イラク拷問

Reporters sans frontières (国境なき記者団)と報道の自由について
国境なき記者団は報道の自由を守る国際的 NGO として世界でどのように存
在を確立していくことができるだろうか
三好由起子
フランスのパリに本部を置き、1985 年に設立された Reporters sans frontières(国境なき
記者団)は7つの支部と5つの事務局に 100 人程度の特派員を有し、そこを活動の拠点と
して、世界の報道の自由を監視し、これを侵害する行為を告発し、世論の喚起を行ってい
る。また世界中で真実を報道したために逮捕・投獄・監禁・拘束・誘拐・暴行・拷問・脅
迫されているジャーナリストとその家族を金銭的に支援し、解放を訴えている。ネパール、
エトルリア、中国などの報道規制が行われている国では、自由に取材や報道をすることが
できず、政府の指導によって役人の汚職をスクープするということが日常的に行われてい
る。そこではもはや報道の自由などは存在しない。政府の方針に逆らうと長年にわたり投
獄され、その数は全体で 130 人にも上る。
また RSF は検閲に対する戦いも行っている。2003 年 3 月 20 日に開戦したイラク戦争
ではエンベットという情報規制が従軍記者に公然と行われたが、RSF はそういった戦争時
の検閲を特に問題視している。というのはイラク戦争でエンベッド契約をした記者はスト
ックホルム症候群に陥り、自分の命を守ってくれる米軍に批判的な事実報道はできない。
つまりエンベッド契約とは形を変えた検閲に他ならない。
RSF が行っている活動のひとつに 2002 年一月から行われているダモクレスネットワー
クというのもがある。この名前はギリシア神話からきており、ダモクレスとは「身に迫る
危険」「常に危険と隣り合わせの状態」という意味で用いられる。これはジャーナリスト
を殺害、拷問した事実を確実に裁判に持ち込み、法的手段に訴えることを RSF が指南する
という活動だ。ここ十年間でのジャーナリストの死亡者、行方不明者は 500 人にもなり、
そのほとんどの事件は何にも罰せられていない。これによってジャーナリストの安全性や
保護を高めることができると期待している。
こうした RSF の積極的な活動にもかかわらず、報道の自由は特にイラク戦争後に自衛の
はるか後方に置かれてしまった。世界中で民主主義のグローバル化が進み、個人の人権を
尊重し、言論をはじめとする様々な自由が保障されている民主主義のもとで報道の自由は
開放されるはずだった。しかし実際はそうではない。20 世紀において民主主義の敵は共産
主義だった。このとき報道の自由の敵は明確で、RSF の活動も非常に有意義なものだった。
というのは簡単に言えば、報道の自由を侵害した政府に対して抗議するだけでよかったの
だから。しかし 21 世紀になって共産主義が倒れ、ラテンアメリカ、アフリカ諸国の独裁
体制の終焉のときから、事態は変化した。それは特に 2003 年のイラク戦争で浮き彫りに
なったのだが、ジャーナリストの敵はテロリストなどの武装集団になったのだった。これ
は RSF が近年頭を悩ませている問題の一つである。例えば戦争において、現代の戦争はメ
ディア的なものになってしまっているせいで、ジャーナリストが攻撃者から標的として狙
われる傾向が強まっている。事実ジャーナリストの年間の死亡者数はイラク戦争以前より
も 2 倍以上に跳ね上がっている。その時 RSF は何ができるだろうか?例えばアルカイダ
に対して国際条約を守れといえばいいのだろうか。そもそもどこに行けばアルカイダに会
えるのだろうか。
RSF はもう一つ問題を抱えている。それは民主主義のグローバル化が制度的に成熟して
いない国家でさえも民主主義国家としてひとくくりにまとめてしまったことだ。例えば中
国は報道の自由の領域において間違いなく問題のある国家だが、大使館は各国にあるし、
国連にも加盟している。RSF が今まで相手にしてきた敵とは明らかに政治体制が異なる国
家に対して今までの条約や協定を元とした抗議は通用しない。つまり単純な悪者というイ
メージを当てはめることができないので、大衆の関心を集めることは困難だ。
RSF が現在の政治体制で有効的な活動成果をあげられないのは、組織が実質的にも存在
感的にも小さいことにあると考えられる。敵はより抽象的で複雑で巨大なものになってい
るのだから、組織がこれまでと同じことをやっていはとても追いつけない。「核の抑止力
は核」のように力は均衡していないと効力はない。世界に向けて事実の情報を発信し影響
をあたえることや、政府やテロリストに抗議することで報道の自由を守るのならば、RSF
の組織の拡大と情報のグローバル化が必要だ。RSF の存在を各国政府が無視できなくなる
までになれば、RSF は真に報道の自由の監視者となれるだろう。
まず拡大についてだが、RSF のメンバーはすべて合わせても 120 名程度で、これは世界
を対処できる人数ではない。また支部の数が少なすぎて、日本やドイツなどの先進国をカ
バーしておらず、これでは情報を発信しても日本では扱われない。拡大によって情報を均
等に発信し、報道の自由の保護の大切さを共通に認識させることができる。また拡大に伴
って必要となってくる資金だが、これは拡大初期に必要なのであって、資金調達は拡大と
ともに間単に行える。
次に情報のグローバル化だが、たとえば第二インティファーダが起こって以来 4 千人が
死んだということは大騒ぎされたが、しかし同時期にコンゴでは死者が 300 万人にのぼっ
たことはまともに報じられなかった。報道の自由でも同じことがいえる。話題性によって
新聞は掲載を決定するが、イラクで捕まったジャーナリストと、フィリピンで殺されてい
るジャーナリストに違いがあるのだろうか。
この二つの障害を取り除き、RSF が世界から重要な役割を認識されればされるほど、テ
ロリストや仮の民主主義とも対等に闘えるようになるだろう。RSF は本来国家との闘いの
中で誕生した。しかし現在では敵の変化により支援・救済に重点を置かざるをえなくなっ
てしまった。そのため組織が混乱し、RSF の事務局長ロベールメナール氏は「RSF の将来
は暗黒で、悲観的にならざるを得ない」と発言している。支援・救済では報道の自由の実
現は難しい。敵が巨大化複雑化してしまい、RSF は戦力をほとんど失ってしまっている。
RSF は第4の権力を守る要として非常に重要な存在であるので、今後テロリストや政府に
匹敵する組織になることを目標にアグレッシブに発展していくことが必要だ。