ネコと魚の出会い(266KBytes)

書名:
ネコと魚の出会い
: 人間の食生態を探る
著者:
西丸震哉
出版社:経済往来社
出 版 年 月 : 1970 年 4 月
総 ペ ー ジ 数 : 292 ペ ー ジ
「
推薦者
黒川衣代
鳴門教育大学大学院教授
生 活・健 康 系 コ ー ス( 家 庭 )
♪お魚くわえたドラ猫、追っかけて~♪という誰もが知っている歌のフレーズ。まだキ
ャットフードなるものが一般的に出回っていなかった時代、庶民の飼い猫のエサは、魚の
お こ ぼ れ か 、ご 飯 に 鰹 節 と 醤 油 あ る い は 味 噌 汁 を か け た 猫 ま ん ま と 決 ま っ て い た 。ゆ え に 、
猫の満足そうなしたり顔を連想させるこの歌詞は「猫の好きなエサは魚!」と、中学生の
私を確信させてくれた。
大 学 で 食 物 学 科 に 在籍 し 4 年になったばかりの頃、大学の生協で見つけた『ネコと魚の
出 会 い 』 と い う タ イ ト ル の 本 。「 猫 と 魚 は ワ ン セ ッ ト 」 で 頭 に 入 っ て い た 私 は 、「 出 会 い 」
ってどういうこと?と妙にひっかかってしまった。もう読むしかない。
著者は「ネコの公約数的好物は魚であり、魚のなかでもアジがいちばん好きだ。魚を食
べ た こ と の な い ネ コ 、 こ れ は 外 国 あ た り に は か な り 多 い こ と だ ろ う 。」( p.4) と 言 う 。
私 は 、海 に 面 し て い な い と こ ろ で は 新 鮮 な 魚 は 手 に 入 ら な か っ た だ ろ う と 想 像 し た 。
「な
るほど、そうか!」と膝を叩いて「だから、トムとジェリーのトムは、ねずみのジェリー
を追っかけるんだ!」と合点がいった。古来、日本でも猫はねずみを捕ることになってい
る。洋の東西を問わず、魚が手に入らない、もしくは入りにくいところの猫はねずみを追
いかけるのだと気づいた。
さ て 、 問 題 は 猫 と 魚 の 関 係 で あ る 。 著 者 曰 く 、「 ネ コ は 水 泳 が 好 き で は な い か ら 、 海 を
泳 い で ア ジ に で っ く わ す 機 会 と い う も の は 絶 対 に な か っ た は ず だ 」( p.4)、 と 。
猫 は 自 ら 泳 い で 魚 を 取 り に 行 っ た り は し な い 。 と い う こ と は ・・・・・・。「 そ っ か ! 人 間 と
いう介在により魚に出会ったんだ!」そして、海に囲まれた日本では、アジをはじめ大衆
魚といわれた安価な魚類が四季を問わず豊富に捕れたから、魚が猫のエサになったのだと
気づいた。
「猫の好きなエサは魚」は、猫が人間社会に入り込む以前には見られなかった現象かも
し れ な い 。「 当 た り 前 と 信 じ て い た こ と が 、 当 た り 前 で は な か っ た か も し れ な い こ と 」 が 、
私には一撃であった。自然条件、社会環境、人間やサービスの介在等のさまざまな要因が
絡んで食生活が形成されることが小躍りするくらい面白くて、私は、著者が提唱する食生
態学なるものに惹きつけられた。そして、その後、大学院で家族を対象とする学問領域を
専攻して学び、現在はその延長線上に食生活と家族の研究を行っている。大学 4 年 生 の 時
に 買 っ た 本 は 、大 切 な 1 冊 と し て 、い つ も 私 の 近 く に あ っ た し 、こ れ か ら も そ う で あ ろ う 。
若い皆さんが、乱読の中から、手放せない 1 冊に出会えることを願っています。