「ブラジルの汚職問題」 小林利郎 - So-net

論壇―ブラジルの汚職問題
小林利郎
今ブラジルの政治経済はペトロブラスを利用した政権党 PT の大規模な汚職問題(Lava
Jato と呼ばれている)で大混乱に陥っている。
PT は政権についた時から PETROBRAS の経営陣に党員を配してこの国有企業を実質支
配してきた。現大統領の Dilma も会長であった時がある。今回の汚職は PETROBRAS の
海底油田開発等の大規模工事をブラジルの主要建設企業に発注することとし、受注した建
設会社から多額の賄賂を受け取ったものである。これら賄賂の金額は 16 億ドルにも及び、
実際はほとんどは建設会社の負担ではなく、PETROBRAS が本来の工事費に上乗せして支
払った形になっている。したがって PETROBRAS の経営内容は著しく悪化して、ブラジル
一の優良企業からブラジル最大の負債企業となり、株価もサンパウロのみならずニューヨ
ークでも大幅に下落した。
現在この汚職の摘発が徐々に広がって政治家、実業家が次々と逮捕されたり、起訴され
たりしている。まず Dilma 大統領に対しては弾劾法案が下院に上程された。上院の与党リ
ーダーDelcidio do Amaral は司法への介入で逮捕された。下院議長 Eduardo Cunha は議会
軽視で、上院議長 Renan Calheiros は PETROBRAS の資金流用でそれぞれ摘発されてい
る。その他大勢の議員が汚職に関わったとして調査の対象となっている。あとは前大統領
Lula に累が及ぶかどうかだが、大勢は及ぶのではないかとみている。
ブラジルはこの政治的大混乱に加えて経済面でも未曾有の困難に直面している。石油価
格の下落は PETROBRAS の新規油田の開発等発展にブレーキをかけているし、中国の成長
鈍化による食糧や資源輸出の低下、アメリカ合衆国の金利上昇を考慮した外国資本流入の
減少、投資の停滞が進んでいる。国内産業は自動車生産を筆頭に一斉に縮小し、レイオフ
や失業が増加している。財政は赤字に転じ、PT 政権が得意とする社会政策への財政支出も
思うようには出来なくなってきた。インフレ傾向が進み、レアルが下落、金利は急速に上
昇している。2015 年 6-9 月の四半期では生産面では、工業-1.3%、 農牧-2.4%、サービス
-1%
消費面では 一般消費-1.5%、政府支出 0.3%、投資は-4%、GDP-1.7% と全く振るわない。
年間ではー3%以上の低下となろう。
(Folha de Sao Paulo 紙)巷には不況ムードがひろが
っているようである。
一時は目覚ましい経済発展を進める BRICS の有力国で、「未来の大国」がようやく「現
在の大国」になってきたと喧伝されたブラジルではあるが、国際的経済環境が逆境にある
とはいえかつての「インフレ、外貨不足、失業、治安悪化 等々」の問題の国に戻ったと
すれば極めて残念なことである。それにしてもブラジルの基本的問題は国も企業も個人も
健全なモラルの確立が第一であるように思える。
〈2015 年 12 月〉