研究報告 鉄筋のガス圧接部の超音波探傷法による 探傷可能領域の確認 前田 Investigation 雅博 ・三宅 of *1 正史 Ultrasonic *1 Testing Area on GasーPressure Welds of Reinforcing Steel Bars Masahiro MAEDA and Masashi MIYAKE Abstract:Non-destructive testing method of defects in gas-pressure welds was researched.And The K scanning method starting from the rib is proposed. As results of the experiments,the relationship between the tensile strength of welds and the maximum echo height,which is obtained by scanning on the ribs,has been found. But using this method,we have the problem,there exists so-called UT area can not scan on the rib. In this paper,problem of non-destructive testing method for the welds has been mentioned. Key words:Ultrasonic Testing(UT);Non-destructive testing method;maximum echo height;K scanning method 1.緒言 2.1 合否判定基準 ガス圧接部供試体に対し縦リブからの二探触子K走査 鉄筋の接合には,ガス圧接法,重ね継手法,機械継手 法を用いた。使用探触子は5Z5X5 A70,接触媒 法などがある。このうちガス圧接法は継手の力学的性状 質はグリセリン水溶液である。探傷感度は,Fig.1 に示 ,簡便性,経済性などに優れているため建築・土木の両 すように縦リブ間の透過パルスの最大レベルを基準とし 分野で用いられており,現在ではもっとも多量に利用さ ている。Fig.2 に最大エコー高さと引張強さの関係を示 れている継手である。とくに利用される理由として以下 す。これはJIS の事項があげられる。 あり,JIS規格を合否判定基準として用いられている。 (1)精度の良い施工では鉄筋の母材強度を保証できる。 このJIS引張強さを満足する値に対するエコー高さの Z 3062から抜粋した資料 1 ) で (2)重ね継手による配筋の過密が無くなる。 (3)安価である。 このガス圧接部の検査は,JIS規格などでは超音波探 傷二探触子K走査法が用いられている。しかし,この方 法の適用にあたっては種々の問題点が考えられる。 本報告は,その問題点を調査し,解決できる新たな非破 壊検査法の検討を行うものとした。 Fig.1.Scanning method from the rib as the referen2.超音波探傷試験の現状 *1 安治川鉄工建設(株)技術研究所 ce echo level 第二研究室(Engineering Research laboratory,2nd.LAB,AG AJIKAWA corp., 4-11- 88 Takeshima Nishiyodogawa-ku OSAKA JAPAN) 厚さおよびその面積率であるが,黒灰色層の厚さが10 μm以下の時,エコー高さが低いにもかかわらず引張強 さはJIS規格値以下となることが報告 2 ) されている。 (2)探傷不可能領域の存在 縦リブからの二探触子K走査の探傷不可能領域は82 %ある。数学モデル計算により探傷可能領域の欠陥面積 率から全断面の欠陥面積の分布を求め,さらに後者と引 張強さの関係を導き出した結果は,可能探傷領域の欠陥 面積率と引張強さの相関の試験結果とよく一致している と説明している 2 ) 。 Fig.3 に欠陥の一般的な発生分布を示す。このように欠 陥の発生にはばらつきがあるため,探傷不可能領域の欠 Fig.2 Result of relation between maximum echo height and tensile strength. 陥面積率を推定するのは非常に困難と考えられる。さら に圧接面の中心から外周部にむかうにしたがって,欠陥 発生率が高くなるガス圧接の機構の特徴から考えても中 上限値は,Fig.1 で求めた基準レベルのー24dB下げ 心部付近しか探傷出来ない超音波検査法の適用には実用 たところをしきい値として検査を行っている。 上の問題点があると考えられる。 2.2 ガス圧接部の欠陥の性状 鉄筋ガス圧接部に生ずる欠陥のうち,文献 2 ) による報 告ではフラット破面と黒灰色欠陥に関するものがある。 フラット破面とは,破断圧接面上に見られるものでフ ェライトバンドが酸化物などを核として破壊したもので, 一般に鉄筋の材質の化学成分の劣るものほど発生しやす い。フェライトバンド層は強度には影響がなく,超音波 法でエコーも反射しない。 黒灰色破面とは,フェライトバンド層に挟まれた黒灰 色層をもとに破壊したもので,破断面には,黒色の欠陥 Fig.3 Weld-face. が認められる。黒灰色層は,強度を著しく低下させ,超 音波法でエコーも反射する。 3.探傷可能領域の確認 その特徴をTable.1にまとめた。 縦リブからの斜角2探触子法では,圧接面の全面を探 Table 1.Character of defects. 傷することはできない。 探傷不可能領域に発生した欠陥の検出は,斜角探傷で 鋼中の欠陥 破断面 フェライトバンド フラット破面 引張強度 超音波検査 は不可能であり,これは圧接部の引張強さと最大エコー 低下しない 検出不可能 高さの相関関係に大きく影響を受け,品質に与える影響 低下する 検出可能 は重大である。そこで,鉄筋中心からの距離が異なる平 黒灰色層 黒灰色破面 底円形人工欠陥(4φ)を用いて,斜角二探触子法によ り探傷し,欠陥の中心からの距離とエコー高さとの関係 黒灰色層のような性状をもつ欠陥の検出には,超音波 を求めることにより探傷可能領域の調査を行った。 探傷の適用の可能性があると考えられる。 3.1 2.3 超音波探傷試験の問題点 全ての黒灰色層が検出可能であると断定できない要因 として以下の事項が考えられる。 (1)超音波を反射しない黒灰色層の存在 圧接部の引張強さに影響を与えるものは,黒灰色層の 試験方法 欠陥は,Fig.4 のように縦リブに対して0゜,45゜ 90゜ずらし,中心から任意に距離を変えたものを製作 した。欠陥径は4mm,深さは10mmを用いた。 探傷方法は,Fig.5 に示すようなK型探傷で前後走査 を行いながら各欠陥の最大エコー高さを求め,エコー高 さ50%での感度を測定した。 3.3 探傷可能領域 欠陥の中心からの距離とエコー高さの回帰式からしき い値に対する,探傷可能な距離を推定した。 Table 2 に結果を示す。 欠陥判定の基準となる感度は,JIS規格の手順により エコー高さが41dBをしきい値とした。 上記結果よりしきい値に対する中心からの距離を作図 Fig.4.Location of defects することにより,探傷可能領域を推定した。これにより 求めた圧接面面積に対する面積率をTable 3 に示す。 Table 2.UT critical distance SIZE D22 Fig.5.K scanning 3.2 Distance to center.(mm) 90゜ 3.76 45゜ 5.47 0゜ 7.28 90゜ 5.22 45゜ 5.74 0゜ 10.19 中心からの距離とエコー高さとの関係 欠陥位置の各角度について,最大エコー高さと欠陥の 中心からの距離との関係から回帰式を求めた。 D29 Fig.6に回帰式の結果を示す。 エコー高さは,欠陥エコー高さを50%にした時の, 感度(dB)である。 回帰式は以下のようになった。 Table 3.UT area Y=-3.9X+55.6 (D22 90゚) Y=-2.8X+56.2 (D22 45゚) Y=-2.0X+55.8 (D22 Y=-2.5X+54.1 (D29 90゚) Y=-2.3X+54.0 (D29 45゚) Y=-1.3X+53.9 (D29 SIZE 0゚) Weld face area UT area D22 774mm 2 13.1% D29 1285mm 2 11.3% 0゚) Y:エコー高さ X:中心からの距離 60 y = -2.0301x + 55.782 50 40 echo height(dB) echo height(dB) 60 y = -2.7808x + 56.212 y = -3.8726x + 55.567 30 20 10 0 y = -1.2614x + 53.851 50 40 30 y = -2.2707x + 54.038 y = -2.5031x + 54.065 20 10 0 0 2 4 6 Defect distance(mm) D22 8 0 2 4 6 Defect distance(mm) D29 Fig.6.Regression line between defect distance and echo height(D22,D29) 8 10 3.4 考察 非破壊試験第33巻 研究 2) 厚さに比例関係がある。したがって,欠陥エコーの反射 鉄筋ガス圧接の超音波探傷法の では探傷可能領域を楕円と考え,0゜,90゜の 回帰式から楕円面積を求めて面積率13%としている。 本報告では,45゜についても回帰式を求めたが,こ の点については大きな食い違いは認められなかった。 この文献値13%と比べてD22はほぼ同じ値となっ が強い場合は,欠陥を過大評価し引張強さを満足するも のまで不合格とする問題がある。 一方,反射が弱い場合も考えられ,過小評価となるが, これにともなう引張強さの低下も少なくかつ,実際現場 で発生する確率も低いと報告 2) されているためここでは 検討はしないこととした。 たが,D29は誤差が大きかった。誤差の理由としては, 欠陥形状の違いと探触子の接近限界距離によると考えら 4.結言 れる。 5M5X5の指向角はかなり広いためスリットのよう 本研究では,鉄筋ガス圧接部の超音波探傷試験による に圧接面に広がった欠陥から得られたエコー高さは,円 品質評価法を検討した。これは,二探触子K走査で縦リ 形の欠陥のものに比べると高く,距離による減衰も少な ブ上で前後走査するもので最大エコー高さと引張強さの く,検出可能領域も広範囲となると考えられる。 関係にもとづいた評価法である。この方法の探傷可能領 また,ここでは,接近限界距離を鉄筋径の1/2とし たため縦リブ方向は過小に評価したと思われる。 域について求めた。探傷可能領域は鉄筋中心に縦リブ方 向に長い楕円で近似できることが確認できた。その面積 作図した結果では縦リブ方向に広がったほぼ楕円の領 は,全圧接面に対しておよそ13%の面積率となった。 域となり,斜角探触子の音場から探傷可能領域は楕円に しかし,本研究では径に依存しないという結果は得られ 広がるという推定と一致した。 なかった。 これにより,以下の問題点が考えられる。 3.5 問題点 回帰式からわかるように,中心から離れるに従ってエ (1)探傷不可能領域に発生した欠陥評価と検出法。 (2)欠陥の過大評価による過剰品質。 コー高さが低くなる距離特性を示した。したがって,ま 欠陥の過大評価は,今回の調査で用いた欠陥は十分小 ず第一にー24dBをしきい値とした場合,鉄筋外周部 さく引張強さに影響を与えるものではないが,超音波探 で検出された欠陥を過小評価する問題点がある。 傷試験では不合格と評価できる。 このことは,圧接面の欠陥の分布から0.6r(r: 本研究では,新たな検査方法の提案までには至らなか 半径)までは比例的に欠陥発生密度は増大する,という ったが,今後欠陥面積率と引張強さの関係を調査し,有 ガス圧接における欠陥面積拡大により,ある程度問題は 効な評価方法を検討する。 解消される。0.6r は導き出した探傷可能領域内であ る。 文 献 しかしながら0.6r より外側では,欠陥発生率は著 しく高くなる。このため第二にこの領域での欠陥の検出 1)JIS が問題となる。 2)社団法人 また,探傷可能領域内での欠陥エコー高さは,欠陥の Z 3062-96 日本非破壊検査協会,非破壊検査 鉄筋ガス圧 接の超音波探傷法の研究:33(1984)5,7,9
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