損なわれた自覚 自覚の欠如は前頭葉障害の人に良く見られます。同時にこれは感情や人格の変化と関係しま す。 彼等は現実の障害を認めようとせず、元の生活に戻ると言い張ります。また、障害の程度を 過小評価し、みんなが自分の障害を大げさに言っていると思っている場合もあります。彼等は 社会的な技能や感情のコントロールといった能力をしばしば過大評価して、将来に対し非現実 的な考えを抱きます。 こうした自覚の欠如は、自分自身の行動がどういう意味を持つかといったことや、自分を監 視する能力が減退していることを理解できないことによります。 このような障害を認識できないということは、当然リハビリテーションにおいて多くの問題 を生じることになります。リハビリテーションサービスが必要であるということを疑問視し、 彼等の認知上の問題がいかに家族や友人との関係に影響を与えるかをまったく理解できないこ とがあります。自覚が欠如した人は仕事に戻っても、職場でなぜ失敗するかを理解できないで しょう。彼等は職場で到達可能な目標を設定できず、また自分自身の仕事の出来を現実的に評 価できないのです。こうしたことが彼等の仕事上の自信に影響することは容易に想像できます。 自覚の障害の3つのタイプ 知能的認識の障害というのは、欠陥が存在するということを理解できないのです。第2のタ イプは、出現的認識の障害とでも言うもので、彼等は問題が存在することは知っているが、問 題がいつ出現したかがわからず、失敗を償うことができないというものです。3つ目のタイプ は、予測的認識障害で、当事者は欠陥を認識し、問題がいつ起こったかも認識できるが、問題 が起こりそうな状況を前もって予測することができないのです。 矢面に立つ家族 家族にのしかかる衝撃は大なるものがあります。もしも彼等が、家族を追及するときには、 怒りの反応となるでしょう。ときとして家族は、家族の一員が良くなったと思うことは悪いこ とではないと信じようとするかもしれません。たとえこのことが、視覚障害があるのに運転を するといった危険な状況になったとしてもです。家族は明確な目標を設定し、それが実現して から、服薬や治療や指導を終了すべきです。このことは、リハビリテーションの専門家の関与 1 堺脳損傷協会「脳 損傷の知識」 がのぞましいでしょう。 家族は指摘するときには率直に、しかし批判的でないように心がけ、もし危険がないのであ れば、失敗するとわかっていてもやらせてみるのもよいでしょう。しかし、あくまで支持的で あるべきです。本人が必要ないというときでも、治療や援助が継続されるように励ますべきで す。 あなたの責任です、私は悪くない 問題が発生したときに、間違って外的な要因のせいにするのも、家族にとってつらいことで す。自覚の欠如と関係して、間違いを犯したことを否認することがあります。もしも、問題を 生じるような欠陥があることを自覚しないときには、外に説明を見出そうと躍起になるでしょ う。有効な方法は、彼等に問題を外側から見つめ、何が起こったのかを分析するよう勧めるこ とです。できれば、問題が起きた状況をビデオに撮ると、こうしたことをやりやすくしてくれ ます。何らかの批判をするときに最も難しい点は、個人への侮辱と取られないようにすること です。議論することは状況を悪化させるだけです。ですから、通常最もよい方法は、否定する の を 認 め る こ と ( 否 定 を 肯 定 す る こ と ) で す 。 よ く 使 わ れ る 答 え は 、「 お 互 い に 同 じ 事 を 違 っ た角度から見ています。ですから、それでよいことにしましょう」となるでしょう。もしも批 判や侮辱が常に問題となっているのなら、家族みんなでこういった線に沿って、もっとも適切 な反応をするように心がけたいものです。 専門家の援助を求める 自覚の欠如を専門的に治療する場合には、まず最初のステップは通常神経心理学的評価です。 これは、本人の知能の強い点や弱い点を評価し、自覚の欠如を明確にし、それから治療方針へ の示唆を得ることです。通常家族はこうしたときに一緒に関わります。 さまざまな精神療法的なテクニックが個々人の自覚を引き上げるために用いられます。治療 者はまず本人の信頼を得ることから始め、次第に彼等が、自分の仕事の出来を知覚しているレ ベルと実際の機能のレベルとの違いがわかるように手助けします。次のステップは、通常、彼 等の欠陥が引き起こす問題を予測し、それらへの対処法を教えてそれに備えるように支援する ことです。治療法は、自覚の欠如のタイプによって変わってきます。 自覚への長い道のり 自覚の欠如は不充分な回復につながる可能性があります。というのは、その人の脳の損傷が 結果的にそういう状態だということなのです。家族はこうした見通しの上に立って、脳損傷の 人のために生活の質を高めることが求められる場合には治療を追求すべきです。 2 堺脳損傷協会「脳 損傷の知識」 ( ク イ ー ン ズ ラ ン ド 脳 損 傷 協 会 フ ァ ク ト シ ー ト よ り 許 可を 得 て 翻 訳 転 載 ) 3 堺脳損傷協会「脳 損傷の知識」
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