公益財団法人大林財団 研究助成実施報告書 助成実施年度 2007 年度(平成 19 年度) 研究課題(タイトル) パリのバナルな中層市街地や再開発地区に於ける新規建設行為のデ ザインマネジメント- 歴史的環境や低層住宅地の保全に偏向したわ が国の景観街づくりの矯正に向けて 研究者名※ 赤堀 忍 所属組織※ 芝浦工業大学 建築工学科 研究種別 研究助成 研究分野 都市計画、都市景観 助成金額 150 万円 概要 本研究は、パリのバナルな(banal:仏語で凡庸なという意味。つま り顕著な歴史性を有するわけでもなくありふれた)中層市街地や再 開発地区の新規建設行為のデザインマネジメントを分析し、以下の 点を明らかにすることを目的としていた: ① 新規建築物のデザインコードがどのように策定・運用され、建築 家はどのように対処しているか; ② 再開発地区でのマスターアーキテクト方式がどのように機能し どのような都市空間が生まれているか; ③ 広場等の公共空間整備に際し地域の文脈を織込んだ現代的デザ インがどのように実現しているか。 発表論文等 ※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります パリのバナルな中層市街地や再開発地区に於ける 新規建設行為のデザインマネジメント —歴史的環境や低層住宅地の保全に偏向したわが国の景観街づくりの矯正に向けて 研究報告書 芝浦工業大学 教 授 赤堀 首都大学東京 准教授 鳥海 0.問題意識・目的: 本研究は、パリのバナルな(banal:仏語で凡 庸なという意味。つまり顕著な歴史性を有するわ けでもなくありふれた)中層市街地や再開発地区 の新規建設行為のデザインマネジメントを分析 し、以下の点を明らかにすることを目的としてい た: ① 新規建築物のデザインコードがどのように 策定・運用され、建築家はどのように対処し ているか; ② 再開発地区でのマスターアーキテクト方式 がどのように機能しどのような都市空間が 生まれているか; ③ 広場等の公共空間整備に際し地域の文脈を 織込んだ現代的デザインがどのように実現 しているか。 1.研究の経緯: 主に修士課程学生を含め、おおよそ月1回のペ ースで勉強会を開催した。雑誌記事や文献を持ち 寄り、現地調査の対象地域を選択し注目点を明ら かにした。その過程で、パリだけではなく、ニー ス、トゥールーズ、モンペリエ、ストラスブール、 マルセイユ、アヴィニオン、リヨンに関しても、 本研究の視点から興味深い事例が見付かり調査 した。 2.研究成果: 以下のその研究成果を示す(次ページ以降にそ の複写を添付する) : ①新規建築物のデザインコード: <研究成果> 鳥海基樹・赤堀忍:「パリ第 20 区ラ・レユニオ ン協議整備区域の保全的刷新型都市デザイン 忍 基樹 に関する研究」、 『日本建築学会大会学術講演梗 概集 F-1 分冊』、2009 年 8 月 ②マスターアーキテクト: <研究成果> 斎藤聡・赤堀忍・鳥海基樹:「パリ・セーヌ左 岸協議整備区域に於けるデザインマネジメン トに関する研究」 、 『日本建築学会大会学術講演 梗概集 F-1 分冊』、2008 年 9 月 茂木真由美・赤堀忍・鳥海基樹: 「パリ第 17 区 ポルト・ダニエール協議整備区域のデザインマ ネジメントに関する研究」 、 『日本建築学会大会 学術講演梗概集 F-1 分冊』 、2009 年 8 月 赤堀忍・鳥海基樹:「協議整備区域セガン島‐ セーヌ河岸の都市デザイン」、 『日本建築学会大 会学術講演梗概集 F-1 分冊』、2008 年 9 月 ③公共空間整備: <研究成果> 赤堀忍・鳥海基樹:「ニース市のトラムウェイ 導入に共振させた公共空間整備に関する研究」、 『日本建築学会大会学術講演梗概集 F-1 分冊』 、 2009 年 8 月 3.結論: フランスでは小規模でも地道な取り組みで都 市景観を漸進的に改善してゆくことが当然とな っている。また、組織的にも、信頼できるマスタ ーアーキテクトを立て、多様ではあるがまとまり のある都市景観を産み出している。無論、建物だ けではなく公共空間もデザインの対象である。 確かに、我国で即座に既成市街地での質の高い 都市デザインを進めるのは無理だろう。しかし、 再開発地区など、短期に都市のイメージを形成可 能な場で実践しなければ、景観街づくりは市民意 識に根付くことはあるまい。 !"# $% &'()*+,-./01&23456789:;<=>-?@ABCDE F G'-H?IJBKL:;<=>-?@ABCDMN3OPF E !"#$ %&$ '()*+,-./,01/$ :;0:<=>?.$ @AB%$ C'D=,-=E<(F$ QRSTUV(CDW6(XYZ[ JKLMN%&O@AB%PQRS&TMUVUV' 234 234 Ÿ: 567 89* $ GH I** ~‡•ò€¦§}ra¨3œ3©o^ªUdÇ ƒoN«&~›o¬J-•/\•\LM 12 g®Ur{|c ()*+,-./,01/WXY S&BZ[!"#\]^ JƒN•‚ƒBO„…B•M¯4 1.20m ra 4.80m ®° _`abSc]Udebf\ghMij\klLmna \%&o±²€SoN³´•µÙ•od¶J€o#„U bopLqScUrUNstuvw\xyM!"#LU ƒÖN«&ž}L•Ü¹Oq·P¸¹U{|oío¬_ rzb{|}~•q€NLqbVNrrS&T\:;0 UNº»_Mö¼{|¨ áâo¼½œbdUJ•ƒc :<=>?.WXY RHZP•‚ƒ„…†‡\ˆ‰o S&B [!"#rij_|Š‹ŒmP•ŽRS••‘_{Sc qRrst 9uvwocxyz{|}~'•€•3‚ƒ[E ’“MN2008 ”•– 30 ”—•˜S RH ™š!"#›œ o•žUƒŸ: ¡ 20 T),¢£¤¥.&T•¦§S¨ ©ª«.,¬.-+F\i®¯°±[f\²³P´Š µ_LN¶_·\¸¹º»\¼½P¾¯_RS¿ÀÁÂc e\ƒ‚NŸ: ÃÄŸ:¨ „…-F:ÅWAPURZw ½ËN),¢£¤¥.&TMNÖ¾\áâ¯!¿•À ¼NXY\ÁL S&B [!"#oÂÃÄ_żabƒ4 ! ! ! •¦§SÆÇÈ€ÉÊWËÌ+).>Í,ÎϤ?=1 BT!"#C'D=,-=E<(F\-./¢,>Ð* ” 79 87 88 ð 89 ð 90 92 93 96 97 ð ð 99 ð ð ð 00 01 02 04 05 07 08 09 – 40Ï\o•Mž}•GÐ|o{¡Ñ„Ö\AÒoqSÎ &YÓÔoÕÖ\ׯ4B%ØÙÁ•±²j~UN*+s'Ç• #ÚUd|Sƒ‚!"#\Û<.>Í1oÜ|Î ! >ÐÑZ™šÒÓÔÕ\ÖL×&ØÊPÙÚUƒc \]['()*+,-^&:;_`@ab\Mcd3efghijP Û$ Ü ÝÞ› ß ß àáâxy+ãä)囜WOPAHZ"æ 12 14 ),¢£¤¥.çèéêTëWZACZìí 07 11 Tëéê+).WPAZZîï 09 30 ñ-¢<•ò€óôõöWDUPZ ß ß ÷1ø=1,ù1ú/oC'D=,-=E<(F•ûü ß ß àýþºÿ¢£¤¥.\!"#$½ ß ß %&¨ '()õöWDPURZL*+,ë\Ô-•.v• ß ß /0123Wí„45).(,-å<=6Z ß ß 7'(,/=1ó823Wí„4-).,C19:Z 04 15 Ÿ: :ÿò€;—\<PUƒ¨ „…#õö 03 27 :o=>•,?P@AUN~B¼½\CDPõö 11 20 ZAC ,ëÃ\EBT•FU~B¼½GHÇ"æ 12 16 ,T,àý•òSI3~W2001 ”JLKL"MZ 04 12 Ÿ: N½OP3QWSEMAVIPZoR.,ù¢=ST—é êN½OP3Q•UV 07 12 Tëéê+).W2GHÇ"æ 10 20 ZAC ,ëÃ\ÁBT•FU~B¼½GHÇ"æ 11 08 çèéêTë•FRSó"B`XÈW12 ÛYÜJLZ 04 26 Ÿ: è3LTëéê+).W2îï ß ß 'Z[43PíUU”EL\\À][~B¼½f^_ ß ß i`a23Wí„4ÅC¤ÐÅ1,¬1b*(Z ß ß c¾¯0123Wí„4/¢.6d)Îe1f.d1ú¢*(Z ß ß 7'(,/=1ó8P 1,500 ghi 07 ß j* FF k lœ «. 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arrondissement, Paris, APUR, 1999; DAUC de la ville de Paris, Tableau de bord – Opérations d’aménagement, juillet 2000; AMC, no 145, septembre 2004, pp.76-77¿zEÝÅÂ; AUDOIN Jean (sous la direction de), Paris, ZAC de la Réunion – La SEMAVIP réinvente le faubourg, hors série de Traits urbains, Paris, Agence innovapresse, hiver 2008¿zÁÝÅÂ. *: Assoc.Prof, Tokyo Metropolitan University, Docteur ès études urbaines **Professor, Shibaura Institute of Technology, Architecte DPLG - France パリ・セーヌ左岸協議整備区域に於けるデザインマネジメントに関する研究 フランスに於ける現代都市デザインに関する研究(その 3) 正会員 正会員 正会員 セーヌ左岸 ポルザンパルク 協議整備区域 マスターアーキテクト デザインマネジメント ブラウンフィールド 0.研究背景・目的・方法 歩んできた歴史背景は大きく違えど、第二次世界大戦 ○斎藤 聡* 赤堀 忍** 鳥海 基樹*** 速郊外鉄道)の新駅を設置し、バスの路線にも考慮した 交通利便性の高い地区となること。 後大きな経済成長を遂げた先進国であるフランス、日本、 両国の間に共通点を見出すことができる。特に、今回研 究対象となるセーヌ左岸協議整備区は工場・倉庫等の撤 2.トルビアック地区におけるデザインマネジメント 開発地域の中央に位置するトルビアック地区は、ドミ 退により生まれるブラウンフィールドの再開発、国有鉄 ニク・ペロー(Dominique PERRAULT)設計による国立図書 道の土地に対し、民間企業による再開発が進めるという 館を中心とする地区である。図書館がこのプロジェクト 点においてわが国の豊洲・汐留等の再開発の経緯に類似 の出発点であったことから、まず整備が開始された地区 する点が多い。ただし、その再開発のためのデザインマ でもある。この地区ではロラン・シュバイツァー(Roland ネジメントは大きく異なる。それにはマスターアーキテ SCHWEITZER)がマスターアーキテクトを務めている。シ クトの存在が大きいと考えられる。 ュバイツァーは国立図書館の周辺に中庭を囲む形式の集 本研究では現地におけるフィールドワークと関連文献 合住宅を配している。中庭を中心に求心性を持つこの形 による考察をもとに、セーヌ左岸協議整備区域に於ける 式は、各中庭にひとつのコミュニティを発生させ、また、 デザインマネジメントを明らかにしていく。 その集合住宅が大きな広場を囲むように構成され、段階 的に都市レベルでのコミュニティを発生させようという 1 .パリ・セーヌ左岸協議整備区域 意図が読み取れる。地区全体としても、国立図書館を囲 み国立図書館への求心性が意識され、文字通り核となる よう計画されている[図2]。パリでは各々の敷地が共同し て中庭を構成する伝統があり 1)、それを継承した結果と考 えることが出来る。また、国立図書館の形態とも呼応し、 地区としての全体性が見て取れる。 図 1:3 地区に分けられているセーヌ左岸整備区域 セーヌ川とフランス国有鉄道の線路に挟まれ、パリの 図 2:トルビアック地区におけるデザインスキーム 市内でありながら他の地区とは断絶され、交通の悪い地 区であったセーヌ左岸協議整備区域は、現在、オーステ ルリッツ地区、トルビアック地区、マセナ地区の3つの 3 .マセナ地区におけるデザインマネジメント マセナ地区ではクリスチャン・ドゥ=ポルザンパルク 地区によって構成され開発が進められ[図1]、今後、経済 (Christian de PORTZAMPARC)がマスターアーキテクト の拠点として以下の役割が期待されている:①業務施設、 を 務 め 、 ト ル ビ ア ッ ク 地 区 と は 異 な る デ ザ イ サービス施設、住宅、商業施設、公益施設等、新産業地 ンマネジメントを行っている。ポルザンパルクはインタ 区となること。②セーヌ川の土手に公共空間を設けセー ビューにおいてこのように述べている。 ヌ川に開かれ、13 区の中心部やセーヌ右岸と連携した活 「都市に必要なのは統一性や一貫性ではない、多次元 気ある地区となること。③メトロ(地下鉄)と RER(高 的な思想こそ必要とされる。さらには多次元性の中に全 A Study on the Urban Design Management in the ZAC Paris Seine Rive Gauche A Study on the Contemporary Urban Design in France Ⅲ *SAITOU Satoshi, **AKAHORI Shinobu, ***TORIUMI Motoki 体調和をつくり出していくべきであり、それは不統一と いうのではなく、確かなる多次元性なのだ。そしてこの 5.結論 コンテクストを重視し、中庭型を用い、国立図書館を 意味において、建築と都市計画、つまるところ建築と街 核に強い一貫性の中、明確な形で都市としての全体性を 区との間に大きな差をつくるべきではない。・・・都市に 獲得していったトルビアック地区に対し、マセナ地区で 特異性を受け入れ、様々な建築家に自由を与えてひとつ は各建築家の意向を重視し、多様性の中に全体性を見出 の街区を従事させることがマスターアーキテクトの責任 していったことが分かる。しかし、そのどちらも中央に 2) である。」 空地を持つことで全体性を獲得している。[表1] 実際、ここマセナ地区は彼の考えに則し、各建築家に セーヌ左岸協議区域における再開発はその地区ごとの よる個性的な建築、歴史的建造物、ゆったりとしたオー マスターアーキテクトの考えが色濃く反映している。彼 プンスペースなど、多次元的なあらゆる要素でもって全 らの一貫したデザインマネジメントによって、複雑であ 体を構成している。 りながらも景観的矛盾のない全体としての統一感を生み また、彼が建築と街区との間に大きな差をつくるべき ではないというように、この地区をあたかもひとつの建 出している。 表 1:トルビアック地区とマセナ地区におけるデザインマネジメントの比較 築空間と思わせるような以下の操作がなされている。 1) 各建築は敷地いっぱいに壁面を張り出すことで、街路 に空間を生み出している。 2) 各建築は様々な大きさボリュームを積み重ねるように 複雑に構成することで、従来のように建築高が一定で 壁面線の揃った街並みとは異なり、量感を抑え、人に 与える圧迫感をやわらげている。また同時に、建築ス ケールから段階的にヒューマンスケールに落とし込ん でいくことにもひと役かっていると考えられる。 3) ボリュームが積み重なるような複雑な構成は各建築家 の個性を発揮することを可能にしながらも、全体性を 獲得する大きな要因となっている。 4) リズミカルなファサードは街路を歩く人を楽しませ、 私的領域と公的領域を明確に区分しながらも、視線の 抜けを随所に設けることによって視覚的なコミュニケ ーションを可能にし、開かれた街区である印象を与え ている。 本研究は科学研究費補助金基盤(C)『フランスにおける新規建築物の デザインマネジメント』による研究成果である。 脚注: 1) 鈴木 隆 『パリの中庭型家屋と都市空間―19 世紀の市街地形成』 中央公論美術出版 2005/02 2) Monique DREYFUS 《grand prix de l’urbanisme》in Diagonal №166(2004/8-9) PP11~16 主要参考文献: 図 3:マセナ地区に見られる、ボリュームが積み重なるように構成される集合住宅 ①anonyme LA CONSULTATION MASSÉNA ALMA GRAFICHE S.P.A.,MILAN sd ②岡井 有佳「パリの都市再生プロジェクト--リブ・ゴーシュ地区の再開発(Paris Rive Gauche)」『市街地再開発』№399(2003/7)(P28~37) *芝浦工業大学大学院 **芝浦工業大学・教授 ***首都大学東京・准教授 * Graduate School of Shibaura Institute of Technology ** Professor,DPLG,Shibaura Institute of Technology *** Associate Professor,Tokyo Metropolitan University パリ第 17 区ポルト・ダニエール協議整備区域のデザインマネジメントに関する研究 -フランスに於ける現代都市デザインに関する研究(その 10)- ポルザンパルク 色彩 中庭 再開発 正会員 正会員 正会員 街区 オスマン 0.研究背景・目的・方法 通常パリの住居は街区の内側に中庭を持ち、住民だけ が利用できる空間であった。この中庭空間を開放し、誰 でも通り抜けることができるように計画(以下「open block」)を始めたのが建築家クリスチャン・ドゥ=ポル ザ ン パ ル ク ( Christian de Portzamparc ) で あ る 。「 open block」は、オスマンによる都市計画とアテネ憲章以降の 近代都市計画の矛盾を解決するために考案された。「街路 はもはや単なる交通のための道具ではない。それは再び 建築的な空間として認識しうるものとなる。」 1) とポルザ ンパルクが述べているように、現代社会の多様性に対応 するには「閉じた街区」ではなく「街路を含めた開いた 街区」を形成することが求められる。 1996 年 4 月にポルト・ダニエールは協議整備区域(以下 ZAC)に指定され、マスター アーキテクトとしてポルザン パルクが選ばれた。中庭を公 園として開放した初めての計 画であるこの地区に注目し、 資料収集及びフィールドワー クを実施することで、公園と 集合住宅および周辺環境のデ ザインマネジメントを明らか にしていくことを目的とする。図1:ポルザンパルクによる「open block」の概念図[出典:後掲参考文献①] 1.都市的コンテクスト ZAC ポルト・ダニエールは、フランス国鉄(SNCF) 、パ リ市、フランス文化省(現在は文化・コミュニケーション 省)に属す 3 つの土地から成る 4.5ha の休閑地である。開 発計画地は、上記を中心にフォール・ド・ヴォー通りとポ ルト・ダニエール通り、ベルティエ通りによって囲まれる 6.7 ha である。西側のオペラコミックの一部があった敷地 には 2 棟の集合住宅、中学校、および体育館が計画され た。北側の街区には商業施設と 4 棟の集合住宅。東側の 街区には 5 棟の集合住宅。中央の街区には公園を囲むよ うに 11 棟の集合住宅が配置され、その南側には倉庫を改 修した集会所(オペラコミック)と保育園が位置する。 この新しい地区には、道路網の基盤整備も必要とされた。 そして、周囲の地区と調和した都市景観の創出及び良質 な自然環境を構成することが求められた。 2.デザインマネジメント ポルザンパルクが各建築家に対して主に提案したのは ○茂木 赤堀 鳥海 真由美* 忍** 基樹*** 以下の 2 項目である。 2-1.open block 型街区形成 22 棟の集合住宅が中央の公園を二重に囲むように配置 され、それらはすべて公園を中心に前後互い違いに計画 された。そのため、すべての住戸から公園を眺めること が可能であり、反対に公園からすべての住戸を見渡せる。 住戸配置をずらすことによって視線のほかに光や風が中 央の公園や細い道路にまで届いている。 各々の集合住宅のボリュームは、ほぼ一定となってい る。基壇の二層は棟をつなぎ、低層部の梁やテクスチャ ー等の表現で水平ラインを強調、意識させる。ZAC ポル ト・ダニエールにおいても従来通り街路に面する壁面線は 保たれている。高層部では建築が孤立しているが、低層 部ではファサードが連続し街区を形成している。 2-2.カラー・コントロール 建築の色彩、外壁材、自然要素が意図的に計画されて いる。色彩については、界隈の《carte de visite》2)を形成 するためにカラフルなコードシステムが考えられた。建 築は明白色、明灰色をベースに茶、赤、桃色がかったベ ージュ等を組み合わせ、かつ環状道路から内部に入るに 従いコントラストが制御された。南の環状道路に面した 住宅には不透明ガラスをファサードに用いることで最も コントラストが高く、敷地の奥に位置する植物が象徴的 なタワーフラワーで中央の公園と同化するようになって いる。この異なるファサードの配色によって街区にリズ ムが生まれ、構造の多様性にも関わらず、建築の色彩の 調和はバランスの良い都市全体をつくりあげた。このよ うに各住居からの独創的で常に異なる眺めを住民に提供 している。ポルザンパルクは ZAC ポルト・ダニエールが パリの景観計画の都市概念を調整したと確信していた。 図2:街路の右側に建つ集合住宅の色は手前から明るい茶、濃い茶、桃色がか ったベージュ、白色。左側に建つ集合住宅の色は手前からベージュ、クリーム 色、白色(タワーフラワー)と並び、ベース色とのコントラストが奥に進むにつ れて低くなっていく (左図)[出典:後掲参考文献②]。象徴的な集合住宅であ るタワーフラワー。建物が公園の植物と同化している(右図)。 A Study on the Urban Design Management in the ZAC Porte d'Asnières in the 17th ward of Paris - A Study on the Contemporary Urban Design in France X - *MOGI Mayumi **AKAHORI Shinobu ***TORIUMI Motoki 建築と街路の新たな関係性を展開した。それらを支える ポルザンパルクの都市計画方法論とは、「公共空間、新し い計画が既存の都市とどのようにつながっていくべきか、 歴史性や地域性等のコンテクストを取り込みながら将来 の都市を考慮する必要がある。そのために都市計画家 (マスターアーキテクト)はそれぞれの建築家に自らの 方法を託し、自由を与える必要がある。」 3) と、ポルザン パルクは後に語っている。しかし、ZAC ポルト・ダニエー ルについては建物の配置やボリューム構成、ファサード の色彩に関するまで都市計画家が設定しており、あまり 各々の建築家に任されず自由度に欠けている。この事例 を振り返り、ポルザンパルクは「ポルト・ダニエールで、 私は凝り固まった壮大なプランを思い描いていた。」 4) と 語った。近年の都市計画プランは街路の規制、デザイン コードに沿っていればスケールやマテリアルについて 各々の建築家が自由に建築をデザインする「open block」 を形成することで多くの要素を許容することができ、 ZAC ポルト・ダニエールに比べ活き活きとしている。 4.結論 ポルザンパルクがその後に計画した ZAC セーヌ左岸 (パリ 13 区)では明確に都市の公共空間に対して「open block」の考え方や影響が強い表現で現れている。街路を 歩く歩行者の意識は、街区と街区のつながりを感じるこ とができ、自由な建築のボリューム構成によって光と風 の通り抜ける住空間となった。一方、ZAC ポルト・ダニエ ールはポルザンパルクにとって初期の都市計画である。 この地区においても街路に対し連続するファサード等の 伝統的な都市要素を計画に用いながらも、中心の公園へ の求心性を保ち、建物を前後互い違いに配置して視線の 抜けを確保するための建築の配置の手法によって実験的 に「open block」が試されている。 図3:ZAC ポルト・ダニエール配置図。中央の公園を囲むように建物が前後に 互い違いに配置されている(左図)。[出典:後掲 web site] 「open block」 のダイアグラム。街路と平行に壁面線が並んでいる(右上図)。公園からすべ ての集合住宅を見渡すことができる(右下図)。 表1:各建築に関する用途、建築家名及び竣工年月 建築番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 用途 建築家名 竣工年月 ホテル Reichen/Robert 体育館 Berthelier/Fichet/Tribouillet 集合住宅 ― 集合住宅 ― 中学校 Dusapin/Leclercq 2002.4 商業施設 Macary/Menu/Delamain 2004.7 集合住宅 Hubert/Roy 2005.2 集合住宅 ― 集合住宅 Alexandre Ghiulamila 2003.6 集合住宅 Pierre Lombard 2004.5 集合住宅 Brenac/Gonzalez 2003.7 集合住宅 ― 集合住宅 ― 集合住宅 Christian Devillers 集合住宅 ― 集合住宅 Edouard François 集合住宅 ― 集合住宅 Céria/Coupel 2002.10 集合住宅 Fabienne GERIN-JEAN 2005.5 保育園 Fabienne GERIN-JEAN 2005.6 集会所 ― 集合住宅 Jean-Paul Viguier 集合住宅 ― 集合住宅 Elizabeth Nicoleau 集合住宅 ― 集合住宅 Daniel Kahane 2003.5 集合住宅 Brochet/Lajus/Pueyo 2004.4 公園 Thibault de Metz/Marie 2005.1 2002.7 2007.1 学期 既存 既存 ― ― ― 2002.11 ― 2004.6 ― 本研究は 2008 年度財団法人大林都市研究振興財団助成研究『パリのバナルな 中層市街地や再開発地区に於ける新規建設行為のデザインマネジメント-歴史 的環境や低層住宅地の保全に偏向したわが国の景観街づくりの矯正に向けて』 による研究成果である。 既存 2004.3 ― 2004.6 ― 脚注: 1) DREYFUS Monique, grand prix de l’urbanisme, in Diagonal; 2) 直訳すると「名刺」。都市の「顔」のような表現。 3.ZAC ポルト・ダニエールを振り返って ポルザンパルクの考える「open block」はオート・フォ ルム集合住宅(パリ 13 区)から始まり、モンペリエ開発、 マセナ地区(パリ 13 区)開発へと発展していった。オー ト・フォルム集合住宅では新しい都市計画として伝統的 な都市要素(中庭、街路に対し連続するファサード、街 路に則して抜けたピロティ)を踏まえながらも、街路に 面する集合住宅を 8 つの分棟型にすることで街区を開き、 * 芝浦工業大学大学院 ** 芝浦工業大学・教授・フランス政府公認建築家 ***首都大学東京大学院・准教授・博士 3) DREYFUS Monique, op.cit; 4) DREYFUS Monique, op.cit; 参考文献: ① MASBOUNGI Ariella (sous la direction de), Christian de Portzamparc Grand Prix de l’urbanisme 2004, Paris, Parenthèses, 2004; ②NOURY Larissa, La couleur dans la ville, Paris, LE MONITEUR, 2007; ③斎藤 聡「クリスチャン・ド・ポルツァンパルクの都市デザイン戦略に関する研究」 2008 年度 芝浦工業大学大学院 修士論文; Web site: SEMAVIP: http://www.semavip.fr/AU/AU.php?Id=20 *Graduate School of Shibaura Institute of Technology ** Professor, Shibaura Institute of Technology, Architecte DPLG ***Assoc.Prof, Tokyo Metropolitan University, Docteur 協議整備区域セガン島‐セーヌ河岸の都市デザイン フランスに於ける現代都市デザインに関する研究 (その 1) 正会員 正会員 ブーローニュ・ビヤンクール マスターアーキテクト セガン島 都市デザイン ○赤堀 忍* 鳥海基樹** デザインマネジメント 公共空間 0.研究の意義・手法 日本の都市整備を検証すると、地区全体の構想も明確でなく 敷地が分割され、各々の開発業者に委ねられており、建築自身 は技術、質共に高いにも関わらず、トータルな都市景観は作ら れていないことが多い。そこで、本研究は景観に重点をおきな がらも個性的な建築が作り出されているフランスにおける都市 デザインのプロセスの分析検討を行い、その手法を明らかにす るものである。その一例として、本研究ではブーローニュ・ビ ヤンクールの協議整備区域(以下 ZAC)セガン島‐セーヌ河 岸のデザインの流れを混成経済会社(以下 SAEM)の都市計 画担当者のギヨーム・エベール氏への聴取り調査と現地調査に 基づいて考察する。 1.ZAC セガン島‐セーヌ河岸の概要 1992 年にルノーの工場が閉鎖され、イル・ドゥ・フランス地 方指導スキーム(SDRIF)が国と共同のもとに 1994 年に承認 されている。これはヴァル・ドゥ・セーヌ県の指導スキームとし て、パリ西南方の再構築の要となっている。地域都市計画プラ ン(PLU)が 2004 年に承認されている。 ZAC はセーヌ河岸にあるルノー工場跡地が中心で、74ha の 敷地に延床面積 842,000m2 の集合住宅、公共施設、事務所、商 業施設が 2015 年までに完成し、12,500 人の居住者と 12,000 人 の雇用が見込まれている。 の中で、SAEM は街区が他に開かれるよう改修工事をする。 協議会が 2005 年 1 月に設置され、市都市計画局次長ドロテ・ ピノーとスビローの二人が代表となり、都市整備計画に関連し た移動、環境、生活、汚染、建設の可能性、都市の記憶といっ た非常に広い 16 の協会によって構成されている。これと並行 して、SAEM は近隣住民への情報も提供している。 ■トゥラペーズ地区:ルノーとの合意によって 1 ユーロで象徴 的に SAEM が土地所有者となり、PLU で定義している公共空 間に当てられる敷地、公共施設となる土地を管理している。 建設可能な土地は株主で不動産開発業者の集合体であるブー ローニュ‐セガン開発(DSB)に売買契約権がある。SAEM は顧問都市計画家とともに ZAC の全体の整備を掌るために、 敷地全体の建築的調整を行う。 ■セガン島と点在した街区:SAEM が土地を取得、整備し、 その管理下でプログラムを実現する建設会社に売買する。安藤 忠雄のピノー財団の美術館の計画があった場所でもある。 2.協議整備区域の方法 ZAC セガン島‐セーヌ河岸は次の 4 地区で構成されている。 ■セーヴル橋地区:70 年代に旧ルノー敷地に建設された街区 ■トゥラペーズ地区:ビヤンクールの平野部 ■セガン島:かつては 2 つの橋で結ばれていて、新たにひとつ の橋と 2 つの歩道橋が計画されている 図1) ZAC セガン島‐セーヌ河岸 ①セーヴル橋地区、②セガン島、③トゥラペーズ地区 ■点在した地区:いずれもルノーの敷地 異なった取り組みをしている地区が整合性を持つために、ス 2004 年 4 月に SDRIF の方針に基づき、ZAC が承認され、集 ビローにより調整されたプラン(図 1)が事業の開始から確立 合住宅と事務所、公共施設、商業施設が革新的な建築と共にバ している。その大きな機軸は以下の通りである: ランスをとって計画されている。環境的な配慮と全体的な景観 ビヤンクールに関しては、セーヌ河右岸の拡幅と土手に植栽 の中で、セーヴル橋街区の改修とセーヌ河沿いの価値を高める すること、セーヌ河の土手に繋がる7ha の公園の位置づけ、 ことを目的としている。SAEM セーヌ渓谷整備会社(ジャン= 歩行者とサイクリストの横断の実現が植栽された中心部の街区 ルイ・スビローがディレクター)が都市整備を行っている。 SAEM 役割は不動産の取得の方式が地区によって異なるので、 を行き来し、セーヴル橋街区から新たな街区、セガン島を繋な いでいく。島の周囲を水辺に面した遊歩道をめぐらせ、地域内 その事業の財政的な組み立てを保証している。 での公共交通の整備のために自動車交通の制限し、ルノー工場 ■セーヴル橋街区:国立都市再生機構(ANRU)による枠組み Urban Design on the ZAC Ile-Seguin -Rives de Seine A Study on the Contemporary Urban Design in France I * AKAHORI Shinobu ** TORIUMI Motoki 跡地の記憶の保存しつつ、新たな歩行者用の橋が実現される。 都市計画全体の規定で、持続可能な開発が計画の強い軸となっ ており、都市整備は豊かな公共空間に基づいている。 ルノーにより開放された土地の半分以上は公共空間と遊歩道 に当てられ、トゥラペーズ地区の公園、セガン島のテラスガー デン、中庭のように豊かな植栽がなされている。それを支える 技術的・環境的な事項は進展する規約にしたがって作成されて いる。日照、エネルギー消費の制限、雨水の処理、屋上緑化に ついて、すべての建築的書類に添付されており、ZAC 全体の 計画は高い環境基準が義務化されている。 表1)ZAC セガン島‐セーヌ河岸、各街区の概要 アーキテクト マスター ドゥヴィレー 三角地帯 調整都市計画家 セーヴル橋 小街区 地区 A2 建築家 ヌーヴェル、ヴィギエ、コルニュ ディネー ディネー・ディネー、ライシェン+ロベール、ブロシェ+ラ ジュ+ピュヨ、メイリ、ペロー、コロメ+デュモン シャヴァンヌ トゥラペーズ A3 マテオ パヤー、マテオ、ムニュ+セゾン B2 ベール UAPS、プノー、ヴェルガリー、フェラテ、ベール B3 リプスキー リプスキー+ロレ、ロヴァン+ギィエス、ノー+プー、ドュ +ロレ ボワ、シェクス+モレル、ドュサパン+ルクレール D2, D3A, B フォスター、アムーテン、イボス+ヴァター 公園 景観デザイナーTER グレテール セガン島 景観デザイナー:デヴィーニュ デッキ:ポワトゥヴァン(ARM)、モーパン 音楽センター;ルチオッティ アーティスト・研究者用レジデンス:FOA アメリカ大学:ヴィギエ, ホテル:アジャンス・オペラ 3.事業の特殊性 敷地の広さと例外的な位置に加えて、セガン島-セーヌ河岸 は特殊な事業と質の高い建築を保証しながら、計画の中で最大 の多様性をつくり出している。開発業者のグループである DSB にとって有利な売買契約が計画前になされている。事業 は売買時にルノーによる仕様書を DSB に渡し、それぞれの街 区にコンクールを義務化するという協定が SAEM・DSB・ルノ ーの 3 者で交わされている。 小街区の設計競技に参加する4~5名の建築家の選択は SAEM が企画する会議(開発業者、市、調整都市計画家と SAEM)で決められる。設計競技の目的は全体の景観と、地域 都市計画プランを尊重しつつ小街区の形態を決めることである。 これは景観デザイナーとの共同作業である。技術委員会が DSB・市、SAEM、調整都市計画家と二人の外部建築家による 審査委員会を準備する。ルノーも諮問機関として参加している。 * 芝浦工業大学 教授 **首都大学東京 准教授・博士 小街区の調整役に指名された建築家は計画を詳細に検討し、 街区を区切り、建築家の意向を都市的に達成基準として定めて いく。マスターアーキテクトは各自の作業方法でプロジェクト を発展させていき、そのチームの特殊性をつくり出す。 各街区の建築家の決定は街区のマスターアーキテクトと直接 になされる。(表1) 建築申請の準備段階で、SAEM は全ての 当事者と入念な作業委員会を開催する。最も注意が払われるの は 1 階部分の用途を通してで、異なった小街区の繋がりや公共 空間が、通りのイメージを作り出すからである。この点が計画 を成功させるためには不可欠である。DSB とルノーの合意で、 小街区の分割後、建築申請を 7 ヶ月以内にしなければならなく、 この段階は期間が短く重要である。公共空間と公共施設を実現 するために、SAEM が参加できるのは建築許可が下りたとき である。建築許可後、構造、材料、施工の詳細等に対する変更 への影響を判断するために、業者の書類が DSB により SAEM とマスターアーキテクトに提示される。最終的に自然光の元に 材料見本が街区の中で整合性を持っているかを現場で確認する。 建築的な意見を体系化するために SAEM、ルノーと DSB で 協定が交わされており、それが各敷地に建設する施主を保証し ている。マスターアーキテクトは小街区の規模で市・開発業者・ SAEM を調整し、敷地の分割、分譲、場所の分析をする。各 建築プロジェクトは建築家が開発業者とともに計画する。小街 区を区分所有するために、民間不動産会社(SCI)が各事業で 作られる。 4.結論 本研究で明らかになったのは各地区に調整都市計画家による 計画、各街区にマスターアーキテクトの存在がプロジェクトの 質に大きく関わっていることで、彼らにより作られる仕様書に 従って小街区を建築家と景観デザイナーがつくっている。設計 競技の末、SAEM・開発業者・市が一緒になって協議が繰り返 され、公共空間、建物、都市景観の質が向上していくデザイン マネジメントが浮き彫りになってきた。 本研究は科学研究費補助金基盤(C)『フランスにおける新規建 築物のデザインマネジメント』による研究成果である。 参考文献 - Marie-Laure Fleury, Guillaume Hébert: Ile Seguin–Rives de Seine Une fabrique de la ville Val de Seine Aménagement, AMC no 176, fev. 2008, pp. 135-170 - François Grether: Projets Urbains en France, Le Moniteur, sept. 2002, pp. 32-36, - Thierry Vimin: Ville aménagement, La maîtrise d’ouvrage urbaine, Sous la direction de Jean Frébault, Le Moniteur, déc. 2005, pp. 94-110 - 鳥海基樹:「都市に都市を造る-ブーローニュ・ビヤンクール におけるルノーの跡地の経験-」, 日仏工業技術, Tome.48-No.1, 2002 年 8 月, pp.58-61 * Professor, Shibaura Institute of Technology, DPLG **Associate Prof. Tokyo Metropolitan University, Doctor ニース市のトラムウェイ導入に共振させた公共空間整備に関する研究 ‐フランスに於ける現代都市デザインに関する研究(その8)- 正会員 正会員 ストリート・ファーニチャー 中心市街地 パブリック・アート 公共空間整備憲章 ○赤堀 忍* 鳥海 基樹** 舗装 都市照明 0.研究意義、研究目的、研究方法 我が国ではトラムウェイの有効性が認められていつつ 置し周辺には高層の集合住宅もあり、ニース市街と地中 も、なかなか導入されていないのが現状で、ましてや公 とその奥に整備場があり、上階には一部が外気に面し、 共交通整備によって公共空間整備をしようという動きも 自然光の取れる駐車場がある。基本的に施設は地中に埋 ない。トラムウェイの導入は移動手段の変化同様に都市 め込まれ、管理棟が地上から立ち上がっている。ニース の公共空間整備に重要な意義がある。フランスの都市整 の丘に埋め込まれたこの整備場は、その質の高さから 備の戦略は中心市街地の車の移動による CO2 の削減だけ 2008 年度のエケール・ダルジャン(ル・モニター出版社主 でなく、魅力的なまちづくりを目指しており、日本の都 催による建築大賞)に選ばれている。 海を見下ろす建築構成をつくり出している。最下部に駅 市整備に重要な示唆となる。フランスで最も権威のある 都市計画賞のひとつである都市整備トロフィーは 2008 年 度の人口 5,000 人以上の都市部門では本賞がボルドー、特 別賞がリヨンとニースであった。ボルドーとリヨンに関 しては『新建築』2009 年 2 月号及び 4 月号で分析したの で、本稿は文献資料と現地調査をもとにニースの事例を 図 1:ニースの丘に埋め込まれたラ・プラナス終着駅と整備場 検証していく。 3.マロセナ通り 1.ニースの公共空間のデザインの概要 ティエール駅と新市庁舎前広場の間のマロセナ通りに ニースは 1996 年に指導スキームが承認され、2001 年に あるリベラシオン駅を中心に市場が設置されていて、市 都市整備 10 年計画が決定されて以降、トラムウェイの導 場の搬入・居住者を除いて車が全く入れない歩行者空間 入にともなって中心市街地の整備がなされている。その になっている。市場には市民が出て活気があり、駅に面 中心となる要素は次の 3 点である。 したカフェは道路いっぱいまでテーブルを出している。 ‐ストリート・ファーニチャー 車の主要幹線であったこの通りは現在、歩道とトラム ‐パブリック・アート ウェイの線路だけで、植樹がされ、市場・停留所が新た ‐舗装の素材 なストリート・ファーニチャーとしてデザインされ、街 ストリート・ファーニチャーはゴミ箱、ベンチ、街灯、 をダイナミックに変えている。ここでは歩行者、移動手 段が限られた人、自転車利用者が公共空間の主体である。 信号、停留所、市場、公衆トイレ等で、パブリック・ア ートは 14 組の作家が参加している。舗装のうち、石は場 所に応じて様々な色、異なった仕上げで使用し、場所に よっては芝生が敷き詰められている。 車の進入しない中心市街地ではほとんど高低差のない フラットな仕上げで公共空間に広がりを与えている。ま た、広場などの象徴的空間だけでなく、都市全体の公共 空間の質を高めるために 2006 年に『ニース公共空間整備 憲章』を策定している点も特記に値する。 図 1:マロセナ通り、統一されたリベラシオン駅と市場、車から開放された 公共空間を楽しむ市民 4.マセナ広場 2.ラ・プラナス整備場と終着駅 ブルーノ・フルティエの設計によるマセナ広場の床は トラムウェイの終点ラ・プラナスに直結してトラムウェ 赤い建物のファサードとは対照的にポルトガルの石灰岩 イの整備場が建築家マルク・バラニによってつくられてい と玄武岩で白黒に敷き詰められ、北のジャン・メドゥサ る。駅、駐車場を含んだ複合建築で、ニースの高台に位 ン通りから延びる都市軸がこのマセナ広場を突き抜けて A Study on the Public Space resonated to Tramway in Nice -A Study on the Contemporary Urban Design in France VIII- * AKAHORI Shinobu ** TORIUMI Motoki 旧市街、地中海へ延びている。それと直角方向に松の植 これらはトラムウェイの音、都市照明、停留所のカリ えられた公園がひろがり、ミネラルな広場とヴェジタル グラフィ、ソーラーシステム、水等を使った応用芸術で な広場が対照的に交差している。この白黒模様の広場を 都市生活者にユーモアを与えている。日常生活の中にこ トラムウェイが通り抜けていく。ここではトラムウェイ れらのパブリック・アートが都市の質とゆとりをつくり はバッテリーで走っている。広場の景観を壊さないため だしている。 に、マセナ広場とガリバルディ広場の区間だけが高架線 をなくしている。 図 3:白黒に敷き詰められたマセナ広場;ジャン・メドゥサン通りから地中海 へ延びる都市軸線を強調している 5.パブリック・アート トラムウェイの開通を機会に、街を整備してパブリッ ク・アートを都市の中に設置あるいは挿入することで街を 豊かにしている。 表 1:14 グループによる作品 作家 タイトル 場所 ジャウメ・プレンサ ニースでの会話 マセナ広場 モリジオ・ナヌッチ 異なった方向の発見 トジャ広場 ジャン=ミシェル・オ 心を許せる友 ドワイヤン・ジャ トニエル ン・レピン広場 図 4:立体的にデザインされたトラムウェイのサインとパスカル・ピノー+ス テファン・マナンのユニークな街灯、及びベンの停留所の駅名のカリグラフ ィと考え 4.結論:都市デザインによる公共空間の開放 都市交通整備に共振させてパブリック・アートを展開 するのは、フランスではトゥールーズの地下鉄、日本で パスカル・ピノー+ス ハイブリッドな外灯 サン・ジャン・ダン テファン・マナン の繁殖した構成 ジェリ は都営大江戸線や横浜市営地下鉄ブルーラインなどでも ミカエル=クレイグ・ 物体の滝 ヴィルジル・バレル 見られる。他方、駅中ビジネスやバリア・フリー化の進む JR や私鉄各線ではまったく進んでいない。しかし、スト マルタン エマニュエル・ソル 流れる水に生きる ラ・プラナス駅 較的容易かつ短時間での整備が可能である。また、創造 ニエ サルキス リート・ファーニチャーやパブリック・アート整備は比 フォース門に留まる フォース門 都市政策との共振も可能である。その意味で、ニースの 公共空間整備は格好の参考事例となろう。 ポスト アンジュ・ルキア ソーラー・ディスク ラ・プラナス駅 ジャック・ヴィエイ 乳白色のめまいを伴 ポン・ミシェル駅 ユ うヤシ [本研究は科学研究費補助金基盤(C)『フランスにおける新規建築物 のデザインマネジメント』による研究成果である] グンダ・フォルスタ 青、イヴ・クライン ティエール鉄道高 参考文献 ー の青へのオマージュ 架下とトリノ通り ヤン・ケルサレ 青の点火装置 ジャン・メドゥサン ‐Aménagement 2008, Le Moniteur, p26, Paris, mai 2008 ‐Amc n°180, pp94-107, Paris, juin-juillet 2008 [図 1 出展] ‐Le Patriote du 23.11 au 29.11.2007 ‐Amc n°163, pp151-180, Paris, septembre 2006 ‐Amc n°120, pp149-178, Paris, novembre 2001 ‐L’art dans la ville, Communauté d’Agglomération Nice Côte d’Azur Office du Tourisme & des Conrès de Nice ‐ 西田敬,フランス地方圏の都市整備と新しい交通・環境政策~南仏の 都市における最近の動向から~,月刊住宅着工統計 (284),6~14, 2008/11 ‐ 鳥海基樹, フランス公共空間整備憲章, 季刊まちづくり,2009 通り ベン 駅名のカリグラフィ 各停留所 と考え ピエール・ディシウ トーテム 各停留所 ミシェル・ルドリフ ソナル:声の知らせ トラムウェイの音 ィ と音楽的サイン ロ * 芝浦工業大学・教授・フランス政府公認建築家 **首都大学東京 准教授・博士(都市学) * Professor, Shibaura Institute of Technology, DPLG-France **Assoc. Prof. Tokyo Metropolitan University, Doctor ès etudes urbaines
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