2016年終盤に注視すべき3つのトレンド(PDF/312KB)

2016年終盤に注視すべき3つのトレンド
2016年 9月19日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
2016 年が終盤に入るなか、投資家たちは米国や他各国での重要な動向に注視していくべき
でしょう。
要旨

「ブレグジット(英国の EU 離脱)」を問う国民投票や、イタリアでの銀行セクター問題、米国経
済の改善予想、そして報道を席けんした米国利上げ見通しなど、投資家にとって 2016 年夏
は決して平穏とは言えないシーズンとなりました。

2016 年終盤がどのような展開になるかに投資家の注目が集まるなか、我々はこの先数カ月
間に注視すべき 3 つの経済トレンドを特定しました。
-- 米国経済と米連邦準備理事会(FRB)政策は共に上向きだと見られること。
-- 米国以外の主要経済諸国は大きなリスクにさらされていると見られること。
-- 中央銀行の政策対応によって金利の「一段の低下と長期化」が恒久化する可能性がある
こと。

鍵となる論旨 — 米国経済の回復力、他各国での景気減速の可能性、そして先進諸国での
金利の「一段の低下と長期化」を推進する金融政策は、2016 年終盤にかけて、投資家にポ
ートフォリオの再配分を促す可能性があると見られます。
米国のレイバー・デー休暇が終わり、子供たちが学校に戻ってくるなか、金融市場は 2016 年夏
のシーズンを評価しつつあります。投資家が静かで平穏無事なシーズンを期待していたのなら、
失望に終わったでしょう。世界の投資環境は 6 月以降大きく変化しました。6 月末に英国が予想
外となる「ブレグジット」を国民投票によって選択したこと、イタリアで依然として続く銀行セクター
における混乱、米国経済が下半期に一段と成長するとの期待、そして FRB による新たな利上げ
時期の可能性、これらが示唆しているのは、投資家がレイバー・デー後にポートフォリオの見直し
をしたいと考えているということでしょう。
2016 年が終盤に近づくなか、投資家が注視すべき重要な経済トレンドはどのようなものでしょう
か?そしてどのようなポートフォリオポジションを彼らは取りたいと考えているのでしょうか?こうし
た疑問に対して、我々は以下に答えていきたいと思います。
トレンド1: 米国経済と FRB 政策は共に上向き
7 月及び 8 月の経済成長率統計によれば、米国の下半期国内総生産(GDP)は、過去 3 四半期
平均である 1%に比べて堅調な伸びが見込まれます。在庫は第 2 四半期 GDP から 1.26%減少し
て 3 四半期連続の減少となりましたが、反転には至らずとも落ち着きを取り戻すでしょう。同様に、
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企業による投資は、ここ最近の石油・ガス掘削装置の稼働数改善からも明らかなように、石油価
格の安定によるプラスの恩恵を受けるものと見られます。その他の分野では、住宅セクターが堅
調さを維持していることが報告されている一方、政府支出の拡大予想が今年終盤にかけて追加
の下支え期待を示唆しています。
経済そして FRB 政策にとって最も関連性が高いのは、持続的な雇用の拡大とそれに伴う賃金の
改善です。消費は米国 GDP の 70%近くを占めることから、持続的な雇用増と賃金の上昇の組み
合わせが、米国経済の特徴である回復力に中核的な強さを与えることになります。世界最大の
経済大国である米国において雇用増加と賃金上昇に起因する堅調さが続くことは、金利正常化
を望む政策立案者たちの間でも共感を呼ぶものです。先物市場では、9 月の利上げ確率を 36%、
12 月を 62%(ブルームバーグによる)と見ており、これは 6 月のブレグジット国民投票直後に見ら
れたゼロ%からすれば大きな変化です。
夏の初めの情勢と異なるもう一つの点は自然利子率、別名「R スター」についての FRB 内での議
論です(自然利子率あるいは中立利子率とは、実質フェデラル・ファンド(FF)金利に長期的なイン
フレ率による調整を加味したものです)。実際のところ、この「R スター」について、6 月には全く議
論されませんでした。政策探知の上でこの「R スター」が再浮上したことは重要だと言えます。な
ぜならそれは、金利正常化に向けて金利をどの程度の水準とスピードで動かす必要があるかに
関する FRB の見解-したがって投資戦略上の考察-を再構築するものとなるからです。
FRB が、米ワイオミング州ジャクソンホールで 8 月に開かれた会合で示唆したのと同様に、現在
の「R スター」を歴史的水準よりも低いと結論付けるとすれば、現在の金融政策は超緩和策では
なく若干の緩和に過ぎないことになります。FRB が最終的な金利水準目標を下げるなら、金利に
ついての「一段の低下と長期化」を推進する政策概念は、妥当な政策に変わるはずです。最終的
な金利水準目標をはるかに下げながら利上げペースを緩やかにする政策は、足元の利上げサイ
クルにおいて債券への潜在的な損失を低く抑えることになり、投資家は低金利期を上回る株式
バリュエーションによって大きな安心感を覚えることになるはずです。
トレンド2: 米国以外の主要経済諸国は大きなリスク
夏の初め以降、いくつかの重要な出来事を受けて特定の地域で、そして世界的にも景気減速の
可能性が高まりました。景気にマイナスの影響を与える恐れのある最近の情勢にはブレグジット
とイタリアの銀行危機が挙げられます。こうした問題に対する政治的良策の不在によって、企業
投資と個人消費を冷え込ませる不確実性が続けば御の字で、最悪の場合は深刻な景気低迷と
いう結末をもたらしかねません。
ブレグジット後の懸念の嵐はすぐに終息したものの、英国への回避しがたい負の経済的影響は
始まったばかりに過ぎません。 欧州連合(EU)との交渉に対して時間をかけるアプローチは、短
期的には英国の輸出企業が通貨安をうまく利用することを可能にしていますが、同時に事業面
での不透明感を高めています。これは雇用の先延ばしや投資削減の形で現れる可能性が高い
と考えられます。厳しさが予想される交渉と EU 諸国への輸出に関して「よそ者」的地位に置かれ
る可能性によって、ロンドンを拠点とする企業は英国からの撤退を検討していると考えられます。
例えば、多国籍通信会社であるボーダフォンはそうした動きを検討していると発表しています。ま
た米国や国際的に事業を展開する銀行も、そうした可能性を公表しています。英国内の自動車メ
ーカーは英国国内での販売台数よりも輸出台数の方が多くなっており、EU 諸国向け輸出に対し
て大幅な関税が課されることになれば、生産や企業拠点を英国からスペインなどの EU 諸国に移
転しようとする可能性があります。
こうした撤退の可能性は商業用、居住用双方の英国不動産セクターへの支えをむしばんでいくこ
とは確かでしょう。すでに、イングランド銀行(中央銀行)は、ブレグジット後の最初のまる 1 ヶ月
間である 7 月に英国の住宅ローン認可件数が対前年比 12.4%減となり過去 18 カ月間の最低を
記録したと発表しました。加えて、通貨安は輸入品コストを押し上げることから消費を妨げること
になります。英国の景気後退は避け難いと言っていいでしょう。
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米国は輸出市場として英国に大きく依存しているわけではありません。したがって英国経済の低
迷は米国経済に直接的にはほとんど影響を及ぼさないでしょう。一方で EU は英国の重要な貿
易相手です。英国・EU 間の関税は双方にとってコストを増やし貿易を阻害することになり、地域
経済減速の可能性が高まります。こうした状況が進めば投資機会が生まれるはずです。例えば、
EU 以外の諸国を貿易相手国とする英国の輸出企業の事業は堅調に推移する態勢が整ってい
るように見えます。米国内企業はさほど大きな影響を受けないと見られる一方で、英国企業と競
合する輸出企業や英国での売上げが大きい多国籍企業は英ポンドの下落による影響から打撃
を受けると見られます。
もう一つの重要な情勢であるイタリアの銀行危機は憲法改正をめぐる国民投票と重なり、EU で
新たな不安定要素となる恐れがあります。イタリアの銀行は融資残高全体の 18%、額にして
3,500 億ユーロの不良債権を抱えており、緊急支援を必要としています。EU の規定では、緊急支
援は債券保有者が損失の幾分かを負担しない限り発動できません。ブルームバーグによれば、
残念なことに、イタリアの銀行債務の 45%を保有する個人投資家は、全額ではないとしてもかなり
の割合の損失を被ることになります。こうした損失を回避する調整がまとまらなければ、そして
EU がイタリアの銀行に対する緊急支援を事実上阻止することになれば、マッテオ・レンツィ首相
の率いる政党が次期選挙で敗退し、五つ星運動に取って代わられかねません。五つ星運動とは、
人気コメディアン兼ブロガーである べッぺ・グリッロ氏とインターネット戦略家であるジャンロベル
ト・カサレッシオ氏が 7 年程前に始めたポピュリスト運動政党です。
そうした投票の実現のために、総選挙まで待つ必要はないかもしれません。レンツィ首相は、彼
の提言した憲法改革が国民投票で可決されなければ辞職することを公約しています。ブレグジッ
トに加えて、「イタリーブ」-イタリアの EU 離脱-が議論される可能性も出てくるかもしれません。
イタリアの離脱は EU 解体の可能性を加速させることから、この複雑な問題はどうにか解決され
ると見ていいでしょう。しかしながら、 ユーロと銀行株が矢面に立たされる当座の間は、ボラティ
リティの高い状態に備えるべきです。 加えて、イタリアの銀行はたとえ資本再編が実現しても積
極的な融資を行う可能性は低いことから、イタリアの景気拡大はほとんど期待できないでしょう。
トレンド3: 中央銀行の政策対応によって金利の「一段の低下と長期化」が恒久化する可能性
いくつかの重要な世界的な出来事が、先進諸国での緩和的金融政策を後押してきました。ブレ
グジットへの懸念は FRB の 7 月利上げ意欲を削ぎました。一方でイングランド銀行はブレグジッ
ト対策としてこれまで 1 回の利下げを実施しましたが、今年後半にはもう一段の利下げが予想さ
れます。ブレグジット交渉が英国と EU との間の貿易障壁につながれば、あるいは景気低迷がい
ずれにせよ確実となれば、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和策(QE)を 2017 年 3 月末ごろまでと
されていた時期を超えて続けていくことが予想されます。イタリアの銀行危機は ECB によるマイ
ナス金利政策のさらなる積極化を促進する可能性があります。日本はマイナス金利政策と QE
拡大についてその態度決定を保留としており、景気拡大を後押しする、あるいは少なくとも円安を
促進する統計が出ることを望んでいます。
FRB が金利正常化を期待する米国でさえ、低めの中立利子率に関する論議によって利上げ軌
道の速度と長期目標が押し下げられています。こうしたアプローチは、米国内の高い利回りを求
める世界の投資家たちによる需要と相まって、米国の債券価格を下支えしていくと見られ、また
FRB が短期金利を上向きに調整しようとするなかで、イールドカーブがフラット化する可能性が高
くなっています。
投資についての結論
金利の「一段の低下と長期化」は保険会社にとっては受け入れがたく、また一部の銀行にとって
は難しい環境を生み出すかもしれませんが、米国債券および米国株式投資にとっては恩恵とな
りそうです。これらのバリュエーションが代替投資先である利回りの低い債券をもとに算出されて
いるためです。またブレグジットとイタリアの銀行問題は欧州地域の、そしてある程度において世
界の景気拡大を妨げると見られるものの、金融政策が結集され財政刺激策が実施されれば、景
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気減速を和らげるものと予想されます。消費者を原動力とする米国経済は、持続する雇用拡大、
小幅な賃金上昇、慎重な FRB 姿勢そしてインフラ支出と法人税改革による財政刺激策による支
えによって何とかこの先も進んでいくと見られることから、海外のマイナス情勢に対する免疫力を
大きく維持していく可能性が高いと考えられます。
様々な出来事があった 2016 年夏に浮上した鍵となるテーマは、米国経済の回復力、海外諸国
での景気減速の可能性、そして先進諸国における金利の「一段の低下と長期化」を推進する金
融政策でした。こうした展開を受けて投資家は、変化する環境による投資への影響を捉えるため
にポートフォリオの再配分を促される可能性があると言えます。
リスクについての注記:金融市場の動向についての記載は現在の市場環境に基づいたものであり、
変動する可能性があります。予想を保証ととらえるべきではありません。
フェデラルファンド(FF)金利とは預貯金取扱金融機関が即日利用可能な資金(FRB に預けている準
備預金)を他の預貯金取扱金融機関にオーバーナイトで貸し出す際の利率です。
国内総生産(GDP)は特定の期間内に国内で生産された製品及びサービスすべての貨幣価値であり、
通常年率ベースで算出されます。GDP には個人消費、公共消費、政府支出、投資、限定された地域
内で発生する輸出から輸入を差し引いた額全てを含みます。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性
があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な
市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・
税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づい
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