博 士 学 位 論 文 東 邦 大 学 東邦大学審査学位論文(博士) 凍結乾燥製剤に適した 新規添加剤の探索と製法の最適化 2015 年 藤井 香穂梨 目次 項 第 1 章 序論 1 第 2 章 糖アルコール添加によるタンパク質の安定化検討 2-1. 実験 2-1-1. 試薬 6 6 6 2-1-2. 凍結乾燥 2-1-3. 熱測定 2-1-4. 凍結乾燥顕微鏡 2-1-5. 粉末 X 線回折測定 2-1-6. 残存水分量 2-1-7. LDH 活性測定 2-1-8. 二次構造測定(FT-IR) 2-1-9. メイラード反応 2-2. 結果 2-2-1. 凍結乾燥 7 8 9 10 11 11 11 11 12 12 2-2-2. 糖・糖アルコール類の凍結溶液の物性 2-2-2-1. 熱測定 2-2-2-2. 凍結乾燥顕微鏡観察 2-2-3. 糖・糖アルコール類の凍結乾燥固体の物性 2-2-3-1. 熱測定 2-2-3-2. 粉末 X 線回折測定 2-2-3-3. 凍結乾燥固体の残存水分量 2-2-4. タンパク質安定化検討 2-2-4-1. 酵素活性 2-2-4-2. BSA の二次構造測定 2-2-5. 凍結乾燥固体の化学的安定性 2-3. 考察 2-3-1. 糖・糖アルコール類の転移温度 2-3-2. 糖・糖アルコール類の凍結溶液の Tc と Tg′の関係 2-3-3. タンパク質の安定化 2-4. 小括 i 13 13 14 16 16 17 18 19 19 21 22 23 23 24 24 26 第 3 章 凍結乾燥製剤に適した結晶性賦形剤の探索 3-1. 実験 3-1-1. 試薬 3-1-2. 熱測定 3-1-3. X 線回折測定 3-1-4. 凍結乾燥顕微鏡 3-1-5. 凍結乾燥 3-1-6. 走査型電子顕微鏡 3-1-7. 粉末 X 線回折測定 3-2. 結果 3-2-1. 糖・糖アルコールの結晶化傾向 3-2-1-1. 試薬の熱測定 3-2-1-2. 凍結溶液の熱測定 3-2-2. meso-erythritol 凍結溶液の物性評価 3-2-2-1. meso-erythritol 凍結溶液の熱測定 3-2-2-2. X 線回折測定 3-2-2-3. 凍結乾燥顕微鏡観察 3-2-3. 凍結乾燥 3-2-4. 凍結乾燥固体の評価 3-2-4-1. 走査型電子顕微鏡観察 3-2-4-2. 粉末 X 線回折測定 3-2-4-3. 凍結乾燥固体の熱測定 3-3. 考察 3-3-1. meso-erythritol の結晶化挙動 3-3-2. meso-erythritol の凍結乾燥 3-3-3. 凍結工程の影響 3-4. 小括 第 4 章 混合性の異なる溶液からの凍結乾燥製剤とその物性 4-1. 実験 4-1-1. 4-1-2. 4-1-3. 4-1-4. 4-1-5. 試薬 熱測定 凍結乾燥 走査型電子顕微鏡 凍結乾燥顕微鏡 27 27 27 27 28 28 29 30 30 31 31 31 32 33 33 35 38 40 41 41 42 43 44 44 45 46 48 49 49 49 49 50 51 51 ii 4-1-6. 残存水分量 4-2. 結果 4-2-1. 凍結溶液の熱測定 4-2-2. 凍結乾燥 4-2-3. 走査型電子顕微鏡観察 4-2-4. 凍結乾燥顕微鏡観察 4-2-4-1. 複数の溶液を含む凍結溶液(混合濃縮) 4-2-4-2. 複数の溶液を含む凍結溶液(相分離) 4-2-5. 凍結乾燥固体の評価 4-2-5-1. 残存水分量測定 51 52 52 54 57 58 58 59 61 61 4-2-5-2. 凍結乾燥固体の熱測定 4-3. 考察 4-3-1. 凍結溶液の混合性 4-3-2. 凍結乾燥固体の外観と物性 4-3-3. 凍結乾燥固体の内部構造 4-3-4. マイクロコラプスの凍結乾燥挙動 4-3-5. 多成分系の製剤設計と凍結乾燥工程の制御 4-4. 小括 61 64 64 66 67 68 69 72 第 5 章 総括 73 謝辞 75 参考文献 76 iii 第1章 序論 1980 年代の遺伝子組み換え技術の出現以降、タンパク質やペプチドなどの医 薬品への応用は急速に進み、その製品数も継続的に増加している 1,2)。これらバ イオ医薬品の多くは注射剤として用いられるが、工程や保存中に様々な物理的 及び化学的な機構により、薬理活性を低下させるだけでなく免疫原性をもたら すことも報告されている。現在臨床応用される製剤の約半数は、溶液状態で長 期保存に必要な安定性を確保することが困難なことから、用時溶解型の凍結乾 燥品として用いられており、製剤設計やプロセスの最適化を通じた凍結乾燥製 剤の品質確保はタンパク質医薬品を有効活用するための基本となっている 1)。 凍結乾燥医薬品製剤に含まれる主薬や添加剤は、結晶または非晶質状態で存 在する 3)。多くの製剤で糖類やアミノ酸類がタンパク質の安定化を目的に、賦形 剤として乾燥固体の形成を目的に添加される。一般に低分子医薬品の保存安定 性は分子運動性が低い結晶状態が優れているのに対し、タンパク質は糖や高分 子のような添加剤で構成されるガラス状態のアモルファス(非晶質)固体に埋 め込まれることで保存安定性が保たれている。 近年の科学の進歩にも関わらず、凍結乾燥は長い乾燥時間と多量の電力を要す る非効率的な方法だと考えられており、高い品質を保証しながら生産効率を増 加させるためには主薬に応じた処方と凍結乾燥サイクルの最適化は不可欠であ る 4)。凍結乾燥プロセスは凍結、一次乾燥、二次乾燥の 3 つの段階で構成されて いる 1-5)。凍結濃縮溶液中の氷を昇華により除去する一次乾燥はプロセスの大半 を占め、試料の温度が高いほど氷の昇華は速くなるため一次乾燥時間は短縮さ れる。一方、高温では凍結濃縮相の分子運動性が上昇するため、非晶質ではコ ラプス、結晶ではメルトバックと呼ばれる構造の変化を誘発しやすい 1)。コラプ スによる外観変化は製品として好ましくないだけでなく、凍結乾燥中にも昇華 の障害となることで乾燥固体の水分含量上昇や再溶解時間延長の原因となる 1)。 コラプスやメルトバックの現象を避けつつ一次乾燥を効率的に進めるには、 各製剤でこれらの現象が起こる最低温度(臨界温度)を的確にとらえ、その温 度より工程中のバイアル内温度(品温)をわずかに低温に保持することが望ま しい。この臨界温度は溶質の組成に依存する。製剤化の臨界温度の測定には、 示差走査熱量計(DSC)を用いた測定が最も広く用いられており、結晶化する試 料では、共晶融解温度(Teu)が製剤化の臨界温度となるためプロセス設定への 応用は比較的容易である。一方、非晶質状態での製剤化の臨界温度は DSC 測定 により得られる最大濃縮相ガラス転移温度(Tg′)と、凍結乾燥顕微鏡(FDM)を用い た凍結溶液の乾燥過程観察によるコラプス温度(Tc)により決定する 6,7)。Tg′以 下では、非晶質相は「ガラス」として存在し、硬くてもろい性質をもつ。Tg′は -1- 相が動き始める固有の相転移温度で、凍結ケーキがコラプスを起こす温度と強 く関連性があるため、測定が容易な Tg′を Tc の代わりに用いることも多い 4)。溶 質の組成によって Tg′と Tc 間に開きがあることが多い。FDM による乾燥過程の観 察は凍結乾燥の過程をより反映すると考えられているため、より効率的な乾燥 には Tc 測定が不可欠とされている 8,9)。 凍結乾燥工程中に、凍結溶液の熱処理(アニーリング)を行うことがある 10,11)。 Tg′と Teu の間の温度でアニーリングすると一部の溶質は結晶化する 12)。急速な 凍結や過冷却で生じる氷結晶は小さいため、乾燥層の小孔サイズが小さくなり、 その結果昇華界面からの水蒸気移動が妨げられ一次乾燥に長い時間が必要とな る。それに対し、アニーリングを実施すると氷結晶がオストワルド成長により 大きくなり速い昇華が可能となる。また、非晶質固体は高い吸湿性や分子運動 性を持つため、結晶固体に部分的な非晶質が存在すると、化学反応が誘発され 品質劣化の原因となる。アニーリングは結晶の核形成や成長速度の遅い物質の 結晶化を促進し、結晶性や結晶多形のバラツキの制御に有用である。しかしな がらアニーリングにより非晶質状態の保持が望まれる添加剤が結晶化し、タン パク質の安定性を低下させることもあることから、凍結工程の条件設定が重要 である 13)。 凍結乾燥医薬品に含まれる添加剤の中で、安定化剤は凍結と乾燥ストレスに よる変性からタンパク質の保護と、製剤の長期保存安定性確保のために用いら れる。 凍結及び乾燥によるタンパク質分子周辺の水分子除去は、タンパク質保存中 の化学変化を抑制する。一方、凍結や乾燥の過程で多くのタンパク質で高次構 造が変化し、活性が低下することが知られている。この乾燥ストレスからタン パク質を保護し、保存中の安定性を保つため、cryoprotectant(凍結保護剤) や lyoprotectant(凍結乾燥保護剤)と呼ばれる種々の添加剤による高次構造の 安定化が必要とされる 2)。糖類はタンパク質凍結乾燥製剤の安定化に汎用されて いる。凍結及び凍結乾燥により奪われる水分子の代わりに糖類がタンパク質と 水素結合することで高次構造を安定化する水分子置換説と、分子運動性の低い ガラス状態の非晶質固体に埋め込むことにより化学反応や構造変化を抑制する ガラス状態説の 2 つのメカニズムが提案されている 2,14)。 sucrose と trehalose などの二糖類は非晶質固体を形成し、比較的高い Tc や Tg を持つことから、タンパク質溶液の凍結乾燥の安定化剤として用いられてい る 15)。 糖アルコールの多くは分子量の近い糖類と類似した物理化学的特性を持つと ともに、糖と比較して熱、酸・アルカリに対して高い安定性などの長所を活か して広範な食品の他、化粧品や医薬品での活用例が増加している。製品の入手 -2- も可能なことから、凍結乾燥でのタンパク質安定化剤としての活用に向けた系 統的な検討が求められている 15,16)。 糖類と同様に糖アルコール類の多くは溶液中でタンパク質 native 構造の熱安 定性を向上させることが知られているが、凍結乾燥固体の特性は分子量により 大きく異なる。sorbitol や mannitol など低分子量の糖アルコールはガラス転移 温度が低く、結晶化作用が消失するため凍結乾燥の添加剤として適当でないと される。一方、オリゴ糖由来の maltitol などガラス固体を形成する糖アルコー ルは二糖類と同様なタンパク質凍結乾燥時の安定化作用が期待される 18)。 医薬品となるタンパク質は多岐にわたることから、凍結乾燥製剤の開発には それぞれの特性や投与量に合わせた処方と工程の最適化が不可欠となる。安定 化剤として広く用いられる糖類の非晶質固体は一般に吸湿性が高く、結晶に比 べ高い分子運動性による保存時の化学的安定性が問題となる場合も多い。この ため糖類と同様なタンパク質安定化作用または糖類の特性改善作用を持つ添加 剤の探索が期待されている。また凍結乾燥は典型的な高エネルギー消費プロセ スであることから、主薬と添加剤を含む多成分系の適切な凍結乾燥工程の設 定・管理は製造コストと環境負荷の低減に向けた重要な課題となる 4)。 第 2 章において、長期保存可能な凍結乾燥製剤への応用を目的とし、糖アル コールによるタンパク質の安定化について添加剤の物性とタンパク質保護作用 の両面から検討した。 上述した安定化剤に対し、賦形剤は凍結乾燥工程中の構造崩壊(コラプス) の回避、多孔質なケーキ固体の物理強度の確保、工程や臨床使用時に主薬が少 ない場合の飛散防止を目的として用いられる。一般的に結晶性賦形剤の添加に よりケーキ固体の形成が容易となる。製剤の特性に合わせて添加剤を選択する ことが重要で、タンパク質が高濃度の場合は多量のタンパク質自体がケーキ構 造を支えるため、結晶化する賦形剤を添加する必要はないが、低分子医薬品は 主薬のみではケーキ構造を支えることができないために結晶性賦形剤を添加す る。sucrose や trehalose で形成される非晶質固体は高次構造の保護作用も併せ 持つものの、高温や高湿度下での保存安定性が課題となることが多い。一方で 保存安定性に優れた結晶性固体を比較的短い乾燥時間で得ることができる mannitol が、賦形剤として、広く用いられている 19)。 糖アルコール類はタンパク質製剤の添加剤として望ましい特性を持つことを 前述したが、タンパク質やリポソーム以外の低分子化合物、核酸などは、非晶 質に包埋されていなくても安定である。主薬が結晶化しにくい場合、結晶性賦 形剤を添加することで主薬の結晶化を誘発し、ケーキ構造を保ちやすく、さら に高温で乾燥できるようになることがある。結晶性の賦形剤として広く用いら れる mannitol や glycine は一般に物理安定性に優れるが、凍結乾燥の工程条件 -3- により水和物結晶を含む結晶多形を生じ、保存安定性など製品品質のばらつき の原因となるなど、課題が残されている 20-23)。 そこで第 3 章では、凍結乾燥製剤の新規賦形剤探索を目的として、食品分野 で汎用されて安全性が比較的高いと考えられる糖及び糖アルコールの中から結 晶性の高いもののスクリーニングを行った。 糖アルコールの一つである erythritol はキノコ類,地衣類,ナシ,ブドウ,スイ カ,メロンなどの果物類、ワイン、醤油などの発酵食品に含まれ、自然界に広く 存在している。sucrose の約 70%の甘味を持ち、sucrose より吸湿性が低く、虫 歯の原因になる酸を作らないことから、食品分野で広く用いられ、経口剤及び シロップ剤において医薬品添加剤の使用実績がある 24-27)。動物による安全性研 究も実施されており、1000 mg/kg までは胃腸に対する顕著な毒性は見られてい ない 28)。erythritol は他の糖や糖アルコールと同様に、水溶液中で熱変性から タンパク質を保護する作用を持つことがわかっている 16)。また、水への溶解性 が高いことも凍結乾燥製剤の賦形剤に適している 29)。 凍結乾燥工程は水溶液の凍結、氷晶昇華(一次乾燥)、残存水の除去(二次乾 燥)の 3 段階からなり、成分の結晶化は各段階で起こる 30)。そのため本研究で は、凍結乾燥による結晶性の賦形剤を検索するにあたり、添加剤の結晶化傾向 を固体、凍結溶液、凍結乾燥工程の異なる視点から検討し、結晶化の機構や制 御の可能性について考察した。 Baird らは DSC を用いて結晶化のしやすさをクラス分け(クラスⅠ,Ⅱ,Ⅲ)し ている 31)。加熱/冷却/再加熱工程での結晶化の有無を観察し、クラスⅠは冷却 工程で結晶化が見られるもの、クラスⅡは冷却工程では結晶化が見られないが 再加熱工程で結晶化が見られるもの、クラスⅢはいずれの工程でも結晶化が見 られないものという 3 段階に分類した。この手法を参考に、固体における結晶 化傾向の評価法として、賦形剤を室温から融点以上に加熱し、冷却後再加熱し て結晶化ピークの有無を確認した。また、凍結工程における結晶化の評価法と して、水溶液を冷却し、室温まで加熱し、固体と同様にクラスⅠは冷却工程で 結晶化が見られるもの、クラスⅡは冷却工程では結晶化が見られないが再加熱 工程で結晶化が見られるもの、クラスⅢはいずれの工程でも結晶化が見られな いものという分類で評価した。 タンパク質凍結乾燥製剤は、主薬であるタンパク質とともに安定化剤や pH 調 整剤など各種の添加剤を含む多成分系である。タンパク質と添加剤の相分離は 安定化に必要な分子間相互作用を消失させるとともに、相分離界面におけるス トレスがタンパク質構造変化を引き起こす可能性が指摘されていることから、 多成分凍結溶液の物性把握が製剤設計と工程の最適化に不可欠となる 4)。 凍結により溶質は氷晶間に氷がそれ以上成長しない段階まで濃縮される -4- (70-80%, w/w) 32)。凍結乾燥製剤の水溶液に含まれる複数の溶質は成分の構成 や比率によって、凍結過程において氷晶間に分子レベルの混合状態で存在する 場合と、複数の相に分離して存在する場合があり、凍結乾燥過程の挙動や固体 の品質に影響を与える主な因子となる 33-37)。混合性の溶質を含む凍結溶液の熱 測定では、濃度比に依存して単一の Tg′が観察されるのに対し、相分離を起こす 典型的な高分子の組み合わせ(例えば PVP と dextran)は濃縮相が分離した状態 を示唆する 2 つの Tg′を示す 38,39)。これらの高分子の組み合わせは非常に高い濃 度の水溶液中において水性二相分離を起こす。この熱力学的混合性の低さと凍 結濃縮により、凍結時に単層の水溶液から複数の凍結濃縮相に分離することに なる 40,41)。タンパク質など生体高分子の凍結乾燥において高分子添加剤はオリ ゴマータンパク質の失活を抑制することが知られる。一方でそのような多成分 溶液は、主薬と添加剤など構成成分が凍結溶液中の濃縮相で複雑な物性挙動を 示し、相分離するものがあることが示唆されている 42)。このように濃縮相が組 成の異なる複数相に分離した凍結溶液では、一次乾燥の臨界温度の指標となる Tg′(溶質が結晶化する場合は Teu)が複数現れることから、乾燥を効率的に進め るための温度制御が課題となる。 そこで第 4 章では多成分系での凍結乾燥挙動の検討を目的とし、タンパク質 に比べ凍結溶液における混合性の情報が得やすい PVP と dextran をモデル系と して用い、相分離を起こす複雑な製剤の合理的なプロセス構築の為の物性評価 を行った。 -5- 第 2 章 糖アルコール添加によるタンパク質の安定化検討 本章では、長期保存可能な凍結乾燥製剤への応用を目的とし、糖アルコール によるタンパク質の安定化について添加剤の物性とタンパク質保護作用の両面 から検討した。 2-1. 実験 2-1-1. 試薬 maltitol maltotyiitol maltotriose maltotetraose maltotetraitol glucose sucrose trehalose dihydrate sorbitol dextran 林原生物化学研究所 林原生物化学研究所 林原生物化学研究所 林原生物化学研究所 林原生物化学研究所 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 ficoll L-lactic dehydrogenate (rabbit muscle) (LDH) bovine serum albumin (BSA) Lysozyme maltose lactose mannitol xylitol lactitol monohydrate アクアミクロン滴定剤 SS 1 mg Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 和光純薬工業株式会社 和光純薬工業株式会社 和光純薬工業株式会社 和光純薬工業株式会社 和光純薬工業株式会社 三菱化学 L-lactic dehydrogenate (rabbit muscle) (LDH)と bovine serum albumin (BSA) は、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムから成るリン酸ナトリ ウム緩衝液(50 mM, ㏗ 7.0)を用いて 5 ℃で 24 時間透析し、1500 g×5 min 遠 心分離により凝集物を除去したものを試料とした。 -6- 2-1-2. 凍結乾燥 温度コントロール棚を備えた凍結乾燥機(Freezone-6, Labconco)を用いて凍 結乾燥を行った。凍結乾燥の温度プログラムを Fig.2-1 に示した。平底ガラス バイアル (内径 約 13 mm)に溶質を含む水溶液 300 μL を分注し、そのバイアル を凍結乾燥棚に室温で静置した。0.5℃/分で棚温度を-40℃まで冷却し 2 時間保 持した後、減圧下(4.0 Pa)、-40℃で 15 時間、-30℃で 6 時間一次乾燥を行った。 二次乾燥は 35℃、6 時間とし、各設定温度間は棚温度を 0.2℃/分で昇温した。 バイアルは真空下でゴム栓をして取り出した。バイアル中の試料は数日間保存 後、各試験に用いた。 70 Temperature(℃) 50 Primary drying Freezing Secondary drying 30 10 -10 -30 -50 0 500 1000 1500 Time(min) Figure 2-1 凍結乾燥温度プログラム -7- 2000 2-1-3. 熱測定 示差走査熱量計(DSC)(TA Instrument, Q-10)と Universal Analysis 2000 software (TA Instruments)を用い、凍結溶液及び凍結乾燥固体の熱測定を行っ た(n=3)。 凍結溶液の熱測定は、試料溶液(100 mg/mL, 10 μL)をアルミニウムセルに入 れ、10℃/分で室温から-70℃まで冷却後、5℃/分で 25℃まで昇温測定し最大濃 縮相ガラス転移温度 (Tg´)を得た。Tg′はヒートフロー曲線の不連続点の最大屈曲 点により決定した(Fig.2-2)。 試料 100 mg/mL をガラスバイアル (内径 約 13 mm)に 300 μL を分注し作成し た凍結乾燥固体の Tg は、1~2 mg の試料を 10℃/分で室温から-50℃まで冷却後、 5 ℃/分で 180℃まで昇温測定して求めた(窒素ガス雰囲気)。また急冷固体の Tg は結晶粉末 1~2 mg を融解温度以上まで加熱、-50℃に冷却し、5℃/分で昇温測 定して求めた(窒素ガス中)。ガラス転移温度 (Tg)も、ヒートフロー曲線の不 連続点の最大屈曲点により決定した(Fig.2-3)。この時の加熱温度はそれぞれ の融点を考慮し、160℃(maltose, xilitol, sorbitol, maltitol, lactitol)、 180℃(glucose)、200℃(sucrose, mannitol, maltotriitol)、220℃(lactose, trehalose)とした。 Heat Flow Tg´ -60 Heat Flow, endotherm -70 -50 -40 -30 -20 Temperature (℃) -10 ②加熱測定 ①冷却 -80 -60 -40 -20 Temperature 0 (℃) Figure 2-2 凍結溶液測定時の DSC 曲線(Tg′) -8- 20 40 Heat Flow Heat Flow endothem Tg 0 20 40 60 80 Temperature (℃) 100 ③再加熱 ①融解 ②冷却 -100 -50 0 50 100 150 200 250 Temperature (℃) Figure 2-3 融解冷却固体測定時の DSC 曲線(Tg) 2-1-4. 凍結乾燥顕微鏡 減圧下での maltitol 及び lactitol 凍結溶液の様子は、凍結乾燥ステージに 液体窒素ポンプと減圧装置を接続した凍結乾燥顕微鏡(Lyostat2, Biopharma Technology Limited, Fig.2-4)と optical microscope (Model BX51, Olympus Co.) を用いて観察した。試料は Fig.2-5 に示すように、ステージに石英スライド(a) をはめ込み、70 μm 厚のスペーサー(b)と試料(c)約 2 μL を配置し、ガラス (d)で挟んで測定を開始した。昇華は試料の外側から進行する。測定は n=3 で 行った。 試料は室温から-40℃まで冷却後、5 分間保持し、0.129 mBar に減圧し、5℃/ 分で各試料を目的の温度の 5℃程度低い温度まで昇温し、そこから室温まで 1℃ /分で昇温し測定した。連続的に記録した顕微鏡画像を用い、乾燥界面に半透明 の点が観察された時点をコラプス温度(Tc)とした。 -9- Camera Liquid nitrogen pump Freeze drying stage Liquid nitrogen dewar Vacuum gauge Temperature controller Figure 2-4 凍結乾燥顕微鏡 d 画像撮り込み位置 c 減圧 昇華 a b Figure 2-5 凍結乾燥顕微鏡の試料部 2-1-5. 粉末X線回折測定 凍結乾燥した糖または糖アルコール類 (100 mg/mL)は粉末X線回折装置 (Rint-Altima diffractometer, リガク)を用いて、室温における結晶性を評 価した。試料約 5 mg をアルミニウムパンに取り、対陰極には Cu-Kαを選択し、 電圧 40 kV、管電流 40 mA、スキャンスピード 5°/min で 5° <2θ < 35°を測 定した。 - 10 - 2-1-6. 残存水分量 乾燥物の水分含量はカールフィッシャー水分測定装置(AQV-7, 平沼産業)に より求めた。凍結乾燥した試料を脱水メタノールで溶解し(添加剤によっては 懸濁状態)、この懸濁液 100 μL を取り、室温にてカールフィッシャー液(アク アミクロン滴定剤 SS 1 mg)で水分量を滴定した。カールフィッシャー法で n=3 で測定して得られた水分含量は、始めに測定した固体の重量に対する割合(%) として表示した。 2-1-7. LDH 活性測定 LDH(乳酸脱水素酵素)の凍結乾燥前後の活性に対する影響から添加剤の安定 化作用を検討した。温度調節(TCC-240A, 島津製作所)した紫外可視吸光光度 計(UV-2450, 島津製作所)を 25℃に保ち測定を行った(n=6)。 凍結乾燥固体の LDH 活性はサンプルの復水後に 0.05 mg/mL の LDH 溶液、リン 酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムから成るリン酸緩衝液 (50 mM, ㏗ 7.0)で NADH 及びピルビン酸ナトリウムの基質溶液を加え、光路長 10 mm のプ ラスチックセルを用いて 25℃における混合直後の吸光度変化(340 nm)より求め た。各試料の活性は、添加剤を含まない凍結前の試料の活性を 100%として示し た。 2-1-8. 二次構造測定 (FT-IR) 水溶液及び凍結乾燥試料中のたんぱく質の二次構造測定には FT-IR (MB-104, Bomen)を用いた。溶液試料は光路長 6 μm のセルを用い、凍結乾燥固体は KBr 錠 として、400~4000 cm-1 について 256 回積算測定(分解能 4 cm-1)し、解析ソフト (GRAMS PROTA)を用いて標準化したアミドⅠ域の二次微分スペクトルを得た。 2-1-9. メイラード反応 糖または糖アルコール類約 3 mL (100 mg/mL)と L-lysine (5 mg/mL)を含む凍 結乾燥固体を 80℃で 4 日間保存し外観変化を確認した。また、試料を溶解後 280 nm の吸光度を、石英セルを用いて紫外可視吸光光度計(UV-2450, 島津製作所) で測定した。 - 11 - 2-2. 結果 2-2-1. 凍結乾燥 凍結乾燥固体の外観を Table 2-1 に示した。糖及び糖アルコール水溶液を凍結 乾燥した結果、glucose、sorbiol、xylitol ではコラプスを起こした。それ以外 はきれいなケーキ固体となった。タンパク質を添加した試料では、糖及び糖ア ルコール単独と比較して glcose において、固体の縮みは観察されたもののケー キ構造の保持が確認された。 Table 2-1 凍結乾燥固体の外観 appearance Excipient + BSA + Buffer appearance shrunk good cake good cake good cake shrunk good cake shrunk good cake good cake good cake good cake shrunk shrunk good cake good cake good cake shrunk good cake shrunk good cake good cake good cake good cake Excipient no exipient glucose lactose sucrose maltose xylitol trehalose sorbitol mannitol maltitol lactitol maltotriitol - 12 - 2-2-2. 糖・糖アルコール類の凍結溶液の物性 2-2-2-1. 熱測定 糖及び糖アルコール類の凍結乾燥における適性を検討するため熱測定により 凍結溶液の最大濃縮層ガラス転移温度(Tg′)を測定した(Table 2-2)。 glucose は単糖、lactose、sucrose、maltose、trehalose は二糖類である。 単糖に相当する分子量の糖アルコールは xylitol、sorbitol、mannitol、二糖類 に相当する糖アルコールは maltitol、lactitol、三糖類に相当するものが maltotriitol である。 糖類・糖アルコール類共に分子量が同等のものはほぼ同じ温度に Tg′を示し、高 分子量の添加剤ほど、高い Tg′が観察された。糖アルコールは全体に糖よりもや や低い Tg′を示した。mannitol を含む試料は結晶化ピークが観察された。凍結乾 燥でコラプスを起こした glucose、sorbiol、xylitol はいずれも Tg′が-40℃以下 であった。mannitol は結晶化が観察された。 ウシ血清アルブミン(BSA, 10 mg/mL)と糖または糖アルコール類(100 mg/mL) を含む凍結溶液と乾燥固体の熱測定では、タンパク質を含まない試料に比べ高 い転移温度(Tg′)を示した(Table 2-2)。 Table 2-2 糖・糖アルコールを含む凍結溶液の Tg′ MW glucose 180.1 lactose 342.3 sucrose 342.3 maltose 360.3 trehalose 378.3 xylitol 152.2 sorbitol 182.2 mannitol 182.2 maltitol 344.3 lactitol 362.3 maltotriitol 506.5 maltotetraitol 668.6 Average ± s.d. (n=3) Excipient Tg´ -42.7 -29.1 -33.5 -31.1 -30.6 -48.5 -45.0 (℃) ± 0.5 ± 0.1 ± 0.1 ± 0.0 ± 0.1 ± 0.5 ± 0.4 Crystallized ± 0.2 ± 0.1 ± 0.0 ± 0.2 -36.7 -31.8 -29.5 -24.9 - 13 - Excipient + BSA + Buffer Tg (℃) -41.4 ± 1.6 -27.8 ± 1.8 -32.0 ± 0.7 -28.8 ± 1.6 -27.4 ± 0.5 -45.9 ± 1.2 -39.9 ± 0.7 Crystallized ± 0.6 ± 1.5 ± 0.7 ± 0.3 -35.7 -29.2 -26.6 -24.8 2-2-2-2. 凍結乾燥顕微鏡観察 糖及び糖アルコールを含む凍結溶液の乾燥過程を、凍結乾燥顕微鏡を用いて 観察した。 maltitol、lactitol(100 mg/mL)を-40℃まで冷却した後減圧下で加熱した 際の FDM 画像の一部を Fig.2-6 と Fig.2-7 に示した。 maltitol 溶液(Fig.2-6)では、一定温度まで昇華により端から黒い乾燥相が広が り(Fig.2-6-A)、さらに温度を上げると乾燥界面が乱れ半透明の穴が発生(Tc) した(Fig.2-6-B)後、すぐに白色部分が広がった(Fig.2-6-C)。その後境目が はっきりした状態となり全体的に構造が大きく崩壊していく様子(Fig.2-6-D) が観察された。 lactitol 溶液(Fig.2-7)でも、maltitol 溶液とほぼ同様な変化が観察された。 一定温度まで昇華により端から黒い乾燥相が広がり(Fig.2-7-A)、半透明の穴 が発生(Tc)した(Fig.2-7-B)後、すぐに白色部分が広がった(Fig.2-7-C)。そ の後境目がはっきりした状態で全体的な構造が大きく崩壊していく様子 (Fig.2-7-D)が観察された。 FDM と熱測定で得られた、maltitol、lactitol、trehalose の Tc と Tg′を比較 のため Fig.2-8 に示した。全ての試料において Tc は Tg′の 5℃程度高温に観察さ れた。 A:-40.0℃ B:-33.7℃ C:-33.4℃ D:-30.0℃ Figure 2-6 maltitol(100 mg/mL)の FDM 画像 - 14 - A:-30.0℃ B:-27.7℃ C:-27.2℃ D:-25.7℃ Figure 2-7 lactitol(100 mg/mL)の FDM 画像 Temperature(℃) -10 Tc Tg' -25 -40 maltitol lactitol trehalose Figure 2-8 糖・糖アルコールの Tg′と Tc - 15 - 2-2-3. 糖・糖アルコール類の凍結乾燥固体の物性 2-2-3-1. 熱測定 糖・糖アルコールの凍結乾燥固体の熱測定結果を Table 2-3 に示した。糖ア ルコールは、糖よりも低い Tg を示した。なお glucose、xylitol、sorbitol は凍 結乾燥過程でコラプスを起こし粘性固体となったため Tg の測定は行わなかった。 糖アルコールのうち、mannitol は結晶化が観察され、maltotetraitol では転移 が見られなかった。それ以外の maltitol、lactitol、maltotriitol では Tg は室 温以上に観察された。 別に糖や糖アルコール類の溶融固体を急冷して作成した非晶質固体の熱測定 を行ったところ、凍結乾燥固体とやや異なる温度にガラス転移温度が観察され た。これら固体のガラス転移温度では凍結溶液と異なり、分子量 200 付近にあ る単糖に相当する試料では Tg-20℃~40℃、分子量 400 付近の 2 糖類に相当する 試料では 40℃~120℃と大まかな傾向のみ観察された。これらの試料では作成法 の違いによる水分量や配座及び分解物による不純物の差が異なるガラス転移温 度を与えることが示唆された。 ウシ血清アルブミン(BSA, 10 mg/mL)と糖・糖アルコール類(100 mg/mL)を含 む乾燥固体の熱測定では、タンパク質を含まない試料に比べ高い転移温度(Tg) を示した(Table 2-3)。また glucose は凍結乾燥過程でコラプスが見られたが、 タンパク質を添加した試料においてはケーキ構造の保持が確認された。 Table 2-3 糖・糖アルコールを含む凍結乾燥固体の Tg Excipient MW glucose 180.1 glucose 342.3 lactose 342.3 sucrose 360.3 maltose 378.3 xylitol 152.2 trehalose 182.2 sorbitol 182.2 mannitol 344.3 maltitol 362.3 lactitol 506.5 maltotriitol 668.6 Average ± s.d. (n=3) Freeze-dried solid cooled-melt solid Tg (℃) Tg (℃) Collapsed 37.3 ± 0.8 90.9 ± 6.6 112.0 ± 1.9 62.0 ± 2.6 46.4 ± 0.3 86.2 ± 1.1 68.8 ± 1.5 80 < 117.3 ± 0.3 Collapsed -21.9 ± 0.2 Collapsed -1.9 ± 0.2 Crystallized 40.6 ± 54.9 ± 72.8 ± 0.4 2.5 2.8 n.d. - 16 - Excipient + BSA + Buffer Tg 41.5 105.3 68.2 95.6 (℃) ± 2.0 ± 2.2 ± 0.8 ± 1.2 90 < Collapsed Collapsed Partially Crystallized Partially Crystallized 47.3 ± 0.8 56.3 ± 1.0 48.4 ± 3.3 63.3 ± 1.9 88.6 ± 0.8 85.3 ± 3.1 n.d. 2-2-3-2. 粉末X線回折測定 タンパク質の凍結乾燥製剤において、安定化剤の結晶化がタンパク質の構造 変化に繋がることが一般的に知られている。そのため、安定化剤はタンパク質 と添加剤が混合した非晶質固体を形成する必要がある。そこで、凍結乾燥固体 の結晶性について粉末 X 線回折測定を用いて評価した(Fig.2-9)。結晶化しや すいことが知られる mannitol では粉末 X 線回折測定において顕著なピークが認 められた。sorbitol や glucose を含む試料では比較的小さなピークが観察され た。コラプスが部分的な結晶化を誘発する可能性があることが示唆された。そ の他の糖・糖アルコールの凍結乾燥品については非晶質を示すハローな回折パ ターンとなった。 glucose maltose lactose sucrose Intensity trehalose sorbitol mannitol maltitol lactitol maltotriit 0 10 20 30 40 2θ (°) Figure 2-9 糖・糖アルコール類の粉末 X 線回折パターン - 17 - 2-2-3-3. 凍結乾燥固体の残存水分量 凍結乾燥固体の残存水分量をカールフィッシャー法により測定し、結果を Table 2-4 に示した。 各種糖・糖アルコール類のみを含む凍結乾燥試料においては、ケーキ構造の崩 壊を起こした試料を除き、水分量 2%以下の乾燥品が得られた。タンパク質(BSA) を添加した試料でも、添加剤を加えない試料と glucose を添加した試料を除き、 水分量 2%以下の乾燥品が得られた。 Table 2-4 凍結乾燥固体の残存水分量 Excipient Residual water (%, w/w) no exipient glucose lactose sucrose maltose trehalose xylitol sorbitol mannitol maltitol lactitol maltotriitol maltotetraitol Average ± s.d. (n=3) 1.2 1.8 0.9 1.0 ± ± ± ± 0.1 0.9 0.0 0.2 1.1 0.3 0.3 1.2 ± 1.1 ± 0.5 ± 0.2 ± 0.3 - 18 - Excipient + BSA + Buffer Residual water (%, w/w) 6.3 ± 0.4 2.6 ± 0.4 1.0 ± 0.4 1.9 ± 0.0 1.2 ± 0.4 1.2 ± 0.4 1.3 ± 0.4 1.2 ± 0.2 1.5 ± 0.2 0.9 ± 0.1 2-2-4. タンパク質安定化検討 2-2-4-1. 酵素活性 酵素活性から凍結乾燥によるタンパク質の変化と添加剤(100 mg/mL)による 安定化作用を検討した。乳酸脱水素酵素(LDH)の凍結乾燥と、その後の保管に おける活性変化及び添加剤の影響を Fig.2-10 に示した。 緩衝液成分以外の添加剤を加えずに凍結乾燥した場合、LDH の活性は約 60% に低下した。100 mg/mL の sucrose、trehalose、maltitol、lactitol、maltotriitol を添加すると、pH 調整剤のみのサンプルと比較して、酵素活性の低下が抑制さ れた。一方 sorbitol 及び mannnitol の添加では安定化作用は示さなかった。さ らに sorbitol を添加したサンプルは 50℃に 7 日後の酵素活性が最も低かった。 sorbitol 以外の安定化剤で、pH 調整剤のみのサンプルと比較して 50℃ 7 日後 の酵素活性低下の抑制が見られた。 凍結乾燥固体及び凍結乾燥固体の 50℃ 7 日保存後の外観を Table 2-5 に示し た。maltitol を添加したサンプルは 50℃ 7 日間保存中に凍結乾燥固体の収縮が 見られた。これはサンプルのガラス転移温度に近いことに起因すると考えられ た。 no exipient FD 50℃, 7d sorbitol mannitol maltitol lactitol maltotriitol sucrose trehalose 0 20 40 60 80 Relative Activity (%) Figure 2-10 100 . 加速試験による LDH の酵素活性の変化 - 19 - Table 2-5 凍結乾燥固体及び凍結乾燥固体の 50℃ 7 日保存後の外観 appearance Freeze-dried solid 50℃ 7days appearance collapsed collapsed cake cake cake cake cake cake collapsed collapsed cake shrunk cake cake cake cake Freeze-dried solid no exipient sorbitol mannitol maltitol lactitol maltotriitol sucrose trehalose - 20 - 2-2-4-2. BSA の二次構造測定 凍結乾燥によるタンパク質の変化と添加剤(100 mg/mL)による安定化作用を、 酵素活性と二次構造測定より検討した。 凍結乾燥後のタンパク質高次構造変化は再溶解時の凝集や活性低下の原因と なることが知られている。そこで凍結乾燥ストレスによるタンパク質の二次構 造変化について検討した。α-へリックス構造を多く含む BSA の水溶液中と凍結 乾燥固体のアミドⅠ域の二次微分スペクトルを Fig.2-11 に示した。添加剤を含 まない試料では、凍結乾燥によって、α-へリックス構造を示す 1656 cm-1 のバ ンド強度が低下し、ブロードなスペクトルが観察された。Sucrose、maltitol、 Secondary derivative Intensity lactitol は trehalose と同程度の高次構造維持作用を示したが、maltotoriitol を含む凍結乾燥製剤では、α-ヘリックスバンドは小さくなり、高次構造維持作 用が低いことが示された。 1580 no excipient maltotriitol sucrose trehalose lactitol maltitol solution 1600 1620 1640 1660 Wave numbers Figure 2-11 1680 1700 1720 (cm-1) BSA のアミドⅠ領域の二次微分スペクトル - 21 - 2-2-5. 凍結乾燥固体の化学的安定性 Fig.2-12 に高温保存後の再溶解液の吸光度変化を示した。糖または糖アルコ ール類と L-lysine を含む凍結乾燥固体のうち、80℃4 日間保存でケーキ構造を 保持したのは lactose, trehalose を含む凍結乾燥試料であった。 糖と L-lysine を含む試料のうち glucose, lactose, maltose は呈色を示し、 メイラード反応が進んだことを示した(3<Abs.280)。一方 sucrose, trehalose dihydrate では明確な吸光度の変化は見られなかった。 糖アルコールと L-lysine を含む試料では、sorbitol で弱い呈色を示したのに 対し、その他の試料では反応性が低いことが確認された。 糖や糖アルコールのみを含む凍結乾燥固体の保存では顕著な呈色は見られな かった。 no excipient sucrose trehalose sorbitol mannitol maltitol Excipient lactitol + Lysine maltotriitol 0 0.2 0.4 0.6 Δ Abs. 280 (arbitrary units) Figure 2-12 凍結乾燥固体 80℃4 日間保存後の再溶解液の吸光度 - 22 - 2-3. 考察 分子量が比較的大きい糖アルコール(maltitol, lactitol, maltotriitol) は凍結乾燥により Tg が高く安定な非晶質固体を形成し、タンパク質の安定化に 有効なことが明らかとなった。 凍結乾燥バイアル中の残存水分量が低い場合には、化学反応を抑制しタンパク 質凍結乾燥製剤の長期保存を可能にすることが知られている。今回はほぼ全て の試料で水分量 2%以下の乾燥品が得られたことから、水分含量が原因となる品 質低下は避けられると考えられる。 2-3-1. 糖・糖アルコール類の転移温度 糖・糖アルコール類の熱測定において、糖アルコールは全体的に糖よりもや や低い Tg′を示したが、二糖類・三糖類に相当する糖アルコールは-40℃以上に Tg′を持ち、コラプスを生じないように凍結乾燥することが可能と考えられた。 糖類・糖アルコール類共に、大きな分子量の添加剤ほど、高い Tg′が観察された。 Tg′の高い添加剤の方が凍結乾燥中のコラプスを避けることができ有用である。 ただし、タンパク質に対して添加剤の分子量が大きすぎると相分離等の理由に より保護作用が出にくいため、添加剤の選択は重要となる。ガラス転移温度が 低いと分子運動性が高いため、sorbitol は保存中に時間をかけて結晶化を起こ すことが報告されている 43)。糖によるタンパク質の熱安定化作用と結晶化度と は密接な関係があり、試料中の結晶化度が低いほど高い熱安定化作用を示すこ とが報告されている 44)。 タンパク質を含む試料では、糖及び糖アルコール類単独に比べ高い転移温度 (Tg′, Tg)を示した。タンパク質は一般に糖類に比べ-10℃程度高い Tg′を持つ ことが知られることから、タンパク質の添加により転移温度(Tg′, Tg)が上昇 したと考えられる。 糖アルコール類の多くは、糖類と同様に溶液中でタンパク質の native 構造の 熱安定性を向上させることが知られている。一方、凍結乾燥固体の特性は分子 量により大きく異なり、sorbitol や mannitol など低分子量の糖アルコールは、 ガラス転移温度が低く結晶化が見られるため、凍結乾燥の添加剤として適当で ないとされる。一方、オリゴ糖由来の maltitol などの非晶質固体を形成する糖 アルコールは、二糖類と同様なタンパク質凍結乾燥時の安定化作用が期待され る。 - 23 - 2-3-2. 糖・糖アルコール類の Tc と Tg′の関係 熱測定と FDM 観察はともに凍結乾燥の臨界温度評価に有用とされる。一次乾 燥中に凍結溶液を Tc (または Tg′)よりわずかに低い温度に維持すると氷の昇華 が速く凍結濃縮相も固くなるため、単独の溶質または混合性の複数成分の凍結 溶液においてケーキ構造の非晶質固体を得るために広く用いられている方法で ある。これらを製剤設計や工程の最適化に用いるには基本的な測定原理や得ら れる情報の違いの把握が必要である。 DSC 測定により得られる Tg′と FDM 観察により得られる Tc の最も大きな違いは、 DSC が常圧なの対し、凍結乾燥顕微鏡は減圧で行えることである。この観点から は FDM の方がより実際の凍結乾燥条件に近い状態を反映していると言うことが できる。しかしながら DSC は汎用機器であり凍結乾燥の指標温度の決定以外に も様々な用途で使用できるため既存の機器を活用することができる。また、DSC はソフトウエアが発達しているため、使用が容易で、使用者による差異も小さ いとされる。一方 FDM は自動解析できるソフトウエアが存在せず、温度の決定 に個人差が生じる上に、温度決定の技術を習得するまでに時間がかかる。DSC と FDM はこのような違いを有するため、使用目的により使い分けることが重要とな る。すなわち DSC は比較的簡単に測定できるため製剤設計・小規模凍結乾燥条 件を決めるのに有用である。一方、今回の実験で観察されたように、Tc は Tg′よ りも数度高温に生じることから、細かな温度差によりエネルギー消費などが大 きく変わる大規模な凍結乾燥の条件を決めるのに有用であると言える。 糖アルコール凍結溶液(maltitol、lactitol(100 mg/mL))の FDM 観察では、 trehalose と類似した構造崩壊挙動が観察された。Tc を境に急激に粘度が低下し ていると画像から推察される。 FDM と熱測定で得られた trehalose、maltitol、lactitol の Tc は全ての試料 において Tg′の 5℃程度高温に観察された。Tg′から Tc の間の温度も凍結乾燥可能 な範囲であると考えられる。 2-3-3. タンパク質の安定化 糖アルコールは、LDH 酵素活性及び BSA の二次構造測定の結果から、凍結乾燥 の各ステップでのストレスに対するタンパク質の保護作用を有することを示し た。LDH は凍結乾燥によるサブユニットの解離や構造の変化によって不可逆的に 活性を失う典型的な酵素である 45-47)。 糖アルコールは糖と同様に、凍結乾燥後にもタンパク質の高次構造変化を起 こさず、水溶液に近い高次構造を取ることも分かった。ただし、maltotoriitol - 24 - を含む凍結乾燥製剤では高次構造維持作用の低下が見られた。 lactitol、 maltitol などのオリゴ糖由来の糖アルコールは、凍結乾燥工程中のタンパク質 を取り囲む水分子に置き換わることが報告されている 48)。maltitol や lactitol と比較して maltotriitol の構造安定効果が小さいのは、立体障害による水に置 き換わる水素結合の減少によるものと考えられる。構造安定化作用の同様な低 下は maltotriose、maltotetraose、maltopentaose などのいくつかの大きなオ リゴ糖や dextran などの多糖類で報告されている 49.50)。また、糖アルコールの うち、mannitol、sorbitol のように凍結乾燥工程や保存中に結晶化するものも ある 19,43)。非晶質または結晶化賦形剤を組み合わせて凍結乾燥することでタン パク質安定化に寄与することもある。非晶質を保つ低い Tg′の sucrose と結晶化 する高い Tg′の mannitol を混合することで、混合相の Tg′が上昇し、より高温で 一次乾燥が可能となり、タンパク質の安定化作用も見られた 51)。同様に高分子 のような高い Tg の賦形剤や、リン酸ナトリウムのような安定剤との間の分子間 相互作用を強化する賦形剤と共に凍結乾燥すると、糖アルコールの非晶質固体 の Tg を上げることができる 52,53)。 非晶質状態の糖アルコール凍結乾燥固体は保存中の物理的及び化学的分解か らもタンパク質を保護する。凍結乾燥固体の長期保存に対して maltitol や maltotriitol よりも Tg が高く、水置換作用を持つ lactitol が優れている。Tg が低い非晶質固体は化学的変化を起こしやすく、Tg 以上の温度での保存中に、 分子運動性が上昇するため物理的変化を誘発する。 本研究において、高い Tg を持つ trehalose は他の糖及び糖アルコールと比較 して優れた高温安定性を示した。mannitol 製剤の保存中に酵素活性が低下する のは結晶化による影響と考えられるが、物理的に安定な結晶ケーキ中に分散さ れた非晶質 mannitol 部分によって部分的にタンパク質が保護されたことが示唆 された。 オリゴ糖由来の糖アルコールを凍結乾燥製剤の安定化剤として使用する利点 として、メイラード反応の感受性が低いことが挙げられる。多くの場合メイラ ード反応は、化学分解の主要な経路の一つであり、また、タンパク質の生物学 的活性の低下ももたらす。糖アルコールでは加水分解も糖と比較して低いこと も報告されている 54)。オリゴ糖由来の糖アルコールは、二糖類の代替もしくは 二糖類を配合した製剤の物理的特性を最適化するための主要な安定剤として、 製剤設計の有力な候補となり得る。 治療用タンパク質製剤の添加剤は、化学的、物理的安定性に加え使用用途に 応じて適切なものを選択する必要がある。安全性と長期的タンパク質安定性に 関する情報が蓄積されていくと、オリゴ糖由来の糖アルコールがより実用的な 安定化剤として用いられるようになると考えられる。 - 25 - 2-4. 小括 糖アルコールは糖類と同様に、タンパク質高次構造安定化作用を持つと考え ら れ た 。 分 子 量 が 比 較 的 大 き な 糖 ア ル コ ー ル ( maltitol, lactitol, maltotriitol)は凍結乾燥により Tg が高く安定なガラス固体を形成し、タンパ ク質の安定化に有効なことが明らかとなった。凍結乾燥固体の長期保存に対し ては maltitol や maltotriitol よりも Tg が高く、水置換作用を持つ lactitol が優れていることが示唆された。 糖アルコールは糖と比較してガラス転移温度が低いが、保存中のメイラード 反応が起こりにくいという利点を有する。 - 26 - 第3章 凍結乾燥製剤に適した結晶性賦形剤の探索 本章では、凍結乾燥製剤の新規賦形剤探索を目的として、食品分野で汎用さ れて安全性が比較的高いと考えられる糖アルコールの中から結晶性の高いもの のスクリーニングを行った。 3-1. 実験 3-1-1. 試薬 L-arabinose sucrose D-sorbitol D-trehalose dehydrate L-arabitol D-mannitol palatinit xylitol lactitol monohydrate myo-inositol Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 和光純薬株式会社 和光純薬株式会社 和光純薬株式会社 和光純薬株式会社 和光純薬株式会社 和光純薬株式会社 maltitol meso-erythritol 株式会社林原 東京化成工業株式会社 3-1-2. 熱測定 糖・糖アルコールの結晶化傾向の評価は、示差走査熱量計、DSC(Differential scanning calorimetry)(DSC7, Perkin-Elmer)を用いて測定した(n=3)。デー タ解析には PYRIS Ver.3.8 を用いた。 試料の熱測定による結晶化傾向の評価は、試料(10 mg)をアルミニウムパン に封入し、10℃/分で 25℃から 180℃に加熱後、-10℃/分で 20℃まで冷却し、10℃ /分で 180℃まで再加熱して測定した。なお、融点が 180℃以上である D-mannitol は 190℃、sucrose は 210℃まで加熱した。結晶化ピークが観察された試料のう ち、冷却過程でピークが見られる試料を特に結晶化しやすい物質とし、結晶化 ピーク及び再加熱時の融解ピークが見られなかった試料は結晶化しにくい物質 とした。 凍結溶液の熱測定による結晶化傾向の評価は、100 mg/mL 水溶液(10 μL)を - 27 - アルミニウムパンに封入し、10℃/分で 25℃から-70℃まで冷却後、5℃/分で 25℃ まで加熱して測定した。 meso-erythritol 凍結溶液の物性評価は示差走査熱量計(DSC) (TA Instrument, Q-10)と Universal Analysis 2000 software (TA Instruments)を用い測定した (n=3)。meso-erythritol 溶液 (100 mg/mL, 10 μL)をアルミニウムセルに入れ、 10℃/分で 25℃から-40,-50,-60,-70℃まで冷却後、5℃/分で 25℃まで昇温測定 した。最大濃縮層ガラス転移温度 (Tg′) は、10℃/分で 25℃から-80℃まで冷却 後、5℃/分で 25℃まで昇温測定したヒートフロー曲線の不連続点の最大屈曲点 により決定した(fig.2-2)。 meso-erythritol 凍結乾燥固体の熱測定は、試料約 10 mg をアルミニウムセル に入れ、10℃/分で 180℃まで窒素ガス雰囲気で昇温測定し、融点(Tm) を得た。 3-1-3. X 線回折測定 meso-erythritol 溶液 (100 mg/mL)の X 線回折測定は、XRD-DSC 同時測定装置 と、温度制御した XRD 装置を用いて測定した。 XRD-DSC 同時測定装置(SmartLab-DSC, Rigaku)を用い、アルミニウムパン上 の凍結溶液を電圧 45 kV、管電流 200 mA で、-40℃まで冷却後、-40℃にて 180 分保持し、その後 2℃/分で昇温して測定した。 温度制御した XRD 装置(Ultima Ⅳ, Rigaku)を用い、X 線の対陰極は Cu-Kα、 電圧 40 kV、管電流 200 mA で、-65℃まで冷却後、-65℃にて約 6 分保持し、そ の後 2℃/分で昇温して測定した。 3-1-4. 凍結乾燥顕微鏡 減圧下での meso-erythritol 凍結溶液の様子は、凍結乾燥ステージに液体窒 素と減圧装置を接続した凍結乾燥顕微鏡(Lyostat2, Biopharma Technology Limited)と optical microscope (Model BX51, Olympus Co.) (Fig.2-4)を用 いて観察した。試料は Fig.2-5 に示すように、ステージに石英スライド(a)を はめ込み、70 μm 厚のスペーサー(b)と試料(c)約 2 μL を配置し、ガラス(d) で挟んで測定を開始した。 アニーリングなしの試料は 10℃/分で室温から-70℃まで冷却後 5 分間保持し、 減圧下、1℃/分で昇温して測定した。圧力は-70℃の飽和水蒸気圧 0.003 mbar に設定したが、ポンプの性能上 0.015 mBar までしか低下しなかった。また、ア ニーリングを実施した試料は、10℃/分で室温から-70℃まで冷却後 5 分間保持 し、-30℃に昇温して 10 分間保持した。その後再度-70℃まで冷却後 5 分間保持 - 28 - し、減圧下、1℃/分で昇温して測定した。-50℃まで観察後、より高温での観察 を実施するため圧力 2.2 mBar で-12℃まで 10℃/分で昇温後、再度 1℃/分で昇 温して測定した。連続的に記録した顕微鏡画像を用い、乾燥界面に半透明の点 が観察された時点をコラプス温度(Tc)、氷晶部分が融け始める温度を共晶融解温 度(Teu)とした。 3-1-5. 凍結乾燥 温度コントロール棚を備えた凍結乾燥機(Freezone-6, Labconco)を用いて 凍結乾燥を行った。凍結乾燥の温度プログラムの一例を Fig.3-1 に示した。平 底ガラスバイアル(内径 約 13 mm)に溶質を含む水溶液 2 mL を分注した。 凍結工程は、凍結乾燥棚と液体窒素条件の 2 種類の方法で実施した。凍結乾 燥棚で-40℃まで 0.5℃/分で冷却後 2 時間保持し、水溶液を凍結させた。もう一 方は液体窒素に 5 分入れて凍らせたバイアルを、予め-40℃に保持した棚に移動 させた。 凍結工程終了後、0.5℃/分で-25℃まで昇温しアニーリングとして 1 時間保持 した。0.5℃/分で-32℃まで再冷却し 2 時間保持後、減圧下で 30 時間一次乾燥 を行った。二次乾燥は 0.2℃/分で昇温し、35℃、4 時間とした。 一部のサンプルは凍結工程完了後、一次乾燥を減圧下-40℃で 30 時間、二次 乾燥は 0.2℃/分で昇温し、35℃、4 時間とした。 乾燥後のバイアルは真空下ゴム栓で密封した。 - 29 - 70 Annealing 50 Secondary drying Primary drying Temperature(℃) Freezing 30 10 -10 -30 -50 0 500 1000 Figure 3-1 1500 Time(min) 2000 2500 凍結乾燥温度プログラム 3-1-6. 走査型電子顕微鏡 凍結乾燥した固体を粗く粉砕し、表面の形態学的な検討を走査型電子顕微鏡 (SEM) (VE-7800, Keyence Co.) を用いて行った。試料は両面テープを用いて試 料台に固定し、観察前に 180 秒間金で蒸着して減圧下で観察した。試料は加速 電位 20kV、10Pa で露光した。 3-1-7. 粉末 X 線回折測定 凍結乾燥固体の結晶多形を確認するため、D8 DISCOVER with GADDS(Bruker AXS 社製)を用い、 対陰極には Cu-Kαを選択し、電圧 40 kV、管電流 40 mA、露光 時間 120 秒/flame、測定波長 1.542 nm で測定した。また、本装置は、2 次元検 出器を搭載しており、データは Debye 環で得られるため、付属ソフトウェアで ある GADDS を用いて 10°~30°の範囲における回折ピークを得た。 - 30 - 3-2. 結果 3-2-1. 糖・糖アルコールの結晶化傾向 3-2-1-1. 試薬の熱測定 糖・糖アルコールの熱測定から、試料の結晶化傾向を評価した。結果を Table 3-1 に示した。結晶化のしやすさの指標として、Baird らの研究に従って、加熱・ 冷却・再加熱過程での結晶化の有無から以下の 3 つに分類した 31)。クラスⅠは 冷却時に結晶化するもの、クラスⅡは再加熱時に結晶化するが冷却過程では見 られないもの、クラスⅢは冷却時にも再加熱時にも結晶化が見られないもので ある。結晶化しやすいものの参考として測定した D-mannitol は冷却過程での結 晶化が見られたことからクラスⅠに分類した。meso-erythritol は 3 回の測定の うち 2 回冷却過程での結晶化が観察されず、残りの 1 回は昇温過程で結晶化が 見られた。myo-inositol は 3 回の測定いずれも、冷却過程及び昇温過程の両方 で結晶化が見られた。これらの 2 試料はクラスⅠ及びⅡの中間の性質を持って いると考えられた。2 度目の昇温過程で結晶化が見られたのは L-arabitol であ り、クラスⅡに分類した。これらの 4 試料は 2 度目の昇温過程で結晶の融解ピ ークが観察され、一度結晶が融解した後に結晶化したことが分かった。それ以 外の試料は結晶化しにくい物質としてクラスⅢに分類した。 Table 3-1 Excipients 糖・糖アルコール試薬の熱測定結果 Melting temp.(℃) Crystallization temp.(℃) Crystallization propensity* 1st run 2nd run Cooling Heating 170.8±5.2 Ⅲ 202.4±0.1 Ⅲ 115.5±0.3 112.2±4.6 85.3±5 Ⅱ 179.5±1.8 179.5±1.7 112.4±3.7 Ⅰ 105±4.2 Ⅲ 159.2±5.1 Ⅲ 103.8±7.2 Ⅲ 99±6.1 Ⅲ 133.2±1.5 133.7±1.6 15.5±0(n=2) 34.3(n=1) Ⅰ,Ⅱ 107.2±0.5 Ⅲ 108.9±4.2 Ⅲ 239.3±0.7 239.8±0.3 189.5±0.2 196.8±0.8 Ⅰ,Ⅱ L-arabinose sucrose L-arabitol D-mannitol palatinit maltitol D-sorbitol D-trehalose dihydrate meso -erythritol xylitol lactitol monohydrate myo -inositol Average ± SD (n=3) No peak was observed. *Crystallization propensity of the excipients were categorized following the method by Baird et al. (refernce No. 31) - 31 - 3-2-1-2. 凍結溶液の熱測定 実際の凍結乾燥条件に近いと考えられる凍結溶液の熱測定を行い、糖及び糖 アルコールの結晶化傾向を評価した(Table 3-2)。その結果、D-mannitol と meso-erythritol の 凍 結 溶 液 で は 加 熱 時 に 吸 熱 ピ ー ク が 確 認 さ れ た 。 meso-erythritol の凍結溶液では氷の融解ピークの前の-8℃付近に発熱ピーク が観察された。固体試料で結晶化が見られた myo-inositol 及び L-arabitol で は結晶化が見られなかった。その他の試料でも結晶化は確認されなかった。以 上のことから、D-mannitol と meso-erythritol は凍結溶液で結晶化しやすい物 質であることが判明し、meso-erythritol は新規賦形剤として使用できる可能性 が示唆された。 Table 3-2 糖・糖アルコール凍結溶液の熱測定結果 Crystallization temp.(℃) Heating L-arabinose sucrose L-arabitol D-mannitol -26.2±2.8 palatinit maltitol D-sorbitol D-trehalose dihydrate meso -erythritol -34.1±0.6 xylitol lactitol monohydrate myo -inositol Average ± SD (n=3) No peak was observed. Excipients - 32 - 3-2-2. meso-erythritol 凍結溶液の物性評価 3-2-2-1. meso-erythritol 凍結溶液の熱測定 凍結乾燥の結晶性賦形剤として利用できる可能性のある糖アルコールとして、 meso-erythritol 溶液の性質をより詳細に検討した。 Fig.3-2 に meso-erythritol 凍結溶液を異なる温度まで冷却後(-70℃から -40℃)、昇温した際の DSC 曲線を示した。-70℃、-60℃、-50℃まで冷却すると、 -36℃から-21℃の間に結晶化ピークとみられる発熱ピークと、-7℃と 0℃付近に 2つの吸熱ピークが観察された。一方-40℃まで冷却したサンプルでは、氷の融 解ピークと見られる大きな吸熱ピークのみ出現した。-40℃で 10 分保持したサ ンプルも測定したが、-10℃付近に小さな吸熱ピークが見られただけで、はっき りとした結晶化は観察されなかった。 100 mg/mL 及び 300 mg/mL meso-erythritol の凍結溶液を-80℃から昇温測定 した結果、最大濃縮相ガラス転移温度(Tg′)と考えられる熱転移及び結晶化と 考えられる発熱ピークが観察された(Table 3-3)。 meso-erythritol(100 mg/mL)の凍結溶液を-80℃まで冷却した際、-60℃付 近に Tg′、-37℃付近に結晶化と考えられるピークが観察されたが、-40℃までの 冷却では、氷の融解ピークと見られる大きな吸熱ピークのみ出現した。冷却温 度の違いにより冷却にかかった時間が異なることから、-40℃で 10 分保持した サンプルも測定したが、-10℃付近に小さな吸熱ピークが見られただけで、はっ きりとした結晶化は観察されなかった。これらの熱測定から、低温まで冷却す ることで早急な溶質の結晶化が生じることが明らかとなった。 - 33 - Heat Flow, endotherm A -70℃ B -60℃ C -50℃ D -40℃ E -40℃(hold 10min) -70 -50 -30 -10 Temperature (℃) Figure 3-2 Table 3-3 10 meso-erythritol 凍結溶液の DSC 曲線 meso-erythritol 凍結溶液の Tg′及び結晶化温度 100 mg/ml meso -erythritol 300 mg/ml meso -erythritol Average ± SD (n=3) Tg´ (℃) -59.66±0.51 -60.57±0.77 - 34 - Crystallization temp. (℃) -37.04±0.37 -37.67±2.78 3-2-2-2. X 線回折測定 meso-erythritol の熱測定で結晶化ピークは-40℃以上に観察されたが、-40℃ までの冷却で明確な結晶化は見られなかった。そこで、-40℃で低温保持した際 の結晶化の有無を XRD-DSC 測定で確認した。 Fig.3-3 に meso-erythritol 溶液の XRD-DSC 結果を示した。 アスタリスク(*) で示した-40℃までの冷却中に発生したピークは六方晶の氷によるものである と 考 え ら れ た 55-57) 。 -40 ℃ 保 持 後 1 時 間 程 度 か ら 、 矢 印 ( ↑ ) で 示 し た meso-erythritol と氷の結晶のピーク(15°、19°、20°、26.5°、28°、30°) が生じ、その後時間の経過に伴いピーク強度が増強した。後述する meso-erythritol の X 線 回 折 ピ ー ク ( Fig.3-10 ) と 一 致 す る こ と か ら 、 meso-erythritol と氷の結晶のピークであると考えられた。その後時間の経過及 び、温度の上昇に伴いピーク強度が増強したのは結晶が成長したことによると 考えられた。-40℃から昇温し-10℃付近まで結晶の成長が見られ、-8℃の吸熱 ピークより高温で meso-erythritol と氷の結晶のピークは消失した 58)。さらに Fig.3-3 には示していないが、昇温した 0℃付近の吸熱ピーク以上で六方晶の氷 のピークも消失した。X 線回折ピークの消失が見られたことから、DSC 測定で見 られる-8℃付近の吸熱ピークは meso-erythritol と氷の結晶の融解ピーク、0℃ 付近は氷の融解ピークであることが確認された。 Fig.3-4 に温度をコントロールした際の XRD の結果を示した。XRD-DSC 測定結 果と同様に、六方晶の氷のピークと考えられるものはアスタリスク(*)で、 meso-erythritol と氷の結晶のピークと考えられるものは矢印(↑)で示した。 上記の検討よりより低温(-65℃)まで冷却後に昇温すると、-40℃付近から meso-erythritol と氷の結晶によると考えられるピークが出現し、-16.5℃まで 結晶の成長が見られた。これらのピーク位置は-40℃で保持した XRD-DSC の結果 (Fig.3-3)と同様の結果であった。 - 35 - * ↓ ↓↓ * ↓↓ ↓↓ ↓↓ * * * ↓ * * * ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ * * * * * * * * Figure 3-3 XRD-DSC 測定の X 線回折パターンと DSC 曲線 - 36 - D -16.5°C * * * A -65.0°C * * * * ↓ * ↓ ↓ * B -44.7°C ↓ * ↓ ↓ * ↓ * C -30.4°C * * * * * * * * Figure 3-4 温度制御 XRD 測定の X 線回折パターン - 37 - 3-2-2-3. 凍結乾燥顕微鏡観察 凍結乾燥固体に含まれる主薬や添加剤は、結晶または非晶質状態で存在する。 一次乾燥を高温で実施すると凍結濃縮相の分子運動性も上昇するため、非晶質 ではコラプス、結晶ではメルトバックと呼ばれる構造の変化を誘発しやすい。 これらの現象が起こる最低温度(臨界温度)は凍結乾燥顕微鏡を用いて観察で きる。meso-erythritol 溶液(100 mg/mL)の凍結乾燥工程中の一次乾燥プロセス におけるアニーリング工程の有無の比較を、凍結乾燥顕微鏡を用いて検討した。 アニーリング工程なしの meso-erythritol 溶液(100 mg/mL)の凍結乾燥顕微鏡 画像を Fig.3-5 に示した。凍結溶液の加熱乾燥中に乾燥界面の乱れが観察され た。これはコラプスと呼ばれる構造崩壊が生じていることを示しており、-56℃ から-52℃の間がコラプス温度(Tc)となる。 -30℃で 10 分アニーリングを実施した meso-erythritol 溶液(100 mg/mL)の凍 結乾燥顕微鏡画像を Fig.3-6 に示した。アニーリング工程のないサンプルとは 異なり-50℃まで崩壊は見られず、昇華により端から黒い乾燥相が広がる様子が 観察された (Fig.3-6-A,B)。さらに温度を上げると-10℃付近まで大きな変化は なく黒い乾燥が広がり(Fig.3-6-C)、-7.5℃で氷晶部分が融け始め(Teu)、その 後融解が広がった(Fig.3-6-D)。Teu は-7.3±0.27℃であった。 以上のことから、meso-erythritol 溶液(100 mg/mL)はアニーリング工程によ り非晶質状態から結晶化していることが示唆された。 A:-56.4℃ Figure 3-5 B:-52.0℃ meso-erythritol(100 mg/mL、アニーリングなし)の FDM 画像 - 38 - A:-54.2℃ B:-50.1℃ ice-sublimed region sublimation interface frozen solution region C:-9.6℃ Figure 3-6 D:-6.7℃ meso-erythritol(100 mg/mL、アニーリングあり)の FDM 画像 - 39 - 3-2-3. 凍結乾燥 meso-erythritol の水溶液(50 mg/mL、100 mg/mL、200 mg/mL )を、それぞれ 凍結乾燥棚と液体窒素で凍結した凍結乾燥固体を作製した。100 mg/mL の凍結乾 燥固体を Fig.3-7 に示した。 外観は液体窒素で凍結した固体は Fig.3-7-A に示すような均質なケーキ構造 であった。一方-40℃の凍結乾燥棚で凍結すると、ウロコ状にひびが入ったよう な固体となった(Fig.3-7-B)。作製した固体は濃度が異なっても全て同様の結 果であった。 Fig.3-8-A には凍結乾燥棚凍結品の乾燥前の凍結溶液の様子を示した。液面の 状態が均質ではなく、部分的に結晶化が生じている様子が見られた。このよう に部分的に生じた結晶がウロコ状の模様の原因になると考えられた。 また、Fig.3-8-B には-32℃まで冷却後、一次乾燥した凍結乾燥固体を示した。 ケーキ構造の崩壊した凍結乾燥固体であり、結晶化が不十分で、部分的もしく は全体的に非晶質状態であったことが示唆された。 A B Figure 3-7 meso-erythritol(100 mg/mL)凍結乾燥固体 A:液体窒素凍結 B:凍結乾燥棚凍結 A B Figure 3-8 meso-erythritol(100 mg/mL) A:凍結乾燥棚凍結乾燥前 B:-32℃凍結後乾燥 - 40 - 3-2-4. 凍結乾燥固体の評価 3-2-4-1. 走査型電子顕微鏡観察 実験的な凍結乾燥において、凍結乾燥固体の外観に違いが見られたことから 走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて微小領域構造を観察した。観察画像を Fig.3-9 に示した。 Fig.3-9-A,C,E は液体窒素凍結、Fig.3-9-B,D,F は凍結乾燥棚凍結で、 濃度はそれぞれ 50 mg/mL (Fig.3-9-A,B)、100 mg/mL(Fig.3-9-C,D)、200 mg/mL (Fig.3-9-E,F)で作製したものである。 凍結乾燥棚と液体窒素での凍結で微小領域構造にも違いが見られた。Fig.3-9 -A,C,E に示すように、いずれの濃度でも液体窒素凍結サンプルでは細かい粒子 上の結晶が観察された。一方 Fig.3-9-B,D,F に示す凍結乾燥棚凍結サンプルで は液体窒素で凍結した試料のような細かい粒子状ではなく、大きな塊状となっ ていることが明らかとなった。このような微小領域構造の違いが影響してウロ コ状にひびが入ったような外観になっている可能性が示唆された。 A B C D E F Figure 3-9 meso-erythritol を異なる濃度及び凍結方法で凍結乾燥した固体 の SEM 画像 - 41 - 3-2-4-2. 粉末 X 線回折測定 凍結工程で棚と液体窒素を用いると、凍結乾燥固体の外観や微小領域構造に 違いが見られたことから、meso-erythritol の結晶多形が生じている可能性があ ると考え、粉末X線回折測定を行った。Fig.3-10 に粉末 X 線回折パターンを示 した。 Fig.3-10-A,B,C に示したように、液体窒素凍結及び凍結乾燥棚凍結いずれの 凍結乾燥固体でも、作製に用いた meso-erythritol の試薬と同じ角度にピーク が観察された。結晶多形は見られず、全て同じ安定形であった 59)。 また、Fig.3-10-D には一次乾燥後の固体の粉末 X 線回折パターンを示した。 その結果、新しいピークが見られることはなかった。 A meso-erythritol reagent powder B: lyophilized solid dried after shelf-ramp cooling C: lyophilized solids dried after liquid nitrogen cooling D: primary-dried solid 10 15 20 25 2θ, degrees Figure 3-10 meso-erythritol 凍結乾燥固体及び試薬の 粉末X線回折パターン - 42 - 30 3-2-4-3. 凍結乾燥固体の熱測定 凍結乾燥固体の融点を熱測定により求めた。Table 3-4 に示すように、いずれ の凍結乾燥固体も試薬と大きな変化は見られなかったことからも、結晶多形で ある可能性は低いと考えられた。 Table 3-4 meso-erythritol 凍結乾燥固体及び試薬の融点 meso -erythritol reagent powder lyophilized solid dried after liquid nitrogen cooling lyophilized solid dried after shelf-ramp cooling Average ± SD (n=3) - 43 - melting temp.(℃) 133.2±1.5 132.6±2.1 134.9±1.3 3-3. 考察 本研究において、meso-erythritol は凍結乾燥製剤の結晶性賦形剤として活用 できる可能性を示した。D-mannitol で問題となっているような結晶多形は見ら れなかったが、凍結溶液の物理化学的性質や実験的な凍結乾燥では凍結工程の 制御が重要で、特に急速な凍結により結晶化が促進されて結晶性の固体が得ら れることが明らかとなった。 3-3-1. meso-erythritol の結晶化挙動 本研究において、-40℃の低温まで冷却可能な XRD-DSC 測定から凍結溶液中で meso-erythritol が結晶化することが確認できた。meso-erythritol 凍結溶液の 結晶化温度は-40℃より高温であるが、Fig.3-2 の DSC 曲線が示したように、-40℃ までの冷却では容易に結晶化しない。Fig.3-3 の XRD-DSC 測定の DSC 曲線におい て結晶の融解ピークは見られたが結晶化ピークは見られず、長時間かけて徐々 に結晶化する様子が観察された。水溶液を凍結すると、氷晶と氷晶間に高度に 濃縮された濃縮相に分かれる。-40℃冷却直後から観察される X 線回折ピークは 一般的に知られている六方晶の氷のピークと一致した。mannitol 水溶液で、六 方晶の氷のピークの他に mannitol の結晶ピークが観察される同様の現象が報告 されていることや、本研究の熱測定、粉末 X 線回折測定結果からも-40℃保持時 間が経過して出現するピークは、濃縮相で生じた meso-erythritol の結晶であ ることが示唆された 58)。 -65℃まで冷却した XRD 測定結果(Fig3-4)からは、熱測定結果と同様に低温 までの冷却で長時間の低温保持なしに結晶化が見られることが明らかとなった。 水溶液を冷却すると、初期濃度によらず氷晶間に氷がそれ以上成長しない段 階まで濃縮され粘度が上昇し、Tg′より低温まで冷却することで、溶質の核を多 数形成する 60,61)。100 mg/mL の meso-erythritol 凍結溶液では-59.66℃に Tg′が 観察されており、これより低温にすることで溶質の核が形成され、昇温するこ とで溶質の分子運動性が増加する。それにより XRD-DSC 測定や熱測定で観察さ れたような-40℃付近での meso-erythritol 結晶の急速な成長に繋がったと考え られる。 ただし、凍結乾燥顕微鏡観察において-80℃まで冷却しただけでは結晶化が十 分ではなく、非晶質固体が構造崩壊を起こしたことから、低温の冷却では meso-erythritol の結晶化が不十分な可能性が示唆された(Fig.3-5)。また、ア ニーリング工程なしのサンプルでコラプス(構造崩壊)を起こしたことは、熱 測定で得られた-59.7℃の転移が Tg′であるということを支持する結果となった。 - 44 - 凍結乾燥顕微鏡観察結果からは、アニーリングが meso-erythritol の結晶化に 有用であることも示された(Fig.3-6)。水溶液ではない erythritol の結晶化に 関しては Lopes らの報告がある 59,62)。erythrtol 結晶は安定形の他に準安定形が 存在し、冷却速度や昇温速度によって異なる結晶形が観察されている。また、 温度制御可能な偏光顕微鏡を用いて、融解冷却による結晶化の報告もあり、冷 却速度の違いで結晶化、非晶質、双方の混合状態が観察されている。 これらの結果は、meso-erythritol が安定形の無水物として結晶化することを 示している。準安定形及び水和物結晶が存在しないことは、貯蔵中の凍結乾燥 された API を賦形剤または化学的分解の物理的な変化を防止するのに有利であ る 64,65)。 meso-erythritol の凍結溶液の熱測定及び凍結乾燥顕微鏡を用いた観察から、 凍結時の冷却時の最低温度や熱処理の有無が、結晶核の形成と結晶成長に影響 を与えることが示唆された。 以上のことから、meso-erythritol は結晶化するが、条件による結晶化のバラ ツキが生じる可能性が高いことが示唆され、頑健性の高い工程設計が必要であ ると考えられた。 3-3-2. meso-erythritol の凍結乾燥 meso-erythritol を 2 種類の凍結方法(液体窒素凍結による急速冷却及び凍 結乾燥棚凍結による緩速冷却)で凍結乾燥すると、外観及び微小領域構造の異 なる固体が得られたが、Fig.3-10 に示すように粉末 X 線回折パターンから結晶 形に違いはみられなかった。 凍結乾燥棚凍結での-40℃程度の凍結では meso-erythritol の凍結濃縮が不十 分であったことから、結晶化核が少なく、限られた核から成長が生じたものと 推察された 63)。凍結乾燥棚での凍結は乾燥前の凍結溶液で白い点を生じ、乾燥 固体ではウロコ状にひびが入り、SEM 画像では大きな結晶が少数の結晶から生じ たと考えられた。FDM 分析で観察されるように、十分に meso-erythritol の結晶 が成長する前に真空乾燥を開始すると、残っている非晶質領域が Tc よりも高い 製品温度にさらされることでコラプスを起こしたと考えられる 6,8,66,)。 mannitol と比較して、meso-erythritol の結晶化傾向は低いため、物理的な 崩壊を起こさずに均質な結晶性凍結乾燥ケーキを得るためには工程制御が必要 となる。凍結乾燥棚で-40℃以下に冷却することは、多くの研究室や製造スケー ルの凍結乾燥機で行うことができるが、液体窒素による凍結となると、実施可 能なバイアルの数は限られ、実用性が低くなる。また、meso-erythritol が API および他の賦形剤の物理的特性にどのように影響するかは不明である。プロセ - 45 - ス分析技術(PAT;例えば、無線温度センサー)を適用すると、バッチまたはバ ッチ間の凍結乾燥機の棚上のバイアルの位置に応じて、製品の品質変動のリス クを減少させる 67) 。ただし、優れたケーキ形成性を有する mannitol と比較し、 冷却乾燥中に水和物結晶が生成しないため、保存中に残留水と API が反応して 転移することは考えられないため凍結乾燥のための代替増量剤として meso-erythritol が使用可能なことが示唆された。 3-3-3. 凍結工程の影響 液体窒素と凍結乾燥棚上での凍結による固体状態の違いは、Tg′より低温まで の冷却による物性変化に加え、過冷却の程度と氷の結晶化速度に影響される凍 結時の濃縮状態にも起因していると考えられた。水は過冷却が進むほど多くの 結晶核が発生し、多数の小さな氷結晶が生じる 68)。水溶液では、氷の結晶核生 成温度は水単独とほぼ同一である 69)。水溶液が凍結する際、結晶核が発生し、 生成と消失を繰り返し、一定サイズの核が形成されると結晶へ成長する。均質 核形成は速い冷却で過冷却状態となることが必要で、大きなエネルギーを必要 とするため発生しにくいが、完全な液体状態から三次元的に結晶核を形成する。 一方、物質粒子や容器の壁など、異物に接した液体の一部が優先的に結晶化す る不均質核形成は発生しやすい。 本研究においても、液体窒素凍結は低温まで冷却することで凍結濃縮が進み、 十分に濃縮された濃縮相は一定温度で多数の結晶核を形成する。一方、比較的 高温である凍結乾燥棚凍結では充分に濃縮が進まない状態から形成した少数の 核を中心に結晶成長が進み、外観や微小領域構造の差を生じるものと考えられ た。Fig.3-11 にはその模式図を示した。 また、氷晶は冷却速度が速いほど小さくなる。乾燥を効率良く行うためには、 氷晶が大きく、垂直方向にヒビ状に連鎖していることが好ましい。一方、氷晶 が大きくなると濃縮非晶体の層厚が増大し、この層中に含まれる水分の乾燥が 遅延させられて、崩壊現象(コラプス)の要因となる場合もあるので、速い冷 却速度の設定が必要になる。ただし、冷却速度が速すぎると、液表面とバイア ル底との温度差や過冷却度が増大するために、デンドライト氷晶の析出、バイ アルの破損、凍結体の収縮等の問題が発生しやすくなる。このため、冷却速度 の最適化は極めて重要である。 - 46 - 低温 溶質 氷晶 濃縮相 濃縮途中 少量の核 多数の核 部分的な結晶化 から連鎖して 結晶化が進む 各々結晶化 不均質核形成 凍結乾燥棚 Figure 3-11 十分な濃縮 均質核形成 液体窒素 meso-erythritol 凍結溶液結晶化の模式図 - 47 - 3-4. 小括 meso-erythritol は凍結乾燥により結晶性の固体を形成し、賦形剤として活用 可能である事が明らかとなった。結晶多形の存在は知られているが、一般的な 温度プログラムで作製した凍結乾燥固体が結晶多形を示さない点は、mannitol に比べ長所と考えられる。一方で凍結方法により結晶化挙動に差が見られたこ とから、適切な工程条件の設定が重要であると考えられた。 - 48 - 第 4 章 混合性の異なる溶液からの凍結乾燥製剤とその物性 本章では、多成分系での凍結乾燥挙動の検討を目的とし、タンパク質に比べ 凍結溶液における混合性の情報が得やすい PVP と dextran をモデル系として用 い、相分離を起こす複雑な製剤の合理的なプロセス構築の為の物性評価を進め た。 4-1. 実験 4-1-1. 試薬 PVP 29,000 PVP 10,000 dextran 35,000 dextran 1,060 NaSCN Dehydrated methanol アクアミクロン滴定剤 SS 1 mg Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Sigma-Aldrich 社 Serva 社 和光純薬工業株式会社 和光純薬工業株式会社 三菱化学 4-1-2. 熱測定 示差走査熱量計(DSC)(TA Instrument, Q-10)と Universal Analysis 2000 software (TA Instruments)を用い、凍結溶液及び凍結乾燥固体の熱測定を行っ た(n=3)。 凍結溶液の熱測定は、試料溶液 (100 mg/mL, 10 μL)をアルミニウムセルに入 れ、10℃/分で室温から-70℃まで冷却後、5℃/分で 25℃まで昇温測定し最大濃 縮相ガラス転移温度(Tg′)を得た。最大濃縮層ガラス転移温度 (Tg′)は、ヒートフ ロー曲線の不連続点の最大屈曲点により決定した(Fig.2-2)。DSC 曲線から、凍 結溶液の混合性についても評価を行った。 凍結乾燥固体の熱測定は、試料 1~2 mg をアルミニウムセルに入れ、10℃/分 で-30℃から 280℃まで窒素環境下で昇温測定し、ガラス転移温度(Tg)を得た。 - 49 - 4-1-3. 凍結乾燥 温度コントロール棚を備えた凍結乾燥機(Freezone-6, Labconco)を用いて 凍結乾燥を行った。凍結乾燥の温度プログラムの一例を Fig.4-1 に示した。平 底ガラスバイアル (内径 約 13 mm)に溶質を含む水溶液 800 μL を分注し、それ を凍結乾燥棚に室温で静置した。 凍結乾燥の温度プログラムを Fig.4-1 に示した。コラプスの発生評価を目的と した凍結乾燥実験では、0.5℃/分で棚温度-32℃まで冷却し 2 時間保持し、水 溶液を凍結させた。棚を異なる温度(-32, -28, -26, -24, -22, -20, -18, -16, -14, -12℃)まで 0.2℃/分で加温し、2 時間維持した後に減圧乾燥した。凍結 溶液の一次乾燥は棚温度と圧力を-32℃ (0.120 Torr)、-28℃ (0.231 Torr)、 -26℃ (0.315 Torr)、-24℃ (0.390 Torr)、-22℃ (0.471 Torr)、-20℃ (0.636 Torr)、-18℃ (0.771 Torr)、-16℃ (0.936 Torr)、-14℃ (1.236 Torr)、-12℃ (1.236 Torr) に維持し、さらに 4 時間 0.03 Torr に減圧して行った。二次乾燥 は 35℃、4 時間(0.03 Torr)とした。各温度設定間の昇温は 0.2℃/分とした。 なお本研究ではそれぞれの棚温度における氷の蒸気圧よりやや低い圧力で一次 乾燥を行い、急速な昇華による品温の低下を防いだ。乾燥後のバイアルはゴム 栓で密封した。乾燥過程の製品の温度変化は熱電対を高分子溶液に浸して記録 した。凍結乾燥固体の構造変化は体積と表面の質感から判断した。 70 Temperature(℃) 50 Freezing Secondary drying Primary drying 30 10 -10 -32~-12℃ -30 -50 -100 400 900 1400 Time(min) 1900 Figure 4-1 凍結乾燥温度プログラム - 50 - 2400 4-1-4. 走査型電子顕微鏡 PVP 29,000、dextran 35,000 及び両高分子を各 50 mg/mL 含む試料を一次乾燥 温度-16℃と-32℃で凍結乾燥した固体を粗く粉砕し、表面の形態学的な検討を 走査型電子顕微鏡 (SEM) (VE-7800, Keyence Co.) を用いて行った。試料は両 面テープを用いて試料台に固定し、観察前に 180 秒間金で蒸着して減圧下で観 察した。試料は加速電位 20 kV、10 Pa で露光した。 4-1-5. 凍結乾燥顕微鏡 減圧下での高分子凍結溶液の様子は、凍結乾燥ステージに液体窒素と減圧装 置を接続した凍結乾燥顕微鏡(Lyostat2, Biopharma Technology Limited) (Fig.2-4)と optical microscope (Model BX51, Olympus Co.) を用いて観察 した。試料は Fig.2-5 に示すように、ステージに石英スライド(a)をはめ込み、 70 μm 厚のスペーサー(b)と試料(c)約 2 μL を配置し、ガラス(d)で挟んで 測定を開始した。昇華は試料の外側から進行する。測定は n=3 で行った。 試料は室温から-40℃まで冷却後、5 分間保持し、0.129 mBar に減圧し、5℃/ 分で-30℃まで昇温し、そこから室温まで 1℃/分で測定した。連続的に記録した 顕微鏡画像を用い、乾燥界面に半透明の点が観察された時点をコラプス温度(Tc) とした。なお、一部の試料の昇温過程で二番目にコラプス領域が現れる温度を Tc2 とした。 4-1-6. 残存水分量 乾燥物の水分含量はカールフィッシャー水分測定装置(AQV-7, 平沼産業)に より求めた。凍結乾燥した試料を脱水メタノールに懸濁させ、室温にてカール フィッシャー液(アクアミクロン滴定剤 SS 1 mg)で水分量を滴定した。カール フィッシャー法で n=3 で測定して得られた水分含量は、固体の重量に対する割 合 (%) として表示した。 - 51 - 4-2. 結果 4-2-1. 凍結溶液の熱測定 異なる分子量の PVP と dextran を様々な濃度比(total 100 mg/mL)で含む凍 結溶液の熱測定を行った。本研究において得られた DSC 曲線の一部を Fig.4-2 に示した。まず、単独の溶質の凍結溶液では、-26.8℃ (PVP 10,000)、-23.3℃ (PVP 29,000)、-23.3℃ (dextran 1,060)、-12.1℃ (dextran 35,000)に 1 点の み Tg′が観察された。次に PVP 29,000 と dextran 35,000 を含む凍結溶液では 2 つの転移が各高分子の Tg′と近い温度に観察され、個々の高分子を主とする相に 分離して凍結濃縮されていることが示された。一方、同じ dextran 同士の分子 量の異なる組み合わせである、 dextran 1,060 と dextran 35,000 は単一の転移 が各高分子の中間付近に観察され、溶質が非晶質の混合状態で凍結濃縮された ことが示された。 次に dextran 1,060 と dextran 35,000 及び dextran 1,060 と PVP 10,000 の 組合せについて様々な濃度比(total 100 mg/mL)で凍結溶液の熱測定を行い、得 られた Tg′を Fig.4-3 に示した。いずれの組合せも単一の Tg′を示し、その温度は 濃度比の変化とともに各高分子の Tg′間を連続的に移動した。 PVP 29,000 と dextran 35,000 を各濃度比で含む凍結溶液(total 100 mg/mL) の熱測定では 2 つの転移が高分子個々の Tg′と近い温度に観察され、個々の高分 子を主とする相に凍結濃縮されていることが示された(Fig.4-4)。低温側の転移 (Tg′1)は濃縮相のうち PVP の比率が高い領域の変化、高温側の転移(Tg′2)は dextran が多い領域の変化を示すと考えられる。これらの転移温度は dextran の 比率増加に伴い上昇したことから、分離したそれぞれの相は単一の高分子のみ で構成されるのではなく、もう一方の高分子を低い割合ながら含むことが示唆 された。 PVP と dextran は水性二相分離を示す代表的な組合せであることから、凍結 水溶液の熱測定で観察された PVP と dextran の相分離と、高濃度水溶液で報告 される水性二相分離の関係を検討するため、PVP 29,000 と dextran 35,000 の濃 度を上げて濃厚水溶液の混合性について検討したところ、室温ではそれぞれ 120 mg/mL 以上を含む溶液で水性二相分離現象が観察された。溶液を冷却するとさら に低濃度(-10℃で それぞれ 80 mg/mL 以上)から分離が見られた。一般に水溶 液の緩慢凍結では-10~-20℃で凍結が起こること、及び熱測定に用いた溶液(各 高分子 50 mg/mL)は凍結直前まで相分離に伴う懸濁が見られないことから、温 度低下よりも凍結濃縮が相分離の原因となることが強く示唆された。 高分子溶液の水性二相分離に対して塩などの共存物質が影響を与えることが - 52 - 知られており、NaSCN など塩溶(salting-in)作用を持つ物質は高分子の混合性を 高めるとされる。PVP 29,000、dextran 35,000 とともに 200 mM NaSCN を含む凍 結溶液の熱測定では、Fig.4-4-右に示すようにいずれの濃度比でも単一の Tg′が 観察され、混合状態での凍結濃縮が示唆された。 Figure 4-2 高分子の DSC 曲線(▼:Tg′) PVP 10,000+ Dextran 1,060 Dextran 1,060 + Dextran 35,000 -11 -16 -16 Tg' (℃) Tg' (℃) -11 -21 -26 -21 -26 -31 -31 Tg' Tg' -36 -36 0 50 Dextran 35,000 (mg/mL) Figure 4-3 100 0 50 Dextran 1,060 (mg/mL) 高分子(total 100 mg/mL)を各濃度比で含む凍結溶液の Tg′ - 53 - 100 PVP 29,000+ Dextran 35,000 + 200 mM NaSCN -11 -11 -16 -16 Tg'(℃) Tg' (℃) PVP 29,000+ Dextran 35,000 -21 -21 -26 -26 -31 -31 Tg' (1) Tg' (2) -36 0 50 Tg' (1) -36 100 50 100 Dextran 35,000 (mg/mL) Dextran 35,000 (mg/mL) Figure 4-4 0 高分子(total 100 mg/mL)を各濃度比で含む凍結溶液の Tg′ 4-2-2. 凍結乾燥 一般に注射剤の凍結乾燥は棚温度を制御し、凍結・一次乾燥・二次乾燥の順 に進められる。凍結溶液中における溶質の混合性が凍結乾燥に与える影響を検 討するため、実際の製剤と同様にバイアルへ高分子溶液を分注し、一次乾燥を 異なる棚温度で行なうことにより乾燥固体の外観への影響を検討した。本実験 では凍結乾燥機内の減圧度を各棚温度での氷の蒸気圧よりわずかに低い値とな るよう実験条件に記載した値に調節し、乾燥速度を抑制することで氷の昇華に よる試料温度の低下を防ぐ条件を用いた。サーモカップルを用いて測定した試 料温度は一次乾燥の初期に最低を示し、この最低温度と設定した棚温度の差は 2℃以内を保持した。 Fig.4-5 に PVP29,000 と Dextran35,000 を異なる濃度比で含む溶液を一次乾燥 温度-16℃で凍結乾燥した固体の外観を例として示した。右の 2 バイアルは初期 溶液と同様な体積を持つ多孔質ケーキ構造の固体が得られたのに対し、左側の 2 つの試料では大幅な凝縮(コラプス)が観察された。 PVP と dextran を各濃度比(total 100 mg/mL)含む溶液について、-32℃から -12℃の棚温度で一次乾燥することにより得られた固体の外観を Fig.4-6 にまと めた。それぞれの組合せ間で比較を容易にするため、凍結溶液の転移温度(Tg′) が高い溶質(H として示す)を各図の右側に置き、固体の外観は ケーキ構造(○)、 少し収縮の見られたケーキ(Δ)、 収縮を起こしたケーキ (▲)、コラプス固体 (●)と区別して記載した。また比較のため、DSC 測定により得られた Tg′の関係 も Fig.4-6 に示した。凍結溶液の熱測定で混合濃縮を示す溶質の組み合わせ - 54 - (dextran 1,060 と PVP 10,000、dextran 35,000 及び PVP 29,000 と dextran 35,000+NaSCN)では、一次乾燥の棚温度が Tg′より低いとケーキ構造の固体が得 られたのに対し、Tg′以上ではコラプスが起こり、Tg′に依存した著しい違いが示 された。なお同じ組成の試料溶液を複数作製し、凍結乾燥機の棚上の異なる位 置で乾燥した場合に乾燥固体の構造の違いは観察されなかった。 相分離を起こす高分子の組み合わせ(PVP 29,000 と dextran 35,000) も双方 の Tg′以下での乾燥(-32℃から-24℃)によりケーキ構造の固体が得られた。2つ の Tg′の間 (-2℃から-14℃)で一次乾燥を行うと、図の右側にあたる dextran 35,000 の濃度比が高い (50-100 mg/mL)溶液は巨視的なケーキ構造を保つのに対 し、PVP の濃度比が高い溶液では乾燥工程中に構造の崩壊を示すことから、濃度 比の高い高分子の特性に乾燥固体の構造が依存することが明らかとなった。こ の条件で凍結乾燥した試料の一部 (例えば dextran 35,000 を 50-70 mg/mL 含む 試料)は-32℃での乾燥と同様な円柱状のケーキ構造ながら表面の質感の粗い様 子が見られた。 (mg/mL) PVP 29,000 70 60 50 40 Dextran 35,000 30 40 50 60 Figure 4-5 PVP 29,000 と dextran 35,000 を含む溶液を -16℃(棚温度)で一次乾燥した凍結乾燥固体の外観 - 55 - PVP 10,000 (L) + Dextran 1,060 (H) -10 -14 -18 -22 -26 -30 -34 Dextran 1,060 (L) + Dextran 35,000 (H) -10 Primary drying shelf temperature (°C) -14 -18 -22 -26 -30 -34 -10 PVP 29,000 (L) + Dextran 35,000 (H) + 200 mM NaSCN -14 -18 -22 -26 -30 -34 PVP 29,000 (L) + Dextran 35,000 (H) -10 -14 -18 -22 -26 -30 -34 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Higher Tg´ solute weight fraction Figure 4-6 各棚温度で一次乾燥した高分子混合物の凍結乾燥固体の構造 - 56 - 4-2-3. 走査型電子顕微鏡観察 上記の実験的な凍結乾燥において、ケーキ状の外観となった試料の一部にお いて表面の質感の差異が観察されたため、SEM を用いて微小構造領域を観察した。 PVP 29,000 と dextran 35,000 を単独または両方(各 50 mg/mL)含む凍結溶液を 一次乾燥温度-16℃(上段)及び-32℃(下段)で凍結乾燥した固体の SEM 画像 を Fig.4-7 に示した。全ての試料において-32℃で一次乾燥した試料はいずれも 鋭い輪郭を持つきめの細かい微小構造が観察された(Fig.4-7-D,E,F)。一次乾燥 温度がそれぞれの Tg′以下であったためにケーキ構造の固体となったことを反映 したと考えられた。Fig.4-7-C に示すように dextran 35,000 のみを含む凍結溶 液を Tg′以下である-16℃で乾燥すると、外観及び微小領域は-32℃の乾燥ケーキ と大きな違いはなかった。また、コラプス固体となった PVP 29,000 の内部構造 は丸みをおびた塊状であった(Fig.4-7-A)。それに対して両高分子を含む溶液 をその 2 つの Tg′間である-16℃で乾燥した固体は、目視観察においてはケーキ構 造の固体が得られたにも関わらず、明確なコラプスを起こした PVP 29,000 と同 様に丸みを帯びた比較的大きな塊状の微細構造を示した(Fig.4-7-C)。このこ とから、2 つの Tg′間で乾燥した PVP 29,000 と dextran 35,000 の混合物は、外 観はケーキ構造を保ち、内部はコラプス固体に近い構造になっていることが明 らかになった。この構造は mannitol など結晶性溶質とショ糖の混合溶液を高温 で一次乾燥した場合と類似することから、同様に「マイクロコラプス」と呼ぶ こととした 48)。 A B C D E F Figure 4-7 高分子を異なる温度で凍結乾燥した固体の SEM 画像 - 57 - 4-2-4. 凍結乾燥顕微鏡観察 熱測定で得られた凍結溶液の物性と凍結乾燥固体で観察されたコラプスの関 係を明確にするため、乾燥過程の変化について凍結乾燥顕微鏡(FDM)を用いて検 討した。 4-2-4-1. 複数の溶質を含む凍結溶液(混合濃縮) 二種の高分子を含む溶液について、FDM を用いて凍結乾燥過程の様子を観察し た。 Fig.4-8 は PVP 10,000 と dextran 1,060(各 50 mg/mL)の凍結乾燥顕微鏡画 像を示したものである。この組成は DSC 測定において単一の Tg′が観察され、混 合濃縮が示唆された組み合わせである。減圧後の昇温に伴い黒い乾燥層が進行 し、臨界温度以上でコラプスと呼ばれる半透明の穴が現れその後白い構造の乱 れが進行する。この構造崩壊の様子は各高分子単一の乾燥と概ね類似している。 Fig.4-8 の試料では Fig.4-8-B の状態よりも少し低い温度にコラプス開始温度 (Tc)が確認された。 また、Fig.4-10-A(上段)に Tg′と Tc の関係を示した。この組み合わせの Tc は溶質単独のものを含むいずれの濃度比においても Tg′の数度上に各高分子の Tc 間を移動するように観察された。この傾向は多くの溶質で見られた。 Dried solid Frozen solution A:-22.8 ℃ Figure 4-8 B:-22.5 ℃ C:22.3 ℃ PVP 10,000 と dextran 1,060(各 50mg/mL)の FDM 画像 - 58 - 4-2-4-2. 複数の溶質を含む凍結溶液(相分離) 次に相分離を起こす PVP 29,000 と dextran 35,000 を含む凍結溶液のコラプ ス現象について凍結乾燥顕微鏡を用いて検討した。各高分子どちらかを主に含 む試料は、混合濃縮を起こす組み合わせや単独の溶質と同様に Tg′より数度上に Tc が見られた(Fig.4-10-B)。しかしながら Tg′が2点観察された両高分子の相分 離が示唆された組み合わせにおいては、複雑な挙動が観察された。 PVP 29,000 と dextran 35,000 (各 50 mg/mL)組み合わせの凍結乾燥顕微鏡観 察画像を Fig.4-9 に示した。コラプスが一度発生した後も、かなりの温度に渡 り全体的な構造破壊なしに乾燥が進んだ。その後温度が上昇してから全体にコ ラプスが広がる様子が観察された。コラプス領域の広がりは乾燥固体構造の著 しい悪化を引き起こす。この試料において、Tc は Fig.4-9-B のように乾燥界面 に半透明の点が観察され始めた温度で、Tc2 は Fig.4-9-C のように、白いコラプ スの広がりが急に進み始める温度である。観察写真の視野は-17.2℃ (Fig.4-9-B)と-13.3℃(Fig.4-9-C)の間で昇華の界面の進行に従って移動し た。 Fig.4-10-B の Tg′と Tc の関係の検討を再度行った。Tg′が 1 つしか観察されな い濃度では Tg′よりも数度上に Tc が見られた。相分離を起こす濃度においては、 各高分子を同濃度程度含む割合付近で、Fig.4-9 に示したような Tc と Tc2 が観察 された。その値では大きな偏差となり、複雑な乾燥挙動であることが分かった。 この Tc と Tc2 の間は、Tg′の高い dextran が骨格となり、Tg′の低い PVP が溶けて いるマイクロコラプス状態ではないかと推察される。 Tc2 Tc A:-18.9 ℃ Figure 4-9 B:-17.2 ℃ C:-13.3 ℃ PVP 29,000 と dextran 35,000 (各 50 mg/mL)の FDM 画像 - 59 - Figure 4-10 分子量の異なる PVP と dextran(total 100 mg/mL)を含む凍結溶液 の Tc と Tg´の比較 (Tc, ●、Tc2, ▲、Tg′1, ○、Tg′2, △) - 60 - 4-2-5. 凍結乾燥固体の評価 4-2-5-1. 残存水分量測定 凍結乾燥固体の残存水分量をカールフィッシャー法により測定した。結果を Table 4-1 に示した。 測定した 6 試料のうち、コラプスを起こしたものは一次乾燥温度-16℃の PVP 29,000 のみで、一次乾燥温度-16℃の混合物は乾燥固体の外観はケーキ構造、内 部構造はコラプス固体に近い試料である。全体の傾向として PVP よりも dextran の残存水分量が多いことが明らかになった。また、コラプスやマイクロコラプ スによる残存水分への直接的な影響は見られなかった。 Table 4-1 凍結乾燥固体の残存水分量 PVP 29,000 Residual water (%, w/w) -16℃ 0.41 ± 0.08 -32℃ 0.33 ± 0.12 Average ± s.d. (n=3) complex Residual water (%, w/w) 0.66 ± 0.50 0.91 ± 0.20 Dextrab 35,000 Residual water (%, w/w) 1.40 ± 0.62 1.73 ± 0.22 4-2-5-2. 凍結乾燥固体の熱測定 凍結乾燥固体に含まれる PVP 29,000 と dextran 35,000 の混合性を検討する 目的で熱測定を行った。いずれの試料でも Fig.4-11 に示すように水分蒸発によ る吸熱ピークが現れた後、ガラス転移温度(Tg)を得た。-32℃で一次乾燥を行っ た dextran 35,000 の固体の Tg は 223.8±0.2℃であった。同様な転移が-16℃ で乾燥した dextran 35,000 の固体でも観察された(Fig.4-12)。 PVP 29,000 を-32℃で一次乾燥した凍結乾燥固体(Fig.4-13)の熱測定では 157.9±1.0℃に小さな転移が観察され、さらに高い温度で他のいくつかの現象 が起きていることが明らかになった。205℃で起こる変化の原因は不明である。 PVP 29,000 と dextran 35,000 を各 50 mg/mL ずつ含む溶液の-32℃及び-16℃で の乾燥固体は、160℃及び 210℃付近の 2 点に転移が観察され、ベースラインの 動きを含め似たような変化となり、乾燥固体での相分離が示唆された。 - 61 - Heat Flow Tg Heat Flow endothem 200 220 240 Temperature (℃) ②加熱測定 ①冷却 -70 -30 10 50 90 130 170 210 250 Temperature (℃) Heat flow, endoherm Figure 4-11 凍結乾燥固体の DSC 曲線(Tg) dextran 35,000 -32℃ dextran 35,000 -16℃ 0 50 100 150 200 Temperature(℃) Figure 4-12 dextran の凍結乾燥固体の DSC 曲線 - 62 - 250 290 Figure 4-13 高分子の凍結乾燥固体の DSC 曲線(▼: Tg) - 63 - 4-3. 考察 本研究ではモデルとなる高分子を用いて、凍結溶液の物性測定と試験的な凍 結乾燥及びプロセスを模した評価系を組み合わせることにより、凍結溶液中で 複数の濃縮相に分離する溶質を適切かつ効率的に凍結乾燥するための重要な情 報を得ることができた。 凍結溶液の溶質混合性の変化は、生体高分子やリポソームなどの DDS に用い られる超分子集合体を含む凍結乾燥製剤のガラス転移温度、結晶化度、分子間 相互作用、タンパク質安定性など、様々な性質に影響を与える。主な凍結乾燥 医薬品は有効成分や安定剤、賦形剤、pH 調節剤、浸透圧調節剤などの添加剤を 多成分含んでいる。凍結溶液の溶質の混合性についての情報は限られているが、 タンパク質や高分子添加剤を含む様々な高分子の組み合わせで二相分離が報告 されており、凍結溶液で分離する可能性を示唆している。相分離する多成分系 の合理的な凍結乾燥は、医薬品の品質やプロセス効率の改善に有用と考えられ る。 4-3-1. 凍結溶液の混合性 Tg′(最大濃縮層ガラス転移温度)とは、凍結溶液中に濃縮された非晶質状態 の溶質が周辺の水の融解を伴って相変化し、分子運動性の上昇や局所粘度の低 下を起こす温度と言われている。液体状態の高分子を融点以下に冷却すると流 動性はほぼ喪失し、一見固体状態の過冷却液体という無秩序な準安定状態とな る。この状態では分子はゆっくりと動くことができる為、秩序を持つ状態であ る結晶状態が自由エネルギー的に有利であれば結晶化が起き、固体状態である 結晶が生成する。 一方 Tg(ガラス転移温度)は凍結溶液中の場合、濃縮された非晶質状態の溶 質が周辺の氷の融解を伴わずに相変化する温度である。一般的には非晶質状態 の固体が相変化して運動性が大きくなる温度である。過冷却液体をさらに冷却 していくと、分子運動がさらに制限され、最終的にはほぼ停止状態となる。こ の過冷却液体が運動性を失う現象がガラス転移と呼ばれる。つまりガラス転移 は無秩序である非晶部位(過冷却液体)でしか起きず、固体である結晶は融解 を起こす。 熱測定から、分子の大きさや成分比に依存する PVP と dextran の異なる混合 性が示された。この結果は Izutsu らの報告と一致した 3)。 溶質が混合状態で凍結溶液の氷晶間に濃縮される例では単一の Tg′、凍結濃縮 されて相分離する場合は2つの Tg′が観察された。 - 64 - Polymer B conc. 水性二相分離は一般に Fig.4-14 に示す相図で説明され、バイノーダルと呼ば れる曲線以下の濃度では単相(混合)溶液、バイノーダル以上は二相領域とさ れる。凍結溶液で観察された PVP と dextran の相分離は、単相領域の水溶液が 氷晶の成長に伴い二相領域に移行することにより起こると考えられている。一 般に凍結濃縮は初期濃度に関係なく、ほぼ 70-80%(w/w)まで進むことから凍結 濃縮により相分離を起こすか混合状態となるかは組み合わせによって決まると 考えられている。 T2 2相領域 凍結 濃縮 T Binodal 2 T1 S Binodal 1 単相領域 Polymer A conc. Figure 4-14 バイノーダル曲線 高分子水溶液のバイノーダル曲線は、溶質の種類や分子量、共存物質により 上下することが知られており、PVP と dextran では分子量が高いほど低濃度であ っても二相分離を起こす 70)。このため、比較的分子量の低い組み合わせは混合 濃縮されるのに対し、高分子量の組み合わせでは相分離を起こすと考えられる。 水性二相分離では全体の溶質組成(T)に対応して、バイノーダル曲線上の点 (T1 と T2)の溶質を含む上下層が形成されることが知られている。凍結濃縮にお いて形成される分離相も同様に、各高分子のみを含むのではなく、それぞれ主 となる溶質と少ない割合の溶質の両者を含むと考えられる。また、溶質のうち PVP 29,000 と dextran 35,000 の一方を 90 mg/mL 含む場合など、混合性の低い 高分子の組合せでも凍結濃縮により二相領域に移行しない場合には、混合状態 で存在していると考えられた。 相分離を起こす PVP 29,000 と dextran 35,000 に 200 mM NaSCN を加えた組み 合わせ(total 100 mg/mL)では混合状態を示唆する単一の Tg′が観察された。ホフ マイスターの離液順列(系列)のうち、高分子を溶かしやすくする塩はソルテ ィングインソルトやカオトロピックイオンと呼ばれ、高分子の相互作用を変え - 65 - て水性二相分離を抑制する(バイノーダル曲線を上昇させる)作用があると言 われている。NaSCN はカオトロピックイオンに該当し、その性質により相分離作 用が抑制されたため混合濃縮を示したと考えられる。 4-3-2. 凍結乾燥固体の外観と物性 実験的な凍結乾燥により、濃縮相が分離した凍結溶液においても溶質の組成 により一定温度以上で混合系と同様なコラプス発生が観察された。一方で境界 となる温度付近では混合系よりも複雑な挙動をとることが明らかとなった。 実験的な凍結乾燥では、一次乾燥過程の品温とコラプス発生の関係を明確に 求めるため、凍結乾燥プロセス中の棚温度とバイアルの品温の差を小さくする ことが重要となることから、昇華熱等に配慮して実験方法を決定した。 凍結乾燥は、乾燥中に昇華熱により棚温度よりもかなり品温が下がっているこ とが知られている。この影響が大きいと棚温度と Tg′の関連性が比較できないの で、減圧度を各棚温度での凍りの蒸気圧よりわずかに低い値にしてゆるやかな 乾燥を行った。 混合濃縮する溶質と、相分離を起こす溶質の組み合わせでは異なる棚温度で の実験的凍結乾燥において異なるコラプスの傾向を示した。 混合濃縮を示した高分子の組み合わせはいずれの場合も棚温度が Tg′以下では ケーキ構造を保ち、Tg′以上でコラプスを起こした。このことから Tg′は臨界処方 温度の指標として用いることが妥当であると考えられる。棚温度を Tg′以下にす るとほぼ確実にケーキ構造の固体を得ることができるが一般的に行われる凍結 乾燥条件だと、昇華熱により棚温度よりも品温が下がる為、もう少し高い棚温 度の設定でもコラプスを回避した乾燥が可能であると考えられる。 一方で相分離を起こす PVP 29,000 と dextran 35,000 の組み合わせではそれ ぞれの Tg′間での乾燥固体の外観は高分子の濃度比により大きく異なり、この温 度域では組成により粘度に大きな変化が起こることが示唆された。 この Tg′間での乾燥で得られるマイクロコラプス固体は、乾燥の効率化が可能 で良好な外観が得られるが、医薬品として用いるには安定性などを個々に調べ ていく必要があると考えられる。そのため得られた乾燥固体を用いて、水分含 量と乾燥固体の熱測定による Tg を求めた。 一般にコラプスを起こした固体は残存水分量の増加が起こることが知られて いるが、今回の試料ではそのような傾向は見られなかった。また、dextran 35,000 はケーキ構造の乾燥固体であり、他の試料と比較して高いとはいえ、水分含量 が 2%以下であるため品質における問題はないと考えられた。充分な乾燥時間を 確保することで、低水分量の固体を確保でき、残存水分が原因となる問題は回 - 66 - 避可能と考えられる。 凍結乾燥固体の熱測定においても、凍結溶液の熱測定と同様に、PVP 29,000 と dextran 35,000 単独の Tg 付近に、混合物の2つの Tg が観察され、乾燥固体 においても相分離状態であることが示唆された。また、-32℃における混合物と -16℃における混合物の DSC 曲線が類似していることから、本研究に用いた高分 子の組み合わせにおけるマイクロコラプス固体の品質安定性は、ケーキ構造の 固体と同等であると考えられた。 4-3-3. 凍結乾燥固体の内部構造 通常のケーキ構造の固体がきめの細かい微小構造であることが SEM 画像から 明らかになった。この微小構造は凍結溶液から氷晶が昇華し、残った濃縮相が さらに乾燥された状態であると考えられた。 Fig.4-15 にはマイクロコラプスの模式図を示した。マイクロコラプスとは Tg′ の高い dextran が硬い骨組みとなったケーキ構造中に、流動性をもつ低い Tg′の PVP を分散している状態であると考えられる。Fig.4-7 の SEM 画像でも骨格の周 りに粘性の低いどろどろとした相が溶けて固まったような様子が伺える。非晶 質溶質に sucrose と mannitol を添加した場合、スクロース単独添加時と比較し て mannitol 存在下では構造の損失が少ないという報告があった 71)。この現象は 非晶質相が完全にコラプス化した場合においても、結晶相がケーキ構造の骨組 みを保つためとされており、今回のマイクロコラプスと類似した状態であると 考えられた。この場合は結晶が骨格となり非晶質を支えているのに対し、本研 究で用いた PVP と dextran では双方非晶質であり、非晶質の骨格が粘性の低下 した非晶質を支えていると考えられる。 分離した相の各 Tg′間では、Tg′以下で高粘度の dextran 相が硬い骨格となり、 Tg′以上で低粘度となる PVP 相が微視的なコラプスを起こして付着しているが、 全体の円柱状構造は保持されてケーキ構造の乾燥固体が得られた。dextrean の 組成比が高いと骨格となる相の存在の為にケーキ構造を保ち、PVP を多く含む組 み合わせでは粘度の低下した相を支えきれずにコラプスを起こしたと考えられ る。 - 67 - マイクロコラプス Dextran PVP ケーキ構造 Dextran コラプス Dextran PVP PVP Figure 4-15 マイクロコラプスの模式図 4-3-4. マイクロコラプスの凍結乾燥挙動 凍結乾燥顕微鏡(FDM)を用いた減圧下の観察により、溶質が相分離した凍結溶 液の一次乾燥過程におけるマイクロコラプス現象の機構を明らかにすることが できた。 相分離を起こす高分子溶液の FDM 観察においては、各高分子を同濃度程度含 む試料で特異的な変化が観察された。 Tc から Tc2 の間は局所的な変化はおこるものの崩壊しない温度域でマイクロ コラプスに対応すると考えられる。 Fig.4-6 及び Fig.4-10 を比較すると、実験的な凍結乾燥の結果は、相分離を起 こさない試料において、熱測定により得られた Tg′を境に乾燥固体に違いが現れ る。しかしながら Tc は Tg′より数度高温に測定される。PVP 比が高い領域では FDM により求めた Tc を棚温度とした場合、コラプスを起こしてしまう可能性がある。 FDM の問題点として、目視的判断なので判別がしにくいこと、実際の環境に近い とはいえ、あくまでも昇温測定なので一定温度で長期保持しておく静的な凍結 - 68 - 乾燥とは異なっていることが挙げられる。しかしながら、完全な一致は見られ なかったものの、PVP 比の高い領域に比べ、dextran が多い領域では Tc が高くな るなど、ある程度の関連性は見られると考えられた。 また、Tc と Tg′の温度だけを見ると、相分離を起こす組み合わせは相関性が明 確ではないが、実験的な凍結乾燥の結果を考慮すると、二段階の変化が見られ ることや Tg′の低い温度の時点では変化が見られないことから Tc は実際の性質に 近いことが分かった。このことより、複雑な処方の臨界温度の決定には FDM が 有用であると言える。 4-3-5. 多成分系の製剤設計と凍結乾燥工程の制御 ここまでの結果をふまえて、溶質の混合性による一次乾燥温度と乾燥固体の 構造の関係について模式図にまとめた(Fig.4-16)。混合系では Tg′の上下でコラ プスの有無が決まる(Fig.4-16-上)。相分離した凍結溶液を双方の Tg′以上また は以下で乾燥するとコラプスまたはケーキ構造になるのに対し、Tg′間での乾燥 による構造は PVP と Dextran のどちらが多いかにより異なる結果となった (Fig.4-16-下)。 全ての最大濃縮相ガラス転移温度(Tg′)以下での一次乾燥により、強固な非晶 質凍結濃縮相から微細構造と全体のケーキ構造を保持した固体が得られた。ま た、製品温度が全ての Tg′以上での一次乾燥は、分離した全ての相の粘度の低下 によるコラプスを起こすと考えられる。 2 つの Tg′間の温度では粘度がそれぞれの濃縮相により異なることから、 一次 乾燥過程の局所的または巨視的な構造変化は組成により異なる。この温度域で 低粘度となる PVP の濃度比が高い凍結溶液では、氷の昇華表面から物理的コラ プスを起こす。対照的に高粘度の dextran の濃度比が高い場合には dextran 濃 縮相がケーキ構造を保持する骨格として働き、PVP 相は局所的な構造変化(マイ クロコラプス)を起こす。 2つの Tg′間では相方の凍結濃縮相ともに粘度の変化が限られるため、この温 度範囲で凍結乾燥した固体は同様な構造を示すと考えられる。図の中でマイク ロコラプス状態となる領域の高分子濃度比や粘度は、各分子の構造と分子量に 大きく依存する。上述した様に図の両端の状態にあたる一方の高分子の比率が 極めて高い領域では、混合状態で濃縮され凍結乾燥によりケーキ構造を保持 (dextran の割合が高い試料) もしくは コラプス(PVP の割合が高い試料) を起 こす。 前述したように同様な局所的構造変化(マイクロコラプス)は結晶と非晶質 成分を含むケーキ状態の凍結乾燥固体でも報告されている 51)。凍結溶液で結晶 - 69 - 化する mannitol や glycine などいくつかの賦形剤は共存する sucrose などの非 晶質相のコラプス温度以上の一次乾燥において、強固な骨格となり、全体的な 構造崩壊を抑制する。結晶と非晶質(例えば Dextran)の骨格構造をもつマイク ロコラプス固体は、製剤品質が通常のケーキと異なる可能性がある。例えば結 晶性の賦形剤は、共に凍結乾燥する活性成分を結晶化関連のタンパク質の不活 性化などの品質変化ストレスに暴露する。 相分離を起こす多成分凍結溶液では製剤設計やプロセス設定に、工程の頑健 性と効率及び製品品質に影響を及ぼすいくつかの選択肢が生じる。全ての相の 転移温度(Tg′)より低い温度での一次乾燥は製品として好ましいケーキ構造で主 薬の安定性を確保した高い品質の製品を得る確実な方法である。非晶質のマイ クロコラプス固体となる処方及びプロセス設計の選択は、エネルギー消費の大 きな一次乾燥時間を大幅に短縮する挑戦的な方法となる。このようなことから、 熱測定と凍結乾燥顕微鏡から処方及びプロセスの最適化に関連する情報が得ら れる。適切な技法 (PAT: process analytical technology) による凍結乾燥過 程の要因の観察も合理的で頑強な凍結乾燥プロセスの最適化に役立つとされて おり、熱測定や凍結乾燥顕微鏡観察もそれに当たる。また、低い Tg′の活性物質 (APIs) に高い Tg′の “骨格”の高分子(例えば Dextran)を加えることでマイ クロコラプスを起こすことも可能である。一方でマイクロコラプスは水を加え た際の再構築の遅延や残留水分による保存中の品質低下など、医薬品製剤の品 質に影響を及ぼす可能性があることから、その影響や許容性についてさらなる 研究が必要となる。今回モデルとして用いた高分子においては、残存水分の測 定及び乾燥固体の熱測定においてマイクロコラプス固体に有意な変化が見られ なかったことから製品安定性に大きな問題はないと考えられた。このように、 マイクロコラプスになる固体に関しては、個々に安定性の確認が必要といえる。 また、経験に基づいて行われる凍結乾燥において、意図せずにマイクロコラプ ス状態の製品が製造されている可能性があることも大いに考えられるため確認 が必要である。 - 70 - -10 Tg´(℃) -15 Collapsed Solid -20 Cake Solid -25 0 0.5 1 Dextran weight fraction -10 Collapsed Solid Tg´ (℃) -15 Microcollaposed Cake Collapsed Solid -20 CakeSolid -25 0 0.5 Dextran weight fraction Figure 4-16 溶質の混合性による一次乾燥温度と 乾燥固体の構造の関係(模式図) - 71 - 1 4-4. 小括 多成分溶液の凍結乾燥において熱測定と凍結乾燥顕微鏡を用いた凍結溶液の 特性評価が溶質の混合性に対応した製剤設計と工程の設定に有用なことが明ら かとなった。 熱測定により、モデルとした高分子の組合せ(dextran と PVP)が混合状態で凍 結溶液の氷晶間に濃縮される例では単一の Tg′、凍結濃縮されて相分離する場合 は2つの Tg′が観察された。 実験的な凍結乾燥において、混合濃縮となる組み合わせの単一の Tg′、または 相分離を起こす組み合わせで観察される2つの Tg′より低温に保持して一次乾燥 を進めると、溶液と同様な体積を持つ多孔質のケーキ固体が得られた。一方で これらの温度以上では固体全体の構造崩壊(コラプス)が起こった。相分離を 起こす凍結溶液の Tg′間で乾燥すると、ケーキ構造を構成する骨格(Tg′の高い dextran)と、局所的な構造崩壊(Tg′の低い PVP)によりマイクロコラプス構造 となった。FDM より凍結乾燥過程の変化が観察され、相分離を起こす高分子溶液 でマイクロコラプスに対応すると考えられる特異的な変化が観察された。 マイクロコラプス領域での工程制御が可能となれば、タンパク質製剤で非晶 質状態を保ったまま一次乾燥時間を短縮するためのアグレッシブなアプローチ になると考えられる。ただし実際の製品として用いるには、主薬によっては品 質に影響する可能性があることから、安定性を個々に検討する必要がある。ま た、実生産において、工程制御を経験的な指標で実施している場合は意図せず にマイクロコラプス状態となっている可能性があることにも留意が必要である。 - 72 - 第5章 総括 凍結乾燥医薬品製剤への新規使用に適した添加剤の検討として、第 2 章では タンパク質保護を目的とした安定化剤を、第 3 章では多孔質ケーキ固体の構造 保持を目的とした賦形剤の探索を実施した。 第 2 章では、安定化剤として使用されている糖類と同様にタンパク質高次構 造安定化作用を糖アルコールも持つことが明らかとなった。糖アルコールのう ち分子量が比較的高いもの(maltitol, lactitol, maltotriitol)は Tg が高いことか ら、凍結乾燥により安定なガラス固体を形成し、タンパク質の安定化に有効で あった。凍結乾燥固体の長期保存に対しては maltitol や maltotriitol よりも Tg が高く、水置換作用を持つ lactitol が優れていることが示唆された。 糖アルコールよりも糖はガラス転移温度が高く、凍結乾燥製剤の安定化剤と して使用しやすい面があることは確認された。ただし糖アルコールは保存中の メイラード反応が起こりにくいという利点を有することから、今後追加検討を 実施して情報が蓄積されていくことにより、新規安定化剤としての使用も進ん でいく可能性があると考えられた。 糖や糖アルコールの多くは通常の凍結乾燥条件で非晶質の乾燥品となるが、 一部凍結溶液中で結晶化しやすい添加剤も存在する 17)。第 3 章ではすでに凍結 乾 燥 に 使 用 さ れ て い る 結 晶 性 賦 形 剤 の mannitol や glycine の 他 に 、 meso-erythritol が凍結乾燥により結晶性の固体を形成し、賦形剤として活用可 能である事が明らかとなった。ただし、作製した凍結乾燥固体は、凍結方法に より外観及び微小領域構造に差が見られ、凍結溶液の結晶核形成に起因すると 考えられたことから、適切な工程条件の設定が重要となる。meso-erythritol に 結晶多形が存在することは報告されているが、一般的な温度プログラムで作製 した凍結乾燥固体が結晶多形や水和物を示さない点は、mannitol に比べた長所 と考えられる。meso-erythritol に関しても、今後追加検討により情報が蓄積さ れることで賦形剤として使用しやすくなる可能性があると考えられた。 タンパク質凍結乾燥製剤は主薬となるタンパク質の他に各種の添加剤を含む 多成分系である。個々の添加剤によるタンパク質安定化機構とともに、製剤設 計を進めるための課題として多成分系凍結溶液や凍結乾燥固体の物性とタンパ ク質安定化作用との関係が注目されている。タンパク質と添加剤の相分離は安 定化に必要な分子間相互作用を消失させるとともに、相分離界面におけるスト レスがタンパク質構造変化を引き起こす可能性が指摘されている。 - 73 - mannitol など凍結乾燥過程の結晶化により外観の優れたケーキ構造をとる添 加剤と、Sucrose などアモルファス固体となりタンパク質安定化作用を持つ添加 剤を組み合わせ、凍結乾燥品の外観や物理的安定性向上とタンパク質高次構造 確保の両方を達成した製剤も実用化されている 18,51)。 第 4 章で、PVP と dextran をモデル系として、多成分系での凍結乾燥挙動を検 討した結果、相分離を起こす高分子溶液でマイクロコラプスに対応すると考え られる特異的な変化が観察された。実際の製品として用いるには、安定性など を個々に検討する必要があるが、工程制御が可能となれば、タンパク質製剤で 非晶質状態を保ったまま一次乾燥時間を短縮するためのアグレッシブなアプロ ーチになると考えられる。 凍結乾燥医薬品の製剤設計では、目的の主薬に適した添加剤及び製法の選択 が重要となる。本研究ではタンパク質製剤を想定した安定化剤だけでなく、低 分子医薬品を始めとした製剤に必要な賦形剤に関して、新規の添加剤を探索し、 製剤設計に必要な情報を得ることができた。また、高エネルギー消費プロセス である凍結乾燥は効率的な製法が求められており、本研究ではマイクロコラプ ス状態でのケーキ固体となる領域を見出した。さらに、凍結乾燥製剤の製法は 経験的に設定することもあるため、本研究で得られた情報がプロセス設計に活 用できる可能性もあると考えられる。これまでの方法では製剤化が困難な主薬 を医薬品とするために、本研究で見出された新規添加剤や製法の情報が活用で きる可能性があると考えられる。 - 74 - 謝辞 学位論文をまとめるにあたり非常に多くの方にお世話になりました。ここに 深く感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、御指導を頂いた東邦大学薬剤学教室の寺田勝英教 授に心から感謝し厚く御礼申し上げます。 本研究に際して様々な御指導いただいた星薬科大学医薬品化学研究所の米持 悦生教授、東邦大学薬学部薬剤学教室の管野清彦准教授、東邦大学薬学部薬剤 学教室の吉橋泰生先生に深謝いたします。 国立医薬品食品衛生研究所薬品部の伊豆津健一室長には、日ごろの議論から 実験結果の解釈、論文作成まで丁寧に御指導を頂きました。心より感謝し厚く 御礼申し上げます。様々な御支援をいただきました国立医薬品食品衛生研究所 の皆様に御礼申し上げます。 本研究の機会を与えていただきました株式会社ポーラファルマ医薬研究所久 保田信雄所長、小林浩一室長をはじめ、医薬研究所の皆様に感謝いたします。 本研究の XRD-DSC 測定及び温度制御 XRD 測定に御協力いただきました株式会 社リガク応用技術センターの岸證様に深く御御礼申し上げます。 実験技術の御指導をいただいた田中(角谷)沙織氏、実験の実施に際して御 協力いただいた東邦大学薬学部薬剤学教室の久米美汀氏、吉野建史氏をはじめ、 薬剤学教室の学生の皆様に御礼申し上げます。 最後に、私の研究活動に理解を示し支えてくれた家族に、心から感謝いたし ます。 - 75 - 参考文献 1. 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