国債:現在の環境下ではリスクの高い投資 2016年 8月15日 ゼーン・ E ・ブラウン パートナー、債券ストラテジスト かつて「セーフヘイブン(安全な投資避難先)」と考えられていた先進国国債は現在、多くの 投資家の想定以上に高リスクである可能性があり、リスクに見合ったリターンが得られない 状況にあります。 国債投資家は、「安全」な投資先と信じている国債のリスクを再評価した方がいいでしょう。世界 的な低成長と低金利が相まって、政府の信用格付けが引き下げられるかもしれない一方、国債 のボラティリティが増大し投資家の得る利回りがインフレ率を下回るというパラドックスが生じてい ます。投資家がより魅力的な利回りを確保しようと満期構成を長期化させるほど、ますますポート フォリオのリスクは増大します。したがって、この先数年間に発生し得る想定外のパフォーマンス 悪化を回避するには、今日の経済・金利環境下で国債を保有するリスクを十分に理解しておくこ とが有用でしょう。 どのような信用リスクか? 大半の投資家は、先進国の国債を購入する際、信用リスクをほとんどあるいは全く想定していま せん。しかし現実にはここ数年間、国債の格下げは驚くほど頻繁に行われており、多くの場合、 それを相殺する利回り上昇が伴っていません。例えば、過去 12 カ月間には、日本、フランス、オ ーストリア、フィンランド、英国などの国債が格下げされましたが、利回りは下がり続けています。 こうした状況では、投資家の負担するリスクは増える一方、得られるリターンは減少します。 これに対して米国は、2011 年のスタンダード&プアーズ(S&P)による信用格付け引き下げ以来、 格下げを回避してきましたが、この秋に行われる大統領選挙と議会選挙の結果次第では、2011 年の格下げを招いた予算を巡る駆け引きが再燃する恐れもあります。こうした政治的不確実性と 長引く低成長(国債格下げの主な要因)とが相まって、米国が再び格下げされる可能性が高まっ ています。このような事態に陥った場合でも、利回り上昇による調整は起こらないかもしれません。 しかし、米国の格下げを予兆するこうした出来事があれば、投資家に先進国国債のリスクとリタ ーンを再評価させ、その結果、これまで投資家が長い間享受してきた利回り低下を反転させる可 能性はあります。 想定外のボラティリティ 最も決定的な国債のリスクは金利リスク、すなわちボラティリティ水準です。定義によれば、同じ 満期の債券では金利が低下するほどボラティリティは増大します。つまり、金利が全般的に低下 した場合、投資家は同じ満期構成を維持していても、想定外のリスク増大とリターン低下に見舞 われることになります。例えば、シティグループのイールドブックによると、利回り 1.5%の現在の 10 年物米国債の修正デュレーションは 9.25 と、利回り 3.5%だった 2009 年の 10 年物米国債の 1 修正デュレーション 8.37 に比べて、有意に上昇しています。利回りが 3.5%から 1.5%へと大幅に低 下したにもかかわらず、投資リスクすなわちボラティリティは 10%増大しています。リスクとリターン の観点から見ると、2009 年に 10 年物米国債の投資家がデュレーションリスク 1 単位に対して受 け取ったリターンは 42 ベーシスポイント(bps)でしたが、現在では同じ投資に対してわずか 16bps しか受け取れません。 ポートフォリオ・リスクは、投資家が高利回りを求めて満期構成を長期化させるほど増大します。 現在の比較的フラットな利回り曲線の下で、投資家が負担するリスクはかなり増大している一方、 利回りはさほど増えていません。今、米国債投資で満期を 10 年から 30 年に延ばすと、利回りは 1.5%から約 2.25%へと 75bps 上昇しますが、ボラティリティ水準、すなわち修正デュレーションは 9.25 から 21.74 へと跳ね上がります。利回りを確保しようと満期を長期化させた投資家は、利回 り目標を大きく下回った一方で、ポートフォリオのボラティリティが自覚している以上に増大したと みられます。 知らぬが仏。これまでは ここ数年の金利低下で、投資家はポートフォリオのリスク増大に気付かないまま過ごしてきたよう です。デュレーションの長期化によりポートフォリオのリターンは改善しましたが、これは金利が低 下し、価格がそれに応じていたためです。しかし、金利が上昇して正常化した場合、ポートフォリ オのボラティリティは価格の時限爆弾となり、利回り上昇に伴い爆発する可能性があります。 金利上昇リスク 残念ながら、現在、金利上昇と想定外のポートフォリオ悪化を引き起こし得るさまざまな出来事が 存在します。「FRB に逆らうな」という投資格言があるように、いずれ事態はインフレの上昇と経済 成長の拡大に向けて動き出し、金利上昇を促すことになるでしょう。米連邦準備制度理事会 (FRB)が 2015 年のインフレ抑制効果を覆す中、このところの賃金上昇、石油価格の安定、米ド ル上昇ペースの鈍化はいずれもインフレ上昇の要因となり得ます。この秋に誕生する米新政権 が財政刺激策を推進すれば、やはり投資家の期待を成長拡大と金利上昇に向かわせることも考 えられます。国外要因も米国の金利に影響する可能性があります。例えば、現時点で 2017 年 3 月の終了が予定されている欧州中央銀行の積極的な債券購入プログラムが縮小すれば、利回 りの高い米国債券への需要は低下するでしょう。大規模な債券購入がなくなれば欧州の金利は 徐々に上昇し、現在は米国債券市場で買っている世界中の投資家が投資先の一部を他の地域 に移すかもしれません。 リスクを再評価するとき 米国で債券利回りの急騰が差し迫っているとは思えませんが、何らかの展開によって上昇プロセ スが始まった場合、安全な投資が負ける投資と化し、投資家の態度に変化が生じるかもしれませ ん。ゴールドマン・サックスが 6 月に「米国債の利回りが 1%上昇すれば投資家の損失は 1 兆ドル にも達し得る」との結論を出したのも、こうしたシナリオがあったからかもしれません。我々は米国 債利回りが 1%上昇するとは予想していませんが、たとえわずかでも金利が上昇した場合のポー トフォリオにおける金利リスク水準を理解しておくことは重要です。確かに、ポートフォリオを十分 に分散化するには質の高い債券も保有する必要がありますが、現在の低金利環境と、利回り確 保のための満期構成の調整実施を鑑みると、景気やインフレ、財政政策、金融政策の変化によ って金利上昇に転じた場合でも想定外の悪影響を回避できるよう、ポートフォリオのボラティリテ ィを再評価しておくことを推奨します。 リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般 に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債と 時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リスク 2 を伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市 場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利変動に対 してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格にもたらす影 響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性があります。 いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を保証すること はできません。さらにはローン保証に利用される特定の担保価値が下落する可能性や流動性が低く なる恐れがあり、ローン価値にマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。 見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保 証ととらえるべきではありません。 市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを示す保証は一切ありません。 米国債は米国政府が発行する債券であり、政府の十分な信頼と信用によって担保されています。米 国債からの所得は州、地方税が免除されています。米国債の元利金は保証されていますが、市場価 格については保証されておらず市場動向に応じて変動します。 配当は保証されておらず、発行企業の裁量により増加、減少、繰り延べされる可能性があります。 1 ベーシスポイントは 1 パーセントの 100 分の 1 です。 デュレーションは市場金利が 1%変化することで生ずる債券価値の変化です。一般にポートフォリオ のデュレーションが大きいほど、金利リスク及び債券価値に対する利益は大きくなります。デュレーシ ョン・ニュートラル・アプローチとは、ポートフォリオがベンチマーク指標と同じデュレーションとなるよう に債券ポートフォリオを運用する手法を意味します。 利回りとは債券から得られる年利であり、通常は市場債券価格に対するパーセントで表されます。 前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性 があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な 市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・ 税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づい て作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証するものではありません。 本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの 勧誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではな く、以上のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引 法に基づく開示書類ではありません。 著作権 © 2016 by Lord, Abbett & Co. LLC 無断複写・転載を禁じます。 3
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