タイの30バーツ医療保障制度 実施における現状と課題

JICA公開セミナー
「タイ30バーツ医療保障制度
~途上国におけるソーシャル・セーフティーネットの整備と国際協力」
タイの30バーツ医療保障制度
実施における現状と課題
公共経営・公共政策部 保健・医療・福祉グループ
岩名 礼介
©20060427 IWANA, Reisuke
30バーツ医療保障制度
• UC(Universal Coverage)政策の一環
(管轄:NHSO:国民医療保障
庁)
– 30バーツ医療制度≒UC政策≒「国民医療保障制度」の意味
– 2002年タクシン政権下で誕生
– 普遍的カバレッジを達成(人口の約75%をカバー)
– キーワードは「普遍化・統一化」「費用コントロール」「マネジメント」
• 財源と支払方式
– 財源:自己負担金30バーツと一般税
(ただし加入者の約半数は自己負担免除)
– 予算配分:
• 各県のゴールドカード所有者をもとに人頭払い方式で予算配分決定
各病院の担当エリア内のゴールドカード所有者数に一人あたり単価
(1,308.54バーツ/人)を乗じて算出
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→
タイ政府の基本的な方向性
• 国家保健医療開発計画(2002-2006年)
①
積極的な健康施策の展開
→プライマリケアユニット(PCUの強化)
②
普遍的なアクセスの保障
→30バーツ制度に結実
③
マネジメントシステムの構造的改革
→加入者登録システム/審査支払システム/タイ版DRG
④
保健医療にかかわる社会セクターの強化
→村保健ボランティアの導入
⑤
保健医療に関する研究と知性のマネジメント
→支払方式に関する研究
⑥
新システムに対応できる人材の育成
→国民医療保障庁の創設/民間組織に改組
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30バーツ医療保障制度(UC政策)
• UC政策の6原則
①
②
③
④
⑤
⑥
プライマリケア活用の促進
クローズドエンド型の支払方式の採用
認定制度による医療の質の確保
標準給付パッケージとそれに基づく支払方式の採用
既存保険基金の統合
基金運用の県への分権化
保健省「最終的には現行3制度の
国民健康保険制度への統合を視野に」
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タイの医療制度における反省と変革
•
•
•
•
CSMBSにおける医療費の加速度的な増加
ヘルスカードにおける普遍的カバレッジの失敗
財政的根拠なきバラマキ医療
大病院にアクセスが集中する高コスト体質
• UC(普遍的カバレッジ)政策の徹底
– 管理運営面での他制度の統合も視野に入れる
– 無保険者の発掘/加入者システムを重視
•
•
•
•
費用抑制的な医療制度(人頭払い方式+DRG)
レファーラルシステムの徹底(プライマリケア型)
クローズドエンド型予算制度の導入
地方分権化(1997年憲法・1999年地方分権法)
– 緩やかな分権(NHSOの地方事務所)
– 入り組む所掌/再編の波
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「普遍化・統一化」「費用コントロール」「マネジメント」
• 財政マネジメントを伴うコントロール可能な医
療保障制度
• 効果的なUCを達成し、費用抑制を可能にする情
報マネジメントシステムの構築
• 医療保障制度の統一化にむけた基幹制度
– 医療提供者の多様性→レファーラルシステムによる
整理
– 医療保障制度の多様性→マネジメントの統一による
国民医療保障制度の構築
– 医療サービス購入者と提供者の明確化
• 省庁の縦割り行政をブレイクスルーするためのNHSO
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保健・医療の提供体制
– 県レベル:広域病院・総合病院 (Regional・General
Hospital)
– 郡レベル:地域病院 (Community Hospital)
⇒CUPとして位置付け(同時にCPUの一つ)
– タンボンレベル:ヘルスセンター (Health Center)
⇒PCUを構成する一次医療機関
– 村レベル:村保健ボランティア
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保健・医療における医療機関と行政機関
保健医療提供主体
保健医療行政体
広域・総合病院
保健省(MOPH)
二次医療以上
地域病院(comm.)
一次医療+二次医療
ヘルスセンター
一次医療
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国民医療保障庁(NHSO)
県保健医療事務所(PHO)
郡保健医療事務所(DHO)
人頭払い方式(Capitation)による運営
<<サービス購入者>>
県保健医療事務所(PHO)
NHSO
国民医療保障庁
地域病院
PHO
PHO
人頭払いによる予算の
配分(エリア内登録者
数×一人あたり予算)
人頭払いによる予算の
配分(エリア内登録者
数×一人あたり予算)
地域病院
地域病院
ヘルスセンター
ヘルスセンター
PCU(primary care unit)
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CUP(一次医療契約ユニッ
ト)
ヘルスセンター
PHO
30バーツ医療制度の予算(Capitation)
2003
2004
2005
2006
外来
574
488.18
533
585.11
入院
303
418.36
435
460.35
予防・健康増進
175
206
210
224.89
-
10
7.07
7.00
高額医療
32
66.3
99.48
190.0
事故・緊急対応
25
19.7
24.73
52.07
83.4
85
76.8
129.25
10
10
6
6
5
0.2
0.53
-
-
4
4
1202.4
1,308.54
1,396.3
1,659.2
遠隔地
資本修繕等
救急サービス
無過失責任
障害者リハビリ
合
計
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(参考)30バーツ医療保障制度の支払方式
通称
名称
モデル
1
包括モデル
モデル
2
分割モデル
モデル
3
相対係数
モデル
予算配分方式
入院
外来
すべて人頭払い
DRG-MX
人頭払い
特徴
特に関連のあるシステム
すべての予算は人頭
払い方式で配分
加入者登録システム
入院外来で
支払方式を分割
加入者登録システム
診療報酬管理システム
DRG の相対係数を
RW<0.5=人頭
加入者登録システム
人頭払い 用いて支払方式を分
RW>0.5=DRG
診療報酬管理システム
割する方法
資料)公的医療保障制度構築支援プロジェクト事前評価調査団(2002)タイ王国における医療保険制度運
用システムに関する調査報告書、国際協力事業団
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加入者登録の仕組み(制度発足時)
国民医療保障庁(NHSO)
加入資格承認(DB)
VPN
県保健医療事務所(PHO)
Dial Up またはCD-Rom
加入資格確認(Web)
地域病院(CUP)
加入資格確認
(WebまたはStand-alone PC)
ヘルスセンター・地域病院(PCU)
申請書提出
加入希望者
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加入者情報システムの構成
労働社会福祉省
社会保障局
被用者社会保障制度DB
内務省
全国民データベース
財務省
公務員医療
給付制度DB
毎月のデータ更新・送信
その他
服役者・外国居住者
・地方公務員など
オラクル社製
加入者データベース
コールセンター
保健省医療保険庁
WEBシステム
VPN
県保健医療事務所(PHO)
Internet
Dial-Up
データの流れ
医療機関
(CUP)
医療機関
(CUP)
データ参照
資料)公的医療保障制度構築支援プロジェクト事前評価調査団(2002)タイ王国における医療保険制度運
用システムに関する調査報告書、国際協力事業団
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医療機関と行政機関のねじれ現象
保健医療行政体
保健医療提供体制
広域・総合病院
地域病院(comm.)
保健省管轄
ヘルスセンター
内務省・郡知事管轄
クリニック(診療所)
民間
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保健省(MOPH)
国民医療保障庁(NHSO)
保健省傘下の独立民間機関
ただし、保健省の利害を代表しない
基本は3制度の利害代表機関
県保健医療事務所(PHO)
保健省管轄
郡保健医療事務所(DHO)
内務省・郡知事管轄
具体的な「ねじれ現象」の例
国民医療保障庁
保健省MOPH
内務省
NHSO
県保健医療事務所
PHO
国民医療保障庁地域事務所
県知事
NHSO-RO
一次契約病院(地域病院)
CUP
郡知事
郡保健医療事務所
一般保健施策
30バーツ医療保障制度の
財源
本来の形?(RO型)
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DHO
ヘルスセンター
Health Center
機関のねじれ現象による問題
• PHOの本来業務は公衆衛生から母子保健など多岐にわ
たっているが、現在はUC政策の運営機関を代行してい
る。
• 本来PHOは、サービスの購入者(Purchaser)として中
立のはずだが保健省管轄の医療機関に優先的に予算配分
する傾向あり(不適切な人頭払い)。
– 結果、NHSOの地域事務所開設の必要性が高まる。
• PCUを組成するヘルスセンターと地域病院は主管官庁が
異なる。
– 効果的な地域医療の提供が可能か?
• PHOやヘルスセンターは一般保健の機能も担っているた
め医療制度運営のための専従機関ではない。
• UC制度のP&Pと一般保健事業としてのP&Pの重複によ
©20060427る非効率
IWANA, Reisuke
従来型の仕組み
<<サービス購入者>>
県保健医療事務所(PHO)
NHSO
国民医療保障庁
地域病院
PHO
PHO
人頭払いによる予算の
配分(エリア内登録者
数×一人あたり予算)
人頭払いによる予算の
配分(エリア内登録者
数×一人あたり予算)
地域病院
地域病院
ヘルスセンター
ヘルスセンター
PCU(primary care unit)
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CUP(一次医療契約ユニッ
ト)
ヘルスセンター
PHO
地域事務所の設立による効果
<<サービス購入者>>
地域事務所(NHSO-RO)
NHSO
国民医療保障庁
RO
RO
地域病院
地域病院
地域病院
ヘルスセンター
ヘルスセンター
PCU(primary care unit)
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CUP(一次医療契約ユニッ
ト)
ヘルスセンター
RO
地域事務所(Regional Office)の展開
• PHOに見切りをつける!
– 中央データベースへの照会・資格審査を含めた加入者登録業務
全般
– ゴールドカードの発行
– CUPとの契約(独立法人のNHSOは中立の立場であらゆる官庁
に属する医療機関と公平に契約を結ぶ)
– 医療機関の認証、評価など
– P&P(予防健康増進事業)における財源確保に関して地方自治
体と提携
– 財源管理/費用分析/評価/サービス利用分析
– 品質管理/苦情処理
– 利害関係者間の調整
– 医療機関検査(財務検査/コーディング検査/品質検査)
– 償還払い支援/償還分析
– パブリックリレーション
• バンコク(2002)、コンケン(2004)、その他順次
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医療保障制度における課題
• 制度開始時点での課題
– 登録システムと支払システムの改善
• 県を越えた受診(フリーアクセス化)
• データの信頼性→支払業務負荷の軽減
– システム開発・業務運営のノウハウ
• 課題解決にむけた障壁
– 財政の安定化
– 人材の育成課題は現在も大きな課題
– フリーアクセス化は困難
• 一時的制度としての30バーツ制度か?
– 将来像の見えない国民健康保険制度(タクシン政権後は?)
– 財政面における持続性(いずれは100バーツ制度?)
• NHSO地域事務所VS県保健医療事務所
– 電算化推進による「中抜き」
– コミュニティー病院の役割拡大←電算化
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本当の国民医療保障制度を実現するために
• 他の医療保険制度との統合は一旦見送られたも
のの、現在は再び検討されている。
• 2004年1月19日には「医療保険開発調整委員
会」が発足。
– 開発のための調整、各保険のモニタリング
• 給付パッケージ、受給資格の重複、支払方式、ケアの質、医
療機関の質、ポータビリティー
– 情報基盤の確立とMIS(情報管理システム)の共同開
発
– 診療報酬審査支払システムの共同開発/など
• システムのハーモナイゼーションを中心に作業
部会も発足。
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