内容 悪性腫瘍に対する化学療法 • 化学療法の臨床的位置付け (副作用とその対策) • 抗悪性腫瘍薬の種類 香川県立中央病院内科 • 抗悪性腫瘍薬の副作用とその対策 上田 裕 化学療法の臨床的位置付け 化学療法の目的 内容 • 治せる可能性のある癌 治癒(完全に治すこと)を目指す • 化学療法の臨床的位置付け 無再発を目指す(術後化学療法など) • 治せない癌 • 抗悪性腫瘍薬の種類 共存(延命、できるだけ長く元気に生きる)を目指す 病気に伴う症状(痛み、咳などの苦痛)を緩和し、日常生活が • 抗悪性腫瘍薬の副作用とその対策 できることを目指す(QOLの向上) • 目的により許容できる副作用が異なる 治癒を目指す場合は重い副作用も許容 延命が目的の場合は重い副作用は回避 血液悪性腫瘍、化学療法高感受性固形がんに 対する化学療法 進行期に化学療法が用いられる悪性腫瘍 薬物療法の目的:延命が期待できる 薬物療法の目的:治癒が期待できる ほとんどの固形がんに対しての化学療法の効果は不十分である 化学療法のみによって完全治癒が期待できるため 治療の目的は根治、治癒となる。 このため比較的高度な副作用が許容されている場合が多い 治療の目的は生存の延長となる • 卵巣がん • 乳がん • 絨毛がん 化学療法あり • 大腸がん • 悪性リンパ腫 ホジキンリンパ腫 • 多発性骨髄腫 化学療法なし • 膀胱がん 生存率 • 白血病 • 小細胞肺がん 生存率 • 胚細胞腫瘍(卵巣、精巣原発) 化学療法あり 化学療法なし • 骨肉腫 非ホジキンリンパ腫 生存期間 • 慢性骨髄性白血病 生存期間 1 進行期に化学療法が用いられる悪性腫瘍 進行期に化学療法が用いられる悪性腫瘍 薬物療法の目的:症状の緩和が期待できる ほとんどの固形がんに対しての化学療法の効果は不十分である 治療の目的は症状の緩和となる 薬物療法の目的:効果の期待が少ない 治療の目的は症状の緩和となる • 非小細胞肺がん • 悪性黒色腫 • 食道がん • 脳腫瘍 • 子宮体がん 生存率 • 子宮頸がん • 舌がん 化学療法あり • 甲状腺がん • 軟部肉腫 • 膵臓がん • 前立腺がん 化学療法なし • (肝臓がん) 生存率 • 胃がん 化学療法あり 化学療法なし 生存期間 生存期間 抗悪性腫瘍薬の種類 内容 • アルキル化薬 • 白金化合物 • 化学療法の臨床的位置付け • 代謝拮抗薬 殺細胞抗悪性腫瘍薬 • トポイソメラーゼ阻害薬 • 抗悪性腫瘍薬の種類 • 抗がん抗生物質 • 微小管阻害薬 • 抗悪性腫瘍薬の副作用とその対策 • ホルモン薬 • 非特異的免疫療法薬 • 分子標的治療薬 殺細胞抗悪性腫瘍薬 • ①アルキル化薬 DNAをアルキル化することでDNAを阻害し、殺細胞効果を 発揮する。 • ②白金化合物 白金錯体がDNA鎖内あるいはDNA鎖間にて架橋形成し、 DNA合成阻害することで殺細胞効果を発揮する。 • ③代謝拮抗薬 主に核酸(DNA, RNA)合成過程において必須の物質と 類似構造をもつ化学物質で、核酸合成を拮抗阻害すること 殺細胞抗悪性腫瘍薬 • ④トポイソメラーゼ阻害薬 細胞分裂時にDNA切断と再結合を行うトポイソメラーゼに結合する ことで、DNAの再結合を阻害する。 • ⑤抗がん抗生物質 菌が産生する物質で、他の菌の増殖を阻止する物質を抗生物質と 呼ぶが、これらの中にがんの増殖を阻止する活性をもつものがある。 • ⑥微小管阻害薬 有糸分裂の際にチュブリンに作用し、細胞分裂の進行を阻害する。 で殺細胞効果を発揮する。 2 ホルモン薬 • 前立腺がん、乳がん、子宮内膜がんなどのホルモン依存 非特異的免疫療法薬 腫瘍において施行されている。 • 抗エストロゲン剤であるタモキシフェンやアンドロゲンから • 腎細胞がんに対して、IFN(インターフェロン)やIL エストロゲンへの変換を阻害するアロマターゼ阻害剤、 (インターロイキン)といった薬物が用いられている。 LH-RHアゴニストであるリュープリンなどがある。 また、表在性膀胱がんにはBCGが用いられている。 • 高い効果があるうえに重篤な有害反応が少ないのが特徴 である。 分子標的治療 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 新規薬剤承認 (腫瘍分野) FDA • 分子標的治療(ぶんしひょうてきちりょう)とは体内の特定の分子を狙い 撃ちしてその機能を抑えることにより病気を治療する治療法である。 Chabner AACR 2006 2001~2006 ・ Molecular – targeted drug : 67% • 正常な体と病気の体の違いあるいは癌細胞と正常細胞の違いをゲノム ( 2015年 > 75%) レベル・分子レベルで解明し、癌の増殖や転移に必要な分子を特異的 に抑えることで治療する。 ・ Non – targeted drug : 33% • 従来の多くの薬剤もその作用機序を探ると何らかの標的分子を持つが、 分子標的治療は創薬や治療法設計の段階から分子レベルの標的を定 めている点で異なる。 • この分子標的治療に使用する薬を分子標的治療薬と呼ぶ。 分子標的薬剤(機能別) 今後さらに分子標的薬剤の割合が 増加することが予想される。 分子標的薬剤の分類 (標的分子別) • EGFR • 増殖シグナル抑制剤 EGFR阻害剤、HER2阻害剤など • 血管新生阻害剤 VEGF阻害剤、MMP阻害剤など • 細胞周期調整剤 CDK阻害剤など • 遺伝子治療 • 免疫治療 Tyrosine kinase inhibitor : Gefitinib(Iressa), Erlotinib(Tarceva) Monoclonal antibody : Cetuximab(Erbitux) • HER2 Monoclonal antibody : Trastuzumab(Herceptin) • Bcr - Abl , c - kit Tyrosine kinase inhibitor : Imatinib(Gleevec) • VEGF ・ VEGFR Monoclonal antibody : Bevacizumab(Avastin) Tyrosine kinase inhibitor : Sorafenib(Nexavar), Sunitinib(Sutent) • CD - 20 Monoclonal antibody : Rituximab(Rituxan) 3 抗悪性腫瘍薬の副作用 内容 抗悪性腫瘍薬の副作用を考えるときに重要な因子 • 薬理作用 • 化学療法の臨床的位置付け • 薬物動態 • 抗悪性腫瘍薬の種類 • 薬物相互作用 • 抗悪性腫瘍薬の副作用とその対策 • 修飾因子、個人差(遺伝子多型など) • 副作用対策(支持療法) • 医療事故(非適応症例、誤投与、不十分な支持療法) 抗悪性腫瘍薬の副作用-主な副作用 抗悪性腫瘍薬の副作用 • 共通してみられる副作用 • 一般薬の場合、効果発現量と副作用発現量の差が大きい、 つまり治療域に幅があるが、抗悪性腫瘍薬の場合は治療 域が非常に狭く、抗腫瘍効果と副作用がともに現れる。 • このため、がん薬物療法では副作用は不可避と考えなけれ ばならない。 ・抗悪性腫瘍薬は主に細胞分裂のさかんな細胞(骨髄、粘膜、毛根、 生殖腺等)に作用するので、これらの正常細胞にも傷害を与え 副作用を発現することが多い。 骨髄抑制、粘膜炎(口内炎、下痢)、脱毛、性機能障害 ・その他:悪心・嘔吐、腎障害、肝障害、過敏症 ・血管外漏出(注射剤) • 薬剤に特異的な副作用 • 実地医療の現場でがん薬物療法を行う場合、治療の適応と 限界を十分に見極めたうえで慎重に実施すべきである。 心毒性(アドリアマイシン)、肺毒性(ブレオマイシン、BCNU) 末梢神経障害(シスプラチン、タキサン) 中枢神経障害(ビンカアルカロイド)、筋肉痛・関節痛(タキサン) 出血性膀胱炎(シクロフォスファミド) 等 副作用と有害事象 抗悪性腫瘍薬の副作用 • 有害事象とは、治療や処置に際して見られるあらゆる好ましくない徴候、 ■ 主な副作用と発現時期 症状、疾患(臨床検査値の異常を含む)であり、治療や処置との因果関係 発現時期 主な副作用 投与日 ・アレルギー反応 ・アナフィラキシー ・血圧低下 ・頻脈 ・不整脈 ・めまい ・発熱 ・血管痛 ・耳下腺痛 ・吐き気、嘔吐(急性) 2~3日 ・全身倦怠感 7~14日 ・口内炎 ・下痢 ・食欲不振 ・胃部重感 ・血液毒性(白血球減少、好中球減少、血小板減少、貧血) 14~28日 ・臓器障害(骨髄、内分泌腺、生殖器、心臓、肝臓、腎臓、膵臓) ・脱毛 ・皮膚の角化、肥厚 ・色素沈着 ・神経障害(手足のしびれなど) ・免疫不全 2~6ヵ月 ・肺線維症 ・食欲不振 は問わない、と定義される。 • 投与量にかかわらず、投与された医薬品に対するあらゆる有害で意図し ・吐き気、嘔吐(遅延性) ない反応、すなわち有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定でき ないものを薬物有害反応という。 ・膀胱炎 有害事象 ・うっ血性心不全 Q&A知っておきたい肺がん質問箱100,メディカルレビュー社,2003より 副作用 (薬物有害反応) 有害反応 4 NCI-CTC version3 について 毒性のグレード分類 • Common Terminology Criteria for Adverse Events は それぞれの有害事象の用語とその重症度に関する定義 を示したものである。 • Grade 0 正常 有害事象が観察されない、または検査値が正常範囲 • Grade 1 軽度の有害事象 軽度;治療を要さない;症状がない画像所見異常/検査値異常 カテゴリー • Grade 2 アレルギー/免疫 聴覚器/耳 血液/骨髄 不整脈 心臓一般 凝固 全身症状 死亡 皮膚科/皮膚 内分泌 消化管 成長と発達 出血 肝胆膵 感染 リンパ管 代謝/臨床検査値 骨格筋/軟部組織 神経 眼球/視覚 疼痛 肺/上気道 腎/泌尿生殖器 二次性悪性腫瘍 性/生殖機能 手術/術中損傷 症候群 血管 • Grade 3 高度の有害事象 入院や侵襲的治療/IVR/輸血/治療的内視鏡/手術などを要する 顕著な症状を有する • Grade 4 生命を脅かす、または活動不能/動作不能となる有害事象 急性で生命を脅かす代謝性/心血管系の合併症など。集中治療や 緊急処置(緊急IVR/治療的内視鏡/手術など)を要する。 • Grade 5 グレード分類の一例 中等度の有害事象 最低限の治療/局所的治療/非侵襲的治療を要する 有害事象による死亡 副作用対策各論 有害事象 1 2 3 4 ヘモグロビン <LLN-10.0g/dl <10.0-8.0g/dl <8.0-6.5g/dl <6.5g/dl 白血球 <LLN-3000mm3 <3000-2000mm3 <2000-1000mm3 <1000mm3 好中球/顆粒球 <LLN-1500mm3 <1500-1000mm3 <1000-500mm3 <500mm3 血小板 <LLN-75000mm3 <75000-50000mm3 <50000-25000mm3 <25000mm3 アルブミン <LLN-3g/dl <3-2g/dl <2g/dl ビリルビン >ULN-1.5×ULN >1.5-3.0×ULN >3.0-10.0×ULN >10.0×ULN AST, ALT >ULN-2.5×ULN >2.5-5.0×ULN >5.0-20.0×ULN >20.0×ULN クレアチニン >ULN-1.5×ULN >1.5-3.0×ULN >3.0-6.0×ULN >6.0×ULN 咳 症状があり、非麻薬 症状があり、麻薬性 症状があり、睡眠や 性薬剤のみを要する 薬剤を要する - • 過敏症 • 消化器毒性(悪心・嘔吐、口内炎、下痢、便秘) • 血液毒性 • 腎毒性 • 肝毒性 • 肺毒性 - • 心毒性 日常生活に顕著な 支障がある 下痢 4回/日未満の排便 4~6回/日の排便 7回/日以上の排便 回数増加 回数増加 回数増加 24時間未満の静脈 24時間以上の静脈 内輸液を要する 内輸液を要する 生命を脅かす • 神経毒性 • その他(脱毛、血管外漏出) 過敏症 • 異物に対する生体防御システムが過剰あるいは不適当な反応 過敏症の徴候があらわれたら として発現するために生じる種々の症状 • 抗がん剤に限らず抗生物質やNSAIDsでも過敏症がみられ、 時には重篤なアナフィラキシー・ショックをきたすものがある。 • 症状と予防 軽症から重症まで様々で、皮膚症状(掻痒感・発赤・蕁麻疹・顔面紅潮)、 ①ただちに投与を中止する。 ②担当看護師は速やかに担当医に連絡するとともに、 担当医が来るまで血圧測定を1~2分毎に行い記録し、 呼吸状態の変化を観察する。 浮腫、呼吸困難、気管支攣縮、頻脈、胸痛、血圧低下、虚脱、ショックが 起こる。軽度の兆候を見逃さない。 • 薬剤により発症しやすい時期が異なる。 ③血圧低下を認めた場合は可能なら下肢を挙上する。 ④重症度を判断し、以後の処置を行う。 リツキシマブ、パクリタキセル:初回(~3コース) オキサリプラチン、カルボプラチン:6~8コース 院内アナフィラキシーマニュアルより 5 軽症の処置 アナフィラキシーの重症度 • 静脈路は確保したままにして余裕があれば使用中の点滴セットは 取り替え、また必要なら20G以上の針で静脈路を取り直して 乳酸リンゲル液を開始する。 血圧低下 意識障害 気道閉塞症状 皮膚症状の程度 軽症 (ー) (-) (-) 軽症 • パルスオキシメーターと心電図を装着し、血圧を頻回測定し記録する。 中等症 (+) (-) (+/-) 中等症 • 救急カートを取り寄せ救急薬品と気管挿管の準備を行う。 重症 (+) (+) (+) 重症 • 必要に応じ酸素吸入を開始する。 • ステロイドを投与する(抗ヒスタミン剤投与は担当医の判断)。 • 以上の処置にて症状の改善がない場合はエピネフリン投与を考慮する。 院内アナフィラキシーマニュアルより • 症状の改善を確認するまで経過観察を続ける。 院内アナフィラキシーマニュアルより 中等症~重症の処置 • 静脈路は確保したままにして余裕があれば使用中の点滴セットは取り替え、 抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐 また必要なら20G以上の針で静脈路を取り直して乳酸リンゲル液を開始する。 • 酸素吸入(6~10L/min)を開始し、必要に応じ気道確保を行う。 • 救急カートを取り寄せ救急薬品と気管挿管の準備をする。 • 1.急性悪心・嘔吐 抗悪性腫瘍薬投与開始1~2時間後の短時間に出現する。 • パルスオキシメーターと心電図を装着し、血圧を頻回測定し記録する。 • 急激な血圧低下、努力様(喘息様)呼吸または嗄声、顔面浮腫、意識障害の ひとつでも認めたら、直ちにエピネフリンを投与する。 • ICUへ連絡し麻酔科医に応援を要請するとともに、気管挿管と吸引器の準備 • 2.遅発性悪心・嘔吐 抗悪性腫瘍薬投与後24時間以降に認められる。数日間持続する場合 もあり、抗悪性腫瘍薬の代謝産物や精神的因子が関与している。 をする。 • 嗄声の進行が急激で喉頭浮腫による気道狭窄の危険が大きければ、麻酔科 医の到着を待たずに気管挿管を行う。 抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐を経験したことのある患者の精神的要 • 以上の処置後、必要に応じて気管支拡張剤、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、 他の昇圧剤の投与を行う。 • 3.予測性悪心・嘔吐 因により起こる。 院内アナフィラキシーマニュアルより 悪心・嘔吐発現のメカニズム 悪心・嘔吐の危険因子 • 女性 • 若年者 • 飲酒量が少ない • 治療前から強い悪心を予想している • 不安が強い • 先行化学療法で嘔吐を経験している • 妊娠悪阻が強かった • 乗り物酔いをしやすい など 6 抗悪性腫瘍薬の催吐性分類 • 高度(>90%) シスプラチン、メクロレサミン、ストレプトゾシン、シクロフォスファミド (1500mg/m2)、カルムスチン、ダカルバジン • 中等度(30-90%) 悪心・嘔吐の治療薬 • 1.5-HT3受容体拮抗薬 ondansetron ramosetron granisetron azasetron tropisetron palonosetron • 2.ステロイド薬 オキサリプラチン、シタラビン(>1g/m2)、カルボプラチン、イフォスファミド、 シクロフォスファミド(<1500mg/m2)、ドキソルビシン、ダウノルビシン、 dexamethasone methylprednisolone • 3.非フェノチアジン系ドーパミン拮抗薬 エピルビシン、イダルビシン、イリノテカン domperidone metoclopramide haloperidol • 4.フェノチアジン系ドーパミン拮抗薬 • 低度(10-30%) prochlorperazine パクリタキセル、ドセタキセル、ミトキサントロン、トポテカン、エトポシド、 ペメトレキシド、メソトレキサート、マイトマイシン、ゲムシタビン、シタラビン (100mg/m2)、5-フルオロウラシル、ボルテゾミブ、セツキシマブ、トラスツマブ • 微小(<10%) lorazepam ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ベバシズマブ リスク別推奨治療法 (ASCO ガイドライン 2006) diazepam • 6.抗ヒスタミン薬 promethazine ブレオマイシン、ブスルファン、2-クロロデオキシアデノシン、フルダラビン、 chlorpromazin • 5.ベンゾジアゼピン系薬 diphenhydramine • 7.NK1(neurokinin 1)受容体拮抗薬 aprepitant 悪心・嘔吐の発症、コントロールに影響する因子 因子 • 高度リスク 発症低度 コントロール状態 5-HT3受容体拮抗薬 day1 + dexamethasone day1, 2, 3 前治療にて著明な悪心・嘔吐の経験あり 強い 不良 + aprepitant day1, 2, 3 アルコール常用あり 弱い 良好 [5-HT3受容体拮抗薬;経口 or 静注、dexamethasone 治療前 経口 年齢(高齢) 弱い 良好 12mg(aprepitantあり) or 経口20mg + 2, 3日目 経口8mg、 性別(女性) 強い 不良 aprepitant 投与前 経口125mg + 2, 3日目 経口80mg ] 化学療法や副作用出現の不安あり 強い 不良 同室患者の悪心・嘔吐あり 強い 不良 治療に対する前向きな姿勢あり 弱い 良好 PSが良好 弱い 良好 治療前の食事摂取が少なめ 弱い 良好 治療前の睡眠が良好 弱い 良好 妊娠中の悪阻が強い 強い 不良 病気に対する思い込みが強い 強い 不良 • 中等度リスク 5-HT3受容体拮抗薬 day1 + dexamethasone day1 • 低度リスク dexamethasone day1 • 最小リスク なし 口内炎の発現機序 口内炎 • 口内炎に代表される口腔粘膜障害は、抗悪性腫瘍薬 治療において患者のQOLを阻害する重要な因子 • 口内炎を起こしやすい抗悪性腫瘍薬 • 抗悪性腫瘍薬投与による口内炎は下記の2つに分類できる と考えられる • Primaryの口内炎 メソトレキサート 口内炎の発症機序は不明な点が多いが、抗悪性腫瘍薬により口腔内 フルオロウラシル 粘膜にフリーラジカルが発生、粘膜組織破壊と、それに続く炎症がおき、 ドキソルビシン 最終的に口内炎が発症する。 エトポシド • Secondaryの口内炎 エピルビシン ブレオマイシン 抗悪性腫瘍薬の投与により白血球数や唾液が減少し、口腔内が易感染 など 状態になるために、粘膜表面上で局所的に感染を引き起こし発症する。 7 口内炎の予防 口内炎の予防 • 口腔粘膜保護 • 一旦口内炎が起こると治癒に時間がかかるために予防が重要 アロプリノール含嗽水:アロプリノール代謝産物が5-FU 代謝産物の産生抑制を来たし、毒性を減弱させる。 • 治療前のケア (5-FUの効果も減弱?) 治療前に口腔病巣の治療(齲歯、歯周病、口内炎治療など) プラークコントロール・ブラッシング指導 含嗽の習慣化: メシル酸カモスタット含嗽水:フリーラジカル発生抑制剤 • 口腔内冷却法(クライオセラピー): 口内炎を冷却することにより口内炎血管を収縮させ、 10%オキシドール水、2%重曹水、ポピドンヨード含嗽剤 抗がん剤が口腔内粘膜に到達する量を減少させる方法 ロイコボリン/5-FU療法において報告 • 感染予防のために抗菌薬、抗真菌薬を投与 口内炎症状に対する治療 下痢 • 重篤な下痢は治療の継続を妨げ、PSが低下し、高度の • 疼痛対策 脱水・循環不全、重症感染、急性腎不全などを引き起 局所麻酔剤 塩酸リドカインビスカス アズレンスルホン酸ナトリウム サリチル酸 など • 食事摂取低下に対する対策 適切な補液、刺激性の少ない流動食 など 下痢の発生機序 • コリン作動性 化学療法剤投与により、消化管の副交感神経が刺激され、蠕動運動 が亢進して下痢が起こる。化学療法剤投与当日に起こることが多い (早発性下痢)。 • 腸管粘膜障害 化学療法剤により消化管粘膜が障害されるために起こる。 化学療法剤投与後数日~2週間たってから発症する(遅発性下痢)。 粘膜障害のため感染が起きやすく、骨髄抑制の時期と重なるため 注意が必要である。 こし、死に至ることもある。重症化する前に適切な対処 が必要である。 下痢を起こしやすい薬剤 イリノテカン メソトレキサート フルオロウラシル エトポシド シタラビン ドキソルビシン シスプラチン ゲフィチニブ エルロチニブ 下痢のマネージメント 観察点 • 治療前後の便の性状と 排便パターンの把握 • 下痢の有無と低度 • 下痢の随伴症状 (腹痛、肛門痛) ケア • 心身の安静と補温 • 止痢剤や整腸剤の投与 食事療法 (温かく消化吸収のよい食事) 乳製品は腸管内を酸性に傾けやすい • 食事摂取状況 ため禁止 • 脱水の有無 (白血球減少時:過熱食) • 電解質バランス • 肛門周囲皮膚の状況 (強い下痢:絶食) • 輸液療法の管理 • 肛門周囲皮膚の清潔の保持 8 下痢に対する薬物療法 便秘 • 十分な補液(体液と電解質補正) • 便秘の原因 器質性:腸管内外の腫瘍によるもの。癌性腹膜炎による • ロペラミド 腸管麻痺 • 臭化ブチルスコポラミン(緑内障、前立腺肥大症禁忌) 機能性:摂取量の低下や嘔吐、発熱、脱水など。長期臥床 • タンニン酸製剤 による腹筋の低下など • 天然ケイ酸アルミニウム 薬物性:ビンカアルカロイド、モルヒネ、5-HT3受容体拮抗剤 • 沈降炭酸カルシウム • 便秘の背景 • 乳酸菌製剤 抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐に対する制吐剤使用 • リン酸コデイン 強い痛みとそれに対するモルヒネの使用 • 塩酸・硫酸モルヒネ 骨転移、神経障害による長期臥床 • オクトレオチド(サンドスタチン) 便秘に対する薬物療法 便秘の観察点とケア • 増量性下剤 (1)浸透圧性下剤 ケア 観察点 • 治療前の排便の状態(量・ 性状・回数) • 便秘の随伴症状(嘔気・嘔吐・ 食欲低下、腹部膨満感) • 規則正しい排便の習慣 • 食事の援助 1)塩類下剤:酸化マグネシウム • 化学的刺激薬 (1)小腸刺激性:ヒマシ油、オリーブ油 • 水分摂取、食物繊維食 (2)下部小腸、上部大腸刺激性 • 腹部マッサージと温罨法 (3)大腸刺激性 • 食事・水分摂取状況 • 浣腸、摘便、座薬の使用 • 精神的不安・緊張の有無 • 薬物療法 • モルヒネなど便秘を来たしやす • 精神的負担への配慮 い薬剤の服用状況 2)糖質下剤 (2)膨張性下剤 1)アントラキノン系:センノシド、センナ 2)ジフェノール:ピコスルファートナトリウム 3)その他:ビサコジル、酢酸ビソキサンチンなど • 浸潤軟化薬:グリセリン • その他:メトクロプラミド、シサプリド、ネオスチグミン、パンテチン、 ジノブロスト、メントール温湿布 白血球最低値までと回復までの期間 抗悪性腫瘍薬 骨髄抑制(血液毒性) • 白血球(好中球)減少:易感染状態 • 血小板減少:出血傾向 • 赤血球減少:貧血 最低値(日) 回復期(日) マイトマイシン 20-40 35-56 パクリタキセル 7-14 14-21 ドセタキセル シクロフォスファミド 7-14 8-14 15-28 18-25 6-13 5-14 5-9 14-21 14-20 21-24 22-28 10-14 21-28 21-28 ドキソルビシン エトポシド ビンデシン ビノレルビン ゲムシタビン イリノテカン 7-25 21-28 フルオロウラシル エスワン 7-14 21-28 22-24 35-42 カルボプラチン シスプラチン 14-21 14-21 21-35 21-35 9 白血球(好中球)減少時 • 白血球(好中球)減少時に最も問題となるのは感染症である。 • 好中球減少症患者の感染症では、一般にcoagulase-negative 白血球減少時の主な感染部位とその予防 ケアの第一は予防:外からの病原体の侵入を防ぐための清潔な環境整備 感染部位 症状 予防(ケア) 呼吸器、口腔 咽頭痛、咽頭発赤、咳嗽 含嗽:ポピドンヨード含嗽液 Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas aeruginosaなど 上気道、肺/気管支 喀痰、呼吸困難、肺音 歯磨き の好気性常在菌が起炎菌として考えられる。また、感染症の2~10%は 消化器 嘔気、嘔吐、腹痛、胃部 なま物の禁止 カンジダやアスペルギルスが占めると言われる。 胃/腸粘膜 不快感、便の性状、量 果物は新鮮なもので皮をむいて食べる 肛門周囲 肛門周囲の掻痒感、疼痛 排便後、シャワートイレを使用 発赤、腫脹、出血、便の性状 排便コントロール 尿の性状、量、残尿感 会陰部の清潔:シャワートイレで洗浄 staphylococci(CNS)、viridans streptococci、Staphylococcus aureus、 ペットボトルは1日で使い切る 尿道、膀胱 頻尿、排尿時痛、尿混濁 セルフケアできない患者は石鹸を使用 し微温湯で洗浄する 感染時の薬物療法 発熱性好中球減少 • 化学療法後の好中球減少時の発熱はその多くが感染性のものであ • 発熱など感染の徴候がみられた時は血液培養 (最低2セット) • 採取後、すみやかに抗生剤投与の開始 (起炎菌判明前) 細菌感染:広域スペクトラムの抗生剤 起炎菌が判明すれば変更(de-escalation) り、適切な抗菌薬治療が速やかに実施されない場合、重症化し死に 至ることもまれではないことから、発熱性好中球減少症(Febrile neutropenia)という一つの疾患概念としてとらえられている。 • わが国では1998年に初版ガイドラインが作成され、2003年には改定 ガイドラインが出版された。 • 定義:好中球数が1000/μl未満で500/μl未満になる可能性がある状 真菌感染:抗真菌薬 況下で、腋窩温で37.5℃以上(口腔内温≧38℃)の発熱を生じ、薬剤 ウイルス感染:抗ウイルス薬 熱、腫瘍熱、膠原病、アレルギーなど原因がはっきりわかっているも のを除外できる場合 発熱性好中球減少時の検査 発熱性好中球減少の治療 • 直ちに痛みなどの症状を含む発熱とともに出現した局所症状についての 問診および粘膜、歯周組織、咽頭、下部食道、呼吸器、肛門を含む会陰 部、眼(眼底)、骨髄穿刺部位、血管カテーテル挿入部位、爪周囲の組織 を含む皮膚など感染好発部位の検索のための全身の身体診察を行う。 • 血液培養、その他感染源と考えられる部位からの検体採取とグラム染色、 培養、全血球計算、生化学検査、胸部X線写真、CRP検査、尿一般検査 を行う。(血液培養は感度の上昇とコンタミネーションを否定するため、場 所と時間を変えて2回以上の施行が望ましく、体温の上昇時または上昇 直前かつ極力抗生剤の影響の少ない時間帯に、血液量にして総量20ml 程度採取することが勧められている。) 10 発熱性好中球減少時の初期治療(日本) 血小板減少時 • 通常、血小板数が10万を下ると血小板減少症と呼ばれるが、 血小板減少症に対 する血小板輸血の適応は血小板減少の原因になっている疾患・病態に応じて考え ていく必要がある。 • 血小板製剤の使用基準では、疾患ごとの予防的血小板輸血の開始基準について 助言している。固形腫瘍の化学療法における急性の血小板低下に対する投与は、 Plt 20000/μlを保つように助言しているが、現在は最低10000/μlを保てばよいとす - る意見が強い。 ~ or LVFX • 血液製剤の使用指針 固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には,急速に血小板数が減少するこ とがあるので,必要に応じて適宜血小板数を測定する。 血小板数が2万/μL未満に減少し,出血傾向を認める場合には,血小板数が 1~2万/μL以上を維持するように血小板輸血を行う。 化学療法の中止後に,血小板数が輸血のためではなく2万/μL以上に増加した場 合には,回復期に入ったものと考えられることから,それ以降の血小板輸血は不要 2003 Japan Febrile Neutropenia Study Group Guideline である。 赤血球減少時(貧血) 赤血球減少時 • がん化学療法施行時において、貧血が進行しHb7~8g/dlになると貧血症 • 1.輸血 • 2.エリスロポエチン療法(日本は適応外) • 3.その他(鉄剤など) 状が出現することが多く、血液製剤の指針においてないか疾患で保つよう に推奨されているHb7g/dlを保つように輸血を行うことが妥当と考えられる。 • 血液製剤の指針(赤血球濃厚液) 慢性貧血に対する適応 がん患者における貧血がQOLにもたらす悪影響 疲労感 心血管系合併症 うつ 食思不振 悪心 性欲低下 呼吸困難 めまい 認知障害 嚥下困難 睡眠障害 月経不全 腎毒性 • 腎毒性を起こしやすい薬剤 シスプラチン メソトレキサート イフォスファミド マイトマイシンC • 予防 輸液による大量水分負荷 利尿 • 治療 急性腎不全発生時には血液透析 ● 高度の貧血の場合には,一般に1~2単位/日の輸血量とする。 ● 慢性貧血の場合にはHb値7g/dLが輸血を行う一つの目安とされている が,貧血の進行度,罹患期間等により必要量が異なり,一律に決めること は困難である。 * Hb値を10g/dL以上にする必要はない。 腎毒性の観察点 • 24時間クレアチニンクリアランス • 血液および尿生化学検査、検尿など腎機能検査 生化学検査:血清クレアチニン、アルブミン、Na、K、Mg 尿素窒素(BUN)、尿酸など 尿検査:色調、比重、pH、潜血、蛋白、沈渣 • 腎機能に影響を与える因子の観察 腎障害の既往(高血圧、糖尿病、前治療など) 脱水(低栄養、高Ca血症) その他の薬剤の投与(アミノグリコシドなど) 11 肝毒性 肝毒性の発生機序 • ①薬剤の細胞タンパクへの結合による起こる細胞膜の破壊 • ②薬剤と細胞タンパクの結合物がアレルゲンとなり励起される免疫反応 肝障害の診断 • ほとんどの薬剤性肝障害はウイルス性肝炎の場合と非常によく似た 臨床症状と検査所見を呈する。 • 肝静脈閉塞症(薬剤による肝静脈の血管内細胞の直接障害により起 • ③薬物代謝による正常の細胞代謝の阻害 こる非血栓性の肝内の微小静脈の閉塞)では重篤でしばしば致死的 • ④細胞質内のアクチンの阻害またはトランスポーターポンプの中断による となる。 胆汁流出の阻害によって起こる胆汁のうっ滞 • ⑤腫瘍壊死因子、Fasを介したアポトーシス • 肝障害が認められたときには、まず詳細な服薬歴の聴取が重要であ る。一般に肝障害の症状出現までの潜伏期間は5日から90日とばらつ きが大きいが約4週以内が多く、8週以内が80%を超える。 • ⑥反応性の酸化物などによるミトコンドリアの障害 • ウイルス肝炎、大量のアルコール摂取、腫瘍自体の変化など他の肝 多くの場合、複数の機序が関与 肝障害の治療 障害を起こす原因の除外も必要である。 肺毒性 • 近年、わが国では薬剤性肺障害の報告件数が増加の一途 • 薬剤性肝障害が疑われたら直ちに起因性の疑われる 薬剤の投与をすべて中止にする。 • 肝障害の重要度に応じて肝炎に対する一般的な内科 的治療を行う。 • 重篤なアレルギ―性の肝炎が疑われる場合のステロ イドや、閉塞性の肝障害の場合のウルソデオキシコー ル酸は実際にはよく使用されるが、その有効性は証明 されていない。 にあり、その多くは抗悪性腫瘍薬である。2002年に承認さ れた分子標的治療薬Gefitinibの肺障害報道をきっかけに 薬剤性肺障害に対する社会的関心も高まっている。 • 日本人は薬剤性肺障害を発症しやすい傾向があることが 指摘されている。Gefitinibによる肺障害は米国0.3%に比 べて、日本人2-5%低度と非常に高い頻度で発症している。 Bleomycinによる肺障害の頻度は世界では0.01%に対し、 日本では0.66%である。 肺毒性 薬剤性肺障害の発症機序 • 細胞毒性によるもの 肺障害の危険因子 • 60歳以上 薬剤あるいはその代謝産物の直接的中毒作用による肺血管、 • 既存の肺病変(特に間質性肺炎) 気管支、肺組織への傷害によって発症すると考えられている。 • 肺術後 肺血管透過性の亢進や肺胞壁でのマクロファージやリンパ球 などの炎症細胞による炎症反応の結果、その炎症の持続に • 呼吸機能の低下 より肺胞壁や肺胞内へのフィブリンの沈着が生じて線維化が • 酸素投与 進む。 • 肺への放射線照射 • アレルギー反応によるもの 間質性肺炎は薬剤性のエリテマトーデスの一部分あるいは 過敏性反応として起こると考えられている。 • 抗悪性腫瘍薬の多剤併用療法 • 腎障害の存在 12 肺障害の原因となる薬剤 • アルキル化薬 シクロフォスファミド、ブスルファン、ニトロソウレア • 代謝拮抗薬 メソトレキサート、シタラビン、ゲムシタビン、フルダラビン • 抗がん抗生物質 マイトマイシンC、ブレオマイシン • 微小管阻害薬 パクリタキセル、ドセタキセル • トポイソメラーゼ阻害薬 イリノテカン • サイトカイン インターフェロン • 分子標的治療薬 ゲフィチニブ、イマチニブ • ホルモン薬 タモキシフェン 肺障害の治療 肺障害の診断 • あらゆる薬剤が肺障害を起こしうることを念頭に置き、まず 薬剤による肺障害を疑うことが重要である。 • 薬剤投与直後に起こるものから、数年を経て発症するもの まで様々であるが、投与後2-3週間から2-3ヶ月で発症する ものが多い。 • 他の呼吸器疾患と比較して特異な症状はなく、画像診断上 も疾患特異的な所見はない。 • 臨床症状 乾性咳嗽、労作時呼吸困難、発熱など 心毒性 • 抗悪性腫瘍薬による心毒性はまれではあるが、非常に • 原因薬剤の中止(最も重要) • 酸素投与などの呼吸管理 重要な有害事象である。 • 発症と重症度は使用される薬剤の種類、投与量、 • 感染症が否定できない場合には抗菌薬などの投与 スケジュール、年齢、併存する心疾患の有無、縱隔への • ステロイド治療 放射線照射の有無、などの影響を受ける。 プレドニゾロン 0.5-1.0mg/kg/dayから開始し、漸減 高度呼吸不全の場合 パルス療法(メチルプレドニゾロン1000mg ×3日間) • 薬剤 アントラサイクリン系薬剤 トラスツズマブ(アントラサイクリン系薬剤との併用は原則禁忌) 5-FU 心毒性の対策 アントラサイクリン系薬剤による心毒性 薬剤名 重篤な心筋障害が出現する総投与量 ドキソルビシン 500mg/m2 ピラルビシン 950mg/m2 エピルビシン 900mg/m2を超えるとうっ血性心不全 ダウノルビシン 25mg/kg イダルビシン 120mg/m2を超えないこと アムルビシン 不明(軽度といわれている) • アントラサイクリン系薬剤の総投与量を把握 • エピルビシンのように心毒性軽減を目的に開発された 誘導体の利用 • β遮断薬やACE阻害薬の併用 うっ血性心不全 – 利尿薬、ジギタリス製剤を投与 不整脈 – 抗不整脈薬を投与 • 定期的に心機能を評価して左室駆出率45-50%以下で 薬剤投与を中止する。 • 不可逆的で重篤になることもあり注意深い観察が必要 13 神経毒性 神経障害の特徴 • 抗悪性腫瘍薬による神経毒性には、薬剤による神経系へ の直接作用に起因するものと、薬剤による代謝異常や • 急性脳炎様症状 • 梗塞様症状 脳血管障害により間接的に生じるものがある。 • 慢性脳炎症状 • 現在生じている神経症状が抗がん剤に起因するものなの • 小脳症状 か、中枢神経転移巣による症状か、腫瘍随伴症状に伴う ものか、または糖尿病などの合併疾患によるものか、など を適切に鑑別することは、治療方針を決定するうえで重要 脱髄性神経障害 遠位性知覚、運動神経障害 である。 神経障害を起こしやすい抗悪性腫瘍薬 • メソトレキサート 神経毒性のケア • 根本的な治療方法は確立していない • タキサン系 パクリタキセル • 末梢神経障害に対して、ビタミン剤(VB群)投与 ドセタキセル • パクリタキセルでは • ビンカアルカロイド系 軽度:無処置、患部の冷却または温罨 ビンクリスチン 中等度:アセトアミノフェン、VB6、アミトリプチン • プラチナ系 シスプラチン • 末梢神経障害 カルボプラチン オキサリプラチン • イフォスファミド 重症:投与量の減量or中止 予防:牛車腎気丸、グルタミン • シタラビン • 早期に症状を発見して原因薬剤の中止または減量 • 5-FU 脱毛 脱毛の発現機序 • インフォームドコンセントやQOLの概念の一般化に伴い 重篤な副作用としてあげられる • 抗悪性腫瘍薬による脱毛の正確な発現機序は解明され ていないが、抗悪性腫瘍薬が毛包内毛母細胞を傷害す る結果であると考えられている。 • 著しい脱毛を起こす主な薬剤 • 通常は毛母細胞が完全に傷害されて無になることはない イフォスファミド ドキソルビシン イダリビシン エピルビシン エトポシド イリノテカン ため、抗悪性腫瘍薬による脱毛は一過性・可逆性であり、 パクリタキセル ドセタキセル アムルビシン 約半年もすれば毛包から新しい毛が再生してくる。 14 脱毛のケアと注意点 • インフォームドコンセント 脱毛は一過性、可逆的なものであり、およそ半年で新しい 毛が再生することを説明する。 周囲の暖かい励ましや、ナースの介助、協力が不可欠である。 • 脱毛後の患者指導 無理に髪を引っ張らず自然にまかせるなどの指導を行う。 抗悪性腫瘍薬の血管外漏出 • 抗悪性腫瘍薬の種類と皮膚障害の程度は抗悪性腫瘍薬の種類に よって皮膚障害の程度が異なり起壊死性、炎症性あるいは起炎症 性(軽度)と表現されている。 1.壊死性抗悪性腫瘍薬 少量の漏出でも紅斑、発赤、腫脹、水疱、壊死を経て難治性潰瘍へと進行し、同 時に極めて強い疼痛を伴うもので、主に抗腫瘍性抗生物質、植物性アルカロイド およびタキサン製剤に発症が多いようである。しかし、その発症程度は抗悪性腫 瘍薬の種類によって異なり、一般にドキソルビシンやマイトマイシンCなどが強い 反応(少量でも壊死、潰瘍へ移行することが多い)を呈することが知られている。 2.炎症性抗悪性腫瘍薬 漏出局所に紅斑、発赤、腫脹を起こすが潰瘍形成までには至らないものである。 帽子やバンダナの利用やシャンプーの方法、抜けた毛髪の 始末は粘着テープで行うなど、具体的な対処法を指導する。 血管外漏出時の抗悪性腫瘍薬の組織侵襲に基づく分類 • 1.起壊死性抗悪性腫瘍薬 アクチノマイシンD、ドキソルビシン、アムルビシン、ダウノルビシン エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシンC、パクリタキセル ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、ビノレルビン • 2.炎症性抗悪性腫瘍薬 ブレオマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロフォスファミド イリノテカン、ダカルバジン、ドセタキセル、5-FU、ゲムシタビン イフォスファミド、ネダプラチン、VP-16、ミトキサントロン • 3.起炎症性抗悪性腫瘍薬 ACNU、Ara-C、L-アスパラギナーゼ 抗悪性腫瘍薬の血管外漏出への対応 ①ただちに抗悪性腫瘍薬の注入をやめる。 しかし大量に漏出すればかなり強い炎症と痛みが発生する。 3.起炎症性抗悪性腫瘍薬 多少漏出しても炎症や壊死になることはない。多くの薬剤は皮下や筋肉内投与 が可能である。 血管外漏出の予防 • ①起壊死性抗悪性腫瘍薬使用時 患者に漏出後の説明をする。すこしでも違和感があれば知らせてもらう。 • ②注入時 留置針、固定部が観察できる透明なテープを使用する。 • ③抗悪性腫瘍薬濃度 可能なら希釈する。 • ④注射部位 手背部、手関節部、肘関節部は避ける。 • ⑤落下速度 速度低下時には血液逆流の有無を確認する。 • ⑥注入後 注射部位の色調変化に注意する。 局所皮下注射と局所外用処置 ②患肢を挙上する。 ③可能な限り薬剤を吸引除去する。 ラインを抜去する前に、チューブや注射針に残存する目的で3~5mlの 血液を吸引する。さらに漏出部周囲の膨隆部位に27G針を刺入して、 薬剤を直接吸引することを試みる。 ④ラインを抜去する。 ⑤解毒剤の投与を検討する。 ⑥患部を冷却または加温する。 アンスラサイクリン系:冷却 ビンカアルカロイド、VP-16:加温 ⑦必要なら鎮痛剤を投与する。 ⑧注意深く経過観察する。 15 副作用とその対処のまとめ • 抗悪性腫瘍薬による治療には必ず副作用が認められる。 • 一般的な副作用と薬剤に特徴的な副作用を覚えておく。 • 時期によって発生しやすい副作用について覚えておく。 • 早期発見、早期対処が大原則であり、患者を注意深く 観察することが必要である。 • 副作用が認められた場合には重症度を判断し、それに 応じた治療を速やかに行うことが重要である。 16
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