山羊による緑地再生 に関する共同研究 岐阜大学応用生物科学部 動物栄養学研究室 八代田 真人 報告内容 1.活動の背景 2.教育関係の活動報告 3.研究成果の報告 4.今後の計画と展望 活動の背景 活動の目的 ヤギによる緑地再生(荒廃農地対策) •雑草を抑制し景観を保持,改善する •防災機能の低下(土砂崩れなどの発生)を防ぐ •獣害の原因となる動物の隠れ場所を減らす ヤギの新たな活用法の探索 •在来家畜の維持,保全 •人と動物の関係の再構築 ヤギを使った地域振興 •地域産業の振興 •教育・人材育成 研究の背景 山羊 , Capra hircus 乳としての利用 • 牛乳および母乳の代用として「貧者の牛乳」と呼ばれることもある. • 下痢などの症状が起きにくい. • ザーネン種では,270–350日泌乳し,500–1000 kgの乳量がある. 肉としての利用 • 宗教的な忌避がない. • 低脂肪,高タンパク質 • 日本では沖縄や奄美地方での生産が盛ん. 毛・毛皮としての利用 • カシミヤ種による「カシミヤ」 • アンゴラ種による「モヘア」 実験動物・愛玩動物としての利用 • 医療用・畜産用のモデル動物 • 小型のヤギは愛玩動物として飼育されることもある 研究の背景 頭 669,200頭 19,454頭 3900戸 1. 1899–1980年までの飼養頭数は畜産統計による,1981年以降の飼養頭数は家畜改良関係資料(明け2才 以上雌,繁殖供用雄の頭数)による. 2011年以降の飼養頭数は家畜の飼養に係る衛生管理の状況等の公 表についてによる. 2. 1944–1972年まで沖縄の飼育頭数が統計から除外(米国による占領のため). 導入 成長期 最盛期 衰退期 現在 明治–大正 昭和初期(1927) 1950–1960頃 1970以降 平成 1880年頃に海外から 山羊(乳用種)を輸 入. 乳用が主な目的. 東京近郊での搾乳業 者による飼育が盛ん. 長野および沖縄(肉 用種)での飼育が盛 んに行われる. 畜産試験場長野支場 などによる改良の促 進. 日本ザーネン種の 品種固定. 山羊ブームの台頭. 泌乳量の世界最高 水準達成. 山羊飼育の衰退 (産業として不 成立). シバヤギの実験 動物化. 山羊の新たな利用 法の模索. 耕作放棄地対策. ふれあい機能. 教育利用. 研究の背景 総頭数 19,454頭 総枝肉量 319 t 2013年地域別飼養頭数割合(%) 山羊統計. 社団法人畜産技術協会より作成. 2013羊肉の生産量と輸入量 (枝肉量 t/yr) 農林水産省生産局畜産部畜産振興課(2014) めん羊・山羊の改良増殖等をめぐる情勢. 沖縄が36%,次いで関東. 近年は沖縄と鹿児島での減少が顕著. 沖縄と九州は肉用,その他の地域は乳用が主体. その他,ふれあい用,耕作放棄地用などに利用さ れている. 枝肉の総量は200 t程度で推移. 国内生産量は減少傾向. 輸入量は増加傾向. 輸入先はオーストラリアがほぼ100%. 研究の背景 役畜としての利用 (エコシステムエンジニア) 教育的利用 教育関係 の活動 教育関係の活動 日本草地学会若手の会の研修(2014年9月28日) (1) 草地学に携わる若手研究者が抱える研究上の共通・地域的な問題の解決 (2) 若手研究者のスキルアップ(海外進出,学術論文の執筆等」) (3) 学術研究領域が広がりつつある「草地学教育」に関する内容の整理と対応 若手の研究者に地域の問題を知ってもらう 問題を解決するための新たな知見や技術の情報交換をする 研究の背景 やぎさんふれあい教室(2014年8月24日) • 子供たちに動物(ヤギ)に触れ合ってもらい,動物と 関わることの楽しさを学んでもらう • 地域の人たちに本取組みの意義を理解してもらう 研究成果報告 研究の背景 45 40 35 万ha 背景 •遊休農地, •耕作放棄地, •荒廃農地の増加 30 25 20 具体的な問題 •農業生産量の減少 •里山景観の悪化 •獣害の誘引 15 10 5 0 植生管理者としてのヤギ ① 食性の幅が広い (野草,樹葉・皮,有棘植物,灌木も食べる) ② 敏捷性と平衡感覚に優れる (傾斜地の放牧に向く) ③ 飲水量が少ない ④ 小型で穏和,単独性がある (飼養管理がしやすい) 耕作放棄地の面積の推移 (農林水産省,2010) 研究成果の報告内容 1.ヤギの放牧による植生の変化と緑地再生 土井 和也 (岐阜大学大学院応用生物科学研究科) 2.継続的な放牧がヤギの栄養状態に及ぼす影響 小林 明奈 (岐阜大学応用生物科学部) 3.ヤギの放牧が竹林伐採跡地の植生変化に与える 影響 黒米 皓次 (岐阜大学応用生物科学部) 研究のキーポイント 放牧の効果: ヤギ放牧 竹林伐採 伐採後放置 •ヤギで竹林の再生を制御 •伐採後放置することの影響 ヤギ放牧の効果を検証する必要がある 研究のキーポイント 放牧密度:特定の期間にわたって動物が利用する土地の総面積 に対する動物個体数 •除草は可能 •飼料が不足する可能性 ヤギの継続飼育が困難 放牧密度が高い •飼料は十分に確保可能 •除草が不十分 放牧密度が低い 緑地の再生が困難 放牧密度の設定が放牧管理の重要ポイント 研究のキーポイント 放牧の継続することの影響 ヤギの栄養状態 ヤギによる 草量の変化 選択採食 植物種の変化 植生・景観の状態 植生およびヤギの飼育可能性の経年的な評価が必要 ヤギの放牧による 植生の変化と緑地再生 土井 和也 岐阜大学大学院 応用生物科学研究科 材料と方法 試験地の写真 :小屋 実験計画 1日目 ・・・・・ 6日目 7日目 8日目 ・・・・・・ 14日目 ● ● ● ● ● ● ● ● ● 測定項目と方法 植生 調査プロット 草量調査 草量調査 測定項目と方法 植生 調査プロット 拡張積算優占度の計算 被度 被度比率 拡張積算優占度の計算 頻度 頻度比率 拡張積算優占度 拡張積算優占度(E-SDR2)= 結果 植生 草量の推移 5 (t DM/ha) 4 3 2 1 0 春 夏 秋 春 夏 秋 結果 植生 拡張積算優占度の推移 低放牧密度区 (E-SDR2) (E-SDR2) 高放牧密度区 : : : 結果 植生 拡張積算優占度の推移 低放牧密度区 (E-SDR2) (E-SDR2) 高放牧密度区 : : : 結果 植生 拡張積算優占度の推移 低放牧密度区 (E-SDR2) (E-SDR2) 高放牧密度区 : : : 結果 植生 採食植物種割合の推移 低放牧密度区 (%) (%) 高放牧密度区 : : : 結果 植生 採食植物種割合の推移 低放牧密度区 (%) (%) 高放牧密度区 : : : 結果 植生 採食植物種割合の推移 低放牧密度区 (%) (%) 高放牧密度区 : : : 2013年度 春 区の写真3枚と上だけ残ったタケ • 1min 2013年度 秋 2014年度 春 ヤギ タケ採食 2014年度 秋 考察 植生 両処理区の草量 1.2 t DM/ha 採食割合 タケは採食圧に弱い 優占度 イネ科草本は採食圧に強い ヤギの放牧により荒廃農地が解消された 継続的な放牧がヤギの 栄養状態に及ぼす影響 小林 明奈 岐阜大学応用生物科学部 昨年の結果 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) 春 夏 草量 1.7 t DM/ha以上 → 30頭/haでも栄養状態に問題はない 目的 放牧の継続することの影響 ヤギの栄養状態 ヤギによる 草量の変化 選択採食 植物種の変化 植生・景観の状態 植生およびヤギの飼育可能性の経年的な評価が必要 方法 供試動物 シバ×ザーネンの交雑種 14頭 アルパイン×ザーネン の交雑種 2頭 ● 体重 31.3±1.9 kg ● 年齢 4.5±0.4 歳 方法 ・5月13日から11月8日の180日間終日放牧 放牧期間 5月 6月 7月 8月 春 9月 10月 夏 11月 秋 ●各調査期間のスケジュール 調査項目 方法 1日目 草量 コドラート法 ● 採食量 ダブルマーカー法 採食植物種 行動観察 体重 血液成分 ● 6,7日目 14日目 アルカン投与 ● 糞採取 ● ● ● ● ● 草量 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) 採食植物種割合 (%) 高放牧密度区 (%) 低放牧密度区 春 夏 秋 採食植物成分 粗タンパク質 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) 中性デタージェント繊維 1日当たりの採食量 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) 期間 一次:P=0.003 二次:P=0.167 消化率 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) * 期間 一次:P=0.026 二次:P<0.001 体重 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) 血液成分 ■ 正常値 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) 無機リン濃度 血液成分 Ca濃度 ■ 正常値 高放牧密度区(30頭/ha) 低放牧密度区(14頭/ha) Mg濃度 考察 採食量 :維持要求量を満たしていない時期があった 消化率 :やや低い傾向があった 体重 :試験期間通して維持されていた →栄養状態に問題はなかった ●放牧密度が採食行動、栄養状態に及ぼす影響 採食行動:採食植物の違い→植生の影響 栄養状態:処理間で違いはなかった 放牧密度による影響はなかった 結論 ●継続して放牧可能な放牧密度 草量 :1.2 t DM/ha以上 植物中CP含量 :10%以上に維持 ヤギの栄養状態 :Mgがやや低い傾向があった :体重は維持できる 放牧密度が30頭/haでも 2年間の放牧の継続が可能 →長期で放牧する場合、ミネラル不足に注意する必要がある ヤギの放牧が 竹林伐採跡地の 植生変化に与える影響 黒米 皓次 岐阜大学応用生物科学部 はじめに 日本の里山の荒廃が進んでいる 竹林の拡大 岐阜でも竹林の拡大傾向は続くと 推測される 美濃加茂市で2013年より「里山千年構想」 が開始された 竹林伐採跡地で のヤギの放牧 ・美濃加茂市 ・岐阜大学 動物栄養学研究室 ・(有)フルージック 目的 ・ヤギ放牧の植生変化への影響 ・草原性植生の維持への有効性 調査地概要 ・岐阜県美濃加茂市北部の竹林伐採跡地 ・管理されず竹林化していた山腹斜面 ・2014/5/13にヤギを7-9頭放牧(1.1-1.5LU/ha) ・中放牧密度(1.1-2.4LU/ha,Isselsteinら2007) 竹の生えた山腹斜面 →竹林 竹伐採後放置した山腹斜面 →再生竹林 調査プロットの設置 ・4つの調査区 竹林 →手つかずの竹林 再生竹林→竹林伐採後放置 放牧区 →竹林伐採後ヤギを放牧 禁牧区 →放牧区内の禁牧区 高さ1mの柵を設置 ・2m×2mの調査プロットを全調査区に3反復ずつ設置 放牧区・禁牧区 2m四方の調査区を3反復設置 放牧区 竹林 再生竹林 植生調査 ・各プロットの出現維管束植物種を同定 ・各植物種の被度を地表部から1m間隔で計測 ・調査日 放牧区、禁牧区・・・5/9 6/2 6/16 7/2 7/14 7/28 8/18 9/9 10/2 竹林・・・・・・・・・・・・6/2 7/8 再生竹林・・・・・・・・7/8 ・積算被度=Σ Vi ここでVi は各層iの被度 相対光量計測 ・光量子センサーを用いて地表部から 高さ別に相対光量を計測 ・調査日 放牧区、禁牧区・・・5/9 7/14 0.2m間隔 竹林・・・・・・・・・・・・6/2 7/8 1m間隔 再生竹林・・・・・・・・7/8 1m間隔 出現種数 ・竹林、再生竹林は草 本の出現種数が低い ・禁牧区、放牧区は草 本の出現種数が高い ・放牧区は禁牧区よりも 草本が優先している ・禁牧区では特に草 本が減少している ・放牧区の出現種数 は安定している 被度 ヤギの影響により減少 ・禁牧区の積算被度は竹林、再生竹林に近づいている ・放牧区以外の調査プロットでは相対光量が大きく減少 ・地表部の相対光量が時間の経過により 禁牧区では低くなり、放牧区では高くなっている 考察 ・竹林伐採跡地を放置すると竹が再生し竹林化する ・ヤギを放牧により出現種数、被度共に安定した 草原を維持可能 まとめ 1. ヤギの放牧によって竹の成長を 抑制可能 2.放牧密度14頭~30頭/ha: ① 放棄地の植生を草原植生に 変えることが可能 ② ヤギを継続的に飼育すること が可能 今後の計画と展望 (放棄)竹林 春~秋 放牧 ヤギステーション 冬:飼料化 敷料化 遊休地 地域資源を活用したシステムの構築
© Copyright 2024 Paperzz