脳損傷者の雇い主のための情報

脳損傷者の雇い主のための情報
雇い主の中には、障害者は職場に適応させるのに費用がかかるといった誤った認識を持つ人
がいます。しかし、これは必ずしも事実ではありません。職場適応(もしくは職場に順応させ
ること)は概して低コストでたやすく実行できるものです。
例えば手すりをつけたり周りの雑音を減らしたりといったような環境調整をすることによっ
て、脳損傷者も彼等の職場環境により良く適応することができるようになります。脳損傷者へ
の職場適応について考えるとき、このプロセスは障害者本人からの情報に基づき、ケースバイ
ケースで実行されるべきであるということを明記すべきです。脳損傷には様々な障害が組み合
わさっているでしょう。こうした個々の障害に起因する様々な制限に対して効果的に適応させ
る必要があります。
重要な質問
・脳損傷者はどのような制限を持っているでしょうか?
・これらの制限はどの程度本人やその仕事ぶりに影響をおよぼしますか?
・これらの制限の結果として問題となる具体的な仕事上の作業はなんですか?
・本人は職場適応上のニーズに関して相談されたことがあったでしょうか?
・これらの問題を軽減したり除去するために、どのような環境調整が可能でしょうか?
・本人は既存の適応上の配慮は有効かどうか相談をされていますか、また他のものが必要かど
うかの決定をする際相談をされていますか?
職場適応の例
脳損傷者には次に挙げるようないくつかの制限が現れるでしょう。
身体的制限
雇い主であるあなたはスロープや手すりを取り付け、身体障害者用の駐車場を用意すること
ができます。レバー式のドアノブを取り付けたり、通路から不要な設備や備品を取り除きまし
ょう。
視覚の問題
大きな文字で印刷した書面で情報を与えましょう。蛍光灯を彩度の高い白色光にしましょう。
自然光を増やし、コンピューター画面にグレア(反射防止)フィルターをつけましょう。特に
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堺脳損傷協会「脳 損傷の知識」
視覚部分の一部または全てを失っている人の場合には、視覚の専門家と相談しましょう。
就業日中の持久力の維持
フレックスタイムや、長めかまたはより多くの休憩を認めることは大いに助けになります。
新たな責任を身につけるため、長めの時間配分や自分のペースでの作業量を提供しましょう。
従業員が休憩を必要とする時に代替要員を用意したり、カウンセリングのための休憩時間を与
えましょう。支援付き雇用やもし必要ならジョブコーチを利用することを考えましょう。従業
員が一日のうちの一部を家で働くことを許可し、ジョブシェアリングができる機会を与えまし
ょう。
集中力の維持
つい立てやプライベートの事務室を与えたり、ホワイトノイズ(広い周波数領域に渡る同じ
強さのノイズ)や環境音楽の音響装置の使用を認めることで、職場での気が散るのを減らしま
しょう。ヘッドフォンを用いて従業員に安らぎを与える音楽を聞かせましょう。従業員が働く
環境に自然光を増やし、散らかっているものを片付けましょう。
邪魔されないような勤務時間の計画を立て、大きな仕事を細かい作業とステップに分けまし
ょう。基本的な機能だけを含むように、仕事を構成し直してみましょう。
自己管理と締め切りの難しさ
毎日の課題リストを作り、それらが完了したときには項目にチェックを入れましょう。会議
の日や締め切り日に印をつけるため複数のカレンダーを使い、メモや電子メール、週一回のス
ーパーバイズを介して重要な締め切り日を従業員に知らせましょう。時計やタイマー機能のつ
いたポケベルあるいはポケットコンピュータを使いましょう。大きな仕事を細かい作業とステ
ップに分け、目標を決めたり、日々助言を与えることにより従業員を援助する指導者を配置し
ましょう。目標が達成されているかどうかを見るためにスーパーバイザーや管理者あるいは指
導者は週ごとの会議を予定に入れましょう。
記憶力の欠損
従業員が会議の様子をテープに記録することを認めたり、会議ごとのタイプされた議事録を
提供しましょう。記録した情報が簡単に取り出せるようにノートやカレンダーや付箋を使用し、
言葉の指示だけでなく文書による指示を与えましょう。訓練の時間を与え、品物の置き場所が
どこかという記憶の助けとなるように、例えばラベルや色分けコードや掲示板を用いて、職場
環境に目印を付けましょう。よく使う設備全てに説明書を張りましょう。
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問題解決能力の欠損
例えばフロートチャート(生産工程などを図式化したもの)のような問題解決法の図解を使
いましょう。最も重要な職務だけを含むよう仕事を構成し直し、従業員が疑問を持ったときに
応じられるように、スーパーバイザーや管理者もしくは指導者を配置しましょう。
スーパーバイザーと効率的に働く
積極的に褒め、励ましましょう。指示や責務に対する明解な期待、それらに達しなかった場
合の結果や影響を文書で渡すことは大変役に立ちます。スーパーバイザーとの隠し立てないコ
ミュニケーションを許容し、長期と短期の目標を書面にしたものを作りましょう。種々問題が
起こる前にそれらに対処するための戦略を立て、その戦略の有効性を見届けるための手順を確
立しましょう。
ストレスと感情に対処することの難しさ
積極的に褒めたり、励まし、もし必要ならカウンセリングや従業員支援プログラムに紹介し
ましょう。就業時間中に必要なサポートを得るために医師などに電話することを許しましょう。
同僚に感受性訓練を受けさましょう。対象となる従業員が欲求不満に対処するためのストレス
マネージメントテクニックを実行するために休憩を取ることを認めましょう。
出勤の問題
健康問題に対応するため融通のきく休暇を与えましょう。自己ペースでの仕事量やフレック
スタイムを導入しましょう。従業員が家で働くことを認めるかもしくはパートタイムでの仕事
を与えましょう。
変化の問題
会社の環境が変わることは脳損傷者にとっては難しいことかも知れないことを認識しましょ
う。効果的な配転を実現するために、従業員と新旧の監督者との開かれたコミュニケーション
の手段を維持しましょう。従業員と職場環境の問題について話し合うために、週ごとか月ごと
のミーティングをしましょう。
事例
脳動脈瘤の手術から職場復帰したある警察官は、左側に不全麻痺があり、もはや両手でワー
プロを打てなくなりました。コンピューター調査をするポジションが欠員になっており、彼を
転属させることで彼は職場適応できることとなり、彼には片手打ちのキーボードが提供されま
した。
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コンピューターの使用が求められる専門職にある人が、脳損傷から仕事に復帰しました。彼
は損傷の結果として、左から右に読むとき、真ん中を越えて読むことができませんでした。環
境順応の提案として次のようなものがあります:彼のワープロのマージンの設定を、左側だけ
を 読 め る よ う に 80か ら 40に 変 え る こ と 、 も し く は コ ン ピ ュ ー タ ー の 画 面 を 分 割 し 右 側 を 暗 転 す
ることができるソフトを購入すること、彼の仕事場の設備を左側に配置するようにデザインし
直すこと、そして仕事に照明器具を与えること。
短期の記憶欠損のあるセラピストは、カウンセリングのケース記録を書くことが困難でした。
環境順応の提案として次のようなものがあります:セラピストがカウンセリングのセッション
を録音し、記録を書き取る前に再生すること、各カウンセリングの終わりに手書きの覚書を書
き 上 げ る た め に 15分 の 時 間 を 予 定 に 組 み 込 む こ と 、 1 日 に 行 う カ ウ ン セ リ ン グ を 少 な め に 予 定
することを認めることです。
騒音のする工場で働くある労働者は作業に集中するのが困難でした。環境順応の提案として
次のようなものがあります:彼の作業場所の周りに騒音吸収板を立てること、往来を減らすた
めに彼の作業範囲から不必要な設備を移動すること、ヘッドフォンや耳栓を着用するのを認め
ることです。
ウ ェ ブ サ イ ト か ら 記 事 の 使 用 を 親 切 に 許 し て く れ た Job Accommodation Networkに 深 甚 な 感
謝をします。
Kendra M. Duckworth著 の オ リ ジ ナ ル の 記 事 は 、
http://www.jan.wvu.edu/media/BrainInjury.html で 見 る こ と が で き ま す 。
脳損傷の長期の影響は、しばらくの間は現れないかもしれません。うまく行ったとして、軽
度の脳損傷者は仕事に復帰できるかもしれませんが、残りの人生をさまざまな認知上の問題と
悪戦苦闘して過ごすことになるでしょう。また、残りの人生を他人に依存している自分に気づ
く人がいる一方で、多くの不幸な損傷者は昏睡状態から抜け出すことができないかも知れませ
ん。
( ク イ ー ン ズ ラ ン ド 脳 損 傷 協 会 フ ァ ク ト シ ー ト よ り 許 可を 得 て 翻 訳 転 載 )
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