XAFSによる工業材料中六価クロムの定量分析 - SPring-8

XAFSによる工業材料中六価クロムの定量分析
BL16B2
(株)東芝 研究開発センター
沖 充浩
電気・電子製品に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州RoHS指令における規制対象物質の
中で、六価クロムは唯一、価数による管理が求められており、その分析は容易ではない。化学分析法として、
熱水やアルカリ溶液による抽出方法が代表的な方法とされているが、高精度な分析手法は確立されていな
い。そこで今回、XAFSを用いた六価クロム定量手法について検討し、工業材料中に含まれる六価クロム量
の測定に適用した。六価クロム比率の異なる標準試料を数種類準備して、透過法による測定を行いCr-K
XAFSスペクトルを取得した。バックグラウンドはVictoreen式により補正し、総クロム量に対する六価クロム
比率とプレエッジピーク強度の関係を調べたところ、比例関係にあることがわかった。この関係を用いて、プ
レエッジピーク強度から六価クロム比率を定量することが可能であった。また、標準試料は蛍光収量法でも
測定を行った。蛍光収量法により得られたスペクトルのバックグラウンドは、指数関数を用いた計算式により
補正を行った。同様に、六価クロム比率とプレエッジピーク強度の関係を求めたところ、透過法により得られ
たものとほぼ一致した。つまり、指数関数を用いてバックグラウンドを補正することにより、蛍光収量法にお
いてもプレエッジピーク強度から六価クロム比率を算出することが可能となった。実試料として、亜鉛めっき
が施された鉄基板にイエロークロメート処理したものを準備した。この試料を蛍光収量法によりXAFS測定し、
プレエッジピーク強度から六価クロム比率を求めたところ、約29%となった。一方、化学分析により皮膜中の
総クロム量を測定したところ15.6 mg/cm2であった。これらをかけ合わせることによりクロメート皮膜中に含
まれる六価クロム量(約4.5 mg/cm2)を求めることが可能となった。
XAFSによる工業材料中六価クロムの定量分析
株式会社 東芝 研究開発センター 沖 充浩
© 2010 Toshiba Corporation
背景:欧州RoHS指令
RoHS*指令: 電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限指令
使用制限6物質:鉛(Pb), 水銀(Hg), カドミウム(Cd), 六価クロム(Cr 6+)
特定臭素系難燃剤(PBB, PBDE)
*Restriction on Hazardous Substances
六価クロム分析
・金属:熱水抽出・アルカリ抽出
・樹脂:アルカリ抽出
高精度な分析手法は
確立されていない
X線吸収微細構造(XAFS**)分析による定量分析手法を検討
**X-ray Absorption Fine Structure
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XAFS分析装置概略図(SPring-8 BL16B2)
透過法
スリット
試料
蓄積
リング
イオンチャンバー
イオンチャンバー
蛍光収量法
スリット
試料
蓄積
リング
イオンチャンバー
19素子SSD
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三価・六価クロム混合試料の測定
三価クロムおよび六価クロムを混合した試料を作製
Cr(VI)/Cr 比:0, 1, 2, 5, 10, 20, 40, 50, 60, 80, 100%
1.6
Intensity (Normalized)
1.4
Cr(VI)/Cr比
100%
80%
60%
50%
40%
20%
10%
5%
2%
1%
0%
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
5900
6000
6100
6200
6300
Photon Energy [eV]
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三価・六価クロム混合試料の測定(拡大図)
1.0
0.9
Intensity (Normalized)
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
Cr(VI)/Cr比
100%
80%
60%
50%
40%
20%
10%
5%
2%
1%
0%
0.1
0.0
5985
5990
5995
6000
6005
Photon Energy [eV]
六価クロム比率が大きくなると プレエッジピーク強度も大きくなる
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検量線(透過法)
プレエッジピーク高さを六価クロム比に対してプロット
Intensity / Normalized
1.0
0.8
0.6
0.4
y=0.0083x+0.0606
(R2=0.9979)
0.2
0
0
20
40
60
Cr(VI) ratio / %
80
100
・六価クロム比率とプレエッジピーク強度は ほぼ比例関係
・この関係を検量線として プレエッジピーク強度から
六価クロム比率を定量可能
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蛍光収量法におけるバックグラウンド補正方法の検討
x1
ROI
散乱X線のピーク形状がガウス分布に従うとすると
重なり部分は次式で表すことができる
(EI: 入射X線エネルギー)
x2
Counts for 30 sec. / -
2500
吸収端前 (5923 eV)
2000
吸収端後 (6073 eV)
1500
1000
散乱線
Cr-K
500
0
4500
5000
5500
6000
6500
7000
∫
x2
x1
⎧⎪ (x − EI )2 ⎫⎪
1
exp⎨−
⎬ dx
2
2
σ
⎪⎩
⎪⎭
2πσ
近似
(
f ( EI ) = a + b ⋅ exp cE I2 + dEI + e
)
X-ray Energy / eV
Cr含有試料の蛍光X線スペクトル
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エッジジャンプ前の強度から
最小二乗法により 係数a~eを求める
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ブランク試料での確認
Intensity / ×10
-3
8
Experimental
Calculated
6
4
2
0
5800 5900 6000 6100 6200 6300 6400 6500
Photon Energy / eV
測定結果と計算結果は非常に良く一致した
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検量線(蛍光収量法)
Intensity / Normalized
1.0
0.8
0.6
0.4
y=0.0085x+0.0552
(R2=0.9971)
0.2
0
0
20
40
60
Cr(VI) ratio / %
80
100
透過法による検量線とほぼ一致
→蛍光収量法でも六価クロム比率を定量可能
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実サンプルの測定
イエロークロメート処理鉄基板を測定
Fluorescence Yield (Normalized)
0.6
0.5
0.4
六価クロム比率
抽出前:29%
熱水抽出:13%
LiOH抽出:<2%
クロメート皮膜中の六価クロム量
→ 15.6 × 29% = 4.5 μg/cm2
抽出前
化学分析における抽出率が算出可能に
0.3
熱水抽出
0.2
0.1
LiOH抽出
0.0
5985
クロメート皮膜を酸により溶解し
ICP-AESにより総クロム量を測定
→15.6 μg/cm2
5990
5995
6000
熱水抽出による六価クロム抽出量
→ 2.6 μg/cm2 (抽出率:58%)
LiOH抽出による六価クロム抽出量
→ 4.4 μg/cm2 (抽出率:98%)
Photon Energy [eV]
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まとめ
XAFSを用いた六価クロム定量方法について検討を行った
・透過法による測定から 六価クロム比率とプレエッジピーク強度はほぼ比例する
・蛍光収量法により得られたスペクトルのバックグラウンド補正式を提案
→ブランク試料で実測値と非常によく一致することを確認
→六価クロム比率による検量線が透過法により作成したものと一致
・化学分析と組み合わせることによりクロメート皮膜中の六価クロム量の定量が可能になった
→化学分析における抽出率の評価が可能になった
→化学分析結果との相関を確認
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