平成24年度 研 究 報 告 大 分 県 産 業 科 学 技 術 センター OITA INDUSTRIAL RESEARCH INSTITUTE 大分県産業科学技術センター 平成24年度研究報告 目次 ―製品開発支援担当― 1.竹材加工関連技術に関する共同研究 ··········································· 1 佐藤幸志郞・吉岡誠司 2.油の微生物分解処理技術の一般化に関する研究(その6) ························4 小谷公人・齊藤雅樹*・吉岡誠司 3.商品化・事業化支援のためのプロトタイピング及び評価手法の高度化研究 ········· 8 佐藤幸志郎 4.県産スギ・ヒノキ等未利用材の高付加価値化及び商品化研究(第1報) ··········· 12 兵頭敬一郎・佐藤幸志郎・久恒雄一郎*・氏家誠司* ―電子・情報担当― 5.漁船機器の無線遠隔制御装置の開発 ·········································· 16 小田原幸生・足立 彰*・谷口康広* ―機械・金属担当― 6.難削性金属材料の切削加工技術の高度化に関する研究(第3報) ················· 18 ―コーテッド超硬エンドミルによる難削材の効率的切削加工技術の開発― 大塚裕俊・水江 宏・橋口智和 7.セラミックスの高精度切削加工技術(第4報) ································· 22 ―ベクトル磁気特性計測用Hコイル巻枠の加工― 水江 宏・大塚裕俊・重光和夫・橋口智和・竹中智哉・相原 茂* 8.テストトレー上でBIテストを低消費コスト,省スペースで実現する手段の研究開発 ·· 27 ―自己発熱型デバイス対応温調プレートの温度分布評価― 橋口智和・大塚裕俊・水江 宏・清水慎吾・宮川末晴* ―工業化学担当― 9.洗浄力に関する共同研究 ···················································· 31 江田善昭・二宮信治 10.水質分析における不確かさに関する研究 ····································· 33 谷口秀樹 11.高耐電圧電線用絶縁被覆材の開発 ··········································· 38 安部ゆかり・柳 明洋・谷口秀樹・二宮信治 * * ・金澤誠司 ・本田宜彦 ・梅原英嗣*・利光 淳*・相原 茂*・柴北俊英* ―食品産業担当― 12.塩干品の品質安定化技術の開発(第1報) ···································· 42 堀 元司・廣瀬正純 13.生鮮食品の輸送に関する研究 ··············································· 48 ―イチゴのタイ向け小ロット輸送の輸送環境(第1報)― 朝来壮一・川口和晃* 14.生鮮食品の輸送に関する研究 ··············································· 53 ―イチゴのタイ向け小ロット輸送の輸送環境(第2報)― 朝来壮一・川口和晃* 15.成熟カボスの加工利用に関する研究(第1報) ································ 57 廣瀬正純 16.貯蔵麦焼酎の安定性に関する研究 ··········································· 60 江藤 勧・佐野一成・後藤優治・樋田宣英 17.麦焼酎用酵母の評価および改良に関する研究 ································· 63 後藤優治・佐野一成・江藤 勧・樋田宣英 ―企画連携担当― 18.IEC標準化に向けた材料評価のための単板磁気測定技術 ························ 67 沓掛暁史・城門由人・池田 哲・金田嗣教*・榎園正人* ※)著者名の右上に「*」がある方は,企業や大学など,当センターの職員以外の共同研究者です. 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 竹材加工関連技術に関する共同研究 佐藤幸志郞・吉岡誠司 製品開発支援担当 Collaborative research of processing technology for bamboo materials Koushirou SATOU・Seiji YOSHIOKA Product Development Group 要 旨 大分県の伝統的工芸品「別府竹細工」の産地振興を目的に,産地の生産者組合である別府竹製品協同組合と共に新し い別府竹細工の技術マニュアルの内容について共同研究を実施した.平成 2,3,11 年度に大分県(別府産業工芸試験 所)が発刊した「竹編組技術資料」をベースとして,現在の別府竹細工の製作に必要となる内容について情報収集と整 理分類を進め,竹製品に関する最新の技術動向を反映した新しい技術マニュアルのコンテンツを作成することができた. 1. ドブックとして使用され,現在でも従事者のバイブル的 はじめに 大分県の国指定伝統的工芸品「別府竹細工」は,観光 存在として活用されている.また,竹工芸・訓練支援セ 地別府温泉の土産品に留まらず,大分県を代表する工芸 ンターで実施される各種技術教育においても教材として 品として全国的に認知されており,近年では海外にも多 活用されるなど,技術の継承手段として別府竹産業の活 性化に貢献してきた. くの愛好家をもつようになっている. 「竹編組技術資料」を発行してから 20 年以上が経過し, 一方で職人の高齢化や市場の縮小など,他の伝統的工 芸品産業と同様の課題を抱え,後継者の育成,技術の継 数年前から新規従事者用の予備在庫が底をついたことを 承,販路開拓の 3 課題に対して産官の関係機関が技術教 きっかけとして産地の再発行ニーズが高まり,伝統的工 育機関(竹工芸・訓練支援センター)の設置を初めとし 芸品産業振興事業で別府竹細工の振興・発展に取り組ん た各種支援事業をおこなってきた.その一環として,平 でいる別府竹製品協同組合が新たな発行作業の主体とし 成 2 年~3 年に「竹編組技術資料 て準備を進めてきた. 基礎編・応用編」 ,平 成 11 年に「竹編組技術資料 アジアと日本の竹文化資料 ベースとなる「竹編組技術資料」のコンテンツは 20 編」を大分県(旧・別府産業工芸試験所)が別府竹製品 年以上経過したものである.竹工芸産業を取り巻く生産 協同組合をはじめとした産地業界の協力の元で編纂した. 技術を中心とした社会環境は大きく変化しているため, 今回の再発行においては,表面処理や保存方法等に対し ※平成 2~3 年度と平成 11 年度に編纂された竹編組技術資料について て最新の技術動向を反映させる必要がある.また, 「竹編 (1)基礎技術編(H2) 組技術資料」掲載の編組工程以外にも効率的な工程が存 二次元的な竹編みの技法 65 種類について説明 在する可能性があることが,生産者組合内部の準備調査 竹材・道具・材料加工について写真で説明 で判明している. 今回の共同研究では,竹材加工技術に関する各種情報 (2)応用技術編(H3) 三次元的な竹編みの技法 25 種類について写真で説明 を生産者組合と当センターが共同で収集・整理して,後 縁巻き・籐巻き・手・柄の技法 25 種類について説明 継者育成や技術継承に資する,今後の産地振興に不可欠 竹材諸性質・製竹・着色と仕上げ・塗装・さび付け・成形・接着・ な技術資料のコンテンツ作成を目的とする. 機械・保存について写真で説明 2. (3)アジアと日本の竹文化資料編(H11) 研究方法 2.1 編組技術,応用技術(縁巻き等)の把握とデジタル アジア各国の伝統竹製品等を写真で説明 データ化 日本各地の伝統竹製品等を写真で説明 「竹編組技術資料」は,産地の多くの従事者がハンド ブックとして使用する中で,掲載内容より生産性が高い 産地の従事者に当時無償で配付した「竹編組技術資料」 手法が存在する可能性があること,掲載当時とは利用さ は,初心者から熟練の技能者まで竹細工制作の際にハン 1 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター れる手法や道具に変化が見られること,その他編組技術 更に, 「竹編組技術資料」の印刷版下は現存しておらず, の選択・分類・整理・掲載の方法等,様々な懸案事項が 現在の PC で利用できるフォーマットでの原稿データも 発生している. 作成されていなかった. 生産者組合と共同で「竹編組技術資料」掲載の 115 種 残されていた古い PC や古いワードプロセッサーの原 類の編組工程(二次元的な竹編みの技法 65 種類+三次元 稿データ,ネガフィルム,紙焼き写真等のアナログ中心 的な竹編みの技法 25 種類+縁巻き等周辺の技法 25 種類) のコンテンツを収集・蓄積・整理し,収集した全てのコ について確認を進めたところ,特に大幅な修正を要する ンテンツについてデジタルデータ化を実施した.データ 2 種類の編組工程「四つ目崩し」 「千代田編み」の存在が の作成フォーマットは,現状のグラフィックデザイン, 判明した.上記 2 種類について,現場での編組工程の撮 印刷分野で業界標準として使用されている以下の PC ソ 影と,グラフィック作成ソフトウエアによるイラストレ フトウエアを使用した. ーション化を実施し,新たな編組工程コンテンツを作成 した. ・イラストレーション作成 Adobe Illustrator CS3 ・ページレイアウト作成 Adobe InDesign CS6 2.2 竹材保存,着色,竹資源の活用等の竹材利用技術 の最新の技術動向の把握 「竹編組技術資料」掲載から 20 年以上が経過した竹材 保存等各種周辺技術については,最新の技術動向を把握 し,必要があれば今回作成する技術資料に反映する必要 がある.また前回は掲載していない竹細工制作の最上流 工程としての竹林における竹の管理・伐採や,染色廃液 や薬品の取り扱い,竹資源活用のための県内各地域の取 りくみ等についても,竹資源活用に有用な知識であるこ Fig.1 とから技術情報を収集することとなった.今回新規に情 千代田編みの新工程 報収集とコンテンツ作成を行った項目は以下のとおり. また,20 年前の資料には掲載されていても,現在は生 産現場で使われていない道具,機械について確認すると ・竹山の管理と伐採 共に,別府竹細工の産地で広く普及しながら, 「竹編組技 ・染色廃液や薬品などの取り扱いおよび廃棄 術資料」に未掲載であった輪弧編み用の「うずら立て」 ・県内の地域観光文化の中での竹利用 等の道具写真を収集した. ・インテリア素材としての竹の持つ演出効果事例 ・生産者組合(別府竹製品協同組合)の沿革 Fig.2 Fig.3 うずら立て 2 新規コンテンツ例 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター また,新規ではないが「竹編組技術資料」掲載の竹材 の諸性質と竹材の保存に関するコンテンツについても, 新たな知見に基づき全面的に改訂した. 3. 結果及び考察 共同研究の結果,竹材の性質,加工技術,保存,着色 等のコンテンツが最新の技術動向に基づいてリニューア ルされると共に,地域振興やインテリア素材としての活 用等,竹資源の新たな活用についても情報収集が進めら れたことにより,編組を中心とした別府竹細工制作技術 の体系的整理とデジタルコンテンツ化が達成された. 今回の成果は,生産者組合により新たな産地の技術マ ニュアル「別府竹細工技術資料集」として,経済産業省 の伝統的工芸品産業支援後継者育成事業の助成を受けて 印刷され,県内竹産業新規従事者等を対象とした後継者 育成現場での活用が予定されている. 「竹編組技術資料」 では基礎編と応用編に分冊されていた内容が整理統合さ れた合本として,竹細工教育現場での教科書や,産業に 従事するベテラン職人が編みながら参照するハンドブッ クとして活用されることとなる. Fig.4 別府竹細工技術資料集 今後成果が活用されることにより,生産者組合を中心 とした産地の商品開発プロジェクトの活性化や,産地の 後継者育成活動が活性化することを期待したい. 参考文献 (1)竹編組技術資料 大分県 (1990,1991,1999) 3 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 油の微生物分解処理技術の一般化に関する研究(その6) 小谷公人 *・齊藤雅樹 **・吉岡誠司 * * 製品開発支援担当・ **工業振興課 Research and Development for Utilization/Generalization of Biodegradation Disposal of Recovered Oil (6th Report) Kimito KOTANI*, Masaki SAITO**, Seiji YOSHIOKA* * 要 Product Development Group, **Industrial Development Division 旨 東日本大震災の被災地復興を技術支援するため,23年度に実施した災害漂着油回収物をバーク堆肥によりバイオ 処理する技術の実証試験を継続し,その分解プロセス把握,緑化資材化に必要な試験,復興資材活用に向けた協議 等を行った.その結果,A重油とC重油が混濁した重油系油種の災害漂着油回収物のバーク堆肥中での油分濃度は, 試験開始時に推算された約5,800±620ppmから約8カ月で500ppm(検出限界)以下となり油分解が確認された.また, この実証試験バーク堆肥は,重金属についても環境基準を下回っていたこと,有害物質による植物の成長阻害や異 常症状は認められなかったことから,関係機関と復興資材活用の協議を行って試行実施が検討可能であった. 1. はじめに 2.2 誤差評価及び油分濃度の測定方法 本研究では,回収油の現処理法である「焼却」に対し, 各測定値及び油分濃度における誤差評価はこれまでの 全国各地のバーク堆肥製造工場での発酵工程をそのまま 実験に準じて行った.また,サンプリングにおける誤差 分解処理に適用するバイオ処理の実証モデルの研究普及 も同様にこれまでの実験から相対誤差=68%とした.油 活動を継続して行ってきた.平成19年度から,環境負荷 分濃度の低い測定値では影響が大きいため,結果の評価 低減型の処理と位置付けられる油流出事故等の油回収物 において注意が必要である. の微生物分解処理技術の社会実装を目標として,これま 実証試験の処理作業及び測定方法については Fig.1 に で「回収油を閉鎖サイトにおいて微生物分解処理した安 示す.前報のとおりバーク堆肥 100 ㎥(約 50t)に災害漂 全な残留物を環境に戻す」シナリオ実現をめざしバイオ 着油回収物を総重量で約 1.6t投入した状態で約 6 ヵ月間 処理の拠点づくりを行ってきた. は 2 週間ごとに行う攪拌時にサンプルを採取した後,油 分濃度を n-ヘキサン抽出法により 1 か月ごとに測定した. 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴 う津波等により,広域性と多発性を特徴とする「国内史 油膜油臭が認められない状態となった約 6 ヵ月以降継続 上最大級の油流出災害」が発生したと捉えて,23年度の した本研究では,約 8 ヵ月目と約 14 ヵ月目にサンプルを 活動は,この震災に関連する復興技術支援プロジェクト 採取し同様に油分濃度を測定した.また,約 14 ヵ月目の として位置付けた.つまり,被災地の環境を修復する新 時点で実証試験バーク堆肥の GC-FID 法による THP(=全 たな社会技術として,前報1)のとおり実証試験を大船渡市 石油系炭化水素 C6~44)試験を行って,そのクロマトグ で開始した.本研究は,この実証試験を継続し,油の分 ラムにおける残留するガソリン(C6~12),軽油(C12~ 解プロセスの把握や緑化資材化に向けた安全性の確認を 28),残油(C28~44)の油分組成の性状を調べた. 行って,復興資材活用に向けた協議の取り組みを行った. 2.3 重金属等土壌環境基準分析 重金属等 11 種の分析測定については,平成 3 年 8 月 23 2. 実証試験の内容 日 環境省告示第 46 号「土壌の汚染に係る環境基準」で 2.1 災害漂着油種の分析 指定する項目の分析方法で行った. 前報では,漂着油回収物中の油層部,水層部の油分濃 2.4 植害試験 度を測定したが,その油種の分析は行っていなかったこ 昭和59年4月18日付け59農蚕第1943号 農林水産省農蚕 とから,GC-FID法によるTPH試験を行って,標準サンプル 園芸局長通知「植物に対する害に関する栽培試験の方 のクロマトグラムと比較して濁油層の油種を調べた. 法」に定める試験方法で行った. 4 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Fig.1 実証試験のバイオ処理風景及びサンプリング測定記録作業 31℃で推移していた.特に,地点B(中)としたバーク堆 3. 実証試験の結果及び考察 肥中央部は,実証試験地の寒冷な気象条件であっても約6 3.1 災害漂着油の油種 ヵ月後の平成24年3月まで40℃近い内部温度を維持できて GC-FID法によるTPH試験を行ってこの災害漂着油の油種 いた.このことから,一般的に微生物では難分解とされ を標準サンプルのクロマトグラムと比較して調べた結果 ている重油を含むバーク堆肥であっても,分解微生物が をFig.2 に示す.この災害漂着油回収物油濁層は,標準 高い活性状態を継続していたことを示す発酵による内部 サンプルC重油とA重油のクロマトグラムが重なり合った 温度と考えられた.約8ヵ月後となる同年5月以降は3地点 クロマトグラムを示した.よって,C重油が主体でA重油 とも20℃前後で推移していることから,この内部温度の と混濁した重油系漂着油であると確認した. 低下状態はほぼ発酵分解を終えた状態にあると考えられ 災害漂着油回収物濁油層の油種 る.(Fig.3下のグラフ) (大船渡) 油膜や油臭については,バーク堆肥に投入埋設した災 GC-FID法によるTHP試験 クロマトグラム 害漂着油回収物により,約3ヵ月前後まで目視上や官能検 査で観測されましたが,周辺環境に影響することはなか った.しかし,その後は観測できず油膜や油臭を生じる 状態ではないことが示唆された.なお,重油系の漂着油 軽油又はA重油 を吸着した樹皮製油吸着材は目視観察上約2ヵ月前後で識 (標準サンプル ) 別できなくなり,比較的早い段階で杉樹皮や綿不織布が 分解過程に入ることも確認できた.(Fig.3中の矢印) バーク堆肥中の油分濃度は,バーク堆肥中の3地点で任 意に9箇所から採取したサンプルを試料とする方法でサン C重油 プリング測定した.この場合の油分濃度は,開始直後は (標準サンプル) 一部の回収物と接した堆肥周辺で局所的に高く,撹拌作 業によってバーク堆肥と混ざり合うことで分散均質化し てゆく傾向がある.今回の実証試験では開始時点の推算 油分濃度約5,800±620ppmを超えるような局所的高濃度な 試料がサンプリングできなかった.サンプリングに起因 Fig.2 濁油層のクロマトグラフ する誤差(相対誤差68%)で補正した油分濃度は,約3ヵ 3.2 油分濃度の変化及び分解プロセス 月後(78日)が約4,000~500ppmであったが,約4ヵ月後 実証試験を開始した平成23年10月6日から平成24年11月 (110日)で約2,300~500ppm(検出限界)以下と開始時 30日までの約14ヵ月間のバーク堆肥の内部温度や油分濃 の1/2~1/10 以下に低下し,その後も約6ヵ月後まで同様 度の経時変化及び観察記録をFig.3に示す. に推移していたが,約8ヵ月(236日)以降はいずれも 500ppm(検出限界)以下となり,油分が測定できなかっ バーク堆肥の内部温度は発酵温度を示すとされ,微生 た.(Fig.3上のグラフ) 物の分解活性を知る指標のひとつと考えられる.試験開 また,n-ヘキサン抽出法による油分の定量だけでなく, 始時にパイル状にしたバーク堆肥中3地点(上段,中段, 下段)の内部温度は48~45℃であった.既に堆肥発酵中 約14ヶ月(421日)後の時点で実証試験バーク堆肥のTPH のバーク堆肥を使用し,微生物が分解に必要な酸素を供 試験を行って残留する油分組成の性状を調べたところ, 給する撹拌作業を行うことで,内部温度は3ヵ月以上55~ 全石油系炭化水素=THP(C6~44),クロマトグラムにお 5 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 7,000 地点A(上) 油分濃度 ppm 6,000 地点B(中) 5,000 地点C(下) 4,000 0 day(開始時) 3,000 2,000 検出限界以下 1,000 (油投入前と同等の油分値) 0 日数 day 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360 390 420 油膜 油臭 油吸着材 60 50 温度 ℃ 40 30 20 10 0 -10 地点A(上) 地点B(中) 地点C(下) 平均気温 最高気温 最低気温 Fig.3 実証試験バーク堆肥の内部温度(下),観察記録(中),油分濃度(上)の経時変化 けるガソリン(C6~12),軽油(C12~28),残油(C28~ ざしていることから,環境省や各県などの災害廃棄物及 44)のいずれも通常のバーク堆肥同様100mg/kg/dry(検 び津波堆積物の処理指針や処理計画等に沿って有害物質 出限界)未満であった. の化学分析を行った.つまり,災害漂着油回収物は,広 これらの試験結果から,油分濃度の低い測定値では影 義には有害物質等を含む津波堆積物の区分に属する分別 響が大きいことを考慮しても,本バイオ処理技術により 回収物と考えられ,油以外に津波堆積物由来の重金属等 災害漂着油回収物の油分は約8ヵ月でほぼ分解されたと判 を含んでいる可能性が否定できない.約14カ月目(24年 断し,実証試験の分解目標を達成した. 11月30日=421日)の土壌環境基準項目に準じた重金属等 3.3 重金属等有害物質の影響 の溶出量10項目,含有量3項目の分析試験を行った結果を この実証試験では資源循環型の新たな災害廃棄物処理 Table 1に示す.これらの項目すべてにおいて土壌環境基 の方法として,災害漂着油回収物の分解処理後のバーク 準を下回っており,実証試験バーク堆肥は有害物質を含 堆肥について法面緑化などでの緑化資材化再生利用をめ まないことが確認できた. また,分解処理後のバーク堆肥を法面緑化などの緑化 Table 1 処理後堆肥の重金属等の分析結果 項 目 溶出量 含有量 カドミウム 全シアン 鉛 六価クロム 砒(ひ)素 総水銀 アルキル水銀 セレン ふっ素 ほう素 砒(ひ)素 カドミウム 銅 環境上の条件 0.01 以下 検出されないこと 0.01 以下 0.05 以下 0.01 以下 0.0005 以下 検出されないこと 0.01 以下 0.8 以下 1 以下 15 以下 0.4 以下 125 以下 分析結果 <0.001 不検出 <0.005 <0.01 0.004 <0.0005 不検出 <0.001 <0.08 0.2 0.3 <0.1 <0.5 用途で再生利用するには,肥料取締法によって汚泥発酵 肥料などと同じく普通肥料として取扱われることを想定 単位 mg/L する必要がある.同実証試験バーク堆肥により植害試験 mg/L 実施した試験結果をFig.4に示す.この植害試験でも,有 mg/L mg/L 害物質によると考えられる植物の成長阻害や異常症状は mg/L 認められなかった. mg/L mg/L この分析や植害試験の結果からも,分解処理後のバー mg/L mg/L ク堆肥は有害物質を含まないものであり,再生資材とし mg/L ても生活環境保全上の支障はなく,堆肥としての安全性 mg/kg mg/kg を満たしていると考えられた. mg/kg 6 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター が示され,復興資材活用の試行に向け具体的に検討可能 写真 1 との意向が確認できた. これらの試行実施は,公共工事や事業等の複数の用途 生育状況 で検討可能であったことから,具体的には次年度に向け 標準区 供試肥料区 対照肥料区 てその条件に適合する緑化資材化の調整をはかることと なった. 播種10日後 5. まとめ 本研究の実証試験の結果及びその後の取り組みの成果 は,以下のとおりである. 写真 2 ・実際に大船渡市で回収された災害漂着油回収物中の濁 生育状況 油層の油種を調べた結果,C 重油が主体で A 重油と混 濁した重油系漂着油であると確認した. 標準区 供試肥料区 ・災害流出油回収物をバイオ処理する実証試験の分解プ ロセスを把握した結果,バーク堆肥の内部温度は開始 試験終了時 播種21日後 から 3 ヵ月以上 55~31℃で推移し,バーク堆肥中央部 は,実証試験地の寒冷な気象条件であっても約 6 ヵ月 後まで 40℃近い内部温度を維持し微生物の分解活性が 高いことを示唆した.油膜や油臭は約 3 ヵ月で消え, 写真 3 油分濃度は約 5,800±620ppm から 500ppm(検出限界) 生育状況 以下となり,災害漂着油回収物中の油は約 8 カ月でほ ぼ分解され,目標を達成したと判断した. 標準区 対照肥料区 ・油以外で土壌環境基準値以上の重金属等の有害物質は 含まれておらず,植害試験においても有害物質の影響 試験終了時 播種21日後 と考えられる成長阻害や異常性状は認められず安全な 緑化資材化が可能であった. ・新たな社会技術として再生利用を進める観点から,こ の実証試験後のバーク堆肥について復興資材活用の取 Fig.4 処理後堆肥の植害試験の結果 組を行った結果,公共工事や事業等の複数の用途で試 行実施が検討可能であった. これにより,災害廃棄物処理方法としても現状の焼却 今後,具体的に条件に適合する緑化資材化の調整をは 処理と比べ低環境負荷(CO2排出で約1/3)であるだけで かる.これにより災害漂着油のバイオ処理が一般化し, なく,今回のような津波等で漂着油汚染が発生した被災 新たな社会技術として進展するものと期待できる. 地内において分解処理と再生利用が可能な資源循環型の 新たな社会技術となることが期待できると考えられた. 謝辞 4. 本研究にあたっては,実証試験にご尽力頂いた大船渡 復興資材活用の取組 本研究は「油流出事故回収物の微生物分解処理の普 市の関係担当者,試験作業協力を頂いたトーア木材(株) 及」の一環であり,震災に関連し被災地での復興資材活 田鎖氏はじめ,長年多大なる支援を頂いた(独)科学技術 用に特化して,油の分解プロセスの把握や緑化資材化に 振興機構,貴重な助言を頂いた客員研究員 関正明氏,ま 向けた安全性の確認が行えた.このことから,被災地の た活用に向けてご指導を頂いた国土交通省東北地方整備 復興事業に取り組む国や県及び地元自治体である大船渡 局,岩手県の各機関関係各位に深く御礼申し上げる. 市ほか関係機関に本研究の成果について現地説明し,公 参考文献 共工事や事業等の用途に合わせた緑化資材化,つまり実 (1) 小谷公人, 他 : 油の微生物分解処理技術の一般化に 際の復興資材活用を試行するための取り組みを行った. 関する研究(その 5),大分県産業科学技術センター 平成 25 年 2 月中旬に関係機関を訪ねて説明及び活用に 平成 23 年度研究報告,2012 ついての協議を行った結果,本研究成果については理解 7 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 商品化・事業化支援のためのプロトタイピング及び評価手法の高度化研究 佐藤幸志郞 製品開発支援担当 Reserach of innovation for prototyping and evaluation method to commercialize a product Koushirou SATOU Product Development Group 要 旨 企業が市場競争力の高い商品を開発することを支援するために,ユーザーニーズを精度良く抽出する手法と して近年注目されている「プロトタイピング」について情報収集を行うと共に,当センターが実施する県内企 業に対する製品開発支援業務の中で本手法を試行し有効性を確認した. 1. の産業分野における試作との状況の違いを理解すること はじめに ができた. 当センターでは県内企業の商品開発支援において,市 場競争力の高い商品を開発するために,ユーザーニーズ 主にプロダクトデザインの分野を中心として,自動車 を起点とするマーケットイン型開発プロセスを積極的に や電化製品の産業界において従来から数種類の試作モデ 活用してきた. ルを開発の各工程において使い分けて利用してきた.具 マーケットイン型開発は,起点となるユーザーニーズ 体的には,企画及びアイデア発想段階でアイデアスケッ の精度によって市場化の成否が左右されるため,精度向 チを描くように作成する「①3次元スケッチ(スケッチ 上が課題となっている.本研究では,精度向上を実現す モデル)」.デザイン図作成及び設計段階で原寸大で粗い る手法として, 「人間中心設計(ISO 13407) 」で主張され 作りで作成される「②ペーパーモデル」.外観,ディテー ている「HCD サイクル」の実践手法の一つである「プロ ル,機能の確認のために緻密な作りで作成される「③モ トタイピング」に着目する.プロトタイピングは試作と ックアップ」や「④クレイモデル」.開発最終段階で製品 評価を繰り返すことで,ユーザーニーズとのマッチング と同様の形状に可能な限り機構や機能を組み込んだ,デ を向上させようとする手法である.多くのアイデアや可 ザイン,素材,機能,安全性,生産性,耐久性,コスト 能性を数多く試すことがより深いマッチングにつながる 試算等の検討に幅広く使われる「⑤ワーキングモデル」 との考えから,試作は時間と手間をかけて完成品に近い 等に分類される.開発担当者自身のアイデア確認や企業 ものを少量作るよりは,扱いが簡単で短時間,低コスト 内部の設計承認が主な目的であり,ユーザーニーズとの なラフな精度の試作と評価を数多く行う. マッチングのために積極的に活用されることは少なかっ たようである. 本研究では,プロトタイピングの試作手法と評価手法 について研究機関や企業の研究事例について情報収集を 行うと共に,県内企業に対する商品開発支援業務の中で 本手法を試行し,その有効性を確認して,企業支援スキ ルの蓄積を図ることを目的とする. 2. 2.1 研究方法 試作手法について情報収集と環境整備 試作モデル(プロトタイプ)の作成は,時間とコスト のかかる製品そのものを作る前に,その形態や機能のア イデアを評価検討するための手法の一つである. ユーザビリティ評価等の情報デザイン分野に関する 文献等について情報を収集したところ,近年のプロトタ Fig.1 イピングにおける試作モデルの役割について,従来から 8 開発各工程の試作モデル 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター プロトタイピングにおいては,多くのアイデアの可能 性を検討するためにプロトタイプには質より量が求めら れる.上記の分類の中ではあえて①②レベルの精度をあ まり追求しないモデルを積極的に活用するものであり, 素材として手工具で効率よく開発者のアイデアを具現化 できる,紙,スチレンボード,スタイロフォーム,合成 木材等が使われている.当センターにおいても従来から これらの素材の活用は,商品開発業務の中心として実施 してきたところであり,制作環境の整備と作業ノウハウ の蓄積は,企業支援に十分なレベルが既に保持できてい ると思われる. Fig.3 2.2 3D プ リ ン タ ー の 例 評価手法について情報収集と環境整備 プロトタイピングの評価手法の情報収集として,先進 企業の実施する行動観察手法についての研修会に参加し た. 研修日:平成 24 年 12 月 21 日(金) 用務地:大阪市西区靭本町 主 株式会社エルネット 催:株式会社エルネット 行動観察研究の分野では国内トップの実績を有する 大阪ガスグループに属する調査会社エルネットは国内で Fig.2 大分県産業科学技術センターB202 試作室 は初めて本格的に行動観察をマーケティングや業務カイ ゼンのツールとしたビジネスを展開しており,研修会で 更に近年のプロトタイピングにおいては,CAD データ はその成果事例(掃除機,調理機器,洗顔料,暖房機, 等から短時間で正確な形状の 3 次元造形を行う「3D プリ 医療機器等)が紹介された. ンター」の普及により, 「ラピッドプロトタイピング」と 行動観察は商品のライフサイクル(開発期→導入期→ いう手法が実用レベルとなってきている.これは従来で 成長期→成熟期→衰退期)の中においては,開発期に活 あれば時間とコストを要する③④⑤レベルの高品質な試 用されることが多い.商品コンセプトの立案に欠かせな 作モデルを,初期開発段階から積極的に利用し,よりス い的確なユーザーニーズの把握には,深いユーザー理解 ピーディーで高精度な開発を目指すものである. が必要であり,ユーザーの潜在ニーズの把握が可能な行 当センターにおいても県内ものづくり産業の支援の 動観察は有効なツールとなるとの説明があり,当方が行 ために, 「ラピッドプロトタイピング」環境整備を目的と 動観察手法に期待しているとおりの効果が既に得られて した 3D プリンターの導入を検討しており,機器の種類や いることが説明された. 能力等について調査を実施した. 行動観察は定性調査であるため,定量調査に比べ被験 3D プリンターは国内外において様々な製品が開発さ 者数が少ないことが多いが,行動観察において有効な仮 れ,目的・用途に応じて様々な造形方法が提案されてい 説抽出に必要な人数は 6~8 名が基準とされているので る.ラピッドプロトタイピングを初めとした「形状確認」 問題ない.これはユーザビリティ研究の主流であるニー や「機能検証」の用途向けには,ABS 樹脂やポリカーボ ルセンの説によるもので,5 名の被験者の観察で課題の ネイトといったエンジニアリングプラスチックに近い性 85%が抽出されることを根拠としている.エルネットの 状の原料を熱で溶かして積層する手法や,光硬化させる 業務においても,家庭訪問による行動観察では 6 名を対 手法,レーザーの高温で焼結させる手法等が開発され普 象とすることが多く,セグメントが多い場合でも最大 8 及が進んでいる.量産製品素材に準ずる強度を発揮する 名で行うとのこと. 素材を用いて試作することにより,他のパーツと組み合 実際の観察映像の事例ビデオとして以下の①~③が わせて,強度や機構等の機能面を検証すること等が可能 放映され説明が行われた. となっている. 9 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター ①主婦の朝のメイク行動(ビデオを使った間接観察, はじめに開発中のデザイン案のスケッチに基づいて, 家庭の洗面所を使う人を背後から撮れる位置にビ スチレンボードを素材としてペーパーモデルを作成する デオを設置し音声と合わせて記録,育児と家事が重 ことにより,構造や素材についてデザインスケッチ段階 なり洗面所を出たり入ったりする細切れの行動が では認識されていなかった問題点を見出すことができた. 観察され課題の気づきが得られた) ②家庭内の掃除行動(ビデオ撮りスタッフとメモを取 Table 1 プロトタイプ作成で分かった構造等の課題 るスタッフの複数体制での交流観察,ビデオが不可 の場合はメモのみで実施,理想はメモも複数で実施, 日常使い形態 現場での気づきがメモから得られる) ③有職主婦の家事行動(ビデオ撮りスタッフとインタ 持ち出し形態 ビュースタッフの複数体制での交流観察,松波行動 観察研究所長が実施,観察される側とのラポール ケージ形態 (信頼)の形成が重要,観察する側が目的「普段通 既存ケージへ固定する器具が必要 L型形態を保つ器具が必要 折りたたまれたケージ部分の厚みが設置時に干渉する 収納容量が小さい 前面の回転引き出しにストッパーが必要 折りたたまれたケージ部分の厚みが折り畳みに干渉する 取っ手の凹みが収納容量を圧迫する 持ち出し形態に変形させるための蝶番の機能が必要 ケージの高さがS犬種にも低いのでは? 扉に蝶番の機能が必要 ケージ形態を保持するための壁や柱が必要 ケージ形態にするときの操作が分かり難い りの生活が見たい,家の中を片付けない,お茶も出 さない等」をきちんと観察される側に伝えることや 次に,プロトタイプの操作行為について,HMI(ヒュー 最初の1時間程は世間話をすること等で信頼が得 マンマシンインターフェイス)の観点,操作・行動の手が られる,主婦の家事意識の本音がヒアリングできた, かり,識別性,操作・行動に対する制約状況等,ぞれぞ 長時間の共同生活でだんだん打ち解けることがで れの観点に着目して観察することにより,アイデアスケ きた) ッチや開発会議では認識されていなかったユーザー要求 事項を把握することができた. 上記のとおり,行動観察調査をビジネスに活用する分 野での先進企業の事例について情報を収集することがで きたので,今後のプロトタイピング手法が必要となる企 業支援に活用したい. 2.3 商品開発支援業務の中での手法の活用(ペーパ ーモデルによるプロトタイピング) 県内企業の商品開発支援業務の中で本手法を試行し て,その有効性を確認することとした. 対象案件は,ペット用品の開発支援(平成 24 年度グ Fig.5 ッドデザイン商品創出支援事業)である.ペーパーモデ プロトタイプの操作行為の観察 ル手法によるプロトタイプの作成による構造や素材の検 Table 2 討と,作成したプロトタイプの操作行為をビデオ撮影し 観察で分かったユーザー要求事項 て観察,分析することによりユーザー要求事項を把握す 位置関係 身体的適合性 ることを目的として行動観察手法を試行した. 力学的側面 接触面 HMI(ニュ 頭脳的適合性 ーマンイン ターフェイ 時間的適合性 ス)の観点 環境的適合性 運用的適合性 Fig.4 フードを取り出しにくい 扉などの面テープの接着力が強すぎる 取っ手で持ち運ぶには重たい、持ちにくい? 既存ケージに載せているときに動く、滑る 災害時の持ち出し形態に変形させることが分かり難い ケージ形状にするときの袋内部の壁や柱の操作が分かり難い 中身の有無が識別できない 災害寺の持ち出し形態に変形させる時間的余裕が心配 製品にボリュームがあるので設置空間に狭さを感じる 製品素材のセレクトが、設置空間への適合を左右する フードのロータリー消費の運用が不明 ロータリー消費をするには全体の容量が足りない 用途毎の収納スペースの使い分けが不明 フードの残が明示的でない 操作・行 動の手が 利用方法、変形方法が分かり難い かり ふたの開閉の向きが分かり難い 識別性 使用した内容物を戻すときの扉の場所が分かり難い 操作・行 扉の開閉に方向性がある 動に対す L字形態に上下がある、逆にすると中身がこぼれて使えない る制約状 内容量の増加に制限がある 況 ペーパーモデルの作成 10 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 3. 結果及び考察 商品開発支援業務の案件についてプロトタイピング を試行することにより,迅速,低コストにてユーザーの 潜在ニーズを明らかにして開発要件や試作の問題点を得 ることができた.プロトタイピングにおける試作手法と 評価手法の調査結果と併せて,企業の製品開発を支援す るために「プロトタイピング」は有効な支援ツールとし ての可能性を持つことが確認できた. 本年度の実施内容を基点として,次年度以降も開発支 援業務において機会を捉えて「プロトタイピング」を活 用し,ユーザーニーズに適う市場競争力の高い製品開発 を進め,そのノウハウの蓄積を継続したいと考えている. 参考文献 (1) ユ ー ザ ビ リ テ ィ エ ン ジ ニ ア リ ン グ 樽本徹也 (2005) (2)プロダクトデザイン 日本インダストリアルデザイナー協会 編(2009) (3)ヒット商品を生む観察工学 山岡俊樹 編著(2008) 11 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 県産スギ・ヒノキ等未利用材の高付加価値化及び商品化研究(第1報) 兵頭敬一郎 *・佐藤幸志郎 *・久恒雄一郎 **・氏家誠司 *** * 製品開発支援担当・ **久恒森林株式会社・ ***大分大学工学部 Research and commercialization of high-value-added by unused cedar and cypress of Oita Prefectural Product (the 1st report) Keiichiro HYODO*,Koushirou SATOU* Yuichiro HISATSUNE**,Seiji UJIIE*** * 要 Product Development Group・ **Hisatsune Forest Co.,Ltd.・ ***Faculty of engineering,Oita University 旨 大分県の森林面積は県土の 72%を占め,スギは民有林の造林面積と素材生産量が国内トップレベルである.ヒノ キも民有林の造林面積と素材生産量が全国有数規模で,貴重な地域資源である. しかし木材価格は低迷,林業の収益性は悪化し再造林・育林の費用までは賄えないのが現状で,大分県の林業経 営体数は 5 年前と比較すると約 3 割減少し,林業の衰退が進行している. 林業を持続可能なものにするためには,森林資源を木材だけでなく,より付加価値が高く木材としては使えない 枝葉や曲がった木など,これまで利用されていなかった森林資源を活用した商品開発が必要となる. そこで林業再生に向けた事業として林地未利用材を活用した精油製品を商品化する際の,技術やマーケティング 上の課題を解決するため,久恒森林株式会社は,大分大学工学部と当センターと共同で研究を進める. 1. はじめに ヒット商品などを参考に社会環境分析を行なう. 久恒森林(株)では,ヒノキとスギの枝葉や木部などの 自社の強みや弱み,市場の機会や脅威を分析し中核的 林地未利用材から精油を蒸留抽出する研究を独自に進め 推進力を明確にするとともに市場・業界の分析を行なう. てきた.精油は,香りを楽しむアロマテラピーに使用さ 2.2 れ,試験販売を実施したところ, 「森の中にいるような気 ターゲット設定 アロマ市場を牽引するターゲットを想定し,属性と特 持ちになれる」と女性や中高年の男性から高い評価を得 性,生活シーンの設定を行なう. ている.この取り組みを端緒として,木材としては使え 2.3 ない枝葉や曲がった木など,これまで利用されていなか 市場でのニーズ確認と競合品の調査 商業店舗でのアロマ関連市場や研究機関での精油抽 った森林資源(林地未利用材)を多段的(カスケード的) 出技術や商品化の取り組みを調査する. に活用し,さらに付加価値を高めた商品開発を行い林業 2.4 再生につながる事業としていくことを計画している. ブレーンライティング法を基にアイデア発想を行ない, 当センターは,精油の香りを楽しむためのスギやヒノ アイデア発想と商品コンセプト検討 アイデアを組み合わせて商品コンセプトを立案し,バー キ等の林地未利用材を使用したディフューザーの商品化 チャルカタログにより試作の可能性を検討する. に向けて久恒森林(株)と共同で研究に取り組む. 2.5 試作品の製作 商品コンセプトの具体化に向けた試作品を製作するた 2. 研究内容 め,林地未利用材の製材加工,乾燥,試作品の部材加工 林地未利用材から抽出された精油の香りを楽しむため を行う. には,拡散する道具であるディフューザーが必要となる. 2.5.1 本研究の1年目の課題である,林地未利用材を利用し スギ,ヒノキの製材加工 林地未利用材を専門に加工する製材所で製材する. たディフューザーの試作に向け商品開発プロセスに基づ 2.5.2 いて開発に取り組んだ. 恒温恒湿器を使用し低温除湿乾燥法により乾燥する. 2.1 社会環境・社内環境・業界市場分析 2.5.3 生活者を取り巻く環境を分析してトレンドを探るため スギ,ヒノキの乾燥 試作品の加工 4 つの開発テーマで検討した試作品の加工を行う. 12 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 3. 3.1 研究結果及び考察 社会環境・社内環境・業界市場分析 過去のヒット商品情報などを収集し下記のとおり自社 に活かせそうなキーワードを抽出した. ○世のため消費 ○健康,癒し ○新たな顧客の創造 ○交流+IT ○安全,安心 ○感動を共有 久恒森林(株)の強みや弱み,市場の機会や脅威を分 析し自社の中核的推進力として以下の項目を設定した. ○フェアウッド&トレーサビリティ ・持続可能な木材利用 Fig.2 ・履歴がわかる材料 ○森林認証取得 ターゲット設定シート ○銀座地域商業施設 ・「緑の循環」認証会議(SGEC)の森林認証 ・ニールズヤードレメディース ○林地に豊富な未利用材がある. ・生活の木 松屋銀座店 ○国産アロマへのニーズが高まっている ・大分県東京事務所 ○森林総合研究所 ディフューザーの市場における競合商品の分析を行う ・銀座香十 ・銀座三越 坐来 8F ・まるごと高知 バイオマス化学研究領域 ○農業生物資源研究所 ため,縦軸に価格,横軸に空間の広さを設定した.超音 ○自由が丘地域商業施設 波や発光熱,炎により拡散する商品は競合品が多く,技 ・グリーンフラスコ 術的な課題があるため,自然拡散技術による小空間で低 ・オークビレッジ自由が丘ショールーム 価格帯の商品が有望であることが確認できた.(Fig.1) ・F&Fオーガニックナチュラルビューティー ○羽田空港国際線 ・まかないこすめ 羽田空港国際線店 商業施設の調査では,国産の精油に対するニーズが高 く中でもスギやヒノキが選ばれていることが実感でき, 海外のアロマ文化の真似ではなく日本人の嗜好に合った 香りとその楽しみ方の提案が必要であると感じた. 研究施設の調査では,減圧式マイクロ波水蒸気蒸留装 置による香り成分の抽出技術により企業と共同で商品化 されている事例や,機能性の追及,エッセンシャルウオ ーターの活用が鍵になる事などが参考になった.同じ樹 種でも産地によって抽出成分が異なるため,地方特有の Fig.1 樹木成分を含む精油が各地で商品化されることで地域の 競合品の価格と拡散性能の関係 活性化につなげる事が必要であることがわかった. 3.2 ターゲット設定 3.4 アロマ市場を牽引するターゲットを想定し,属性と特 ブレーンライティングによるアイデア発想後,その基 性,生活シーンの設定を行なった. となる気持ちで分類し下記 4 テーマを設定した. ( Fig.3) ターゲット候補として 20 代後半の女性,40 代前半の ・P案「樹木などの自然な形がインテリアアート 女性,50 代後半の男性を検討したが,森林浴や登山に興 になる Forest ディフューザー」 味を持つ 20 代後半の女性にニーズがあると判断し,山ガ ・Q案「自宅で旅館のヒノキ風呂気分が ール,カメラ女子をターゲットとした.(Fig.2) 3.3 アイデア発想と商品コンセプト検討 味わえるヒノキ湯アロマ」 市場でのニーズ確認と競合品の調査 ・R案「樹木を利用したふだん使いの生活用品で 平成 24 年 5 月 17 日(木)~19 日(土)の 3 日間, 香りを楽しむ Mori アロマグッズ」 商業店舗でのアロマ関連市場の調査や研究機関での精油 ・S案「利用することが森林・林業・環境に貢献する 抽出技術や商品化の取り組み状況について調査した. 森の宝もの collection 」 13 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 県内には,柱や梁などの建築部材を加工する製材所は 多いが,短く玉切りされた材料を加工することはできな いため,日田市内で主に元鉢を製材して下駄の材料に加 工する製材所にて加工された部材を利用した.(Fig.5) 3.5.2 スギ,ヒノキの乾燥 一般的に製材所の乾燥機では建築材の基準である含水 率 15%が下限であり,主に高温乾燥が用いられる. 今回は材の色や木肌の質感が比較的良いと言われる低 温除湿式乾燥により含水率 10%以下になるようセンタ ー内の恒温恒湿器を使用し乾燥することとした.(Fig.6) Fig.3 開発テーマ設定 乾燥する前の含水率を計測するため,部材の一部を切 上記4つのテーマごとにアイデア発想を行い,コンセ 除し,全乾法により重量から算出した結果,ヒノキが平 プト機能用件,アイデアを組み合わせて商品コンセプト 均 31.4%,スギが 87.8%の含水率であることがわかった. を検討した.(Fig.3) 他の部材については,この含水率を基準とし重量から 商品コンセプトに基づき作成したバーチャルカタログ 含水率を推定した.含水率は寸法や部位により含水率が を基にメンバー内で検討し,意見を参考に試作品の製作 異なるため,一旦 60%~40%にしてから徐々に下げてい に向けて改良設計を行なった.(Fig.4) くこととし,ヒノキ平割材(50mm 厚)の低温除湿乾燥のス ケジュールを参考に,約 17 日間で含水率を 10%以下に する事ができ,その後 3 日間調湿し気乾含水率に戻した. なお,下表(Table 1)の想定含水率は最も断面寸法の 大きな部材(120×120×400)2 本の平均より算出した. Table 1 時間 Fig.4 3.5 3.5.1 0~95 95~124 124~216 216~288 288~335 335~407 407~479 バーチャルカタログによる検討 ヒノキ乾燥スケジュール 乾球温度 (℃) 35 35 35 40 40 40 40 相対湿度 (%) 75 70 65 60 55 50 80 想定含水率 (%) 31.4 17.0 12.5 9.8 14.2 試作品の製作 スギ,ヒノキの製材加工 林地未利用材の中でも,1 番玉の下の根元の部分は元 鉢と言われ,50cm 程度に玉切りされ,主に下駄の材料と して利用されてきたが,現在では需要が減ったため林地 に放置されている. Fig.6 ディフューザーに加工してもらう材料としては,節が なく木目がきれいな材料が適していることから,林地に 3.5.3 放置されている元鉢の部分を利用することとした. 恒温恒湿器による低温除湿式乾燥 試作品の加工 久恒森林(株)は中津市の「なかつ 6 次産業創生推進協 議会」のメンバーとして,湯船の中で首に当てて使用す る「玉湯まくら」を開発している.今後,木工ロクロを 導入するため,球形の展開による試作品を検討した. 金属部品は特注家具金物等を製造する, (株)田嶋製作 所(日田市)から部材を購入し,木部品は木工ロクロに よる加工技術を持つウッドアート楽(日田市)と TODAKA Fig.5 WOOD STUDIO(九重町)に加工依頼することとした. 製材所の製材機と加工部材 14 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 一般的に木工ロクロで加工される広葉樹材に比べスギ て起き上がる. やヒノキなどの針葉樹材は,刃物での切削後に荒れた表 ・玉湯アロマ:大小の球を組み合わせ,ツボ押しをし 面の研磨量を多くする必要があるため手間と時間がかか ながら香りを楽しみ,倒しても起き上がる. る.特にスギは研磨量を多くする必要がある.(Fig.7) R案:森のくつべら,玉乾ら また,研磨の熱の影響で表面に小さなひび割れが入る ・玉乾ら:複数の球を紐に通して靴の中に入れ,芳香 事があるため,少しずつ削るなどの工夫が必要となる. と湿気を取る事を想定した靴用アロマ製品. ・森のくつべら:中央に穴を開けた円筒形のスタンド に,長尺の枝の下端を削ったくつべらを立てて使用 する.精油は枝の上端に取り付けた球に滴下する. S案:森のペーパーウェイト,森のゆらぎアロマ ・森のペーパーウェイト:スギやヒノキのほか,カシ などの広葉樹を球状に削り,上部の窪みに精油を滴 下し香りを楽しむ.下方に錘を埋め込むことでゆれ Fig.7 木工ロクロによるスギの加工と表面の状態 るウェイトとして利用. 枝の加工については,伐採時に枝打ち後,林地に放置 ・森のゆらぎアロマ:半球状の台の中心にバネ加工し された枝の中から,試作品の用途に合った太さや形状の た金属線を差し込み,その上端に窪みのある球を ものを選定した.枝の樹皮は汚れが付着し,乾燥すると 取り付ける.上部の窪みに精油を滴下した球が揺れ 部分的に矧がれ落ち不潔であることや,素手で触れると ることで香りを拡散する. 危険であるため剥いて利用する事とした. 樹皮が付いたまま乾燥させて矧がす方法では,樹皮の 上記,P,Q,R,Sの 4 つのテーマで開発した試作 下の真皮が付着して研磨に手間と時間がかかった.そこ 品は,ターゲットが居住する室内の使用シーンでの使い で,樹皮や枝に充分水分が染みこんだ状態になるまで浸 方を想定し,試作品を評価する際に提案する予定. けておくことで,真皮とともに樹皮が剥離し研磨の手間 ○玄関での使用を想定 が少なくなることが確認できた.また,樹皮を剥くと枝 ・玉乾ら の表面に部分的に虫の食害の後があるため,表面を削り ・木立ちスタンド 落として研磨する必要があることがわかった.(Fig.8) ○浴室での使用を想定 ・玉湯ら ・森のくつべら ・玉湯ら ・玉湯アロマ ○ターゲットの個室での使用を想定 ・玉湯ら ・森の交響曲 ・森のペーパーウェイト ・森のゆらぎアロマ ○リビングでの使用を想定 ・玉湯ら Fig.8 ・森の交響曲 ・森のゆらぎアロマ 枝の樹皮剥きと虫の食害の状態 4. ディフューザーの試作においては,幹を利用,枝を利 まとめ 用,幹と枝を組み合わせて利用することとし,4 つの開 林地未利用材は,林地で用途に合った材料の選定と搬 発テーマに沿ってアイデア発想した案の中から下記のと 出,材料の選別と樹皮の除去,製材,乾燥,加工,組み おり 8 種を試作した. 立てなどの工程を経て,製品化が可能となる. P案:森の交響曲,木立ちスタンド 加工の段階では充分に乾燥した材料を使用しないと, ・森の交響曲:iPhone や写真等を立てる溝がある角材 割れや狂いが生じ不良品となるため,加工する前に含水 の上に枝を取り付け,枝端部の球から香りを楽しむ. 率を一旦 10%以下に乾燥した材料の使用が必須となる. ・木立ちスタンド:板上に長さを変えた枝を取り付け, 今年度の研究では,センター内の恒温恒室器を使用し 枝の上端に取り付けた球に精油を滴下する. 一旦 10%以下まで乾燥したため,加工の段階で割れや狂 枝にスリッパを立てると,森の木立ちが連想できる. いが生じることはほとんどなかった. Q案:玉湯ら,玉湯アロマ 当研究期間終了後の事業化を考えると,加工に必須と ・玉湯ら:上端に精油を滴下し,起き上がり小坊師の なる乾燥技術が課題となるため,25 年度の研究課題の 1 ように倒しても,左右に揺れながら香りを拡散させ つとして検討が必要と考えられる. 15 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 漁船機器の無線遠隔制御装置の開発 小田原幸生*・足立彰**・谷口康広** * 電子・情報担当 ・ ** 有限会社光電 Development of Wireless Remote Controller for Fisher and Aqua-cultural Machine Yukio ODAWARA*・Akira ADACHI**・Yasuhiro TANIGUCHI** * 要 Electronic and Information Engineering Group ・ ** Koden limited company 旨 漁船を用いた漁業経営では,近年の石油価格の高騰を背景に,燃料費の節減が強く求められている.そこで,養殖 海苔の摘採をモデルとし,海苔の摘採を行う小型船から母船の機関,機器を無線遠隔操作する装置を開発し,実用 化・製品化のための試験と改良を行い,製品化に結び付けることができた. 1. はじめに と機関の始動を完了させるようにした.一方,従来から 漁船には様々な電動機器が搭載されていて,いつでも 同様の働きをする機器にセーフティリレーが使われてい これらの機器を使えるように,発電機,すなわち機関を る.しかし,装備されていない漁船や,機能していない 常時動作させていることが多い.しかし,近年の燃料価 ものもあるという.セーフティリレーは発電を検出して 格の高騰や温暖化ガスの CO2 排出削減要請を背景に,燃 動作するので,機関動作中の誤ったスタータ投入を防ぐ 料の節約が強く求められている.そこで,無駄なアイド ことができるなど安全性が高い.そこで,セーフティリ リングを防止し,機器を使うときに遠隔操作で機関の始 レーとの併用を推奨している. 動/停止を行うシステムを開発した.モデルとしたの ②について,③との関係で受信・制御装置を密閉構造 は,古くから沿岸部で行われている海苔養殖(支柱式) にする必要性があり,発熱による装置内部の温度上昇が における海苔の摘採で,採取した海苔の運搬を行う母船 問題となった.このため,制御電流の最大値を制限する (漁船)に設置された受信・制御装置により,摘採を行 ことと併せ,デバイスの温度を検出し,一定の温度を超 う小型船から小型無線送信器による操作で,機関の始動 えると対象機器の使用を一時的に休止させるようにして /停止,照明,ポンプ等を操作できるようにした. いる. ④について,具体的に電源のアース(グラウンド)が 2. 開発の課題と対応 バッテリ電極+-のどちらに接続されているか,機器の 当初,開発の課題として次の点が挙げられた. 入/切をするスイッチがどちら側かで配線形態が異な ① 機関の始動/停止制御における信頼性 る.このため,回路基板ではスイッチに対応するパワー ② 低電圧,大電流制御のため発熱(損失)が大 MOS・FET を+-の両極に設け,基板上のデバイスの付け ③ 防水・防錆性 替え(付録 Fig.3 ⑱)で片方のみを動作させている. ④ メーカーによって異なる船内配線形態 無線遠隔制御装置の詳細を付録に示す. ⑤ ユーザーにとって導入が容易であること 3. 無線モジュールは㈱サーキットデザインの 315MHz 帯 まとめ 特定小電力無線を用い,10m 以上の通信距離を確保し 平成 23 年度に基本システムの動作確認を行い,平成 た.また,マイコンは Microchip Technology 社の PIC 24 年度は漁船での動作確認を行って,11 月末からの海 を用い,スルーホール基板上で開発を行った. 苔の収穫で約 3 ヶ月間の実働試験を行い,制御の検証が ①について,漁船にとって心臓部と云える機関の制御 できた.また,送信器の防水対策の強化など改良も行っ を行うので,事故があってはならない.特に,機関が掛 た.開発した装置は,国内の漁業で初めて投入する機器 かった後もスタータ(セルモータ)を回し続けるオーバ であり,水産関係者からも,特に高くなってきた燃料の ーラン(過回転)を防止するため,機関が掛かりスター 節約,排ガス規制に効果があるということで好評であ タの負荷が軽くなって,バッテリ電圧の上昇を検知する る.本装置は平成 25 年 5 月より販売予定である. 16 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 《付録》 漁船機器の無線遠隔制御装置の詳細 Fig.1 無線受信・制御装置(正面) Fig.2 (背面) Table 1-1 各部の名称,定格 番 名称 定格 1 始動時間調整 2 電源 ON 表示ランプ 3 電源スイッチ 4 主電源ヒューズ 20A 5 補助電源ヒューズ 6 番 0.5~5.5 秒 名称 定格 9 始動(RUN)出力 最大 5A 10 停止(Stop)出力 最大 20A 2 秒 11 主電源リレー(Main)出力 最大 2A 12 空き 20A 13 補助電源入力 COM2 補助バッテリ -接続 線条アンテナ 1.4m 14 補助電源入力 +V2 補助バッテリ +接続 7 主電源入力 COM1 主バッテリ-端子接続 15 ポンプ出力 最大 3A 8 主電源入力 +V1 主バッテリ+端子接続 16 電灯出力 最大 12.5A ※主バッテリ,補助バッテリの定格電圧は共に 24V (将来的に 12V (コモンレール式)にも対応させる.) Fig.3 本体内部 Fig.4 送信器 Table 1-2 各部の名称,定格 17 受信モジュール 315MHz 帯 特定小電力無線受信モジュール 18 出力極性切り替え用 フォトカプラ・ソケット 上から L(Light:照明),P(Pomp:ポンプ) M(Main:主電源),S(Stop:停止),R(Run:始動) 19 オーバラン検出 閾値設定 主バッテリ電圧検出による.19V~25V 17 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 難削性金 属 材料の切 削加工技術 の高度化に関 する 研究(第 3 報) ―コーテッド超硬エンドミルによる難削材の効率的切削加工技術の開発― 大塚裕俊・水江宏・橋口智和 機械・金属担当 Study on end milling difficult-to-machine alloys(the 3rd report) -High efficient machining with coated carbide endmills Hirotoshi OHTSUKA・ Hiroshi MIZUE・ Tomokazu HASHIGUCHI Mechanics and Materials Engineering Group 要 旨 難削性金属材料の切削加工技術の高度化のため,前年度のエンドミルの切れ刃形状を改良した不等リ ー ド エ ン ド ミ ル を 用 い て , ス テ ン レ ス 鋼 (SUS304)の 切 削 加 工 実 験 を 行 っ た 結 果 , 等 リ ー ド エ ン ド ミ ル に 比較して不等リードエンドミルでは切削抵抗の変動が小さく切削距離が伸びる結果が示された.また, より加工条件の厳しいポケット形状を対象とした切削加工実験を行った結果,不等リードエンドミルの 方 が ス テ ン レ ス 鋼 ( SUS304) で は 工 具 寿 命 が 大 幅 に 増 大 し た . 1. さらにポケット形状加工では,ねじれ角が交互に はじめに 36°と 39°である直径 8mm,4 枚刃の(Ti, Al)N コーテ ステンレス鋼など難削材は,エンドミル加工におけ ィングされた超硬ストレートエンドミル(不等リードエ る被削性の向上が常に求められている.今回は,ステン ンドミル)を用いる(市販品:以下エンドミル(C)). レス鋼を対象として,前年度に開発されたコーテッド超 この比較対照用として,材質がほぼ同等の超硬ストレー 硬エンドミル工具をさらに改良した不等リードエンドミ トエンドミル(ねじれ角がすべて 45°)を利用する ルを加工実験に適用する.また加工形状として,直線切 (市販品:以下エンドミル(D)). 削に加え加工条件の厳しいポケット形状の切削加工も実 なお被削材はステンレス鋼 SUS304 を用いる. 施する. 2.2 本研究では,被削材の加工効率向上の手段として, 実験装置と手順 Fig.1 に用いる実験装置の概略を示す.上記の材料か 一刃ごとにねじれ角を変化させた不等リードエンドミル ら作製した被削材 1,2 を立形マシニングセンタ(MC)の を適用する.昨年度の知見により切れ刃形状を改良した テーブル上に取り付ける.被削材 1 は工具寿命試験(直 本工具を用いて比較試験を行い,工具寿命向上について 線切削およびポケット形状切削)に用いられ,被削材 2 の有効性を示す.また製品加工で頻出する凹部形状(ポ は 3 成分工具動力計上に保持され切削抵抗の測定に用い ケット形状)について,等リードエンドミルとの比較実 られる.切削抵抗の測定は Table 1 右の Rd,Ad に示さ 験を行い有効性を検証する. れるように,被削材についてエンドミルの軸方向と径方 2. 2.1 向に一定の切込み量を与えて XY 平面内での直線端面切 実験装置と方法 削により行う.工具寿命試験の標準切削条件も Table 1 切削工具と被削材 左に示す.切れ刃や切りくずの外観についても適宜に観 工具として,ねじれ角が交互に 30°と 32°である直 察する. 径 8mm,4 枚刃の(Ti, Al)N コーティングされた超硬ス トレートエンドミル(不等リードエンドミル:Fig.2) Z Holder を用いる((株)信栄製作所で製作:以下エンドミル Y (A)).これは今回開発された工具である.その比較対 X Endmill 照用として,前回利用した超硬ストレートエンドミル (ねじれ角がすべて 30°)を用いる((株)信栄製作 Dynamometer M/C table 所で製作:以下エンドミル(B)).なお工具母材は超微 粒子超硬合金であり,従来よりも硬度や耐酸化性が向上 Workpiece 1 した被膜を用いている. Fig.1 18 Workpiece 2 Setup for experiment 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 1 Cutting conditions for experiments Experiment Cutting conditions Cutting speed V m/min (Spindlespeed) S min-1 Feed per tooth fz mm/tooth Cutting direction Free length of tool mm Tool runout Radial depth of cut Rd mm Axial depth of cut Ad mm Cutting force measurement 工具パスと Table 1 左に示す条件で工具を外側にスパイ 75 3000 ト形状の加工を行い,定数個の加工終了ごとに切削抵抗 0.03, 0.01* (0.08*mm/cycle Z direction : radius=1*mm) Down cut 32 ≦ 6μm 0.4 (standard) 0.03 Coolant ラル状に広げていくことで行う.さらに連続してポケッ の測定と切れ刃や切りくずの観察を行う.以上を市販エ ンドミル(C)(D)について行う.Table 2 にエンドミル (A)~(D)のねじれ角と工具メーカを示す. Down cut 32 ≦ 6μm 0.4 8 8 SUS304(Straight &C oncave cutting) Workpiece まで工具をらせん状に振り下ろし,ついで Fig.3 に示す Tool wear experiment (Straight&Concave) 75 3000 Dry air SUS304 (Straight cutting) Dry air * Cutting conditions for initial helical milling for concave cutting Fig.3 Tool paths and milled workpiece used for tool wear experiment (Dimensions of the shape 40× 40×8mm) Table 2 Coated carbide endmills (φ8mm, 4 flutes) used for experiments Manufacturer Cutting edge Unequal helix angle Endmill(B) 30° Equal helix angle 3. SHIN-EI OSG SEISAKUSHO Co., CORPORATION Ltd. (developed (commercial endmill) product) Endmill(A) Endmill(C) 30°, 32° 36°, 39° 3.1 実験結果と考察 直線切削加工 ステンレス鋼 SUS304 は鋼材として広く利用されてい る.本研究では開発されたエンドミル(A)(B)を用いて直 線切削加工を行い,工具寿命等について比較評価を行っ Endmill(D) 45° た. 不等リードエンドミル(A)の結果については,Fig.4 に見られるように,切削距離の増大とともに工具摩耗が (a) ↓ ←(b) 30° 次第に進展し,切削距離 25m で工具寿命となった.工具 摩耗の特徴は,切れ刃先端形状が逃げ面とすくい面を含 100° めて面取り状に鈍化していくようにチッピングが起こり 摩耗が進行していく点である.そして切削距離とともに, 32° 切れ刃全面にわたって工具摩耗やチッピングが大きくな った.そして刃先が赤熱して切れ刃全面への被削材の溶 着が発生し,工具寿命を迎えた. (a) Side edge Fig.2 2.3 (b) Bottom edge Unequal helix angle endmill (Endmill(A)) 実験条件 工具寿命試験(直線切削ないしポケット形状切削) に用いる切削条件を Table 1 左に示す.直線切削は直線 端面切削の繰り返しにより行うが,ある切削距離ごとに 切削抵抗の測定と切れ刃や切りくずの観察を行う.以上 について開発エンドミル(A)(B)について比較実験を行う. これに対しポケット形状加工では,*印で示す条件によ る切削開始時のヘリカル穴加工が必要である.Fig.3 に ポケット形状加工に用いられる工具パスとその加工状況 Fig.4 Photographs of cutting edge (Endmill(A) Workpiece: SUS304) を示す.加工順序はまず被削材の中心において深さ 8mm 19 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター また切削抵抗の測定値については,切削距離ととも Fig.7 は切削抵抗の変動の大きさを評価する指標とし に被削材に対する法線方向成分 Fx が他成分と比べて切 て,切削抵抗成分 Fx の分散σ2 の変化を示したものであ 削距離とともにゆるやかに増大したが,工具寿命に近づ る.これによれば,不等リードエンドミル(A)の方が工 くにつれ急激に増大していった(Fig.6).切りくず形 具寿命時まで低い値で推移していることがわかる. 状については,新品工具時は光沢のある細い短冊形状を 呈するが,切削距離の増大とともに,徐々に表面のせん 断による横筋が大きくなっていき,端面にギザギザが発 生していった.さらに切削距離 20m を過ぎると切りくず が大きく千切れるようになり,工具寿命時には切りくず の細かい破断やむしれが増大した.切りくずの色も銀色 からやや鈍い色に変化した(Fig.5). 以上の結果と比較のため,等リードエンドミル(B) について同じ条件で実験した際の切削抵抗の測定値(法 線方向成分 Fx)の変化を Fig.6 中の○印で示す.これ によれば,不等リードエンドミル(A)に比べて Fx は切削 Fig.7 Relation between cutting length and cutting force (Endmill(A) Workpiece: SUS304) 開始からやや直線的に増大している.また不等リードエ ンドミル(A)の切削距離がエンドミル(B) よりも 25%以 上伸びていることがわかる. 3.2 ポケット形状切削加工 続い て, エン ド ミル(C)(D) を用 いて ステ ン レス 鋼 SUS304 のポケット形状加工を行い,工具寿命等につい て比較評価を行った. 不等リードエンドミル(C)の結果については,まず切 れ刃の変化では,Fig.8 に見られるように,切削個数の 増大とともに工具摩耗が次第に進展し,切削個数 60 で 工具寿命となった. Fig.5 Photographs of chip (Endmill(A) SUS304) Workpiece: Fig.8 Photographs of cutting edge (Unequal helix Angle Endmill(C) Workpiece: SUS304) 工具摩耗の特徴は,前節と同様に切れ刃先端形状が 逃げ面とすくい面を含めて面取り状に鈍化していくよう にチッピングが起こり摩耗が進行していく点である.そ して切削個数増大とともに,切れ刃全体において工具摩 耗やチッピングが大きくなり,刃先が赤熱して切れ刃へ Fig.6 Relation between cutting length and cutting force (Endmill(A) Workpiece: SUS304) の被削材の溶着が発生し工具寿命を迎えた.ヘリカル穴 20 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 加工によりエンドミル底刃も損傷するが,Fig.9 に示す ように底刃外周部から摩耗や欠けが切削個数とともに成 長している. 切削抵抗の測定値については,切削個数とともに被 削材に対する法線方向成分 Fx がゆるやかに増大してい き,工具寿命が近づくとその増加率が大きくなった (Fig.11). 切りくず形状については,当初は銀色の短冊状切り くずであるが,切削個数 30 を過ぎて切りくずの千切れ が多くなった.また徐々に表面のせん断による横筋が大 きくなりそこから破断するものが増えていった.工具寿 命時にはほとんど切片状に断裂した切りくずとなり,切 りくずの色も銀色からやや鈍い色に変化した(Fig.10). Fig.11 Relation between cutting length and cutting force (Unequal helix Angle Endmill(B) Workpiece: SUS304) 以上の結果と比較のため,等リードエンドミル(D)に ついて同じ条件で実験した際の切削抵抗の測定値(法線 方向成分 Fx)の変化を Fig.11 中の○印で示す. これによれば不等リードエンドミル(C)の切削距離が 等リードエンドミル(D)よりも 4 倍程度大きく伸びてい ることがわかる.また双方とも特徴的な切削抵抗の増加 傾向を示すことがわかる.また前節と同様,その切削抵 抗の変動値についても等リードエンドミル(D) よりも工 具寿命時まで低い値で推移していた. 4. おわりに 開発された不等リードエンドミル等を用いて,切削 加工実験(直線切削およびポケット形状切削)によるス テンレス鋼 SUS304 の適切な加工条件の研究を行い,次 Fig.9 Photographs of cutting edge (Unequal helix Angle Endmill(C) Workpiece: SUS304) の結果を得た. (1) 開発された不等リードエンドミルによる SUS304 の 直線切削では,標準切削条件において切削距離 25m 0 となり,比較したエンドミルの切削距離 20m に対し 30 て 25%以上工具寿命が延びた. 1mm (2) 市販の不等リードエンドミルによる SUS304 のポケ ット形状切削では,標準切削条件において切削個数 60 となり,比較したエンドミルの切削個数 15 に対 して工具寿命が 4 倍程度延びた. 60 (3) SUS304 の直線切削およびポケット形状切削では, いずれも切れ刃先端が面取り状に鈍化していく摩耗 形態を示した.切削抵抗の被削材に対する法線方向 成分 Fx が,工具寿命が近づくに従い増加率が大き 45 くなった. Fig.10 Photographs of chip (Unequal helix Angle Endmill(C) Workpiece: SUS304) 追 記 本研究は,平成 24 年度の九州各県工業系公設試連携 研究の一環として実施されました. 21 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター セラミックスの高精度切削加工技術(第 4 報) -ベクトル磁気特性計測用 H コイル巻枠の加工- 水江宏 *・大塚裕俊 *・重光和夫 *・橋口智和 *・竹中智哉 ** ・相原茂 *** * 機械・金属担当 ・ ** 電子・情報担当 ・ *** 西日本電線株式会社 Precision Cutting Technology of the Ceramics (The 4th) -Cutting for a H-Coil Bobbin of Local Two-Dimensional Vector Magnetic Sensor- Hiroshi MIZUE * ・Hirotoshi OHTSUKA * ・Kazuo SHIGEMITSU *・Tomokazu HASHIGUTI * Tomoya TAKENAKA ** ・Shigeru AIHARA *** * ** 要 Mechanical and Metallurgical Engineering Gr. Electronic Information Gr.・ *** NISHI NIPPON ELECTRIC WIRE & CABLE CO.LTD. 旨 前報までは,市販の超硬合金エンドミル工具を用いてホトベールに対する溝加工実験,H コイル巻枠加工実 験,市販のダイヤモンドコーテッド超硬合金エンドミル,ワイヤ放電加工機で製作した PCD(焼結ダイヤモンド) エンドミルを用いてジルコニアに対する溝加工実験を行った.ジルコニアに対しては,いずれも工具寿命など で問題が生じ,工具1本あたり H コイル巻枠1個分の加工除去量に達しなかった.本報では,PCD 工具の製作 手法とジルコニア切削条件などの改善により,PCD 工具の長寿命化が図られた. 1. はじめに (Fig.1 参照).改良点は以下のとおり. 高能率な電磁力応用機器の開発にあたって,鉄心など ・軸の支持間隔拡大 の正確な磁気特性の計測が不可欠であり,磁束密度や磁 ・多軸受化 界の強さなどの面分布を計測するために,微小コイルな ・軸受内輪の予圧付加 どを用いる方法が提案されている.本研究では,磁界の ・ステッピングモータの採用 強さを測定する H コイルの巻枠の精密加工に取り組む. ・カーボンブラシの採用 巻枠の溝底の形状特に入隅部の形状が,H コイル製造 Control box 時の巻乱れの主な原因と考えられるので,入隅部の形状 精度の向上を目的に切削加工実験を行ってきた.前報で は,被削材をホトベールからジルコニアに変更して,ワ Stepping motor イヤ放電加工機で製作した PCD 工具による溝加工実験を Rotary encoder 行ったが,工具寿命が短いことが明らかとなった. したがって本年度は,PCD 工具の製作手法の改善,溝 加工条件の変更などにより,工具の長寿命化を目指す. 2. ワイヤ放電加工用軸回転装置の高精度化 Rotary shaft PCD は単結晶ダイヤモンドほどの硬度を有していない Fig.1 Chuck and rotary unit for W-EDM が,cBN の 2 倍以上の硬度を有している.また,特定の 結晶面に起因するへき壊性が無く,バインダーの導電性 2.1 により放電加工が可能であり,しかも安価である.これ テストインジケータ(2μm 目盛)およびニコン製測定 までワイヤ放電加工機と軸回転装置を使用して,刃先部 顕微鏡を用いて,回転精度・繰り返し位置決め精度等を に PCD を有するドリルやエンドミルを製作してきたが, 測定した. 軸回転装置の精度 製作する工具の精度,操作性の向上による製作時間の短 無負荷条件で回転精度は半径方向精度 2μm 以下,軸方 縮などを目的に高精度タイプの軸回転装置を試作した 向精度 1μm 以下,同方向の繰り返し位置決め精度は 22 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 0.05°以下,違い方向の繰り返し位置決め精度は 0.6° 被加熱物とコイルの取り回し確認と加熱実験等を繰り 以下を達成した.回転精度等は非常に高い精度を確保し 返し,Table 2 の仕様・駆動条件で最適な加熱時間と作 たが,違い方向の繰り返し位置決め精度が大きく劣る結 業性のバランスを得た.また,加熱中のワークの表面温 果となった.これは絶縁のために使用した駆動用ベルト 度(シャフト端部)と共振用コンデンサの表面温度の変化 によるバックラッシに起因するものと思われる(Table 1 を Fig.3 に示す. 参照). ZVS circuit Table 1 DC power supply Spec. of chuck and rotary unit for W-EDM Rotational accuracy (Radial plane) 2μm Rotational accuracy (Axial plane) 1μm Repeatability (Rotation) 0.05° Repeatability (Counterrotation) 0.6° Resolving power 0.05° Number of revolution Work Heating coil 0-125min-1 Fig.2 3. 高周波誘導加熱装置 High frequency induction heating unit Table 2 PCD 素材を軸回転タイプの切削工具に仕上げるために は,シャンク部となる鋼製の軸に PCD チップをろう付け Spec. of high frequency induction heating unit 4.7μF Condenser capacity する必要がある.従来は,マイクロトーチを使用しガス バーナーでろう付け作業していた.しかし,ろう材の溶 Heating coil 融温度は 700℃程度である一方 PCD は 700℃以上の高温に 数分さらされると表面が徐々に劣化することが知られて いる.マイクロトーチを使用し PCD をなるべく劣化させ Diameter 38.0mm Number of turn 10turn Inductance 3.0μH H Resonance frequency ずにろう付けするには,高い技能を要求する.そこで本 年度は,誰でも高品質に PCD のろう付け作業ができるよ Source voltage う 簡 易 型 の 高 周 波 誘 導 加 熱 装 置 を 試 作 し た (Fig.2 参 Consumption current 照).試作ポイントは中小企業への技術移転を考慮して以 Heating time 40kHz DC 13.5V 6A 30~35s 下のとおりとする. 材が溶融する出力とする. ● 対象物に小物(直径 3mm 長さ数 10mm 程度)を想定 し,加熱周波数を 30kHz 以上とする. ● LC 共振を利用して,低コスト・コンパクトな駆動回 路とする. 3.1 80 Shaft edge 600 60 400 40 Condenser 200 20 0 高周波誘導加熱装置の性能 0 0 駆動回路は,ZVS ドライバで構成した.本回路は,共 Surface temperature of the condenser 800 加熱保持時間や作業性を考慮して,30 秒程度でろう Surface temperature of the shaft edge ● 10 20 30 40 50 Time (s) 振周波数を調整することで出力電力を容易に調整するこ Fig.3 とができる. Temperature of the work and condenser 線径 3.2mm の極太エナメル線をコイル材料として使用 しコイル径 38mm と 61mm でそれぞれ 5turn,10turn,線 コンデンサ容量 4.7μF,加熱コイル直径 38.0mm, 外 径 3.0mm の 銅 パ イ プ を 用 い て コ イ ル 径 31.5mm で 10turn の時,共振周波数は約 40kHz で加熱時間は 30s~ 7turn,10turn のコイルを試作した. 35s(直径 3.1mm 長さ約 30mm の鋼製棒先端に配置したろ う材が溶融するまでの時間)となった.また,ろう材の 23 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 溶融温度域を超えた後は,約 750℃で温度上昇の速度が Table 3 遅くなり,ろう付けの作業性および PCD の高温劣化の抑 Slotting condition Slotting condition No 制の点で,理想的な加熱性能となった.共振用のコンデ ンサは加熱 1 回あたりの表面温度が 40℃以下であり,耐 久性の問題はないと予想できる. 4. ジルコニア溝加工実験 No.6 No.7 No.8 Number of flute 2 2 2 Rotation (min-1) 5000 5000 5000 Feed rate (mm/min) 7.5 7.5 7.5 Depth of cut Z(mm) 0.1 0.1 0.107 Coolant Dry Wet Wet Shape of neck Long Long Short H コイルの加工は,工具直径全面を使用した工具に対 する負荷の高い溝形状の加工である.本実験では,加工 方向の辺が 15mm のジルコニアの直方体を被削材として, 切削による溝加工実験を行い,2mm タイプの H コイル製 作時に必要な材料除去量に対して,工具摩耗を評価した. 4.1 PCD 工具の形状 4.3 実験結果 条件 No.6,7 では,1 パスあたり,2mm タイプ H コイル 巻枠 1 個加工時に必要な除去体積(3.22mm3)の 47%に相 これまでは工具の汎用性を考慮し,工具刃先長さや首 当する.条件 No.8 は,1 パスあたり 50%に相当する. 下長などを確保するため,首形状はシャンク部から PCD の刃先部まで約 2.5~3.0mm の長さの細軸形状(旧形状) 条件 No.6 における 1 パス後の工具状態を Fig.4,条件 としていた.しかしながら,工具剛性の不足から,加工 No.7 における 1 パス後の工具状態を Fig.5,および条件 抵抗による加工中の振動・曲げ・ねじりなどの影響によ No.8 における 1 パス後の工具状態を Fig.6 に,2 パス後 り工具寿命が短くなる可能性があるので,首下長が短い の工具状態を Fig.7 に示す.Dry 加工では大きなチッピ 高剛性な新形状とした.旧形状と新形状の刃先部の形状 ングが生じるものの,加工液を使用すること(No.7,8)で, (すくい角や逃げ角などのアライメント)は同じである. 大幅に工具寿命が向上することが示された. 4.2 実験方法 条件 8 における 1 パス後 2 パス後の刃先のすくい面の 従来の軸回転装置とマイクロトーチでろう付けを行っ 拡大写真を Fig.8 に示す.溝入口部出口部における溝底 た旧形状の PCD 工具を使用して Dry(前報分,条件 No.6) の入り隅部の拡大写真を Fig.9 に示す.また,加工距離 と Wet(条件 No.7)による溝加工実験を行い,さらに高精 に対する工具の半径方向の摩耗幅(=被削材の削り残し 度型の軸回転装置と高周波誘導加熱装置でろう付けを行 量)の関係を Fig.10 に示す.条件 No.8 では 2 パスまで加 った新形状の PCD 工具を用いて Wet による溝加工実験(条 工して,刃先摩耗が非常に小さいことが確認された.こ 件 No.8)を行った. れにより,2mm タイプ H コイル加工が 1 本の PCD エンド 切削形態は,1 パスあたりの長さが 15mm の溝切削とし ミルで加工可能であることが示された. た.新形状工具(条件 No.8)の Z 切込みは 0.107mm とした. これは 2 パス加工により除去する切削体積が,2mm タイ プ H コイル製作時の除去体積と一致するように設定した 都合による. 加工機には安田工業(株)製の精密立型高速マシニング センターYMC325 を使用した.機上計測用の顕微鏡はシグ 1div=100μm マ光機(株)製同軸照明付観察ユニット,オリンパス(株) 製 20 倍対物レンズを使用した.被削材には東ソー(株) (a) Face (b) Peripheral cutting edge ジルコニア YTZ(粉砕ボール用材料,曲げ強度:1200MPa, 硬度 HV10:1250,弾性率:210GPa)を使用した.工具は Slotting length:15mm×1pass PCD2 刃エンドミル(直径 1.0)を使用した.切削条件を Slotting condition No.6 Table 3 に示す.前報では,加工液を用いない Dry 加工 Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.1mm Coolant: Dry であったが,本報では,加工油中にジルコニアを浸漬さ せた Wet 加工とした.加工液は非塩素系の不水溶性切削 油(出光ダフニーマークプラス LA5)を使用した.また, (c) End cutting edge 工具突き出し長さは,コレットナット端部から約 10mm Fig.4 とした. 24 PCD tool condition after slotting 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター New tool 1div=100μm (a) Face (b) Peripheral cutting edge 1div=10μm Slotting length:15mm×1pass Slotting condition No.7 Slotting length: 15mm×1pass Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.1mm Coolant: Wet 1div=10μm (c) End cutting edge Fig.5 PCD tool condition after slotting Slotting length: 15mm×2pass (a) Face (Side A) 1div=100μm (a) Face Slotting condition No.8 (b) Peripheral cutting edge Slotting length:15mm×1pass Fig.8 (b) Face (Side B) Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.107mm Coolant: Wet Condition of the PCD endmill face Slotting condition No.8 Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.107mm Coolant: Wet Slotting length: 15mm×1pass (c) End cutting edge Fig.6 6 μm PCD tool condition after slotting 1div=10μm Slotting length: 15mm×2pass 6 μm 1div=100μm (a) Face (b) Peripheral cutting edge 7 μm (a) Start point Slotting condition No.8 Slotting length:15mm×2pass Slotting condition No.8 Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.107mm Coolant: Wet Fig.9 Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.107mm Coolant: Wet Condition of the work corner また,加工後の工具観察では,第 2 逃げ面やその後ろ に続く逃がし面が,被削材と干渉している痕跡が認めら (c) End cutting edge Fig.7 (b) End point れた.原因は不明である. PCD tool condition after slotting 25 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 被削材の削り残し量を確認すると(Fig.9),削り残し量 なお,本テーマでは,あくまで入隅部の削り残し量の の変化は,加工直後に 6μm 程度生じた後,2 パス加工後 みに注目し PCD 工具の初期の摩耗状態を観察したもので で 7μm と安定している.しかしながら,2 パス加工後の あり,本来の使用条件であれば,問題の無い摩耗量を工 刃先状態は(Fig.8),Side A に大きめのチッピングが確 具寿命としている. 認される.すなわち,2 パス後の 7μm の削り残し量は, 条件 No.6,7,8 における加工溝の状態を Fig.11 に示 ほぼ Side B のみで達成されたもので,片刃となった PCD す.溝出口部に 100~200μm 程度のカケが生じている. エンドミルのその後の寿命は長いものではないと予想さ 実際の H コイル巻枠の加工では,これらのカケは,両サ れる. イドから工具を進入させることで抑制されることは確認 Width of residual work after slotting (μm) (Width of radial tool waer) されている. 条件 No.8 の 2nd パスにおいて,溝の側壁上部にカケが 10 確認される.同一工具にもかかわらず,2nd パスでカケ が急に拡大している.原因は不明である. 5 5. まとめ Corner radius of new tool 試作した高精度軸回転装置の各種精度を示し,高周波 誘導加熱装置の加熱性能を示し,これらを使用して製作 0 0 15 した 2 刃の PCD エンドミルを使用することで,2mm タイ 30 プ H コイル巻枠の加工を,1 本の工具で加工可能である Slotting length (mm) Fig.10 ことを示した. Slotting length and width of residual work 本研究は,大分県地域結集研究開発プログラムの一部 として,西日本電線株式会社と共同で行ったものである. Slotting condition No.6 15mm×1st.pass Slotting condition No.8 15mm×1st.pass 15mm×2nd.pass Slotting condition No.7 15mm×1st.pass Slotting length: 0mm (Start point) Slotting length: 5mm Slotting length: 10mm 1div=100μm Slotting length: 15mm (End point) Fig.11 Work condition of slotting 26 Work piece: Zirconia(YTZ) Tool: 2 flutes PCD endmill(φ1.0) Rotation: 5000min-1 Feed rate: 7.5mm/min Depth of cut: Z=0.1, 0.107mm Coolant: Dry, Wet 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター テストトレー上で BI テストを低消費コスト,省スペースで実現する手段の研究開発 ―自己発熱型デバイス対応温調プレートの温度分布評価- 橋口智和*・大塚裕俊*・水江宏*・清水慎吾*・宮川末晴** * 機械・金属担当・**合同会社 PLESON Development of Burn-in Test Stage Unit with Low Cost and Space-Saving Design ―Temperature Distribution Assessment of the Plate used to Self-Heating Type Device― Tomokazu HASHIGUCHI*・Hirotoshi OTSUKA*・Hiroshi MIZUE*・Shingo SHIMIZU*・Sueharu MIYAKAWA** * Mechanical and Metallurgical Engineering Group・**PLESON LLC 要 旨 自己発熱型デバイスに対応した温調プレートの形状・材質の検討に CAE(Computer Aided Engineering)による伝熱解析 を用い,その結果から試作した温調プレートの温度分布評価を行なった.その結果,温調プレートの温度分布を目標範囲に 収めるデバイス発熱量の許容値は 2.5W/device 程度であり,プレート全体を均一に冷却することができれば更に高い発熱量 のデバイスに対応できる可能性が示された.また,デバイスの発熱バラツキによる温度分布への影響についても調査した. 1. はじめに に示す.温調プレートは側面図の上から,トレーベース 大部分の半導体デバイスはバーンイン(以後,BI と呼 板,プレート,ヒーター,押さえ板の順となっている. ぶ)テストを行なって出荷されている.このテストは,専 この温調プレートを基礎に,今回検討した材質と形状の 用の装置により出荷前のデバイスに温度や電圧などの環 模式図を Fig.2 に示す.プレートの材質は熱伝導性の高 境負荷をかけ,初期不良品を取り除く非常に重要な評価 いアルミニウムと銅を,そして形状はプレートとヒータ 試験である.しかし,従来の BI テスト装置ではソケット ーの間に 10mm のアルミ板を挟み込んだものとし,これら 起因の実装数の制限,温度分布精度の低さによる試験時 の組み合わせ 4 つのモデルを検討した. 間の増大,長い昇・降温時間による装置稼働率の低さ等, 消費コストが多大であることが課題であった. そこで,H23 年度から合同会社 PLESON は上記課題を解 決するために,テストトレー上で BI テストを低消費コス ト・省スペースで実現する手段の開発を行い,従来の BI テストにおける温度分布精度 125±3℃を満たす試作機 を完成させた.昨年度に試作機であるテストステージユ トレーベース板 プレート ニットの性能評価を基に,いくつかの課題や新たな製品 ヒーター 押さえ板 価値が抽出されたため,本年度はこれら問題の解決を目 Fig.1 的に研究開発を進めた.センターでは,自己発熱デバイ プレート材質 温調プレートの構成 形状 ス対応として試作した温調プレートの温度評価を担当し アルミ たので,本報ではこれらの結果について報告する. 10mmアルミ板 2. 2.1 最適なプレート材質および形状の設定 プレート材質と形状の検討 銅 温調プレートの最適な材質と形状を検討するために, 10mmアルミ板 Computer Aided Engineering (以降,CAE と呼ぶ)を用 いた.ここで,試作した温調プレートの構成図を Fig.1 Fig.2 27 検討したプレート材質と形状 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 2.2 伝熱解析 200 温調プレート 伝熱解析を行うソフトには ANSYS 11.0 を用いた.解析 デバイス モデルの俯瞰図を Fig.3 に示す. 発熱量 (W) 150 モデルはプレートがほぼ対称形であるので,1/2 モデ ルとした.また,チャンバー枠,基盤を取り付け,そして 自己発熱デバイス(30mm×30mm×4mm)をトレーベース板 100 50 上に等間隔で 12 個配置した. ANSYS の伝熱解析には定常応答と過渡応答(時刻歴) 0 の 2 種類あるが,発熱によるプレートの温度履歴を見る 0 500 1000 1500 2000 時間 (s) ために,過渡応答にて検討した.デバイスと温調プレー トの熱量は,材質と形状の特性を顕著に表すため,Fig.4 Fig.4 ヒーターおよびデバイスの発熱パターン で示す発熱パターンとして入力した. 解析に必要な材質の物性値(熱伝導率,比熱,密度) 2.3 解析結果 は,ソフトウェア内の材料データを利用した.輻射率は 過渡応答の結果を Fig.5 に,発熱後 2000s の 4 つのモ モデルと同種のアルミ材(A 5052 番)と銅材(無垢銅) デルにおけるプレート表面温度を Table 1 に示す.ここ をサーモグラフィ(日本アビオニクス(株)製 でプレート表面温度はトレーベース板の最大温度である. TVS-8200MK)と K 熱電対(理化学工業製 ST-60K)で計測 過渡応答では発熱に対する応答性はアルミプレートの した温度補正により求め,それぞれ Al=0.09 と Cu=0.02 みが最も良く,プレート銅+10mm アルミ板の温調プレー の値を用いた.雰囲気温度は 21℃とした.熱伝達率は, トが最も悪いことがわかった.また,急な外乱(温調プ 空気とプレートが接触する部分に設定し,以下の①チャ レートのヒーター熱量を 0 とした部分)を加えた時も同 ンバー内部,②プレート-床間の空気にふれる部分,③そ 様な傾向となった.プレートの温度分布幅は,アルミよ れ以外の部分に分けて入力した.熱伝達係数は以下の式 り銅の方が小さく,10mm アルミ板を加えたものはさらに (1)で求められる. 温度分布が小さくなっている. hout Nul L 以上の結果から,自己発熱型デバイスに対応できる温 ・・・・・(1) 調プレートの材質・形状は銅のプレートに 10mm アルミ板 ここで,L は代表長さ, は空気の熱伝導率,Nul は平 を追加すると良いことがわかった.しかしながら,銅は 均ヌセルト数である.1)の熱伝達は自然対流と仮定し, アルミより高価で加工性も悪く,なおかつ重さもアルミ 1) (2)~(4)の式 により平均ヌセルト数を求めた. Nu l 0.60 Ra 1/ 5 l の約 3 倍あるため,実用的ではない事から,アルミのプ レートに 10mm アルミ板を加えたものを試作することに ・・・・・(2) Ra Gr・Pr g Tw T L3 GrL した. ・・・・・(3) 200 ・・・・・(4) プレート表面温度 (℃) Pr はプラントル数=0.7,g は重力加速度=9.81m/s2, は空気の動粘性係数, は体膨張係数, Tw はプレートの 温度,T は空気の温度である.②,③の熱伝達について は,当てはまる経験式が見あたらなかったため,ソフト ウェア内にある空気の熱伝達データを用いた. プレート(アルミ) 150 プレート(銅) 100 プレート(アルミ)+アルミ板10mm プレート(銅)+アルミ板10mm 50 0 デバイス 0 500 1000 1500 2000 時間 (s) Fig.5 各プレートの過渡応答(プレート表面温度) Table 1 チャンバー枠 Fig.3 解析モデル 28 各プレートの温度分布幅(2000s 後) 材質・形状 プレートのみ (アルミ) プレートのみ (銅) プレート(アルミ) +10mmアルミ板 プレート(銅) +10mmアルミ板 温度分布幅 2.3℃ 1.4℃ 1.5℃ 1.1℃ 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 3. 3.1 試作機の温度分布評価 果から,温度分布精度を保てるデバイス発熱量は 試作機の評価方法 2.5W/device までである.温度分布幅は許容値よりもま 試作した温調プレート評価の様子を Fig.6 に示す.ヒ だ余裕があることから,プレート全体を均一に冷却する ーター端部は温度コントローラを介して電源と繋がって ことができればさらに高い発熱量のデバイスに対応でき いる.温度制御は通常 BI テストを行なう 125℃に保持す る可能性が示された. るよう設定した.また,制御用温度センサーはプレート Fig.9 にグループ毎に発熱量を変化させた場合の評価 中央部に設置してある. 結果を示す.許容範囲は,すべてのグループにおいて収 自己発熱型デバイスは,実際の製品を用いることが評 まっていることがわかる.また,温度分布幅はグループ 価の性質上困難であった.そこで,30mm×30mm×2mm の A,D=1.7W/device のものは,他のグループを 1.7W/device アルミ板 2 枚の間に 30mm×30mm×0.2mm のフィルムヒー にしたものより若干広くなる傾向が見られたが,ほとん ターを挟込みデバイスの発熱構造と近しい発熱体を作成 ど影響は無い.したがって,この試作機はこの程度の発 し,これを用いた(以降,デバイスと呼ぶ).なお,デバ 熱バラツキでは,温度分布精度に支障は出ないことがわ イスは発熱量を変化できるよう安定化電源につないだ. かった.今回は温調プレートの表面温分布が最も悪くな プレートの温度分布測定には,K 熱電対(理化学工業製 るデバイス発熱パターン(中央部分デバイスのみ発熱) ST-55K)をトレーベース板へ Fig.6 に示す 8 ヵ所に取り を行っていない.温調プレートに冷却機能を取り付けた 付け,ロガー(キーエンス製 NR-TH8)にて読み取った. 評価も含めて,今後実施したい. なお,温調プレートの温度分布精度の目標値は,従来 BI テストと同等の 125±3℃とした. 3.2 評価手順 自己発熱型デバイスをテストした場合の試作機の温度 8 分布精度に与える影響を評価するために,以下の2つの 4 5 6 7 1 2 3 手順で評価を行なった. まず,温調プレートに設置した全てのデバイスの 1 個 当たり発熱量を 0,1.6,1.9,2.2,2.5,2.7W/device Fig.6 評価の様子 と段階的に上昇させて評価を行なった.そして,デバイ スの個体差による発熱バラツキの影響を調べるため,デ Group A B C D バイスを其々A,B,C,D の 4 つのグループに分け,1 グ ループをデバイス 1 個当たり発熱量 1.7W/device に,そ の他のグループは 2.2W/device として評価を行なった. グループにした理由は,発熱のバラツキ量を顕著にする ためである.例に,A グループ 1.7W/device-その他グル 1.7W/device ープ 2.2W/device の模式図を Fig.7 に示す. Fig.7 3.3 2.2W/device デバイスのグループ分け模式図 評価結果 Fig.8 にデバイス発熱量をそれぞれ 0,1.6,1.9,2.2, 129 2.5,2.7W/device と変化させた場合の評価結果を示す. 0W 1.6W 1.9W 2.2W 2.5W 2.7W ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ 128 プレート表面温度 (℃) プレート表面温度はデバイス発熱量が上昇するにしたが って増加している.また,温度分布幅も発熱量の増加に 伴い僅かに広がる傾向となることがわかった.目標の温 度 許 容範囲 125±3℃ に収ま る デバ イス 発熱 量は 0~ 2.5W/device までであった.また,2.7W/device では目標 範囲を超えて急激に温度上昇した.これは,解析から予 127 126 125 124 123 122 測された発熱に対する速い応答性が要因と考えられる. 4000 4600 5200 5800 6400 7000 7600 時間 (s) また,プレート表面の温度分布幅は発熱量の増加に伴 って微増しているが,約 2℃以下に収まった.以上の結 Fig.8 29 デバイス発熱量を変化させた評価結果 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター プレート表面温度 (℃) 128 GroupD GroupA GroupB GroupC 127 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ 126 125 124 123 122 5200 5800 6400 7000 7600 8200 時間 (s) Fig.9 デバイスの発熱バラツキを考慮した評価結果 4. おわりに CAE による伝熱解析を用いて仕様の検討,試作した自 己発熱デバイス対応温調プレートの温度分布評価を行な い,以下の結論を得た. 1) 試作機のデバイス発熱量の許容値は約 2.5W/device である.プレート全体を均一に冷却することができれ ば,更に高い発熱量のデバイスに対応できることを示 唆した. 2) 試作機は 0.5W 程度の発熱バラツキでは,温度分布精 度に支障が出ないことがわかった. 追 記 本研究は,平成 24 年度大分県 LSI クラスター研究開発 事により実施しました. 参考文献 (1) 日本機械学会:伝熱資料第 5 版, 丸善(株) , 2009 30 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 洗浄力に関する共同研究 江田善昭・二宮信治 工業化学担当 Study for Performance of Cleaning Yoshiaki EDA and Shinji NINOMIYA Industrial Chemistry Group 要 旨 新商品開発を目的として,株式会社シンシアの貯水槽用洗剤「パールグリーン」の機能向上(洗浄力の向上) に取り組んだ.戦略として, (1) 「洗浄力評価法の確立」, (2) 「洗浄液の成分・組成の検討」の 2 つの方針を検 討した.洗浄力評価法として「半分浸せき法」を確立した.この評価法を用いて成分・組成を検討した結果,2 種類の新洗浄液を提案した. 1. 序論 2.1.1 試験片の作製 株式会社シンシアは,貯水槽用洗剤の市場において販 アルミナ板(50mm 角)として,ニッカトーの SSA-S 板 路拡大を行うために,競合他社製品を超える,より強い を用いた.塩化鉄(Ⅲ)と硫酸マンガンは特級グレードの 洗浄力が必要であると考えていた.これまで自社内で製 試薬を用いた. 造の技術に取り組んでいたが,このたび産業科学技術セ アルミナの平板に鉄・マンガンの化合物を塗布して試 ンターと共同で,課題解決に取り組むこととなった. 験片を作成した.以下に鉄の試験片の調製の一例を記す. 本研究は,洗浄力を向上する技術課題に関して,具体 塩化鉄(Ⅲ)0.25g を 50mL の水に溶解した.微量の不溶分 的な研究手法として,①洗浄力向上に関する研究と②洗 をろ紙(5C)でろ去した.ろ液に水酸化ナトリウム水溶 剤の製造法と評価に関する研究を行い,洗剤の洗浄力を 液を滴下して,中性にした.これが水酸化鉄の懸濁液で 向上させ新製品として商品化することを目的とする. ある.この懸濁液をアルミナの平板に 1mL 滴下した.こ れを自然乾燥したものが鉄の試験片である.同様にマン 2. 実験 ガンの試験片も作製した. (Fig.2 参照) 2.1 洗浄力評価法の確立 貯水槽において洗浄の対象となる汚れは「水垢」と呼 ばれる.水垢の化学組成は明確ではない.水道水・井水 中に溶解している微量の金属イオンの酸化物・水酸化 物・炭酸塩等の無機系の混合物であり,それに生物由来 のタンパク質や多糖類が絡み合った堆積物と考えられ る.対象となる貯水槽には鉄・マンガン系の水垢が多い ことを蛍光X線分析で確認した. (Fig.1 参照) Fig.2 試験片の作製 [cps] Mn Ka 50.00 2.1.2 評価方法 本研究では「半分浸せき法」を提案した.汚れの試験 Fe Ka 40.00 片を下半分だけ薬液に浸せきさせ,一定時間反応させた. 30.00 薬液と反応した下半分と未反応の上半分をデジカメで撮 20.00 影してデータとして保存した. SiSKaKa CaTiKaKa AlPKaKa K Ka 10.00 2.2 洗浄力向上のための成分・組成の検討 0.00 0.00 5.00 10.00 15.00 [keV] 20.00 25.00 30.00 「パールグリーン」は分解型洗浄剤に分類される.「パ Fig.1 水垢の蛍光X線スペクトル ールグリーン」の水垢に対する作用は,純粋な化学反応 31 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター である.主な有効成分は成分Aと成分Bの二成分である. この高い洗浄力を示す高濃度型洗浄液は「HYPER パー 上述の洗浄力評価法を用いて,成分Aと成分Bの組成・ ルグリーン」 (以下 HP)として商品化された. 役割について議論した. 3.2.2 単成分型洗浄液の検討 3. 結果・考察 「パールグリーン」の有効成分は成分Aと成分Bの 2 3.1 洗浄力評価法の確立 成分である.成分Aの役割は重要かつ明確である.一方, 洗浄力評価法として「半分浸せき法」を提案した.上 成分Bの役割は明確ではない.さらに成分Aと成分Bは 述の試験片を下半分だけ薬液に浸せきさせ,一定時間 液中で反応する.この反応により難溶性の結晶を析出す (0.5-5 分間)反応させた.薬液と反応した下半分と未反 る,という副作用もある.そこで本研究では成分Bを含 応の上半分を目視により比較した.この方法で 4 種の既 まない成分Aのみを有効成分とする単成分型洗浄液を検 製洗剤(自社 A,B,他社 C,D)の洗浄力を評価・比較し 討した. たところ,この評価法による順位(Fe: D>C>B>A, Mn: 成分Bの是非を明確にするために以下の実験を行っ B>C>A>D)と市場の評価が一致した.この結果は本評価法 た.①従来の「パールグリーン」(PG)と同濃度の成分A が妥当であることを示している. 溶液(A1) ,②「ハイパー・パールグリーン」(HP)と同濃 度の成分A溶液(A2)の洗浄力の比較を行った.それぞ れの比較実験を Mn と Fe について行った.4 組の組み合 わせ全てにおいて成分Bのない方が高い洗浄力を示した (Fig.5).この傾向について明確に説明することは現時点 では難しい. 高い洗浄力を示す単成分型洗浄液(A2)は新製品として 商品化準備中である. Fig.3 市販洗浄剤を用いた比較試験 (a)Fe,(b)Mn 3.2 洗浄力向上のための成分・組成の検討 3.2.1 高濃度型洗浄液の検討 理論(反応速度論)によると,有効成分の種類を変え ずに反応性を高くするには,次の 2 つの方法しかない: ①高温にする,②高濃度にする.貯水槽洗浄という用途 に限れば,①高温は現実的ではない.②高濃度は可能性 Fig.5 薬液に下半分浸漬した試験片(a)Fe,(b)Mn がある.従来の「パールグリーン」において,成分Aも 4. 成分Bも濃度が溶解度の半分以下である.成分Aと成分 Bを従来の 2 倍弱の濃度にして薬液を試作した. (高濃度 まとめ 洗浄力評価法として「半分浸せき法」を確立した.PG 型洗浄液) の成分・濃度を再検討して, 「高濃度型」と「単成分型」 この高濃度型洗浄液の洗浄力を評価した.Fig.4 が示 の 2 種類の新洗浄液を提案した. 「高濃度型」は商品化さ すとおり,高濃度型洗浄液は従来型の「パールグリーン」 れて,「これまでにない売れ行き」を示している.「単成 よりも高い洗浄力を示した. 分型」は現在商品化準備中である. Fig.4 薬液に下半分浸漬した試験片(Mn) 32 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 水質分析における不確かさに関する研究 谷口秀樹 工業化学担当 Study on the uncertainty in water analysis Hideki TANIGUCHI Industrial Chemistry Group 要 旨 GUM で定義され,ISO/IEC17025 で技術的要求事項として取り上げられている不確かさについて,廃止鉱山坑 内水処理水を試料として,水中金属分析における不確かさを推定した.ガラス器具容積の不確かさ,標準原液 や検量線標準液の不確かさ,検量線の不確かさをそれぞれ算定し,合成した.得られた合成不確かさは,既報 の結果と傾向がよく一致しており,検量線の不確かさが合成不確かさに最も影響している. 1. はじめに (1)試料を 50g 秤量し,硝酸を 2.5mL 添加して,ホット 不確かさとは,測定の結果に付随した,合理的に測定 プレートで約 40mL になるまで加熱分解.50mL にメ 値に結び付けられ得るばらつきを特徴づけるパラメータ スアップして測定試料とする. であり,1993 年に発行された信頼性表現が計測における (2)共存元素による妨害除去のために 1/2 に希釈する. 不確かさの表現ガイド(GUM)で定義されている. (3)1000mg/L の鉄標準液を原料に 10mg/L 中間原料標準 GUM では誤差,精度,確度などまちまちに使われてき を調整.中間原料標準液を希釈し,3mg/L~0.03mg/L た,「測定結果の品質」の表現を統一させようとして「不 の検量線標準液を調整. 確かさ」が導入された. (4)検量線標準液を ICP-AES に導入し,検量線を作成. ここで,自動車や航空機など国際的な分業が活発にな (5)測定試料を ICP-AES に導入し,検量線法で測定試料 るにつれて,部品や製品の国際的な品質管理基準の重要 中の鉄の濃度を測定. 性が増し,品質マネジメントシステムの ISO9001 をベー (6)上記濃度から試料中の鉄の濃度を計算. スに試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項で ある ISO/IEC17025 が 1999 年に発行され,多くの分析機 2.3 関が国際的に通用する認証を受けている(JIS では JIS Q (1) 50g 秤量の不確かさ 17025). (2) 50mL メスアップの不確かさ ISO17025 の技術的要求事項の中で,不確かさを見積も 不確かさの要因の列挙 (3) 1/2 希釈の不確かさ ることが要求されている. (3-1) 10mL 分取の不確かさ ・目盛線の不確かさ 2. 2.1 実験方法 ・分取の不確かさ 試料 (3-2) 20mL メスアップの不確かさ 水中金属分析における不確かさの算出として,豊栄鉱 ・目盛線の不確かさ 山坑廃水の処理水(坑廃水を炭酸カルシウムおよび消石 ・メスアップの不確かさ 灰で中和し凝集沈殿物を除いた上澄水)を検体として用 (4) 検量線から求めた濃度(x0)の不確かさ いた. (5) 検量線標準液の不確かさ 1000mg/L 鉄標準液の不確かさ 2.2 操作手順の明確化 10mg/L 中間原料標準液の不確かさ 不確かさの算出のため,操作手順を次のように決めた. 0.03mg/L~3mg/L 検量線標準液の不確かさ 33 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 2.4 Table 3-3 取り上げなかった不確かさの要因 x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 x8 x9 x10 通常,小さいと思われる次の要因は,今回の不確かさ 算出では取り上げなかった. (1) 超純水中及び硝酸中の不純物としての鉄 (2) 温度変化によるガラスの体積変化 3. 3.1 50mL メスアップの繰り返し(g) 結果と考察 50g 秤量の不確かさ Table 3-1 に 50g 標準分銅を繰り返し秤量したときの 49.9153 49.8000 49.9128 49.9004 49.8862 49.9027 49.8858 49.8978 49.9031 49.9027 測定結果を示す. Table 3-4 Table 3-1 試料秤量の繰り返し(g) x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 x8 x9 x10 50.01 50.01 50.01 50.01 50.01 50.01 50.01 50.01 50.00 50.01 種類 全量フラ スコ Table 3-5 3.2 2 温度 範囲 (℃) 20±5 容量×温度変化 ×係数 相対標準 不確かさ 0.003162( g ) これら 3 つの不確かさを合成すると,50mL 全量フラス コによるメスアップの相対標準不確かさは次のとおり. 0.00006324 u ( f 1) Vf 1 0.0004898 2 0.000665 2 0.0006062 2 0.001025 50mL メスアップの不確かさ 50mL 全量フラスコの許容差は JIS R3505「ガラス体積 3.3 計」より±0.06mL であるため,目盛線の不確かさ(タイ Table 3-2 容量 (mL) 50 全 量 フ ラスコ √6 は三角分布を仮定 濃度測定の干渉となりうるカルシウム濃度を予備測定し たところ,65mg/L だったため,鉄濃度測定は試料を 1/2 目盛線の不確かさ 許容差 (mL) ±0.06 1/2 希釈の不確かさ メスアップされた試料を用いて ICP-AES を用いて,鉄 プ B)は Table 3-2 のとおり. 種類 容量 (mL) 試験室の温度変化による不確かさ 全量フラ 50 50×(5℃/√3) 0.0006062 スコ ×(2.1×10-4) √3 は矩形分布を仮定.水の体膨張係数:2.1×10-4. 0.00006324 と計算された. 0.003162 50 相対標準 不確かさ 0.0006650 の温度範囲を 20℃±5℃として求めた. 0.003162(g) と 求 め ら れ , 相 対 標 準 偏 差 u(w)/W は u ( w) / W 繰り返しの実験 標準偏差(mL) ±0.03325 また,ガラス体積計が 20℃で校正されているために, 種類 xi x n 1 容量 (mL) 50 試験室の温度変化によるメスアップの不確かさは試験室 こ の 結 果 よ り 実 験 標 準 偏 差 u(w) は 次 式 よ り u ( w) 50mL メスアップの繰り返しの不確かさ 標準不確 かさ(mL) 0.06/√6 =0.02449 希釈して測定することとした. 相対標準 不確かさ 0.0004898 10mL 全量ピペットの許容差は JIS R3505 より±0.02mL, 同様に 20mL 全量フラスコの許容差は±0.04mL であるた め,目盛線の不確かさ(タイプ B)は Table 3-6 と求ま った. 分取とメスアップの不確かさ(タイプ A)はそれぞれ メスアップの不確かさ(タイプ A)は 10 回のメスアッ 10 回の分取繰り返し及び 10 回のメスアップ繰り返しを プ繰り返しを質量測定して求めた.Table 3-3 に 10 回の 質量測定した.その結果を Table 3-7 に示す.また,同 繰り返し秤量結果を示す. 様に算出した不確かさを Table 3-8 および Table 3-9 に この 10 回の繰り返し測定結果から求めた 50mL メスア 示す. ップの繰り返しの不確かさを Table 3-4 に示す. また,ガラス体積計が 20℃で校正されているために, 34 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 試験室の温度変化による分取およびメスアップの不確か 3.4 検量線標準液の濃度の不確かさ さ は 試 験 室 の 温 度 範 囲 を 20℃±5℃ と し て 求 め た 3.4.1 (Table 3-9). 1000mg/L の鉄標準液の信頼性は,JCSS 証明書から値付 原料標準液 1000mg/L の不確かさ け値 1004mg/L,不確かさ 0.5%(k=2)であるため,ここで Table 3-6 種類 10mL 全量ピペットの目盛線の不確かさ 容量 (mL) 10 許容差 (mL) ±0.02 標準不確 かさ(mL) 0.02/√6 =0.008164 0.04/√6 =0.01632 全量ピ ペット 全 量 フ 20 ±0.04 ラスコ √6 は三角分布を仮定 は矩形分布と仮定し,標準不確かさ u(s1)および相対標 相対標準 不確かさ 0.0008164 準不確かさ 全量ピペット 全量フラスコ 容量 (mL) 10 20 3 0.0008164 u ( s1 ) C s1 10mL 分取と 20mL メスアップの繰り返し(g) 10mL 分取 20mL メスアップ x1 9.9951 19.9413 x2 9.9957 19.9663 x3 9.9951 19.9434 x4 9.9963 19.9564 x5 9.9954 19.9580 x6 9.9945 19.9502 x7 9.9949 19.9527 x8 9.9969 19.9521 x9 9.9972 19.9449 x10 9.9967 19.9468 種類 1004mg / L 0.005 u ( s1 ) Table 3-7 Table 3-8 u ( s1 ) は次のようになる. Cs1 3.4.2 0.002886 原料標準液の希釈操作の不確かさ 原料標準原液から次の操作で検量線標準液を調整した (Table 3-10). Table 3-10 希釈前濃度 (mg/L) 1000 10 10 3 1 0.3 繰り返しの不確かさ 繰り返しの実験 標準偏差(mL) ±0.0009354 ±0.007624 2.898mg / L 1004mg / L 2.898mg / L 相対標準 不確かさ 0.00009354 0.0003812 標準液希釈操作 全量ピペット容量/ 全量フラスコ容量 1/100 15/50 5/50 10/100 5/50 5/50 希釈後濃度 (mg/L) 10 3 1 0.3 0.1 0.03 希釈に用いた全量ピペットと全量フラスコの分取,メ スアップの繰り返し結果を Table 3-11 に示す.これから 求めた繰り返しの相対標準不確かさ,目盛線の相対標準 Table 3-9 種類 容量 (mL) 10 試験室の温度変化による不確かさ 不確かさ,温度変化による相対標準不確かさを次の 温度範 囲(℃) 20±5 Table 3-12 に示す. 容量×温度変化 相対標準 ×係数 不確かさ 全量 10×(5℃/√3) 0.0006062 ピペット ×(2.1×10-4) 全量 20 20±5 20×(5℃/√3) 0.0006062 フラスコ ×(2.1×10-4) √3 は矩形分布を仮定.水の体膨張係数:2.1×10-4. Table 3-11 HP MF x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 x8 x9 x10 これら 3 つの不確かさを合成すると,10mL 全量ピペッ トによる分取の相対標準不確かさは次のとおり. u ( p) Vp 0.00081622 0.000093542 0.00060622 0.001021 また,20mL 全量フラスコによるメスアップの相対標準 不確かさは次のとおり. 分取とメスアップの繰り返し(g) 1mL 5mL 10mL 15mL 1.0022 1.0006 1.0004 1.0007 1.0005 0.9994 1.0008 1.0012 1.0007 1.0001 4.9893 4.9877 4.9867 4.9887 4.9878 4.9892 4.9897 4.9858 4.9858 4.9879 14.9745 14.9772 14.9776 14.9754 14.9747 14.9753 14.9772 14.9771 14.9788 14.9781 14.9745 14.9772 14.9776 14.9754 14.9747 14.9753 14.9772 14.9771 14.9788 14.9781 50mL 100mL 49.9153 49.8000 49.9128 49.9004 49.8862 49.9027 49.8858 49.8978 49.9031 49.9027 99.7044 99.7254 99.7110 99.7202 99.6975 99.6982 99.6913 99.7136 99.7203 99.6806 これらの検量線標準液の相対標準不確かさを原料標準 u( f 2) Vf 2 2 0.0008162 2 0.0003812 2 0.0006062 液の不確かさ,使用した全量ピペット,全量フラスコの 0.001086 目盛り線の不確かさ,温度変化の不確かさを合成して求 めた(Table 3-13). 35 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 3-12 種類 標準原液希釈の相対標準不確かさ 容量 (mL) 1 5 10 15 50 100 全量 ピペット 全量 フラスコ Table 3-13 目盛線 繰り返し 温度変化 0.00408 0.00122 0.00082 0.00082 0.00049 0.00004 0.0007214 0.0002814 0.00009354 0.00009989 0.0006650 0.0001438 0.000606 0.000606 0.000606 0.000606 0.000606 0.000606 m:検量線の濃度数×繰り返し y0:測定試料の測定値(機器出力) yi:検量線の各測定値 y xi:検量線標準液の各濃度 x :検量線標準液の各濃度の平均値 Table 3-13 から検量線の横軸(標準液濃度)の分散 Sx2, 縦軸の共分散 Sxy をそれぞれ求めた. 検量線標準液の相対標準不確かさ 検量線標準液濃度 (mg/L) 3 1 0.3 0.1 0.03 :検量線測定値の平均値 2 相対不確かさ xi Sx2 0.01073 0.01109 0.01156 0.01119 0.01192 x 1.13834 m xi S xy x yi y 55513449 m これらから傾き b および切片 a を求めた. 0.03mg/L~3mg/L の検量線標準液の相対標準不確かさ b は,0.01073~0.01192 であるので,ここでは最も大きな 0.01192 を検量線標準液の相対標準不確かさとした. 3.5 a 調整した検量線標準液と ICP-AES 発光強度の関係を 検量線標準 濃度(mg/L) x ICP-AES 発光強度 y 0.03 2718 1495359 1 0.1 y bx 212876 Sx2 S y2 0.999988 となる. 検量線データ(ICP-AES) 0 8766711 S xv r Table 3-14 に示す. 検量線標準 濃度(mg/L) x ICP-AES 発光強度 y Sx2 なお,検量線の相関係数 r は 検量線から求めた濃度(x0)の不確かさ Table 3-14 S xy 測定試料の ICP-AES 発光強度結果を Table 3-15 に示す. 0.3 Table 3-15 4997116 15015854 3 49463416 146339321 試料の ICP-AES 発光強度 測定項目 発光強度 Fe 684230 式 1 に Table 3-15 とそれぞれの値を入力したところ Sx0 は次のように求められた. この検量線データから測定試料濃度の不確かさは一般 Sx0=0.008243mg/L 的に次の近似式より求まる. 検量線から求めた濃度は 2 S x0 S y0 b 1 n 1 m y0 y 2 b2 xi x=0.20458mg/L ・・・式 1 となるので,相対標準不確かさは x Sx0/x=0.008243/0.20458=0.04029 S y0 yi bxi a 2 / m 2 ・・・式 2 と計算された. Sx0:測定濃度の不確かさ Syo:縦軸の不確かさ(検量線縦軸測定値のばらつき) 3.6 合成標準不確かさの計算 b:検量線の傾き これまでのとおり、それぞれ求めた相対標準不確かさ を Table 3-16 にまとめた. n:測定試料の測定繰り返し 36 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 3-16 要因ごとの相対標準不確かさ 要因 値 試料秤量 試料メスアップ 試料希釈のため の分取 試料希釈のため のメスアップ 検量線標準液の 濃度 検量線による測 定濃度 検量線の相対標準不確かさが合成相対標準不確かさの 相対標準 不確かさ 0.00006324 0.001025 0.001021 ほとんどを占めていることがわかる.この結果は参考文 50mL 50mL 10mL 不確か さ記号 u(w) u(f1) u(p) 20mL u(f2) 0.001086 や検量線の各点の繰り返し回数,試料の繰り返し測定回 0.03~3mg/L u(cs) 0.01192 0.20458mg/L u(x0) 0.04029 献(2)や(3)の計算例と同じ程度および傾向であり,検量 線縦軸(発光強度)の不確かさが分析全体の不確かさと ほぼ一致する. 検量線の不確かさは式 1 および式 2 より検量線の点数 数を増加させることによって,減少していく.試料の繰 り返し測定回数 n を増加したと仮定したときの Sx0 の変 化を Table 4-1 に示す. Table 4-1 これらを合成すると,合成標準不確かさ u(c) C 2 u(w) W 0.000062342 u( f 1) Vf 1 2 0.0010252 u( p) Vp 0.0010212 2 u( f 2) Vf 2 2 0.0010862 u (c) は、 C u(cs) Cs 2 0.0011922 u( X 0 ) x0 Sx0 0.008243 0.006431 0.005701 n 1 2 3 2 今回の ICP-AES 測定条件では試料の発光強度を 3 回測 0.040292 定した結果から 1 つの測定値を得ている.この条件のま =0.04205 ま試料を 3 回測定すると(全体では 9 回の発光強度測定), と計算された. Sx0 は 0.008243 から 0.005701 に小さくなる.この n=3 の 試料濃度 C は希釈率から割り戻して 0.41mg/L と求め ときの合成相対不確かさは 0.03036 となり,このときの られた. C Sx0 と n の関係 拡張不確かさは 0.024mg/L(k=2)となる. 0.20458 20 10 拡張不確かさを小さくしていくことは分析結果の信頼 0.4091mg / L ≒ 0.41mg / L 性の向上につながるが,試料の繰り返し測定回数や検量 こ こ か ら , こ の 測 定 の 合 成 標 準 不 確 か さ u (c) は 線点数などは,それぞれの分析目的や,試料の量,分析 0.017mg/L と計算された. u (c ) に使える時間などから妥当な回数や点数を決めていくこ 0.04205 0.4091mg / L 0.01720 ≒ 0.017 とがよいと思われる. 包含係数 k=2 として,拡張不確かさは 0.034mg/L と計 算された. 参考文献 0.017mg / L 2 0.034mg / L(k 2) (1) JIS Q 17025:試験所及び校正機関の能力に関する一 般要求事項,日本規格協会,2005 3.7 結果の表示 (2) JIS R 3505:ガラス体積計,日本規格協会,1994 求めた拡張不確かさを含めたこの分析の結果表示は次 (3) JNLA 不確かさの見積もりに関するガイド,(独)製品 のとおり. 評価技術基盤機構認定センター,2007 水中の鉄の濃度 0.41mg/L ± 0.03mg/L (k=2) (4) 化学分析における不確かさ評価例,四角目和広((財) 化学物質評価研究機構),2006 4. 要因ごとの合成不確かさとまとめ (5) 分析化学における測定値の正しい取り扱い方,上本 試料希釈の分取とメスアップを合成して試料希釈とし 道久,2011 て,他の不確かさと比較した結果を Fig.1 に示す. 試料秤量 試料メスアップ 試料希釈 検量線標準液 検量線 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 Fig.1 水中鉄濃度測定の相対標準不確かさ 37 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 高耐電圧電線用絶縁被覆材の開発 安部ゆかり * ・柳明洋 * ・谷口秀樹 * ・二宮信治 * ・金澤誠司 ** 本田宜彦 ***・梅原英嗣 *** ・利光淳 ***・相原茂 *** ・柴北俊英 *** * 工業化学担当・ **大分大学・ ***西日本電線株式会社 Development of the Insulating Material for High Inverter Surge Resistant Enameled Wire Yukari ABE * ・Akihiro YANAGI * ・Hideki TANIGUCHI * ・Shinji NINOMIYA * Seiji KANAZAWA ** ・Yoshihiko HONDA *** ・Eiji UMEHARA *** Jun TOSHIMITSU ***・Shigeru AIHARA *** ・Toshihide SHIBAKITA *** * 要 Industrial Chemistry Group・ **OITA UNIVERSITY・ *** NISHI NIPPON ELECTRIC WIRE & CABLE CO., LTD. 旨 平成 21 年度から,大分県産業科学技術センターと西日本電線株式会社及び大分大学は,「次世代電磁力応 用技術開発事業(大分県地域結集型研究開発プログラム)」において,「高出力電磁力応用機器用高耐圧電線の 開発」の共同研究を実施してきた.次世代電磁力応用機器のモーターは,高効率・小型高出力化が求められて いる.モーターのコイルに使われる巻線(エナメル線)の絶縁被覆部分では,インバーターサージによる部分放 電が起き,絶縁被覆部分が侵食・劣化し,結果としてコイルの寿命が短くなる.加えて近年の駆動電圧の高電 圧化によりインバーターサージが発生しやすくなっているため,コイルはますます過酷な使用環境にある.こ のインバーターサージ発生時の絶縁破壊を抑制するため,高温や傷,絶縁破壊に強い被覆材への期待が高まっ ている.これまでに竪型炉を有するメーカーにおいてエナメル線化を行い,被覆の断面観察や耐部分放電性試 験(課電寿命試験)などを行った.その結果,2.5 kV 以上の印加電圧では,先行市販品より長寿命なエナメル 線を実現した.今年度は被覆のフィラー量傾斜構造を検討し,2.0 kV でも市販品を上回る長寿命なエナメル 線を目標に開発を行った.その結果,市販品寿命の約 8 割まで到達することができた. 1. はじめに が切望されている. 昨今の電力供給のひっ迫に加え,環境・エネルギー分 このような状況の下,大分県産業科学技術センターは 野においては様々な問題が取り沙汰され,自動車産業の 西日本電線株式会社,大分大学との共同研究で高耐電圧 みならず,製造業を始めとする多くの産業界で省エネル 電線の開発を行ってきた.耐部分放電性を向上させるに ギー,省資源等の意識が高まっている.多くの電気製品 は,エナメル線被覆にナノフィラーを分散させることが に使われるインバーター駆動モーターも,省エネル 有効な手段の一つである.調査・検討の結果,絶縁被覆 ギー,高効率化などのニーズは非常に高い.例えば,ハ 用の樹脂は耐熱性の高いポリアミドイミド系,ナノフィ イブリッドカーや電気自動車など次世代の電磁力応用機 ラーは無機シリカとした.これまでにこの研究において 器に用いられるモーターは,高効率化と小型高出力化に 被覆をフィラー傾斜構造とすることで,従来の単一組成 伴い,コイルの巻線に用いられる電線(エナメル線)の高 被覆よりも優れた耐電圧性が発現することを,銅板に被 性能化(高耐電圧化)が急務となっている. 覆材原料(ワニス)を塗布し焼き付けたモデルで確認し, しかし,モーターのインバーター制御や高電圧化は, 特許を出願した(1).被覆中のフィラー傾斜構造の確認に インバーターサージと呼ばれる立ち上がり時間が非常に ついては,電子顕微鏡による評価方法を確立した.樹脂 短く,繰り返し周波数の高い急峻なパルス状の電圧が発 溶液へのフィラーの配合は,超音波照射機とメカニカル 生する.インバーターサージは,モーターのコイルエナ スターラーの併用により,良分散かつ試作に対応した大 メル線巻線間の部分放電の原因となり,結果としてエナ 量配合が可能となった.この被覆材原料(ワニス)を塗布 メル線の絶縁被覆部分の侵食劣化を招き,コイルの寿命 焼き付けすることによりエナメル線化した. を低下させている.従って,この絶縁破壊を極力抑え, このエナメル線に対して,耐部分放電性試験(課電寿 耐部分放電性に優れ,かつ,傷や高温に強い材料の開発 命試験)を行ってきた.これまでに 2.5 kV 以上の印加電 38 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 圧において,市販エナメル線より長寿命なエナメル線を 妨害となる.そこで Fig.1 に示すイオンビームミリン 開発した.しかし 2.0 kV では,市販エナメル線の約 4 グ装置を使用した.イオンビームミリングは,アルゴン 割の寿命しか得られていない.傾斜構造については,こ イオンのビームで試料を削っていくため,極めて平滑な れまでは最外層に向かってフィラー濃度が高くなる構造 断面が得られる.この装置を用いて各々の試料の断面を を検討してきたが,他にも検討の余地がある.これらの 作製した.本研究で作製した試料は,そのままの状態で 傾斜構造は,無伸長時の長寿命化だけでなくエナメル線 本装置の試料ホルダーに取り付け断面を得ることが難し の巻線化など実用化に向けての諸物性(可とう性,伸長 い.そのため,光硬化性樹脂に試料を包埋したのちホル 時長寿命化など)の向上も期待できる.今年度は目標物 ダーに取り付けることで,ミクロンオーダーの正確な位 性の達成を目指しこれらの多様な傾斜構造について検討 置決めとイオンビームによる照射が可能となった.さら した.これらについて報告する. に電流・加速電圧などの条件探索を行うことで,SEM で 観察可能な滑らかな試料断面を作製できるようになった. 2. 2.1 実験 これら試料中フィラーの SEM 観察においては,通常使 試料 用する導電性コーティングを施した場合,観察対象物が 樹脂溶液にフィラーを分散し,絶縁被覆材原料(ワニ ナノオーダーであるため,フィラー形状が確認できなく ス)とした.これを外部委託による試作で,導体径 1.0 なる.そこで導通を取る工夫を行い,加速電圧を大幅に mm の銅線に塗布し焼き付け,傾斜複数層エナメル線を 下げることで,導電性コーティングなしでフィラーを観 作製し試料とした.樹脂とフィラーは,ポリアミドイミ 察することが可能となった.以上の方法で被覆の傾斜構 ド系と無機シリカである.なお,今回使用したすべての 造を確認する手法を確立した. 試薬,材料は,市販品である. 2.2 装置 試料の断面作製にはイオンビームミリング装置 EM RES101(ライカマイクロシステムズ株式会社製)を使用し た.走査型電子顕微鏡観察には JSM-7400F(日本電子株 式会社製)を用い,外観観察にはマイクロスコープ VHX1000(株式会社キーエンス製)を使用した.フィラーの配 合には超音波細胞破砕器(有限会社大岳製作所製)とス リーワンモーター 1200G(新東科学株式会社製)を併用し, 脱泡には MS 撹拌・脱泡機 SNB-550N(松尾産業株式会社 製)を用いた. 2.3 Fig.1 イオンビームミリング装置(EM RES101) 被覆材原料(ワニス)作製方法 上記の方法で得た市販エナメル線の断面を SEM で観察 外部委託によるエナメル線作製には,被覆層 1 層当た した.その結果を Fig.2 に示す.白い小さな点状に見 り被覆材原料(ワニス)が約 1 kg 必要であった.超音波 えるものがナノフィラーである.被覆中に良好に分散し 分散のみ,若しくはホモジナイザー分散のみの分散方法 ている状態が観察できた. では,大量配合に伴う撹拌効率の低下によるフィラー凝 集の可能性が懸念されたため,超音波分散とメカニカル スターラーによる撹拌を併用して樹脂溶液にフィラーを 分散させた.分散後に脱泡を行った. 3. 3.1 結果及び評価 試料の断面作製及び観察 作製した試料中のフィラー分散の様子を走査型電子顕 微鏡(SEM)で観察するには,良好な断面を得る必要があ 1 μm る.従来の機械研磨では表面を滑らかに仕上げても,ナ ノオーダーの物質の観察には微小な傷が残り SEM 観察の Fig.2 市販エナメル線の SEM 像 39 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 3.2 耐部分放電性試験(課電寿命試験) は 200 % 以上であった.このように横型炉では重力の 試作したエナメル線の電気的特性を調べるため,耐部 影響により導体がたるみ,安定的にダイスの中心を通過 分放電性試験(課電寿命試験)を行った.IEC 規格におい させることが困難である.よって一般的な品質基準であ て,インバーターサージによる耐部分放電性試験の試験 る偏心率約 120 % のエナメル線を作製することができ 方法は,規格委員会にて検討は行われているが,試験装 なかった(最小偏心率:222 %).以上により,竪型炉を 置の仕様を含めた部分で未だ規格化されていない.そこ 所有するワニスメーカーに試作を依頼することにした. で,実機を想定した試験を行うため高電圧で繰り返し周 波数の高いパルス電圧を発生できる特別仕様の試験設備 を構築した. 試験は Fig.3 に示す装置で行った.モーター巻線間 で発生する部分放電を模擬するため,エナメル線をツイ ストペアにしてパルス高電圧発生器から模擬インバー ターサージ電圧(正負交互に 1 発ずつ発生する矩形波パ ルス電圧,毎秒当たりのパルス数 10 kpps,パルス幅 10 μs)を印加し,破壊するまでの時間を測定した. Fig.4 試作エナメル線(横型炉)の断面写真 Oscilloscope /Computer 竪型炉で試作したエナメル線の全体像を Fig.5 に示 High voltage probe す.横型炉のとき(Fig.4)と比較すると,偏心率が明ら Current probe かに改善していることがわかる.今回の試作エナメル線 Inverter pulse generator PMT Computer の偏心率は,概ね 120~130 % であった.以上より,こ の試作品は電気的特性試験に偏心が与える影響は小さく, ICCD 良好なフィラー分散状態及び明確な傾斜構造による課電 寿命時間の向上が期待される.従って,今後は竪型炉を Twisted pair sample 用いてエナメル線を作製し,市販エナメル線とともに, Fig.3 試験装置模式図 課電寿命時間の測定やフィラー分散状態の観察,可とう 性の測定を行うことにした. 3.3 可とう性試験 エナメル線を巻線化する際には応力がかかる.このよ うな機械的ストレスを与えたときに,被覆のしなやかさ が重要であり,これを表すものとして可とう性があ る(2).可とう性試験は JIS C3216-3 に準拠した試験方法 で実施した. 3.4 エナメル線焼き付け エナメル線は,被覆材原料(ワニス)を導体上に塗布焼 き付けしたものである.一般的に,製造は被覆材原 Fig.5 試作エナメル線(竪型炉)の断面写真 料(ワニス)の塗布と焼き付け工程を繰り返すことで行う. エナメル線の焼き付け炉には,横型炉と竪型炉がある. 3.5 竪型炉は被覆の均一性に優れ,導体径が 0.6 mm を上回 昨年度までに,2.5 kV 以上の印加電圧において,市 (3) る太いエナメル線の製造に使用されると言われている . 販エナメル線より長寿命なエナメル線を開発した.しか 横型炉は熱効率の面で優れているので,横型炉におけ し 2.0 kV では,市販エナメル線の約 4 割の寿命にとど る大径エナメル線作製の可能性を把握するために,横型 まっていた.そこでさらなる長寿命化を目指し,被覆の 炉を所有するエナメル線メーカーで試作した.そのエナ フィラー傾斜構造が異なる数種類のエナメル線を作製し メル線の断面写真(導体径 0.8 mm)を Fig.4 に示す.被 た.作製したエナメル線と市販品の概要を Table 1 に 覆の偏心率((被覆の最厚部)/(被覆の最薄部)×100(%)) 示す. 40 試作エナメル線 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 1 試作エナメル線 ――――――――――――――――――――――――― 傾斜構造 被覆厚(μm) 偏心率(%) 課電寿命時間(時間) 可とう性 A 46.3 134 4 × B 46.5 111 14 × C 49.5 132 12.5 ○ 市販品 39.0 109 17.5 ◎ ――――――――――――――――――――――――― 凝集 ※課電寿命時間の印加電圧:2 kV 1.0 mm ※試験環境:温度 25 %,湿度約 60 % Fig.6 試作エナメル線の概観 被覆厚はほぼ同じであった.竪型炉を用いたことに 4. よって偏心率も大幅に改善し,市販エナメル線と比較可 まとめ 高耐電圧エナメル線を実現するために,エナメル線被 能なものが作製できた.そこで課電寿命時間の測定 覆用樹脂とナノフィラーを検討した.試作用大量配合方 を 3.2 で述べた方法で行った. 法,フィラー分散状態の観察法を確立した. 傾斜構造の最適化を図ることで,2 kV の印加電圧で 従来品と異なり被覆を傾斜構造にすることで,耐電圧 も市販エナメル線寿命時間(17.5 時間)の約 8 割に到達 性が向上することを見出した. するもの(傾斜構造 B:14 時間)が作製できた.しかし, 竪型炉を使用することで,偏心率の小さい複数層傾斜 可とう性は市販品より劣っていた.次に傾斜構造 C を検 被覆エナメル線が作製できた. 討した結果,可とう性は向上したが寿命時間は B より短 くなった.今後傾斜構造のより詳細な最適化や,フィ 被覆構造の最適化を行うことで,印加電圧 2 kV でも ラー量の調製によって,市販エナメル線を上回るものを 市販エナメル線の約 8 割の課電寿命時間を有するエナメ 作製できることが期待できる. ル線を作製できた. 分散方法や傾斜構造とフィラー量などの最適化により 今回これらの試験を通して,課電寿命時間の試験では, 可とう性が向上した. 試験環境条件のうち湿度の影響が大きいことが確認され た.高湿度環境下では低湿度環境下と比べて,寿命時間 追 が短くなる傾向が見られた.原因はまだ解明できていな 記 本研究は,「次世代電磁力応用技術開発事業」により いが,規格委員会でも試験条件が定まっていないため, 実施しました. 一定の試験条件で試験を行うなどの注意が必要である. エナメル線を巻線化する際に重要となる可とう性につ 謝 いても,試作を重ねることで向上した.これは分散方法 辞 や,傾斜構造とフィラー量などの最適化によるものであ 本研究は,独立行政法人 科学技術振興機構(JST),大 る.可とう性が劣る A,B の被覆について亀裂部分をマ 分県地域結集型研究開発プログラムの支援により実施し イクロスコープで観察すると,ほとんどの箇所で Fig.6 ました.関係各位のご協力に心より御礼申し上げます. に見られるようなフィラーの凝集物が確認できた.よっ 参考文献 て,凝集が可とう性を悪くしている一因と考えられる. (1) 柴北俊英,竹明寿雄,梅原英嗣,金澤誠司,二宮信 凝集が起こる原因はいくつか考えられるが,大きな原 因としては,外部委託による試作のため被覆材原料配合 治,谷口秀樹,安部ゆかり:絶縁電線 から試作までに本来不要な時間を要し,その間にフィ 144797, 2010. 特願 2010- (2) 電気学会 マグネットワイヤ専門委員会:合成樹脂 ラーの凝集・沈降が発生しやすくなることである.塗布 エナメル線, 1962, P.17. コロナ社. 焼き付け直前に,再度超音波照射を行えばある程度回避 (3) 日立電線株式会社:電線・ケーブルハンドブック, できるが,現状困難である.さらに製造工程を把握する 1995, P.50. 山海堂. ことができないため,焼き付け条件などを最適化できな い.これらは,製造設備を構築すれば回避可能であり, より可とう性の優れたエナメル線を作製できると考えら れる. 41 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 塩干品の品質安定化技術の開発(第1報) 堀 元司・廣瀬 正純 食品産業担当 Development of the quality stabilization technology of the dried fish(the 1st report) Motoshi HORI・Masazumi HIROSE Food Industry Group 要 旨 アジ一夜干しの保存期間中に発生する臭いについて,クエン酸などを豊富に含むカボス果汁等を活用することに よる抑制方法を検討するとともに,塩干品の商品性向上のための無臭干物製造方法の検討を行った. 1 アジ一夜干しの保存期間中に発生する臭いの原因成分は,TMA,過酸化物価,TBARS値,VBNの分析 対象となる成分であることが確認できた. 2 塩漬時の浸漬液にカボス果汁を添加することで,アジ一夜干し中のTMA,VBNの増加を抑え臭いの軽減も 図れたが,干物臭や果汁臭とは異なる臭いの発生が認められた. 3 クエン酸を浸漬液に添加することにより当初目的とした「無臭」といったものには到達できなかったが,ある 程度の臭い改善効果が確認され,カボス果汁添加時に発生した特有の臭いも抑制できた. 4 浸漬液への果汁等の添加は,魚体の酸変性を防止するためクエン酸として1.25%を上限とする必要があった. 1. もに,塩干品製品の商品性向上を図るため果汁等を活用 はじめに した無臭干物製造方法の検討を行った. 日本人には昔からなじみ深い塩干品であるが,近年は 消費者ニーズに即した薄塩で生干しタイプの一夜干し製 2. 調査方法 品(風味や食感を向上させるため塩干品の中でも軽く水 分を抜くだけにとどめたもので,保存が効かず冷蔵又は 2.1 冷凍による貯蔵が必要)が主流となっている. 当センターで試作したアジ一夜干しを10℃にて保存 塩干品評価方法の検討 県内水産加工業において塩干品は水産食用加工品生産 し,保存期間中の官能検査による臭い評点や各成分値の 量の46%を占める主力製品となっているが,塩干魚介の 推移を調査することで,塩干品の臭いに係る調査項目の 1人当たり年間支出額(実質)は近年減少し続けており, 設定を行った. 水産加工業者からも干物が売れないといった相談が寄せ 2.1.1 られている. アジ一夜干しの試作は市販品と同様の方法により行っ アジ一夜干し試作方法 これらの要因の一つに,酸っぱいものや生臭いものを た.塩漬及び乾燥条件の設定は水分,塩分含量が市販品 本能的に避ける傾向があるといわれる子供などの「魚離 と同程度となるよう下記により行った.(アジ一夜干し れ」があると考えられている. 市販品の水分含量70%弱,塩分含量2%弱) 生ぐささ(魚臭さ)の原因は加工及び流通過程で発生 するトリメチルアミン(TMA),アルデヒド類,脂質の ・製造工程 原料魚 → 塩漬け → 水洗い → 乾燥 酸敗臭などによるものとされているが,アルカリ成分の ・塩漬条件 塩分濃度12%の浸漬液に90分間浸漬する 多いこれらの臭い成分は塩基と酸の反応で不揮発性にす ことを基本とし,原料魚重量等により浸 ることなどにより抑制できるとされている. 漬時間を調整 そこで,ビタミンC(VC)やクエン酸などの有機酸を ・乾燥条件 20℃に設定した冷風乾燥機にて4時間乾 豊富に含む柑橘類の果汁などの食品が,魚臭さや脂質酸 燥することを基本とし,原料魚重量等に 化等の抑制能力を有するかどうかを調査,検討するとと より乾燥時間を調整 42 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 2.1.2 塩干品評価方法の検討 漬液にカボス果汁,クエン酸,酢酸を添加することによ 2.1.1の方法にて試作したアジ一夜干しを市販品の流 りアジ一夜干しの無臭化が図れないか検討を行った. 通形態と同様に一旦冷凍,解凍させた上で10℃にて保存 また,臭いの改善効果が期待できるクエン酸について し,保存期間中のTable 1の調査項目の推移を調査し, 添加量の検討を行った. 臭いに影響を与える成分等の確認を行った. 2.2 なお,今回の試作に用いたカボス果汁の成分値は次の とおりであった. 塩干品の品質安定化方法の検討 市販品としては一般的である塩分のみ又はVCを添加 した浸漬液にて試作した試作品を対照とし,本年度は浸 カボス果汁 pH 酸度(%) 2.51 4.54 VC(mg%) 有機酸(%) 23.4 5.15 Table 1 カボス果汁等添加浸漬液を用いたアジ一夜干し試作方法 原料魚 アジ(3枚おろしにして中骨を除き用いた) 試験材料 対照区(VC0.5%区) 及び カボス果汁(12.5%,25%区) 試 験 区 クエン酸(0.25%,0.5%,1.25%区) 酢酸(0.5%区) 保存温度 解凍後10℃にて保存 調査日 解凍後0日,3日,6日,10日 調査項目 官能検査(臭い,色),pH,臭い値(臭いセンサ-による分析値),VBN, TBARS値,TMA,色調,水分,灰分,塩分,VC,有機酸 Table 2 クエン酸添加浸漬液を用いたアジ一夜干し試作方法 原料魚 アジ(3枚おろしにして中骨を除き用いた) 試験材料 対照区(VC無添加,塩分のみ) 及び試験区 クエン酸(0.25%,0.5%,2.5%区) 保存温度 解凍後10℃にて保存 調査日 解凍後0日,7日 調査項目 官能検査(臭い,色),pH,臭い値(臭いセンサ-による分析値),VBN, TMA,色調,水分,灰分,塩分,有機酸 3. 3.1 認められた.また,有意差は無かったもののVBNの相 調査結果及び考察 関係数も高い傾向が認められた. 塩干品評価方法の検討 今回試作したアジ一夜干しの保存期間中における臭い 2回目では肉色のb*,C*,臭い値,過酸化物価, 評点の推移はTable 3のとおりであり,日数の経過とと TBARS値と臭い評点間に相関関係のあることが確認 もに臭くなる傾向が認められた. された. 以上より,TMA,過酸化物価,TBARS値, Table 3 VBNの分析対象となる成分がアジ一夜干しの臭いの原 アジ一夜干しの臭い評点の推移 調製後 解凍後0日 3日 6日 10日 因成分であることが確認されたことから,調査方法が煩 1回目 0.7 1.2 2.8 3.4 4.0 雑な過酸化物価を除き本試験における調査項目とした. 2回目 1.5 2.2 3.0 3.2 3.7 また,臭い値については臭いの評価を行う指標となり 得ることから,同様に調査項目とした. (注)評点:0(無臭)~2(やや臭い)~4(すごく臭い) 3.2 アジ一夜干し試作品の概要はTable 6のとおりであっ 臭い評点と肉色及びpH等の各成分値間における相関 た.今回は原料魚を試作の都度(2区ずつ5回に分けて実 係数はTable 4,Table 5のとおりであった. 施)購入したことで魚体重量等を一定にできなかったこ 1回目試作品の調査では,臭い評点と肉色のL*, b*, 塩干品の品質安定化方法の検討 とから,浸漬時間等で調整を試みたものの試作品の水分, c*,臭い値,TMA間に有意差の有る相関が 43 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 4.0 14 4.0 臭い 12 臭い値 臭い 3.0 10 TBARS (×100) 8 60 40 TBARS値 臭い 1.0 4 1.0 臭い値 (×10) TMA量 2.0 臭い値 6 80 3.0 臭い 2.0 100 20 臭い値 2 0.0 0.0 0 調製後 0日 3日 調製後 10日 6日 0日 3日 解凍後日数 アジ一夜干しの臭い評点等の推移(1回目) Table 4 肉 10日 6日 解凍後日数 Fig.1 Fig.2 アジ一夜干しの臭い評点等の推移(2回目) 1回目アジ一夜干し試作品における臭い評点と各成分値間の相関係数 色 臭い値 VBN TMA 0.5986 0.8731 0.7642 0.9085 L* a* b* -0.8522 0.6244 0.8203 10%水準 ○ - ○ ○ - - ○ - ○ 5%水準 - - - - - - - - ○ Table 5 h 0.8447 -0.0511 2回目アジ一夜干し試作品における臭い評点と各成分値間の相関係数 色 pH L* 相関係数 C* pH 相関係数 肉 TMA 0 a* 0.3470 -0.5842 臭い値 過酸化 揮発性 TBARS 物価 有機酸 値 b* C* h 0.8832 0.8222 0.7578 0.6711 0.8234 0.8404 0.1128 0.9117 10%水準 - - ○ ○ - - ○ ○ - ○ 5%水準 - - ○ - - - - - - ○ (注) 相関係数の有意水準:10%水準 0.805< Table 6 対照区 アジ一夜干し試作品の概要 カボス果汁 (VC0.5%区) 浸漬液添加量 ,5%水準 0.878< クエン酸 酢酸 12.5 25% 25% 25% 0.25 0.5 1.25 0.5 1回目 2回目 %区 区① 区② 区③ %区 %区 %区 %区 % 0.5 0.5 12.5 25 25 25 0.25 0.5 1.25 0.5 原料魚(あじ) 重 量 g/枚 74.3 77.1 52.9 52.9 77.1 106.1 74.3 75.9 106.1 75.9 水 分 % 70.7 74.2 75.0 75.0 74.2 75.9 70.7 71.5 75.9 71.5 試作品(乾燥後) 重 量 g/枚 64.3 62.5 43.1 42.1 65.1 88.3 62.7 64.4 89.1 63.1 水 分 % 68.0 68.4 63.1 64.3 68.0 66.7 67.5 65.0 68.1 63.7 灰 分 % 3.01 3.02 3.09 2.97 2.82 3.18 3.13 2.61 3.07 2.50 塩 分 % 1.95 1.73 1.99 1.75 1.53 2.12 2.07 1.58 1.94 1.54 塩分含量にばらつきを生じさせてしまった. み)よりも小さかった. 対照区(VC0.5%区)の保存期間中における臭い評点 3.1の試作品と比較してVCの添加により色の改善は 及び各成分値の推移はTable 7のとおりであった. 認められたが,臭いについての改善はさほど認められな TMA等が保存期間の経過とともに増加したことで, かった. 臭い値や臭い評点も上昇した.なお,TBARS値も増 各試験区の解凍後10日時点の実測値及び保存期間中の 加したがその増加量は3.1の試作品(VC無添加,塩分の 増加量はTable 8,Table 9のとおりであった. 44 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 最初に行ったカボス果汁区においては,25%区②を除 のに保存期間中の増加量は少ないことから,保存開始時 き対照区よりもTBARS値が増加したものの,TMA, から何らかの揮発性成分が発生していたと思われた.こ VBNの増加は抑えられた. の揮発性成分の臭いは干物臭とは異なり,悪臭とは感じ ただ,臭い値において10日目時点で対照区と同程度な Table 7 対照区(VC0.5% 区)の臭い評点及び各種成分値の推移 臭い評点 臭い値 TMA VBN mg% mg% 加熱前 加熱後 原料魚 解凍後0日 られなかったため,臭い評点も抑えられる傾向を示した. TBARS pH 値 有機酸 有機酸 VC (乳酸以外) (乳酸) mg% - - - - - - 6.13 - - - 0.9 0.4 156 4.2 13.5 2.0 6.07 7 618 65.9 〃 3日 1.3 0.6 217 15.5 15.2 6.3 6.22 - - 39.5 〃 6日 2.5 1.2 464 - 31.6 8.6 6.24 62 522 28.4 〃 10日 3.6 1.3 723 81.8 43.1 10.6 6.23 101 567 21.7 注:TBARS値 mgMDA/kg肉,有機酸 Table 8 mg% アジ一夜干試作品の解凍後10日目時点における各成分値等の実測値 VC カ ボ 0.5%区 12.5%区 ス 果 汁 25%区① ク 25%区② 25%区③ エ ン 0.25%区 酸 0.5%区 酢 1.25%区 酸 0.5%区 臭い評点 3.6 2.5 1.5 3.2 2.8 3.5 3.1 2.6 2.8 (加熱前) (100) ( 70) ( 42) ( 90) ( 79) ( 99) ( 87) ( 73) ( 79) 臭い評点 1.3 1.7 0.7 0.9 1.2 1.8 1.6 1.1 1.4 (加熱後) (100) (136) ( 56) ( 72) ( 96) (144) (128) ( 88) (112) 723 756 667 673 968 (100) (105) ( 92) (185) (100) 81.8 43.8 48.7 84.1 16.9 (100) ( 54) ( 60) (103) ( 21) (142) (201) ( 26) (213) 43.1 24.7 25.7 51.5 20.5 45.1 53.6 19.4 48.9 (100) ( 57) ( 60) (119) ( 48) (105) (124) ( 45) (113) 10.6 17.5 15.2 9.3 15.0 18.1 32.4 18.3 36.9 (100) (165) (144) ( 87) (142) (171) (306) (173) (349) 臭い値 TMA VBN mg% 〃 TBARS値 mgMDA/kg肉 Table 9 VC カ ボ 1,337 726 1,114 1,091 (154) (151) 116.5 164.7 ( 93) 20.9 (134) 174.1 アジ一夜干試作品中各成分値の保存期間中の増加量 ス 果 汁 ク エ ン 酸 酢 酸 0.5%区 12.5%区 25%区① 25%区② 25%区③ 0.25%区 0.5%区 1.25%区 0.5%区 臭い評点 2.7 1.0 0.6 1.2 1.3 2.5 1.3 1.4 1.8 (加熱前) (100) ( 37) ( 22) ( 44) ( 48) ( 93) ( 48) ( 52) ( 67) 臭い評点 0.9 1.4 0.1 0.5 0.8 1.2 0.8 0.7 0.9 (加熱後) (100) (165) ( 12) ( 59) ( 94) (141) ( 94) ( 82) (106) 臭い値 TMA VBN mg% 〃 TBARS値 mgMDA/kg肉 567 352 244 897 297 963 853 402 644 (100) ( 62) ( 43) (158) ( 52) (170) (150) ( 71) (113) 77.7 39.6 45.2 83.3 12.8 (100) ( 51) ( 58) (107) ( 16) (146) (204) ( 19) (217) 29.6 11.0 13.0 36.9 7.8 31.7 42.0 6.5 37.9 (100) ( 37) ( 44) (125) ( 26) (107) (142) ( 22) (128) 8.6 3.7 13.7 9.3 17.3 13.4 17.7 16.0 11.0 (100) ( 43) (159) (108) (201) (156) (205) (186) (128) 45 113.7 158.2 14.8 168.8 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 果汁中の揮発性成分の影響を除去するため行ったクエ たからか試作品の塩分含量が高くなった.また,クエン ン酸区及び酢酸区においては,クエン酸1.25%区で臭い 酸区ではクエン酸の添加割合の高い区ほど塩分含量が低 改善効果が確認され,カボス果汁区にあった特有の臭い くなった. の発生も抑制されていた. 対照区の保存期間中における臭い評点及び各成分値の クエン酸の臭い改善効果が発現される添加量について 推移はTable 11のとおりであった.塩分が高かったこと 検討するために行った試作品の概要はTable 10のとおり もあり,保存期間中に各評点及び成分等は増加したが, であった. その程度は小さかった. 今回の試作では購入後冷凍保存していた原料魚を用い Table 10 クエン酸区では前回臭いの改善効果が認められなかっ アジ一夜干し試作品の概要(クエン酸濃度試験) 対照区 浸漬液クエン酸添加量 ク エ ン 酸 0.25%区 0.5%区 2.5%区 % - 0.25 0.5 2.5 重量 g/枚 80.9 82.9 84.7 81.0 水分 % 76.8 76.8 76.8 76.8 重量 g/枚 70.0 74.3 77.1 72.7 水分 % 69.5 70.2 70.0 67.6 灰分 % 4.60 4.10 3.95 3.83 塩分 % 3.27 2.84 2.72 2.52 原料魚(あじ) 試作品(乾燥後) Table 11 対照区の臭い評点及び各種成分値の推移(クエン酸濃度試験) 臭い評点 臭い値 加熱前 加熱後 TMA VBN mg% mg% pH 有機酸 有機酸 (乳酸以外) (乳酸) 原 料 魚 - - - - - 6.38 - - 解凍後0日 1.4 0.3 233 3.2 14.6 6.32 0 569 2.5 1.3 368 9.3 21.0 6.29 6 655 〃 7日 Table 12 アジ一夜干試作品の解凍後7日目時点における各成分値等の実測値 対照区 ク エ ン 0.25%区 酸 0.5%区 2.5%区 官能 臭い(加熱前) 2.5(100) 1.9( 76) 1.5( 60) 2.2( 88) 検査 臭い(加熱後) 1.3(100) 1.0( 77) 0.9( 69) 0.6( 46) 368(100) 301( 82) 328( 89) 370(101) 臭い値 TMA mg% 9.3(100) 7.7( 82) 7.0( 75) 8.8( 95) VBN 〃 21.0(100) 17.7( 84) 17.8( 85) 17.3( 83) Table 13 アジ一夜干試作品中各成分値の保存期間中の増加量 対照区 ク エ ン 0.25%区 酸 0.5%区 2.5%区 官能 臭い(加熱前) 1.1(100) 0.9( 82) 0.1( 9) 0.7( 64) 検査 臭い(加熱後) 1.0(100) 0.5( 50) 0.4( 40) 0.2( 20) 臭い値 135(100) 41( 30) 63( 47) 31( 23) TMA mg% 6.2(100) 3.2( 52) 2.1( 34) 5.2( 84) VBN 〃 6.4(100) 3.6( 56) 4.5( 70) 3.6( 56) 46 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター た0.25%区,0.5%区を含めて臭い改善効果が認められ 0日目では対照区<カボス果汁区<クエン酸区の順で たが,対照区の増加量が低かったこともあり効果の程度 あったが,10日目ではカボス果汁区<クエン酸区<対照 は大きくなかった.(Table 12,Table 13) 区の順となり,カボス果汁区,クエン酸区の臭い改善効 対照区(VC0.5%区),カボス果汁25%区,クエン酸 果が確認された.ただ,一部のパネラーから対照区が一 1.25%区について,解凍後0日と10日目に行った官能検 般的な干物の臭いであるのに対しカボス果汁区は異質な 査結果はTable 14のとおりであった.(パネラー 臭いがしてかえって不快であるとの意見もだされた. 6名) 以上より,カボス果汁,クエン酸を浸漬液に添加する Table 14 アジ一夜干し試作品の臭い評点の推移 対照区 解凍後 0日 〃 10日 増 加 値 カボス果汁 ことにより,ある程度の臭い改善効果の発現が確認され クエン酸 たが,当初目的とした「無臭」といったものには到達で (VC0.5%区) 25%区 1.25%区 きなかった. 1.7 1.9 2.0 なお,浸漬液のクエン酸濃度が0.24%を超えると酸変 3.5 2.8 3.2 性により魚体が白く変色するようになり,1.5%を超え 1.8 0.9 1.2 ると乾燥しても白変が目立つようになった(Fig.3, (注)評点:0(無臭)~2(やや臭い)~4(すごく臭い) Fig.4).そのため,浸漬液のクエン酸濃度は1.25%以内 (カボス果汁で25%以内)とするべきだと考えられた. 浸漬液に1時間浸漬後 浸漬液は左から 塩分のみ, クエン酸0.12%, 0.24%, 0.46%, 1.0% Fig.3 浸漬後のアジ肉の白変状況 冷風乾燥 (20℃, 同左 4 時 間 )後 Fig.4 浸 漬 液は 浸漬液は 上から 上から 塩分のみ, 塩分のみ ク エ ン酸 クエン酸 0.12%, 0.46%, 0.24% 1.0% 乾燥後のアジ一夜干しの白変状況 47 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 生鮮食品の輸送に関する研究 -イチゴのタイ向け小ロット輸送の輸送環境(第1報)- 朝来壮一*・川口和晃** *食品産業担当・**神栄テクノロジー株式会社 Study on the Fresh Food Transportation -Transportation Environment of the Strawberry for Thailand (1st Rpt) *Shoichi ASAKI・**Kazuaki KAWAGUCHI *Food Industry Group・**SHINYEI TECHNOLOGY Co.,Ltd 要 旨 大分県産業科学技術センターと神栄テクノロジー株式会社は,イチゴの高品質輸出に不可欠な輸送環境条件 を明らかにするために,平成 24 年 12 月に小ロットでタイに輸出されるイチゴ「さがほのか」について輸送環 境を調査した.2L サイズ 7 分着色果を 11 果/パックとし,国内仕様に準じたスポンジ緩衝材+樹脂トレイ包 装とした.4 パック詰めダンボールの 5 段重ねで 2 梱包を輸送し,その陸上輸送及び航空輸送中の振動衝撃を 測定した.平成 24 年 11 月 29 日に大分県杵築市の選果場から出荷し,12 月 3 日に福岡国際空港からタイスワ ンナプーム国際空港を経てバンコク市内の量販店に配送した.その結果,小ロットであるため積み替え回数の 多かった日本国内での振動衝撃の頻度,大きさがタイ国内に比べて顕著であり,Z 軸(上下方向)で最大 13.36G, X 軸(水平方向)4.35G,Y 軸(水平方向)最大 4.18G であった.タイ国内では Z 軸最大 9.79G,X 軸最大 3.11G, Y 軸 3.76G であった.振動は積み替え時に集中して起きており,振動衝撃に起因するトレイ内イチゴの配列乱 れやオセ損傷が認められた. 1. はじめに こうした高級青果物は輸送中の振動衝撃の影響を受け 青果物流通の環境は,近年大きく変化してきており, ることが極めて多く,イチゴでは「オセ」 「スレ」損傷が 従来は国内長距離輸送を前提に組み立てられていた流通 知られている. システムもアジアを始めとする海外市場を視野に入れて また鮮度低下の早い青果物では,現地の短い販売期間 対応する必要が出てきている. に合わせて販売しなければならない事情もあるため,現 九州から輸出される農産物の多くは海上コンテナによ 地の商機に合わせた小ロット輸送が頻繁に行われている. って輸送されるため,本県でも過去に台湾向けナシの海 こうした輸送環境下の損傷については,コンテナ輸送と 上輸送環境調査を行なってきた.しかし,最近では従来 は異なる要因もありうる.そこで空輸を前提とした青果 除外されていた生鮮野菜など傷みやすいもの,鮮度保持 物の海外輸送の最適化を図るため,大分県が行うタイ向 期間の短いものを空輸で輸出することも多くなっている. け農産物航空輸送に合わせ,産地から出荷して,宅配な イチゴは九州から輸出されるそうした青果物の一つであ どを利用した陸送から航空機(直行便)による輸送,現 るが,航空輸送での輸送環境調査事例は極めて少ない. 地量販店までの輸送環境について調査した. Oita 【Oitacity】 Bangkok 【Flight】 【Airport】 【Airport】 【Daisho Thailand】 Recorder Data China Airline Data DATA Record Package Fig.1 輸送テストの概要 48 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 2. 2.1 調査方法 ○使用機器 テスト輸送の概要 Fig.2 のようにアクリル製の固定ベースを作製し,以 テスト輸送の概要を Fig.1 に示した.テスト輸送は小 下の機器をダンボール(DB)内に設置して,最下段で輸 ロット輸送とし,国内輸送は宅配便(ヤマト運輸)を利 送されるようにした. 用し,輸出は福水商事(株)が行った.通関手続きを含 ①輸送環境記録計 1 台(神栄テクノロジー社製, めた国際輸送は日本通運(株)福岡航空支店が行った. DER-1000),②3 軸振動データロガー 2 台(MK-Scientific 航空便は福岡空港発午前便のタイ国際航空の直行便,現 社製,DT-178A),③温度/湿度/気圧データロガー 2 台 地輸送は委託業者とした. (MK-Scientific 社製,DT-174B). ○機器の設定 2.1.1 調査方法 各機器は記憶容量制限があるため,記憶容量から測定 ○出荷 インターバルを設定した. JA おおいた杵築選果場(大分県杵築市)から出荷 ・DER-1000(振動衝撃+気象用): 加速度レンジ 50G, ○出荷先 トリガーモード:閾値・時間併用モード,フレーム数: タイ王国バンコク市(Daisho Thailand Co.,Ltd) 1024,サンプリングレート:1ms,閾値トリガーレベル: ○運送企業 0.5(0.5G 以上で計測開始),時間インターバル(振動 ヤマト運輸(株)及び日本通運(株)福岡航空支店 計測用):15s,温湿度インターバル:30min ○輸出企業 ・DT-178A(振動測定用): サンプリングレート 5sec, 加 ブランドおおいた輸出促進協議会,福水商事(株) 速度レンジ 15G,フレーム数:87406 ・DT-174B(気象用): サンプリングレート 1min 2.1.2 調査時期および供試材料 ○着荷調査 ○平成 24 年 11 月 29 日~12 月 3 日 タイ王国バンコク市の伊勢丹のバックヤードで直接回 実際に行ったタイムスケジュールを Table 1 に示した. ○供試材料 収し,着荷の内外装検査とイチゴの検品を外観目視によ り行なった. 大分県産「さがほのか」の 2L 規格 4:3:4 配列の 11 個 3. /パックを供試した.これらをダンボール 5 段積1行李 を 1 単位とし,一方を対照として供試貨物とした.調査 3.1 機器は最下段に設置した. 調査結果及び考察 着荷検品結果 基本的に通例行われている包装形態で輸送することと し,出荷の段階では Fig.3 のようにダンボールを結束バ ンドで固定して出荷した.さらに植物検疫及び通関後, 実際行われているように保温性や耐衝撃性を考慮した熱 反射性の FS 製断熱緩衝包装を施して空輸した(Fig.4). 着荷検査は出荷から 5 日目販売として想定した 12 月 4 日に量販店バックヤードで実施した(Table 1). タイの開封検品では,外部包装の破損汚損は認められ なかった.また,内部のダンボールの凹みや汚損などの 損傷も認められなかった. 温湿度気圧ロガー 振動衝撃ロガー Fig.2 データロガーの設置 Fig.3 49 出荷荷姿(選果場) Fig.4 通関後荷姿(日通) 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 1 日別 曜 日本時間(現地時間) 9:30 11月29日 木 備考(温度環境等) 24℃設定室内JAおおいた杵築支店 11:00 作業終了 〃 記録開始 12:00 宅配便杵築センターへ持ち込み 5℃冷蔵庫保存 ヤマト急便杵築市 14:00 宅配便大分市基幹店へ移動 5℃冷蔵庫保存 ヤマト急便大分市豊海 基幹店で保管 5℃冷蔵庫保存 福岡基幹店へ配送 (福岡サービスセンター) クール便 日通福岡空港支店へ配送 クール便 13:00~ 植物検疫 植物防疫所/福岡支所福岡空港出張所 17:00~ 一時保管 日通福岡航空支店 0:00~15:50 金 作 業 概 要 イチゴパッキング開始 18:30~00:00 11月30日 輸送行程(実績) 10:00~13:00 12月1日 土 終日 保税倉庫 福岡空港内 12月2日 日 終日 保税倉庫 福岡空港内 10:50 荷積み(航空機積載) 日通福岡空港支店 11:40 離陸(福岡空港) 12月3日 12月4日 月 火 17:35(15:20) 着陸(スワンナプーム空港) 18:30(16:30) 荷下ろし終了 タイ国際航空 通関手続 スワンナプーム国際空港 21:30(19:30) 配送(小型冷蔵車) 5℃(スワンナプーム→高速道→量販店) 約40~60分 22:20(20:20) 伊勢丹着後冷蔵庫保管 5℃量販店バックヤード冷蔵庫 13:00(11:00) 開封検品(測定終了) 18℃バックヤード バンコク量販店 記録終了 きるのかは再現試験を待たねばならないが,パッケージ 全体のデザインの中で考える必要がある. 個別パックは通常イチゴとトレイの間に緩衝材を挟ん で出荷されている.今回使用したものは薄型のスポンジ タイプのものであったが,輸送中の振動抑制には不十分 であった.イチゴはトレイごと OPP フィルムで被覆され るが,選果場段階でのイチゴの圧迫損傷を回避するため Fig.5 パレット荷姿 Fig.6 着荷(バンコク) 緩やかに被覆してトレイに粘着シール接着されている. トレイを軽く振動させれば容易にイチゴが動揺する程度 である.このため動揺を抑制するための工夫,すなわち ダンボール蓋とイチゴ間のヘッドスペース部分の空間を 埋めるなどの工夫が必要である. またイチゴは形状が不定形であるため,その不規則な 空間形状に対応できる緩衝材が必要である.イチゴその ものの損傷は,オセ・スレに加えてカビの発生も認めら Fig.7 着荷のトレイパック Fig.8 損傷果 れた.こうした損傷は,着荷検査までの期間が 5 日間あ ったことなど収穫調整段階からの潜在的損傷が輸送の間 個別パックのイチゴは,出荷時 4:3:4 の配列からの乱 の温湿度,衝撃,気圧の変化によって加速された可能性 れが大きく,Fig.7 のように出荷時の配列をほとんど留 も否定できない.今後得られたデータをもとに選果場段 めていなかった. 階での損傷,輸送振動,リードタイムの短縮等を総合的 今回の輸送ではポリウレタン製の FS シートをトレイ に検討する必要があると考えられた. の中敷きとして使用していたが,イチゴの動揺は制御で きずいわゆる「玉おどり」の状態になったと推定される 3.2 輸送中の振動衝撃 (Fig.7).またイチゴもオセなどの損傷果が観察された <小ロット配送と宅配>輸送中の振動衝撃については, (Fig.8).中敷きは振動吸収に関してある程度効果は期 全体として国内輸送中の方が頻度,衝撃加速度の強さ共 待できるが,実際の振動ではイチゴ間の圧迫や摩擦の抑 に大きかった.配送プロセスを 5 つに分け,それぞれの 制は困難である.JA 等出荷団体では通常 Fig.6 の 4 パッ 振動衝撃の大きさと頻度を Table 2 に示した.国内輸送 ク用ダンボールを用いるが,イチゴを載せてフィルム被 では 1G 以上の振動衝撃頻度の 80%近くが宅配便移動期 覆したトレイと上乗せ蓋(ダンボール製)との間に空間 間中に集中していた.振動衝撃は 15G レベルで通常の荷 が生じる.トレイ自体はダンボールに固定されていない 物移動で起こるレベルの振動と言えるが,頻度が多いた ためトレイに大きな振動・衝撃が与えられた場合には, めに前述のトレイ内イチゴの動揺に影響しているものと 上部空間は空いているのでその間で大きな動揺が起きる 推察される. 可能性がある.そうした動揺はどの程度の振動衝撃で起 今回のような小ロット輸送では,宅配便のシステムを 50 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 使用することが多い.宅配便のシステムはその効率化の 定されるが,DER-1000 による測定では 1G 以上の衝撃の ために,選果場に近い集配店から一旦規模の大きな地域 回数は 0 回であった.小型データロガーのデータでも最 の基幹店に集約される.その後,貨物の種類(低温,常 大 1.6G 程度であり,積替えがない場合は航空輸送中の 温等),大きさ・重量や配送先にしたがって仕分けされ, (飛行中の)振動衝撃は問題ないという結果であった. 当日夜間の間に配送先の基幹店に移動する.基幹店では しかし,飛行中の振動衝撃に比較すると離着陸時の衝撃 さらに配送先によって仕分けされ,配送担当の地域店に は比較的大きく,今回はそれが比較的小さかったことと 移される. 関係があると考える. このように配送の効率化のために多くの工程を経る. <全行程の振動衝撃>傾向として水平方向よりも垂直方 そのため低レベルの振動衝撃の機会が増えるものと推察 向の振動が大きく,日本の国内輸送中の振動衝撃が頻度, される.特に振動衝撃と果実硬度は低温で維持されるた 大きさで航空輸送中,タイ国内輸送中を上回った.XYZ め,出荷段階でも果実硬度を意識して着色度 7 割程度で 各方向の振動データを Fig.9 に示した.国内輸送で全行 出荷されるが,イチゴの品質としては着色度が高いほう 程最大 G を記録しており,Z 軸(垂直方向)で最大 13.36G, が良い.果実硬度は逆に低下するため,高品質のイチゴ X 軸(水平方向)4.35G,Y 軸(水平方向)最大 4.18G で を輸送するためには振動の低減が欠かせないことになる. あった.これらは前述のように小ロット配送の積替え頻 また,コールドチェーンの観点からは検品までのリー 度の多さなどに付随する課題であり,検討の必要がある ドタイムが 5 日間と長く,出荷が収穫当日でなければさ が産地からフォワーダへの直接配送など行程の単純化が らに長くなる.これは振動衝撃の回数が多くなるという 重要と考えられた. ことにもなり,イチゴの品質保持の点で問題と考える. 謝 リードタイムの短縮は振動衝撃の総量を減ずることにも つながるため必須である. 辞 本研究の実施に当たって,多大なるご支援を頂いたブ <航空輸送>福岡市からタイ王国バンコク市への飛行ル ランドおおいた輸出促進協議会事務局,JA 全農おおいた ートはいくつかあるが,直行便は現在タイ国際航空一便 園芸部園芸販売課,福水商事株式会社貿易課,タイの である.今回はこの便を利用したことと関係があると推 Daisho Thailand Co.,Ltd に心より御礼申し上げる. Table 2 輸送中の振動衝撃及び温湿度平均 Start Time: 29/11/12 11:06:01 Sampling rate: 5sec Samplings: 87406 Unit: G Mode: Normal Vector Max&Min Date MAX: 4.35 @ 30/11/12 05:34:21 X MIN: -4.94 @ 30/11/12 09:10:26 MAX: 4.18 @ 30/11/12 08:51:41 Y MIN: -5.71 @ 30/11/12 03:48:36 MAX: 13.36 @ 30/11/12 03:48:36 Z MIN: -1.45 @ 03/12/12 21:36:21 MAX: 15.15 @ 30/11/12 03:48:36 Vector Sum MIN: 0.97 @ 03/12/12 16:52:21 Average G Threshold -0.09 NONE 0.03 NONE 1.14 NONE 1.15 振動データ No. 時間 輸送環境 衝撃データ 上下 前後 左右 1 2012/11/29 12:00~18:00 ヤマト便(杵築→大分市基幹支店) 0.12 0.03 0.04 2 2012/11/30 0:00~10:00 クール便(大分市基幹支店→福岡基幹支店) 0.09 0.03 0.03 3 2012/11/30 10:00~13:00 クール便(福岡基幹支店→空港) 0.15 0.08 0.11 4 2012/12/3 11:40~17:30 航空輸送(タイ航空、福岡→スワンナプーム) 0.02 0.02 0.02 5 2012/12/3 21:30~22:20 タイ国内配送(空港→伊勢丹) 0.07 0.05 0.05 注)GSVM 上段のみ DT178-A 51 最大加速度 (G)SUM 10.7 16.7 15.2 27.3 5 8 1.6 0.5 9.8 6.9 温湿度データ 発生回数 (1G以上) AVG℃ AVGRH% 50 13.5 47.7 142 5.8 52.6 9 6.4 63.8 0 11.5 71.2 6 13.5 70.8 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター X 軸水平方向 国内輸送 航空輸送 タイ Y 軸水平方向 国内輸送 航空輸送 タイ Z 軸垂直方向 国内輸送 Fig.9 航空輸送 輸送中の振動データ 52 タイ 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 1 日別 曜 日本時間(現地時間) 9:30 11月29日 木 備考(温度環境等) 24℃設定室内JAおおいた杵築支店 11:00 作業終了 〃 記録開始 12:00 宅配便杵築センターへ持ち込み 5℃冷蔵庫保存 ヤマト急便杵築市 14:00 宅配便大分市基幹店へ移動 5℃冷蔵庫保存 ヤマト急便大分市豊海 基幹店で保管 5℃冷蔵庫保存 福岡基幹店へ配送 (福岡サービスセンター) クール便 日通福岡空港支店へ配送 クール便 13:00~ 植物検疫 植物防疫所/福岡支所福岡空港出張所 17:00~ 一時保管 日通福岡航空支店 0:00~15:50 金 作 業 概 要 イチゴパッキング開始 18:30~00:00 11月30日 輸送行程(実績) 10:00~13:00 12月1日 土 終日 保税倉庫 福岡空港内 12月2日 日 終日 保税倉庫 福岡空港内 10:50 荷積み(航空機積載) 日通福岡空港支店 11:40 離陸(福岡空港) 12月3日 12月4日 月 火 17:35(15:20) 着陸(スワンナプーム空港) 18:30(16:30) 荷下ろし終了 タイ国際航空 通関手続 スワンナプーム国際空港 21:30(19:30) 配送(小型冷蔵車) 5℃(スワンナプーム→高速道→量販店) 約40~60分 22:20(20:20) 伊勢丹着後冷蔵庫保管 5℃量販店バックヤード冷蔵庫 13:00(11:00) 開封検品(測定終了) 18℃バックヤード バンコク量販店 記録終了 きるのかは再現試験を待たねばならないが,パッケージ 全体のデザインの中で考える必要がある. 個別パックは通常イチゴとトレイの間に緩衝材を挟ん で出荷されている.今回使用したものは薄型のスポンジ タイプのものであったが,輸送中の振動抑制には不十分 であった.イチゴはトレイごと OPP フィルムで被覆され るが,選果場段階でのイチゴの圧迫損傷を回避するため Fig.5 パレット荷姿 Fig.6 着荷(バンコク) 緩やかに被覆してトレイに粘着シール接着されている. トレイを軽く振動させれば容易にイチゴが動揺する程度 である.このため動揺を抑制するための工夫,すなわち ダンボール蓋とイチゴ間のヘッドスペース部分の空間を 埋めるなどの工夫が必要である. またイチゴは形状が不定形であるため,その不規則な 空間形状に対応できる緩衝材が必要である.イチゴその ものの損傷は,オセ・スレに加えてカビの発生も認めら Fig.7 着荷のトレイパック Fig.8 損傷果 れた.こうした損傷は,着荷検査までの期間が 5 日間あ ったことなど収穫調整段階からの潜在的損傷が輸送の間 個別パックのイチゴは,出荷時 4:3:4 の配列からの乱 の温湿度,衝撃,気圧の変化によって加速された可能性 れが大きく,Fig.5 のように出荷時の配列をほとんど留 も否定できない.今後得られたデータをもとに選果場段 めていなかった. 階での損傷,輸送振動,リードタイムの短縮等を総合的 今回の輸送ではポリウレタン製の FS シートをトレイ に検討する必要があると考えられた. の中敷きとして使用していたが,イチゴの動揺は制御で きずいわゆる「玉おどり」の状態になったと推定される 3.2 輸送中の振動衝撃 (Fig.7).またイチゴもオセなどの損傷果が観察された <小ロット配送と宅配>輸送中の振動衝撃については, (Fig.8).中敷きは振動吸収に関してある程度効果は期 全体として国内輸送中の方が頻度,衝撃加速度の強さ共 待できるが,実際の振動ではイチゴ間の圧迫や摩擦の抑 に大きかった.配送プロセスを 5 つに分け,それぞれの 制は困難である.JA 等出荷団体では通常 Fig.6 の 4 パッ 振動衝撃の大きさと頻度を Table 2 に示した.国内輸送 ク用ダンボールを用いるが,イチゴを載せてフィルム被 では 1G 以上の振動衝撃頻度の 80%近くが宅配便移動期 覆したトレイと上乗せ蓋(ダンボール製)との間に空間 間中に集中していた.振動衝撃は 15G レベルで通常の荷 が生じる.トレイ自体はダンボールに固定されていない 物移動で起こるレベルの振動と言えるが,頻度が多いた ためトレイに大きな振動・衝撃が与えられた場合には, めに前述のトレイ内イチゴの動揺に影響しているものと 上部空間は空いているのでその間で大きな動揺が起きる 推察される. 可能性がある.そうした動揺はどの程度の振動衝撃で起 今回のような小ロット輸送では,宅配便のシステムを 50 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 使用することが多い.宅配便のシステムはその効率化の 定されるが,DER-1000 による測定では 1G 以上の衝撃の ために,選果場に近い集配店から一旦規模の大きな地域 回数は 0 回であった.小型データロガーのデータでも最 の基幹店に集約される.その後,貨物の種類(低温,常 大 1.6G 程度であり,積替えがない場合は航空輸送中の 温等),大きさ・重量や配送先にしたがって仕分けされ, (飛行中の)振動衝撃は問題ないという結果であった. 当日夜間の間に配送先の基幹店に移動する.基幹店では しかし,飛行中の振動衝撃に比較すると離着陸時の衝撃 さらに配送先によって仕分けされ,配送担当の地域店に は比較的大きく,今回はそれが比較的小さかったことと 移される. 関係があると考える. このように配送の効率化のために多くの工程を経る. <全行程の振動衝撃>傾向として水平方向よりも垂直方 そのため低レベルの振動衝撃の機会が増えるものと推察 向の振動が大きく,日本の国内輸送中の振動衝撃が頻度, される.特に振動衝撃と果実硬度は低温で維持されるた 大きさで航空輸送中,タイ国内輸送中を上回った.XYZ め,出荷段階でも果実硬度を意識して着色度 7 割程度で 各方向の振動データを Fig.9 に示した.国内輸送で全行 出荷されるが,イチゴの品質としては着色度が高いほう 程最大 G を記録しており,Z 軸(垂直方向)で最大 13.36G, が良い.果実硬度は逆に低下するため,高品質のイチゴ X 軸(水平方向)4.35G,Y 軸(水平方向)最大 4.18G で を輸送するためには振動の低減が欠かせないことになる. あった.これらは前述のように小ロット配送の積替え頻 また,コールドチェーンの観点からは検品までのリー 度の多さなどに付随する課題であり,検討の必要がある ドタイムが 5 日間と長く,出荷が収穫当日でなければさ が産地からフォワーダへの直接配送など行程の単純化が らに長くなる.これは振動衝撃の回数が多くなるという 重要と考えられた. ことにもなり,イチゴの品質保持の点で問題と考える. 謝 リードタイムの短縮は振動衝撃の総量を減ずることにも つながるため必須である. 辞 本研究の実施に当たって,多大なるご支援を頂いたブ <航空輸送>福岡市からタイ王国バンコク市への飛行ル ランドおおいた輸出促進協議会事務局,JA 全農おおいた ートはいくつかあるが,直行便は現在タイ国際航空一便 園芸部園芸販売課,福水商事株式会社貿易課,タイの である.今回はこの便を利用したことと関係があると推 Daisho Thailand Co.,Ltd に心より御礼申し上げる. Table 2 輸送中の振動衝撃及び温湿度平均 Start Time: 29/11/12 11:06:01 Sampling rate: 5sec Samplings: 87406 Unit: G Mode: Normal Vector Max&Min Date MAX: 4.35 @ 30/11/12 05:34:21 X MIN: -4.94 @ 30/11/12 09:10:26 MAX: 4.18 @ 30/11/12 08:51:41 Y MIN: -5.71 @ 30/11/12 03:48:36 MAX: 13.36 @ 30/11/12 03:48:36 Z MIN: -1.45 @ 03/12/12 21:36:21 MAX: 15.15 @ 30/11/12 03:48:36 Vector Sum MIN: 0.97 @ 03/12/12 16:52:21 Average G Threshold -0.09 NONE 0.03 NONE 1.14 NONE 1.15 振動データ No. 時間 輸送環境 衝撃データ 上下 前後 左右 1 2012/11/29 12:00~18:00 ヤマト便(杵築→大分市基幹支店) 0.12 0.03 0.04 2 2012/11/30 0:00~10:00 クール便(大分市基幹支店→福岡基幹支店) 0.09 0.03 0.03 3 2012/11/30 10:00~13:00 クール便(福岡基幹支店→空港) 0.15 0.08 0.11 4 2012/12/3 11:40~17:30 航空輸送(タイ航空、福岡→スワンナプーム) 0.02 0.02 0.02 5 2012/12/3 21:30~22:20 タイ国内配送(空港→伊勢丹) 0.07 0.05 0.05 注)GSVM 上段のみ DT178-A 51 最大加速度 (G)SUM 10.7 16.7 15.2 27.3 5 8 1.6 0.5 9.8 6.9 温湿度データ 発生回数 (1G以上) AVG℃ AVGRH% 50 13.5 47.7 142 5.8 52.6 9 6.4 63.8 0 11.5 71.2 6 13.5 70.8 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター X 軸水平方向 国内輸送 航空輸送 タイ Y 軸水平方向 国内輸送 航空輸送 タイ Z 軸垂直方向 国内輸送 Fig.9 航空輸送 輸送中の振動データ 52 タイ 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 生鮮食品の輸送に関する研究 -イチゴのタイ向け小ロット輸送の輸送環境(第2報)- 朝来壮一*・川口和晃** *食品産業担当・**神栄テクノロジー株式会社 Study on the Fresh Food Transportation -Transportation Environment of the Strawberry for Thailand (2nd Rpt) *Shoichi ASAKI・**Kazuaki KAWAGUCHI *Food Industry Group・**SHINYEI TECHNOLOGY Co.,Ltd 要 旨 大分県産業科学技術センターと神栄テクノロジー株式会社は,イチゴの高品質輸出に不可欠な輸送環境条件 を明らかにするため,平成 24 年 12 月に小ロットでタイに輸出されるイチゴ「さがほのか」について温度,湿 度,気圧等について調査した.2L サイズ 7 分着色果を 11 果/パックとし,国内仕様に準じたスポンジ緩衝材 +樹脂トレイ包装とした.4 パック詰め段ボールの 5 段重ねで 2 梱包を輸送し,その陸上輸送及び航空輸送中 の梱包内温度,湿度,気圧を調査した.平成 24 年 11 月 29 日,大分県杵築市の選果場から出荷し,12 月 3 日 に福岡国際空港からタイスワンナプーム国際空港を経てバンコク市内の量販店に配送した. 着荷時の検査ではカビの発生が認められ,オセ,スレ損傷も認められた.温度及び湿度は積み替え回数と低 温保管庫への入出庫で大きく変動し,輸送期間中の最高温度は 22.8℃,最低温度は 2.6℃であった.湿度は最 低 45%,最高 96.2%であり,検品時に結露も確認できた. 1. はじめに しかし,海外輸送,特に航空輸送では輸出プロセスの中 近年九州では東アジアへの表玄関として輸出を促進す で国内流通とは異なる様々な行程が含まれるため,イチ る動きが強化されつつある.その中で農産品など様々な ゴが思わぬ傷害を受けることもある.イチゴを現地の限 食品が輸出品目の候補として上がってきているが,九州 られた期間内にタイムリーに販売するためには,これか 北部ではイチゴの輸出が注目されている.TPP の議論の らも航空輸送による小ロット輸出は欠かせないため,そ 中でも農産物の輸出は国レベルでも重要な課題となって のコールドチェーン上の課題を抽出しておくことは極め きているが,それを支える農産物の輸出での流通技術に て重要である.そこで本年度タイ向けのイチゴの小ロッ ついては,コールドチェーンを含めて未完成の部分が多 ト輸出に合わせ,輸送環境のうちコールドチェーンの根 い. 幹となる温度,湿度,気圧等について調査すると共に, 国内市場同様に農産物の鮮度を保ちつつ流通させるこ 着荷品質についても考察した. とは,その商品価値を決定づける大きな要素である.特 2. 調査方法 に鮮度維持のためには最適な包装と温湿度の環境を確保 することが必要不可欠である. 2.1 輸送調査のフロー 本県でもタイ向けの農産品輸出が試みられているが, 輸送試験は,宅配便を利用して福岡経由の航空便(タ 青果物の中でも特に温湿度の影響を受けやすいイチゴの イ直行便) で輸出されるイチゴの包装に同梱して行った. 輸送適正化が急務となっている.これまでに行った単発 調査は開始時点で気象測定用データロガーをセットして 的な輸出ではオセ,スレなどの障害や冷凍焼けなどの障 バンコクの量販店で回収し検品するという方法をとった. 害が起こっているが, その要因は推定の域をでていない. 選果場(ロガーセット) → 宅配便(ヤマト運輸委託) また,小ロット輸出は海外量販店での短期集中販売では → 日本通通運(フォワーダ委託) → タイ航空(直行便) 欠かせない.本県産のイチゴは,その生産の 90%が「さ → スワンナプーム空港(現地運送会社) がほのか」となっており,北部九州から輸出される「あ → バンコク市量販店(伊勢丹:バックヤード搬入) まおう」の補完的な位置づけで輸出が期待されている. → 検品 53 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 3. 調査結果及び考察 という流れで測定機器を梱包した貨物を輸送し,梱包内 の輸送環境を測定した. 11 月 29 日から 5 日目の 12 月 4 日に着荷検品を行った. 2.1.1 調査方法 タイの量販店ではバックヤードでバルク搬入されたもの ○平成 24 年 11 月 29 日~12 月 3 日 をリパックすることが多いため当日分の青果などはバッ ○出荷及び調製地: 大分県杵築市,JA おおいた杵築選 クヤードの低温保管庫に保管される.今回のイチゴも前 果場 日の深夜にバックヤードに運び込まれたもので,着荷ま ○出荷先: タイ王国バンコク市 では 4 日だが販売日までのリードタイムは 5 日となる. ○運送企業: ヤマト運輸(株)及び日本通運(株)福岡航空 通関前フォワーダでの 2 日間の保管があったため,最短 支店 で 3 日程度に短縮することは可能である. ○現地協力企業: Daisho Thailand Co.,Ltd ,伊勢丹 <カビ,オセ損傷>着荷したイチゴはよく冷却されてお バンコク り品温は 8℃であった.結露も観察されたが,バンコク 小ロット配送のため選果場でイチゴ包装に調査機器を の当日の平均気温は 28℃であったので比較的品温管理 同梱後,宅配便(ヤマト運輸)で地域配送店(杵築市) は適正と思われた. から発送した.着荷調査はタイのバンコク市内量販店内 イチゴの損傷の主なものはカビの発生とオセであった. で梱包を開封後,外観目視調査を行うとともに気象デー カビの好適環境一般に 25℃以上, 湿度 80%以上ほどだが, タ等の回収を行った. イチゴの病害では 20℃95%以上が好適環境というもの 2.1.2 供試材料 もあるためリードタイムを短くし低温で流通させるとい ○品種: 大分県産「さがほのか」 うことが基本と考えられる. 当日収穫後包装したものから選抜して下記の規格で調製 したものを用いた.2L 規格で 4:3:4 配列の 11 個/パッ ク 5 段段ボール積1行李を 1 単位とし他を対照として 調査機器を設置した.すなわち下 2 段の段ボールをダミ ーとしてバランス,輸送環境記録計を内部の 4 隅に配置 し粘着テープで固定した. Fig.1 カビの発生 ○使用機器: 輸送環境記録計 DER1000(神栄テクノロ Fig.2 包装内結露 ジー社製)1 台,DT-174B(温度/湿度/気圧:MK サイエン ティフィク)2 台 ○機器の測定条件設定 ・DER1000: 加速度レンジ:温湿度インターバル:30min ・DT-174B: 温度,湿度,気圧測定用 サンプリングレ ート 1min Fig.3 オセ損傷 Table 1 輸送行程(実績) 54 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター カビの発生は他に数パック認められたが,損傷としては でも果実硬度を意識して着色度 7 割程度で出荷される場 オセ・スレ損傷が最も顕著で,一定の箇所に発生したも 合が多い.今回も 7 割着色程度で出荷されたものだが, のではなく果実の表面に一様に認められた.こうした傷 リードタイムが長く,Table 1 のように通関検疫のタイ 害は,着荷検査までの期間が 5 日間あったこともあり, ミングによっては運送会社の保管倉庫でのロスタイムが 収穫から出荷調整の段階で潜在的に受けた傷害がリード 生じる場合がある.こうした期間は 8℃程度の低温で保 タイムの長さ,あるいはその間の温湿度,衝撃によって 持されるが,その前後の温度差で結露が生じることが多 加速されたという要因も排除できないが,選果場段階で い.また今回の輸送期間中の最高温度は 22.8℃で最低温 の傷害,輸送振動,リードタイムの短縮等を総合的に解 度は 2.6℃であった.この温度差で湿度が高ければ確実 決する必要があると考えられた. に結露していることが予想される.実際バックヤードか <温湿度>輸送中の品質変化に影響を与える要素として ら出して開封したイチゴのフィルムも直ちに結露した. は振動衝撃と同程度で温湿度の影響が大きいと言われて 結露は直接カビの発生に結びつくことになる.したがっ いる.特に果実硬度は低温で維持されるため,出荷段階 て低温倉庫での長期滞留だけでなく,全体としてのリー Fig.4 輸送中の包装内温度 Fig.5 輸送中の包装内相対湿度 Table 2 輸送中の温湿度(総合) 55 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター ドタイムの長さはイチゴの損傷拡大に影響すると考えら 重要な要素と考えられた. れる. <気圧の影響>国内での移動は大分県から福岡県に至る 今回の輸送は小ロットであるため,国内の宅配便を利 大分高速道路の別府・玖珠 IC 間で九州最高地点 734m を 用している.今回の宅配便の場合 Table 1 に示すように 急な上りで通過するため気圧低下も急であった.航空機 貨物を預託した地域店から県の基幹店に集積され,更に では,通常機体強度や居住性を考慮して 0.7~0.8atm に そこで仕分けされて高原地帯を通る高速道路経由で福岡 調整されているが,811.6hPa まで低下した.気圧変化の の基幹店に配送されている.さらにそこから空港に近い 影響は確認できなかったが,800hPa では容器包装の耐圧 地域店に配送され,日本通運福岡航空支店に配送されて 性からは無視できない範囲であり,潜在的な傷害への影 おり,積み替え回数が増える原因ともなっている.小ロ 響は否定できない. ット配送ではこうした積み替え回数の問題も大きいと考 <リードタイム>航空機の環境及び輸送条件からリード えられた. タイムを短縮することは可能である.Fig.7 の輸出モデ 湿度は, 国内輸送が 11 月末であったこともあり外気温 ル行程で 1 日目の卸売市場や仲卸のプロセスも調整で短 は 10℃台で推移していたが,イチゴの鮮度保持最適温度 縮可能であるし,小ロットの場合は低温輸送車で直接産 は 0℃近辺であることから冬季であっても低温輸送は欠 地からフォワーダ倉庫に直送することも可能である.ま かせない. 相対湿度は 45%から 96.2%まで推移しており, た,植物検疫に合わせて産地輸送の担い手とフォワーダ タイのバンコク市が高温多湿であることから湿度の上昇 が連携すれば祝休日の倉庫保管を避けられる.プロセス は避けられない.湿度は一定した上昇ではなく,積み替 の簡略化を進めれば,福岡バンコク間のフライト時間は えによると考えられる一時的な上昇が課題である.その 4 時程度であり,国内輸送と差のない流通体型を組むこ 際に結露しやすい環境となり,カビの発生に結びつきや とは可能である.温湿度を含めた流通上の課題はまずリ すいと推察される.このため積み替え回数の低減は振動 ードタイムの短縮で低減あるいは解消することができる 衝撃やリードタイムの短縮とともに高品質輸送にとって 場合が多いと考える. Fig.6 輸送中の包装内気圧 Fig.7 輸出のモデル行程 56 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 成熟カボスの加工利用に関する研究(第1報) 廣瀬正純 食品産業担当 Characteristics of Ripe Kabosu Fruits and Processing Suitability to Juice Masazumi HIROSE Food Industry Group 要 旨 カボス成熟果実の果実特性を調査するとともに,果汁への加工適性を検討した. 成熟果実は未熟果実に比べて 2 倍近く大きくなるが,部位別割合は変化が少なく,搾汁率に影響すると思わ れる砂のうの割合も大きな差がなかった. 未熟果実に比べて可食部の酸は少ないが,ビタミン C は還元型,総ビタミン C とも多かった.果皮精油量は 未熟果実より少なく香りが弱いと思われた. 熟度以外の要因を極力排除した小規模搾汁調査では,搾汁率は未熟果実と比べて飛躍的に高くなった. 果汁の外観は未熟果実の果汁と比べて黄色味が強くなり,酸度,Brix は少し低く,ビタミン C は多かった. また,香りの強さの指標である精油量は少なかった. 搾汁工場において時期別に果汁をサンプリングした調査では,搾汁率は未熟果実と比べて高くなるが,酸度, Brix,ビタミン C,色調はバラツキが大きく傾向が見られなかった. 1. はじめに 砂のう搾汁液の可溶性固形物(以下 Brix)は屈折糖度 従来カボスは,外観,香りのフレッシュさから緑色の 計,酸度は 0.1N 水酸化ナトリウム溶液で滴定しクエン酸 未熟果が利用されており,県内カボス加工関係企業にお 換算した. いても加工技術は未熟果を前提に開発されてきた. ビタミン C はヒドラジン比色法で全ビタミン C と酸化 しかし近年,消費者ニーズの多様化から黄色に成熟し 型ビタミン C を測定し,その差を還元型ビタミン C とし たカボス果実の需要が増加し加工原料にも成熟カボスが た. 増加したこと,さらに加工品を製造している企業におい 2.2 成熟果実の果汁加工適性 ても類似商品に対する差別化を目的に成熟カボスの加工 2.2.1 利用に関心が高まっている. 上記で採取した果実を重量測定後横に半割し,そのま 実験室レベルでの果汁加工適性評価 そこで,成熟果実の加工適性を未熟果実との比較で明 まハンドプレッサーで全果搾汁した.得られた果汁はろ らかにするとともに,成熟果実に対応した加工技術を開 過後重量を測定することにより搾汁率を算出し,分析時 発する. まで-30℃で凍結保存した. 今年度は,成熟カボスの果実特性と果汁加工適性を未 果汁の Brix は屈折糖度計で,pH は pH メーターで測定 熟果実との比較により解明した. し,酸度は 0.1N 水酸化ナトリウム溶液で滴定しクエン酸 換算した. 2. 2.1 実験方法 ビタミン C はヒドラジン比色法で全ビタミン C と酸化 成熟果実の特性評価 型ビタミン C を測定し,その差を還元型ビタミン C とし カボス「大分 1 号」を 2 樹選定し,未熟果実を 9 月 10 た. 日に,成熟初期果実を 10 月 16 日に,完熟果実を 11 月 果汁中の精油量は,果汁 5ml をイソプロパノールと蒸 14 日に各 20 果採取した. 留後,留液を臭化カリウム・臭素酸カリウム標準溶液で 果実は採取後ただちに持ち帰り,重量を測定後,果皮, 滴定し d-リモネンとして換算した. じょうのう,種子,砂のうに分別し重量を測定した. 果汁の色調は,果汁 10ml をセルに入れ,測色色差計で 砂のうはハンドプレッサーで搾汁し,得られた搾汁液 L,a,b を測定し,果汁の濁度は,果汁を 5 倍希釈後, は分析時まで-30℃で凍結保存した. 分光光度計で 680nm における透過率を測定することによ 57 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター り求めた.ペーストをパン,麺類,饅頭,餅菓子に添加 Table Table 2 カボス果実の熟度と可食部の成分変化 2 カボス果実の熟度と可食部の成分変化 し,効果的な添加量を検討した. 果実熟度 未熟果実 成熟初期果実 完熟果実 搾汁工場レベルでの果汁加工適性評価 Brix 8.5 8.3 8.1 豊後大野市の柑橘搾汁施設において,ベルト式搾汁機 滴定酸度(g/100ml) 5.0 4.4 4.0 33.6 36.4 37.8 2.2.2 で製造した未熟果実の果汁を 9 月 26 日と 10 月 4 日に, 還元型mg% 成熟初期果実の果汁を 10 月 15 日に,完熟果実の果汁を ビタミンC 酸化型mg% 11 月 12 日と 11 月 20 日にサンプリングした. 総量mg% 3.7 2.9 3.3 37.3 39.3 41.1 サンプリングした果汁は直ちに持ち帰り,分析時まで -30℃で凍結保存した. 3.2 果汁の Brix は屈折糖度計で,pH は pH メーターで測定 成熟果実の果汁加工適性 3.2.1 し,酸度は 0.1N 水酸化ナトリウム溶液で滴定しクエン酸 実験室レベルでの果汁加工適性評価 ハンドプレッサーで搾汁した場合の搾汁率は,未熟果 換算した. 実に比較して成熟初期果実,完熟果実がかなり高くなっ ビタミン C はヒドラジン比色法で全ビタミン C と酸化 た.成熟初期果実と完熟果実の差はほとんどなかった 型ビタミン C を測定し,その差を還元型ビタミン C とし (Table 3). た. 熟度の進行に伴い果実重だけでなく搾汁率も増加する 果汁中の精油量は,果汁 5ml をイソプロパノールと蒸 ため,1 果実から得られる果汁は,完熟果実が未熟果実 留後,留液を臭化カリウム・臭素酸カリウム標準溶液で の 2 倍以上になった(Table 3). 滴定し d-リモネンとして換算した. 実験室レベルで搾汁した果汁の Brix は完熟果実が未 果汁の色調は,果汁 10ml をセルに入れ,測色色差計で 熟果実に比べてやや低くかった.酸度は熟度が進むにつ L,a,b を測定し,果汁の濁度は,果汁を 5 倍希釈後, れて減少したが,pH はほとんど差がなかった(Table 3). 分光光度計で 680nm における透過率を測定することによ り求めた. Table Table 3 カボス果実の熟度と搾汁率および果汁成分 3 カボス果実の熟度と搾汁率および果汁成分 3. 3.1 実験結果及び考察 成熟果実の特性評価 果実重は熟度が進むほど重くなり,完熟果実は未熟果 実の 1.8 倍になった.部位別の重量比は完熟果実は未熟 果実と比較して果皮割合が少なく砂のう割合が増加した が,その差はわずかであった(Table 1). 果実熟度 未熟果実 成熟初期果実 完熟果実 搾汁率 % 29.9 38.6 38.1 1果当たり果汁量 g 31.3 60.7 71.8 Brix 8.2 8.2 8 滴定酸度(g/100ml) 5.2 5 4.41 pH 2.51 2.5 2.54 精油量 μl/100ml 36.9 21.2 17.0 26.7 31.9 34.1 還元型mg% Table Table 1 カボス果実の熟度と果実重量,形態の変化 1 カボス果実の熟度と果実重量、形態の変化 部 位 別 重 量 比 (%) 果実熟度 未熟果実 成熟初期果実 完熟果実 果実重 g ビタミンC 酸化型mg% 総量mg% 1.5 1.3 1.2 28.2 33.2 35.3 104.8 157.2 188.4 果皮 41 37 38 じゅうのう 13 14 12 種子 5 6 5 果汁中の還元型ビタミン C は果実熟度が進むにつれて 砂のう 41 43 45 増加したが,酸化型ビタミン C は少なく一定の傾向が見 香りの強さの指標である果汁中果皮精油量は,果 実 の 熟 度 が 進む に つ れ て少な く な っ た ( Table 3) . られなかった.還元型と酸化型を合わせた総ビタミン C 可食部の酸度は熟度が進むにつれて減少し,完熟果実 は果実熟度が進むにつれて増加した(Table 3). は未熟果実に比較して 1%酸度が低かった.また,酸度の 果汁の色調は,熟度が進むにつれて L 値が減少すると 低下に伴い可食部の Brix も徐々に減少した(Table 2). ともに a 値が増加し,目視では熟度が進むにつれて黄色 可食部の還元型ビタミン C は果実熟度が進むにつれて 味が強くなった(Table 4). 増加したが,酸化型ビタミン C は少なく一定の傾向が見 果汁の濁度は熟度が進むにつれて小さくなり,未熟果 られなかった.還元型と酸化型を合わせた総ビタミン C 実が完熟果実に比べて濁りの程度が強かった(Table 4). は果実熟度が進むにつれて増加した(Table 2). 58 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Table 4 カボス果実の熟度と果汁の色調および濁度 果実熟度 色調 未熟果実 成熟初期果実 完熟果実 目視 白色に近い 黄色味帯びた白色 薄い黄色 L 48.2 41.5 39.8 a -5.27 -5.06 -4.92 b 8.96 8.42 11.77 7.2 15.4 19.3 濁度 T%680nm 3.2.2 果汁中の果皮精油量は完熟果実が未熟果実より高い傾 向が見られたが,ばらつきも大きかった. 果汁中の還元型ビタミン C は完熟果実果汁が多かった が,酸化型ビタミン C は一定の傾向が見られなかった. 還元型と酸化型を合わせた総ビタミン C は完熟果実果汁 が未熟果実果汁よりも多かった(Table 5). 果汁の色調は,熟度が進むにつれて白色に近い色調か ら徐々に黄色味が強くなったが,濁度は熟度と一定の傾 向が見られなかった(Table 6). 搾汁工場レベルでの果汁加工適性評価 以上の結果,成熟カボス果実は果汁に加工した場合, 搾汁工場においてベルト式搾汁機を使用した場合の搾 未熟果実と比較して搾汁率が高く,外観はやや黄色味が 汁率は,果実熟度の進行に伴って増加し,完熟果実は未 強く,成分面では酸度がやや低いという特徴があるが, 熟果実に比べて 10%程度高くなった(Table 5).果汁の 従来の未熟果実の果汁と比較しても十分な果汁加工適性 Brix,酸度はばらつきが大きく,果実熟度による傾向が があるものと考えられた. 見られなかった(Table 5). Table Table 5 カボス果実の熟度と搾汁工場における搾汁率および果汁品質 5 カボス果実の熟度と搾汁工場における搾汁率および果汁品質 果実熟度 未熟果実 完熟果実 成熟初期果実 搾汁日 9月26日 10月4日 10月15日 11月12日 11月20日 搾汁率 % 25 27 29 31 35 Brix 8.2 8.7 8.4 8.3 8.4 滴定酸度(g/100ml) 5.7 5.6 6 5.5 5.5 pH 2.4 2.4 2.5 2.4 2.4 還元型mg% 30.45 34.32 35.54 39.20 38.31 ビタミンC 酸化型mg% 5.14 5.30 6.3 4.45 3.97 35.59 39.63 41.84 43.65 42.28 40.9 41.6 81 36.6 99.4 総量mg% 精油量 μl/100ml Table 6 Table カボス果実の熟度と搾汁工場で製造した果汁の色調・濁度 6 カボス果実の熟度と搾汁工場で製造した果汁の色調・濁度 果実熟度 未熟果実 搾汁日 色調 濁度 T%680nm 完熟果実 成熟初期果実 9月26日 10月4日 目視 白色に近い 白色に近い L 52.6 52.6 58.3 52.6 59.5 a -5.17 -5.18 -4.81 -5.12 -4 b 14.2 15.6 18.9 18.3 23.4 3.91 3.33 0.92 3.45 0.84 59 10月15日 11月12日 やや黄色味 黄色味帯びた白色 帯びた白色 11月20日 薄い黄色 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 貯蔵麦焼酎の安定性に関する研究 江藤 勧・佐野一成・後藤優治・樋田宣英 食品産業担当 Research of Stability of Barley Shochu Susumu ETO, Kazunari SANO, Yuji GOTO, Nobuhide HIDA Food Industry Group 要 旨 樽貯蔵により着色した焼酎の着色度の安定性を明らかにする目的で,着色した焼酎が透明なガラス瓶中でどのように変化する かを検討した.紫外線を遮断した状態では,着色度は徐々に増加しており,紫外線下では逆に経時的に着色度が減少しているこ とが確認された.また,鉄の存在により着色自体が高くなることが明らかとなり,製造出荷の際の着色度の調整や割水のミネラ ル分の管理,さらには出荷後の流通状態の把握などが重要であると考えられた. 1. はじめに 希塩酸に溶解,ろ過して 10ml にメスアップしたものを測 昨今の焼酎ブームと相前後して焼酎の高品質化ととも 定サンプルとした.ICPS-8000 型高周波プラズマ発光分 に酒質が多様化していく傾向が見られている. 析装置((株)島津製作所製)を用いてサンプル中のミネ このような状況の中,県内の中小の酒類メーカーは新 ラルを測定した(平成 23 年度実施). 製品開発を模索しているところであるが,高付加価値商 品に位置づけられる貯蔵焼酎の着色度が出荷後に変化す 2.3 着色度の測定 るなどの問題を抱えている.貯蔵焼酎の酒質がどのよう 着色度は V-570DS 型分光光度計(日本分光(株)製)を 使用し,430nm と 480nm の吸光度を測定した. に変わるかは詳細な情報がないため,当センターへの技 術相談も増加傾向にあるところである. 本県において,麦焼酎をはじめとする酒類は重要な生 産品目であるため,品質の向上・安定化につながる評価 手法の確立は重要であり,業界からの要望も高くなって いる.本研究では,貯蔵した麦焼酎の着色度に影響を与 える要素を明確にすることで品質の安定化手法の確立を 目指して試験研究を実施したので報告する. 2. 2.1 内容 測定サンプル 樫樽に貯蔵して着色した麦焼酎の原酒に着色していな い麦焼酎を添加して,アルコール分が 25 度で着色度の規 制値である 430nm で 0.08 をやや上回るサンプルを調製し た.清酒の着色において関与が知られているミネラルで ある鉄(Fe)とマンガン(Mn) 1)を添加して 2 本のサン プル瓶に詰めて,1 本のみ UV カットフィルム((株)キ ング製作所製)で覆った上,窓際に設置し(Fig.1),着 色度を昨年度に引き続き継続的に測定した. 2.2 焼酎のミネラルの測定 20ml の麦焼酎を白金皿に取りホットプレート上で乾 Fig.1 固させた後,マッフル炉で 550℃,2 時間灰化したものを 60 窓際に設置した貯蔵酒サンプル 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 3. 3.1 結果と考察 これに対して UV カットフィルムのないサンプル瓶で 樽貯蔵した麦焼酎の着色度の変動の測定 は着色度の減少傾向が認められ,紫外線によって着色物 430nm で 0.08 をわずかに上回るように着色度を調整し 質が分解されていることが推測された(Fig.4, Fig.5). た麦焼酎とミネラル添加後の麦焼酎のミネラルの実測値 0.12 は平成 23 年度に測定した下表のとおりである(Table 1). 0.11 Mg 0.842 添加前焼酎 麦焼酎のミネラル測定値(ppm) P 0.035 Ca 1.387 添加後焼酎 Mn 0.015 ↓ 0.086 Fe 0.261 ↓ 0.428 Cu 0.014 0.10 Zn 0.017 0.09 吸光度 Table 1 C Fe Mn Fe+Mn 0.08 0.07 UV カットフィルムで覆ったサンプル瓶中の焼酎の着 0.06 色度は 430nm と 480nm のいずれの吸光度も経時的に増加 0.05 する傾向が認められた(Fig.2, Fig.3). 0.04 0 100 200 0.11 Fig.4 300 400 経過日数 500 600 樽貯蔵後の麦焼酎のビン内での着色度の変化 (430nm) 0.10 0.06 吸光度 C Fe Mn Fe+Mn 0.05 吸光度 0.09 0.08 0 100 200 300 400 経過日数 500 C Fe Mn Fe+Mn 0.04 600 0.03 Fig.2 樽貯蔵後の麦焼酎の UV カットしたビン内での着 色度の変化(430nm) 0.02 0 0.06 Fig.5 0.05 吸光度 C Fe Mn Fe+Mn 0.04 100 200 300 400 経過日数 500 600 樽貯蔵後の麦焼酎のビン内での着色度の変化 (480nm) ミネラルに関しては Fe 添加により着色度の増加が認 められたが,現時点では増加速度に影響しているかは不 明である.Mn の影響はわずかであると考えられる. 清酒の着色において Fe はフェリクロームとキレート してフェリクリシンとなり着色の原因となることや Mn 0.03 0 100 200 300 400 経過日数 500 600 が日光による着色を触媒することが知られている 1) .樽 貯蔵した麦焼酎の着色物質はリグニンやタンニンである と考えられ,いずれも Fe や Mn と結合する性質を持つこ Fig.3 樽貯蔵後の麦焼酎の UV カットしたビン内での着 とから Fe 添加による着色度の増加は微細な着色物質が 色度の変化(480nm) Fe を介して結合することによると考えられた. 61 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 今回の検討で,樽貯蔵により着色した麦焼酎の着色度 がビンの中で増加していることが確認された.このこと から規制値間際の製品を出荷すると流通段階で規制値を 上回ってしまう可能性が高く,商品設計の段階で注意が 必要である.また,鉄の添加により着色度が上昇するこ とも明らかとなったことから,製品化する前の焼酎のミ ネラル濃度の把握や割水の管理が重要である.さらに紫 外線にさらされた状態では着色度が減少することも明ら かとなり,樽貯蔵焼酎としての付加価値が退色によって 損なわれないよう,自社商品の流通段階での扱われ方も 各メーカーは把握しておく必要があると思われる. 4. 今後の方向性 貯蔵における安定性の検討には年単位のデータの蓄積 が必要なため,来年度以降も貯蔵試験と着色度の測定を 継続する予定である. 参考文献 1) 発 酵 と 醸 造 Ⅱ ― 酒 類 の 生 産 ラ イ ン と 分 析 の 手 引 き ー (2003) 62 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 麦焼酎用酵母の評価および改良に関する研究 後藤優治・佐野一成・江藤 勧・樋田宣英 食品産業担当 Research of Evaluation and Improvement of Barley Shochu Yeast Yuji GOTO, Kazunari SANO, Susumu ETO, Nobuhide HIDA Food Industry Group 要 旨 大分酵母を製造現場で利用するための醸造条件について検討した.大分酵母は鹿児島酵母と共存した状態で あれば,差酛によりその存在は減少するが,大分酵母のみのもろみにおいては鹿児島酵母と同等の生存数であ った.また,大分酵母の利用において製造条件の検討により酒質を変化させる可能性が示された. 1. はじめに 約 20 日)10ml と,麦麹 100g に水 140ml を添加し,25℃ 麦焼酎をはじめとする酒類は当県の主要な産品である で 1 次もろみとした.差酛を 2 回繰り返し,それぞれの が,清酒・焼酎ともに消費の下落傾向が止まらず,酒類 酒質の評価を行った. 業界を取り巻く環境は厳しくなっている.県内の麦焼酎 製造業界としても“大分麦焼酎”の地域ブランド認定や 2.2 高付加価値の共通ブランド商品の開発など,消費拡大に 焼酎の試醸 酵母及びもろみ組成の異なる仕込を行った(Table 1). 取り組んでいるところである. 1次仕込みを 7 日,2 次仕込みを約 20 日とした. このような動きの中で,酒類の製造に欠かせない酵母 や麦焼酎用原料の大麦等について,製品を特色付ける手 Table 1 段の一つとして大分県独自品種の創出に期待が寄せられ ている. 本研究では,有望株として選抜された“大分酵母”を 製造現場で利用するための醸造条件について検討したの で報告する. 2. 2.1 焼酎の試醸条件 A120 A200 Ko120 Ko200 麹 3.7 kg 3.7 kg 3.7 kg 3.7 kg 水 3.4 kg 5.9 kg 3.4 kg 5.9 kg 1次仕込 40 ml 40 ml 40 ml 40 ml 酵母 大分酵母 大分酵母 鹿児島酵母 鹿児島酵母 蒸麦 6.4 kg 6.4 kg 6.4 kg 6.4 kg 2次仕込 水 10.5 kg 8.0 kg 10.5 kg 8.0 kg 1次汲水歩合 120 200 120 200 麹歩合 50 50 50 50 総汲水歩合 150 150 150 150 方 法 小仕込み試験 麦麹 100g に水 140ml と復水した乾燥酵母 10ml を添加 し,25℃で 1 次もろみとした.仕込みに使用した乾燥酵 2.3 母については大分酵母と鹿児島酵母を合わせて用い,そ 色素平板培地 40µg/ml Fuchsine を添加した YPD 平板培地(1%Yeast れぞれの組成比を変化させて仕込みを行った.酵母の組 成比は,(大分酵母:鹿児島酵母)=(100:0), (75:25), (50:50),(25:75),(0:100)の 5 系列とした. 2 次もろみとして蒸煮麦 200g と水 300ml を 1 次もろみ Extract,2%Polypeptone,2%Glucose,2%Agar)を用い て,小仕込み試験における酵母の挙動を確認した. 2.4 とともに 1L 容三角フラスコに入れて,メイセル管硫酸ト 紫外部吸収スペクトル 紫外部吸収は V-570DS 型分光光度計(日本分光㈱製)を ラップを付して 25℃で適宜撹拌しつつ培養した.炭酸ガ 使用し,190nm から 350nm までを 2nm 毎にスキャンし, ス減量により発酵経過をモニタリングした. 小仕込み試験及び試醸した焼酎の測定を行った. 差酛として,十分に発酵した 2 次もろみ(仕込み後, 63 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 2.5 香気成分分析 90 香気成分は,GC2010 型ガスクロマトグラフ(㈱島津製 80 作所製)を使用し DB-WAX カラム(30m,0.25mm,0.25μm) 70 炭酸ガス減量(総量‐g) を用いて分離し,小仕込み試験及び試醸した焼酎の分析 を行った. 3. 3.1 結果および考察 60 50 40 30 20 小仕込み試験 10 各系列ともに良好な発酵経過をとり,炭酸ガス減量に 0 よるモニタリングでは酵母による発酵経過の違いは認め 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 日数(日) られず,差酛による発酵経過の変化も認められなかった A100 (Fig.1,Fig.2). しかしながら,色素平板培地による酵母の挙動を見て Fig.2 みると,大分酵母と鹿児島酵母の混合仕込みでは,差酛 A75 A50 A25 A0 小仕込み試験もろみにおける 炭酸ガス減量(総量) を繰り返すことにより,大分酵母が減少し,鹿児島酵母 が増加することが確認できた.一方で,大分酵母のみの 160 もろみでは差酛を繰り返しても鹿児島酵母と同等の生存 140 酵母生菌数(×10 8 個/ml) 数を維持できることも確認できた(Fig.3). 紫外部吸収スペクトル,香気成分については酵母の比 率の違いに応じたパターンが得られ,差酛を繰り返すこ とによりパターンに変化が認められた.これらの違いに ついては大分酵母と鹿児島酵母で酒質が異なることが明 らかであった(Fig.4,Fig.5,Fig.6,Fig.7). 120 100 80 60 40 20 0 0 10 20 30 40 0.35 A100-A A0-Ko 0.3 0.25 60 70 80 90 Fig.3 A75-A A75-Ko A50-A A50-Ko A25-A A25-Ko 小仕込み試験もろみにおける酵母濃度 0.2 0.15 0.7 0.1 0.6 0.5 0.05 吸光度 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0.2 日数(日) A100 A75 A50 A25 0.3 0.1 A0 2次仕込み (2回目) 320 300 280 260 240 300 280 260 240 300 2次仕込み (1回目) 220/320 炭酸ガス減量(24時間毎) 220/320 小仕込み試験もろみにおける 280 Fig.1 260 0 240 0 0.4 220 炭酸ガス減量(24時間毎‐g) 50 日数(日) 2次仕込み (3回目) 波長(nm) 1-A100 Fig.4 1-A75 1-A50 小仕込み試験焼酎における 紫外部吸収スペクトル 64 1-A25 1-A0 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 0.7 P/ B 1.2 0.6 1 0.5 0.4 0.4 吸光度 0.8 0.6 0.2 0 0.3 0.2 P/ A 0 Fig.5 小仕込み試験焼酎における主要香気成分分析 320 1-A0 300 1-A25 0.1 1-A50 280 1-A75 240 1-A100 260 B/ A 波長(nm) A120 (2次仕込み(1回目)) Fig.8 A200 Ko120 Ko200 試醸焼酎における紫外部吸収スペクトル P/B 1.2 P/B 1 1.6 0.8 0.6 1.4 0.4 1.2 0.2 0 1 0.8 0.6 B/A P/A 0.4 2-A100 2-A75 2-A25 2-A0 2-A50 0.2 0 Fig.6 小仕込み試験焼酎における主要香気成分分析 (2次仕込み(2回目)) B/A P/A P/B 1.2 1 0.8 0.6 A120 0.4 Fig.9 0.2 0 B/A Fig.7 A200 3-A75 3-A25 3-A0 Ko200 試醸焼酎における主要香気成分分析 4. P/A 3-A100 Ko120 まとめ 本試験の結果より,大分酵母は鹿児島酵母と共存した 3-A50 状態であれば,差酛によりその存在は減少することが明 小仕込み試験焼酎における主要香気成分分析 らかとなった.しかしながら,大分酵母のみのもろみに (2次仕込み(3回目)) おいては鹿児島酵母と同等の生存数であった.この結果 は,適切にもろみ管理をすることで安定的に大分酵母を 利用できることを示していた. 3.2 焼酎の試醸 また,紫外部吸収スペクトル,主要香気成分分析の結 各系列ともに良好な発酵経過をとり,仕込み条件の違 果からは大分酵母と鹿児島酵母では明らかに異なる酒質 いによる大きな差異は認められなかった. を示すことが明らかとなった.汲水歩合を変えることに 紫外部吸収スペクトル,香気成分については酵母の違 よって酒質が変化したことから,大分酵母の利用におい いによる特徴が見られ,汲水歩合の違いによっても差が て製造条件を検討することにより酒質を変化させる可能 認められた(Fig.8,Fig.9). 性が示された. 65 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 5. 今後の方向性 今回の試験では,現在多くの酒造メーカーで用いられ ている鹿児島酵母を現状の焼酎製造のモデルケースとし て考え,大分酵母の対照とした.これらの試験結果から, 焼酎の製造において大分酵母は鹿児島酵母と同等の発酵 力を持つが,差酛や長期間のもろみでは生存率が下がる ことが明らかとなった.また,大分酵母と鹿児島酵母で は一般的な仕込み条件では酒質が異なることが明らかと なった. そのため,大分酵母を製造現場で利用するためには, 大分酵母の添加量,差酛の管理が重要であり,製造条件 を変化させることでこれまでと違う酒質の焼酎が製造で きる可能性が示された. 66 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター IEC 標準化に向けた材料評価のための単板磁気測定技術 沓掛暁史 * ・城門由人 * ・池田哲 *・金田嗣教 ** ・榎園正人 *** * 企画連携担当・ **大分県産業創造機構・ ***大分大学 Measurement technology of single sheet tester for material evaluation towards IEC standardization Akifumi KUTSUKAKE * ・Yukihito KIDO * ・Tetsu IKEDA * ・ Tsugunori KANADA **・Masato ENOKIZONO *** * 要 Planning Group・ ** Organization for Industry Creation・ *** Oita university 旨 大分県では,平成 20 年 1 月から平成 24 年 12 月の 5 年間,県内外の産学官が連携し「大分県地域結集型研 究開発プログラム」(独立行政法人 科学技術振興機構)での研究開発事業を実施し,次世代電磁力応用機器 の開発に取り組んだ.電磁力応用機器の構成部材で,機器の効率やサイズへの関与が大きいのが電磁鋼板であ る.我々は当該事業において,特に電磁鋼板の磁気特性の測定技術に関する研究開発を推進した.本稿では, 研究開発事業の期間中に当センターで開発または導入した磁気特性試験器の概要と,磁気特性等の測定結果に ついて報告する. 1. はじめに 2. 電磁鋼板やアモルファス金属薄帯等の電力用軟磁性材 標準測定のための磁気特性試験器 2.1 エプスタイン試験器 料は,電磁力応用機器の性能や効率に大きく関与する. Fig.1 は,IEC 規格(IEC 60404-2(2))に準拠した商用 従って,高効率高出力機器の設計開発では,機器に最適 周波用エプスタイン試験器(メトロン技研 SK3266)によ な磁気特性を有する電磁鋼板を選択するため,また実機 り得られた磁気特性(鉄損)の測定例である.用いた試 特性に近い高精度な磁界解析を行うために,鋼板の真の 料は,幅 30mm×長さ 280mm,枚数は無方向性電磁鋼板 磁気特性や,鋼板に生じた残留応力等の実使用条件を考 35A250 が RD と TD の各 12 枚で計 24 枚,方向性電磁鋼板 慮した応力下の磁気特性が必要である.これら磁気特性 30P120 が計 28 枚である.RD と TD は,それぞれ圧延方向 (1) の測定を,ここでは材料の評価測定(技術)と呼ぶ . に切り出した試料と圧延方向に直角に切り出した試料を 一方,IEC(国際電気標準会議)や JIS(日本工業規 示す.Fig.1 より,両試料ともに JIS の規格値(カタログ 格)で標準化されている試験器には,エプスタイン試験 値)W15/50≦2.50(35A250),W17/50≦1.20(30P120)を満 器や単板磁気試験器がある.ここでは,標準化済みの測 たしていることが分かる. 定方法を標準測定(技術)と呼ぶ.標準測定は,測定の 2.2 IEC 準拠型単板磁気試験器(IEC-SST) 再現性と簡便性では優れるが,商取引の場で鋼種分類に 複数枚の試料を要するエプスタイン試験に対し,1 枚の 用いる値(いわゆるカタログ値)を求めることを基本的 試料で測定が可能な単板磁気特性試験は IEC 規格(IEC な概念とした手法のため,評価測定(真の磁気特性測 3 定)には向かない.また,応力下の磁気特性の測定方法 Iron loss, W[W/kg] は,IEC や JIS では未だ標準化されていない. このような背景のもとで我々は,磁性材料の評価測定 技術の構築と IEC での標準化を目標として,引張および 圧縮応力下の電磁鋼板の正確な磁気特性を測定できる応 力負荷型単板磁気試験器を開発した.これに加え,標準 測定のためのエプスタイン試験器および IEC 規格に適合 する IEC 準拠型単板磁気試験器を整備した.本稿ではこ 2.5 35A250 30P120 2 1.2 0.5 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 Flux density, B[T] れら試験器の特徴を示し,特に応力負荷型単板磁気試験 器で得られる磁気特性の測定結果等について報告する. Fig.1 エプスタイン試験による鉄損曲線(50Hz) 67 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 60404-3(3))にて規定されている.そこで我々も,IEC 規 格に準拠した単板磁気試験器を製作した. Fig.2 に,IEC 準拠型単板磁気試験器(IEC-SST)の外 観を示す.いずれもメトロン技研製である.IEC 規格で 示される試料サイズは幅 500mm×長さ 500mm と大型である が,試料やヨークの取り扱いが容易でないこと等の理由 Coil unit から,幅 100mm×長さ 500mm の試料に適合する試験器,お Yoke unit よびエプスタイン試験用試料を想定した幅 30mm×長さ (a)IEC-SST100(100mm 幅試料用) 280mm の試料に適合する試験器を製作した.以下ではそれ ぞれ,IEC-SST100 および IEC-SST30 と呼ぶ.試料サイズに 関すること以外の仕様は,IEC 規格に準拠させた. Table 1 に,IEC-SST100 と IEC-SST30 の主な仕様を示す. 構造の詳細は,IEC 60404-3 や参考文献(4)(5)を参照してい ただきたい.IEC 規格で示される単板磁気試験器は,磁界 強度の算出に励磁電流法(以下,MC 法と呼ぶ)を用いる. MC 法は実効磁路長の概念を必要とするため,測定精度の Coil unit (6) 向上に限界がある .また,B コイルは励磁コイルと同等 Yoke unit の巻幅であるため,B コイル(すなわち測定領域)の両端 では磁界強度分布が不均一になる.これらの仕様は,標 (b) IEC-SST30(30mm 幅試料用) 準測定としては問題ないが,評価測定のような鋼板の真 Fig.2 IEC 準拠型単板磁気試験器(IEC-SST)外観 の磁気特性を得る目的には向かない (4)(5) .導入した IECTable 1 IEC-SST100 と IEC-SST30 の主な仕様の比較 SST は,次章の試験器との磁気特性の測定値との比較を行 い,評価測定技術の優位性の確認に用いる. 試料長 3. 試料幅 材料評価のための単板磁気試験器 鋼板の評価測定技術を確立するため,IEC-SST の問題を IEC 規格 IEC-SST100 IEC-SST30 500mm 500mm 280mm 500mm 100mm 30mm 励磁コイル巻幅 440mm 以上 444mm 224mm 励磁コイル層数 5 層以上 5層 改善し,さらに応力下の磁気特性の測定を念頭においた ヨーク磁極間 450±1mm 単板磁気試験器を開発した.Fig.3 に,開発した応力負荷 内寸(外寸) (500±5mm) (500mm) (280mm) 型 単 板 磁 気 試 験 器 ( S-SST; Stress load type-Single B コイル線径 測定系に依存 φ1.0mm φ0.5mm Sheet Tester)の外観を示す.S-SST は,測定する試料の B コイル巻長 440mm 以上 444mm 224mm 幅によって 100mm 幅用(以下,S-SST100 と呼ぶ)と 30mm 幅用(以下,S-SST30 と呼ぶ)の 2 種がある.両 S-SST は, 450mm 230mm 空隙補償コイル 相互誘導コイル(SST 外部) 磁界強度測定 励磁電流法 JIS C 2556(7)で示される縦型複ヨーク式を基本構造とし, 試料の長手方向に引張および圧縮応力を印加可能な機構 場領域に,磁束密度測定用 B コイルと空隙補償コイル, を備える. 磁界強度測定用 H コイルを配置した.正確な磁界強度の 測定のため,S-SST では H コイル法を採用する. 3.1 応力負荷型単板磁気試験器(S-SST) 以下に,S-SST100 の構造を示す.S-SST30 と異なる仕様 ヨークには,低鉄損の方向性電磁鋼板 23ZDKH90 を用い は文中,語句の右肩に*印をつけ,Table 2 に比較表を示 た.試料に対するヨークの圧力は,S-SST100 では上側ヨー した.両 S-SST で用いる H コイルの大きさ等の仕様は, クの自重にて一定とした.S-SST30 では,空気圧により任 電力用磁性材料の評価活用技術調査専門委員会(電気学 意の圧力を印加できる機構(9)を有する. Fig.4 は,コイルユニットの構造図である.B コイルに 会)での検討結果(1)を参考にしている. S-SST の励磁コイルには,ポリフェニレンサルファイド は,ポリウレタン銅線(UEW)φ0.1mm を 20 回,測定領域 製コイル枠の長手方向全域の 415mm 長に,ポリアミドイ 長 100mm の間に 1 層均一に巻線を施した.B コイルの空隙 ミド銅線を巻いた.各層の巻線は,直列に接続した.磁 補償は,H コイル枠に H コイルとは別に巻線したコイルを 気特性の測定領域は,均一な磁場が得られる励磁コイル 逆相に接続して構成した. H コイルには,幅 90mm*×長さ 140mm×厚さ 1mm の巻枠 の長手方向中央部分の 100mm の間とした(8).この均一磁 68 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター B-coil frame Yoke unit B-coil Specimen Excitation coil Excitation coil frame H-coil holder Coil unit H-coil 2 (upper) Specimen H-coil 1 (lower) H-coil frame Stress load unit Fig.4 S-SST のコイルユニットの構造 (a)S-SST100 Specimen Table 2 S-SST100 と S-SST30 の主な仕様の比較 Stress load unit S-SST100 S-SST30 試料長:応力印加用 550mm 305mm 無応力用 500mm 280mm 試料幅 100mm 30mm 励磁コイル巻幅 415mm 195mm 励磁コイル層数 巻数 H コイル幅 H コイルエリアターン (上段:H2, 下段:H1) Coil unit Yoke unit 応力印加手法 6層 7層 計 2907 回 計 1435 回 90mm 27mm 0.16086m2 0.04802m2 0.16689m2 0.04859m2 手動(ハンドル) 空気圧(9) (b)S-SST30 Fig.3 応力負荷型単板磁気試験器(S-SST) した.また,ノイズ低減のため,A/D 変換後の取得波形に 対して励磁周波数の第 52 次以上の高調波を除去した. 励磁電圧波形は,磁束密度波形が正弦波となるよう に UEWφ0.04mm を 1666 回,1 層均一に巻線を施し,H コ ディジタルフィードバック制御により生成される. イル枠全体を樹脂で固めた.試料幅 100mm に対し H コイ なおエプスタイン試験器や IEC-SST でも,S-SST とほぼ ルの幅を 90mm にしたのは,試料切断時の残留応力による 同様の機器の構成で測定を行う. 影響を排除するためである.さらに S-SST は,2 つの H コ イルを試料の上下に,各々が試料に近接するよう配置し, 3.3 H コイル法のための位相補正 磁界強度値は 2 つの H コイル出力の平均値とした.これ 試料の真の磁気特性を得るという目的では,実効磁路 を,ave2H 法と呼ぶ.各 H コイルのエリアターン*は,校 長が不要な H コイル法は,MC 法に比べ有利である.しか 正 用 の ソ レ ノ イ ド コ イ ル ( コ イ ル 長 1900mm , 内 径 し H コイル法では,測定システムに用いる計器や H コイ 145mm)を用い,エリアターンの値が既知のコイルとの電 ルの巻線容量等による測定信号間の位相誤差により,正 圧値比較により求めた. 確な鉄損値が得られない.そこで我々は,S-SST 空心時の H コイルと B コイルの誘起電圧から得られる位相差を利用 また,測定時の地磁気の影響を除去するため,試料が し,H コイル電圧の位相を補正することで,正確な鉄損測 地磁気に直交するように S-SST を設置した. IEC-SST(2.2 節)と S-SST の大きな相違点は, 均一磁 定を行う手法を提案した(10).以下,S-SST の H コイル法 場での測定(B コイルの巻長)と H コイル法の採用,試料 による磁気特性の測定結果には,すべて提案の位相補正 への引張と圧縮応力印加機構の有無である. を適用している. 3.2 S-SST による磁気特性測定システム 3.4 S-SST による磁気特性の測定 S-SST の励磁系には,D/A 変換器(横河電機 WE7282)と ここでは,主に S-SST100 によって得られる磁気特性の測 電力増幅器(高砂製作所 AA2000XG2)を用いた.測定系に 定事例を示す.S-SST30 も,S-SST100 と同様の測定を行え は,B コイルおよび H コイルの誘起電圧取得に A/D 変換器 る.測定可能な最大磁束密度は,主に励磁コイル銅線の (横河電機 WE7275)を用いた.S-SST100 では,A/D 変換器 線径に対する励磁電流値によって制限される.磁界強度 の算出は,ave2H 法である. の前段にプリアンプ(NF 回路設計ブロック P-64)を導入 69 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 1 3 Iron loss, W[W/kg] Flux density, B[T] 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 35A250, RD 35A250, TD 30P120 Amorphous 10 100 1,000 10,000 Magnetic field strength, H[A/m] +15MPa 0MPa -5MPa -10MPa -15MPa 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 Flux density, B[T] (a) 磁化特性 2.5 2 1.5 35A250, RD 35A250, TD 30P120 Amorphous Flux density, B[T] Iron loss, W[W/kg] 3 (a) 鉄損特性 1.5 1 0.5 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 Flux density, B[T] +15MPa 0MPa -15MPa -500 0 500 Magnetic field strength, H[A/m] (b) 鉄損特性 (b) BH 曲線(1.5T) Fig.5 磁気特性の測定例(S-SST100, 50Hz, 無応力) Fig.6 応力下磁気特性(S-SST100, 50Hz,35A250, RD) Fig.5 に,S-SST100 を用いて測定した電磁鋼板数種の磁 5 気特性の測定例を示す.試料は無方向性電磁鋼板 35A250 Iron loss, W[W/kg] と方向性電磁鋼板 30P120 および Fe 系アモルファス金属 薄帯で,励磁周波数は 50Hz である.応力は印加していな い.このように S-SST は,方向性電磁鋼板やアモルファ ス金属薄帯等の高透磁率材料,低鉄損材料の磁気特性の 測定が可能である. Fig.5 では励磁周波数が 50Hz の測定例を示したが, 4 3 WEDM Processing method A Processing method B Processing method C 2 1 周波数の増加と共に,鉄損値の増加が確認される.また, 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 Flux density, B[T] 励磁周波数を変えて測定した結果を基に,2 周波法により Fig.7 加工方法の違いによる鉄損の差 60Hz や 100Hz,200Hz での測定も行える.この場合,励磁 ヒステリシス損と渦電流損との分離を行うこともできる. (S-SST30, 50Hz, 50A440, RD) Fig.6 に,試料の長手方向に,引張および圧縮応力を印 加して測定した磁気特性を示す.試料は無方向性電磁鋼 のひとつが鋼板の加工(切断)時である.Fig.7 は,試料 板 35A250,RD である.引張応力印加(+)時の磁気特性 切り出し時の加工方法の違いによる磁気特性の差を示し は,無応力(0MPa)時とほぼ同等か好転している.一方, たもので,ワイヤ放電加工(WEDM)と比較している.現 圧縮応力時(-)の磁気特性は,応力値が大きいほど悪 在,加工条件と磁気特性との関係を調査中であり,磁気 化することが分かる.また圧縮応力印加時(-15MPa)の 特性を劣化させない有用な加工方法の検討を進めている. BH 曲線には,Fig.6(b)のように,中央部に特徴的なくび また,磁性材料が交流励磁されると磁歪が生じ,電磁 れが確認できる. 力機器での騒音等の一因となる.よって,材料の選定に このように,電磁鋼板に生じた応力は磁気特性に大き おいては磁歪量の測定も必要である.Fig.8 は,S-SST100 く作用する.鋼板への応力は様々な工程で生じるが,そ による無応力下での λ-B 曲線の一例で,ゲージ長が 15mm 70 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター Yoke unit Magnetic strain, λ[με] 3.5 1.0T 1.5T 3 Specimen 2.5 2 1.5 Coil unit 1 Stress load unit 0.5 0 -1.5 (a) S-SST100 Ver.2 -1 -0.5 0 0.5 Flux density, B[T] 1 Yoke unit 1.5 Fig.8 λ-B 曲線(S-SST100, 50Hz, 35A440, RD) のひずみゲージを用いて測定した.一方,S-SST の磁気特 Coil unit 性の測定領域は励磁コイル中央 100mm であるため,この Stress load unit 領域の平均磁歪量の測定も必要となる.このために,1 台 (b) S-SST30 Ver.2 のレーザドップラ振動計による任意長の磁歪測定方法を 4. Flux density, B[T] 考案し,特許(11)を出願した. 評価測定技術を応用したその他の磁気試験器 4.1 高磁束密度測定型 S-SST(Ver.2) 3.1 節にて示した 100mm 幅用または 30mm 幅用の応力負 荷型単板磁気試験器(S-SST)よりも,高い磁束密度まで 測定可能な試験器を製作した.Fig.9(a)と(b)に,高磁束 密度測定型の S-SST(Ver.2)の外観写真を示す.高磁束 密度での測定を行うために,電流密度を高める目的で励 磁コイルに平角線を用いた.励磁コイルの線径は,100mm 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 S-SST Ver.2 S-SST 10,000 20,000 30,000 Magnetic field strength, H[A/m] (c) 磁化特性の比較(50Hz, 50A1300, RD) 幅用が AIW 0.65×1.5mm,30mm 幅用が AIW 1.0×1.0mm で Fig.9 高磁束密度まで測定可能な S-SST Ver.2 ある.Fig.9(c)は,S-SST100 と S-SST100 Ver.2 の磁気特性 の比較である.これより,S-SST では 1.90T までしか測定 できていないが,Ver.2 では 2.05T まで測定できているこ 5. とが分かる. まとめ 5 年間の研究開発事業により,当センターに標準測定 4.2 積層コア磁気試験器 電磁鋼板は,電磁力応用機器では 1 枚だけで使われる および評価測定のための磁気特性測定試験器が整備され ことは無く,積層された状態で用いられる.また,積層 た.特に応力負荷型単板磁気試験器は,次世代の高効率 状態の磁気特性は,1 枚での磁気特性と異なることも明ら 電磁力応用機器開発に向けた電力用磁性材料の選定等に かになっている.そこで我々は,評価測定技術を活用し, 寄与する能力を有しており,今後も有効な利活用が期待 電磁鋼板を積層した試料(積層コア)の磁気特性を測定 できる.小型,高効率,高出力などの優位性を持つ,電 可能な試験器の開発を開始した.積層コア磁気試験器で 磁鋼板を用いた機器開発の際は,当センターが保有する 想定する試料サイズは,幅 30mm×長さ 260mm×厚さ 10mm 各種の磁気特性試験器を活用していただきたい. とした.例えば厚さ 0.025mm のアモルファス金属薄帯の 磁性材料の評価測定には,IEC 規格に示される標準測定 場合,積層コア試料は,薄帯を厚さ方向に約 400 枚積み には無い工夫が必要である.また,応力下の磁気特性測 重ねたものとなる. 定や磁歪測定についても多くの機関で研究開発が進めら (12) 済みで れ,早急な標準化が求められている.評価測定技術の IEC ある.現在,試験器はほぼ完成し,測定の準備を進めて や JIS における標準化への一助となるよう,研究開発の いるところである. 深化と関係機関への提案を引き続き行いたい. 積層コア磁気試験器の基本構造は,特許出願 71 平成24年度 研究報告 大分県産業科学技術センター 謝辞 本研究は,独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の 大分県地域結集型研究開発プログラム「次世代電磁力応 用機器開発技術の構築」の支援の基に遂行されました. 関係者各位のご協力に,心より感謝いたします. 参考文献 (1) 榎園, 柳瀬, 島村, 谷:電力用磁性材料の評価・ 活用技術,電気学会マグネティックス研究会資料, pp.33-37, MAG-10-198, 2010 (2) Methods of measurement of the magnetic properties of electrical steel strip and sheet by means of an Epstein frame, IEC 60404-2, 2008 (3) Methods of measurement of the magnetic properties of electrical steel strip and sheet by means of a single sheet tester, IEC 60404-3, 2010 (4) 沓掛, 城門, 池田, 金田, 榎園:材料評価の観点 からみた IEC 測定法の問題点, 電気学会マグネ ティッ クス研究会資 料, pp.15-20, MAG-12-040, 2012 (5) 沓掛, 城門, 池田, 金田, 榎園:材料評価の観点 からみた IEC 測定法の問題点(第 2 報), 電気学 会マグネティックス研究会資料, pp.17-22, MAG12-149, 2012 (6) 沓掛, 城門, 池田, 金田, 榎園:H コイル法と励 磁電流法によるけい素鋼板の評価測定, 第 19 回 電磁現象および電磁力に関する(MAGDA)コンファ レンス講演論文集, pp.577-580, 2010 (7) 電磁鋼板単板磁気特性試験方法,日本工業規格 JIS C 2556,1996 (8) 城門,池田,沓掛,金田,榎園:単板磁気特性試 験法による電磁鋼板の応力下磁気特性,第 22 回電 磁 力 関 連 のダ イ ナミ ク ス 論文 集 , pp.140-143 , 2010 (9) 城門, 沓掛, 池田, 榎園:応力負荷型単板磁気試 験器, 特願 2011-188655 (10) 沓掛, 城門, 池田, 金田, 榎園:H コイル法によ る高精度鉄損測定のための位相補正, 電気学会論 文誌 A, pp.441-447, 2012 (11) 城門, 沓掛, 池田:磁気歪測定法及び磁気歪測定 装置, 特願 2012-39544 (12) 城門, 沓掛, 池田:磁気特性試験器, 特願 2013-18040 72 大分県産業科学技術センター 〒870-1117 大分市高江西 1 丁目 4361-10 TEL 097-596-7100 FAX 097-596-7110 URL : http://www.oita-ri.jp/ E-mail: [email protected] 編集・発行 大分県産業科学技術センター
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