FPDへの人間工学的要求

表紙と目次
FPDへの人間工学的要求
−Web調査2006の結果を交えて−
成蹊大学 理工学部 窪田 悟
1.コンピュータディスプレイのユーザー評価
(1)LCDの高輝度・高コントラスト化の弊害
(2)クリアパネルの普及による反射グレア増加の問題
2.APL,観視者の年齢,照明環境を考慮した
FPDの最適輝度制御
(1)テレビ映像とPC画像の平均輝度レベル(ALL)
(2)ALLの関数としての最適輝度
(3)各種ディスプレイのピーク白輝度のALL依存性
(4)知覚される黒レベルのALL依存性
(5)ディスプレイの輝度のダイナミックレンジとコントラスト比
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
★ディスプレイのErgonomics
ディスプレイの人間工学
ユーザーの視覚特性
コントラスト感度特性
視力、加齢の影響など
作業特性・表示
内容
物理的環境
作業時間、コンテン
ツ、アプリケーション
現場調査
Web調査
ディスプレイ
の表示特性
光環境、作業空間、
視距離など
利用現場におけるユーザー評価
見やすさ、画質、疲れにくさ
実験的研究
視認性が高く、画質が良く、視覚
負担が少ないディスプレイの
設計・開発の指針
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
★Web調査の概要
1.コンピュータディスプレイのユーザー評価
Web調査2006の概要
調査期間 2006年11月2日∼24日
対象者 主としてディスプレイ関連業界の方々
回答者数 564名 (過去7年間では延べ約2500名)
調査項目
①回答者の属性:年齢,作業内容,作業時間など
②ディスプレイの特性:画素構成,サイズ,方式など
③文字の表示特性:大きさ,明るさ,CRなど
④目と身体部位の疲労感:目や身体の自覚症状
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
ディスプレイの種類の
年次変化
ディスプレイの種類の変化
ディスプレイの種類の変化
CRT
LCDモニター
LCDノート
100%
27.7
80%
29.8
37.6
35.7
32.6
CRTは0.7%(4/563)まで
40.8
45.6
減少した.ノートの増加
傾向が認められる.
60%
43.7
54.1
40%
20%
52.3
64.6
56.2
53.7
28.6
16.1
0%
58.7
10.1
5.6
2.8
3
0.7
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
N=202 N=186 N=369 N=315 N=319 N=493 N=563
年度
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
作業時間の年次変化
ディスプレイ作業時間の推移
ディスプレイ作業時間の推移
8
CRT
LCDモニター
LCDノート
1日あたりの時間
自宅での使用を含む
7
6
5
4
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
年度
2004年から家庭でのPC利用時
間も聞き取っているが,多くの回
答者が家庭でもPCを使用してい
る.平均使用時間は約1時間,
会社での使用を合計すると1日
あたり平均7∼8時間ディスプレ
イに向かっていることになる.
2002年度までの延長傾向は一
段落した.2002年までにPCがオ
フィスに一人1台でほぼ普及した
と言えよう.CRTは2003年度以
降サンプル数が少なく比較の対
象とならないのでプロットしてい
ない.
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
★高輝度・高コントラスト化の
弊害
(1)LCDの高輝度・高コントラスト化
の弊害
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
明るさコントラストと目の疲れ
明るさ・コントラストと終業時の目の疲労感
コンピュータディスプレイのユーザー評価2006のデータ
翌日以降ま
4
で疲れが残
る
画面の明るさと視覚疲労
N=558
帰宅後ま
で疲れが3
残る
コントラストと視覚疲労
翌日以降ま
4
で疲れが残
る
N=553
p<0.05
p<0.01
帰宅後ま
で疲れが3
残る
多少疲れた
感じはする
がすぐに回2
復する
多少疲れた
感じはする
がすぐに回2
復する
ほとんど疲
れを感じな
1
い
ほとんど疲
れを感じな
1
い
暗すぎる
(N=61)
ちょうどよい
(N=424)
明るすぎる
(N=73)
低すぎる
(N=76)
ちょうど良い
(N=457)
高すぎる
(N=20)
使用しているディスプレイの明るさおよびコントラストの主観評価結果と終業時の目
の疲労感を示す.いずれも,調節の重要性を示している.個々のユーザーと環境,タ
スクに適応した表示を実現する技術の重要性を示している.
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
モニターLCDの表示輝度の現場測定
成蹊大学内の情報処理センターの8つの部屋に設置された
LCDモニター合計227台(センター全体では700台以上設置さ
れている)の表示輝度を使用現場で測定した.同時に画面照度
も測定した.
輝度の測定
TOPCON BM-3で,測定角2°
画面照度の測定
MINOLTA 色彩照度計 CL-200
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
291-300
10
281-290
12
271-280
輝度調節をした
と思われるモニ
ターの分布
261-270
251-260
241-250
231-240
221-230
211-220
201-210
191-200
181-190
171-180
161-170
151-160
141-150
131-140
121-130
14
111-120
16
101-110
91-100
%
227台のモニターLCDのピーク白輝度の現場測定値
18
N=227
ほとんど輝度調
節していないモ
ニターの分布
8
6
4
2
0
白ピーク輝度(cd/㎡)
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
モニターの過度な輝度は写真撮影でも明らか
一番手前のモニターは環境に合わせて輝度を下げている.この席は一番うしろ
で照度が低く,たまらずに調節したユーザーがいたものと考えられる
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
表示輝度と消費電力( 17型モニターLCD)
画面輝度と消費電力
35
約30%の省エネ
y = 0.0546x + 10.375
R2 = 0.9858
30
消費電力(W)
25
20
適正輝度レベル
まで下げることに
よって約30%の
省エネが可能
15
10
5
0
0
100
200
300
画面輝度(cd/㎡)
400
500
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
高輝度化の傾向
暗すぎる
2002
14.2
2003
年度
ちょうど良い
18.3
2004
明るすぎる
77.5
8.3
71.8
9.9
73.7
15.4
10.9
2005
10.8
78.3
10.9
2006
11.0
76.0
13.0
0%
20%
40%
60%
80%
100%
「暗すぎる」よりも「明るすぎる」が相対的に増加している.映像
の表示に対応するため高輝度,高コントラスト化が加速する可能
性がある.
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
明るさの調節頻度と調節の必要性の認識度
画面の明るさ評価と調節頻度
導入した時に調
節したまま
まったく調節
していない
ごくまれに
調節する
もともと調節で 画
きない
面
の
明
る
さ
評
価
まったく調節
していない
ごくまれに
調節する
0%
20%
まったく調節
していない
ごくまれに
調節する
40%
60%
80%
する必要を
感じない
100%
ある程度する
おおいにする
する必要を
感じない
ある程度する
おおいにする
暗すぎる
N=61
1日に何回も調
節する
導入した時に調
節したまま
明るすぎる
N=73
導入した時に調
節したまま
ちょうど良い
N=421
明るすぎる
N=73
ちょうど良い
N=421
おおいにする
1日1回程度は調
節する
1日1回程度は調
節する
暗すぎる
N=61
画
面
の
明
る
さ
評
価
調節しやすければ調節するか?
する必要を
感じない
0%
20%
ある程度する
40%
60%
左の図に示すように「導入したときのまま」のために明る
すぎる状態で使用している実態が見える.右の図に示し
たようにユーザーもその重要性に気がついていない.電
子ディスプレイと印刷紙面の根本的な違いに起因する問
題である.
80%
100%
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
輝度調節のしやすさの評価
明るさの調節しやすさはどうか?
明るすぎる
N=73
できない
1
ややしにくい
どちらともいえな
4 しやすい 6
い
輝度調節機構のユーザ
ビリティの問題も見える
ちょうど良い
N=419
できない
しにくい
1
どちらともいえな
い
ややしにくい
4
しやすい
6
できない
暗すぎる
N=61
画
面
の
明
る
さ
評
価
しにくい
1 しにくい
0%
20%
ややしにくい
40%
どちらともいえな
4 しやすい6
い
60%
80%
100%
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
輝度調節機構のユーザビリティの問題
背面にオーディオボリュームと並んで配されており,後ろ
から至近距離で覗き込まないと区別がつかない.半分が埋
め込まれているので回しにくい,これでユーザーに調節を
促すのは酷である.
ユーザビリティを上げてもユーザー自身が過度な輝度に
気がついていない問題をどうするかが次の課題
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
★クリアパネルの普及による反射グレア増加の問題
(2)クリアパネルの普及による
反射グレア増加の問題
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
クリアパネルの割合
クリア, 3.7
モニター
(N=297)
不明, 8.4
業務利用でもノートPCのク
リアパネルは11.9%に達し
ていることを意味する
AG, 87.9
クリア, 11.9
ノート
(N=252)
不明, 9.1
0%
AG, 77.8
20%
PDP
0%
LCDモニ
ター
57%
CRT
1%
40%
その他
0%
60%
CRT
LCDノート
LCDモニター
PDP
その他
80%
LCDモニ
ター
26%
100%
その他
0%
PDP
0%
クリアパネルの
72%はノートPC
CRT
2%
CRT
LCDノート
LCDモニター
PDP
その他
LCDノート
42%
LCDノート
72%
AG処理(N=476)
クリア(N=42)
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
映り込みが見えた割合
年次変化
35
25
20
15
10
5
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
年度
40
照明の映り込みが見えた割合(%)
映り込みが見えた割合(%)
30
照明器具
窓
LCDモニター
LCDノート
35
30
25
20
15
10
5
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
年度
反射の問題が再燃しないか?
ノートPCにおけるクリアパネルの増加が照明器具の映り込みを明
らかに増加させている.ノートPCはモニターより画面を上向きで使
用するので,オフィスでは照明器具が映り込みやすい.
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
AGとクリアの視覚負担の比較
表面処理と視覚疲労
有意差なしだが・・・
右の作業時間を考慮す
るとどうか
10
一日あたりの作業時間(h)
翌日以降ま4
で疲れが残
る
帰宅後まで3
疲れが残る
多少疲れた
感じはする2
がすぐに回
復する
8
6
4
2
ほとんど疲
れを感じな1
い
0
AG処理
(N=476)
クリア
(N=42)
AG処理(N=467)
クリア(N=42)
右の図に示したように,クリアの方が約1時間
作業時間が短いのにもかかわらず平均値は
AGより高い(統計的に有意ではないが).
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
AGとクリアによる目の症状
非常に
3
ある
表面処理と目の自覚症状
AG処理 N=467
p=0.06
クリア N=42
p=0.06
p<0.05
ある2
やや
ある1
ない
頭が痛い
まぶしい
すぐにはっきりと見えない
クリアの方が1日あたり約1時間,作業時間が
短いのにもかかわらずこのような傾向が見える
まばたき
目が充血する
目が乾く
涙が出る
しょぼしょぼする
目が痛い
0
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
AGとクリアパネルの画質
6
いずれも有意差無し
AG処理
(N=476)
クリア
(N=42)
平均評定値
5
クリアパネルは何のために?
家庭での利用はともかく,オ
フィスにクリアパネルのノート
PCを普及させるのは理解しが
たい.
4
ユーザーも映り込みの問題の
重要性に気がついていないこ
とが多いので,売れれば良い
というメーカーの姿勢が問われ
る.
3
2
精細度
明るさ
コントラスト
主観評価項目
鮮明さ
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
2.APL,観視者の年齢,照明環境を考慮した
FPDの最適輝度制御
(1)テレビ映像とPC画像の平均輝度レベル
(ALL:Average Luminance Level)
(2)ALLの関数としての最適輝度
(3)各種ディスプレイのピーク白輝度のALL依存性
(4)知覚される黒レベルのALL依存性
(5)ディスプレイの輝度のダイナミックレンジと
コントラスト比
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
(1)テレビ映像とPC画像のALL
2. 2
H W
(Average Luminance Level)
1
 Y (i, j ) 
=
× 100
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン:
恋に落ちたシェークスピアより
ALL=7.97
ALL

∑
∑
H ×W

i =1 j =1
ALL=30.8

255 
ALL=83.2
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
テレビ映像とPC画像のALL
20
テレビ映像 N=200
PC画像
PC画像
テレビ映像
N=320
10
5
∼96
∼88
∼80
∼72
∼64
∼56
∼48
∼40
∼32
∼24
∼16
∼8
0
0
%
15
画像の平均輝度(ピークを100とする相対値)
H W
1
 Y (i, j ) 
ALL =


∑
∑
H × W i =1 j =1  255 
2 .2
PC画面については,4名のPC
ユーザーによって,普段使う可
能性の高い画面を,一人当た
り50フレーム,合計200フレー
ムをサンプリングして,JPEG保
存して輝度情報を解析した.テ
レビ映像については,中村ら(5),
野本ら(6)が分類解析に用いた
映像を,2名の分析者が映像を
再生しながら,それぞれのコン
テンツで典型的と思われるフ
レームを合計320フレームサン
プリングした.これらをJPEG保
存して輝度情報を解析した.
× 100
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
(2)ALLの関数としての最適輝度
実験方法
① 実験に用いたディスプレイ
17型LCDモニター(SXGA, TNモード, コントラスト比 1000 : 1,
輝度調整範囲20∼400cd/㎡, 相関色温度6500K)
② 被験者
若年者20名 (平均21.3歳)
高齢者24名 (平均68.9歳)
③ 画面照度 100 lx,300 lx
④ ALLの異なる36種類の画像の
主観的な最適輝度をLCDの
バックライトの自己調整により求める
実験風景
⑤ 調整の基準
「最も見やすく,画質がよく,長時間見ても疲れない」
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
画像のALLと
最適ピーク白輝度との関係(100lx)
画面照度 100 lx:高齢者24名vs若年者20名
1000
最適ピーク白輝度(cd/㎡)
高齢者
若年者
y = 288.59x-0.2007
R2 = 0.8016
Lp = k × ALL
α
zLp = 主観的に最適な
ピーク白輝度(cd/㎡)
zALL = 平均輝度レベル
(最高を100とする相対
値)
100
幾何平均値と1標準偏差
zkとαは, 照明環境や
被験者の年齢によって
異なる係数.
y = 173.8x-0.1712
R2 = 0.6765
10
1
10
画像信号から求めたALL(最高100とする相対値)
100
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
画像のALLと
最適ピーク白輝度との関係
若年者20名,高齢者24名:画面照度 100 lx vs 300 lx
1000
最適ピーク白輝度(cd/㎡)
100
300
100
300
lx若年
lx若年
lx高齢
lx高齢
Lp = k × ALLα
高齢者群
100
■100lx
幾何平均値
若年者
○300lx 若年者
■100lx 高齢者
○300lx 高齢者
-0.17
y=174x
y=190x-0.14
y=288x-0.20
y=304x-0.19
2
R =0.68
R2=0.54
R2=0.80
R2=0.79
若年者群
10
1
10
画像信号から求めたALL(最高100とする相対値)
100
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
(3)各種ディスプレイのピーク白輝度の
ALL依存性
PDP
CRT1
CRT(TEXT)
CRT(MOVIE)
LCD1
LCD2
LCD3
実験値
ピーク白輝度(相対値)
1000
100
10
1
10
100
平均画像輝度ALL(全白を100とする相対値)
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
(4)知覚される黒レベルのALL依存性
実験方法
各画像には,下図に示したように視角0.5°幅の黒のストライ
プを3本表示し,被験者にこのストライプの輝度を黒に知覚さ
れる限界レベル(黒浮きしない黒)に調節させた.被験者は3
本のストライプを常に目でスキャンしながら調節した.調節は
被験者の手元のマウスのホイールを回転させておこなった.
背景一様な画像の例
実際の映像を用いた画像の例
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン:恋に落ちたシェークスピアより
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
結果 ALLと黒レベルの輝度 18名の平均値
10
6∼22:ALLの異なる画像の番号
一様な背景に対する回帰式
y=0.189x0.472
r2=0.989
ブラックレベル(cd/㎡)
×:一様な背景の画像
11と20を除いた予測式
y=0.137x0.459
r2=0.787
1
20
11
17
8
9
6
14
13 7
15
18
19 16
12
23
21
22
10
画面照度100 lx,
32型液晶テレビ,
視距離1.2m(3H),
画像はALLが既知の
静止画(SD),
被験者は大学生18名
実験機の表示可能
ブラックレベル
0.1
1
10
100
平均画像輝度ALL(cd/㎡)
1000
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
(5)ディスプレイの輝度のダイナミックレンジとコントラスト比
次の表はこれまでの実験結果から画面照度 1 ∼1,000 lx (ほぼ暗室から量販店の
店頭レベル)において,黒浮きしない黒レベルを満たし,同時にピーク白の要求
を満たす条件を試算した結果である.ピーク白については,まぶしさ感の実験(4)
におけるモデルのべき数を0.35乗とし,家庭の平均画面照度(3)100 lxで300cd/㎡と
した.100 lxで300cd/㎡は実態調査に基づきCRTテレビの家庭での平均250cd/㎡の2
割増しに操作的に設定したものである.このモデルにおいて,ほぼ暗室における
ピーク白は,60cd/㎡となり,映画のピーク白の規格に近く,概ね妥当なモデルと
考えられる.
F列に示したように,店頭(画面照度1,000 lx)から暗室(画面照度1 lx)までを
バックライト制御なしでカバーするためには約6000:1のダイナミックレンジが必
要である.店頭から家庭の10パーセンタイルまでの範囲であれば概ね1200:1で要
求値を満たすことができる.ただし,映像のALLの下限が実験で用いた花火が前
提である.ALLがさらに低い映像ではさらに広いダイナミックレンジが求められ
る.
今後はコンテンツと要求される輝度特性との関係,視聴環境と輝度特性との関
係をさらに検討していく必要がある.画像の輝度分布からのコンテンツ分類(5),
(6),輝度順応レベルと明るさ感(7),(11),視聴環境と表示特性(3),(8),APLと最適
輝度(2)(10)(11)などがすでに検討されている.さらには高齢者や子供の視覚特性・
行動特性を考慮したテレビの設計(2),(4),(9)が求められる.
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
ディスプレイの輝度のダイナミックレンジとコントラスト比
A
B*
C**
D***
E
F
バックライト制御をしない場
要求黒レ
視野の
コントラ 合にLCDパネルに要求され
画面照度 平均輝 白輝度 ベルの実
スト比 る輝度のダイナミックレン
験値
La^0.35
度
視聴環境条件
Ei
CR ジ,すなわち←→の範囲を
Lb
(cd/㎡)
La
(lx)
C/D カバーするために必要なコ
(cd/㎡)
(cd/㎡)
ントラスト比
1
ほぼ暗室
2
3
4
5
6 家庭の10%tile
7 家庭の平均
8 家庭の90%tile
9
10
量販店
1
2
5
10
20
50
100
200
500
1000
0.1
0.2
0.5
1
2
5
10
20
50
100
60
76
105
134
171
235
300
382
527
672
0.11
0.15
0.22
0.29
0.39
0.58
0.77
1.04
1.52
2.04
534
509
477
455
433
406
387
369
346
330
5996 C10/D1
3050 C10/D3
1704 C10/D5
1160 C10/D6
867 C10/D7
330 C10/D10
B* 観視環境の実態調査(文献(4))に基づく,画面照度×0.1
まぶしさの実験(文献(4))から得られたべき乗値を用い,家庭の平均的環境で300cd/㎡に合
**
C わせた値,300cd/㎡はCRTの1%パッチの実測値より2割高い輝度,この範囲でひとつのべき
関数が成立するという前提,視野の平均輝度Laの0.35乗とした場合
D*** 黒輝度の実験(文献(4))による黒レベルフラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
まとめに代えて
① ユーザー自身も問題に気がついていないことが多いので
潜在的な問題を縦断的な研究で顕在化させていく必要が
ある
② APL,コンテンツ,観視環境,利用者の視覚特性を総合
的にとらえた視覚負担の少ない輝度制御が必要である
③ ディスプレイに要求される輝度のダイナミックレンジと
特定の画像における輝度のコントラスト比は当然のこと
ながら分けて考える必要がある
④ 映像信号の送出側からリビングやオフィスにおける観視
環境までを視野に入れた横断的な研究が必要である
⑤ 将来的なディスプレイの大型化では環境の中に存在する
ディスプレイから環境を創出するディスプレイになると
予想されるので新たな視座が必要だろう
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007
参考文献
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フォメーション研究会,メディア工学,映像表現&コンピュータグラフィックス合
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No.608,2006
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(11)窪田:FPDテレビに求められる人間工学的条件,FPDインターナショナル2006
フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2007