 生態系サービスの価値のスケールアップ
前述の信頼できる BT を実施しようとする際に直面する課題は、個々の生態系サイトの
価値を評価するための価値の伝達に関わるものである。BT を利用して大きな地理的地
域内の生態系のストック全体又はすべての生態系サービスの提供の価値を評価する場合
(いわゆる「スケールアップ」)、地域全体又は生物群系全体の生態系サービスの価値は、
小さい生態系サイトの評価価値を加算するだけでは見出すことはできない。非線形の社
会経済的力学が存在する場合には、問題はさらに大きくなる。生態系サービスの提供の
大規模な変化は、サービスの限界価値を変化させる結果になる可能性がある。したがっ
て、スケールアップにより大きな地理的地域の総経済的価値を評価する場合は、限界価
値の不定性を考慮に入れる必要がある。これらの価値は、生態系の不足に関する評価価
値の弾力性を使用して調整できる(Brander et al. 2007 など)。
理論的には、生態系サービス提供の損失の経済的価値は、それ以外のものはすべて等し
いと仮定した場合、供給の変化前のレベルと変化後のレベルで決まるサービスの需要曲
線の下の面積として表される。いくつかの生態系サービスについては、需要曲線の形に
関して一般的なアサーションを作ることができる。たとえば、生態系サービスが比較的
簡単かつ安価に人工的な解決策によって提供可能な場合、あるいは効用を多大に損失せ
68
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
ずに劣化または損失される場合、需要曲線を比較的容易に描くことができる。ただし、
人の生命の維持に欠かせない、あるいは十分な代替物を利用できない臨界サービスにつ
いては(Ekins et al. 2003a; Farley 2008)、このような評価はかなり困難である。したが
って、十分でない環境財又はサービスについては、その力学を予測することはさらに困
限界価値
領域 III:
臨界:
完全に非弾力的な
需要
生態学的又は経済的閾値
難なため、将来の需要を予測する我々の能力は非常に限られている。
領域 II:
重要:
非弾力的需要
領域 I:
有益:
弾力的需要
自然資本の需要曲線
重要な自然資本または生態系サービスのストック(アマゾンの森林など)
自然資本ストック
図 5.
自然資本の需要曲線(Farley 2008) 図 5 は、重要な詩自然資本の定型化した需要
曲線を経済的又は生態学的閾値と共に描いたものである。
領域 1 では、ストックは豊富にあり限界価値は低く、限界価値はストックの変化に対し
てある程度一定して推移している。このサービス提供の範囲では、供給の変化の価値は、
一定の限界価値を使用してある程度適切に評価できる。金銭的価値評価は、保全と、自
然以外の資本との間の割り当てを決定する際の助けとなることができる。自然資本の全
体的な水準が減少すると(領域 II)、それにともなって限界価値が急角度で上昇し始め、
自然資本のストックは回復力が弱くなり、閾値に近づく。この閾値を超えると、ストッ
クはそれ以上の損失または劣化から自発的に回復できなくなる。限界効用は重要さを増
し、価値はストックのわずかな変化にもますます敏感に反応するようになる(非弾力的需
要)。したがって、この範囲では、生態系サービスの供給の変化を評価するために一定し
た限界価値を使用すると、価値評価に大きな誤差が生じる(現在観察されている限界価値
が低いが上昇していると仮定して、通常、過小評価される)。このため、領域 I の資本レ
69
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ベルに関連付けられているサイトから領域 II の別のサイトに一定の価値を伝達するこ
とは危険である。さらに、Farley (2008)が指摘しているように、使用できる自然ストッ
クの供給量、ひいては価格は、保全の必要性によって決定される必要がある。領域 III
では、資本ストックは重要な生態学的閾値を越えてしまっている。このような生態系の
価値を評価するための、この生態系によく似た代替生態系が存在しない場合、限界価値
は基本的に無限大になり、自然資本ストックの回復が必須になる(Farley 2008)。領域 III
では、標準的な価値評価技術は、便益伝達も含めて、もはや役に立たない。
生態系のストックに大きな変化がある場合に不定性の限定価値を扱う際の問題は、非線
形の生態学的力学の存在により、さらに困難になっている。個々の生態系サイトの価値
を評価(及び価値を伝達)する際に閾値効果を考慮に入れるのが難しいのと同様に、大規
模な損失が起こった後で生態系サービスの価値がどのように変化するかについても、
我々の知識は不足している。このような複雑さを伝統的なミクロ経済的手法で処理する
ことは難しいため、TEV ベースのアプローチと組み合わせることができ、より広い視野
で意思決定プロセスを支援できる、審議型手法や多基準手法のような代替のアプローチ
が必要とされている(Spash and Vatn 2006)。
現在利用できる調査は、現在の提供レベル全体に関して生態系サービスの価値を測定し
ている(調査は通常、1 つの生態系サイトに焦点を当て、残存している生態系のストック
からのサービスの供給のレベルは変化しないという暗黙又は明示の前提に基づいてい
る)。提供レベル全体の大きな変化は、したがって、我々の観察の範囲を越えており、ほ
とんど不明である。このため、生態系サービスの大規模な又は完全な喪失の価値を評価
することは、不可能である。臨界自然資本で生態学的閾値を超えると(領域 III)、厚生に
大きな変化が発生し、限界値や総価値は無限大に近づくため、これらの値の評価は基本
的に無意味になる。特に、ストックの一定しない限界価値を反映するために調整が行わ
れる場合は、様々なサービス供給の生態系サービスの価値のスケールアップが可能な場
合があるが、大規模な(臨界)自然資本や自然資本の完全な喪失の価値を評価するための
このアプローチの使用には限界があることを認識することが重要である。
70
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
7 結論
本章では、生態系サービスの経済的価値を評価するうえで最も重要な理論及び実際の課
題について取り上げた。たとえば、価値を地理的にスケールアップして生態系、地域、
生物群系、あるいは世界全体の生態系サービスの総価値を得る方法は、TEEB レポート
の他の章(第 7 及び 8 章)の基本となっているアプローチだが、この方法に関する重要な
問題のいくつかを論じた。また、価値評価調査の最も重要な課題について、特に、高い
不確実性、無知などの問題、生態系の動的な振る舞いを考慮すべきことなどを取り上げ
た。
価値評価の役割と TEV アプローチ
本章では、生態系サービスの経済的価値評価の背後にある理論的根拠、利用可能な手法
及びツール、重要な課題について概要を示した。多くの生態系サービスが市場取引がな
い状態で生産され享受されているため、それらの価値は、日々の意思決定では過小評価
される場合が多く、無視される場合さえある。この情報の不備を克服し、生態系の価値
を経済的な意思決定で明確にする方法の 1 つは、生態系サービス及び生物多様性を金銭
的価値で評価する方法である。我々は、生態系の経済的価値は基本的に 2 つの側面にあ
ることを示した。第一は、特定の生態学的状態での生態系サービスの便益の総経済的価
値である。第二は、さまざまな変化する環境条件でも安定的に生態系サービスの便益の
フローを供給する生態系の回復力に存在する保険価値である。
生態系の価値は、一般に、いわゆる総経済価値(TEV)アプローチを用いて評価される。
生態系の TEV は、通常、利用価値と非利用価値に分類され、それぞれをさらに複数の
価値要素に分けることができる。TEV アプローチに即した価値評価手法は、主に 3 種類
に分けることができる。直接市場アプローチ、顕示選好法、及び表明選好法である。後
者は、生態系価値の審議型グループ価値評価の形式的手法を開発するために、政治学の
審議型手法と組み合わされることが多くなっている。これらの手法については、簡単に
説明を行い、それぞれの利点と欠点、及び批判の対象になっている点についてもいくつ
かを論じた。
総合表を用いることで、生態系サービスの特定の価値要素や種類を扱う相対的な能力の
71
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
観点から、各手法について分析を行った。広範な文献データベースも、特に、重要な生
物群系である森林などの生態系について提供されている。事例研究のデータベースに基
づいて、これらの生物群系が生態系の経済的価値評価に関する文献でどのように扱われ
ているかを検証し、特定の手法の特定の生態系サービス及び価値の種類に対する使用に
ついての定量的データを提供した。本章では、また、たとえば利害関係者をまたがる価
値評価を行う場合など、さまざまな組織的及び生態学的規模に価値評価手法を適用する
際や、開発途上国で価値評価手法を適用する際に、価値評価実施者が直面するいくつか
の課題についても取り上げた。
不確実性の役割
価値評価手法に固有の不確実性について、本章では様々な種類の不確実性を取り上げた。
価値評価における一般的な不確実性の概念は、リスクと Knight が述べている不確実性
の概念を融合したものである。本章では、また、より深刻な種類の不確実性があること
も認めているが、この不確実性は、ここでは「極端な不確実性」又は「無知」と呼んで
いる。一般的な不確実性の概念が生態系サービス及び生物多様性の価値評価で適用され
る方法、及び、特に生態系の回復力を扱う場合に極端な不確実性を認識することの意味
について論じた。
加えて、生態系サービス及び生物多様性の価値評価に見られる不確実性の次に挙げる 3
つの原因についても検討を行った。(i)生態系サービス及び生物多様性の提供又は供給に
関する不確実性、(ii)選好の不確実性、および(iii)価値評価手法の適用における技術的な
不確実性である。
生態系サービスの提供に関する不確実性は、表明選好法を複雑にする。表明選好アプロ
ーチが明確なやり方で不確実性の問題を検討した例がほとんどないのは、このためと考
えられる。表明選好法は、一般に、回答者のリスクに関する認識を測定する。予想され
る損害機能に基づく他の価値評価アプローチは、代わりにリスク分析に基づいている。
選好の不確実性は、評価される生態系サービスに関する知識及び経験のレベルと反比例
の関係にある。この不確実性の原因は、表明選好アプローチでより広く認識されている
が、たとえば、生態系サービス提供の変化に対して特定の値ではなく、範囲値を回答す
72
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
るように回答者に求めることによって対処できる。
最後に、価値評価調査には技術的な不確実性の問題が、特に表明選好法による非利用価
値の評価の信頼性、及び WTP と WTA の価値評価間の大きな不一致についての解決し
ていない問題に関して、存在している。価値評価モデルを選好較正アプローチと組み合
わせることが、技術的な不確実性を最小限にするための方法として提案されている。
生態系の回復力の価値
本章の議論は、主に、現代の経済的価値評価技術とそれらの技術によって行われた評価
を取り上げている。しかし、これらの価値評価技術は、平坦で小さい規模の生態系の変
化を前提としており、生態学的閾値や回復力、構造転換(レジームシフト)などの生態
系の特性及び力学の文脈では、意味のない結果を生む場合がある。環境の価値評価にお
いて、これらの問題に取り組むことは重要な課題である。この分野でさらに進歩するた
めには、生態系プロセスについてのさらに深い知識と、革新的な価値評価技術が必要で
ある。
生態系の回復力の価値は、生態系が別のレジームにシフトする際に発生する便益と費用
に関係する。生態系の回復力の価値評価と資産のポートフォリオの価値評価には類似点
を見出すことができ、混合資産(生態系とその生物多様性)の価値は、シフトが発生する
確率とシフトが発生する際の便益及び費用によって決まる。生物多様性と生態系力学に
関する現時点での最新の知識は、このようなポートフォリオ評価を実施するには十分で
なく、金銭的分析は、生態系が臨界閾値に近い場合、誤ったものになる。政策レベルで
は、この不確実性と無知には、最小安全基準アプローチ及び予防的措置の原則を採用す
ることで取り組むことが望ましい。
便益伝達の使用
二次データの使用に関しては、価値又は便益の移転(BT)のアプローチについて、利点と
限界の 2 つの観点から論じた。BT は、ある生態系(「政策サイト」)の価値を、類似した
生態系(「調査サイト」)の既存の価値評価を伝達することにより評価する手法である。
BT の手法は、i)単位 BT、ii)調整単位 BT、iii)価値関数伝達、iv)メタ分析関数伝達の 4
73
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
種類に分けることができ、この順番で複雑さが増す。この何れの手法を使用する場合で
も、BT は、実施の価値と異なる評価結果になる、つまりいわゆる「伝達誤差」が発生
する可能性がある。政策決定を行う場合の伝達誤差の許容レベルは、文脈固有であるが、
非常に正確な価値評価が必要な場合は、一次価値評価調査を実施することを推奨する。
BT は、特に、多くの多様な生態系が関係する政策シナリオを評価する場合、生態系サ
ービスの価値を評価する実際的で時宜を得た低コストのアプローチであり得る。しかし、
限界価値は生態系特性、受益者の社会経済的特性、及び生態学的分薬によって異なる可
能性が高いため、調査サイト及び政策サイト間に重要な違いがある場合には、伝達され
る価値の調整を行うことを検討する必要がある。
重要なサイトの特性には、生態系の種類、提供されるサービス、統合性、サイズなどが
含まれる。また、受益者の特性には、所得、文化、生態系までの距離などが含まれる。
生態系サービスの市場規模を決定し、関連する人口に関して個人ごとの価値を集計する
場合は、距離減衰効果を考慮に入れることが重要である。市場規模と距離減衰率は、同
じ生態系でも生態系サービスによって異なる可能性があることも注意する必要がある。
また、代替/補完生態系及びサービスの可用性の観点から、サイトの状況の違いを考慮に
入れることも重要である。
政策サイトに特性が非常に似ている調査サイトがあり、そのサイトの高品質な一次価値
評価調査を利用できる場合は、単位伝達法が、最も正確な価値評価を生み出す。非常に
類似した調査サイトの価値情報を利用できない場合は、価値関数又はメタ分析関数伝達
法が、サイト固有の特性に応じたコントロールを行える適切なアプローチを提供する。
伝達される価値は、通常、受益者当たり、又は単位面積当たりで表される。前者はサー
ビスに対する需要の分析を重視し、後者は供給を重視している。伝達される単位価値を
関連する人口又は生態系面積で集計する場合は、価値をダブルカウントしたり、生態系
サービスの市場規模を誤って指定しないよう、注意をはらう必要がある。
スケールアップとは、BT を生態系のストック全体や大きな地理的地域内のすべての生
態系サービスの供給の価値を評価するために使用することをいう。BT の使用に関わる
他の課題に加えて、価値のスケールアップでは、生態系のストックの一定しない限界価
値を考慮に入れる必要がある。単位当たりの一定した価値に、生態系サービス提供の合
74
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
計量を単純にかけるのでは、総価値が過小評価される可能性が高い。生態系サービス提
供の大規模な変化を考慮に入れるために、たとえば、生態系の希少性の観点から推定さ
れる価値の弾力性を使用するなどして限界価値の適切な調整を行う必要がある。このア
プローチは、特定の範囲の生態系サービス提供の総価値を評価するのに有益であるが、
基礎となる生態系機能の非線形性や閾値によって制限を受ける。特に、臨界自然資本の
場合は、そうである。
最後に
明らかなのは、基線的価値を生物多様性や生態系サービスに与える技術は複雑さに満ち
ており、現在解決できているのはそのうちの一部でしかない。しかし、このような限界
があるにもかかわらず、経済に対する生態系のおおよその寄与を表すことが早急に必要
とされており、本章がこの点について貢献できたことは理解していただけるはずである。
価値評価の実施は、依然として、環境政策全般に欠くことのできない要素である情報を
提供できる。Kontoleon and Pascual (2007)が述べているように、選好ベースの価値評
価手法による情報を無視することは、したがって、現実的でも望ましいことでもない。
無視するのではなく、政策立案者は、これらの技術によって提供される価値ある情報を、
情報の限界を認識したうえで、解析し利用すべきである。
この文脈において、本レポートの第 7 章及び第 8 章は、資源資本の枯渇による巨額の損
失の可能性があることを政策立案者に示すことを意図している。我々は閾値にますます
近づいていると考えられ、危機に瀕しているものを評価するための価値評価手法を改善
することがますます重要になっている。このため、自然資本ストックが臨界閾値より遠
くにあるようにすることが重要である。将来の課題に適切に対処し、意思決定プロセス
に役立つより正確な価値を提供するために、新しい技術や異なる方法論的アプローチ
(たとえば、金銭的手法、審議型手法、多基準手法など)を組み合わせることが必要と考
えられる。
Koch et al. (2009)は、生態系サービスの管理に対するこのような新しい意思決定アプロ
ーチの必要性を訴えている。彼らは、その方向に前進するために実施する必要がある多
くの行動を推奨しているが、その中には、既存データのギャップを埋める、特に比較研
究を使用する、異なる空間規模や時間規模にまたがる非線形性のパターンを理解するた
75
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
めに生態学的モデルを開発する、異なる規模での生態系サービスの変動における線形性
に関する仮定を検証する、などが含まれている。生態学者と経済学者の緊密な共同作業
が、生態系と生態系が地域及びグローバル経済に提供するサービス間の複雑な関係を扱
うのに適した価値評価技術の開発に寄与するだろう。最後に、重要なこととして、将来
の生物多様性及び生態系サービスの価値評価実施者は、その調査で使用した手順及び手
法を明確にするとともに、評価実施時に遭遇したすべての障害を公表すべきである。
経済学者は、通常、リスクと不確実性(Knight が言う意味での)を融合して用いている。たとえば、Freeman(1993:
ii
220)は、「個人の不確実性」を「2 つ以上の自然の代替状態のうちどれが実現するかについて、個人が確信をもて
ない状況」と定義している。本章では、リスクと不確実性の語は、Freeman(1993)にならって融合させて使用して
いるが、科学による「極端な不確実性」または「無知」という異なる種類の不確実性は、明確に認識されている。
iii
多くの調査が、仮説に基づく価値と実際の経済行為との間の相違を明らかにするために、選好に関する不確実性
についての情報を使用している(Akter et al. 2008)。
iv
選好の不確実性の変動を説明することを目指して、より直感的な変数よりも計量経済学モデルの説明変数を選択
する、認知心理学に基づく理論的枠組みについては、Akter et al. (2008)を参照。
v
代替の方法は、
「選好には根本的な曖昧さ」が存在することを前提とし、ファジー理論を使用して、生態系サービ
スの性質の正確な理解の不足、及び既に測定されている価値に関する不確実さの両方に対処している(Van Kooten
et al. 2001: 487)。
vi
国立海洋大気圏局(1993)(「NOAA」としてよく知られている)のパネルは、Kenneth Arrow、Robert Solow など
のノーベル経済学賞受賞者が議長を務めている。
vii
個人がリスク回避的であると仮定した場合、商品の供給だけが不確実な場合は、オプション価値は正になる
(Pearce 及び Turner 1991)。選好の不確実性など他の不確実性の原因も存在する場合は、オプション価値の記号は
確定できない。
viii
生物資源調査の価値に重点を置いている研究のほとんどは、便益費用分析に基づいており、オプション価値、
特定の遺伝物質の有益な財産の「発見」から予想される便益、生物由来物質スクリーニングなどの関連する正味研
究開発費用などとは対照的に、土地の保全などのさまざまな機会費用に明確な重み付けをしている(Pearce 及び
Purushothaman 1992; Simpson et al. 1996; Rausser 及び Small 2000; Craft 及び Simpson, 2001)。
ix
開発途上国で価値評価調査を行うほうが容易な場合もあるという証拠もある(Whittington 1998)。一般に、回答
率が高く、回答者は提示された質問をよく聞き検討しようとする意志があり、インタビュアーの賃金が比較的安い
(サンプル規模を大きくできる)からである。
x
BT の代替アプローチは「選好較正」に基づいているが、これはより情報集約的なアプローチであり、したがって
本章では取り上げていない(Smith et al. 2002 を参照)。
76
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
参考文献
Abaza, J. and Rietbergen-McCracken, J. 1998. Environmental Valuation: A
Worldwide Compendium of Case Studies. United Nations Environment Programme.
Adamowicz, W.L., Louviere, J., Williams, M. 1994. "Combining Revealed and Stated
Preference Methods for Valuing Amenities," Journal of Environmental Economics
and Management, 26 (May), pp. 271-292.
Adamowicz, W.L. 2004. What‟s it worth? An examination of historical trends and
future directions in environmental valuation.
The Australian Journal of
Agricultural and Resource Economics 48: 419–443.
Akter, S., Bennett, J. and Akhter, S. 2008. Preference uncertainty in contingent
valuation. Ecological Economics 67(3): 345–351.
Akter, S., Brouwer, R., Brander, L. and Beukering, P. van 2009. Respondent
uncertainty in a contingent market for carbon offsets. Ecological Economics 68(6):
1858–1863.
Alberini, A., Boyle, K. and Welsh, M. 2003. Analysis of contingent valuation data
with multiple bids: a response option allowing respondents to express uncertainty.
Journal of Environmental Economics and Management 45: 40–62.
Alberini, A. and Cooper, J. 2000. Applications of the Contingent Valuation Method in
Developing Countries: A Survey. FAO Economic and Social Development Paper No.
146. Rome.
Anderies, J.M., Janssen, M.A., Walter, B.H. 2002. Grazing management, resilience
and the dynamics of fire driven rangeland system. Ecosystems 5: 23–44.
77
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Anthoff, D., Nicholls, R.J. and Tol, R.S.J. 2007. Global Sea-Level Rise and Equity
Weighting. Working Paper FNU-136, Research unit Sustainability and Global
Change, Hamburg University
Armsworth, P.R., Roughgarden, J.E. 2003. The economic value of ecological stability.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 7147–7151.
Arrow, K.J., Fisher, A.C. 1974. Environmental preservation, uncertainty, and
irreversibility. Quarterly Journal of Economics 88(2): 312–319.
Asia Forest Network 2002. Participatory Rural Appraisal for Community Forest
Management: Tools and Techniques. California: Asia Forest Network.
Balmford, A., Rodrigues, A., Walpole, M., ten Brink, P., Kettunen, M., Braat, L., de
Groot, R. 2008. The Economics of Ecosystems and Biodiversity: Scoping the Science.
European Commission. Cambridge, UK.
Barbier, E.B., S. Baumgärtner, K. Chopra, C. Costello, A. Duraiappah, R. Hassan, A.
Kinzig, M. Lehman, U. Pascual, S. Polasky, C. Perrings 2009. The Valuation of
Ecosystem Services. Chapter 18. In: Naeem S., D. Bunker, A. Hector, M. Loreau and
C. Perrings (eds.), Biodiversity, Ecosystem Functioning, and Human Wellbeing: An
Ecological and Economic Perspective. Oxford University Press, Oxford, UK, pp.
248–262.
Barbier, E.B., Koch, E.W., Silliman, B.R., Hacker, S.D., Wolanski, E., Primavera, J.,
Granek, E.F., Polasky, S., Aswani, S., Cramer, L.A., Stoms, D.M., Kennedy, C.J., Bael,
D., Kappel, C.V., Perillo, G.M.E., Reed, D.J. 2008. Coastal Ecosystem-Based
Management with Nonlinear Ecological Functions and Values. Science 319: 321–323.
Barbier, E.B. 2007. Valuing ecosystem services as productive inputs. Economic
Policy 22(49): 177–229.
78
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Barbier, E.B., Acreman, M.C., Knowler, D. 1997. Economic valuation of wetlands: a
guide for policy makers and planners. Ramsar Convention Bureau, Gland,
Switzerland.
Barbier, E.B. 1994. Valuing Environmental Functions: Tropical Wetlands. Land
Economics 70(2): 155–73.
Barkmann, J., K. Glenk, A. Keil, C. Leemhuis, N. Dietrich, G. Gerold and R.
Marggraf 2008. Confronting unfamiliarity with ecosystem functions: The case for an
ecosystem service approach to environmental valuation with stated preferences.
Ecological Economics 65(1): 48–62.
Barton, T., Borrini-Feyerabend, G., de Sherbin, A., and Warren, P. 1997. Our People,
Our Resources: Supporting Rural Communities in Participatory Action Research on
Population Dynamics and the Local Environment. Gland, Switzerland: IUCN.
Barrett, C.B. and Lybbert, T.J. 2000. Is bioprospecting a viable strategy for
conserving tropical ecosystems? Ecological Economics 34: 293–300.
Bascompte, J., Possingham, H., Roughgarden, J. 2002. Patchy populations in
stochastic environments: critical number of patches for persistence. American
Naturalist 159: 128–137.
Bateman, I.J., Burgess, D., Hutchinson, W.G. and Matthews, D.I. 2004. Learning
effects in repeated dichotomous choice contingent valuation questions. Paper No. 59.
Presented at the Royal Economic Society Annual Conference, 5-7 April 2004,
Swansea.
Bateman I.J., Lovett, A.A., Brainard, J.S. 2003. Applied environmental economics: a
GIS approach to cost-benefit analysis. Cambridge University Press, Cambridge.
Bateman, I.J., Carson, R.T., Day, B., Hanemann, M., Hanley, N., Hett, T., Jones-Lee,
79
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
M., Loomes, G., Mourato, S., Özdemiroglu, E., Pearce, D.W., Sugden, R., Swanson, J.
2002. Economic Valuation with Stated Preference Techniques: A Manual. Edward
Elgar, Cheltenham.
Bateman, I.J. and R.K. Turner 1993. Valuation of the Environment, Methods and
Techniques: The Contingent Valuation Method. In: Turner, R.K. (ed.), Sustainable
Economics and Management: Principles and Practice. Belhaven Press: London, pp.
120–191.
Bateman, J. Brainard, A. Jones and A. Lovett 2005. Geographical Information
Systems (GIS) as the last/best hope for benefit function transfer, Benefit Transfer
and Valuation Databases: Are We Heading in the Right Direction, United States
Environmental Protection Agency and Environment Canada, Washington, D.C.
Biggs, R., Carpenter, S.R., Brock, W.A. 2009. Turning back from the brink: Detecting
an impending regime shift in time to avert it. PNAS 106(3): 826–831.
Bingham, G., Bishop, R., Brody, M., Bromley, D., Clark, E.T., Cooper, W., Costanza,
R., Hale, T. Hayden, G., Kellert, S., Norgaard, R., Norton, B., Payne, J., Russell C.,
Suter, G. 1995. Issues in ecosystem valuation: improving information for
decision-making. Ecological Economics 14: 73–90.
Birol, E., Kontoleon, A. and Smale, M. 2006. Combining revealed and stated
preference methods to assess the private value of agrobiodiversity in hungarian
home gardens. IFPRI. International Food Policy Research Institute. Environment
and Production Technology Division Discussion Paper 156. Washington, D.C.
Blamey, R. , Common, M. and Quiggin, J., 1995. Respondents To Contingent
Valuation Surveys: Consumers Or Citizens? Australian Journal of Agricultural
Economics 39(3): 263-88
Blockstein, D.E. 1998. Lyme Disease and the Passenger Pigeon? Science 279: 1831.
80
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Boesch, D.F. 2001. Science and integrated drainage basin-coastal management: the
Chesapeake Bay and the Mississippi Delta. In: B. von Bodungen and K. Turner (eds.),
Science and Integrated Coastal Management. Dahlem University Press, Berlin.
Bourque, L.B. and Fielder, E.P. 1995. How to Conduct Self-Administered and Mail
Surveys. London: Sage.
Boyd, J., Banzhaf, S. 2007. What are ecosystem services? The need for standardized
environmental accounting units. Ecological Economics 63: 616–626.
Boyle, K.J., Bishop, R., Hellerstein, D.,Welsh, M.P., Ahearn, M.C., Laughland, A.,
Charbonneau, J., O‟Conner, R., 1998. Test of scope in contingent-valuation studies:
are the numbers for the birds. In: Paper presented at theWorld Congress of
Environmental and Resource Economists (AERE/EAERE), Venice, Italy, June 25–27.
Boyle, K.J., Desvousges, W.H., Reed Johnson, F., Dunford, R.W., Hudson, S.P. 1994.
An investigation of part–whole biases in contingent-valuation studies. Journal of
Environmental Economics and Management 27: 64–83.
Brand, F. 2009. Critical natural capital revisited: ecological resilience and
sustainable development. Landscape Ecology 68: 605–612.
Bowles, S. 2008. Policies Designed for Self-Interested Citizens May Undermine “The
Moral Sentiments”: Evidence from Economic Experiments. Science 320: 1605–1609.
Brander, L.M., Beukering van, P. and Cesar, H.S.J. 2007. The recreational value of
coral reefs: a meta-analysis. Ecological Economics 63: 209–218.
Brander, L.M., Florax, R.J.G.M., Vermaat, J.E. 2006. The empirics of wetland
valuation: a comprehensive summary and a meta-analysis of the literature.
Environmental and Resource Economics 33: 223–250.
81
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Broberg, T. 2007. The Value of Preserving Nature. Preference Uncertainty and
Distributional Effects. PhD Thesis. Department of Economics. Umeå University.
Umeå Economic Studies No. 720. Umeå, Sweden.
Brock, W.A., Xepapadeas, A. 2002. Biodiversity management under uncertainty:
Species selection and harvesting rules. In: B. Kristrom, P. Dasgupta and K. Lofgren
(eds.), Economic Theory for the environment: Essays in honour of Karl-Göran Mäler.
Edward Elgar, Cheltenham, pp. 62–97.
Brookshire, D.S., L.S. Eubanks and A. Randall, 1983. Estimating option prices and
existence values for wildlife resources. Land Economics 59 (1983), pp. 1–15
Brouwer, R., I.H. Langford, I.J. Bateman and R.K. Turner 1999. A meta-analysis of
wetland contingent valuation studies. Regional Environmental Change 1: 47–57.
Brown, G.M. and Shogren, J.F. 1998. Economics of the endangered species act.
Journal of Economic Perspectives 12(3): 3–20.
Brown, G.M, Reed, P. and Harris, C.C. 2002. Testing a Place-Based Theory for
Environmental Evaluation: an Alaska Case Study. Applied Geography 22(1): 49–77.
Bulte, E., van Soest, D.P., van Kooten, G.C., Shipper, R. 2002. Forest conservation in
Costa Rica when nonuse benefits are uncertain but rising. American Journal of
Agricultural Economics. 84(1): 150–160.
Bush, G., Nampindo, S., Aguti, C., and Plumptre, A. 2004. Valuing Uganda's Forests:
A Livelihoods and Ecosystems Approach. Technical Report. Uganda: European
Union Forest Resources Management and Conservation Program.
Caldeira, M.C., Hector, A. Loreau, M., Pereira, J.S. 2005. Species richness, temporal
variability and resistance of biomass production in a Mediterranean grassland.
82
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Oikos 110: 115–123.
Cameron, T.A. 1992. Combining contingent valuation and travel cost data for the
valuation of nonmarket goods," Land Economics, 68(3): 302-317.
Carpenter, S.R., DeFries, R., Dietz, T., Mooney, H.A., Polasky, S., Reid, W.V., Scholes,
R.J. 2006. Millennium Ecosystem Assessment: Research needs. Science 314:
257–258.
Carson, R.T., Flores, N.E., and Meade, N.F. 2001. Contingent valuation:
controversies and evidence. Environmental and Resource Economics 19: 173–210.
Carson, R. and T. Groves, 2007/ Incentive and information properties of preference
questions, Environment and Resource Economics 37: 181–210
Champ, P. and Bishop, R. 2001. Donation payment mechanisms and contingent
valuation: an empirical study of hypothetical bias. Environmental and Resource
Economics 19: 383–402.
Champ, P.A., Bishop, R.C., Brown, T.C., McCollum, D.W. 1977. Using Donation
Mechanisms to Value Nonuse Benefits from Public Goods. Journal of Environmental
Economics and Management 33(1): 15I–162.
Chan, K.M.A. Goldstein, J., Satterfield, T., Hannahs, N., Kikiloi, K., Naidoo, R.,
Vadeboncoeur, N., Woodside, U. In press. The Theory and Practice of Ecosystem
Service Valuation in Conservation. In: Kareiva, P.K., T.H. Ricketts, G.C. Daily, H.
Tallis, and S. Polasky, (eds.), The Theory and Practice of Ecosystem Service
Valuation in Conservation. Oxford University Press, Oxford,
Chee, Y.E. 2004. An ecological perspective on the valuation of ecosystem services.
Biological conservation 120: 459–565.
83
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Costanza, R. 1980. Embodied energy and economic valuation. Science 210:
1219–1024.
Costanza, R., Daly, H. 1992. Natural Capital and Sustainable Development.
Conservation Biology 6: 37–46.
Costanza, R. 2006. Nature: ecosystems without commodifying them. Nature 443:
749.
Costanza, R. and Folke, C. 1997. Valuing ecosystem services with efficiency, fairness
and sustainability as goals. In: Daily, G. (ed.), Nature ‟ s Services: Societal
Dependence on Natural Ecosystems. Island Press, Washington, D.C., pp. 49–68.
Costanza, R., R. d‟Arge, R. de Groot, S. Farber, M. Grasso, B. Hannon, K. Limburg,
S. Naeem, R.V. O‟Neill, J. Paruelo, R. G. Raskin, P. Sutoon and M. van den Belt 1997.
The Value of the World‟s Ecosystem Services and Natural Capital. Nature 387:
253–260.
Craft, A.B. and Simpson, R.D. 2001. The Value of Biodiversity in Pharmaceutical
Research with Differentiated Products. Environmental and Resource Economics.
Environmental and Resource Economics 18(1): 1–17.
Christie, M., Hanley, N., Warren, J., Hyde, T., Murphy, K., and Wright, R. 2007.
Valuing Ecological and Anthropocentric Concepts of Biodiversity: A Choice
Experiments Application. In: A. Kontoleon, Pascual, U. and T. Swanson (Eds.),
Biodiversity
Economics:
Principles,
Methods
and
Applications.
Cambridge:
Cambridge University Press, pp. 343–368.
Christie, M., Fazey, D., Cooper, R., Hyde, T., Deri, A., Hughes, L., Bush, G., Brander,
L.M., Nahman, A., de Lange, W., and Reyers, B. 2008. An evaluation of economic and
non-economic techniques for assessing the importance of biodiversity to people in
developing countries. Report to the Department for Environment, Food and Rural
84
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Affairs, London, UK.
Christie, M., Hanley, N., Warren, J., Murphy, K., and Wright, R.E. 2004. A Valuation
of Biodiversity in the UK Using Choice Experiments and Contingent Valuation.
London: Defra.
Crocker, T.D. and J.F. Shogren, J.F. 1991. Ex ante valuation of atmospheric visibility.
Applied Economics 23: 143–151.
Daniels, P.L., Moore, S. 2002. Approaches for Quantifying the Metabolism of
Physical Economies. Journal of Industrial Ecology 5(4): 69–93.
Das, S. and J.R. Vincent 2009. Mangroves protected villages and reduced death toll
during Indian super cyclone. Proceedings of the National Academy of Sciences of the
United States of America 106(18): 7357-7360.
Daily, G.C., Soderqvist, T., Aniyar, S., Arrow, K., Dasgupta, P., Ehrlich, P.R., Folke,
C., Jansson, A., Jansson, B., Kautsky, N., Levin, S., Lubchenco, J., Maler, K.,
Simpson, D., Starrett, D., Tilman, D., Walker, B. 2000. The value of nature and the
nature of value. Science 289: 395–396.
Daily, G.C. (ed.) 1997. Nature's Services. Societal Dependence on Natural
Ecosystems. Washington, D.C.: Island Press.
De Groot, R. S., Stuip, M. Finlayson, M., Davidson, N. 2006. Valuing Wetlands:
guidance for valuing the benefits derived from wetland ecosystem services. Ramsar
Technical Report No. 3, CBD Technical Series No. 27. Ramsar Convention
Secretariat, Gland, 66 pp.
De Groot, R. S., Wilson, M., Boumans, R. 2002. A typology for the description,
classification and valuation of ecosystem functions, goods and services. Ecological
Economics 41: 393–408.
85
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Desvousges, W.H., Johnson, F.R., Dunford, R.W., Boyle, K.J., Hudson, S.P., Wilson,
K.N. 1993. Measuring natural resource damages with contingent valuation: tests of
validity and reliability. In: Hausman, J.A. (Ed.), Contingent Valuation: A Critical
Assessment. North-Holland/Elsevier Science Publishers, Amsterdam, pp. 91–159.
Deutsch, L., Folke, C., Skånberg, K. 2003. The critical natural capital of ecosystem
performance as insurance for human well-being. Ecological Economics 44: 205–217.
DeYoung, B., Barange, M, Beaugrand, G., Harris, R., Perry, R., Scheffer, M. and F.
Werner. 2008. Regime shift in marine ecosystems: Detection, prediction and
management. Trends in Ecology and Evolution 23 (7): 402–409.
Diamond, P. 1996. Testing the internal consistency of contingent valuation surveys.
Journal of Environmental Economics and Management 30(3): 265–281.
Diamond, P.A., Hausman, J.A., 1993. On contingent valuation measurement of
nonuse values. In: Hausman, J.A. (Ed.), Contingent Valuation: A Critical
Assessment. North-Holland/Elsevier Science Publishers, Amsterdam, pp. 1–38.
Diamond, P.A., Hausman, J.A., Leonard, G.K., Denning, M.A., 1993. Does contingent
valuation measure preferences? Experimental evidence. In: Hausman, J.A. (Ed.),
ContingentValuation:A
Critical
Assessment.
North-Holland/Elsevier
Science
Publishers, Amsterdam, pp. 41–85.
Earnhart, D. 2001. Combining Revealed and Stated Preference Methods to Value
Environmental Amenities at Residential Locations. Land Economics 77(1): 12–29.
EEA (European Environment Agency) 2006. Land Accounts for Europe 1990-2000.
Towards integrated land and ecosystem accounting. EEA Report No 11/2006,
Copenhagen, Denmark.
86
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
P.5-75
Ekins, P., Folke, C., and De Groot, R. 2003. Identifying Critical Natural Capital.
Ecological Economics 44(2-3): 159–163.
Ellis, G.M., Fisher, A.C. 1987. Valuing environment as input. Journal of
Environmental Management, 25: 149–156.
Engel, S., Pagiola, S, and Wunder, S. 2008. Designing payments for environmental
services in theory and practice: An overview of the issues. Ecological Economics 62:
663–674.
Eshet, T., Baron, M.G., Shechter, M. 2007. Exploring benefit transfer: disamenities
of waste transfer stations. Environmental and Resource Economics 37: 521–47.
Fabricius, C., Folke, C., Cundill, G., Schultz, L. 2007. Powerless spectators, coping
actors, and adaptive co-managers: a synthesis of the role of communities in
ecosystem management. Ecology and Society 12(1): 29.
Farley, J. 2008. The role of prices in conserving critical natural capital. Conservation
Biology 22(6): 1399–1408.
Fazey, I., Latham, I., Hagasua, J. E., and Wagatora, D. 2007. Livelihoods and
Change in Kahua, Solomon Islands. Aberystwyth: Aberystwyth University.
Ferraro, P.J., Kramer, R.K. 1997. Compensation and economic incentives: reducing
pressure on protected areas. In: Kramer, R.A., van Schaik, C. y Johnson, J. (eds.)
Last stand: protected areas and the defense of tropical biodiversity. New York,
Oxford University Press, 187-211.
Figge, F. 2004. Bio-folio: applying portfolio theory to biodiversity, Biodiversity and
Conservation 13: 827–849.
87
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Fisher, B., Turner, R.K., Morling, P. 2009. Defining and classifying ecosystem
services for decision-making. Ecological Economics 68: 643–653.
Folke, C. 2006. Resilience: the emergence of a perspective for social-ecological
system analyses. Global Environmental Change 16: 253–267.
Folke C., Holling C.S., Perrings C. 1996. Biological diversity, ecosystems and the
human scale. Ecological Applications 6(4): 1018–1024.
Folke C., Carpenter S., Elmqvist T., Gunderson L., Holling C.S., Walker B.,
Bengtsson J., Berkes F., Colding J., Dannell K., Falkenmark M., Gordon L.,
Kasperson R., Kautsky N., Kinzig A., Levin S., Mäler K.G., Mobergr F., Ohlsson L.,
Ostrom E., Reid W., Rockström J., Savenije H. and Svedin U.
2002. Resilience and Sustainable Development: Building Adaptive Capacity in a
World of Transformations. Scientific Background Paper on Resilience for the process
of The World Summit on Sustainable Development on Behalf of The Environmental
Advisory Council to the Swedish Government.
Folke, C., Carpenter, S., Walker, B., Scheffer, M, Elmqvist, T., Gunderson, L., Holling,
C.S. 2004. Regime Shifts, Resilience, and Biodiversity in Ecosystem Management.
Annu. Rev. Ecol. Syst. 35: 557–81.
Freeman, A.A. 1993. The Measurement of Environmental and Resource Values.
Resources for the Future Press, Baltimore.
García-Llorente M., Martín-López B., Gónzalez J.A., Alcorlo A., Montes C. 2008.
Social perceptions of the impacts and benefits of invasive alien species: Implications
for management. Biological Conservation 141: 2969–2983.
Garrod, G., Willis, K.G. 1999. Economic Valuation of the environment. Edward Elgar,
88
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Cheltenham.
Georgescu-Roegen, N. 1979. Energy analysis and economic valuation. Southern
Economic Journal 45: 1023–1058.
Georgiou, S., Whittington, D., Pearce, D., and Moran, D. 2006. Economic Values and
the Environment in the Developing World. Cheltenham: Edward Elgar.
Ghermandi, A., J.C.J.M. van den Bergh, L.M. Brander, H.L.F. de Groot and P.A.L.D.
Nunes 2007. Exploring diversity: a meta-analysis of wetland conservation and
creation. In Proceedings of the 9th International BIOECON Conference on
Economics and Institutions for Biodiversity Conservation. Cambridge, UK,
September 19–21, 2007.
Goeschl T. and T. Swanson 2003. Pests, Plagues, and Patents. Journal of the
European Economic Association 1(2-3): 561–575.
Gómez-Baggethun, E and de Groot, R., 2010. Natural capital and ecosystem services.
The ecological foundation of human society. En: R. E. Hester y R. M. Harrison (Eds.),
Ecosystem services, Issues in Environmental Science and Technology 30, Royal
Society of Chemistry, Cambridge, pp. 105-121. In press.
Goulder, L.H., Kennedy, D. 1997. Valuing ecosystem: philosophical bases and
empirical methods. In: G.C. Daily (Ed.), Nature‟s Services: Societal Dependence on
Natural Ecosystems. Island Press, Washington D.C., pp. 23–48.
Gómez-Baggethun, E., de Groot, R. 2007. Natural capital and ecosystem functions:
exploring the ecological grounds of the economy. Ecosistemas 16(3): 4–14.
Gren, I.-M., Folke, C., Turner, R.K., Batman, I-J. 1994. Primary and secondary
values of wetland ecosystems. Environmental and Resource Economics 4(4): 55–74.
89
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Haab, T.C. and K.E. McConnell 2002. Valuing environmental and natural resources:
the econometrics of non-market valuation. Cheltenham: Edward Elgar.
Haldane J.B.S. and Jayakar SD.. 1963. Polymorphism due to selection of varying
direction. Journal of Genetics 58: 237–242.
Hanneman, M. 1991. Willingness to Pay and Willingness to Accept: How Much Can
They Differ. American Economic Review 81: 635–647.
Hanemann, W.M., Kristrom, B. and Li, C.Z. 1996. Nonmarket Valuation under
Preference Uncertainty: Econometric Models and Estimation. CUDARE Working
Papers, University of California, Berkeley, Paper 794.
Hanley, N., Spash, C.L. 1993. Cost-benefit analysis and the environment. Edward
Elgar, Aldershot, UK.
Hanley, N., R. E. Wright, Adamowicz, V. 1998. Using Choice Experiments to Value
the Environment. Environmental and Resource Economics 11(3): 413–428.
Hanley, N., Kriström, B and Shogren, J.F. 2009. Coherent arbitrariness: on value
uncertainty for environmental goods. Land Economics, 85: 41-50
Harwood, J., Stokes, K. 2003. Coping with uncertainty in ecological advice: lessons
from fisheries. Trends in Ecology and Evolution 18: 617–622.
Hausman, J. A. (ed.) (1993), Contingent valuation: A critical assessment, Elsevier
Science Publishers B. V., The Netherlands
Hein, L., van Koppen, K., de Groot, R.S., van Ierland, E.C. 2006. Spatial scales,
stakeholders and the valuation of ecosystem services. Ecological Economics 57:
209–228.
90
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Hermans, L., Renault, D., Emerton, L., Perrot-Maître, D., Nguyen-Khoa, S., Smith,
L. 2006. Stakeholder-oriented valuation to support water resources management
processes. Confronting concepts with local practice. FAO, Rome.
Holling C. S. 1973. Resilience and stability of ecological systems. Annual review of
ecology and systematics 4: 1–23.
Holling, C.S. 2001. Understanding the complexity of economic, ecological and social
systems. Ecosystems 4(5): 390–405.
Holling, C.S., Gunderson, L.H. 2002. Resilience and adaptive cycles. In: L.H.
Gunderson and C.S. Holling (Eds.), Panarchy: understanding transformations in
human and natural systems. Island Press, Washington, D.C, 25-62.
Hooper, D.U., Chapin III, F.S., Ewel, J.J., Hector, A., Inchausti, P., Lavorel, S.,
Lawton, J.H., Lodge, D.M., Loreau, M., Naeem, S., Schmid, B., Setälä, H., Symstad,
A.J., Vandermeer, J., Wardle, D.A. 2005. Effects of biodiversity on ecosystem
functioning: a consensus of current knowledge. Ecological Monographs 75(1): 3–35.
Horowitz, J.K. and McConnell, K.E. 2002. A Review of Wta/Wtp Studies. Journal of
Environmental Economics and Management 44(3): 426–447.
Ives, A.R. and J.B. Hughes 2002. General relationships between species diversity
and stability incompetitive systems. American Naturalist 159: 388–395.
Jackson, L.E. Pascual, U. and Hodgkin, T. 2007. Utilizing and conserving
agrobiodiversity in agricultural landscapes. Agriculture, Ecosystems and the
Environment. 121: 196–210.
Jacobsen J.B. and Hanley, N. (2008). Are there income effects on global willingness
to pay for biodiversity conservation? Environmental and Resource Economics 43(2):
137–160.
91
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Jannson, B-O., Jansson, A.M. 2002. The Baltic Sea: Reversibly unstable or
irreversibly stable? In: Gunderson, L.H., Pritchard, L. (Eds.) Resilience and the
Behaviour of Large Scale Systems. Island Press, Washington D.C., 71-110.
Jackson, W., and Ingles, A. 199). Participatory Techniques for Community Forestry:
A Field Manual. In Issues in Forest Conservation: AusAid, IUCN, WWF.
Jarvis, D.I., L. Myer, H. Klemick, L. Guarino, M. Smale, A.H.D. Brown, M. Sadiki, B.
Sthapit and T. Hodgkin 2000. A Training Guide for In Situ Conservation On-farm.
Version 1.International Plant Genetic Resources Institute, Rome, Italy.
Kahneman, D. 1986. The review panel assessment: comment. In: Cummings, R.G.,
Brookshire, D.S., Schulze, W.D. (Eds.), Valuing Public Goods: The Contingent
Valuation Method. Rowman and Allanheld, Totowa, NJ
Kahneman, D., Knetsch, J.L. 1992. Valuing public goods: the purchase of moral
satisfaction. Journal of Environmental Economics and Management 22: 57–70.
Kahneman, D., Knetsch, J. and Thaler, R. 1990. Experimental Tests of the
Endowment Effect and the Coase Theorem. The Journal of Political Economy, Vol.
98(6): 1325-1348
Knetsch, J. 2005. Gains, Losses, and the US-EPA Economic Analyses Guidelines: A
Hazardous Product? Environmental and Resource Economics 32:91–112.
Koch, E.W., E.B. Barbier, B.R. Silliman, D.J. Reed, G.M.E. Perillo, S.D. Hacker, E.F.
Granek, J.H. Primavera, N. Muthiga, S. Polasky, B.S. Halpern, C.J. Kennedy, C.V.
Kappel and E. Wolanski 2009. Non-linearity in ecosystem services: temporal and
spatial variability in coastal protection. Frontiers in Ecology and the Environment
7(1): 29–37.
Kolstad, C.D. 2000. Environmental Economics. Oxford University Press, New York,
Oxford.
92
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Kontoleon, A. and Pascual, U. 2007. Incorporating Biodiversity into Integrated
Assessments of Trade Policy in the Agricultural Sector. Volume II: Reference Manual.
Chapter 7. Economics and Trade Branch, United Nations Environment Programme.
Geneva.
Available
at:
http://www.unep.ch/etb/pdf/UNEP%20T+B%20Manual.Vol%20II.Draft%20June07.p
df.
Kontoleon, A., R. Macrory and T. Swanson 2002. “Individual Preference Based
Values and Environmental Decision-making: Should Valuation have its Day in
Court?” Journal of Research in Law and Economics 20: 179–216.
Kremen, C., Niles J.O., Dalton M.G., Daily G.C., Ehrlich, P.R., Fay J.P., Grewal D.,
Guillery R.P.. 2000. Economic Incentives for Rain Forest Conservation across Scales.
Science 288: 1828–1832.
Kremen, C., Niles J.O., Dalton M.G., Daily G.C., Ehrlich, P.R., Fay J.P., Grewal D.,
Guillery R.P.. 2000. Economic Incentives for Rain Forest Conservation across Scales.
Science 288: 1828–1832.
Krutilla, J.V. 1967. Conservation reconsidered. American Economic Review 57:
777–786.
Krutilla, J.V., Fisher, A.C. 1975. The Economics of the Natural Environment. Studies
in the Valuation of Commodity and Amenity resurces. John Hopkins Press for
Resources for the Future,Baltimore.
Lienhoop, N., and MacMillan, D. 2007: Contingent Valuation: Comparing participant
performance in group-based approaches and personal interviews. Environmental
Values, 16(2): 209–232.
Limburg, K.E., O‟Neill, R.V., Costanza, R., Farber, S. 2002. Complex systems and
93
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
valuation. Ecological Economics 41: 409–420.
Lindhjem, H., and S. Navrud. 2007. How reliable are meta-analyses for
international benefit transfer? Ecological Economics, 66 2-3: 425-435
Loomis, J. 2000. Vertically Summing Public Good Demand Curves: An Empirical
Comparison of Economic versus Political Jurisdictions. Land Economics 76 (2):
312–321.
Loomis, J. and Ekstrand, E. 1998. Alternative approaches for incorporating
respondent uncertainty when estimating willingness to pay: the case of the Mexican
Spotted Owl. Ecological Economics 27: 29–41.
Loreau, M., Mouquet N., Gonzalez, A. 2003. Biodiversity as spatial insurance in
heterogeneous landscapes. PNAS 22: 12765–12770.
Louviere, J.J., D.A. Hensher, J.D. Swait and W.L. Adamowicz 2000. Stated choice
methods: Analysis and applications. Cambridge: Cambridge University Press.
Lovett, A.A., Brainard, J.S. and Bateman I.J. 1997. Improving Benefit Transfer
Demand Functions: A GIS Approach. Journal of Environmental Management.
51(4):373–389.
Luck, G. 2005. An introduction to ecological thresholds. Biological Conservation 124:
299–300.
MA (Millennium Ecosystem Assessment) 2005. Ecosystems and Human Well-being:
Synthesis. Island Press, Washington, D.C.
Manski, C. 2000. Economic analysis of social interactions. Journal of Economic
Perspectives 14: 115–136.
94
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Martínez-Alier, J. 2002. The environmentalism of the poor. Edward Elgar, London.
Martínez-Alier, J., Munda, G., O'Neill, J. 1998. Weak comparability of values as a
foundation for ecological economics. Ecological Economics 26: 277–86.
Martín-López, B., Montes, C., Benayas, J. 2007 The role of user‟s characteristics on
the ecosystem services valuation: the case of Doñana Natural Protected Area (SW,
Spain). Environmental Conservation 34: 215–224.
Martín-López, B., E. Gómez-Baggethun, J.A. González, P.L. Lomas, and Carlos
Montes 2009a. The Assessment of Ecosystem Services Provided By Biodiversity:
Re-Thinking Concepts And Research Needs. In: Jason B. Aronoff, editor. Handbook
of Nature Conservation, Nova Publisher,
Martín-López, B., Gómez-Baggethun, E, Lomas, P.L., Montes, C. 2009b. Effects of
spatial and temporal scales on cultural services valuation areas. Journal of
Environmental Management 90(2): 1050–1059.
Mäler, K., Gren, I., Folke, C. 1994. Multiple use of environmental resources: a
household production function approach to valuing natural capital. In: Jansson, A.,
Hammar, M, Folke, C., Costanza, R. (Eds.), Investing in natural capital. Island Press,
Washington D.C., pp. 234–249.
McCauley, C. and Mendes, S. 2006. Socio-Economic Assessment Report: Montserrat
Centre Hills Project: Montserrat Centre Hills Project.
McCauley, D.J. 2006. Selling out on nature. Nature 443: 27–28.
Mitchell, R., Carson, R. (1989), Using surveys to value public goods: The contingent
valuation method, Resources for the Future, Washington D.C.
Mooney, H., Cooper, A., Reid, W. 2005. Confronting the human dilemma: How can
95
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
ecosystems provide sustainable services to benefit society? Nature 434: 561–562.
Mosley, P,,Verschoor, A, 2005. Risk Attitudes and the „Vicious Circle of Poverty,
European Journal of Development Research, 17(1): 59-88
Munda, G. 2004. Social Multi-criteria evaluation. Methodological foundations and
operational consequences. European Journal of Operational Research. 158: 662–677.
Muradian, R. 2001. Ecological Thresholds: a Survey. Ecological Economics 38(1):
7–24.
Naredo, J.M. 2001. Quantifying natural capital: beyond monetary value. In: M.
Munasinghe, O. Sunkel (Eds.), The sustainability of long term growth: socioeconomic
and ecological perspectives. Edward Elgar, Cheltenham, UK, Northampton MA.
National Oceanic and Atmospheric Administration (1993), Report of the NOAA panel
on contingent valuation, Federal Register 58/10, 4602-4614
NRC (National Research Council) 1997. Valuing ground water. Economic concepts
and approaches. Committee on Valuing Ground Water. Water Science and
Technology Board. Commission on Geosciences, Environment and Resorces.
Washington D.C.: The National Academies Press.
NRC (National Research Council) 2004. Valuing ecosystem services: Toward better
environmental decision-making. Washington D.C.: The National Academies Press.
Nunes, P.A.L.D. 2002. Using factor analysis to identify consumer preferences for the
protection of a natural area in Portugal. European Journal of Operational Research
140: 499–516.
Nunes, P.A.L.D.; Silvestri S., Pellizzato, M., Voatto, B. 2008. Regulation of the
fishing activities in the lagoon of Venice, Italy: Results from a socio-economic study.
96
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Estuarine, Coastal and Shelf Science 80: 173–180.
Nunes, P., and van den Bergh, J. 2001. Economic Valuation of Biodiversity: Sense or
Nonsense? Ecological Economics 39(2): 203–222.
O‟Neill, J. 1993. Ecology, policy and politics, Routledge, London.
Pascual, U., Corbera, E., Muradian, R., Kosoy, N. 2010. Payments for Environmental
Services: Reconciling theory and practice. Special Section. Ecological economics. In
press.
Pattanayak, S.K. and R.A. Kramer 2001. Worth of watersheds: a producer surplus
approach for valuing drought mitigation in Eastern Indonesia. Environment and
Development Economics 6(01): 123–146.
Pearce, D.W. 1993. Economic values and the Natural World. Earthscan, London.
Pearce, D.W., Turner, R.K. 1990. Economics of Natural Resources and the
Environment. John Hopkins University Press, Baltimore, USA.
Pearce, D.W. and Purushothaman, S. 1992. Preserving biological diversity: the
economic value of pharmaceutical plants, Discussion Paper: 92-27, CSERGE,
London.
Pearce, D.W., Moran, D. 1994. The economic value of biodiversity. Earthscan,
London.
Perman, R., Ma, Y., McGilvray, J. Common, M. 2003. Natural Resource and
Environmental Economics. Pearson, 3rd Edition, Essex, UK.
Perrings, C. and Gadgil, M. 2003. Conserving biodiversity: reconciling local and
global public benefits In: Kaul I., Conceição P., le Goulven K. and Mendoza R.L.
97
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
(eds.), Providing global public goods: managing globalization, Oxford University
Press, Oxford, pp. 532–555.
Perrings, C., Jackson, L., Bawa, K., Brussaard, L., Brush, S., Gavin, T., Papa, R.,
Pascual, U., de Ruiter, P. 2006. „Biodiversity in agricultural landscapes: Saving
natural capital without losing interest‟, Conservation Biology 20(2): 263–264.
Perrings, C. 1998. Resilience in the dynamics of economy-environment systems.
Environmental and Resource Economics 11(3-4): 503–520.
Philip, L.J., MacMillan, D.C. 2005. Exploring Values, Context and Perceptions in
Contingent Valuation Studies: The CV Market Stall Technique and Willingness to
Pasy for Wildlife Conservation. Journal of Environment Plannning and Management
48(2):257–274.
Poe, G.L. and Bishop, R. 1999. Valuing the Incremental Benefits of Groundwater
Protection when Exposure Levels are Known. Environmental and Resource
Economics 13: 341–367.
Polasky, S. and A.R. Solow 1995. On the value of a collection of species. Journal of
Environmental Economics and Management 29: 298–303.
Pritchard, L., Folke, C. and Gunderson, L. 2000. Valuation of Ecosystem services in
Intitutional Context. Ecosystems 3: 36–40.
Rausser, G.C. and Small, A.A. 2000. Valuing research leads: bioprospecting and the
conservation of genetic resources. Journal of Political Economy 108(1): 173–206.
Ready, J. Whitehead and G. Blomquist, 1995. Contingent valuation when
respondents are ambivalent, Journal of Environmental Economics and Management,
29: 181–197.
98
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Rekola, M. and Pouta, E. 2005. Public preferences for uncertain regeneration
cuttings: a contingent valuation experiment involving Finnish private forests. Forest
Policy and Economics 7(4): 634–649.
Rekola, M. 2004. Incommensurability and uncertainty in contingent valuation:
willingness to pay for forest and nature conservation policies in Finland. PhD
dissertation, January 2004. University of Helsinki, Faculty of Agriculture and
Forestry.
Rosenberger, R.S., and T.T. Phipps 2007. Correspondence and convergence in benefit
transfer accuracy: A meta-analytic review of the literature. In: S. Navrud and R.
Ready, (eds.), Environmental Values Transfer: Issues and Methods. Springer,
Dordrecht.
Rosenberger,
R.S.,
Stanley,
T.D.
2006.
Measurement,
generalization,
and
publication: Sources of error in benefit transfers and their management. Ecological
Economics 60(2): 372–378
Rowcroft, P., Studley, J., and Ward, K. 2004. Eliciting Forest Values and “Cultural
Loss” for Community Plantations and Nature Conservation. London: DFID.
Sachirico, J. Smith, M. and D. Lipton 2008. An empirical approach to
ecosystem-based fishery management. Ecological Economics 64 (3): 586–596.
Schandl, H., Grünbühel, C.M., Haberl, H., Weisz, H. 2002. Handbook of Physical
Accounting. Measuring bio-physical dimensions of socvio-economic activities: MFA –
EFA – HANPP. Social Ecology Working Paper 73, Viena, July 2002.
Scheffer, M., Carpenter, S., Foley, J.A., Folke, C., Walker, B. 2001. Catastrophic
shifts in ecosystems. Nature 413: 591–596.
Scheffer, M., Szabo, S., Gragnani, A., van Nes, E.H., Rinaldi, S., Nils Kautsky,
99
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Norberg, J., RM. M. Roijackers, R. J. M. Franken. 2003. Floating plant dominance as
a stable state. Proceedings of the National Academy of Sciences. USA 100:
4040–4045.
Scheffer, M., Carpenter, S.R. 2003. Catastrophic regime shifts: linking theory to
observation. Trends in Ecology and Evolution 18: 648–656.
Schläpfer, F. 2006. Survey protocol and income effects in the contingent valuation of
public goods: a metaanalysis. Ecological Economics 57: 415–429.
Schelling, T.C. 1993. Greenhouse Effect. In: D.R. Henderson (ed.), The Concise
Encyclopedia of Economics. Originally published as The Fortune Encyclopedia of
Economics, Warner Books. Library of Economics and Liberty [Online] available from
http://www.econlib.org/library/Enc1/GreenhouseEffect.html; accessed 17 September
2009.
Schulze, E-D., Mooney H.A. (Ed.) 1993. Biodiversity and ecosystem function.
Springer, New York.
Schunn, C., Kirschenbaum, S. and Trafton, J. 2003. The ecology of uncertainty:
sources, indicators, and strategies for information uncertainty. Mimeo.
Shyamsundar, P. and Kramer, R.A. 1996. Tropical Forest Protection: An Empirical
Analysis of the Costs Borne by Local People. Journal of Environmental Economics
and Management 31: 129–144.
Simpson, R.D., Sedjo, R.A., and Reid, J.W. 1996. Valuing biodiversity for use in
pharmaceutical research. Journal of Political Economy 104:163–185.
Smith, V.K. 2000. JEEM and Non-market Valuation: 1974-1998. Journal of
Environmental Economics and Management 39: 351–374.
100
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Smith, V.K., Van Houtven, G., Pattanayak, S.K. 2002. Benefit Transfer via
Preference Calibration: "Prudential Algebra" for Policy. Land Economics, 78: 132-152
Spash, C. 2008. Deliberative Monetary Valuation and the Evidence for a New Value
Theory. Land Economics 83(3): 469–488.
Spash, C. 2007. Deliberative monetary valuation (DMV): Issues in combining
economic and political processes to value environmental change. Ecological
Economics 63: 690–699.
Spash, C. 2001. Deliberative Monetary Valuation. Conference paper. Fifth Nordic
Environmental Research Conference, University of Aarhus, Denmark. Available at
http://www.clivespahs.org/2001acp.pdf.
Spash, C.L. 2000. The Concerted Action on Environmental Valuation in Europe
(EVE): an introduction. Environmental Valuation in Europe (EVE), Cambridge
Research for the Environment, UK.
Spehn, E.M., Hector, A., Joshi, J., Scherer-Lorenzen, M., Schmid, B., Bazeley-White,
E., Beierkuhnlein, C., Caldeira, M.C., Diemer, M., Dimitrakopoulos, P.G., Finn, J.A.,
Freitas, H., Giller, P.S., Good, J., Harris, R., Högberg, P., Huss-Dannell, K.,
Jumpponen, A., Koricheva, J., Leadley, P.W., Loreau, M., Minns, A., Mulder, C.P.H.,
O'Donovan, G., Otway, S.J., Palmborg, C., Pereira, J.S., Pfisterer, A.B., Prinz, A.,
Read, D.J., Schulze, E.-D., Siamantziouras, A.-S.D., Terry, A.C., Troumbis, A.Y.,
Woodward, F.I., Yachi, S., and Lawton, J.H. 2005. Ecosystem effects of biodiversity
manipulations in European grasslands. Ecological Monographs 75(1): 37–63.
Stepp, J.R., E.C. Jones, M. Pavao-Zuckerman, D. Casagrande, and R.K. Zarger 2003.
Remarkable properties of human ecosystems. Conservation Ecology 7(3): 11.
Svedsäter, H. 2000. Contingent valuation of global environmental resources: test of
perfect and regular embedding. Journal of Economic Psychology 21: 605–623.
101
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Svedsäter, H. 2003. Economic valuation of the environment: how citizens make sense
of contingent valuation questions. Land Economics 79: 122–135.
Tisdell, C., Wilson, C. 2006. Information, wildlife valuation, conservation:
experiments and policy. Contemporary Economic Policy 24: 144–159.
Turner, R.K. 1999. The Place of Economic values in environmental valuation. In:
Bateman, I.J. and Willis, K.G. (Eds.), Valuing Environmental Preferences: Theory
and Practice of the Contingent Valuation Method in the US, EU, and Developing
Countries. Oxford University Press, Oxford, pp 17-41.
Turner, R.K. 2007. Limits to CBA in UK and European environmental policy:
retrospects and future prospects. Environmental and Resource Economics 37:
253–269.
Turner, R.K., van den Bergh, J.C.J.M., T. Soderqvist, A. Barendregt, J. van der
Straaten, E. Maltby and van Ierland E. 2000. Ecological-economic analysis of
wetlands: scientific integration for management and policy. Ecological Economics 35:
7–23.
Turner, K.T., Paavola, J., Cooper, P., Farber, S., Jessamy, V., Georgiu, S., 2003.
Valuing nature: lessons learned and future research directions. Ecological
Economics 46: 493–510.
Turner, R.K, Georgiu, S., Clark, R., Brouwer, R., Burke, J. 2004. Economic Valuation
of water resources in agriculture. From the sectoral to a functional perspective of
natural resource management. Food and Agriculture Organization of the United
Nations. Rome, Italy.
Turner, R.K. and Daily, G.D. 2008. The ecosystem service framework and natural
capital conservation. Environmental and Resource Economics 39: 25–35.
102
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Valero, A., Uche, J. ,Valero, A., Martínez, A., Naredo, J.M. and Escriu, J. in press.
The
Fundamentals
of
Physical
Hydronomics:
A
Novel
Approach
for
Physico-Chemical Water Valuation. In: Pascual, U., Shah, A., and J. Bandyopadhyay
(Eds), Water, Agriculture and Sustainable Well-being. Chapter 5. Oxford University
Press, New Delhi,
van Beukering, P., Brander, L.M., Tompkins, E., and McKenzie, E. 2007. Valuing the
Environment in Small Islands: An Environmental Economics Toolkit. Peterborough:
Joiint Nature Conservation Committee.
Van Kooten, G., Kckmar, E. and Bulte, E. 2001. Preference uncertainty in
non-market valuation: A fuzzy approach. American Journal of Agricultural
Economics 83(3): 487–500.
Vatn, A. and D.W. Bromley. 1994. Choices without Prices without Apologies. Journal
of Environmental Economics and Management 26(2): 129–148.
Veisten, K. 2007. Contingent valuation controversies: Philosophic debates about
economic theory. The Journal of Socio-Economics 36: 204–232.
Wackernagel, M., Onisto, L., Bello, P., Callejas Linares, A., López Falfán, I.S.,
Méndez García, J., Suárez Guerrero, A.I., Suárez Guerrero, M.G. 1999. Natural
capital accounting with the Ecological Footprint concept. Ecological Economics 29(3):
375–390.
Wadsworth, Y. 1998. What Is Participatory Action Research? Action Research
International, Vol. Paper 2: Institute of Workplace Research, Learning and
Development.
Walker, B.H. and J.A. Meyers 2004. Thresholds in ecological and social-ecological
systems: A developing database Ecology and Society 9(2): 3.
103
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Walker, B. and Pearson, L. 2007. A Resilient Perspective of the SEEA, Ecological
Economics, special edition, 61(4):708–715.
Walker, B.H., N. Abel, J.M. Anderies and P. Ryan. 2009a. Resilience, adaptability,
and transformability in the Goulburn-Broken Catchment, Australia. Ecology and
Society 14(1): 12.
Walker, B.H., Holling, C.S., Carpenter, S.R., Kinzig, A.P. 2004. Resilience,
adaptability, and transformability. Ecology and Society 9(2): 5.
Walker, B.H., Gunderson, L.H., Kinzig, A.P., Folke, C., Carpenter, S.R., Schultz, L.
2006. A handful of heuristics and some propositions for understanding resilience in
social-ecological systems. Ecology and Society 11(1): 13.
Weitzman, M.L. 2009. On Modeling and Interpreting the Economics of Catastrophic
Climate Change. The Review of Economics and Statistics 91(1): 1–19.
Whittington, D. 1998. Administering Contingent Valuation Surveys in Developing
Countries. World Development 26(1): 21–30.
Willing, R. 1976. Consumer's surplus without apology. American Economic Review
66: 589–597.
Wilson, C., Tisdell, C. 2005. What role does knowledge of wildlife play in providing
support for species‟ conservation? Journal of Social Sciences 1: 47–51.
Wilson, M.A., Howarth, R.B. 2002. Valuation techniques for achieving social fairness
in the distribution of ecosystem services. Ecological Economics 41: 431–43.
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
104
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
付属書A
国家機関チームの技術支援及び生物多様性評価に応用される情報源
国家機関チームの技術支援及び生物多様性評価にすぐに利用できる情報源には、次に掲
げる 2 種類がある。
a) 対象とされる評価方法に関する応用文献。評価技法に関する次に掲げるような指示
的非技術参照マニュアル。
Dixon John、Louise Scura、Richard Carpenter 及び Paul Sherman 共著『環境影
響の経済分析』(1994 年、Earthscan 社発行)
I. Baterman 他著『表明選好法による経済的価値評価: マニュアル』(2002 年、
Edward Elgar 社発行)
加えて、次に掲げるような有用な技術支援ウェブサイト
www.biodiversityeconomics.org
http://www.ecosystemvaluation.org/default.htm
http://envirovaluation.org/
b) 次に掲げるような既存の評価研究及びデータのデータベース:
EVRI - 環境評価資料館: http://www.evri.ca/
ENVALUE環境評価データベース: http://www.epa.nsw.gov.au/envalue/
環境変化の評価研究データベース: http://www.beijer.kva.se/valuebase.htm
ニュージーランド非市場財評価データベース: http://learn.lincoln.ac.nz/markval/
REDデータベース: http://www.red-externalities.net/
便益の伝達に関する情報ページ
http://www.idrc.ca/en/ev-73300-201-1-DO_TOPIC.html
http://yosemite.epa.gov/EE/epa/eed.nsf/webpages/btworkshop.html
105
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
付属書B
表 A1.a 湿地生態系サービス、便益/価値の種類、及び評価手法に基づく概念マトリクス
湿地サービス
表明選好
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
要素所得/生産関数
(e.g., Barbier, Adams and
Kimmage 1991; Barbier et.
al., 1993; Hammack and
Brown, 1974; Costanza et al.,
1997;
Hodgson
and
Dixon,1988; Emerton, 1998;
Bann 1999; Gammage 1997;
Barbier and Strand 1998;
Janssen and Padilla 1997;
Nickerson 1999; Verma et al.
2003; Khalil, 1999; Emerton
2005; Stuip et al. 2002;
Benessaiah,
N.
1998;
Ruitenbeek, 1994;)
機会費用
(e.g. Dixon and Sherman
1990; Hodgson and Dixon,
1988; Kramer et al.1992,
1995;
Emerton,
2005,
Ruitenbeek 1989a, 1989b;)
公共投資
(e.g Powicki 1998 ;Emerton,
2005)
交換費用
Gren et al. 1994; Abila 1998)
修復費用
(e.g. Verma et al. 2003)
便益の伝達
(e.g.White et al. 2000; Stuip
et al. 2002; Costanza et al.,
1997)
要素所得
(e.g. Emerton, 2005)
機会費用
(e.g. Emerton, 2005)
交換費用
(e.g. Gren et al. 1994)
修復費用
(e.g. Verma et al. 2003;
Emerton 2005)
機会費用
(e.g. Emerton, 2005)
交換費用
(e.g. Gren et al. 1994,)
修復費用
(e.g. Emerton, 2005; Verma et
al. 2003)
供給
食料
(例 漁獲量、狩猟量、果物及
び穀物の生産高)
106
水
(例 国内の産業及び農業用水
の貯留及び保存)
原材料
(例 繊維、材木、薪、飼料、
泥炭、肥料、建材など)
遺伝資源
(例 生化学生産及び試験組
織、植物病原抵抗性遺伝子)
薬用資源
(例 生物相からの薬及びその
他の材料の抽出)
観賞用資源
(例 観賞魚、ハスなどの観賞
植物)
選択モデル
Layton et al. 1998; Seferlis
2004; Psychoudakis et al.
2004; Carlsson et al. 2003)
仮想ランキング
(e.g. Emerton1996)
CVM
(e.g.
Bergstrom,
1990;
Hammack and Brown, 1974;
Benessaiah 1998; Hanley and
Craig 1991)
参加型評価
(e.g.
L.Emerton,
2005;
IUCN-WANI, 2005;)
ステークホルダー分析及びCVM
(e.g. Bhatta, 2000)
選択モデル
(e.g. Gordon et al. 2001;)
非ユーザ便益のCVM
(e.g. James and Murty 1999;)
参加型評価
(e.g. IUCN-WANI 2005)
仮想ランキング
(e.g. Emerton 1996)
CVM
(e.g. Hanley and Craig 1991)
参加型評価
(e.g. Eaton, 1997; Emerton
2005; IUCN-WANI 2005)
参加型評価
(e.g.
Emerton
2005;
IUCN-WANI 2005)
参加型評価
(e.g.
L.Emerton,
2005;
IUCN-WANI, 2005; )
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005)
公共投資
(e.g. Powicki 1998;
Emerton, 2005)
公共投資
(e.g Powicki 1998;
2005)
Emerton,
要素所得
(e.g. Khalil,1999;Ruitenbeek,
1994; Verma et al. 2003;
Emerton, 2005; Stuip et al.
2002,)
生物経済モデル
(e.g. Hammack and Brown,
1974)
可避費用
(e.g. Emerton, 2005)
修復費用
(e.g. Emerton, 2005)
要素所得
(e.g. Vidanage et al. 2005)
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
湿地サービス
表明選好
顕示選好
生産高ベース
ヒトの生活環境
(例 森林は多くの居住者に住
居を供給する)
輸送(例 湿地は運行の目安と
なる)
調整
費用ベース
便益の伝達
転換費用
(e.g. Abila, 1998)
大気質規制(例 集塵)
気候規制(例 温室効果ガスの
排出源及び吸収源、地方及び
地域の温度、降水量、及びそ
の他の気象 現 象(炭素隔離を
含む)への影響)
極端な現象の緩和
(例 防風、水防、護岸、防火)
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005)
可避費用
(e.g.
Emerton,
Emerton, 2003;)
CVM
(e.g. Hanley and Craig 1991;
Bateman et al. 1993)
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005)
流水/水理領域規制
(自然排水、氾濫原機能、農業
又は工業用水の貯留、灌漑防
備、地下水の涵養/流出)
選択モデル
Adamowicz et al. 1994; Birol
et al. 2007; Ragkos et al.
2006;)
参加型評価
(e.g.
Emerton,
2005;
IUCN-WANI, 2005; )
CVM
(e.g. Gren, 1995)
可避費用
(e.g. Bann 1999; Costanza
et.al. 1997)
交換費用
(e.g. Gupta 1975; Farber
1987)
可避費用
(e.g. L.Emerton, 2005)
交換費用
(e.g. Grenet al. 1994)
修復費用
(e.g. Emerton, 2005)
水の浄化/解毒、廃水処理/汚
染管理
(例 滞留、回復、過剰栄養及
びその他の汚染物質の除去)
要素所得
(e.g. Acharya, 2000;)
要素所得
(e.g. Gren, 1995)
1998;
可避費用
(e.g Verma et al. 2003)
緩和費用
(e.g. Sankar (2000)
交換費用
(e.g. Emerton 2005; Gren et
al. 1994; IUCN 2003; Stuip et
al. 2002;)
修復費用
(e.g. Gren 1995; Verma et al.
2003)
107
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
湿地サービス
表明選好
侵食防止
(例 土壌及び堆積物の保留)
CVM
(e.g. Hanley and Craig,
1991;Bateman e.al, 1993;
Loomis, 2000;)
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005)
選択モデル
Colombo et al. 2004; Colombo
et al. 2006;)
CVM
(e.g. Loomis, 2000)
土壌形成/保全(例 堆積物の
保留及び有機物の蓄積)
注記:基盤サービス下で実施
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
修復費用
(e.g. Emerton, 2005)
授粉(例 授粉動物の生息域)
要素所得
(e.g. Seidl, 2000)
生物的防御(例 種子分散、有
害種、疾病対策)
生活環境/基盤
108
生物多様性及び生育サービス
(例 居住種又は通過種の生息
域)
遺伝子プール の保護/絶滅 危
惧種の保護
栄養循環(例 養分の蓄積、再
生利用、処理及び吸収)
選択モデル
(e.g. Brouwer et al. 2003)
交換費用
(e.g. Gren et al. 1994)
CVM
(e.g. Eija Moisseinen 1993 )
交換費用
(e.g. Gren et al. 1994)
交換費用
(e.g. Gren et al. 1994)
文化的
美的
(例 自然景観の鑑賞、計画さ
れたレクレーション活動以
外)
選択モデル
(e.g. Bergland 1997)
CVM
(e.g. Mahan 1997)
ヘドニック価格
(e.g. Verma et
Mahan 1997)
al.
2003;
交換費用
(e.g. Gupta, 1975)
便益の伝達
(e.g.
Andréassen-Gren
Groth 1995)
&
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
湿地サービス
表明選好
顕示選好
レクレーション&観光/エコツ
ーリズム、原生保全(利用され
ていない遠隔地)
(例 観光及びレクリエーシ
ョン活動の機会)
選択モデル
(e.g. Boxall et al. 1996;
Carlsson et al. 2003; Hanley
et al. 2002; Horne et al. 2005;
Boxall and Adamomicz 2002;
Adamowicz et al. 1994;
Adamowicz et al. 1998b)
CVM
(e.g. Thibodeu & Ostro 1981;
Naylor & Drew 1998; Murthy
&
Menkhuas,
1994;
Manoharan 1996; Costanza et
al. 1997; Manoharan and
Dutt, 1999; Maharana et al.
2000; Wilson & Carpenter
2000; Stuip et al. 2002;
Bergstrom 1990; Bell 1996;
Pak and Turker, 2006)
参加型評価
(e.g. IUCN-WANI 2005)
消費者余剰
(e.g. Bergstrom et al. 1990)
TCM
(e.g. Farber 1987; Chopra
1998; Hadker et al. 1995;
Manoharan 1996; Pak and
Turker, 2006; Willis et al.
1991)
教育的(例 公式及び非公式の
教育並びに研修の機会)
精神的&芸術的刺激(例 刺激
の源、数多くの精神的、畏敬
的宗教への依存、湿地及び森
林生態系の側面の宗教的価
値)
文化遺産及び文化的アイデン
ティティ
(例 場所及び所属の意味)
認知的発達に関する情報
CVM
(e.g. Maharana et. al., 2000)
選択モデル
(e.g. Tuan et al. 2007)
CVM
(e.g. Shultz et al. 1998; Tuan
et al. 2007)
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
機会費用
(e.g. Loomis et al. 1989)
保護費用
(e.g. Pendleton 1995)
交換及び変換費用
(e.g. Abila 1998)
便益の伝達
(e.g. Sorg and Loomis 1984;
Walsh et al. 1988; MacNair
1993; Loomis et al. 1999;
Markowski et al. 1997;
Rosenberger
and
Loomis
2000; Andréassen-Gren &
Groth, 1995)
109
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表 A1.b 森林生態系サービス、便益/価値の種類、及び評価手法に基づく概念マトリクス
森林サービス
表明選好
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
食料
(例 漁獲量、狩猟量、果物及
び穀物の生産高)
仮想ランキング
(e.g Lynam et al., 1994;)
CVM
(e.g.
Gunawardena
et
al.,1999; Shaikh et al,2007;
Loomis 1992)
ヘドニック価格
e.g. Livengood 1983; Loomis
1992)
市場価格
(e.g. Pattanayak and Kramer
2001; Chopra and Kadekodi
1997;
Moskowitz
and
Talberth 1998; Verma 2008)
TCM
(e.g. Barnhill 1999; Loomis
1992)
要素所得
(e.g. Peters et al. 1989;
Hodgson and Dixon 1998;
Carret and Loyer, 2003;
Anderson 1987; Mäler 1992)
便益の伝達
(e.g. Costanza et al. 1997)
水
(例 国内の産業及び農業用水
の貯留及び保存)
CVM
(e.g. Sutherland and Walsh
1985;)
TCM
(e.g. Wittington et al. 1990,
1991)
原材料
(例 繊維、材木、薪、飼料、
泥炭、肥料、建材など)
仮想ランキング
(e.g. Emerton 1996)
CVM
(e.g. Kramer et al. 1992,
1995; Shaikh et al. 2007;
Olsen and Lundhede 2005)
多基準分析
(e.g. Chopra and Kadekodi
1997)
市場価格
(e.g. Croitoru 2006; Ammour
et al. 2000; Jonish 1992;
Sedjo 1988; Sedjo and Bowes,
1991; Veríssimo et al. 1992;
Uhl et al. 1992; Verma 2000;
Verma 2008)
純額方式
(e.g. Parikh & Haripriya
1998)
代替財
(e.g. Adger et al. 1995;
Gu-natilake et al. 1993;
Chopra 1993; Fleming 1981,
cited in Dixon et al. 1994)
要素所得
(e.g Kumari 1999; Dunkiel and
Sugarman 1998)
生産関数
(e.g. Aylward et al. 1999;
Kumari
1996;Wilson
&
Carpenter 1999; Sedell et al.
2000)
要素所得
(e.g. Anderson 1987; Peters et
al.
1989;
Alcorn
1989;
Anderson and Jardim 1989;
Godoy and Feaw, 1989;
Howard 1995;Peters et al.
1989;
Pearce
1991;
Pinedo-Vasquez et al. 1992;
Ruitenbeek 1989a, 1989b;
Aakerlund 2000; Kumar and
Chopra 2004; Verma, 2008)
可避費用
(e.g. Bann, 1999)
緩和費用 - 外部費用
(Emerton 1999; Madhusudan
2003)
機会費用
(e.g. Dixon & Sherman 1990;
Hodgson & Dixon 1988;
Kramer et al. 1992, 1995;
Loomis
et
al.
1989;
Ruitenbeek 1989a, 1989b;
Emerton 1999)
交換費用
(e.g. Rodriguez et al. 2006)
可避費用
(e.g. Chaturvedi, 1993; )
廃棄物処理/緩和費用
(e.g Kumari 1996)
供給
110
遺伝資源
(例 生化学生産及び試験組
織、植物病原抵抗性遺伝子)
機会費用
(e.g. Chopra et al., 1990;
Grieg-Gran,
M.
2006;
Kramer, R.A., N.P. Sharma,
et al. (1995; Niskanen 1998;
Emerton (1999; Butry, D.T.
and S.K. Pattanayak, 2001;
Saastamoinen, 1992; Browder
et al. 1996)
交換費用
(e.g. Ammour et al. 2000)
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
森林サービス
表明選好
薬用資源
(例 生物相からの薬及びその
他の材料の抽出)
観賞用資源
(例 観賞魚、ハスなどの観賞
植物)
ヒトの生活環境
(例 森林は多くの居住者に住
居を供給する)
輸送
(例 湿地は運行の目安とな
る)
調整
大気質規制(例 集塵)
生産高ベース
市場価格
(e.g.
Mendelsohn,
and
Ballick, 1995; Kumar, 2004)
市場価格
(e.g. Clinch ,1999; Loomis and
Richardson, 2000; Verma,
2008)
CVM
(e.g. Loomis et al. 1996)
費用ベース
便益の伝達
交換費用 - 森林の回復
(e.g. Cavatassi 2004)
存在+遺産価値
(e.g. Haefele et al. 1992)
気候規制
(例 温室効果ガスの排出源及
び吸収源、地方及び地域の温
度、降水量、及びその他の気
象現象(炭素隔離を含む)への
影響)
極端な現象の緩和
(例 防風、水防、護岸、防火)
顕示選好
要素所得
(e.g. Anderson,1987)
市場価格/可避費用
(e.g. Novak et al. 2006;
Haefele et al. 1992)
交換費用
(e.g. McPherson 1992; Dwyer
et al. 1992;)
可避費用
(e.g. van Kooten & Sohngen
2007; Dunkiel & Sugarman
1998; Pearce 1994; Turner et
al.
2003;
Kadekodi
&
Ravin-dranath
1997;
McPherson 1992; Dwyer et al.
1992; Pimentel et al. 1997)
損害費用
(e.g. Howard, 1995)
緩和費用
(e.g Van Kooten & Sohngen
2007)
交換費用
(e.g. Howard 1995)
可避費用
(e.g. Pattanayak & Kramer
2001; Loomis & Gonzalez
1997;
Yaron
2001;
Ruitenbeek 1992; Paris and
Ruzicka 1991; Myers 1996)
交換費用
(e.g. Bann 1998)
便益の伝達
(e.g. Dunkiel and Sugarman
1998; Loomis and Richardson
2000;)
111
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
森林サービス
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
流水/水理領域規制(自然排
水、氾濫原機能、農業又は工
業用水の貯留、灌漑防備、地
下水の涵養/流出)
公共投資
(e.g. Ferraro 2002)
要素所得
(e.g. Pattanayak & Kramer
2001)
水の浄化/解毒、廃水処理/汚
染管理(例 滞留、回復、過剰
栄養及びその他の汚染物質の
除去)
侵食防止
(例 土壌及び堆積物の保留)
TCM
(e.g. Wittington et al. 1990,
1991)
損害費用
(e.g. Yaron 2001; )
交換費用
(e.g.
Niskanen
1998;
McPherson 1992; Dwyer et al.
1992;)
修復費用
(e.g. Adger et al. 1995 Mexico)
112
土壌形成/保全
(例 堆積物の保留及び有機物
の蓄積)
注記: 基盤サービス下で実施
表明選好
CVM
(e.g. Rodriguez et al. 2006;)
授粉
(例 授粉動物の生息域)
生物的防御
(例 種子分散、有害種、疾病
対策)
要素所得
(e.g.
Ricketts
2004;
Pattanayak & Kramer 2001)
オプション価値
(e.g. Walsh et al. 1984)
存在+遺産価値
(e.g. Walsh et al. 1984)
可避費用
(e.g Bann 1999; Paris and
Ruzicka 1991)
交換費用
(e.g. Ammour et al. 2000;
Kumar 2000)
可避費用
(e.g; Paris & Ruzicka 1991)
代替技術費用の軽減
(e.g. Kadekodi 1997)
交換費用
(e.g. Bann 1998; Ammour et
al.2000)
交換費用
(e.g. Moskowitz & Talberth
1998)
損害費用
(e.g. Moskowitz and Talberth
1998; Reid 1999)
交換費用
(e.g. Rodriguez et al. 2006)
生活環境/基盤
生物多様性及び生育サービス
(例 居住種又は通過種の生息
域)
選択モデル
(e.g. Adamowicz et al. 1998b;
Hanley et al. 1998;)
CVM
(e.g. Duffield 1992; Loomis
and Ekstrand 1997; Rubin et
al. 1991; Loomis et al. 1994;
Hagen et al. 1992)
機会費用
(e.g. Howard 1997;)
交換費用
(e.g. Rodriguez et al. 2006)
便益の伝達
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
森林サービス
表明選好
遺伝子プール の保護/絶滅 危
惧種の保護
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
公共投資
(e.g. Siikamaki & Layton
2007; Burner et al. 2003;
Strange et al. 2006; Polasky
et al. 2001; Ando et al. 1998)
栄養循環
(例 養分の蓄積、再生利用、
処理及び吸収)
文化的
美的
(例 自然景観の鑑賞、計画さ
れたレクレーション活動以
外)
レクレーション&観光/エコツ
ーリズム、原生保全
(利用されていない遠隔地)
(例 観光及び レクレーシ ョ
ン活動の機会)
選択モデル
(e.g Adamowicz et al. 1994;
Boxall et al. 1996;)
CVM
(e.g. Adger et al. 1995; Dixon
& Sherman 1990; Hadker et
al. 1997; Kumari 1995a;
Gunawardena et al. 1999;
Flatley & Bennett, 1996; Mill
et al. 2007; Bateman &
Langford 1997; Willis et al.
1998; Bateman et al. 1996;
Hanley 1989; Hanley &
Ruffell 1991; Hanley &
Ruffell 1992; Whinteman &
Sinclair 1994; Guruluk 2006;
Brown 1992; Sutherland &
Walsh 1985; Moskowitz &
Talberth 1998; Gilbert et al.
1992; Walsh et al. 1984;
Clayton & Mendelsohn 1993;
Walsh
&
Loomis
1989;
Champ et al. 1997; Loomis &
Richardson
ヘドニック価格
(e.g. Garrod & Willis 1992;
Tyrvaninen
&
Meittinen
2000; Kramer et al. 2003;
Holmes 1997)
TCM
(e.g. Holmes 1997)
TCM
(e.g. Tobias and Mendelsohn,
1991; Loomis 1992; Adger et
al. 1995; Kramer et al. 1995;
Willis et al. 1998; Zandersen
1997;
Chopra
1998;
Moskowitz
and
Talberth
1998; Hadker et al. 1995; Van
Beukering
et
al.
2003;
Manoharan,
1996;
Manoharan and Dutt 1999;
Elasser, 1999;
Loomis and Ekstrand, 1998;
Van der Heide et al. 2005;
McDaniels and Roessler 1998;
Brown 1992; Loomis and
Richardson 2000; Yuan and
Christensen 1992; Power
1992; Barnhill 1999; Verma,
2008)
修復費用
(e.g Reeves et al. 1999;)
生産関数/要素所得
(e.g. Hodgson and
1988;
Dixon
便益の伝達
Walsh and Loomis 1989;
Zandersen et al., 2007, 2009.
113
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
森林サービス
表明選好
参加型方式
(e.g.,
McDaniels
Roessler, 1998)
オプション価値
(e.g. Walsh et al. 1984)
教育的
(例 公式及び非公式の教育並
びに研修の機会)
精神的&芸術的刺激
(例 刺激の源、数多くの精神
的、畏敬的宗教への依存、湿
地及び森林生態系の側面の宗
教的価値)
114
文化遺産及び文化的アイデン
ティティ
(例 場所及び所属の意味)
認知的発達に関する情報
顕示選好
and
TCM
(e.g. Power 1992;)
審議貨幣評価
(e.g. Hanley et al., 2002)
仮想ランキング
(e.g. Garrod and Willis 1997)
CVM
(e.g. Maharana et. al., 2000)
CVM/選択モデル
(e.g. Aakerlund, 2000; Mill et
al., 2007; Kniivila, M., V.
Ovaskainen, et al., 2002;
McDaniels
and
Roessler,
1998; Maharana et. Al., 2000)
TCM
(e.g. Maharana et. al., 2000)
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 A2.a 湿地生態系サービス及び評価手法に基づく概念マトリクス
サービス
供給
湿地
表明選好
顕示選好
選択モデル
Layton et al. 1998; Seferlis
2004; Psychoudakis et al.
2004; Carlsson et al. 2003;
Gordon et al. 2001;)
仮想ランキング
(e.g. Emerton 1996;)
CVM
(e.g.
Bergstrom
1990;
Costanza
et
al.
1997;
Hammack & Brown 1974;
Benessaiah 1998; Bhatta
2000; Hanley& Craig 1991)
非ユーザ便益のCVM
(e.g. James and Murty, 1999;)
参加型評価
(e.g. Eaton, 1997; Emerton,
2005; IUCN-WANI, 2005; )
公共投資
(e.g
Powicki
Emerton, 2005)
1998
;
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
生物経済モデル
(e.g. Hammack& Brown 1974)
要素所得/生産関数
(e.g. Barbier et al. 1991;
Barbier
et.
al.
1993;
Hammack and Brown 1974;
Costanza
et
al.,
1997;
Hodgson & Dixon 1988;
Emerton 1998; Bann 1999;
Gammage 1997;Barbier and
Strand 1998; Janssen and
Padilla 1997; Nickerson 1999;
Verma et al. 2003; Khalil
1999; Emerton, 2005; Stuip et
al. 2002; Benessaiah 1998;
Ruitenbeek 1994; Verma et
al. 2003; Emerton, 2005;
Vidanage et al. 2005)
可避費用
(e.g. L.Emerton, 2005)
変換費用
(e.g. R. Abila,1998)
公共投資
(e.g Powicki 1998 ;
L.Emerton, 2005)
機会費用
(e.g. Dixon and Sherman
1990; Hodgson and Dixon,
1988; Kramer et al.1992,
1995;
L.Emerton,
2005,
Ruitenbeek, 1989a, 1989b)
交換費用
(e.g. Grenet al. 1994; Abila
1998)
修復費用
(e.g. Verma et al. 2003;
Emerton 2005)
可避費用
(e.g. Emerton 1998; Emerton
2005; Emerton 2003; Bann
1999; Verma et al. 2003)
緩和費用
(e.g. Sankar 2000)
交換費用
(e.g Gupta 1975; Farber 1987;
Gren et al. 1994; Emer-ton
2005; Gren et al. 1994; IUCN
2003; Stuip et al. 2002)
修復費用
(e.g. Emerton 2005; Gren,
1995; Verma et al., 2003)
交換費用
(e.g. Gren et al. 1994)
便益の伝達
(e.g.White et al. 2000; Stuip
et al. 2002; Costanza et al.,
1997 ; Schuijt 2002; Seidl and
Moraes 2000 ; White et al.
2000)
調整
選択モデル
(e.g. Adamowicz et al. 1994;
Birol et al. 2007; Ragkos et al.
2006; Colombo et al. 2004;
Colombo et al. 2006;)
CVM
(e.g. Hanley & Craig 1991;
Bateman et al. 1993; Gren,
1995; Loomis, 2000)
参加型評価
(e.g
Emerton,
2005;
IUCN-WANI, 2005)
生産関数/要素所得
(e.g. Acharya, 2000; Acharya
and Barbier 2000; Gren,
1995; Seidl, 2000)
生活環境/基盤
選択モデル
(e.g. Brouwer et al. 2003)
CVM
(e.g. Eija Moisseinen 1993;
Ragos et al. 2006)
生活環境/基盤
(e.g. Barbier and Thompson
1998; Johnston 2002; Lynne
et al. 1981; Ramdial 1975)
便益の伝達
(e.g. Costanza et.al., 1997;
Seidl and Moraes 2000)
便益の伝達
(e.g. Andréassen-Gren & Groth
1995; White et al. 2000)
115
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
文化的
湿地
116
表明選好
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
選択モデル
(e.g. Bergland 1997; Tuan et
al. 2007; Boxall et al. 1996;
Carlsson et al. 2003; Hanley
et al. 2002; Horne et al. 2005;
Boxall and Adamomicz 2002;
Adamowicz et al. 1994;
Adamowicz et al. 1998b;
Pak and Turker, 2006)
CVM
(e.g. Mahan, B.L., 1997;
Thibodeu & Ostro 1981;
Naylor & Drew 1998; Murthy
&
Menkhuas,
1994;
Manoharan, 1996; Costanza
et al., 1997; Manoharan and
Dutt, 1999; Maharana et. al.
2000; Wilson & Carpenter
2000; Stuip et al. 2002;
Bergstrom,
1990;
W.Bell
1996; Shultz et al. 1998; Tuan
et al. 2007)
参加型評価
(e.g. IUCN-WANI, 2005)
消費者余剰
(e.g. Bergstrom et al. 1990)
ヘドニック価格
(e.g. Verma et al. 2003;
Mahan 1997)
TCM
(e.g. Farber 1987; Willis et al.
1991Chopra 1998; Hadker et
al. 1995; Manoharan, 1996;
Pak and Turker, 2006)
生産関数/要素所得
(e.g. Costanza et al. 1989)
機会費用
(e.g. Loomis et al. 1989;)
保護費用
(e.g. Pendleton 1995)
交換費用
(e.g. Abila,1998; Gupta, 1975)
便益の伝達
(e.g. M. Andréassen-Gren &
K.H. Groth, 1995; Sorg and
Loomis 1984;Walsh et al.
1988; MacNair 1993; Loomis
et al. 1999; Markowski et al.
1997;
Rosenberger
and
Loomis 2000; Seidl and
Moraes 2000; White et al.
2000)
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 A2.b 森林生態系サービス及び評価手法に基づく概念マトリクス
117
サービス
森林
表明選好
顕示選好
生産高ベース
費用ベース
便益の伝達
供給
仮想ランキング
(e.g Lynam et al., 1994;.
Emerton,1996)
CVM
(e.g. Gunawardena et al.,1999;
Shaikh et al,2007; Kramer et
al.,1992, 1995; Olsen and
Lundhede,2005; Loomis 1992;
Sutherland and Walsh 1985)
存在+遺産価値
(e.g. Haefele et al. 1992)
多基準分析
(e.g. Chopra and Kadekodi,
1997)
ヘドニック価格
(e.g. Livengood 1983; Loomis
1992)
市場価格
(e.g. Pattanayak & Kramer
2001; Croitoru 2006; Ammour et
al. 2000; Chopra & Kadekodi
1997; Moskowitz & Talberth
1998; Jonish 1992; Sedjo 1988;
Sedjo & Bowes 1991; Veríssimo
et al. 1992; Verma 2000; Verma
2008; Mendelsohn & Ballick
1995; Kumar 2004; Uhl et al.
1992)
純額方式
(e.g. Parikh &Haripriya 1998)
代替財
(e.g. Adger et al.1995;
Gunatilake et al.1993;
Chopra,1993; Fleming 1981,
cited in Dixon et al. 1994)
TCM
(e.g.Wittington et al. 1990, 1991;
Barnhill 1999; Loomis 1992)
要素所得
(e.g Kumari ,1999; Dunkiel
and Sugarman, 1998; .
Peters et al.,1989;Hodgson
and Dixon,1998; Carret and
Loyer, 2003; Anderson 1987;
Maler 1992;
Anderson 1987; Peters
et.al.,1989;Alcorn,1989;
Anderson and Jardim,1989;
Godoy and Feaw, 1989;
Howard
1995;Peters
et
al.,1989;Pearce,1991;
Pinedo-Vasquez et
al.,1992; Ruitenbeek,1989a,
1989b;Aakerlund,2000;
Verma, 2008)
生産関数
(e.g Aylward et al. 1999;
Kumari 1996;Wilson and
Carpenter 1999;Sedell et al.
2000; Kumar and Chopra,
2004)
便益の伝達
Costanza et.al., 1997)
調整
CVM
(e.g. Loomis J.B., C.A. Gonzale
& R. Gregory, 1996); Rodriguez
et al. 2006;)
オプション価値
(e.g. Walsh et al. 1984)
市場価格
(e.g. Clinch ,1999; Loomis and
Richardson,
2000;
Verma,
2008)
公共投資
(e.g. Ferraro, P.J. , 2002)
TCM
(e.g. Wittington et al. 1990,
1991
要素所得
(e.g.
Anderson,1987;.
Pattanayak and Kramer,
2001; Ricketts 2004)
可避費用
(e.g Bann, 1999; Chaturvedi,
1993)
緩和費用
(e.g.
Emerton
1999;
Madhusudan 2003)
機会費用
(e.g. Dixon & Sherman 1990;
Hodgson & Dixon 1988; Kramer
et al. 1992 1995; Loomis et al.
1989; Ruitenbeek 1989a, 1989b;
Emerton 1999; Chopra et al.
1990;
Grieg-Gran 2006; Kramer et al.
1995; Niskanen 1998; Emerton
1999; Butry & Pattanayak 2001;
Saastamoinen 1992; Browder et
al. 1996)
回復費用
(e.g. Cavatassi 2004)
交換費用
(e.g. Ammour et al. 2000;
Rodriguez et al. 2006;)
廃棄物処理/緩和費用
(e.g Kumari 1996)
可避費用
(e.g. Novak et al. 2006; Haefele
et al. 1992; van Kooten &
Sohngen 2007; Dunkiel &
Sugarman 1998; Pearce 1994;
Turner et al. 2003; Kadekodi &
Ravindranath
1997;
Bann
1999; Paris & Ruzicka 1991;
McPherson 1992; Dwyer et al.
1992; Pimentel et al. 1997;
Myers 1996)
損害費用
(e.g. Howard 1995; Yaron 2001;
Moskowitz & Talberth 1998;
Reid 1999)
緩和費用
(e.g Van Kooten & Sohngen
2007)
便益の伝達
(e.g.
Dunkiel
and
Sugarman 1998; Loomis
and Richardson 2000)
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
生活環境/基盤
文化的
森林
表明選好
118
選択モデル
(e.g. Adamowicz et al. 1998b;
Hanley et al., 1998)
CVM
(e.g. Duffield 1992; Loomis &
Ekstrand 1997; Rubin et al.
1991;Loomis et al. 1994;
Hagen et al. 1992)
選 択 モ デ ル (e.g. Aakerlund,
2000; Mill et al., 2007;
Kniivila, M., V. Ovaskainen, et
al., 2002; McDaniels and
Roessler, 1998;
(Maharana et al., 2000)
仮想ランキング
(e.g. Garrod and Willis 1997)
CVM
(e.g. Maharana et. al., 2000 ;
Brown 1992; Sutherland and
Walsh 1985; Moskowitz and
Talberth 1998; Gilbert et al.
1992; Walsh et al. 1984;
Clayton and Mendelsohn 1993;
Walsh and Loomis 1989;
Champ et al. 1997; Loomis and
Richardson, 2000;
Verma,
2008)
審議貨幣評価
(e.g. Hanley et al., 2002)
オプション価値
(e.g. Walsh et al. 1984)
顕示選好
生産高ベース
公共投資
(e.g. Siikamaki and Layton,
2007; Burner et al., 2003;
Strange et al., 2006; Polasky et
al. 2001; Ando et al,1998)
ヘドニック価格
(e.g. Garrod & Willis 1992;
Tyrvaninen & Meittinen 2000;
Kramer et al. 2003)
TCM
(e.g. Tobias & Mendelsohn
1991; Loomis 1992; Adger et al.
1995; Kramer et al. 1995;
Willis et al. 1998; Zandersen
1997, Chopra 1998; Moskowitz
& Talberth 1998; Hadker et al.
1995; Van Beukering et al.
2003;
Manoharan
1996;
Manoharan & Dutt 1999;
Elasser
1999;
Loomis
&Ekstrand 1998; Van der
Heide et al. 2005; McDaniels &
Roessler
1998; Maharana et al. 2000;
Holmes 1997; Power 1992;
Brown
1992;
Loomis
&
Richardson
2000; Yuan & Christensen
1992;
Power1992;
Barnhill1999)
費用ベース
便益の伝達
代替技術費用の軽減
(e.g. Kadekodi 1997)
修復費用
(e.g. Adger et al. 1995)
交換費用
(e.g. Howard 1995; Ammour et
al.
2000;
Kumar
2000;
McPherson 1992; Dwyer et al.
1992; Moskowitz & Talberth
1998; Rodriguez et al. 2006)
機会費用
(e.g. Howard 1997)
交換費用
(e.g. Rodriguez et al. 2006)
生産関数/要素所得
(e.g. Hodgson and Dixon
1988)
修復費用
(e.g. Reeves et al. ,1999)
便益の伝達
(e.g. Walsh and Loomis
1989; Zandersen et al.,
2007, 2009)
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 A3. 個々の価値タイプ、評価方法及び生態系サービスを関連づけたマトリクス - 湿地及び森林生態系の例
注記: NA = 該当なし(価値タイプと使用の特定の組み合わせの可能性がない)(TEV+ MA 分類併合マトリクスに基づく)
サービス
1
供給
食料
(例 漁獲量、狩
猟量、果物及び
穀物の生産高)
湿地
直接的使用
119
表明選好
選択モデル
(e.g. Layton et al.
1998;
Seferlis
2004;
Psychoudakis et al.
2004; Carlsson et al.
2003)
仮想ランキング
(e.g. Emerton 1996)
CVM
(e.g.
Bergstrom,
1990;
Costanza et.al., 1997;
Hammack & Brown
1974;
Benessaiah
1998)
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005;
IUCN-WANI, 2005; )
生産高ベース
要素所得/生産関数
(e.g. Barbier, Adams
&
Kimmage
1991;
Barbier et. al., 1993;
Hammack &Brown,
1974; Costanza et al.
1997; Hodgson &
Dixon 1988; Emerton
1998; Bann
1999;
Gammage
1997;
Barbier &
Strand 1998;
Janssen & Padilla
1997;
Nickerson
1999;
Verma 2001; Khalil
1999;
Emerton 2005; Stuip
間接的使用
オプション使用
未使用
NA
表明選好
CVM
(e.g.
Costanza
et.al., 1997)
ステークホルダー
分析及び CVM
(e.g. Bhatta, 2000)
費用ベース
修復費用
(e.g.
Emerton,
2005)
NA
森林
直接的使用
表明選好
仮想ランキング
(e.g Lynam et al. 1994)
CVM
(e.g. Gunawar-dena et
al.
1999; Shaikh et al.
2007;
Loomis 1992)
顕示選好
ヘドニック価格
(e.g. Livengood 1983;
Loomis 1992)
市場価格
(e.g. Pattanayak &
Kramer
2001;
Chopra
&
Kadekoid
1997; Verma 2008)
TCM
(Barnhill 1999; Loomis
1992)
生産高ベース
要素所得
(e.g. Peters et al. 1989;
Hodgson
&
Dixon
1998; Carret & Loyer
2003; Anderson 1987;
Mäler
1992;
Moskowitz
&Talberth
1998;
Verma, 2008)
費用ベース
緩和費用-外部費用
(e.g. Emerton 1999;
Madhusudan 2003)
純収入
可避費用
(e.g Bann, 1999)
機会費用
間接的使用
NA
オプション使用
未使用
NA
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
水
(例 国内の産業
及び農業用水の
貯留及び保存)
3
原材料(例 繊
維、材木、薪、
飼料、泥炭、肥
料、建材など)
120
2
湿地
直接的使用
et
al.
2002;
Benessaian 1998)
費用ベース
交換費用
(e.g. Gren, et al.
1994;
Abila 1998)
便益の伝達
便益の伝達
(e.g.White
et
al.
2000;
Stuip et al. 2002)
表明選好
選択モデル
(e.g. Gordon et al.
2001)
参加型評価
(e.g.
IUCN-WANI
2000)
顕示選好
公共投資
(e.g Powicki 1998 ;
Emerton, 2005)
生産高ベース
要素所得
(e.g. Emerton, 2005)
費用ベース
機会費用
(e.g. Emerton 2005)
交換費用
(e.g. Gren et al.,
1994)
修復費用
(e.g. Verma, 2001)
表明選好
仮想ランキング
(e.g. Emerton ,1996;)
CVM
(e.g. Hanley & Craig
1991)
参加型評価
(e.g. Eaton, 1997;
Emerton,2005;
IUCN-WANI, 2005; )
生産高ベース
要素所得
間接的使用
オプション使用
未使用
NA
費用ベース
修復費用
(e.g. L.Emerton,
2005)
NA
非ユーザ便
益の CVM
(e.g. James
and Murty,
1999;
NA
表明選好
参加型評価
(e.g. Eaton, 1997)
費用ベース
修復費用
(e.g. Emerton,
2005)
NA
森林
直接的使用
(e.g. Dixon & Sherman
1990;
Hodgson
&
Dixon
1988;
Kramer et al. 1992,
1995;
Loomis et al. 1989;
Ruitenbeek,
1989a,
1989b;
Emerton 1999)
交換費用
(e.g. Rodriguez et al.
2006;)
顕示選好
TCM
(e.g. Wittington et al.
1990,
1991)
生産高ベース
要素所得
(e.g Kumari , 1999;
Dunkiel &Sugarman
1998)
生産関数
(e.g. Aylward et al.
1999;
Kumari 1996; Wilson
&
Carpenter 1999; Sedell
et al. 2000)
費用ベース
可避費用
(e.g. Chaturvedi, 1993)
廃棄物処理/緩和費用
(e.g Kumari 1996)
表明選好
仮想ランキング
(e.g. Emerton 1996;)
CVM
(e.g. Kramer et al.
1992, 1995; Shaikh et
al., 2007; Olsen and
Lundhede 2005)
多基準分析
(e.g.
Chopra
&
Kadekodi 1997)
顕示選好
間接的使用
オプション使用
未使用
NA
表明選好
CVM
(e.g.
Kadekodi,
2000;)
NA
NA
表明選好
CVM
(e.g.
Ninan
and
Sathyapalan,
2005;)
費用ベース
潜在価格
(e.g
Godoy
Feaw
and
1989)
NA
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
サービス
湿地
直接的使用
(e.g. Halil, 1999;
Ruitenbeek
1994;
Verma,
2001;
Emerton, 2005; Stuip
et al. 2002)
費用ベース
機会費用
(e.g.
Dixon
and
Sherman
1990;
Hodgson and Dixon,
1988;
Kramer
et
al.1992,
1995;
L.Emerton, 2005,
Ruitenbeek, 1989a,
1989b)
交換費用
(e.g Gren et al. 1994)
間接的使用
オプション使用
未使用
121
森林
直接的使用
市場 価格 (e.g.Croitoru
2006; Ammour et al.
2000 ;
Jonish, 1992; Sedjo,
1988;
Sedjo and Bowes 1991;
Veríssimo et al. 1992;
Verma, 2000; Verma,
2008 Uhl et al., 1992)
純額方式
(e.g.
Parikh
and
Haripriya 1998)
代替財
(e.g. Adger et al. 1995;
Gunatilake et al. 1993;
Chopra, 1993; Fleming
1981, cited in Dixon et
al. 1994)
生産高ベース
要素所得
(e.g. Anderson 1987;
Peters et al. 1989;
Alcorn 1989; Anderson
& Jardim 1989; Godoy
& Feaw, 1989; Howard
1995; Peters et al.
1989; Pearce 1991;
Pinedo-Vasquez
et
al.
1992;
Ruiten-beek
1989a,
1989b;
Aakerlund
2000;
Kumar
&
Chopra 2004; Verma
2008)
費用ベース
機会費用
(e.g. Chopra et al.
1990;
Grieg-Gran
2006; Kramer, Sharma
et al. 1995; Niskanen
1998;Emerton
1999;
Butry,
Pattanayak,
2001; Saastamoinen,
1992; Browder et al.
1996)
交換費用
間接的使用
オプション使用
未使用
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
遺伝資源
(例 生化学生産
及び試験組織、
植物病原抵抗性
遺伝子)
5
薬用資源
(例 生物相から
の薬及びその他
の材料の抽出)
6
観賞用資源
(例 観賞魚、ハ
スなどの観賞植
物)
122
4
7
8
ヒトの生活環境
(例 森林は多く
の居住者に住居
を供給する)
輸送
(例 湿地は運行
の目安となる)
調整
大気質規制
(例 集塵)
気候規制
(例 温室効果ガ
スの排出源及び
吸収源、地方及
び地域の温度、
湿地
直接的使用
表明選好
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005)
生産高ベース
生物経済モデル
(e.g. Hammack and
Brown,
1974)
表明選好
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005;
IUCNWANI,
2005 )
費用ベース
可避費用
(e.g. Emerton, 2005)
表明選好
参加型評価
(e.g. Emerton, 2005)
生産高ベース
要素所得
(e.g. Vidanage et al.
2005)
費用ベース
変換費用
(e.g. Abila,1998)
間接的使用
NA
NA
未使用
森林
直接的使用
(e.g. Ammour et al.
2000)
NA
費用ベース
修復費用
(e.g. Emerton,
2005)
NA
顕示選好
市場価格
(e.g. Mendelsohn, &
Ballick
1995; Kumar 2004)
費用ベース
交換費用 - 森林の回復
(e.g. Cavatassi, 2004)
間接的使用
オプション使用
未使用
NA
表明選好
CVM
(e.g Veistern
et
al., 2003)
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
NA
費用ベース
市場価格 / 可避費用
(e.g. Novak et al.,
2006; Haefele et al.
1992)
交換費用
(e.g.
McPherson
1992;Dwyer et al.
1992;)
顕示選好
市場価格
(e.g. Clinch , 1999;
Loomis
and
Richardson; 2000;
NA
存在+遺産
価値
Haefele et
al. 1992
NA
NA
オプション使用
表明選好
参加型評価
(e.g. Emerton,
2005)
費用ベース
NA
NA
NA
NA
NA
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
サービス
湿地
直接的使用
降水量、及びそ
の他の気象現象
(炭素隔離を含
む)への影響)
9
極端な現象の緩 NA
和
(例 防風、水防、
護岸、防火)
間接的使用
可避費用
(e.g. Emerton,
1998; Emerton,
2003)
123
表明選好
CVM
(e.g. Hanley and
Craig,
1991;
Bateman et al.,
1993)
参加型評価
(e.g.
Emerton
2005)
費用ベース
可避費用
(e.g. Bann 1999;
Costanza et al.,
1997)
交換費用
オプション使用
未使用
森林
直接的使用
NA
NA
間接的使用
Verma, 2008)
費用ベース
可避費用
(e.g. van Kooten &
Sohngen
2007;
Dunkiel
& Sugarman 1998;
Pearce,1994;
Turner et
al. 2003; Kadekodi
&
Ravindranath,
1997;
McPherson
1992; Dwyer et al.
1992;
Pimentel
et
al.
1997)
損害費用
(e.g. Howard, 1995)
緩和費用
(e.g Van Kooten &
Sohngen 2007)
交換費用
(e.g. Howard 1995)
便益の伝達
便益の伝達
(e.g. Dunkiel &
Sugarman
1998;
Loomis
&
Richardson
2000)
表明選好
CVM
(e.g. Loomis &
Gonzalez 1997)
生産高ベース
要素所得
(e.g.
Anderson
1987;)
費用ベース
可避費用
(e.g. Pattanayak &
Kramer
2001;
Loomis
& Gonzalez 1997;
Yaron
2001;
オプション使用
未使用
NA
NA
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
湿地
直接的使用
10
流水/水理領域
規制
(自然排水、氾濫
原機能、農業又
は工業用水の貯
留、灌漑防備、
地下水の涵養/
流出)
11
水の浄化/解毒、 NA
廃水処理/汚染
管理
(例 滞留、回復、
過剰栄養及びそ
の他の汚染物質
の除去)
NA
間接的使用
(e.g.
Gupta
1975;
Farber,
1987)
124
表明選好
選択モデル
(e.g. Adamowicz
et al. 1994; Birol
et
al.
2007;
Ragkos et al.
2006)
参加型評価
(e.g.
Emerton
2005;
IUCN-WANI
2005)
生産高ベース
要素所得
(e.g.
Acharya
2000)
費用ベース
可避費用
(e.g.
Emerton
2005)
交換費用
(e.g. Gren et al.
1994)
修復費用
(e.g.
Emerton
2005)
表明選好
CVM
(e.g. Gren, 1995)
生産高ベース
要素所得
(e.g. Gren, 1995)
費用ベース
可避費用
(e.g
Verma,
2001)
緩和費用
(e.g.
Sankar
2000)
修復費用
オプション使用
未使用
森林
直接的使用
NA
NA
NA
CVM
(e.g.
Jamesand
Murty,
1999)
NA
間接的使用
Ruitenbeek,
1992; Paris &
Ruzicka
1991;
Myers
1996)
交換費用
(e.g. Bann 1998)
顕示選好
公共投資
(e.g. Ferraro, P.J. ,
2002)
生産高ベース
要素所得
(e.g.
Pattanayak
and
Kramer, 2001)
費用ベース
交換費用
(e.g.
Niskanen
1998;)
顕示選好
TCM
(e.g. Wittington et
al. 1990, 1991)
費用ベース
修復費用
(e.g. Adger et al.
1995
Mexico)
オプション使用
未使用
PES
(e.g. Proano,
C.E., 2005).
NA
NA
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
サービス
湿地
直接的使用
12
侵食防止
(例 土壌及び堆
積物の保留)
NA
13
土壌形成/保全
(例 堆積物の保
留及び有機物の
蓄積)
注記: 基盤サー
ビス下で実施
NA
14
授粉
(例 授粉動物の
生息域)
NA
間接的使用
(e.g. Gren 1995;
Verma, 2001)
交換費用
(e.g.
Emerton
2005;
Gren et al. 1994;
IUCN
2003;
Stuip
et al. 2002)
表明選好
CVM
(e.g. Hanley &
Craig 1991;
Bateman et al.
1993;
Loomis
2000)
参加型評価
(e.g
.Emerton
2005)
表明選好
選択モデル
(e.g. Colombo et
al.
2004;
Colombo et al.
2006;)
CVM
(e.g.
Loomis,
2000)
費用ベース
修復費用
(e.g. Emerton,
2005)
生産高ベース
要素所得
(e.g. Seidl, 2000)
オプション使用
125
未使用
森林
直接的使用
NA
NA
費用ベース
交換費用/可避費用
(e.g. Ammour et al.,
2000; Kuma , 2000;
Bann, 1999; Paris
and
Ruzicka , 1991)
NA
NA
NA
NA
NA
NA
表明選好
CVM
(e.g. Rodriguez et
al.
2006;)
費用ベース
可避費用
(e.g; Paris and
Ruzicka, 1991;)
所得要素/交換費用
(e.g. Bann, 1998;
Ammour
et
al.
2000)
代替技術の可避費用
(e.g. Kadekodi
1997)
生産高ベース
要素所得 (e.g.
Ricketts,
2004;
Pattanayak
& Kramer 2000)
費用ベース
交換費用
(e.g.
Moskowitz
and
Talberth 1998;)
間接的使用
オプション使用
未使用
NA
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
15
16
17
生物的防御
(例 種子分散、
有害種、疾病対
策)
生活環境/基盤
生物多様性及び
生育サービス
(例 居住種又は
通過種の生息
域)
湿地
直接的使用
NA
間接的使用
表明選好
選択モデル
(e.g. Brouwer et al.
2003)
未使用
NA
森林
直接的使用
NA
費用ベース
交換費用
(e.g. Gren, I.,
Folke, C., Turner,
K. and I. Bateman
1994,)
126
遺伝子プールの
保護/絶滅危惧
種の保護
栄養循環
(例 養分の蓄
積、再生利用、
処理及び吸収)
オプション使用
表明選好
CVM
(e.g. Eija
Moisseinen 1993;)
費用ベース
交換費用
(e.g. Gren et al.
1994; Bateman
1994)
表明選好
選択モデル
(e.g. Carlsoon et
al. 2003)
費用ベース
交換費用
(e.g. Gren et al.
1994)
便益の伝達
便益の伝達
顕示選好
公共投資
(e.g. Siikamaki and
Layton,
2007; Burner et al.,
2003;
Strange et a.l, 2006;
Polasky et
al., 2001; Ando et al.
1998)
間接的使用
費用ベース
損害費用
Moskowitz
&Talberth
1998; Reid 1999
交換費用
Rodriguez et al.
2006;
オプション使用
表明選好
オプション価
値
Walsh et al.
1984
未使用
NA
存在+遺産
価値
Walsh et
al.
1984
費用ベース
機会費用
(e.g. Howard
1997)
交換費用
(e.g.
Rodriguez et
al. 2006;)
表明選好
選択モデ
ル
(e.g.
Adamowic
z et
al. 1998b;
Hanley et
al.,
1998)
表明選好
CVM
(e.g.
Veistern
et
al.,
2003;
Lehtonen
et
al.,
2003;
Mallawaa
rachi
et
al.
2001;
Garber-Yo
nts,
Kerkvliet
et al.
2004)
費用ベース
機会費用
(e.g. Chomitz,
Alger, et al.,
2005)
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
サービス
18
19
文化的
美的
(例 自然景観の
鑑賞、計画され
たレクレーショ
ン活動以外)
レクレーション
&観光/エコツー
リズム、原生保
全
(利用されてい
ない遠隔地)
(例 観光及び
レクレーション
活動の機会)
湿地
直接的使用
間接的使用
(e.g. Andréassen
Gren & Groth,
1995)
127
表明選好
選択モデル
(e.g. Bergland 1997)
CVM
(e.g. Mahan, 1997)
顕示選好
ヘドニック価格
(e.g. Verma 2000;
Mahan, 1997)
費用ベース
交換費用
(e.g. Gupta, 1975;)
NA
表明選好
選択モデル
(e.g. Boxall et al.
1996;
Carlsson et al. 2003;
Hanley et al. 2002;
Horne
et al. 2005; Boxall &
Adamomicz 2002;
Adamowicz et al.
1994; Adamowicz et
al. 1998b)
CVM
(e.g.
Thibodeu
&
Ostro 1981; Naylor
&
Drew
1998;
Murthy & Menkhuas,
1994;
Manoharan,
1996;
Costanza et
al.,
1997;
Manoharan & Dutt
1999; Maharana et.
al. 2000; Wilson &
Carpenter
2000;
Stuip et al. 2002;
Bergstrom, 1990; Bell
1996;
Pak
and
NA
オプション使用
表明選好
CVM
(e.g. Desvousges
et al. 1987)
未使用
森林
直接的使用
顕示選好
ヘドニック価格
(e.g. Garrod & Willis
1992;
Tyrvaninen
and
Meittinen
2000; Kramer et al.
2003;
Holmes 1997)
TCM
(e.g. Holmes 1997)
費用ベース
修復費用
(e.g. Reeves et al.
1999)
表明選好
選択モデル
(e.g Adamowicz et al.
1994;
Boxall et al. 1996;)
CVM
(e.g Adger et al. 1995;
Dixon &
Sherman
1990; Hadker et al.
1997; Kumari 1995a;
Gunawardena et al.
1999;
Flatley
&Bennett 1996; Mill et
al. 2007; Bateman &
Langford
1997;
Willis et al. 1998;
Bateman et al. 1996;
Hanley 1989; Hanley
& Ruffell 1991;
Hanley & Ruffell 1992;
Whinteman
and
Sinclair
1994;
Guruluk 2006; Brown
1992;
Sutherland and Walsh
1985;
Moskowitz
and
間接的使用
オプション使用
未使用
表明選好
オプション価
値
(e.g. Walsh et
al. 1984)
顕示選好
原生領域保護
費用
(e.g Balmford
et al., 2003)
表明選好
選択モデ
ル
(e.g.
Hanley et.
al.,1998;)
CVM
(e.g.
Loomis
and
Richardso
n,
2000;
Kramer
et
al.,
1995;
Murthy &
Menkhua,
1994;
Dixon &
Pagiola
1998;
Maharana
et
al. ,
2000;
Hanley,
Willis,
et
al.,
NA
NA
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
128
湿地
直接的使用
Turker, 2006)
参加型評価
(e.g.
IUCN-WANI
2005)
顕示選好
消費者余剰
(e.g. Bergstrom et al.
1990)
TCM
(e.g. Farber, 1987;
Chopra
1998;
Hadker et al., 1995;
Manoharan,
1996;
Pak and
Turker,
2006; Willis et. al.
1991)
費用ベース
機会費用
(e.g.
Loomis
et
al. ,1989;)
保護費用
(e.g. Pendleton 1995)
交換及び変換費用
(e.g. R. Abila,1998;)
便益の伝達
便益の伝達
(e.g. Sorg and Loomis
1984; Walsh et al.
1988;
MacNair
1993; Loomis et al.
1999; Markowski et
al. 1997; Rosenberger
and
Loomis 2000;
Andréassen-Gren &
Groth, 1995; )
間接的使用
オプション使用
未使用
森林
直接的使用
Talberth 1998;
Gilbert et al. 1992;
Walsh et al.
1984;
Clayton
and
Mendelsohn
1993;
Walsh &Loomis 1989;
Champ et al. 1997;
Loomis & Richardson
2000)
参加型法
(e.g.
McDaniels
&
Roessler
1998)
顕示選好
TCM
(e.g.
Tobias
&
Mendelsohn
1991;
Loomis 1992; Adger et
al. 1995; Kramer et al.
1995;
Willis et al.
1998; Zandersen
1997, Chopra 1998;
Moskowitz & Talbert
1998; Hadker et al.
1995; Van Beukering
et
al.
2003;
Mano-haran 1996;
Manoharan & Dutt
1999;
Elasser 1999;
Loomis &
Ekstrand
1998; Van der Heide
et al. 2005; McDaniels
&
Roessler 1998;
Brown 1992; Loomis
& Richardson 2000;
Yuan & Christensen
1992;
Power 1992; Barnhill
1999; Verma, 2008)
生産高ベース
関数/要素所得
(e.g. Hodgson & Dixon
1988)
便益の伝達
生産
便益の伝達
(e.g. Walsh & Loomis
間接的使用
オプション使用
未使用
2002;
Garrod
and
Willins,
1997;
Gong,
Kontoleon
, and
Swanson
2003;;
Dixon
and
Sherman,
1990;
Adger et
al.,1995;
Walsh et
al. 1984;
Kramer
& Mercer
1997;
Gunaward
ena
et
al.
1999;
Lockwood
et
al.
1993;)
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
サービス
20
21
教育的
(例 公式及び非
公式の教育並び
に研修の機会)
精神的&芸術的
刺激
(例 刺激の源、
数多くの精神
的、畏敬的宗教
への依存、湿地
及び森林生態系
の側面の宗教的
価値)
129
文化遺産及び文
化的アイデンテ
ィティ
(例 場所及び所
属の意味)
湿地
直接的使用
間接的使用
NA
未使用
森林
直接的使用
1989)
顕示選好
TCM
(e.g. Power 1992)
間接的使用
NA
オプション使用
未使用
NA
顕示選好
TCM & CVM
(e.g. Maharana et al.,
2000)
表明選好
CVM
(e.g. Maharana et al.,
2000)
表明選好
選択モデル
(e.g. Tuan et al. 2007)
CVM
(e.g. Shultz et al.
1998;
オプション使用
表明選好
仮想ラン
キング
(e.g.
Garrod &
Willis
1997)
CVM / 選択
モデル
(e.g.
Aakerlun
d
2000 by
contingen
t
ranking;
Mill
et al. 2007
by
CVM;
Kniivila
et
al.
2002;
McDaniel
s&
Roessler
1998;
Maharana
et
al. 2000)
審議貨幣
評価
(e.g.
Hanley et
al. 2002);
NA
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
サービス
湿地
直接的使用
Tuan et al. 2007)
間接的使用
オプション使用
未使用
森林
直接的使用
間接的使用
オプション使用
未使用
便益の伝達
e.g. Costanza et
al. ,1997; Stuip et
al. 2002)
便益の伝達
e.g. Costanza
et
al.,
1997;
Stuip et
al. 2002)
便益の伝
達
e.g.
Costanza
et
al.
1997;
Stuip
et
al.
2002)
22
認知的発達に関
する情報
総経済価値
湿地/森林の経
済価値の組み合
わせ
(e.g. Kirkland 1988; Thibodeau, Ostro, 1981;Seidl & Morae, 2000; de Groot
1992;
Emerton, Kekulandala, 2003;. Costanza et al. 1997)
便益の伝達
便益の伝達
便益の伝達
便益の伝達
(e.g. Costanza et al. , (e.g; Stuip et al.
(e.g. Costanza et
(e.g.
1997;Stuip
et
al. 2002, Seidl and
al., 1997; Stuip et
Costanza
2002)
Moraes, 2000; de al. 2002)
et al. 1997;
Groot, 1992)
Stuip et al.
2002)
便益の伝達
(e.g. Costanza et al.
1997;Stuip et al. 2002,
Zandersen et
al. 2007, 2009)
130
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
5 章の付属文書の参考文献
Acharya, G., Barbier, E. 2000. Valuing ground water recharge through agricultural
production in the Hadejia-Nguru wetlands in Northern Nigeria. Agricultural
Economics 22: 247-259
Adamowicz, W., J. Louviere, M. Williams 1994, Combining Revealed and Stated
Preference
Methods
for
Valuing
Environmental
Amenities,
Journal
of
Environmental Economics and Management 26(3): 271–292.
Adamowicz, W., P. Boxall, M. Williams, and Louviere, J., 1998. Stated preference
approaches for measuring passive use values: choice experiments and contingent
valuation. American Journal of Agricultural Economics, 80: 64-75.
Adger, W. N., K. Brown, et al. 1995. Total economic value of forests in Mexico. Ambio
24(5): 286-96.
Alcorn, J. 1989. An economic analysis of Huastec Mayan Forest Management.
Fragile land of Latin America: Strategies for Sustainable Development. J. Brouwer.
Boulder, Westview Press: 182–206.
Ammour, T., Windevoxhel, N., Sencion, G. 2000. Economic valuation of mangrove
ecosystems and subtropical forests in Central America. Sustainable Forest
Management and Global Climate Change, Cheltenham: Edward Elgar: 166-197.
Anderson, D. 1987. The Economics of Afforestation: A Case Study in Africa. World
Bank Occasional Papers. New Series (World Bank).
Ando, A., J. Camm, et al. 1998. Species Distributions, Land Values, and Efficient
Conservation. Science 279(5359): 2126.
131
Balmford A., A. Bruner,P. Cooper, R. Costanza, S. Farber, R. E. Green, M. Jenkins, P.
Jefferiss, V. Jessamy, J. Madden, K. Munro, N. Myers, S. Naeem, J. Paavola, M.
Rayment, S. Rosendo, J. Roughgarden, K. Trumper, R. K. Turner 2002. Economic
reasons for conserving wild nature. Science 297: 950-953.
Bann, C. Economy and Environment Program for Southeast 1997. An Economic
Analysis of Tropical Forest Land Use Options, Ratanakiri Province, Cambodia,
Economy and Environment Program for Southeast Asia.
Barbier E. and Thompson J. 1998. The value of water: floodplain versus large-scale
irrigation benefits in Northern Nigeria Ambio 27: 434-440.
Barbier, E, Adams, W, Kimmage, K 1991. Economic valuation of wetland benefits:
The Hadejiia-Jama ‟ are floodplain, Nigeria. London Environmental Economics
Centre, Paper 91-02, London
Barbier, E.B. (1993). Valuing tropical wetland benefits: Economic methodologies and
applications.” Geographical Journal, 59, pp.22-32.
Barbier, E.B., Acreman, M.C., Knowler, D. 1997. Economic valuation of wetlands: a
guide for policy makers and planners. Ramsar Convention Bureau, Gland,
Switzerland.
Barnhill, T. 1999. Our Green Is Our Gold: The Economic Benefits of National Forests
for Southern Appalachian Communities. A Forest Link Report of the Southern
Appalachian Forrest Coalition. Southern Appalachian Forest Coalition. PLACE?
Bateman, I.J. and R.K. Turner 1993. Valuation of the Environment, Methods and
Techniques: The Contingent Valuation Method” in Turner, R.K. (ed.) Sustainable
Economics and Management: Principles and Practice. Belhaven Press: London, pp.
120-191.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Bergland, O. (1997), Valuation of Landscape Elements Using A Contingent Choice
Method, paper to 1997 EAERE conference, Tilburg, June."
Bergstrom J, Stoll, J, Titre, J and Wright, V. 1990. Economic value of wetlands-based
recreation. Ecological Economics, Vol 2, No 2, June, pp 129-148
Birol, E., Cox, V. 2007. Using Choice Experiments to Design Wetland Management
Programmes: The Case of Severn Estuary Wetland, UK”. Journal of Environmental
Planning and Management 50(3): 363-380.
Bolitzer, B., Netusil, N. R., 2000. The impact of open spaces on property values in
Portland, Oregon. Journal of Environmental Management
Boxall, P., W. Adamowicz, J. Swait, M. Williams, Louviere, J. 1996. A Comparison of
Stated Preference Methods for Environmental Valuation. Ecological Economics 18:
243–253.
Boxall, P.C., Adamowicz, W.L., 2002. Understanding heterogeneous preferences in
random utility models: A latent class approach. Environmental and Resource
Economics 23: 421-446.
Brander, L.M., Ghermandi, A., Kuik, O., Markandya, A., Nunes, P.A.L.D.,
Schaafsma, M., and Wagtendonk, A. 2008. Scaling up ecosystem services values:
methodology, applicability, and a case study. Report to the European Environment
Agency.
Brander, L.M., R.J.G.M. Florax and J.E. Vermaat. 2006. The empirics of wetland
valuation: a comprehensive summary and a meta-analysis of the literature.
Environmental and Resource Economics 33:223–50.
Breaux, A., Faber, S., Day, J. 1995. Using natural coastal wetlands systems for
wastewater treatment: An economic benefit analysis. Journal of Environmental
133
Management 44: 285-291.
Brown, G., Reed, P., Harris, C.C. 2002. Testing a Place-Based Theory for
Environmental Evaluation: an Alaska Case Study. Applied Geography 22.1:49-77.
Brown, T.C. 1992. Streamflow Needs and Protection in Wilderness Areas in The
Economic Value of Wilderness. Proceedings of the Conference, pp I 6 I -72. General
Technical Report SE-78, United States Department of Agriculture, Forest Service,
Southeastern Forest Experiment Station, Asheville, North Carolina.
Brown, T.C., Harding B.L., Payton E.A. 1990. Marginal Economic Value of
Streamflow: a case study for the Colorado River Basin. Water Resources Research 6:
2845-2859.
Bruner, A., J. Hanks, et al. 2003. “How Much Will Effective Protected Area Systems
Cost‟. Presentation to the Vth IUCN World Parks Congress.
Carlsson, F., Frykblom, P., Liljenstolpe, C. 2003. Valuing wetland attributes: an
application of choice experiments. Ecological Economics 47: 95-103.
Carret, J. C., Loyer, D. 2003. Madagascar Protected Area Network Sustainable
Financing: Economic Analysis Perspective. Paper contributed to the World Park‟s
Congress, Durban, South Africa, September.
Cavatassi, R. 2004. Valuation Methods for Environmental Benefits in Forestry and
Watershed Investment Projects. FAO Agricultural and Development Economics
Division. ESA Working Papers.
Chapman, P. 1974. Energy costs: a review of methods. Energy Policy 2 (2):91-103.
Chopra, K. 1993. The value of non-timber forest products: estimation for tropical
deciduous forests in India. Economic Botany 47(3): 251-257.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Chopra, K., Kadekodi, G. K., Murty, M.N. 1990. Participatory Development: People
and Common Property Resources. Sage Publications India, Pvt. Ltd: New Delhi.
Clayton, C., Mendelsohn, R. 1993. The Value of Watchable Wildlife: A Case Study of
McNiel River. Journal of Environmental Management 39: IOI-6.
Colombo, S., Calatrava-Requena, J., Hanley, N. 2006. Analysing the social benefits of
soil conservation measures using stated preference methods. Ecological Economics
58:850-861.
Conservation International. 2001. Ecosystem Profile: Atlantic Forest.
Costanza, R., R. d‟Arge, R. de Groot, S. Farber, M. Grasso, B. Hannon, K. Limburg,
S. Naeem, R.V. O‟Neill, J. Paruelo, R. G. Raskin, P. Sutoon and M. van den Belt 1997.
The Value of the World‟s Ecosystem Services and Natural Capital. Nature, 387,
pp.253-260.
Contamin, R. and A. Ellison. 2009. Indicators of regime shifts in ecological systems:
What do we need to know and when do we need to know it? Ecological Applications
19 (3): 799-816.
Costanza R., Farber S., Maxwell J. 1989. Valuation and management of wetland
ecosystems. Ecological Economics 1:335-361.
Costanza, R. 1980. Embodied energy and economic valuation. Science 210:
1219-1024.
Costanza, R. 2006. Nature: ecosystems without commodifying them. Nature 443:
749.
Croitoru, L. 2007. How much are Mediterranean forests worth? Forest Policy and
135
Economics 9(5): 536-545.
Croitoru, L. 2007. Valuing the non-timber forest products in the Mediterranean
region. Ecological Economics 63(4): 768-775.
Czech, Brian & Paul R. Krausman. 2001. The Endangered Species Act: history,
conservation biology, and public policy Baltimore, MD: JHU Press.
Daly, H. 1996. Beyond Growth: the Economics of Sustainable Development Boston,
MA: Beacon Press.
Daniels, P.L., Moore, S., 2002. Approaches for Quantifying the Metabolism of
Physical Economies. Journal of Industrial Ecology 5(4): 69-93.
Department of Forest Economics. Helsinki, Finland.
Dixon, J. A., Scura, L. F., Carpenter, R. A., Sherman, P. B. 1994. Economic Analysis
of Environmental Impacts. London: Earthscan.
Dixon, J. A., Sherman, P. B. 1990. Economics of Protected Areas: Approaches and
Applications. East-West Centre, Washington, DC 243.
Duffield, J W. 1992. Total Valuation of Wildlife and Fishery Resources: Applications
in the Northern Rockies in The Economic Value of Wilderness. Proceedings of the
Conference, pp 97-13. General Technical Report SE-78, United States Department of
Agriculture, Forest Service, Southeastern Forest Experiment Station, Asheville,
North Carolina.
Dwyer, J. F., McPherson, E. G., Schroeder, H. W., Rowntree, R. A. 1992. Assessing
the Benefits and Costs of the Urban Forest. Journal of Arboriculture I8(5): 227-34.
EEA, European Environment Agency, 2006. Land Accounts for Europe 1990-2000.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Towards integrated land and ecosystem accounting. EEA Report No 11/2006,
Copenhagen, Denmarck.
Ehrlich, Paul & Anne Ehrlich. 1981. Extinction : The Causes & Consequences of the
Disappearance of Species New York, NY: Random House.
Ekins, Paul, Sandrine Simon, Lisa Deutsch, Carl Folke & Rudolf De Groot. 2003b. A
framework for the practical application of the concepts of critical natural capital and
strong sustainability. Ecological Economics 44.165-85.
Emerton, L. 1996. Participatory Environmental Evaluation: Subsistence Forest Use
Around the Aberdares, Kenya”. African Wildlife Foundation, Nairobi, Kenya,
summarised in Bagri, A., Blockhus, J., Grey, F. and F. Vorhies (eds.). 1998. Economic
Values of Protected Areas: A Guide for Protected Area Managers. IUCN: Gland.
Emerton, L. 1998. Balancing the opportunity costs of wildlife conservation for the
communities around Lake Mburo National Park, Uganda. Evaluating Eden
Discussion Paper No.EE/DP 05. London: IIED.
Emerton, L. et al. 1999. Mount Kenya: The Economics of Community Conservation.
Institute for Development Policy and Management, University of Manchester.
Farber, S. and Costanza, R 1987. The value of coastal wetlands for protection of
property against hurricane wind damage. Journal of Environmental Economics and
Management, 14: 143-151
Farley, Joshua. 2008. The Role of Prices in Conserving Critical Natural Capital.
Conservation Biology 22.
Ferraro, P. J. 2002. The local costs of establishing protected areas in low-income
nations: Ranomafana National Park, Madagascar. Ecological Economics 43(2-3):
261-275.
137
Flatley, G. W. and J. W. Bennett 1996. Using Contingent Valuation to determine
Australian Tourists‟ Values for Forest Conservation in Vanuatu. Economic Analysis
and Policy 26(2): 111-27.
Gammage, S. 1997. Estimating the Returns to Mangrove Conversion: Sustainable
Management or Short Term Gain?. Environmental Economics Discussion Paper No
97-02. International Institute for Environment and Development: London.
Garrod, G. D. and K. G. Willis 1997. The non-use benefits of enhancing forest
biodiversity: A contingent ranking study. Ecological Economics 21(1): 45-
Garrod, G., and K. Willis 1992. The Environmental economic impact of woodland: A
two-stage hedonic price model of the amenity value of forestry in Britain. Applied
Economics 24: 715-728.
Garrod, G.D., Willis K.G. 1991. Estimating the Benefits of Environmental
Enhancement: A case study of the River Darent. Journal of Environmental Planning
and Management 39: 189-203.
Gilbert, A, Glass, R and T More 1992. “Valuation of Eastern Wilderness: Extra
Market Measures of Public Support. The Economic Value of Wilderness”.
Proceedings of the Conference, pp 57-70. General Technical Report SE-78, United
States Department of Agriculture, Forest Service, southeastern Forest Experiment
Station, Asheville, North Carolina.
Godoy, R. and T. Feaw 1989. The Profitability of Smallholder Rattan Cultivation in
Central Borneo. Human Ecology 16(4):397-420.
Gren I.M. 1993. Alternative nitrogen reduction policies in the Malar Region,
Sweeden. Ecological Economics 7: 159-172.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Gren, I-M., Folke, C., Turner, R.K. & Bateman, I. 1994. Primary and secondary
values of wetland ecosystems. Environment and Resource Economics., 4: 55-74.
Grieg-Gran, M. (2006). The Cost of Avoiding Deforestation. Report prepared for the
Stern Review of the Economics of Climate Change.
Gunatilake, H. M., D. Senaratne, et al. 1993. Role of Non-Timber Forest Products in
the Economy of Peripheral Communities of Knuckles National Wilderness Area of
Sri Lanka: A Farming Systems Approach. Economic Botany 47(3): 275-281.
Gunawardena, M., Rowan, J.S. 2005. Economic valuation of a mangrove ecosystem
threatened by shrimp aquaculture in Sri Lanka. Environmental management
36(4):535-550.
Gunawardena, U., G. Edwards-Jones, et al. 1999. A contingent valuation approach
for a tropical rainforest: a case study of Sinharaja rainforest reserve in Sri Lanka.
The Living Forest: the Non-Market Benefits of Forestry, London: The Stationery
Office: 275-284.
Hadker, N., S. Sharma, et al. 1997. Willingness-to-pay for Borivli National Park:
evidence from a Contingent Valuation. Ecological Economics 21(2): 105-122.
Hagen, D, Vincent, J and P Welle 1992. Benfits of Preserving Old-growth Forests
and the Spotted Owl. Contemporary Policy Issues I0: 13-25.
Hanley, N and Craig, S. 1991. Wilderness development decisions and the
Krutilla-Fisher model: the case of Scotland‟s flow country. Ecological Economics, 4
(2), pp 145-162
Hanley, N., K. Willis, et al. 2002. Valuing the Benefits of Biodiversity in Forests.
Report to the Forestry Commission.
139
Hanley, N., R. E. Wright, et al. 1998. Using Choice Experiments to Value the
Environment. Environmental and Resource Economics 11(3): 413-428.
Hodgson, G. and J. A. Dixon 1988. Logging versus fisheries and tourism in Palawan.
Occasional Paper 7.
Holmes, T., K. Alger, et al. 1998. The effect of response time on conjoint analysis
estimates of rainforest protection values. Journal of Forest Economics 4(1): 7-28
Horne, P., H. Karppinen, E. Ylinen 2004. Citizens' Opinions on Protecting Forest
Biodiversity (Kansalaisten mielipiteet metsien monimuotoisuuden turvaamisesta.
Metsänomistajien ja kansalaisten näkemykset metsäluonnon monimuotoisuuden
turvaamisesta. T. K. Paula Horne, and Ville Ovaskainen, Metsäntutkimuslaitos,
Vantaa.
Howard, J L. 1997. An Estimation of Opportunity Cost for Sustainable Ecosystems.
In Proceedings of the XI World Forestry Congress. Ministry of Forestry, Turkey,
Antalya, Turkey.
Howard, P. C. 1995. The Economics of Protected Areas in Uganda: Costs, Benefits
and Policy Issues. University of Edinburgh. PhD Thesis
Janssen, R., J. E. Padilla, et al. 1996. Valuation and Evaluation of Management
Alternatives
for
the
Pagbilao
Mangrove
Forest.
Environmental
Economics
Programme, IIED.
Johnston R. 2002 Valuing estuarine resource services using economic and ecological
models: The Peconic estuary system Coastal Management 30: 47-66.
Jonish, J. 1992. Sustainable Development and Employment: Forestry in Malaysia.
Working Paper No. 234, International Labour Office: Geneva."
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Kanazawa, M. 1993. Pricing subsidies and economic efficiency: The U.S. Bureau of
Reclamation. Journal of Law and Economics 36: 205-234.
King,
D.
M.,
Mazotta,
M.
2001.
Ecosystem
valuation
Web
site.
http://www.ecosystemvaluation.org. Authors affiliated with University of Maryland
and University of Rhode Island. Site sponsored by the USDA NRCS and NOAA.
Kniivilä, M., V. Ovaskainen, et al. 2002. Costs and benefits of forest conservation:
regional and local comparisons in Eastern Finland. Journal of Forest Economics
8(2): 131-150.
Kramer, R. A., N. P. Sharma, et al. 1995. Valuing Tropical Forests: Methodology and
Case Study of Madagascar. World Bank Publications.
Kramer, R. A., T. P. Holmes, et al. 2003. Contingent Valuation of Forest Ecosystem
Protection. Forests in a market economy, ed. EO Sills and KL Abt. Dordrect, The
Netherlands, Kluwer Academic Publishers: 303-320.
Kramer, R., Munasinghe, M., Sharma, N., Mercer, E., Shyamsundar, P. 1992.
Valuing a Protected Tropical Forest: A Case Study in Madagascar paper presented at
the IVth World Congress on National Parks and Protected Areas, 10-21 February,
Caracas, Venezuela.
Krutilla, J.V., Fisher, A.C., 1975. The Economics of Natural Environment: Studies in
the valuation of of Commodity and Amenity Resources, John Hopkins University
Press, Baltimore.
Kumar, P. 2004. Valuation of medicinal plants for pharmaceutical uses. Current
Science vol 86 issue 7 pp 930-937
Kumar, P. and Chopra, K. 2004. Forest biodiversity and timber extraction: an
analysis of the interaction of market and non market mechanism. Ecological
141
Economics vol 49 issue 2 pp 135-148
Kumari,
K.
1995.
Mainstreaming
Biodiversity
Conservation:
A Peninsular
Malaysian Case. Centre for Social and Economic Research on the Global
Environment.
Layton, JH, Naeem, S, Thompson, LJ, Hector, A, Crawley, M.J. 1998. Biodiversity
and ecosystem function: getting the Ecotron experiment in its correct context.
Functional Ecology 12, 848-852
Li, C., J. Kuuluvainen, J., Pouta, E, Rekola, M., Tahvonen, O. 2004. Using Choice
Experiments to Value the Natura 2000 Nature Conservation Programs in Finland.
Environmental and Resource Economics 29(3): 361-374.
Lindberg, K., and B. Aylward. 1999. Price responsiveness in the developing country
nature tourism context: Review and Costa Rica case study. Journal of Leisure
Research, 31, pp.282-299.
Lindhjem, H., Navrud, S. 2008. How reliable are meta-analyses for international
benefit transfer? Ecological Economics 66: 425-435.
Livengood, K. R. 1983. Value of Big Game from Markets for Hunting Leases: The
Hedonic Approach. Land Economics 59(3): 287-291.
Loomis, J and Ekstrand. E. 1997. “Economic Benefits of Critical Habitat for the
Mexican Spotted Owl: A Scope Test Using a Multiple-bounded Contingent Valuation
Survey”. Journal of Agricultural and Resource Economics 22(2): 356-66
Loomis, J. 2000. Vertically Summing Public Good Demand Curves: An Empirical
Comparison of Economic versus Political Jurisdictions. Land Economics, 76 (2):
312-321.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Loomis, J. B., R. Richardson 2000. Economic Values of Protected Roadless Areas in
the United States. Prepared for the Wilderness Society and Heritage Forests
Campaign, Washington, DC. 34 pp.
Loomis, J. Gonzalez-Caban, A, Gregory, R. 1994. Do Reminders of Substitutes and
Budger Constraints Influence Contingent Valuation Estimates? Land Economics
70(4): 499-506.
Loomis, J., A. González-Cabán, et al. 2003. "Linking GIS and Recreation Demand
Models to Estimate the Economic Value of Using Fire to Improve Deer Habitat."
USDA Forest Service Proceedings RMRS-P-29.
Loomis, J., E. Ekstrand 1998. Alternative approaches for incorporating respondent
uncertainty when estimating willingness to pay: the case of the Mexican spotted owl.
Ecological Economics 27(1): 29-41.
Loomis, J., Updike, D. and W. Unkel 1989. Consumptive and Nonconsumptive
Values of a Game Animal: The Case of California Deer. In: Transactions of the 54th
National Association of Wildlife and Natural Resources Conference, pp. 640-50.
Lynam, T.J.P, Campbell, B.M., Vermeulen, S.J. 1994. Contingent Valuation of
Multipurpose Tree Resources in the Smallholder Farming Sector, Zimbabwe. In
Studies in Environmental Economics and Development, 1994:8 (November),
Gothenburg University: Gothenburg.
Lynne, G.D., Conroy, P., Prochaska, F.J. 1981. Economic value of marsh areas for
marine production processes. Journal of Environmental Economics and Management
8: 175-186.
MacArthur, Robert H. & Edward O. Wilson. 2001. Island Biogeography Princeton,
New Jersey: Princeton University Press.
143
MacCauley, D.J. 2006. Selling out on nature. Nature 443: 27-28.
Madhusudan, M. D. 2003. Living Amidst Large Wildlife: Livestock and Crop
Depredation by Large Mammals in the Interior Villages of Bhadra Tiger Reserve,
South India. Environmental Management 31(4): 466-475.
Martín-López, B. 2007. Bases socio-ecológicas para la valoración económica de los
servicios generados por la biodiversidad: implicaciones en las políticas de
conservación. PhD-dissertation, Universidad Autónoma de Madrid.
McDaniels, T. L., Roessler, C. 1998. Multiattribute elicitation of wilderness
preservation benefits: a constructive approach. Ecological Economics 27(3): 299-312.
McPherson, E G. 1992. Accounting for Benefits and Costs of Urban Green Space.
Landscape and Urban Planning 22: 41-51.
Mendelsohn, R., Ballick, M. J. 1995. The value of undiscovered pharmaceutical in
tropical forests. Econ. Bot. 49.
Moskowitz, K., Talberth, J. 1998. The Economic Case Against Logging Our National
Forests. Forest Guardians, Santa Fe, New Mexico.
Myers, N. 1996. Environmental Services of Biodiversity. Proceedings of the National
Academy of Sciences. USA 93: 2764-69.
Naredo, J.M. 2001. Quantifying natural capital: beyond monetary value. In: The
sustainability of long term growth: socioeconomic and ecological perspectives, M.
Munasinghe and O. Sunkel (eds.). E. Elgars. Cheltenham, Northampton MA, UK.
Nepstad, D. C., C. M. Stickler, B. Soares & F. Merry. 2008. Interactions among
Amazon land use, forests and climate: prospects for a near-term forest tipping point.
Philosophical Transactions of the Royal Society B-Biological Sciences 363.1737-46.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Neumayer, Eric. 2003. Weak Versus Strong Sustainability: exploring the limits of
two opposing paradigms Cheltenham: Edward Elgar.
Nickerson, D. J. 1999. Trade-offs of mangrove area development in the Philippines”
in Ecological Economics, 28(2):279-298.
Nowak, D. J., Crane, D. E. et al. 2006. Air pollution removal by urban trees and
shrubs in the United States. Urban Forestry & Urban Greening 4(3-4): 115-123.
Odum, H.T. 1996. Environmental Accounting: Emergy and decision-making. John
Wiley. New York, USA.
Pak, M.and M.F. Turker, 2006. Estimation of recreational use value of forest
resources by using individual travel cost and contingent valuation methods
(Kayabasi Forest Recreation Site Sample). Journal of Applied Science, 6: 1-5.
Paris, R., I. Ruzicka 1991. Barking Up the Wrong Tree: The Role of Rent
Appropriation in Sustainable Tropical Forest Management. Occasional Paper.
Pattanayak, S. K. and R. A. Kramer, 2001. Worth of watersheds: a producer surplus
approach for valuing drought mitigation in Eastern Indonesia. Environment and
Development Economics 6(01): 123-146.
Patterson, M. 1998. Commensuration and theories of value in ecological economics.
Ecological Economics 25(1):105-125.
Pearce, D.W. 1991. Forestry Expansion - a study of technical, economic and
ecological factors; Assessing the Returns to the Economy and Society for
Investments in Forestry. Occasional Paper No. 47. Forestry Commission: Edinburgh.
Pearce, D.W. 1994. The Economic Value of Biodiversity, Earthscan Pubns Ltd.
145
Pearce, D.W., Markandya, A., Barbier, E., 2006. Blueprint for a green economy.
Earthscan Publications Ltd. London.
Peters, C. M., Gentry, A. H. et al. 1989. Valuation of an Amazonian rainforest.
Nature 339(6227): 655-656.
Philip, L.J., MacMillan, D.C., 2005. Exploring Values, Context and Perceptions in
Contingent Valuation Studies: The CV Market Stall Technique and Willingness to
Pasy for Wildlife Conservation. Journal of Environment Plannning and Management
48(2):257-274.
Pinedo-Vasquez, M. a. J., DZ 1992. Economic returns from forest conversion in the
Peruvian Amazon. Ecological Economics 6(2): 163-173
Polasky,
S.,
J.
D.
Camm,
et
al.
(2001).
"Selecting
Biological
Reserves
Cost-Effectively: An Application to Terrestrial Vertebrate Conservation in Oregon."
Land Economics 77(1): 68-78.
Power, T M. 1992. The Economics of Wildland Protection: the View from the Local
Economy in the economic value of wilderness. Proceedings of the Conference, pp
175-79. General Technical Report SE-78, United States Department of Agriculture,
Forest Service, Southeastern Forest Experiment Station, Asheville, North Carolina.
Powicki, C.R., 1998. The value of ecological resources. EPRI Journal 23, July-August.
Palo Alto, California.
Ragkos, A., Psychoudakis, A., Christofi, A. and Theodoridis, A., 2006. Using a
functional approach to wetland valuation: the case of Zazari-Cheimaditida. Regional
Environmental Change, 6: 193-200.
Ramdial B. 1975 The social and economic importance of the Caroni swamp in
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Trinidad and Tobago. PhD Thesis, University of Michigan.
Reid, W V. 1999. Capturing the Value of Ecosystem Services to Protect Biodiversity.
World Resources Institute, Washington, DC.
Ricketts, T. H., G. C. Daily, et al. (2004). Economic value of tropical forest to coffee
production. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of
America 101(34): 12579-12582.
Rose, N.L. 1990. Profitability and product quality, Economic determinants of airline
safety performance, Journal of Political Economy, 98(5): 944–64.
Rosenberger, R.S., and T.D. Stanley. 2006. Measurement, generalization, and
publication: Sources of error in benefit transfers and their management. Ecological
Economics 60 (2): 372–8.
Rosenberger, R.S., and T.D. Stanley. 2006. Measurement, generalization, and
publication: Sources of error in benefit transfers and their management. Ecological
Economics 60 (2): 372–8.
Rosenberger, R.S., Phipps, T.T. 2007. Correspondence and convergence in benefit
transfer accuracy: A meta-analytic review of the literature. In: Environmental
Values Transfer: Issues and Methods, S. Navrud, and R. Ready, eds., Springer,
Dordrecht.
Rosenberger, Randall S.; Loomis, John B. 2000. Using meta-analysis for benefit
transfer: In-sample convergent validity tests of an outdoor recreation database.
Water Resources Research. 36(4): 1097-1107.
Rubin, J, Helfand, G., Loomis, J. 1991. A Benefit-cost Analysis of the Northern
Spotted Owl. Journal of Forestry 89 (12): 25-30.
147
Ruitenbeek, H.J. 1989a. Social Cost-Benefit Analysis of the Korup Project,
Cameroon. Prepared for the World Wide Fund for Nature and the Republic of
Cameroon.
Ruitenbeek, H.J. 1989b. Economic Analysis of Issues and Projects Relating to the
Establishment of the Proposed Cross River National Park (Oban Division) and
Support Zone. Prepared by the World Wide Fund for Nature for Cross River National
Parks Project, Nigeria.
Ruitenbeek, H.J. 1992. Mangrove Management: An Economic Analysis of
Management Options with a focus on Bintuni Bay, Irian Jaya. EMDI Environmental
Report No. 8: Jakarta and Halifax.
Saastamoinen, O. 1992. Economic Evaluation of Biodiversity Values of Dipterocarp
Forests in the Philippines. Second Meeting of the International Society of Ecological
Economics (ISEE) 3(6).
Salati, E. 1987. The forest and the hydrological cycle. The Geophysiology of
Amazonia: Vegetation Dasand Climate Interactions, ed. by R. Dickinson, 273–96.
New York: John Wiley and Sons.
Salati, Eneas & Peter B. Vose. 1984. Amazon Basin: A System in Equilibrium.
Science 225.129-38.
Schandl, H., Grünbühel, C.M., Haberl, H., Weisz, H., 2002. Handbook of Physical
Accounting. Measuring bio-physical dimensions of socvio-economic activities: MFA –
EFA – HANPP. Social Ecology Working Paper 73, Viena, July 2002.
Schuijt, K. 2002. Land and water use of wetlands in Africa: Economic values of
African wetlands. International Institute for Applied Systems Analysis. IR-02-063
Sedjo, R. and M. Bowes. 1991. Managing the Forest for Timber and Ecological
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Outputs on the Olympic Peninsula. Resources for the Future: Washington, D.C.
Sedjo, R.A. 1988. The Economics of Natural and Plantation Forests in Indonesia.
FAO: Rome.
Seidl A. and Moraes A. 2000. Global valuation of ecosystem services: application to
the Pantanal da Nhecolandia, Brazil. Ecological Economics 33:1–6.
Seidl, A., Myrick, E. The Economic Valuation of Community Forestry: Analytical
Approaches and a Review of the Literature. Cooperative Extension, Colorado State
University.
Shaikh, S. L., L. Sun, et al. 2007. Treating respondent uncertainty in contingent
valuation: A comparison of empirical treatments. Ecological Economics 62(1):
115-125.
Shultz, S., J. Pinazzo, et al. 1998. Opportunities and limitations of contingent
valuation surveys to determine national park entrance fees: evidence from Costa
Rica. Environment and Development Economics 3(01): 131-149.
Siikamäki, J., Layton, D. F. 2007. Discrete choice survey experiments: A comparison
using flexible methods. Journal of Environmental Economics and Management
53(1): 122-139.
Smith, V.K., G. Van Houtven & S.K. Pattanayak. 2002. A benefit transfer via
preference calibration: „prudential algebra‟ for policy. Land Econ. 78: 132-152.
Sorg, C. F., Loomis, J. 1984. Empirical Estimates of Amenity Forest Values: A
Comparative Review. United States Department of Agriculture, Forest Service,
Rocky Mountain Forest and Range Experiment Station, Fort Collins, Colorado.
Spash, C.L and Hanley, N. 1995. Preferences, information and biodiversity
149
preservation. Ecological Economics 12: 191-208
Spash, C.L. 2002. Informing and forming preferences in environmental valuation.
Coral reef biodiversity. Journal of Economic Psychology. 23 665-687.
Spash, C.L. 2008. How Much is that Ecosystem in the Window? The One with the
Bio-diverse Trail. Environmental Values 17 (2008): 259–284
Strange, N., C. Rahbek, et al. 2006. Using farmland prices to evaluate cost-efficiency
of national versus regional reserve selection in Denmark. Biological Conservation
128(4): 455-466.
Sutherland, R. J., Walsh, R G. 1985. Effect of Distance on the Preservation Value of
Water Quality. Land Economics 61(3): 281-91
Tabarelli, Marcelo, Luiz Paulo Pinto, Jose M. C. Silva, Marcia Hirota & Lucio Bede.
2005. Challenges and Opportunities for Biodiversity Conservation in the Brazilian
Atlantic Forest. Conservation Biology 19.695-700.
TEEB D1. 2009. The Economics of Ecosystems and Biodiversity for National and
International Policy Makers.
TEEB D2. Forthcoming. The Economics of Ecosystems and Biodiversity for Local
Policy Makers and Administrators.
Thibodeau, F., Ostro, B. 1981. An economic analysis of wetland protection. Journal of
Environmental Management Vol 12, No 1, January
Tobias, D., Mendelsohn, R. 1991. Valuing ecotourism in a tropical rain-forest reserve.
Valorando el ecoturismo en una reserva de bosque lluvioso tropical. Ambio 20(2):
91-93.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Tuan, T.H., Navrud, S. 2007. Valuing cultural heritage in developing countries:
comparing and pooling contingent valuation and choice modelling estimates,
Environmental and Resource Economics 38: 51–70.
Uhl, C., Veríssimo, A., Barreto, P., Tarifa, R. 1992. A evolução da fronteira
amazônica: oportunidades para um desenvolvimento sustentável. (Title in English:
The evolution of the Amazonian frontier: opportunities for sustainable development.)
in Pará Desenvolvimento, IDESP, June (special edition):13-31.
Veríssimo, A., Barreto, P., Mattos, M., Tarifa, R., Uhl, C. 1992. Logging impacts and
prospects for sustainable forest management in an old Amazonian frontier: The case
of Paragominas. Forest Ecology and Management 55:169-199.
Verma, M. 2000. Economic Valuation of Forests of Himachal Pradesh. Himachal
Pradesh Forestry Sector Review, International Institute of Environment and
Development (IIED), London, U.K. Annex-7
Verma, M. 2003. Economic Valuation of Bhoj Wetland. Reconciling Environment and
Economics: Executive Summaries of EERC. Edited by Jyoti Parikh and Raghu Ram.
Published by EERC, IGIDR, Mumbai:31-35.
Verma, M. 2008. Framework for Forest Resource Accounting: Factoring in the
Intangibles. International Forestry Review- Special Issue: The Indian Forest
Sector-Current Trends and Future Challenges 10(2): 362-375.
Vermeulen, S., Koziell, I. 2002. Integrating global and local values: A review of
biodiversity assessment. International Institute for Environment and Development,
Biodiversity and Livelihoods Group (IIED), London.
Voinov, Alexey & Joshua Farley. 2007. Reconciling sustainability, systems theory and
discounting. Ecological Economics 63.104-13.
151
Wackernagel, M., Onisto, L., Bello, P., Callejas Linares, A., López Falfán, I.S.,
Méndez García, J., Suárez Guerrero, A.I., Suárez Guerrero, M.G., 1999. Natural
capital accounting with the Ecological Footprint concept. Ecological Economics 29(3),
375-390.
Walker, B. H., C. S. Holling, S. R. Carpenter, and A. P. Kinzig. 2004. Resilience,
adaptability, and transformability. Ecology and Society 9(2): 5. [online] URL:
http://www.ecologyandsociety.org/vol9/iss2/art5/.
Walker, B. H., L. Gunderson, A. P. Kinzig, C. Folke, S. R. Carpenter, and L. Schultz.
2006. A handful of heuristics and some propositions for understanding resilience in
social–ecological
systems.
Ecology
and
Society
11(1):
13.
[online]
URL:
http://www.ecologyandsociety.org/vol11/iss1/art13/.
Walker, B., Pearson, L., Harris, M., Mäler, K-G., Li, C-Z, Biggs, R., Baynes, T. 2009b.
Resilience in Inclusive Wealth: concepts and examples from the Goulburn Broken
Catchment. Environmental and Resource Economics. Working paper.
Walsh, R. G., Loomis, J. 1989. “The Non-traditional Public Valuation (Option,
Bequest, Existence) of Wilderness”. In: H R Freilich (comp), Wilderness Benchmark
1988: Proceedings of the National Wilderness Colloquium, pp 181-92. General
Technical Report SE-51, United States Department of Agriclture, Forest Service,
Southeastern Forest Experiment Station, Asheville, North Carolina.
Walsh, R. G., Loomis, J. B. et al. 1984. Valuing Option, Existence, and Bequest
Demands for Wilderness. Land Economics 60(1): 14-29.
Wendland, Kelly J., Miroslav Honz•k, Rosimeiry Portela, Benjamin Vitale, Samuel
Rubinoff & Jeannicq Randrianarisoa. Targeting and implementing payments for
ecosystem services: Opportunities for bundling biodiversity conservation with
carbon and water services in Madagascar. Ecological Economics In Press, Corrected
Proof.
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
White A., Ross, M., Flores, M. 2000. Benefits and costs of coral reef and wetland
management, Olango Island, Philippines. Cordio pp 215-227.
Whitten, S.M., Bennett, J.W., 2002. A travel cost study of duck hunting in the upper
south east of South Australia. Australian Geographer 33: 207-221.
Willis, K. G., Garrod G. D.1998. Biodiversity values for alternative management
regimes in remote UK coniferous forests: an iterative bidding polychotomous choice
approach. The Environmentalist 18(3): 157-166.
Willis, K., Garrod, G (1991) Landscape values: a contingent valuation approach and
case study of the Yorkshire Dales National Park. Countryside change working paper
21, University of Newcastle upon Tyne.
Wilson, M.A., Carpenter, S.R. 1999. Economic valuation of freshwater ecosystems
services in the United States 1971-1997. Ecological Applications 9(3): 772-83.
Wilson, M.A., Howarth, R.B. 2002. Valuation techniques for achieving social fairness
in the distribution of ecosystem services. Ecological Economics 41: 431-43.
www.au.af.mil/au/awc/awcgate/navy/nrl_uncertainty_taxonomy.pdf
Yaron, G. 2001. Forest, plantation crops or small-scale agriculture. An Economic
Analysis of Alternative Land Use Options in the Mount Cameroon Area. Journal of
Environmental Planning and Management 44(1): 85-108.
Yuan, M. S., Chjristensen, N. A. (1992). Wilderness-influenced Economic Impacts on
Portal Communities: The case of Missoula, Montana in The Economic Value of
Wilderness. Proceedings of the Conference, pp 191-99. General Technical report
SE-78, United States Department of Agriculture, Forest Service, Southeastern
Forest Experiment Station, Asheville, North Carolina.
153
付属文書C:
生態系サービスの金銭的価値の推計
代表主筆(CLAs):
Rudolf de Groot, Pushpam Kumar, Sander van der Ploeg及びPavan Sukhdev
11生物相の主筆:
Salman Hussain(外洋)、Pieter van Beukering(サンゴ礁)、Rosimeiry Portela &
Andrea Ghermandi(海岸システム)、Luke Brander(沿岸及び島嶼の湿地帯)、
Neville Crossman(河川と湖沼)、Mike Christie(熱帯樹林)、Florence Bernard
(温帯及び亜寒帯の樹林)、Luis C. Rodriguez(林地)、Lars Hein(草地)、及
びDavid Pitt(極地及び高山地帯)
協力著者:
Claire Armstrong, James Benhin, Thomas Binet, James Blignaut, Mahe Charles,
Emmanuelle Cohen-Shacham, Jonathan Davies, Lucy Emerton, Pierre Failler, Naomi
Foley, Erik Gomez-Baggethun, Sybille van den Hove, Miles Mander, Anai Mangos,
Simone Maynard, Elisa Oteros-Rozas, Sandra Raimis, Nalini Rao, Didier Sauzade,
Silvia Silvestri, Rob Tinch, Yafei Wang
2010年6月
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
序文
この付属文書は、第 1 章で特定された主要な生物相 1 によって提供される生態系サービ
スの金銭的価値を示す。先のTEEB D0 の諸章(特に第 1 章及び第 5 章)で説明された
ように、経済的価値には、生態系サービスに関連してだけではなく、人工の財貨とサー
ビスに関しても、多数の欠点と限界がある。それらは、その定義そのものによって、道
具的、人間中心的で、個人ベースであり、主観的で、文脈次第であり、限界的で、政府
に依存する(Goulder and Kennedy, 1997; Baumgartner et al., 2006; Barbier et al.,
2009; EPA., 2009)。しかし、経済理論と実際におけるこのような根本的な問題にもかか
わらず、生態系サービスの金銭的重要性に関する情報は、土地利用の選択と資源利用に
際してのトレード・オフについて適切かつバランスのとれた決定を下すための、強力で
不可欠のツールである。
この付属文書では、11 の主要生物相/複合生態系(すなわち、外洋、サンゴ礁、海岸シ
ステム、沿岸の湿地帯(マングローブ林及び潮汐沼沢地)、島嶼の湿地帯、河川と湖沼、
熱帯樹林、温帯及び亜寒帯の樹林、林地、草地、そして極地及び高山システム)の分析
結果が示され、その金銭的価値が全世界のさまざまな社会経済的文脈において検討され
る。データ収集においては、それぞれの生物相について第 1 章で特定された 22 の生態
系サービスのすべてが考慮された。協力著者及び主筆の助けを得て数千点の公刊物が審
査され 2 、その中からおよそ 160 点が選別されて、さらに詳細な分析と、この研究のた
めに特別に設計された「TEEBデータース」へのデータ入力に使用された。これまでに、
1200 点以上のオリジナル数値(データポイント)が蓄積され、いくつかの規準に基づい
て 600 点をわずかに超える数値がこの付属文書における分析に使用された(データベー
スの詳細、選別手続、そしてオリジナル数値は、2010 年 6 月以降、TEEBのウェブサイ
ト(www.teebweb.org)で入手できるようになる。
1
この付属文書の全体を通じて我々は、
「生物相」という用語を、それぞれの提供するサービスの金銭
的価値が分析された 11 個の複合生態系の主要タイプを指す簡略語として使う。それぞれの生物相はい
くつかの生態系に分割することが可能で、それぞれの生態系にはそれぞれに固有の生態系サービスが
あるが、本章の目的のためには、金銭的価値に関するデータは生物相レベルで提示されている(詳細
については、www.teebweb.org/Database を参照)。
2
個々の公刊物に加えて、以下の生態系サービス・データベースが使用された。COPI (Ten Brink et
al., 2009); EVRI,1997; ENValue, 2004; Eco Value (Wilson et al., 2004); Consvalmap (Conservation
International, 2006); CaseBase (FSD, 2007); ValueBaseSwe (Sundberg and Söderqvist, 2004);
ESD-ARIES (UVM, 2008); FEEM (Ojea et al., 2009)。www.es-partnership.org から、これらデータ
ベースのほとんどにアクセスすることができる。
2
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
TEEB データベースの重要な目的の 1 つは、その数値をさまざまに異なったスケールレベルのシナリオ分析に使用可能とすることにある。このような研究を可能とするため
に、データベースは、1 ヘクタール当たり年間米ドル値という単一の価値単位で、しか
も文脈的に明示的に、データを表示する。それぞれの数値について、データベースには、
とりわけ、社会経済的変数や生物相のタイプ、生態系のタイプ、生態系のサービスとサ
ブサービス、価値評価の方法、典拠の詳細、ケーススタディの位置の詳細などに関する
情報が含まれている。従って、データベースのウェブ版によって、原則として、所得水
準の影響や人口密度、ユーザーのサービスとの近接度など、数値の主要な決定要因との
関連でデータを分析することが可能となる。
図 A5.1 から A5.3 は、この付属文書のために、生態系(生物相)、地域、及びサービス
別に選別された金銭的価値の分布の概要を示している。
林地
温帯樹林
熱帯樹林
淡水
内陸湿地帯
沿岸湿地帯
沿岸
サンゴ礁
この付属文書で使用される生物相あたりの金銭的価値数
海洋
図 A5.1
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
図 A5.2
この付属文書で使用される金銭的価値の地理的分布
世界
アフリカ
オセアニア
北アメ
リカ
ラ テ ン
ア メ リ
カ・カリ
ブ海
アジア
ヨーロッパ
4
22-認識
21-霊性
20-インスピレーション
19-保養
18-美
17-遺伝子プール
16-養育
15-生物制御
14-受粉
13-土壌の肥沃土
12-腐食
11-廃棄物
10-水流
9-異常事態
8-気候
7-大気質
6-装飾品
5-医学
4-遺伝学
3-原料
2-水
この付属文書で使用される 22 個の生態系サービスの金銭的価値数
1-食品
図 A5.3
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
この付属文書の目的のために、価値はすべて、
『世界銀行開発指標 2007 年』
(世界銀行、
2007 年)にある GDP デフレーターと購買力パリティ・コンバーターを使って、2007
年国際ドル価値(Int.$)に換算された。
生物相ごとにそれぞれの生態系サービスに見出された金銭的価値の幅の予備的概観を提
供するために、この付属文書では最大値と最小値だけが与えられている。すべての価値
は個々のケーススタディを基礎としているがゆえに、時として価値の範囲は極めて大き
くなる。たとえば、サンゴ礁の経済的に最も重要な主たるサービスは観光である。30 種
類の研究を基にすれば、このサービスは年間 1 ヘクタール当たりゼロを少し上回る数字
から 100 万米ドル以上の価値範囲を示す(平均は、ほぼ 6 万 8,500 Int.$/ha/yとなる)3 。
この例は、各地区間の便益移転に平均価値を使用することは、極めて慎重になされなけ
ればならないことを示す。つまり、
(いまだ)誰もそこに行こうとしないために、あるい
は 30 件のケーススタディで取り上げられたサンゴ礁に比べて魅力がないために、現在
は観光上無価値のサンゴ礁が多数存在するだろうからである。
認識されるべきさらなる問題は、価値は持続可能な使用のレベル(我々はこれを検証し
ようとしたが、疑問が残った場合は低いほうの値をとる)を基礎とすべきこと、そして
数値の大きさは社会経済的な文脈に応じて変化することである(この付属文書に示され
たデータの使用方法、あるいは使用してはならない理由については、Box A5.1 を参照)。
Box A5.1
データの使用及び TEEB 報告書 D1‐D4 とのリンクに関するガイド
価値推計値のデータベースを構築する理由は、政策的評価のためのインプットを提供すること
である。特に、データベースは、可能な限りにおいて、ある生物相についてヘクタールあたり
の合計価値の範囲を提供するだけでなく、同時に、データが得られる限りで生態系サービス
[ESSs]ごとの個別の価値をも示すように、構築された。この構成は、生態系アプローチの
応用を促進することを目的としている。このような個別化のもう 1 つの利点は、EESs のどの
部分が特定の政策的領域に特有であるかを政策立案者が判断することを可能にすることであ
る。このデータベースを使用する政策立案者の目的は、特定の生息環境の保全の便益について
金銭的価値を知ることにある、と我々は仮定する。しかし、保全を選択するか、他の採取方式
を選択するかの決定は、多数の要因にかかっており、そのいくつかは個々の ESSs の性格と結
3
最大値と最小値はしばしば異常値であることに注意。便益移転の目的のために本付属文書にある情
報を使用する場合は(すべての価値は高度に文脈依存であるため、これは推奨されない)、単純にこれ
ら最大値と最小値の平均をとるだけでなく、TEEB ウェブサイト上のデータベースマトリックスに示
されたオリジナル価値を検討すべきである。
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
びついている。従って、このデータベースの利用者は、アウトプットされた価値を選別するこ
とができる。
適切なデータポイントを選別する
考慮されるべき選別基準のいくつかを以下に示す。問題とすべき生物相が決まれば、利用可能
なデータポイント/価値推計値の総数が提示される。これは重要なことである。というのも、
選別の作業は、問題の生物相について十分な数のデータポイントが存在する場合にのみ、実際
に意味をもつからである。
―地方スケールの ESSs と地球スケールの ESSs
考慮されるべき生物相を決定した使用者は、まず以下の選択を行なわなければならない。(i)
便益が主として地方で得られるような ESSs、(ii)主として地球スケールで得られる ESSs、(iii)
そして本質的に地方的でもあり地球的でもある ESSs、すなわちすべての ESSs。この第 1 段
階の選択を可能とすべき理由は、政策立案者が地方の住民に、しかも地方の住民だけに便益を
もたらす ESSs に焦点を当てることを望むだろうことにある。このことは、これら政策立案者
たちが地球スケールの便益には注意を払わないという意味ではない。ただ、彼らは地球スケー
ルのプラスの外部効果に資金を得るために世界的な拠金機関を求める、という意味である。
―観光
ヘクタールあたりの価値推計値には巨大なばらつきがあるが、その原因のひとつは、部分的に
観光収入に基づいて価値評価された場所があることである。従って最終使用者は、政策立案者
が追求する選択にとって、 (i)ESSs として余暇や観光を含む価値、(ii)それらが除外されてい
る価値のどちらを含めるのが適切であるかを決定しなければならない。観光産業の可能性があ
る場合は、(i)を選択することが適切であろう。
―保護区画の指定
価値評価データベース内のデータポイントの多くは保護区画(PAs)に属する。PAs の外で得
られたデータは PAs 内部の分析にも有効であろうが、最終使用者は PA データポイントだけを
選択するかもしれない。さらに、政策立案者が PA の設置を検討する場合は、PA データポイ
ントを選別するのが適切であろう。
―高所得/低所得
環境経済学の諸文献で実施されているメタ分析によれば、高所得諸国で実施された調査の結果
は平均して高い価値推計値をもたらす。
調査結果の適切な使用
生物相及びこれら生物相内部の ESSs の環境的価値に関するこのデータベースは、この種のも
のとしては最も包括的なデータベースの 1 つ(たとえこれだけが最高ではないとしても)であ
る。このデータベース内のすべての数値は、一次文献資料で使用されている方法の完全度に応
じて取捨選択されている。以上にもかかわらず、諸研究に現れた数値の使用に当たっては、便
益移転の固有の限界のゆえに、慎重な配慮が必要である。結果は、絶対的な数値ではなく、お
よその数値を与えることを意図している。一次評価研究でさえ、商取引されていない ESS に
ついては正確な数値を与えることはできない。しかも便益移転は抽象度をさらに高くする。
政策論争においてこれらアウトプットがとりわけ有益であるのは、異なった ESSs 間の相対的
な価値を検討する場合である。従って、
(たとえば)
「水の浄化」については信頼できる正確な
数値は存在しない場合でも、これが他の ESS と比べていかに貴重であるかを一般的に評価す
ることは可能である。
以下において、我々が区別した 11 の主要な生物相/生態系について、主要な結果が概
説される。砂漠とツンドラの生物相は検討されなかった。TEEB 研究の現段階において
6
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
は、それらのサービスと価値についてほとんどデータが得られなかったからである。
それぞれの生物相に関する節は、その生物相に含まれる主要な生態系タイプの簡単な説
明から始まり、次にその生物相の諸サービスに見出される価値の最大値と最小値を示す
表と、
「単一価値」
(すなわち、そのサービスについてはただ 1 個の価値だけが見出され、
従って最大値や最小値は示すことができない)に関するコラムが来る。所定の生物相に
は当てはまらないサービスは表から除外されている。疑問符は、そのサービスが当該生
物相にも当てはまるが、その(信頼できる)価値がいまだ不明であることを示す。
それぞれの生物相について、総合経済価値フレームワークまたは同様のアプローチを使
ってその生物相/生態系によって提供される諸サービスの金銭的価値の総体を推計した
優れたケーススタディの例が続く。ここには、政策的文脈(目的)に関する情報と、決
定要因(たとえば、社会経済的文脈など)の影響が含まれる。
A5.1
外洋が提供する生態系サービスの金銭的価値
外洋は、深海(深さ 200m 以下の海水と海床)を含む海洋生態系の最大の区域である。
この生物相区分から除かれるのは、他の節(A5.2‐A5.4)で取り上げられる沿岸、サン
ゴ礁、海洋島嶼、そして環礁である。6 カ所のデータポイントを基にした表 A5.1 が示す
ところ、外洋のすべてのサービスを合わせた潜在的な持続的使用の金銭的価値の合計は、
年間 13-84 Int.$/ha/y の間である。ここでは、数値が 1 つしか得られない 4 つのサー
ビスは除外されている(これらは、あわせれば、総額に 9 Int.$/ha/y を追加しよう)。
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表 A5.1
外洋が提供するサービスの金銭的価値(Int.$/ha/y、2007 年)
海洋
使用された
最小値
最大値
単一推計値
単一推計値
推計値の数
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
の数
(Int.$/ha/y)
13
84
合計:
6
提供サービス
2
8
1
食料
3
原料
4
遺伝子資源
?
5
医薬資源
?
調整サービス
2
4
5
大気質に対する影響
?
8
気候調整
2
11
廃棄物処理/水の浄化
?
13
栄養循環
16
1
0
22
1
62
4
0
7
55
1
2
生物制御
生息環境サービス
9
1
7
15
22
8
4
1
1
0
7
7
0
1
2
生活様式の維持(特に養
育サービス)
17
1
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
18
美学的情報
19
保養と観光の機会
20
文化、芸術、意匠のイン
1
0
1
1
?
1
?
スピレーション
21
霊的経験
?
22
認識情報(教育及び科学)
?
8
0
2
1
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Box A5.2
TEV ケーススタディの例:英国における海洋保全ゾーン(MCZs)の便益・
費用評価
英国の海洋・沿岸アクセス法案(2009 年) 4 、及び特に英国法で海洋保全ゾーン(MCZs)と
名づけられた海洋保護区ネットワークの設定の便益と費用が、Hussain et al. (2010) で分析さ
れている。この便益評価は、この法案の証明根拠を提供し、影響評価ガイダンスに適合するこ
とを目的に実施された。MCZサイトの候補地を説明する 3 つのネットワークシナリオの文脈
の中で、2 組の管理体制(人為的影響の排除/削減の程度を異にする)が評価された。方法論
上の主要な困難は、(i)BTに関する適切な第一次評価研究の不在、そして(ii)これら研究で使わ
れた推計の方法、すなわちその集計値方式にあった。英国の温帯海洋生態系に関係するさまざ
まなESSsの集計値はBeaumont et al. (2008) に与えられていて、これがHussain et al. (2010)
で使われた数値の基礎となっている。
案出された方法は、以下の制約要因を考慮しなければならなかった:すなわち(i)MCZ 指定の
影響は、さまざまに異なる生態系諸サービス(ESSs)に応じて変化する;そして(ii)個々のど
の ESS においても、その影響はさまざまな地形タイプに応じて異なっている。そこでこの方
法は、個々の ESS/個々の地形のそれぞれについて指定の影響を点数評価した。この採点は以
下をベンチマークとして実施された。すなわち、MCZ 指定がなかったとすれば、特定の ESS
/地形はどれだけの量のサービスを提供していたか?
(入手可能な)唯一の推計値は 2007 年サービス提供相当値だったので、これがベンチマーク
として使用された。2 個の要素が採点された:すなわち、(i)サービス提供に対する MCZs の影
響の程度。これは 2007 年サービス提供と比較した変化率で測定された。そして(ii)サービス提
供のこの変化が生じる可能性があった場合は、その影響の道筋。この後者は、影響評価におい
て費用と便益に適用されるべき一定の割引率(この場合は、3.5%。HM 財務省の要件)の要
件に適合している。個々の ESS/地形について採点すると同時に、この方法は、特定の地形の
1 ヘクタールが ESS の他の地形と比較してどれだけ重要であるかも考慮しなければならなか
った。海洋生態学者たちは、(i)空間の規模、(ii)海岸への距離、(iii)1 ヘクタール当たりのサー
ビス提供量という 3 つの要素を組み合わせて、4 個のカテゴリーを決定した。
以上の方法を当てはめて、3 個の MCZ ネットワーク案/2 個の管理体制のそれぞれについて、
便益の集計値が推計された。その現在価値(調査対象期間 20 年にわたって 3.5%の割引率が使
用された)は、およそ 110 億ポンドから 235 億ポンドの間となった。感度分析を当てはめれば、
この範囲はおよそ 64 億ポンドから 151 億ポンド減少した。
「ガス・気候規制」がこの期待され
る便益の大部分(約 70%)を占め、
「栄養循環」と「休暇及び保養」がそれぞれ約 10%を占め
た。
MCZ ネットワークのコストの評価は ABPMer(2007)によってなされた。二次的なデータ及
び文献の評価も行なわれ、関連業界(漁業者、電気通信、石油ガス採掘、その他)に対するイ
ンタビューも実施された。費用の推計値は、4 億ポンドから 12 億ポンドの間となった。この
ことは、最低ケースの便益-費用比が 5 であることを意味する。
この研究の意味するところは重要である:すなわち、(i)海洋生物相に生態系アプローチを適用
(一定の範囲で)することが可能である;(ii)価値は 11 個の ESSs のうち 7 個からしか得られ
なかったが、これらだけでも大きな便益-費用比を示した。海洋生態系の活用と結びついたロ
ビー組織は高度に組織されていて、財源も豊かであり、従って、この種の研究、そして証拠に
基づいた保全の正当化は重要である。
4
この法案は、採択されて現在は法律となっている。以下を参照。
http://www.defra.gov.uk/environment/marine/legislation/mcaa/index.htm
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
A5.2
サンゴ礁が提供する生態系サービスの金銭的価値
「サンゴ礁」という用語は、普通、組織内に藻類の共生体を宿すサンゴを主たる有機体
とする海洋生態系を指す。この生態系は、完全な海水、温暖な気温、十分な太陽光を要
求する。従ってそれは、熱帯及び亜熱帯の浅い海に限定される。藻類共生体を有さない
サンゴもまた、より深くて暗く、冷たい海中で相当規模のサンゴ群生を形成するが、こ
れらは冷水サンゴ塊状生礁として区別される。サンゴはしばしば「沿岸システム-生物相」
に含められるが、ここでは、その独特の重要な生態系サービスのゆえに、独立して扱わ
れる。
表 A5.2 が示すように、101 カ所のデータポイントに基づくサンゴ礁のすべてのサービ
ス を 合 わ せ た 持 続 使 用 が 可 能 な 金 銭 的 価 値 の 総 額 は 、 14 Int.$/ha/year‐ 1,195,478
Int.$/ha/year の間となっている。これには、数値が 1 つしかない 3 つのサービスは除か
れている(これらは、合計すれば、この総額に 200,000 Int.$/ha/year 以上を追加する。
これは主として侵食防止による)。
10
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 A5.2
サンゴ礁が提供する諸サービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価格)
サンゴ礁
使用された
最小値
最大値
単一推計値
単一推計値
推計値の数
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
の数
(Int.$/ha/y)
14
1,195,478
3
206,873
20,892
1
20,078
合計:
101
提供サービス
33
6
1
食料
22
0
3,752
3
原料
6
0
16,792
4
遺伝子資源
5
医薬資源
6
装飾品原料
調整サービス
7
大気質に対する影響
8
気候調整
9
極端な事態の緩和
11
廃棄物処理/水の浄化
12
侵食の防止
13
栄養循環
15
生物制御
生息環境サービス
16
1
20,078
?
5
17
6
8
348
33,640
2
186,795
?
13
2
33,556
2
5
77
1
627
1
186,168
?
2
8
1
0
7
56,137
0
0
0
0
?
生活様式の維持(特に養
育サービス)
17
8
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
43
0
0
56,137
1,084,809
18
美学的情報
12
0
27,317
19
保養と観光の機会
31
0
1,057,492
20
文化、芸術、意匠のイン
?
スピレーション
21
霊的経験
?
22
認識情報(教育及び科学)
?
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.3
TEV ケーススタディの例:ハワイのサンゴ礁の経済的価値総額
ハワイのサンゴ礁生態系は沿岸住民に漁業や観光業など多数の財貨とサービスを提供し
ている。加えてそれらは、独特の自然生態系を形成し、重要な生物多様性と科学的、教育
的な価値を有している。さらに、サンゴ礁は波浪による浸食に対して自然の保護を提供し
ている。この論文は、こうした固有の価値を具体的に測定することは試みていないが、サ
ンゴ礁が、適切に管理されるならば、数値化の可能なさまざまな便益を通じてハワイの厚
生に巨大な貢献をなすことを明らかにしている。ハワイ群島の 16 万 6,000 ヘクタールの
サンゴ礁がハワイ州の経済にもたらす純便益は、年間 3 億 6,000 万ドルと推計されている
(Cesar and van Beukering 2004)。
表 1:ハワイのサンゴ礁の年間便益
価値のタイプ
単位
価値
保養価値
100 万$/y
304
快適(不動産)価値
100 万$/y
40
研究価値
100 万$/y
17
漁業価値
100 万$/y
2.5
年間便益合計
100 万$/y
363.5
出典:Cesar and van Beukering 2004, p.240
ハワイのサンゴ礁の経済的価値の場所的な差異を評価するために、「区域当たり」をベー
スとした総合価値が示されている(Cesar et al., 2002)。特に 3 カ所のケーススタディ対
象場所が検討されている。ハワイで、そしておそらくは世界で最も価値の高い場所は、極
めて高密度の保養利用が行なわれているハナウマ湾(オアフ島)である。ハナウマのサン
ゴ礁は、生態学的にはハワイの基準からすれば平均的であるが、それでも、生態学的には
より多様なコナ海岸のサンゴ礁に比べて 125 倍も価値が高い。(コナの 1 平方メートル当
たり 0.73 米ドルに対して、ハナウマは 92 米ドル)。このことは、経済的価値が生態学的
価値や研究者の評価とはいちじるしく異なる場合のあることを実証している。
12
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
A5.3
沿岸システムが提供する生態系サービスの金銭的価値
沿岸生物相には、海辺植物原、大陸棚の浅海、磯、砂浜など、外洋の等深線 200 メート
ルまでのいくつかのはっきり異なる生態系が含まれている。通常は、サンゴ礁と沿岸湿
地帯(マングローブ林や潮汐沼沢地)も「沿岸システム-生物相」に含まれるが、ここで
はそのそれぞれの独特の、そして重要な生態系サービスのゆえに、別個に取り上げられ
る(それぞれ A5.2 及び A5.4 において)。
32 カ所のデータポイントを基にした表 A5.3 が示すように、湾岸システムのすべての生
態 系 サ ー ビ ス を 合 わ せ た 潜 在 的 な 持 続 可 能 な 使 用 の 金 銭 的 価 値 の 総 計 は 、 248
Int.$/ha/year から 7 万 9,580 Int.$/ha/year の間にある。ここでは、数値が 1 つしかな
い 6 個のサービスは除外されている(それらは、ほぼ 7 万 8,000 Int.$/ha/year 以上を合
計額に追加する。これは主として極端事態の回避による)。
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表 A5.3
沿岸システムが提供する諸サービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
沿岸システム
使用された
最小値
最大値
単一推計値
単一推計値
推計値の数
の数
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
合計:
32
248
79,580
6
77,907
提供サービス
19
1
7,549
1
1,453
1
食料
2
(淡)水の供給
3
原料
5
4
遺伝子資源
?
5
医薬資源
?
6
14
170
大気質に対する影響
?
8
気候調整
?
9
極端な事態の緩和
10
水の流れの調整
?
11
廃棄物処理/水の浄化
?
12
侵食の防止
?
13
栄養循環
4
14
受粉
?
15
生物制御
生息環境サービス
0
1,453
32
?
4
7
16
7,517
1
装飾品原料
調整サービス
1
2
170
77
2
生活様式の維持(特に養
30,451
76,144
1
76,088
1
56
30,451
1
164
77
2
164
164
育サービス)
17
1
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
7
0
18
美学的情報
19
保養と観光の機会
7
20
文化、芸術、意匠のイン
?
41,416
0
2
164
146
1
110
1
37
41,416
スピレーション
21
霊的経験
22
認識情報(教育及び科学)
14
?
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Box A5.4
TEV ケーススタディの例:米国の Peconic 河口域システムが提供するサー
ビスの価値(Johnston et al., 2002)。
この研究は、米国ニューヨーク州の Peconic 河口域システムが提供する広範囲の生態系サ
ービスを検討している。その目的は二重である。一方でそれは、河口域の保全と回復のた
めの生態学的管理戦略の経済的影響を評価することによって、地方の沿岸政策に情報を提
供しようとする。他方でそれは、さまざまに異なったタイプのサービスに対する最も適切
なアプローチを特定するために各種の非市場的評価方法を検討し、さまざまな方法で得ら
れた結果を 1 個の総合的経済価値に統合する際に生じる問題点を明らかにしようとする。
価値評価された沿岸地域は、ロングアイランド島の東端にあり、湾や島、流域、沿岸市町
村を含む 1 個のシステムを構成している。そこには、漁業、海浜、公園、公共空間、野生
生物生息地などの広範囲の沿岸資源が含まれている。これらが、土地の用途転換や開発事
業に起因する局地的な水の汚染や沿岸生息域の消滅の危機にさらされている。
この研究は、以下の 4 つの経済的研究の結果を総合している。
ヘドニック価格法の研究では、沿岸都市 Southold の資産の市場価格に付加される公共空
間や魅力的景観といった環境的快適性の価値が検討されている。調査された 374 区画にお
いて、近隣の公共空間の保全は資産価値を平均して 12.8%増大させ、一方、高密度の開発
と高速道路及び農地との近接性は、13.3%から 16.7%のマイナスの影響を及ぼしている。
トラベルコスト法の研究では、問題の河口域で行なわれている、水泳やボート遊び、釣り、
小鳥や野生動物の観察などのレジャー活動の価値が検討されている。完了した 1,345 件の
調査結果に基づいて、余暇享受者が得た消費者剰余、すなわちそれぞれの余暇トラベルコ
スト法を上回る価値が推計された。住民ないし余暇享受者全体の個々の消費者剰余の推計
値の合計値は、水泳で年間 1,210 万ドル、ボート遊びで年間 1,800 万ドル、釣りで年間 2,370
万ドル、小鳥と野生動物の観察で年間 2,730 万ドルとなった。
生産関数研究では、魚類や甲殻類、小鳥の養育生息地としてのアマモ群生地や砂泥床、潮
間沼沢地の価値が評価されている。魚類や甲殻類、バードウォッチング、カモ猟などの商
業的価値の上昇という形で生産性の 1 エーカー当たりの限界値を評価するために、生態系
の生物学的機能のシミュレーションが行なわれた。推計された 1 エーカー当たりの年間価
値は、潮間浅瀬で 67 ドル、塩水沼沢地で 338 ドル、アマモ群生地で 1,065 ドルだった。
最後に、不確定選択研究では、Peconic 河口域の基本的な生態系の保全と回復のために地
元住民がどのくらい支払う意志をもっているかが調査されている。こうして得られた価値
推計値は、他の 3 つの研究と重なる部分があるが、河口域の経済的な総合的価値の推計に、
非使用価値と存在価値という新しい要素を追加する。最大の価値が見出されたのは、農地
の保全(年間 1 エーカー当たり 6,398-9,979 ドル)、アマモ群生地の保全(年間 1 エーカ
ー当たり 6,003-8,186 ドル)、そして湿地帯の保全(年間 1 エーカー当たり 4,863-6,560
ドル)だった。価値が小さかったのは、未開発地(年間 1 エーカー当たり 1,203-2,080
ドル)と甲殻類地区(年間 1 ヘクタール当たり 2,724-4,555 ドル)だった。
以上から、沿岸生態系の経済的価値総額の評価について、いくつかの有益な一般的教訓を
引き出すことができる。第 1 に、単一の評価方法だけでは、沿岸地域におけるさまざまに
異なった土地利用とサービスの間の相互作用の複雑さを把握することができない。たとえ
ば、ここで検討された研究にある農地のケースである。ヘドニック価格法は農地のマイナ
15
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
スの使用価値を示しているが、不確定選択の経験は、農地に対する住民の支払い意志は高
く、非使用価値がこの種土地利用の価値総額の決定において重要な役割を果している可能
性を示唆している。
第 2 に、たとえ予算と時間の制約が異なった複数の評価方法の実施を可能とするとしても、
それぞれの結果の統合は簡単ではないことを認識しなければならない。たとえば、ここで
検討された研究の場合、ヘドニック価格法方式とトラベルコスト法方式によって決定され
た費用を単純に合計することは、便益の二重計算を結果しかねない。というのは、資産価
値には近隣で利用可能な余暇活動の機会も反映されている可能性があるからである。同様
に、生産関数から引き出される価値には、部分的に、その高い生産性がもたらすバードウ
ォッチングやカモ猟の機会が反映されている可能性がある。
A5.4
沿岸湿地帯が提供する生態系システムの金銭的価値
沿岸湿地帯生物相には 2 種類の主要な生態系タイプが含まれる。潮汐沼沢地とマングロ
ーブ林である(その他の沿岸システムについては、A5.3 を参照)。本節での検討はおも
にマングローブ林生態系に重点が置かれるが、潮汐沼沢地に関する利用可能な文献も示
される。
表 A5.4 が示すように、112 カ所のデータポイントに基づけば、沿岸湿地帯のすべての
サービスを合わせたその潜在的な持続的使用の金銭的価値総額は 1,995 Int.$/ha/year
から 21 万 5,349 Int.$/ha/year の間である。ここでは、1 つの数値しかえられない 2 つ
のサービスは除かれている(それらは、価値総額に 960 Int.$/ha/year を追加する)。
16
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 A5.4
沿岸湿地帯が提供するシステムの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
沿岸湿地帯
使用された
最小値
最大値
単一推計値
単一推計値
推計値の数
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
の数
(Int.$/ha/y)
合計:
112
1,995
215,349
2
960
提供サービス
35
44
8,289
0
0
1
食料
2
(淡)水の供給
3
原料
4
遺伝子資源
?
5
医薬資源
2
6
装飾品原料
?
調整サービス
12
0
3
41
4,240
18
1
1,414
2
35
26
1,914
7
大気質に対する影響
8
気候調整
9
極端な事態の緩和
10
水の流れの調整
?
11
廃棄物処理/水の浄化
12
侵食の防止
13
栄養循環
14
受粉
?
15
生物制御
?
生息環境サービス
16
135,361
6
2
4,677
13
4
9,729
4
1,811
120,200
3
97
755
38
27
33
生活様式の維持(特に養
2,600
68,795
2
2
960
1
492
1
468
0
0
0
0
59,645
育サービス)
17
5
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
18
美学的情報
19
保養と観光の機会
20
文化、芸術、意匠のイン
13
25
10
9,150
2,904
?
13
10
2,904
?
スピレーション
21
霊的経験
?
22
認識情報(教育及び科学)
?
17
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.5
TEV ケーススタディの例:スリランカの Muthurajawela 湿地帯の経済的価
値の総額(Emerton and Kekulandala, 2003)
Muthurajawela 沼沢地は、面積 3,068 ヘクタールで、スリランカの首都コロンボの近く
に位置する。それは、Negombo ラグーンとともに沿岸湿地帯を形成している。生物多様
性に富み、湿地帯の一部は 1996 年に湿地帯保護区に指定された。
Muthurajawela 湿地帯が直面する圧力は高まっている。主要な脅威は、都市、住宅、余
暇、農業、工業などの開発や、湿地帯生物品種の過剰収穫、そして工業・生活排水による
汚染である。その結果、湿地帯は深刻な劣化にさらされている。Muthurajawela 湿地帯
が提供する生態系サービスの経済的価値の総額は表 3 に示すとおりである。この研究では、
直接的な市場価値を使って、漁業や薪、農産物、余暇活動などの直接的な使用価値、及び
下流の漁業の支援サービスが推計されている。排水処理や淡水供給、洪水調整などを含む
間接的使用価値を評価するために、更新コスト方式が使用された。
表 3:スリランカの Muthurajawela 湿地帯の経済的価値
経済的便益
年間経済価値(2003 年米ドルに換算)
洪水調整
炭素隔離
5,033,800
1,682,841
314,049
207,361
82,530
64,904
54,743
44,790
39,191
8,087
経済的価値総額
7,532,297
工業排水処理
農業生産
下流漁業の支援
薪
漁業
余暇と保養
家庭廃水処理
地元住民への淡水供給
A5.5
内陸湿地帯が提供する生態系サービスの金銭的価値
この生物相タイプには、(淡水)氾濫原、沼地/沼沢地、そしてピート地帯が含まれる。
ここには、沿岸湿地帯と河川及び湖沼は含まれない。これらは A5.4 節及び A5.6 節で別
個に取り上げられる。
18
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
表 A5.5 が示すように、86 カ所のデータポイントに基づけば、内陸湿地帯が提供するす
べ て の サ ー ビ ス を 合 わ せ た そ の 潜 在 的 な 持 続 的 使 用 の 金 銭 的 価 値 の 総 額 は 、 981
Int.$/ha/year から 4 万 4,597 Int.$/ha/year の間である。ここには、単一の数値しか得
られない 6 個のサービスは含まれない(それらは価値総額に 282 Int.$/ha/year を追加
しよう)。
表 A5.5
内陸湿地帯が提供するサービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
内陸湿地帯
使用された
最小値
最大値
単一推計値
単一推計値
推計値の数
の数
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
合計:
86
981
44,597
6
282
提供サービス
34
2
9,709
3
167
1
食料
2
(淡)水の供給
3
原料
4
遺伝子資源
1
11
5
医薬資源
1
88
6
装飾品原料
調整サービス
16
0
2,090
6
1
5,189
12
1
2,430
1
30
321
23,018
7
大気質に対する影響
?
8
気候調整
5
4
351
9
極端な事態の緩和
7
237
4,430
10
水の流れの調整
4
14
9,369
11
廃棄物処理/水の浄化
9
40
4,280
12
侵食の防止
13
栄養循環
14
15
68
115
1
84
受粉
1
16
生物制御
1
15
生息環境サービス
16
3
5
9
生活様式の維持(特に養
26
10
4,588
3,471
2
10
917
7
0
2,554
0
0
0
0
育サービス)
17
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
13
648
8,399
18
美学的情報
2
83
3,906
19
保養と観光の機会
9
1
3,700
20
文化、芸術、意匠のイン
2
564
793
スピレーション
21
霊的経験
?
22
認識情報(教育及び科学)
?
19
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.6
a)
内陸湿地帯に関する TEV ケーススタディの 2 個の例
ニュージーランド北島の Whangamarino 湿地帯の経済的価値(Kirkland, 1988)
Whangamarino 湿地帯は、ニュージーランド北島で 2 番目に大きいピート湿原と沼地の
複合体である。それは、Botaurus poicioptilus のニュージーランドにおける最も重要な
繁殖地であり、越冬鳥類と多様な無脊椎動物群の生息環境である。面積は 1 万 320 ヘク
タールあって、商業的漁業や家畜牧草地、余暇活動を支えている。Whangamarino 湿地
帯の使用価値及び非使用価値の推計値を表Ⅹに示す。推計値は、不確定評価方式による
推計である。
表 X ニュージーランドの Whangamarino 湿地帯の経済的価値
経済的便益
年間経済価値(2003 年米ドルに換算)
非使用保全
7,247,117
2,022,720
10,518
601,037
9,881,392
余暇活動
商業的漁業
洪水調整
合計
b)
米国マサチューセッツ州 Charles River 盆地の経済的価値(Thibodeau and Ostro,
1981)
マサチューセッツ州の Charles River 盆地は、3,455 ヘクタールの淡水沼沢地と樹木の茂
った沼地からなる。これは、ボストンの主要流域にある全湿地帯の 75%になる。ここか
ら得られる便益には、洪水調整、快適価値、汚染緩和、水の供給、余暇活動の機会など
がある。これら湿地帯から得られる経済的価値は表 X に示すとおりである。価値の推計
値は、ヘドニック価格法、更新コスト、市場価格などを含むさまざまな評価方式を用い
て 得られた。
表 X 米国マサチューセッツ州 Charles River 盆地の経済的価値
経済的便益
洪水被害の防止
湿地帯近辺に住むことの快適価値
汚染の緩和
余暇活動価値:小型動物猟、カモ猟
余暇活動価値:マス釣り、温水釣り
合計
20
年間経済価値(2003 年米ドルに換算)
39,986,788
216,463
24,634,150
23,771,954
6,877,696
95,487,051
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
A5.6
湖沼及び河川が提供する生態系サービスの金銭的価値
この生物相タイプには淡水の河川と湖沼が含まれる。塩水湖と湿地帯及び氾濫原はこの
生物相には含まれない(沿岸及び内陸の湿地帯を参照)。
表 A5.6 が示すように、12 カ所のデータポイントに基づく、河川及び湖沼のすべてのサ
ービスを合わせたその潜在的な持続的使用の金銭的価値の総額は、1,779 Int.$/ha/year
から 1 万 3,488 Int.$/ha/year の間である。ここには、単一の数値しか得られない 4 個の
サービスは含まれない(それらは価値総額に 812 Int.$/ha/year を追加しよう)。
表 A5.6
河川及び湖沼が提供するサービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
河川及び湖沼
使用された
最小値
最大値
単一推計値
単一推計値
推計値の数
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
の数
(Int.$/ha/y)
合計:
12
1,779
13,488
4
812
提供サービス
5
1,169
5,776
1
3
1
食料
3
27
196
2
(淡)水の供給
2
1,141
5,580
3
原料
4
遺伝子資源
?
5
医薬資源
?
6
装飾品原料
?
調整サービス
1
2
305
7
大気質に対する影響
8
気候調整
9
極端な事態の緩和
?
10
水の流れの調整
?
11
廃棄物処理/水の浄化
2
13
栄養循環
15
生物制御
生息環境サービス
16
4,978
2
3
129
?
305
1
126
1
3
4,978
?
0
0
0
1
5
305
2,733
0
681
生活様式の維持(特に養
育サービス)
17
1
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
18
美学的情報
?
19
保養と観光の機会
5
20
文化、芸術、意匠のイン
?
305
681
0
2,733
スピレーション
21
霊的経験
?
22
認識情報(教育及び科学)
?
21
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.7
TEV ケーススタディの例:オーストラリアの Murray 川の TEV
Murray 川は、全長 2,700km のオーストラリアで最も長い淡水の川で、高度に改修、開
発されてきた。この川の水は、人間の生活や、工業生産、農業生産に使用されている。
川の水路とこれと結合した湿地帯は極めて多様な生物種の重要な生息環境であり、川沿
いの多くの場所がラムサール条約に基づいて国際的に重要と認められている。この川が
提供する主要な生態系サービスとしては、人間の生活用の淡水、余暇と観光、美しい景
観、農業生産、そして漁業がある。過剰な開発、そして消費と生産を目的とした取水の
結果、河川システムの生態学上の健康は悪化した。これは特に最近の旱魃によって深刻
化した。2007-2008 年には、流入量の不足によって Murray 川とその上流の支流から取
水する灌漑利用者の多くがほとんど配水を受けられなくなった。
Murray 川から得られる主要な生態系サービスの年間経済的価値は、表 X に示されてい
る。数値はいくつかの典拠から得られた。Murray 川から取水された灌漑水によって生産
される食料と川沿いの観光及び余暇サービスが、経済的価値の大部分を占める。これ以
外の少額ではあるが重要な価値として、含塩分の少ない淡水によって発生が回避される
被 害、及び河川生物品種の生息環境を維持するために十分な量の環境流の維持がある。
オーストラリアの Murray 川が提供する生態系サービスの経済的価値総額
(2007 年オーストラリアドル/年)
生態系サービス
価値評価方法
出典
価値総額(100 万ドル)
余暇及び観光
食料生産
市場価格
市場価格
2,970
1,600*
水量
(環境流)
水質(塩分なし)
経済的価値総額
不確定
評価
回避コスト
Howard, 2008
オーストラリア
統計局、2008 年
Bennett, 2008
Connor, 2008
18
4,668
80
*Murray 川の水だけについての推計。Murray-Darling 川盆地の灌漑農業の価値総額は 46 億ドルで
ある。Murray 川から取水される灌漑水は、この盆地からの取水量のほぼ 3 分の 1 を占める。このこ
とはこの川の水が灌漑農業価値の 3 分の 1 を占めることを意味する。
優れた TEV 研究のその他の例については、Thomas et al., (1991) を参照。
22
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
A5.7
熱帯樹林が提供する生態系サービスの金銭的価値
熱帯樹林生物相には各種タイプの森林が含まれる。たとえば、多湿樹林ないし多雨樹林、
落葉/半落葉広葉樹林、及び熱帯性山岳樹林、など。
表 A5.7 が示すように、140 カ所のデータポイントに基づけば、熱帯樹林が提供するすべ
て の サ ー ビ ス を 合 わ せ た そ の 潜 在 的 な 持 続 的 使 用 の 金 銭 的 価 値 の 総 額 は 、 91
Int.$/ha/year から 2 万 3,222 Int.$/ha/year の間である。ここには、単一の数値しか
得られない 2 個のサービスは含まれない(それらは価値総額に 29 Int.$/ha/year を追加
しよう)。
表 A5.7
熱帯樹林が提供するサービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
熱帯樹林
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
合計:
提供サービス
食料
(淡)水の供給
原料
遺伝子資源
医薬資源
装飾品原料
調整サービス
大気質に対する影響
気候調整
極端な事態の緩和
水の流れの調整
廃棄物処理/水の浄化
侵食の防止
栄養循環
受粉
生物制御
生息環境サービス
生活様式の維持(特に養
育サービス)
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
美学的情報
保養と観光の機会
文化、芸術、意匠のイン
スピレーション
霊的経験
認識情報(教育及び科学)
使用された
推計値の数
140
63
24
3
27
4
5
?
43
2
10
4
4
6
11
3
3
最小値
最大値
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
単一推計値
の数
単一推計値
2
0
29
0
0
8
2
14
1
23,222
9,384
1,204
875
3,723
1,799
1,782
7,135
957
761
340
36
665
3,211
1,067
99
1
12
13
13
8
2
0
11
2
7
5,277
1
91
26
57
(Int.$/ha/y)
1
13
6
12
17
1
13
21
6
2
?
21
?
2
5,277
1,426
0
17
0
1,426
?
?
23
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.7
TEV ケーススタディの例:インドネシアのスマトラ島
Leuser 国立公園の経
済的評価
熱帯樹林の経済的価値総額の評価に関する最も優れた例は、2 万 5,000km2 の Leuser 熱
帯樹林とその緩衝地帯に関連する生態系システムの TEV を評価し、こうしたサービスの
提供に対する森林消滅の帰結を評価することをめざした、Van Beukering et al.(2003)
の調査である。
保護地域に指定されているにもかかわらず、伐採や非木材森林製品(NTFP)の採取、密
猟、持続可能性に欠けた観光、作物プランテーションへの転換などのために、Leuser 国
立公園の約 20%が失われ、あるいは劣化してしまった。その結果が、森林面積の減少(最
終的には荒地の拡大につながる)、土壌浸食の拡大(農業生産性の低下)、保水力の低下
(洪水や旱魃の頻度と激度の上昇につながる)、受粉効率及び害虫管理の低下(農業生産
性の低下)である。こうした諸問題に対処するために、Leuser の可能な将来のシナリオ
3 種類が検討された。すなわち、森林消滅シナリオ(伐採と NTPF 採取の現在の趨勢が
今後も続く)、保全シナリオ(一次林及び二次林の伐採の停止とエコツーリズムの発展)、
そして選択的利用シナリオ(一次林の伐採を大幅に減らして伐採後に植林する+若干の
エコツーリズムの発展)。
この 3 つのシナリオの評価のために 11 個のサービスが重要であると判断された。すなわ
ち、水の供給、漁業、洪水・旱魃防止、農業及びプランテーション、水力発電、観光、
生物多様性、炭素隔離、火災防止、NTFP、そして木材である。影響の経済的価値は多様
な経済的技術を使って評価された。すなわち、生産機能、市場価格、不確実性評価など
である。ここで重要なことは、どの評価方法も単独ではすべての便益の流れを評価する
ことはできない、という点である。異なった影響の評価のためには異なった評価方法が
必要とされる。
以 上 の よ う な ア プ ロ ー チ を 用 い て 、 著 者 た ち は Leuser 国 立 公 園 の 経 済 価 値 総 額 を
(2000-2030 年の期間について)、保全シナリオで 95 億 3,800 万米ドル、選択的利用シ
ナリオで 91 億米ドル、そして森林消滅シナリオで 69 億 5,800 万米ドルと推計している。
最後に、この研究を熱帯樹林の経済的価値に関する模範的なケーススタディとしている
いくつかの基本的要因を強調しておくことが重要であろう。第 1 は、著者たちが調査の
全段階において地方や地域、国家の利害関係者の知識と経験を活用したことである。こ
れが重要であるのは、影響のより適切な判定を助けていることである。第 2 に、主要な
影響が何であるかの判定のために「影響経路」を使用したことが重要である。最後に、
影響の評価のために広範囲にわたる多様な評価方法が使用されたことである。
24
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
A5.8
温帯・亜寒帯樹林が提供する生態系サービスの金銭的価値
この生物相には、温帯樹林、そして亜寒帯樹林すなわちタイガが含まれる。温帯樹林は、
さらに、温帯落葉樹林、温帯広葉・混合樹林、温帯針葉樹林、温帯雨林に分けることが
できる。
表 A5.8 が示すように、40 カ所のデータポイントに基づけば、温帯・亜寒帯樹林が提供
するすべてのサービスを合わせたその潜在的な持続的使用の金銭的価値の総額は、30
Int.$/ha/year から 4,863 Int.$/ha/year の間である。ここには、単一の数値しか得られ
ない 7 個のサービスは含まれない(それらは価値総額に 1,281Int.$/ha/year を追加しよ
う)。
表 A5.8
温帯・亜寒帯樹林が提供するサービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
温帯樹林
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
合計:
提供サービス
食料
(淡)水の供給
原料
遺伝子資源
医薬資源
装飾品原料
調整サービス
大気質に対する影響
気候調整
極端な事態の緩和
水の流れの調整
廃棄物処理/水の浄化
侵食の防止
栄養循環
受粉
生物制御
生息環境サービス
生活様式の維持(特に養
育サービス)
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
美学的情報
保養と観光の機会
文化、芸術、意匠のイン
スピレーション
霊的経験
認識情報(教育及び科学)
使用された
推計値の数
40
15
5
3
5
最小値
最大値
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
30
25
2
?
14
0
0
2
4,863
1,736
1,204
455
54
23
23
3
単一推計値
の数
単一推計値
7
1
1,281
3
1
3
1
1,277
805
1
0
1
1
1
1
452
20
5
456
8
3
376
2
4
0
0
3
77
(Int.$/ha/y)
?
7
0
2,575
0
0
1
0
?
7
4
0
1
?
4
1
2,575
96
96
1
0
?
?
25
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.9
TEV ケーススタディの例:地中海樹林の経済的評価(Croitoru, 2007)
地中海樹林は極めて多様な便益を提供している。しかしそのほとんどは認識されていな
い。この研究は、地中海諸国における樹林の便益のすべてを包括的に評価することを試
みている。その目的は、利用可能なデータを活用して、各国及び地中海地域全体の樹林
価値総額の大まかな概数と、その構成を明らかにすることである。樹林の便益は、共通
の枠組みに基づいて特定され、さまざまな方法を用いて評価されている。この研究の重
要性は、それが、推計値を各国ごとに集計し、相互に比較することを可能とするような
構造的枠組みの内部で、大規模に実施されたことにある。
この研究で取り上げられたのは以下の 18 カ国である。南部諸国:モロッコ、アルジェリ
ア、チュニジア、エジプト;東部諸国:パレスチナ、イスラエル、レバノン、シリア、
トルコ、キプロス;北部諸国:ギリシア、アルバニア、クロアチア、スロベニア、イタ
リア、フランス、スペイン、ポルトガル。
地中海樹林の平均 TEV は 1 ヘクタール当たりおよそ 133 ユーロである。北部諸国の平均
(約 173 ユーロ/ha)は南部諸国(約 70 ユーロ/ha)及び東部諸国(約 48 ユーロ/ha)よ
りも大きい。人口 1 人あたりでは、樹林は地中海の人びとに年間 50 ユーロ以上の便益を
提供している。平均便益は北方諸国(1 人あたり 70 ユーロ以上)において大きく、南部
諸国(1 人あたり 7 ユーロ未満)と東部諸国(1 人あたり 11 ユーロ未満)において小さ
い。北部諸国と南部及び東部諸国のそれぞれの推計値の差異の大きさは、部分的には、
北部における住民あたりの樹林面積の広がりの大きさと、その相対的な質の高さに起因
し、この後者はより有利な気候条件と劣化の程度の低さの結果である。違いはまた、南
部及び東部諸国における便益の過小評価の程度が大きいことにもよる。
平均 TEV(森林面積 1 ヘクタール当たりユーロ)
以下の図は、地中海地域全体及び地中海各地域における樹林便益の平均推計値を示す。
南部諸国
東部諸国
非使用の価値
流域保全
NWFPs
北部諸国
地中海平均
研究の結果は、木材などの樹木森
林製品(WEPs)が樹林便益全体
のごく一部しか占めていないこと
を示している。流域保全便益はし
ばしばはるかに重要である。南部
及び東部地中海では牧草地が支配
的である。余暇活動は、北部地中
海ですでに極めて重要であるが、
その重要性は地域全体で高まって
ゆこう。以上のような多機能性が
明確に認識されて、樹林政策に組
み込まれることが必要である。
炭素隔離
余暇活動及び狩猟
放牧地
WFPs
TEV 研究のもう 1 つの優れた例は、Nahuelhaul et al., 2007 によるチリの温帯雨林に
関するそれである。
26
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
A5.9
林地が提供する生態系サービスの金銭的価値
この「林地-生物相」には、以下のような極めて多様な植生タイプが含まれる。サバンナ、
潅木地、雑木林、及び南北アメリカの西岸沿いや地中海周辺地域、南アフリカ、オース
トラリアに分布するモザイク状の地形パターンに交互に混生するチャパラルなど。全体
で地球表面の約 5%を占める。
表 A5.9 が示すように、18 カ所のデータポイントに基づけば、林地が提供するすべての
サービスを合わせたその潜在的な持続的使用の金銭的価値の総額は、16 Int.$/ha/year
から 1,950 Int.$/ha/year の間である。ここには、単一の数値しか得られない 6 個のサー
ビスは含まれない(それらは価値総額に 5,066Int.$/ha/year を追加しよう)。
表 A5.9
林地が提供するサービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
林地
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
合計:
提供サービス
食料
(淡)水の供給
原料
遺伝子資源
医薬資源
装飾品原料
調整サービス
大気質に対する影響
気候調整
極端な事態の緩和
水の流れの調整
廃棄物処理/水の浄化
侵食の防止
栄養循環
受粉
生物制御
生息環境サービス
生活様式の維持(特に養
育サービス)
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
美学的情報
保養と観光の機会
文化、芸術、意匠のイン
スピレーション
霊的経験
認識情報(教育及び科学)
使用された
推計値の数
18
12
4
最小値
最大値
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
16
7
8
?
?
0
1,950
862
203
7
659
単一推計値
の数
単一推計値
6
1
5,066
25
(Int.$/ha/y)
1
6
9
2
?
?
4
1,088
9
387
0
701
2
25
130
1
80
1
49
1
1,005
1,003
?
?
?
0
0
0
2
1
0
0
0
1
1
1
3,907
3,907
?
?
?
?
27
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Box A5.10
TEV ケーススタディの例:ペルーの Ayacucho にある Opuntia 雑木林から
得られる財貨とサービス(Rodriguez et al., 2006)
Opuntia 雑木林は、それが提供する社会的、生態学的機能という意味で、アンデスで最
も重要な社会-生態系の 1 つである。それは、斜面を侵食から守り、土壌特性を改良し、
人間の食料や家畜の飼育に使われる多様な製品、また染料資源として極めて貴重なコチ
ニールカイガラムシなどを提供するうえで、重要な役割を果している。
Opuntia が提供する生態系の財貨とサービスは、その構造と機能の点で、多様な市場へ
のその統合という点で、また人間の厚生に対するその貢献という点で、極めて多様であ
る。
Rodriguez et al., 2006 は、Ayacucho の地域社会に対する Opuntia 雑木林の使用価値の
推計に当たって、まず、アンデスのさまざまな地域社会によって認識されている生態系
の財貨とサービスを特定するために、Opuntia の「文化的領域」を検討した。そのうえ
で、この雑木林が提供するさまざまな財貨とサービスの間の内的関係、及び Opuntia 雑
木林と地域内に存在するその他の環境的、社会経済的システムとの間の相互関係に関す
る地方住民の認識が推定された。著者たちは、Opuntia 雑木林が提供する財貨とサービ
スの価値の実証的推計値とその所帯所得に対する貢献度を明らかにしている(以下の表
を参照)。
ペルーの Ayacucho にある Opuntia 雑木林から得られる財貨とサービス
出典:Rodriguez et al., 2006
平均値
PEN/US$/year
提供サービス
461
コチニール生産
フルーツ生産
飼料生産
燃料生産
装飾品生産
生産機能合計
生息環境サービス
染料生産のためのコチニール増殖
調整サービス
侵食防止
情報機能/文化的サービス
金銭的に数値化されなかった。Ayacucho の伝統芸能である
Pumpin 音楽の歌詞の多くは、Opuntia に想を得ている。歌詞
は、Opuntia 雑木林が提供する財価とサービスの持続的使用の
ための助言や規則、規範を表している。
215.69
100.64
73.62
59.05
12.41
497
496.83
5
5
不明
注:南アフリカのフィンボスと叢林の生態系に関する TEV 計算の例については、A5.10 節
を参照。
28
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
A5.10
草地が提供する生態系サービスの金銭的価値
草地は非常に多様な環境のもとで形成される。そこには、熱帯草地(サバンナ)、温帯草
地(ヨーロッパと中央アジアのステップや北アメリカのプレーリーを含む)、亜寒帯草地
(ツンドラ)、そして山岳草地(ラテンアメリカのパラモ高地)が含まれる。最も大きく
広がる熱帯草地は、セネガルからアフリカの角に至る北アフリカのサヘルである。
表 A5.10 が示すように、25 カ所のデータポイントに基づけば、草地が提供するすべて
のサービスの潜在的な持続的使用の金銭的価値の総額は、297 Int.$/ha/year から 3,091
Int.$/ha/year の間である。ここには、単一の数値しか得られない 3 個のサービスは含ま
れない(それらは価値総額に 752 Int.$/ha/year を追加しよう)。
表 A5.10
草地が提供するサービスの金銭的価値
(Int.$/ha/year、2007 年価値)
草地
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
合計:
提供サービス
食料
(淡)水の供給
原料
遺伝子資源
医薬資源
装飾品原料
調整サービス
大気質に対する影響
気候調整
極端な事態の緩和
水の流れの調整
廃棄物処理/水の浄化
侵食の防止
栄養循環
受粉
生物制御
生息環境サービス
生活様式の維持(特に養
育サービス)
遺伝子プール保護(保全)
文化的サービス
美学的情報
保養と観光の機会
文化、芸術、意匠のイン
スピレーション
使用された
推計値の数
25
9
3
4
2
最小値
最大値
(Int.$/ha/y)
(Int.$/ha/y)
297
237
3,901
715
4
219
14
単一推計値
の数
3
1
単一推計値
1
0
(Int.$/ha/y)
752
0
82
602
31
?
?
10
60
5
?
?
3
2
2,067
2
9
1,661
13
38
358
47
752
1
219
1
533
?
?
3
0
298
0
0
0
0
?
3
3
0
0
?
3
?
298
11
0
11
29
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
21
22
?
?
霊的経験
認識情報(教育及び科学)
Box A5.11
TEV ケーススタディの例:南アフリカの乾燥地域における 5 カ所の集水池
の回復の前後における生態系サービス提供の変化
南アフリカの Maloti-Drakensberg 及び Tsitsikamma-Baviaanskloof の両山系における
生態系回復オプションを分析するために実施された詳細な水文学‐生態学‐経済学的研
究は、最善方式研究の 1 例である(Blignaut et al., 2010, Mander et al., 2010)。両研究
は、火災の発生しやすい草地生態系(Maloti-Drakensberg 地区)を対象とし、これをフ
ィンボス及び亜熱帯叢林(Tsitsikamma-Baviaanskloof 地区)と比較した。この両地区
は、合わせて、南アフリカで戦略的に最も重要な淡水源のいくつかを形成している。た
とえば、Maloti-Drakensberg 山系は南アフリカの地表面積の 5%未満を占めるにすぎな
いが、それにもかかわらず、同国の河川や主要ダム、及び国内及び国際の盆地間移動の
流去水全体の 25%を生み出している。
この両研究の具体的な目的は、これら集水池の回復の財政的、経済的実現可能性を分析
することにあった。そのために、回復の費用と、流域調整、炭素隔離、堆積物保持の諸
サービスの強化による便益が検討された。回復策には、外侵性の木質品種の除去、過剰
放牧によってすべての植生が消滅した地域への自生植生の導入と再生、侵食防止策、火
災管理体制の強化などが含まれている。その結果は以下の表に示すとおりである。
南アフリカの乾燥地域における 5 カ所の集水池の回復の前後における生態系サービス提
供の変化 *1
単位
上 Mzimvubu
Krom
Kouga
Baviaans
草地生物相
草地生物相
フィンボス
生物相
フィンボス
生物相
亜熱帯叢林
生物相
ha
187,619
397,771
101,798
242,689
160,209
基礎流量の変化
m3/ha/yr
68.6
9.9
196.7
65.4
35.3
堆積物の減少
m3/ha/yr
6.7
12.4
0.9
0.5
0.3
t/ha/yr
0.7
0.9
1.5
1.2
2.2
2.4
1.3
集水池の規模
上 Thukela
流域サービスの変化
二酸化炭素の隔離
回復後の流域サービスの変化の財政的、経済的分析
基礎流量の PV
$/ha/yr
2.82
1.12
7.2
炭素の PV
$/ha/yr
10.5
12.6
9.5
7.4
14.0
堆積物減少の PV
$/ha/yr
4.4
8.5
0.3
0.2
0.1
その他サービスすべての
PV3
$/ha/yr
8.7
8.7
1.7
5.5
8.6
サービス全体の PV
$/ha/yr
26.5
31.0
18.7
15.5
24.0
介入のコストの PV4
$/ha/yr
5.1
12.5
7.1
2.9
6.4
介入の NPV5
$/ha/yr
21.5
18.5
11.6
12.6
17.6
Ratio
5.2
2.5
2.6
5.6
3.7
$/ha/y
11.3(+/-3)
11.3(+/-3)
6.7(+/-4)
6.7(+/-4)
6.7(+/-4)
便益-費用比
比率
1 ヘクタール当たり平均
純収益:持続不可能な土
地利用 6
*)出典:Blignaut et al., 2010; Mander et al., 2010
注:
1.30 年間の社会的割引率を 4%とする。
30
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
2.乾季の冬の月だけを考慮。
3.市場が存在して数値化が可能なその他のサービスすべての価値、たとえば、観光、持続可能農業
など。
4.介入には、回復の費用と、回復後の毎年の管理業務(単数及び複数)の費用が含まれる。
5.便益と費用の差。
6.これは、回復の導入前の、持続可能な土地管理方式への土地利用の転換の前の収益である。従っ
てこれは、とりわけ過剰放牧や不適切な火災管理法式の応用の結果として劣化が進行する現在の土
地利用方式から土地所有者/使用者に生じる財政的、経済的収益である。その値は、回復の NPV
よりも小さく、従って、土地所有者/使用者を PES 制度の利用と土地利用方式の変更に誘導するこ
とができれば、プラスの社会的便益と純利益がもたらされることを意味する。
この研究の結果が示すところ、検討された流域サービスの便益の PV はプロジェクト期間中に 1 ヘ
クタール当たり年間 15.5 ドルから 31 ドルの範囲となる。コスト(回復と管理の両方)の PV は、1
ヘクタール当たり年間 3 ドルから 12.5 ドルの範囲である。そこでこの研究は、改良された管理法式
の導入による便益は、軽度または中度に劣化した区域ではコストを上回るが、重度に劣化した区域
では上回らないと結論している。しかし、土地利用の改良された管理システムによってもたらされ
る水(基礎流量)の回復の経済的収益は、在来方式の(建設工事を基礎とした)水開発プログラム
によるそれを大幅に上回り、この研究対象地区において経済的、市場的に意味のある開発機会を提
供する。
もう 1 つの興味深い研究としては、森林、草地、及び林業-放牧システムといったいくつ
かの土地利用方式の経済的評価に関する Fernandez-Nunez, et al., (2007) がある。
31
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
A5.11
極地・高山システムが提供する生態系サービスの金銭的価値
ここで使用されている極地・高山生物相の定義は、ミレニアム生態系評価(2005 年)の
それとわずかにずれている。特に、我々はこの生物相をその寒冷圏域に従って定義する
(Kotlyakov, 2009)。この定義に基づけば、極地には、北極海のすべてと南極海の大部
分、森林限界までのツンドラ/永久凍土地帯、長期の積雪地域(特に北極)、そして南極
海 / 北 極 海 の 海 底 / 海 域 ゾ ー ン が 含 ま れ る 。 こ の 定 義 は 、 WWF Arctic 生 態 地 域
(www.panda.org)や、Udvardy (1975) 及び Clark and Dingwall (1985) の南極大陸
に関する生物地理学的区分によく対応している。
同様の基準は、UNU で Masserli and Ives が作成した緯度地図から外挿法的に推計して、
高山に対しても適用することができる。従って、たとえば、高山地帯は海抜 1,000 メー
トル以上の高地を指すと定義することができる。
MA によれば、極地と高山は地表面積の 31%を占めるという(MA, 2005, Synthesis
volume, p.31, Table 1.1)。我々の改定定義によれば、寒冷圏の割合は地表面積の 50%近
くとなる(最も広がった季節で)。
Christie et al.(2005)が指摘するように、極地・高山システムが提供するサービスの金銭
的価値の推計は、現時点ではほとんど存在しない。しかし、金銭的価値の研究が存在し
ないことは、極地・高山地域が重要なサービスを提供していない、ということを意味す
ると解釈されてはならない。実際、この寒冷圏が地球生態系サービスという意味で巨大
な重要性を有していることは明らかである。
そのうちの最も重要なサービスについて以下で簡単に検討する。
1)
漁業
南極海は世界の漁獲量のおよそ 6 分の 1 に貢献していると推計されている(Kock, 1992)。
そしてこの漁業資源は、他の海域で魚類が採り尽くされるにつれてますます重要となろ
う。しかし、こうした海洋資源の法的な保護はまったく不十分である(Constable et al.,
2000)。たとえば、南極海海洋生物資源保全委員会の推定によれば、稀少なパタゴニア・
トゥースフィッシュの漁獲量の 80-90%は不法である(MA, 2005, p.478)。
2)
淡水貯蔵
地球の淡水(ID 2)のおよそ 80%は氷帽の中に封じ込められている(Pitt, 1995; Gabler,
32
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
2008)。世界の人口の相当部分が高山の氷河の融水に依存している。気候変動はこうし
た氷河の存在を脅かし、このことが地方的、地球的に重大な結果を及ぼす可能性がある。
たとえば、ヒマラヤ山脈とチベット高原の氷河は、小麦畑と水田の灌漑に使用されてい
るインドと中国の大河を支えている。中国とインドは世界の小麦と米の主要な生産地で
あることを考えれば、予測されている氷河の融解は地方と地球の食糧安全保障にとって
重大な脅威である(Brown, 2009)。
3)
原料資源
原料(ID 3)もまた寒冷圏において極めて貴重で(たとえば、Howard, 2010; Emmerson,
2010; Orrego-Vicuna, ed., 2009)、しかも国際的紛争の主要領域となりつつある。北極
海は世界の炭化水素の 4 分の 1 以上を埋蔵するといわれていて(Mikkelsen and
Langhelle, ed., 2008)、各国が競合する結果、将来の発火点となると広く想定されてい
る。南極条約システム(ATS)は、現在、原料資源の採掘を禁止し、
「平和と科学のため
の」世界最大の保護・非軍事地区を設けている。しかし、ATS は 2041 年に満期を迎え、
それが更新されるかどうかは不確かである。現在でさえ、資源をめぐって紛争が存在す
る。オーストラリアとニュージーランドは、現在、捕鯨モラトリアム違反で日本を提訴
しようとしている。英国とアルゼンチンは、石油探査が進んでいるフォークランド/マ
ルビナス諸島に軍艦を展開している。カナダと米国のような昔からの友好国同士でさえ、
ニューヨーク水路をめぐってにらみ合っている。
4)
気候調整
南極海と北極圏永久凍土/ツンドラは、温室効果炭素の重要な溜まりである。しかし、
地球温暖化は北極圏永久凍土/ツンドラを温室効果ガス(メタンを含む)の純排出源に
転化させる可能性がある(McGuire et al., 2010)。両極地帯はまた、アルベド反射を通
じて、つまり太陽光を宇宙へと反射することによって、気候変動を緩和するうえで重要
な役割を果している(MA, 2000, v.1, p.859)。Prizborski (2010)によれば、面積 2,545
平方キロの Mertz 氷河舌氷山の分離は、底水の流れを妨げて、世界の海流を撹乱する可
能性があるという。
北極圏融解に関する Pew Report(Goodstein et al/. 2010)の推計によれば、北極圏の
雪や氷、永久凍土の消滅は、現在、世界に年間 610 億米ドルから 3,710 億米ドルのコス
トを課しているという。
33
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
5)
生息環境サービス
寒冷圏の一見して死んだような凍った荒地には、生物品種はほとんどいないと考えられ
てきた。しかし最近、極端な寒冷地における生命(浮遊生物を含む)だけでなく、たと
えば氷湖や海底鉱床、大規模な氷河下湖の中、海山の上、火山の火道の周りなどにおい
て、活発なホットスポットに関する証拠が蓄積されつつある。IPY アーカイブには動物
相センサス資料が含まれる予定である。我々は、一部の生物種についてはいくつかの推
計値をもっている(たとえば、南極については Shirihai, 2007; 北極圏については CAFE,
2001 及び Ervin, 2010)が、国際環南極海海洋生物センサスは南極海におけるベンチマ
ークとなろう(Stoddard, 2009)。バイオマス次元で言えば、南極海の一次生産性は巨
大である。Van der Zwaag(1986)の推計によれば、それは年間 1 平方メートル当たり
炭素グラム数で言えば、北極海のそれの 50 倍以上になるという。MA Synthesis Table
(上掲)の NPP の数値は、特に極地生物相については非常に小さく、IPY に従って再
検討が必要とされよう。
6)
文化的サービスと観光
寒冷圏の美、余暇、インスピレーション、霊感、認識(ID 18-22)その他に関する価値
については、情報はほとんど存在しない。この種のタイプの価値を計算するためには、
Christie (2005)で強調されたようなまったく新しい方法が必要とされよう。たとえば、
Samson and Pitt (Edited)(2000) は、寒冷圏の受動的な使用価値を探究している。そこ
には、すべての文化的活動を包括する思考の領域である人智圏と呼ばれるものにおいて
それが果たす役割が含まれる。Pitt (2010) は、偶像的寒冷圏生物種がインターネットで
どれだけのヒット数を獲得しているかを調べた。ペンギンがトップだった。高山には、
人間にとって最も神聖かつ清浄な場所が存在する。
寒冷圏はまた重要な観光資源である。Snyder and Stonehouse (Edited)(2007)は、2010
年に北極圏に 150 万人、南極海に 8 万人、アルプスに 1,000 万人、そして他の高山にさ
らに多数が訪れると予測している。
34
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
参考文献
Australian Bureau of Statistics (2008). Water and the Murray-Darling Basin - A
Statistical
Profile,
2000-01
to
2005-06.
URL
http://www.abs.gov.au/AUSSTATS/[email protected]/mf/4610.0.55.007/
Barbier, E.B., S. Baumgärtner, K. Chopra, C. Costello, A. Duraiappah, R. Hassan, A.
Kinzig, M. Lehman, U. Pascual, S. Polasky and C. Perrings (2009). The valuation of
ecosystem services. In: Naeem, S., D. E. Bunker, A. Hector, M. Loreau and C.
Perrings (Edited), “Biodiversity, ecosystem functioning, and human wellbeing - An
Ecological and Economic Perspective”. Oxford University Press, Oxford.
Baumgartner, S., C. Becker, M. Faber and R. Manstetten (2006). Relative and
absolute scarcity of nature: assessing the roles of economics and ecology for
biodiversity conservation. Ecological Economics 59(4): 487-498.
Beaumont, N.J., M.C. Austen, S.C. Mangi and M. Townsend (2008). Economic
valuation for the conservation of marine biodiversity. Marine Pollution Bulletin
56(3): 386-396.
Bennett, J. (2008). Defining and Managing environmental flows: inputs from society.
Economic Papers 27(2): 167-183.
Blignaut, J., M. Mander, R. Schulze, M. Horan, C. Dickens, K. Pringle, K. Mavundla,
I. Mahlangu, A. Wilson, M. McKenzie and S. McKean (2010). Restoring and
managing natural capital towards fostering economic development: Evidence from
the Drakensberg, South Africa. Ecological Economics 69(6): 1313-1323
Brown, L.R. (2009). Plan B 4.0: Mobilizing to Save Civilization. W.W. Norton &
Company, New York.
Conservation of Arctic Flora and Fauna (CAFF) (2001). Arctic Flora and Fauna Status and
Conservation. Arctic Council Program for the Conservation of Arctic Flora and
Fauna, Helsinki, Finland. 272 p.
Cesar, H.S.J. and P.J.H. van Beukering (2004). Economic valuation of the coral reefs
of Hawaii. Pacific Science 58(2): 231-242.
Cesar, H.S.J., P.J.H. van Beukering and S. Pintz (2002). The Economic Value of
Coral Reefs in Hawai‟i. Hawai‟i Coral Reef Initiative (HCRI), University of Hawai‟
i, Honolulu.
Christie, P. (2005). Is integrated coastal management sustainable? Ocean and
Coastal Management 48: 208-232.
Christie, P., K. Lowry, A.T. White, E.G. Oracion, L. Sievanen, R.S. Pomeroy, R.B.
Pollnac, J. Patlis and L. Eisma (2005). Key findings from a multidisciplinary
35
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
examination of integrated coastal management process sustainability. Ocean and
Coastal Management 48: 468-483.
Clark, M. and P. Dingwall (1985). Conservation of Islands in the Southern Ocean.
Prepared with the financial assistance of the World Wildlife Fund. IUCN, Gland,
Switzerland and Cambridge, U.K.
Connor, J. (2008). The economics of time delayed salinity impact management in the
River Murray. Water Resources Research, 44, W03401, doi:10.1029/2006WR005745.
Conservation International (2006) Consvalmap: Conservation
Ecosystem Services Database. URL http://www.consvalmap.org
International
Constable, A.J., W.K. de la Mare, D.J. Agnew, I. Everson, and D. Miller (2000).
Managing fisheries to conserve the Antarctic marine ecosystem: practical
implementation of the Convention on the Conservation of Antarctic Marine Living
Resources (CCAMLR). Ices Journal of Marine Science, 57(3): 778-791.
Croitoru, L. (2007). How much are Mediterranean forests worth? Forest Policy and
Economics 9(5): 536-545.
Emmerson, C. (2010). The Future History of the Arctic. Public Affairs. ISBN
978-0-78674-625-5. 448p.
Emerton, L. and L.D.C.B. Kekulandala (2003). Assessment of the Economic Value of
Muthurajawela Wetland, Occasional Perpers of IUCN Sri Lanka No.4
ENVAlue (2004). Environmental Valuation Database, developed by the New South
Wales
Environmental
Protection
Agency,
New
Zealand.
URL
http://www.environment.nsw.gov.au/envalue/
EPA (2009). Valuing the protection of ecological systems and services, a report of the
EPA Science Advisory Committee. EPA-SAB-09-012, May 2009. URL
http://www.epa.gov/sab
Ervin, J. (2010). Management and conservation of wildlife in the Arctic.
Encyclopaedia of Earth. URL http://www.eoearth.org
EVRI (1997). The Environmental Valuation Reference Inventory (EVRI). Developed
by De Civita, P., F. Filion, J. Frehs and M. Jay. URL http://www.evri.ca
Fernandez-Nunez, E., M.R. Mosquera-Losada and A. Rigueiro-Rodríguez (2007).
Economic evaluation of different land use alternatives: forest, grassland and
silvopastoral systems. Permanent and temporary grassland: plant, environment and
economy. Proceedings of the 14th Symposium of the European Grassland Federation,
Ghent, Belgium, 3-5 September 2007: 508-511.
FSD (2007). Nature Valuation and Financing CaseBase. Foundation for Sustainable
36
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Development,
Wageningen,
http://www.eyes4earth.org/casebase/
the
Netherlands.
URL
Gabler, R.E., J.F. Petersen and L.M. Trapasso (2008). Physical Geography.
Brooks/Cole. ISBN-13: 978-0495555063. 641p.
Goodstein, E., H. Huntington and E. Euskirchen (2010). An initial estimate of the
cost of lost climate regulation services due to changes in the Arctic cryosphere. Pew
Foundation.
Goulder, L.H. and J. Kennedy (1997). Valuing ecosystem services: philosophical
bases and empirical methods. In Daily, G.C. (Edited), “Nature‟s Services: Societal
Dependence on Natural Ecosystems”. Island Press, Washington, D.C.
Howard, J.L. (2008). The Future of the Murray River: Amenity Re-Considered?
Geographical Research 46: 291-302
Howard, R. (2010). Arctic Gold Rush - The New Race for Tomorrow's Natural
Resources. Continuum, ISBN: 9781441181107. 272p.
Hussain, S.S., A. Winrow-Giffin, D. Moran, L.A. Robinson, A. Fofana, O.A.L.
Paramor and C.L.J. Frid (2010). An ex ante ecological economic assessment of the
benefits arising from marine protected areas designation in the UK. Ecological
Economics 69(4): 828-838.
Johnston, R.J., T.A. Grigalunas, J.J. Opaluch, M. Mazzotta, and J. Diamantedes
(2002). Valuing estuarine resource services using economic and ecological models:
The Peconic Estuary system. Coastal Management 30(1): 47-65.
Kirkland, W.T. (1988). Preserving the Whangamarino wetland – an application of the
contingent valuation method, Masters Thesis, Massey University, New Zealand. In:
Dumsday, R.G., K. Jakobsson, and S. Ransome (1992), “STATE-WIDE
ASSESSMENT OF PROTECTION OF RIVER SEGMENTS IN VICTORIA,
AUSTRALIA”, Paper Presented to a symposium on the management of public
resources, Resource Policy Consortium, 21-22 May, Washington, D.C.
Kock, K.H. (1992). Antarctic fish and fisheries (Studies in polar research). In:
Cambridge University Press, Cambridge. 359p.
Kotlyakov, V. (2009). Cryosphere and climate. International Polar Year – IPY, ID: 6.
Russia.
MA - Millennium Ecosystem Assessment (2005). Ecosystems and Human Well –
Being: Synthesis. Island Press , Washington, D.C. ISBN: 9781597260404.
Mander, M., J. Blignaut, M.A. van Niekerk, R. Cowling, M.J.C. Horan, D.M. Knoesen,
A. Mills, M. Powell and R.E. Schulze (2010). Baviaanskloof – Tsitsikamma: Payment
for Ecosystem Services: A Feasibility Assessment. Unpublished draft report. SANBI:
Pretoria and Cape Town.
37
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
McGuire, A.D., J.S. Clein, J.M. Melillo, D.W. Kicklighter, R.A. Meier, C.J.
Vorosmarty and M.C. Serreze (2000). Modeling carbon responses of tundra
ecosystems to historical and projected climate: sensitivity of Pan-arctic carbon
storage to temporal and spatial variation in climate. Global Change Biology 6:
SUPP/1: 141-159.
Messerli, B. and J.D. Ives (Edited) (1997). Mountains of the world: a global priority.
The Parthenon Publishing Group, UNU.
Mikkelsen, A. and O. Langhelle (Edited) (2008). Arctic oil and gas. Routledge
Explorations in Environmental Economics. ISBN: 978-0415443302. 394p.
Nahuelhual, L., P. Donoso, A. Lara, D. Núñez, C. Oyarzún and E. Neira (2007).
Valuing ecosystem services of Chilean temperate rainforests. Environment,
Development and Sustainability 9: 481-499.
Ojea, E., P.A.L.D. Nunes and M.L. Loureiro (2009). Mapping of Forest Biodiversity
Values: A Plural. Perspective. Fondazione Eni Enrico Mattei Working Papers, 264p.
URL http://www.feem.it/userfiles/attach/Publication/NDL2009/NDL2009-004.pdf
Orrego-Vicuña, F. (Edited) (2009). Antarctic Resources Policy: Scientific, Legal and
Political Issues. Cambridge University Press. ISBN-13: 978-0521105507. 344p.
Pitt, D. (1995). Water in a Warmer World: An Open Learning Guide. Pacific Press,
Ecotrends 1. ISBN-10: 095834180X. 159p.
Pitt, D. (2010). Ice Scenarios. Pacific Press
Prizborski, P. (2010). Collision calves iceberg from Mertz Glacier Tongue, Antarctica.
Earth Observatory NASA.
Rodriguez, L.C., U. Pascual and H.M. Niemeyer (2006). Local identification and
valuation of ecosystem goods and services from Opuntia scrublands of Ayacucho,
Peru. Ecological Economics 57: 30-44.
Samson, P.R. and D. Pitt (Edited) (2000). The Biosphere and Noosphere Reader:
Global Environment, Society and Change. Routledge. ISBN-13: 978-0415166454.
224p.
Shirihai, H. (2007). A Complete Guide to Antarctic Wildlife: The Birds and Marine
Mammals of the Antarctic Continent and the Southern Ocean. The ultimate
Antarctic/Southern Ocean field guide. A & C Black. 544p.
Snyder, J. and B. Stonehouse (Edited) (2007). Prospects for Polar Tourism, CABI,
Wallingford.
Stoddard, M. (2009). The Circumantarctic Census of Marine Life. International
Polar Year – IPY, ID: 4.
38
第 5 章:生態系サービス及び生物多様性価値評価経済学
Sundberg, S. and T. Söderqvist (2004). ValueBaseSWE: A valuation study database
for environ mental change in Sweden. Beijer International Institute of Ecological
Economics, The Royal Swedish Academy of Sciences, Stockholm. URL
http://www.beijer.kva.se/valuebase.htm
Ten Brink, P., S. Bassi, S. Gantioler, M. Kettunen, M. Rayment, V. Foo, I. Bräuer, H.
Gerdes, N. Stupak, L. Braat, A. Markandya, A. Chiabai, P. Nunes, B. ten Brink and
M. van Oorschot (2009). Further Developing Assumptions on Monetary Valuation of
Biodiversity Cost Of Policy Inaction (COPI). Contract 07.0307/2008/514422/ETU/G1
for DG Environment of the European Commission. Institute for European
Environmental Policy (IEEP).
Thibodeau, F.R. and B.D. Ostro (1981). An economic analysis of wetland protection.
Journal of Environmental Management 12: 19-30.
Thomas, D.H.L., F. Ayache and G.E. Hollis (1991). Use and Non-use Values in the
Conservation of Ichkeul National Park, Tunisia. Environmental Conservation 18:
119-130.
Udvardy, M. (1975). A Classification of the Biogeographical Provinces of the World.
IUCN Occasional Paper 18. Morges, Switzerland.
UNEP-WCMC (2006). In the Front Line: Shoreline protection and Other Ecosystem
Services from Mangroves and Coral Reefs. United Nations Environment Programme
(UNEP), World Conservation Monitoring Centre (WCMC), Cambridge, UK. 33p.
UVM (2008). Ecosystem Service Database (ESD) / ARIES. Developed by University
of Vermont, USA. URL http://esd.uvm.edu/
Van Beukering, P.J.H., H.S.J. Cesara, and M.A. Janssen (2003). Economic valuation
of the Leuser National Park on Sumatra, Indonesia. Ecological Economics 44: 43-62.
Van der Zwaag, D. (1986). Canadian marine resource development in the Arctic.
Canadian Marine Resource Development. In: Archer, C. and D. Scrivener (Edited),
“Northern Waters: Security and Resource Issues”. Royal Institute of International
Affairs: 125-145.
Wilson, M.A., R. Costanza, and A.. Troy (2004). The EcoValue Project. Retrieved from
the University of Vermont EcoValue. URL http://ecovalue.uvm.edu
World Bank (2007). World Development Indicators. World Bank Publications.
ISBN-0821369598.
39
第6章
生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、
倫理性、選択肢
代表主筆:
John Gowdy
主筆:
Richard B. Howarth、及びClem Tisdell
監修:
Cameron Hepburn、Karl-Göran Mäler、Bernd Hansjürgens、
Paulus Arnoldus、Jeff McNeely
2010年3月
目次
主要なメッセージ ......................................................... 1
1 はじめに ................................................................ 2
2 Ramsey割引率等式と世代間厚生 ............................................ 7
3. 割引率、リスク、そして不確実性に関する最近の行動科学的研究文献 ........ 12
4. 非常に長期的に見た場合の生態系と生物多様性 ............................ 17
5. 生態系と生物多様性の価値総額と割引き等式 .............................. 18
6. 低い割引率は保全を促進するか? ........................................ 20
7. 割引きと安全な最低基準 ................................................ 23
8. 生物多様性と生態系の喪失を割り引く際の主要な課題の要約 ................ 26
参考文献 ................................................................. 29
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
主要なメッセージ
z
割引率を選択するための純粋に経済的なガイドラインは存在しない。将来の世代に
対する責任は、倫理性や、将来の世代の厚生に関する最適推測、そして生活機会の
保全の問題である。
z
ゼロからマイナスを含むさまざまな割引率が使用されるべきである。それは、関係
する時間の長さや不確実性の程度、評価対象のプロジェクトまたは政策の範囲など
による。
z
一般的に言って、特定のケースに適用される高率の割引率は、生物多様性と生態系
の長期的劣化をもたらす。5%の割引率は、現在から 50 年後の生物多様性の喪失が
今日の同じ量の生物多様性の喪失の量のわずか 7 分の 1 にしか評価されないことを
意味する。
z
しかし、経済全体に関するより低率の割引率は、より高率の投資と成長、より多く
の環境破壊につながりかねない。
z
割引率の等式という意味では、将来の世代の厚生の程度の推定が、我々が将来のた
めにどれだけ残すべきかを決定する際の鍵となる。政策立案者は、所得、主観的な
厚生、あるいは基礎的なニーズに関する何らかの推測のどれを使用すべきかを決定
しなければならない。
z
割引率の決定において決定的に重要な要因は、g(GDP 成長率)の推計に対する環
境の枯渇(自然資本の破壊)の重要性である。現在の世代は、子孫に伝えられるべ
き貯蓄を食いつぶしていないか?
z
富者と貧者では、生物多様性と生態系サービスに対する直接的な依存度が大きく異
なり、それらの保護に対して負うべき責任も異なっている。
1
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
1
はじめに
生物多様性と生態系の経済的分析における中心的な問題の 1 つは、現在の世代が将来の
世代に対して負う責任の性格をどう考えるかである。すなわち、生物学的資源の現在の
我々による使用は、将来の生活の機会及び子孫たちの生活にどのような影響を及ぼす
か?一般的なアプローチは、持続的発展に関する Brundtland 委員会の定義から始める。
それは、
「 みずからのニーズを満たす将来の世代の能力を損なわないように現在のニーズ
を満たすこと」を強調する(WCED, 1987)。この定義は極めて一般的で、さまざまに異
なった多様な解釈を許す。経済学においては、持続可能性とは、世代を超えた時間的尺
度にわたって人間の厚生を維持することと解釈されることが多い。しかし、生物多様性
や生態系サービス、その他の形による自然資産の蓄積を維持することの重要性を強調す
る経済学者もいる(Neumayer 2003 を参照)。TEEB 中間報告(EC 2008)で検討され
たように、生物多様性と生態系に関する経済学においては、割引率が核心的な問題とな
る。経済学者たちは、さまざまな評価方法を用いてどのようにして生物多様性と生態系
の損失の将来の影響を計算すべきか?このことは、環境的価値を理解しまたは評価する
他のアプローチに、伝統的な費用-便益分析をどのように組み込むかという問題を提起す
る。
資源分配の問題のほとんどについて、経済学者たちは資本投下アプローチを使用する。
それによれば、諸資源は、不確実性やリスク、リスクに対する投資家の態度を考慮して、
最大の見返り率をもたらす投資に対して配分されるべきである。図 1 に示すように、価
値ある樹木を年間 5%の率で生育するに任せるか、あるいはこの樹木を伐採して販売し、
その売上金を銀行に預けるかの選択を前にした投資家がいるとしよう。どちらの選択が
最善かは、銀行が支払う金利によって決まる。銀行が 6%の金利を支払い、木材価格が
一定であると仮定すれば、投資家は樹木を伐採して販売することによって、つまり自然
資産を金融資産に転換することによって、より多くのお金を稼ぐことができる。この簡
単な例は、生物多様性と生態系サービスの他の形態の資産への転換のメタファーである。
生物多様性と生態系を評価するこの簡単なアプローチの欠点としては、以下が指摘され
よう。
(1)
生物多様性の喪失の不可逆性。
(2)
そのような喪失の影響に関するまったくの不確実性。
2
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
(3)
個々人の投資決定と特定社会に属する市民の責任との違い。
(4)
あらゆる形態の資産は原則としてユーロをベースとして相互に置換可能であると
いう暗黙の前提。
(5)
自然資産の再投資は可能であり、また再投資に対する将来の見返りは確実であると
いう前提。
(6)
評価されている変化は限界的であるという前提。すなわち、それは相対的価格を含
む現存する経済的諸条件を大幅に変更しないという前提。
(7)
樹木の価値はその木材としての可能性だけであると想定して、生態系サービスを提
供するその役割は無視する。割引率は逆利率と考えることができる。上記の例にお
いて、問題の樹木はまったく生育せず、金利は 6%であると仮定する。樹木を伐採
せず、樹木を売って得たお金を銀行に預けないとすれば、所有者は年に 6%の損失
を蒙る。これが、金融投資の世界におけるこの樹木の割引率である。
図 1.
価値評価の性格:樹木か、それとも銀行にあるお金か?
ボックス 1:アマゾンを割り引く
アマゾンの多雨林の価値をめぐる議論は、経済的価値、文化的価値、そして生態系として
の価値の違いを浮き彫りにする。アマゾンの生態系サービスは直接的な巨大な市場価値を
生み出している。そこには、エコツーリズムや漁業、多雨林作物、薬品などからの収入が
含まれる。間接的な経済的利益には、気候調整や、まだ発見されていない多雨林産物に対
する選択価値、炭素の蓄積による気候変動の防止などがある。文化的価値には、その先住
民にとってアマゾンがもつ精神的、生命的価値だけでなく、世界の他の地域の人々に対し
3
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
てその存在そのものがもつ価値が含まれる。アマゾンの生態系の独特の、美しい諸特徴を
多少とも知る人はだれでも、その破壊について聞けば、実際にはそれをまったく見たこと
さえなくても、喪失感を覚える。しかし、アマゾンの最も重要な価値は、第 1 章で検討さ
れたように、西半球の気候の調整といった、また生物多様性の世界最大の貯蔵庫としての、
生態系サービスを提供するその役割にあるといってよい。
こうした多層的な価値それぞれにおいて、割引きはどのような役割を果たすべきか?第 1
章の議論が示すように、たとえばダム建設といった開発プロジェクトの費用と便益を評価
する場合、往々にして割引きは、年間の価値は小さいがその影響が無限に続く環境的サー
ビスの喪失のコストに対して、一時的な雇用の創出といった短期的な経済的便益に有利に
作用する。文化的及び生態系的な価値は、価格をつけることが困難あるいは不可能で、し
たがって伝統的な費用-便益分析では除外されるのが一般的である。図 1 で言えば、アマ
ゾンの直接的な生態系サービスは樹木によって表される。仮に、アマゾンの多雨林の一部
が年率 5%の収益に等しい持続可能な生態系サービスを提供し、しかもその樹林を伐採し、
材木として販売し、その売上金を年率 6%で投資することができるとすれば、この場合に
経済的に合理的な行為は、樹林を伐採し、材木として販売し、その代金を銀行に預けるこ
とである。しかしその前提は、投資が安全で、永久的に続くこと、しかも環境的特徴と経
済的投資が完全に代替可能であることである。この樹木が生態系サービスを調整する役割
は無視されている。
マクロ経済学の教科書で説明されている最適経済成長の理論の中心には、資源利用に関
する金融モデルが置かれている(Blanchard and Fischer 1989, Dasgupta and Heal
1974 を参照)。
このモデルの前提は、社会は現在と将来の経済的厚生の加重合計の最大化を追及できる
し、そうすべきである、ということにある。将来の厚生に適用されるウェートは年率ρ %
の割合で低下する。これは、社会の短気、すなわち、コストを将来に先送りしつつ短期
的に便益を得ようとする選好を反映している。不変人口と単一消費財という連続-時間設
定のもとで、このアプローチは社会的厚生機能の最大化のために制約を伴う最適化方式
を使う:
式(1)
4
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
その前提は、短期的及び長期的な厚生を均衡させることを政策決定者に強制する技術的、
経済的、及び環境的な制約の存在である。この設定のもとでは、U は即時的な効用、C
は消費財のフローである i。この等式は、厚生または効用は市場的財貨(または擬似市
場的財貨)の割引きされたフローから得られると特徴づける。異時点間の選択のこのよ
うな特徴づけは、特に生物多様性の喪失や気候変動のケースにおいては、理論的及び行
動学的根拠から疑問視されている(Bromley 1993, DeCanio 2003, Gowdy 2004, Spash
2002)。このモデルはまた、個々人の寿命が有限であるという事実を無視し、ρが現在
の世代の厚生と将来の世代の厚生の間のトレードオフに関する個々人の時間選好と社会
の時間選好の両方を表わすとしている(Burton 1993, Howarth and Norgaard 1992)。
この割引きされた効用の枠組みは、制限的であるとはいえ、数学的には扱いやすい。こ
のモデルが応用経済学において広く適用されているのはおそらくこの事実による。最も
重要なのは、この枠組みが、公共政策の将来の影響の評価における経済的、倫理的、及
び文化的な諸側面を説明するうえで有益であることである。
Beckerman and Hepburn (2007) によれば、効用を割り引くやり方は「動作主関連倫理
性」の理論によって正当化されるという。この理論においては、人は、自分自身とその
直近の家族の厚生に対して、時間・空間的にそれほど近接していない人の厚生に対する
よりも、当然のことのようにより重きを置くとされる。しかし、これより前の Dasgupta
and Heal (1974) は、割引きされた効用規準が、時として、持続不可能な結果を生み出
し、これが道義的なパラドックスをもたらすことを示している。この点については多数
の文献がある。この問題は、たとえば石油といった基本的な、更新不可能な資源に依拠
する経済において生じる。このモデルでは、短期的な経済成長は資源の枯渇をもたらし、
このことが今度は長期的な経済的衰退につながる。こうしたことが生じるのは、政策決
定者の短気のゆえに、資源枯渇のコストを埋め合わせるために必要とされる代替技術へ
の投資が行なわれないからである。
この問題を解決するために、Solow (1974) は、いわゆる「最大」社会厚生関数を提案し
た。これによって、長期にわたって一定水準の厚生を達成できるようなやり方で資源が
配分される。逆に言えば、厚生が長期にわたって一定または上昇してゆくという制約の
もとで式 1 が最大化される(Asheim 1988)。このアプローチにおいては、効用の割引
率は、将来の世代に対する現在の社会の利他的選好、あるいは将来の世代がよりよい生
活を享受できるよう自発的に犠牲を引き受ける意思を表わす。これに対して、非低下効
5
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
用の制約は、後の世代に利用可能な生活の機会を現在の行動が損なわないようにすると
いう道義的義務の認識に基礎を置く(Howarth 1995)。合理的な決定においては道義的
義務が選好の満足を補完するという権利ベースの(あるいは「カント的」な)倫理的枠
組みを前提とすれば、このアプローチは合理的であると考えることができる。
応用研究においては、割引きされた効用の規準は最適資源分配のための十分な基礎とさ
れることが多い。効用の割引率の選択が特に強調される理由である。『スターン報告書』
(Stern 2007)の公刊と、これに続くそのメリットに関する経済学者たちの論争は、実
際に、非常に長期の時間軸と非常に広大な空間的スケールを有する政策の費用と便益を
割り引くことの意味を極めて明快に示した――気候変動と生物多様性の喪失がその主な
例である。スターン論争は、最初は、おもに気候変動の緩和の将来の費用と便益に適用
されるべき「正しい」割引率に集中された(Ackerman 2008, Dasgupra 2006, Mendelson
2006-7, Yohe and Tol 2007)。論争が進行するにつれて、「正しい」割引率の選択よりも
気候変動の経済学のほうが重要であることが明らかになった。何人かの著名な環境経済
学者たちは、不可逆性とまったくの不確実性、そして非常に長期の時間枠によって特徴
づけられる環境問題の分析のためには、標準的な経済モデルが提供する枠組みでは不十
分であるという結論に達した(Dasgupta 2008, Weitzman 2009)。スターン報告書にあ
る気候変動の経済的分析の「基本的な主張」
(第 2 章 25 ページ)は、生物多様性の経済
学的分析にも等しく当てはまる。生物多様性と生態系の喪失の以下のような諸特性は、
将来の割引きを含む標準的な厚生分析の適用を困難にする:
1.
それは、地球的と同時に地方的な結果をもたらす現象である。
2.
その影響は長期的でしかも不可逆的である。
3.
通常、まったく不確実である。
4.
変化は、非限界的で非線形的である。
5.
世代内及び世代間の公平性の問題が中心にある。
新古典派のパラダイムの外で研究を進めてきた経済学者たちは、環境的資源についてす
で に 何 十 年 も 前 か ら こ う し た 問 題 を 指 摘 し て き た ( Boulding 1973, Daly 1977,
Georgescu-Roegen 1971)。興味深いのは、より伝統的な福祉経済学のアプローチを使用
する研究者の政策処方箋と、環境の評価に新しい非正統的なアプローチを要求する研究
者のそれとが収斂しつつあることである。標準的アプローチと代替的アプローチのいず
6
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
れを使用していても、自然のサービスを考慮する段になると、将来における人間の福祉
の維持は、現在における積極的な保全と生態系回復の政策を意味することになる。
本章は以下のように構成される。第 2 節では、Ramsey の割引率等式を使用して、世代
間厚生の経済学的アプローチが検討される。第 3 節では、行動経済学の最近の成果のい
くつかと、割引の問題にとってのその意味が検討される。第 4 節では、極めて長期的な
観点から、生態系と生物多様性の保全の問題が検討される。第 5 節では、生態系と生物
多様性の価値総額という文脈の中で割引率等式が議論される。第 6 節では、割引率が小
さい場合の生物多様性に対するマクロ経済学的意味が検討される。第 7 節では、割引き
と最低限の安全基準の問題、そして生態系サービスと貧困の問題が検討される。そして
第 8 節で結論が提示される。
2
Ramsey割引率等式と世代間厚生
最適成長理論においては、一般的に、式(1)に示された効用関数は、[式]という特殊
な形態をとる。ここでηは効用関数の曲率を反映するパラメーターである。これを前提
とすれば、将来の金銭的な費用と便益は、非率 r で割引きされなければならない。比率
r は、いわゆる「Ramsey 等式」によって決定される。
式(2)
割引率 r は、純粋な時間選好(ρ)、η、及び人口 1 人当たり消費の成長率(g)によっ
て決定される。直覚的に言えば、人は以下の理由から将来の経済的便益を割り引く:(a)
彼らは短気である;(b)自分の所得と消費の水準が上昇することを期待して、将来の消費
1 ユーロは現在の消費 1 ユーロほどの満足をもたらさないと考える。
この等式は不確実性を無視している。そのために、分析は簡素化されるが、そのぶんモ
デルの現実性と説明力が弱くなる。不確実性を考慮に入れれば、要件ははるかに複雑に
なる。この場合、割引率等式には、考慮されている行動の考えられるリスクを反映した
第 3 の条件が含まれることになる(Blanchard and Fischer 1989、第 6 章、及び Starrtt
1988 を参照)。上述のように、純粋な時間選好(ρ)の割引率は、現在生きている世代
7
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
の観点から見た将来の世代の厚生に関する個々人の時間選好と社会の時間選好の両方を
反映すると想定されている。より現実的なモデルは、この両方の効果を区別する。これ
らを一緒にすることは、説明的モデル分析と規範的分析の両方の重要な側面を曖昧にし
かねない(Auerbach and Gerlagh and Keyzer 2001, Howarth 1998, Kotlikoff, 1987)。
ρがプラスの値であれば、それは、他の条件がすべて等しいとすれば、遠い将来に踏み
込めば踏み込むほど、そこに住む人間の厚生は我々にとって価値が低くなる。ρの値が
大きくなればなるほど、我々は将来のマイナスの影響に対して関心が低くなる。純粋な
時間選好のさまざまな値について議論した文献は多数存在するが、今やはっきりしてい
るのは、ρの値を決定するための数量経済学的方法は存在しない、ということである。
純粋な時間選好の比率の決定は、今や倫理性の問題となっている。Ramsey (1928, 261)
は、純粋な時間選好のプラスの比率は、
「倫理的に擁護できず、想像力の貧困から生じる
にすぎない」と主張した。これとは逆の議論もある。たとえば Pearce et al. (2003) は、
プラスの時間選好割引率は観察される事実であるという立場をとる。なぜならば、人び
とは、将来において受け取ることが期待される物事の価値を実際に割引いているからで
ある。Nordhaus (1992, 2007)は、一貫して、市場の金利こそ個々人の時間選好を表わ
す適切な割引率であると主張してきた ii。
Sen (1961)の「孤立パラドックス」は、社会的割引率は市場の収益率に等しくなければ
ならないという議論に疑問を投げかける。Sen によれば、個人投資は個々の投資家によ
っては捕捉されない溢出利益をもたらすことがある。たとえば、自分の娘に遺産を与え
ることは、その娘の配偶者の、さらにはその両親の厚生の向上に貢献する。選好がこの
ように相互に結合されれば、個々人は過少投資をしていることになる。市場のこの機能
不全を是正することは、投資の増大と金利の低下、従って費用-便益分析における割引率
の低下につながる(Howarth and Norgaard, 1993)。しかし、たとえ市場金利を使うこ
とが合意されたとしても、どの市場金利が使用されるべきか?米国では、無数の文献に
よって以下のような事実が指摘されている。すなわち、1920 年代末以降、銀行預金や短
期政府公債などの安全な金融資産はおよそ 1%の平均収益をもたらしてきた。これに対
して企業の株式は、年平均 7%の収益をもたらしてきたが、年ごとの変動がかなり大き
かった。中程度のリスクを伴う資産(たとえば、インフレのリスクが伴う企業社債や長
期政府公債)は中程度の収益をもたらしてきた。(教科書的な権威ある説明については、
Cochrane, 2001 を参照)。従って、割引率の選択には、所定の公共政策に関して認識さ
れる危険性についての判断が含まれている(Starrett 1988)。安全な収益の流れを生み
8
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
出し、あるいは穏当な便益を提供する行動――たとえば、将来の経済的厚生に対する重
大な脅威を引下げるような行動――には、低い割引率が適切である iii。
生物多様性の喪失は世界中の人間に影響を及ぼす。そこには、将来に対する義務につい
て、まったく異なった考え方をする文化の住民が含まれる。さらに、Portney and Weyant
(1994, 4)が指摘するように、「割引率の選択についてガイダンスを求める人は、ゼロな
いしこれに近い比率から 20%といった高比率にいたる、そしてこの両者の中間のあらゆ
る数値について、その正当化事由を[文献中に]見出すことができよう」
(Cole 2008 に
引用)。Frederick, Loewenstein, and O’Donoghue (2004)は、マイナス 6%から 9 万
6,000%にいたる実際の推計値を報告している。ある 1 時点における個人の観点からする
割引率は、人類全体の長期的な利益を反映する社会的な割引率と同じでない、という議
論もある。観察されるプラスの社会的割引率は、将来において受け取られる市場財貨が
現在生きている個人による評価に比べて価値が小さいということを意味するのであって、
それが受け取られる将来の時点において価値が小さいという意味ではない。
我々が将来についてどの程度配慮すべきかを決定する Ramsey の等式のもう 1 つの重要
な要素は、将来の世代の暮らし向きがどうなると考えられるか、である。式(2)が示
すように、標準的モデルは 2 個の要素を使って将来の世代の厚生を特徴づける。すなわ
ち、将来における人口 1 人当たりの所得の成長率(g)と、消費の限界効用の弾性(η)
である。限界効用の弾性は、消費水準の向上に応じて消費の限界効用がどれだけ急速に
低下するかを示す。多くの場合、ηは 1 に等しいと想定される(Nordhaus 1994, Stern
2007)。この場合、ηg は Bernoulli の(対数の)効用関数に対応し、今日の所得の 1%
は将来のいつかの時点における所得の 1%と同価値である(というのは、g はパーセント
変化率だからである)。従って、今日の人口 1 人当たり所得が 1 万ドルで、2100 年の所
得が 10 万ドルであれば、今日の 1,000 ドルは 2100 年の 1 万ドルと同価値である。言い
換えれば、今日 1,000 ドルを犠牲にすることは、2100 年に生きている人の平均所得を少
なくとも 1 万ドル増大させる場合にのみ、正当化されよう(Quiggin 2008)。ηの値が
大きくなれば、今日の犠牲を埋め合わせるためには将来の見返りはそれだけ大きくなら
なければならない。たとえば、ρがゼロに近く、g がプラスの値であれば、ηが 1 から
2 になれば、割引率は 2 倍になる。
パラメーターηにはいくつかの前提が隠されている。それは、普通、前提にあわせて決
9
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
定されるものだからである。ηは、消費の水準とは無関係である、消費の成長率とは無
関係である、また社会的厚生は人口 1 人当たり消費によって特徴づけられる、などと前
提 さ れ る 。 こ う し た 前 提 は 恣 意 的 で あ り 、 主 と し て 便 宜 的 に 採 用 さ れ る ( Pearce,
Atkinson and Mourato 2006)。
ηには少なくとも 3 種類の評価概念がある(Cole 2008, 18)。そこには、一程のリスク
回避、今日の個々人の間の静的な所得不平等に関する道義的判断、そして長期にわたる
動的な所得不平等に関する道義的判断が含まれる。Weitzman (2009)によれば、こうし
た要素の値が割引率を異なった方向へと動かす。一方で、高い値のηは(g と関連して)、
道義性により高い地位を与えるように見える――所得の一定の減少は富める人よりも貧
しい人により大きなマイナスの影響を及ぼす。しかし、仮に、ほとんどの経済モデルが
そうしているように、人口 1 人当たり消費の g が将来も上昇を続けると仮定すれば、大
きな値のηは大きな値のηg を意味し、経済学者が将来の人の所得の低下により低い価
値を与えることを意味する。
ρをほぼゼロとし、η=1 とすれば(Cline 1992 及び Stern 2007 のように)、総割引率
(r)は人口 1 人当たり所得の将来の成長率 g を予測することによって決定される。所
得の成長率は、過去の世界経済のパフォーマンスの予測及び研究者の判断によって得ら
れる。Stern 報告書及び最も広く用いられている気候変動モデルにおける g の値は 1.5%
から 2.0%の間である(Quiggin 2008, 12)。g が高い場合、将来を割り引くことは、将
来に生きる人は現在に生きる人よりも暮らし向きがよくなるという想定によって正当化
される(Pearce, Atkinson and Mourato 2006)。Martinez-Alier は、TEEB 中間報告書
(EC 2008, p.30)において、g の定率成長を想定することは「楽観的パラドックス」で
あると指摘している。連続的成長の想定は、現在のより多くの資源使用とより多くの汚
染を正当化する。というのも、我々の子孫は今よりも良い暮らしをするからである。し
かし、そのような成長は、将来の世代に劣化した環境と低い生活の質を残すことになろ
う。
持続可能性の経済学に対する理解を深めるための主要なステップは、消費または効用の
一定の、あるいは上昇する水準の維持が厚生を生み出す資本財の蓄えの維持にかかって
いる、ということを認識することである(Arrow et al. 2004, Dasgupta and Maler 2000,
Hartwick 1977, 1997, Solow 1974)。従って、低下することのない g の維持は、以下を
10
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
維持することを意味する。すなわち、(1)製造された生産的な物理的資本、(2)人的資本―
―知識、技術的ノウハウ、日常的作業、習慣、慣習――とそれを支える組織、そして(3)
自然資本、である。第 1 章の用語を使用すれば、自然資本の生物多様性の構成要素は、
人間にとっての異なる 3 種類の価値で構成される:
経済的価値 ―市場経済に対する自然からの直接的なインプット。
社会-文化的価値―人類の生物学的、心理学的ニーズを維持するために必要とされる非市
場的サービス。
生態学的価値 ―生態系にとっての価値。たとえば、生物多様性や生態系の健全性を通じ
た進化の可能性の保全。
生物多様性の価値のこれらの階層は第 5 節で詳しく検討される。
特定の技術的な前提のもとでは、g は、外部性及びその他の市場の不完全性について補
正された人口 1 人当たり所得の成長率と解釈することができよう。Dasgupta and Mäler
(2000) は、このような条件のもとで、g はあらゆる形態の資本に対する見返り率と解釈
できることを示した。動的な成長という文脈のもとでは、g は均衡のとれた成長経路に
沿った総要素生産性(TFP)の成長率に相当する。TFP は、生産的インプットの加重成
長率によっては説明されない経済的アウトプットの成長率である。ここで使用されてい
る 3 つのインプットの場合は、
TFP=Q-aMK-bHK-cNK,a+b+c=1
ウェートはインプットコストのシェア。式(3)
たとえば、インプットとして製造資本(MK)、人的資本(HK)、そして自然資本(NK)
を使用する単純なモデルでは、アウトプットの年間成長率を 5%、インプットの増大の
加重平均成長率を 4%とすれば、TFP は 1%となる。環境経済学者たちは、久しい以前か
ら、TFP の推計値(Ramsey モデルにおける g)は自然資本のストックの枯渇を適切に
考慮していないと主張してきた(Ayres and Warr 2006, Dasgupta and Maler 2000,
Repetto et al. 1989)。Vouvaki and Xeapapadeas (2008)は、環境が生産要素として考
慮されなければ(彼らは環境的損害の近似値として CO2 汚染を使用している)、TFP 推
計値が上方に偏ることを発見した。彼らによれば、環境的外部性のコストを内部化しな
いことは、支払いのなされない生産要素の使用に相当するという。エネルギー使用によ
る CO2 汚染の外部的効果だけを自然資本として含めれば、23 カ国中 19 カ国の TFP 推
計値はプラスからマイナスに転化したという。23 カ国の TFP 推計値の平均は、+0.865
11
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
から-0.952 に変化した。この結果は、生産的インプットを提供する自然世界の能力に
対して経済的生産がマイナスの影響を及ぼせば、g がマイナスとなることが十分にあり
え、従って、将来の世代の暮らし向きは悪化する。さらに、CO2 の蓄積以外の環境悪化
の効果を含めれば、g がマイナスとなる可能性はさらに強められる。このことは、気候
変動の緩和のための長期的な経済政策と生物多様性の喪失に対して深刻な影響を及ぼす。
純粋な時間選好と消費の弾力性に関していくつかの合理的な前提を置けば、マイナスの
g は、将来の世代の厚生により多くを投資するために、現在の世代はより少なく消費す
べきことを意味する。
将来の世代の厚生は人口 1 人当たり消費によって特徴づけられるとする前提をひとまず
おく――たとえば、g は主観的な厚生を表わすと考える(Kahneman, Wakker and Sarin
1997)ことによって――とすれば、マイナスの g を考慮すべき理由はさらに強くなる。
主観的厚生に関する諸研究の最も重要な結論は以下のとおりである。(1)人口 1 人当たり
NNP といった伝統的な経済指標は厚生の尺度としては不適切である。(2)所得の変化の
効果は個々人の相互間の比較と相対的な位置によって決まる。(3)人間には自分の厚生に
関する共通の、明確な、生物学的及び心理学的な特徴がある(Frey and Stutzer 2002,
Layard 2005)。このような指摘は、持続可能性に関する議論にとって直接的な意味を有
し、世代間厚生と生物多様性保護の諸政策を導くことが可能である。人間は生物多様性
から経済的な便益を得ているが、心理学的、美学的な便益は市場価値によって適切に捕
捉することはできない(Wilson 1994)。生物多様性のこうした貢献は、すべて急速に消
滅しつつあって、将来の厚生(g)の推計において考慮されなければならない。Dasgupta
(1995)は、さらに、環境の劣化、生物多様性の喪失、貧困、そして人口成長との間に、
おのずと強化されてゆく結合関係を見出している。
3
割引率、リスク、そして不確実性に関する最近の行動科学的研
究文献
行動経済学の研究結果は、人間が将来の費用と便益を比較する際の方法に関する理解を
非常に大きく広げた。人間行動に関する重要な研究結果として、以下があげられる:
損失回避――損失に対しては、等量の利得よりも高い価値が付与される。図 2(Knetsch
12
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
2005 による)は、人間が損失を回避すること、すなわち、ある参照基準から利得と損失
を評価して、損失に対して等量の同じ事物の利得に対するよりも高い価値を認めること
を示す、無視できない証拠を明らかにしている(Kahneman and Tversky 1979)。この
ことは、支払う意思(WTP)と受容する意思(WTA)という環境的変化の 2 つの尺度
の乖離という、広く報告されてきた事実においても確認される(Brown and Gregory
1999)。生物多様性の喪失の評価にとってのこのことの意味ははっきりしている。標準
的な効用理論の文脈内においてさえ、生物多様性の喪失に要求される補償(WTA)は、
この喪失について推計される市場価値(WTP)よりもはるかに大きくなる可能性がある。
価値または
効用
損失
図2
参照基準点
利得
参照基準点と比較した損失または利得の価値
双曲線的割引き――いくつかの証拠は、人間が将来を双曲線的に割り引くことを、すな
わち、図 3 に示すように、割引率は最初は下降して、やがて平準化し、一定時間後には
何かの現在の価値がもはや大幅には低下しなくなることを示している(Laibson 1997)。
割引率
時間
図3
双曲線的割引き
双曲線的割引きの存在は、標準的な経済分析が生物多様性の保護の長期的な便益をはな
はだしく過小評価している可能性を示す。割引きが双曲線的に行なわれ、明言された選
13
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
好が尊重されるべきであるとすれば、生物多様性の喪失によって引き起こされるような
遠い将来の環境被害の価値の評価に当たっては、直線的な割引きは使用されるべきでは
ない。双曲線的割引きは理論的文献では広く議論されていて、政策的勧告にも一定の影
響を及ぼしている。Cropper and Laibson (1999) は地球温暖化の場合について双曲線的
割引きを使用することを勧告し、Chichilnisky (1996) は持続可能な開発に関する自分
のモデルに双曲線的割引きを使用している。福祉経済学の肯定的な特徴のひとつは、そ
れが個々人の選択を尊重することである。仮に、個々人が現在から 50 年後に存在する
生物多様性と 100 年後に存在するそれとに同一の価値を与えることを選択するとすれば、
経済学者たちはこの選好を尊重しなければならない。もちろん、個々人が双曲線的に割
引いているからといっても、このことは社会的割引率もまた双曲線的でなければならな
いという意味ではない。
Beltratti, Chichilnisky and Heal (1998) は、更新可能資源について「グリーン黄金率」
を使用することを提案している。すなわち、短期的には市場の割引率に近い率を使い(従
って現在の割引率は使わない)、長期的には漸近的にゼロに近づく率を使う(従って遠い
将来の割引率は使わない)ことである。同様に、Weitzman (2001) は彼が「ガンマ割引
率」と呼ぶところのものを使用するよう提案している。すなわち、直近の将来について
は約 4%の割引率を、遠い将来については緩慢にゼロに近づく割引率を使うことである。
首尾一貫性に欠けた割引き――Rubinstein (2003) は、双曲線的割引きが多くの経済学
者によって受け入れられているのは、それが標準的な経済分析の純現在価値の枠組み内
部に簡単に組み込めるからであると指摘している。彼によれば、証拠が示すところ、よ
り大きな問題は双曲線的割引きではなく、首尾一貫性に欠けた割引きにあるという。人
びとは、異なった種類の帰結に対しては異なった割引率を適用するように見える
(Loewenstein 1987)。人が同じような事物の割引きにおいてもまったく首尾一貫しな
いことは、多くの証拠から明らかである。首尾一貫性に欠けた割引きは、個々人が将来
の何かよりも現在の何かを選好する一般的な傾向について正確な数値を与えようとする
試みに、一定の制約を課す。
資産プレミアムの謎――Mehra and Prescott (1985) によれば、割引き効用モデルは、
安全な投資から得られる低い見返りと企業株式のようなリスクの高い資産が提供するは
るかに高い平均収益率との間に観察されるギャップとは、いちじるしく整合性を欠くと
いう。Mankiw and Zeldes (1991) の計算によれば、この収益率の格差によって示され
14
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
るリスク回避のレベルは、5 万ドル支払うか 10 万ドル支払うかにも等しいような賭け
(期待値は 7 万 5,000 ドル)と 5 万 1,209 ドルの確定支払いの違いに対して投資家が無
関心であることを意味するという。
安全な資産に対する市場収益率の低さを説明するためには、ρとηがゼロに近い値をと
ることが必要である(Kocherlakota, 1996)。一方、株式が支払うハイリスク・プレミア
ムを説明するためには、投資家がリスクを高度に回避することが必要である。このこと
は、データと一致するためには、ηがプラスの高い値を実現しなければならないことを
意味する。理論的には、このことは割引き効用モデルが経験的な観察事実と深い意味で
不整合であることを示唆する。この点は、割引率計算のための式(2)の重要性を弱め
る。この格差を説明するためにいくつかのアプローチが提唱されている(Kocherlakota
1996; Cochrane 2001 を参照)。いくつかのモデルは、リスク選好と異時点間代替の弾性
を区別するために、選好を拡大する。他のモデルは、選好は習慣形成や相対的な消費効
果によって形成されると想定する。第 3 の仮説によれば、投資家は投資の利得と損失に
関しては損失回避であるとする(Benartzi and Thaler 1995)。この効果を効用関数に含
めることは、社会的割引率を市場収益率から切り離すことに役立つ(Howarth 2009)。
この場合、公共政策は、たとえ高度の不確実性を含む場合であっても、リスクのない収
益率に近い比率で割引きされなければならない。
不確実性のもとでの割引き――理論的には、将来に関する不確実性が大きければ、それ
だけ確実性相当の割引率が小さくなる傾向にあると考えてよい(Gollier, 2008)。これは、
安全な資産への投資は、将来の経済的厚生に関連するリスクを引下げて、たとえ見返り
率が低いとしても投資家にとっては魅力的となるからである。Newell and Pizer (2003)
は、ランダムウォーク・ミーンリバーティング・モデルを使って、遠い将来に至るまで、
不確実性の補正率を測定する確実性相当割引率を計算した。その結果を気候変動シナリ
オに当てはめれば、緩和努力の現在価値はほぼ 2 倍になった。Hepburn et al. (2009) は、
この結果を延長して、米国の金利の自動回帰的な体制転換モデルを推計し、不確実性補
正割引率がより急速に低下することを見出した。不確実性の割引きに関する最近の文献
の多くは気候変動を対象としているとはいえ、不確実性は生物多様性の喪失の厚生効果
の場合にもごく一般的で、このことは、生物多様性と生態系サービスの将来の喪失の評
価においても、より低い割引率が使われるべきことを示唆している。
15
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
割引きと相対的価格――割引率は集合的消費財に適用されるが、そこには、あらゆる財
貨の価格は同じ比率で変化するという暗黙の前提がある。しかし、生物多様性は典型的
な消費財とは異なる。少なくとも 2 つの理由――希少性の高まりとその置換可能性の限
界――から、生物多様性の相対的な価値の変化率の計算は、典型的な消費財の価格の決
定とは異なるだろう(Cameron Hepburn、個人的通信)。Sterner and Persson (2008, 62)
は次のように述べている:
簡単に言えば、経済の各セクターによって成長率が不均等であるために、経済的アウト
プットの構成は時間とともに不可避的に変化する。何かの物的財貨(たとえば携帯電話)
のアウトプットが増加し、その一方で環境的な財貨とサービスへのアクセス(たとえば、
清浄な水や雨水利用の農産物、あるいは生物多様性へのアクセス)が減少すれば、これ
らの環境的アメニティの相対的な価格は時間とともに上昇するはずである。
このことは、生物多様性の喪失による損害(あるいは生物多様性の保全による便益)の
推計値は時間とともに上昇し、それはプラスの割引率の影響を相殺するほど大きくなり
うることを意味している。そうだとすれば、生物多様性と生態系の量を増やすことは、
経済的に正当化されることになる(Hoel and Sterner 2007)。
リスク回避と保険――多くの証拠は、ほとんどの人間がリスクを回避することを示唆し
ている(Kahneman and Tversky 1979)。このことは、生物多様性と生態系の喪失の評価
にとって重要な意味をもつ。気候変動のケースにおいても、いまだ知られていないとは
いえ、生物多様性の喪失が人間の厚生に破滅的な影響を及ぼす現実的な可能性が存在す
る。生物多様性の喪失の影響を予測するために、Paul and Anne Ehrlich (1997) は「リ
ベット抜き」のアナロジーを使っている。航空機の機体は、一定数のリベットが抜け落ち
てもただちに危険にさらされることはない。しかし、いったん臨界的な限界に達してし
まうと、航空機は不安定となり、墜落する。同じように、生態系は一定範囲のストレス
が加わってもみずからを維持することができる。しかし、ある限界を超えると、それは
高度の生物多様性を有する安定した状態から、低次の多様性の別の安定した状態へと急
変する。Weitzman (2009) は、見逃された温室効果のわずかな、しかし重要な可能性の
例を使って、積極的な気候変動緩和政策の必要性を説いた。Weitzman のこの説明は、
いったん限界域を超えれば生態系が崩壊する可能性を考慮すれば、生態系サービスにも
適用可能である。
16
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
4
非常に長期的に見た場合の生態系と生物多様性
多くの経済学者が、生物多様性の喪失のような地球的規模の遠大な問題に割引きを適用
することの適切性に疑問を呈している(たとえば、Spash 2002、第 8 章及び 9 章)。人
類の存在は、究極的に生物網の維持に依存しており、その中で人間は他の生物種と共同
で進化しているのであって、従って、生物多様性の総体に割引された「価格」をつける
という考えはばかげている、と。環境的変化に適応する能力はホモサピエンスの最も驚
嘆すべき特性の 1 つであるという反論もあろう(Richerson and Boyd 2005)。しかし、
現在と今後に予測される環境変化は人類史上例を見ない。過去 100 年余りの人間の活動
は、天体地球の生物学的進化のコースを根本的に変えてしまった。「国際自然保護連合」
の調査によれば、哺乳類の 4 分の 1 が絶滅に瀕している(Gilbert 2008)。控えめな推計
によっても、鳥類の 12%が脅かされており、両生類の 30%、そして爬虫類の 5%もそう
である。とりわけ危機的なのは、世界の大洋の状態である。大洋が直面する人間による
脅威は Jackson (2008, 11458) が以下のように要約している。
今日、人間の諸活動の相乗効果は、大洋において、人類が創出する巨大な大量絶滅に向
けた舞台を準備しつつある。それは、未知の生態学的、進化的帰結をもたらそう。生息
環境の破壊、過剰漁獲、外来種の導入、温暖化、酸性化、有害物質、そして栄養物質の
大量流出は、サンゴ礁のようなかつては複雑だった生態系を単調な平らな海底に変え、
透明で豊かな海岸を酸素欠乏の死の海に変え、大型動物を頂点とする複雑な食物連鎖を
細菌の支配する生態系に変えてしまった。ここでは、有毒渦鞭毛虫ブルームやクラゲ、
疾病の大量発生のサイクルが繰り返す。
経済的持続可能性(経済的アウトプットを減少させないために必要とされる資本ストッ
クの維持)に関する Solow-Hartwick のアプローチに従った生態系モデルを考えれば、
生物多様性を維持するための「生態系資本」が急速に枯渇しつつあることはおそらくほ
ぼ確実であろう。この問題を研究する生物学者や古生物学者たちが正しいとすれば、地
球は、およそ 5 億 7,000 万年ぶりにこの天体上の複雑な生命の第 6 回目の絶滅期に入ろ
うとしている。
過去の大量絶滅からの生物多様性の回復には 500 万年から 2,000 万年を要した(Ward
1994, Wilson 1998)。地球の生物相は過去の大量絶滅によって不可逆的に再編成された
(Krug, Jablonski and Valentine 2009)。現在の大量絶滅の最終的な結果が、過去の大
17
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
量絶滅の後がそうだったように、より豊かで、生物学的により多様な世界であったとし
ても、人間がそれを見ることはないだろう。人間がもたらす生物多様性の喪失は、人類
が地球というこの天体上に存在し続ける限り、人類とその他の生物種の進化を制約する。
このような展望は、将来の世代に対する今日の影響の評価方法について、まったく新し
い種類の問題を提起する。すなわち:
機能的透明性(Bromley 1989)――生態系におけるある特定の生物種の役割は、多くの
場合、それがなくなってはじめて明らかとなる。変化は、非直線的で不可逆的である。
地元経済に対するその影響は破滅的である。乱獲による北方のタラ漁の崩壊がその典型
例である。ニューファウンドランド島に住む 4 万人以上が仕事を失い、タラ漁の全面的
中止から 15 年たった今もそれは復活していない。
遺伝子多様性と生態系多様性の保全(Gowdy 1997)――進化の潜在力は、将来の条件の変
化に対応する生物種または生態系の能力である。将来の条件はその多くが予測不可能で
ある(たとえば、気候変動の生物多様性に対する影響)。しかし、一般的に言って、生態
系の多様性が大きければ、それだけそのシステムは大きな弾力性を有している(Tilman
and Downing 1994)。
将来の世代のために選択肢を残す(Page 1983, Norton 2005)――持続可能性の金融モ
デルは、生物多様性を商品生産のためのインプットとして扱う。たとえ消費者効用の概
念を拡大して存在価値といった概念を含めるとしても、このモデルの参照基準は依然と
して産業市場経済である。今日の生物多様性の喪失と生態系サービスの撹乱の影響は 1
千年にわたって続く。そこで問題はこうなる――将来の世代の経済/価値/ニーズがど
のようなものとなるかを予測することは不可能であるとすれば、彼らに何を残すかを社
会はどのようにして決定するのか?
5
生態系と生物多様性の価値総額と割引き等式
生態系と生物多様性の価値総額は不明であるが、その人間にとっての究極的な価値は論
理的には無限大である。というのも、それがある限界点以下にまで減少すれば、人類は
生存できなくなるからである。生物多様性の価値には、市場価値から、人間にとっての
非市場価値、さらには生態系の価値といった、いくつもの位階的な層があると考えるこ
18
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
とができる。生物多様性の価値のこのようなさまざまなレベルの存在は、その使用と保
全のための適切な政策の決定のために、多元的で弾力性にとんだ方法論が必要とされる
ことを意味している(Gowdy 1997)。
生態系と生物多様性の経済的価値
経済的価値には、エコツーリズムや余暇活動を含む生物多様性の直接的な経済的貢献の
価値と、作物や漁業、森林などの直接的な生物学的インプットの価値が含まれる。これ
らの価値は非常に大きいと考えることができる。たとえば、Geist (1994) の推計によれ
ば、ワイオミング州の大型狩猟獣がもつ観光から狩猟にいたる直接的な経済的価値は 10
億ドルを超え、大型獣 1 頭につき約 1,000 ドルになるという。偶発性評価や快楽価格、
その他の経済的評価ツールが示す証拠は、明らかに生物多様性と生態系の重要性を強調
しているとはいえ、それらが与えるその価値の推計値は、不完全で下方に偏っている
(Nunes and van den Bergh 2001 を参照)。
経済的に価値のある生物学的資源はどのような比率で使用されるべきかは、社会的割引
率、すなわち上の等式(2)の r によって決まる。この比率は、自然資本のストックを現
在の消費と将来の消費との間でどのように分割すべきかを(理論的に)決定するための
方法である。
生態系と生物多様性の社会-文化的価値
生物学的世界は、実証的に測定が可能なやり方で人間の精神的な厚生に貢献している
(Kellert 1996, Wilson 1994)。しかし、主観的な厚生の測定値は、伝統的な社会的厚生
の枠組み内では適切に評価することができない(Norton 2005, Orr 2005)。自然との交
流の精神的、文化的、美的、その他の貢献は、Bentham/Kahneman の厚生の効用の概
念のようなより包括的な概念の中に含めることができよう。
生物多様性の非市場価値を考えることは、将来の世代のために何が残されるべきかの問
題に答える助けとなろう。将来の人間には自然と交流する同じ精神的必要性はないと考
えるべき何かの理由があるだろうか?雨林の中の散歩は 1 年後、50 年後、あるいは 100
年後に生きる人間よりも現在に生きる人間にとって価値が大きいと信じるべき何かの理
由があるだろうか?合理的に考えれば、そのような理由は存在しない。生物多様性のこ
の側面の適切な割引率、すなわち生命愛の純時間的選好は、ρ=0 である。このような
19
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
文脈におけるρのもう 1 つの興味深い解釈は、自分がいったいどこにいるのかがわから
な い Rawls 流 の 無知 の ベー ル の 背 後に 置 か れ たと き の 割 引率 と 考 え るこ と で あ る
(Dasgupta 2008)。
生物多様性の生態系に対する生態学的価値
生物学的に多様な生態系は、多様性に劣る生態系に比べて環境的ショックに対してより
弾力的であるように見える(Tilman and Downing 1994)。ただし、弾力性と生物多様
性の相互関係は複雑である(Robinson 1992)。また、人間の活動が全地球の陸上及び海
洋の生態系を劣化させてきたことははっきり証明されている。割引きルールを拡大する
ことは、生態系の一体性そのものを含むところまでそれをさらに拡大することであると
考えてよいのか?人間の存在は、長期的には、わが生態学的環境の維持にかかっている
がゆえに、これは合理的である。割引き等式(2)において、「g」を想定することは、
地球の生物多様性と生態系のストックの変化を想定することであると考えられる。気候
変動や土地の開拓の継続、世界の漁業資源の利用の継続とともに、g は今後数十年のう
ちにマイナスになる可能性がある。ηを生態系の状態の限界的な変化の値と仮定しよう。
ηのこの値は、生態系が劣化すればするほど大きくなる(環境の状態の変化の影響を受
けやすくなる)可能性がある。従って、生態系に適用されるηg の値は、将来はマイナ
スに向けて、大きく漸増するようになる可能性がある。このことは、将来の生態系の改
善のために、今日、大きな犠牲を払うことを意味する。今日の世代は、相続した自然資
本の多くを費消することによって繁栄してきた。倫理的には、現在の世代はその遺産の
再建を将来の世代に負っている。
6
低い割引率は保全を促進するか?
割引率はまた、マクロ経済レベルにおける投資と経済パフォーマンスとも関係し、従っ
て生物多様性と生態系に影響を及ぼす。マクロ経済的レベルでは、金利(割引率の鏡像)
と生物多様性保全の程度との間にはっきりした関係性は存在しない。低金利は、生物多
様性の高度の喪失と結びつきうるし、高金利もまたそうである。ここから、人為的な資
本への投資の水準は、生態系の撹乱と生物多様性の喪失を導く主要な要因とみなされる
べきかという問題が生じる(Tisdel 2005, p.250)。製造資本の蓄積が生物種の喪失をも
たらす主要な要因であることは、久しい以前から指摘されてきた(Harting 1880, p.209;
Swanson 1994; Tsidel 1982, p.378; 1991)。製造資本は、「土地」(生物多様性と生態系
20
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
の直接的使用、及びその間接的な破壊)と労働を用いて生産されたインプットである。
単純化のために、実質金利は、投資のために融資が可能な資金に対する需要と、貯蓄の
結果としてのこれら資金の供給だけによって決まると仮定する。さらに、この需要と供
給の曲線は正常な傾きを有するとする。このようなケースにおいては、第 1 に、金利の
上昇は、他の条件を不変とすれば、融資可能な資金に対する需要の高まり(資本の限界
効率の上昇の結果としての)によって、あるいは他の条件は変わらないとすれば、貯蓄
の意思の低下によって、生じることが可能である。この 2 つの状況を表わしたのが、そ
れぞれ図 4 と図 5 である。図 4 に示されたケースでは、融資可能な資金に対する需要は
D1D1 から D2D2 へと上昇し、これら資金の供給曲線は S1S1 に示されるように変化し
ないままである。融資可能な資金の市場における均衡点は E1 から E2 へと変化し、金
利は r1 から r2 へと上昇する。投資される資金の量は X1 から X2 へと増大する。以上の
結果は、生物多様性の保全にとって不利である。というのも、その帰結として、より多
くの資本蓄積と、自然資源の人為的な資本への転換が生じるからである。他方で、図 4
に示されたケースでは、金利の上昇は投資水準の低下と結びついていて、それゆえに生
物多様性の保全に有利である。
金利
融資可能な資金の量
図4
金利の上昇が人為的な資本への投資水準の上昇と結びついているケース:その結
果は、生物多様性の保全に対して悪影響が及ぶ可能性である
このケースにおいては、融資可能な資金に対する需要曲線 D1D1 は不変であるが、融資
可能な資金の供給意思を示す曲線は低下する。当初は S1S1 だったのがその後は S2S2
となった供給曲線がこれを示す。市場均衡点は E1 から E2 に移行し、金利は r1 から r2
21
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
に上昇する。しかし、このケースにおいては、投資の水準は X1 から X0 に低下し、その
結果は生物多様性の保全にとって有利である。
逆の結果も生じうる。図 4 に示されたケースにおいて需要曲線が上昇せず、逆に低下す
れば、金利は低下するが投資もまた同じように減少する。他方で、融資可能な資金の供
給曲線が、図 5 に示されたケースのように下方に移動すれば、金利は低下するが投資の
水準は上昇する。先のケースにおける金利の低下は生物多様性の保全にとって有利であ
るが、後者のケースではそうではない。
もっと他の事例を示すことも可能である。しかし、マクロレベルでは、金利の変化は(状
況次第で)人為的な資本への投資の水準の低下と上昇のどちらとも結びつきうることを
示すためには、上記の事例で十分である。仮に、人為的な資本への投資が生物多様性と
生態系の保全に対する主要な脅威であるとみなされるとすれば(合理的な仮定である)、
実質金利の水準は生物多様性の保全の程度に密接には関連していないと結論することが
できる。このことは、マクロ経済的レベルにおいては、生物多様性の保全に主たる影響
を及ぼす要素としては、金利よりも人為的な資本の水準の変化が注目されるべきである、
ということを示唆している。
金利
融資可能な資金の量
図5
金利の上昇が人為的な資本への投資水準の低下と結びついているケース:このケ
ースは、生物多様性の保全にとって有利である可能性がある
22
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
しかしこのことは、資本蓄積の決定要因の理解のためには限定的な意味しかもたない。
たとえば、貯蓄と投資の水準は所得総額が増大すれば上昇する傾向にある。投資は、そ
の経済成長に対する影響のゆえに、さらなる資本蓄積のための基礎となる――所得の増
大は貯蓄と投資の水準を引き上げる。産業革命以降の巨大な資本蓄積は、生物多様性の
保全に対して極度の悪影響をもたらしてきた。
Keynes(1936、第 16 章及び第 24 章)は、現代においては、その限界効用がゼロとな
るところまで資本が蓄積されることが可能だと考えた。しかし、もちろん、彼の頭にあ
ったのは製造された資本だけである。その結果、Keynes の頭の中では、金利はゼロあ
るいはこれに近くなる。しかし、このような静的な状態が実現されるためには、自然資
源の人為的な資本への巨大な転換が必要とされると考えなければならない。それは、生
物多様性の重大な喪失をもたらす。従って、この事例におけるゼロ金利は生物多様性の
大幅な喪失と結びつく可能性がある。以上の考察は、スケール(経済全体、地方の地域
社会、あるいは個々人といった)、時間枠(直近あるいは遠い将来といった)、そして考
慮されるべき所得グループ(豊かか貧しいか)に応じて多様な割引率が必要とされると
いう、TEEB 中間報告書(EC 2009)の立場の正しさを確認する。
7
割引きと安全な最低基準
資源経済学は、長いあいだ伝統的に、開発の便益には高い割引率を、その開発による環
境的損失には低い割引率を適用してきた。Fisher and Krutilla(1985)は、開発プロジ
ェクトの純現在価値を推計するために、以下のように要約される等式を提案している。
式(4)
ここで、D は開発の価値、P は保全の価値である。この式においては、開発の便益の時
間の経過による減価を反映させるために、開発の便益に適用される割引率に k という係
数が追加されている。同じ趣旨で、保全の便益に適用される割引率から係数 h が差し引
かれている。ここで h は、時間の経過によってもたらされる環境サービスの価値の増大
を表わすものとされている。その基礎には、稀少な非市場財貨に対する支払いの意思を
高める物的繁栄の拡大がある。これらの割引率がどの程度まで調整されるべきかを厳密
23
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
に決定するための、確実かつ手軽なルールといったものは存在しない。
以上のような現状におけるこのような偏差の存在は、安全最低基準(SMS)と予防原則
という概念を支持する。SMS アプローチ(Bishop1978)は、そのためのコストが「不
当に高い」ものでない限り、不可逆的な環境上の損害は回避されるべきであることを明
示的に認識している。この概念は、単一の金銭的尺度に依存していないがゆえに、必然
的に曖昧である。それは、以下のことを認識している。すなわち、環境的損失に対して
はプレミアム付きの割引率が適用されるべきである、経済的利得はもっと厳しく割引か
れるべきである、環境的損失の判定には多大の不確実性が含まれている、製造財貨によ
って自然資源を代替することには限界がある、など。
権利ベースの、あるいは義務論的な価値が広く支持されている。これは多数の評価研究
が示すところである(Lockwood 1998, Spash 1997, Stevent et al. 1991)。将来の世代
に影響を及ぼす政策の評価においては、権利ベースのアプローチが特に適切である
(Howarth 2007, Page 1983)。将来の世代には、清浄な大気やきれいな水、変化に富ん
だ魅力ある環境をもつ権利はあるか?将来の世代は、
「等しい価値の」何かによって補償
されないまま何かを永久に奪われることに現在の世代以上に好意的であろう、と考えて
よい理由は何も存在しない。持続可能性に対する権利ベースのアプローチは、トレード
オフと代替可能性に関する福祉概念から、かけがえのなさと不可逆性という相互に関係
する 2 つの観念に移行する。Bromley (1998, 238)がこう書いている。「社会的遺産を通
して将来を見ることは、どれだけではなく、何をこれから来るものに残すかを決める議
論へと分析上の問題を転化させる」。何を残すべきかという問題は、また、限界的な分析、
さらには資源の相対的な量だけに対する関心から、非連続的な変化と、進化の文脈にお
ける人類の基礎的な生物学的必要性の検討へと移行させる。
豊かな者だけが環境の質に関心をもつ贅沢を許されている、とはしばしば指摘されるこ
とである。これは、Inglehart (1990) や krutilla (1967) その他のいわゆる「ポスト唯
物論」のテーゼである。Martinez-Alier (1995) がこのテーゼの 2 つの欠陥を指摘して
いる。第 1 に、連続的な物質的成長は環境の劣化を意味する。そして第 2 に、世界の貧
者はその生活手段の大きな部分を生態系から直接得ている(薪、水、魚、猟獣)。「貧者
の GDP」(EC 2008)は過少に評価されている。というのも、その非常に多くが自然か
らの価格のないインプットに依存しているからである。それにもかかわらず、一般に、
24
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
市場金利と投資機会に基づいて生物多様性と生態系を保全すべきかどうかを決定するの
は富者である。他方で、貧者は生態系サービスの流れの保全に重大な利害を有するにも
かかわらず、その一方で世界の貧者の多くは極めて絶望的な状態に置かれていて、この
ことが彼らの割引率を非常に高くしている。文化的な相違もまた決定的に重要である。
これは、富者と貧者の間だけでなく、世界の極貧層の多様な文化の間でもそうである。
伝統的文化は自然世界を畏敬するが、自然に対する特殊な行為や文化的態度はさまざま
に異なっている。同様に、環境に対する富者の態度にも大きな相違が存在する(Bandara
and Tsisel 2004)。
表 1 は、こうした一般的事実を割引率に転換しようとするおおざっぱな試みである。こ
こで言う「富者」とは、北米、日本、そしてヨーロッパの中流から中上流クラスの住民
である。世界の最も豊かな層の大部分はこのカテゴリーには入らない。
「貧者」とは、一
般的に、1 日を 1 ドル未満で暮らす世界の 10 億前後の住民である(世界銀行の推計値)。
このグループはまた、非均質的である。要するに、
「割引率」によって将来の世代に対す
る責任を特徴づけることは、人間の文化の微妙さや、厚生の多数の要因の非均質性、あ
るいは地球上におけるホモサピエンスの将来に関する不確実性などを正当に評価しない
ことである。
25
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
表1
生活機会と割引率に関する一般的観察
生態系サービス
製造された資本
貧者
ρ=伝統的文化の場合は低
ρ=低い。将来の世代のた
い
めに資本ストックを維持す
る
ρ=厳しいストレス下にあ
ρ=プラス――ストレス下
る文化ではプラス
にある文化は資本ストック
の維持に投資することがで
きない場合がある
η=非常に高くなる可能
η=非常に高い
性。消費の増加分のすべて
が厚生を高める
g=極貧層の場合、マイナスとなる可能性(環境的諸条件
の悪化のために将来の世代の暮らし向きは低下する。しか
しこのことを経済的決定において考慮することはできな
い)。ng が大きくなるように g の値は 1 であると考える。
富者
ρ=0(将来の世代に対する倫理的
ρ=0 または(‐)。将来のために自
責任)
然資本ストックを維持ないし増大さ
せる
η=プラス。より高い所得は環境
η=0 またはマイナス。より多くの資
的財貨に対する所得弾力性がより
本はより多くの消費を意味するが、
大きいことを意味する
厚生の増大は意味しない
g=非常に豊かなものにとってはマイナス。過去の自然資本の破壊を埋め
合わせるためである。また、たとえ将来の世代がより多くの物的富をもつ
としても。
このことは、彼らには多くの生物多様性は不要ということか?
8
生物多様性と生態系の喪失を割り引く際の主要な課題の要約
経済学者たちは、ほんの数年前まで、環境的な諸特徴の将来の価値を捕捉する標準的な
経済モデルの能力に深い確信を抱いていた。しかし、現代の最も急を要する 2 つの問題、
26
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
すなわち生物多様性の喪失と気候変動をめぐる最近の論争は、自然の世界の本質的かつ
かけがえのない諸特徴を評価するために利用が可能な純粋に経済学的なガイドラインと
いったものは存在しないことを明らかにした。将来の世代に対する責任は、世代間及び
世代内の倫理や、将来に生きる者の厚生に関する最善の推測、そして人類とその他の生
物世界の生きる機会の維持という問題である。Ramsey 等式をめぐる議論が明らかにし
ているように、経済学は貴重な洞察を提供することができるが、経済的な価値は、究極
的には、生物多様性と生態系の価値全体のごく 1 部を構成するにすぎない。割引きの行
為は、何よりも、特定の時点で稀少な資源をどのように配分するかを決定しようとする
個々人に適用される。一般的に言って、個々人は将来よりも「今」の時点で何かを得た
いと考える。もちろん、何らかの期待はある(たとえば、予測の価値)。プラスの割引率
が支持されるのは主としてこのためである。しかし、ふたたび一般的に言って、高い割
引率は生物多様性と生態系の長期的な劣化につながる。たとえば、5%の割引率は、50
年後の生物多様性の喪失が今日の生物多様性の喪失の額のわずか 7 分の 1 にしか評価さ
れないことを意味する。ここから、以下のような観察が出てくる:
1.
ある 1 時点での個々人の割引率と社会的割引率の間には根本的な相違が存在する。
Ramsey の等式(上述の式(2))は、この相違を説明する助けとなる。将来の世代
に対する倫理的な責任は部分的には、ρ、すなわち純粋な時間選好の比率によって
捕捉される。経済学者たちの間で依然として大きな見解の相違があるとはいえ、ρ
はゼロに近くあるべきだというのが大勢であるといってよい。これは、別の人より
もたまたま遅く生まれてきたある人の厚生に対してより低い価値を与えなければな
らない理由はない、ということを示す。
2.
割引きの等式について言えば、将来の世代の暮らし向きはどうであるべきかの推
計(g)は、我々が将来にどのくらい残すべきかを決定する際の核心的な要因であ
る。我々が使用すべきは、所得なのか、主観的な厚生なのか、それとも基礎的ニー
ズに関する何かの推計値なのか?g には、人間に効用をもたらすすべてが含まれる
べきである。そこには自然の無形の便益も含まれる(Dasgupta and Mäler 2000)。
しかし実際には、厚生の近似値として普通は人口 1 人当たり消費が使用される
(Stern 1007)。
3.
割引きに際して極めて重要な要因の 1 つは、人口 1 人当たり消費 g の将来の成長
27
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
率の推計にとって環境の消耗(自然資本の破壊)がもつ重要性である。いくつかの
証拠は、現在の世代が後代に伝えられるべき蓄え(自然資源)の消耗によって繁栄
していることを示している。それゆえに、g を(従って割引率を)マイナスにすべ
きだとする議論が成り立ちうる。
4.
伝統的な経済学者たちの勧告とは反対に、関係する期間の長さや不確実性の程度、
世界の極貧層に対する倫理的責任、評価対象のプロジェクトまたは政策の範囲など
に応じて、ゼロからマイナスまでを含むさまざまな割引率が使用されるべきである。
5.
経済全体に対する低い割引率は、投資と成長に有利に働き、環境破壊を拡大する
可能性がある。特定の割引率のマクロ経済的帰結は、ミクロ経済的帰結とは別に考
察されるべきである。
6.
富者と貧者では、生物多様性と生態系サービスに対する直接的な依存度が大きく
異なっている。おそらくは数十億の数になる世界の極貧層は、大部分が生態系サー
ビスと生物多様性に直接的に依存して生きている(Gundimeda and Sukdev 2008)。
これらの人びとは、生態系と生物多様性の喪失から度外れに大きい影響を受ける。
28
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
参考文献
Ackerman, F. 2008. The new climate economics: The Stern Review versus its critics.
In Twenty-First Century Macroeconomics: Responding to the Climate Challenge. Ed.
J. M. Harris and N. R. Goodwin. Edward Elgar Publishing: 32-57.
Arrow, K., P. Dasgupta, L. Goulder, G. Daily, P. Ehrlich, G. Heal, S. Levin, K.-G.
Mäler, S. Schneider, D. Starrett, and B. Walker. 2004. Are we consuming too much?
Journal of Economic Perspectives 18:147-172.
Asheim, G.B. 1988. Rawlsian intergenerational justice as a Markov-perfect
equilibrium in a resource technology. Review of Economic Studies 55: 469-483.
Auerbach, A.J. and L.J. Kotlikoff. 1987. Dynamic Fiscal Policy. Cambridge:
Cambridge University Press.
Ayres, R. and B. Warr. 2006. Accounting for growth: the role of physical work.
Structural Change and Economic Dynamics 16, 211-220.
Bandara, R. and C. Tisdell. 2004. The net benefit of saving the Asian elephant: a
policy and contingent valuation study. Ecological Economics 46, 93-107.
Beckerman, W. and C. Hepburn. 2007. Ethics of the discount rate in the Stern
Review on the economics of climate change. World Economics 8, 187-210.
Beltratti, Chichilnisky, G. and G. Heal. 1998. Sustainable use of renewable resources.
Chapter 2.1 in Sustainability: Dynamics and Uncertainty. (eds. G. Chichilnisky and
G. Heal) Dordrecht: Kluwer.
Benartzi, S. and R. Thaler. 1995. Myopic loss aversion and the equity premium
puzzle. Quarterly Journal of Economics 110, 73-92.
Bishop, R. 1978. Endangered species and uncertainty: The economics of a safe
minimum standard. American Journal of Agricultural Economics 60, 10-18.
Blanchard, O.J. and S. Fischer. 1989. Lectures on Macroeconomics. Cambridge,
Massachusetts: MIT Press.
Boulding, K. 1973. The economics of the coming spaceship earth. In H. Daly (ed.)
Toward a Steady State Economy. San Francisco: W.H. Freeman.
Bromley, D. 1989. Entitlements, missing markets, and environmental uncertainty.
Journal of Environmental Economics and Management 17, 181-194
Bromley, D. 1998. Searching for sustainability: The poverty of spontaneous order. In
Changing the Nature of Economics,ed. by C. Cleveland, R. Costanza and D. Stern,
Washington DC: Island Press, 1998 (Chapter 5).
29
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Brown, T., Gregory, R., 1999. Why the WTA-WTP disparity matters. Ecological
Economics 28, 323-335.
Burton, P.S., 1993. Intertemporal preferences and intergenerational equity
considerations in optimal resource harvesting. Journal of Environmental Economics
and Management 24 (2), 119-132.
Chichilnisky, G. 1996. An axiomatic approach to sustainable development. Social
Choice and Welfare 13, 231-257.
Cline, W. 1992. The Economics of Global Warming. Washington, DC: Institute for
International Economics.
Cochrane, J.H. 2001. Asset Pricing. Princeton: Princeton University Press.
Cole, D. 2008. The Stern Review and its critics: Implications for the theory and
practice of benefit-cost analysis.ԡ Natural Resources Journal 48, 53-90.
Cropper, W. and D. Laibson. 1999. The implications of hyperbolic discounting for
project evaluation. Discounting and Intergenerational Equity, eds. P. Portney and J.
Weyant. Washington, D.C.: Resources for the Future.
Daly, H.E. 1977. Steady State Economics. San Francisco: W. H. Freeman.
Dasgupta, P. 1995. Population, poverty and the local environment. Scientific
American 272, 40-45.
Dasgupta, P. 2006. Commentary: The Stern Review’s economics of climate change.
National Institute Economic Review 119, 4-7.
Dasgupta, P. 2008. Nature in economics. Environmental and Resource Economics 39,
1-7.
Dasgupta, P. and Heal, G. 1974. The optimal depletion of exhaustible resources. The
Review of Economic Studies, Symposium Issue, pp. 3-28.
Dasgupta, P. and Mäler, K-G. 2000. Net national product, wealth and social
well-being. Environment and Development Economics 5, 69-93.
DeCanio, S. 2003. Economic Models of Climate Change: A Critique. New York:
Palgrave Macmillan.
Ehrlich, P. and A. Ehrlich. 1997. Betrayal of Science and Reason: How
Anti-Environmental Rhetoric Threatens our Future. Washington, DC: Island Press.
European Communities. 2008. The Economics of Ecosystems and Biodiversity.
Wesseling, Germany: Welzel-Hardt.
30
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
Fisher, A. and Krutilla, J. 1985. The Economics of Natural Environments.
Washington, D.C. Resources for the Future.
Frederick, S., Loewenstein, G., and O’Donoghue,T. 2004. Time discounting and time
preference: A critical review. In Advances in Behavioral Economics, (C. Camerer, G.
Lowenstein and M. Rabin (Eds.), pp. 162-222, Princeton U. Press.
Frey, B. and Stutzer, A., 2002. Happiness and Economics: How the Economy and
Institutions Affect Well-Being. Princeton University Press, Princeton, NJ.
Geist, V. 1994. Wildlife conservation as wealth. Nature 368, 491-92.
Georgescu-Roegen, N. 1971. The Entropy Law and the Economic Process.
Cambridge: Harvard University Press.
Gerlagh, R. and Keyzer, M. A. 2001. Sustainability and the intergenerational
distribution of natural resource entitlements. Journal of Public Economics, 79,
315–341.
Gilbert, N. 2008. A quarter of mammals face extinction. Nature 455, 717.
Gowdy, J. 1997. The value of biodiversity. Land Economics 73, 25-41.
Gowdy, J. 2004. The revolution in welfare economics and its implications for
environmental valuation and policy. Land Economics 80, 239-257.
Gundimeda, H. and Sukdev, P. 2008. GDP of the poor. Paper presented at the
conference of the International Society for Ecological Economics, Nairobi, Kenya.
Harting, J. 1880. British Animals Extinct in Historic Times, with some Account of
British Wild White Cattle. Buckinghamshire: Paul P B Minet (1972), orginially
published by Trubner, London.
Hartwick, J.1977. Intergenerational equity and the investing of rents from
exhaustible resources. American Economic Review 67: 972-974.
Hartwick, J. 1997. National wealth, constant consumption, and sustainable
development. In H. Folmer and T. Tietenberg (eds.) The International Yearbook of
Environmental and Resource Economics. Cheltenham: Edward Elgar.
Hepburn, C. 2006. Use of discount rates in the estimation of the costs of inaction
with respect to selected environmental concerns. Organisation for Economic
Co-operation and Development, ENV/EPOC/WPNEP(2006)13.
Hepburn, C., P. Koundouri, E. Panopoulou, and T. Pantelidis. 2009. Social
discounting under uncertainty: A cross-country comparison. Journal of
Environmental Economics and Management 57, 140-150.
Hoel, M. and T. Sterner. 2007. Discounting and relative prices. Climatic Change 84,
31
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
265-280.
Howarth, R.B. 1995. Sustainability under uncertainty: A deontological approach.
Land Economics 71: 417-427.
Howarth, R.B. 1996. Climate change and overlapping generations. Contemporary
Economic Policy 14(4): 100-111.
Howarth, R.B. 1998. An overlapping generations model of climate-economy
interactions. Scandinavian Journal of Economics 100: 575-591.
Howarth, R.B. 2007. Towards an operational sustainability criterion. Ecological
Economics. 63: 656-663.
Howarth, R.B. 2009. Rethinking the theory of discounting and revealed time
preference. Land Economics (forthcoming).
Inglehart, R. 1990. Cultural Shift in Advanced Industrial Societies. Princeton, NJ:
Princeton University Press.
Jackson, J. 2008. Ecological extinction and evolution in the brave new ocean.
Proceedings of the National Academy of Science 105, 11458-11465.
Kahneman, D., Tversky, A., 1979. Prospect theory: An analysis of decision under risk.
Econometrica 47, 263-291.
Kahneman, D., Wakker, P. and Sarin, R., 1997. Back to Bentham? Explorations of
experienced utility. Quarterly Journal of Economics 112, 375-405.
Kellert, S. 1996. The Value of Life: Biological Diversity and Human Society.
Washington, D.C.: Island Press/Shearwater Books.
Keynes, J.M. 1936. The General Theory of Employment, Interest and Money.
London: Macmillan Press.
Knetsch, J., 2005. Gains, losses, and the US-EPA Economic Analyses Guidelines: A
hazardous product. Environmental & Resource Economics 32, 91-112.
Knetch, J. 2007. Biased valuations, damage assessments, and policy choices: The
choice of measure matters. Ecological Economics 63, 684-689.
Kocherlakota, N.R. 1996. The equity premium: It’s still a puzzle. Journal of
Economic Literature 34: 42-71.
Krug, A., Jablonski, D., Valentine, J. 2009. Signature of the end-Cretaceous mass
extinction in modern biota. Science 323, 767-771.
Krutilla, J. 1967. Conservation reconsidered. American Economic Review 57,
777-786.
32
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
Laibson, D. 1997. Golden eggs and hyperbolic discounting. Quarterly Journal of
Economics 112, 443-477.
Layard, R., 2005. Happiness: Lessons from a New Science. New York: Penguin Press.
Lind, R. 1982. A primer and the major issues relating to the discount rate for
evaluating national energy options. In R. Lind (ed) Discounting for Time and Risk in
Energy Policy, Washington, DC, Resources for the Future, 21-94.
Lockwood, M. 1998. ―Integrated Value Assessment Using Paired Comparisons.ԡ
Ecological Economics 25,73-87.
Loewenstein, G. 1987. Anticipation and the value of delayed consumption. Economic
Journal 97, 666-684.
Mankiw, G. and S. Zeldes. 1991. The consumption of
nonstockholders. Journal of Financial Economics 29, 97-112.
stockholders
and
Martinez-Alier, J. 1995. The environment as a luxury good or ―too poor to be greenԡ.
Ecological Economics 13, 1-10.
Mendelsohn, R. 2006-7. A critique of the Stern Report. Regulation, Winter
(http://www.cato.org/pubs/regulation/regv29n/v29n4-5.pdf)
Mehra, R. and E. Prescott. 1985. The equity premium: A puzzle. Journal of Monetary
Economics 15, 145–161
Newell, R. and W. Pizer. 2003. Discounting the distant future: how much do
uncertain rates increase valuations? Journal of Environmental Economics and
Management 46, 52-71.
Neumayer, E. 2003. Weak vs. Strong Sustainability. Second edition. Cheltenham:
Edward Elgar.
Nordhaus, W. 1992. An optimal transition path for controlling greenhouse gases.
Science 258, 1315-19.
Nordhaus, W. 1994. Managing the Global Commons: The Economics of Climate
Change. Cambridge: MIT Press.
Norton, B. 2005. Sustainability: A Philosophy of Adaptive Ecosystem Management.
Chicago: University of Chicago Press.
Nunes, P. and J. van den Bergh. 2001. Economic valuation of biodiversity: Sense or
nonsense. Ecological Economics 39, 203-222.
Orr, D. 2004. Earth in Mind: On Education, Environment, and the Human Prospect.
Washington, D.C.: Island Press.
33
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
Page, T. 1983. Intergenerational justice as opportunity. In Energy and the Future (D.
MacLean and P. G. Brown, eds.). Totowa, New Jersey: Rowman and Littlefield.
Pearce, D. et al. 2003. Valuing the future: Recent advances in social discounting.
World Economics 4, 121-141.
Pearce, D. G. Atkinson, and S. Mourato. 2006. Cost Benefit Analysis and the
Environment: Recent Developments, Paris: OECD Publishing.
Portney, P. and Weynat, J. 1999. Introduction. In P.R. Portney and J.P. Weyant (eds.)
Discounting and Intergenerational Equity, pp.1-11, Washington, D.C., Resources for
the Future.
Quiggin, J. 2008. Stern and the critics on discounting and climate change: An
editorial essay. Climatic Change 89: 195-205. DOI 10.1007/s10584-008-9434-9
Ramsey, F. 1928. A mathematical theory of saving. Economic Journal 38 (152):
543-49.
Repetto, R., Magrath, W., Wells, M., Beer, C., Rossini, F. 1989. Wasting Assets:
Natural Resources in National Income Accounts. Washington, D.C.: World Resources
Institute.
Richerson, P. and R. Boyd. 2005. Not by Genes Alone. Chicago: University of Chicago
Press.
Robinson, G., et al. 1992. Diverse and contrasting effects of habitat fragmentation.
Science 257, 524-25.
Rubinstein, A. 2003. ―Economics and psychologyԡ? The case of hyperbolic
discounting. International Economic Review 44, 1207-1216.
Sen, A. 1961. On optimizing the rate of saving. The Economic Journal 71, 479-496.
Solow, R., 1974. Intergenerational equity and exhaustible resources. Review of
Economic Studies, Symposium Issue, 29-46.
Spash, C. 1997. ―Ethics and Environmental Attitudes with Implications for
Economic Valuation.ԡ Journal of Environmental Management 50:403-416.
Spash, C. 2002. Greenhouse Economics: Value and Ethics. London: Routledge.
Starrett, D.A. 1988. Foundations of Public Economics. New York: Cambridge
University Press.
Stephens, T., J. Echeverria, R. Glass, T. Hager, and T. More. 1991. Measuring the
existence value of wildlifeԡ what do CVM estimates really show? Land Economics 67,
390-400.
34
第6章:生物多様性と生態系の健全さの維持のための割引率、倫理性、選択肢
Stern, N. 2007. The Economics of Climate Change: The Stern Review. Cambridge,
UK: Cambridge University Press.
Sterner, T. and M. Persson. 2008. An even sterner review: Introducing relative prices
into the discounting debate. Review of Environmental Economics and Policy 2,
61-76.
Swanson, T. 1994. The economics of extinction revisited: A generalized framework
for the analysis of the problems of endangered species and biodiversity loss. Oxford
Economic Papers 46, 800-821.
Tilman, D. and J. Downing. 1994. Biodiversity and stability in grasslands. Nature
367, 363-365.
Tisdell, C. 1982. Microeconomics of Markets, Brisbane, New York and Chichester:
John Wiley & Sons,
Tisdell, C. 2005. Economics of Environmental Conservation, Second Edition,
Cheltenham, UK and Northampton, MA, USA: Edward Elgar.
Vouvaki, D. and Xeapapadeas, A. 2008. Total factor productivity growth when factors
of production generate environmental externalities. Working paper.
Ward, P. 1994. The End of Evolution. New York: Bantam Books.
Weitzman, M., 2001. Gamma discounting. American Economic Review 91, 260-271.
Weitzman, M. 2009. On modeling and interpreting the economics of catastrophic
climate change. The Review of Economics and Statistics XCI, 1-19.
Wilson, E.O. 1994. Biophilia. Cambridge: Harvard University Press.
Wilson, E.O. 1998. Consilence: The Unity of Knowledge. New York: Alfred Knopf.
World Commission on Environment and Development (WCED). 1987. Our Common
Future. Oxford: Oxford University Press.
Yohe, G. and Tol, R. 2007. The Stern Review: Implications for climate change.
Environment 49-42.
i)
式(1)は、不連続的時間と連続的時間のいずれを考えるか、人口増加を考慮するか
どうか、あるいは人口 1 人当たり消費と総消費のどちらを考えるかによって、これとは
異なった形態ととる。Arrow, Dasgupta and Mäler 2003 にある議論を参照。
ii)
Hepburn (2006) によれば、「最適温情主義」に関する最近の文献は、「内在性」、す
なわち個人に損害を与える行動を是正するよう求めているという。生物多様性の最適保
35
生態系と生物多様性の経済学:生態学と経済学の基礎
全を確実にするために、温情主義的政府がより低い割引率を採用する可能性がある。
iii)
他方で Lind (1982) は、投資のリスク及び保険の側面は、時間選好の社会的比率を
補正することによってではなく、費用と便益の推計値を補正することによって考慮され
るべきであると主張している。
36