「ぜひ読んでほしいこの1冊」 平井隆さん(FC 会員・富山市)から図書の推薦がありました。書評と合わせて紹介します。 《茶色の朝》(大月書店発行 フランク パヴロフ・物語 1,050 円) ヴィンセント ギャロ・絵 主人公はある日、 高橋哲哉・メッセージ 藤本一勇・訳 色に守られた安心、それも悪くない」と。だが、 友人に彼の飼犬だっ 「快適な時間」を過ごしていたはずの彼らに、 た黒色のラブラドー 突然「国家反逆罪」のレッテルが張られ−−。 ルを安楽死させた、 「私たちのだれもがもっている怠慢、臆病、 と告げられる。主人 自己保身、他者への無関心といった日常的な態 公が白地に黒のぶち 度の積み重ねが、ファシズムや全体主義を成立 が入った猫を処分し させる重要な要因であることを、じつにみごと たのと同様に。毛が に描き出して」いる。東京大学大学院教授の高 茶色以外の犬猫を飼 橋哲哉氏は、本書への「メッセージ」のなかで ってはならないという法律を政府がつくった こう述べている。そして氏は、この物語は日本 からだ。街には自警団がつくられ、毒入り団子 にも無縁ではない、主人公たちが「茶色」を受 が無料配布される。主人公は胸を痛めるが、人 容していく時に持ち出すさまざまな「言い訳」 間喉もと過ぎれば熱さも忘れるものさ、と呑気 と似たような理由をつけてその都度「流れ」を に構える。そのうち、この法律を批判する新聞 受け入れているじゃないか、と警鐘を打ち鳴ら が廃刊に追い込まれ、この新聞社系列の出版物 す。そしてこう結ぶ。 「やり過ごさないこと」 「思 が街中から強制撤去される。あらゆる言葉に 考停止をやめること」が必要だと。なお、[茶 「茶色」という修飾語を織り交ぜ友人と会話を 色]はナチス党の初期の制服カラー。 ( 「早稲田 するようになる主人公。やがて「茶色に染まる 大学新聞書評」より) こと」に違和感を覚えなくなっていく。ある日、 <イラストは本書の19ページに描かれた犬 お互い自分からすすんで飼いはじめた茶色の です(編集部)> 犬と猫とを見せあいながら、二人は笑い転げる。 『心うたれました、まさに今の私達への警告の書』 「街の流れに逆らわないでいさえすれば」「茶 類書の紹介 (70才・男性)<本書の帯より> ジョージ・オーウェル 『1984年』 新庄哲夫訳 ハヤカワ文庫NV8 798 円 イギリスの作家ジョージ・オーウェルの、徹底した管理社会を描いた未来小説。 「1984 年」では 独裁者(ビッグブラザー)が国民を支配している設定になっていて、その統制を国民は意識できな い。思想統制のもとで、国民はまるで自分の意思にもとづいているかのように、独裁者の意のまま に行動する。ここで描かれた管理社会は悪意でなく善意によって出来上がった社会である。 これは、ヒットラーを彷彿させる。彼はクーデターで政権を奪取したのではなく、 「合法的」に 国会で多数を掌握したのである。まさに「善意」が生み出した政権だったと言えよう。 翻って今日の日本社会はどうか。19 世紀のイギリスの詩人バイロンは、世に出た時、 「ある朝起 きてみたら有名になっていた」と言ったが、 「ある朝起きてみたら『茶色一色』になっていた」と いうことにならないよう、日本社会への警鐘として、一読に値する小説である。 (柴田健次郎) 7
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