スペインへの 投資機会 - スペイン大使館経済商務部

スペインへの
投資機会
Madrid
SPAIN
2007年1月17日、海外投融資情報財団の主催によりスペイン外国投資局(INTERES)ベゴーニャ・クリステト長官をお招きしてスペイン
の投資環境に関する記者懇談会が開催されました。以下では、同懇談会におけるクリステト長官のプレゼンテーションや当日の質疑応答
の内容を取りまとめてご紹介します。
(文責:当財団)
スペインへの投資機会
スペイン外国投資局(INTERES)
長官
ベゴーニャ・クリステト
たインフレ、健全財政、調和のとれた税制、低金利を
投資先としての魅力
実現することができました。また、主要格付機関
(Standard & Poor’s, Fitch Ratings, Moody’s)から
AAAの評価を得ています。
スペインのGDPは2005年に1兆1236億2900万ドル
に達し、世界第8位の経済大国となりました。対外直
(1)好調なマクロ経済
接投資額は世界第8位(2005年388億ドル)
、中南米
1990年代半ば以降、スペインの経済成長率は欧州平
への投資額は世界第2位です。また、外国直接投資の
均を上回り、2006年もEU25カ国(2.8%)およびユー
受入額は世界第9位(2005年230億ドル)
、欧州では
ロ通貨圏(2.6%)の平均を大きく上回る3.8%でした。
第6位です。さらに、国際観光収入および外国人観光
2007年についても、欧州委員会の見通し(Economic
客数では世界第2位の観光立国で、毎年国民の人口を
forecasts autumn 2006)で3.7%と予測されており、
上回る観光客を迎えています。
これは、EU25カ国の平均を上回っています。
スペイン経済は近年大きな変革を遂げましたが、そ
1990年代後半に民営化された企業(電力、金融、
の要因として、1986年の欧州共同体(当時EC)への
エネルギー部門)はEUとの競争の中で力をつけ、対
加盟と99年の欧州経済通貨統合(EMU)に第一陣と
ラテンアメリカビジネスの中核を担い、スペイン経済
して参加したことがあげられます。国営企業の民営化
を牽引しています。スペインは農業立国とのイメージ
により外資が参入し、競争が促進され、あらゆる分野
もありますが、実際はスペイン経済の60%は観光部門
での構造改革が進展しました。この結果、現在では、
を含むサービス業であり、工業部門は35%、そして農
財政黒字がGDP比1.8%(2006年)となり、抑制され
業部門は5%にすぎません。
「スペインはアペリティ
2007.5
1
海外投資セミナー スペインへの投資機会
図表1 2005年外国直接投資受入額
0
20
40
(十億ドル)
80 100 120 140 160 180
60
英 国
164.5
108.3
中国(香港)
40
60
80
100
(十億ドル)
120
140
オランダ
119.5
115.7
101.1
日 本
43.6
45.8
ドイツ
カナダ
33.8
スイス
ドイツ
32.7
イタリア
ベルギー
23.7
スペイン
スペイン
23.0
カナダ
シンガポール
20
英 国
63.6
オランダ
0
フランス
99.4
米 国
フランス
図表2 2005年の対外直接投資額
20.1
45.6
42.9
39.7
38.8
34.1
中国(香港)
出所:World Investment Report 2006(UNCTAD)
32.6
出所:World Investment Report 2006(UNCTAD)
図表3 観光客数と観光収入
国際観光収入
外国人観光客数
国 名
2005年
(単位:
百万人)
2005/2004
(%)
国 名
2005年
(単位:
百万人)
2005/2004
(%)
1. フランス
76.0
1.2
1. 米 国
81.7
9.6
2. スペイン
55.6
6.0
2. スペイン
47.9
5.8
3. 米 国
49.4
7.2
3. フランス
42.3
3.5
4. 中 国
46.8
12.1
4. イタリア
35.4
-0.7
5. イタリア
36.5
-1.5
5. 英 国
30.7
8.7
6. 英 国
30.0
8.0
6. 中 国
29.3
13.8
7. メキシコ
21.9
6.3
7. ドイツ
29.2
5.6
8. ドイツ
21.5
6.8
8. トルコ
18.2
14.2
20.3
20.5
9. オーストリア
15.5
0.9
20.0
3.0
10. オーストラリア
15.0
9.6
9. トルコ
10. オーストリア
出所:世界観光機関(WTO)
フとデザート(オリーブと柑橘類)を輸出している」
したが、今日では、出稼ぎ労働者受入国に転じていま
といわれていた時代もありましたが、今では、最大輸
す。スペインは欧州一の長寿国であり、社会の高齢化
出品目は自動車や機械類です。サービス業と民営化企
が進み、福利厚生費の負担は増加しています。こうし
業がスペイン経済を支えているといっても過言ではな
たなか、スペインでは移民問題はプラス要因としてと
いのです。
らえられ、移民として入国する若年労働者が社会保険
持続的な経済成長により順調な雇用創出が続き、失
料を支払うことで高齢者の年金負担を支えると歓迎さ
業率は95年の23.5%から2006年には8.3%に下がりま
れています。経済が好調な今、新規雇用が多く創出さ
した。過去10年で700万人相当の雇用が創出され、こ
れ、移民が活躍し、スペイン経済の発展に貢献してい
れはOECD諸国の中で最も高い数字で、2005年の欧
ます。EU域内では労働力の移動が自由であり、こう
州における新規雇用の60%がスペインで創出されま
した観点からもグローバル化の進展が好調なスペイン
した。
経済を支えています。
(2)グローバリゼーション
(3)国際事業展開のプラットフォーム
EC加盟以前は、スペイン経済は欧州で最も閉鎖的
スペインは、地中海、北アフリカ、そしてラテンア
でしたが、現在では非常にオープンかつ柔軟性が高い
メリカの合計12億人の消費者市場へのアクセスのよさ
経済体質となりました。以前は出稼ぎ労働者送出国で
を誇る国際ビジネス拠点となっています。とくにラテ
2007.5
2
海外投資セミナー スペインへの投資機会
図表4 EU平均を超える経済成長
(%)
4.0
3.8%
3.5
G
N
P
実
質
成
長
率
3.0
2.8%
2.5
2.0
1.5
2.6%
1.0
0.5
0.0
2001
2002
EU加盟25カ国
2003
2004
2005
欧州通貨統合加盟国
2006 (年)
スペイン
出所:Eurostat e INE
図表5 雇用創出数の増加と失業率の低下
雇用創出数
(万人)
2,000
失業率
(%)
25
23.5%
1,800
20
1,600
1,400
15
1,200
1,000
800
8.3%
10
600
400
5
200
0
0
1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05(年)
1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06(年)
出所:Eurostat e INE
ンアメリカとは、歴史、文化、言語上の深いつながり
周辺国と比較して5ポイント低く、また、2007年1
があり、スペインは世界各国の企業にとって中南米戦
月からは税制改革が施行され法人税率が35%から段階
略の基地となると同時に、中南米企業による欧州への
的に30%(2008年)まで引き下げになります。
進出窓口となっています。スペイン企業はラテンアメ
リカ各国の銀行、電力、ガス、水道、運輸、通信、ホ
(4)中東欧地域との競争
テル、建設、空港運営等の幅広い重要産業と民営化部
対スペイン直接投資は2000年にピークの396億ドル
門へ多くの投資を行っており、企業同士の深いつなが
に達しましたが、それ以降減少傾向にあり、2005年
りができています。ロジスティクスの面でもスペイン
は230億ドルに落ち込みました。これは、従来のスペ
の主要空港は中南米と欧州を結ぶ航空会社の重要な寄
インの強みであったコスト競争力や輸出拠点としての
航地となっています。
立地条件が中東欧諸国に奪われたことがおもな要因と
その他のスペインへの投資の魅力として、高度に整
いえるでしょう。
備された運輸、エネルギー、通信等のインフラ網、良
拡大を続けるEUでは多くの製造業が生産拠点を中
質でリーズナブルなコストの若年労働力、企業がビジ
東欧へ移行しています。今後どのように競争力を維持
ネスを行うための各種ユーティリティー、事務所家賃、
していくのか、これはスペインだけではなく、欧州各
通信費、生活費などの面においてEU内で相対的に高
国すべてが直面している問題です。企業はビジネス環
いコスト競争力があげられます。税務面では、スペイ
境の変化に応じてより多くのメリットが享受できる地
ンの国民負担率(租税・社会保険収入のGDP比)は
域に移行するものですが、重要なのは、現実を受け入
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海外投資セミナー スペインへの投資機会
れたうえで、どのような機会やメリットを投資家に提
や太陽熱温水器の設置が義務づけられています。太陽
供できるのかを見極めることです。そして自動車産業
光発電に関しては、現導入量は57MWですが、2010
など既存の進出企業のフォローを行いながら、高付加
年までには現状の約7倍に当たる400MWまで増やす
価値分野での企業誘致を行って新たな分野への投資促
ことを目標に掲げています。新建築技術法の施行によ
進を図っていくことが重要だと考えています。
り太陽光/熱発電市場が急速に拡大することが見込ま
労働コストの面ではスペインは中東欧諸国に対して
比較優位が失われてきてはいますが、フランス、英国、
れ、さらに政府の補助制度も充実していることから、
新たな投資誘致の分野としても注目されています。
ドイツ、イタリア等の国に比べれば依然として有利と
スペインはバイオエタノールの生産では欧州をリー
いえます。中東欧諸国と比べれば政治経済面での安定
ドしています。この分野は今後も大きく成長し、2010
性があります。また、労働の質の面では柔軟性および
年にはバイオ燃料がスペインにおける運輸に必要な燃
創造性が高いと日系進出企業から評価され、実際にい
料の5.75%を占めるとの目標達成が期待されていま
くつかの日系企業ではスペインにおいて投資拡大やデ
す。現在、欧州最大のバイオエタノール製造プラント
ザイン・R&Dセンターの設立も検討されています。
がスペインで建設されています。
中東欧諸国の市場規模は非常に小さいですが、スペイ
ンにははるかに大きな市場があります。スペインの1
(6)バイオテクノロジー
人当たりの所得は欧州平均以下であり、今後2年間で
スペインはバイオテクノロジー産業ではEU第4位
ドイツと同水準をめざすと首相が発言したばかりで
の国であり、市場規模は過去4年で350%増と驚異的
す。つまり、今後もますますスペインでは市場拡大が
な発展を遂げています。欧州におけるバイオテクノロ
見込めるということです。
ジーの情報レファレンスセンターであるOEB(欧州
バイオテクノロジー・オブザバトリー)は、バルセロ
(5)再生可能エネルギー
環境保全や再生可能エネルギーに関連した産業は、
ナの科学技術パーク内に設置されています。
スペインで最も発達しているバイオテクノロジー産
今後の有望投資分野ではないかと考えられます。スペ
業は、バイオ医療です。欧州基本細胞ネットワークの
インの長い日照時間は太陽光発電に適しており、また、
常設事務局がセビリアに設置されています。スペイン
安定した風は風力発電に不可欠なものです。これらは
政府、民間企業、科学技術パークは、スペイン各地で
スペインが有する恒久的な強みであり、スペインは再
バイオクラスターを創り出しています。
生可能エネルギーの先進国です。スペイン政府は、
多国籍企業はスペインで、研究開発投資の成功実績
2010年までに一次エネルギー総消費量の12%以上を
を長年にわたって積み重ね、さらに現在、世界的リー
再生可能エネルギーで賄うことを目標としています。
ダーのGSK社、Lilly社、Serono社、MSD社などが、
風力発電に関しては、2005年時点で総設置量は1
万MWに達し、ドイツに次ぐ世界第2位であり、今後
スペイン国内で研究開発センターと製造拠点を展開し
ています。
2010年までに1万3000MWの導入目標を掲げていま
す。スペインには世界でもトップクラスの風力発電の
電力会社、機器メーカーがあります。Iberdrola社は
(7)水処理
スペインは海水淡水化技術において世界のリーダー
世界第1位、Acciona Energía社は世界第3位、
であり、900を超える淡水化プラントがあります。逆
Gamesa社はタービン製造で世界第2位です。発電用
浸透膜技術を使った淡水化事業でスペイン企業は世界
風車の設置事業についてはすでに飽和状態ですが、風
のリーダー的役割を果たしています。
力発電に関連した周辺機器産業についてはまだ発展の
余地があります。
(8)民活インフラの管理運営
太陽光発電産業では欧州で第2位、世界で第4位の
民活インフラ事業を管理運営する企業で世界のトッ
位置にあり、欧州の生産量の14%、世界の生産量の
プ10社のうち6社がスペイン企業です。世界の民活イ
4%を占めています。2006年9月から新建築技術法
ンフラ、PPP方式プロジェクトの52%にスペイン企業
が施行され、新築・改造物に対して太陽光発電パネル
が参画しており、多様な方法による資金提供でリーダ
2007.5
4
海外投資セミナー スペインへの投資機会
ー、パイオニアとして位置づけられています。
士通、バレンシア州の宇部興産、カタルーニャ州のホ
ンダ(二輪)
、ヤマハ(二輪)
、ソニー、ムルシア州の
(9)産業技術・機械
スペインは工作機械で世界第9位の生産国、第8位
の輸出国であり、欧州においては第3位の工作機械と
高砂香料工業、マドリッド州の三菱東京UFJ銀行、沖
電気、三菱重工業などがあげられます。
分野別にみると、おもに自動車、石油化学、機械、
自動車の生産国です。過去10年間、スペインの工作機
電子産業に投資が集中しています。具体的には投資企
械産業は生産量の58%をドイツ、フランス、イタリア
業の約50%が、車両、非金属鉱物、金属製品、機械等
などの国々に輸出しています。
といった“その他の製造業”に分類される産業に投資
をしています。そして、商業(19%)、化学産業
(10)情報通信
世界中の飛行機の5機のうち3機はスペイン製の着
(17%)
、電気製品やガス生産販売(5%)
、不動産業
(4%)
、金融業(3%)が続いています。
陸用ソフトウェアを使っています。米国の石油・ガス
スペインにおける日本の直接投資は3万人近い雇用
会社主要15社のうち13社は、スペイン製の管理・コ
を創出していますが、この数字は、スペインにおける
ントロール・情報システムを使っています。
外国直接投資が創出した雇用の2.45%に当たります。
2010年に予定されている地上波アナログ放送の中
日本からの投資は、スペインに技術や質の高い雇用
止よりも3年早く、現在、1800万人の国民が地上波
の創出、高付加価値などをもたらしています。それゆ
デジタル放送を見ることができます。また、スペイン
え、スペイン外国投資局(INTERES:Invest in
は、人口当たりの携帯電話普及台数が世界で最も多い
Spain)は日本を戦略上優先国と位置づけ、すでに進
国のひとつで、携帯電話会社が激しい競争を展開して
出している製造拠点の拡張、研究開発技術革新センタ
います。自由化されたサービスとして、IP電話の普及
ーの設置、技術集約企業やサービス分野の企業がスペ
が拡大しています。消費者は家庭におけるエレクトロ
インに欧州拠点を設置することを支援したいと考えて
ニクス化のメリットを享受したいと望んでおり、この
おります。
分野のビジネスは一貫して伸びています。
日本の対スペイン投資
スペイン外国投資局
“INTERES:Invest in Spain”
スペイン外国投資局“INTERES:Invest in Spain”
日本からスペインへの直接投資累計額は2004年末
は産業観光商務省の外郭団体で、2006年に新設され
時点で3247百万ユーロに達し、スペインにおける外
ました。外国投資の促進、誘致および進出企業への支
国投資累計総額の2.2%を占め、スペインに投資する
援をおもに行っており、投資企業の“ワンストップシ
国の中で日本は第10位に位置します。
ョップ”の役割を担っています。また、中央・地方政
日本の欧州向け投資先国では、スペインは生産拠点
の数では英国、フランス、ドイツに次ぐ第4位の投資
府、市町村など外国投資誘致にかかわる公的機関を統
括する役割もしています。
先国です。2005年の日本の対スペイン投資総額は300
投資誘致に関しては、スペインが中・長期的な視野
百万ユーロ(財務省 国際収支ベース、ネット、フロ
で比較優位性をもつ分野および市場に焦点を当て、積
ー)を超え、EU15カ国の中ではオランダ、英国、フ
極的に誘致活動を展開していきます。より具体的な投
ランスに次いで第4位です。
資機会に的を絞り、企業家の立場に立って、スペイン
東洋経済の調べによると、現在155社の日系企業が
投資のメリットを紹介します。また、外国投資誘致に
スペインに進出しています。おもな例として、日産自
かかわるすべての公的機関がより戦略的な連携のもと
動車、デンソー、ソニー、シャープ、花王などがあげ
で有機的に機能し、効果的なネットワークを構築でき
られます。また、アストゥーリアス州のスズキ(二輪)
、
るよう努めています。
ナバラ州のカヤバ、アラゴン州のフジクラ(2006年
スペインのACE社に資本参加)
、アンダルシア州の富
2007.5
5