「大きくなりたい」理由① そもそも「中央銀行」として誕生したわけではない。 単に「ゴールドスミス・バンカー(GSバンカー)」の一つ として誕生し、理事たちは「最も大きなBSバンカーに なりたい」という気持ちで運営をしていた。 つまり、業務自体は通常のGSバンカーと同じであり、 特別なことをしていたわけではないということになる。 強いて言えば、「大きくなりたい」という気持ちは、他 のGSバンカーたちよりも強かったかもしれない。 通貨の歴史 講義⑤⑥ (イングランド銀行の誕生~) ~目次~ 「大きくなりたい」理由 イングランド銀行と英国政府 BOEとその他のGSバンク イングランド銀行の誕生 通貨としての銀行券 通貨論争 国際通貨情勢 2 1 「大きくなりたい」理由② イングランド銀行と英国政府① 銀行券の優劣 大きくなるために「国」に資金提供した。 当時、英国は「不況」に陥っていて、しかも、フランスとも戦争状態 にあった。 戦費調達のため、英国政府は多額の資金を必要としていた。 本来、資金調達には「金塊」が必要であるが、戦争も長引いている ため、政府としては資金がなくなっていた。 その資金を“イングランド銀行(の前身のGSバンカー)が貸し付け たのである。 しかし・・・ 政府の発行する「国債」に引き換えに「金塊」を貸し付けるのでは なく、イングランド銀行の発行する「受取書」、つまり、「イングランド 銀行券」を発行することになる。 使用する場合 大・銀行券 規模が大 きい 大銀行 人 人 金 大銀行の銀行券 は保有されたまま 中・銀行券 中銀行 人 金 人 人 保有し続ける 必要であればすぐ使う 小・銀行券 規模が小 さい 小銀行 破たん 人 金 人 保有し続ける 人 3 4 1 BOEとその他のGSバンク① イングランド銀行と英国政府② BOE(イングランド銀行)は英 国政府の国債と交換に銀行 券を発行する。 イングランド銀行の貸付 金 銀行券イングランド 銀行 英国政府 国債 形はどうあれ、BOEの銀行 券が政府からドンドンと市場 に出てくることになる。 武器商品 人 人 人 英国政府が発行する国債は、政府自身が返済することになるが、 返済できないような場合には、国民の税金を引き上げ(つまり、増 税)によって賄われることから、デフォルトリスクが少ないと考えら れる。 また、他の主体に比べて、政府の借り入れは巨額になるため、 BOEの銀行券は、他のGSバンカーの銀行券に比べて、圧倒的な 数量が発行されることになる。 小さなGSバンクはそもそも淘汰されている。 BOEが巨大になるに従い、BOE以外のGSバンクも小さいものか ら順位淘汰されるようになる。 BOE以外の銀行券は、あまり信用されなくなり、受け取ってもすぐ に金と交換されてしまい、GSバンクには底溜まりが多く残らなく なってくる。←生き残りのための行動に出る。 5 人々の中を流通しだす。 6 BOEとその他のGSバンク② イングランド銀行の誕生① 為替(振替)業務 以上を言葉でいえば・・・ BOE以外のGSバンカーたちは、自ら銀行券を発行 することをやめ・・・ 銀行券に代わって・・・ BOE銀行券や金を受け入れ、「預金」を発行するとと もに、保有しているBOE銀行券や金をBOEに預ける ようになる。 それによって・・・ BOEに口座を持つGSバンカーは、振替業務や手形 交換などを行うようになり・・・ BOEには大量の準備金としての「金塊」が集まるよう になる。 BOE 100 300 250 Bさんの預金に 50を振替 50 振替を要請 金 100 GSB X A:100 A:250 A:300 GSB Y B:50 Bは必要であれ ば、いつでも引 き出せる B 銀行券(BOE) A 200 50 7 8 2 イングランド銀行の誕生② 通貨としての銀行券 こうして・・・ BOEは「銀行の銀行」として・・・ 現代の「中央銀行」としての機能を担うように なっていく(そもそも政府との関係は強い← 「政府の銀行」)。 この「金塊」を準備金として、BOE銀行券が流 通することになる←「発券銀行」 こうした中・・・ 一時的に「BOE銀行券と金との交換を停止」した(戦争相手であるフラン ス軍が英国に侵入したという噂のため)。 しかし・・・ 金との交換が停止されている期間、経済的な混乱はなく、BOE銀行券は 市場に流通し、通常通り、利用されていた(一般的受領性が堅持された)。 「金」は貨幣としての「価値尺度機能」があるため「価値標準」として存在し ていた。しかし、実質はそれだけであり、金と等価で交換が可能なBOE銀 行券は、長い年月の後に、「価値標準」としての機能を持つことになって いた。 だから・・・ 今さら「一時的に金と交換ができない」といっても、その「価値標準」である 存在が否定されることはなく、BOE銀行券は市場流通を繰り返すことが できたと考えられる。 ここにおいて・・・ BOE銀行券は、実質的な貨幣として機能することになったと考えてよい。 9 10 通貨論争① 通貨論争② しかし・・・ 「金」は本位貨幣である。 ← 金本位に戻すべきであるという意見が識者から、常に、出ていた。 そのため・・・ 戦争終結を機に、金本位制に復帰をした。 ところが・・・ BOEはズサンな経営によって「金準備の枯渇」という危機に陥った ← 理事たちに「中央銀行」としての自覚がなかったことが原因) とりあえず「危機」は乗り切ったものの、すでにBOEが破たんする ような事態になると、英国経済は破滅的な被害を被ることになる。 通貨学派(currency school) 発券量は中央銀行の保有する金量によって制限さ れるべきである。 もし、それを超えて発行されると物価上昇を引き起 こして金が流出することになる。 銀行学派(banking school) 過剰になった銀行券は預金などで銀行に戻る。 したがって、発券は銀行の自由に任せても問題ない。 通貨論争(controversy of currency) 11 12 3 通貨論争③ 国際通貨情勢 第2次世界大戦前後 産業革命以来、金保有量は英国が世界最大であり、その金保有 量を背景にして、世界の金融マーケットの中心という地位を築いて きた。 しかし・・・ 第1次大戦、および、それに続く第2次大戦において英国は戦費 がかさみ、多くの金を失うことになった。 本来、敗戦国からの賠償により、戦費は補充できるはずであるが、 敗戦国ドイツは支払える状態になかった(第1次大戦ではそれが 原因で、ドイツは高いインフレに見舞われ、ナチスを台頭させる結 果にもなった)。 また、主戦場が欧州であったため、国力としても衰えてしまった。 ピール条例 首相ロバート・ピールは、通貨学派の主張が色濃く反映された「銀 行法(ピール条例)」を制定し、この「通貨論争」を収束させた。 <内容> 1. BOEが発券を独占すること 2. 金準備以外の公債や商業手形などの保証準備による発券の量を 制限し、それ以上は必ず金をその分だけ用意しなければならないこ と。 つまり、BOEが発券を独占するものの、銀行券はBOEの保有す る金の量に制限されることとなった。 この法律によって、BOE銀行券は金貨とともに貨幣 として機能することとなった。 13 14 国際通貨情勢 国際通貨情勢 他方、米国は・・・ 主戦場から離れている上に、武器弾薬等の輸出により、欧州から 米国へ「金」が大量に流れ込んだ(第1次大戦では日本もその恩 恵を受けたが、第2次大戦では主戦場になっている)。 この第1次大戦により、英国の金融センターとしての地位は低下 するのに対して、米国が台頭することになり、その後の第2次大戦 により、米国は圧倒的な金保有量になった。 ブレトンウッズ体制 米国以外の国は外貨準備としての「金」がほとんどなかった(米国 が世界全体の金保有量の3分の2を保有していた)。 そのため・・・ 各国の通貨価値は米ドルが金(1オンス35米ドル)に対して、その 他の国の通貨は米ドルに対して定められた(1ドル360円など)。 米ソ冷戦 共産主義体制がソビエト連邦を中心に台頭する中、資本主義圏 を死守するために米国は、主に軍事的な支援である「マーシャル プラン」により、各国に米ドルをばらまいた。 ドルの過剰流通問題 マーシャルプランにおける米ドルのバラマキに加え、貿易赤字が 恒常化したため、米国から流出する金が急激に増加することと なった。 そもそも米ドルが「基軸通貨」として機能したのは、金との交換に 対する信頼があったからである。 15 ニクソンショック(金・ドル交換停止) 16 4 国際通貨情勢 変動相場制 ニクソンショック後、一時、再度固定相場制(ス ミソニアン体制)に戻ったものの、長続きせず、 先進国は変動相場に移行した。 「金」は単なる商品へ ここにおいて「金本位制」は崩壊し、「金」は単 なる「コモディティ(商品)」となった。 通貨は各国の国力・物価状況等によって価値 づけられるようになった。 17 5
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