「どうして賢い人が愚かな考えにハマるのか」 ポール・グラハム “Why

「どうして賢い人が愚かな考えにハマるのか」
ポール・グラハム
“Why Smart People Have Bad Ideas”
Paul Graham
http://www.paulgraham.com/paulgraham/bronze.html
2005 年 5 月 11 日(水) 東京工業大学・赤堀研究室・論文ゼミ 竹内俊彦 担当分
ポール・グラハム
エッセイスト、プログラマ、プログラム言語開発者。
1995 年、ロバート・モリスと共にウェブベースのアプリケーシ
ョン「Via Web」を開発し、1998 年に Yahoo に売却する。
2002 年に、スパムに対するシンプルなベイジアン・フィルタを
発表し、多くのスパム・フィルタに影響を与える。
現在、Arc という新しいプログラム言語に取り組んでいる。
「Lisp」(1993 年)、
「ANSI Common Lisp」(1995 年)、「ハッカ
ーと画家」(2004 年)の著者。ハーバード大学でコンピュータ・
サイエンス博士号を取得。RISD, フィレンツェの Accademia di
Bella Arti で美術を専攻。
ポール・グラハムのプロフィール
・ Web 上でオンライン・ショップを簡単に作るアプリケーション、
「ViaWeb」の開発者。
・ Yahoo に売却し、億万長者に。(現在も Yahoo Store のプログラムとして動いている)
・ プログラムをマイナーな言語「Lisp」で書いたことで大成功した。
・ エッセイの名人。Lisp, コンピュータ、賢くなる方法、ハッカー、著作権、ベイジアン
フィルタ、大学と企業の関係、起業、などに鋭い考察をする。
・
Lisp の良さを説いた「普通の奴らの上を行け」(Beating the Averages)は、日本語訳
がある。
・
(URL: http://www.shiro.dreamhost.com/scheme/trans/beating-the-averages-j.html)
・ 「普通の奴らの上を行け」「どうしてオタクはもてないか」「口に
できないこと」など 17 のエッセイ集「ハッカーと画家」が、2005
年 1 月 15 日からオーム社より発売中。
・ 「ハッカーと画家」を読んでみたいという方にはお貸しします。
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どうして賢い人が愚かな考えにハマるのか
2005 年 4 月
私は夏に、大学生など若
今年の夏、私は友達と実験として、起業する人たちに対する
い人を対象に、起業する
多額の資金を公募した。実験っていうのは、ほとんどの投資家
ための資金を提供し、ソフ
ならお金を出さないような、若い起業家にも投資するからだ。
トの公募を行った。
それが私たちが、夏に公募を行った理由だ。大学生も参加で
きるからね。
Google と Yahoo は、大学院生がみごとに起業した例だ。
私たちは経験から、大学生の一部は、ほとんどの院生にも負
けないくらい賢いと知っている。
投資家にとって、起業を許せる年齢の下限は、どんどん引き
下げられてきた。私たちは、下限を見つけようとしてるんだ。
227 のソフトが集まった。
締め切りが過ぎ、私たちは 227 のアプリケーションを選別し
ている最中だ。
優秀 なのに、だめ なアイ
デアにハマッてしまう人た
ちがいた。
最初は、それらを二つのカテゴリーに分けられるんじゃない
かと思っていた。見込みがあるものと、そうじゃないもの。
でも私たちはすぐに、三番目のカテゴリーが必要だと知った。
見込みのないアイデアにハマった、見込みのある人たちだ。
Artix 社の経験
かつて私たちもダメなアイ
予想するべきだった。
デアで Artix 社を起業し、
起業者が「人々がお金を払うような何かを生み出さなきゃい
失敗してしまった。
けない」ってことを悟る前に、つまらないアイデアにハマるの
は、よくあることだ。事実、私たちがそうだった。
1995 年に私たちは、「ギャ
ViaWeb 社は、ロバート・モリスと私が始めた最初のベンチ
ラリーをウェブ化する」こと
ャーじゃない。1995 年 1 月に、私と数名の友人は、Artix と
を目的とした Artix 社を起
いう会社を始めた。ギャラリーをウェブ化するっていうアイデ
業した。
アだった。
なんて愚かなことに私たちは時間を浪費してしまったのだ
ろうと思うよ。
2
美術商たちは、ギャラリー
の Web 化に興味を持つど
ころか、サイトとは何かさ
え知らなかった。
ギャラリーは 10 年後になった今でも、それほどウェブに興
味を持っていない。
連中はアンティーク・ショップとは違って、訪問者みんなに
自分たちの在庫を見せるつもりはなかったんだ。
さらに言えば、美術商という人種は、世界一の技術恐怖症だ。
難解な自然科学の課程を終えてから、美術商になろうなんて
人はいないからね。
「ギャラリーを Web 上に作ってはいかがですか」と私たち
が言うまで、彼らの大部分は、Web を一度も見たことがなか
った。コンピュータを持っていない連中さえいた。
販売は困難をきわめた・・・という言葉さえ甘すぎる。
私たちは無料でサイトを作る作業に没頭せざるを得なかっ
た。
そしてそれさえも、美術商には理解できないことだったんだ。
だんだん、私たちにもわかってきた。
望みもしない連中のためにウェブサイトを作るのはやめよ
う。
望む人たちのために作ろうじゃないか。
つまり、自分たちのサイトを作りたい人向けのソフトウェア。
私たちは Artix 社をやめ
そこで私たちは Artix 社に引導を渡して、オンラインストア
て、オンラインストア作成
作成用のソフトを作るために、新しい会社、Viaweb 社を起業
用 の ソ フト を作 る 会 社 、
し、成功したんだ。
Viaweb 社を起業し、成功
した。
良い仲間がいたのは幸いだった。
マイクロソフト社は、ポール・アレンとビル・ゲイツが始め
た最初の会社じゃなかった。最初のは Traf-o-data 社って言っ
た。
私は Traf-o-data 社の結果をよく知らないけど、マイクロソ
フト社が当時言っていたほどには、成功しなかったんだろうと
思う。
3
慎重なロバートは、Artix 社には懐疑的だった。私が彼を引き
ずりこんだんだ。でも、そんな彼でさえ楽観的だった過去もあ
った。
当時 29 歳と 30 歳の私たちでさえ、すごくまぬけな考えに興
奮していたくらいだから、21 歳や 22 歳のハッカーが、ほとんど
お金になりそうもないアイデアを売り込んで来たって、私たち
は驚きゃしないんだ。
静物画効果
ど うし て賢いハッカー
なんでそんなことが起きるんだろう?
が、ダメなアイデアにハ
どうして賢いハッカーが、ダメな商売のアイデアを持ってくる
マるのか?
んだろう?
1 つ目の理由:
私たちのケースで言おう。
「最初に思いついたアイ
ダメなアイデアに固執した 1 つ目の理由は、それは私たちが最
デアだったから」
初に思いついたアイデアだったからだ。
当時、私は貧しき芸術家になろうとしながらニューヨークにい
て(まあ、
「貧しき」は簡単に達成できたんだけどさ)、ギャラ
リーにたびたび行っていた。私がウェブのことを知ったとき、2
つを結びつけるのは自然に思えた。ギャラリー経営者のために
サイトを作る・・・これこそ黄金の鍵だ!
「何年間も仕事をするつもりなら、最初のアイデアに飛びつく
前に、少なくとも数日は、別のアイデアの検討に費やしたほう
がいい」って思うかもしれないね。
「あなたは」そう考えるんだろう。
でも、一般的な人々は、そうじゃないんだ。
静物画を描くとき、人は
実際これは、静物画を描くとき、よくある問題だ。
早く描き始めたいので、
あなたは、テーブルの上にいろんな物をどさどさ置き、よさそ
配置を数分で済ませて
うに見えるまで、多分 5 分か 10 分を、配置に費やす。でも、と
描き始めてしまう。
ても気がせいていて、はやく描き始めたい。
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最初の 10 分の並べ替えを、すごく長く感じる。
だから、あなたは描き始めてしまう。
3 日後に「配置が平凡
3 日後。20 時間も静物をじっと眺め続けたあとで、なんてぶ
だった」と気づくが、もう
ざまで平凡な構成にしてしまったんだろうと、自分を蹴りとば
手遅れだ。
したくなるけど、もう手遅れ。
問題の一部は、大きなプロジェクトは、しばしば小さいものか
ら成長するってことだ。
ヒマな時間に、あなたは、ささっとスケッチをするみたいに、
静物を配置する。そしてその後の数日間は、それを描くってわ
けだ。
私はかつて、約 4 分で配置した静物画の 3 枚のバージョンを描
くのに、1 ヶ月をかけたことがある。
いろんな時点(1 日、1 週間、1 カ月)で、私は、「もう多くの時
間をかけてしまったから、いまさら変えられない」って思った。
悪いアイデアの一番の
したがって、悪いアイデアの一番の理由は「静物画効果」だ。
理 由 は 「 静物 画 効 果」
適当なアイデアを思いついて、それにのめり込む。
だ。
各時点(1 日、1 週間、1 カ月)で、「これだけ多くの時間を割い
たのだから、これがベストの考えであるに違いない」と思う。
静物画効果にハマらな
どうすればそれを修正できるだろう?
いためには、費やしてし
「のめり込み」を捨てるべきであるとは思わない。
まった時間を惜しまず、
あるアイデアにのめり込むのはいいことだ。
撤退すべき時に撤退す
もう一方の極端に、解決策がある。
ることが重要だ。
何かに時間を費やしたからって、必ずしも良くなるとは限らな
いと悟ることだ。
これは名前の場合に、最もはっきりする。
Viaweb は元々、Webgen という名前だった。
でも誰かが、すでにそういう名前の商品を持っていた。
私たちは Webgen という名前をすごく気に入っていたので、そ
の名前を使わせてくれるなら、会社の 5%をあげようと彼に申し
出たくらいだ。
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でも彼は拒否した。そこで私たちは、別の名前を考えなければ
ならなかった。
私たちが考え抜いてつけた名前が「Viaweb」だった。でも最
初のうちは、その Viaweb って名前が大嫌いだった。新しい母親
ができたような感じだ。
でも 3 日後には、私たちはその名前が大好きになっていた。
そして、Webgen はダメで古くさく聞こえた。
名前のような単純なものでさえ変更しにくいなら、あるアイデ
アを捨てることがどれほど困難か想像できるだろう。
会社の名前は、あなたの頭に一カ所でしか繋がっていない。
でも会社のアイデアは、あなたの思考に織り込まれてしまう。
だからしっかりと、割り引かなきゃいけない。
のめり込もう。でも、朝の容赦ない光の中で、自分の考えの再
検討を忘れないでほしい。
人々はこれにお金を払うだろうか?
これは私たちが提供できるもののうち、人々がいちばん多くお
金を支払いたがるものだろうか?
糞
次に行こう。私たちが Artix 社でやった 2 番目の誤りも、非常
によくある間違いだ。
2 つ目の理由:
ギャラリーのウェブ化は、クールに思えたんだ。
「金儲けよりクールであ
ることを優先してしまっ
た」
父が私に教えてくれた古いヨークシャーのことわざは、最も貴
重な教えだった。
「カネは糞の中にある」
不愉快な仕事は儲かるっていう意味だ。
そして重要なのは、逆もまた真なり、ってことなんだ。
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人々が好む「クールな」
仕事は、需要と供給の
人々が好きな仕事は、需要と供給の関係で、たいして儲からな
い。
関係で、たいして儲から
最も極端なケースは、プログラミング言語の開発だ。
ない。
プログラミング言語の開発は一文にもならない。みんなそれが
大好きで、ただでやるからだ。
Artix 社をはじめたとき、私はビジネスに関して、どっちつか
ずだった。
私は片足を芸術の世界につっこんでいたかったんだ。
なんて大きな誤りだったのだろう。
事業を始めるときは、特
事業を始めるのは、ハンググライダーの離陸に似ている。
に最初のうちは、お金を
全力でやるか、最初からやめておくか。
稼ぐことが重要だ。クー
会社の目的は、特に最初のうちは、お金を稼ぐことだ。集中力
ルさ を第一目標にして
を分散させちゃいけない。
はいけない。
スパムメールの送信とか、特許権侵害による訴訟を唯一の目的
とするような、うんざりすることきわまりない仕事をしろ、っ
て言っているわけじゃない。
私が言いたいのは、何かクールなことをする会社を始めようっ
ていうなら、目標を「クールで、できれば儲けたい」じゃなく
て「儲けて、できればクールになりたい」にしておけ、ってこ
とさ。
ハイエナ
Artix 社の件での私たちの深層心理を調べると、「臆病」とい
う 3 番目の誤りが見つかる。
3 つ目の理由:
もしあなたが、当時の私たちに「電子商取引のビジネスに参入
「臆病なあまり、競争の
しろ」と言っていたら、私たちはそのアイデアを恐ろしいと思
少ない不毛な市場を選
ったかもしれない。そんな業界は、まちがいなくベンチャーキ
んでしまった」
ャピタルから 5 億円ずつ支援されているような、恐ろしい会社
が独占しているだろうから。
「ギャラリー向けのサイト作成」という競争の少ない分野なら、
なんとか生き残れると強く思いこんでいたんだ。
7
私たちはあまりに安全にこだわりすぎた。
結局、ベンチャーキャピタルに支援された会社は、そんなに怖
くなかった。彼らはお金を使い切るのに忙しくて、ソフトウェ
アを書いてるヒマなんてなかったんだ。
1995 年の電子商取引
1995 年の電子商取引ビジネスは、業界紙を見ると、すごく競
ビジネスは、いっけん激
争が激しいように見えたけど、ソフトウェアという点で見れば、
しい競争が行われてい
さして競争は激しくなかった。ぜんぜんそんなことはなかった。
るように見えたが、ソフ
トウ ェアの品質は低 か
った。
Open Market 社(脳みそが腐ってる)のような大会社は、製品を
作っている会社のフリをしていたコンサルティング会社だった。
そして、実際に市場で提供されていたのは、Perl なら 200~
300 行程度のシロモノだった。
Perl だから、200~300 行なのかもしれない。事実、それらは
C++や Java で書かれており、何万行にもなっていた。
競争は驚くほどラクだっ
た。
どうしてそんなに恐れて
思い切って電子商取引の世界に飛び込んでみたら、実際は競争
は驚くほどラクだとわかった。
ならば、どうして私たちはそんなに恐れていたんだろう?
しまったのか?
ビ ジ ネス 」 の経 験 が な
私たちはプログラミングが上手だと知っていたけれど、
かったので、難しい物だ
私たちが「ビジネス」と呼んでいる神秘的で、分析不可能な能
と思ってしまった。
力には、自信がなかったんだ。
「ビジネス」の実態は、
「ビジネス」なんてものはない。
販売、宣伝、マーケティ
あるのは販売、宣伝、マーケティング、価格決定、顧客サポー
ング、価格決定等の仕
ト、請求書の支払い、顧客への請求、法人化、資金運用、なん
事の組み合わせで、そ
かだ。
れ らはさほ ど難しく な
そしてその組み合わせは、見かけほど難しくない。
い。
というのは、資金調達や法人化などのいくつかの仕事は、規模
の大小には関係ない。労力は O(n)で済むからだ。
また販売や宣伝のような他の仕事では、特殊な訓練より、エネ
ルギーと想像力のほうが重要だ。
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Artix 社は、ライオンを恐れ、死体の肉で生きるハイエナそっ
くりだった。オンライン・ギャラリーは、歯がないライオン以
外には、死体の肉の価値さえなかった。
身近な問題
これらの間違いをまとめると、私たちがくだらない会社のアイ
デアにハマったのも不思議じゃない。
・最初の考えにハマった
・ビジネスへの取り組みがどっちつかずだった
・競争を避けるあまり、不毛なマーケットを選んだ
集まったアプリケーショ
ンには、
・最初の考えにハマる
・カッコつけすぎ
・臆病
という欠点が見られる。
Summer Founders Program に寄せられたアプリケーション
に、これら 3 つの特徴すべてを見ることができる。
でもダントツで 1 番目の問題が多い。アプリケーションの大部
分に対して、私はこう問わずにはいられない。
「お金を稼ぐあらゆる手段のうち、これは最高のものなんです
か?」と。
ことに「最初の考えにハ
マ る」 と いう欠 点 が多
い。
彼らに Artix 社での経験があったら、そう自問することを学ん
でいただろうに。
美術商の反応で、ようやく私たちはそれを知った。
今度こそ、人々が望む物を作ってやるんだ。
雑誌記事から思いつく
ようなアイデアを、その
1 週間も「ウォール・ストリート・ジャーナル」を読んでいれ
ば、誰でも新しい起業のアイデアが 2 つや 3 つは思い浮かぶ。
まま出してきたようなも
記事のままじゃ、解決すべき問題が山積みだ。
のが多かった。
でも応募者の大部分は、そこからたいして先に進んでいるよう
には思えない。
私たちは、いちばんありがちなアイデアは、多人数参加型のオ
ンライン・ゲームだと予想していた。
そしてその予想は、さほど外れてはいなかった。これは 2 番目
に多かった。
9
もっとも陳腐なアイデア
最もありふれていたのは、ブログ、スケジュール表、出会い系
は、「 ブロ グ、 スケ ジュ
サイト、ソーシャル・ネットワーキングの何らかの組み合わせ
ー ル表、出会い系サイ
だった。
ト、ソーシャル・ネットワ
ーキングの組み合わ
せ」と「多人数参加型の
誰にでもわかる重要な未解決問題があるのに、どうしてひねく
れ者たちは、霧の中をさまよい歩くんだろう?
オンライン・ゲーム」だっ
た。
なぜ誰も小額決済の新しいアイデアを提案しないんだろう?
小額決済など、重要な
たぶん野心的なプロジェクトなんだろうけれど、あらゆる代替
未解決問題には取り組
案を考えつくしたとは思えない。
もうとしない。
新聞や雑誌のアイデア、解決策としてはまるっきりダメなんだ。
どうしてほとんどの応募
どうしてほとんどの応募者は、顧客が本当に欲しいものについ
者は、顧客が本当に欲
て考えないんだろう?
し いものについて考 え
ないのか?
私の考えでは、問題の多くは、20 代前半の時期に、人生をま
るごと、サーカスの輪っかくぐりの訓練に費やすためなんだ。
学生のころ、問題を解く
訓練ばかりして、どの問
題を解くべ きか選ぶ訓
練をしていないから。
彼らは 15 年から 20 年を、他人が用意した問題を解くのに費
やす。
でもどの問題か解くのに値するかを考えるのに、どれくらい時
間を費やしたんだろう?
2~3 単位くらいかな?
彼らは問題を解くのは上手いけど、選ぶのは下手なんだ。
私は、それは訓練のせいだと信じている。もっと正確に言えば、
ランク付けのせいだ。
学校では効率的な成績
効率的にランク付けしたいなら、みんなが同じ問題を解く必要
評価のために、みんな
がある。そしてそれは、問題をあらかじめ決めておくってこと
に同じ問題を与える。そ
を意味する。
れは 、問題はあらかじ
学校が問題をどう選ぶか、そして、どう解決するかを学生に教
め教師が選択し てしま
えているなら幸いだが、私は、そんな授業を実際にどう行えば
うことを意味する。
いいのかわからない。
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銅とスズ
いいニュースは、問題の選択法は、学習することができるって
ことだ。
私の経験からそれが言える。ハッカーは、顧客が望むものを作
ることを学ぶことができるんだ。
これは議論になりそうな意見だけど、ある起業の専門家は、私
に次のように言った。
「起業時には、ビジネス
「起業する時は、ビジネスの経験がある人を含むべきです」
の経験がある人を含む
彼らだけが、顧客が欲しいのをはっきり知ることができるから、
べきだ」という意見があ
なんだってさ。
る。
ある人のメールを引用すると、永久に彼とオサラバすることに
なっちゃいそうだけど、やってみよう。
彼のメールは、こういう意見の典型だからね。
集団に少なくとも 1 人のビジネス人がいれば、MIT が生み出す
80%の製品は成功するでしょう。
ビジネス人は「顧客の声」を代表して、技術者と商品開発の関係
を適正に保つのです。
この意見はデタラメだ。
私の意見では、この意見はデタラメだ。
ハッカーは、信号を増幅するビジネス人なしでも、まったく問
題なしに顧客の声を聞くことができる。
Google の 起 業 時に は
ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンは、コンピュータ科学の大
「ビジネス人」なんてい
学院生で、おそらく「技術者」だった。でも Google は、ビジネ
なかったが、大成功した
ス野郎が顧客の望みを彼らの耳元でささやいていたから成功し
じゃないか。
た、なんて信じられるかい?
Google にいちばん貢献したビジネス野郎は、Google の起業時
に、ご親切にも Altavista の業績を悪化させてくれた奴らだった
と思うよ。
顧客が何を欲しがっているのかを知るのが難しいのは、それを
見つけ出さなければならないからだ。
でもそれは、すぐに学ぶことができる。
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それはいろんな見方ができる絵の、もう 1 つの解釈を知るよう
なものだ。だれかが「アヒルじゃなくてウサギがいる」って言
ってくれれば、すぐに気づくだろ。
ハッカーがいつも解いている問題に比べりゃ、顧客が何を望ん
でいるかを知ることなんて簡単だ。
最適化コンパイラを書くことができるなら、意識をそこに絞り
さえすれば、ユーザを混乱させないユーザ・インターフェイス
の設計もできるだろう。
知力 を、身近で有益な
問題に注ぐこと。
そして、いちどあなたの知力を、小さいけれど有益な問題に注
ぎ始めたら、すごい勢いで金持ちになれる。
これが起業の本質だ。
才気あふれている人々に、それにふさわしい仕事をさせておく
こと。
大企業はまともな人間を雇おうとする。ベンチャーが勝つのは、
大企業がしないことをするからだ。
ベ ンチャー 起業は、大
ベンチャーは大企業で「研究」しているすごく賢い人々を引き
企業で「研究」している
抜いて、その代わりにもっと緊急の、俗っぽい問題を解かせる。
賢 い人 々 を引 き抜い
アインシュタインに冷蔵庫を設計させるようなもんだね。
て、もっと緊急の、俗っ
ぽい問題を解かせる。
人々が何を望んでいるかを学びたいなら、デール・カーネギー
の「友達に勝ち、人々に影響を与える方法」を読んで欲しい。
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友人がこの本を推薦したとき、私は「ふざけてる」と思った。
でも彼は、その本は良いと言うから、私は読んだ。
そして彼は正しかった。
その本は人間にとって最も難しい問題を論じている。
ひとりよがりではなく、いかに客観的に物事を見るか、だ。
ほとんどの賢い人々は、それほどこれが得意じゃない。
でも生の頭脳にこの能力を加えるのは、銅にスズを加えて青銅
にするようなものだ。
ずっと硬くなって、まるっきり違った金属のようになるんだ。
どう作るか、ではなく、
どう作るか、ではなく、何を作ればよいかを学んだハッカーは、
何を作ればよいかも学
とんでもなく強い。それは、お金儲けに限らない。Firefox って
んだ賢者は、とんでもな
いう小さいボランティア集団が成し遂げたことを見てごらん。
く強い。
何も飲まなければ、そのうち水がどれほど大切か解るだろう。
Artix 社の教訓は、それと同じくらい、人々が欲しいものを作
ることがどれだけ重要か教えてくれる。
でも私たちの失敗を繰り返さないで済むなら、つまり、Artix
社のような失敗をスキップし、お客の望むものをまっすぐ作る
ことができるなら、そちらのほうが、みんなにとって、より良
い。それこそが今年の夏に、本当に経験してほしいと私が願う
ことなんだ。
彼らがそう理解するまで、どれほどかかってしまうのだろう?
基金の T シャツを作り
私は SFP の T シャツを作ると決めた。
「顧客第一」という意味
いま背中に入れる文字について考えているところだ。
の文章を印刷しようと思
こんな文章にしようと思っている。
っている。
この文章を読んでいるあなたに。
これを読めるくらいなら、私はいま働いています。
私たちは、人々が望む物を作るとお約束いたします。
(終わり)
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