Proceedings of the JSCT

JSCT
Japanese society of CT technology
Proceedings of the JSCT
Yoshinori Funama, Ph.D.
Eiji Nishimaru, Ph.D
Chairs/Editors
Volume 1
November 2013
Proceedings of the JSCT Volume 1, November 2013
日本 CT 技術研究会 第 1 回学術大会(JSCT2013)発表後抄録集
【日時】2013 年 6 月 29 日(土)9:00~17:00
【会場】広島大学医学部(臨床講義棟:第 4, 5 講義室)
【大会長】市川 勝弘(金沢大学)
Session 1(画像・画質評価)
座長
金沢大学
藤田保健衛生大学
市川 勝弘
辻岡 勝美
13001. CT における画像再構成フィルタがプラーク評価に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
谷口 拓矢 1) ,市川 勝弘 2)
1) 朝日大学歯学部附属村上記念病院,2) 金沢大学医薬保健研究域保健学系
13002.
1
心冠動脈 CT 検査における仮想単色 X 線画像を用いたステント内腔評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
‐逐次近似法を応用した画像再構成法併用‐
作田 啓太 1),高田 忠徳 1),松原 孝祐 2),三井 渉 1),林 弘之 1),布目 晴香 1)
1) 金沢大学附属病院,2) 金沢大学医薬保健研究域保健学系
13003. 3D 体積計測における逐次近似応用再構成法の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
原田 耕平 1),溝延 数房 1),千葉 彩佳 1),本間 修一 1),田仲 健朗 1),長濵 宏史 1)
1) 札幌医科大学附属病院放射線部
13004. 逐次近似再構成法が三次元 CT 画像の形状再現性に与える影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
星野 貴志 1),市川 勝弘 2),寺川 彰一 3),井上 健 4),杉澤 浩一 5),勝眞 康行 6)
1) 社会医療法人医真会八尾総合病院,2) 金沢大学医薬保健研究域保健学系,3) 大阪市立総合医療センター
4) 社会医療法人高清会高井病院,5) 慶應義塾大学病院中央放射線技術室,6) 奈良県立医科大学附属病院
13005. X 線 CT 画像の非線形性と MTF 測定:背景物質およびテスト被写体の材質について・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
平栗 彩加 1),後藤 光範 1),佐藤 和宏 1),千葉 雄高 2),福士 沙江子 2),森 一生 1)
1) 東北大学大学院医学系研究科保健学専攻,2) 東北大学医学部保健学科
13006. 異なる逐次近似応用再構成法における挙動の違いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
後藤 光範 1),佐藤 和宏 1),平栗 彩加 1),森 一生 1)
1) 東北大学大学院医学系研究科保健学専攻
Session 2(造影・検査技術・画像処理)
座長
大阪物療大学 山口 功
順天堂大学練馬病院 木暮 陽介
13007. Pseudoenhancement effect に対する仮想単色 X 線 CT 画像の効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
杉澤 浩一 1),市川 勝弘 2),南島 一也 1),長谷川 雅一 1),陣崎 雅弘 3)
1) 慶應義塾大学病院中央放射線技術室,2) 金沢大学医薬保健研究域保健学系
3) 慶應義塾大学医学部放射線診断科
13008. Monochromatic Imaging を用いた腹部 3DCTA による造影剤減量効果の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
平入 哲也 1),篠田 雅弘 1),長谷川 公彦 1),小野 直人 1),武川 彰宏 1),阿瀬川 敏 1)
1) 順天堂大学医学部付属静岡病院
13009.
Virtual monochromatic image を用いた橈骨遠位端骨折用掌側
ロッキングプレート術後の屈筋腱の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
西山 徳深 1),摺河 健文 1),小林 有基 1),中川 潤一 1),星加 美乃里 1),村上 奈津紀 1)
1) 岡山済生会総合病院画像診断科
13010. CT における線質特性と造影コントラストの定量評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
丹羽 伸次 1),原 孝則 1),加藤 秀記 1)
1) 中津川市民病院医療技術部
13011.
スペクトラル CT による造影剤濃度の定量表示に関する基礎検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
岩元 新一郎 1),山口 功 1)
1) 大阪物療大学保健医療学部
13012.
320 列 CT を用いた胸部検査における心臓辺縁部の
モーションアーチファクト低減の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
安田 秀剛 1),西丸 英治 1),木口 雅夫 1),河野 信吾 1),粟井 和夫 2),大倉 保彦 3)
1) 広島大学病院診療支援部高次医用画像部門,2) 広島大学病院放射線診断科,3) 広島国際大学保健医療学部
Session 3(被ばく・線量評価・その他)
座長
国立がん研究センター東病院 村松 禎久
広島大学病院 藤岡 知加子
13013. 心電図同期 CT 撮影法の X 線照射時間に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
山口 隆義 1),高橋 大地 1),中川 真吾 1),森田真理 1)
1) 北海道社会保険病院放射線部
13014.
多列 CT における over-beaming, over-range の評価と dynamic z-collimator の動作特性に関する検討・・・・ 50
瓜倉 厚志 1),市川 勝弘 2),原 孝則 3),中屋 良宏 1)
1) 静岡県立静岡がんセンター画像診断科,2) 金沢大学医薬保健研究域保健学系,3) 中津川市民病院医療技術部
13015. 被ばく低減を目的とした ECG-gated Scan における CNR を指標とした低電圧撮影について・・・・・・・・・・ 54
舛田 隆則 1),今田 直幸 1),丸山 尚也 1),稲田 智 1),奥 貴之 1),山下 由香利 1)
1) 医療法人あかね会土谷総合病院放射線室
13016.
頭部 CT 撮影における吸収線量の評価:頭部固定専用ホルダーおよび
簡易的頭部固定器具使用時の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58
横町 和志 1),西丸 英治 1),藤岡 知加子 1),木口 雅夫 1),石風呂 実 1),粟井 和夫 2)
1) 広島大学病院診療支援部高次医用画像部門,2) 広島大学病院放射線診断科
13017.
CTDI を用いた Dual Energy CT の線量評価の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61
石井 崇倫 1),沼元 瞳 1),平井 雄大 3),小山 修司 1),川野 誠 2),大橋 一也 2)
1) 名古屋大学大学院医学系研究科,2) 名古屋市立大学病院中央放射線部,3) 名古屋大学医学部保健学科放射線
技術科学専攻
13018. X 線 CT ファンビーム用多チャンネルエネルギー測定器の開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
平井 雄大 1),近藤 晋平 2),羽場 友信 3),石井 崇倫 4),沼元 瞳 4),小山 修司 4)
1) 名古屋大学医学部保健学科放射線技術科学専攻,2) 春日井市民病院放射線技術室,3) 藤田保健衛生大学病院
放射線部,4) 名古屋大学大学院医学系研究科
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
CT における画像再構成フィルタがプラーク評価に及ぼす影響
13001
谷口拓矢*,市川勝弘**,岩田哲成*,佐々木陽介*,杉浦明弘***
*朝日大学歯学部附属村上記念病院
**金沢大学医薬保健学域保健学類
〒500-8523 岐阜県岐阜市
〒920-1192 石川県金沢市
***岐阜医療科学大学保健科学部放射線技術学科
緒言
〒501-3892 岐阜県関市
(GE ヘルスケア・ジャパン社)を使用した.自作の血管ファント
プラーク診断は,脳梗塞や心筋梗塞の要因である動脈塞栓症の評
ムは 150 mm×150 mm,厚さ 30 mm のアクリル樹脂板に直径 6 mm
価に対して重要な役割を果たしている.近年,プラーク形成に伴う
の穴をあけることで頸動脈を想定した.プラーク形状は日本脳卒中
破綻のメカニズムが解明され,その脆弱性を評価することが重要と
学会が示す脳卒中治療ガイドラインより頸動脈内膜剥離術が勧め
なってきた[1].
られる50%狭窄率とするため,
管状腔内の半分にはCT値が160 HU
Computed tomography(CT)におけるプラーク診断は,血管内エ
となる模擬プラーク(造影剤入りエポキシボンド)を埋め込み,残
コー(intravascular ultrasound: IVUS)や光干渉断層法(optical
りの半分には CT 値が 420 HU となるように調節した希釈造影剤を
coherence tomography: OCT)など観血的検査法に比べ非侵襲的かつ,
満たすことで,アクリルの CT 値が 120 HU に対して模擬プラーク
性状評価において高い相関をもつことから臨床的意義は大きい[2].
とのコントラストは 40 HU,模擬血管とのコントラストは 300 HU
しかしながら,過去に報告された不安定プラークの CT 値[3-7]は
とした臨床でのコントラストを再現した.なお,このファントムは
Table 1 に示すように論文によって異なり,その設定のいかんによ
隔壁構造を持たないため,パーシャルボリューム効果による影響が
って計測精度を著しく低下させる.したがって,臨床における設定
最小限となる構造である.模擬血管ファントムはガントリの回転軸
CT 値の標準化が望まれるものの,対象が小さいために撮像パラメ
に対して平行になるように設置し,撮影条件は管電圧:120 kV と
ータにより周囲物質や分解能の影響を受けて出力されるCT値分布
し,1.25 mm×16 のディテクタ構成にて,回転速度:0.6 sec/rot.,
が変化することが問題となる.よって,CT 値分布が変化する要因
ビームピッチ:0.562,画像再構成 FOV(field of view)
:100 mm に
を詳細に評価し,その計測精度を検証することで,プラーク性状を
て撮影した.撮影線量はファントムのバックグラウンド標準偏差
評価するための最適な撮像条件を導き出すことができると考えた.
(standard deviation: SD)が Standard フィルタ関数で 8 となる 120
Table 1: CT values of soft plaque shown in literatures.
mAs を基準に 30 mAs ずつ変化させ 60~240 mAs にて撮像をおこな
った.なお,8 の SD 設定は,著者の施設で臨床のプラーク評価画
Author
Soft
plaque
(HU)
Tube
voltage
(kV)
像に従来から用いられてきた画像のおおよその SD 値である.
kernel
1-2
フィルタ関数の空間周波数処理
Becker (2003)[3]
47 ±9
120
Medium smooth
Schroeder (2004)[4]
42 ±22
140
Medium sharp
Thomas (2006)[5]
25 ±19
120
Intermediate
理による後処理フィルタにより,様々なフィルタ関数を模擬し,処
Pohle (2007)[6]
58 ±43
120
Medium smooth
理後の血管ファントム画像から模擬プラークのCT値や面積の評価
Kitagawa (2007)[7]
18 ±17
120
standard
一般的に各 CT 装置には数種類のフィルタ関数が装備されている
が,その周波数特性は限られ,自由な特性を持たせることはできな
い.そこで本研究では,2 次元フーリエ変換を用いた空間周波数処
を行った.
血管ファントムの CT 画像は以下の処理手順で周波数処理をおこ
本研究では,
CT の画像再構成におけるフィルタ関数が modulation
なった.その概要を Fig. 1 に示す.まず,ワイヤ法[10]により算出
transfer factor(MTF)を調節している点に着目し,画像に対して後
した元画像の MTF に異なる周波数処理係数を乗じて擬似的に周波
処理としての周波数処理を適用することで空間周波数特性の異な
数特性を調節した MTF を作成する.次に血管ファントム画像を二
るフィルタ関数を擬似的に作成できるという性質を応用した[8].
次元フーリエ変換して周波数成分に変換し,画像の全方向に対して
そこで今回,周波数特性の異なるフィルタ関数がプラーク性状評価
前述した周波数処理係数を乗じた.そして,この 2 次元周波数成分
に及ぼす影響について詳細に検討した.
を二次元逆フーリエ変換することにより擬似的に MTF を調節した
フィルタ関数の画像
(模擬フィルタ関数の画像)
を作成した.
また,
ここで用いる血管ファントム画像のフィルタ関数には,周波数処理
1.方法
1-1
による無理な増強を必要なくするため高解像度で高空間周波数ま
模擬血管ファントムの撮影
でレスポンス値を持つ Bone 関数を用いた.
CT 装置は,16 列のマルチスライス CT 装置,Light Speed Ultra 16
1
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目次
像特性
(すなわちフィルタ関数)
の評価を行う必要がある.
そこで,
前項のスキャン条件を元に,装置の最も高い電流値(264 mAs)に
て撮像したファントム画像からフィルタ関数の検討を行った.また,
面積計測に関してはファントム画像における血管部分とプラーク
部分を適切なしきい値で分割する必要があり,しきい値の決定法
[10]の違いにより抽出面積に大きな誤差を生じる.そのため,血管
径に相当する直径 6 mm の ROI を血管領域に合わせて設定し,大
津の判別分析法[11]によって 2 値化処理を行うことで,適切に分割
されたプラーク部分のピクセル数から面積を計測し,直径 6 mm の
円形の面積に対するパーセンテージを算出した.評価においては同
一断面を 10 回撮影し,この 10 画像から計測値の平均を算出した.
画像解析にはフリーウェアである Image J[12]を使用した.
次に,空間周波数処理に伴うフィルタ関数の違いが,プラーク形
状の再現性に及ぼす影響を比較評価するために,基準画像と空間周
波数処理画像との差異を次式に示す平均二乗誤差(mean square
Fig. 1: Outline of creation of frequency processed CT images.
error: MSE)によって算出した.
評価に用いる模擬フィルタ関数として,
MTF 値がゼロに近い0.02
MSE 
となる空間周波数(限界周波数)を 0.6, 0.8, 1.0, 1.2 cycles/mm の 4
1
MN
 
M 1
N 1
j 0
i 0
( s(i, j )  p(i, j )) 2
(1)
段階に変化させた Resolution1(R1), Resolution2(R2), Resolution3(R3),
ここで,s は基準画像の CT 値,p は空間周波数処理画像の CT 値
Resolution4(R4)と,0.4 cycles/mm における MTF 値を 1.0, 1.2, 1.6, 2.0
で,双方ともマトリクスサイズ:M×N である.基準画像は,模擬
まで4段階に変化させたEdge1(E1), Edge2(E2), Edge3(E3), Edge4(E4)
血管ファントムの円形形状とプラーク形状(半円)から CT 画像の
を作成し,これらについて検討を行った.これらの MTF を Fig. 2
ピクセルサイズに合わせて作成した画像(2 次元データ)であり,
に示す.なお,R3 と E1 は同一の模擬フィルタ関数である.それぞ
造影血管部分では 420 HU,模擬プラーク部分は 160 HU とした.
れの関数の名前に含まれる数値について,Resolution では数値が大
MSE の算出結果は小さいほど基準画像に近く,再現性の良い画像
きいほど高周波成分を保持し,解像度は高くなり,Edge では数値
となる.
が大きいほどエッジ強調の度合いが強くなる設定である.
元画像における MTF の測定は,日本放射線技術学会監修の「標
2.結果
準 X 線 CT 画像計測」に準じて行った.
Modulation transfer factor
Modulation transfer factor
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
Spatial frequency (cycle/mm)
2-1
プラーク CT 値
2
正確な CT 値を計測するために,最大電流値(264 mAs)にて撮
1.6
影した血管ファントムの周波数処理画像を Fig. 3 に示す.空間周波
1.2
数処理により,解像度を高くするほど境界明瞭に描出された.これ
0.8
に対してエッジ強調を強くするほど模擬プラークと造影血管部分
0.4
におけるコントラストの増加を認め,造影部分境界においてアンダ
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
ーシュートとオーバーシュートの影響が大きく現れた.
1.2
Spatial frequency (cycle/mm)
a
b
Fig. 2: Simulated MTFs(simulated filter kernels) with different limit frequencies (a)
and different edge enhancements (b)
1-3
プラーク評価
フィルタ関数 R1~R4 と,E1~E4 による空間周波数処理後の血
管ファントム画像においてプラーク部分の CT 値を比較評価した.
プラーク部分における CT 値の計測はプラーク中心に y 方向に 1
mm,x 方向に 3 mm の楕円形 region of interest (ROI)を設定し,
平均 CT 値と SD を算出した.なお,CT 値の評価において,理想
的には CT 値が正確であり,優れた解像度によってエッジを正確に
a
b
c
d
e
f
g
h
Fig. 3: Frequency processed images of simulated filter kernels of (a) R1, (b) R2, (c)
再現しながら CT 値分布も忠実であれば,評価の精度は向上する.
R3, (d) R4, (e) E1, (f) E2, (g) E3 and (h) E4.
よってそれを評価するためには極力画像ノイズを少なくし,まず解
2
November 2013 | Volume1
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目次
60
これらの画像に対してプラーク部分の CT 値を計測した結果を
Plaque area (%)
Fig. 4 に示す.Resolution フィルタ関数において解像度が高いほど
プラーク CT 値は真値に近づき,Edge フィルタ関数ではエッジ強
調を強くするほど真値より低下する傾向を示した.また双方におい
て,
解像度を高めるほどプラークCT値のばらつきが大きくなった.
R1
R2
R3
R4
150
180
210
240
E3
E4
210
240
55
50
45
Resolution kernel
Edge kernel
40
60
10
90
120
mAs
60
E1
0
Plaque area (%)
Measurement error (HU)
20
-10
-20
1
2
3
4
E2
55
50
45
kernel number
40
60
Fig. 4: Error of CT values in simulated soft plaque for simulated kernel of R1-R4 and
90
120
150
mAs
180
E1-E4.
a
b
2-2
プラーク面積
大津の判別分析法を用いた 2 値化画像におけるプラーク面積を
Fig. 5: Measurement results of plaque area for different doses and simulated kernels of
Fig. 5 に示す.Resolution フィルタ関数における解像度の変化や,線
(a) R1-R4 and (b) E1-E4.
量の変化に対してプラーク面積は,真値である 50%から±2%以内
と精度良い測定結果を示した.また,Edge フィルタ関数では,Edge
7000
強調のないE1 フィルタ関数に対してEdge 強調のあるE2~E4 フィ
Mean squared error
2-3
R1
6000
ルタ関数ではプラーク面積をやや過小評価する傾向を示した.
プラーク形状の再現性
基準画像と周波数処理画像の MSE を Fig. 6 に示す.解像度の高
いフィルタ関数ほど MSE の値が小さく,高い再現性であることを
R2
5000
4000
3000
2000
R3
1000
示した.R3 や R4 では,120 mAs 以下での低線量において MSE の
R4
0
60
増加傾向を認めた.E1 と比較して,E2 ではやや MSE の低下を示
7000
線量変化においては,線量が低くなるほど MSE は増加した.
6000
Mean squared error
したが,
それ以上のエッジ強調関数では MSE の増加傾向を認めた.
3.考察
CT におけるプラーク性状評価を特性の異なるフィルタ関数にて
比較検討した結果,MTF の限界周波数を高くして,広い周波数範
150
mAs
180
210
240
E4
E3
4000
3000
2000
1000
境界を明瞭に分離し,プラーク部分の CT 値を正確に計測すること
0
E2
E1
60
ツキから判断して再現性の点で R3 が優れると考えられた.また,
120
5000
囲において 1.0 以下で且つ高い MTF 値とすることで造影血管との
ができた.結果的に R3 と R4 の平均値は同程度であったが,バラ
90
90
120
150
mAs
180
210
240
a
プラーク形状の再現性に関しても Fig. 6 に示すように,解像度の高
b
い関数ほど MSE の低下を認め,R3,R4,E1 及び E2 は同程度の値
Fig. 6: Shape reproducibility (mean square errors) of simulated soft plaque images for
を示した.
different doses and simulated kernels of (a) R1-R4 and (b) E1-E4.
3
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目次
大津の判別分析法を用いた 2 値化画像のプラーク面積計測では,
線量変化や,フィルタ関数の違いに関係なくほぼ正確なプラーク面
参考文献
積を計測できたが,E2~E4 で過小評価傾向が見られたことから,
[1]Naghavi M, Madjid M, Khan MR, et al. New Developments in the
エッジ強調となるフィルタ関数の使用は避けるべきと考える.
Detection of Vulnerable Plaque. Curr Atheroscler Rep. 2001; 3:
一般的に,血管などの比較的小さな対象を明瞭に観察する場合に
は,解像度を重視してエッジ強調特性のある関数を選択することが
125-135.
多い.しかし,本研究の対象としたプラーク性状評価では,CT 値
[2]Sun J, Zhang Z, Lu B, et al. Identification and quantification of
により性状を鑑別し,その面積測定のためには正確な CT 値分布が
coronary atherosclerotic plaques: a comparison of 64-MDCT and
重要であることから,隣接する高吸収物質やノイズの影響も計測精
intravascular ultrasound. AJR. 2008; 190: 748-754.
度に大きく左右する.これらの要因を考慮して,フィルタ関数を選
[3]Becker CR, Nikolaou K, Muders M, et al. Ex vivo coronary
択する際には,従来は,低解像度なフィルタ関数によるノイズ抑制
を優先するか,高解像度なフィルタ関数によるエッジ強調を優先す
atherosclerotic plaque characterization with multi-detector-row CT. Eur
るかの判断が困難であり,結果的に腹部などに用いられる標準的な
Radiol. 2003; 13: 2094-2098.
関数を用いる傾向にあった.本研究では,それとは異なるアプロー
[4]Schroeder S, Kuettner A, Leitritz M, et al. Reliability of differentiating
チをとり,フィルタ関数を模擬的に作成して,R3 や R4 フィルタ
関数のような,エッジ強調とはならず(MTF 値が 1 を超えず)限
human coronary plaque morphology using contrast-enhanced
界周波数が 1.0 cycles/mm 程度となる関数により,良い評価を得た
multislice spiral computed tomography: a comparison with histology.
ことは新しい知見である.また,エッジ強調関数を用いることは
J Comput Assist Tomogr. 2004; 28: 449-454.
CT 値の正確性や形状の再現性を低下させることから避けた方が良
[5]de Weert TT, Ouhlous M, Meijering E, et al. In Vivo Characterization
いことも示され,この結果も重要である.また,60 mAs や 90 mAs
の低線量画像では面積測定精度は維持できるものの形状再現性が
and Quantification of Atherosclerotic Carotid Plaque Components
低下した(MSE が増加した)
.このことから本研究のような単純な
With Multidetector Computed Tomography and Histopathological
半円形状ではなく複雑な形状の際には,面積の精度も低下すること
Correlation. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2006; 26: 2366-2372
が推測されたため線量低下はプラーク評価には適切ではないと考
[6]Pohle K, Achenbach S, Macneill B, et al. Characterization of
える.画質を総合的に評価する指標として信号対雑音比
(signal-to-noise ratio: SNR)による周波数領域での評価が有効とも
non-calcified coronary atherosclerotic plaque by multi-detector row
考えられるが,今回のように元データが同じ画像に対してはどのよ
CT: comparison to IVUS. Atherosclerosis. 2007; 190: 174-180
うなフィルタ関数を用いても理論上はSNRが一定となりSNRの評
[7]Kitagawa T, Yamamoto H, Ohhashi N, et al. Comprehensive evaluation
価への適用は困難である.従って,本研究ではプラーク性状評価に
おける最適フィルタ関数の解像特性を MTF とプラーク計測から客
of noncalcified coronary plaque characteristics detected using 64-slice
観的に評価できたことは非常に有用であったと考えられる.しかし
computed tomography in patients with proven or suspected coronary
ながら,今回の検討では頸動脈を想定して直径 6 mm のファントム
artery disease. Am Heart J. 2007; 154: 1191-1198
を対象としており,冠動脈のようにさらに細い血管を想定しつつ,
[8]Ichikawa K, Kodera Y, Ohashi K, et al. Performance Evaluation of
体軸方向も含めた三次元的な体積測定も今後考慮する必要がある.
Computed Tomography with Equivalent Resolution Images. Japnese
さらに,異なるプラーク性状が混在する場合における組織境界の判
Journal Radiological Technology. 2006; 62: 522-528
別法など,計測精度を担保できる解析手法について検討していく必
要がある.
[9]遠藤真広, 飯沼武, 竹中栄一. ワイヤによるCT像の分解能の測
定. 日本医放会誌. 1980; 40: 43-51.
4.結語
[10]笹川耕一, 黒田伸一, 池端重樹. しきい値決定法の性能比較評
CTにおけるフィルタ関数がプラークの計測精度に及ぼす影響につい
価. 電子情報通信学会論文. 1993; 10: 2185-2195
て,2次元フーリエ変換による空間周波数処理を応用した,模擬フィル
[11]大津展之. 判別および最小2乗基準に基づく自動しきい値選定
タ関数によるアプローチを用いて,ファントム試験により検討した.その
法. 通信論. 1980; J63-D(4): 349-356.
結果,プラークの面積とCT値の測定精度確保のためにエッジ強調のフ
[12]Abramoff MD, Magalhaes PJ, Ram SJ. Image Processing with
ィルタ関数が適切でなく,CT値精度,形状再現性を向上させるために
ImageJ. Biophotonics International. 2004; 11:36-42
はエッジ強調特性がなく(MTFが1.0を超えず),腹部用などの標準的
フィルタ関数よりMTF値を高めたフィルタ関数が有効あることが示唆さ
れた.
4
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
13002
目次
心冠動脈 CT 検査における仮想単色 X 線画像を用いたステント内腔評価
-逐次近似法を応用した画像再構成法併用-
作田啓太*,高田忠徳*,松原孝祐**,三井 渉*,林 弘之*,布目晴香*,松浦幸広*
*金沢大学附属病院
**金沢大学
放射線部 〒920-8641 石川県金沢市宝町 13-1
医薬保健研究域 〒920-0942 石川県金沢市小立野 5-11-80
緒言
SAFIRE 併用時の物理評価
2)
心冠動脈 CT 検査において,通常の single energy imaging (SE)であ
る連続 X 線画像(polyenergetic imaging: PI)では,ステント留置例
1-2
各検討項目における撮像条件および解析方法
で内腔にアーチファクトが発生する.その影響により,CT 値の低
1-2-1
心冠動脈狭窄モデルを用いた,CT 値変動率の評価
いプラークはステントや造影剤等の高吸収体由来のアーチファク
心冠動脈狭窄モデル作成には,直径 5 mm の模擬血管ファント
トに相殺され,見落としが生じる可能性がある.心冠動脈 CT 検査
ム(京都科学社製)とステント(日本バイオセンサーズ社製
においてステント内腔のプラークによる再狭窄を評価することは,
S-STENT 5 mm×20 mm)を用いた.模擬血管ファントムは CT 値
治療方針の決定や経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary
250 HU 相当の造影血管部と,CT 値 50 HU 相当のプラーク部を 2.5
intervention: PCI)の再施行を判断する際に極めて重要である[1-3].
mm ずつ重ね合わせ,50%プラーク狭窄部を作成した.その上にス
静止状態における模擬血管ファントムを評価した報告がある[4].
テントを被せ,ステント内における 50%プラーク狭窄部を作成し
実際の臨床で施行されている心冠動脈 CT 検査では,心電図同期ス
た(Fig.1)
.この心冠動脈狭窄モデルを心臓動態ファントム SKK
キャンで撮像されハーフ再構成法で画像が作成される等,撮像条件
型(京都科学社製)に固定し,心拍数制御部にて心拍数を 60 bpm
が異なる.近年,Dual Source CT の普及により,dual energy imaging
に設定した(Fig.2)
.その条件下で,心電図同期スキャンを SE と
(DE)を心電図同期下において短時間で撮像することが可能になっ
DE で 5 回ずつ施行し,各々より PI と VMI を取得した.この際,
た.これより,エネルギーの異なる画像データを用い,仮想単色 X
時間分解能は140 msecに統一し撮像した.
得られた画像において,
線画像(virtual monoenergetic imaging: VMI)を作成できる.この技
ステント外におけるステント内のCT値変動率を下記に示す式より
術は,PI で問題となる装置間での実効エネルギーの相違,CT 値の
算出した.
不確かさ,高吸収体由来のアーチファクトを低減できる[5-7].その
R = ( (Min - Mout ) /Mout ) × 100
効果が心冠動脈 CT 検査時においても有用である可能性がある.ま
ここで,
R は CT 値変動率 [%],
Min はステント内の CT 値 [HU],
(1)
た,心冠動脈 CT 画像の読影環境では拡大し画像を診るため,ノイ
Mout はステント外の CT 値 [HU]を表す.
ズ成分が目立つ.この状態では画像ノイズと CT 値の低い微小プラ
R を求め,PI と VMI との比較, SAFIRE を用いた際の効果を検証し
ークの判別が困難である.Dual Source CT(シーメンス社製)では
た.ここで,VMI ではエネルギーの選択が可能である.Fig.3 に VMI
逐次近似法を応用した画像再構成法(sinogram affirmed iterative
の各エネルギーにおける,均一な水ファントムを撮像した際の CT
reconstruction: SAFIRE)が実装されている.SAFIRE は面内解像度
値の standard deviation (SD)を示す.これより,最もノイズが少ない
を維持しながら画像ノイズを低減することが可能であり[8-10],心
70 keV を採用した.また,SAFIRE は Strength 3 (SAFIRE St.3)
,
冠動脈 CT 画像においてもその効果が期待される.
Strength 5(SAFIRE St.5)を用いて評価した.なお,画像再構成法は
本研究の目的は,VMI と SAFIRE を併用し,ステント内腔に
ハーフ再構成法を用いた.その他の条件として,PI は管電圧 120 kV,
おけるアーチファクトの低減効果,画像ノイズの低減効果を検討す
Pitch:0.17,再構成関数 B36f で,VMI は管電圧 100 kV と Sn140 kV
ることである.なお,心臓動態ファントムを用い心電図同期スキャ
の DE,Pitch:0.21,再構成関数 D36f とした.共通条件は Acq:128
ンにて撮像することで,より臨床に近い状態における効果の検証を
×0.6(z-sharp),回転速度:0.28 sec/rotation,表示画像視野(field of view:
目指す.
FOV) 200 mm,スライス厚 0.75 mm,CTDIvol 38.8 mGy である.
1.方法
使用装置および検討項目
1-1
CT 装置は 2 管球搭載のマルチスライス CT 装置,SOMATOM
Definition Flash(シーメンス社製)を用い,次の項目について検討
を行った.
1)
Fig.1: Appearance of the phantom for coronary stenosis model
心冠動脈狭窄モデルを用いた,CT 値変動率の評価
5
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
1-2-2-2
解像特性
CT 装置における解像度特性(高コントラスト分解能)の定義は
「ノイズのない状況における,二つの物質を識別する能力」とされ
ており,古くから金属ワイヤを用いた modulation transfer function
(MTF)の評価法(ワイヤ法)が提唱されている.しかし,SAFIRE
の解像度維持の程度を測るために,ワイヤの 1000 Hounsfield unit
(HU)以上のコントラストは人体の臓器間(骨を除く)のコント
ラストを考慮すると決して適切とはいえない.そこで,今回は CT
値が 125 HU のアクリル体を CT 値が 0 HU の水の中に固定した自
作ファントムを使用し,ラジアルエッジ法にて MTF を算出した
(Fig.5).なお,算出方法を以下に示す.まず,中心から円周方向へ
のすべてのエッジプロファイルの平均を得る.次に,中心位置を微
調整することですべてのプロファイルが重なり,その平均誤差を最
Fig.2: Appearance of the phantom for dynamic phantom of cardiac
少にする.実効サンプリング間隔はピクセルサイズの 1/3 とする.
これらの合成エッジプロファイルを微分しフーリエ変換すること
で MTF を算出した.なお,ラジアルスキャンはプロファイル数を
増加でき,エッジ形状の正確なサンプリングが可能になる.また,
用いるデータは加算平均処理後(150 slice)の画像とし,SD 値が
1.0 HU 程度であり,極力ノイズ成分を排除した合成画像において
計測した.
Fig.3: Resultant SD obtained from water phantom images (VMI)
1-2-2
SAFIRE 併用時の物理評価
1-2-2-1
ノイズ特性
ノイズ特性は SD 値を用いた.SD 値測定は,Catphan ファントム
の均一な水成分部を心冠動脈CT検査時と同様な条件下で撮像した.
Fig.4 に示す 5 つの Region of interest (ROI)を直径 40 ピクセルの円形
とし,それらの平均 SD 値をノイズ量とした[11].なお,PI と VMI
ともに SAFIRE St.3,SAFIRE St.5 を使用し,比較した.
Fig.5: Method for measurement of MTF (Method of radial edge)
2.結果
2-1
心冠動脈狭窄モデルを用いた,CT 値変動率の評価
Fig.6 に CT 値変動率の結果を示す.プラーク部において,PI の
CT 値変動率が 130%であったのに対し,VMI は 60%であり,大幅
に低下した.また,SAFIRE を VMI に併用することで,プラーク
部の変動率がVMI (SAFIRE St.3)
で3.6%の低減,VMI(SAFIRE St.5)
で 10%の低減効果を示した.造影血管部では,PI(FBP)で 14.4%の
変動率であった.造影血管部の VMI の変動率は FBP で 0.5%,
SAFIRE St.3 で 0.8%,SAFIRE St.5 で 0.6%とすべてにおいて 1%未
満であり,CT 値の変動をほぼ認めなかった.
Fig.4: Method for measurement of SD
6
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
2-2-2
解像特性
Fig.8 に MTF の結果を示す.今回の模擬血管は 5 mm,プラーク
部は 2.5 mm である.空間周波数: f = 1/2d より,今回評価した心冠
動脈狭窄モデルのサイズにおける周波数帯域は 0.1~0.2 cycles/mm
の領域で表現される.この領域における MTF では,PI (FBP),VMI
(SAFIRE St.3),VMI (SAFIRE St.5)の何れにおいても差が認められな
かった.
a
─
b
Fig. 8: Comparison of MTF for PI(FBP) and VMI(SAFIRE)
Fig.6: CT value volatility of (a) plaque and (b)iodine
3.考察
2-2
SAFIRE 併用時の物理評価
2-2-1
ノイズ特性
これまでわれわれは,心冠動脈狭窄モデルの静止下における CT
値変動率の検討,SAFIRE 併用時における物理特性の評価を行って
Fig. 7 に結果を示す.心電図同期スキャンでハーフ再構成により取
きた.その結果では,VMI によるアーチファクトの低減,SAFIRE
得した画像における SD 値の結果である.PI (FBP)で 13.0%の SD 値
によるノイズの低減効果は,今回の測定結果とほぼ同等な値を示し
であった.VMI の SD 値は FBP で 11.5%,SAFIRE St.3 で 8.1%,
ていた.Fig.4(a)に示す CT 値改善率のプラーク部において,VMI
SAFIRE St.5 で 5.9%であり,わずかではあるが SD 値が小さくなる
は PI と比較し,CT 値の変動率が大幅に改善した.したがって,心
傾向が認められた.
冠動脈 CT 検査時(心電図同期スキャン,ハーフ再構成画像)にお
いても VMI は有用な技術であり,モーションアーチファクトを含
む状態においても,高吸収体由来のアーチファクトを低減できるこ
とが分かった.また,VMI に SAFIRE を併用することで変動率が
数%であるが改善していることより,ノイズ等による CT 値の変動
を抑える効果が認められたと考える.また MTF の結果より,心冠
動脈を対象とする領域において,PI(FBP)と VMI(SAFIRE)に
おいてほぼ差がなく,SAFIRE の併用は解像特性においても影響を
及ぼさないことが示唆された.しかし,井上ら[4]の報告より,逐
次近似法を応用した画像再構成法の強度を上げることによる画質
の低下が危惧されるため,Axial 画像にてプラーク部と造影血管部
の境界面を確認したが,SAFIRE St.5 を用いた画像においても良好
に境界面を描出できていた(Fig.9)
.したがって,ステント留置例
に対する,
心冠動脈 CT 検査における心電図同期下 DECT では VMI
に SAFIRE を併用することで,アーチファクトの低減,ノイズの低
Fig. 7: Comparison of SD for PI(FBP) and VMI(SAFIRE)
減が可能となるため,本手法は臨床的に有用な技術であることが証
7
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
明された.
Monochoromatic Spectral imaging with Fast Kilovolutage
しかし,今回の検証は 5 mm の血管(50%狭窄)を想定し施行し
Switching:Reduction of Metal Artifacts at CT. RadioGraphics 2013;
ており,他の血管径や狭窄率によっては結果が異なる可能性がある
33: 573-583.
ため,更なる検証が必要である.また,SAFIRE は画像のノイズ量
[ 7 ] Lifeng Yu, Jodie A. Christner, Cynthia H, et al. Virtual
やアーチファクト量により効果が変化する可能性があるため,
monochromatic imaging in dual-source dual-energy CT: Radiation
ファントムの大きさによる効果や線量の増減による違いについて
dose and image quality. Medical Physics 2011; 38(12): 6371-6379.
も今後検証する必要がある.
[8]伊藤俊英.SAFIRE:sonogram affirmed iterative reconstruction.
Innervision 2011; 26(11)別冊付録: 20-21.
[ 9 ] Moscariello A, Takx RA, Schoepf UJ,et al. Coronary CT
angiography: image quality, diagnostic accuracy, and potential for
radiation dose reduction using a novel traditional filtered back
projection. Eur Radiol 2011; 21(10) :2130-2138.
[10]星野貴志,市川勝弘,寺川彰一,他.逐次近似再構成法が三
次元 CT 画像の形状再現性に与える影響. 日本放射線技術学
会誌 2012; 68(12): 1624-1630.
[11]市川勝弘, 村松禎久. 標準 X 線 CT 画像計測. 東京: オーム
社, 2010.
Fig.9: Comparison of Axial image for PI(FBP) and MI(SAFIRE)
4.結語
心電図同期撮像を行った心冠動脈狭窄モデルに対して VMI を用
い,ステント内腔におけるアーチファクトの低減効果を確認できた.
また,SAFIRE を併用した際,ノイズの低減を認めた.
参考文献
[1]Nakazawa G, Tanabe K, Onuma Y et al. Efficacy of culprit plaque
assessment by 64-slice multidetector computed tomography to
predict transient no-reflow phenomenon during percutaneous
coronary intervention. Am Heart J 2008; 155: 1150-1157.
[2]Uetani T, Amano T, Kunimura A et al. The association between
plaque characterization by CT angiography and post-procedural
myocardial infarction in patients with elective stent implantation.
JACC Cardiovasc Imaging 2010; 3: 19-28.
[3]Leber AW, Knez A, von Ziegler F etal. Quantification of obstructive
and nonobstructive coronary lesions by64-slice computed
tomography:a comparactive study with quantitative coronary
angiography and intravascular ultrasound. J Am Coll Cardiol 2005;
46: 147-154.
[4]井上 健,市川勝弘,原 孝則,他.模擬血管ファントムを
用いた心臓 CT における逐次近似画像再構成法の血管描出能
の検討. 日本放射線技術学会誌 2012; 68(12): 1631-1636.
[5]Lifeng Yu, Shuai Leng, Cynthia H, et al. Dual-Energy CT–Based
Monochromatic Imaging. American Journal of Roentgenology
2012; 199: S9-S15.
[6]Eric Pessis, Raphaël Campagna, Jean-Michel Sverzut., et al. Virtual
8
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
13003
目次
3D 体積計測における逐次近似応用再構成の影響
原田耕平*,溝延数房*,千葉彩佳*,本間修一*,田仲健朗*,長濱宏史*
*札幌医科大学附属病院
放射線部 〒060-8543 北海道札幌市
緒言
および Standard に比べ高分解能関数である Detail の 2 種類,ASiR
近年,multi detector raw computed tomography (MDCT)の高性能化
強度は 0% (FBP),30%,50%,70%,100%の 5 種類にて行った.
により,肝臓における体積計測の精度が向上し,すでに肝臓領域に
②は 0.5 mm/0.4 mm pitch,DFOV: 30 cm,再構成関数は腹部標準関
おいて肝容積の測定を中心に臨床応用されている[1]
.我々は第
数である FC13,および FC13 に比べ高分解能関数である FC14 の 2
64 回,第 65 回日本放射線技術学会総会学術大会にて,(Filtered back
種類,AIDR 強度は Non (FBP),Weak,Mild,Standard,Strong の 5
projection (FBP)画像において目的物体の体積は周囲吸収体との CT
種類にて行った.
値差,再構成 FOV および設定閾値により変動し,肝臓領域におい
ては過大評価されている可能性があることを報告した.一方,逐次
体積計測方法
1-3
近似応用再構成法 (adaptive statistical iterative reconstruction; ASiR,
再構成画像をワークステーションにて設定閾値100 HU に設定し
adaptive iterative dose reduction 3D; AIDR 3D)は大幅なノイズ低減効
て体積計測を行った.
撮影した 3 回のデータの平均値とし,
各 ASiR,
果が注目され,
物理評価の報告も数多く散見される
[2, 3]
.
しかし,
AIDR 強度,各再構成関数における体積を計測した.
逐次近似応用再構成法と3D体積計測値との関係を明確にした報告
は見当たらない.今回我々は,逐次近似応用再構成法が 3D 体積計
測値に及ぼす影響ついて検討した.
2.結果
2-1
ASiR 強度別における体積計測
ASiR 強度別における体積計測の推移を Fig. 2 に示す.Standard
関数,Detail 関数ともに.ASiR 強度が上がるほど体積計測値減少
1.方法
1-1
使用装置
する傾向にあった.体積計測値に最大で 3%の誤差を認めた.
CT 装置は①LightSpeed VCT Vision (GE Healthcare, WI, USA),②
Aquilion ONE (Toshiba, Tokyo,Japan)を使用した.ワークステーショ
ンは ZIOSTATION2 (ZIOSOFT,Tokyo,Japan)を使用した.今回,
自作模擬肝臓ファントムを作成した.ビニール袋に希釈造影剤(115
HU,500 ml)を封入し,周囲をサラダ油 (-100 HU)で満たしたもの
である(Fig. 1).
Fig. 1: Simulated liver phantom (homemade phantom)
1-2
撮影方法
撮影条件は,①120 kVp,100 mA,0.5 sec/rotation,収集スライス
厚 0.625 mm×64,Pitch factor (PF)0.987,②120 kVp,100 mA,0.5
sec/rotation,収集スライス厚 0.5 mm×64,Pitch factor (PF) 0.828 で
ある.
Fig. 2: Volume measurement in different Blending of ASiR. It's shown the
以上の条件にて 3 回ずつ撮影した.
画像再構成は,
①0.625 mm/0.5
changes in volume with the Standard kernel (a), and the changes volume with
mm pitch,
DFOV: 30 cm,
再構成関数は腹部標準関数であるStandard,
the Detail kernel (b).
9
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
2-2
目次
AIDR 強度別における体積計測
AIDR 強度別における体積計測の推移を Fig. 3 に示す.FC13,
3.考察
FC14 ともに.AIDR 強度が上がるほど体積計測値減少する傾向に
MDCT の高性能化により,肝臓の体積計測は精度が向上し.肝
あった.体積計測値に最大で 1.6%の誤差を認めた.
切除術前におけるプランニングとして有効活用されている[1, 4]
.
また,肝切除において残肝の予測体積は全肝体積における割合で示
2-3
Phantom 境界における CT 値の profile curve
されることが多いが[5]
,標準肝容積を用いた絶対値計測による考
え方もあることから[6]
,正確な容積計測を行うことは術前プラン
Phantom境界におけるCT値のprofile curveをFig. 4に示す.
ASiR
の強度にしたがって同一座標におけるCT値は低くなる傾向にあっ
ニングを行う上で重要である.
た.閾値 100HU では ASiR100%が最も profile curve が phantom 側に
今回の検討では,逐次近似応用再構成法の効果の増大に従って同
シフトするため,体積計測値も ASiR0%に比べ低い結果となった.
一閾値における体積計測値は減少する傾向にあった.この原因とし
て,測定物体境界における MTF の低下が考えられる.phantom 境
界で空間分解能が劣化することにより,CT 値が Oil の影響を受け
低下し,結果として同一閾値において計測値の減少を認めたと推察
される.
また,装置間において体積減少率に若干の差を認めた.これは装
置の設定スライス厚の違いが関連していると考える.設定スライス
厚の違いにより voxel size も変化するため,体積減少率に差を認め
た可能性が示唆される.
一方で,本検討においていくつかの問題点も明確になった.はじ
めに,真の体積計測値を示す閾値を算出することができなかったこ
とである.前述した設定スライス厚の違いも原因の一つと考えられ
るが,装置間による CT 値の違いや,再構成関数,画像 SD の差異
も僅かではあるが影響を与えると考える.また,ワークステーショ
ンの性能や特徴が異なる可能性が考えられる.装置によっては閾値
処理の方法やアルゴリズムが異なっている可能性があるため,具体
的な数値の算出が困難である.次に,今回使用した肝臓模擬ファン
トムの形状であるが,ビニール袋の口を絞った構造のため,上部に
不自然な溝がいくつも形成されてしまったことである.この部分が
体積計測値に僅かに影響した可能性も示唆される.実臨床ではこの
ような幾何学的な形状にはならないため,再現性としては乏しいか
もしれない.
さらに,今回の検討項目以外にも voxel size が変化する要因とし
て Display FOV の size や,境界の CT 値変動に関しては周囲物体の
CT 値が体積計測に影響を与えることが推察されるため,臨床で用
いるときは十分な注意が必要である.
今回の結果から逐次近似応用再構成法を利用することは,すでに
Fig. 3: Volume measurement in different blending of AIDR. It's shown the changes
過大評価されている体積計測値を真値に近づけるために有効かも
in volume with the FC13 (a), and the changes volume with the FC14 (b).
しれない.
4.結語
3D 体積計測は逐次近似応用再構成法の強度に依存して変化する
ことが示唆される.
参考文献
[1]Hori M, Suzuki K, Epstein ML, et al. Computed tomography liver volumetry
using 3-dimensional image data in living donor liver transplantation: effects
of the slice thickness on the volume calculation. Liver transpl. 2011; 17:
Fig.4: Changes of CT values in the phantom boundary
10
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
1427-36.
[2]高田忠徳, 市川勝弘, 林弘之, 他. 逐次近似再構成法を応用した新しい
画像再構成法に対する画質評価. 日放技学誌 2012; 68(4): 404-412.
[3]Kondo K, Hatakenaka M, Higuchi K, et al. Feasibility of low-radiation-dose
CT for abdominal examinations with hybrid iterative reconstruction
algorithm: low-contrast phantom study. Radiol Phys Technol. 2013: doi
10.1007/s12194-012-0197-7
[4]Yamanaka J, Okada T, Saito S, et al. Minimally invasive laparoscopic
liver resection: 3D MDCT simulation for preoperative planning. J
Hepatobiliary Pancreat Surg. 2009; 16: 808-15.
[5]Vauthey JN, Dixon E, Abdalla EK, et al. Pretreatment assessment of
hepatocellular carcinoma: expert consensus statement. HPB. 2010;
12: 289-99.
[6]Urata K, Kawasaki S, Matsunami H, et al. Calculation of child and
adult standard liver volume for liver transplantation. Hepatology
1995;21:1317-1321.
11
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
逐次近似再構成法が三次元 CT 画像の形状再現性に与える影響
13004
星野貴志*,市川勝弘**,寺川彰一***,井上健****,杉澤浩一*****,勝眞康行******
*社会医療法人医真会八尾総合病院放射線科
**金沢大学医薬保健研究域保健学系
〒581-0031 大阪府八尾市
〒920-0942 石川県金沢市
***大阪市立総合医療センター中央放射線部
〒534-0021 大阪府大阪市
****社会医療法人高清会高井病院放射線科
*****慶応義塾大学病院中央放射線技術室
〒632-0006 奈良県天理市
〒160-8582 東京都新宿区
******奈良県立医科大学附属病院中央放射線部 〒634-8522 奈良県橿原市
緒言
Multi-slice computed tomography (MSCT) の多列化によって,体軸
Table 1: Summary of the IR techniques.
方向の空間分解能に優れた薄層画像による広範囲撮影が可能とな
Method
Vender
Strength
り [1,2],この薄層画像群から再構成された三次元 (3 - dimensional:
SAFIRE
SIEMENS
Strength 1-5 (ST1-5)
3D) CT 画像が臨床で広く活用されている [3,4].3DCT 画像の形状
AIDR3D
TOSHIBA
WEAK, MILD, STANDARD (STD), STRONG (STR)
再現性に影響を与える因子は,様々あるがその中でも画像ノイズに
iDose4
PHILIPS
Level 1-6 (LV1-6)
よる影響は大きい [5,6].この画像ノイズを低減するためには,線
ASiR
GE
Percentage 10-100%
量を増加させる必要があり患者被ばくが増加するため,そのトレー
ドオフが問題である [7].近年,逐次近似再構成法 (iterative
1-2
模擬血管ファントムの撮像
reconstruction: IR) が CT 装置に導入されている.この手法を用いる
CT装置には,SOMATOM Definition AS (SIEMENS),Aquilion
ことで,線量低減時に増加する画像ノイズを低減できるため,一般
PRIME (TOSHIBA),Brilliance iCT (PHILIPS),Discovery CT750HD
に使用されているフィルタ逆投影法 (filtered back projection: FBP)
(GE) を用いた.模擬血管ファントムは,Fig.1 に示すような構造を有し,
の欠点を補うものとして期待されている [8,9].この新しい画像再
模擬血管にはそれぞれ直径5 mm, 3 mm, 1 mmのアセタール樹脂
構成アルゴリズムにより,空間分解能を犠牲にすることなく画像ノ
(acetal resin) 円柱を用いた.それらを直径20 cmのアクリル容器内に固
イズ低減が可能となるため [8],この再構成による CT 画像から再
定し,内部を水で満たした.120 kVで撮影した場合の模擬血管のCT値
構成された3D画像の形状再現性についてもその向上が期待される.
は,約300 HU (SIEMENS: 300 HU, PHILIPS: 300 HU, TOSHIBA: 340
本研究では,IR の画像ノイズの低減効果が 3DCT 画像の形状再
HU, GE: 300 HU) である.本研究では3 mm程度の血管径をもつ中大
現性に与える影響について模擬血管ファントムにより検証を行っ
脳動脈や椎骨動脈などを想定し [14],3 mm径の模擬血管を評価対象
た.
そして形状再現性維持の観点からの,
線量低減レベルについて,
とした.
参考値を導き出した.
Water
Polyacetal
(3.0, 5.0, 10mm)
1.方法
1-1
逐次近似再構成の概要
各社様々な手法を用いたIRがCT装置に搭載されているが [8],本
研究では,主要4社のMSCTに搭載されているIR (SIEMENS: SAFIRE,
Cylindrical acrylic case
(200mm diameter)
東芝: AIDR 3D, PHILIPS: iDose4, GE: ASiR) を用いた (Table 1).
SAFIRE と iDose4 は,サイノグラム上でのアーチファクト抑制処理とイメ
Fig. 1: Schema of simulated vessel phantom.
ージデータ上での画像ノイズの平滑化処理の 2 つのプロセスに分け
て反復処理を行うことで演算処理の最適化と高速化を図っている
撮影条件は,管電圧: 120 kV, 回転速度: 0.5 sec/rotation, ピッチファ
[10,11].AIDR 3D は,収集した投影データに対し,統計学的ノイズモ
クタは最も1.0に近いものを選択した (SIEMENS: 1.0, PHILIPS: 0.993,
デルとスキャナモデルを用いてノイズを低減している.さらに再構成ド
TOSHIBA: 0.906, GE: 0.969). 管電流はノイズ量に影響する因子である
メインの中で,ノイズ成分の抽出作業を繰り返すことでノイズ低減を図
ため,装置表示のCT dose index (CTDIvol) が1-20 mGyになるように,
っている [12].ASiR は,統計学的モデルに加え解剖学的構造も考慮
60 - 660 mA の範囲で変化させた.再構成スライス厚は最小とし
したもので,FBP 画像との荷重加算平均により ASiR 画像を作成してい
(SIEMENS: 0.6 mm, PHILIPS: 0.625 mm, TOSHIBA: 0.5 mm, GE:
る [13]. 本研究で用いた 4 種類の IR は,それぞれ画像ノイズの低減
0.625 mm),再構成間隔はスライス厚と同様, display field of view
強度を変更することができる (Table 1).
(DFOV): 100 mm に設定した.模擬血管に対して垂直に撮影し画像を
取得した.3D画像の作成には,3D医用画像処理ワークステーション
12
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
(WS), Ziostation (Ziosoft) の3D解析アプリケーションを用いて volume
とで円形度は向上した.いずれも低線量時に大幅に円形度が向上し
rendering (VR) 画像を作成した.画像作成には,CT値の増加に伴い
た.Fig. 3 は同一ノイズ間における axial 画像の円形度の結果である.
不透明度が直線的に増加するopacity curveを用い,設定CT値範囲は
すべての IR において低い強度の IR (SAFIRE: ST1, iDose4: LV1,
axial画像での模擬血管部分におけるCT値の50%以上とした.
AIDR 3D: WEAK, ASiR: 40%) と FBP との間に有意差は認めなかっ
IR による 3D 画像の画質変化を評価するために,各装置で撮影され得
た.しかし,SAFIRE では FBP から 41%線量低減させた ST2 以上の強
られた同一 raw-data から FBP と各 IR で再構成された同一線量間に
度では円形度が低下していた ( p<0.05 ). 同様に iDose4 では 30%線
おける 3D 画像の形状再現性を評価した.そして,FBP の基準画像に
量低減させた LV2 以上,AIDR 3D では 50%線量低減させた MILD 以
対して各IRの線量を低下させた線量低減下での形状再現性を評価す
上,ASiR では 33%線量低減させた 50%以上の強度では円形度が低
るために,3D 画像の再構成時に使用する axial 画像の CT値の標準偏
下した( p<0.05 ).
差 (画像 SD) が同等 (SD≒30) となるように,管電流を調整し撮影さ
れた,FBP と IR 各強度の同一ノイズ間についても同様に評価した.
(a) SAFIRE
ST5: SAFIRE Strength 5, NS: not significant, **: p<0.01
1-3
Axial 画像の形状再現性
1
axial 画像は,模擬血管に垂直に撮影し画像を取得した.得られた
roundness
0.8
画像の 3mm 径模擬血管部分の円形度 [15,16] を計測することで,同
一線量間と同一ノイズ間における axial 画像の形状再現性について評
価した.円形度 (roundness: R) は面積 (area: A) と周囲長 (perimeter:
NS
NS
NS
0.4
**
0.2
P) をもとに形状の円らしさを表す特微量で,次式で表される.
R  4πA / P 2
NS
0.6
**
**
0
1mGy 1mGy 2mGy 2mGy 3mGy 3mGy 5mGy 5mGy 10mGy 10mGy 15mGy 15mGy 20mGy 20mGy
(FBP) (ST5) (FBP) (ST5) (FBP) (ST5) (FBP) (ST5) (FBP) (ST5) (FBP) (ST5) (FBP) (ST5)
(1)
(b) iDose4
真円に近い場合,円形度は 1 に近い値を示す.面積と周囲長の計測
LV6: iDose4 LEVEL 4, NS: not significant, *: p<0.05, **: p<0.01
1
津の判別分別法 [17] で決定した閾値にて 2 値化した画像において
0.8
roundness
には,Image-J (National Institutes of Health) の計測機能を用いて,大
対象を計測した.2群間の検定にはMann-whitney U test を用い,有意
水準は 5%とした.なお統計解析にはソフトウエア (SPSS, version11,
IBM Corporation, Armonk, NY, USA) を用いた.
NS
0.6
*
NS
NS
NS
**
0.4
0.2
**
0
1-4
1mGy 1mGy 2mGy 2mGy 3mGy 3mGy 5mGy 5mGy 10mGy 10mGy 15mGy 15mGy 20mGy 20mGy
(FBP) (LV6) (FBP) (LV6) (FBP) (LV6) (FBP) (LV6) (FBP) (LV6) (FBP) (LV6) (FBP) (LV6)
VR 画像の視覚評価
VR 画像の表面凹凸度合いを評価するために観察者実験を行った.
(c) AIDR 3D
実験試料は,同一ノイズの FBP と IR 各強度の画像から再構築された
STR: AIDR 3D STRONG, NS: not significant, *: p<0.05, **: p<0.01
1
ニタ (ME355i2, TOTOKU) にて表示し,内径 3 mm の模擬血管の凹
0.8
roundness
VR画像を用いた.この画像を2 画像1 組の試料とし,3 メガピクセルモ
凸度合いを各組合せで 5 段階のスコアで評価した.一対の画像を A,
B とした場合,各スコアは,「A の方が B よりも明らかに表面形状がよ
NS
NS
**
0.4
**
い」:+2 点,「A の方が B よりもやや表面形状がよい」:+1 点,「A と B
0.2
は同等」:0 点,「A の方が B よりも表面形状が悪い」:-1 点,「A の方が
0
**
1mGy
(FBP)
B よりも明らかに表面形状が悪い」:-2 点とした.その結果に対して
Scheffe’の一対比較法 [18,19] を適用して評価値を算出し,さらに分
NS
*
0.6
1mGy
(STR)
2mGy
(FBP)
2mGy 3.2mGy 3.2mGy 5.2mGy 5.2mGy 10.3mGy10.3mGy15.2mGy15.2mGy20.1mGy20.1mGy
(STR) (FBP) (STR) (FBP) (STR) (FBP) (STR) (FBP) (STR) (FBP) (STR)
(d) ASiR
散分析により有意差検定を行った.なお有意水準は 5%とした.評価者
100%: ASiR 100%, NS: not significant, *: p<0.05
1
本研究における観察結果の公表に関しては,観察者の同意と承諾を
0.8
roundness
は診療放射線技師 5 名で,経験年数は 3, 5, 8, 11, 12 年である.なお,
得た.
NS
0.6
0.4
*
NS
NS
NS
*
*
0.2
2.結果
2-1
0
1.0mGy 1.0mGy 2.1mGy 2.1mGy 3.1mGy 3.1mGy 5.2mGy 5.2mGy 9.9mGy 9.9mGy 15.1mGy 15.1mGy 20.0mGy 20.0mGy
(FBP) (100%) (FBP) (100%) (FBP) (100%) (FBP) (100%) (FBP) (100%) (FBP) (100%) (FBP) (100%)
Axial 画像の形状再現性
同一線量間で再構成された axial 画像で計測した円形度を Fig. 2
Fig. 2: Roundness in axial images of FBP and IR for various doses.
に示す.すべての IR において高線量 (SAFIRE: 5.0 mGy 以上,
iDose4: 5.0 mGy 以上,AIDR 3D: 5.2 mGy 以上,ASiR: 3.2 mGy 以上)
では有意差は認めなかったが,すべての線量において IR を用いるこ
13
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
(a) SAFIRE
(a) SAFIRE
* : P<0.01,
NS: not significant, *: p<0.05, **: p<0.01
1
roundness
ST5
ST3
ST2
NS: not significant.
ST1
FBP
(1.41mGy) (2.0mGy) (3.0mGy) (3.57mGy) (5.0mGy) (6.09mGy)
(CTDIvol)
0.8
ST4
NS
*
0.6
**
-2
**
-1
0.4
FBP
(6.09mGy)
ST1
(5.0mGy)
ST2
(3.57mGy)
ST3
(3.0mGy)
0
1
**
ST4
(2.0mGy)
*
*
*
ST5
(1.41mGy)
score
(b) iDose4
SAFIRE Strength
(b) iDose4
* : P<0.01,
NS: not significant, **: p<0.01
1
2
NS
*
LV6
LV5
LV4
LV3
LV2
NS: not significant.
LV1
FBP
roundness
(CTDIvol) (2.0mGy) (2.3mGy) (2.9mGy) (3.5mGy) (4.1mGy) (4.7mGy) (5.9mGy)
0.8
NS
**
**
-2
**
0.6
**
-1
0
*
*
FBP
(5.9mGy)
LV1
(4.7mGy)
LV2
(4.1mGy)
LV3
(3.5mGy)
LV4
(2.9mGy)
*
**
0.4
LV5
(2.3mGy)
1
2
NS
score
*
LV6
(2.0mGy)
(c) AIDR 3D
iDose4 LEVEL
(c) AIDR 3D
* : P<0.01,
NS: not significant, **: p<0.01
1
STD
STR
(CTDIvol)
MILD
WEAK
NS: not significant.
FBP
(1.0mGy) (3.2mGy) (5.2mGy) (8.0mGy) (10.3mGy)
roundness
0.9
-2
NS
0.8
**
**
-1
0
*
*
**
0.7
1
*
2
NS
score
(d) ASiR
0.6
FBP (10.3mGy)
WEAK (8.0mGy)
MILD (5.2mGy)
STD (3.2mGy)
STR (1.0mGy)
AIDR 3D Strength
100%
(d) ASiR
80%
50%
40%
* : P<0.01, NS: not significant.
20%
10%
FBP
(CTDIvol) (1.65mGy) (1.82mGy) (2.07mGy) (2.27mGy) (2.61mGy) (2.89mGy) (3.1mGy)
NS: not significant, *: p<0.05, **: p<0.01
-2
roundness
1
NS
0.8
NS
NS
NS
**
-1
0
*
*
**
*
*
1
NS
2
score
Fig. 4: Result of visual comparison for roughness in VR images.
0.6
FBP
10%
20%
30%
40%
50%
80%
100%
(3.1mGy) (2.89mGy) (2.61mGy) (2.48mGy) (2.27mGy) (2.07mGy) (1.82mGy) (1.65mGy)
3.考察
ASiR percentage
3D 画像の再構成では,コントラストが高くノイズが少ないことが有効
Fig. 3: Comparison of roundness in axial images of equivalent noise level.
である [5,20].したがってコントラストが一定の場合,ノイズ量が表面形
2-2
VR 画像の視覚評価
状再現性を左右することから,IR によるノイズ低減が形状再現性維持
模擬血管ファントム VR 画像における表面形状の視覚評価結果を
に寄与することが期待される.本研究の結果では,各社 IR による画像
Fig. 4 に示す.Scheffe’の一対比較法では評価値が大きいほど高い評
ノイズ低減効果によって 3D 画像の形状再現性向上が認められ,特に
価となるが,同一ノイズ間の比較では,すべて線量を増加させると表
低線量時に顕著な効果を認めた.しかし FBP の基準線量に対して IR
面形状の評価値も向上した.有意差検定の結果,すべての IR で低強
の線量を低下させ,線量低減下での形状再現性維持を目的とした検
度の IR (SAFIRE: ST1, iDose : LV1, AIDR 3D: WEAK, ASiR: 40%) と
証では,低強度の IR (SAFIRE ST1, iDose4 LV1, AIDR 3D WEAK,
FBP との間に有意差は認めなかった.しかし,その他の線量差による
ASiR 40%) と高線量 FBP の間で有意差は認めず形状再現性が維持
評価値は IR が FBP に比べ有意に劣っていた (p < 0.05).
されていたが,IR の強度を上げ線量をそれより下げた場合は,全ての
4
IR において FBP にくらべ劣った.したがって IR によるノイズ低減は,
FBP で単純に線量を増加させることによるノイズ低減とは異なる性質を
もつと考えられる.これまで IR による線量低減の指標として,画像 SD
を用いたものが多く報告されているが [21-24],本研究の結果からは,
3DCT 画像における画質を考慮した場合は,画像 SD を指標にするこ
とは不可能であることが示された.
本研究の結果から,形状再現性を維持し得る線量低減率は 18%か
14
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
ら 27% (SAFIRE:18%, iDose4: 20%, AIDR 3D: 22%, ASiR: 27%)
目次
と推
[10]伊藤俊英.SAFIRE: Sinogram Affirmed Iterative Reconstruction.
測されたが,その値は決して大きくなく,われわれの予想を大きく下
Innervision 2011; 26(11)別冊付録:20-21.
回った.しかし,同一線量では,形状再現性は向上することが明らか
[11]Funama Y, Taguchi K, Utsunomiya D, et al. Combination of a
となったため,IR による 3D 画像の画質向上が十分に期待できる.
low-tube-voltage technique with hybrid iterative reconstruction
本研究では 300 HU の CT 値をもつ模擬血管ファントムを用いたた
(iDose) algorithm at coronary computed tomographic angiography.
め,十分なコントラストを保った状態での 3D 画像の形状再現性につ
J Comput Assist Tomogr 2011; 35(4): 480-485.
いて評価した.IR にはエッジ強調などの非線形な処理が働くため
[12 ]Gervaise A, Osemont B, Lecocq S, et al. CT image quality
[10],コントラストに依存して処理効果が異なり,コントラストが十分で
improvement using adaptive iterative dose reduction with
ないものを対象とする場合には,本研究の結果と異なる可能性があ
wide-volume acquisition on 320-detector CT. Eur Radiol 2012;
る.例えば,CT-angiography における末梢の微細血管は CT 値が低
22(2): 295-301.
下するため [25],IR の空間分解能維持が作用しない可能性がある.
[13]Silva AC, Lawder HJ, Hara A, et al. Innovations in CT Dose
また本研究ではFBPの基準線量が1 種類であるため,それ以上の線
Reduction Strategy: Application of the Adaptive Statistical Iterative
量を基準にした場合は,形状再現性維持能力と線量低減率の関係
Reconstruction Algorithm. AJR Am J Roentgenol 2010; 194(1):
が異なることが予想される.例えば,基準線量を高くした場合には,
191-199.
FBP の 3D 画像が余裕を持って形状を再現するため,線量低減率を
[14]Morris P. Practical Neuroangiography. Philadelpia. Lippincott
ある程度高くしても形状が保たれるかもしれない.
Williams & Wilkins 1997; 183-214.
[15]高木幹雄,下田陽久.画像解析ハンドブック.東京:東京大
学出版会.1992; 581.
4.結語
IR の画像ノイズ低減効果は,3D 画像の形状再現性向上に寄与するも
[16]滝沢穂高,鎌野 智,山本眞司,他.胸部 X 線 CT 画像にお
のの,線量低下に伴う形状変化を同一ノイズ量の FBP まで回復する能
ける肺がん病巣候補陰影の定量評価.コンピュータ支援画像
力は有しないことが明らかとなった.本研究の結果では,低い強度の
診断学会論文誌 2001; 5: 4-11.
IR を用いた 18 から 27%程度の線量低下までは形状が維持され,それ
[17]大津展之.判別および最小 2 乗規準に基づく自動しきい値選
以上の強度では維持されなかった.
定法.電子通信学会論文誌 1980; J63D (4): 349-356.
[18]Scheffé H. An analysis of variance for paired comparisons. J Amer
Stat Assoc 1952; 147: 381-400.
参考文献
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[1]
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応用‐Scheffe’(シェッフェ)の一対比較法を中心に‐.日放技
学誌 2010; 66(11): 1502-1507.
computed tomography: basics and applications. Eur J Radiol. 1999;
[20]周藤安造.レンダリングの手法(Ⅲ)医療応用を中心とした
31(2): 110-124.
[2]村田勝俊.Multi-Detector Row CT の基礎とアプリケーション.
ボリュームレンダリングの基礎から応用まで.テレビジョン
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MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY 2001; 19 (1):17-20.
[3]Dammert S, Krings T, Moller-Hartmann W, et al. Detection of
[ 21 ] Moscariello A, Takx RA, Schoepf UJ, et al. Coronary CT
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angiography: image quality, diagnostic accuracy, and potential for
conventional angiography. Neuroradiology 2004; 46(6):427-434.
radiation dose reduction using a novel iterative image reconstruction
technique – comparison with traditional filtered back projection. Eur
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画質改善.日放技学誌 2011; 67(11): 1426-1432.
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再現性の基礎的検討.日放技学誌 1997; 53(1): 13-18.
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[7]市川勝弘,村松禎久.標準 X 線 CT 画像計測.東京: オーム
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in X-ray CT. Phys Med. 2012 Apr;28(2):94-108.
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[9]Schindera ST, Diedrichsen L, Müller HC, et al. Iterative Recon
Roentgenol 2010; 195(3): 655-660.
struction Algorithm for Abdominal Multidetector CT at Different
[25]大森 亘,小寺秀一,安井一久.頸部 3D-CT angiography に
Tube Voltages: Assessment of Diagnostic Accuracy, Image Quality,
おける造影効果と狭窄病変の描出能.日放技学誌 1998; 54(7):
and Radiation Dose in a phantom Study. Radiology 2011; 260(2):
891-899.
454-462.
15
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
13005
目次
X 線 CT 画像の非線形性と MTF 測定
-背景物質およびテスト被写体の材料について平栗彩加*,後藤光範*,佐藤和宏*,千葉雄高**,福士沙江子**,森一生*
*東北大学大学院医学系研究科保健学専攻
**東北大学医学部保健学科
〒980-8574 宮城県仙台市青葉区星陵町 2-1
〒9808574 宮城県仙台市青葉区星陵町 2-1
緒言
MTF(modulation transfer function)は X 線 CT の解像力指標として
重要なものである. いくつかの測定法があるが, 画質特性が線形
であれば, どの測定法を用いても同様の MTF を得るはずである.
しかし, ビームハードニングなどの物理現象によるスキャナ系の
非線形性は避けられない. 非線形性が無視できない場合, テスト被
写体の構造や材質で MTF は有意に変わるが, 無視できる程度の非
Fig. 1: Phantom for PSF method
線形性であるのかどうかは知られていない.
a|b
(a)Image of the phantom (b)Cross section line
本研究では, 解析的再構成法において PSF(point spread function)法,
LSF(line spread function)法, ESF(edge spread function)法それぞれにお
いて材質依存性等の非線形特性の有無と程度の把握を目的とした.
1.方法
1-1
解析ツール・使用装置
低 CNR(contrast to noise ratio)条件での高精度測定に耐えられるよ
Fig. 2:
うにした PSF 法[1,2], LSF 法[3]および ESF 法[4]の解析ツールを
Phantom for LSF method
a|b
(a)Image of the phantom (b)Cross section line
Mathematica8(Wolfram Research)で作成した.解析ツールの詳細は別
途報告する. 使用装置は東芝メディカルシステムズ製 Aquilion 8 お
よび GE healthcare 製 BrightSpeed Elite の 2 台である. 撮影条件は
Aquillion8: 120 kV, 900 mAs, 再構成関数 FC10, スライス厚 1 mm.
BrightSpeed Elite: 120 kV, 600 mAs, 再構成関数 standard, スライス厚
1.25 mm. どちらもコンベンショナルスキャンで撮影した.
1-2
背景物質・使用素材・評価用ファントム
Fig. 3:
ファントム容器に背景として空気または水を充填した. テスト
Phantom for ESF method
a|b
(a)Image of the phantom (b)Cross section line
被写体として, PSF 法は直径 0.1~0.8 mm の3種(フロロカーボン釣
り糸, アルミニウム, ステンレス)のワイヤ, LSF 法は 0.2~0.7 mm
厚の 3 種(塩化ビニル, ポリアセタール樹脂, アクリル)のシート,
ESF 法では, 3 種(塩化ビニル, ポリアセタール樹脂, アクリル)の合
成樹脂のブロックを使用した. ここで, 塩化ビニル, ポリアセター
ル樹脂, アクリルの CT 値はそれぞれ, 800 HU, 350 HU, 150 HU. 線
径や板厚の補正を含めた解析ツールの精度はシミュレーション画
Fig. 4:
像を用いて検証した. 評価用ファントムを Fig. 1-3 に示す. ファン
Image that was used to measure
a|b|c
(a)PSF (b)LSF (b)ESF
トム径はすべて240 mmφとし, PSF 法では25 本のワイヤ, LSF 法で
は5 枚のシート, ESF 法では5 つのエッジ部を使ってMTF を算出し
2.結果
た. 実際に使用した画像を Fig. 4 に示す.
2-1
PSF 法
2-1-1
背景物質の違いによる MTF 比較
PSF法において, 背景物質を変化させたときのMTFをFig. 5に示
す. Fig. 5 は, 釣り糸 0.37 mm を Aquillion 8 で撮影したときの結果で
16
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
あるが, 背景物質を変化させても MTF は変わらなかった. これは,
素材・ワイヤ径・装置を変えても同様の結果を得た.
Fig. 7:
Comparison of the MTF due to differences in the material (water
background, Aquillion 8)
Fig. 5:
Comparison of the MTF due to differences in the background
material (Fishing line 0.37 mmφ, Aquillion 8)
2-2-2
背景を空気にしたときの素材の違いによる MTF 比較
LSF 法において, 背景物質を空気にしたときに素材を変化させ
2-1-2
太さ・素材の違いによる MTF 比較
たときのMTF をFig. 8 に示す. 背景物質を空気にすると, すべての
さらに, PSF 法において, ワイヤ径や素材を変化させたときの
素材で背景物質が水のときよりも MTF が低下した. 程度は穏やか
MTF を Fig. 6 に示す. 素材を変化させても MTF は変化しなかった.
ではあったが, BrightSpeed Elite でも同様の結果を得た.
BrightSpeed Elite の場合にも同様の結果を得た.
Fig. 8:
Fig. 6:
Comparison of the MTF due to differences in the material (air
Comparison of the MTF due to differences in the material (air
background, Aquillion 8)
background, Aquillion 8)
2-2
LSF 法
2-2-1
背景を水にしたときの素材の違いによる MTF 比較
2-3
ESF 法
2-2-1
背景を水にしたときの素材の違いによる MTF 比較
ESF 法において, 背景物質を水にしたときに素材を変化させた
LSF 法において, 背景物質を水にしたときに素材を変化させた
ときの MTF を Fig. 9 に示す. 背景物質が水のときには, 各素材の
ときのMTF をFig. 7 に示す. 結果2-1 より, PSF 法では背景物質, ワ
MTF はほぼ一致した。
イヤ径, 素材によらず MTF は変化しないこと確認したので, Fig. 7
以降, MTF の変化が分かり易いように, 基準として PSF 法の MTF
を表示した. LSF 法では, アクリル, ポリアセタール樹脂, 塩化ビニ
ルとコントラストが大きくなるにつれて, MTF が変化した. 程度は
穏やかではあったが, BrightSpeed Elite でも同様の結果を得た.
17
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
がある程度以上傾いていれば非線形現象は生じない. しかし Fig.
11 左図のごとくレイの幅の中にすっぽりシートが入ってしまえば,
非線形部分体積効果により, 観測される投影データ は非線形現象
が無かったときの投影データ よりも顕著に低値となる. その状況
では非線形部分体積効果が起きている. 微小角度だけしか違いの
ない隣接ビューでも, シート部分のレイが端から端までシートで
遮られない限り非線形部分体積効果が起きるので, これらビュー
ももちろん問題となる. 再構成のプロセスを考えると, 各ビューは
コンボリューション補正で凹凸強調されるが, それらの全ビュー
の逆投影が重なり合って正解画像に至る. そのため, 非線形現象を
被って中央凸部(LSF ピーク部)が低くなったものは, ぼけた LSF
となる. LSF がぼければ, MTF は低下する.
Fig. 9:
Comparison of the MTF due to differences in the material (water
background, Aquillion 8)
2-2-2
背景を空気にしたときの素材の違いによる MTF 比較
ESF 法において, 背景物質を空気にしたときに素材を変化させ
たときの MTF を Fig. 10 に示す. 背景物質を空気に換えると, 各素
材の MTF は低下した.
Fig. 11:
Sampling situation of sheet
実際にシミュレーションしたものが Fig. 12 と Fig. 13 である. Fig. 12
は背景を水, Fig. 13 は背景を空気としたもである. シミュレーショ
ンでは, 線形な部分体積効果のみによるシミュレーション用投影
データの他に, この線形な投影データに対して自乗項を付加する
ことで, 非線形部分体積効果相当の現象を近似的に導入した投影
データに改変した. それらから再構成された画像は MTF が低下し
ており, その程度は我々が経験しているものと大差ないことを示
した. ゆえに, 非線形部分体積効果が主因であると確認することが
Fig. 10:
できた.
Comparison of the MTF due to differences in the material (air
background, Aquillion 8)
3.考察
PSF 法では, MTF は背景物質, ワイヤ径, 被写体素材に依存しな
かった. LSF 法では, アクリル(CT 値:150 HU), ポリアセタール樹
脂(CT 値:350 HU), 塩化ビニル(CT 値:800 HU)の順に, 被写体コ
ントラストが大きくなると MTF が低下した. さらに, 背景物質を
水から空気に変化させると, より MTF は低下した. ESF 法では, 背
景物質が水のときには, 素材を変えても MTF は変化しなかったが,
背景物質を空気に換えると, LSF 法と同様, コントラストが大きい
物質程, MTF が低下した.
LSF 法において, テスト被写体として用いるシートの材質や周囲
物質で MTF が大きく異なったのは, 非線形部分体積効果によるも
のではないかと考えた. ここで, 非線形部分体積効果と言えば, 通
常はスライス厚内で被検体構造が変化してしまう場合のことを言
Fig. 12:
うが, 今回の非線形部分体積効果はあくまでアキシャル面内の話
(water background, simulation)
である. レイには幅があるが, その幅の中の一部だけにしかシート
が存在しない状況がある. Fig. 11 左図のようにシートに対してレイ
18
Comparison of the MTF due to differences in the material
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
Fig. 13:
目次
Comparison of the MTF due to differences in the material (air
background, simulation)
PSF法の場合も非線形問題は存在するが, PSF 形状やMTFに影響し
ない. なぜならば, 現象が等方的だからである. あるビューでワイ
ヤの投影データが非線形性のために線形投影データのr倍になった
とすれば, 他のビューでも同じように r 倍となる. 逆投影されるプ
ロファイルは全ビューとも同じであり, 線形な場合の逆投影プロ
ファイルと全く形が同じで高さが r 倍になるだけである. よって,
得られる PSF 形状には何の変わりもない. ESF 法もおだやかで
はあっても非線形現象は顕在化している. しかし, 被写
体構造がLSF法やPSF法のときよりも少し複雑であるこ
とと, 挙動が顕著ではないことなどから, 現段階では,
非線形現象の正体が何なのか, 今は判っていない.
4.結語
線形な解析的再構成法においても, 無視できない非線形性が存
在する. 真の MTF 自体が被写体構造と組成に依存するものであり,
この状況で臨床被写体の解像力特性を示す MTF を得るには, 臨床
的な条件で測定しなければならない. すなわち人体組織並みの低
コントラストかつ似た形状のテスト被写体を用いた測定をする必
要がある.
参考文献
[1]
市川, 勝弘; 丹羽, 伸次; 大橋, 一也; 他. CT における金属ワ
イヤによるMTFの測定法. 日本放射線技術学会誌 2008 64(6),
672-680
[2]
Nickoloff EL. Measurement of the PSF for a CT scanner:
appropriate wire diameter and pixel size. Phys Med Biol; 33,
149–55, 1988.
[3] Boone JM. Determination of the presampled MTF in computed
tomography. Med Phys; 28, 356–60, 2001.
[4]Mori I, Machida Y. Deriving the modulation transfer function of CT
from extremely noisy edge profiles. Radiol Phys Technol. 2009
Jan;2(1):22-32.
19
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
異なる逐次近似応用再構成法における解像度の挙動の違いについて
13006
後藤光範*,**,佐藤和宏**,平栗彩加**,森一生**
*宮城県立がんセンター
〒981-1293 宮城県名取市
**東北大学大学院医学系研究科保健学専攻医用画像工学分野
緒言
〒980-8575 宮城県仙台市
1-2 面内解像度の評価
逐次近似応用再構成(iterative reconstruction : IR)は解像度を維持
ワイヤーなど高 CNR の被写体の画像より MTF(modulation
したまま画像ノイズを低減することが可能とされてきた[1,2].しか
transfer function)を求める手法が一般的であるが[6],本検討では低
しこれらの報告にある解像度の評価は高CNR
(contrast-to-noise ratio:
CNR の画像より MTF を得るため,水とコントラスト差 30 程度と
CNR)の被写体における測定結果である.IR 法は非線形の挙動を
なるような樹脂製のブロックを用い ESF (edge spread function)法に
示すため,高 CNR 被写体における測定結果は,臨床条件(低コン
て MTF を求め評価した.ただし,この低 CNR 画像から MTF を求
トラスト,高雑音)における実態を反映していないことが考えられ
めるためにデータの解析には Mathematica による自作ソフトを使
る[3]
.近年は低 CNR 被写体等における解像度の低下が指摘され
用している[7].
ブロックは 20cmφの水中に固定し撮影した(Fig. 1).
るようになってきたが
[3-5]
,
IR 法は複数の手法が提案されており,
画像再構成は FBP 法,IR 法(雑音低減強度:強・弱)で行った.
その挙動の違いについての報告例は少ない.そこで複数の IR 法に
解析ソフトによるエッジ検出精度を担保するには CNR 7 以上が必
おける挙動の違いについて検討を行った.IR 法の挙動に関連する
要であるため[8],撮影は複数回行い FBP 画像で CNR 10 となる枚
因子は複数あるが,IR 法は線量低減を主目的として開発された技
数を各再構成法にて加算した.なお,CNR の計算式は Gupta らの
術であるため,今回は線量が変化した時の解像度への影響を調査し
式を用いた[9].
報告する.
1.方法
1-1 雑音低減率の評価
20 cmφの水ファントムを撮影し従来法(filtered back projection :
FBP)
,IR 法(雑音低減強度:強・弱)で画像再構成を行う.そ
れぞれの画像中央部に 128×128 ピクセルの関心領域(以下:
ROI)を設定し画像雑音標準偏差(standard deviation : SD)を求め,
Fig.1 Image for measurement and edge phantom
FBP での SD に対する低減率で評価した.
Table 1.
SD and SD reduction rate in several conditions. Dose is 25 mA,50 mA,150 mA. Noise reduction level of each IR method was selected two conditions.
25 mAs
50 mAs
150 mAs
25 mAs
50 mAs
150 mAs
FBP
32.8
16.2
9.4
FBP
36.0
24.7
13.4
ASiR50%
20.7(37%)
10.7(34%)
6.2(34%)
SAFIRE1
29.0(19%)
20.9(16%)
11.6(14%)
ASiR100%
12.7(62%)
6.5(60%)
3.8(60%)
SAFIRE5
16.0(56%)
10.6(57%)
5.8(57%)
25 mAs
50 mAs
150 mAs
FBP
39.7
—
14.8
weak
30.2(24%)
—
13.6(9%)
Left upper is result of ASiR . Right upper is result of
SAFIRE . Left lower is result of AIDR-3D .
In all methods, reduction of SD can be confirmed noise
reduction level increases. AIDR-3D has a dependence on
the dose, but ASiR and SAFIRE.is not .
standard
16.5(58%)
—
8.8(41%)
20
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
1-3 スライス感度プロファイル(slice sensitivity profile : SSP)
3.考察
SSP も一般的な方法は高コントラスト被写体を用いる方法であ
これまで多数の論文にて,高コントラスト被写体に関して解像度
るため[6],
低CNR被写体では異なる挙動をとることが考えられる.
の低下はないという報告がされている [1,2],しかし本検討の結果,
そこで今回は体軸方向に 0.3 mm 隙間のあいたアクリルブロックの
低コントラストの ESF に対しては,検証した全ての IR 法で線量の
ファントムを水中にて撮影しアクリルギャップの応答より SSP を
低下と共に MTF も減少する傾向にあった.また,体軸方向の解像
求めることを試みた.
アクリルギャップの CT 値差は 30 HU 程度で
度についてはあまり検討されていなかったが,今回の検討により
あった.画像は各社 FBP 法,IR 法(雑音低減強度:強・弱)で画
SSP の鈍化が見られる場合があり,解像度は体軸方向にも変化する
像再構成を行った.
得られた画像中心部に ROI を設定し CT 値を測
ことが示された.さらに,IR 法による解像度への影響は各 CT 装置
定,体軸方向にプロファイルを作成,正規化しスライス感度プロフ
により全く異なる挙動を示すことも明らかになった.
ァイルを求めた.
FBP において解像度は雑音量とトレードオフの関係にあり,
雑音
を減らすには解像度を犠牲にせざるを得ない[10].エッジを保存し
1-4 使用機器および撮影条件
つつ雑音を低減する手法の一つとして,信号値差の少ない領域のみ
CT 装置は,Discovery750HD(GE ヘルスケア・ジャパン),
に平滑化処理を施す非線形平滑化処理もあるが[11],コントラスト
SOMATOM Definition AS+(シーメンス・ジャパン)
,Aquilion ONE
の少ない構造体も平滑化されてしまうという特徴がある.今回の検
™/ViSION Edition(東芝メディカルシステムズ)の 3 機種を用いた.
討においても,コントラストの低い被写体に対し解像度の低下を認
各機種に搭載されている IR 法は Discovery750HD では ASiR,
め,雑音の低減には非線形の平滑化処理が用いられていることが示
Definition AS+では SAFIRE,Aquilion ONE では
唆された.各社雑音低減率や面内解像度の挙動に違いがあるのは平
SOMATOM
AIDR-3D である.
滑化処理の閾値設定等に違いがあるためと考える.
方法 1-1,1-2 における撮影条件は,管電圧:120 kV,管電流:
体軸方向に関しては,解像度の変化するものと全く変化しないも
50, 100, 300 mA ,X 線管球の回転速度:0.5 sec/rotation,スキャン
のに分かれた.これは前述のような平滑化処理を体軸方向にも施し
方式:ノンヘリカル,画像収集列数:64 列,撮影 FOV:500 mm(再
ているか否かの違いと考える.
つまり変化のなかった ASiR は Axial
構成 FOV:350 mm)で行った.コリメーション幅は各社最小サイ
画像に対する処理であり,変化のあった SAFIRE と AIDR-3D では
ズを用い,スライス厚,再構成間隔はコリメーション幅と同一とし
画像データもしくは投影データに対し 3 次元的な処理を加えてい
た.再構成関数は各社軟部組織用標準関数を用いた.
る処理であることが推測され,スライス厚の増加が雑音低減の一因
方法 1-3 に関してはヘリカルスキャンにて撮影し,ピッチファク
であることも示唆された.
タは各社の標準推奨値,再構成間隔は 0.1 mm とした.他の条件は
今回の検討では,解像度への影響因子は IR 法により異なること
上記と同一条件である.
が示されたが,得られたデータは本検討における条件下での値であ
り,被写体形状,コントラスト,雑音量,再構成 FOV,再構成関
2.結果
数等条件が変化すれば結果も変化するであろうことに留意する必
2-1 雑音低減率
要がある.これらについては検討中であり,追って報告したい.ま
Table 1 に各 IR 法における撮影条件,再構成条件による SD の変
た,SSP についてギャップ応答より求めたが,アンダーシュートが
化を示す.
()内には SD の低減率を示す.どの IR 法も強度が上が
発生するなど本来の SSP 形状とは異なることが考えられる.本手
れば SD が下がり,SD 低減率が上がっている.しかし撮影条件に
法ではスライス厚の変化は確認できるものの正確な SSP の測定や
対する挙動をみると,線量に依存し低減率が変化するもの,線量に
定量化を行うには更なる検討が必要と考える.
ほとんど依存しないものに分かれた.
2-2 面内解像度
4.結語
Fig. 2 に低 CNR 被写体における MTF の測定結果を示す.
どの IR
IR 法の線量に対する挙動は種類により全く異なり,撮影条件に
法でも,強度が上がるほど MTF が低下する傾向にあった.線量に
よる画像への影響も変化する.従って,CT-AEC の設定など臨床
対する挙動は,ASiR では逐次近似の強度が一緒であれば線量に依
運用する際や,IR 法に関する検討を行う際にはこれらの影響因子
存せず MTF 低下の程度は一定であったが,SAFIRE,AIDR-3D では
を考慮する必要がある.
線量によって MTF 低下の程度が変化し,線量が多い時では MTF
の変化は少なく,線量が下がると MTF 低下の傾向があった.
5.謝辞
2-3 スライス感度プロファイル
いただきました国立病院機構埼玉病院 石原敏裕様,東北大学病院
本研究を遂行するにあたりファントムの提供等多大なご協力を
Fig. 3 に SSP の測定結果を示す.ASiR では FBP,IR 法とも SSP
佐藤和宏さまはじめとする X 線 CT における逐次近似的な再構成
に変化はなかった.
一方,
SAFIRE, AIDR-3D では IR 法において SSP
画像の評価法に関する研究班 の皆様に深く感謝いたします.なお,
が膨らんでいた.この傾向は逐次近似の強度が強いほど,線量が少
本研究は JSPS 科研費 24601003 により助成を受けています.
ないときほど顕著であった.
21
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
Fig. 2: MTF in several conditions. Dose is150 mAs & 25 mAs..Noise
reduction level of each IR method was selected two different conditions.
Upper is result of ASiR .Middle is result of SAFIRE . Lower is result of AIDR-3D.
The horizontal axis spatial frequency (cycles/mm) .The vertical axis MTF
22
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Fig. 3:
SSP in several conditions. Dose is 50 mA..Noise
reduction level of each IR method was selected two different
conditions. Left upper is result of ASiR . Right upper is result of
SAFIRE . Left lower is result of AIDR-3D. The horizontal axis
distance (mm) .The vertical axis SSP.
.
参考文献
[1]Pontana F, Duhamel A, et al. Chest computed tomography using
[8]平栗彩加, 後藤光範, 他. 高雑音低コントラストの CT 画像の
iterative reconstruction vs filtered back projection. Eur Radiol. 2011;
MTF を高精度で計測する方法三種(ESF,LSF,PSF)の性能限界.
21(3): 636-43.
日本放射線技術学会総会学術大会予稿集, 2013; 69: 177.
[2]May MS, Wüst W. et al. Dose reduction in abdominal computed
[9 ]Gupta,A.K, Nelson,R.C, et al. Optimization of eight-element
tomography. Invest Radiol. 2011; 46(7): 465-70.
multidetecter row helical CT tecnorogy for evaluation of the
[3]森一生. 近年の X 線 CT 画像の非線形的特性と画質の物理評
abdomen. Radiorogy 2003; 227: 739-745.
価について. 東北大学医学部保健学科紀要.2013; 22(1): 7-24.
[10]Hsieh J. Nonstationary noise characteristics of the helical scan and
[4]Samuel R, Daniela B. et.al. Towards task-based assessment of CT
its impact on image quality and artifacts. Medical Physics, 1997;
performance. Med. Phys., 2012; 39 (7): 4115-4122.
@p24(9): 1375-1384/
[5]高田忠徳, 市川勝弘, 他.. 逐次近似再構成法を応用した新しい
[11]C. Tomasi, R. Manduchi. Bilateral Filtering for Gray and Color
画像再構成法に対する画質評価. 日本放射線技術学会雑誌
Images. Proceedings of the 1998 IEEE.
2012; 68(4): 404-412.
[6]市川勝弘, 村松禎久. 標準 X 線 CT 画像計測. 東京: オーム
社, 2010.
[7]I. Mori, Y. Machida. et al. Deriving the modulation transfer function
of CT from extremely noisy edge profiles. Radiological Physics and
Technology , 2009; 2(1): 22-32.
23
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Pseudoenhancement effect に対する仮想単色 X 線 CT 画像の効果
13007
杉澤浩一*,市川勝弘**,南島一也*,長谷川雅一*,陣崎雅弘***
*慶應義塾大学病院中央放射線技術室
〒160-8582 東京都新宿区
**金沢大学医薬保健研究域保健学系
〒920-0942 石川県金沢市
***慶應義塾大学医学部放射線診断科
〒160-8582 東京都新宿区
緒言
タ Plow(i)と Phigh(i)を取得したとき,水密度の投影データ Pw(i)とヨー
腎臓の腫瘤性病変に対し computed tomography (CT) を用いた造
ド密度投影データ Pi(i)は(2)と(3)式の,Plow(i)と Phigh(i)を含む多項式
影検査を行う際に,腫瘤性病変が,充実性腫瘤か嚢胞性腫瘤かを鑑
として表される.
別することは臨床的に非常に重要である.その基準としては,腫瘤
Pw(i)   1(i) Plow(i)   1(i) Phigh(i)   1(i) P 2 low(i)
性病変の CT 値が単純 CT 画像と比べ,10 Hounsfield unit (HU) 以上
  1(i) P 2 high(i)   1(i) Plow(i) Phigh(i)    
の造影効果をもって充実性とみなすという報告がある[1].しかし
ながら,現行の造影 CT 検査では,腎嚢胞の CT 値は,造影効果の
Pi (i)   2(i) Plow(i)   2(i) Phigh(i)   2(i) P 2 low(i)
高い腎実質の影響により,単純 CT 画像と比べ,高値にシフトし,
  2(i) P 2 high(i)   2(i) Plow(i) Phigh(i)    
腎腫瘤性病変の鑑別が困難なことがあり,この現象を
pseudoenhancement effect と呼んでいる.要因としては,partial volume
(2)
(3)
これらの多項式の係数を,
最小 2 乗法を用いて導きだすことで[8],
effect による影響,および beam-hardening (BH) の影響が考えられる
BH 補正がなされている.この BH 補正がなされた Pw(i)と Pi(i)を用
という報告がなされている[1-5].
いて,(1)式より,物質の質量減弱係数は既知であることから,そ
今回,この pseudoenhancement effect を低減する方法として,近
れぞれの密度 dw と di が得られ,最終的に,各 photon energy におけ
年,臨床応用されつつある dual energy 撮影の技術のひとつある仮
る投影値 P を計算することで VMS が取得できる.
想単色 X 線 CT 画像 (virtual monochromatic spectral image; VMS) に
着目した.この技術は,従来の撮影法同様に薄層画像の取得が可能
1-3
であり,また水と造影剤の 2 種類の物質で BH 補正を行うことで,
模擬腎嚢胞ファントムの構成
腎臓を模擬した径 100 mm の円柱内に,径 10 mm および 15 mm
より厳密な補正が可能である[6,7].VMS の作成は dual energy 技術
の腎嚢胞領域を模擬するため,水 (CT 値=0 HU) を充填させた円
で物質分別された水密度画像と造影剤密度画像を用いて,photon
柱を挿入した.次に造影された腎実質領域を模擬するため,120 kV
energy と線減弱係数の関係に当てはめ,画像化する手法である.
撮影において CT 値 220 HU に希釈した造影剤を,腎嚢胞を模擬し
本研究では,造影された腎実質内における嚢胞の
た円柱の周囲に充填した.また,この腎実質領域の CT 値は,臨床
pseudoenhancement effect に対し,dual energy 技術のひとつである
20 症例における実質相 (造影剤注入後 100 sec.) の平均 CT 値から
VMS が有用か否かを実臨床の撮影状況に即した条件下で検討した.
決定した.この臨床例における造影剤注入条件として,600
mgI/ml/kg の造影剤を,注入時間 30 sec.で注入した.また,被写体
厚を考慮し,この腎臓ファントムを,径 350 mm のポリエチレンフ
1.方法
1-1
CT 装置
ァントムに挿入した(Fig. 1)
.
CT 装置には,単一 X 線管で 80 kV と 140 kV の 2 つの管電圧を
0.2 msec.ごとに切り替える fast kV switching 方式で dual energy 撮影
を行うことができる Discovery CT750HD (GE healthcare) を使用し
た.
この方式では従来法同様に helical scan にて画像が取得可能であ
る.
1-2
仮想単色 X 線画像の原理
2 つの基準物質対を水とヨードとした場合,単一エネルギーE の
(a)
X 線による投影データ P は,次式のように求めることができる.
p  w( E)  dw  i( E)  di
(b)
Fig. 1: Photograph of CT phantom used to study renal cyst pseudo-enhancement.
(a) Schematic diagram of renal compartment. (b) Renal compartment in the
(1)
polyethylene phantom
ここで,dw は対象物質の水密度,di は対象物質のヨード密度, w
は水の質量減弱係数,i:ヨードの質量減弱係数である.低管電圧
(low) と高管電圧 (high) の 2 種類のエネルギーにおいて,投影デー
24
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
1-4
目次
撮影条件
統計解析には 1 標本 t 検定を用いた.
すべてのデータは helical scan で取得した.リファレンスを従来法
である連続スペクトル (管電圧=120 kV) として,仮想単色 X 線
2.結果
CT 画像との比較を行った.リファレンスの管電流=440 mA,dual
2-1
photon energy の同定
energy の管電流=600 mA として,CT dose index volume (CTDIvol)
VMS の photon energy の変化における模擬腎実質領域の CT 値を
=12 mGy に統一した.実臨床で使用している条件に近似させるた
Fig. 2 に示す.模擬腎実質領域の CT 値は 10 mm および 15 mm 模
め scan field of view (SFOV) は large body(有効視野:500 mm)を用
擬腎嚢胞周囲とも,低エネルギーになるにつれ CT 値が増大傾向を
い,回転スピード=0.5 sec./rotation,display field of view (DFOV) =
示した.このデータをもとにリファレンスと同等な photon energy
100 mm,pitch factor = 1.375,64×0.625 mm のディテクタ構成 (ビ
の同定を行った結果を Table 1 に示す.径 10 mm の模擬腎嚢胞に対
ーム幅=40 mm) とした.画像再構成は,フィルタ関数を standard
して,リファレンスの模擬腎実質領域の平均 CT 値は,スライス厚
(腹部標準関数) とし,スライス厚を,1.25 mm,2.5 mm,および 5.0
=1.25 mm,2.5 mm,5.0 mm で,それぞれ 223.7 HU,226.2 HU,225.5
mm とした.スライス厚=1.25 mm,5.0 mm は著者の施設において
HU であり,これらに同等な値を示した photon energy は,それぞれ
実臨床で用いているスライス厚であり,これに両者間の中間スライ
71 keV (CT 値=221.5 HU) ,70 keV (CT 値=229.9 HU) ,70 keV (CT
ス厚である,スライス厚=2.5 mm を加えた.
値=222.0 HU) であった.同様に,径 15 mm の模擬腎嚢胞に対し
て,リファレンスの模擬腎実質領域の平均 CT 値は,スライス厚=
1-5
photon energy の同定
1.25 mm,2.5 mm,5.0 mm で,それぞれ 225.0 HU,225.7 HU,226.5
リファレンスで得られた模擬腎実質領域の平均CT値とVMSで得
HU であり,
同等な値を示したphoton energy は,
それぞれ69 keV (CT
られた同位置での平均 CT 値を照合させ,リファレンスと等しい
値=225.2 HU) ,70 keV (CT 値=222.0 HU) ,70 keV (CT 値=222.2
CT 値が得られる photon energy を同定した.この同定により VMS
HU) であった.
において模擬腎嚢胞のCT値計測に用いるべきphoton energyが決定
される.Dual energy 撮影で得られたデータより,40 keV から 140
keV の間で 1 keV 毎に,101 種類の VMS を画像再構成した.リフ
ァレンスを含む,得られたすべてのデータから模擬腎嚢胞周囲にお
ける模擬腎実質領域の CT 値を計測した.計測には模擬腎嚢胞の対
象径の3分の2 の径を有するregion of interest (ROI) を用いた (径10
mm の模擬腎嚢胞には径 6.6 mm の ROI,径 15 mm の模擬腎嚢胞に
は径 10 mm の ROI) .計測範囲は体軸方向に 20 mm とし,模擬腎
実質領域に対しては模擬腎嚢胞領域を中心に周囲の 4 か所を計測,
その平均 CT 値を算出した.
1-6
仮想単色X 線CT 画像における模擬腎嚢胞領域のCT 値
リファレンスと 101 種類の VMS における模擬腎嚢胞領域の CT
値を計測した.計測範囲は体軸方向に 20 mm とし,計測には模擬
Fig.2: CT value of iodine areas at virtual monochromatic spectrum images.
腎嚢胞の対象径の 3 分の 2 の径を有する ROI を用いた.
1-7
スライス厚の影響
Table 1: Identification of the photon energy.
1-6 で測定された CT 値のうち,同定された photon energy におけ
Slice thickness
Cyst diameter
る模擬腎嚢胞領域の CT 値に対するスライス厚の影響を調べた.統
[mm]
[mm]
計解析には一元配置分散分析を用いた.
1.25
1.25
1-7
リファレンスと VMS の比較
CT value of iodine areas [HU]
photon energy
120 kV
VMS
[keV]
10
223.7
221.5
71
15
225.0
225.2
69
2.5
10
226.2
229.9
70
1-6 で測定された CT 値のうち,同定された photon energy におけ
2.5
15
225.7
222.0
70
る VMS の CT 値とリファレンスとの比較を行った.リファレンス
5.0
10
225.5
222.0
70
における模擬腎嚢胞領域の CT 値 (ROIR) ,および同等な photon
5.0
15
226.5
222.2
70
energy のVMS における模擬腎嚢胞領域のCT 値 (ROIM) から 次式
より,仮想単色 X 線 CT 画像の pseudoenhancement 改善率を算出し
た.
 ROIR  ROIM 
Improvement(%)  
  100
ROIR


2-2
仮想単色X 線CT 画像における模擬腎嚢胞領域のCT 値
Fig.3 に VMS の photon energy に対する模擬腎嚢胞領域の CT 値
(4)
を示す.模擬腎嚢胞領域の CT 値は,径 10 mm,径 15 mm ともエ
ネルギーが高くなるにつれ,0 HU に近づく傾向を示し,低エネル
25
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
ギーになるほど,CT 値は増大傾向を示した.また,径 15 mm 模擬
(c)
(d)
腎嚢胞に比べ,径 10 mm の CT 値は高くなり,低エネルギー領域
Fig.4: CT value of cyst areas at different slice thickness. (a) 10 mm cyst at reference
の傾きに差異が生じた.
(120kV), (b) 10 mm cyst at virtual monochromatic spectrum image, (c) 15 mm cyst
at reference (120kV), (d) 15 mm cyst at virtual monochromatic spectrum image.
2-4
リファレンスと VMS の比較
Fig. 5 にリファレンスと同定された photon energy の VMS におけ
る模擬腎嚢胞領域の CT 値の比較を示した.径 10 mm の模擬腎嚢
胞領域に対して,スライス厚=1.25 mm では,リファレンスの平均
CT 値および VMS の平均 CT 値は,それぞれ 18.4 HU,12.9 HU で
あり,pseudoenhancement 改善率は 31.5 %であったが,有意差は認
められなかった(p=0.14).また,径 15 mm の模擬腎嚢胞領域に対し
ての平均 CT 値は,それぞれ 16.7 HU,5.3 HU,pseudoenhancement
改善率は 68.3 %であり,有意差が認められた (p<0.01) (Fig. 5a).ス
ライス厚=2.5 mm では,径 10 mm の模擬腎嚢胞領域における CT
値は,リファレンスで 17.8 HU,VMS で 14.6 HU であり,
pseudoenhancement 改善率は 18.0 % (p=0.11) であった.径 15 mm の
模擬腎嚢胞領域では,リファレンスで 17.8 HU,VMS で 3.8 HU,
pseudoenhancement 改善率は 76.1 % であり,有意差が認められた
Fig.3: CT value of cyst areas at virtual monochromatic spectrum images.
(p<0.01) (Fig. 5b).次に,スライス厚=5.0 mm では,径 10 mm の模
2-3
スライス厚の影響
擬腎嚢胞領域における CT 値は,リファレンスで 18.3 HU,VMS で
Fig.4 にスライス厚の違いによる模擬腎嚢胞領域の CT 値を示す.
15.1 HU であり,pseudoenhancement 改善率は 17.5 % (p=0.38) であ
径 10 mm の模擬腎嚢胞領域に対して,リファレンスの平均 CT 値
った.径 15 mm の模擬腎嚢胞領域では,リファレンスで 15.9 HU,
は,スライス厚=1.25 mm,2.5 mm,5.0 mm で,それぞれ 18.4 HU,
VMS で 3.8 HU, pseudoenhancement 改善率は 76.1 % であり,有意
17.8 HU,18.3 HU であり,有意差は認められなかった(p=0.98) (Fig.
差が認められた (p<0.01) (Fig. 5c).また,VMS の模擬腎嚢胞サイズ
4a).また,径 15 mm の模擬腎嚢胞領域に対しても,その CT 値は,
10 mm と 15 mm の間においては有意差が認められなかった
それぞれ 16.7 HU,15.9 HU,15.9 HU であり,有意差は認められな
(p=0.052) .
かった(p=0.80) (Fig. 4c).同定された photon energy における VMS の
Table2 に pseudoenhancement 改善率を示す.
模擬腎嚢胞の平均 CT 値は,径 10 mm の模擬腎嚢胞に対して,そ
れぞれ 12.9 HU,14.6 HU,15.1 HU であり,有意差は認められなか
った(p=0.67) (Fig. 4b).また,径 15 mm の模擬腎嚢胞領域に対して
は,それぞれ 5.3 HU,3.8 HU,3.8 HU であり,有意差は認められ
なかった(p=0.77) (Fig.
4d).
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
Fig.5: Comparison of CT values with virtual monochromatic spectrum images
(VMS) and reference images (120 kV) on cyst areas. (a) 1.25 mm thickness, (b) 2.5
mm thickness, (c) 5.0 mm thickness.
26
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Table 2: Rate of improvement of pseudoenhancement on virtual monochromatic
の効果について,従来法である 120 kV と比較して検討した.その
spectral images (VMS) compared with reference (120 kV) images.
結果,従来法と比較して仮想単色 X 線 CT 画像では,15 mm 径の
Slice thickness
Cyst diameter
CT value of cyst areas [HU]
模擬腎嚢胞の CT 値に改善傾向が認められ,腎腫瘤の鑑別診断にお
Improvement
[mm]
[mm]
120 kV
VMS
[%]
1.25
10
18.4
12.9
31.5
1.25
15
16.7
5.3
68.3
2.5
10
17.8
14.6
18.0
2.5
15
15.9
3.8
76.1
5.0
10
18.3
15.1
17.5
5.0
15
15.9
3.8
76.1
ける閾値である 10 HU 以下となったことから,仮想単色 X 線 CT
画像の腎腫瘤の鑑別診断に対する有効性が示唆された.
参考文献
[1]Bosniak MA. The current radiological approach to renal cysts.
Radiology. 1986; 185: 1-10.
[2]Maki DD, Birnbaum BA, Chakraborty DP, et al. Renal cyst
3.考察
pseudoenhancement: beam-hardening effects on CT numbers.
従来法と VMS の photon energy の同定に関して,本研究では模擬
Radiology. 1999; 213(2): 468-472.
腎実質領域の CT 値を用いた.その結果,120 kV と同等な VMS の
[3]Birnbaum BA, Maki DD, Chakraborty DP, et al. Renal cyst
photon energy は 70 keV 付近にあり,これは,yamada ら[7]および
pseudoenhancement: evaluation with an anthropomorphic body CT
matsumoto ら[9]の報告と一致した.両者の報告で使用している装置
phantom. Radiology. 2002; 225: 83-90.
は,本研究に用いた CT 装置と同機種であるため,筆者の測定デー
[4]Kyongtea T. Bae, Jay P. Heiken,MD, Cary L. Siegel, et al. Renal
タから,用いた CT 装置の実効エネルギーは,寝台なしで 51 keV,
cysts: Is attenuation artifactually increased on contrast-enhanced CT
寝台ありで 58 keV であると言えるが,用いた 35cm 径のファント
images? Radiology. 1986; 185: 1-10.
ムにおいては BH が生じていることを考慮すると妥当な結果であ
[5]Jinzaki M, Jeffrey D. McTavish, Kelly H. Zou, et al. Evaluation of
ると考える.
模擬腎嚢胞領域のCT値におけるスライス厚の影響は,
small (≤ 3 cm) renal masses with MDCT: Benefits of thin
有意差が得られなかった. 今回,使用したファントムモデルは,
overlapping reconstructions. AJR. 2004; 183: 223-228.
partial volume effect による影響を除外し,BH の影響のみを検証する
[6]Kalender WA, Perman WH, Vetter JR, et al. Evaluation of a prototype
設計としたため,妥当な結果だと考える.しかし,臨床における腎
dual-energy computed tomographic apparatus.II: Phantom studies.
嚢胞の pseudoenhancement effect に対して,薄層画像の有用性を示唆
Med Phys. 1986; 13: 334-339.
する報告[5]や,実臨床では partial volume effect による影響が存在す
[7]Yamada M, Jinzaki M, Kuribayashi S, et al. Beam-hardening
ることを考慮すると,模擬腎嚢胞領域を球状にしたファントムモデ
correction for virtual monochromatic imaging of myocardial
ルでの検討が必要と考える.
perfusion
リファレンスと VMS の比較では,VMS で pseudoenhancement 改
via
fast-switching dual-kVp
64-slice
computed
tomography: A pilot study using a human heart specimen. Circ. J
善効果が認められた.これは,dual energy 技術の BH 補正が従来法
2012; 25; 76(7): 1799-1801.
より厳密に行われていることの立証に繋がると考える.つまりは,
[8]Lehmann LA, Alvarez RE, Macovski A, et al. Generalized image
リファレンスの BH 補正は空気と水の 2 物質から計算されるが,補
combinations in dual KVP digital radiography. Med. Phys. 1981;
正に造影剤を加えることで水と高いCT値間に対する補正が可能に
8(5): 659-667.
なったと考える.しかしながら,径 10 mm の腎嚢胞領域では有意
[9]Matsumoto K, Jinzaki M, Tanami Y, et al. Virtual monochromatic
差が認められなかったことや,Fig. 2 のように,カーブの傾きに差
spectral imaging with fast kilovoltage switching: improved image
異が生じていることからも,BH 補正のサイズ依存が生じていると
quality as compared with that obtained with conventional 120-kVp
考える.このサイズ依存を詳しく検証するに際し,今回のファント
CT. Radiology. 2011; 259(1): 257-262.
ムモデルでは,腎嚢胞サイズは 2 種類のみであったことがリミテー
[10]Thibault JB, Sauer KD, Bouman CA, et al. A three-dimensional
ションに挙げられる.
statistical approach to improved image quality for multislice helical
今後,模擬腎嚢胞サイズの種類を増やしての検討が必要である.
CT. Med. Phys. 2007; 34(11): 4526-4544.
また,投影データにおける幾何学的ボケ補正をモデルベースに持ち,
画像再構成する技術である[10]モデルベース逐次近似再構成法を
用いての検討,被写体サイズを変えた散乱線の影響について検討す
べきである.
本研究の結果から,VMS は,径 15mm の模擬腎嚢胞に対しては
pseudoenhancement effect の改善効果が認められたことから,それに
類したサイズの腎腫瘤の鑑別が可能となることが示唆された.
4.結語
腎嚢胞の pseudoenhancement effect に対する仮想単色 X 線 CT 画像
27
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
13008 Virtual Monochromatic Imaging を用いた腹部3DCTA 造影剤減量効果の検討
平入哲也*,篠田雅弘*,長谷川公彦*,小野直人*,武川彰宏*,阿瀬川敏*
*順天堂大学医学部付属静岡病院
〒410-2295 静岡県伊豆の国市長岡 1129
緒言
Index(以下 CTDIVOL) 9.05 mGy,再構成関数 HDSTND とし,Fast kV
近年,multidetector-row CT(MDCT)の多列化によって,CT 検査は
switching Dual Energy を用いた(GemstoneSpectral Imaging mode:以下
より広範囲,高速撮影が可能となった.それにともない造影剤のボ
GSI mode)では管電圧 80/140 kVp,
管電流 235 mA,
pitch 0.969,beam
ーラス注入を併用した three-dimensional CT angiography(3DCTA)検
width 40 mm,ASIR50%,CTDIVOL 9.1 mGy,再構成関数 STND に
査が一般的に利用されつつある.特に腹部の 3DCTA 検査は大動脈
てファントム撮影をそれぞれ行った.なお,CTDIVOL は実臨床撮影
瘤や解離など病変の形態把握や,腫瘍病変への栄養血管走行,術前
条件 HD mode,AEC25.4(スライス厚 0.625 ㎜)にてファントム撮影
の支援画像に用いられ有用性が高まっている.しかしながら同検査
を行った際の値を設定した.模擬血管内 CT 値は HD mode で 400
には,造影剤を使用しボーラス注入するというリスクが存在する.
H.U,GSI mode で 200 H.U,250 H.U,300 H.U,350 H.U とした.
太いゲージによるルート確保が困難な患者では高注入レートが設
定できず,また腎機能低下患者では造影剤腎症予防の為,造影剤の
減量を考慮しなければならない場合がある.これらリスクの解決方
法の一つとして低管電圧撮影による造影剤減量効果[1]が報告され
ている.低管電圧で撮影することにより,ヨード造影剤の CT 値を
上昇させ使用造影剤量を減量できるというこの手法は非常に有用
であるが,問題点として 80 kVp 撮影時では 120 kVp 撮影時と比較
して 4~5 倍の mAs が必要[2]となり,
装置によっては同等画像ノイ
Fig.1:Mock blood vessel phantom
ズを得るための mAs が出力できない場合がある.
a|b|c
(a)Phantom design
一方 Fast kV switching Dual Energy 撮影では 120 kVp と同等 mAs
(b)phantom front view
を確保しながら,40~140 keV の Virtual Monochromatic Imaging を
(c)Multi planer reconstruction (MPR) (HD mode)
再構成することが可能である.特に 65 keV(120 kVp 相当)を下回る
40~64 keV(以下 Low-keV)では CT 値の上昇効果により低管電圧撮
1-3
影時と同様の造影剤減量効果が期待できる.
画像ノイズ比較
Volume rendering(VR),Multi planer reconstruction (以下 MPR)画像
本研究は Virtual Monochromatic Imaging による Low-keV 再構成が
に影響を与える画像ノイズの比較評価を SD 法[3]にて行った.各撮
造影剤減量に有効であるかファントムを用いて検討したものであ
影条件 3 回撮影し,
再構成スライス厚 0.625 ㎜にて撮影画像(Fig.2)4
る.
点の関心領域内の CT 値の標準偏差を式(1)を用いて画像ノイズ測
定結果とした.
GSI modeについては40~64 keV(2 keV 毎)の再構成を行い評価した.
SD Value=(SD1+SD2+SD3+SD4)/4 ・・・・・・・・・・・・・・(1)
1.方法
1-1
使用機器
X 線 CT 装置は GE 社製 CT750HD,画像処理装置は AMIN 社製
ZIOSTATION2,画像解析には National Institutes Helth(NIH)ImageJ を
使用した.
1-2
腹部模擬血管ファントム撮影条件
腹部血管を模したファントムとして高さ 200 ㎜,直径 230 ㎜の
Fig. 2: SD Value Measurement Positions
円筒状容器を用い,中心に腹部大動脈を模した直径 20 ㎜の円柱を
挿入,そこから辺縁に向かいラダー状に 6,4,3,2,1.1 ㎜のストローを
接続固定し周囲はゼラチンで満たし作成した(Fig. 1).
1-4
撮影条件は,通常撮影条件として高精細モード( 以下
プロファイルカーブ比較
VR,MPR 画像作成において重要な CT 値と血管径の変化を模擬
HighDefinition mode:HD mode)管電圧 120 kVp,185 mA,回転速度
血管ファントム撮影によるプロファイルカーブから計測,比較した.
0.6 sec/rot,pitch 0.969,beam width 40 mm,Adaptive Statistical Iterative
測定位置は 2 か所,ファントム中心で模擬血管 20 ㎜を対象とした
Reconstruction(以下 ASIR) 50%,Volume Computed Tomography Dose
axial 画像(FOV; 200 ㎜)を撮影,さらに末梢血管描出能を評価する
28
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
ため模擬血管 1.1 ㎜を対象に中心から 90 ㎜地点の coronal 画像を
1-6
臨床評価
MPR(FOV; 200 ㎜×200 ㎜)にて作成し評価した.再構成スライス
1-3,1-4,1-5 の結果として得られた血管内 CT 値となる様,造影剤
厚は axial,coronal ともに 0.625 ㎜,評価項目は最大 CT 値と半値
を減量し腹部3DCTA 撮影を行った.肝上縁レベルの大動脈 CT 値
幅(FWHM: Full Width at Half Maximum)とした(Fig. 3).
を,
120kVp に相当する 65keV と,
実験結果より得られた再構成 keV
について比較した.撮影条件は GSI mode 管電圧 80/140kVp,管電
流 235mA,pitch0.969,beam width 40mm,ASIR50%,CTDIVOL 9.1mGy,
再構成関数 STND,再構成スライス厚 0.625 ㎜とした.対象症例に
ついては,当院倫理委員会の承認を得た.
2.結果
2-1
Fig. 3: Profile curve measurement position
ファントム撮影による画像ノイズ測定結果をグラフ(Fig.5)に示
a b d
(a) Profile curve measurement position
画像ノイズの評価
す.いずれの模擬血管撮影時においても Virtual Monochromatic
c
(b)20 ㎜ mock blood vessel Profile curve position
Imaging 55keV 以上の再構成によって通常撮影条件の画像ノイズよ
(c)1 ㎜ mock blood vessel Profile curve position
り低い画像ノイズを得られるという結果を示した.
(d)FWHM measurement position
視覚評価
1-5
通常撮影条件(HD mode 血管内 CT 値 400 H.U)と GSI mode(血管
内 CT 値 350,300,250,200 H.U)の Virtual Monochromatic Imaging 64
keV から 40 keV まで 2 keV 毎に再構成を行った画像の VR・MPR を
ZIOSTATION2 にて作成.CT 担当放射線技師 6 名(技師歴 2~20 年)
が,通常撮影条件と同等画質と判断する Virtual Monochromatic
Imaging 画像を選択し平均を実験結果とした.評価にあたってはデ
ィスプレイ左に通常撮影条件画像(Fig. 4a,d)を表示し,右側に 64
keV から 40 keV まで 2 keV 毎に順次画像(Fig. 4b-c,e-f)を表示,選択
Fig. 5:SD value comparison results
する方法を用いた.判断に際してはノイズと 1.1 ㎜血管の描出能を
基準とするよう指導した.
2-2
プロファイルカーブ評価
模擬血管 20 ㎜のプロファイルカーブ計測結果(Fig. 6)より,いず
れの血管内 CT 値においても再構成 keV を下げることにより CT 値
が上昇した.それに伴いプロファイルカーブ高信号部の形状が崩れ,
血管内CT値の不均一が生じた.
模擬血管内CT値350 H.U の場合,
通常撮影条件のピーク CT 値を超えたのは Virtual Monochromatic
MPR
Imaging 62keV であった.同様に模擬血管内 CT 値 300 H.U では 60
keV,模擬血管内 CT 値 250 H.U では 56 keV,模擬血管内 CT 値 200
H.U では 48 keV という結果であった.
模擬血管 1.1 ㎜計測結果(Fig. 7)においても再構成 keV を下げる
ことにより血管内 CT 値が上昇した.模擬血管内 CT 値 350 H.U の
VR
Fig. 4:Visual assessment using MPR/VR
(a)MPR:HD mode CT value 400 H.U
場合,通常撮影条件のピーク CT 値を超えたのは Virtual
a|b|c
Monochromatic Imaging 60 keV であった.同様に模擬血管内 CT 値
d|e|f
(b)MPR:Virtual Monochromatic Imaging 64 keV
300 H.U では 60 keV,模擬血管内 CT 値 250 H.U では 56 keV,模擬
(c)MPR:Virtual Monochromatic Imaging 40 keV
血管内 CT 値 200 H.U では 44 keV という結果となった.
血管径の比較結果(Fig. 8)では,模擬血管 20 ㎜の直径は GSI
(d)VR:HD mode CT value 400 H.U
(e)VR:Virtual Monochromatic Imaging 64 keV
mode が HD mode と比較して平均 0.62 ㎜(3.1%)細くなった.模擬
(f)VR:Virtual Monochromatic Imaging 40 keV
血管 1.1 ㎜の直径では GSI mode は HD mode と比較して平均 0.44
㎜(40.1%)太いという結果を得た.
29
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
と判断された平均 keV は VR; 57 keV,MPR; 59 keV 両平均 keV は
58 keV という結果となった.
同様にCT 値300 H.U ではVR; 55 keV,
MPR; 57 keV,平均 56 keV.CT 値 250 H.U では VR; 54 keV,MPR;
55keV,平均 55 keV.CT 値 200 H.U では VR にてノイズが多く同
等と判断される画像なし,MPR; 54 keV,平均 54 keV となった.
Table 1:The images (keV) deemed to be equivalent to HD mode (CT value 400
H.U.)
Fig. 6: Profile curve comparison results 20 mm mock vessel
CT Value
350
300
250
VR
57
55
54
N
MPR
59
57
55
54
AVERAGE
58
56
55
54
a|b
(a) Profile curve CT value 350 H.U
200
The mean keV was rounded off to a decimal point or less.
c|d
(b) Profile curve CT value 300 H.U
(c) Profile curve CT value 250 H.U
(d) Profile curve CT value 200 H.U
a|b|c
|d|
Fig. 7: Profile curve comparison results 1.1 mm mock vessel
a|b
(a) Profile curve CT value 350 H.U
c|d
(b) Profile curve CT value 300 H.U
(c) Profile curve CT value 250 H.U
(d) Profile curve CT value 200 H.U
e|f|g
|h|i
Fig.9: The images (keV) deemed to be equivalent to HD mode (CT value 400 H.U.)
(a)VR: HD mode CT Value 400 H.U
(b)VR: GSI mode CT Value 350 H.U
Fig. 8: Comparison results for blood vessel diameter
(c)VR: GSI mode CT Value 300 H.U
a|b
(a)20 ㎜ Mock blood vessel diameter
(d)VR: GSI mode CT Value 250 H.U
(b)1 ㎜ Mock blood vessel diameter
(e)MPR: HD mode CT Value 400 H.U
(f)MPR: GSI mode CT Value 350 H.U
2-3
視覚評価結果
(g)MPR: GSI mode CT Value 300 H.U
視覚評価結果を Table 1 に示し,該当する画像を Fig. 9 に示す.模
(h)MPR: GSI mode CT Value 250 H.U
擬血管内 CT 値 350 H.U の場合,視覚評価にて通常撮影条件と同等
(i)MPR: GSI mode CT Value 200 H.U
30
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
と同等被曝量,HD mode CT 値 400 H.U を基準としたものであり,
臨床撮影結果
2-4
現条件より撮影線量を増加させる,もしくは目標 CT 値を低く設定
実臨床撮影結果であるが,Cre 1.2, e-GFR 47 という腎機能低下患
することにより更に造影剤量を減らすことが可能であると考えら
者に対し,造影剤 iopamidol300 を注入レート 2.5 ml/sec(13
れる.
mgI/kg/sec),生理食塩水後押し併用し,テストインジェクションに
て 8 ml,
本スキャンにて 37 ml トータル 45 ml(総ヨード量 13.5 g) 使
Table 2: The images (keV) deemed to be equivalent to the HD mode (CT value 400
用し 3DCTA 撮影した患者である.管電圧 120 kVp 相当である 65
H.U.)
keV にて 261 H.U だった腹部大動脈 CT 値が,55 keV にて 395 H.U
Mock vessel
に上昇している.それに伴い視認困難であった抹消血管も VR 画像
にて確認が出来るようになっている(Fig. 10).
Result①
Result②
Result③
CT Value
SD Value
Peak CT Value
Visual assessment
350
55 or more
62 or less
58
300
55 or more
60 or less
56
250
55 or more
56 or less
55
200
55 or more
48 or less
54
4.結語
自作ファントムを用いた画像ノイズ,ピーク CT 値,視覚評価の
結果から Virtual Monochromatic Imaging を用いた Low-keV 再構成が
腹部3DCTA 撮影時に造影剤の減量に有効であることが示唆された.
参考文献
[1]
Kijewski MF,Judy PF.The noise power spectrum of CT images.
Phys Med Biol 1987; 32(5): 565-575.
[2]市川勝弘, 原 孝則, 丹羽伸次, 他. CT 画像におけるノ
イズパワースペクトル算出方法の比較評価. 医用画像情報
会誌 2008; 25(2): 29-34.
[3]市川勝弘, 村松禎久. 標準 X 線 CT 画像計測. 東京: オ
Fig. 10: Clinical example
a|b
(a)VR; 65 keV
c|d
ーム社, 2010.
(b)VR; 55 keV
(c)Axial; 65 keV
(d)Axial; 55 keV
3.考察
Fast kV switching Dual Energy 撮影によって得られる Virtual Mono
chromatic Imaging の Low-keV 再構成は,
通常の低管電圧撮影同様,
keV を下げることにより模擬血管内 CT 値の上昇というメリットと
画像ノイズの増加というデメリットが同時に発生することが本研
究により改めて確認された.今回われわれは実臨床で用いる高分解
能モード(HD mode)血管内 CT 値 400 H.U と同等と判断される血管
内 CT 値と再構成 keV をファントム実験により,画像ノイズ,最大
CT 値,視覚評価の 3 項目から導き出した(Table 2).この実験結果
から通常の腹部大動脈目標 CT 値を 400 H.U から 250 H.U に低減し
ても 55 keV 再構成により HD mode CT 値 400 H.U と同等画像が得
られるため, 造影剤量を 37%減量できるものと考えた.臨床画像
においても実験結果に即した撮影結果が得られた.また,1.1 ㎜模
擬血管の径がGSI modeにて過大評価されたのはHD modeと比して
分解能が低いことが影響として考えられる.本実験結果は標準撮影
31
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Virtual Monochromatic Image を用いた橈骨遠位端骨折用掌側ロッキング
13009
プレート術後の屈筋腱の評価
西山徳深* **,摺河健文*,小林有基*,竹田芳弘**
*岡山済生会総合病院画像診断科
**岡山大学大学院保健学研究科
緒言
〒700-8511 岡山県岡山市
〒700-0011 岡山県岡山市
1-2
橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレートによる手術は大変有
ファントム組成
橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレートの材質は,チタン
用で多くの施設で行われている.しかし,手術件数の増加と共に,
90%・アルミ 6%・バナジウム 4%のチタン合金が 3 種類 (a/b/c)、
橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレートによる屈筋腱障害とい
純チタンのものが 1 種類(d)であった.また,プレートを固定する
う重篤な合併症の報告もされるようになってきた[1, 2].
スクリューはすべてチタン 90%・アルミ 6%・バナジウム 4%のチ
CT 検査を用いた,手術後の屈筋腱とロッキングプレートの評価
タン合金であった.
は,プレートによる金属アーチファクトのために不可能であり患者
橈骨を模した人工骨に橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレー
の予後の推測は出来なかった[3, 4].
トを 4 種類固定し,金属アーチファクトの評価のために軟部組織と
現在,金属アーチファクトの低減は,高管電圧・高管電流による
して治療用のボーラスで覆い,ファントムとして使用した.
撮影を行う方法や,再構成関数を変えるなどの手法があるが,いず
治療用ボーラスは,水透過物質であり X 線吸収係数は 1 であっ
れの方法もアーチファクトの影響を大きく変化させることは不可
た.
能であった.
また,当研究は院内の倫理委員会において承認を得ている.
今回の dual energy technology を用いた CT 装置を使用した virtual
monochromatic image は,今までの撮影方法と異なり大幅に金属ア
1-3
ーチファクトを低減することが可能となった[5].
撮影条件
ファントムの撮影は,dual energy technology を用いた.撮影条件
そこで,
dual energy technology を用いた CT 装置を使用した virtual
は,管電圧 140 kVp と 80 kVp の 2 種類の高速スイッチング方式を
monochromatic image による,橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプ
用いた撮影で,
管電流375 mA,
撮影ビーム幅20 mm,
ピッチ0.531:1、
レートの金属アーチファクト低減の評価,および,手術後の屈筋腱
管球回転スピード 0.7 sec とした.
評価に最適な keV を検討した.
1.方法
1-4
使用機器および検討項目
1-1
解析方法
撮影ファントムデータから,AW を用いて,virtual monochromatic
CT 装置は 1 回転中に 2 つの異なる X 線を高速スイッチングさせ
image を 40 keV~140 keV まで 5 keV ごとの thin-slice データとして
ながら撮影可能な Discovery CT750 HD (GE 社製)を用いて検討
作成した.Volume データから,同一のロッキングプレートに接し
した.画像処理は Advantage Workstation Volume Share 5 (GE 社製)
た橈骨のサジタル像(Fig. 2)を作成し,画像解析ソフト Image J を
(以下 AW)
.解析ソフトは image J.三次元画像作成には ziostation2
用いて,矢状断面に作再構成した画像の治療用ボーラス部で CT 値
(ziosoft 社製)を用いた.
変動の測定をした(Fig. 3)
.
橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレートを設置した人工骨に
治療用ボーラスを巻いた 4 種類のファントム(a/b/c/d)
(Fig. 1)の
virtual monochromatic image による金属アーチファクトの評価を行
った.
c
d
a
b
Fig. 2: Sagittal image of the phantom.The line shows the site where artifacts were
assessed.
Fig. 1: Volar locking plates for the treatment of distal radius fracture fixed with screws
to artificial bones
32
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Fig. 3: Graph showing the variation in artifacts on the bolus part.
Fig. 5-1: Variation in Artifacts a. (85 keV-110 keV)
The variation in artifacts appearing in the CT image of the therapeutic bolus is shown
in 5 keV energy level increments.
それぞれの仮想電圧において,ボーラスの CT 値が異なるため,
金属アーチファクトの影響を受けない箇所のCT 値を0 としてボー
ラスデータの補正を行った.補正後のデータは,それぞれの仮想電
圧特性の影響を受けていない CT 値と仮定されため,同一のグラフ
上(Fig. 4)での CT 値変動を金属によるアーチファクト量と規定し
た.
Fig. 5-2: Variation in Artifacts b.(85 keV-110 keV)
Fig. 4: Variation in artifacts
The graph shows the variation in the number of artifacts after adjustment.
Fig. 5-3: Variation in Artifacts c.(85 keV-110 keV)
2.結果
Fig. 4 より,
virtual monochromatic image による金属アーチファクト
の変動が確認できた.
ファントム橈骨遠位端部において 4 種類のファントム(a/b/c/d)
で,40 keV から 95 keV にかけてアーチファクト量は低下し 95 keV
を超えるとアーチファクト量は再度増加した
(Fig.5-1/Fig.5-2/Fig.5-3/Fig.5-4.)
.
また,アーチファクトによる CT 値も 95 keV を境に高輝度 CT 値
から低輝度 CT 値に変化した(Fig. 6)
.
Fig. 5-4: Variation in Artifacts d.(85 keV-110 keV)
33
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
40 keV
70 keV
100 keV
140 keV
Fig. 6: The graph shows the variation in artifacts at the distal end of the radius.
橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレートの種類に関係なく,同
一金属においては同様のアーチファクトの変動が確認された
(Fig.5-1/Fig.5-2/Fig.5-3/Fig.5-4.)
.
橈骨遠位端付近の金属アーチファクト量を 0 HU からの乖離量で
定量した(Fig. 7)
。40 keV からアーチファクトが低減し,95 keV か
ら再度増大している様子が確認できた.
Fig. 8: Sagittal cross-section images at 40 keV, 70 keV, 100 keV and 140 keV
The variation in artifacts caused by the locking plate can be confirmed.
Fig. 7: Artifacts
The graph shows the variation in the number of artifacts.
Fig. 9-1: Images of the wrist acquired at 65keV (corresponding to 120 kVp)
臨床画像においても同様の結果が見られた(Fig. 8, Fig. 9-1, Fig. 9-2)
.
金属アーチファクトの低減により,金属プレートにより診断が出来
なかった箇所において,屈筋腱の状態が把握可能になった(Fig. 10-1,
Fig. 10-2)
.
Fig. 9-2: Images of the wrist acquired at 95 keV
Artifacts are reduced tremendously in 3D images.
34
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
4.結語
Virtual monochromatic image の手術後屈筋腱評価に最適な keV は
95 keV であった.Dual energy technology を用いた CT 装置を使用し
た virtual monochromatic image は,橈骨遠位端骨折手術後の掌側ロ
ッキングプレートを使用した患部屈筋腱評価に大変有用な画像で
ある.
参考文献
Fig. 10-1: Images of the flexor tendons at the wrist acquired at 65 keV
[1]近藤秀則,今谷潤也,清水弘毅,他.各種橈骨遠位端骨折用
(corresponding to 120 kVp)
掌側ロッキングプレートの比較検討 遠位部スクリューの刺
入位置を中心に.日本手の外科学会雑誌(0910-5700) 2009;
25(6):782-788.
[2]Arora,et al.Complications following internal fixation of unstable
distal radius fracture with a palmar locking-plate.JOrthop Trauma
2007;21(3):16-322.
[3]Rozeik C,Kotterer O,Preiss J,et al.Cranial CT artifacts and
gantryangulation. J Comput Assist Tomogr 1991;15:381-386.
[4]Joseph
PM,Spital
RD.A
method
for
correcting
bone
inducedartifacts in computed tomography scanners.J Comput
Assist Tomogr 1978;2:100-108.
Fig. 10-2: Images of the flexor tendons at the wrist acquired at 95 keV
[5]Herman GT. Correction for beam hardening in computed
The flexor tendons that are not separated and confirmed due to artifacts in the images
tomography.Phys Med Biol 1979;24:81-106.
acquired at 65 keV (corresponding to 120 kVp) are now clearly depicted.
3.考察
Virtual Monochromatic Image による金属アーチファクトの低減が
確認できた. また,95keV の Virtual Monochromatic Image での画像
が橈骨遠位端骨折用掌側ロッキングプレートと屈筋腱が最も接近
する部位においてのアーチファクトが最も少なかった.
高輝度アーチファクトによる画質低下が改善されることにより,
3 次元表示画像において屈筋腱の状態を把握することが可能にな
り,ロッキングプレートと屈筋腱の手術後の状態把握が立体的に可
能となった.
40keV から仮想電圧が高くなるにつれて,金属からのアーチファ
クトが急速に低減されている理由としては,電圧のエネルギーが高
くなることで金属によるX 線エネルギーの吸収が軽減されたため,
アーチファクト量が低減されたと考えられた.
しかし,95keV から高電圧側においてアーチファクトが増加した
理由としては,高電圧領域における画像再構成のエラーと考えられ
た.
加えて,仮想電圧の高い画像においては,骨領域のコントラスト
が低下し正確な骨構造の描出が困難になることが予想されるため,
安易な仮想高電圧画像の作成には注意が必要である.
今回の検討した三次元表示方法により,詳細な位置関係を元にし
た手術後の屈筋腱の稼働領域等,現状で把握困難であった予後の推
測が可能となった.
今後,臨床データの蓄積によって橈骨遠位端骨折に最適なロッキ
ングプレートの開発にも活用されることを期待する.
35
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
CT における線質特性と造影コントラストの定量評価
130010
丹羽伸次,原孝則,加藤秀記
中津川市民病院医療技術部 〒508-8502 岐阜県中津川市駒場 1522-1
緒言
ニウムの減弱曲線を作成した.なお,半価層から実効エネルギーの
CT 装置は,水と物質の線減弱係数より算出された CT 値を画像
算出には Seltzer SM and Hubbell JH の光子減弱係数データブック
化し[1, 2]
,線減弱係数は,X 線のエネルギー(線質)や物質の原
[8]の減弱係数を使用した.
子番号に依存する[3]
.造影検査で多用されるヨード造影剤は,エ
ネルギー依存の大きいヨウ素で構成されていることから,X 線 CT
装置で使用される X 線の線質によって造影コントラストが変化す
る.X 線の線質は,設定される管電圧,装置に付加されるボウタイ
フィルタの材質や形状によって変化し,それは,装置ごとに異なる
ことが予想される.従って,複数の X 線 CT 装置を用いて一貫した
造影効果を得るためには,管電圧や造影剤量を調整する必要がある.
先行研究において線質特性や造影剤のコントラストについて装置
間の比較を行った報告[4-6]はあるものの,線質特性と造影コン
トラストとの関係を最新CT装置を含め実測によって詳細に検討し
た報告はない.そこで,本研究では,X 線 CT における複数装置の
Fig.1: Schematic diagram of the measurement for half-value layer in CT.
線質特性の実測により,これに対応したヨード造影剤とのコントラ
スト特性の関係から,同程度の造影効果を得るために必要な各エネ
Table 1: Scan parameters in the half-value layer measurement
ルギーの相対的なヨード造影剤濃度を算出することを目的とする.
Scan mode
Tube
voltage
(kVp)
Tube
current
(mA)
Rotation
time
(sec)
Beam width
(mm)
Scan FOV
Aquilion ONE
Non-helical
80
100
120
300
1.0
32.0
M
Aquilion CX
Non-helical
80
100
120
135
300
1.0
32.0
M
Aquilion 16
Non-helical
80
100
120
135
300
1.0
16.0
M
Discovery CT750HD
Non-helical
80
100
120
140
300
1.0
40.0
Large
Optima CT660
Non-helical
80
100
120
140
300
1.0
40.0
Large
Lightspeed Ultra16
Non-helical
80
100
120
140
300
1.0
10.0
Large
Definition Flash
Non-helical
70
80
100
120
140
300
1.0
38.4
500
Emotion6
Non-helical
80
110
130
300
1.0
18.0
500
Brilliance 64
Non-helical
80
120
140
300
1.0
40.0
500
1.方法
1-1
使用機器
・X 線 CT 装置:
Aquilion ONE(TOSHIBA 社製)
Aquilion CX (TOSHIBA 社製)
Aquilion 16 (TOSHIBA 社製)
Discovery CT 750HD(GE 社製)
LightSpeed Ultra 16(GE 社製)
Optima CT660(GE 社製)
SOMATOM Definition Flash(SIEMENS 社製)
SOMATOM Emotion 6 (SIEMENS 社製)
Brilliance CT 64 (Philips 社製)
・線量計:Victoreen NERO mAx Model 8000 (FLUKE Biomedical 社
製)
・アルミニウムフィルタ(純度:99%)
・自作希釈造影ファントム(ヨード濃度:3, 6, 9,12, 15,20 mg/ml)
1-2
実効エネルギーの算出
X 線 CT 装置の線質を評価するため,回転照射法[7]に準拠し
てアルミニウム半価層の測定を行い,実効エネルギーを算出した.
上方に 20 mm 程度のスリットギャップを設けた 250 mm×250 mm
×100 mm の鉛枠内の中心に線量計を配置し,ノンヘリカルスキャ
ンにて X 線の照射を行った(Fig.1)
.X 線の照射条件は,Table 1 に
示す条件で行い,測定回数は 5 回とし,その平均値を用いてアルミ
36
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
造影コントラストの評価
1-3
2.結果
各X線CT装置における造影コントラストを評価するために,3,
実効エネルギーの算出
2-1
6,9,12,15,20 mgI/ml の濃度を有した希釈造影剤をシリンジに
各 X 線 CT 装置の実効エネルギーを Table 3 に示す.実効エネルギ
封入し,それを直径 200 mm の水ファントム内にクロック状に配置
ーは,同一メーカー間であれば,ほぼ等しい値を示した.CT 検査
したファントムを使用した(Fig. 2)
.ファントムは,Table 2 に示す
で多用される 120 kVp の管電圧において,TOSHIBA 社製の装置の
条件で撮影および画像再構成を行った.なお,TOSHIBA 社製の再
実効エネルギーは約 50 keV,GE 社製および SIEMENS 社製の装置
構成関数に関しては,一般的に造影検査で多用される FC14 を選択
の実効エネルギーは約 55 keV,Philips 社製の装置の実効エネルギ
し,
臨床現場に即した条件下で評価を行った.
造影コントラストは,
ーは約 58keV となり,TOSHIBA 社製の装置が最も低値を示した.
得られた CT 画像の希釈造影剤の部分に region of Interest (ROI)を
設定しその CT 値を計測した.なお,測定回数は 3 回とし,その平
Table 3: Result of effective energy
均値を求めた.
Effective energy (keV)
同一メーカー間における造影コントラストの違いを評価するた
70kVp
めに,それぞれのメーカーごとに各管電圧の造影コントラストの比
各メーカーの造影コントラストの比較を行った.
15mg/ml
20mg/ml
12mg/ml
Aquilion 16
39.4
44.6
50.7
53.6
39.8
45.0
50.1
53.4
Aquilion ONE
41.4
47.5
52.0
n/a
Discovery CT750HD
45.1
50.0
54.3
59.7
Optima CT660
45.3
51.1
55.8
60.7
Lightspeed Ultra16
43.0
51.4
55.7
58.8
46.2
52.8
55.7
60.7
Definition Flash
9mg/ml
3mg/ml
6mg/ml
Fig.2: Illustration shows overview of rod phantom (a) and its
a b
axial CT image (b). Six plastic cylindrical rods were located in
100kVp 110kVp 120kVp 130kVp 135kVp 140kVp
Aquilion CX
較を行った.また,メーカー間の造影コントラストの違いを評価す
るために,X 線 CT 検査で多用される 120 kVp の管電圧において,
80kVp
43.2
Emotion 6
42.4
Brilliance 64
48.0
2-2
51.3
54.1
58.4
64.1
造影コントラストの評価
Fig. 3 に TOSHIBA 社製の X 線 CT 装置で得られた造影コントラ
water phantom.
ストの結果を示す.各管電圧 80 kVp において,Aquilion 16 は他の
Table 2: Scan and reconstruction parameters in the CT number
2 機種よりも僅かに高い造影コントラストを有した.100 kVp 及び
measurement
120kVp においては,
3機種間の造影コントラストは概ね一致した.
Fig. 4 に GE 社製の X 線 CT 装置で得られた造影コントラストの結
Tube
voltage
(kVp)
Tube Rotation
Slice
Scan
Pitch
current
time
Scan FOV
thickness
configuration
factor
(mA)
(sec)
(mm)
Kernel
Beam
hardening
correction
Aquilion ONE
80
100
120
200
100
60
1.0
Aquilion CX
80
100
120
150
80
50
1.0
Aquilion 16
80
100
120
130
70
50
1.0
16×0.5mm
M
0.900
5.0
FC14
off
Discovery CT750HD
80
100
120
260
140
90
1.0
64×0.625mm
Large
0.984
5.0
standard
on
Optima CT660
80
100
120
235
120
75
1.0
64×0.625mm
Large
0.984
5.0
standard
on
Lightspeed Ultra16
80
100
120
170
90
55
1.0
64×0.625mm
Large
0.934
5.0
standard
on
Definition Flash
80
100
120
261
124
75
1.0
128×0.6mm
500mm
0.85
5.0
B30s
on
Emotion6
80
110
130
146
59
39
1.0
64×0.5mm
M
0.828
5.0
FC14
果を示す.各管電圧において,3 機種の造影コントラストは概ね一
致した.Fig.5 に SIEMENS 社製の X 線 CT 装置で得られた造影コ
ントラストの結果を示す.Definition Flash の管電圧 100 kVp 及び
off
120kVp の線質にそれぞれ相当する Emotion 6 管電圧は,110 kVp 及
64×0.5mm
M
0.828
5.0
FC14
び 130kVp であるため,100 kVp における検討においては,Emotion
off
6 の管電圧は 110 kVp,120 kVp における検討においては,Emotion
6 の管電圧は 130 kVp とした.管電圧 80kVp において 2 機種間に造
影コントラストの僅かな差を生じた.
Brilliance 64
120
62
Fig. 6 に管電圧 120kVp における,各メーカーの造影コントラス
トを示す.造影コントラストは,TOSHIBA 社製の X 線 CT 装置が
最も高く,ヨード濃度が高くなるほどその差は大きくなった.
3.考察
X 線 CT で使用される X 線は連続 X 線であり,X 線管に印加さ
れた管電圧を最大とした連続スペクトルを示す.連続スペクトルを
6×1.0mm
500mm
0.85
5.0
B30s
5.0
Standard
(B)
有する連続 X 線は,付加フィルタの使用により最大エネルギーよ
on
り低エネルギー側でスペクトルの変化を生じ,
線質が変化する
[9]
.
1.0
64×0.625mm
500mm
0.609
本研究は,X 線の線質を実効エネルギーにて評価し,結果 2-1 にお
on
いて,実効エネルギーは,同一管電圧であっても装置ごとに異なっ
た.これは,装置に付加されるボウタイフィルタの形状や材質が異
なることによって生じたものと考えられる.
37
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
600
Aquilion ONE
Aquilion CX
Aquilion 16
500
400
300
200
800
700
100
0
600
400
300
600
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
Optima CT660
Discovery CT 750HD
Lightsped Ultra 16
700
a b
c
600
a b
500
400
c
300
200
200
100
100
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
Fig.3 Result of CT numbers of iodinated solutions for Toshiba MDCT
Fig.4 Result of CT numbers of iodinated solutions for GE MDCT scanners.
scanners. (a) 80kVp, (b) 100kVp (c) 120kVp
900
(a) 80kVp, (b) 100kVp, (c) 120kVp
900
800
CT number (HU)
700
500
400
300
200
Emotion 6 (110kVp)
Definition Flash (100kVp)
500
Discovery CT 750HD
400
400
300
200
100
100
0
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
Aquilion ONE
500
600
CT number (HU)
Emotion 6
Definition Flash
600
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
900
700
300
100
800
300
800
400
900
Aquilion ONE
Aquilion CX
Aquilion 16
400
700
500
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
500
800
600
200
0
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
CT number (HU)
300
100
0
CT number (HU)
400
100
Optima CT660
Discovery CT 750HD
Lightsped Ultra 16
700
500
200
CT number (HU)
CT number (HU)
700
600
200
900
800
800
Optima CT660
Discovery CT 750HD
Lightsped Ultra 16
700
500
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
900
800
Aquilion ONE
Aquilion CX
Aquilion 16
CT number (HU)
CT number (HU)
700
CT number (HU)
800
目次
900
900
CT number (HU)
900
Emotion 6 (130kVp)
Definition Flash (120kVp)
Definition Flash
300
Brilliance 64
200
600
a b
500
400
100
c
300
200
0
100
0
0
3
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Iodine concentration (mgI/ml)
Fig.5 Result of CT numbers of iodinated solutions for SIEMENS MDCT
6
9
12
15
18
Iodine concentration (mgI/ml)
21
Fig. 6 CT numbers of iodinated solutions for 120kVp.
scanners. (a) 80kVp, (b) 100kVp (110kVp) , (c) 120kVp (130kVp)
造影コントラストは,同一メーカーであれば機種間の依存はなく概
ドニング補正が無く,これも造影コントラストを高くした一要因で
ね一致した.
しかし,
TOSHIBA 社製の Aquilion 16 は,
管電圧 80 kVp
あると考える.しかし,低エネルギーの X 線の使用およびビーム
において,他の 2 機種よりも僅かに高い造影コントラストを示した.
ハードニング補正の不使用は,ビームハードニングアーチファクト
80 kVp における 3 機種の実効エネルギーは,ほぼ等しい値を示し
を生じやすく,画質低下も懸念さるため,造影効果のみで画質の良
ており,この僅かな差は CT 値の校正が機種間で若干異なったこと
否は判断できない.
が原因として考えられる.また,SIEMENS 社製の Definition Flash
本研究により,造影コントラストは装置に依存し変化した.従っ
と Emotion6 も,管電圧 80 kVp において僅かに造影コントラストに
て,
複数の X 線 CT 装置により一貫した造影コントラストを得るた
差を生じた.これは,それぞれの実効エネルギーが異なることと,
めには,造影剤量を調整する必要がある.小寺らは,頭部 3D-CT
機種によってビームハードニングの補正が異なったことに起因す
angiography において,血管形状の信頼性を高めるためには,血管
ると考えられるが,どちらが主な原因かは,本検討からは不明であ
の CT 値が 300 HU を超えることが一つのポイントとして報告して
る.
いる[12]
.300 HU という値を一つの指標とし,TOSHIBA 社製の
管電圧 120 kVp における造影コントラストを比較した結果,
装置と同等の造影コントラストを得るには,Fig. 6 よりその他の装
TOSHIBA 社製の装置が最も高い造影コントラストを有した.ヨー
置は TOSHIBA 社製の装置よりも約 1.3 倍の造影剤量の増加が必要
ド造影剤の成分の一つであるヨウ素は,33 keV に K 吸収端を有し
である.ただし,本研究で用いたファントムは,直径 200 mm の水
[10]
,33keV に近い X 線を使用することで CT 画像の形成は光電
ファントム内に希釈造影剤をクロック状に配置した単純なファン
効果が支配的となり,ヨードの造影効果は高くなる[11]
.TOSHIBA
トムであり,体格の変化など造影効果に与える様々な因子を考慮で
社製の装置の実効エネルギーは,最も 33keV に近い値であったた
きていないため,1.3 倍という値がそのまま臨床に適応できるかは,
め,他の装置よりも高い造影コントラストを有したと考えらえる.
今後の検討課題である.また,本研究において,各装置におけるビ
また,本研究で使用した,FC14 という再構成関数は,ビームハー
ームハードニングによるCT値の誤差ならびにビームハードニング
38
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
補正の挙動による CT 値への影響が検証されておらず,今後の検討
課題である.
4.結語
本研究から,TOSHIBA 社製の X 線 CT 装置は,実効エネルギー
が最も低く,造影コントラストは最も高かった.また,TOSHIBA
社製の装置と同等の造影コントラストを得るには,その他の装置は,
造影剤量の増加が必要であることが明らかとなった.
参考文献
[1]市川勝弘, 村松禎久. 標準 X 線 CT 画像計測. 東京: オーム
社, 2010.
[2]Willi A.Kalender. Computed Tomography. Munich: Publics MCD
Werbeagentur GmbH, 2000.
[3]渡部洋一, 金森勇雄, 安田憲幸, 他. 診療画像検査法 医用放
射線計測学. 東京: 医療科学社. 2000.
[4]室賀浩二, 八町淳. マルチスライス CT における造影技術.
INNERVISION 別冊付録 2007; 22(8): 8-13.
[5] 新田見耕太, 能登義幸, 八木下裕子. CT 装置間における造影
効果の比較. 日本放射線技術学会総会学術大会予稿集 2011;
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[6]飯田泰治, 能登公也, 三井 渉,他. 銅製パイプ型吸収体を用い
た新しい実効エネルギー測定法. 日本放射線技術学会誌
2011;67(9): 1183-1191.
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京都: 日本放射線技術学会, 2007.
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日本放射線技術学会, 1995.
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放射線物理. 東京:金原出版, 2012.
[10]Kyongtae T. Bae. Intravenous Contrast Medium Administration and
Scan Timing at CT. Radiology 2010; 256(1): 33-61.
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日本放射線技術学会誌 2011; 67(11): 1461-1467.
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現性の基礎的検討. 日本放射線技術学会誌 1997; 53(1): 13-18.
39
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
13011 スペクトラル CT による造影剤濃度の定量表示に関する基礎検討
岩元新一郎*,山口功*
*大阪物療大学保健医療学部
緒言
〒593-8328 大阪府堺市
付加してシミュレーションを行った.
現在臨床で使用されているエネルギー積分型検出器を用いた X
シミュレーションと画像再構成に関するすべてのプログラムは
線 CT 装置は連続 X 線束を検出しているため,
1 回の X 線照射によ
MATLABTM (R2012b,MathWorks)で記述して PC 上で計算を行
り得られた一つの投影データからは元素固有のエネルギー情報が
った.シミュレーションの具体的方法は次の通りである.
正確に CT 値に反映されず,特定の物質組成情報を正確に定量化し
て画像表示することができない[1]
.近年,エネルギー積分型検出
1.1 シミュレーションに用いた X 線スペクトル
器を用いて異なる2種類の管電圧で2つの投影データを取得して物
X 線管から放出される連続X線の発生はTuckerらの半実験式
[4]
質弁別(Material Decomposition: MD)を行うことが可能な Dual
を用いて PC 上で管電圧 80 kVp および 140 kVp の模擬の連続 X 線
Energy CT(DECT)が臨床の現場に普及してきた[2]
.DECT では
スペクトルを発生させた.
シミュレーションに用いた X 線の 1 mAs
スライス面内の物質のエネルギー情報をある程度定量的に再構成
あたりのフルエンススペクトルを Fig.1 に示す.X 線管のターゲッ
画像表示することが可能となるが,現在実用化されている DECT
トはタングステン 90%+レニウム 10%,ターゲット角は 10 度, X
は一つのスライス面のエネルギー情報を得るために異なる管電圧
線管総ろ過 2.7 mmAl 当量とした.光子エネルギーのサンプリング
の 2 回の X 線照射を必要とし,さらに X 線スペクトルの低エネル
間隔は 1 keV とした.発生 X 線の 1 mAs あたり総光子数,X 線管
ギー成分のオーバーラップが MD の精度を劣化させることになる.
焦点を見込む中心軸上 1 m の位置における 1 mAs あたりの空気カ
一方で,最近エネルギー弁別型光子計数検出器(Photon Counting
ーマ,Al 当量半価層とその実効エネルギーおよび発生光子平均エ
Detector: PCD)の技術開発が進み,Full Spectral CT(FSCT)の実用
ネルギーは Table 1 に示す通りである.投影に用いた入射 X 線量に
化へ向けての研究が実験室レベルで進んでいる[3]
.FSCT では 1
ついては,DECT の mAs 値は低管電圧と高管電圧との mAs 値の配
回の X 線照射で複数のエネルギーレンジの投影データを同時収集
分を 2:1 とした.
FSCT の mAs 値は,
アイソセンターにおける DECT
することができ,3 種類以上の物質弁別画像の同時取得が可能とな
の低管電圧と高管電圧との合計 mAs 値を指標として,その合計
る.また,DECT と比較してエネルギーレンジのオーバーラップが
mAs 値と等しくなる mAs 値を FSCT の mAs として設定した.
極端に小さいことから,精度の良い物質弁別画像が得られると期待
本シミュレーションでは理想的光子数計数型検出器を想定して
されており,X 線吸収体の元素組成について定量的情報を明らかに
いるため,個々の検出器に到達した光子は 100 %計数されるものと
することが可能となる.このことは,例えば造影 CT 検査における
仮定し,検出器の検出効率は 1 とした.FSCT のビン数は光子エネ
造影剤投与量の決定やコントラスト増強効果の確認について機種
ルギー10 keV~140 keV の範囲に対して 6 とした.ビン毎のエネル
間の依存性を排除した定量的評価が可能なことを示唆している.
ギーウィンド閾値,ビンあたりの平均光子エネルギーおよび入射光
そこで,本報告では理想的な PCD を想定して,FSCT のコンピ
子数を Table 2 に示す.
ュータシミュレーションを行い,X 線 CT 造影検査における低濃度
ヨードの定量表示(mg・ml-1)の可能性について基礎検討を行う.
1.2 投影の幾何学的配置と画像再構成
さらに,低 X 線量でも低濃度ヨードの定量表示が十分可能である
CT 投影は現在臨床で用いられている CT 装置を模倣して幾何学
ことを示し,近い将来の FSCT の実用化へ向けて臨床的有用性が確
的パラメータを決定した.シミュレーションを行った CT の幾何学
認できたことを報告する.
的パラメータを Table 3 に示す.FSCT と DECT の幾何学的パラメ
ータおよび再構成法はすべて同じとした.検出器のスライス面に対
する z 方向(axial 軸)の検出特性は理想的な矩形を呈するものと
1.方法
X 線CT造影検査で使用されているヨード含有造影剤を想定して,
仮定して画像再構成を行った.これらのパラメータは現在臨床で用
パーソナルコンピュータ上で血中ヨード濃度の異なる複数のディ
いられている標準的な CT 装置に近い幾何学的配置となっている
スクからなる水背景の模式的な数値ファントムを作成して MD の
[5]
.再構成 FOV(Field of View)200 mm による再構成画像のピ
シミュレーション実験を行った.エネルギー積分型検出器による
クセルサイズは0.391 mm×0.391 mm である.
画像再構成は,
Filtered
DECTのMDシミュレーションも同時に行い定量精度をFSCTの結
Back Projection(FBP)法を用いた.FBP の再構成関数は Hamming
果と比較した.FSCT と DECT の MD の精度を公平に比較するため
関数とした.
に,線量(空気カーマ)が同一となるように mAs 値を設定した.
また,雑音の影響を確認するために,量子雑音と検出器出力雑音を
1.3 数値ファントムの作成
40
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
x 10
photon fluence
(photons/keV/mAs/sr)
2.5
目次
12
Table 1. X-ray spectrum quality for 80kVp and 140kVp tube voltage calculated
from Tucker's model following Ref.4.
140 kVp
80 kVp
2
1.5
Air Kerma
tube voltage photons
-1
(kVp)
(mAs-1/rot) (μGy・mAs
at 1m)
HVL-Al
(mm)
effective
energy
(keV)
mean
energy
(keV)
80
6.4×108
58.0
5.53
44.1
44.3
140
1.7×109
106.5
8.78
57.9
59.4
1
0.5
Table 2. Energy bin arrangements used for FSCT acquisition.
0
0
20
40
60
80
100
120
140
photon energy (keV)
Fig.1. Simulated x-ray tube spectrum for 80kVp and 140kVp tube
voltage calculated from Tucker's model following Ref.4. The total
pre-filtration was 2.7 mm Al.
 18 cm
3.2 mg-I/mL
 1.8 cm
Water
7.3 mg-I/mL
bin-1
bin-2
bin-3
bin-4
bin-5
bin-6
energy window
(keV)
10-32
33-54
55-74
75-94
mean photon
energy (keV)
27.5
43.6
62.5
84.0
103.5
123.0
incident photons
per detector (mAs-1)
163
567
471
183
115
51
95-114 115-140
Table 3. Summary of scan parameters of the full spectral CT and dual energy CT systems.
2.1 mg-I/mL
5.2 mg-I/mL
bin no
1.1mg-I/mL
parameters (FSCT,DECT)
simulation
SDD(Source to detector distance)[mm]
1025
SCD(source to center distance) [mm]
Blood (1.06 g/cm3)
12.3 mg-I/mL
10.3 mg-I/mL
570
ファン角
52.14°
検出器列数
1×769
Collimation (スライス幅) [mm]
1.0
View数/360°
700
再構成FOV(Field of view) [mm]
再構成ピクセルサイズ [mm]
Fig.2. Schematics of contrast phantom including iodine contrast with
different concentrations.
200
0.391×0.391
再構成法
FBP(filtered back projection)
再構成フィルタ
Ramp × Hamming window
原子量である. blood は文献[6]のデータから 1.06 g/ml とした.
MD の精度を確認する目的で背景が水の円柱状ファントムを PC
上で作成した.水の線減弱係数を用いて 512×512 のマトリクスサ
iopamidol 原液のヨード濃度は製薬会社のデータシート[8]に基づ
イズ上に,直径 180 mm の円柱を背景として作成し,MD 用として
いて 300 mg/ml とした.
血液で希釈した濃度 1.1 mg/ml~12.3 mg/ml のヨード造影剤を想定
したディスク7個および血液のみのディスク1個をクロック状に埋
1.4 投影データの作成と雑音モデル
め込んだ.数値ファントムの作成に用いた線減弱係数の値は光子エ
DECT および FSCT の投影データは次式を用いて作成した.
ネルギー10 keV から 80 keV および 10 keV から 140 keV までそれぞ
n, m
 n, m

PL, H   ln
( y i  i )  Ei   d   ln
y 0,i Ei


i 1
 i 1

(2)
k
 k

Pbin   ln
( y i  i )   d   ln
y 0, i
 i 1

i 1
(3)

れ 1 keV ごとに水および造影剤のヨード濃度に対応する線減弱係
数を内挿法により求めた.内挿に用いた質量減弱係数および密度の
データは XCOM-プログラム[6]の出力データによる.シミュレ

ーションに用いたファントムの概要を Fig.2 に示す.
シミュレーションに用いた造影剤は,X 線 CT 造影検査でよく用


いられている iopamidol (分子構造 C17H22I3N3O8 ,分子量 777.09)
PL, H は DECT の低管電圧および高管電圧における投影データ,
をモデルとした.造影剤の元素成分を XCOM プログラムに入力し
Pbin は FSCT の各ビンで取得する投影データである. Ei は光子エ
て光子エネルギー1 keV 毎のヨードの質量減弱係数のデータを得た.
ネルギー, y0,i および yi はそれぞれ検出器当たりのファントム入
I
シミュレーションに用いたヨードの質量パーセント濃度 m%
とモ
射光子数およびファントム透過光子数, n , m はそれぞれ DECT
I
ル濃度 n の関係は次式を用いた[7]
.
nI 
の低管電圧および高管電圧の光子エネルギーチャネル数, k は
FSCT の各ビンの光子エネルギーチャネル数である.  i および  d
I
nIO  M I
.
I

1  nIO  M I

1
  IO
I

 Blood  m%

(1)
はそれぞれ量子雑音および検出器出力雑音である.  i は y0,i に対
応するポアソン雑音,  d は標準偏差 5 のガウス雑音を用いた.
I
ここで,  IO は iopamidol 原液の比重, blood は血液の比重, nIO
1-5 DECT および FSCT のヨード濃度推定法
および M I は iopamidol 原液のモル濃度(mol/cm3)およびヨードの
DECT のヨード濃度推定法は次の通りである.Lehmann らによる
41
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
(c)
FSCT water
(65keV)
SECT
synthesis (65keV)
200
200
100
100
0
0
-100
-100
-200
-200
-300
(b)
FSCT water
(65keV)
DECT
iodine
image
300
HU
HU
300
measured concentration (mg/ml)
(a)
FSCT water
(65keV)
DECT
synthesis (65keV)
目次
-300
(d)
FSCT water
(65keV)
FSCT
iodine
15
image
15
mg/ml
mg/ml
10
5
0
0
0.9807xx
y y==0.981
0.9933
(rR²==0.997)
5
□ DECT 300mAs ○ FSCT 209mAs
0
0
5
10
15
線束の 1 mAs あたりのアイソセンターでの空気カーマは DECT で
低管電圧および高管電圧の合計値が 0.228 mGy,
FSCT で 0.326 mGy
である.MD により得られた再構成画像の造影剤ディスク上に直径
11.25 mm(613 ピクセル)の region of interests(ROI)をとり,その
平均ピクセル値を測定した.各 mAs 値における測定については,
同一ファンビーム投影による画像再構成(雑音のみ異なる)を 5
と,投影データは次式によるべき級数で近似できる[9]
.
ここで, 
10
Fig.4. Correlation curves of iodine found as a result of material
decomposition algorithm with DECT and FSCT.
Fig.3 . Material decomposition with DECT and FSCT. (a),(b): DECT
images. (c),(d): FSCT images. Upper columns are water equivalent
images and lower columns are iodine concentration images.
(This figure is in color only in the electronic version)
2
2

PL  k1 w  k2 I  k3 w  k4 I  k5 w I

2
2

PH  k6 w  k7 I  k8 w  k9 I  k10 w I
y = y1.184
x
= 1.1841x
(r =R²0.999)
= 0.9981
nominal concentration (mg/ml)
10
5
15
回繰り返して行い,5 回測定の平均 ROI 値を造影剤の推定濃度
(mg/ml)とした.以下,シミュレーションを行った結果とその比
(4)
較評価を明確にするために,結果と考察を同時に進めることにする.
は吸収体の面積密度(g・cm-2)
,添字 W および I はそれ
ぞれ水およびヨードを表している.数値ファントムを投影する前に
あらかじめ既知厚  W と  I を種々に変化させて得られた線ビーム
2.1 MD 再構成画像の比較
投影値の集合から Simplex 法を用いて式(4)の未定係数 k1 ~ k10 を
DECT および FSCT の再構成画像の結果を示す.DECT の合計 mAs
決定しておき,数値ファントムの投影から得られた 2 つの投影デー
タ PL および PH から Newton-Laphson 法を用いて未知厚  W と  I
値は 300 mAs,FSCT の mAs 値は 209 mAs である.図のそれぞれ
の推定解を得た.
はヨード濃度画像を疑似カラー表示した画像を示してある.水等価
FSCT の MD は Riederer らの K-egde 法を用いて行った[10]
.各
ビンから得られた投影データ P1 ~ P6 について,
画像は 65 keV の水の線減弱係数を用いて hounsfield units(HU)で
m
m
m
 P1    ph ( E1 )  com ( E1 )  I ( E1 ) 


P   m
m
m
 t, ph 
 2     ph ( E2 )  com ( E2 )  I ( E2 )  
t,
com


 





   m
 I
m
m

 P6    ph ( E6 )  com ( E6 )  I ( E6 ) 
Fig.3 にアイソセンターにおける空気カーマが68.5 mGy のときの
上欄は 65 keV の水の質量減弱係数で再構成した水等価画像,下欄
画像表示してある.ヨード分離画像を比較すると,両者とも血液の
みのディスクが完全に分離されていること,また 1.1 mg/ml~12.3
mg/ml のすべてのヨードディスクについて,ヨード濃度に応じて明
確に分離されていることが確認できるが,FSCT の方が DECT より
(5)
も雑音の影響が極端に少なく,各濃度のコントラストが明瞭に識別
できることが視覚的にはっきり確認できる.
の関係から非負制限最小二乗法により光電効果成分  t, ph ,コンプ
2.2 ヨード推定濃度の一致性の比較
トン効果成分  t,com およびヨード厚  I に分離してヨードの未知厚
ヨード分離画像から測定したディスク設定濃度と推定濃度との
m
 I を推定した.ここで,  m
ph (E ) および com ( E ) はそれぞれ各ビ
切片 0 の一次式相関の結果を Fig.4 に示す.DECT および FSCT の
ンの光子平均エネルギー E における水の質量減弱係数の光電効果
mAs 値はそれぞれ Fig.1 と同じである.両者ともにほぼ完全な相関
成分とコンプトン散乱成分,  I ( E ) は各ビンの光子平均エネルギ
m
結果を示しているが,近似直線の傾きから DECT では設定濃度に
ー E におけるヨードの質量減弱係数であり,添字 1~6 はビン番号
対し,約+18%程度の過大評価となっている.一方で,FSCT では
を表している.DECT および FSCT で必要な質量減弱係数の値は文
2%弱の過小評価となっているが,DECT と比較して既知濃度と推
献[6]の出力データを内挿して計算を行った.
定濃度は非常によく一致していることが確認できる.
2.結果と考察
2.3 ヨード濃度推定誤差の線量依存性
シミュレーションは DECT の合計 mAs 値を 30 mAs から 3,000
DECTおよびFSCTのヨード濃度推定誤差の線量依存性を測定し
mAs(FSCT の mAs 値は 21 mAs から 2,088 mAs の範囲)の 9 段階
た結果を Fig.5 に示す.図の横軸は空気カーマ,縦軸は設定濃度値
に変化させてそれぞれの MD 再構成画像を得た.投影に用いた X
に対する推定濃度値の平均百分率誤差を示している.図から DECT
42
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
percent average error (%)
20
10
0
-10
DECT 5.2mg/ml
DECT 10.3mg/ml
FSCT 5.2mg/ml
FSCT 10.3mg/ml
-20
10
1
10
contrast to noise ratio (CNR)
目次
2
DECT 1.1mg/ml
DECT 3.2mg/ml
FSCT 1.1mg/ml
FSCT 3.2mg/ml
10
0
10
-1
10
1
10
2
Air Kerma at isocenter (mGy)
Air Kerma at isocenter (mGy)
Fig.6. Contrast to noise ratio of iodine concentration versus air kerma
at iso-center for DECT and FSCT.
Fig.5. Percent average error of iodine concentration versus air kerma
at iso-center for DECT and FSCT.
では 7 mGy から 700 mGy までの範囲で,+15%から+20%弱と大
も残されているが,近い将来には FSCT 装置に必要な性能を達成で
きな誤差を示している.一方で,FSCT では,20 mGy より少ない
きるものと考えられる.本シミュレーションでは理想的検出器を想
線量では-10%程度と誤差が大きくなるが,線量が 40 mGy を超え
定しているが,DECT と比較して FSCT では造影剤濃度の定量精度
るあたりからは設定濃度に対し約-2.5%から+3.5%の範囲で,線
が著しく向上する結果を示したことから,機種に依存しない定量濃
量に関係せずほぼ一定の誤差を示している.FSCT の低線量におけ
度表示の可能性を示唆できたことの臨床的意義は大きいと考える.
る推定誤差の拡大については,今後詳細に検討する必要があるが,
推定アルゴリズムに最尤推定法を取り入れるなど,雑音にロバスト
参考文献
な推定法を用いることで,低線量部分の推定精度を向上させること
が可能と考えている.
[1]Alvarez RE. and Macovski A. Energy-selective reconstructions in
2.4 CNR の線量依存性の比較
X-ray computerized tomography. Phys. Med. Biol. 1976; 21(5):
雑音が低ヨード濃度の MD 再構成画像の推定値におよぼす影響
733–744.
を調べるために,背景となる各ディスクの周囲に 648 ピクセルの
[2]Ko JP, Brandman S, Stember J, et al. Dual-energy computed
ROI をとりディスクの ROI 値との contrast to noise ratio(CNR)を測
tomography: concepts, performance, and thoracic applications.
Journal of thoracic imaging 2012; 27(1) 7–22.
定して DECT と FSCT の比較を行った.造影剤濃度 1.1 mg/ml およ
[3]Roessl E, Brendel B, Engel K-J, et al. Sensitivity of photon-counting
び3.2 mg/mlのときの空気カーマ対CNRの比較結果をFig.6に示す.
1.1 mg/ml の低濃度では,線量によらず FSCT が DECT の 2.5 倍以
based K-edge imaging in X-ray computed tomography. IEEE Trans.
上の CNR 値を確保していることが確認できる.また,3.2 mg/ml
Med. Imag. 2011; 30(9):1678–1690.
[4]Tucker D, Barnes G, and Chakraborty D. Semiempirical model for
設定濃度においても,CNR 値 2 を確保するのに必要な線量を比較
generating tungsten target x-ray spectra. Med. phys. 1991;18(2)
すると,
FSCT の約 70 mGy
(209 mAs)
に対して DECT は約 140 mGy
211-218
(600 mAs)と約 2 倍の線量を必要としている.このことは,同じ
[5]Shikhaliev PM and Fritz SG. Photon counting spectral CT versus
CNR を得るのに FSCT は DECT の半分程度の線量で達成可能であ
conventional CT: comparative evaluation for breast imaging
ることを示唆している.
application. Phys. Med. Biol. 2011; 56(7): 1905–1930.
[6]Berger MJ, Hubbell JH, Seltzer SM, et al. XCOM: Photon Cross
2.5 結論
Sections Database 1999. [Online] Available
以上のシミュレーション結果から,次のことを確認した.
http://www.nist.gov/pml/data/xcom/index.cfm.
(1) FSCT は DECT と比較して高い精度で血液とヨードの分離が可
[7]Roessl E and Proksa R. K-edge imaging in x-ray computed
能である.
tomography using multi-bin photon counting detectors. Phys. Med.
(2) FSCT は DECT と比較して分離したヨード濃度と既知濃度との
Biol. 2007; 52(15):4679–4696.
非常に良い一致性を示す.
[8]http://www.bayer-hv.jp/hv/products/.
(3) FSCT は DECT と比較して雑音の影響が大きい低線量において
[9]Lehmann LS, Alvarez RE, Macovski A, et al. Generalized image
も低濃度ヨードの高コントラストが確保できる.
combinations in dual KVP digital radiography. Med. Phys. 1981;
8(5): 659–667.
3.結語
[10]Riederer SJ and Mistretta CA. Selective iodine imaging using
FSCT はまだ実用化されておらず,また,FSCT 装置へ装備する
K-edge energies in computerized x-ray tomography. Med. Phys.
ために求められる検出器の応答特性等の性能に関する物性的課題
1977; 4(6): 474–481.
43
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
320 列 CT を用いた胸部検査における心臓辺縁部の
13012
モーションアーチファクト低減の検討
安田秀剛*,西丸英治*,木口雅夫*,河野信吾*,石風呂実*,粟井和夫**,大倉保彦***
*広島大学病院診療支援部
〒734-8551 広島市南区霞 1-2-3
**広島大学病院放射線診断科
〒734-8551 広島市南区霞 1-2-3
***広島国際大学保健医療学部診療放射線学科
〒739-2695 広島県東広島市黒瀬学園台 555-36
の遊技鋼球と自作の発射台を用いた.
緒言
TSP の測定に用いた撮影条件を以下に示す.管電圧:120 kV,管
胸部 CT 検査において,心臓辺縁部では心拍動によるモーション
電流: 100 mA,公称スライス厚を 0.5 mm とし,再構成間隔が十
アーチファクトが画像診断において問題となることがある.心拍動
分に細かい間隔となるように再構成間隔を 0.1 mm とした.
によるモーションアーチファクトの影響は,時間分解能と密接な関
係があると報告されている[1]
.320 列 CT では,収集列モードに
1-3 スライス厚特性
よって撮影条件に制限があり,それらの時間分解能の特性を把握す
微小金属球(直径:0.7 mm ,鋼製)を用い,公称スライス厚が
ることは重要である[2]
.
5.0 mm の slice sensitivity profile z-axis (SSPz)の形状および半値幅か
本研究の目的は,320 列 CT において各収集列モードの時間分解
ら実効スライス厚を算出して比較した[4].
能の最も高い撮影条件を検討し,胸部 CT 検査への臨床応用を目指
すことである.
1-4 各撮影条件下の被ばく線量の検討
1.方法
撮影範囲が 30 cm における dose length product (DLP)を比較した.な
胸部ファントム
(ラングマンファントム,
京都科学社製)
を用い,
お,DLP の値は装置の表示値を利用した.この時の automatic
1-1 使用装置および撮影条件
exposure control(AEC)の設定値は 13.0 とした.
CT 装置は,東芝社製 320 列 Aquilion ONE™ を使用した.
公称スライス厚を 0.5 mm 一定とし,撮影範囲が 30 cm 時において
1-5 動態ファントムによる評価
撮影条件の制限(1 秒で 160 mm の寝台移動を超えない)
,各収集
正確に1回転5秒の回転を行う自作ムービングファントムを各条
列モード(64,80,100,160)における総撮影時間が最も短い撮影
件下で撮影し,発生したアーチファクト長を二値化の下限値は一定
条件において検討した.
とし,手動で測定し比較した(3 回測定の平均値)
.
各収集列モードの撮影条件を Table 1 に示す.
2.結果
2-1 TSP の測定
Table 1 Scan conditions
各収集列モードにおける TSP の結果を Fig. 1 に示す.結果より
64 列収集モードにおいて,TSP の形状が狭小化し最も時間分解能
が高くなった.また TSP の半値幅の結果を Table 2 に示す.TSP の
半値幅の結果から center,off-center ともに 64 列収集モードの半値
幅の値がそれぞれ 224, 227 ms となり最も時間分解能が高くなっ
た.
1-2 時間分解能の評価
金属球を用いた市川ら時間分解能の測定法[3]を用いて temporal
sensitivity profile (TSP)の半値幅より 1 画像に含まれる時間分解能を
算出し比較した.また,市川らの測定法[3]に準じて直径 10.0 mm
44
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Table 3 Full width at half maximums (FWHMs)
on SSPz
Fig. 1
Comparison of temporal sensitivity profiles (TSPs).
Table 4 FWHM of TSP and SSPz with center and off-center, DLP and
Table 2 Full width at half maximums (FWHMs)
scan time with detector configurations.
on the TSP.
2-3 動態ファントムによる評価
自作ムービングファントムを用いたアーチファクト長の結果は,
64 列:36.0 mm , 80 列: 38.2 mm , 100 列: 41.3 mm , 160 列:42.0 mm
2-2
SSPz の測定
となり, 64 列収集モードが最も短かった.
各収集列モードにおける SSPz の結果を Fig. 2 に示す.
また,
SSPz
の半値幅の結果を Table 3 に示す.各収集列モードにおける SSPz
3.考察
の比較の結果,center,off-center ともに各収集モードのスライス厚
TSP の測定結果より, 64 列収集モードの時間分解能が最も高
に差は無かった.
かった(Table 4)
. この結果は,自作のムービングファントムによ
るアーチファクト長の検討においても同様となり TSP の結果の裏
付けとなった.この結果の要因としては,ピッチファクタ,X 線管
球の回転速度が最も速いことが影響していると考えられる.この事
により,高いピッチファクタ, 速い X 線管の回転速度は TSP の形
状を狭小化させ,時間分解能の改善に大きく影響することが確認さ
れた.また,SSPz の測定結果より,Table 4 に示すように各収集モ
ードの SSPz 形状および実効スライス厚に大きな差は認められなか
った.この結果より,どの収集モードでもノイズ特性およびコント
ラスト特性は同等であることが確認された.DLP の検討では,64
列収集モードが最も小さい値となった.これは,マルチスライス
CT の多列化によって体軸方向のスキャン範囲が画像再構成範囲よ
りも広くなるオーバースキャニングが主な要因と考えられるが,同
時に AEC の動作特性の影響が大きいと考える.尚,東芝社製 320
列 Aquilion ONE™はアクティブ・コリメーションが搭載されており,
Fig. 2 Comparison of slice sensitivity profiles (SSPz).
画像再構成に寄与しない X 線曝射域をコリメータによりカットす
ることで,画像診断に不要な X 線を低減する.これにより最大 20%
程度の照射線量を低減できる.AEC の動作特性の向上により被検
者の被ばく線量の低減が可能である.
45
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
4.結語
本研究の結果より,320 列 CT を用いた胸部 CT 検査において,
心拍動によるモーションアーチファクトの低減には, 1 画像あたり
の時間分解能が最も高い収集列モード:64 列,X 線管の回転速度:
0.35 s,ピッチファクタ:1.484 が最も適しており,被検者の被ばく
線量の低減にも貢献できると考える.
参考文献
[1]山本修司,上甲剛,利府俊裕,他.ハーフセコンド CT を用
いた肺野 HRCT における Cardiac Motion Artifact の検討.Med
Imag Tech 2001;19(2):115-123.
[2]Taguchi K, Anno H. High temporal resolution for multislice helical
computed tomography. Med Phys, 2000: 27(5); 861-872.
[3]市川勝弘,高田忠徳,原孝則,他.CT における時間分解能の
新しい測定法.日放技学誌 2008;64(9):1172-1176.
[4]Polacin A, Kalender WA, Marchal G. Evaluation of Section
Sensitivity Profiles and Image Noise in Spiral CT. Radiology
1992:185; 29-35.
[5]市川勝弘, 村松禎久. 標準 X 線 CT 画像計測. 東京: オーム
社, 2010.
46
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
心電図同期 CT 撮影法の X 線照射時間に関する検討
13013
山口 隆義*,高橋 大地*,中川 真吾*,森田真理*
*
北海道社会保険病院放射線部 〒062-8618 北海道札幌市豊平区中の島1条8丁目3番18号
緒言
て,心拍数(heart rate: HR)を 40,50,60,80,100 bpm と変化させ
冠動脈 CT 検査における前向きな心電図同期撮影法は,患者の被
た.
ばく低減に大きく寄与する事が知られている[1].
1-3-3. SFOV による影響
撮影時においては,R-R 間隔に対する心電図同期撮影法での X
1-3-1 と同様の固定条件で,PT が 0,50,100,150,200 ms の場
線照射位置や padding time (PT)の設定,もしくは,心電図同期再構
合において,SFOV を cardiac small (S), cardiac medium (DFOV, 9.6〜
成法での R-R 間隔に対する ECG-dose modulation の範囲設定などが
36 cm, M), cardiac large (DFOV, 9.6〜50 cm, L)と変化させた.
行われており,
これらの設定によって被ばく線量は変化する.
一方,
1-3-4. 管電圧による影響
X 線照射範囲等の制御精度に関する報告は,画像 SD 値から
ガントリ回転速度は 0.35 s/rotation,SFOV は cardiac small,PT は
ECG-dose modulation の精度を評価したものはあるが,心電図同期
0 ms,心拍数は 60 bpm に固定し,管電流が 300 mA の場合におい
撮影法における実際の X 線照射時間を計測した報告はまだない.
て,管電圧を 80,100,120,140 kV と変化させた.
今回,この心電図同期撮影法の X 線照射時間を,半導体線量計を
1-3-5. 管電流による影響
用いて実測したので報告する.
1-3-4 と同様の固定条件で,
X 線管電圧が120 kV の場合において,
X 線管電流を 50,100,200,300,400,600,800 mA と変化させ
た.
1-4. 非心電図同期撮影法における検討項目
1.方法
1-1. 使用機器
X 線管電圧は 120kV, X 線管電流は 300mA,
SFOV は small (DFOV,
X 線 CT 装置:Lightspeed VCT VISION (GE)
9.6〜32 cm)に固定し,ガントリ回転速度を 0.4,0.5,0.6,0.8,1.0
ECG stimulator:3150 Cardiac Trigger Monitor (Ivy)
s/rotation と変化させた場合の計測値の差異について検討した.
半導体線量計:Piranha CT Dose Profiler (RTI)
ファントム: 16-cmΦ 円柱アクリルファントム
1-2. X 線照射時間の計測方法
2.結果
16 cmΦ の円柱ファントムをガントリ中央の寝台外に配置し,フ
2-1. 心電図同期撮影法
ァントム中心部に半導体線量計を挿入した.Step and shoot 撮影を選
2-1-1. PT による影響
択し,以下の条件で半導体線量計を中心に各 3 回ずつ撮影を行い,
PT が 0 ms の場合では,X 線照射時間は 253 ms であった。また,
立ち上がりから立ち下がりまでを計測し,その平均値を X 線照射
PT を変化させた場合では PT が 0 ms の計測値に 2 倍の PT を加え
時間とした.
た値となった(Fig. 1).
1-3. 心電図同期撮影法における検討項目
scan field of view (SFOV),padding time (PT),X 線管電圧,X 線管
電流の違いによる X 線照射時間の差異について検討した.また,
管電圧および管電流に関しては,照射線量が安定している照射時間
中心部の 80 ms における線量率 (mGy/s)を計測し,その平均値を求
め,その平均値から 3%を超える領域を,立ち上がり時間 (rise time)
および立ち下がり時間 (fall time)として計測し,これらを X 線照射
時間から引いた値を安定時間と規定した.
1-3-1. PT による影響
管電圧は 120 kV, 管電流は 300 mA,ガントリ回転速度は 0.35
s/rotation,SFOV を cardiac small (display FOV: DFOV, 9.6〜32 cm)に
固定し,心拍数が 60 beat per minute (bpm)の場合において,PT を 0,
50,100,150,200 ms と変化させた.
Fig.1: Comparison of the exposure times between HRs
1-3-2. 心拍数による影響
1-3-1 と同様の固定条件で,PT が 0,100,200 ms の場合におい
2-1-2. 心拍数による影響
47
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
各 PT において,各心拍数間での X 線照射時間に有意差を認めな
かった(Fig. 2).
Fig.2: Comparison of the exposure times between HRs
Fig.4: The exposure dose rate distribution between tube currents in each focal spot
2-1-3. SFOV による影響
size
各 PT において,各 SFOV 間での X 線照射時間に有意差を認めな
Table.2: Comparison of the stable exposure times between tube currents
かった(Fig. 3).
2-2. 非心電図同期撮影法
ガントリ回転速度の変化と同様に X 線照射時間も変化し,計測
された X 線照射時間は,全てにおいてガントリ回転速度より約 10
ms 長かった(Table 3).
Table 3: Comparison of the exposure times between rotation times
Fig.3: Comparison of the exposure times between SFOVs
2-1-4. 管電圧による影響
各管電圧において,X 線照射時間を含む全ての計測値で有意差を
認めなかった(Table. 1).
3.考察
Table 1: Comparison of the exposure times between tube voltages
心電図同期再構成法の場合,使用する SFOV サイズに伴い画像
再構成に必要なファン角度が変化し,ハーフ再構成に要する照射時
間も異なる可能性が考えられる.しかしながら,今回の検討では,
SFOV による照射時間の変化は認められなかったため,今回使用し
た CT 装置における SFOV の制御は,ボウタイフィルタのみである
可能性が示唆された.
また,step and shoot 撮影のハーフ再構成では,画像表示上の時間
分解能は 227 ms と示されていたが,これと比較して照射時間は 26
ms の延長を認めた.
2-1-5. 管電流による影響
さらに,管電流を変化させた場合、照射線量の立ち上がりが緩や
各 X 線管電流を小焦点および大焦点群に区分し,照射線量グラ
かな領域を確認し,小焦点および大焦点領域における低い管電流で
フを比較すると,立ち上がり時間に変化がみられた(Fig. 4).計測値
の撮影ほど,照射線量の立ち上がり時間が長くなる傾向が認められ
の比較からも,各焦点サイズ群内で,低管電流ほど立ち上がり時間
た.よって,26 ms の照射時間の延長には,照射線量の立ち上がり
が長く,安定時間は短くなった(Table 2).
時間が加味されている可能性が考えられる.
48
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
一定の立ち上がり時間を想定した画像再構成が行われていると
すると,管電流の設定条件によっては安定する手前のデータを用い
ている可能性がある.さらに,逐次近似再構成法の普及と,ガント
リ回転速度の高速化による低管電流撮影を考えた場合,低管電流ほ
ど照射線量の立ち上がり時間が長く,これによる画質への影響も懸
念されるため,今後は,各焦点サイズにおける低管電流の制御精度
が重要になるものと考えられた.なお,PT の精度は高く,全ての
設定においてほぼ正確と考えられた.
非心電図同期の Step and shoot 撮影では,ローテーション時間よ
り約 10 ms の延長を認めた.従来の CT 装置ではモーションアーチ
ファクト抑制を目的にオーバースキャニングが用いられていたが,
現状の装置では考えにくい.以上より,この装置における照射線量
の立ち上がり時間は 10 ms 程度に設定している可能性が示唆され
た.
4.結語
前向きな心電図同期撮影法における X 線照射時間を実測した.
各焦点において低管電流ほど立ち上がり時間に遅延が認められた.
画像表示上の時間分解能との比較から,照射時間はこれを加味して
制御されていることを明らかにした.今後は他の CT 装置との比較
や,分割式ハーフ再構成法を前提とした心電図同期撮影についても
検討する予定である.
参考文献
[1]Earls JP, Berman EL, Urban BA, et al. Prospectively Gated
Transverse Coronary CT Angiography versus Retrospectively Gated
Helical Technique: Improved Image Quality and Reduced Radiation
Dose. Radiology 2008; 246: 742-753
49
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
13014 多列 CT における overbeaming, overranging の評価と dynamic z-collimator の動作
特性に関する検討
瓜倉厚志* **,市川勝弘***,原孝則****,中屋良宏*
*静岡県立静岡がんセンター画像診断科
〒411-8777 静岡県駿東郡長泉町下長窪 1007
**金沢大学大学院医学系研究科保健学専攻
***金沢大学医薬保健研究域保健学系
****中津川市民病院医療技術部
〒920-0942 石川県金沢市小立野 5-11-80
〒920-0942 石川県金沢市小立野 5-11-80
〒508-8502 岐阜県中津川市駒場 1522-1
緒言
再構成に寄与しない被ばくの定量的な把握は重要である.
X 線 CT の線量プロファイルは X 線管焦点サイズ,
ボウタイフィ
本研究の目的は,MDCT における overbeaming, overranging 同時
ルタ,熱膨張による焦点移動などの影響により変化する.Multi
評価可能な手法の考案と,dynamic z-collimator による X 線照射範
detector row computed tomography (MDCT) において,z 方向の検出
囲低減効果について検証することである.
器列に入射する X 線強度は均一であることが求められるため,X
線管球から照射される X 線束の半影部分は画像再構成に寄与しな
い (overbeaming)[1].MDCT における overbeaming の影響は,収集
1.方法
検出器列数やスライス厚によって変化することが知られている[2].
一方,ヘリカル機構を利用したスキャン法では,設定スキャン範囲
の外側まで X 線曝射が及ぶことが知られており (overranging),近
年の検出器列の多列化や,高い pitch factor (PF) 使用の際には画像
再構成範囲外の被ばく増加が懸念される[3-5].ヘリカルスキャンに
おける overranging の増加は,撮影範囲が短い小児や撮影範囲近傍
に重要臓器が存在する場合には無視できない[6].CT の多列化技術
に伴って増大する overranging を低減する技術として,dynamic
Fig. 2: Overview of the phantom. Acrylic cylinder and experimental setup of
z-collimator[7, 8]が搭載された装置が市販され普及しつつある (Fig.
cylinder wrapped around with imaging plate.
1).
1-1
ファントム概観
Fig. 2 に我々が考案したファントムの概観を示す.500 mm の直径
を有するアクリル製円筒型ファントムの円周上にイメージングプ
レート (IP, 35 cm × 43 cm, 5 枚) を配置した.
1-2
展開画像の作成
ファントム上にスキャン範囲を設定し,ヘリカルスキャンを行った.
IP から取得した画像を画像解析ソフトウェア (ImageJ 1.46r,
National Institutes Health, USA) を用いて結合し展開画像を作成した.
1-3
Fig. 1: Illustration of dynamic z-collimator. The collimator moves dynamically so
Overbeaming 測定
展開画像における X 線束軌道に対して垂直方向にプロファイルを
as to minimize the patient dose.
取得した.得られたプロファイルカーブの FWHM を計測した.た
一般に,overbeaming の測定にはフィルム法[9]などが用いられ,
だし,
ここで計測したFWHM はファントム表面における値である.
線量プロファイルの半値幅 (full width at half maximum: FWHM) を
一般的に overbeaming の測定は回転中心で行われるため,測定値
用いて評価される.Overranging の測定には線量計を用いた方法[4]
(mFWHM) から回転中心におけるビーム幅 (eFWHM) を算出する
などが用いられている.CT の画像再構成に直接寄与しない
必要がある.
overbeaming, overranging の定量評価において,同時に測定可能な方
回転中心におけるビーム幅 (eFWHM) は,既知の focus isocenter
法に関する報告はみられない.
distance (FID)[10]から focus surface distance (FSD) を求め (Fig. 3),次
臨床におけるスキャン条件の決定や線量の最適化において,画像
式に従って算出した.
50
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
eFWHM = mFWHM × FSD / FID
(1)
データ取得
1-4
Table 1: Scan parameters for this study.
さらに,次式を用いて線量効率[9] (dose efficiency: DE) を算出した.
Item
DE = BW / eFWHM
(2)
BW: 設定上のビーム幅 (mm)
θ
FSD = 350mm
80 mm
(0.5 mm × 160)
Tube voltage (kVp)
80
Tube current (mA)
10
Rotation time (s / rotation)
0.5
Pitch factor
mFWHM
32 mm
(0.5 mm × 64)
0.828, 1.484
0.869, 0.994
Scan-range (mm)
160
Active Collimator
with or without
CT 装置は体軸方向に 320 列の検出器列を有する Aquilion ONE
(Toshiba Medical Systems, Otawara, Japan) を使用した.本装置では最
FID = 600 mm
大 80 mm のビーム幅を用いたヘリカルスキャンが可能である.ま
た本装置には Dynamic z-collimator (Active Collimator: AC) が搭載さ
れている.Table 1 に撮影パラメータを示す.本検討においては,2
種類のビーム幅 (32 mm, 80 mm) を使用してデータを取得した.ま
た,Active Collimator による overranging 低減効果の評価には,そ
eFWHM
れぞれの BW において高い PF (1.484, 0.994) を選択した.
Fig. 3: Geometric layout for the overbeaming calculation.
尚,リファレンスとして標準的評価手法[5] を用いて overbeaming,
overranging の測定を行った.
1-3
Overranging 測定
2.結果
Fig. 4: Location of region of interest for measuring the overranging. The profile
curve was obtained along the z-direction.
展開画像全体に矩形の region of interest (ROI) を設定し,z 方向にプ
ロファイルを取得した (Fig. 4).
得られたプロファイルカーブの FWHM を測定し,次式を用いて
overranging を算出した.尚,overranging はヘリカルスキャンの開
始部分と終了部分に生じるが,本検討においてはその片側のみの評
価を行った.
Overranging = {(FWHM – scan-range) + overbeaming} / 2
(3)
また,dynamic z-collimator の有無における overranging を測定し,
その低減効果について評価した.
Fig. 5: Images obtained from exposured imaging plates for various BWs and PFs.
(a): BW=32 mm, PF=0.828 (b): BW=32 mm, PF=1.484 (c): BW=80
mm, PF= 0.869 and (d): BW=80 mm, PF=0.994.
51
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Table 2: Results of overbeaming and dose efficiency at various beam width and
pitch factor.
Beam width (mm)
Pitch factor
32.0
80.0
eFWHM (mm)
Reference
39.96
0.80
0.828
39.71
0.81
1.484
39.96
0.80
Reference
84.38
0.94
0.869
89.49
0.89
0.994
90.46
0.88
100
Reference
Current study
90
80
Over-ranging [mm]
DE
70
68.97
69.18
75.83
73.08
80 mm
PF: 0.869
80 mm
PF: 0.994
60
50
41.14
37.69
40
30
22.77
21.43
20
10
Fig. 7: Images obtained from exposured imaging plates with (b, d) and without (a,
0
32 mm
PF: 0.828
32 mm
PF: 1.484
c) Active Collimator. (a, b): BW=32mm, and (c, d): BW=80mm.
Fig. 6: Overrangings for various beam widths and pitch factors. Maximum
and 80 mm, respectively.
50
作成した展開画像を Fig. 5 に示す.また,overbeaming の測定値を
Table 2 に示す.BW 32.0 mm における eFWHM は約 40 mm,BW 80
mm では約 90 mm であった.DE はそれぞれ 0.8,0.9 であった.ま
た eFWHM は PF に関わらずほぼ一定の値を示した.
54.19
40
41.14
30
20
10
0
各 BW における overranging の結果を Fig. 6 に示す.Overranging
w/o AC
は PF,BW が大きいほど増加し,BW = 32 mm において最大 41.14
Over-ranging [mm]
60
Over-ranging [mm]
overrangings were 41.14 and 75.83 mm for the beam widths of 32 mm
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
w/ AC
BW = 32 mm, PF = 1.484
mm (PF: 1.484),BW = 80 mm において最大 75.83 mm (PF: 0.994) で
89.52
75.83
w/o AC
w/ AC
BW = 80 mm, PF = 0.994
Fig. 8: Overrangings with and without an active collimator system.
あった.
Active collimator による overranging 低減効果を評価するために取
装置においても DE の改善が認められた.
得した展開画像を Fig. 7 に示す.2 種類の BW において Active
一方,BW および PF の増大によって overranging は増加し,本研究
Collimator の使用によりスキャン開始および終了部分にビームプ
で用いたスキャンパラメータにおいて最大約 75 mm であった.広
ロファイル形状の変化がみられた.Active Collimator の有無による
いBWによるヘリカルスキャンが可能なCT装置を臨床で用いる場
overranging の変化を Fig. 8 に示す.Overranging は BW =32 mm に
合,scan-range が短いにも関わらず広い BW,高い PF 設定を使用
おいて 54.19 mm から 41.14 mm,BW = 80 mm で 89.52 mm から
することで撮影範囲外の被曝が相対的に増大することは明らかで
75.83 mm に低減した.Overranging 低減率はそれぞれ 24.1%,15.3%
ある.
であった.
Overranging は dynamic z-collimator の使用による低減効果を認め
た.多列化技術の進む CT 装置のヘリカルスキャン使用において,
増大する overranging 低減のためには必須の機構である.尚,本研
3.考察
究で使用した Aquilion ONE に搭載されている Active Collimator は
Overbeaming は,BW 32 mm に比して 80 mm で小さく DE の向上を
通常使用において常に動作しているため,ユーザーがパラメータ設
認めた.X 線ビーム幅に対する半影の影響が,広い BW の選択に
定等で解除することはできない.
よって相対的に小さくなるためと考えられた.40 mm 程度までの
Shirasaka ら[12]は,128-detector row CT scanner (Brilliance iCT, Philips
BW を有する従来の CT 装置においても多列化によって DE が向上
Healthcare) を使用して spiral dynamic z-collimator による線量低減
することが知られており[11],本研究の結果から 64 列を超える CT
率に関する検討を行った.検出器幅 80 mm, PF = 0.99 における線
52
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
量低減率は 13.51% であった.測定方法が異なるため単純に比較す
[6]Kroft L. J., Roelofs J. J., Geleijns J. Scan time and patient dose for
ることはできないが,我々の研究において BW =80 mm, PF = 0.994
thoracic imaging in neonates and small children using axial
の線量低減率は 15.3% であり同等程度であった.
volumetric 320-detector row CT compared to helical 64-, 32-, and
我々が考案したファントムを使用した overbeaming,overranging の
16-detector row CT acquisitions. Pediatric radiology, 2010; 40(3):
測定値は従来法とほぼ同等であった.
1 回のスキャンでoverbeaming,
294-300.
overranging の 評 価 が 可 能 で あ り , 異 な る PF に お い て も
[7]小島英之, 辻村明日香, 矢部仁. 小児 CT 検査における
overbeaming は変化せず再現性も良好であった.通常,overbeaming
adaptive dose shield の有用性について. 日本放射線技術学会
の測定は X 線管球位置を固定した状態あるいはノンヘリカルスキ
雑誌, 2011; 67(1): 57-61.
ャンにて行われ,本手法のようなヘリカルスキャンを使用ながら
[8]Hsieh J. Computed Tomography: Principles, Design, Artifacts, and
overbeaming 測定を行った報告は他にみられない.また,大口径の
Recent Advances Second Edition. Washington: SPIE, 2009:
円筒型ファントムを用いることで PF を 1.0 以下に設定した場合に
448-451.
おいても異なる軌道の X 線プロファイルが分離して観察可能であ
[9]市川勝弘,村松禎久.標準 X 線 CT 画像計測.東京: オーム
るため overbeaming の測定が可能であった.さらに,dynamic
社, 2010.
z-collimator による overranging の低減だけでなく,コリメータによ
[10]The ImPACT group. Comparative specifications: 128 to 320 slice
る X 線ビームの形状変化をダイナミックに捉えることが可能であ
CT scanner technical specifications. CEP08028; 2009.
り,dynamic z-collimator の動作特性の評価にも応用可能である.
[11]Mahesh M. MDCT physics: the basics: technology, image quality
しかしながら本手法による評価においてはいくつかの制限をうけ
and radiation dose. Philadelphia: Wolters Kluwer Health, 2012.
る.まず大口径のファントムによる測定は多機種間の比較などにお
[12]Shirasaka T, Funama Y, Hayashi M, et al. Reduction of the
いて煩雑になるかもしれない.また,イメージングプレートを使用
unnecessary dose from the over-range area with a spiral dynamic
しているため,通常臨床で使用されるような撮影条件を用いること
z-collimator: comparison of beam pitch and detector coverage with
ができない.この問題はイメージングプレートの表面に鉛を付加す
128-detector row CT. Radiological physics and technology 2012;
ることで解決できる可能性があるが,今後の検討課題である.線量
5(1): 53-58.
評価なども考慮してガフクロミックフィルム[13]等を用いること
[13]宮沢正則. ガフクロミックフィルムを用いた線量分布測定法.
も考えられるが,ファントムの表面積が大きいため高価なガフクロ
日本放射線技術学会雑誌,2006; 62 (10): 1428-1436.
ミックフィルムの使用は汎用性に乏しい.
4.結語
本研究は,MDCT のヘリカルスキャンにおける新しいファントム
を用いた overbeaming, overranging 測定について検討し,dynamic
z-collimator による overranging 低減効果について明らかにした.
我々が考案した overbeaming,overranging 同時評価可能な測定手法
は,画像再構成に寄与しない X 線束による被ばくを把握する手段
として有用である.
参考文献
[1]石田隆行,桂川茂彦,藤田広志.医用画像ハンドブック.東
京: オーム社, 2010: 641-642.
[2] Rogalla P., Kloeters C., Hein P. A. CT technology overview: 64-slice
and beyond. Radiologic clinics of North America, 2009; 47(1), 1-11.
[3]Tzedakis A, Damilakis J, Perisinakis K, et al. The effect of z
overscanning on patient effective dose from multidetector helical
computed tomography examinations. Med Phys. 2005;32:1621–9.
[4]Schilham A, van der Molen AJ, Prokop M, et al. Overranging at
Multisection CT: An Underestimated Source of Excess Radiation
Exposure. RADIOGRAPHICS, 2010; 30 (4): 1057-1067.
[5]Tsalafoutas IA. The impact of overscan on patient dose with first
generation multislice CT scanners. Physica Medica, 2011; 27(2):
69-74.
53
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
13015
目次
被ばく低減を目的とした ECG-gated Scan における CNR を指標とした
低電圧撮影について
舛田隆則 今田直幸 奥 貴之 丸山尚也 稲田 智 山下由香利*,佐藤友保**
*医療法人あかね会土谷総合病院診療放射線室 〒730-8655 広島県広島市中区中島町 3-30
***医療法人あかね会土谷総合病院診療放射線科 〒730-8655 広島県広島市中区中島町 3-30
緒言
ROIb=バックグランドの平均 CT 値
1999 年に登場した心電図同期撮影により,
冠動脈検査が CT で可
SDb =バックグランドの標準偏差
能になり,冠動脈の評価において MDCT が有用であるとされてい
る.特に冠動脈カテ-テル検査に比べ侵襲性が低いため,冠動脈 CT
1-2 心電図同期撮影での CT-AEC
検査はスクリ-ニングとして用いられている[1-3]
.近年,MDCT
本装置の ECG gated scan では CT-AEC 機能が使用できない.そこ
装置の多列化および回転速度の高速化から,形態評価や機能評価の
で,CT-AEC 機能が使用できる Helical scan を利用し,心臓ファン
みならず心筋における潅流評価も注目されている[4]
.しかし,
トム上の画像ノイズ
(目標SD値)
およびその管電流値を取得した.
Mettler et al は冠動脈 CT 検査の実効線量は 16 mSV であり,他の検
管電流値は X 軸と Y 軸上の 2 つの値が表示されるが,今回は平均
査に比べ非常に高い値であると報告しており[5]
,冠動脈 CT の
値を代表値とした.スキャン条件は Table 1 で NI=25 である.つぎ
放射線リスクが懸念されている.
に ECG gated scan を選択し,管電流のみを適宜変化
(10mA~500mA,
被ばく低減法の1 つにCT-AEC
(自動管電流調整機能)
があるが,
20mA 間隔)させて画像ノイズを測定し,目標 SD 値が等価となる
心電図同期撮影(ECG gated scan)は開発段階にあり現状では使用
管電流値を求めた.同様にスキャン条件は Table 1 である.そして,
できない装置も多い.装置搭載の ECG gated scan 法での被ばく線量
両者の管電流値の比率(設定倍率)を算出した.
低減法として ECG Modulation 機能や撮影法の選択として
prospective scan( step-and-shoot scan)などがあるが,その他の被ばく
Table 1: Comparison of scan parameters between Helical scan and ECG-gated scan
線量低減法として低管電圧撮影がある.この方法は低管電圧での X
線出力エネルギ-が,33 kV のヨードの K 吸収端に近くなるためで
CT angiography において有効で幅広く使用されている[6-10]
.しか
し,120 kV での ECG gated scan の管電流設定が困難である中,低
管電圧 100 kV での管電流の設定は極めて困難である.
今回,120 kV における CT-AEC を利用した ECG gated scan の目
標管電流設定値を基に,造影効果を考慮した CNR と CT-AEC を使
用し,低管電圧 100 kV で目標管電流設定と被ばく線量低減が可能
であるか検証した.
1-3 対象症例
本研究は,retrospective study とし,当院の倫理委員会の承認を受
1.方法
1-1 心電図同期撮影での CNR
けた.2012 年 1 月から 2013 年 1 月における冠動脈 CT 検査を目的
CT 装置は,Lightspeed VCT (GE Helthcare)を使用した.フヨ-社
とした患者 200 名を対象とした.1 カ月以内の eGFR 値が 50
製の心臓ファントムを使用し,心臓ファントムの心内腔に冠動脈
ml/m/1.73m2 以下,以前にヨ-ドアレルギ-があったもの,不整脈症
CT 値 350 HU の希釈造影剤を封入した[11]
.100 kV と 120 kV の
例,心臓カテーテル検査にて治療歴があるもの,CABG 症例,管
2 種類の管電圧を使用し,心臓ファントムを各 5 回ずつ撮影した.
電流値が装置の上限に達した症例は除外した.
得られた画像から心内腔とバックグランドに直径 2 cm の ROI を設
定し各 CT 値と SD 値を 5 回ずつ計測した.
CT 装置における 100 kV
1-4 撮影 Protocol
と 120 kV での造影効果比を求め,得られた造影効果比を CNR(1)
200 例の患者のうち 100 例を 100 kV protocol 群に,
100 例を 120 kV
に代入し 100 kV と 120 kV における同一 CNR での CT 値と SD 値
protocol 群に分けた.検査手順としては,右手に 20 ゲ-ジの留置針
を算出した.
にて血管確保を行い,全症例にミオコ-ルスプレ-を使用した.心
ROI m  ROIb
CNR 
SDb
拍数 65 bpm 以上の患者に対し,
ランジオロール塩酸塩を使用した.
(1)
造影剤注入器 Dual shot GX (Nemoto)を使用し,テストインジェクシ
ROIm=信号体の平均 CT 値
ョン法で上行大動脈(AAO)に 2 cm 径の ROI を設定し,事前に撮影
54
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
開始時間をテストスキャン法から取得し,ECG-gated scan を行った.
造影剤は iomeprol350 (Iomeron 350; Eisai)を使用した.テストイン
240 mA と倍率係数は 5.5 倍となった.この手法を使用することに
より,
同一の画像ノイズレベルでの撮影が可能であった.(Table 3).
ジェクション法において造影剤量は 0.7mgI 使用し,ECG-gated scan
においては 2.45 mgI 用した.注入時間一定法を使用し,10 秒間注
入で注入速度は体重×0.07 ml/s とした.
1-5 被ばく線量
各患者と各 protocol での被ばく線量は,CT 装置のコンソ-ルに
表示される DLP 値を記録した.
1-6 定量的解析
100 kV protocol 群と 120 kV protocol 群の両群において,冠動脈が
分岐する上行大動脈(AAO)
,同レベルにおける脊髄部分の軟部組
織に直径 2.0 cm の ROI を設定し,CT 値,SD 値を各 5 回ずつ計測
Fig.1: Compare of Noise Index and SD value.
した.得られた CT 値 SD 値から CNR を算出し 100 kV protocol 群
と 120 kV protocol 群の両群で比較した.
1-7 視覚評価
得られた画像から VR 画像と curved MPR 画像を各群で作成し,
100 kV protocol 群と 120 kV protocol 群において視覚評価を 5 段階で
行った.Score 5 を Excellent とし 4 ; good ,3; far, 2; poor, 1; bad と設定
し Score 3 以上を診断可能とした.
1-8 統計解析
Fig.2: Estimation of tube current at ECG gated scan using CT-AEC
患者背景の患者数(男,女)
においては X2 検定,平均心拍数,年齢,
身長,体重と画像の比較評価においては student-T 検定を,被ばく線
Table 3:Comparison between 120kV protocol and 100kV protocol.
量と定量的解析における CT 値,SD 値,CNR に関しては,
Mann-whitneyU検定を使用した.統計学的な有意基準は P<0.05 と
した.
120kV protocol
100kV protocol
Helical scan
CT-ATC (SD25)
CT-ATC (SD25)
mA
40mA
45mA
2.結果
2-1 CNR
心臓ファントムの心内腔に120 kV でのCT 値を350 HU に設定し
ECG-gated Scan
SD25
SD30
mA
200mA
240mA
た時,100 kV では 420 HU となり,120 kV に比べ 100 kV では約 1.2
倍 CT 値が上昇した.
このことから 100 kV と 120 kV において CNR
2-3 患者背景
を同一にするためには, Noise Index 値を 1.2 倍に設定することが
100 kV protocol 群と 120 kV protocol 群において年齢,
身長,
体重,
可能である.よって 120 kV 使用時の設定 Noise Index を 25 と設定
心拍数において有意差は認めない(p>0.05, Table 4)
.
した時,100 kV 使用時では Noise Index 設定値を 30 に設定すること
により同一 CNR での撮影が可能である.
Table 4: Patient characteristics of 120kV protocol and 100kV protocol.
2-2 ファントム実験
CT-AEC が可能な Helical scan のノイズ設定値(Noise Index)と
120kV
100kV
P value
Patien t(m,f)
100(m,43;F,57)
100(m,48;f,52)
P=0.35
Age (y)
68.1±9.9
67.3±10.5
P=0.6
SD 値の関係を示す(Fig.1)
.Noise Index と SD 値は R2=0.996 と強
Heart rate (bpm)
58.1±9.5
60.3±8.56
P=0.06
い相関を示した.また,全ての Noise Index 値において設定値より
Height (cm)
153.9±4.8
154.4±4.4
P=0.5
SD は 1 低く(Noise Index25 で撮影した時の SD 値は 23.9)
,撮影時
Weight (kg)
57.79±10.2
56.65±11.3
p=0.2
はNoise Indexから1除した数をSD値と定義した.
よって,
ECG Scan
でのデータとして,管電流と SD 値の関係を示す(Fig.2)
.その結
2-4 被ばく線量
果,Helical Scan と ECG-gated scan の SD 値を同一の 25 に設定した
Fig.1 に 100 kV protocol 群と 120 kV protocol 群における各 protocol
時,
120kVでの管電流はCT-AECを使用したHelical Scan で40mA,
での DLP 値(mGy-cm)を示す.100 kV protocol 群の DLP 値は 597.5
ECG-gated scan で 200mA と倍率係数は 5.0 倍となった.同様に,
±290.1 mGy-cm,120 kV protocol 群の DLP 値は 877.2±277.1
管電圧 100 kV での管電流は Helical scan で 45mA,ECG-gated scan
mGy-cm であった.100 kV protocol 群では 120 kV protocol 群に比べ
55
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
約 40%の被ばく線量低減が可能であった(p<0.01, Fig.3)
.
**:p<0.001
DLP(mGy-cm)
**
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
100kV
120kV
Fig.3: Comparison of Radiation dose between 100kV and 120kV protocol
2-5 定量評価
Table 5 に 100 kV protocol 群と 120 kV protocol 群での上行大動脈
(AAO)と軟部組織の CT 値,
SD 値を示す.
100 kV protocol 群 120 kV
protocol 群と比較し約 1.2 倍程度 CT 値が高い結果となり,SD 値
Fig.5: Comparison of visualization between 100 kV protocol images and 120
においても約 1.2 倍程度 SD 値の上昇が見られた.よって 120 kV
kVprotocol images.
protocol 群に比べ,AAO の CT 値,軟部組織の CT 値,軟部組織
の SD 値は 100 kV protocol 群において有意に高値を示したが
3.考察
(p<0.01),
CNR においては有意差が見られなかった(p=0.09, Table 5).
冠動脈 CT の検査において様々な被ばく低減方法がある中,本
研究では CT-AEC を使用し,また CNR を指標とした低電圧撮影を
行うことにより被ばく線量の低減を実現した.120 kV protocol での
Table 5: Comparison of scanning parameter between 100kV and 120kV protocol
120kV
100kV
P value
CT-AEC を考慮した ECG gated scan の被ばく線量に比べ,本手法の
CT number of AAO [HU]
401.2±77.0
471.5±72.0
P<0.001
100 kV protocol での CT-AEC と CNR を指標にした撮影方法では約
CT number of soft tissue[HU]
30.4±3.9
37.4±4.8
P<0.001
40%放射線被ばくを低減することが可能であった.また,冠動脈
SD value of soft tissue [HU]
24.9±3.1
30.9±4.1
P<0.001
CT 検査において同一 CNR で視覚評価も同等であった.Murazaki et
CNR
14.75
14.25
P=0.09
al は CT-AEC を使用時同一な Noise 設定にもかかわらず,造影さ
れた画像の Image Noise は造影されていない Image Noise より高く
なる.低管電圧を使用すると画像コントラストが上昇する.よって
2-6 視覚評価
異なる管電圧間で Noise とコントラストを考慮すると,CNR が一
100 kV protocol 群と 120 kV protocol 群において,視覚評価に有意
差は認められない(p>0.05, Fig.4 )
.120 kV protocol で撮影した画像
定な場合において造影CT検査におけるCT-AEC 使用は被ばく線量
と 100 kV protocol で撮影した画像を Fig. 5 に示す.
を低減できると報告している[12,13]
.このことから CT-AEC で用
いる SD 値だけでなく組織コントラスト情報を加味した CNR を使
用することにより,被ばく線量低減が可能になったと考えられる.
United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic
Radiation Report 2008 では,CT 検査だけで全医療被ばくの半分であ
り,
CTによるがんのリスクが高まっているとの報告されている[14].
また,一般的に行なわれている他の CT 検査に比べ冠動脈 CT 検査
は被ばく線量が多く[15]
,更なる被ばく線量低減が必要であると
考える.今回我々は,低管電圧 100 kV での CT-AEC と CNR を指
標にした冠動脈 CT 検査において被ばく線量低減を可能としたが,
低管電圧 80 kV においては更にコントラストが上昇するため,より
一層の被ばく線量の低減が可能である.しかし,Lightspeed VCT に
おいては,100 kV と 120 kV での管電流上限値が 800 mA であるの
Fig.4: Comparison of visual evaluation between 100 kV and 120 kV protocol
に比べ,80 kV での管電流上限値は 675 mA と低い.このような制
限があるため小児や痩せた人の時のみ管電圧 80 kV の使用が可能
となる.現時点で心電図同期撮影 retrospective gating scan (half recon,
multi-sector recon)のみ評価を行っているが,prospective gating scan,
ECG-modulation や逐次近似再構成を併用することにより更なる被
56
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
ばく線量低減が可能である.また,最適な被ばく線量で安全な冠動
and diagnostic nucler medicine:a catalog.Radiology 2008;248(1):254-263.
脈 CT 検査を行うためには,装置に装備される被ばく線量低減機能
[6] Wintermark M, Maeder P,Verdun FR, et al. Using 80kVp versus
を使用するだけでなく,あらたな被ばく線量低減法の開発が必要で
120kVp in perfusion CT measurement of regional cerebral blood
あると考える.
flow.AJNR Am J Neuroradiol 2000;21(10):1881-1884.
本研究の限界点として 1 つ目は,CT-AEC はスカウト画像から
[7] Signal-Cinqualbre AB, Hennequin R,Abada HT, Chen X, Paul JF.
被検体のX線透過長を推定し,得られた管電流値に設定倍率を乗ず
Low-kilovoltage multi-detector row chest CT in adults:feasibility and
る値を ECG gated scan で使用するため,ECG gated scan で設定範囲
effect on image quality and iodine dose.Radiology 2004;231(1):169-174.
内の管電流値であれば本手法は可能であるが,これに当てはまらな
[8] Nakayama Y, Awai K, Funama Y, et al. Abdominal CT with loe tube
い場合は最大電流値での検査となる.よって女性,胸水や心のう水
voltage: preliminary observations about radiation dose,contrasut
がある患者に関しては設定管電流値が高くなり本手法での撮影は
enhancement,image quality, and noise.Radiology 2005;237(3):945-951.
困難になる.また,mA Table にて CT-AEC の Helical 時に表示され
[9] Ertl-Wagner BB, Hoffmann RT, Bruning R, et al. Multi-detector row
るX軸とY軸の平均の管電流を使用したが,極端に差がある場合は
CT angiography of the brain at various kilovoltage settings. Radiology
画像ノイズ増加することになる.
2004;231(2):528-535.
2 つ目として,
今回の被ばく線量の比較としては CT 装置のコンソ
[10] Waaijer A, Prokop M,Velthuis BK, Bakker CJ, de Kort GA, van
-ルに表示される DLP (mGy-cm)を使用している.Hurwitz et al は
Leeuwen MS. Circle of Willis at CT angiography: dose reduction and
CT コンソールに表示される放射線量に比べ,実測した実効線量が
image quality-reducting tube voltage and increasing tube current settings.
高いと報告しており[16]
,確実な比較を行うことは,今後実測値
Radiology 2007;242(3):832-839.]
での評価が必要であると考える.
[11] 山口裕之:よりよい心臓 CT 検査のために~撮影技術の現
さらに低管電圧を使用することにより CT 値が変化することが一
状と課題.INNERVISION(22・11): 59-64, 2007
番の問題点であると考える.冠動脈狭窄や心奇形を診断するのであ
[12] Murazaki H, Funama, Awai K et al. Optimal setting of automatic
ればコントラストが上昇し,被ばく線量も低減できるため有効であ
exposure control based on image noise and contrast on iodine-enhanced
ると考える.その一方,石灰化においてはブル-ミングア-チファ
CT. Acad Radiol. 2012 Apr;19(4):478-84.
クトが増加するため冠動脈の評価が困難になる.プラーク評価にお
[13] Funama Y, Sugaya ,Awai K et al. Automatic exposure control at
いては CT 値が変化するため,今までのデータと対比することが困
MDCT based on the contrast-to-noise ratio: theoretical background and
難になり,プラ-クの分別範囲が変化するため,新たなプラ-ク分
phantom study. Phys Med. 2013 Jan;29(1):39-47.
別範囲の設定が必要になる.管電圧変化による特徴を考慮した上で
[14] UNSCEAR 2008Report on the General Assembly with scientific
の使用が妥当である.
annexes,UNSCEAR 2008.
[15] Primak AN, McCollough CH,Bruesewitz MR,et al. Relationship
4.結語
between noise, dose, and pitch in cardiac multi-detector row CT.
冠動脈 CT 検査における心電図同期撮影において,本手法である造
Radiographics 2006;26(6):1785-1794.
影効果を考慮した CNR と CT-AEC を組み合わせた低管電圧 100
Kijewski MF, Judy PF. The noise power spectrum of CT images. Phys
kV を使用することにより,目標 SD 値の設定での検査が可能であ
Med Biol 1987; 32(5): 565-575.
り,管電圧 120 kV 撮影時に比べ,画質を担保した上で 40%被ばく
[16] Hurwitz LM, Yoshizumi TT, Goodman PC, et al. Effective dose
線量低減が可能であった.
determination using an antiropomorphic phantom and metal oxide
semiconductor field effect transistor technology for clinical adult body
参考文献
multidetector array computed tomography protocols. J Comput Assist
[1] Raff GL,Gallagher MJ, O,Neill WW,et,al. Diagnostic accuracy of
Tomogr 2007;31(4):544-549.
noninvasive coronary angiography using 64-slice spiral computed
tomography. J Am Coll Cardio l 2005;46(3):552-557
[2] Schffel H, Plass A,et al. Accuracy of dual source CT coronary
angiography:First experience in a high pre-test probability population
without heart rate control. Eur Radiol 2006;16(12):2739-2747.
[3] Nikolaou K,knez A,Rist C,et al. Accuracy of 64-MDCT in the
diagnosis of ischemic heart disease. AJR Am J Roentgenol
2006;187(1):111-117.
[4] Ko BS, Cameron JD,et al. Computed tomography stress myocardial
perfusion imaging in patients considered for revascularization: a
comparison with fractional flow reserve. Eur Heart J. 2012
Jan;33(1):67-77.
[5] Mettler FA,Huda W, Yoshizumi TT, et al.Effective doses in radiology
57
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
13016 頭部 CT 撮影における吸収線量の評価:頭部固定専用ホルダーおよび簡易固定
器具使用時の比較
横町和志*,西丸英治*,藤岡知加子*,木口雅夫*,石風呂実*,粟井和夫**
*広島大学病院診療支援部高次医用画像部門
**広島大学病院放射線診断科
〒734-0037 広島県広島市南区霞1-2-3
〒734-0037 広島県広島市南区霞1-2-3
緒言
頭部用ランドファントムを用い,Upper・Right・Left・Lower・
頭部 CT における簡易固定具は,救急撮影など抑制の難しい時に
Center にガラス線量計を挿入し,CT-AEC 動作下での Helical Scan
有用であるが,位置決め画像を用いて線量を決定する自動露出機構
および Step-and-shoot Scan を各々5 回撮影した.撮影条件は,ノイ
(automatic exposure control: AEC)動作時において,テーブルによる X
ズ測定時と同様とし,設定項目である NI は 2.8 とした.各々の線
線の吸収が撮影画像の画質や被ばく線量に影響を与える可能性が
量を測定し平均線量を求めた.
ある.
本研究の目的は,頭部専用固定具およびテーブルの上にスポンジ
1-4 統計解析
製の枕を置いただけの簡易的な頭部固定具を使用した時について,
測定結果は Student's t test を用いて統計解析を行い,有意水準
画像の均一性,線量について評価することである.
5%(p<0.05)とし評価した.
1.方法
2.結果
1-1 使用機器
2-1 再構成画像のノイズ測定
本研究では 64 列 MDCT 装置 LightSpeed VCT(GE ヘルスケア・
管電流固定で撮影したそれぞれの測定点における CT 値の SD を
ジャパン株式会社)を使用し,均一性評価ファントムとして ACR
Table 1 に示す.
CT Accreditation Phantom(Gammex inc.)
,線量測定用ファントムと
Table 1 Comparison of the image noise on scans obtained with the simple- and the
して RANDO Phantom(The Phantom Laboratories Inc.)
,線量計とし
dedicated head holder (fixed tube current, 200 mA)(HU)
て Glass Dosimeter System(株式会社千代田テクノル)を使用した.
また,頭部固定器具として装置付属の頭部固定専用ホルダー(専用
Upper
Right
Left
Lower
Center
固定具)およびスポンジ製の成人用簡易的固定具(簡易固定具)と
してランドフォーム(株式会社森山 X 線用品)を用いた.
Helical
dedicated
simple
3.38±0.08
3.74±0.15
3.54±0.05
3.58±0.11
3.56±0.15
3.6±0.07
3.48±0.04
3.74±0.11
3.86±0.21
3.98±0.13
P Value
0.002
0.098
0.246
0.003
0.030
**
**
Step-and-shoot
dedicated
simple
3.18±0.08
3.52±0.13
3.36±0.11
3.50±0.12
3.34±0.13
3.46±0.17
3.32±0.13
3.62±0.08
3.78±0.11
3.98±0.13
P Value
0.004
0.493
0.612
0.005
0.310
**
**
**:P<0.01
1-2 再構成画像のノイズ測定
固定具の違いにより測定点の Upper/Lower において有意差を認め
寝台が画質および CT-AEC の動作に及ぼす影響について検証す
た(Upper, P=0.002; Lower, P=0.003).Upper での Helical スキャンにお
るために,ノイズ測定は固定の管電流および CT-AEC を使用した 2
ける専用固定具および簡易固定具を用いた時の CT 値の SD はそれ
つの方法で行った.最初に,直径 20 cm の均一性評価ファントムに
ぞれ 3.38±0.08 HU,3.74±0.15 HU となり,Step-and-shoot スキャ
対し,Helical スキャンおよび Step-and-shoot スキャンを各々5 回撮
ンではそれぞれ 3.18±0.08 HU,3.52±0.13 HU となった.同様に
影した.撮影条件は,管電圧 120 kV,管電流 200 mA,収集スラ
Lower では,Helical スキャンでは 3.48±0.04 HU,3.74±0.11 HU と
イス厚 0.625 mm,再構成スライス厚 5 mm,再構成関数 Standard,
なり,Step-and-shoot スキャンでは 3.32±0.13 HU,3.62±0.08 HU
Helical Scan では pitch factor 0.531,Rotation time 0.7 sec/rot. ,
であった.Right, Left, Center において専用固定具と簡易固定具使用
Step-and-shoot Scan では Rotation time 2 sec/rot.とした.得られた再構
時の SD に有意差は認めなかった.また,すべての測定点の平均
成画像の Upper・Right・Left・Lower・Center の 5 箇所に regions of
SD の比較を Fig. 1 に示す.
interest(ROI)を配置し,ROI 内の CT 値の standard deviation(SD)
を測定した.なお,測定値には試料画像 3 枚の平均値を用いた.
次に,CT-AEC を使用し,Helical Scan および Step-and-shoot Scan
を各々5 回撮影した.設定 noise index(NI)は,当院の頭部撮影で
通常使用している 2.8 とした.なお,CT-AEC の線量決定に用いる
位置決め画像は,側面像にて取得した.
1-3 頭部ファントムを用いた線量の測定
58
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
すべての測定点において簡易固定具を用いた時の方が,専用固定具
を用いた時と比較し吸収線量が大きかった.すべての測定点の平均
吸収線量を Fig. 3 に示す.
Fig. 1 Comparison of the image noise on scans obtained with the simple- and the
dedicated head holder in the average of all measurement point. (fixed tube current,
200 mA)
Fig.3 Comparison of the radiation dose using the simple- and the dedicated head
Helical スキャンにおける専用固定具および簡易固定具を用いた時
holder in the average of all measurement point. (AEC ON, Noise Index 2.8)
の CT 値の SD はそれぞれ 3.56±0.18 HU,3.73±0.15 HU となり,
有意差をもって専用固定具を使用した時の方が吸収線量は小さか
Step-and-shoot スキャンではそれぞれ 3.40±0.23 HU,3.62±0.21 HU
った.
となった.画像内全体の CT 値の SD においては,有意差は認めな
かった(Helical, p=0.17, Step-and-shoot, p=0.15).
3.考察
CT-AEC を用いて撮影したそれぞれの測定点における CT 値の
頭部 CT 撮影は,脳出血や脳梗塞などコントラストのあまりつか
SD を Table 2 に示す.
ない画像診断・評価を求められることが多く,ノイズを最小限に抑
Table 2 Comparison of the image noise on scans obtained with the simple- and the
えるため,他の部位より撮影線量は多くなる.また,頭部の解剖学
dedicated head holder (AEC ON, Noise Index 2.8)(HU)
的構造上骨に囲まれている部位であるため線量増加に寄与してい
Helical
dedicated
simple
2.94±0.13 2.88±0.08
2.94±0.05 2.76±0.15
2.94±0.19 2.82±0.08
2.94±0.11 2.86±0.11
3.22±0.15 3.08±0.11
Upper
Right
Left
Lower
Center
Step-and-shoot
dedicated
simple
3.32±0.05 3.22±0.08
3.36±0.04 3.14±0.17
3.22±0.11 3.00±0.10
3.30±0.07 3.16±0.15
3.32±0.07 3.50±0.10
P Value
0.424
0.054
0.262
0.299
0.133
る.しかし撮影範囲には,水晶体など比較的高感受性の臓器も存在
P Value
するため可能な限り線量低減を行うべきである[1].線量を低減す
0.031
0.131
0.046
0.612
0.036
*
ることにより画像ノイズが増加し,診断に影響が出ないようにする
*
必要がある.そのため,診断に影響が出ない程度のノイズとした中
*
で最低線量を用いて撮影することが理想である[2].今回,これら
の検討を行う上で,これまでポジショニングについてあまり検討が
*:p<0.05
また,すべての測定点の平均 SD の比較を Fig. 2 に示す.
行われていないことに着目し,固定具の違いによる画質および線量
の違いを検討した.
電流固定で撮影した時のノイズ測定の結果より,簡易固定具を使
用した場合 Upper/Lower においてノイズの増加がみられた.これは,
寝台の上にスポンジ製の簡易固定具を置いて撮影していることに
よって,寝台による X 線の吸収による影響を受け Upper/Lower の
ノイズが増加したと考えられる.急性期の脳梗塞の観察はわずかな
CT 値の変化を観察するため,狭い Window width(WW)を設定する
Fig. 2 Comparison of the image noise on scans obtained with the simple- and the
必要がある.しかし,狭い WW を用いた場合にはノイズの影響を
dedicated head holder in the average of all measurement point. (AEC ON, Noise
受けることでわずかなCT値差を検出することは難しいとする報告
Index 2.8)
もある[3]. これらのことより,管電流固定で頭部 CT 撮影を行う
CT-AEC 使用時の各測定点および平均 SD において有意差は認めな
場合,簡易固定具を使用した場合,寝台の影響を受けノイズが増加
かった.
することより,WW を狭くして観察しなければならないような病
変を検出し難くしていると考えられる.
2-2 頭部ファントムを用いた吸収線量の測定
CT-AEC 動作下においてすべての測定点で差がみられなかった
頭部ランドファントムを用いた各測定点における吸収線量を
点について,今回の CT-AEC の設定に関して CT-AEC modulation の
Table 3 に示す.
設定を X-Y-Z modulation としたことで画像面内の均一性が保たれ
Table 3 Comparison of the radiation dose using the simple- and the dedicated head
たと考える.この機能は,体軸方向での変調に加え面内の X-Y 方
holder (AEC ON, Noise Index 2.8)(mGy)
向でも照射線量を変更するもので,体幹部などの楕円の形状に対し
Upper
Right
Left
Lower
Center
Helical
dedicated
simple
40.5±1.6
46.7±0.8
42.2±7.8
50.6±1.3
43.0±1.2
50.8±1.9
42.3±0.4
48.3±1.9
41.2±1.8
49.1±1.6
P Value
<0.001
<0.001
<0.001
0.002
<0.001
**
**
**
**
**
Step-and-shoot
dedicated
simple
57.3±4.8
76.7±3.4
61.7±5.9
70.6±3.3
59.1±3.7
71.5±3.2
57.1±4.5
66.2±1.5
57.7±6.2
66.8±3.3
ても画質を一定に保つ機能である[4].この機能を用いることで,
P Value
<0.001
0.003
<0.001
0.008
0.003
簡易固定具を使用した場合に寝台の吸収を補正するため
**
**
**
**
**
Upper/Lower 方向の線量が Right/Left 方向の線量より多く出力され
たため,各固定具間における CT 値の SD に差がなかったものと考
えられる.
**:p<0.01
59
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
頭部ランドファントムを用いた線量の比較では,簡易固定具を使
用することで Helical スキャンでは 17.5%,および Step-and-shoot ス
キャンでは 20.3%もの線量が増加した.これは,CT-AEC の線量決
定に位置決め画像を用いていることが影響していると考えられる.
通常,頭部 CT 撮影時の位置決め画像は側面像が多く使用されてい
る.簡易固定具を使用するには,寝台の上に直接置いてポジショニ
ングを行う.寝台は X 線吸収の少ない素材で作られているが,X
線の吸収が全くないとは言えない.これは,今回のノイズ測定の結
果からも推測できる.今回使用した装置では,CT-AEC の線量決定
に用いるのは最後に撮影した位置決め画像のみであるため,位置決
め画像の取得を側面像とすることで寝台が接線に投影され正面像
の位置決め画像に比較して,X 線吸収量が多くなると考えられる.
こうして得られた位置決め画像の吸収値をもとに CT-AEC の線量
を決定するため,寝台を頭部の一部として認識し線量過多で照射し
ていると考えられる.一方専用固定具は,固定具の形状が半円状と
なっているため位置決め画像取得時の撮影方向に依存せず接線方
向の投影部分が少なくなるため,CT-AEC の線量決定に影響を与え
ていないと考えられる.
4.結語
簡易固定具は,救急撮影時など抑制の難しい場合や急を要する撮
影時や広範囲の撮影時には簡便で有用であるが,今回の検討により
ノイズおよび線量が増加することが示された.患者被ばく線量低減
および診断画像向上のためにも可能な限り専用固定具を使用し検
査を行うことが望ましいと考える.
参考文献
[1]MULLINS,Mark E., et al. Comparison of Image Quality Between
Conventional and Low-Dose Nonenhanced Head CT. American
journal of neuroradiology, 2004, 25.4: 533-538.
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[3]高橋規之,李 鎔範,蔡 篤儀,他:適応型部分移動平均フ
ィルタによる頭部単純 CT 画像における急性期脳梗塞の描出
能の改善.日放技学誌,61(11)
,1531-1541,
(2005)
.
[4]村松禎久,池田 秀,大沢一彰,他.CT 用自動露出機構
(CT-AEC)の性能評価班 最終報告書.日放技学誌 2007;
63(5)
:534-545.
60
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
13017
目次
CTDI を用いた Dual Energy CT の線量評価の検討
石井崇倫*,沼元瞳*, 平井雄大***, 小山修司*, 川野誠**, 大橋一也**
*名古屋大学大学院医学系研究科
**名古屋市立大学病院中央放射線部
***名古屋大学医学部保健学科
〒461-8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1-1-20
〒467-0001 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄 1
〒461-8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1-1-20
緒言
source CT スキャナであり,95°オフセット配置されたそれぞれの
近年 X 線 CT スキャナの技術革新が著しく,異なる 2 つの管電
X 線管から異なる管電圧の X 線が照射される.X 線ファンビーム
圧を用いて様々な解析画像を得ることができる Dual Energy
線量プロファイルの測定では,この 2 つの X 線管をそれぞれ真上
Computed Tomography (DECT) の臨床への応用が進められている.
に固定し,
照射野内にCT用電離箱を配置してX線の照射を行った.
しかしながら,DECT の線量評価法は確立されておらず,従来の
このとき,X 線ファンビーム内の各ファン角での測定を行うために
Single Energy CT(SECT)と同様に CT 線量指標 (CTDI)を用いて線
X 線管焦点と CT 用電離箱の距離を 595 mm で一定とし,CT 用電
量評価を行っているのが現状である.
離箱設置位置をファンビーム片側半分でファン角 0°から 1°毎に
CTDI は CT 用電離箱の挿入されたアクリル樹脂製の円筒形ファ
変化させた.2 つの X 線管 A,B で照射野の大きさが異なるため,
ントムを患者寝台上に固定し,一回転のスキャンにより測定される.
検出器の最大FOV から計算した最大照射野の範囲について A 管球
CTDI は,もともと装置の性能評価や撮影条件の最適化のために考
で 21°,B 管球で 16°まで測定を行った.
案された指標であるが,測定が比較的簡便で精度や再現性が良く,
X 線ファンビーム内の連続 X 線エネルギースペクトルを角度毎
ファントムのサイズを人体の撮影部位の大きさに対応させること
にスペクトロメータを用いて実測することは膨大な時間を要する.
で患者被ばく線量の指標に用いられることも多い.そこで,本研究
本研究では,X 線管球と CT 用電離箱の間にアルミニウム板を付加
ではモンテカルロシミュレーションを用いて,DECT における従来
し,
その厚みを変化させることでアルミニウム半価層を求めた.ま
の CTDI による線量評価法の妥当性について検討する.SECT およ
た,CT 検査条件は胸部の SECT および DECT 検査を想定し,X 線
び DECT でスキャンしたときの,CTDI と人体被ばく線量を想定し
管 A は管電圧を 100 kV,120 kV とし,X 線管 B は 140 kV とし Sn
た水ファントムの吸収線量の比を求め両者を比較検討する.
フィルタを付加した状態で測定を実施した.CT 用電離箱設置位置
ところで,本学では名誉教授の青山らが開発した組織・臓器線量
をファンビーム片側半分でファン角 3°毎に変化させ,各管電圧に
測定システムを用いてCT検査における被ばく線量の測定を行って
ついて個別に行った.
いる.本システムは,人体等価物理ファントム中に組み込まれた半
加えて,アクリル樹脂製 CTDI 測定用ファントム(CTDI ファン
導体線量計により,種々の組織・臓器の吸収線量及び実効線量を測
トム)と CT 用電離箱を用いて,管電圧 120 kV の SECT および,
定できる.この線量計は感度のエネルギー依存性を有するため,フ
管電圧 100 kV と 140 kV の DECT 検査時の CTDI を測定した.
ァントムに入射する X 線の実効エネルギーを測定し,感度の補正
CTDI ファントム中心が X 線回転中心と一致するよう配置し,ファ
を行っている.これは,一般的な CT 装置における実測された X 線
ントムの周りを X 線管球が 1 回転するように照射を行った.この
実効エネルギーが 50 keV 前後であり,ファントム中深部の半導体
とき,CTDI ファントムは X 線吸収の極めて小さい木製の板の上に
線量計位置での実効エネルギーは,散乱線の寄与により入射時とほ
固定して測定を行うことで,患者支持台による影響を受けないよう
ぼ等しくなることに基づいている.一方,DECT 検査における種々
に配慮した.測定位置は CTDI ファントム中央と上下左右の 5 点と
の組織・臓器の吸収線量及び実効線量測定においては,通常より高
し,各位置について 3 回測定を行いその平均値をそれぞれの CTDI
い管電圧を用いるため入射 X 線の実効エネルギーと線量計に入射
とした.
する X 線実効エネルギーが異なる可能性がある.このため,本研
究ではモンテカルロシミュレーションを用いて,人体等価物理ファ
1-2
ントム中に組み込まれた線量計素子位置における X 線実効エネル
CTDI を用いた被ばく線量評価の検証
モンテカルロシミュレーションを用いて SECT と DECT 検査時
ギーを求め,本システムの出力値への影響を明らかにした.
の CTDI ファントム中の空気吸収線量を計算し,それぞれの手技で
実測と計算の比較を行い,計算の妥当性を検証した.
シミュレーションコードは Electron Gamma Shower 5 (EGS5)を用
1.方法
1-1
DECT スキャナを用いた測定
い,DECT スキャナ SOMATOM Definition Flash の X 線ファンビー
DECT スキャナをモンテカルロシミュレーションで模擬するた
ムを組み込んだ.幾何学的条件を,実測条件と同様に線源‐中心間
めに,SIEMENS 社製の DECT スキャナ SOMATOM Definition Flash
距離を 595 mm,X 線ファンビーム角を 41°および 31°,ビーム
を用いて,X 線ファンビーム内の線量プロファイルと X 線エネル
幅を 32 mm とし,CT 装置に備え付けられたボウタイフィルタによ
ギーを測定した.この DECT スキャナは X 線管を 2 つ備えた Dual
る影響を考慮した.ボウタイフィルタは一般的に左右対称の形を
61
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Fig. 2: Comparison between measured and simulated relative doses at each point in
Fig. 1: X-ray energy dependence of system sensitivity.
the CTDI phantom with DECT scan, where the doses are normalizes to unity at point
C, the center of the phantom.
しており,実測で得られた X 線ファンビーム角度毎の照射線量を
中心 0°の値で正規化を行い,左右対称の分布を相対光子数とし,
し,ファントム内線量計素子位置における連続 X 線エネルギース
シミュレーションにその割合を組み込んだ.各管電圧におけるエネ
ペクトルを取得した.その連続 X 線スペクトルのエネルギーごと
ルギースペクトルは,実測された 3°毎のアルミニウム半価層から,
にアルミニウム板を透過させ照射線量として得られた値からアル
Tucker らの方法[1]を用いて作成した.X 線ファンビーム角 3°
ミニウム半価層を計算し,対応する実効エネルギーに変換した.
毎に 7 種の連続エネルギースペクトルを算出し,シミュレーション
Fig. 1 に組織・臓器線量測定システムで用いられている半導体線
に組み込んだ.被射体として,アクリル樹脂で構成された CTDI
量計の感度校正曲線(感度の X 線実効エネルギー依存性)を示す.
ファントムと,CTDI ファントムと同形状の水ファントムを作成し
半導体線量計の出力はその後の電子回路により電圧値に変換され
シミュレーションに用いた.
るため,これに Fig.1 の曲線から得られる値の逆数,すなわちエネ
上記の条件下において,SECT および DECT のシミュレーション
ルギーに対応した校正定数を乗じることで組織吸収線量に変換で
を行い,CTDI ファントムの中央と上下左右の 5 点における空気吸
きる.組織・臓器線量測定システムを用いた被ばく線量測定におい
収線量(空気カーマ)を取得した.これを,実測で得られた CTDI
て,通常はあらかじめ測定された入射 X 線の実効エネルギーに対
の結果と比較してシミュレーションが正しく行われていたか確認
応した校正定数を用いて組織・臓器の吸収線量を求めている.本研
を行った.その後,水ファントムを用いて CTDI ファントムと同位
究では,計算によって求められた各線量計素子位置での X 線実効
置における水吸収線量を取得した.水ファントムへの入射光子数は,
エネルギーに対応して Fig.1 の感度校正曲線の逆数より校正定数を
CTDI のシミュレーションで用いたものと同じ数とした.CTDI フ
求めた.また,通常時と同じ入射 X 線の実効エネルギーに対応す
ァントムを用いた実測により得られる CTDI の値から人体の被ば
る校正定数も求め,DECT 検査におけるファントム内 X 線エネル
く線量を簡易的に求める場合を想定しており,シミュレーションに
ギースペクトルの変化が被ばく線量測定に与える影響を調べた.
より求めた CTDI と人体等価の水吸収線量の比 Dose ratio (Dr)を算
出した.Dr は単位 CTDI 当たりの水吸収線量であり,式 1 により
2.結果
計算した.
2-1
シミュレーションの精度
本研究において,シミュレーションが正しく行われたことを,実
Dr 
Dwater
CTDI PMMA
測された CTDI の結果との比較で確認した.シミュレーションによ
(1)
り得られる吸収線量は相対値であるため,ファントム中のそれぞれ
の位置での値は,中心の値で規格化を行った.その結果,SECT の
シミュレーションと実測の差異はすべての測定点において 5%以内
ここで,Dwater は水ファントムを用いて算出された水吸収線量,
で一致した.DECT における CTDI の結果を Fig. 2 に示す.
図中 C,
CTDIPMMA は CTDI ファントムを用いて得られたアクリル中の空気
T,R,U および L は,それぞれ CTDI ファントム内測定位置の中
吸収線量(空気カーマと同等)である.SECT および DECT 条件下
央,上,右,下および左に対応している.Fig. 2 によれば,実測値
での Dr をそれぞれ算出し,比較を行うことで現在一般的に行われ
とシミュレーション値は,差異平均約 4%以内で一致した.また,
ているSECT におけるCTDI による人体被ばく線量の指標としての
測定位置 T と L において,シミュレーション値に比べて実測値が
関係性が,DECT において同様に保たれているか検証した.
大きいことがわかる.これは,X 線出力の立ち上がりと立ち下りの
オーバーラップによる影響であると考えられるが,今回のように
1-3
組織・臓器線量測定システムによる線量評価の検証
SECTとDECTのエネルギーの違いのみによる比較を行う場合は無
モンテカルロシミュレーションコード EGS5 のコードに,組織・
視できる. ある程度広いスキャン範囲をヘリカルスキャンする場
臓器線量測定システムにおける人体等価物理ファントムを組み込
合も,X 線出力の重なりによる影響は小さく無視できる.
んだ.管電圧 100 kV と 140 kV を用いた体幹部 DECT 検査を模擬
62
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Fig. 3: Effective energy at each point, where the detectors are installed, in the anthropomorphic phantom undergoing a DECT scan for thoracic region.
Table 1: Comparison of the dose ratio (Dr), the absorbed doses for PMMA phantom
ー吸収係数の差が小さくなること[2]に起因していると考えられ
and water phantom, at each point in the CTDI phantom between SECT and DECT.
る.
Position in the phantom
C
T
R
U
L
SECT
1.46
1.50
1.48
1.47
1.50
2-3 の結果より,DECT において,均質なファントムでは ファン
DECT
1.32
1.47
1.46
1.44
1.46
トムに入射する X 線のエネルギーよりファントム深部での X 線エ
ネルギーが軟らかくなることが示されているが,それでも DECT
における CTDI ファントム中心に入射する X 線の実効エネルギー
は SECT におけるそれよりも高いことがわかっている.DECT にお
いてアクリルの吸収線量と人体等価の水吸収線量の差が小さくな
2-2
CTDI を用いた被ばく線量評価の検証
ることは,アクリルファントムで測定された CTDI を人体被ばく線
同じ入射光子数による SECT および DECT における吸収線量比
量の指標とする際,深部の人体被ばく線量を過大に評価するおそれ
Dr の結果を Table 1 に示す.結果より吸収線量比 Dr は,SECT に
があるが,これは安全側の評価であり,さらに実際の評価時にはフ
おいてファントム中の位置間で±3.5%の誤差範囲内で一致した.
ァントム周囲の CTDI とファントム中央の CTDI で加重平均された
DECT での Dr は SECT のそれと比べて,ファントムの中央で約
値を用いるため,簡易的な指標として用いる場合には大きな問題は
10%,ファントムの周囲において約 2%程度小さかった. DECT に
無いと考えられる.
おいて,アクリルで測定される CTDI と人体等価の水の吸収線量の
2-3 の結果において,人体等価物理ファントムに入射し,検出器
差が,SECT のそれと比べて小さいということがわかった.
に到達する X 線は低エネルギー部分の選択吸収により線質は硬く
なると考えられるが,X 線ビームから外れたところでは散乱線のみ
2-3
組織・臓器線量測定システムによる線量評価の検証
となり逆に線質は軟らかくなる. SECT で一般的に用いられる管
体幹部 DECT 検査において算出された,人体等価物理ファント
電圧 120 kV における実効エネルギー50 keV 前後の X 線では,ファ
ム内の各線量計素子位置における実効エネルギーを Fig. 3 に示す.
ントム中各深さでの直接線と散乱線の寄与の割合がほぼ等しくな
入射 X 線の実効エネルギーは 71.8 keV であるが,すべての線量計
る[3]
.一方,DECT のように管電圧 140 kV を用いる場合,周り
素子位置で実効エネルギーは低下していることがわかる.その変化
からの散乱線の寄与の割合が通常より大きくなるために実効エネ
率の最大値は,肝臓の臓器線量測定用の線量計素子位置で約 16%
ルギーが低下すると考えられる.ファントム表面近くや骨組織内に
であった.
挿入されている線量計素子位置での実効エネルギーはあまり変化
Fig. 1 の感度校正曲線から求めた校正定数は,入射 X 線の実効エ
しなかったが,ファントム深部の軟部組織に挿入されている線量計
ネルギー71.8 keV のとき 2.67 に対して肝臓の臓器線量測定用の線
に到達する X 線の実効エネルギーはより低くなった.これは,線
量計素子位置の実効エネルギー59.9 keV の校正定数は 2.35 であっ
量計の周囲を軟部組織で囲まれているため,周囲の軟部組織からの
た.被ばく線量測定のときには,この校正定数を用いて各種臓器線
散乱線が多く入射し,実効エネルギーが低下することによると考え
量を算出するため,SECT と同様の入射 X 線の実効エネルギーによ
られる.一方,体表面に近い線量計に到達する X 線は周囲からの
る補正では,
線量計素子によっては約 12%程度の過大評価となる.
散乱線の寄与が小さいため,比較的入射 X 線の実効エネルギーに
近かったと考えられる.また,周囲を骨組織に囲まれている線量計
についても,ファントムを構成する物質の密度が高いため散乱線の
3.考察
CTDI に対する人体等価の水吸収線量は,SECT に比べて DECT
吸収が起こり,寄与が小さかったものと考えられる.
では小さくなる傾向があり,CTDI ファントムの中心で約 10 %程度
比較的高い X 線エネルギーを用いる DECT に関しては,従来の
小さくなった.X 線 CT のような 100 keV 以下のエネルギーでは,
SECT と同様に測定された入射 X 線の実効エネルギーに対応する
光子のエネルギーが低くなるにつれ,水と PMMA の質量エネルギ
校正定数を用いて補正を行った場合,12%程度の過大評価になる可
63
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
能性があることが明らかになった.組織・臓器線量測定システムを
用いた測定においては,このことを考慮に入れて測定を行う必要が
あることがわかった.
4.結語
モンテカルロシミュレーションを用いて,DECT について従来の
CTDI による人体被ばく線量の指標としての妥当性を検討した.測
定された CTDI を人体被ばく線量の指標とする場合,深部の人体被
ばく線量を過大に評価する可能性が示された.しかしながら,体表
面では概ね SECT と同様の関係が保たれており,深部においても安
全側の評価であった.
人体等価物理ファントム中の線量計素子位置での X 線の実効エ
ネルギー変化を調べ,その変化が組織・臓器線量測定システムの出
力値に与える影響を明らかにした.DECT は SECT よりも高い管電
圧を用いるため,従来の入射面の実効エネルギーによる補正を行っ
た場合,線量計素子位置によって出力値が 12%程度過大評価され
る可能性があり,それをふまえて注意深く測定することが望ましい
ことがわかった.
参考文献
[1]Tucker M, Barnes G, and Chakraborty D. Semiempirical model for
generating tungsten target x-ray spectra. Med Phys, 1991; 18:
211-218.
[2]Seltzer SM and Hubbell JH. 光子減弱係数データブック. 放射線
医療技術学叢書(11). 日本放射線技術学会, 1995.
[3]Kondo S, Koyama S. In-phantom beam quality change in X-ray CT:
derailed analysis using EGS5. KEK Proceeding, 2011; 6: 62-67.
64
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
多チャンネル半導体エネルギー測定器の開発と X 線 CT への応用
13018
平井雄大*,小山修司** , 石井崇倫** , 沼元瞳** , 近藤晋平*** , 羽場友信****
*名古屋大学医学部保健学科
〒461-8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1-1-20
**名古屋大学大学院医学系研究科
〒461-8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1-1-20
***春日井市民病院放射線技術室
****藤田保健衛生大学病院放射線部
〒486-0806 愛知県春日井市鷹来町 1-1-1
〒470-1101 愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪 1-98
緒言
現在の医療において,放射線を用いた診療は多様な場面で使用さ
れ,欠かせないものとなっている.放射線を扱う上で把握しておか
ねばならない要素は数多く挙げられるが,その中でも患者被ばく線
量や画像の質は重要な要素となる.これらは X 線の特性(強度分
布やエネルギー)に依存するためこれを把握することは重要である.
このうち,X 線のエネルギースペクトルの測定にはスペクトロメー
タなどの専用の機器が必要であり,その測定も手間がかかるという
Fig.1: Energy analyzer using two PIN photodiodes (lateral view)
問題が挙げられる.そこで,一般にはアルミニウム半価層測定を行
い,その連続 X 線の半価層と等しい半価層を持つ単色 X 線のエネ
この PIN フォトダイオードを用いて作成された実効エネルギー測
ルギーで定義される実効エネルギーを取得している.アルミニウム
定器の製作過程での側面像を Fig.1 に示す.
実際の使用においては,
半価層測定は比較的測定が容易であるが,それでも,様々な厚さの
この表面を遮光と電磁ノイズシールドを兼ねてアルミファイルで
アルミニウム吸収版を複数枚用意し,それらを何度も入れ替えて照
覆う.PIN フォトダイオードは,同じ向きで上下二層式となるよう
射を行わなければならないという手順がある.我々の施設では,モ
に設置し,上の素子からの出力と下の素子からの出力を取得する.
ンテカルロシミュレーションを用いたX線CTの線量計算を行って
上方より X 線が入射するとの上側の PIN フォトダイオード内のシ
いるが,この場合,特に X 線ファンビームのビームデータをなる
リコン部分の台座となっている鉄板の吸収により入射 X 線が減弱
べく忠実に組み込むために,ファンビーム中のファン角ごとにアル
するため,下の素子からの出力は上の素子からの出力より小さくな
ミニウム半価層測定を行う必要があり,それにかかる時間と手間は
る.この上下の出力の比を利用し,あらかじめ用意する出力比と実
大きい.
効エネルギーのグラフ(以下,校正曲線)から実効エネルギーへ変
これを解決すべく,1 回の照射で簡便かつ短時間で実効エネルギ
換を行う.なお,上下の素子出力は,電流値として得られるが増幅
ーを測定できる多チャンネル半導体エネルギー測定器(以下,実効
し電流電圧変換などを行い電圧値に変換するため,これ以降上下の
エネルギー測定器)の開発を行った.実効エネルギー測定器は 8
出力比を,出力電圧比と表すことにする.
チャンネルで構成され,個々の特性を把握したうえで,リファレン
ス線量計による線質を基準に校正を行う.また,専用の鉛コリメー
1-2
使用機器
タを作成し実効エネルギー測定器に装着することにより,X 線 CT
実効エネルギー測定器の各種特性の把握及び校正には,
の X 線管回転中でのファンビーム中各ファン角のデータを測定す
TOSHIBA 製 の 一 般 撮 影 用 X 線 発 生 装 置 /X 線 管 :
ることを試みる.
KXO-1000/DRX-2425C,
Radcal 製線量計/電離箱:Radcal 9015/10X5-6
を用いた.
1.方法
1-1
1-3
実効エネルギー測定器の実効エネルギー測定原理
実効エネルギー測定器の各種特性の評価
実効エネルギー測定器に入射する空気吸収線量の範囲について,
今回作成した実効エネルギー測定器は浜松ホトニクス(株)製 PIN
どの範囲で出力電圧比が一定になるかということを確認するため,
フォトダイオード:S2506‐04 を使用している[1]
.この PIN フォ
X 線の照射時間のみを変化させて線量を変化させ,上下両素子の出
トダイオードはシリコン素子が厚さ 0.5 mm の鉄板(端子台)の上に
力直線性を確認した.また,この出力電圧比を用いて実効エネルギ
設置され,その周りを黒色樹脂が覆った構造となっている.0.5 mm
ーを求めた.このときの実験体系では,X 線管焦点から 60 cm の位
厚の鉄板では,診断領域 X 線において,光子エネルギーに対する
置に実効エネルギー測定器を,150 cm の位置に電離箱線量計を配
線源弱係数が直線的に変化するため,本研究の用途に都合が良い
置した.
X 線管射出口には X 線 CT の線質に合わせるため比較的厚
[2]
.
いアルミニウムフィルタを設置した.X 線管-電離箱線量計間距離
が大きいのは,この付加フィルタからの散乱線の影響を避けるため
65
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
である.電離箱線量計の値は距離の逆二乗則に基づいて補正を行っ
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
output voltage ratio
ている.なお,実効エネルギー測定器については,構造上,散乱線
の影響が極めて小さいことが確認されている.
次に,実効エネルギー測定器の測定エネルギーの線量率に対する
依存性を確認するため,管電流のみを変化させることにより線量率
を変化させ,出力電圧比を測定した.このときの実験体系は前述と
同じである.
次に,実効エネルギー測定器の出力電圧比の X 線ビーム入射角
度に対する方向依存性を確認するため,実効エネルギー測定器を回
転テーブル上に設置して X 線ビームと受光面の角度を 1 度ごとに
変化させて一定の照射条件の X 線を照射した.このときも,X 線
20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75
管焦点から実効エネルギー測定器の距離は 60 cm とした.
1-4
Effective energy (keV)
実効エネルギー取得のための校正曲線の作成
Fig.2: Relation between effective energy and output voltage ratio of the energy
診断用に用いられている X 線エネルギーに合わせるため,一般
analyzer
撮影用 X 線発生装置の X 線管電圧を 40 kV~120 kV まで 10 kV ご
とに変化させ,それぞれの管電圧において,電離箱線量計を用いた
2-1-2
半価層測定による実効エネルギーの取得を行い,同じ線質で実効エ
線量率依存性
設定条件における電離箱線量計でのアルミニウム半価層測定に
ネルギー測定器を用いた出力電圧比の測定を行った.これに加えて,
よる実効エネルギーは 38.7 keV であった.X 線装置の管電流を変
X 線 CT を想定し,よく使用される管電圧 120kV の固定とし,X
化させ実効エネルギー測定器位置での空気吸収線量率が
線管射出口に線質硬化用のアルミニウムフィルタ(0~30 mm)を付
37.6 mGy/sec~103.2 mGy/sec となる範囲で,実効エネルギー測定器
加し,同様の測定を行った.これらの管電圧調整と付加アルミニウ
による測定結果は,38.7 keV との差異で 2.6%以内となった.
ムフィルタ厚調整によって得られた X 線ビームの実効エネルギー
と実効エネルギー測定器の出力電圧比の関係より校正曲線を作成
2-1-3
した.
角度依存性
照射条件を固定とし,実効エネルギー測定器を乗せた回転テーブ
ルを 1 度毎に回転させて,それぞれの角度での実効エネルギーを測
1-5
実効エネルギー測定器の X 線 CT への応用
定した結果,±15 度までの回転範囲であれば 0 度に対しての差異
実効エネルギー測定器をX線CT装置のガントリ内に配置して回
は 4.0%以内となった.
転照射を行い,ファンビーム中の各角度のデータを取得した.X 線
CT は TOSHIBA 製 TCT-300 を使用し,管電圧 120kV,管電流 110
2-2
mA,照射時間 4.5 sec,FOV 350 mm,スライス幅 10 mm とした.
入射 X 線の実効エネルギーと出力電圧比の関係
X 線管電圧調整と付加アルミニウムフィルタ厚調整による実効
実効エネルギー測定器には 8 チャンネルの個々に高さ 3.5 cm,コリ
エネルギー変化に対する実効エネルギー測定器の出力電圧比の関
メータ幅 2 mm,鉛厚 2 mm の鉛コリメータを装着した.これらを
係を求めグラフを作成した.この関係は,25 keV~70 keV の実効エ
発泡スチロールで作成した台の上に,ファンビーム片側半分のファ
ネルギー範囲内で 2 次多項式で近似された.これを,Fig.2 に示す.
ン角 0 度~18 度まで 3 度ごとに並べて配置し,回転照射を行い出
力電圧比を測定し,前述の関係により実効エネルギーに変換した.
2-3
これを,別に CT 用電離箱(10X5-3CT)によるアルミニウム半価
実効エネルギー測定器の X 線 CT への応用
実効エネルギー測定器によるX線CTのファンビーム中ファン角
層測定に基づいて求められた実効エネルギーと比較した.
3 度ごとの実効エネルギーと電離箱線量計による同実効エネルギ
ーの比較を Fig.3 に示す.両者ともファン角が大きくなると実効エ
ネルギーが高くなるが,その値は一致しなかった.
2.結果
2-1
実効エネルギー測定器の各種特性
2-1-1
出力直線性
設定条件における電離箱線量計でのアルミニウム半価層測定に
よる実効エネルギーは 51.2 keV であった. X 線装置の照射時間を
変化させ実効エネルギー測定器位置での空気吸収線量が 0.4 mGy
~46.2 mGy となる範囲で,実効エネルギー測定器による測定結果
は,51.2 keV との差異で 2.2%以内となった.
66
November 2013 | Volume1
Proceedings of the JSCT
目次
Relative effective energy (keV)
2.5
4.結語
多チャンネル半導体エネルギー測定器を開発し,その各種特性を
2.0
評価した.それを基にして本測定器への入射 X 線実効エネルギー
とその出力電圧比の関係を求め校正曲線を作成した.X 線 CT 装置
1.5
における回転照射でのファンビーム中の各ファン角の実効エネル
ギーについての測定結果では,現在のところ十分な精度が得られて
1.0
いないが,今回の結果からいくつかの原因とその解決策が見いださ
CT chamber
れたため,今後の改善に向けて研究を進めていく予定である.
0.5
Energy analyzer
0.0
参考文献
0
5
10
15
20
[1]Takahiko Aoyama, Shuji Koyama, Chiyo Kawaura. An in-phantom
Fan beam angle(°)
dosimetry system using pin silicon photodiode radiation sensors for
measuring organ doses in x-ray CT and other diagnostic radiology.
Medical Physics. July 2002;Vol.29: No.7
Fig.3: Relative effective energy at each fan beam angle
[2]青山隆彦.便利な医学診断 X 線の実効エネルギー測定器.
3.考察
自作実効エネルギー測定器の出力直線性及び線量率依存性の特
Isotope News.2011 年 7 月号;No.687
性を確認したところ,電離箱線量計を用いた測定による実効エネル
ギー値に対する実効エネルギー測定器の値の差異はいずれも 3.0%
以内であった.また,入射 X 線の実効エネルギーと実効エネルギ
ー測定器の出力電圧比の関係は 2 次多項式の関係が得られた.これ
を校正曲線として,通常の診断 X 線において,本実効エネルギー
測定器による実効エネルギー測定は有効であると考えられた.
実効エネルギー測定器のX線CT装置での実効エネルギー測定で
は,現在のところ CT 用電離箱による実効エネルギーとの一致が見
られていない.この原因として,鉛コリメータの設計が mm 単位
であり,手作業による作成時のチャンネル毎の個体差や,コリメー
タの外枠の微妙な歪みによりファン角に対しての角度の狙いが正
確でない可能性があったりすることが挙げられる.よって,より精
度の高い鉛コリメータの作成が必要といえる.
また,実効エネルギー測定器には鉛コリメータを付加し回転照射
を行ったのに対し,電離箱線量計による半価層測定では位置決めス
キャンモードを用いてコリメーションのない状態で測定を行った.
TCT-300 では,ビーム成形フィルタは 1 個しか装備されておらず位
置決めスキャンモード時と回転照射時で同じファンビームの状態
となることが確認されている.この前提で,実効エネルギー測定器
には散乱線が鉛コリメータで遮蔽され入射しにくいのに対し,電離
箱線量計では散乱線が入射してしまったのではないかという推測
もできる.すなわち,ファンビームの中でファン角が大きくなると
ビームシェーピングフィルタの厚みの関係で実効エネルギーが高
くなり,半価層測定の際に配置するアルミニウム吸収板の厚みも大
きくなる.そこから放出される散乱線の量も増すことになるため,
ファンビーム角度が大きいほど電離箱による実効エネルギーが過
大評価され,実効エネルギー測定器と電離箱線量計の差異が大きく
なったのではないかという推測である.今後は電離箱に散乱線が入
射しないような工夫を施し, 半価層測定を行う必要があると考え
る.
67