消化ガス利用関連技術 - 公益社団法人 日本下水道協会

5.1 消化ガス利用関連技術
5.1.1 嫌気性消化(円筒形、卵形)
5.1.1.1 原理
嫌気性消化とは、酸素の存在しない(嫌気性)条件下で行われる有機物の生物分解をいう。
汚泥中の有機物は、嫌気性細菌の働きにより酸性発酵期、酸性減退期、およびアルカリ発酵期を経
て分解される。
酸性期には汚泥中のセルロースを含む炭水化物、タンパク質、脂肪などの高分子有機物を酸生成菌
の働きで、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの揮発性有機酸と低級アルコール類に加水分解する。pH は
発酵期には 5〜6 まで低下するが、減退期には 6.8 程度まで上昇する。
次いでアルカリ期にはメタン生成菌の作用で有機酸などの中間生成物がメタン、二酸化炭素、アン
モニアなどの最終生成物へと分解される。pH は 7.0〜7.4 程度となる。
消化温度を 30〜35℃とし適切な消化日数(汚泥の消化タンクでの滞留日数)をとれば、汚泥中の有
機物の 40〜60%が液化・ガス化により減少する。
5.1.1.2 設備構成概要
消化方式は一段消化、二段消化がある。二段消化は、生物反応が進行する一次タンクでは加温とか
くはんが行われ、後続の二次タンクでは沈殿分離により消化汚泥と溶解性の有機物を含む脱離液が分
離される。一次タンク、二次タンクでの消化日数はそれぞれ 20 日、10 日程度(中温消化の場合)と
される。
図 5.1.1.1 汚泥消化のフローの例(一段消化)
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
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図 5.1.1.2 汚泥消化のフローの例(二段消化)
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
消化タンクは密閉構造の鉄筋コンクリート製で形状は、円筒形が古くから用いられてきた。最近は
かくはん性に優れた卵形や亀甲形なども採用されている。
図 5.1.1.3 に消化タンクの形状を示す。
図 5.1.1.3 汚泥消化タンクの形状の例
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
タンク内部の汚泥をかくはんするため機械式またはガス式のかくはん装置が設けられる。発生した
消化ガスを利用して汚泥の加温を行う。また加温による熱の放散を少なくするため、タンク周壁のカ
バーに軽量ブロックなどの熱伝導率の小さい材料で被覆及び二重壁等により保温構造とする。さらに
消化ガスを溜めるガスホルダーを設ける。
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5.1.1.3 一般的な特徴
発生する消化ガス量は、含水率 97%前後の汚泥の場合、有機物 1kg 当り 500〜600 NL、汚泥量に対
して 10〜14 倍量程度である。消化ガスの組成は消化の程度等により異なるが、おおよそ表 5.1.1.1
に示すようなものであり、約 3〜15 倍の空気が混入すると爆発する恐れがある。
表 5.1.1.1 消化ガスの成分
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
また、消化ガスの低位発熱量は 21,000〜23,000kJ/Nm3(5,000〜5,500cal/Nm3)であり、一般には消
化タンクの加温用ボイラの燃料として用いられる。大容量の消化タンクでは、消化ガスでガス内燃機
関を運転して、その動力で発電し、ガス内燃機関の排ガス中のエネルギーを廃熱ボイラにより回収す
るとともに、内燃機関の冷却水の熱回収を行い、消化タンクの加温に利用している所もある。この場
合、消化ガスの有するエネルギーの約 30%は電力に変換され、さらに汚泥消化タンクの加温用熱量を
加えると 70%程度の利用が見込まれる。
この電力量は下水処理場全体の消費電力量の 20〜30%に当たる。
5.1.1.4 事業事例 大阪市
都市名
大阪市
利 用
下水汚泥
場 内
供用時期
平成 5 年度から順次
場 外
事業費
−
効
果
化石燃料の削減、温室効果ガス削減
技 術 <状 況>
特
消化率の向上、消化
日数の短縮
高温高濃度消化
<実機導入済み>
総エネルギー
又は施設規模
−
徴
エネルギー当り
事業費
−
費用補助制度
維持管理費
−
下水道国庫補助事業
大阪市建設局下水道河川部
(1)はじめに
大阪市では、明治 27 年に近代下水道事業に着手して以降、110 年あまりが経過した。
下水処理場については、昭和 15 年の最初の 2 か所の通水に始まり、現在では 12 か所で下水処理を
行っているが、当初は発生した汚泥を液状のまま海洋投棄していた。その後、海洋汚染が深刻な問題
となってきたため、昭和 35 年以降は、嫌気性消化と機械脱水により処理し、汚泥ケーキは埋め立て
処分されるようになった。
その後、汚泥の沈降圧密性の悪化に伴う濃縮汚泥濃度や回収率の低下が、返流水負荷の増大や消化
率の低下等の悪影響を、水処理・汚泥処理全体に及ぼすようになった。
大阪市では、この課題を克服するため、昭和 50 年代に汚泥処理システムを総合的に検討し、高濃
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度消化システムを確立した。
本文では高濃度消化法の概要と高温高濃度消化法への発展について述べる。
(2)導入目的
昭和 40 年代後半以降、生活様式の変化や都市化の進展等に伴って汚泥性状は変化し、重力濃縮槽
の引抜濃度は低下した。昭和 50 年度には 3.9%程度あった濃縮槽引抜汚泥濃度は年々減少し、昭和
59 年度には 2.4%となった。同時に濃縮槽における固形物回収率も低下し、返流水負荷の増加が水処
理にも悪影響を及ぼす事態となった。
また、濃縮濃度の低下は、消化槽投入汚泥量の増大による消化日数不足、汚泥の加温に必要な熱量
の増加等の原因となり、消化率の低下による脱水、焼却対象の汚泥量の増大も招くこととなる。
この問題を克服するために、大阪市に適した効率的な汚泥処理システムを検討した結果、大阪市型
の「高温高濃度消化法」を構築した。
1)汚泥濃縮の目標濃度
まず、目標となる汚泥濃縮濃度の設定と目標濃度を得るための方法を検討した。
嫌気性消化で発生する消化ガスだけで、年間を通じて消化槽の加温熱量をまかなえる濃度の汚泥
を、消化槽に投入する必要がある。濃縮プロセスを嫌気性消化の前工程と位置づけて、エネルギー
的視点から目標となる濃縮汚泥濃度を検討したところ、有機物含有率 70%が前提であるが、消化ガ
スを有効利用してその排熱で消化タンクの加温熱量をまかなうことにすれば、5%程度の汚泥濃度
が目標になると判断した。
また、実設備に不可欠な汚泥の輸送・撹拌を考えると、それらに必要な動力が異常に大きくなら
ない程度の上限濃度も考慮する必要がある。これについても検討を行ったところ、汚泥濃度が高く
なるに従い、水に比べより多くの動力が必要になり、汚泥濃度が 4%を超える程度までは撹拌動力
の伸びが緩やかであるが、汚泥濃度が 6%になると撹拌動力が急激に大きくなることがわかった。
この物理的側面からの判断では、目標とすべき汚泥濃度は 4〜5%程度と考えられた。
エネルギー面から評価した必要濃度と物理的な面から検討した拘束を受けると考えられる濃度
が同程度であったことから、濃縮プロセスの目標濃度を 4〜5%と設定した。
2)目標汚泥濃度を効率的に得るための濃縮方法
まず重力濃縮について、高い固形物回収率を維持しながら高濃度の汚泥を得る手法について調査
を行ったが、重力濃縮単独で 4〜5%の目標濃度を安定的に得ることが困難であることがわかった。
そこで、薬品を添加しないことを前提に、消費動力を最も重要な判断指標として、加圧浮上濃縮、
遠心濃縮という機械濃縮の適用方法について検討を行ったところ、加圧浮上濃縮では余剰汚泥で濃
縮濃度 5%を安定的に確保することが困難であり、かつ消費電力が 150kWh/t-DS 程度と大きいこ
とがわかった。
一方、遠心濃縮では余剰汚泥単独でも濃縮濃度 5%を確保でき、消費電力も 80kWh/t-DS 程度で
あることから、初沈汚泥は重力濃縮槽単独で、余剰汚泥は重力濃縮後遠心濃縮で処理する方法が、
最も効率的であると判断できた。
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なお近年、遠心濃縮以外にさらに経済的に効率よく濃縮濃度5%を確保するため、ベルト型ろ過
濃縮機や差速回転型スクリュー濃縮機を実施設で稼動させている。
3)嫌気性消化
従来の濃度の汚泥では、消化槽の有機物負荷が 1kg/m3・日程度までであったが、濃度が 4〜5%
になると、従来のままの運転では有機物負荷が 2kg/m3・日程度にまで大きくなることから、消化機
能への影響の検討を行ったが、2.5kg/m3・日程度までは消化機能に影響はなかった。また、消化日
数についても従来の 3 分の 2 程度確保すれば十分であることがわかった。
引き続き、高濃度汚泥を嫌気性消化した後の固液分離特性、調質及び脱水方法について検討を行
ったところ、高濃度の消化汚泥では2次消化槽での濃縮倍率が低いこと、洗浄槽での洗浄操作によ
る濃度上昇も見込めないことから、従来の2次消化槽と洗浄槽を省略し、場内返流負荷を削減する
ほうがはるかに有利であるという結論に達した。
以上の検討結果を示すフローが図 5.1.1.4 である。
余剰汚泥
5%
1.5%
脱水
遠心濃縮
重力濃縮
初沈汚泥
4%
消化
重力濃縮
図 5.1.1.4 高濃度消化法
4)高温高濃度消化法への発展
高濃度消化法への移行に伴い、消化槽内での発泡現象が頻繁に起こるようになった。この対策の
ひとつとして、泡の粘性を下げるために消化温度を中温域から高温域に上げることを試みた。その
結果、予想以上に安定した運転を行うことができた。高温域に上げることで消化反応速度が上昇し、
粘性の低下のためにガス分離が促進されたと考えられる。
この結果をふまえ、平成 5 年から本格的に高温高濃度消化の運転を採用することとし、現在に至
っている。
(3)事業概要
高温高濃度消化による効果について、以下に述べる。
1)ガス発生量の増大
図 5.1.1.5 は、津守下水処理場における昭和 59 年度から平成 8 年度までの消化率と消化ガス発生
量の年間平均値の変化を示したものである。
すべての汚泥を中温高濃度消化し始めた平成 2 年度以降、
消化ガス発生量は大幅に増加しており、
高温消化に移行した平成 5 年度以降はさらに増加している。一方消化率は、従来消化から中温高濃
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度消化に移行してもほとんど変化なく、45%程度であったが、高温消化に運転を切り替えてからは
約 55%に上昇していることがわかる。
消化率(%)、消化温度(℃)
60
中温高濃度 高温高濃度
消化
消化
30,000
50
25,000
40
20,000
30
20
15,000
消化率
消化温度
ガス発生量
10,000
10
ガス発生量m3/日
従来の消化
5,000
0
0
S59 S60 S61 S62 S63 H元 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8
年度
図 5.1.1.5 消化率とガス発生量の経年変化
2)補助燃料量の削減
図 5.1.1.6 は、津守下水処理場で年間に消費された消化槽加温用ボイラ燃料と汚泥焼却炉の燃料
の和を、平成元年度と平成 6 年度で比較したものである。燃料は灯油換算で示してある。当処理場
は当時 400t/日の容量の焼却炉が設置されており、他処理場からトラック輸送されてくる汚泥ケー
キも焼却処分していた。そのため、その量や性状によって燃料消費状況は変わるが、従来どおり消
化していた平成元年度に比べ、平成 6 年度は高温高濃度消化により加温熱量が増加したにもかかわ
らず、消化ガスの貢献が大きく、燃料の消費量が 60%削減されているのがわかる。
消化ガス
重油
灯油
化石燃料
平成元年度
従来消化
平成6年度
高温高濃度消化
図 5.1.1.6 津守下水処理場の汚泥処理過程での年間消費燃料量(灯油換算)
3)高温高濃度化による汚泥固形物量の削減とそれに伴う温室効果ガスの削減
住之江下水処理場では、平成 16 年度までは従来消化を行っており、平成 17 年度から高温高濃度
消化に移行した。
当処理場の平成 16 年度と平成 18 年度の汚泥量と温室効果ガス排出量を表 5.1.1.2
で比較している。なお、当処理場の汚泥は平野下水処理場に送泥され、溶融と焼却両方の方法によ
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り減量されているが、表では全量を焼却した場合の温室効果ガス排出量を示している。
表 5.1.1.2 高温高濃度消化による温室効果ガス削減効果
消化汚泥の固形物量 (t-DS/年)
メタン
(kg-CH4/年)
焼却に伴う
一酸化二窒素
温室効果ガス
(kg-N2O/年)
排出量
二酸化炭素換算
(t-CO2/年)
平成 16 年度
(従来消化)
4,275
平成 18 年度
(高温高濃度消化)
3,526
Δ749
184
151
Δ32
16,878
13,921
Δ2,957
5,236
4,319
Δ917
差
焼却汚泥量の削減だけを考慮すれば、高温高濃度消化の導入によって、DS 換算で年間約 750 ト
ンの固形物が減少し、炭酸ガス換算で年間約 900 トンの温室効果ガスを削減できている。
4)嫌気性消化導入による汚泥固形物量の削減とそれに伴う温室効果ガスの削減
海老江下水処理場では阪神淡路大震災により消化槽が損壊したため、平成 7 年 1 月から汚泥の消
化を休止していたが、平成 15 年度から運転を再開し、平成 17 年度から高温高濃度消化法を導入し
た。これに伴う温室効果ガス排出量の変化について、表 5.1.1.3 に示した。
なお、当処理場の汚泥は舞洲スラッジセンターに送泥され、すべて溶融処理を行っているため、
指標として溶融に伴う温室効果ガス排出量を用いている。
表 5.1.1.3 嫌気性消化導入による温室効果ガス削減効果
汚泥の固形物量 (t-DS/年)
一酸化二窒素
溶融に伴う
(kg-N2O/年)
温室効果ガス
二酸化炭素換算
排出量
(t-CO2/年)
嫌気性消化を
行わない場合
10,580
高温高濃度消化
を行う場合
5,625
Δ4,955
18,102
9,624
Δ8,478
5,612
2,983
Δ2,628
差
溶融汚泥量の削減だけを考慮すれば、嫌気性消化の導入によって、DS 換算で年間約 5,000 トン
の固形物が減少し、炭酸ガス換算で年間約 2,600 トンの温室効果ガスを削減できている。
(4)今後の展望
現在、高温高濃度消化法対応にむけて消化槽の更新を順次行っている。平成 22 年度には放出下水
処理場においても高温高濃度消化法を導入する予定であり、これで本市に現存するすべての消化槽が
高温高濃度化することになる。
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5.1.2 汚泥熱分解
5.1.2.1 原理
有機物は熱的に不安定であり、無酸素雰囲気あるいは低酸素濃度雰囲気の下で加熱すると、①主に
水素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素を含んだガス(気体)
、②酢酸、アセトン、メタノールなどを
含んだタールや油(液体)
、③ほとんど純粋な炭素と灰分とからなるチャー(固体)に分けられる。こ
の現象を熱分解といい、セルロース(C6H10O5)の熱分解反応については、液体成分を C6H8O で示した式
(1)で表されている。
3(C6H10O5) → 8H2O+2CO+2CO2+CH4+H2+C6H8O+7C.......................... (1)
熱分解において、①に焦点を当てたものがガス化、②に焦点を当てたものが油化、③に焦点を当て
たものが炭化である。一般に、熱分解温度が上昇すると、液体成分や固体成分が減少してガス成分が
増加する。
5.1.2.2 設備構成概要
汚泥を熱分解炉に導入し、無酸素又は低酸素状態の高温還元性雰囲気において熱分解すると、熱分
解ガスと熱分解チャーに分離する。熱分解炉としては、廃棄物ガス化溶融炉、石炭ガス化炉、ロータ
リーキルン式熱分解炉(外部加熱式熱分解炉)又はー括投入型熱分解炉(自燃式熱分解炉)の燃焼炉
又は焼成炉が一般に使用されている。
熱分解ガスは改質炉で高分子量のガスから可燃分として水素、一酸化炭素、メタンより構成される
改質ガスとなる。その後、洗浄・浄化装置で塩素分、硫黄分、重金属等の有害微量成分を取り除かれ
て燃料ガスとされる。
熱分解ガス
改質炉
汚泥
熱分解炉
洗浄・浄化装置
熱分解チャー
ガス発電等利用
スラグ等の再資源化
図 5.1.2.1 汚泥熱分解のフローの例
5.1.2.3 一般的な特徴
熱分解は嫌気性消化のように細菌による生物分解を利用するのではなく、化学的な分解である。
また、熱分解は焼却とも異なった技術であり、可燃性の固体を希薄酸素状態で熱分解して CO、H2、
メタン等の可燃性燃料ガスを取り出す技術である。すなわち、焼却炉のように多量の空気を送り込む
のではなく、炉内を高温・希薄酸素の雰囲気にして熱分解処理を行うため還元雰囲気となり、ダイオ
キシン類が発生しにくいという特徴がある。
熱分解によって得られたガス及びチャーは次に示す用途で有効利用される。
①熱分解ガス
洗浄・浄化された後冷却した熱分解ガスは、比較的良質の燃料ガスとしてガスエンジンやガスタ
ービン等の内燃機関等に供給され、発電燃料として有効利用される。
②熱分解チャー
熱分解チャーはスラグ等として再資源化される。
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5.1.2.4 事業事例
5.1.2.4.1 民間企業の実証実験
利 用
下水汚泥
技 術 <状 況>
特
徴
下水汚泥有機物のガス化、脱水汚泥ガス化による減量化
下水汚泥ガス化発電
生成ガスによる発電(ガスエンジン)
、廃熱利用による乾燥
システム
場 内
場 外
<実証実験>
総エネルギー
エネルギー当り
維持管理費
供用時期
事業費
又は施設規模
事業費
(H16,17,18)千円
H16 年度
下水汚泥処理量 15t/日
−
−
−
〜H20 年度
(200〜260kW)
効
果
費用補助制度
コスト削減、温室効果ガス削減
バイオマス等未活用エネルギー実証試験事業(NEDO)
(1)はじめに
下水汚泥部分燃焼ガス化による汚泥の処理、汚泥保有エネルギー利用の実証試験例を紹介する。
本試験は、埼玉県中川水循環センターにおいて、同センターで発生する下水汚泥の一部を原料とし
下水汚泥処理量 15t/day 規模の実証試験設備により平成 16 年度から平成 20 年度末まで行っている。
(2)試験目的
下水処理場のエネルギー使用に伴う「CO2増加」と「コスト増加」を軽減させるため、バイオマス
資源である下水汚泥エネルギーを効果的に取出し、利用する技術の開発を目標とする。
現在、下水汚泥エネルギーの再利用方法は、固形状態のまま利用する RDF 化や消化ガス化などが
ある。RDF 化においては、燃料に至るまでに要するトータルエネルギーの課題、消化ガス化において
は、既存処理場への設置の難易性やエネルギー転換効率も課題となっている。
本試験は、こうした背景から「下水汚泥有機物のガス化」技術ならびにガス化発電システムの組み
合わせによる「脱水汚泥ガス化による減量化」
、
「生成ガスによる発電」
、
「廃熱利用による乾燥」まで
を一体として捉えた、
未利用エネルギーの活用による下水汚泥利用システムの高効率化を目的とする。
下水汚泥ガス化発電システムの概略を図 5.1.2.2 に示す。下水汚泥の脱水ケーキはガス化炉や発電
設備からの廃熱を利用することにより乾燥される。乾燥された汚泥は循環流動層方式のガス化炉に投
入され、ガス化される。発生したガス化ガスは高温下で灰分・タール分を除去する高温集塵設備・タ
ール除去設備を通過後、熱回収設備において顕熱回収され、除塵・不純物質除去等の精製処理設備に
入る。精製されたガス化ガスは都市ガスと混合され発電設備に供給され、発電用の燃料として使用さ
れる。このシステムでは、ガス化炉および発電機の廃熱を下水汚泥の乾燥に利用するため、廃熱を無
駄なく利用可能な非常に総合効率の高いシステムの構築が可能となる。バイオマス由来の CO2 は排出
量としてはカウントされないため、バイオマスの保有するエネルギーを有効に利用し、廃熱を効率的
に利用する本システムは、発電における CO2 原単位を大幅に削減できる。さらに本システムでは還元
雰囲気でガス化を行うため、
焼却処分に比べ温室効果ガスである N2O の発生を大幅に抑制することが
可能である。
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図 5.1.2.2 下水汚泥ガス化発電システムの概略
(3)試験概要
1)研究スキーム
本研究は、東京ガス(株)が独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「バ
イオマス等未活用エネルギー実証試験事業」の採択を受けて、埼玉県及び財団法人埼玉県下水道公
社の協力により「下水汚泥を用いたガス化発電システムの開発に関する共同研究」として実施して
いる。
2)設備概要
実証試験設備の仕様を表 5.1.2.1、外観及びフローを写真 5.1.2.1、図 5.1.2.3 に示す。
本試験設備は、水循環センターから日量 15t(定格負荷時)の脱水ケーキを受入れ、発電設備の
廃熱及びガス化設備の余熱を利用した蒸気乾燥機にて水分 78%から 20%程度まで乾燥する。乾燥し
た汚泥はサイロに貯留後、供給設備にて定量的にかつシールしながら循環流動床式ガス化炉(CFB
ガス化炉)へ供給される。ガス化炉は耐火断熱構造で、空気及び蒸気により 850〜900℃に昇温し、
乾燥汚泥をガス化する。その後、耐火断熱構造の高温集塵設備(セラミックフィルター)にて除塵
し、750℃〜850℃に保たれたタール分解設備にて触媒によるタールの分解・除去を行う。さらに、
空気予熱器にてガス化空気を 400℃まで予熱し、ボイラ設備にて熱回収を行う。発生した蒸気は、
一部をガス化用に使用し、残りは汚泥乾燥用蒸気として利用する。ガス化ガスは、低温集塵設備で
除塵後、減温塔、酸洗浄塔、アルカリ洗浄塔からなる湿式ガス精製設備にて有害微成分が除去され
る。精製されたガス化ガスは、最終的には都市ガスと混合し除湿装置等を経てガスエンジンに投入
される。なお、使用したガスエンジンの出力は、都市ガス専焼時に最大 260kW、ガス化ガス混焼
時は 200~260kW である。
表 5.1.2.1 実証試験設備の仕様
ガス化炉
燃料
燃料処理量
発電容量
乾燥設備
ガス精製設備
発電設備
循環流動床式ガス化炉
下水汚泥
15t/day
200kW(ガス化ガス専焼時)
伝導伝熱方式
高温集塵設備(CF)+低温集塵設備(BF)
熱回収設備+タール分解設備(触媒充満式)+湿式ガス洗浄設備
ガスエンジン(GE イエンバッハ製 JMS208)
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写真 5.1.2.1 実証試験プラント外観
図 5.1.2.3 実証試験設備フロー図
3)試験状況
①ガス化試験条件
本試験における試験条件を表 5.1.2.2 に示す。CFB ガス化炉における流動媒体はドロマイト、
ガス化剤として 400℃に加熱した空気及び飽和蒸気を用いた。空気比は 0.3〜0.4 程度である。ま
た、ガス化炉温度は 850℃〜900℃である。この条件にて、ガス化炉運転の安定性、ガス特性等
を把握するため、10 日間〜30 日間の連続運転を実施した。また、その期間を利用してガスエン
ジンのガス化ガスと都市ガスの混焼運転試験も実施した。
- 65 -
表 5.1.2.2 試験条件
ガス化炉内温度
850℃〜900℃
乾燥汚泥投入量
140〜160kg/h
乾燥汚泥発熱量
18〜20kJ/kg・ds
空気比
0.3〜0.4
投入空気温度
400℃
図 5.1.2.4 ガス化炉温度トレンド
②ガス化試験結果
H17 年 5 月より運転を開始し、H19 年 3 月までに延べ 1,800 時間のガス化運転を実施し、780t
の下水汚泥の処理を行った。また、これまでの最長の連続ガス化時間は 530 時間である。
図 5.1.2.4 に部分燃焼ガス化時における炉内温度の経時変化を示す。ガス化時の炉内温度は 850℃
〜900℃で安定しており、また温度分布も非常に小さく、安定運転が可能であることを確認した。
このときのガス化炉出口のガス性状及びそれにより計算した発熱量、炭素転換率、冷ガス効率を表
5.1.2.3 に示す。冷ガス効率は最大 65%、炭素転換効率は最大 95%と、ともに高い値を示すことを
確認した。
表 5.1.2.3 ガス化性能
ガス組成
H2
CO
CH4
C2H4
C2H6
CO2
N2
総発熱量
冷ガス効率
炭素転換率
9 – 12 %dry
7 – 9 %dry
3 – 4 %dry
1 – 2 %dry
0.1 – 0.2 %dry
14 – 16 %dry
57 – 60 %dry
4.2 – 5.0 MJ/Nm3
55 – 62 %
81 – 94 %
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③ガスエンジンの混焼試験結果
本試験では、ガス化連続運転期間を利用して、ガスエンジンの運転試験も併せて実施した。その
際、都市ガスとガス化ガスを混合し、その混焼率を熱量ベースで 19.5%、38.8%、45.9%と変動さ
せて出力 200kW でエンジンの運転を行った。その結果、表 5.1.2.4 に示すとおり、混焼運転時の発
電効率は 37%〜38%程度と非常に高い値であり、安定した発電運転が可能であることを確認した。
また、低負荷ではあるものの、ガス化ガス専焼時においても安定した発電が可能なことが確認でき
た。
表 5.1.2.4 ガスエンジン発電試験結果(200kW)
④ガス化ガス中の不要成分処理
ガス化ガス中には微量の不要成分が含まれており、これらはガスエンジンに悪影響を及ぼすこと
が懸念されるため、ガス精製設備において除去する必要がある。表 5.1.2.5 にガス精製設備の不要
成分除去性能を示す。ガス化ガス中の不要成分は、ガス精製設備により 90〜99%除去されているこ
とが確認された。
表 5.1.2.5 ガス精製設備の不要成分除去性能
⑤ガス化残渣の特性
表 5.1.2.6 に汚泥ガス化残渣(CF 灰)の溶出試験の結果を示す。いずれの値も埋め立て基準値を
下回っており、残渣の組成、溶出元素ともに問題ないことが確認された。また灰中のダイオキシン
類濃度に関しても問題がないことが確認されている。
- 67 -
表 5.1.2.6 ガス化残渣の溶出試験結果
⑥プラント廃水の特性
表 5.1.2.7 に本実証プラント廃水の分析結果を示した。プラントは下水処理場敷地内に設置され
るものであるが、参考値として、公共下水道への放流基準である下水排除基準値もあわせて示した。
水銀、アンモニア及び窒素含有量を除いた項目で参考の基準値を下回った。
表 5.1.2.7 廃水中の不要成分濃度
- 68 -
(4)導入効果
下水汚泥の処理とエネルギー回収、利用を同時に達成できるシステムの確立を目的として、脱水汚
泥ベースで 15t/day の実スケールの前段階である実証スケール規模の運転実績が蓄積された。その中
で、以下のような結果が得られている。
・安定したガス化運転(炉内温度及びガス化ガス組成)
・冷ガス効率 65%達成
・ガスエンジン発電効率 38.1%達成
・ガス化残渣は埋め立て基準をクリア
・これにより汚泥処理と同時に汚泥保有エネルギーの約 25%を電気エネルギーに変換可能
・ガス化ガスを利用したガスエンジンの運転実績
・都市ガス混焼の有効性の確認
(5)今後の課題、展望
今後は、100 日程度の連続運転を行い、更なる安定性、信頼性を向上させるためのデータを蓄積し、
本研究の成果が活かされるよう検証を進めていく。
また、ガス化ガス洗浄廃水中の不要成分のさらなる低減除去の検討、ガス化残渣の増加抑制に関す
る検討を継続し、最終的に実規模処理場における本システム導入効果の検討を行う予定である。
- 69 -
5.1.3 消化ガス発電(ガスエンジン、マイクロガスタービン)
5.1.3.1 原理
消化ガスを燃料としてガスエンジンあるいはマイクロガスタービンの回転により発電機を稼動さ
せる。廃熱の回収は熱交換器やボイラによって温水が回収される。安定した発電を行うために消化ガ
スの貯蔵が必要となる。
5.1.3.2 設備構成概要
(1)ガスエンジン
ガスエンジンは、消化ガス用として最初に実用化された発電方式で、概ね 100〜1,000kW 程度の容
量があり、消化ガス用の発電システムとしては最も一般的な方式となっている。
これまで、消化ガスを燃料とするガスエンジンでは、エンジン部品やNOx除去触媒の寿命が短く、
結果として設備維持費用が高くなるという課題があった。しかし近年、消化ガス中の微量不純物成分
(シロキサン:有機ケイ素化合物)の存在が明らかになり、これがエンジン内で燃焼して生成したシ
リカ(SiO2)に起因することが解明されている。
その結果、消化ガス中のシロキサンを除去することによる対策が可能となり、従来は経済性の観点
から消化ガス発電の導入が難しかった中小規模の処理場に対しても、消化ガス発電の導入が進むもの
と予想される。
熱交換器
消化ガス
前処理装置
ガスエンジン
温水
電力
前処理装置 :活性炭フィルターでシロキサン除去を行う。
ガスエンジン:消化ガスを燃焼し、エンジンを回転させることで発電する。
熱交換器
:ジャケット冷却水及び排ガスと熱交換を行い、温水を作り出す。
図 5.1.3.1 消化ガス発電(ガスエンジン)のフローの例
(2)マイクロガスタービン
マイクロガスタービンは、基本的には大型のガスタービンと同じ原理に基づいているが、再生サイ
クルの採用により 100kW 以下の小容量でも比較的高い発電効率を達成している。また、空気軸受けの
採用や発電機直結による減速機の省略等により部品点数が削減され、
信頼性・保守性が向上しており、
設備維持費用の低減が期待されている。
なお、マイクロガスタービンもガスエンジンと同様、燃焼をともなう発電方式のため、消化ガス中
のシロキサンの燃焼で生成するシリカによって、
エンジン部品の損傷を受けることが予想されるため、
除去する必要がある。
- 70 -
熱交換器
消化ガス
前処理装置
マイクロガスタービン
温水
電力
前処理装置 :活性炭フィルターでシロキサン除去を行う。
マイクロガスタービン:消化ガスを燃焼し、エンジンを回転させることで発電する。
熱交換器
:排ガスと熱交換を行い、温水を作り出す。
図 5.1.3.2 消化ガス発電(マイクロガスタービン)のフローの例
5.1.3.3 一般的な特徴
ガスエンジは、ガスエンジンで発電機を駆動して発電し、電力を供給すると同時に、排ガス、ジャ
ケット冷却水からの廃熱を蒸気、温水の形態で回収し、冷暖房、給湯などに利用される。発電効率が
高く、発電出力に対し熱出力の割合が小さいため、電力需要の多い施設に適している。
一方、マイクロガスタービンは、コンパクトでエネルギー効率の高い小型ガスコージェネレーショ
ンシステムとして注目されているシステムである。同等の発電能力をもつガスエンジンと比較すると
小型軽量で、コージェネレーションシステムのコンパクト化が図りやすく、また構造がシンプルで部
品点数も少ないため、メンテナンスが容易という特徴がある。
一般に、ガスエンジンの発電効率は 25〜35%、廃熱効率は 40〜55%に達し、総合効率としては約
80%である。一方、マイクロガスタービンの発電効率は 10 数%であるが、タービンからの廃熱を利用
する再生サイクル技術により、同クラスのガスエンジン、ディーゼルエンジンと同等の 30%前後の発
電効率まで上昇する。また、エンジン式と比較すると、廃熱の量や廃熱温度が高いといった特徴があ
り、廃熱回収することで 80〜90%の高い総合熱効率を得ることができる。
- 71 -
5.1.3.4 事業事例
5.1.3.4.1 東京都
都市名
利 用
技 術 <状 況>
特
徴
ガスエンジン発電(常用)
消化ガス
ガスタービン発電(非常用)+ 下水道事業として国内初
東京都
の PFI 事業(BTO 方式)
NaS 電池+温水器
場 内
場 外
<実機導入済み>
総エネルギー
エネルギー当り
維持管理費
供用時期
事業費
又は施設規模
事業費 千円/kW
千円
常時:3,200kW
約 430,000
約 2.8 億円
非常時:10,990kW
−
H16.4
(ただし非常用発
(3 ヵ年の PFI 事業者へ
NaS 電池:8,000kW
電機部のみ)
の支払い総額)
熱:46,043MJ/h
効
果
費用補助制度
電力使用量削減、温室効果ガス削減
下水道国庫補助事業(非常用発電機部のみ)
東京都下水道局計画調整部計画課
(1) はじめに
東京都区部の下水道事業は、23 特別区の 57,839ha を対象に、公共下水道の建設、維持管理を行
っており、区部の下水道は、平成6年度末に 100%普及概成し、現在、82 ヶ所のポンプ所、13 ヵ所
の水再生センターを有し、1 日平均約 480 万m³の汚水を処理(平成 18 年度実績)している。この
度、バイオマス資源である汚泥消化ガスを発電燃料として使用した常用発電事業を下水道事業とし
て国内初の PFI 方式によって実施した。
(2) 導入目的
1)低廉かつ安定的な電力の確保
下水道局では、都内使用電力の約 1%に相当する約 80 万 MWh の電力を消費しており、膨大な電
力費用を要している。
本事業により、民間事業者のノウハウを活用することで、下水処理に不可欠な電力を低廉に確保
するとともに、電源の多様化による処理場運営の信頼性の向上を図る。
2)地球温暖化の防止
下水道局は、東京都の事務事業活動で排出される約 220 万トンの温室効果ガスのうち約 43%に相
当する最も多くの温室効果ガスを排出しており、地球温暖化防止に対する大きな責任を負っている。
そのため、当局では、自主的かつ積極的な地球温暖化防止対策の実施に向け、平成 16 年 9 月に
「アースプラン 2004」を策定した。これは、温室効果ガス排出量を 2009 年度までに 1990 年度比
で 6%以上削減することを目標としている。
本事業では、汚泥処理過程で発生する汚泥消化ガスを発電用に有効活用することで省エネルギー
化に努めるとともに、
「アースプラン 2004」
の着実な推進に向け温室効果ガス排出量の削減を図る。
- 72 -
(3) 事業概要
本事業は、国内最大の水処理施設を有する森ヶ崎水再生センター(旧 森ヶ崎水処理センター)に
おいて、未利用エネルギーである汚泥消化ガスを燃料とする常用発電設備を建設・運営し、施設用電力
及び汚泥消化槽用の温水を供給するものである。また、安価な夜間電力の活用、電力負荷の平準化等を図
ることができる NaS 電池、非常用発電設備の建設・運営も本事業範囲である。
事業者である森ヶ崎エナジーサービス㈱は、施設の建設及び事業の管理・運営を行い、下水道局に
電力及び温水を供給する。また、下水道局は事業者に汚泥消化ガスと下水処理水を無償で提供する。
外部より受電
森ヶ崎水処 理セ ンタ ー
受電施設
PFI事業 者
売電
売熱
汚泥消化槽
ガスタンク
発電設備
3,070kW(消化ガス)
9,079kW(灯油)
46,043MJ/h
常時
非常時
熱
消化ガス
充電︵夜間︶
処理水
提供
放電︵昼間︶
汚泥
水処理施設
消化ガス
提供
NAS電池( 2,000kW×4台)
図 5.1.3.3 事業概要
表 5.1.3.1 事業概要
事業名
概 要
事業者
事業開始年月日
事業期間
森ヶ崎水処理センター常用発電事業
・消化ガスを活用した常用発電及び電力供給
・発電廃熱を利用した温水供給
・NaS 電池を利用した電力負荷の平準化、
電力コスト縮減
・非常時における発電及び電力供給
森ヶ崎エナジーサービス㈱(特別目的会社)
<出資者:東京電力㈱、三菱商事㈱>
平成 16 年 4 月
運営開始から 20 年間(平成 36 年 3 月まで)
1)事業スキーム
本事業においては、財政負担の軽減及び効率的なリスク管理を図るため、下水道事業としては国
内初となる PFI 方式を導入した。また、下水道管理者として施設の管理権限を確保し、下水道事業
に係る国土交通省からの補助金を導入するため、事業者が発電設備を建設し、その後所有権を下水
- 73 -
道局に移転する BOT 方式を採用している。なお、非常用発電相当部分は下水道施設の建設に伴う
補助金、東京都の起債等単費により資金調達し、それ以外の部分は事業者自らが資金調達した。
事業者の選定にあたっては、応募者から提出された本事業に関する事業計画、事業提案を受け、
あらかじめ公表した審査基準に基づき、平成 14 年 4 月に本事業の優先交渉権者として東京電力㈱を
代表とするグループを選定した。その後、条件規定書をベースに提案内容との整合を図り、平成 14
年 10 月に契約に至った。契約に関して特徴的な点について次に述べる。
① エネルギー価格変動リスク
日本は原油や天然ガス等の化石エネルギーをほぼ海外に依存しているが、この価格は海外情勢
により大幅に変動する。特に本事業の事業運営期間は 20 年と長期間であり、その間にエネルギ
ー価格は変動することが想定される。しかし、その変動傾向及び変動幅を予測することは極めて
困難である。 この価格変動リスクを事業者の負担とした場合、安定的な事業運営に支障が生じ
る可能性もあるため、本事業では財務省統計と連動して当局が事業者に支払うエネルギー価格を
改定するものとした。
② その他のリスク分担
事業実施に当たってはその他様々なリスクが想定される。工事の遅延、第三者への損害、社会
状況の変動、天災・人災等があるが、本事業においては、当局または事業者の責に起因するもの
はそれぞれが分担し、社会状況の変化や天災等の不可避な事情に起因するものについては、一定
の免責額以上は当局が負担することとした。これは事業者の事業実施に対するモラルを維持しつ
つ、事業の安定継続を確保するためである。
③ 特別目的会社の設立
本事業では、出資者の経営状況の変化によらず事業運営の安定性を確保するため、特別目的
会社(SPC:Special Purpose Company)である「森ヶ崎エナジー株式会社」を設立した。
2)施設概要
表 5.1.3.2 施設概要
常用発電設備
非常用発電設備
NaS 電池
温水器
(消化槽加温用)
ガスエンジン(消化ガス専燃)
:3,200kW×1 基(計画発電量 2,600 万 kWh/年)
ガスタービン(消化ガス・灯油切替混燃)
:1,840kW(消化ガス)/ 2,750kW(灯油)×1 基
ガスタービン(灯油)
:3,200kW×2 基
2,000kW×4 基
温水供給能力:46,043MJ/h
加温源:発電設備排気ガス、消化ガス、灯油
※消化ガス発生量(計画最大値)
:1,570 万m3(N)/年
処理水使用量(計画最大値) :700,000m3/年
本施設は、常用発電設備、非常用発電設備、NaS電池、温水器等から構成される。
<常用発電設備、温水器>
都市ガス等の代替としてバイオマスエネルギーである汚泥消化ガスを発電燃料として常時発電す
- 74 -
る。さらにその廃熱を温水器により汚泥消化槽の加温水として利用することで環境負荷の低減を図る
とともに燃料コストの縮減を実現する。また、発電機の冷却水としては下水処理水を利用しており、
さらなる環境負荷の低減を図ることができる。
<NaS電池>
世界最大規模の8,000kWの能力を有し、低廉な夜間電力を効率よく活用することにより、電力負
荷の平準化を図るとともに、電力負荷のピークカットによる契約電力の低減等、電力コストを縮減す
る。
<非常用発電設備>
停電等の非常時に、燃料に灯油を使用して発電する。
なお、常用発電設備の定期点検や故障時には、非常用発電設備のうち消化ガス・灯油切替混燃
が可能なデュアルフューエル型ガスタービンを運転し、消化ガスの有効活用に努める。
3)運転状況
平成 16 年 4 月の事業開始より、約 3 ヵ年が経過した。稼動実績としては、消化ガス発生量は
計画値 1,570 万m3(N)に対し最大で約 82%程度、常用発電設備発電量は計画値 2,600 万kWに
対し最大で約 80%程度と、概ね計画値に近い性能を発揮している。
(4) 導入効果
1)電力コストの縮減
導入前において、森ヶ崎水再生センターの電力料金は年間約 13 億円程度であった。本事業の
実施により内部で電力調達を行えることから、電力費を大幅に引き下げることができる。導入後
の電力コストは、年間約 7 億円と見積られており、年間約 6 億円のコスト縮減となる。事業計画
20 年間では、約 128 億円の財政支出の削減が見込まれている。
2)温室効果ガスの削減
未利用エネルギーである汚泥消化ガスを全量有効活用することにより、重油換算で年間ドラム缶
(200L)約 23,000 本相当のエネルギー消費量を削減できる。また、温室効果ガスは、二酸化炭素
に換算すると年間 4,772 トン(東京ドーム 300 個分の広さに相当する 1,325ha の森林が吸収する
二酸化炭素の量に相当)の削減が見込まれている。
3)複数電源による信頼性の確保
導入前において、森ヶ崎水再生センター東処理施設への供給電力は商用電力のみであった。本事
業により、常用発電設備、NaS 電池、非常用発電設備などによる電力源の多様化が図られ、電力
確保の安全性及び停電リスクの分散を図ることができた。
- 75 -
(5) 今後の課題、展望
下水処理過程においては膨大な電力を消費し、地球環境への負荷、コスト面での負担は大きい。
そこで、下水道局では、地球温暖化対策を積極的かつ計画的に進めるため、平成 19 年 2 月に策定し
た経営計画 2007 において、
「アースプラン」を着実に推進するとともに、東京都の地球温暖化防止
施策である「カーボンマイナス東京 10 年プロジェクト」
(平成 18 年 12 月策定)に貢献することと
している。省エネルギー化、水処理過程で発生する汚泥や消化ガス等の有効利用は、地球環境保全
の面でも重要であり、これらに適切に対応していくことが下水道事業には求められている。
一方、電力自由化は進展しつつあり、電力確保の手段や契約形態・各種料金の設定は今後ますま
す複雑化していくものと思われる。
そのような状況の中で下水道事業の特性に見合った最適な電力確保方法を見出していくためには、
当局(官)と事業者(民)がそれぞれの持つ情報とノウハウを存分に活用し役割分担していかなけ
ればならない。本事業においては、事業者の提案にできる限り制約を設けないことで大幅な経費節
減と環境改善効果を引き出すことができた。今後も PFI やその他の手段で民間のノウハウを活用し、
よりよい下水道事業の推進に取り組んでいく。
5.1.3.4.2 横浜市
都市名
横浜市
供用時期
S62 年
利 用
消化ガス
場 内
技 術 <状 況>
場 外
事業費
ガスエンジン 47 億円
特
ガスエンジン発電
<実機導入済み>
総エネルギー
又は施設規模
ガスエンジン:7,180kW
効
果
電力、都市ガス使用量削減、温室効果ガス削減
徴
集約した汚泥の
保有エネルギー活用
エネルギー当り
事業費 千円/kW
維持管理費
(H16,17)千円
324,103:310,977
(内訳:人件費、修繕費、
点検費、ユーティリティ
ー費)
655
費用補助制度
下水道国庫補助事業
横浜市環境創造局
(1)はじめに
横浜市は国際貿易港を有していたことから、外国人居留地において、他の都市より早く下水道整備
に着手し、昭和44年には、ほぼ市内全域について下水道法の事業認可を取得した。平成17年度末の事
業認可区域は、市域面積43,498haのうち40,023haで、処理区域面積は30,709ha、市の総人口に対する下
水道普及率は99.7%となっている。
(2)導入目的
本市の汚泥処理は当初、各水再生センターから発生する汚泥の大部分を脱水汚泥として埋立処分
していたが、その後、南北 2 箇所に汚泥資源化センターを建設し、北部方面 5 箇所、南部方面 6 箇
所の水再生センターで発生する汚泥を集約処理している。
汚泥資源化センターでは、汚泥の保有エネルギーを活用するため、処理の主要プロセスである嫌気
性消化で発生する消化ガスを回収し、主に発電用ガスエンジンや汚泥焼却炉の燃料として利用してい
- 76 -
る。消化ガス利用の効果としては、電力、都市ガス使用量の減少による経費節減、温室効果ガス発生
量の削減があげられる。
(3)事業概要:消化ガス発電(ガスエンジン)
①事業スキーム
消化ガス発電機は、消化の過程で発生する消化ガスを発電用ガスエンジンの燃料とする目的
で設置され、北部汚泥資源化センターに5台、南部汚泥資源化センターに2台設置されている。
建設に当たり下水道国庫補助事業の採択をうけ、昭和62年、平成元年・8年に北部汚泥資源
化センター、平成元年に南部汚泥資源化センターに完成・稼動した。
②設備概要
北部汚泥
資源化センター
南部汚泥
資源化センター
№
竣工年
原動機形式
1
2
3
4
5
1
2
昭和 62 年
昭和 62 年
昭和 62 年
平成元年
平成8年
平成元年
平成元年
V型
V型
V型
V型
V型
V型
V型
原動機出力
(kW)
920
920
920
920
1,100
1,200
1,200
国庫補助
の区分
高率
高率
高率
高率
高率
高率
高率
③運転状況及び維持管理状況
H17 年度
H16 年度
H15 年度
H14 年度
H13 年度
消化ガス使用量
(Nm3/年)
18,952,410
17,925,833
18,201,615
18,467,052
18,462,209
発電電力量(kWh)
38,240,610
35,966,570
36,784,590
37,810,830
36,774,840
14,200
13,400
13,700
14,100
13,700
310,977
324,103
336,257
328,414
326,858
発電電力量を電気事業者から
購入した場合の CO2 削減量
(0.372kg/kWh)
(t)
維持管理費(千円)
④建設コスト
建設費は、南・北汚泥資源化センターを合わせて、プラント設備工事で47億円となっている。
(4)導入効果
発生した消化ガスの65%を発電機、30%を焼却炉、残りを空調機などの燃料に利用しており、
温暖化防止に役立てている。汚泥資源化センターの使用電力の約62%を賄っている。
(5)今後の課題、展望
消化ガスに含まれる微量有害物質(シロキサン等)がガス燃焼時に二酸化珪素に変化し、エンジ
ン内部に付着し機器を損傷させるため、その対策が必要である。
- 77 -
5.1.3.4.3 大阪市
都市名
利 用
消化ガス
場 内
場 外
技 術 <状 況>
特
徴
コージェネレーション
大阪市
<実機導入済み>
(熱電供給システム)
総エネルギー
エネルギー当り
維持管理費
供用時期
事業費
又は施設規模
事業費 千円/kW
(H16,17,18)千円
約 8.6 億円(ガス
※104,982;52,420;
H7 年 4 月
約 600kW×2 台
717
発電設備のみ)
48,202
効
果
費用補助制度
都市ガス・電力使用量削減、温室効果ガス削減 下水道国庫補助事業
ガスエンジン発電+消化槽加温設備
※:H16 維持管理費は補修工事を含む。
大阪市建設局下水道河川部
(1)はじめに
大阪市の下水道は、面的にはほぼ整備されており、12 の下水処理場で下水を処理し、舞洲スラッ
ジセンターで一部の汚泥を処理しており、水処理の現在処理能力は 2,844,000m3/日(他都市分
122,000m3/日を含む)である。
汚泥の処理・処分については、7 下水処理場で汚泥処理を行い、各処理場で発生した脱水ケーキ
は放出・平野にある焼却施設と平野・舞洲スラッジセンターにある溶融施設にて処理している。発
生した溶融スラグは建設資材の一部として有効利用している。
ここでは、消化ガス発電のコージェネレーションシステムを紹介する。
(2)導入目的
本市では大野、津守下水処理場に続いて 3 番目となる中浜下水処理場への高濃度消化システムが平
成 7 年度に導入されたことにより、汚泥量が大幅に削減されるとともに、単位汚泥量当たりの消化ガ
ス発生量が増大し、また、高温域で本システムを運転することにより消化率の向上が図られた。
高濃度消化システムの導入により、これまでの消化槽加温用だけでは、大量の余剰ガスが発生する。
エネルギー的価値の高い消化ガスを有効に活用するため、昭和 59 年〜60 年には消化ガスエンジンの
実用化実験を行ない、ガスエンジンの適用性と排ガスの環境への影響を調査した。
その結果、中浜下水処理場へガスエンジンを動力とした消化ガス発電設備を導入することとなった。
このコージェネレーションシステムは、電力は下水道施設の運転の動力に、熱は、消化槽の加温に還
元するもので、平成 3 年度より建設工事に着手し平成 7 年 4 月より供用開始している。
(3)事業概要
●事業スキーム
下水道国庫補助事業
●設備概要
消化槽で発生した消化ガスは精製(脱硫、除湿、脱炭酸)し、ガスエンジンに供給され発電機の
動力となる。ガスエンジン本体、排ガスの廃熱は温水として回収し消化槽加温設備に供給し、排ガ
スは脱硝後大気に放出する。余熱はクーリングタワーにて大気に放熱する。
z 消化ガスエンジン
消化ガスエンジンは、燃料供給系の構造が単純であり、点火用のパイロット油を必要とせず消
- 78 -
化ガスのみで運転できる火花点火式ガスエンジンを採用している。また、大気汚染防止の観点か
ら排ガス中の窒素酸化物濃度(NOx)を 200ppm(O2:0%)以下とするよう、予燃焼室付の希薄燃
焼方式を採用している。
表 5.1.3.4 中浜下水処理場消化ガス発電設備の概要
消化ガスエンジン
発 電 機
項
目
形
式
シ リ ン ダ 数
定 格 出 力
回
転
数
NO X 排 出 値
設 置 台 数
形
式
定 格 出 力
極
数
電
圧
周
波
数
設 置 台 数
仕
様
水冷形単動4サイクル火花点火予燃焼室付ガス機関
V 形 12 気筒
900PS
1200rpm
200ppm
2台
三相交流同期発電機
600kW(750kVA)
6極
3300V
60Hz
2台
写真 5.1.3.3 中浜下水処理場のガスエンジン
z
脱硝設備
消化ガスエンジンでNOxの発生源対策を実施しているものの、負荷変動によるNOx濃度の上昇
及び更なる削減を図るため脱硝設備を設置している。
脱硝方式は、消化ガスエンジンが希薄燃焼方式を採用していることにより、アンモニア選択還
元脱硝方式を採用している。なお、還元剤は、高圧ガス取締法や、毒物劇物取締法の規制を受け
ないで、取扱いが簡単かつ設備が簡素化できる尿素水を使用している。
●運転状況(近年 5 ヵ年程度)
平成 14 年度 発電量 約 15,000kw・h/日 処理場での年間使用電力量の約 31%相当
平成 15 年度 発電量 約 9,500kw・h/日 処理場での年間使用電力量の約 21%相当
平成 16 年度 発電量 約 13,500kw・h/日 処理場での年間使用電力量の約 31%相当
平成 17 年度 発電量 約 12,600kw・h/日 処理場での年間使用電力量の約 28%相当
平成 18 年度 発電量 約 11,000kw・h/日 処理場での年間使用電力量の約 25%相当
●維持管理状況(近年 3 ヵ年程度)
平成 16 年度 104,982 千円、平成 17 年度 52,420 千円、平成 18 年度;48,202 千円
(※:平成 16 維持管理費は補修工事を含む)
- 79 -
●コスト 建設費:約 33 億円(消化ガス発電設備、汚泥遠心濃縮機、消化槽加温設備、汚泥棟含む。
消化ガス発電のみは約 8.6 億円)
(4)導入効果
ガス発電によるコージェネレーションは最も温室効果ガスの排出抑制に効果のある利用方法で
ある。コージェネレーションは発電と廃熱回収を併せて7〜8 割の総合効率であるが、温室効果
ガスの排出削減効果としてみる場合、発電部分は一次エネルギーの削減効果で算出されるため、
全体の削減効果として 10 割を超え、代替燃料として利用する場合より効果が大きい。
中浜下水処理場では、ガスエンジンによる消化ガス発電と廃熱による消化槽の加温を行っており、
消化槽の運転は高温高濃度消化法を採用している。
消化ガス発電を含めたシステム全体の熱収支は図 5.1.3.5 のようになる。平成 7〜16 年度の運転実
績を平均すると、発電量は約 5 百万 kWh/年、発電効率は約 33%となる。
図 5.1.3.5 高温高濃度消化とガスエンジンによる熱収支
(5)今後の課題、展望
下水汚泥のエネルギー利用では、消化ガスの有効利用が最大の課題と考えている。大阪市は、
省エネルギー的に汚泥の減量化が図れる嫌気性消化を汚泥処理の重要なプロセスと考え、積極的
に技術開発を進め、先進的に実施してきた。しかし、発生する消化ガスの利用については、まだ
まだ不十分な状態にあるといわざるを得ない。先にも述べたように、嫌気性消化は発生する消化
ガスを有効利用することで、さらに効果を発揮するので、今後、積極的に進めていきたい。その
際最も重要な課題は、小規模でもコスト的に成立する技術あるいはシステム、手法の開発と考え
ている。
下水道事業は、水環境を改善する中心的な役割を担っており、今後も引続き合流式下水道の改善や
高度処理の導入などを着実に進めていく必要がある。一方、これらの事業を進めることにより電力消
費が増大し、環境負荷を発生させる要因となる。このような事態を避けるため、今後とも、水環境の
改善を図りつつ、より一層の省エネや消化ガスなど新エネルギーの活用による温室効果ガスの削減に
努め、地球環境の改善にも積極的な事業運営を行うことが重要であると考えている。
- 80 -
5.1.3.4.4 群馬県伊勢崎市
都市名
群馬県伊勢崎市
供用時期
利 用
消化ガス
場 内
技 術 <状 況>
場 外
事業費
約 0.23 億円
効
果
電力使用量削減、温室効果ガス削減
H16.12
マイクロガスタービン発電
<実機導入済み>
特
徴
グリーン電力証書システ
ムの活用
総エネルギー
又は施設規模
30kW
エネルギー当り
維持管理費
事業費 千円/kW
(H17,18)千円
756
441;242
費用補助制度
平成 15 年度グリーン電力基金助成
群馬県伊勢崎市都市計画部下水道管理課伊勢崎浄化センター
(1)はじめに
伊勢崎市公共下水道は、昭和 52 年 10 月に羽黒浄化センター(現伊勢崎浄化センター)が完成し供
用開始した。現在の整備面積は 1,036ha、処理能力は 31,200 ㎥/日で現在約 47,000 人、年間流入量
7,471 千㎥(平成 18 年度実績)の下水を標準活性汚泥法で処理している。
発生汚泥は、重力濃縮
嫌気性二段消化(中温消化)
脱水
全量場外処分、現在、
脱水汚泥は民間セメント工場でセメント原料として有効利用されている。
表 5.1.3.4 施設概要
項目
位置
敷地面積
全体計画
伊勢崎市茂呂南町
約 53,300 ㎡
標準活性汚泥法+
処理方式
急速ろ過
処理能力
81,000 ㎥/日
池数
12 池
BOD=210mg/ℓ
計画流入水質
SS=190mg/ℓ
BOD=8mg/ℓ
計画放流水質 SS=5mg/ℓ
汚泥処理
放流先
契約電力
平成19年度現在
同左
同左
標準活性汚泥法
31,200 ㎥/日
3池
BOD=200mg/ℓ
SS=190mg/ℓ
BOD=15mg/ℓ
SS=11mg/ℓ
濃縮+脱水+焼却+ 濃縮+消化+脱水+
場外搬出
場外搬出
一級河川広瀬川
同左
6kv 610kw
写真 5.1.3.1 伊勢崎浄化センター
(2)導入目的
焼却処分していた余剰ガスの有効活用を目的とした設備でマイクロガスタービン(以下;MGT)を
用いたバイオマス発電設備(30kw×1台)を導入し、二酸化炭素と電力料金削減を予定している。
当浄化センターで処理される下水汚泥から発生する消化ガスは日量約 1,400 ㎥である。従来はおよ
そ2/3 を蒸気ボイラの燃料として汚泥消化槽を加温し、残り 1/3 を余剰ガス燃焼器で焼却処分して
いた。今回、この焼却処分していた未利用エネルギーの有効活用で、発電された電力(30kw)は商
用電力と系統連系し場内電力として使用している。また、MGT 廃熱を温水として回収し、蒸気ボイ
- 81 -
ラ用軟水の予熱に利用することで総合効率の向上を図る。
バイオマス発電による省エネ効果は下水処理場の全消費電力に対して数%の削減であるが、消費電
力に由来する二酸化炭素の排出量を 50,000kg/年、電力料金で 2,000,000 円/年削減する計画である。
写真 5.1.3.2 汚泥消化設備(左端 ガスホルダ)
写真 5.1.3.3 余剰ガス燃焼器
(3)事業概要
平成 15 年度、本市の廃棄物の分別・収集・処理システムを再検討することを目的とし伊勢崎市都
市代謝システム研究委員会が設置された。この委員会において各課の担当課題の設定を行い下水道課
(現在;下水道管理課)は、当浄化センターで余剰ガスとして焼却処分している消化ガスの有効利用
に着目し「バイオマス発電について」検討することになった。
消化ガスは汚泥処理過程において、嫌気性消化により発生する。このガスはメタン(CH4)60〜65%、
二酸化炭素(CO2)35〜40%の低カロリーガスである。本設備導入にあたり小規模処理場での消化ガ
スによるMGT発電機導入実績の先行都市の調査、導入コストと発電見込み量及び助成金制度の利用等
検討課題があった。
ジアック
財団法人 広域関東圏産業活性センター(GIAC)で、平成 15 年度グリーン電力基金助成募集の普
及目的用で助成金を受けた。GIACは自然エネルギーの普及拡大を図ることを目的として、グリーン
電力基金からの自然エネルギーによる発電に対する助成を行っている。助成金の額は、発電設備の定
格出力 1kwに付 20 万円で上限は 50kwで 1,000 万円、当浄化センターはMGT定格出力 30kwである
ので 600 万円であった。また年間発電電力量記録を4月末までGIACへ報告する義務がある(2年間)
。
○設備概要
既設ボイラ室に隣接した屋外に MGT 発電設備を設置し、消化ガスは既設ボイラ設備の燃料配管か
ら分岐した。既設汚泥消化設備より発生した消化ガスは乾式脱硫器で脱硫された後、800 ㎥のガスホ
ルダに貯蔵される。これを昇圧・除湿及び不純物であるシロキサンを除去したものを MGT 発電設備
の燃料としている。発電した電力はボイラ電気室で同期しゃ断器を介して商用電力と系統連系し負荷
設備に供給している。発電実績を帳票装置に出力できるシステムとした。
- 82 -
MGT 発電機
図 5.1.3.6 施設平面図
写真 5.1.3.4 ガス圧縮機・シロキサン吸着塔
写真 5.1.3.5 (左)制御盤・
(右)MGT 発電機
- 83 -
図 5.1.3.7 消化ガス利用システム系統図
バイオマス発電工事完成時、現有軟水タンクが 2 ㎥で、ポリエチレン製であるため、高温での利用
には問題があり 40℃で使用していた。冬季の消化ガス使用量の軽減を図るため休止中ボイラの鉄製 5
㎥軟水タンクに交換しタンクを保温施工した。
(修繕①)
この修繕①により廃熱は熱交換器でボイラ補給水(軟水タンクの水)を約 70℃に温められるように
なり、ボイラの効率を上げ消化ガスの使用量を節約している。
修繕①
写真 5.1.3.6 2㎥ポリエチレンタンク
写真 5.1.3.7 5㎥鉄製タンク保温施工
- 84 -
バイオマス発電工事は、平成16年11月30日完成、工事費は22,680,000円
点火式を12月7日に実施しそれ以後順調に発電している。
○平成16年度 運転実績
発電開始 平成16年12月7日
年間発電量 56,210kwh
運転時間
1,093時間
ガス使用量
**** ㎥
ガス使用量は帳票装置未完成のためデータはない。
○平成17年度 運転実績
年間発電量 220,128kwh ※2
運転時間
8,116時間(延べ日数338日分)
ガス使用量 139,493㎥ (平均使用量 17.2 ㎥/h)
★年間収支
年間従量料金 220,128kwh × 12円/kwh ※1 =2,641,536円/年
改 修 修 繕 平成 17 年 9 月 1,659,000円・・・修繕①
1 年目定期整備 平成 18 年 2 月
441,000円
維持管理費
2,100,000円
年間収支 = 従量料金 ― 維持管理費
= 2,641,536円−2,100,000円
≒ 541,000円の電力費削減
○平成18年度 運転実績
年間発電量 230,428kwh ※2
運転時間
8,502時間(延べ日数354日分)
ガス使用量 153,298㎥ (平均使用量 18.0 ㎥/h)
★年間収支
年間従量料金 230,428kwh × 13円/kwh ※1 = 2,995,564円/年
2 年目定期整備 平成 19 年 2 月
241,500円
維持管理費
241,500円
年間収支 = 従量料金 ― 維持管理費
= 2,995,564円 − 241,500円
≒ 2,754,000円の電力費削減
平成 18 年度 消化ガス収支は表 5.1.3.5 を参照。
※1 年間従量料金単価は、商用電力の電力料金を電力使用量で単純に除した単価(少数点以下切捨)
※2 上記積算は下記補機の使用電力がマイナスされていない。
(MGT 単体の発電量)
ガス圧縮機・・・5.5kw
※3 グリーン電力証書システムで取引用積算電力計を新たに
ガスドライヤー・1.2kw
検定済み電力計を追加した。
温水循環ポンプ・1.5kw
(平成 18 年 10 月)
軟水循環ポンプ・0.75kw
左記 補機分がマイナスされる。
- 85 -
表 5.1.3.5 平成 18 年度 消化ガス収支
消化ガス
発生量(㎥)
加温ボイラ
消化ガス
使用量(㎥)
バイオマス発電
消化ガス
運転時間
使用量(㎥)
(h)
余剰ガス量
消化ガス
焼却量(㎥)
4月
40,019
29,274
12,457
717.3
0
5月
36,699
25,051
11,882
682.3
1,133
6月
38,644
23,101
12,044
714.0
3,355
7月
40,184
20,493
9,815
589.3
7,810
8月
42,059
17,799
12,227
733.0
8,448
9月
40,698
19,816
12,266
715.0
6,798
10 月
42,778
24,102
13,094
744.0
4,994
11 月
41,258
27,265
13,249
719.2
2,167
12 月
44,123
32,635
14,341
743.0
0
1月
44,603
33,299
14,293
741.8
0
2月
39,618
29,459
12,611
670.0
0
3月
43,507
31,971
15,019
734.0
0
合計
494,190
314,265
153,298
8,502.9
34,705
1)消化ガス発生量=加温ボイラ使用量+バイオマス発電使用量+余剰ガス量
上記計算が合わないのは、計量誤差である。
2)7 月のバイオマス運転時間の減少は硫化水素濃度高(脱硫剤劣化)のため停止。
(4)導入効果
当浄化センターの発電設備は、グリーン電力発電設備認定を平成 17 年 11 月に取得した。MGT で
発電された電力は自家消費し、環境附加価値は、伊勢崎市とバイオマスガス発電業務委託契約してい
る(株)自然エネルギー・コムがいったん買い取り、購入を希望する企業等へ販売される。当浄化セ
ンターにとって「環境付加価値」を売却することで、年間約 320,000 円(平成 18 年度途中で 237,100
円)とわずかであるが、MGT の維持管理費の少しでも足しになると考えている。
(※4 グリーン電力
証書システム発電量は年間発電量の約 80%分です。
)
平成 18 年度 2 年目の MGT 点検整備の方法を変更した。消化ガス発電の連続運転実績が少ないの
で推奨交換部品は、分解点検しメーカーが交換の必要な部品を確認してから、必要により別修繕で部
品交換を行うようにした。まだ稼動年数が 2 年と少しであるが、年間 8,000 時間稼動すると単純に工
事費回収には約 9 年かかり、計画より 4 年早くなる。
- 86 -
※4 グリーン電力認証機構 (東京都下水道局 HP より)
グリーン電力に対する社会的認知度・信頼度を向上させるため、大学教授等有識者により構成される第三者機関で、
グリーン電力の認証を行う。本機構では、グリーン電力の認証に伴う、認定基準の策定・管理、発電・販売実績に対
する確認の認証、環境的・経済的付加価値に関する調査などを実施。
図 5.1.3.3 グリーン電力証書のイメージ
(5)今後の課題
地球温暖化防止などの環境方面への配慮のため、バイオマス資源の有効利用は大きな課題である。
この発電設備は先進都市のガスエンジン発電機に比べると、発電量・規模も小型だが汚泥消化設備の
ある中小規模下水処理場への設置に適した発電機であると思われる。この MGT 発電機は釦一つで運
転でき、日常メンテナンスはほとんど必要ない。また 2 台、3 台と並列運転ができる。当市は平成 19
年 4 月から「社会実験」として、中心市街地で快適な住環境整備と、定住人口の増加を図るため、中
高層住宅に処理槽が不要なタイプのディスポーザ(生ゴミ処理機)の設置を認めた。ディスポーザか
ら出る生ゴミ(汚泥)をバイオマス発電のエネルギー(消化ガス)として利用し、2台目の MGT 発
電機の増設の時期がいつ頃になるか検討している。
- 87 -
5.1.3.4.5 石川県
都市名
石川県
利 用
消化ガス
場 内
供用時期
場 外
事業費
約 0.82 億円
H16.5
技 術 <状 況>
特
徴
マイクロガスタービン発電+
コージェネレーション
廃熱ボイラ
(熱電供給システム)
<実機導入済み>
総エネルギー
エネルギー当り
維持管理費
又は施設規模
事業費 千円/kW
(H16,17,18)千円
マイクロガスタービン
30kW×2 台、廃熱ボイラ
484
2,669;2,831;3,792
54.7kW×2 台
効
果
電力使用量削減、温室効果ガス削減
費用補助制度
下水道国庫補助事業(資源利用下水道事業)
石川県環境部水環境創造課
(1)はじめに
大聖寺川浄化センターは標準活性汚泥法を採用しており、全体計画時の処理人口 56,500 人、処
理能力 38,300m3/日(6 池)に対し、現在は 3 池まで完成し、処理能力は 18,375m3/日となっている。
また、汚泥処理は汚泥の減量化を図るため、平成 15 年度から汚泥消化を開始している。
(2)導入の目的
石川県では、平成 12 年度から 13 年度に地球温暖化防止を目的として、省資源・省エネルギー型
下水道システム構築のための検討を行った。大聖寺川浄化センターにおいても効率的な施設運用方
法や省エネ機器の導入など、より省エネ化を目指して取り組む計画としている。
その一環として、導入予定であった汚泥消化施設から発生する消化ガスの有効利用としてマイクロ
ガスタービンによる発電設備を導入することとした。
(3)事業概要
1) 事業スキーム
マイクロガスタービンによる消化ガス発電装置は通常設置される余剰ガス燃焼装置との費用比
較を行い、経済性において有利と判断したため、余剰ガス燃焼装置の代替設備として平成 14 年
度から実施した消化タンク機械設備工事の一機器として建設した。補助制度は下水道国庫補助事
業(資源利用下水道事業)を活用している。
計画では汚水処理量の伸びにあわせ平成 16 年度から平成 25 年の 10 年間で 420 万kWhの発電
を行い、場内消費電力の約 20%を賄い、1,600tのCO2削減を見込んでいる。
2)施設概要
消化タンクから発生した消化ガスは脱硫塔にて硫化水素を除去し、貯留タンクにて一時貯留
され、貯留タンクから引き抜いた消化ガスは圧縮、除湿、シロキサン除去後、マイクロガスタ
ービンに供給される。マイクロガスタービンでは電力と廃熱の回収を行い、電力については施
設内へ供給、廃熱については消化タンクの加温に使用される。消化槽の加温が不足する場合に
は温水器が稼働する。
- 88 -
○汚泥消化設備
・消化タンク(1基)
・消化タンク撹拌機(1台)
・温水器(1台)
・汚泥熱交換器(1台)
・脱硫装置(1基)
・ガス貯留タンク(1基)
上下円錐型、ドラフトチューブ式、775m3/基
スクリュー式撹拌機、2.2kW
真空式温水ヒーター、1,046.5MJ/h
スパイラル式熱交換器、伝熱面積 20m2
連続式乾式脱硫器、60m3/h・基
乾式ガス円筒ホルダー、350m3/基
○消化ガス発電設備
・マイクロガスタービン(2台) 1軸再生サイクル形、温水回収パッケージ
定格出力 30kW
・廃熱ボイラ(2台)
排ガス温水ヒーター、熱交換量 54.7kW
(温水回収パッケージ)
伝熱面積 4.45m2、温水流量 4.7m3/h
・消化ガス圧縮機(1台)
容積式インバータ式ブースタ、2kPa→340kPa
・シロキサン吸着塔(1基)
活性炭吸着、90kg
3)運転状況
H16
H17
H18
合 計
2,533,311
2,582,763
2,642,846
7,758,920
消化ガス発生量(m3)
146,086
170,692
210,725
527,503
温水器消費ガス量(m3)
15,063
71,113
83,517
169,693
MGT消費ガス量(m3)
129,094
104,198
136,667
369,959
MGT発生電力量(kWh)
174,733
136,073
178,328
489,134
6,377
5,246
6,783
18,406
汚水流入量(m3)
MGT総運転時間(h)
※総運転時間は2台の合計
消化ガス発電設備は平成 16 年 5 月 20 日より運転を開始し、現在まで約 3 年間、順調に発電を
行っている。しかし、消化タンクにおいて立ち上げ当初より異常発泡が頻繁に起こり、対応とし
て消化タンクへの汚泥投入量制限や、計画より早期の高温消化移行を行い、結果として消化ガス
発生量の低下や、高温消化による温水器の消費ガス量の増加により、発電設備で消費できるガス
量が計画より少なくなっている。
4)維持管理状況
現在まで 3 年間の運転において年間点検を 2 回実施し、各部の点検、清掃、消耗部品(フィル
ター等)の交換を行っている。
シロキサン吸着塔活性炭(90kg)については 2 年経過時に交換した。当浄化センターにおける消
化ガスについては 30kW 機 2 台の総運転時間がおよそ 9,500 時間で交換が必要との知見を得てい
る。
そのほか、平成 16 年 10 月には、タービンブレードが製造不良ロットに該当していたというこ
とでパワーヘッドユニット(タービン、シャフト)をメーカーにより自主交換している。
- 89 -
5)コスト等
建設費は発電設備(30kW 機 2 台)の機械設備及び電気計装設備で 82,000 千円であった。
維持管理費は現在のところ、メーカーの自主点検・修理等のみで費用は発生していない。
(4)導入効果
1)コスト効果
計画どおり汚水量が増加していないことや前述の消化不良等の問題により、平成 18 年度では
当初計画時の 29 万 kWh に対し約 18 万 kWh の発電にとどまり、電力料金換算では約 2,000 千
円となっている。
2)環境的効果
CO2削減効果は電力削減分として平成 18 年度で約 72tとなる。
エネルギーペイバックタイムについては、マイクロガスタービンの製造から廃棄に係るエネル
ギーを 73,900MJ(20,528kWh)とすると 0.1 年程度となり、すでに回収済みとなっている。
(建設エネルギー量は下水道新技術推進機構の新機構情報№51 を参考)
(5)今後の課題、展望
中温消化時にはマイクロガスタービンからの廃熱により消化タンクの加温がほぼ全量賄えてい
たが、高温消化に移行し必要熱量が増加したことで、温水器の稼働頻度が増加し、マイクロガス
タービンへ供給できるガス量が少なくなっている。
今後、最適な消化温度や温水器起動条件(温度設定等)を検討、発電量の増加を図り、さらなる
環境負荷の低減に努めていきたいと考えている。
- 90 -
5.1.4 消化ガス燃料電池
5.1.4.1 原理
燃料電池は、
「水の電気分解」と逆の原理で、消化ガスから取り出した水素と空気中にある酸素を
電気化学反応させて発電するものである。
図 5.1.4.1 燃料電池の発電原理
出典:社団法人 日本ガス協会 http://www.gas.or.jp/default.html
燃料電池の本体は、セルスタックといい、セルが積み重なってできている。
セルには、燃料極と空気極があり、反応に必要な水素が燃料極を通り、酸素が空気極を通る構造と
なっている。水素は電極中の触媒の働きで電子を切り離して水素イオンになり、電解質はイオンしか
通さないという性質があるため、切り離された電子は外に出て行く。電解質の中を移動した水素イオ
ンは、反対側の電極に送られた酸素と外部から電線(外部回路)を通じて戻ってきた電子と反応して
水になる。この、
「反応に関与する電子が外部回路を通ること」が、電流が流れるということであり、
電気が発生するということである。
なお、消化ガス中に含まれる硫黄化合物などの不純物は、改質器の効率・寿命を低下させるため、
供給する消化ガス中の不純物は除去する必要がある。
セルスタック
セル
ひとつのセルでつくれる電気
は、
電圧 0.5〜0.8V 程度なので、
大きな電気を作るためにセル
を積み重ねる必要がある。
図 5.1.4.2 燃料電池のしくみ
出典:社団法人 日本ガス協会 http://www.gas.or.jp/default.html
- 91 -
5.1.4.2 設備構成概要
燃料電池は、ガスホルダから取り出した消化ガスを前処理装置により不純物除去を行い、高濃度の
メタンガスに精製する。精製したメタンガスを基に改質器と変成器で水素をつくり、セル(セルスタ
ック)に水素を供給する。
図 5.1.4.3 燃料電池の設備構成(リン酸型)
出典:再生と利用 独立行政法人土木研究所
燃料電池の種類と特性を次表にまとめる。
表 5.1.4.1 燃料電池の種類と特性
作動温度による分類
形
略
式
称
低
リン酸形
PAFC
温
形
固体高分子形
PEFC
H3PO4
イオン交換膜
イオン伝導種
運転温度
冷却方式
触
媒
発電出力
発電効率(LHV)
開発状況
H+
190〜220℃
水冷
Pt
〜1000kW
35〜45%
実用化
H+
60〜120℃
水冷
Pt
〜50kW
30〜40%
実用化
用
業務用
小形産業用
自動車用
家庭用
可搬式
電解質
途
高 温 形
溶融炭酸塩形
固体酸化物形
MCFC
SOFC
Li2CO3
安定化ジルコニア
K2CO3
CO32600〜700℃
O2〜1000℃
ガス冷却/改質冷却 ガス冷却/改質冷却
不要
数〜10万kW
45〜60%
実用化
不要
数〜10万kW
45〜60%
研究段階
業務用
産業用
発電用
業務用
産業用
発電用
出典 : 電気学会燃料電池運転性調査専門委員会編「燃料電池発電」より一部引用
- 92 -
5.1.4.3 一般的な特徴
燃料電池の一般的な特徴は、以下のとおりである。
① 効率が高い
従来の発電は、エネルギーの形を何度
も変えるために損失が多い。
出典:社団法人 日本ガス協会
http://www.gas.or.jp/default.html
図 5.1.4.4 燃料電池の発電原理
② 回転部分が無いので振動・騒音がない
③ 排気がきれい
反応時に生成される物質は水(H2O)と二酸化炭素で、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOX)
はほとんど出ない。また、二酸化炭素(CO2)は、燃料電池の総合効率が高いので、同じ電気・熱
を使った場合より発生量が非常に少ない。
5.1.4.4 事業事例
5.1.4.4.1 山形県山形市
都市名
利 用
消化ガス
山形県山形市
場 内
場 外
技 術 <状 況>
燃料電池+ガスエンジン発電
<実機導入済み>
供用時期
事業費
総エネルギー
又は施設規模
H14.5(燃料電池)
S63.11(ガスエン
ジン)
約 4.7 億円(燃
料電池)
約 2.8 億円(ガ
スエンジン)
948kW:発電 378+熱 570
・燃料電池発電(りん酸形,
発電 100kW×2 基,
熱 260kW)
・ガスエンジン発電( 発電
178kW,熱 310kW)
効
果
コスト削減、温室効果ガス削減
特
徴
コージェネレーション
(熱電供給システム)
エネルギー当り
事業費 千円/kW
維持管理費
(H16,17,18)千円
791
燃料電池※1
15,533;16,373;39,780
ガス発
16,887;18,373;15,790
費用補助制度
下水道国庫補助事業
※1:H18 維持管理費に大規模修繕費を含む
山形県山形市下水道部浄化センター
(1)はじめに
1)山形市の下水道の概要
山形市の下水処理は、市街地等を中心とした区域を単独公共下水道で、それ以外の市街地周辺
等区域を、最上川流域下水道で整備している。平成 17 年度末における普及率は 90.0%(=225,971
人/行政区域人口 251,022 人)、利用率は 84.3%(=190,566 人/処理区域人口 225,971 人)である。
2)山形市浄化センターの概要
山形市浄化センターは、計画最大 52,000m3/日(計画平均 40,000m3/日)の処理場であり、図
5.1.4.5 に、センターの水処理・汚泥処理・エネルギー利用のフローを示す。
- 93 -
脱水汚泥の 6〜7 割は、山形市前明石ケーキ処理場(平面発酵方式、昭和 55 年より稼動)に運搬
しコンポスト化され、残りのケーキは産業廃棄物処分となっている。
消化槽から発生した消化ガスは、燃料電池発電(りん酸形、100kW×2 基)・ガスエンジン発電
(178kW)にて利用しており、発電廃熱も消化槽加温・冷暖房で利用する、いわゆるコージェネレ
ーション(熱電併給システム)で運転を行っており、燃料電池にコージェネを加えた試みは全国初
であった。
(2)導入目的
1)背景
浄化センターでは、昭和 40 年の運転開始時より消化槽を有し、発生消化ガスは消化槽加温用
蒸気ボイラ等で使用していた。昭和 63 年に、消化ガスエンジンによるコージェネレーション運転
を開始し、電力を場内、廃熱を消化槽加温・場内水質試験棟冷房に利用してきた。燃料電池導入
前年の平成 13 年には、消化ガスをエンジン・消化槽加温用温水ヒーター(蒸気ボイラを更新した
もの)で利用していたが、流入汚水量の増加・汚水濃度の上昇に伴う、発生消化ガス量の増大によ
り、消費を越える余剰ガスが生じ、この余剰ガスの大気放出を余儀なくされていた。
センター周辺は、運転開始時は住宅等が少なく田畑中心であったが、平成 13 年頃には大型店
舗進出・宅地化が進み、悪臭に関する苦情が寄せられていた。その主要因は水処理・汚泥処理か
らのものであるが、他の一因に消化ガスの大気放出も上げられ、この防止を急務としていた。
汚泥処理施設
ガスエンジン
遠心濃縮および脱水処理
温水ボイラー
コンポスト化等
図 5.1.4.5 山形市浄化センターの水処理・汚泥処理・エネルギー利用のフロー
- 94 -
2)余剰ガス処理方法の検討
消化ガスの放出を防止するための余剰ガス処理方式の検討は、余剰ガス燃焼、ボイラ(熱利用)、
発電(コージェネ)の比較であった。そのうち発電は、建設費では決して有利とはいえない場合も
あるが、省資源・地球温暖化防止に大きな効果があるものであった。加えて、買電電力量の削減
および既設発電と併用での契約電力削減によって、ある程度のコスト回収が可能で、廃熱も消化
槽加温には十分である。
発電方式の検討は、ガスエンジン、燃料電池の比較であった。マイクロガスタービンは、当時
はまだ、実機例が確認できなかったため、比較対象には至らなかった。
ガスエンジンを新規に導入する場合は、排気ガスの NOX が、大気汚染防止法の現基準値 600ppm
をクリアしなければならない。当センターで必要とする小規模エンジンにおいては、高額な三元
触媒等 NOX コンバータが不可欠となり、維持管理費の予測が非常に困難であるため、不採用とな
った(当センターの既設ガスエンジンでは、NOX コンバータを使用せず、希薄燃焼方式で NOX 約
780ppm となっており、昭和 63 年導入時の大防法基準値 2,000ppm をクリアさせている。)。
一方燃料電池は、排気がクリーンで低騒音、また発電効率が高いためトータルでのエネルギー
回収も大きく、
「環境先進都市」を目指していた当市の環境施策にも合致していた。新技術ではあ
るが、都市ガス用として普及している他、横浜市北部汚泥処理センターでの良好な稼動実績も確
認させて頂いていた。以上より、既設ガスエンジンでの経験を生かしながら、燃料電池導入を進
めることになった。
(3)事業概要
1)検討から稼動まで
検討から稼動は、平成 12 年 12 月〜平成 13 年 1 月市内部での検討、2 月〜4 月設計(外部委託)・
補助申請、5 月入札、6 月市議会議決後着工、工事計画届(経済産業省あて)・ 受給協定(東北電力)
等々の諸手続きを経て、平成 14 年 3 月完成、5 月の完成式典後本格稼動という、非常に過密なス
ケジュールで行われた。
施工・燃料電池主機製造は、指名競争入札で受注した富士電機(株)(現富士電機水環境システ
ムズ(株))が行い、総工費は 473,550 千円(うち建設省の下水道事業補助 55%)、工種内訳は、電
気設備(燃料電池・盤・熱利用を含む補機類・配管配線等)328,050 千円、機械設備(脱硫塔・汚泥
熱交換器・消化ガス配管・温水配管等)90,300 千円、建築・土木(建屋・建屋設備・杭基礎)55,200
千円であった。
2)施設・設備概要
消化槽は円筒形(1,660m3×2 槽、1,460m3×2 槽、うち現在 3 槽使用)を、重力濃縮の生汚泥・
ベルト濃縮の余剰汚泥を投入し、ガスブロワ・ポンプにて攪拌(平成 19 年度に 4 槽中 2 槽を機械
攪拌式に更新予定)し、37℃程度で中温消化している。発生消化ガスは、乾式脱硫塔(230m3/h×2
基)を直列に通過し、乾式ガスタンク(900m3×3 基)で貯留・供給を行っている。
貯留消化ガスは、燃料電池・ガスエンジン・消化槽加温用温水ヒーター(重油焚切り替え可)で
利用している。ヒーターは、発電設備停止時にガス焚、廃熱不足時に重油焚等で切替使用可能で
- 95 -
ある。表 5.1.4.2 に燃料電池・ガスエンジン等消化ガス利用機器の仕様を示す。
表 5.1.4.2 消化ガス利用機器の仕様
機
器
燃料電池
ガスエンジン
温水ヒーター
ガス消費量(Nm3/h)
45×2 基
110
50
発電電力(kW)
100×2 基
178
熱量(kW)
260
310
発電効率(%)
39
27
熱効率(%)
50
48
290
85
図 5.1.4.6 に熱利用の配管フローを示す。熱は、燃料電池廃熱は消化槽加温・場内汚泥処理棟
監視室の暖房で、ガスエンジン廃熱は燃料電池同様の他、場内水質試験棟の冷房で、ヒーター供
給熱はエンジン同様にて利用可能である。実際の運用は、常時最低 3 基の消化槽を、燃料電池 2
槽・エンジン 1 槽、または燃料電池 1 槽・エンジン 2 槽のパターンで加温している。消化槽加温
温水の一部(余剰分)は、冬季は汚泥処理棟監視室の暖房へ、夏季は水質試験棟の冷房へも送って
いる(平成 19 年度に水質試験棟冷房での利用をとりやめ、管理棟・水質試験棟の給湯および管理
棟暖房での利用に変更予定)。
消化槽へはスパイラル式汚泥熱交換器(各槽毎計 4 基)、汚泥棟へはファンコンベクタ、水質試
験棟へは吸収式冷温水発生器にて供給している。表 5.1.4.3 に各熱利用機器の仕様を示す。図
5.1.4.6 のように、全ての熱源・供給先が温水ラインで一つに接続されているが、バルブ開閉で
他の熱源・供給先の分離を行い使用している。
燃料電池の発電電力は、補機消費分を除き 6,600V に昇圧後、ガスエンジンと共に系統連系し
ている。買電(6,600V)からは、発電の不足を補うものとなる。
燃料電池は、発停に 4〜5 数時間、起動時に消費電力 30〜40kW、発停時に窒素消費が必要で、
頻繁な発停に不向きであるため、24 時間連続運転している。そして、燃料電池の発電効率は 39%
(ガスエンジン 27%)と高いため、トータルの発電電力量を増やすために、高出力を保持させてい
る。また、発生する消化ガス量には限りがあるため、ガスエンジンは、ガス貯留量に応じた発停
を行っている。
これは即ち、
燃料電池のベース運転+ガスエンジンのピークカット的運転による、
買電電力量の減・契約電力の減を図るものである。
表 5.1.4.3 熱利用機器の仕様
機 器
スパイラル式
汚泥熱交換器
吸収式
冷温水発生器
ファンコンベクタ
用 途
消化槽汚泥加温
場内水質試験棟冷房
場内汚泥処理棟
監視室暖房
備 考
120kW×4 基
(消化槽毎に 1 基)
279kW+灯油追焚
18kW×2 台
- 96 -
水質試験棟
冷
房
燃料電池
V1
吸収式温水機
定 格 出 力 (運 転 初 期 )
(逆 流 あ り )
加 温 熱 量 :2 3 4 .2 kW *
(熱 出 力 : 26 0 .2 kW * )
(放 散 熱 量 : 1 0% )
(逆 流 あ り)
V2
V5
V3
V 20
V4
(既 設 )
ガスエンジン
V 10
V21
(既 設 )
N O .1
汚泥熱交換器
定格出力
4 8 .5 ℃
常時開
(既 設 )
加 温 熱 量 : 2 7 9.1 kW
(熱 出 力 :3 1 0.1 kW )
(放 散 熱 量 : 10 % )
V11
3 7 .8 ℃
3 6 .0 m 3 / h
常時開
(既 設 )
V14
(逆 流 あ り)
(逆 流 あ り )
V6
3 8 .0 ℃
9 .6 m 3 / h
V9
(既 設 )
3 8 .3 ℃
3 6 .0 m 3 / h
9 0 .1 ℃
3 5 .0 ℃
V15
V18
N O .1
消化タンク
N O .3
消化タンク
8 1 .0 ℃
1 3 .2 m 3 / h
V12
4 8 .5 ℃
V13
3 7 .8 ℃
3 6 .0 m 3 / h
3 5 .0 ℃
N O .3
汚泥熱交換器
V19
3 8 .3 ℃
3 6 .0 m 3 / h
V16
3 8 .0 ℃
9 .6 m 3 / h
9 0 .1 ℃
3 5 .0 ℃
N O .2
汚泥熱交換器
V17
N O .4
消化タンク
N O .2
消化タンク
8 1 .0 ℃
1 3 .2 m 3 / h
V7
常時開
(既 設 )
V8
3 5 .0 ℃
N O .4
汚泥熱交換器
温水ヒーター
定格出力
加 温 熱 量 : 26 1 .6 kW
(熱 出 力 : 2 90 .7k W )
(放 散 熱 量 : 1 0 %)
消化槽
N O .1
N O .2
N O .3
N O .4
バルブ
燃 料 電 池 2台
状態
ガスエンジン
開
温水 ヒーター
閉
図 5.1.4.6 熱利用の配管フロー
3)運転状況
表 5.1.4.4 に、投入汚泥量・発生消化ガス量等、消化槽の運転実績を示す。表 5.1.4.5 には、
消化ガス成分を示す。表 5.1.4.6 には、消化ガス利用量・発電電力量・廃熱利用量等を示す。
トータルの消化ガス利用では、平成 14 年度には、発生のほぼ全量を利用し、目的である大気
放出・悪臭拡散を防ぐことができた。平成 15 年度には、消化槽周りのガス抽出管類の更新により
漏洩ガスが減少し、ガス利用量が増大している。
消化ガス成分は、
燃料電池で要求する硫化水素濃度 0.5ppm 以下に対し 0ppm(検出限界以下)を、
同じく要求するメタン濃度 60%前後に対し 57〜62%を維持している。なお、燃料電池の許容メタ
ン濃度は、導入後の制御等改良により、現在では約 50%(出力は約 90%まで低減する)まで向上し
ている。
運転時間は、燃料電池において、時間稼動率 97%(H14.5〜H19.4)、累積 43,055 時間(H19.4 ま
で)となっており、非常に順調である。
総発電量は平成 13 年度比で 185%(H15 年度)に増加し、買電量は平成 13 年度比で 80%(H15 年
度)に削減した。
発電電力量の総使用電力量に占める割合(以下電力自給率)は 42%(H15 年度)にな
り、目標にしていた 40%を満足することができた。月毎の電力自給率では、平成 19 年 4 月には、
最大の 52%をも記録している。
また、
契約電力は、
880kW(H13 年度)→750kW(H14.5)→710kW(H16.4)
と低減している(現在は他機器の省エネルギー化等により 680kW まで低減)。
総廃熱利用では、常時、稼動 3 消化槽を設計値 35℃以上の約 37℃に保った。ガスエンジンの
廃熱利用量は、計測機器(温水温度計・流量計等)の未設置により検証できていないが、加温消化
槽数の割合等から、燃料電池と同程度であると推測している。
- 97 -
発電効率については、燃料電池にて 31.4%(H14〜18 年度平均)、ガスエンジンにて 25.5%(H14
〜18 年度平均)である。この発電効率は、燃料電池においては外部補機使用分(約 5%)を差引後、
ガスエンジンにおいては差引前の値となっており、両者の発電効率の差は、数値以上で定格同等
といえる。
熱利用効率については、燃料電池にて 22.0%(H14〜18 年度平均)となっている。燃料電池の保
有する熱効率は 47%なので、発生熱量の半分程度を利用したことになる。
図 5.1.4.7 に、
燃料電池の廃熱利用量月別値(H14 年度)を示す。
最大利用月は 1 月の 165,788kWh/
月(5,348kWh/日)、一方最小(H14.4 は試運転中のため除外)は 8 月の 66,843kWh/月(2,156kWh/日)
である。夏季に消化槽での熱利用が減少することにより、季節変動が顕著になっている。総合の
エネルギー利用量を向上させることは、夏季の熱利用量を増大させることに直結している。夏季
の熱利用に限度のある下水処理場等においては、発電効率の高い燃料電池が、最も有効なものと
思われる。
表 5.1.4.4 消化槽の運転実績
年
度
生汚泥量(m3/年)
生汚泥濃度(%)
余剰汚泥量(m3/年)
余剰汚泥濃度(%)
消化日数(日)
発生ガス量(m3/年)
H14
H15
H16
H17
H18
39,416
4.86
40,934
3.97
22
1,267,057
41,978
4.84
43,484
3.52
21
1,470,755
40,576
5.27
31,528
4.10
23
1,474,107
42,771
5.07
43,775
3.81
22
1,417,605
41,554
4.96
43,710
3.63
22
1,449,690
表 5.1.4.5 消化ガス成分
年度
CH4(%)
CO2(%)
N2+O2(%)
H2S(ppm)
H14
57.6
40.5
1.5
検出限界以下
H15
58.0
40.3
0.3
検出限界以下
H16
58.4
40.5
0.4
検出限界以下
H17
59.0
39.6
0.5
検出限界以下
H18
59.0
40.7
0.5
検出限界以下
表 5.1.4.6 発電設備の運転実績
年度
ガス利用量(m3/日)
時間稼動率(%)
発電電力量(kWh/日)
発電効率(%)
廃熱利用量(kWh/日)
熱利用効率(%)
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
燃料電池
エンジン
買電電力量(kWh/日)
発電電力量/総使用電力量
=電力自給率(%)
H14
2,008
1,435
95.5
65.3
4,146
2,205
33.0
24.6
3,447
未計測
27.5
−
10,812
H15
2,121
1,887
97.6
83.5
4,186
3,025
31.6
25.7
2,899
未計測
22.9
−
10,147
H16
2,123
1,909
96.3
80.8
4,153
3,072
31.3
25.7
2,770
未計測
20.9
−
10,243
H17
1,997
1,854
95.2
75.7
3,903
3,035
31.3
26.2
2,339
未計測
18.7
−
10,304
H18
2,333
1,625
98.8
67.9
4,376
2,582
30.0
25.4
2,939
未計測
20.2
−
9,631
37.0
41.5
41.4
40.2
41.9
※燃料電池の発電電力量・発電効率は外部補機分差引後の数値,エンジンの発電電力量・発電効率は補機分差引前の数値
- 98 -
200000
kWh
150000
熱量
100000
50000
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
月
図 5.1.4.7 燃料電池の廃熱量月別値(H14 年度)
4)維持管理状況
燃料電池の維持管理は、日常点検・監視の他、運転中定期消耗品交換、停止を伴うオーバーホ
ール(1 回/年)、メーカーによる遠方監視等である。維持管理の費用は、17,000 千円/年(H14〜18
年度平均)であった。平成 18・19 年度および平成 26・27 年度は、セル・改質器の入替による大幅
な費用増となるが、それを含めても、約 16,800 千円/年(長期平均)が達成可能な目標である。セ
ル・改質器の寿命は、導入当時の機種では 40,000 時間(約 5 年間)運転であったが、現行機種では
60,000 時間(7〜8 年間)運転にまで延命しており、耐用年数の 15 年間で 1 回のセル・改質器の入
替を行えば十分である。よって、現行機種における維持管理費は、当方の目標値よりも激減して
いる(約 13,000 千円/年)。
(4)導入効果
1)コスト効果
買電電力量・契約電力の削減により、大幅に電気料金を減らすことができた。表 5.1.4.7 に電
気料金・処理水量等運転効果を示す。電気料金は、平成 13 年度比で 16,300 千円(H15 年度)の削
減となった。処理水量は平成 13 年度比で 114%(H15 年度)と増加しており、必要電気料金も増加
したと仮定すれば、燃料電池の効果は約 19,500 千円/年と推計される。これにガスエンジンの発
電電力量分を加算すれば、トータルの効果は約 33,000 千円/年となる。
廃熱利用や温水ヒーターの消化ガス焚も燃料費減に結びつく。燃料電池の廃熱利用量を現行の
重油代に換算すると約 7,710 千円/年となる。
ガスエンジンの廃熱利用量も同等であると仮定すれ
ば、トータルの効果は約 15,420 千円/年と推計される。
また当方では、燃料電池を導入したことで、ガス燃焼等余剰ガス処理装置を保有する必要がな
くなっている。つまり、燃料電池導入の効果として、余剰ガス処理装置等(消化槽加温装置を含む)
を建設・維持管理する費用が削減できたことになる(推定費用効果は表 5.1.4.8 による。)。
- 99 -
表 5.1.4.7 運転効果
年 度
発電設備
電気料金(円/年)
処理水量(m3/年)
H13
H14
63,698,357
12,176,888
年 度
発電設備
電気料金(円/年)
処理水量(m3/年)
H17
H18
燃料電池+エンジン
47,273,666
46,696,361
13,838,550
14,423,040
エンジン
50,318,123
13,459,313
H15
H16
燃料電池+エンジン
47,416,385
46,777,211
14,022,880
14,724,200
表 5.1.4.8 建設費・維持管理費・コスト効果・便益
設
備
燃料電池
エンジン
計
発電設備の建設費(千円/年) ※1
-10,650
-6,250
-16,900
発電設備の維持管理費(千円/年)
-16,800
-13,800
-30,600
発電による電気料金削減効果(千円/年)
19,500
13,500
33,000
廃熱利用による燃料費削減効果(千円/年)
7,710
7,710
15,420
余剰ガス処理設備等の建設費削減分(千円/年) ※2
2,520
2,520
5,040
余剰ガス処理設備等の維持管理費削減分(千円/年)
1,860
1,860
3,720
環境面でのコスト効果(千円/年)
5,750
4,250
10,000
9,890
9,790
19,680
計:便益(千円/年)
※1:燃料電池の建設費は、建設費 473,550 千円÷目標稼働年数 20 年×0.45(国庫補助分を除いた山形市負担分)
※1:エンジンの建設費は、建設費 277,710 千円÷目標稼働年数 20 年×0.45(国庫補助分を除いた山形市負担分)
※2:余剰ガス処理設備等の建設費削減効果は、推定建設費 56,000 千円÷耐用年数 10 年×0.45(国庫補助分を除いた
山形市負担分)
2)環境的効果
二酸化炭素削減では、買電電力量の削減分について、下水道基準の換算係数 0.384(kg/kWh)で
1,010t(H15 年度)(NEDO 基準 0.640(kg/kWh)では 1,690t)となる。廃熱利用や温水ヒーターの消化
ガス焚分について、ガスエンジンを含めたトータルの利用熱量を、燃料電池分の 2 倍程度と仮定
すれば、550t(H15 年度)となる。以上より発電設備全体としては、約 1,560t/年と集計される。
環境面での効果は、二酸化炭素削減量を数値で示しても、一般には理解され難い場合が多い。
削減量を、森林の面積で表すことや、費用対効果に置き換えることができれば、理解も進み易い
ものと思われる。仮に費用対効果に置き換えるものとして、デンマークの環境対策税の 1.5 円
/kWh(買電電力量当たり)を用いれば、買電電力量削減による効果は、約 4,000 千円/年となる。ま
た、同じくデンマークの 4,653 円/kℓ(A重油使用量当たり)を用いれば、燃料使用量削減による効
果は、約 1,000 千円/年となる。さらに、グリーン電力認証システムも活用すれば、約 5,000 千円
/年の効果も期待できる。試算を合計すれば約 10,000 千円/年であり、これを前述の二酸化炭素削
減量 1,560t/年で割れば、6,410 円/t という数値となる。これが即ち、二酸化炭素排出量削減の
価値ということになる。
平成 19 年 5 月にバンコクで行われた、国連の IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第 3 部作
- 100 -
業部会では、
「二酸化炭素 1t 当たり約 50 米ドル(約 6,000 千円)あるいは 100 米ドルという価格を
つけ、排出量を減少させる政策をとれば、排出量を抑制あるいは減少に向けることができる」と具
体的に報告した。前述の 6,410 円/t という数値が、決して過剰ではないことは明白である。
表 5.1.4.8 は、以上のコスト効果・環境的効果および建設費・維持管理費、さらに便益までを
まとめたものである。環境的効果の価値については、当方の試算に対し、プラスにもマイナスに
も評価が分かれるところであろうが、これを除いても、便益が十分にあることが理解される。こ
の試算においては、国益に直結する補助事業として扱って頂くことが絶対条件である。表 5.1.4.8
の数値は、現在新たに発電設備を導入する際には、直接的に利用できるものではない。ガスエン
ジンの NOX コンバータ、燃料電池の維持管理費低減等々の条件が変わっており、これによる差異
も非常に大きいものと思われる。
(5)今後の課題、展望
以上順調な運転状況等を報告してきた。今後の課題として、①消化ガス発電設備の環境的効果
を十分に浸透させること、②19 年間稼働し老朽化しているガスエンジンを更新することが上げら
れる。①が十分であれば、環境的効果をコストに結び付けるという行為が不要となる。地球環境・
人類の未来とコストを天秤で量ること自体が「ナンセンス」とされる社会の到来を強く望むもので
ある。②については、前述のとおり、当方のような小規模ガスエンジンでは、NOX 対策に要する費
用が予測困難である。よって、このような規模の発電設備においては、りん酸形燃料電池(100kW/
基程度)とマイクロガスタービン(80〜95kW/基程度)の比較が有効になるものと思われる。燃料電
池については、維持管理費が激減しており、当方の実績よりその効果・安全性が十分確認されて
いる。一方、この規模のマイクロガスタービンは全国でも希少であること等々から、当方では燃
料電池への更新を選択する予定である。ただし、この方針は、全ての発電規模に適合するもので
は決してないことを強調しておきたい。
下水エネルギーの有効利用については、「資源のみち」等国策として押し進めることが謳われて
はいるが、計画検討の段階で、費用対効果が明らかなプラスと算出されないため、事業を始めら
れないケースも多いものと思われる。二酸化炭素削減を含めた環境効果を、費用的に説明するに
は限界があり、
「日本国」では答えも明確ではない。
費用対効果の説明のみが要求される背景には、
地球温暖化防止の重要性、国策の真の意義が浸透していないことがあると思われる。事業が起こ
らないことで、価格低下も生じず、費用対効果が益々圧迫されていく、悪循環が発生している。
よって、下水エネルギー利用を普及させ、地球温暖化防止の一翼を担っていくためには、国策
レベルで、環境に対する啓蒙普及、事業補助への適用の明確化(資源有効利用等環境プラス効果が
ある事業の優位性を明確に)することが望まれる。国策に大きな変革がなければ、消化ガス発電が
増加するよりも先に、消化槽そのものの減少・衰退してしまうことを、非常に危惧するところで
ある。燃料電池の普及については、他の発電同様に、技術面以上にコストが障害であり、最も環
境に優しい技術であることを加味し、改質器・セルの更新年数(7〜8 年等)での補助・支援拡大等
を強く望むものである。
- 101 -
5.1.4.4.2 横浜市
都市名
利 用
消化ガス
横浜市
場 内
場 外
供用時期
事業費
平成元年
約 1.7 億円
効
果
電力使用量削減、温室効果ガス削減
技 術 <状 況>
燃料電池
<実機導入済み>
特
徴
集約した汚泥の
保有エネルギー活用
総エネルギー
又は施設規模
200kW
エネルギー当り
維持管理費
事業費 千円/kW
(H16,17)千円
850
9,555:8,295
費用補助制度
下水道国庫補助事業
横浜市環境創造局
(1) はじめに、
(2)導入目的:
「5.1.3.4.2 横浜市」を参照してください。
(3)事業概要
1)施設概要
北部汚泥資源化センターでは、集約した汚泥を嫌気性消化、脱水、焼却処理する過程で発生す
る消化ガスを燃料として発電する、燃料電池発電設備を導入し運用している。
2)事業スキーム
消化ガス燃料電池発電設備は、当初導入事例がなかったため、まず、燃料電池発電設備の製造
業者と共同研究する方式で事業を推進した。そして、共同研究による成果を検証した後、下水道
事業国庫補助制度を活用した2か年工事を発注し設備を導入した。その経緯を以下に記す。
3)運転状況及び維持管理状況
表 5.1.4.9 運転状況及び維持管理費
H13 年度
消化ガス使用量(Nm3/年)
H14 年度
H15 年度
H16 年度
H17 年度
566,919
655,712
646,947
625,742
405,579
発電電力量(kWh)
1,367,370
1,595,120
1,575,490
1,498,430
979,490
発電電力量を電気事業者から購入
した場合の CO2 削減量
(0.372g/kWh)
0.51 ton
0.59 ton
0.59 ton
0.56 ton
0.36ton
9,240
9,240
9,555
9,555
8,295
維持管理費(千円)
4)建設費
工事金額 約1.7億円
工事概要 電池パッケージ(クーリングタワー、窒素設備含む)
ガス前処理装置(ガス分析装置含む)
基礎、配管工事
既設設備との取合い工事(ソフトウェア、ケーブル等)
施設規模 リン酸形燃料電池 200kW 1台
一式
一式
一式
一式
(4)導入効果
発生した消化ガスの65%を発電機、30%を焼却炉、残りを空調機などの燃料に利用してお
り、温暖化防止に役立てている。汚泥資源化センターの使用電力の約62%を賄っている。
(5)今後の課題、展望
燃料電池本体の寿命は4万時間となっており、耐用年数の延長が課題になる。また、燃料電池
の汎用機は200kW であるが、施設規模に見合った大容量かつコンパクトな設備の低価格化に
ついても課題となる。
- 102 -
5.1.5 消化ガス場内空調利用(都市ガス代替)
5.1.5.1 原理
消化ガスを燃料として場内空調に利用するには、ガス吸収冷温水機を用いる方法があり、一般に燃
料として都市ガスを使用して冷房用の冷水と暖房用の温水を供給する設備である。なお、消化ガスを
都市ガスの代替燃料として利用するには、設備を劣化させる成分(硫黄化合物、シロキサンなど)を
精製する必要がある(消化ガスの精製は、
「5.1.7 消化ガスの高濃度化」を参照)
。
ガス吸収冷温水機の原理(冷房サイクル)は、図 5.1.5.1 のとおりである。
④再生器で発生した水蒸気を凝縮器で
冷却水により冷やし、凝縮させ水に戻
す。この水は再び蒸発用に使用する。
③薄くなった吸収液は、水蒸気を吸収
する能力が低下する。そこで、ガスの
炎で吸収液を加熱することで水だけが
蒸発し、残りの液は濃い吸収液となる。
消化ガス(バックアップと
して燃料として都市ガス)
①真空状態に凝縮した容器の中に水の
通るパイプがあり、これに上から水を
落とすと水は沸騰・蒸発する。この時、
パイプの中の水は急速に熱を奪われ、
約7℃まで冷やされる。
②蒸発器内で発生した水蒸気は、吸収
器で、再生器から送られ滴下される吸
収液(臭化リチウム水溶液)に吸収・
除去される。この際に生じる吸収熱は
冷却水によって除去される。
図 5.1.5.1 ガス吸収冷温水機の原理(冷房サイクル)
出典:大阪ガス http://ene.osakagas.co.jp/0-enjinia/1-conditioning/2-absorption/index.html
5.1.5.2 設備構成概要
ガス吸収冷温水機の設備構成概要を図 5.1.5.2 に示す。
図 5.1.5.2 ガス吸収冷温水機の設備構成概要
5.1.5.3 一般的な特徴
ガス吸収冷温水機は、
「冷媒に水」
「吸収液に臭化リチウム」を使用し、冷房時は冷水より通常 7℃
程度の温度を得て空調機で送風する。暖房時は、通常 50〜60℃の温水を得て空調機で送風する。
- 103 -
5.1.5.4 事業事例
5.1.5.4.1 横浜市
都市名
横浜市
利 用
消化ガス
供用時期
場 内
技 術 <状 況>
場 外
特
空調利用(吸収式冷凍機)
<実機導入済み>
徴
消化ガス場内空調利用
(都市ガス代替)
総エネルギー
又は施設規模
冷房能力:141kW(S62)
事業費
H8 年
約 1 億円
効
果
都市ガス・電力使用量削減、温室効果ガス削減
エネルギー当り
維持管理費
事業費 千円/kW
(H16,17)千円
約 709 千円/kW
798:539
費用補助制度
下水道国庫補助事業
横浜市環境創造局
(1) はじめに、
(2)導入目的:
「5.1.3.4.2 横浜市」を参照してください。
(3)事業概要
1)事業スキーム
消化ガス場内空調利用は、消化の過程で発生する消化ガスを空調用の補助燃料として使用する
目的で設置された。北部汚泥資源化センターの汚泥焼却3・4号炉棟に設置されており、消化ガ
スを吸収式冷凍機の補助燃料として使用している。建設に当たっては下水道国庫補助事業の採択
を受けている。
2)設備概要
表 5.1.5.1 吸収式冷凍機の仕様
形
吸収式冷凍機
式
能
力
冷房能力 141kW
設置年度
昭和62年
3)運転状況及び維持管理状況
表 5.1.5.2 運転状況及び維持管理状況
H13 年度
H14 年度
H15 年度
消化ガス使用量
(Nm3/年)
都市ガス換算量
(Nm3/年)
都市ガスガス事業者から購
入した場合の CO2 削減量
(2.19g/Nm3)
維持管理費(千円)
H16 年度
H17 年度
26,280
35,819
18,165
29,771
30,642
15,000
20,000
10,000
16,000
14,000
32.9kg
43.8kg
21.9kg
35.0kg
30.7kg
748
748
748
798
539
4)建設コスト
建設費は、1 億円となっている。
(4)導入効果
発生した消化ガスの65%を発電機、30%を焼却炉、残りを空調機などの燃料に利用してお
り、温暖化防止に役立てている。汚泥資源化センターの使用電力の約62%を賄っている。
- 104 -
5.1.5.4.2 大阪市
都市名
大阪市
利 用
消化ガス
場 内
供用時期
特
空調利用(吸収式冷温水機)
<実機導入済み>
場 外
総エネルギー
又は施設規模
事業費
約 0.1 億円
H17.9
技 術 <状 況>
冷水系能力:約 350kW
温水系能力:約 295kW
効
果
都市ガス使用量削減、温室効果ガス削減
徴
消化ガス場内空調利用
(都市ガス代替)
エネルギー当り
事業費 千円/kW
維持管理費
(H16,17,18)千円
16
1,130;1,072;1,085
費用補助制度
市単独費
大阪市建設局下水道河川部
(1)はじめに
住之江下水処理場は、昭和 39 年に大阪市で6番目の下水処理場として供用開始し、下水処理
で発生した汚泥は、濃縮後消化処理により汚泥の減量化を図りパイプ輸送により近隣の平野下水
処理場に送泥し脱水・溶融処理を行っている。
住之江下水処理場の敷地内には住之江、平野下水処理場両処理区域内のポンプ場及び管渠の維
持管理や施設の建設事業の監督を管轄とする南部下水道管理事務所が置かれていおり、管理棟の
空調用熱源機器に導入した都市ガスから消化ガスへの燃料転換を紹介する。
(2)導入の目的
大阪市での消化ガス有効利用の歴史は古く、汚泥焼却炉の補助燃料から、ガスエンジンや燃料
電池による消化ガス発電と幅広く実施し、現在は経済性の課題に対応するため PFI による消化ガ
ス発電施設整備事業を実施している。
住之江下水処理場の汚泥処理設備は、中温消化法から効率的な汚泥処理システムである高温・
高濃度消化法へシステム変更を計画している。
このシステムでの供用開始後で、現状の消化ガス利用状況では多くの余剰消化ガスの発生が予
測される。
消化ガスの本格的な有効利用は経済性の課題が整理された後とし、住之江下水処理場では身近
な形で手軽にローカルエネルギーとしての利用を考え、次の三つの条件を掲げた。
① ローテク(一般市場に流通している機器で構成されていること。
)
② 低コスト(コストペイバックタイムが 10 年未満であること。
)
③ 低リスク(空調設備が安定運転できないリスクを生じさせないこと。
)
比較的施設規模の大きい管理棟を敷地内に有していることと、上記の三つの条件を満たせる空
調用熱源機器の燃料として導入を計画し、都市ガスから消化ガスへの燃料転換を行った。
(3)事業概要
南部下水道管理事務所管理棟の概要を表 5.1.5.3、空調用熱源機器の仕様を表 5.1.5.4、供給
ガスの仕様を表 5.1.5.5 に示す。
- 105 -
表 5.1.5.3 施設概要
施設名称
南部下水道管理事務所管理棟
構
鉄骨鉄筋コンクリート造
造
建築面積
1,015.68m2
延べ床面積
5,334.55m2
空調方式
ファンコイルユニット方式
熱源機器
直だき吸収冷温水機【ガス・ガス切換型】
表 5.1.5.4 空調用熱源機器の仕様
冷水系
温水系
形 番 ( RH)
100
設 計 能 力
302,400kcal/h
253,000kcal/h
量
1.01m3/min
1.01m3/min
出 口 温 度
7℃
55℃
入 口 温 度
12℃
50.8℃
流
表 5.1.5.5 供給ガス仕様
消化ガス
都市ガス(13A)
設計発熱量
3
5,000kcal/Nm
11,000kcal/Nm3
設計ガス圧力
100〜200mmH2O
200mmH2O
燃料使用量
3
60Nm /h
27.3Nm3/h
空調用熱源機器を都市ガスから消化ガスへの燃料転換を行うに当たっては、表 5.1.5.6 に示す
条件を掲げ、検討の結果、いずれも条件を満たすことが可能なことから事業を実施することとし
た。管理棟は、消化ガスを使用する機器の中で最も消化ガスタンクから距離が離れていることか
ら、他の機器の影響を受け、ガス圧変動が大きく失火が懸念された。このため、専用の消化ガス
供給ファンを設け、供給ガス圧の変動による失火を防止し、安定燃焼させることとした。
表 5.1.5.7 に供給ファンの仕様を、図 5.1.5.3 に消化ガス利用のフローシート、図 5.1.5.4 に
概略の空調フローシートを示す。
表 5.1.5.6 燃料転換の条件
項
目
検 討 内 容
結
経済的に優位であること
B/C
B/C>1
消化ガスの安定供給
冬季における消化槽加温必要量、管理棟の暖房必
要量が安定供給出来ること。
供給 OK
供給圧の確保
専用の供給ファンの設置
燃焼機器の適正
専焼バーナーによるガス・ガス切換え方式
安全対策
都市ガスと同様の対策
- 106 -
果
安定燃焼 OK
漏洩検知器等
表 5.1.5.7 消化ガス供給ファンの仕様
項
目
仕
ファン形式
ターボファン
仕
様
54.6Nm3/h×0.75kW
台
数
1台
汚泥消化槽
様
備
考
予備機は設置しない。
供給ファン
F
余剰ガス
燃焼装置
脱硫設備
消化ガスタンク
管理棟空調用
吸収冷温水機
F
汚泥消化槽
加温用温水器
図 5.1.5.3 消化ガスフローシート
冷却塔
消化ガス
安全装置
供給ファン
F
冷水又は温水(往)
吸収冷温水機
都市ガス
冷水又は温水(復)
ファンコイルユニット
×24 台
(バックアップ用)
図 5.1.5.4 概略の空調フローシート
(4)運転・維持管理状況
1)運転状況
平成 16 年度に汚泥消化槽関連の改築更新が完了し、平成 17 年 4 月より高温・高濃度消化法に
移行し、消化率の向上により消化ガスの発生量は約 25%増大することが出来た。平成 17 年 9 月
より、吸収冷温水機の燃料を都市ガスから消化ガスに転換を行い運転を行っている。表 5.1.5.8
に消化ガスの利用状況を示す。設計時では不着火や失火等を懸念していたが、都市ガスと同等の
運転を行えており、維持管理上の課題もなく消化ガス利用を継続している。
- 107 -
表 5.1.5.8 消化ガスの利用状況
消化ガス(m3/年)
発生量
都市ガス(m3/年)
消化槽加温用
管理棟空調用
余剰ガス
管理棟空調利用
平成 16 年度
3,054,488
1,633,306
0
1,421,182
18,905
平成 17 年度
3,716,370
2,135,370
7,175
1,978,267
16,335
平成 18 年度
3,814,301
1,517,544
34,016
2,004,572
96
2)維持管理状況
都市ガスと同様の一般的な点検内容・周期で維持管理を行なっており、消化ガス利用での点検
補修コストの上昇はない。
(5)導入効果
平成 18 年度の管理棟空調用都市ガス消費は、都市ガス燃焼機器の保安運転での消費以外はほ
ぼ“ゼロ”となった。都市ガス契約は、当面都市ガス空調用 A 契約を継続し消化ガスによる空調
機器の安定性を確認してから一般契約に切り替えることとし、平成 18 年 11 月に都市ガスの契約
形態を都市ガス空調用 A 契約から一般契約に切換えた。
1)コスト効果(コストペイバックタイム)
都市ガス空調用 A 契約(基本料金:35,700 円/月と従量料金:夏期 41.92・冬期 46.03 円/m3)か
ら、一般契約(基本料金:724 円/月と従量料金:151.48 円/m3)に切り替えることにより平成 19 年
度の都市ガス料金は、150 万円程度節減できると想定しており、建設コストは 6〜7 年程度で償却
できる。
2)温室ガス削減
温室効果ガス削減量は二酸化炭素換算で、40,439kg CO2/年(平成 18 年実績)となった。
表 5.1.5.9 消化ガス転換による節減額
都市ガス料金
温室効果ガス排出量
(円/年)
( kg CO2/年)
平成 16 年度
1,521,385
40,645
平成 18 年度
280,009
206
差(H18-H16)
▲1,241,376
▲40,439
(6)今後の課題、展望
建築機械の空調設備や給湯設備の燃料としての消化ガス有効利用は技術的には都市ガスの「ガ
スボイラ燃焼設備の安全技術指標」に準拠していれば何ら問題はない。
しかし、処理場内管理棟の建築機械設備ではその規模が小さく、有効利用量としてはさほど多
くならない。
住之江下水処理場の消化ガス発生量に見合った需要を見出し、環境負荷削減とともに、経済的
にも便益を生み出せる事業手法やシステムを選定し、より効果的に有効利用を図っていきたい。
- 108 -
5.1.6 消化ガス都市ガス供給
5.1.6.1 原理
一般に消化ガスは、都市ガスと比較して低位発熱量が低く、設備を劣化させる成分(硫黄化合物、
シロキサンなど)を含んでいるため、消化ガスを都市ガス供給する場合は、供給先と品質(※)
・圧力・
量・価格などの条件を協議する必要がある。
なお、消化ガスを都市ガス供給する際の精製方法は、
「5.1.7 消化ガス高濃度化」を参照すること。
※ ガス事業法(第 29 条)
ガス事業法(第 29 条)では、乾燥したガス中に「硫黄全量≦0.5g/m3、硫化水素≦0.02g/m3、
アンモニア≦0.2g/m3」となるよう定めている。
また、ガス事業法の適用を受けるため、以下の届出および報告が必要である。
—
準用事業開始届出書(ガス事業法第 39 条)
—
設備設置変更報告書(ガス事業法第 46 条第1項)
5.1.6.2 設備構成概要
消化ガスを都市ガス供給する場合、消化ガスの供給条件に合わせた精製、消化ガスを供給先に送る
ための設備(圧縮機、ガス導管)が必要となる。
なお、消化ガスを都市ガス供給する際の精製方法は、
「5.1.7 消化ガス高濃度化」を参照すること。
5.1.6.3 一般的な特徴
消化ガスを都市ガス供給する場合、供給先までの距離(ガス導管の延長)が建設費に影響する。
5.1.6.4 事業概要
5.1.6.4.1 新潟県長岡市
都市名
新潟県長岡市
供用時期
H11.4
利 用
消化ガス
場 内
場 外
技 術 <状 況>
特
都市ガス供給+場内空調利用
<実機導入済み>
徴
消化ガス場外利用
(消化ガスの売ガス)
事業費
総エネルギー
又は施設規模
エネルギー当り
事業費
維持管理費
(H16,17,18)千円
約 2.2 億円
精製ガス供給量:60 万 m3/年
(市内に供給する全都市ガス量
の 1%以下)
−
5,943;7,227;9,786
効
果
売ガス収益:約 1,200 万円/年(H18)、温室効果ガス削減
費用補助制度
下水道国庫補助事業
新潟県長岡市土木部下水道管理課長岡中央浄化センター
(1)はじめに
長岡市の下水道普及率は、平成 18 年度末には 96.3%に達し、長岡中央浄化センターの処理能力
は 90,200 ㎥/日で、平成 18 年度末実績では日平均で約 85,580 ㎥の流入下水があり、水洗化人口
約 12 万人の処理場である。汚泥処理については、供用開始当初から嫌気性消化を行っており、平
成 18 年度の消化ガス発生量は約 181 万㎥である。このうちの 37%を消化タンク加温用ボイラの燃
料として、残り 63%の余剰ガスを場内冷暖房設備の燃料(年間約 2 万㎥/精製ガスベース)とし
- 109 -
て利用するとともに、地元のガス会社へ都市ガス原料(年間約 60 万㎥/精製ガスベース)として
供給している。
(2)事業化の経緯
当センターから発生する汚泥の処理は嫌気性二段消化方式によるもので、この過程で発生する
消化ガスは供用開始当初より消化タンク加温用の燃料として利用してきたが、発生量の全量が利
用できたわけではなく、半分以上は余剰ガスの形で焼却処分されてきた。
(図 5.1.6.1)
発生消化ガス
㎥
2,000,000
図−1 消化ガスの利用の推移
脱硫後ガス発生量
未利用分
1,500,000
1,000,000
500,000
0
H.10 H.11 H.12 H.13 H.14 H.15 H.16 H.17 H.18
図 5.1.6.1 消化ガスの利用の推移
この余剰ガスの利用については従来からさまざまに検討されてきた経緯があり、特に消化ガス
発電は実用化を踏まえた検討も行われたが、結果として実現に至らなかったのは、ガス発電の運
用面で難しさがあったこと、また、発生汚泥の最終処理・処分方式が明確にできず、その結果、
重要なエネルギー源である消化ガスの有効利用に踏み出せなかったことも一因である。
その後、本市は平成7年に国から環境共生モデル都市(エコシティ)に指定され、環境負荷の
低減に積極的に取り組むことを求められるに至った。
こうした背景のもと、消化ガスの湿式脱硫工程で硫化水素の除去と同時に炭酸ガスも高率で除
去されることに着目し、もう一段の湿式脱硫工程を付加してメタンガスの相対濃度を高めれば、
精製ガスの供給が可能となる見通しがついた。
国立長岡技術科学大学からもさまざまなアドバイスを受けながら、平成 9 年 1 月に地元のガス
事業者である北陸ガス(株)に都市ガス原料としての活用を打診したところ、相手方からは全面
的な協力が得られることとなった。
これを受け、同社と事業化に向けた協議を重ねた結果、供給側ではできるだけ都市ガスに近い
成分を維持することとし、現在は表 5.1.6.1 の供給条件で合意しているものである。また、設備
仕様の決定については(財)下水道新技術推進機構に調査研究を委託し、今後の余剰ガス発生量
の予測、実験プラントによる実証実験による検証を行った。
- 110 -
表 5.1.6.1 ガス供給条件(平成 18 年度)
項
目
供
給 条 件
炭酸ガス濃度
4 %以下
硫化水素濃度
2 ppm以下
総発熱量
35.58 MJ/m3(8,500 kcal/m3)以上
露点温度
結露を生じないこと
供給圧力
0.834 MPa(8.5 kg/cm2)以上(ゲージ圧)
供給量の変更
3回(定時)/日 以内
供給単価
19.5 円/m3
このような経過を経て、この事業は平成 10 年度に「アイデア下水道モデル事業」として採択
され、同年 9 月に工事着手、平成 11 年 3 月に工事完成に至った。ガス事業法上では平成 11 年 2
月に関東通産局(旧称)から「卸供給事業」として認可を得て、平成 11 年 4 月から事業を開始し
たものである。
なお、本事業は平成 11 年度の建設大臣賞「いきいき下水道賞」
(下水道有効利用部門)を受賞
し、また平成 12 年度には(社)全日本建設技術協会の第 5 回 21 世紀の「人と建設技術」賞を受
賞した。
(3)事業の概要
1)基礎検討
基礎検討は余剰ガス発生量の将来予測とプラント化する上での実証試験をねらいとして行った。
まず、余剰ガス発生量についてはセンターにおける消化ガス発生量の実績と消化タンクにおけ
る放散熱量のシミュレーション、投入汚泥の予測などをもとに行い、この結果、平成 25 年度にお
ける余剰ガス発生量の日最大値を 3,340 ㎥ と予測し、この量を基準に設備の精製能力を定め、
供給条件をクリアするための精製塔の形状と精製水量を求めた。
また、湿式脱硫処理により二酸化炭素が除去されることについては知られているが、除去効果
はガス量、水温その他のパラメータによって大きく左右されることから、実証実験ではセンター
の処理水と既存脱硫塔の充填材を用いて行った。この結果、カラム出口ガスの CO2 濃度は 2%程度
に収まり、供給条件を十分にクリアできることが確認された。
基礎検討及びシミュレーションに基づき精製塔の設計値を算定した。吸収効率の悪い条件下に
おいても CO2濃度を供給条件より厳しい 3%以下とするために必要な形状を求めた結果、塔高は
7m、塔径は 2.2m、また、精製に必要な水量は 5,800 ㎥/日と求められた。
2)施設概要
長岡市と北陸ガス(株)との管理および財産区分は当センターの敷地境界とし、長岡市は精製
設備・供給設備及び場内の導管を設置し管理する。一方、北陸ガス(株)はそれ以外の導管及び
精製ガスの受入れに必要な付帯設備を設置し管理することとなった。消化ガス設備のフローシー
- 111 -
トを図 5.1.6.2 に、主要設備の仕様を表 5.1.6.2 に示す。
精製塔以外の主要設備の概要は次のとおりである。
・ 圧送機
精製能力(140 ㎥/h)に対応する圧送能力は 110 ㎥/h 程度となるが、若干余裕をみて 140 ㎥
/h とし、また、供給先のガス会社のガスホルダーが最高 0.8MPa の中圧ホルダーであるため、
供給圧は 0.95MPa とした。
・ 除湿機
ガスは昇圧すると飽和水分量が低下するため導管中で結露が生じやすく、腐食の原因となる。
このため、昇圧後に冷水で除湿することとした。
・ 制御系
ガスホルダー残量・炭酸ガス濃度及び供給ガス量が表示され、各操作を中央監視室で行えるよ
うにし、また、炭酸ガス濃度が 3.5%を超えた場合は警報を、4%を超えた場合は自動停止するシス
テムとした。
・ 精製水ポンプ
精製水の供給については、水処理設備の消泡水ポンプの予備機を利用して設備コストの上昇を
抑え、二段式のマイクロストレーナを追加した。また、冬季間は精製ガス量が減少すること、精
製水の水温が低下して CO2の溶解度が上昇することを考慮し、ポンプ定格の小さい脱硫水ポンプ
を切り替えて使用できることとした。
・ ガス会社側の設備
ガス会社の原料ガスは全て県内産の天然ガスで賄われており、この天然ガスの熱量が高いこと
から、これを空気で希釈して一般家庭に供給する熱量に調整していたが、消化ガスの導入に伴っ
て、熱量調整を行う設備を付加したものである。
・ その他
従来からセンターの冷暖房設備はターボ冷凍機と重油焚き温水ボイラを併用していたが、平成
11 年度に老朽化による更新に併せ管理棟などの空調熱源をガスヒートポンプに変更し、精製ガス
と都市ガスとを切り替えて使用可能とした。
中圧ガスホルダー
管理境界
長岡市
北陸ガス ( 株)
ボイ ラ ー
余剰ガス 燃焼装置
天然ガス
消化タ ン ク
脱硫塔
ガス ホ ルダ ー
精製塔 圧送機
ガス 冷却設備
( 除湿機)
混
流量計、圧力調整器、緊急遮断弁等
図 5.1.6.2 消化ガス設備のフローシート
- 112 -
一般家庭な ど へ
ガス 供給
表 5.1.6.2 主要設備の仕様
設
長岡市
北陸ガス
備
名
設
備
仕
様
消化タンク
1次タンク2基、2次タンク2基(容積計 13,520m3)
ガスホルダー
低圧乾式型
脱硫塔
湿式
脱硫水:2,400m3/日
Φ2.1m×H6m
充填材:塩ビ管Φ5cm×5cm
*精製塔
湿式
精製水:5,800m3/日
Φ2.2m×H7m
充填材:塩ビ管Φ5cm×5cm
*圧送機
スクリューコンプレッサ
*除湿機
ブライン(-2℃)
*導管
PLP(ポリエチレンライニングパイプ)
80A×250m
*導管
PLP(ポリエチレンライニングパイプ)
80A×500m
*付帯設備
圧力調整機
容積:3,000m3
140m3/時×9.5kg/cm2×2台(1台は予備)
シェルアンドチューブ式
流量計 緊急遮断弁
熱調設備等
*は消化ガス有効利用のため新たに設置した設備
3)運転状況
ア)精製ガスの供給量
平成 11 年 4 月に供用開始して以来、重大なトラブルもなく、ほぼ安定した供給をしており、
メンテナンスで供給できない場合を除き余剰ガスのほぼ全量を有効利用している。過去 5 年間の
精製ガス供給量と売上収入の推移を図 5.1.6.3 に示す。平成 18 年度の消化ガス発生量は年間 181
万㎥、この内余剰ガス発生量は 115 万㎥(消化ガスベース)で、余剰ガスの割合は 63%に達して
いる。ガス会社への精製ガス供給量は年間約 60 万㎥で、季節により 3〜6 万㎥/月と大きく変動
している。これは、冬期の消化タンク加温用ボイラの使用量が増えることによるものと、消化ガ
スの発生量自体が減少することに起因している。この精製ガス供給量 60 万㎥は、一般家庭の都市
ガス消費量 600 ㎥/年として 1,000 世帯分の都市ガス量に匹敵するものであり、市内に供給する
全都市ガス量に占める割合は約 1%以下である。
20,000,000
700,000
ガス供給量
売
上
17,500,000
600,000
15,000,000
500,000
収
入
円
供給量( m 3 )
ガス 売上収入
ガ
ス
売上収入(
供 円)
12,500,000
400,000
10,000,000
300,000
量
7,500,000
200,000
m3
5,000,000
100,000
14
15
16
17
年 度
図 5.1.6.3 精製ガス供給量と売上収入の推移
- 113 -
18
給
イ)各工程におけるガス成分
平成 18 年度のガス工程別組成割合は図 5.1.6.4 に示すとおりである。供給先であるガス会社
との供給条件にある炭酸ガス濃度は精製ガス時点で 2.8%であり、
供給条件である 4.0%を十分クリ
アしている。また、発熱量は 8,674kcal/㎥で平成 18 年度現在の供給条件 8,500kcal/㎥を上回
っている。
炭酸ガス除去率の 18 年度年間変動を図 5.1.6.5 に示す。脱硫工程においては、季節変動が大
きく、特に処理水温が冬季では 8℃位まで低下するため除去率が 60%に近いことが分かる。精製
工程では、概ね 88%の安定した除去率で推移しており、総合で 93%であった。一方、窒素ガス濃度
の変化については、当初重要視していなかったのであるが、供給ガス量が少ないほど予想以上に
精製工程で窒素ガスが混入するものと思われる。これは、精製水中の溶存窒素濃度が飽和状態に
あり、また、精製水中の他成分が溶解することで溶存窒素が精製塔内でガス化しやすくなるため
と思われる。この量は精製水量に応じほぼ一定と考えられ、ガス供給量が少ないほど相対的混入
率は高まる。実績から窒素ガス濃度が 6.4%と高まるため、メタンガス濃度はその分抑えられ 91%
に止まり、そのことにより発熱量も低下することとなる。ちなみに、供用開始当時ガス会社との
供給条件は発熱量 9,000kcal/㎥であった。
,
100%
80%
,
,
,
60%
40%
窒素(%), 0.7
窒素(%), 2.8
39.1
20.9
,
窒素(%), 6.3
,
20%
0%
2.5
図 5.1.6.4 ガス工程別組成割合(平成 18 年度)
100
90
除去率(%)
80
70
炭酸ガス除去率(脱硫工
程)
60
炭酸ガス除去率(精製工
程)
50
炭酸ガス除去率(総合)
40
30
20
10
0
①
4月
①
5月
①
6月
①
7月
①
8月
①
9月
①
10月
①
11月
①
12月
①
1月
①
2月
①
3月
図 5.1.6.5 炭酸ガス除去率の年間変動(平成 18 年度)
ウ)維持管理状況
- 114 -
ガスの供給は以下の条件を満足させながら、できるだけ定量に供給することが求められている。
① ガスホルダーの貯留量が 2,900 ㎥以上になると自動的に供給を停止し、余剰ガス燃焼装
置が作動するため無駄となる。このため、貯留量の制約が生じている。
②
日中だけ消化タンク加温用ボイラを運転させているため、夜間に翌日の必要量を確保し
ておく必要がある。
③
1 時間あたりの供給量の変更は 3 回/日以内とすること。
④
供給量の増加に伴う炭酸ガス濃度の上昇は、水温や水量などの影響が避けられない。ま
た、窒素ガス濃度の抑制を考えると最低供給量は 70 ㎥/h に制限する必要がある。
⑤
露点温度については、供給条件に「結露を生じないこと」とされていることから、各月
毎に供給ガス温度の設定を変える必要が生じる。通常、温度差が 3〜5℃以上に達する
と結露が発生するといわれている。したがって、土中温度より供給ガス温度を 3〜5℃
低く保ち、導管(80A PLP)内部に結露が発生しないよう運転管理している。過去 3 年
間の土中温度(測定箇所 2 箇所、深さ 1.5m)を測定し、各月毎の平均土中温度を求め
運転管理の指針としている。精製ガス温度は夏季 70〜80℃、冬季 40〜50℃であり、こ
の状態のままでは多量の結露が発生することになる。このため、除湿機により供給ガス
温度を設定温度まで低下させている。また、土中温度と供給ガス温度の差が大きいと導
管外面に多量の結露が発生するため配管の腐食の原因となる。したがって、今までの経
験から土中温度よりも常に 3〜5℃程度供給ガス温度を低く保つよう管理している。
(4)事業の効果
1)汚泥処理・処分での効果
供用開始以前は年々増加する消化ガスを脱硫し、消化タンク加温用ボイラの燃料として利用す
る以外は全て余剰ガスとして焼却処分していたが、この事業により全量有効利用することが可能
となった。汚泥の消化率は概ね 60%程度で推移しており、この値は標準的なレベルであると考え
られるが、これをさらに高めることにより、ガス発生量の増加と汚泥の最終処分量の減容化、有
機物濃度の低下による脱水性の向上など様々なメリットが期待できる。
2)コスト効果
ガスの品質は供給条件を全て満足しており、供給世帯数にして 1,000 世帯分の都市ガス量に匹
敵する精製ガスを安定して供給している。
精製ガスは都市ガスの原料の一部として利用するだけでなく、平成 12 年度以降は管理本館の
冷暖房空調設備の燃料として年間を通じ利用を図っている。
平成 18 年度では都市ガス換算で年間
83%を精製ガスで賄っており、これによる削減額は約 125 万円に相当する。
供給ガスの売払い料金は、消化ガスの発生が順調なことから、平成 18 年度では約 60 万㎥の供
給に対し約 1,200 万円となり、平成 15 年度をピークに収入は毎年一千万円を超えている。
(取引
単価は平成 18 年度 19.5 円/㎥)なお、過去3年間の消化ガス有効利用の内訳を図 5.1.6.6 に示
す。
施設の建設費は、およそ2億 2,400 万円であるが、機器の保守に要する費用は年々増加の一途
- 115 -
をたどり、平成 18 年度では 585 万円に達し、売却差益は収入の 51%程に止まっている。とはいえ、
増大する処理場の維持管理費の一部を補填するもので、下水道経営の健全化に寄与するものであ
る。ちなみに、平成 18 年度の 1 ㎥当り精製経費は 15.84 円であった。
利用量 m3 /年
1,400,000
余剰燃焼分
1,200,000
40830
25071
精製利用(空調分)
精製利用(圧送分)
ボイラー使用分
27400
1,000,000
800,000
48495
23604
6990
631500
714868
411371
459452
448885
平成16年度
平成17年度
平成18年度
645490
600,000
400,000
200,000
0
図 5.1.6.6 消化ガス有効利用の内訳(脱硫ガス換算)
3)環境的効果
本事業により炭酸ガス排出量の大幅な削減が可能となり、平成 18 年度実績では 1,300t で、毎
年 900〜1,500t の範囲で削減しており、地球温暖化防止の一翼を担っているものである。
下水道におけるエネルギー有効利用を広く市民へ PR することが可能となり、下水道と環境問
題に対する関心が得やすい。
(5)今後の課題と展望
今後の事業展開にあたっては、次のような課題が考えられる。
①
供給ガスの品質を一定に保つため、処理ガス量・二次処理水の水質と供給ガス量・ガス
成分の因果関係についての運転管理モデルの構築が必要である。平成 18 年度の消化率
は約 66%であり、消化タンク分解有機物当たり発生ガス倍率は 0.94 ㎥/㎏である。こ
の消化率の向上について今後検討する必要がある。当市では、長岡技術科学大学を中心
に企業の参画を得て、消化率向上のための調査研究の場を提供している。これによると、
消化率は約 80%まで向上させることが可能としており、メタンガス発生量の増加や消化
汚泥の脱水性が向上したことにより、脱水ケーキ含水率が約 10%低下して 60%台となり、
その結果、脱水ケーキの発生量を現在の約半分に削減できるとしている。今後これらの
技術開発に期待し、注目していきたい。
②
ガス精製にかかる維持管理経費は、精製に要する動力経費と設備類の点検整備に要する
経費が大半であり、概ね当初予想していた程度であるが、今後は圧送機など精密機器類
の整備に要する費用が上昇してゆくものと予想される。その意味で定期に実施する点検
整備の成果は重要であり、点検させるべき内容の吟味とその結果の持つメッセージを理
解し、長期的な維持管理計画に反映させてゆくことが、ひいては設備の寿命延長に好影
- 116 -
響を及ぼすものと捉え、今後の維持管理に取り組んでゆかなければならない。
長岡市の消化ガス有効利用事業は、多くの方々の理解と協力によって事業が開始され、今年で
9年目を迎えている。事業の展開にとってはガス会社との距離が近いという地理的な好条件に加
え、消化ガスの精製を既存の下水処理水で実現できたことに大きなメリットがあった。
下水道終末処理場は、その都市の特性や様々な事情を踏まえて建設され維持管理されているも
ので、その状況は地域の特性を端的に表しているといえる。当センターのように、消化ガスエネ
ルギーの利用は消化タンクでの嫌気性消化を行っている処理場にのみ有効であるが、事業化にあ
たっては消化タンク内汚泥の堆積やそれに伴う浚渫、臭気対策などそのデメリットも十分に認識
しておく必要がある。
いずれにしても、バイオマスエネルギーの有効活用が急務とされる今日、地域の実情に最も適
した資源の再利用、エネルギー利用方策の検討が肝要と思われる。
5.1.6.4.2 石川県金沢市
都市名
石川県金沢市
供用時期
H17.5
利 用
消化ガス
場 内
場 外
技 術 <状 況>
特
都市ガス供給
<実機導入済み>
徴
消化ガス場外利用
(消化ガスの売ガス)
事業費
総エネルギー
又は施設規模
エネルギー当り
事業費
維持管理費
(H17,18)千円
約 2.8 億円
都市ガス製造能力:100m3N/h(メ
タン:90%以上、CO2:4%以下)
、
金沢市全体の都市ガス使用量の 0.7
〜0.9%、将来値 2%
―
7,443:13,914
効
果
費用補助制度
売ガス収益:約 14,500 千円/年(H18)
、 平成 16 年度地域新エネルギー導入・省エネルギー普及促進
温室効果ガス削減
対策費補助、バイオマス燃料製造(NEDO)
石川県金沢市企業局施設部水処理課
(1)はじめに
金沢市の平成18年度末の下水道普及率は91.2%となっており、現在、
「循環型社会形成
に貢献する下水道」をキャッチフレーズに下水道資源である消化ガス、処理水、焼却灰の有効利
用に取り組んでいるところである。
◆ 浅野処理区:城北水質管理センター(公共下水道) 供用開始 昭和44年
¾ 処理能力 156,000m3/日 標準活性汚泥法 消化→脱水→焼却
¾ 処理量
96,500m3/日(H18 実績)
◆ 西部処理区:西部水質管理センター(公共下水道) 供用開始 昭和55年
¾ 処理能力 110,000m3/日 標準活性汚泥法 余剰・生混合脱水→都市ゴミと混焼
¾ 処理量
46,300m3/日(H18 実績)
◆ 臨海処理区:臨海水質管理センター(公共下水道) 供用開始 平成6年
¾ 処理能力 46,000m3/日(4/7系列) 標準活性汚泥法 消化→脱水→焼却
¾ 処理量
25,000m3/日(H18 実績)
¾ 全体計画 80,500m3/日
- 117 -
◆ 犀川左岸処理区:犀川左岸浄化センター(流域下水道) 供用開始 平成6年
¾ 処理能力 48,400m3/日(4/7系列) 標準活性汚泥法 消化→脱水→焼却
¾ 処理量
17,100m3/日(金沢市分)全体30,500m3/日(H18 実績)
¾ 全体計画 84,700m3/日
(2)導入目的
本市では、平成10年度に「金沢市環境基本計画」を策定し、地球温暖化防止のため二酸化炭
素の削減に取り組んできたが、こうした観点から、平成13年度にNEDO(独立行政法人新エ
ネルギー・産業技術総合開発機構)の補助を受け「金沢市新エネルギービジョン」を策定した。
同ビジョンでは、市が先導的導入として着手しやすく、付加価値として啓発効果が期待できるモ
デルプロジェクトを8事業選定し、その1つとして臨海水質管理センターの消化ガス有効利用が
選定され、平成14年度には、再度NEDOの補助を受け、
「金沢市臨海水質管理センター消化ガ
ス有効利用事業化調査」に着手した。同調査のために学識経験者を交えた「金沢市新エネルギー
導入可能性委員会」が設立され、委員会において、既存の利用方法であるガスエンジンや燃料電
池による発電も含め様々な角度から検討を加えた結果、港エネルギーセンター(市営都市ガス工
場)が臨海水質管理センターに隣接しているというメリットを最大限に活かした精製消化ガス供
給(都市ガス供給)が経済性、有益性の点において最も適しているとの結論に達し、事業化が決
定された。
(3)事業概要
1)事業スキーム
◆ 利用した補助事業制度
¾ NEDO 補助制度
¾ 平成 16 年度地域新エネルギー導入・省エネルギー普及促進対策費補助金
¾ バイオマス燃料製造
◆ 補助率:1/2
2)施設概要
平成15年度には、システムの設計を行うに当たり最も重要な吸収塔(消化ガスの高濃度化設
備)の設計諸元を決定するために、臨海水質管理センター内に吸収塔の実験プラントを設置し、
臨海水質管理センターから発生する消化ガス及び処理水を用いた精製実験(高濃度化実験)を実
施し、システムの設計諸元を以下のとおりに決定した。
Ⅰ 精製消化ガス成分:メタン濃度90%以上、CO2 濃度 4%以下
Ⅱ 液ガス比
:1.8
Ⅲ 都市ガス製造能力:100m3N/h
- 118 -
システムフロー
臨海水質管理
センター
港エネルギー
センター
都市ガス製造プラント
洗 浄 水
( 処 理 水)
LPGタンク
ガスホ
ルダー
消化タンク
脱硫塔
ガスタンク
吸収塔
圧縮機
除湿機
熱調器 クッション
タンク
消化タンク加温用ボイラ
図 5.1.6.7 システムフロー(1/2)
都市ガス製造プラントは、大きく分けて「吸収塔」
、
「圧縮機」
、
「熱調器」の3つの部分から構
成される。吸収塔は、消化ガスを精製(高濃度化)するための装置であり、原理は CO2 は水に溶
けやすく、
メタンは水に溶けにくいという性質を応用したもので、
「気液接触法」
と呼ばれている。
この方法の利点は、CO2 を吸収させる水として豊富にある下水処理水を利用できる点にある。圧
縮機は、ガスの供給先である港エネルギーセンターにある中圧の球形ガスホルダーへガスを送る
ための装置である。熱調器は、消化ガスを精製して得られるガスのメタン濃度が90%程度であ
り、熱量としては約36MJ/m3N(8,600kcal/m3N)しかないため、熱量の高いプロパンガス
を添加して13A都市ガスの基準熱量である46MJ/m3N(11,000kcal/m3N)まで増熱する
ための装置である。
ア)供給ガスの品質
ガスの供給を受ける側の港エネルギーセンターと供給するガスの品質について協議を行い、以
下のとおり決定した。
Ⅰ ガスの総発熱量:46MJ/m3N(11,000kcal/m3N)±1MJ/m3N
Ⅱ CO2濃度
:3.6%以下
Ⅲ 全硫黄含有量 :0.01g/m3N未満
Ⅳ 硫化水素は検出されないこと
Ⅴ アンモニアは検出されないこと
※ Ⅲ〜Ⅴは、ガス事業法第29条に規定されているガス成分の検査義務項目と許容値である。
イ)クリアすべき法規制
本事業は、法的にはガス供給事業であり、ガス事業法の適用を受けるため、中部近畿産業保安
監督部北陸産業保安監督署のご指導を受け、以下の届出及び報告を行った。
Ⅰ 準用事業開始届出書(ガス事業法第39条)
Ⅱ 設備設置変更報告書(ガス事業法第46条第1項)
- 119 -
卵形消化タンク
消化ガスの流れ
都市ガス製造プラント
・都市ガス製造能力
3
100m N /h
・No.1吸収塔
高さ
9.0m
内径
2.7m
・No.2吸収塔
高さ
9.5m
内径
2.0m
・吸収塔精製能力
CH4
90%以上
CO2
4%以下
都市ガス製造プラント
都市ガスの流れ
港エネルギーセンター
球形ガスホルダー
都市ガスの流れ
工場、一般家庭へ
図 5.1.6.8 システムフロー(2/2)
- 120 -
(4)運転状況
平成16年度に NEDO の補助採択を受けて施設の建設を行い、平成17年5月18日から運
転を開始した。平成17、18年度の運転状況は図 5.1.6.9、図 5.1.6.10 のとおりである。
(m3N /月)
80,000
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
発生量
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
72,186 72,560 70,854 72,369 71,300 66,843 65,779 65,643 64,910 71,306 68,853 71,455
自家消費量 25,937 23,192 18,455 15,771 13,573 13,457 16,726 23,801 29,428 33,186 31,170 29,462
226
257
130
255
150
332
113
152
余剰燃焼量 46,249 25,843 1,384 507
供給ガス量
0
8,999 30,138 33,876 34,171 31,329 27,736 24,737 21,399 21,873 21,853 25,578
図 5.1.6.9 都市ガスの供給実績(平成 17 年度)
(m3N /月)
80,000
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
発生量
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
67,946 77,933 76,605 71,455 76,129 74,983 71,241 74,961 78,640 75,873 68,415 78,598
自家消費量 24,788 27,511 21,081 10,813 13,598 18,651 18,186 24,103 32,796 30,373 27,382 32,889
323
305
0
120
137
74
98
79
72
94
48
59
余剰燃焼量
供給ガス量
26,881 29,754 33,638 37,347 37,774 33,077 31,200 28,619 25,407 25,729 23,079 25,099
図 5.1.6.10 都市ガスの供給実績(平成 18 年度)
(5)維持管理状況
水温が高くなる夏期には、CO2が溶けにくくなるため、水量を増やして対処している。
- 121 -
(6)コスト
◆ 建設費:279,300,000円(設計金額)
◆ 維持管理費
表 5.1.6.3 維持管理費
平成17年度 平成18年度
動力費
1,518,000
2,135,000
プロパン購入費
5,925,000
8,255,000
0
3,524,000
修繕費
(7)導入効果
1)コスト効果
表 5.1.6.4 コスト効果
平成17年度 平成18年度
3
製造量(m N /年)
売却代金
281,689
357,604
10,985,871
14,521,024
本市の場合、供給側、受給側ともに公営企業会計であり、経営部門が料金設定をしている。ガ
ス事業における製造単価よりも安価な料金設定となっている。平成 17、18 年度における消化ガ
スを原料にした都市ガス製造量は、金沢市全体の都市ガス製造量の 0.7〜0.9%であるが、臨海処
理区は面整備の途上であり、将来的には、金沢市全体の2%程度を消化ガスで賄う計画となって
いる。
2)環境効果
表 5.1.6.5 環境効果
平成17年度 平成18年度
CO2削減量(t-CO2/年)
500
634
(8)今後の課題、展望
① 受け入れ先であるガス事業者の選定
② 立地条件(ガス導管の距離)
建設費を決定する重要なファクターとなる場合がある。
③ 供給するガスの品質についてガス事業者側と協議をすることが重要である。品質によっては、
熱調器がいらない場合がある。
- 122 -
5.1.7 消化ガス高濃度化
5.1.7.1 原理
消化ガスの成分は、可燃性物質であるメタン以外に、二酸化炭素・窒素・硫化水素などを含んでお
り(表 5.1.7.1)
、都市ガスと比較すると用途・維持管理性・経済性で不利である。
※ 二酸化炭素は不活性な物質のため、消化ガスの低位発熱量が低くなる。
※ 硫化水素は、毒性が強く、金属の腐食を進行させる。
※ シロキサンは、燃焼機器に堆積することで、燃焼系統の問題などを引き起こす。
表 5.1.7.1 消化ガスと都市ガスの主要成分の比較
種 類
消化ガス
都市ガス(13A)
60〜65
89.6
−
10.4
33〜35
−
窒素
0〜 3
−
水素
0〜 2
−
0.02〜0.08
−
21,000〜23,000
45,000
メタン
成分︵%︶
エタン、プロパン、ブタン
二酸化炭素
硫化水素
低位発熱量(kJ/m3)
出典:
「下水道施設計画・設計指針と解説 後編 2001 年度版」 社団法人日本下水道協会
、東京ガスHP http://home.tokyo-gas.co.jp/userguide/userguide̲06.html
消化ガス中の不純物を除去して高濃度のメタンガスに精製することは、消化ガスの 100%活用と用
途拡大のために必要なプロセスである。ここでは、消化ガス成分の約 3 割を占める二酸化炭素の除去
方法として、湿式吸収法と高圧水吸収法を示す。
表 5.1.7.2 消化ガス中の二酸化炭素の除去方法
方法
概要
湿式吸収法
高圧水吸収法
水(下水処理水)と消化ガスを塔内 圧力上昇に伴うメタンと二酸化炭
で気液接触させ、二酸化炭素を水に 素の水への溶解度の差を利用して
除去する。
吸着させて除去する。
- 123 -
5.1.7.2 設備構成概要
① 湿式吸収法
・ 第1吸収塔では、
処理水中に二酸化炭素と
硫化水素が吸収される。
・ 第2吸収塔では、2〜3%の NaOH 溶液で、
さらに二酸化炭素と硫化水素が反応吸収
される。
<硫化水素の反応>
NaOH + H2S → NaHS + H2O
図 5.1.7.1 湿式吸収法
出典:
【下水道研究発表会 大阪市都市環境局】
② 高圧水吸収法
CH4:98%
7℃
付臭ガス
オフガス
除湿器
精製ガス
(天然ガス自動車
へ充填)
吸収塔
0.9MPa
放散塔
(ストリッピング
タンク)
露点:-80℃
消化ガス
圧縮機
消化ガス(脱硫前)
CH4:60%
CO2:40%
・ 消化ガス中の二酸化炭
素は水に吸収され、都市
ガスや天然ガスと同等
のメタンガスが得られ
る。
・ 二酸化炭素の他、硫化水
素・水分・シロキサンも
同時除去できる。
チラー
減圧
タンク
0.3MPa
ミスト
セパレータ
空気
補給水
ブローダウン
(水処理設備へ)
循環水ポンプ
図 5.1.7.2 高圧水吸収法
出典:兵庫県神戸市
5.1.7.3 一般的な特徴
湿式吸収法、高圧水吸収法の一般的特徴は表 5.1.7.3 のとおりである。
表 5.1.7.3 消化ガス中の二酸化炭素の除去方法
方法
特徴
湿式吸着法
高圧水吸収法
・装置が大きく(高く)なるが構造は単純。
・0.9Mpa の高圧状態にするため装置がやや複雑。
・メタン濃度は水温の影響を受けやすい。
・二種圧力容器の適用を受ける。
・処理する消化ガス量の 2 倍程度の水が必要である。
・高いメタン濃度が得られる。
- 124 -
5.1.7.4 事業事例
5.1.7.4.1 兵庫県神戸市
都市名
利 用
消化ガス
兵庫県神戸市
場 内
場 外
供用時期
事業費
15.3 億円
H20.2
効
技 術 <状 況>
消化ガス精製装置(高圧水吸収法)
<実機導入済み>
総エネルギー
又は施設規模
消化ガス精製装置:
330Nm3/h×2列
果
特
徴
自動車燃料利用
エネルギー当り
事業費
−
維持管理費
千円
H20 年度推定
38,000
費用補助制度
新世代下水道支援事業:リサイクル推進事業
未利用エネルギー活用型
化石燃料削減、温室効果ガス削減
兵庫県神戸市建設局下水道河川部工務課
(1)はじめに
神戸市は、処理区は8つに区分され、その内北区の2処理区は、流域下水道関連処理区となっ
ており、汚水の人口普及率は98%に達している。
年間約2億m3の下水を7箇所の処理場で処理しており、処理の過程で約110万m3の汚泥が
発生する。汚泥は全量嫌気性消化しており、年間約1千万m3の消化ガスが発生する。現在、発
生する消化ガスの約70%を消化タンクの加温ボイラや空調設備の燃料として処理場内で利用し
ているが、残りの消化ガスは焼却処分を行っている。消化ガスの100%活用及び用途拡大を目
指し、その1つとして自動車燃料としての活用事業化を進めている。
図 5.1.7.3 神戸市公共下水道施設と処理区
(2)事業概要
1)消化ガスの「バイオ天然ガス」化
処理場の消化タンクから発生する消化ガスの成分は、メタン約60%、二酸化炭素約40%で、
その他に硫化水素、シロキサンなどの不純物を含む。従来、脱硫処理により硫化水素を除去した
後、消化タンクの加温用ボイラや処理場の空調設備の燃料として利用してきた。
- 125 -
その他の活用方法としては、ガスエンジンの燃料としての利用が挙げられるが、従来の脱硫処
理では硫化水素以外の不純物を除去できないため、維持管理性や経済性がネックとなり、活用が
進んでいなかった。
そこで、消化ガスの100%活用及び用途拡大を図るため、消化ガス中の不純物を除去し高純
度のメタンガスとして精製する方法について検討を行うこととした。
消化ガスの精製方法としては、膜分離法、吸着法、薬液洗浄法等があるが、本市では、
「高圧
水吸収法」について検討を行った。
図 5.1.7.4 東灘処理場卵形消化タンクと実験装置
図 5.1.7.5 精製装置
「高圧水吸収法」は消化ガスの圧力を0.9MPaまで昇圧させて下水処理水と接触させ、ガ
ス中の不純物を水中に溶解させることにより、メタン濃度を高める方法である。
CH4:98%
チラー
7℃
付臭ガス
オフガス
除湿器
精製ガス
(天然ガス自動車
へ充填)
吸収塔
0.9MPa
放散塔
(ストリッピング
タンク)
露点:-80℃
減圧
タンク
消化ガス
圧縮機
消化ガス(脱硫前)
CH4:60%
CO2:40%
0.3MPa
ミスト
セパレータ
空気
補給水
ブローダウン
(水処理設備へ)
循環水ポンプ
図 5.1.7.6 高圧水吸収法フロー
圧力を高めると二酸化炭素等の不純物の水への溶解度は高まるが、メタンの溶解度はほとんど
変化しないことを利用したものである。この方法は大量の水を必要とするが、処理水を精製に利
用できるため下水処理場に適した方法であり、シンプルなプロセスで高純度のメタンガスに精製
できるのが特徴である。
平成16年10月、東灘処理場内に80Nm3/hの処理能力をもつ消化ガス精製装置を設置
し、11月より実証実験を開始して、装置の性能について確認を行った。
消化ガス及び精製後のガスの成分分析結果を(表 5.1.7.4)に示す。
- 126 -
表 5.1.7.4 消化ガス及びバイオ天然ガスの成分
消化ガス
精製ガス
(バイオ天然ガス)
CH4
(%)
CO2
(%)
O2
(%)
N2
(%)
H2S
(ppm)
59.9
37.0
0.4
0.8
330
98.2
0.6
0.2
1.0
<0.1
高位発熱量(計算値)
kcal/m3N
MJ/m3N
23.9
5,720
39.2
9,370
精製後のガスは、二酸化炭素を除去してメタン濃度を約98%まで高めることができ、また、
硫化水素、シロキサンについても除去することができた。
これにより、ガスエンジンの燃料として使用する際の問題が解決され、ガスコージェネレーシ
ョンシステムの燃料としての利用も可能になる。
さらに本市では、このガスを「バイオガス(消化ガス)から再生した天然ガスとほぼ同等の高
品質なガス」という意味で「バイオ天然ガス」と名付け、用途拡大を図っていくこととした。
2)バイオ天然ガスの自動車燃料としての活用について
バイオ天然ガスの新たな用途として、天然ガス自動車の燃料としての活用について検討を行う
ことした。
天然ガス自動車は、基本的な構造は従来のクルマと同様で燃料系統だけが異なり、石油代替エ
ネルギーである天然ガスを燃料とする。光化学スモッグ・酸性雨などの環境汚染を招く窒素酸化
物(NOX)の排出量が少なく、硫黄酸化物(SOX)はまったく排出されない。また黒煙は排出
されず粒子状物質もほとんど排出されない。またCO2の排出量もガソリン車より2〜3割少な
い代表的な低公害車である。
現在、大型トラック、バス、ごみ収集車、道路維持車、汚泥運搬車、普通乗用車、軽四乗用車な
ど幅広い車種で実用化されており、平成19年3月末に全国で約30,000台が普及している。
既存の天然ガス自動車の改造やエンジン調整を一切行うことなく、バイオ天然ガスを燃料とし
て利用できるかについて調査を行った。
まず、自動車検査機関及び自動車メーカーの技術研究所において、既存の天然ガス自動車であ
る普通車及び大型バスを使用して排出ガス、エンジン出力について試験を行った。
天然ガス自動車の燃料としては、通常、都市ガス13Aが使用される。都市ガスはメタンを主
成分とするが、発熱量の高いプロパンやブタン等の成分を含む。バイオ天然ガスは、メタンの純
度が高いため、都市ガス13Aと比較すると熱量が若干低い(都市ガス13A:約11,000
kcal/Nm3、バイオ天然ガス:約9,400kcal/Nm3)
。このため、試験は、バイ
オ天然ガス、バイオ天然ガスに都市ガス13Aを50%混合したガス、都市ガス13Aの3種類
のガスで実施し、結果を比較検討することとした。
排気ガス試験結果を(表 5.1.7.5(普通車)
、表 5.1.7.6(大型バス)
)に示す。各自動車におけ
る試験の結果、バイオ天然ガスは排出ガス規制値を満たしており、都市ガスとほぼ同等の良好な
数値が得られた。また、大型バスのエンジン出力試験では、バイオ天然ガスは都市ガスとほとん
ど差が見られなかった。
- 127 -
表 5.1.7.5 排出ガス試験結果(普通車)
排出ガス
成分
燃料
平成17年規制値
上限値
平均値
排出量
試験車認定
レベル値
バイオ 100%※1
0.089
CO
1.92
1.15
1.15
バイオ 50%※2
0.108
都市ガス 13A
0.121
バイオ 100%
0.0007
NMHC
0.08
0.05
0.013
非メタン
バイオ 50%
0.0008
炭化水素
都市ガス 13A
0.0028
バイオ 100%
0.0073
NOX
0.08
0.05
0.013
バイオ 50%
0.0067
都市ガス 13A
0.0084
試験車両:総排気量1.496L、車両総重量1,665kg
排出ガス国土交通省認定レベル:SU−LEV(平成17年基準排出ガス75%低減レベル)
試験方法:10・15+11モード(平成17年規制)
※1:バイオ天然ガス、※2:バイオ天然ガスに都市ガスを50%混合したガス、
表 5.1.7.6 排出ガス試験結果(大型バス)
排出ガス
成分
燃料
排出量
バイオ 100%
0.04
バイオ 75%
0.04
CO
バイオ 50%
0.05
都市ガス 13A
0.04
バイオ 100%
3.37
THC
バイオ 75%
2.75
全炭化
バイオ 50%
2.72
水素
都市ガス 13A
1.81
バイオ 100%
1.15
バイオ 75%
1.15
NOX
バイオ 50%
1.33
都市ガス 13A
1.47
試験車両:総排気量12.088L
試験車両排出ガスレベル:平成7年技術指針値対応
試験方法:G13モード
平成7年
指針値
102
6.2
3.6
以上の試験結果からバイオ天然ガスは天然ガス自動車の燃料として利用可能であることを確
認した上で、試験走行を開始した。
平成16年12月には、
「市民と市長の試乗会」を開催して、
「バイオ天然ガス」を燃料と
した市バスでの走行を市民の方々に体験してもらった。試乗会の参加者から「化石燃料に頼
らずに、身近なバスが走るのはすばらしい」
、
「乗り心地は変わらない」
、
「排気ガスがきれい」
、
「乗っていても安心」
、
「下水道を身近に感じた」等の感想が寄せられ、評判は上々であった。
また、平成18年 7 月に大阪で開催された「下水道展ʻ06」においても、下水道関係者の
方々にご理解いただくとともに、一般の方々に下水道から新たなエネルギーを生み出すこと
ができるということを知っていただくため、
「バイオ天然ガス」を燃料とした天然ガス自動
車の試乗会を実施した。
現在は、建設局東水環境センターにおいて、公用車2台で常時バイオ天然ガスを燃料とし
て使用している他、市バスや市のごみ収集車でも試験走行を実施している。また、国土交通
- 128 -
省兵庫国道事務所にご協力いただき、道路維持作業用パトロールカー1台で継続的にバイオ
天然ガスを使用していただいている。これらの試験走行においても、都市ガスと同様の性能
が得られている。今後の展開として、新世代下水道支援事業のモデル事業の補助を受け、バ
イオ天然ガス自動車燃料を供給する「東灘処理場こうべバイオガス活用設備工事」を実施し
ている。この設備で日量 5,000 ㎥の精製ガスを製造し、3,000 ㎥処理場内で利活用し、残る
2,000 ㎥の”こうべバイオガス”を自動車燃料として、平成 20 年 2 月より供給している。
東クリーンセンター
市バス魚崎営業所車庫
東灘処理場
図 5.1.7.7 本格施設配置イメージ
図 5.1.7.8 こうべバイオガス・ステーション
- 129 -
ガス精製装置