日消外会誌 27(3):735∼ 742, 1994年 特別講演 分子生物学 か ら臨床 への提言 ―消化器癌を中心 として一 広島大学医学部病理学第 1 講座 田 原 榮 一 食道癌, 胃癌 お よび大腸癌 にお け るそれぞれ の遺伝子異常 を概説 し, そ れ らを実践 医療 に導入 した 分子診断の新 しい戦 略 につ いて, 本 年 8 月 か ら開始 した広 島市 医師会検査 セ ンタ ーの例 を と りあげ紹 介 した。この新 しい戦略 は今後 の 日常 の強力 な, か つ よ り客観 的 な癌 診断法 として役立 つ のみ な らず, 癌 の悪性度 の予知 や治療 の指針 に も貢献す るで あろ う。 Key words: gastrointestinalcancer,oncogene,tumor supressorgene, molecular diagnosis は じめ に 近年, 飛 躍的 な分子生 物学 の発展 に よ り, 癌 は遺伝 "に “ 子 の病気で あ り所謂 臨床癌 な るまでには, 癌 遣 伝子 と癌抑制 遺伝子 を含む複数 の遺伝子異常 の蓄積 を 伴 う多段階 の過程 が必要 で あ り, さらに, 癌 の進展 ・ 導 入す るか とい う試 み につ いて,本 年 8月 か ら開催 し た広 島市 医師会臨床検査 セ ンタ ーの 「 新 しい戦 略」 の 例 を と りあげて概説 した い。 食道癌 にお ける遺伝 子異 常 まず ,食 道癌 の遺伝子異常。,胃 癌 お よび大腸癌 の遺 転移 には増殖 因子 ・受容体や細胞接着 分子 の異常 が 関 ) 。現在, わ が教 室 におい 与す る こ とが示 されてい る1 レ 伝 子異常 と比較す る と, 3つ の消化管癌 に共 通 した遺 ては, ヒ ト腫瘍 にお け る種 々の増殖 因子 ・受容体系, 癌遺伝子 お よび癌抑制遺伝子 の果常 を外科材料 か らと l)。す なわ ち,前者 は p53癌抑制遺伝子 の突然変果 と欠 伝子 異常 と異 な った遺伝 子異常 とがみ られ る (Table 失 で あ り,後 者 は癌遺伝 子 の活性化 で あ り,例 えば, K‐ras突 然変異 は大腸癌 に頻 発す るの に対 して,食 道 料 か ら D N A を 抽 出 して, p o l y m e r a s e c h a i n r e a c t i o n 癌 ではほ とん ど検 出 され な い。 一 方,食 道癌 は 胃癌 や ( 以下, P C R と 略記) を組 み合わせ る こ とに よ り, 遺 伝 大腸癌 に比 べ て,10倍 高 い レベル の EGF‐TGF2・ レセ プタ ー系 の発現を示 し,そ の レベル の高 い ものは悪性 子増幅や点突然変異 を容易 に検 出す る こ とがで きる。 らえるのは勿論 の こ と, パ ラフ ィン包理 された生検材 す なわ ち, 分 子病理学的手法 に よ り癌 の客観 的確定診 度 が 高 い ことが よ く知 られて い るゆり, 断お よび悪性度診断を行 うこ とがで きるので あ る。さ らに, 最 近, 家 族 性 大 腸 ポ リポ ー シ ス の原 因遺 伝 子 次 に,食 道癌 に特 徴 的 な遺伝 子 異 常 は,nbroblast 下,FGFと 略記)遺伝子 ファ ミリー grOwth factor(以 ( A P C ) が 同定 され, 発 症前診断 も可能 で あ る。しか し, に属 す る HST‐1と INT,2遺 伝 子 の 同時増 幅 が 原 発 巣 で 高頻度 に認 め られ る こてで あ る。.し か し,同 時増 幅 実際 には これ らの検討 は研究室 レベル に留 ま ってい る のが現状 で あ り, これ らの情報 を臨床 に還元 で きれ ば, 癌 の診断 ・予防 のみ な らず治療方針 の適切 な選択 を初 が あ るに も拘わ らず,HST‐1/1NT‐2の発現 がみ られ な めとする実践医療だ大きく貢献することが期待され の遺伝子解析 が行われた,そ の結果,HST‐ 1/1NT‐2遺: る。 伝 子 の み な らず cyclin D(PRADl)遺 そ こで, 本 講演 では まず食道 癌, 胃癌 お よび大 腸癌 にお け るそれぞれ特徴的 な遺伝 子異常 につ いて述 べ , そ して, そ れ ら分子生物学的知 見 をいかに実践医療 に *第 42回日消外会総会 <1993年 11月1日 受理>別 刷請求先 Ⅲ田原 榮 一 〒734 広 島市南区霞 1-2-3 広 島大学医学部第 1病理 い こ とか ら,そ の 2つ の遺伝 子 が存 在 す る1lq13領域 伝 子 お よひ BCL‐1遺伝 子 を も含 む minimal ampliconが1lq13に 起 きて い る こ と,そ して,そ れ らの遺伝子 の 内,cyclin 遺伝 子 が 発現 して い る ことが 明 らか に された6)。さ ら に,重 要 な点 は HST,1/1NT‐2お よび cyclin D遺伝子 が増 幅 してい る食道癌症例 では,増 幅 していない症例 に比 べ て,肺 ,肝 ,骨 な どの遠隔転移 を示す頻 度 が有 意 に高 く,そ の上 ,局 所再発 お よび重複癌 の頻度 も高 12(736) 分子生物学 か ら臨床 へ の提言 Table l 日消外会誌 27巻 3号 Genetic alterations in gastrOintestinal cancers Genetic alterations Esophageal cancer (%). 5 4 E N p53 18q(DCC) 7 7 5q(APC) (%)Ⅲ 5 3 Deletion Colorectal cancer E 一 N Mutation RAS APC p53 Castric cancer d ttp 命剖drttPに Amplincation ︲ 一 10 3 9 1 ERBB2 2 0 2 ERBB 50 一 一 HST‐ 1.INT‐ 2 C‐MET tFrequencyof occurrence Table 2 Metastasisof esophagealcancer after curative operation with or without amplification of cyclin D gene A m p l i n c a t i O n ( 十) 20 cases Amplification (-) 35 cases Distant organ metastasis (lung, liver, bone) 9(45%)・ 4(12%) Local recurrence Double cancer Lymph node metastasis 4(20%) 6(30%) 3(15%) Ⅲ 3(15%)Ⅲ 2(6%) 13(37%) No recurrence 1(3%) 18(51ワ る) . p < 0 . 0 2 ( , x- s q u a r et e s t ) , t . p < 0 . 0 2 ( z - s q u a r et e s t ) い こ とであ る ( T a b l e 2 ) 。したが って, c y c l i n D 遺伝 子 の増 幅 は食道癌 の悪性度 の よい マ ー カ ー, 特 に遠隔 る。一 方, 中 等度異型性 を示す 胃腺 の 2 症 例 ( 6 3 5 , 6 3 9 ) は, い ず れ も ア ミ ノ 酸 置 換 を 示 さ な い n O n _ s e n s e 転移 の予知 に役立 つ もの と考 え られ る. m u t a t i o n であ る。 しか し, c a r c i n o m a i n a d e n o m a ( 症 胃癌 にお け る遺伝 子異 常 胃癌 では多種多様 な遺伝 子異常 がみ られ るが, 高 分 化腺 癌 と低 分化 腺癌 の 間 に共 通 した 遺伝 子 異 常 と し いと て, p 5 3 癌 抑制遺伝子 の不 活化 ( 突然変異 と欠失) の い物タサ癌遺伝子 の活性化 ( 増幅 と異常 発 現) り1 の が あげ られ る (Tabl1 3). そ こで,p53遺 伝 子異 常 の痛 診 断 にお け る重要 性 に 触 れ てみた い11).p53突然変果 は 胃腺 腫 で も見 いだ さ れ ,そ の変異 パ タ ー ンは組織像 の異型度 とよ く相関 し てい る (Table 4)。す なわ ち,組 織学的 に高度異型性 を示 し,腺 癌 との鑑別 が 困難 な腺腫症例 (Table 4の症 例625)は ,P53遺 伝 子 の コ ドン251で frame shrtがみ られ, し か も, この 症例 は APC遺 伝 子 の 突然変果 を 伴 って い る.し たが って, この腺腫 は癌腫 と見 な され 例6 3 4 ) で は, 2 つ の m i s s e n c e m u t a t i o n が 起 きて い る。従 って, 組織像 の異型度 と p 5 3 変異 パ タ ー ンが よ く 相関 してお り, こ の こ とは, p 5 3 変異 パ タ ー ンが腺腫 と 癌 との鑑別診断 に役 立 つ ことを示唆 して い る。 なお, p 5 3 免疫 活性 を見 る と, 我 々の 成績 では 胃腺 腫 に は検 出 されず , 癌 腺 のほぼ4 0 % に 組織型, 深 達 度 と関係 な と す くみ いだ され, p 5 3 免 疫活性 は癌診 断 の ス ク リと ニ ン グには役立 つ と考 え られ る。 しか し, 免 疫染色 だ けで は, p 5 3 遺 伝 子 の 野性型 と変異型 を鑑別 す る こ とはで きず, n o n _ s e n s e , f r a m e s h i f tよび お silent mutationは p 5 3 蛋自の蓄積 あ るいは免疫活性 を示 さない。 次 に, 胃 癌 に お け る特 徴 的 な遺 伝 子 の 1 つ と して c 物冴 遺伝子 の それ が あげ られ る。す なわ ち, 律 物冴 遺 伝子 の増 幅 は, 進 行 胃癌 の2 3 % に み られ , 特 に 胃 ス キ 1994年 3月 Table 3 13(737) Genetic alterations in t、 vo types of stom・ ach cancer Poorly direrentiated ヽ Vell direrentiated ty☆ Cer 虎 賛 ty☆ er 乾;ド Genetic alterations Mutation K-ras APC p53 ―( 3 0 ) a 66 そ こで,び物 冴 遺伝子 の発現 をみ る と,7.Okbと 60 kbの 2つ の transcriptが あ り,多 くの 胃癌組織 は両者 1い の過乗J発現 を示す (Fig.1).重 要 な こ とは,6.Okb transc五 ptは 正常 胃粘膜 では検 出 されず ,腫 瘍 組織 の に み 発現 してい る こ とであ るlD。しか も,そ れ は,腫 瘍 の深達度, リ ンパ節転移 お よび ステ ー ジ とよ く相 関す る。 また, 胃癌細胞株 において も,MKN‐ 74を除 くす べ ての細胞株 に発現 してい る。 したが って,c物 冴 60 Deletion APC kb transcriptは , 胃 癌 の発生 お よび進展 に関与 す る重 p53 18q(DCC) 76 要 な遺伝子異常 と見 な され る。 なお,こ こで,ご物 冴 に関連 して,HGF/び ″ 冴 系 を bc卜2 lq 7q 介 しての癌細胞 と間質細胞 の相互作用 につ いての我 々 の作業仮説 を紹 介 した いのり,す なわ ち,癌 細胞 由来 の 33 Amplincation 一 に作用 し,肝 細胞増殖 因子 (hepatocyte growth factOr 以下,HGFと 略記)の 分泌 を促す。HGFは パ ラク リ ン として癌細胞 の ご物 冴 レセ プタ ーに結合 して,癌 細 胞 の進展 と形 態形成 に大 き く関与 す る。 そ の場 合,細 一 0 2 Aberrant expression of c.met6.0kb I TGFα ,TCFβ あ るいは IL‐ 12は ,間 質 の線維 芽細胞 9 ・ 9 3 cヽ erbB 2 3 3 met c‐ K‐saln Zs asignet ring cell carcinoma 胞 間接着,cadherinあ るいは cateninがょ く保持 され て い る癌 細 胞 の ク ロー ン で は,線 維 芽 細 胞 由来 の ■ Frequency of occurrence ルスの39%に 頻発す る。し か し,早 期 胃癌 に検 出 され ない。 また,食 道癌 お よび大腸癌 では c功 冴 遺伝子増 HGFは 癌細胞 の腺管形成 と DNA合 成 を惹起 させ ,高 分化腺癌 へ と導 く。他方,細 胞 間接着 は減少 あ るいは 消失 してい る ク ロー ンで は,HCFは 癌細 胞 の 分散 と 幅 は まれ な現象であ る (Table 5)。さ らに, 胃癌細胞 株 においては,HSC‐ 39,KATO‐ III,NKPS,NATS DNA合 お よび HSC-43細 胞株 を含むす べ ての 胃 スキル ス 由来 は,3∼ 5倍 の増幅 した 物 冴 遺伝子 を持 って い るり, 化 腺 癌 及 び 胃 スキ ル ス で は,P・,E‐cadherinおよび α,cateninの著 しい減 少 が,高 分化腺癌 に比 べ て起 き しか し,我 々は食道癌 お よび大腸癌細胞株 の どれ に も て い る。 成 を促 し,低 分化 腺癌 お よび 胃 ス キル スヘ が で きあ が る とい う考 え方 で あ る(Fig.2).事 実,低 分 び物冴 遺伝 子増幅 は認 めて い ない. 胃癌 におけ る ご物 冴 遺伝子 の異常 に関 して,染 色体 n 。 d o c 晦 Table 4 p53 point mutations in gastric adenomas ee sb am Cu Histological grade . 2 6 ・6 2 6 severe 3 6 3 6 moderate moderate 3 6 moderate ca. in adenoma 3 6 3 6 moderate 4 6 moderate 4 6 moderate moderate ︲ 7 2 4 5 5 一 一 一3 9 5 7 ・ ・ 一 一2 ︲ 2 2 2 0 6 moderate moderate Nucleotide substitution Amino acid change no point lnutation no point lnutation frameshift no point mutation no point rnutation ■o point Fnutation CTG‐ CCG Leu-Pro AAA‐ AGA Lys-Arg ATC,ATA TGT・ TCC no point l■ u tation no point l■ u tation 'This case also shows APC nonsense mutation. lle-lle Cys-Cys 分子生物学 か ら臨床 へ の提言 14(738) 消外会誌 2 7 巻 3 号 日 Table 5 c‐lnet gene amplillcation in gastrointestinal carcinomas Histlogical type Examined cases Amplification Incidence of amplification (%) well Gastric cancer poorly sclrrhous total early 0 Intestinal metaplasia Colorectal cancer Esophageal cancer Fig. 1 Expression of c-zzulmRNA in gastric carcinomas 509 510 N T 514 。 . 岡如6 ・ T N T N 7qの 異常 につ い て 簡 単 に触 れ た い。 c物 冴 遺 伝 子 に は,増 幅 のみ な らず欠失 が 胃癌 にみ られ るが,そ れ ら の 2つ の遺伝子異常 は それぞれ独立 した 現象 で あ り, さらに興味 あ る点 は,σ物 冴 の テ Pメ ア側 に位 置 す る ! ! ! 一 ・ ! 響!・ 畿騨 十 一 し試 鸞 ! !! ! D7S59の locusにおけ る欠 失 が 胃癌 の43%に も見 いだ され る こ とであ る。 しか も,そ れ は悪性度 と相関 し, 特 に腹膜播腫 を示す症例 に頻発 して い る。 大腸癌 にお ける遺伝子異 常 大腸癌 において も,癌 遺伝子 お よび癌抑制遺伝子 を め。そ の 含む複数 の遺伝子異常 がみ られ る (Table 6)と 内,最 近,遺 伝性非 ポ リポ ー シス大腸癌 を引 き起 こす 新 しい タイプの原 因遺伝 子 として FCCが 注 目され て 1的 お り,2q15,16に存在す るI。 .次 に,APC遺 伝子 は家 族性大腸腺腫症 の原 因遺伝子 として positional don‐ ing法 に よって単離 された癌 抑制 遺伝 子 で あ るが,そ の異常 (欠失 と変異)は 家族 性大腸腺腫症 のみ な らず, Fig. 2 Interaction between cancer cells and stromal cells implicated in mor' phogenesisof two types of stomach cancer Fibroblast Gancer cell 力 Cadhern。 Tubularmorphogenesis DNA synthesls I Scattering DNASlntheSiS Well differentiated Poorly dlfferentlated type cancer type cancer Includlng scirrhous cancer 1994年 3月 15(739) Table 6 Genesaltered in colon cancer Gene Chromosome 2 -FCC Tumors with mutation -15% Class ? Maintains DNA replication accuracy Intracellular signaling molecule 2 ・ V 。 i r 7 ・ 8 5 K-Ras Cyclins neu HER2 Myc APC -50% 4% 2% 2% >70% 8 ︲ >70% DCC 7 ・ p53 >70% Action Oncogene Oncogene Help regulate cell cycle Oncogene Growth factor receptor Oncogene Regulates gene activity Tumor Unknown suppressor Tumor Cell adhesion molecule suppressor Tumor Regulate gene activity suppressor Science 260, 752, 199313) 非遺伝 性 の一 般大腸 腺腫,お よび大腸癌,胃 腺腫 や 胃 癌 (高分化型),際 癌 で も高頻度 で 見 いだ され る。APC 蛋 白は既知 の蛋 白 との 明 らかな類似性 を示 さないが, 一 部 アセ チ リコ リン レセ プ タ ーの G蜜 白活性 化 ドメ イ ン と相 同性 を有 し,シ グナル伝達 に関連 した蛋 白 と Table 7 Molecular diagnosis of GI cancer in Hiroshima city medical association clinical lab. oratory from August 1993 Tumor Esophagus 考 え られてい る。大腸癌 で は nOn‐ sense mutationや Stomach 分子診断 の実践 医療 へ の導入 今 まで 述 べ た 消化管癌 にお け る遺伝 子異常 と長年 研 究 して きた増殖 因子,転 移 関連遺伝 子 の変化 を,我 々 は実践 医療 へ の導 入を考 えた。す なわ ち,そ の 1つ は 癌 の分子診 断であ り, も う 1つ は遺伝子 治療 を含む新 しい癌治療 の試 みであ る。 1)癌 の 分子診 断 につ いて 本年 8月 ,広 島市 医師会検査 セ ンタ ーにおいて,消 化管 の生検 ・手術症例 で病理組織学的 に腺腫 あ るいは p53 EGF/TCFa/ECFR cyclin D frameshift mutationが 頻 発 し,Western blotに て, 変異 した truncated proteinを 容易 に検 出す る こ とが で きる1". Markers Diagnosis c‐ met,K‐sam Scirrhous Malignancy a瑠 catenh, Metastasis と fadheれ Colon K・ras,p53,APC Diagnosis cripto,ECFR Malignancy n虚 3,CEA,CD44 Metastasis Fig. 3 New strategy of molecular diagnosis of cancer Biopsy ↓ 材料 を受 け取 ってか ら, 1週 間以内 (平均 4日 )に 通 常 の病理組織学的診 断書 を報告す る。 そ して,腺 腫 あ るいは境 界領域病変 の場合 には,癌 との客観的鑑別診 断であ る分子診 断を行 い,病 理組織学診断書報告後 1 方,癌 の場合 には悪性度 の分子診 断を行 い,同 様 にそ の診 断書 を臨床 医 に報告 し,そ れ に基 づ いた 治療 が 行 Diagnosis Malignancy Metastasis p53,APC ECF/TCFa/ECFR/ cripto 境 界領域 病 変 お よび癌 と診 断 され た 症 例 に つ い て, Table 7に 掲 げ る種 々の マ ー カ ーの分子病理学 的解 析 を ル ーチ ン ワー ク として行 い,臨 床医 へ 分子病理診 断 書 を報告 して下 る(Fig,3)。 我 々は生 検 あ るいは手術 週間以内 に,最終的 に分子病理学的診断書 を報告す る。 そ して,そ れ に基 づ いた clinical trialsが 行われ る。一 Purpose Clinical trials Surcical treatment Meilical treatment Radio therapy 分子生物学 か ら臨床 へ の提言 16(740) 日消外会議 27巻 3号 われる. 診断 のために p 5 3 と A P C 遺 伝子 の変化 を, 悪性度 のた なお, T a b l e 7 に示す ご とく, 食道病変 においては診 断 のため に p 5 3 遺伝子異常 を, 悪 性度 予知 のた め に め に E G F / T G F α / E G F R お よ び ごつ わ の 過 剰 発 現 物タ サお よび K , 影物 を, ま た, ス キ ル ス予知 のため に, び‐ 過剰発現を, 転 移予知 のために cyclin D遺 伝子変化をそれぞれ解析す る。 胃病変では の変化 を, 転 移予知 のため に, n m 2 3 , カ ドヘ リン, カ テ エ ンお よび C D 4 4 の 異常 をそれぞれ解 析す る。大腸 EGF/TGF2/EGFRの 病変 の場合 には, 診 断 のため に, K ィ 俗, p 5 3 及 び A P C Table 8 胃 癌 症例 9 3 - 0 0 0 0 広 X 花 × 依 頼 1 9 9 3 . 6 . 1 5 回答 1 9 9 3 . 6 . 2 2 病理組織診断 : G r o u p V , p o o r l y d i r e r e n d a t e d adenocarcinoma,gastric biopsy 分子病理学的所見 t 過 剰発現 E G F ( 一 ) TCF2(十 ) ECF receptor(十卜 ) cripto(十) c‐ erbB、2(一 ) nm23(十 ) ) 発現異常 p53(十 遺伝子増幅 c‐met(x4) K・sam(一 ) 臨床的意義 : TCFα とECF receptorの 同時過剰発現 は,癌 の深 達 度,転 移 の程度 と相関 し,そ のような症例 は不 良な予後を 示す。 cripto(十 )は ,特 に生物学的悪性度 に関 して大 きな意 味は持たない。 nm23は ,発現量 の減弱を表 している。nm23の 発現 の低下 は,転 移能 の高 い癌 である可能性を示唆す る. p53(+)は ,p53遺 伝子に変異 のある可能性 の高いこと を示す. cometの 増幅 は,ス キルス型 胃癌 で しば しば認め られ る。 増幅を示す症例 は,な い症例に比 し有意に予後不良である. Table 9 大 腸腺腫症例 93-0000 広 ×太 × 病理組織診断 : 提出 日9 3 年6 月 2 2 日 回 答 9 3 年6 月 2 9 日 Group 3,Adenoma w■ h moderate atypia,colon,biopsy 分子病理学的所見 i発 現異常 p53(十 ,focal), CD44異 常転写産物 (+) 遺伝子変異 Kl‐ras(12,GGT→ AGT(Cly→ Ser)) 臨床的意義 : p53(十 ,focal)は ,一 部 の腫瘍細胞 において p53遺 伝子 に変異 のある可能性 の高 いことを示す。腫瘍 の悪性化 (潜 在能)を 知 るため,p53遺 伝子塩基配列 の検索 が必要であ る。 また,CD44の 異常転写産物の発現が見 られる. Ki‐rasの 点突然変異 は腺腫 が悪性度を増す に従 って,頻 度 が増加 し,癌 の約50%の 症例で認 め られ る. 以上か ら,本 症例は形態学的には腺腫ではあるが,一 部 で既に癌化 しているか,あ るいは癌化の可能性が極めて高 い症例であると見倣 される。 遺伝子 の異常 を, 悪 性度 のために, c つ わ, E G F R を 転移予知 のため に, n m 2 3 , C E A お , よび C D 4 4 を , そ れ ぞ れ 解 析 す る ( T a b l e 7 ) . T a b l e 8 は胃癌 症 例 の, T a b l e 9 は大腸 腺腫症例 の, そ れぞれ の 分子病 理診 断 の代表 的 な ものを示 してい る。加 えて, 広 島市 医師会 臨床 検 査 セ ンタ ーに お け る昨 年 度 の 消 化 管 体 数 は, 3 0 , 1 1 3 例であ り, そ の 内, 消 化管腫瘍 は5 , 2 4 5 例で あ る こ とを附記 してお く。 2 ) 癌 治療 に対す る新 しい アプ ローチ これ までの癌 の基礎 的研究 か ら, 癌 遺伝子蛋 白あ る いは増殖 因子 ・レセ プタ ー系 を タ ー ゲ ッ トとした 治療 法 の開発, 分 化療 法, 遺 伝子治療 な どが考 え られて い る. し か し, そ れ らに は実際面 を含めて い くつ かの大 きな問題 が あ る。最近, 我 々は, E G F R 遺 伝子 プ ロモ ー タ ーの G C r i c h s e q u e n c e s に 特 異的 に結合す る G C f a c t o r ( 以下 , G C F と 略 記) が , E G F R の み な らず 物 冴 遺伝子 の発現 を抑制 す る T G F ″ , I G F ‐I I および ご こ の で る とを明 らか にす る と と も に, 転 因子 あ 負 写 ー の オ トク リン増 殖 を示す 胃癌 細胞 TGF2/EGFR系 % クわθ 掬 お よび ″ 株 の増殖 が, C C F 導 入 に よ り, 筋 クケ Fig.4 Erect of 8‐ C卜cAMP on expression of TGF2,TGFβ 1 and GCF mRNAsby TMK‐ ふ ミドざごド 研 1懲 Kb ‐ 4.5 -3.0 TGFa l幸 48 守 韓 韓 襲 幸 車 章 TGFD 轟 ││‐ 懇響1蟹 ―‐ 2.5 │お 1994年3月 17(741) で 著 しい抑 制 を示 す こ とを見 いだ した 1つ 。 そ して 興 味 あ る点 は ,cAMP誘 導 体 で あ る cAMPが GCFの genes in human esophageal carcinomas Cancer Res 49: 5505--5508, 1989 発現 6)Jiang ヽ V, Kahn SM, TOmita N et al: を誘 導 し,TGF2の 発 現 が 抑 制 され ,増 殖 抑 待」が 起 き る こ とで あ る1。(Fig,4).我 々 は , これ まで に, 胃癌 細 胞 株 TMK‐ 1に8‐ Cl,cAMPを μMで AInpllFlcatiOn and expresslon Of the human cyclin D gene in esophageal cancer Cancer Res 添 加 す る と著 52 : 2980--2983, 1992 しい増 殖 抑 待」が 起 きる こ と,ま た8‐ Cl,cAMP処 理 後 , ユ ニ ブ サ 調節 ッ トRI″ と RIIβの 変 動 を見 る と,RIIβ 7 ) S a n o K a l i 8)Yokozaki H,Kuniyasu H,Kitadai Y et ali p53 point mutations in pFiFnary hunan gastric carcinomas 」 Cancer Res Clin Onc01 119:67 --70, 1992 癌 ,大 腸 癌 ,自 血 病 な ど多 くの ヒ ト癌 の 増 殖 も抑 制 す る2い 。 新 しい 癌 抑 制 遺 伝 子 の 1つ と見 な され る CCF 9)Kuniyasu H,Yasuiヽ ,癌 V,Kitadai Y et al: Fre‐ quent amplincation of the c‐ 物夕″gene in scirr‐ hous type stomach cancer.BiOchem Btiphy Res 治療 へ の 新 しい試 み と して 期 待 され る。 お わ りに Commun 189 1 227--232, 1992 以上 ,食 道 癌 , 胃癌 お よび大 腸 癌 に お け る遺 伝 子 異 10)Kuniyasu H,Yasui W,YokOzaki H et al: 常 とそ れ らを実 践 医療 に 導 入 した 分 子病 理 診 断 の 新 し A b e r r a n t e x p r e s s l o n O f ″冴 c‐ mRNA in human い戦 略 を紹 介 し, さ らに は ,癌 治療 に 対 す る新 しい ア プ ロ ー チ につ いて 概 説 した 。最 後 に ,1977年 ,AACR gastric carcinomas.Int J Cancer 55:72-75, 1993 1 1 ) T o h d o (American AssOciatiOn fOr Cancer Research)の Richard and Hinda Rosenthal FOundation A、 e t Res 51 : 2926--2931, 1991 下 ,CREと 略 記 )結 合 蜜 自が 増 加 す る こ とを 認 め て い 1り る 。 また ,8‐Cl‐ cAMPは 胃癌 のみ な らず ,乳 癌 ,肺 の 抑 制 を もた らす8‐ Cl‐ cAMPは T , Y o s h i d a and 17q in human gastric carcinomas Cancer が 早 期 に 核 へ 移 動 し,cAMP reponsive element(以 を誘 導 し,TGFα T , T s u j i n o loss of heterOzygOsity On chromOsOmes lq, 5q, vard L e c t u r e を 行 った , P a u l P . C a r b o n e 氏 の 文 章 , す な わ ち , 癌 の 診 断 ・治療 に は癌 の 基礎 研 究 者 と臨床 医 と の 共 同 作 業 の 必 要 性 を 強 調 し た “G o o d c l i n i c a l research is gOOd tumor biology"を 01用 した い21). 第42回 日本消化器外科学会総会で特別講演 の機会 を与 え H , H a r u m a 12)YOkOzaki H,Ito M,Yasui W et ali Bi010gic efFect of human hepatOcyte gro、 vth factOr On human gastric carcinOma cell lines.Int」 Onc01 3! 89--93, 1993 13)Marx J: New colon cancer gene discovered. Science 260 1 751--752, 1993 ていただいた会長,岡 島邦雄教授お よび座 長の労 を とって いただいた鈴 木宏志教授 に厚 く御礼を申 しあげ ます。 14)Peltomaki P,Aaltonen LA,Sistonen P et al: Genetic mapping Of a 10cus predisposing tO 文 献 1)Tahara E: GrOwth factOrs and oncogenes in human c010rectai cancer. Science 260: 810 --812, 1993 human gastrointestinal carcinomas J Cancer 15)Aaltonen LA, PeitOmaki P, Lcach FS et al: Res Clin Onc01 116:121-131, 1990 2)Tahara E: M01ecular mechanism Of stOmach Clues tO the pathogenesis of familial c010rectal cancer. Science 260:812--816, 1993 carcinogenesis 」 Cancer Res Clin Oncol l19: 265--272, 1993 3)YOshida K, Kuniyasu H, Yasui W et al: 16)Smith K」 ,JOhnson KA,Bryan TM et ali The ■PC gene product in nOmal and tumor cells. Proc Nati Acad Sci USA 90 1 2846-2850, 1993 Expressi9n of gro、vth factOrs and their rece‐ 17)Kitadai Y,Yamazaki H,Yasuiヽ ptors in human esophaeal carcinomasi regula・ tion Of expressiOn by epidermal growth factOr V et al: GC factOr represses transcriptiOn Of several groMァth factor/receptor genes and causes growth inhibi. and transfor■ling gro、 vth factor α J Cancer Res Clin Onc01 119 i 401--407, 1993 4)Ozawa S,ueda M,Ando N et all Prognostic tion Of human gastric carcinoma cell lines Cell Growth Differ 4 i 291-296, 1993 1 8 ) 田 原 策 一 : ヒ ト胃癌 の 発生 ・増 殖 ・ 進 展 一 分子病 理 ー ー ロ アプ チ 学的 . 日 病理 会誌 8 1 1 2 1 - 4 9 , 1 9 9 2 signillcance of epidemal eroWht Factor rece‐ ptor in esophageal squamOus cell carcinOmas Cancer 63 1 2169--2173, 1989 5 ) T s u d a T , T a h a r a E , K a j i y a m a ‐ incidence of cOampliflcation of サ ゐ 。 l and ″ 物サ 2 H , Y o k o z a k i gene mutations in gastric adenOmas Virchows Archiv B Cell Patho1 63:191-195, 1993 19)Takanashi A, Yasui W,Yoshida K et aL Inhibitory erect of 8‐ chlorO‐ cyclic adenosine 3′ , C e t 5′ a‐ l i H i g h On cell groM′ th Of gastric Inonophosphate carcinOma ce11 lines Jpn J Cancer 82 i K e t F 18(742) 分子生物学 か ら臨床 へ の提言 325--331, 1991 20) Yokozaki H, Tortora G, Pepe S et al: Unhydrolyzable analogues of adenosine 3' :5'monophosphate demonstrating gro$dh inhibition and differentiation in human cancer cells. 日消外会議 27巻 3号 Cancer Res 52:2504-2508, L992 21) Carbone PP: Tumor biology and clinical trials: The richard and hinda rosenthal foundation award lecture. Cancer Res 37 : 4239-4245, 1977 A Proposal from Molecular Biology to Clinic -Implication for Gastroinetstinal Cancer- Eiichi Tahara First Departmentof Pathology,HiroshimaUniversity Schoolof Medicine and gastric and colorectalcancerssharescharacteristicgeneticalterationsin oncogenes Each of esophageal, tumor suppressorgenes.We transferred these molecular data to clinical practice and madea new strategy of moleculardiagnosisof gastrointestinal cancer as a routine work which has started at Hiroshima City Medical AssociationClinical LaboratorysinceAugust this year.Webelievethat this strategymay contributenot only to the developmentof powerful diagnosisbut alsoto understandingof patient prognosisor therapeuticapproaches. Reprint requests: Eiich Tahara First Departmentof Pathology,HiroshimaUniversity Schoolof Medicine 1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima,734JAPAN │― ュ
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