海外の電気保安制度と 電気保安体制について

海外の電気保安制度と電気保安体制について
特集2……●
●……
海外の電気保安制度と
電気保安体制について
図2 住宅100万軒あたりの住宅の電気火災件数
40,000
米国
一人あたりGDP
︵ユーロ︶
35,000
日本
30,000
オランダ
ドイツ
20,000
10,000
0
100
200
300
400
500
住宅100万軒あたりの電気火災件数
600
700
800
図3 需要家1軒あたりの年間停電時間
120
514分
フランス
100
ドイツ
英国
て、日本は 12.36 件となっており、平均を大きく下回っ
きないエネルギーです。その反面、誤った使い方や
ていることが読み取れます。
設備の保守不全があると機器の故障や電気火災など
また、電力インフラの発達度合いが日本と近い先
の事故に繋がる危険なエネルギーであるともいえます。
進国では、電気火災件数が 25カ国平均を大きく超え
日本は住宅の電気安全に関して、法律に基づく調査
ています。
制度を整備して厳正、的確に運用を行ってきました。
図2は一人当たりGDPと住宅 100 万軒当たりの電
電気火災の件数は他国と比較しても非常に少ない件数
気火災件数を対比させたものです。GDPと比例する
となっていることからも読み取ることができます。
ように電気火災件数が増加する傾向にありますが、
落雷による死亡を除く人口
今回、FISUEL(国際電気保安連盟)関連団体等
日本は GDP でトップクラスに位置するにもかかわらず
1 億人当たりの年間感電死亡
450.0
からの情報収集を行い、海外の電気保安制度と電気
電気火災件数が少ない特異な例となっていることが
者数(図4)でも、世界中で非
400.0
保安体制について纏めましたので、その一部をご紹
分かります。
常に多くの感電死亡事故が発
介いたします。
需要家 1件当たりの年間停電時間(図3)では、日
生していることが読み取れま
本は台風や大震災などの自然災害が発生した年は停
すが、この統計においても日
200.0
電時間が長くなっていますが、それ以外の年では停
本の感電死亡事故発生件数は
150.0
電時間も短く、日本の送配電システムが諸外国に比
少ないことが読み取れます。
図1は欧州銅協会が 2012 年にまとめた住宅の電
べてきわめて安定した状態で運用されていることが
以 上の 統 計 からは、日本 は
気火災調査結果を抜粋したものです。このグラフに
わかります。
電 気 エ ネル ギ ー を 上 手 に、
停電時間
︵分/年・軒︶
電気は日常生活や企業活動にとって欠かすことので
. 電気事故の概要
平均€7,221
ロシア
5,000
0
記載された 25カ国の平均が 118.47 件であるのに対し
英国
韓国
15,000
. はじめに
フランス
イタリア
スペイン
25,000
よると、人口 100 万人当たりの電気火災件数において、
豪州
ベルギー
カナダ
80
米国
79分
日本
60
韓国
40
20
0
14分
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
年度
2007
2008
2009
2010
2011
図4 人口1億人あたりの年間感電死亡者数
350.0
300.0
250.0
100.0
50.0
日本
スイス
カナダ・
オンタリオ
イギリス
フィンランド
スウェーデン
アイルランド
ドイツ
フランス
豪州、
NZ
韓国
安全に使用していることが分
アメリカ
ポーランド
スペイン
0.0
かりま す。こ れ は、日 本 の
図1 人口100万人あたりの住宅の電気火災件数
350
電気保安制度によるものが大きいと思われます。
設時には竣工調査を行い、既設のものについては、
原則 4 年に1 回停電を伴う定期調査を行うこととなっ
300
250
. 日本の電気保安制度
200
ています。いずれの調査も全ての設備が対象となっ
ており、電力会社の義務となっています。
ウガンダ
ガーナ
日本
インド
フィリピン
中国
マレーシア
南アフリカ
エジプト
2 014 年 5・6月号
ポーランド
電気と保安
ウクライナ
14
トルコ
受けている電気設備は、電力会社ではなく、電気設
チェコ
点検については、新しく家を建てた時などの設備新
ギリシャ
力会社から 600 ボルトを超える電圧で電気の供給を
韓国
の電圧で電気の供給を受けている場合の電気設備
米国
0
スペイン
工場やビルなどの電気を多く使用する施設で、電
カナダ
一般的な住宅など、電力会社から 600 ボルト以下
オランダ
50
ロシア
託を受けた登録調査機関が行うこととなっています。
イタリア
化されています。
ドイツ
100
豪州
調査は電力会社か、当協会のように電力会社から委
フランス
日本では電気事業関係法のもと、しっかりと体系
英国
150
2 014 年 5・6月号
電気と保安
15
海外の電気保安制度と電気保安体制について
特集2
備を設置した者に電気の保安を確保する義務があり
うに工事を行った業者が点検を行って、さらに第三
ます。
者機関によるチェックが行われる例などいろいろな制
設置者は設備を経済産業省令で定められた技術基
度があります。
IEC(国際電気標準会議)の関係規程の一つであ
準に適合するように維持しなければならず、月次点
既設設備の定期調査については、スイスや韓国の
る「建物の電気設備」では、家庭などの低圧電気設
検や年次点検など、保安を担保する保安規程の作
ように法律による義務 付けのある国もありますが、
備について、日本における竣工検査に当たる”最初
成を行うことや電気主任技術者を選任して所管の産
残念ながら義務 付けがない国も少なくありません。
の検証“と、定期調査に当たる”定期検証“について
業保安監督部へ届出を行う必要があります。
定期調査制度がある国でも、スペインのように業務
規定があります。
これらを厳格に適用することで電気設備の自主保
用や集合住宅共用部のみの点検となっているケース
その中では、「定期検証については、より高い危険
安体制を確立しています。
などがあり、日本のように全ての家屋を点検していない
性がある、または、より短い期間が要求される、爆
. まとめ
国もあります
(表 2)。
ンガポールなどで義務化されています(表3)。
フランスでは 2009 年から築 15 年以上の住宅を売
検査の具体的な方法や頻度については、法令によ
(例えば 4 年)毎の間隔が良いとしている。なお、住
買する場合に電気設備の調査を行うことが義務化さ
り検査の頻度が規定されているベルギーのほか、機
宅に対してはより長い間隔(例えば 10 年)を適用して
れました。義務化された調査の結果、72% の住宅
器メーカーの仕様書を参考にして検査頻度を設定す
もよいが、住居の占有者が変わったときの定期検証
国によって違いはありますが、多くの国では電気
の電気設備で 3 項目以上の安全上の問題が発見され、
るようにガイドラインを出しているイギリスなど、国に
を強く推奨する」となっています。
事業関係法のもとで体系化されているものは少なく、
フランスの専門機関 CONSUELや FISUEL など で
よって違いがあります。
また、CENELEC(欧州電気標準化委員会)の文
多くは消防や建築関連、労働安全などの法制度の中
は、定期調査の必要性を指摘しています。
また、海外の検査実施機関は、検査専門機関も
書では、住宅用設備の定期点検は 10 年以下の間隔
あれば、設計、工事、保 守からコンサルティング、
で実施することを規定しているほか、全ての新設電
保険まで、ワンストップサービスを総合的に提供する
気設備の竣工検査及び定期検査を要求しています。
会社があるなど、国によって求められているものが異
日本では電気事業関係法のもと、電気保安のため
なっています。
の設備調査が正しく行われない場合は法令違反とし
. 海外の電気保安制度
(一般家庭の電気保安)
に位置づけられているものが多くなっています。
海 外においても、電気保安のために竣 工調査と
発等の危険のある場所や公共施設等を除き、数年
どは国によって大きな違いがあります。
. 海外の電気保安制度
(高圧受電設備の電気保安)
表 1に示すように、竣工調査についてはかなり多く
高圧で受電する設備についても、竣工検査と定期
点検を行う技術者についても国によって違いがあり
て罰せられますが、外国では電気設備の調査を“強く
の国で実施されています。アメリカのように州政府な
検査が必要なことは、海外の専門機関においても共
ます。日本では専任の技術者が設備の保安を確保
推奨する”
“要求する”といった表現となっていること
どが実施している例のほか、イギリスやフランスのよ
通認識となっており、ドイツ、スペイン、韓国、シ
することになっており、例外措置として外部委託制度
があり、日本ほど厳正に調査が行われていません。
があります。
また、同じ国であっても、州ごとなど各地方で規制
一方、海外においては外部委託が原則となってい
が違うということがあり、制度が複雑になっています。
る場合が多く、特にフランス・ベルギーでは外部に
日本においても、海外においても、調査・点検に
シア、
ニューカレドニア、
コートジボワール、
ベナン
(公共建物)
委託しなければならないと法律で規制されています。
よって電気事故を未然に防止していることに変わりあ
スウェーデン、
ポーランド、
ドイツ、
スペイン、
ギリシャ、
マレーシア、
シンガポール、豪州、
ニュージーラン
専門的知識を待つ技術者が客観的に設備の状況を
りませんが、海外では調査・点検が十分実施されて
確認し、設備設置者に不良箇所を指摘できることで
いない国も多く、電気事故も多い現状です。
より安全性を高めるといった効果を狙ったものと考え
そのことから日本の電気保安制度は模範的なもの
ることができます。
であるとして、海外から日本の取組みを紹介するよう
定期調査が必要だとされていますが、点検の方法な
表1 新設の低圧需要家設備の竣工検査
(調査)
制度
行政
(又は関係機関)
が検査
(工事等業者の検査)
+検査機関
竣工検査制度の
ある国
工事等業者が検査
(工事等業者の検査)
+電力会社
(又は委託先の検査機関)
検査主体不明
アメリカ
(州、市又は郡)
、
カナダ
(州)
フランス、
ベルギー、
スイス、
イギリス、
アイルランド、
フィンランド、
ポルトガル、
イタリア、韓国、
インドネ
ド、
アルゼンチン、
チリ
日本、台湾、中国、
セネガル
ハンガリー、
ノルウェー、
デンマーク、
チェコ、
メキシコ、
コロンビア、
ペルー、
マリ、
ナイジェリア、南アフ
リカ
竣工検査制度の
オランダ
(中央政府の制度なし)
、
サウジアラビア、
インド、
タイ、
ベトナム、
ブラジル
(中央政府の制度
ない国
なし)
、
モロッコ
表2 既設の低圧需要家設備の検査
(調査)
制度
定期検査制度の
ある国
フランス
(事業所、公共建物)
、
ベルギー、
スイス、
イギリス、
フィンランド
(集合住宅、業務用)
、
デンマーク、
ポーランド、
ロシア、
スペイン
(業
務用、集合住宅共用部)
、
イタリア、
ギリシャ、
スウェーデン、
ノルウェー、
日本、韓国、台湾、
マレーシア、
シンガポール
(集合住宅)
、
インドネ
フランス
(住宅の売買時、再通電時)
、
アイルランド
(再通電時のみ、定期検査を推奨)
、
スペイン
(住宅の契約変更時)
、
チェコ
(住宅の
度のある国
売買時他、任意定期検査制度あり)
、
コートジボワール
(築20年以上の建物)、南アフリカ
(売買時)
国
16
ドイツ
(定期検査を推奨)
、
ポルトガル
(任意制度あり)
、
ハンガリー
(任意制度あり)
、
フィンランド、
オランダ
(中央政府の制度なし)
、
サウジ
アラビア、中国、
インド、
タイ、
ベトナム、
アメリカ、
カナダ
(任意検査を推奨)
、
アルゼンチン、
チリ、
セネガル、
ベナン、
マリ、
ナイジェリア、
モ
ロッコ
電気と保安
表3 高圧
(1kV以上)
需要設備の検査制度
竣工・定期検査制
度のある国
シア、豪州
(危険場所等)
、
ニュージーランド
(医療用等)
、
メキシコ
(業務用)
、
ブラジル
(ペルナンブコ州)
、
コロンビア、
ペルー
その他の検査制
検査制度のない
依頼されることが多くあります。
2 014 年 5・6月号
フランス、ベルギー、
フィンランド、ポーランド、
ドイ
ツ、
スペイン、
ポルトガル、
スイス、
イタリア、韓国、台
湾、
マレーシア、
シンガポール
イギリス、
アイルランド、豪州、
ニュージーランド、
ア
竣工検査制度の
ある国
メリカ、
カナダ
※一部の国では、既設設備について、
メーカー仕
様書等に従って適切な時期に検査を行う規定
あり
※フランス、ベルギー、イギリス、スペインでは、ISO/IEC17020
による検査機関の認定制度を活用
日本の電気災害の少なさは、厳しい電気保安体制
のうえに成り立っています。世界に誇れる制度を今後も
継続していくことが電気災害の増加を食い止めるため
に必要です。一方で、電気保安技術の開発が海外に
おいて積極的に進められております。日本も現状に甘
んじることなく、より合理的・効果的な点検・監視技
術の開発、導入が今後も必要であると考えられます。
2 014 年 5・6月号
電気と保安
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