第 3 章 乳製品のはなし 〜チーズ・バター・ヨーグルトについて〜 乳製品とは、 チーズ、 バター、ヨーグルト、クリーム、 練乳、アイス クリーム、粉乳、乳酸菌飲料などの総称です。 生乳や牛乳は、加工することによって「固まる」「粉になる」など形態が 変化し、また乳酸菌などを活用することで品質を高め栄養機能性を強化 することが可能です。こうした特徴を生かして、 食品をはじめとするさま ざまな乳製品が作られ、私たちの生活を豊かにし、いろいろなものに利用 されています。 この章では、 乳製品それぞれの概要と、 最も身近な乳製品であるチー ズ・バター・ヨーグルトについて、 その種類・特徴・製造方法・栄養など について解説します。 第3章 乳製品のはなし 41 第1章 I 1 乳製品の種類 乳製品とは 第2章 第3章 変化します。また、乳酸菌などの活用 まな研究が進められ、バラエティに富 によって栄養機能性が高まります。乳 んだ多くの製品が生産されています。 チーズ、バター、ヨーグルト、クリーム、 製品は、このような乳の特徴を最大限 それら製品は食べ物だけでなく、牛 練乳、アイスクリーム、粉乳、乳酸菌 に生かして作られています。 乳に含まれるたんぱく質を利用した接 飲料などを乳製品と呼んでいます。 もともと乳製品は自然の力や偶然か 着剤や、プラスチック・繊維・家畜用 生乳や牛乳は加工することによって ら生まれたものですが、私たちの食卓 の飼料などもあり、私たちの豊かな生 「固まる」 「粉になる」など、さまざまに がより豊かに彩られるよう現在もさまざ 活に非常に役立っています。 さまざまな乳製品 生乳から生まれるいろいろな乳製品 牛 乳 加工乳 第4章 乳成分で調整 接着剤 苛性ソーダ で溶解 溶解後 重合 殺菌 Q&A 第3章 乳製品のはなし 乳製品、砂糖、 香料など 乳酸菌などで 発酵 ヨーグルト 乳酸菌などで 発酵、熟成 チーズ 殺菌、 遠心分離 ホエー パウダー 42 乳成分以外で 調整 ホエーを乾燥 プラス チック 単離 生 乳 溶解後 紡糸 カゼイン 第5章 繊維 乳飲料 乳 糖 クリーム 攪拌 脱脂乳 乾燥 アイス クリーム バター 脱脂粉乳 (スキムミルク) 2 乳製品の種類と特徴 チーズ レンネット (子牛の胃からとった乳を 固める酵素)やスターター(乳酸菌)を ます。 しないので苛性ソーダ(アルカリ)を少 アイスクリーム 牛乳に加え、カード (カゼインの固まり) 牛乳や生クリームに砂糖、乳化剤、 とホエー(水分)に分離させ、ホエーを 香料などを加え、低温でホイップして 取り除いたものです。熟成することによ 固めたもの。16世紀の初めにイタリア り、おいしさと栄養機能が高まります。 で作られた氷菓子がアイスクリームの チーズ1kgを作るのに、その約10〜 始まりといわれています。 14倍の牛乳が必要になります。 しずつ加えていくと、ドロドロの糊状の カゼインナトリウムに変化します。それ が強固な接着剤になります。 ホエー製剤 生乳からチーズを作る過程でできる ホエーを濃縮して粉にしたもの、ある 粉乳 バター び水に溶かします。そのままでは溶解 いはホエーをろ過して水分と分け、残っ た濃縮物を粉にしたもの。乳糖を単離 牛乳から水分や脂肪を取り除くと粉 したりたんぱく質含量を高めて34%と 生乳などから作ったクリームを攪拌 になります。水分だけを取り除いたも したWPC30は脱脂粉乳の代替品とし し、脂肪粒を集めて練圧したもの。ク のを全粉乳、水分と脂肪を取り除いた て、また90%にまで高めたWPI90は リームを攪拌すると、脂肪球皮膜たん ものを脱脂粉乳(スキムミルク)といい 卵白の代替品として広く食品に利用さ ぱく質に包まれた脂肪球がぶつかり合 ます。その他、育児用の調製粉乳もあ れています。また、子牛のミルクや牛 い、その結果、膜が破れて脂肪球同 ります。 の飼料に混ぜて使っています。 士が集まって固まります。白い牛乳が バターになると黄色味を帯びるのは、 脂肪球に含まれるビタミンB( 6 リボフラ 練乳 ビン)の色のためで、もともとは牛の餌 牛乳を濃縮したもの。砂糖を加えた である牧草にカロテンの形で含まれて ものをコンデンスミルク、加えないもの います。 をエバミルクといいます。18世紀末に イギリスで作られたのが始まりといわれ ヨーグルト 牛乳などに乳酸菌や酵母を加えて発 酵させたもの。ヨーグルトには、よく知 ています。 乳酸菌飲料 られている整腸作用のほか、コレステ 牛乳などを乳酸菌や酵母で発酵さ ロールの抑制、抗がん作用など生活習 せたものに、砂糖や香料、果汁などを 慣病の予防に役立つ働きがあります。 加えて作ります。 クリーム 接着剤 生乳の中にある脂肪球が集まったも 生乳に希塩酸を加えることで、生乳 の。工場では生乳を遠心分離して作り 中に含まれるカゼインが沈殿します。そ ます。通常、生クリームといわれてい れを精製して粉にし、取り出して、再 第3章 乳製品のはなし 43 第1章 II 1 チーズについて チーズの種類 第2章 チュラルチーズを製造する工場(工房) チーズの種類は1,000以上 が増えています。 チーズはたいへん永い歴史のある食 プロセスチーズ 1種または数 種 類のゴーダやチェ 品です。フランスに 「1村に1チーズあり」 ナチュラルチーズ という言葉があるように、それぞれの ダーなどのナチュラルチーズを粉砕、 加熱溶融して乳化し、成型包装したも 第3章 第4章 土地に地方色豊かなチーズがあり、世 乳を乳酸菌発酵とレンネット (凝乳 のです。加熱により発酵熟成が止まる 界中には1,000種類以上あるといわれ 酵素)の働きでカゼインを豆腐のように ので、ナチュラルチーズに比べて風味 ています。 固め、水分を減らしたものです。多く が一定し、保存性が高くなるなどの利 チーズを大別すると、ナチュラルチー の場合、熟成させて作ります。乳酸菌 点があります。 ズとプロセスチーズの2つに分けられま が生きており、熟成とともに風味が変 香辛料などを加えたり、スライス、 す。日本では長期間の保存がきくこと わるので“ 食べ頃”があります。 6P、スティックなど、嗜好性と用途に から、かつてはプロセスチーズが主流 ナチュラルチーズは原料乳の種類、 応じて多彩な製品が作られています。 でした。近年は海外からさまざまな種 製造方法、使用される微生物、生産 類のナチュラルチーズが輸入され、親 地の風土などによって、特有の味や外 しまれるようになったため、国内でもナ 観、組織を持つようになります。 チーズの種類 熟成させないもの(フレッシュタイプ) ●カッテージ ●モッツァレラ など 第5章 軟質 チーズ ●クリーム ●マスカルポーネ ナチュラル チーズ Q&A プロセス チーズ 44 第3章 乳製品のはなし 硬質 チーズ 超硬質 チーズ ●ブリー など 細菌による熟成(ウォッシュタイプ) ●ポン・レヴェック ●リンバーガー ●マンスティール など 熟成させるもの 山羊乳のチーズ(シェーブルタイプ) ●ヴァランセ ●サント・モール ●シャビシュー・デュ・ボワトー など 半硬質 チーズ チーズ カビによる熟成(白カビタイプ) ●カマンベール カビによる熟成(青カビタイプ・ブルーチーズ) ●ゴルゴンゾーラ ●スティルトン ●ロックフォール(羊乳) など 細菌による熟成 ●エメンタール ●エダム など 細菌による熟成 ●チェダー 細菌による熟成 ●パルミジャーノ・レッジャーノ ●ロマノ ●スプリンツ など ●ゴーダ ●マリボー ●サムソー など 2 ナチュラルチーズについて さまざまなナチュラルチーズ したものです。食べても害がないばか 青カビタイプ りでなく、チーズの中のたんぱく質や脂 青カビは内部に青緑色の大理石状 「国境を越えればチーズが変わる」と 肪を分解し、独特の風味や組織を作り の縞模様を作り、ピリッとした鋭い刺 いわれるように、ナチュラルチーズは種 出すのになくてはならないものです。 激性のある風味が特徴です。他のチー ズと違い、中心から外側へ熟成が進 類が多く、日本でも80ヶ所以上で国 産ナチュラルチーズが作られています。 白カビタイプ みます。ペニシリウム属のロックフォル ナチュラルチーズの分類方法はいろい チーズの表面に白カビを植えつけて ティを利用したフランスのロックフォー ろですが、硬さや熟成方法によって分 熟成させます。カマンべール、ブリー、 ルや、イタリアのゴルゴンゾーラ、イギ けると下の表のようになります。 馬蹄形のバラカなどのチーズがその代 リスのスティルトンは3大ブルーチーズ 表です。 として有名です。 いずれもたんぱく質を分解する力の これらの有用なカビとは別に、家庭 強い白カビが、表面から中心に向かっ の冷蔵庫で保存中に表面に生えてしま カビには有害なものだけでなく、役 て熟成させていき、表面は白いカビで う黒やオレンジ色のカビがあります。こ に立つものもあります。カマンべール、 覆われ、内部は黄色がかったクリーム のカビはチーズ本来の品質や風味を低 ブルーチーズはカビを利用した食品の 状になります。 下させます。目に見えないカビの胞子 代表です。 カビの種類は、ペニシリウム属のカ が中まで入っていることもあるので、こ これらのチーズに利用されるカビは、 マンべルティやカゼイコラムなどが使わ れらの新たなカビの生えたチーズは食 ペニシリウム属という種類で純粋培養 れています。 べないでください。 カビを利用したチーズ ナチュラルチーズの種類と特徴 硬さ タイプ 熟成方法 特徴 代表例 フレッシュ 非熟成 乳に酸や酵素を加えて凝固させ水分を抜いたもので、熟成させな いチーズ。ソフトで軽い酸味があり、さわやかな風味。 カッテージ、 モッツァレラ、 クワルク、クリーム 白カビ カビ熟成 白カビを表面に繁殖させ熟成。たんぱく質を分解する力の強い白 カビが、表面から中心部に向かって熟成させる。 カマンベール、ブリー、 バ ラカ、ブリヤ・サヴァラン ウォッシュ 表面洗浄 細菌熟成 表皮を塩水や土地の酒(ワインやビール)で洗いながら、 チーズ の表皮についている特殊な菌で熟成。匂いが強烈なものが多い。 ポン・レヴェック、 マンス ティール、リヴァロ シェーブル カビ熟成 (山羊乳) 細菌熟成 山羊乳で作るチーズの総称。 山羊乳特有の風味がある。フレッ シュからハードタイプまであり、熟成が進むと香りも味も濃くなる。 ピラミッド、 バノン、ヴァラ ンセ、サント・モール カビ熟成 青カビをカードに混ぜ、 中から熟成させる。独特の青カビの風味 がある。よく熟成したものは強烈な風味があり、味も濃厚。 ロックフォール、 ゴルゴン ゾーラ、スティルトン セミハード 細菌熟成 比較的硬く、チーズの中でも保存のきくタイプ。熟成期間や大き さ、脂肪の量などもさまざまで最も種類が多い。味はマイルド。 ゴ ーダ、 マリボ ー、 サ ム ソー・コンテ、 ラクレット、 カンタル 細菌熟成 かなり強く圧搾して水分を抜き、 熟成期間も長く長期保存ができ る。深い味わいとコクがあり、 そのまま食べるほか、 料理にも幅 広く利用される。 エメンタール、グリュイエー ル、エダム、チェダー 細菌熟成 1年から2年以上じっくり熟成させて作る最も硬いチーズ。長く熟 成させたものほど風味が豊かになる。おろして粉末にし、 料理に も利用される。 パルミジャーノ・レッジャー ノ、ロマノ 軟質 青カビ 半硬質 硬質 ハード 超硬質 第3章 乳製品のはなし 45 フレッシュチーズ マスカルポーネ クリームを加熱しながら酸で凝固さ ホエーたんぱく質チーズ 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 ナチュラルチーズの一種で、熟成し せて作ります。クリーミーなおいしさで、 乳のホエー成分から抽出されたたん ていないものを一般にフレッシュチーズ 菓子類によく使われます。ティラミスに ぱく質を含むチーズです。 と呼びます。 使われるチーズとして知られています。 リコッタ チーズを作る工程は、まず乳を乳酸 クワルク チーズを作るときに出るホエー(乳 菌で発酵させレンネット (凝乳酵素)で ヨーグルトに似たクセのないおだや 清)を、再度加熱凝固させて作ります。 固めます。そして固まった乳(カード) かな味わいが特徴です。ドイツではポ 見た目も感触も豆腐によく似ていて、 からホエー (乳清) を除きます。その後、 ピュラーなチーズで、脂肪が少なく、 乳の持つほのかな甘味が感じられます 他のチーズは熟成させますが、フレッ そのまま食べたり、デザート、ケーキ、 (日本では2005年10月から法令上の シュチーズは熟成を行いません。水分 ドレッシングなど、さまざまな料理にも 種類別名称が「乳または乳製品を主要 が多くやわらかく、味や匂いにクセが 使われています。 原料とする食品」 に変更されました) 。 ないので、そのまま食べることが多い フロマージュ・ブラン のが特徴です。代表的なものを次に紹 フランスではポピュラーなチーズで、 介します。 “ 真っ白なチーズ”という意味です。牛 カッテージチーズ 乳に凝乳酵素を加えて固め、水分を 牛乳(脱脂乳)を乳酸菌で発酵させ 切っただけのチーズです。パンにぬっ て固めます。粒状タイプと裏ごしタイプ たり、甘味を加えてデザートとして使わ があります。脂肪が少ないのであっさり れます。 しています。 フェタ クリームチーズ 本来は羊の乳で作りますが、今は牛 生乳を乳酸菌発酵とレンネット凝固 乳が多くなっています。保存性を保つ させ、クリームを加えて作ります。口あ ために塩水や香辛料入りのオイルに漬 たりはなめらかで、ほのかな酸味があ けてあり、塩味が強いのが特徴です。 ります。比較的脂肪が多いチーズです。 ギリシャの代表的なチーズで2000年 パンにぬったり、チーズケーキに使わ 以上の歴史があり、サラダなどに使い れます。 ます。 モッツァレラ バノン 本来は水牛の乳から作りますが、現 本来は山羊乳で作りますが、現在 在は牛乳が主流になっています。見た は牛乳が主流です。栗の葉で包んであ 目は豆腐によく似ていて、モチッとした り、独特の風味があります。 食感があります。酸化を防ぐため水に 漬かった状態で売られているものが多 く、オードブルやサラダに、加熱すると よくのびるのでイタリアンピザなどに使 われています。 Q&A 46 第3章 乳製品のはなし 3 チーズの製造方法 ナチュラルチーズの作り方 ます。 プロセスチーズの作り方 ④撹拌・加熱 牛、山羊、水牛などの乳に乳酸菌と 静かに撹拌し、徐々に温度を上げま 1〜数種類のゴーダやチェダーなど レンネット (凝乳酵素)を加え、固めて す。カードが収縮して弾力のある組織 のナチュラルチーズを原料に、乳化剤 作ります。 になります。 を加えて加熱しながら作ります。 ①加熱殺菌 ⑤型詰・圧搾 ①原料チーズ それぞれのプロセス 原料乳を低温条件で加熱殺菌しま カードを型に詰め、圧搾機にかけて チーズに合わせて、原料のナチュラル す。 (63℃で30分または、72℃で15 ホエーを搾り出します。 チーズの種類を選び量を決めます。 〜40秒) ⑥加塩 ②粉砕 ナチュラルチーズを細かく砕 ②乳酸菌・凝乳酵素添加 風味を良くし、雑菌の繁殖を抑えて いて配合します。 スターターとしての乳酸菌を加え、レ 正常に発酵させるため、食塩水に漬け ③加熱・溶融 75〜120℃で加熱し ンネット (凝乳酵素)を加えて凝固させ たり、塩をすり込んで加塩します。 ながら乳化剤(リン酸ナトリウムなど)を ます。固まったものをカードといいます。 ⑦熟成 加え溶かします。 ③カード切断 各チーズに適した温度、湿度、期 ④型詰 熱いうちに型に流し込みます。 カードを切断することで表面積が大 間で熟成させます。熟成により独特の ⑤冷却 冷やして固めます。 きくなり、ホエー(乳清)が出やすくなり 風味が生まれます。 4 チーズのスターター スターターに使われる微生物 乳酸菌スターター 乳酸を作る菌と風味を作る菌に分けら れ、チーズの種類によって表に示した チーズを作るときにスターターとして 乳酸菌の持っている作用は、乳中の ような複数の乳酸菌を組み合わせて使 使われる微生物には、乳酸菌とカビが 乳糖を分解して乳酸を生成しpHを低 われます。 あります。乳酸菌スターターは乳酸を 下させることによって、次のような働き 生成し、たんぱく質を分解して風味を をします。 出します。カビスターターは、カビを ①レンネットの凝乳作用を助ける。 (乳 利用するチーズを作るときに乳酸菌ス 酸) ロックフォール、ゴルゴンゾーラ、ス ターターとともに使われます。たんぱく ②カード粒の結着を強め、ホエー(乳 ティルトンなどは青カビ(ペニシリウム・ 質や脂肪を分解し、特有の風味や組 清) を排出しやすくする。 (乳酸) ロックフォルティ) 、カマンべール、ブ 織を作り熟成を進める働きがあります。 ③有害微生物の増殖を防ぐ。 (乳酸) リーなどは白カビ(ペニシリウム・カマ チーズ製造に用いられる主要な乳酸菌の種類 主に酸を 生成するもの ラクトコッカス・ラクチス ラクトコッカス・クレモリス ストレプトコッカス・サーモフィルス 主に風味を 生成するもの ロイコノストック・メゼンテロイデス ラクトコッカス・ジアセチルラクチス ラクトバチルス・デルブルッキイ カビスターター ④熟成中には、主に ンべルティ)が使われています。青カビ たんぱく質を分解し、 は脂肪とたんぱく質の分解力が強く、 特有の味や香りなどを チーズの内部でも生育し、特有の味と 作り出す。 (酵素) 香りを作り出します。白カビはチーズの 乳酸菌の種類に 表面のみで生育し、主にたんぱく質を よって酵 素の量や強 分解して熟成を進めます。 さは異なり、主として 第3章 乳製品のはなし 47 第1章 5 チーズの凝乳酵素 凝乳酵素の種類 発酵生産キモシン 大量生産が可能なため、価格が安い のですが、たんぱく分解活性が強く、 第2章 チーズの凝乳酵素には、動物、微 子牛の第4胃で生産されるキモシン 子牛のレンネットより苦味が出やすい 生物、植物からのものがあります。 の遣伝子を、微生物(大腸菌、酵母、 のが欠点です。 凝乳酵素はたんぱく質のカゼインに カビ)に組み込んで酵素を作ります。で 働いて乳を凝固させ、熟成中にたんぱ きた酵素はキモシン100%のため、チー く質を分解し、組織や風味を生成する ズの品質改良や収量増加が期待できる 働きをしています。 といわれています。バイオキモシン、遺 イチジクのフィシン、パパイヤのパパ 伝子組換えキモシン、リコンビナントキ イン、パイナップルのブロメラィンなど モシンとも呼ばれます。 のたんぱく質分解酵素には凝乳作用が 動物に由来するもの (子牛レンネット) 第3章 生後10〜30日の子牛の第4胃から 得られるレンネット (凝乳酵素)で、キ あります。宗教上の理由で牛の胃由来 微生物に由来するもの (微生物レンネット) 第4章 モシン88〜94%、ペプシン6〜12% 1960年代、原料の子牛の胃が不足 が含まれます。 したことから代替物として使われ始め、 子牛が母乳以外の飼料を食べるよう カビに属するリゾムコール・ミィハイ、 になると、キモシンは減り、ペプシン、 リゾムコール・プシルスが使われてい ペプチターゼなどの消化酵素を多く分 ます。 泌するようになります。 微生物レンネットは、タンク培養で 第5章 Q&A 48 第3章 乳製品のはなし 植物に由来するもの (植物レンネット) のキモシンを使えないインドなどでは、 古くから研究が行われています。一般 に風味は淡白ですが苦味が出ます。 6 チーズの栄養 ムチーズのように多いものから、カッ 消化吸収しやすくなっています。 テージチーズのように少ないものまであ 脂質 チーズは、牛乳から水分を除いて栄 ります。 他の食品より消化吸収が良く、吸 養成分を固めたものです。100gのチー チーズは、水分とともに乳糖が製造 収率は95%以上と考えられています ズ作るのに、およそ10〜14倍の牛乳 中にほとんど除かれるので、牛乳を飲 が使われ、栄養豊富な食品であること むとおなかがゴロゴロする乳糖不耐症 ビタミン がわかります。 の人でも大丈夫です。 ビタミンAやB2が豊富に含まれてい 豊かな栄養 (P.56参照) 。 ナチュラルチーズは、原料乳や製造 ます。摂りにくいB2の有効な供給源に 方法などによってさまざまな種類があ なります。 チーズの栄養成分 り、それぞれ栄養成分にも違いがあり カルシウム ます。パルメザンチーズなど水分の少 たんぱく質 たんぱく質と一緒に存在するため、 ないものには、たんぱく質、カルシウム 熟成中の乳酸菌の働きにより、一部 小魚などのカルシウムに比べて、吸収 が多く含まれています。脂肪は、クリー はアミノ酸にまで分解されているので、 率が高いのが特徴です。 チーズの栄養(100g 中) 種類 エネルギー たんぱく質 炭水化物 ビタミンA ビタミンB2 食塩相当量 水分(g) 脂質(g) (mg) (g) (kcal) (g) (g) (μg) 名称 硬質 ナチュラル チーズ パルメザン 475 15.4 44.0 30.8 1.9 240 0.68 3.8 ゴーダ 380 40.0 25.8 29.0 1.4 270 0.33 2.0 ブルー 349 45.6 18.8 29.0 1.0 280 0.42 3.8 カマンベール 310 51.8 19.1 24.7 0.9 240 0.48 2.0 クリーム 346 55.5 8.2 33.0 2.3 250 0.22 0.7 カッテージ 105 79.0 13.3 4.5 1.9 37 0.15 1.0 軟質 プロセスチーズ 339 45.0 22.7 26.0 1.3 260 0.38 2.8 牛乳 67 87.4 3.3 3.8 4.8 38 0.15 0.1 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 100g 中のカルシウム量(mg)の比較 ナチュラルチーズ 硬質 1,300 パルメザン 680 ゴーダ 590 ブルー 460 カマンベール クリーム 軟質 カッテージ 70 55 プロセスチーズ 牛乳 630 110 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 第3章 乳製品のはなし 49 各種チーズの食塩相当量(g) チーズの塩分 第1章 種類 チーズの塩分は種類によって多いも パルメザン のから少ないものまで、さまざまです。 プロセスチーズの100g中の食塩相 ナチュラルチーズ 当量は2.8g。1回に食べる量で考え ると、チーズ1切れ(20g)の塩分量は 0.2(大さじ1) 3.8 0.4(20g) 2.0 ブルー 0.4(10g) 3.8 カマンベール 0.4(20g) 2.0 クリーム 0.1(20g) 0.7 0.2(20g) 1.0 0.6(1切れ20g) 2.8 プロセスチーズ 第2章 分は製造時に添加するものではなく、 100gあたり ゴーダ カッテージ 0.6gと少量です。プロセスチーズの塩 1食あたり(目安量) 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 原料のナチュラルチーズに由来してい ます。 ※栄養表示欄のナトリウム量から食塩相当量が換算できます。 ナチュラルチーズは製造過程で食塩 食塩相当量=ナトリウム(g) ×2.54 を加えていますが、その目的は味つけ だけでなく有害菌の繁殖を抑え、正常 味を生かして調味料を控えましよう。 に発酵させるためです。食塩を減らすと 第3章 熟成がうまく行われなくなり、保存性も す。摂取量が増えても、体内での合成 量が減って調節されるので、食事から 悪くなります。ブルーチーズやパルメザ チーズのコレステロール ンチーズなどは食塩が多く含まれていま のコレステロールがそのまま血液中のコ レステロール値を上げることは少ないと 第4章 すが、1回に食べる量は少なく、食塩 例えば、プロセスチーズ1切れ (20g) 考えられています。 摂取量の心配はないと思われます。 に含まれるコレステロール量はわずか コレステロールは生命維持のために 塩分の少ないチーズとしては、クリー 16mgです。コレステロール値が正常 なくてはならないもので、体重50kg ムチーズ、カッテージチーズ、モッツァ な人では心配ありません。 の人の場合、肝臓や腸で毎日600〜 レラチーズなどのフレッシュチーズがあ 日本人が3度の食事から摂るコレス 650mgが 作られています。コレステ ります。料理に使うときは、チーズの テロールは1日平 均300〜500mgで ロールは①細胞膜を構成する材料、 ②脳の神経繊維を包む「さや」の成分、 ③性ホルモンや副腎皮質ホルモンの 1食あたりのコレステロール量(mg)の比較 食品名 パルメザン 目安量(g) 6(大さじ1) 100 材料、④脂肪の消化に必要な胆汁酸 200 300 るビタミンDの材料となるとても重要な 6 チーズ 第5章 成分です。 17 ゴーダ 20 ブルー 10 カマンベール 20 17 ウム、ビタミン類を豊富に含む食品で クリーム 20 20 す。もちろんコレステロール値が高す カッテージ 20 プロセス 20 Q&A 鶏卵 鶏レバー チーズは良質のたんぱく質、カルシ 9 ぎることはいけませんが、自分のコレス 4 テロール値を知らずに、先入観だけで 16 まいわし 遠することは、かえって健康と活力を失 185 50 70(1匹) チーズや牛乳などの動物性食品を敬 210 50(1個) 276 うなぎ(かば焼き) 120(1串) 46 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 50 の材料、⑤カルシウムの吸収を良くす 第3章 乳製品のはなし うことになりかねません。 7 チーズの食べ頃と保存方法 ナチュラルチーズの食べ頃 ・粉チーズは冷蔵すると湿気により固 チーズの保存方法 まりやすくなるので、室温保存してくだ ナチュラルチーズは原料の乳を乳酸 チーズは、たんぱく質や脂肪などの さい。 菌や凝乳酵素で発酵させて固め、一 栄養を豊富に含んだ食品です。これら ②水ぬれや湿気に注意 定期間熟成させて作るので、時間が の栄養はカビなどにとっても栄養源に 水分はカビの原因になるので、水ぬ 経つと熟成は進み、味と風味は濃厚に なるため、衛生的に保存することが大 れや湿気に気をつけましよう。冷蔵庫 なっていきます。 切です。 から出した冷たいチーズが空気に触れ ナチュラルチーズの日もちは、熟成に ナチュラルチーズは保存中にも熟成 ると表面が湿ってきます。残ったチー かかった期間とほぼ同じといわれてい が進みますが、プロセスチーズはナチュ ズを冷蔵庫に戻す場合は、表面の水 ます。一般的に、水分の多い柔らかい ラルチーズを加熱溶融して作っている 気をふいてからラップしてください。 フレッシュタイプの日もちは短く、熟成 ので熟成は止まっており、保存性は高 ③乾燥を避ける 期間の長い硬いチーズは長くもちます。 まります。いずれも冷蔵保存し、賞味 チーズは長時間空気に触れていると チーズはよく漬物にたとえられます。 期限を目安に食べてください。開封後 乾燥して固くなります。使い残したチー 浅漬け、古漬けがあるように、同じチー は早めに食べましよう。 ズは乾燥しないようラップをするか、密 ズでも熟成の浅いものと進んだもので チーズは次の3点に注意して保存して 閉容器に入れて冷蔵庫に保存してくだ は、味も香りも違ってきます。表示され ください。 さい。固くなった場合は、おろすなどし ている賞味期限を目安に、おいしいと ①10℃以下で保存する て料理に使えます。 感じる時期をそれぞれのチーズで見つ チーズは5℃前後で冷蔵保存するの 保存中に万一カビが生えたら食べな けてください。 が理想です。冷凍保存すると、舌ざわ いでください。チーズにカビが生える りや風味が悪くなります。ただし次の と、本来の品質や風味が低下します。 場合は例外です。 目に見えないカビの胞子が中まで入っ ・ピザ用チーズなど加熱調理するもの ていることもあります。 ナチュラルチーズを よりおいしく食べるには は冷凍保存できます。 チーズは熟成と管理が命です。チー ズを買うときは、しっかり温度管理され ている商品を選びましよう。 フレッシュチーズは冷たくして食べま チーズの切り方と食べ方 円形 ピラミッド形 バトン形 す。その他のチーズは、食べる20〜 30分前に冷蔵庫から出しておきます。 チーズの切り方を工夫しましよう。ナ チュラルチーズは外側から中心に向 かって熟成していくので、外側と中心 部では味や硬さが違います。青カビタ イプは例外で、中心から外へ熟成して 三角形 四角形 いきます。チーズにはいろいろな形があ りますが、図のように一片のチーズに 外側と中心部の両方が含まれるように 切ると、両方の風味が味わえます。 第3章 乳製品のはなし 51 第1章 8 チーズの表示に関する公正競争規約 第2章 ②原材料名 以上) そのチーズを使用して風味がある ③内容量 こととし、含有率を表示します。 「不当景品類及び不当表示防止法」 ④賞味期限 ブルーチーズ、カマンべールチーズ に基づき、 「ナチュラルチーズ、プロセ ⑤保存方法 などの香味の強いチーズが含まれてい スチーズ及びチーズフードの表示に関 ⑥輸入品にあっては原産国名 る旨の表示をする場合は、当該チーズ する公正競争規約」が定められていま ⑦製造業者または輸入業者の氏名ま に占める割合を見やすい場所に表示し す。消費者が適正な商品を選べるよ たは名称および所在地 ます。 チーズの規格 うにすることと、業界の公正な競争を 確保することを目的としています。この 規約によるナチュラルチーズ、プロセス 特定表示 不当表示と不当公告の禁止 第3章 チーズ、チーズフードの規格は以下の 商品名に国名を使う場合は、75% 次のような表示や広告は禁止されて 表のとおりです。 以上(チーズフードは51%以上) がその います。 国で作られたチーズで、その使用率を ・規格に合わない製品について、ナチュ 表示し、かつその国の承認を受けたも ラルチーズ、プロセスチーズ、チーズ のであることが定められています。 フードであるかのような表示と広告。 表示すべき項目として、次の項目を 商品名に原産地名やナチュラルチー ・商品の内容が実際よりも著しく優良 一括表示するよう定められています。 ズ名(ゴーダ、チェダーなど)を使う場 であると誤認されるおそれがある表示 ①種類別または名称 合は、60%以上(チーズフードは51% や広告。 必要表示 第4章 公正競争規約による定義 種類別名称 第5章 ナチュラル チーズ ① 乳(乳等省令のもの)、 バターミルク、クリームまたはこれらを混合したもののほとんどすべて または一部のたんぱく質を酵素その他の凝固剤により凝固させた凝乳から乳清の一部を除去し たもの、またはこれらを熟成したもの。 ② ①に掲げるもののほか、乳等を原料として、たんぱく質の凝固作用を含む製造技術を用いて製 造したものであって、②に掲げるものと同様の化学的、物理的および官能的特性を有するもの。 ・なお、ナチュラルチーズには、 香りおよび味を付与する目的で、 乳に由来しない風味物質を添 加することができる。 プロセス チーズ ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したもので、乳固形分が40%以上のもの。なお、 次のものを添加することができる。 (1)食品衛生法で認められている添加物 (2)脂肪量の調整のためのクリーム、バターおよびバターオイル (3)香り、味、栄養成分、機能性および物性を付与する目的の食品(添加量は製品の固形分重量 の1/6以内とする。ただし、(2)以外の乳等の添加量は製品中の乳糖含量が5%を超えない 範囲とする。) チーズ Q&A チーズフード 52 規格 第3章 乳製品のはなし 一種以上のナチュラルチーズまたはプロセスチーズを粉砕し、 混合し、 加熱溶融し、 乳化してつ くられるもので、製品中のチーズ分の重量が51%以上のものをいう。なお、次のものを添加する ことができる。 (1)食品衛生法で認められている添加物 (2)香り、味、栄養成分、機能性および物性を付与する目的の食品(添加量は製品の固形分重量 の1/6以内とする。) (3)乳に由来しない脂肪、たんぱく質または炭水化物(添加量は製品重量の10%以内とする。) 一括表示の例 種類別 プロセスチーズ 種類別 ナチュラルチーズ 原材料名 ナチュラルチーズ、乳化剤 原材料名 生乳、食塩 内容量 225g 内容量 170g 賞味期限 側面に記載 賞味期限 00.00.00 保存方法 10℃以下で冷蔵してください 保存方法 必ず冷蔵してください (5℃前後) 製造者 ○○乳業(株) 原産国※ ○○○ ○○市○○町○一○ 輸入業者 ○○食品株式会社 東京都○○区○○町○一○ ※ 輸入品のみ表示する 家庭でのカッテージチーズの作り方 カッテージチーズは、牛乳(脱脂乳)などを主原料として、乳酸菌と凝乳酵素(レンネットなど)を加えて作った熟成 させないフレッシュチーズです。たんぱく質が多く、脂肪は少ない低カロリーのチーズです。ここで紹介するものは、 カッテージチーズそのものではありませんが、似たようなものをレモン汁や酢を使って家庭でも手軽に作ることがで きます。 ■材料(できあがり約1カップ) ■利用法 牛乳1L、レモン汁(または酢)大さじ5(75mL) ・しょうゆをかけて、そのまま 牛乳の代わりにスキムミルク(水4カップにスキムミルク ・サラダやカナッペに 100g)でも可 ・チーズケーキの材料に ・豆腐の代わりに白あえの衣に ■作り方 ①牛乳を90℃くらいまで加熱し、レモン汁を加え軽く 混ぜ合わせ、火からおろします。 ②しばらくそのままにしておくと、白い固まりと薄黄緑 色の透明な液に分かれてきます。 ■ホエーの利用法 作り方②の透明な液はホエー(乳清)であり、たんぱく 質やカルシウムなどを含んでいます。捨てずに利用して ください。 ③清潔なふきんでこします。 ・はちみつなど甘味をつけてドリンクに ④できあがったものは日もちしないので、その日のうち ・酸味を利用して甘酢あん、すし酢に に食べてください。 第3章 乳製品のはなし 53 第1章 III 1 バターについて バターの種類 第2章 バターとは 日本で市販されているものは、非発酵 また、パンなどに塗りやすくするため バターが主流です。 に、気泡を含ませて柔らかくしたホイッ プバターがあります。 バターは、乳等省令により「生乳、 牛乳または特別牛乳から得られた脂肪 粒を練圧したもの」で、成分は乳脂肪 食塩添加による分類 その他、商品名にバターと表示され ていても、種類別「バター」ではなく、 第3章 分80.0%以上、水分17.0%以下と定 加塩(有塩)バター 種類別「乳または乳製品を主要原料と められています。製法や成分によって バターをワーキング(練圧)する工程 する食品」に分類されているものがあり 次のように分類されています。 で食塩が加えられています。家庭で使 ます。外観はバターと似ていますが、 うバターの多くはこのタイプで、食塩を 乳脂肪を減らしてカロリーを抑えたもの 加えることにより風味が良くなり、保存 や、乳製品以外のレーズンやニンニク 性も高くなります。添加する食塩の量 を加えているものなどがあります。 製法による分類 第4章 発酵バター は1.5%前後です。 原料となるクリームを乳酸菌で前もっ 無塩バター て発酵させて作ったバターで、特有の 食塩は添加されておらず、生乳由来 芳香があります。ヨーロッパでバターと の成分だけです。主に製菓用、調理 いえば、ほとんどがこのタイプです。 用に利用されます。食塩摂取を制限し 非発酵バター ている人も使用できます。食塩が入っ 乳酸発酵させないクリームを原料と ていないため保存期間は有塩バターに しているので、クセのないバターです。 比べると短くなります。 第5章 発酵バターについて Q&A 発酵バターは原料のクリームに乳酸菌を加え、乳酸 入されたため、多くは非発酵バターですが、最近では 発酵させてから作りますので、独特の味や香りが出て 発酵バターも増えてきています。クリームを発酵させ きます。 る乳酸菌は種類により風味が違うので、日本人に好ま ヨーロッパなどでは、古くから発酵バターが作られて れる風味のバターを作る研究も行われています。発酵 いました。そのころの技術では、牛乳からクリームを充 バターの利用方法は普通のバターと同じで、パンに塗 分に分離するまでに自然に乳酸発酵が進むため、この るほか、妙め料理やお菓子作りなどに使うとコクのある クリームを使って作るバターは発酵バターでした。その 仕上がりになります。 伝統が受け継がれ、これらの国々では発酵バターが主 発酵バターは普通のバターと同じように冷蔵庫で保 流となりました。 存してください。 日本の場合、バターは近代的な製造技術とともに導 54 第3章 乳製品のはなし 2 バターの製造方法 一般的なバターの製造方法 の操作は熟成とも呼ばれ、この間にク めるために食塩を加えます。 リームの脂肪分は結晶化し、形や大き ⑦ワーキング(練圧) バターは生乳中の乳脂肪を取り出 さが一定になり脂肪球が安定します。 バター粒を練り合わせ、粒子中の水 し、練り上げたものです。19世紀に機 ④チャーニング(撹拌) 分や塩分を均一に分散させ、なめらか 械化され、現在では連続式製造機で バター作りの中心的な工程で、エー で良質のバター組織にします。 生産されています。 ジングしたクリームを10℃以下の温度 ④チャーニングから⑦ワーキングま ①分離 で激しく撹拌することにより、脂肪球皮 での工程を連続式製造機で一貫して 生乳から遠心分離によりクリームを 膜たんぱく質を除き、脂肪球を凝集さ 行います。 分離します。乳脂肪分35〜40%のク せて、大豆くらいの大きさのバター粒 ⑧充填・包装 リームがバターの原料に適しています。 を作り、それ以外の成分とに分けます。 できあがったバターを用途に応じた ②殺菌・冷却 バター粒以外の液体はバターミルクと 大きさ、形に包装し、貯蔵します。硫 クリームを95℃で60秒間加熱殺菌 呼ばれ、粉末にして業務用に利用され 酸紙やアルミパウチ(アルミ箔で裏打 し、脂肪分解酵素(リパーゼ)も失活 ます。 ちした紙)などに包み、紙箱に入れた させ、保存性を高めます。殺菌後、直 ⑤水洗 ものが主流ですが、ビン、缶、プラス ちに5℃前後に冷却します。 バターの風味を良くし、バター粒の ティック容器入りもあります。 ③エージング 固さを調節するため、バター粒を冷水 殺菌・冷却されたクリームを5℃前 で洗い、 バターミルクを完全に除きます。 後のタンクで8〜12時間、低温保持 ⑥加塩 する操作をエージングといいます。こ バターの風味を良くし、保存性を高 バターの製造方法 ①分離 ②殺菌・冷却 ③エージング 連続式製造機 ④チャーニング ⑤水洗 ⑥加塩 ⑦ワーキング ⑧充填 出荷 製品検査 冷蔵 包装 第3章 乳製品のはなし 55 第1章 3 バターの栄養 第2章 安心して利用できる食品です。 で、プロビタミンA(ビタミンA 前駆体) 脂溶性ビタミンであるビタミンAは、 とも呼ばれています。ビタミンAは成長 バターには、良質な乳脂肪とビタミ 天然油脂中では最高の含有率です。 に欠かせない大切な栄養素で、肌や ンAが豊富に含まれています。 バターにはレチノール(ビタミンA1) とβ 粘膜を健康に保ち、細菌に対する抵 バターの成分は約80%が乳脂肪で -カロテンが含まれています。バターの 抗力を強めます。 す。乳脂肪は食用油脂の中で最も消 黄色はβ-カロテンの色で、牛の餌とな カルシウムの吸収を促進するビタミ 化が良く、吸収率は95%以上にもなり る牧草に含まれています。β-カロテン ンDや、老化を防ぐビタミンEも含まれ ます。幼児や高齢者、胃腸の弱い人も は摂取して体内でビタミンAに変わるの ています。 良質な乳脂肪とビタミンA バターの栄養(100g 中) mg μg 食塩相当量 mg ビタミン E μg B2 ビタミン D mg ビタミン ビタミン A g ビタミン カルシウム g 炭水化物 g 脂質 g たんぱく質 水分 エネルギー 第3章 Kcal B1 mg g 有塩バター 745 16.2 0.6 81.0 0.2 15 510 0.01 0.03 1 1.5 1.9 食塩不使用バター 763 15.8 0.5 83.0 0.2 14 790 0 0.03 1 1.4 0 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 第4章 4 バターのコレステロール コレステロールの働き コレステロールは生命維持のために 必要なもので、肝臓や腸で毎日600〜 ④脂肪の消化に必要な胆汁酸の材料 量は210mgですが、食パン1枚に塗 ⑤カルシウムの吸収を良くするビタミン るバターは10gくらいで、コレステロー Dの材料 ルは21mgと少量です。 第5章 650mg (体重50kgの人の場合) 作られ 1食あたりのコレステロール量 ています。食事からも1日300mgほど バター100gあたりのコレステロール コレステロールの役割や性質をよく 理解して、バランスのとれた食事を心 がけることが大切です。 摂っていますが、摂取量が増えると体 内で作られる量が減って調整され、血 中コレステロール値を上げることは少な いといわれています。コレステロール値 1食あたりのコレステロール量(mg) 食品名 が正常な人では、バターに含まれてい 目安量 (g) 100 Q&A るコレステロール量は心配ありません。 バター 10 (1切れ) 21 コレステロールには次のような大切な 牛乳 260 (1本) 25 働きがあります。 鶏卵 50 (1個) ①細胞膜を構成する材料 うなぎかば焼き 120 (1串) 200 300 210 276 ②脳の神経繊維を包む「さや」の成分 ③性ホルモンや副腎皮質ホルモンの材料 56 第3章 乳製品のはなし 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 5 バターの保存方法 酸化を防止する ので、風味を長く保つことができます。 使い残しのバターは密封容器に入 しかし、いわゆる「缶詰」ではありませ 豊かな香りと風味を持つバターは、 れたり、ラップで包むなどしてください。 んので、紙箱入りバターと同じように 温度や空気、光に敏感な食品で、保 長期間空気に触れると脂肪が酸化しや 必ず冷蔵保存してください。 存方法が悪いと風味も悪くなり変質し すく、イヤな匂いが生じたり変色したり てしまいます。 することがあります。 必ず冷蔵する 他の食品の匂い移りを防ぐ バターは必 ず 冷 蔵してください。 匂いの強いものと一緒に置かないよ バターは80.0%以上の乳脂肪分の 10℃以下が適温です。 うにしましょう。冷蔵庫の他の食品の 中に少量の水分が分散しているので、 バターは28〜33℃くらいで溶けてし 匂いを吸着してしまいます。 冷凍後、解凍しても組織への影響はほ まいます。保存中に温度が高くなり一 缶入りバターも冷蔵保存 とんどなく、家庭のフリーザーでの冷 度溶けてしまうと組織が壊れ、再び冷 缶入りバターも冷蔵保存が必要で 凍保存ができます。 蔵して固めても元のような風味や口あた す。缶入りバターは、紙箱包装のもの りには戻りません。 より空気の出入りがなく光も通さない 上手な保存法 冷凍できるバター 手作りバター 家庭でも、一般的なバターと同じ原理でバターを作ることができます。 ■用意するもの 生クリーム(乳脂肪分45%くらい) 冷蔵庫で冷やしておく。 ふたつきの広口ビン、わりばし、塩 ■注意点 ・びんを振っているときに温まってしまったら、冷やしま しょう。 ・残ったバターミルクは無脂肪牛乳と同じようなもので すから、そのまま飲んだり、調理に利用しましよう。 ■作り方 ・作ったバターはなるべく早く食べましよう。 ①びんの4分の1くらいまで生クリームを入れ、ふたを して音がしなくなるまで振る。 ②わりばしでかきまぜ、最後は水分(バターミルク)を しぼり出すようによく練る。 ③バ夕ーミルクを別の容器にあけ、バターに少量の塩 で味をつける。 第3章 乳製品のはなし 57 第1章 IV ヨーグルトについて 1 ヨーグルトの種類 第2章 り、どのタイプでもたんぱく質やカルシ ツを加えたデザート感覚のものもあり ウム、乳酸菌の効果は同等です。欧米 ます。 牛乳などの原料乳に乳酸菌や酵母 でヨーグルトといえば、2種類の乳酸菌 飲むヨーグルト(液状) を加え発酵させたものをはっ酵乳と (ブルガリア菌とサーモフィルス菌)で 発酵後、固まったヨーグルトを撹拌 いいます。日本ではっ酵乳といえば、 乳酸発酵しているものを指します。日 し液状にしたものです。甘味を加えた 本ではこのルールに則っていない製品 ものがほとんどです。 ヨーグルトにはいろいろなタイプが もあります。 フローズンヨーグルト(凍結状) ありますが、乳等省令による種類別 食べるヨーグルト(糊状) 発酵したヨーグルトを撹拌しながら 「はっ酵乳」の成分規格は、無脂乳固 牛乳などを乳酸菌で発酵させただ 空気を混入して凍結したものです。冷 形分8.0%以上、乳酸菌数または酵母 けのものをプレーンヨーグルトといいま 凍保存中も規格で定められた数の乳 数が1,000万/mL 以上と定められてお す。寒天やゼラチンで固めたり、フルー 酸菌(1,000万/mL) は生きています。 ヨーグルトの種類 「ヨーグルト」が一般的です。 第3章 第4章 2 ヨーグルトの製造方法 種類による製造方法の違い ヨーグルトは原料乳を乳酸菌で発酵 プレーンヨーグルト 製造方法の一例 ④発酵 温度を一定に保った発酵室に入れ 発酵させます。使用する乳酸菌の種類 第5章 させたものですが、種類によって製造 殺菌した原料乳に乳酸菌を加え、 によって条件は異なりますが、40℃前 方法は異なります。製造方法は、原料 容器に詰めた後、発酵させます。 後の温度で4〜6時間発酵させると、 をタンクで発酵させ、容器に充填する ①加熱殺菌 酸度が0.7〜0.8%になります。酸度が 牛乳などの原料乳を90〜95℃で5 上がったことを確認し、速やかに10℃ 填した後に発酵させる「後発酵タイプ」 分間殺菌した後、40〜45℃に冷却し 以下に冷却し、発酵を終わらせます。 の2つに分けられます。 ます。 冷却中も、わずかに酸度が上昇し、0.9 スターター(種菌)として使われる乳 ②乳酸菌添加 〜1.0%の食べ頃の酸度になります。 酸菌は、ブルガリア菌、サーモフィル 純粋培養した乳酸菌(種菌またはス ス菌、アシドフィルス菌などで、それら ターターと呼ぶ) を2〜3%量加えます。 を組み合わせて使います。 ③充填 まえ 「前 発酵タイプ」と、原料を容器に充 あと Q&A 乳酸菌を加えた乳を容器に充填し ます。 58 第3章 乳製品のはなし ヨーグルトの種類と製造方法 まえ 果肉混合 ●前発酵タイプ 食べるヨーグルト 乳酸菌 充 填 均質化 発 酵 原料乳 飲むヨーグルト 急速冷凍 フリージング フローズンヨーグルト あと ●後発酵タイプ 乳酸菌 原料乳 発 酵 充 填 原料乳+果汁、砂糖、ゼラチンなど 食べるヨーグルト (プレーンヨーグルト) 食べるヨーグルト 第3章 乳製品のはなし 59 第1章 3 ヨーグルトの栄養・効用 栄養的効果 ヨーグルトの栄養(100g 中) エネルギー (kcal) 水分 (g) たんぱく質 (g) 脂質 (g) プレーン ヨーグルト 62 87.7 3.6 3.0 4.9 120 飲む ヨーグルト 65 83.8 2.9 0.5 12.2 110 牛乳 67 87.4 3.3 3.8 4.8 110 ヨーグルトは牛乳や脱脂粉乳などの 原料を乳酸菌で発酵させたものです。 牛乳の栄養性に加え、乳酸菌の働き 第2章 による効果も期待できます。 乳酸発酵によりたんぱく質の一部が ペプチドまで分解されており、消化吸 炭水化物 カルシウム (g) (mg) 出典:文部科学省「日本食品標準成分表2010」 収されやすくなっています。 第3章 ヨーグルト中の乳糖の20〜40%は 血清コレステロール低下作用)があるこ とが表示されています。 すでに分解されているうえ、乳酸菌の とが、近年明らかにされつつあります。 ・許可マーク 持つ乳糖分解酵素(ラクターゼ)が腸 これらの成分をバイオジェニックスと呼 ・ 「特定保健用食品」の文字 で働くため、牛乳を飲むとおなかがゴ ぶ場合があります。 ・許可を受けた理由や表示内容 ロゴロする人にも安心です。 牛乳と同じくカルシウムが豊富に含 まれ、しかも乳酸と結びついて乳酸カ ・摂取するときの注意点と1日あたりの 特定保健用食品 摂取目安量 ・関与する成分 第4章 第5章 Q&A ルシウムとなっており、いっそう吸収さ 「おなかの調子を整える」などの効果 ヨーグルト・乳酸菌飲料の場合、 れやすくなっています。 が認められ、下図のような特定保健 許可理由のほとんどは、特定の乳酸菌 用食品マークを表示したヨーグルトが やオリゴ糖が腸内の環境を改善してお あります。特定保健用食品とは、「食 なかの調子を整えるというものです。そ 生活において特定の目的で摂取するも の他に血圧が高めの人や血糖値が気 ヨーグルトの酸味は食欲を増進さ のに対し、その摂取により当該保健の になり始めた人の生活改善に役立つも せ、胃液の分泌や腸の蠕動運動を促 目的が期待できる旨の表示をするもの のもあります。 し、消化吸収を助ける作用があります。 をいう」と定義されたもので、 「トクホ」 また、乳酸は腸内の微生物に利用さ ともいいます。形態は、食品のほか錠 れ、多くの酪酸やプロピオン酸などの 剤、カプセルなどもあります。 有機酸を作り、腸内の有害菌を減らす 許可されている食品には、①おなか 効果があります。 の調子を整える食品、②コレステロー 腸に生きて達する乳酸菌は腸内で ルが高めの人の食品、③血圧が高め 増殖して乳酸を作り、悪玉菌を抑えて の人の食品、④ミネラルの吸収を助け 有害な物質が作られるのを防いで、腸 る食品、⑤虫歯の原因になりにくい食 の調子を整える働きがあります。最近 品、⑥血糖値の気になり始めた人の食 の研究では、乳酸菌が免疫力を高め、 品、⑦中性脂肪が気になる人の食品、 がんや感染症に対する抵抗力を高める ⑧骨の健康が気になる人の食品などが ことも報告されています。 あります。わが国で最も製造・販売さ 乳酸菌は生きていなくても、発酵生 れているのは、①のおなかの調子を整 産物や菌体成分にも健康増進に貢献 えるなどの作用に関するものです。 する効果(抗腫瘍性、血圧降下作用、 許可マークのついた食品には次のこ 生理的効果 60 第3章 乳製品のはなし 特定保健用食品(トクホ)の 許可マーク 4 乳酸菌 ②発酵形式 乳酸菌とは ヨーグルトの 乳酸菌による効果 ・ホモ型乳酸発酵(糖から乳酸のみ生成) 乳酸菌とは糖類を分解して多量の ・へテロ型乳酸発酵(糖から乳酸と酢 乳酸などを生成する細菌の総称で、 酸またはアルコール、炭酸ガスを生成) ①保存性の向上 1857年にパスツールによって発見さ ③発育条件 乳酸や酢酸によって腐敗菌を抑えま れました。乳酸菌は広く自然界に存在 ・通性嫌気性菌(空気がある所でも増殖) す。 し、人や動物の消化管にも生息してい ・偏性嫌気性菌(空気のある所では増 ②風味の向上 ます。乳酸菌の働きを利用して、みそ、 殖しない) 乳酸や微量芳香成分が風味を良くし しょうゆ、漬物、ヨーグルト、チーズな 一般にヨーグルトに使われている乳 ます。 どの発酵食品が作られています。 酸菌は、ブルガリア菌、サーモフィル ③整腸作用 ス菌、アシドフィルス菌、ビフィズス菌 腸内腐敗を抑え、腸内細菌叢を正 などです。乳酸菌の組み合わせや発酵 常にします。また、消化管の運動を促 温度などにより、製品の特色を出して 進して便通を整えます。 乳酸菌にはいろいろな分け方があり います。ヨーグルトの中の乳酸菌は生 ④消化吸収の促進 ます。 きているので、製造後、時間が経つと 乳酸発酵により牛乳の栄養の消化 ①形態別 発酵が進み、酸味が増します。近年で 吸収を促進します。 ・球菌(球状) は、プロバイオティクスと呼ばれる特殊 ⑤有害物質の除去 ・桿菌(棒状) な乳酸菌やビフィズス菌を加えた機能 ⑥免疫力を高める 乳酸菌の種類 性ヨーグルトがあります。 乳酸菌・ビフィズス菌の特徴と主な菌種 属名 ラクトコッカス 球菌 乳酸菌 (Lactococcus ) ストレプトコッカス (Streptococcus ) ペディオコッカス (Pediococcus ) ロイコノストック (Leuconostoc ) 桿菌 ラクトバチルス (Lactobacillus ) ビフィズス菌 (Bifidobacterium ) ※酸素存在下での発育性 発酵形式 発育※ 主な菌種:その利用と分布 ホモ + ラクチス、クレモリス:バター、チーズ、ヨーグルト ホモ + サーモフィルス:ヨーグルト、チーズ ホモ + ハロフィルス:みそ、しょうゆの熟成、漬物(耐塩性) ヘテロ + メゼンテロイデス:発酵食品 ホモ + ブルガリカス:ヨーグルト、乳酸菌飲料 へルべチカス:チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料 アシドフィルス:ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳酸菌製剤 カゼイ:チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳酸菌製剤 ヘテロ + ファーメンタム、ブレビス:発酵産物 ヘテロ ー ブレーべ、ビフィダム、インファンティス、ロンガム、アドレスセンテス: 乳児または成人の腸管、ヨーグルト、乳酸菌製剤 プロバイオティクスとは 「生きて腸まで届き、腸内細菌のバランスを整え、人 ロバイオシス)が語源です。プロバイオティクスの代表 の健康に有益な働きをする微生物」のことです。抗生 的なものが乳酸菌やビフィズス菌などです。 物質(アンチバイオティクス)に対する言葉で、共生(プ 第3章 乳製品のはなし 61 第1章 5 ビフィズス菌 ビフィズス菌とは ビフィズス菌の特微 体内のビフィズス菌 第2章 第3章 ビフィズス菌は、1899年、フランス ①棒状の桿菌 母体にいる胎児の腸内は無菌です の細菌学者ティッシェーにより母乳児 ビフィズス菌は棒状の桿菌で、増殖 が、生後7日頃からビフィズス菌が優 の便から発見された腸内細菌です。 するときに枝のように分岐してY 型とな 勢になり始め、およそ1ケ月後には、 私たちの腸内には1,000種類、100 ります(ビフィズスとはラテン語で二つ 安定したビフィズス菌主体の細菌叢 (ビ 兆個以上もの細菌がすみついており、 に分かれるという意味です) 。 フィズスフローラ)となります。しかし、 それらを総称して「腸内細菌叢」 と呼び ②偏性嫌気性菌 離乳期以降は普通の食事を食べ始め ます。最近のメタゲノム解析では1,000 空気(酸素)を嫌います。他の乳酸 るため、腸内にはいろいろな菌が増え 種類以上の菌が9,000兆個(ヒト全ゲ 菌は酸素があるところでも増殖します てきて、ビフィズス菌の菌数も割合も低 ノムの150倍)もいるという報告もあり が、ビフィズス菌は酸素があると生育 くなってきます。 ます。 しない偏性嫌気性菌です。 ビフィズス菌は乳糖やオリゴ糖(ガラ この中には私たちの体に良い働き ③へテロ型発酵 クトオリゴ糖、ラクチュロースなど)など をする菌(善玉菌) 、悪い働きをする ブドウ糖から酢酸と乳酸を作ります。 により増殖します。小腸下部から大腸 菌(悪玉菌) 、どちらでもない菌(中間 多くの乳酸菌はブドウ糖を分解利用し にかけて多くすみ、悪玉菌を抑え、腸 菌)があり、健康と深いかかわりを持っ て乳酸のみを生成しますが(ホモ型発 内細菌叢のバランスを整える重要な菌 ています。良い働きをする菌の代表が 酵) 、ビフィズス菌は乳酸よりも酢酸を と考えられています。 乳酸菌の仲間のビフィズス菌です。 多く生成します(酢酸:乳酸≒3:2) 。 第4章 年齢による腸内細菌叢の変化 1兆 バクテロイデス、ユウバクテリウム、嫌気性レンサ球菌 第5章 糞便1グラムあたりの菌数 100億 ビフィズス菌 1億 大腸菌、腸球菌 100万 乳酸菌 1万 100 ウェルシュ菌 出生日 離乳期 成年期 老年期 Q&A (模式図:光岡知足) 離乳期に大きく変動したあと安定した細菌叢も、老年期に入るとビフィズス菌が減り、ウェルシュ菌や大腸菌などが増えてくる。 善玉菌:ビフィズス菌、乳酸菌など 悪玉菌:ウェルシュ菌、大腸菌(毒性株)など 中間菌:バクテロイデス、大腸菌(無毒株)など (バクテロイデテス門、ファーミキューティス門に属する細菌) 62 第3章 乳製品のはなし 6 飲むヨーグルト リーは大差ありません。 ・たんぱく質、カルシウムの消化吸収 牛乳とほぼ同じ量のたんぱく質、カ を良くする 飲むヨーグルトは種類別「はっ酵乳」 ルシウムを含み、加えて乳酸菌(1,000 ヨーグルトは、乳酸発酵により乳糖 で、牛乳と同じように無脂乳固形分 万/mL 以上)が含まれているので次の の20〜40%が分解されているので、 8.0%以上と定められています。 ような生理的効果も期待できます。 牛乳を飲むとおなかがゴロゴロする人 牛乳などを原料にしており、牛乳に ・おなかの調子を整える でも大丈夫です。 比べ一般的に低脂肪ですが、甘味を ・腸内の有害物質を抑え免疫力を高 加えているものがほとんどなので、カロ める 生理的効果 7 フローズンヨーグルト 成分規格 発酵によりさわやかな風味もあり、乳 高速撹拌しながら空気を混入して急冷 酸菌の生理的効果も期待できます。 し、ソフトクリーム状にします。これを フローズンヨーグルトは、1970年代、 容器に充填して、冷凍室で凍結・硬 アメリカで健康食品として開発されま 化させて作ります。 した。アイスクリームに比べ低脂肪で、 製造方法 フローズンヨーグルトの乳酸菌は凍 乳酸菌も合まれているため健康志向の 原料乳に甘味、果汁などを加えた 結状態でも生きていて、乳等省令で規 時代に合った栄養食品として広がりま ものを、乳酸菌で発酵させます。アイ 定されている生菌数(107CFU/mL)を した。 スクリームと同じように、フリーザーで 下まわることはありません。 フローズンヨーグルトは種類別「はっ 酵乳」です。乳等省令により、 「乳また −14℃で保存したフローズンヨーグルト中の生菌数の推移 はこれと同等以上の無脂乳固形分を (億個/mL) 1.4 含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵 させ、糊状または液状にしたものまた 1.2 はこれらを凍結したものをいう」と定め 1 られています。 以上、乳酸菌数または酵母数1,000 万/mL 以上」 と規定されています。 生菌数 成分規格は、 「無脂乳固形分8.0% 0.8 0.6 一見、アイスクリームと似ています が、アイスクリームは乳脂肪分を8.0% 以上含むものと規定されているのに対 して、フローズンヨーグルトには乳脂肪 分の規定はありません。アイスクリーム の濃厚なおいしさに比べると、低脂肪 のものが多くさっぱりした味です。乳酸 0.4 0.2 0 乳等省令の規定値 (1,000万個以上) 0 1 2 3 経過月数 4 5 6 出典:財団法人日本乳業技術協会 第3章 乳製品のはなし 63 第1章 8 ヨーグルトの保存方法と利用方法 10℃以下で保存 ヨーグルトの水分の分離 化吸収が良い食品です。日本ではデ ザートとしてそのまま食べることが多い 第2章 第3章 ヨーグルトの乳酸菌は生きているの ヨーグルトの上に出てくる水分は、ホ ようですが、中央アジアやヨーロッパ で、保存温度の低いほうが発酵の進 エー(乳清) です。 では料理にもよく使われています。料 みが遅く、製造時の新鮮な味を保つこ ヨーグルトは主として牛乳のたんぱく 理に入れて加熱してもヨーグルトの栄 とができます。温度が高いと乳酸菌の 質であるカゼインが、乳酸菌の生成し 養は変わりません。乳酸菌は生きてい 活動が活発になって酸度が高くなり、 た乳酸により固まってできたもので、こ なくても生理的効果は期待できます。 味が酸っぱくなったり水分(ホエー)が の固まりをカードといいます。カードに 甘味を加えていないプレーンヨーグ 分離する原因になります。 は原料乳中の水分や水溶性たんぱく質 ルトは、いろいろな料理に使えます。 0℃を保つ氷温室やチルドルームな のα-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブ ドレッシングの材料に どで凍結しないように保存すれば、乳 リンなどが包み込まれています。発酵 脂肪が控えられ、しかもカルシウム 酸菌は活動しないので、保存中の風味 が進むにつれてカードが多少収縮し、 が摂れます。 を長く保つことができます。 ホエーが外に分離してきます。 ・マヨネーズに好みの量を加えて スプーンでヨーグルトをすくうと、そ ・市販のドレッシングに加えて の切断面からホエーが分離することが 和風料理のあえごろもに あります。これはカードが切断されたこ ・しょうゆ、みそ、わさび、すりごまな ヨーグルトに振動を加えると、水分 とで、中に含まれているホエーを包み どと混ぜて (ホエー)が出てきます。冷蔵庫で保 きれなくなって出てくるものです。また、 煮込み料理に 存するときは、ドアの部分に入れない 未開封でもホエーが分離していること 風味が増してまろやかさが出ます。 ようにしましょう。 がありますが、これは取り扱い時の振 ・カレー、シチュー、ボルシチの仕上 動などでホエーが出てきたためです。 げに ホエーの中には水溶性のたんぱく質 下ごしらえに やミネラル、ビタミンなどの栄養が含ま 臭みがとれ肉質が柔らかくなります。 れているので、捨てずに食べましょう。 ・肉、魚、レバーなどをつけておく 振動を加えない 第4章 しっかりとふたを閉める 空気中の雑菌が入ると風味が変わ り、カビなどが生える原因にもなりま す。また、ヨーグルトは他の乳製品と 第5章 同様、匂いを吸着しやすい性質があり お菓子、飲物に 料理への利用法 ます。保存時はふたをしっかりと閉め ヨーグルトは良質のたんぱく質、カ てください。 ルシウムなどを豊富に含み、しかも消 Q&A 64 第3章 乳製品のはなし ・ゼリー、ケーキ生地に ・ヨーグルトシェイクやラッシーに 9 はっ酵乳・乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約 ⑥保存方法 ④保健飲料・美容飲料など効能効果 「10℃以下で保存してください」など があるかのように誤認されるおそれがあ はっ酵乳・乳酸菌飲料に関しては、 具体的な方法を表示。 る表示。 食品衛生法に基づく乳等省令により定 ⑦製造者 ⑤健康作りに欠かせない、健康に美 められています。この省令を補うものと 氏名または名称及び住所を表示。 容に効果を表す、栄養がいっぱい、乳 公正競争規約とは 酸菌がたっぷりなどの表示。 して、必要な表示項目などが「はっ酵 乳・乳酸菌飲料の表示に関する公正 競争規約」 によって規定されています。 ⑥整腸作用がある、胃腸の弱い方に、 特定の表示 疲労回復に、老化防止になどの表示。 この規約は業界の自主規制で、消 ・果汁または果肉が重量百分率で5% ⑦新聞、雑誌などの記事、医師、学 費者が適正な商品を選べるようにする 未満の場合は 「無果汁」 と表示する。 者などの談話、学説を引用しての④⑤ ことと、業界の公正な競争を確保する ・製品の内容重量に対してはちみつ1% ⑥などに該当する表示。 ことを目的として定められました。チー 以上、トマト5%以上入っているもので ズと同様に、公正取引委員会の認定 なければ、商品名に「はちみつ」や「ト を受けて設定され、全国はっ酵乳・ マト」の名称を付けてはならない。 乳酸菌飲料公正取引協議会が運営し ています。また、表示などに違反の事 実がないかなどの調査も行っています。 不当表示の禁止 次のような表示は禁止されています。 必要表示事項(一括表示) ① 乳 酸 菌 飲 料に「○ ○ヨーグルト」 「ヨーグルトのような乳酸菌飲料」など ①種類別名称 の表示。 「はっ酵乳」 「乳酸菌飲料」 「乳製品 ②はっ酵乳、乳酸菌飲料またはその 乳酸菌飲料」のいずれかを表示。 原材料が「純」 「純正」などである旨の ②無脂乳固形分及び乳脂肪分 表示。 重量百分率で表示。 ③はっ酵乳、乳酸菌飲料が濃厚であ ③原材料名 る旨の表示。 原材料と添加物に区分し、使用量 の多いものから順に表示。生乳・牛 乳・無脂肪牛乳等は「乳」 、クリーム・ バター・全粉乳・脱脂粉乳などは「乳 製品」と表示してもよい。添加物を使 用する場合は食品衛生法に基づいて 表示する。 ④賞味期限または消費期限 年月日を表示。 ⑤内容量 ミリリットル(mL) 、またはグラム (g) 一括表示例 名称 はっ酵乳 無脂乳固形分 9.5% 乳脂肪分 3.0% 原材料名 生乳、乳製品 内容量 500g 賞味期限 正面に記載 保存方法 要冷蔵10℃以下 製造者 (株)○○乳業 ○○県○○市○○町 で表示。 第3章 乳製品のはなし 65 第1章 10 乳酸菌飲料 第2章 分の量や乳酸菌の数が違うので栄養 ミルクタイプの乳製品乳酸菌飲料 に差があります。 酸味も甘味もなく、牛乳のような味 乳酸菌飲料は牛乳などを発酵させ 種類別「乳製品乳酸菌飲料」 の種類別「乳製品乳酸菌飲料」があり てから甘味料、香料、果汁などを加え 無 脂 乳 固 形 分を3.0%以 上 合み、 ます。これは牛乳に体に有用なビフィ て、嗜好性を高めた飲み物です。乳等 乳 酸 菌 数または酵 母 数が1,000万/ ズス菌などを加えてあり、整腸作用も 省令では、 「乳等を乳酸菌または酵母 mL 以上のもの。生菌タイプと殺菌タイ 期待できる飲み物です。ほとんどが宅 で発酵させたものを加工し、または主 プがあります。殺菌タイプは、発酵後、 配専用です。 要原料とした飲料(はっ酵乳を除く) 」 と 加熱殺菌して保存性を高めたもので、 定められています。 そのまま飲むものと、薄めて飲むもの 乳酸菌飲料とは があります。 乳酸菌飲料の種類 種類別「乳酸菌飲料」 無脂乳固形分が3.0%未満で、乳 第3章 乳酸菌飲料は公正競争規約で次の 酸菌数または酵母数が100万/mL 以 2つに分けられています。無脂乳固形 上のもの。 家庭でのヨーグルトの作り方 牛乳に市販のプレーンヨーグルトをタネとして加え、次のようにして簡単に作れますが、衛生面には充分注意してく ださい。 第4章 ■作り方 牛乳の代わりにスキムミルクを使うこともできます。 ①牛乳500mLを沸騰直前まで温め、45℃くらいまで ぬるま湯140mLにスキムミルク大さじ3の割合で溶か 冷まします。 ②プレーンヨーグルト大さじ3杯(牛乳の約1割)を①に 加え、よく混ぜます。このとき牛乳が50℃以上だと します。 牛乳にクリームやスキムミルクを加えて味や成分を変 えることもできます。 乳酸菌が死んでしまい、ヨーグルトができません。 第5章 ③市販のヨーグルターに入れて4〜6時間そのままにし ておきます。ヨーグルターがない場合は、40℃を保 つようにします。熱湯ですすいで温めた魔法びんに 入れておくか、ぬるま湯をはったボウルに入れて湯せ んにします。 ・道具類は熱湯消毒をして、雑菌が入らないようにして ください。 ・家庭で作ったヨーグルトは冷蔵庫で保存し2日以内に 食べてください。 ④4〜6時間後に少し取り出して味をみて、酸味が適当 ・できたヨーグルトをタネにして使用するのは2回まで になったら冷蔵庫で冷やします。やや不透明な上ず に。それ以上使うと、乳酸菌の活力が低下して固まり みができる場合がありますが、これはホエー(乳清) にくくなったり雑菌が増えることがあります。 Q&A です。 プレーンヨーグルトの代わりに市販の粉末ヨーグルト 種菌を使うことができます。その場合は、説明書にし たがって使ってください。 66 ■注意点 第3章 乳製品のはなし ・ビフィズス菌などの酸素を嫌う菌は、この方法では増 菌しません。
© Copyright 2024 Paperzz