レーザー・MIGハイブリッド溶接のアルミニウム車両への適用 (PDF

レーザー・MIGハイブリッド溶接の
アルミニウム車両への適用
米谷
弘
車両事業本部 研究開発部
①
1.はじめに
MIGトーチ
レーザー・ビーム
当社では、より高品質な車両を製造するための新たな
④
接合技術として、レーザー溶接の適用を開始している。
⑤
溶接方向
ステンレス車両においては、レーザー溶接を適用した車
②
③
⑥
両がすでに営業に供されている。この度、アルミニウム
車両の屋根構体にレーザー・MIGハイブリッド溶接を
【L&M 溶接のおもなパラメータ】
適用したので、以下に概要を紹介する。
2.レーザー・MIGハイブリッド溶接
(L&M溶接)とは
①レーザ出力
④MIGアーク電流・電圧
②ビーム径
⑤トーチ角度
③レーザ・MIG間距離
⑥溶接速度
図1 L&M溶接のイメージ図
L&M溶接は、レーザーとアークの2つの熱源を同一
独では溶接部に欠陥が生じやすいが、MIG溶接とのハ
箇所に作用させて溶接する方法で、それぞれの短所を補
イブリッド化によって低減あるいは解消できる効果も報
うとともに長所を相乗させる溶接方法である。
告されている1),2)。
L&M溶接の構成要素のうち、レーザー溶接は、集光
図1にL&M溶接のイメージ図を示す。おもに図中①
された高エネルギー密度のレーザー・ビームを溶接箇所
〜⑥のパラメータを用いて2つの熱源を適切に組合せて
に照射する溶接方法で、深溶込み・高速度・低溶接歪が
溶接する。
特長であるが、一方でギャップ裕度や施工誤差裕度に対
このような特長を持つL&M溶接をアルミニウム車両
して厳しい制約があり、継手形状の精度や組立精度を厳
に適用した場合に期待できる効果を表1に示す。
しく管理することが必要となる。これに対してMIG溶
接は、溶接速度・溶込深さの点でレーザー溶接に劣るが、
3.アルミニウム合金と溶接方法
ギャップ裕度や施工誤差裕度など施工性には優れてい
る。これら2つの熱源(レーザーとアーク)の組合せ方を
車両の構体に用いられる押出形材の材料には、特に強度
調整してハイブリッド化することによって、深溶込み・
を必要とする部位を除くと押出性に優れ、
大型で薄肉の押出
高速度性・低溶接歪の特長を保ちながらギャップ裕度や
形材や大型で中空の押出形材が製造できるA6N01S−T5
施工誤差裕度に優れた溶接とすることができる。また、
材が使用されている。この合金はいわゆるAl−Mg−Si系
アルミニウム合金への適用に関しては、レーザー溶接単
の合金で、熱処理によってMg2Siの微細な析出物を晶出
● 33●
Te c h n i c a l
Report
表1 アルミニウム車両への適用効果
適用効果
4.溶接継手の特性
効 果 に 寄 与 する 特 長
高 強度保持
熱影響力による強度低下域が小さく、継手効率が高い
品質
高 寸法精度
入熱が小さく、溶接歪が小さい
向上
品 質安定
完全自動化が可能で、熟練工に頼らずに溶接できる
意 匠性向上
ビード幅が小さく、溶接跡が目立たない
高 速度
M IG溶接の3〜4倍の速度で溶接できる( 当 社 比 )
形 材精度の制約緩和
ギャップ裕度に優れ、一般の形材精度でも溶接できる
平 滑化作業の削減
余盛が小さなビード形状で、外板の平滑化が容易
生産性
向上
構体に最も多く使用されてい
させることによって強度を向上させて使用されている。
るA6N01S−T5材にL&M溶接
を適用した場合の継手の特性に
ついて、以下に示す。
4.
1 溶接部断面
図2に、a)従来からMIG溶接で用いられている形材
MgおよびSiはおよそ320℃以上ではマトリックス中に
の継手形状に適用した場合、b)開先角度を狭くして適用
固溶しており、温度の低下とともにMg2Siとなるが、冷
した場合、c)従来どおりMIG溶接した場合 の溶接部断
却速度が遅いと大きな析出物となり、強度への寄与は小
面を示す。
さい。そこで、押出しあるいは溶体化処理後に急冷して
MIG溶接とL&M(従来継手)
とは同じ継手形状であ
固溶MgおよびSiを残した後、微細なMg2Siとする熱処
るが、MIG溶接ではV形の溶込み形状である(図2c)の
理(時効処理)を施して使用されている。溶接などによっ
に対してL&M溶接はU形となっており(図2a)
、局所
て320℃以上に加熱されると微細なMg2Si析出物はマト
的に付与されるレーザーによる熱によって広範囲に広が
リックス中に固溶して冷却過程で大きな析出物となり、
るMIGアークによる入熱を抑えつつ深い溶込みを得て
強度は低下する3)。
いることが分かる。開先角度を狭くした場合(図2b)に
したがって、溶接で与える熱量を小さくして320℃以
は、同等の深さを保ちながら幅の狭い溶込み形状となり、
上になる領域を小さくすれば、溶接によって強度が低下
より小さい入熱での溶接が実現している。溶接速度は
する範囲を小さくでき、結果として継手効率を向上する
[L&M(狭開先)>L&M(従来継手)>MIG溶接]の順
ことができる。このような性質を持つA6N01S−T5材
であり、生産性の向上にも寄与することができる。
は、小さい入熱で深い溶込みを得ることができるL&M
4.
2 硬さ分布
溶接の適用効果が大きな材料のひとつといえる。
各種溶接方法との特性比較を表2に示す。
溶接部近傍の硬さ分布を図3に示す。溶接部の近傍は
熱影響によって軟化するが、軟
表2 アルミニウム溶接方法の特性比較
溶接方法
溶接速度
溶 接 歪
強 度
ギャップ /
施工誤差裕度
継手形状
自由 度
余盛の
仕 上げ
L & M 溶 接
○
○
○
○
○
○
M I G 溶 接
△
△
○
○
○
△
レーザー 溶 接
○
○
○
×
△
○
摩擦攪拌溶接
△
○
○
×
△
△
3mm
a)L&M溶接(従来継手)
先)<L&M(従来継手)<MIG
溶接]の順となっており、熱影響
3mm
b)L&M溶接(狭開先)
図2 溶接部断面
近畿車輌技報 第13号 2006.10
化部の大きさは、
[L&M(狭開
● 34●
3mm
c)MIG溶接
110
おり、この効果は狭開先にすることによってより大きく
L&M(従来継手)
L&M(狭開先)
MIG
ビッカーズ固さ
(HV, 500gf)
100
することができる。なお、試験片は車両における使用形
態に沿って、余盛は削除し、裏板を残した形状とした。
90
80
5.溶接設備とアルミニウム車両への適用
70
L&M溶接の特徴について検討した結果、鉄道車両へ
60
50
-25
の適用が可能と判断し、設備を導入するとともにアルミ
-20
-15
-10
-5
0
5
10
ビート中央からの距離(mm)
15
20
25
ニウム車両の屋根構体に適用した。図5に溶接設備と施
図3 溶接部近傍の硬さ分布
工状況を示す。
設備は25m長の車両にも対応できるものとしており、
240
220
0.2%耐力
溶接時に次施工の段取りができるよう前後に2か所の作
引張強さ
0.2%耐力、引張強さ(MPa)
200
業ステージを設け、溶接施工する場所に応じて溶接装置
180
およびレーザー遮へい室が移動できる仕組みとなってい
160
140
る。溶接ヘッドには位置決めセンサを設けて溶接線(開
120
100
先)をならうことにより、溶接作業の完全自動化が達成
80
されている。
60
40
20
0
MIG溶接
L&M溶接
(従来継手)
6.今後の課題
L&M溶接
(挟開先)
図4 静的強度の比較
アルミニウム車両への適用はMIG溶接用の継手形状か
らはじめたが、L&M溶接にふさわしい形状とすること
によって、適用の効果をより高めることが可能と考えて
の範囲が小さい溶接が実現できていることが確認でき
いる。今後、継手形状をはじめとした種々の検討を進め、
る。
より高品質な車両の実現に貢献したいと考えている。
4.
3 静的強度
参考文献
1)片山聖二ほか:軽金属溶接,Vol.
44
(2006)No.
3,p11
2)江口法孝ほか:神戸製鋼技報,Vol.
54
(2004)No.
2,p57
3)松岡一祥ほか:軽金属溶接,Vol.
37
(1999)No.
5,p1
静的強度の比較を図4に示す。MIG溶接と同じ形状の
継手でもL&M溶接を適用した場合には熱影響範囲が小
さいことによって、高い耐力および引張強さが得られて
レーザー・ビーム
ヘッド
位置決めセンサ
MIGトーチ
図5 L&M溶接設備と施工状況(特許出願中)
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