関心・意欲を高め, 学力の向上を支援するICTの在り方

平成19年度
研 究 紀 要
(第778号)
F10-01
関心・意欲を高め,
学力の向上を支援するICTの在り方
-活用の目的に合わせたディジタル教材の作成と活用を通して-
平成18年に文部科学省は「ICT活用による確かな学力の向上」と「教
員のICT活用能力の向上」を目標とした学校教育の情報化の一層の推進
を提言した。ICT活用による学力の向上は,ICT機器やディジタル教
材の特性と活用の目的を明確にしておくことが重要である。本研究では,
活用の目的に合わせたディジタル教材を作成し,その活用を通して,児童
の関心意欲を高め,学力の向上を支援するICTの在り方の一つを明らか
にすることができた。
福岡市教育センター
情報教育
長期研修員
猪迫
広樹
目
第Ⅰ章
1
次
研究の基本的な考え方
主題設定の理由‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
1
(1)教育の情報化の現状から
(2)普通教室におけるICT活用についての教員の意識の実態
(3)ディジタル教材の現状から
2
主題・副主題について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
2
(1)関心意欲を高め,学力の向上を支援するICTとは
(2)活用の目的に合わせたディジタル教材とは
3
研究の目標‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
3
4
研究の仮説‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
3
5
研究の内容‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
3
(1)ディジタル教材の作成
(2)主題解明のための検証の方法
第Ⅱ章
1
研究の実際
第5学年
算数科における取組‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
4
(1)単元名
(2)小単元の目標
(3)ディジタル教材活用の目的
(4)活用の実際と児童の反応
(5)効果的でなかった事例
2
第6学年
算数科における取組‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
7
(1)単元名
(2)小単元の目標
(3)ディジタル教材活用の目的
(4)活用の実際と児童の反応
第Ⅲ章
1
研究のまとめ
研究の成果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
11
(1)ディジタル教材活用の目的について
(2)ディジタル教材の活用について
2
今後の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情・長研
資料
引用・参考文献
11
第Ⅰ章
研究の基本的な考え方
エ
機器の準備や片づけに時間をとられる。
オ
教材作りに時間がかかる。
等が考えられる。
1
しかし,研修講座等で実際にICTを活用
主題設定の理由
した授業を参観した教員からは, 「児童の意
(1) 教育の情報化の現状から
社会の情報化に伴い2001年に政府が出した
欲が高まる」 「学習がわかりやすくなる」と
「e―japan戦略」以降,教育の情報化
いった感想や「教材を使わせてほしい」とい
が推進されてきた。平成18年に出された「I
った要望を聞くことが多い。したがって,現
T新改革戦略」において文部科学省では,
「I
在はあまりICTを活用していないが,活用
CT活用による確かな学力の向上」と「教員
に関しての問題が解決されれば,今後,IC
のICT活用能力の向上」を目標とした学校
Tを活用していきたいと考えている教員やI
教育の情報化の一層の推進が提言されている。
CTを活用すると効果があると考えている教
現在,小学校における教育の情報化は,総
合的な学習の時間を中心に,インタ―ネット
員が多いと考える。
(3) ディジタル教材の現状から
を使った調べ学習など「児童がICT機器を
ICT活用による学力の向上について,平
使い,慣れ親しみながら,情報活用能力を高
成 17 年,18 年度に独立行政法人メディア教
める」ことを中心に行われている。その結果,
育開発センタ―が取り組んだ「教育の情報化
児童がコンピュータを中心としたICT機器
の推進に資する研究」で,児童生徒の「関心
について抵抗なく活用することができるよう
意欲」 「知識・理解」を高めることにICT
になってきている。しかし,学力の向上が強
の活用が有効であることが報告されている。
く望まれる中,「ICT機器に慣れ親しませ
しかし,ICTを使うだけでは,児童生徒
る」とともに,ICTの特性を生かし,児童
の学力向上へとはつながらない。学習の内容
生徒の学習意欲を高めたり,学力の向上を支
に応じて,適切なICT機器やディジタル教
援したりするような「学力向上のためのIC
材を活用していくことが大切である。
特に,ディジタル教材は,児童生徒に付け
T活用」を進めていくことも今後重要になっ
てくると考える。
たい力を明確にして,必要な情報の内容や量
(2) 普通教室におけるICT活用についての
を考え活用することが学習効果を高めること
になる。現在,学習で活用するために開発さ
教員の意識の実態
パソコンル―ムやインタ―ネット回線の整
れたディジタル教材は,市販のコンピュ―タ
備によって,パソコンル―ムで児童生徒がコ
ソフトやインタ―ネットを利用して活用でき
ンピュ―タを活用する授業は多くなってきて
る動画デ―タなど豊富にある。特に,個人で
いる。しかし,普通教室で日頃の授業におい
は準備できないような精密な動画デ―タなど
て,学習効果を高めるためにICTを活用す
児童生徒の興味関心を高めたり,知識を広げ
ることはあまりみられない。その理由として,
たりすることに有効なものも多い。しかしな
ア
がら,児童生徒の情報活用能力の実態によっ
プロジェクタ―など教室で使うための機
ては,含まれる情報量が多すぎて,思考を混
器が十分にない。
イ
機器の操作に自信がない。
乱させたり,ねらいとするものをとらえにく
ウ
どのような教材を使えばいいか分からな
くさせたりするなど教師の活用の意図と合わ
い(授業の内容に適切な教材がみつからな
ないことも多い。また,著作権や技術的な問
い)
題で加工や修正をすることができないことも
情・長研- 1
あり,授業の展開にあった活用ができない場
テレビ会議のような直接交流による授業を行
合も多い。
うことで,児童生徒の関心意欲を高めること
こうした問題を解決し,児童生徒の学力の
もできる。
関心意欲を高め,学力の向上を支援するI
向上に生かすディジタル教材にするためには,
児童生徒の情報活用能力を考え,活用の目的
CTとは,ICT機器やディジタル教材の特
に合わせた内容や情報量を適切にとらえたも
性を生かし,学習の課題を明確にとらえさせ
のを作成し,教師の授業の意図に合ったもの
たり,解決の方法を示唆したりしながら児童
を活用することが必要であると考え,本主題
生徒が「課題がわかった」「解決したい」「解
を設定した。
決できそうだ」といった学習への関心意欲を
高め,「わかった」「解決できた」といった学
2
力の向上を支援するためのICTのことであ
主題・副主題について
(1) 関心意欲を高め,学力の向上を支援する
る。
(2) 活用の目的に合わせたディジタル教材と
ICTとは
は
国立政策研究所が小中高校生 1400 人を対
象にした調査で「学習意欲が高まるときはど
教材を使うための目的を明確にすること
んなときか」という質問に対して,
「授業がわ
は,教材を選定したり,作成したりする上で
かるとき」と回答した小学生が 95.2%,中学
重要なことである。教材活用には, 「児童生
生が 94%と最も多かった。また「授業がおも
徒の興味関心を高めるため」・「学習の課題を
しろいとき」と回答した小学生は 94.6%, 中
とらえさせるため」・「課題解決を支援するた
学生は 91.8%とともに上位であった。 授業が
め」・「学力の定着を図るため」といった目的
おもしろいときというのは,課題に興味をも
がある。それぞれの目的によって動画,静止
ち, 「分からないことがはっきりして,がん
画,図,表,グラフなど用いるコンテンツを
ばるとわかりそうだ」 「こんな方法で取り組
選択する必要がある。また,色や音声,アニ
んだら解決できそうだ」ということを児童生
メ―ション等の表現方法など視聴覚的にとら
徒が自覚でき,学習への関心が高まったとき
えさせるための効果などについても考える必
だと考える。また,授業がわかるときという
要がある。さらに,児童生徒の発達段階や情
のは,学習への関心が高まり, 「がんばって
報活用能力の実態によって,情報の量や質を
みたら課題が解決できた」という自分の学力
調整することも考えなければならない。例え
の高まりを感じることができたときだと考え
ば1枚の写真を見せる場合,低学年ではでき
る。こうした関心意欲を高め,学力の向上を
るだけ情報を少なくしなければ大切なことを
支援することは様々な手立てが考えられる。
とらえることができない。しかし,高学年に
ICT機器やディジタル教材といったIC
なれば多くの情報から取捨選択して,必要な
情報 を とら えさ せ るこ とが 大 切に なっ てく
Tの活用もその手立ての一つである。
ICTには映像や音声などの視聴覚的な効
る。これらのことを考えると教師が教材を作
果を生かしたり,情報を必要な形に加工・修
成することが効果的な場合も多く,デ―タの
正したりすることが容易にできるという特性
加工や修正が容易なディジタル教材は教師の
がある。この特性を生かすことで児童生徒に
意図したものを作成するのに有効であるとい
興味をもたせたり,課題解決を示唆するため
える。
の情報を効果的に与えたりすることができる
活用の目的に合わせたディジタル教材と
と考える。また,インタ―ネットを活用した
は, 学習におけるディジタル教材活用の目的
情・長研- 2
を明確にし,児童生徒の発達段階や情報活用
(2) 主題解明のための検証の方法
能力の実態に合わせ,適切なコンテンツや効
作成したディジタル教材を使って,検証授
果的な表現方法を用い作成したディジタル教
業に取り組む。 関心意欲の高まりについては,
材のことである。
ディジタル教材を活用している授業場面での
児童の反応や授業後の児童へのアンケ―ト調
3
査で分析したい。 アンケ―トの内容としては,
研究の目標
活用の目的に合わせたディジタル教材の作成
ディジタル教材の活用の目的に合わせて「デ
と活用を通して,児童生徒の関心意欲を高め,
ィジタル教材を活用することでやる気や興味
学力の向上を支援するICTの在り方を明らか
がもてたか」 「学習のめあてを知ることに役
にする。
立ったか」 「学習内容の理解に役立つもので
あったか」 「知識の定着に役立ったか」とい
4
ったことを4段階で評価したい。また,参観
研究の仮説
学習のねらいを考え、活用の目的を明確にし
たディジタル教材を作成し、ICT機器の特性
してもらう担任に,日頃の授業での学習への
意欲との比較をしてもらい参考としたい。
を生かして授業で活用すれば児童の学習への関
また,協力してもらう担任には,関心意欲
心意欲を高めることができ,学力の向上を支援
を高め,学力の向上を支援するディジタル教
するICTの在り方を明らかにすることができ
材として有効であったか,改善すべき点はど
るであろう。
こかといったディジタル教材に対する意見を
出してもらい,主題解明の参考とする。
5
研究の内容
(1) ディジタル教材の作成
ディジタル教材活用の目的を次のように整
理し,目的に合わせ活用するコンテンツや視
覚効果を考えたディジタル教材を作成する。
ア
児童生徒の興味関心を高めるため
イ
学習の課題をとらえさせるため
ウ
課題解決を支援するため
エ
知識・理解の定着をはかるため
ディジタル教材作成に当たっては,今後の
ICTを活用した授業の普及を考え,次のよ
うな点に考慮したい。
○
教科書を使った授業で活用できる教材
○
それぞれの学校にあるアプリケ―ショ
ンソフトの活用
○
使い方が容易なアプリケ―ションソフ
トの活用
特に,プレゼンテ―ションソフトは,動画,
静止画,図,表,グラフなどのコンテンツを
のせることができ,加工や修正が比較的容易
にできるため中心的なソフトとして活用する。
情・長研- 3
資料―2
第Ⅱ章
1
資料―1のヒントと回答画面
研究の実際
第5学年
算数科における取組
(1) 単元名
「面積の求め方を考えよう」
小単元
平行四辺形の面積の求め方
(3時間)
(2) 小単元の目標
○
平行四辺形の面積を求めるときに,既
習の経験や知識を用いようとする。
○
長方形の面積の求め方をもとにして,
平行四辺形の面積の求め方を工夫して考
える。
○
資料―3
長方形の面積の振り返り
平行四辺形の面積を求めることができ
る。
○
平行四辺形の面積の求め方を理解する。
(3) ディジタル教材活用の目的
本単元においては,次のような活用を目的
としてディジタル教材を作成した。
ア
児童生徒の興味関心を高めるため
イ
学習の課題をとらえさせるため
ウ
課題解決を支援するため
エ
知識・理解の定着をはかるため
(4) 活用の実際と児童の反応
ア
児童は画面を見て積極的に発言してい
児童生徒の興味関心を高める
た。図形の性質を思い出すためのヒントも
本単元の導入では,これまで学習した平
表示できるようにして,正確に覚えていな
面 図 形 の 名 前 と 性 質 を フ ラ シ ュ ッ カ ―ド
い 児 童 も 思 い 出 す こ と が で き る よ う にし
の よ う に 表 示 し 答 え さ せ る デ ィ ジ タ ル教
た(資料―2)。また,これまでに学習し
材を作成した(資料―1)。
た 長 方 形 と 正 方 形 の 面 積 の 求 め 方 も 確認
資料―1
できるようにした(資料―3)。それぞれ
クイズ形式のディジタル教材
の図形の面積はプリントを使って,見つけ
させ,計算で求めることができるようにな
っ て い る 長 方 形 と 正 方 形 の 面 積 に つ いて
は,パソコン画面で提示しながらみんなで
確認するようにした。
その後「5年生では,この図形の面積を
求めていきましょう」と長方形が平行四辺
形に変わる画面を見せた(資料―4)。児童
は,図形の変形を見ながら「平行四辺形だ」
情・長研- 4
資料―4
平行四辺形に変化したディジタル教材
資料―5
「平行四辺形の面積の求め方だ」といった
確認した。その後「この考えを生かして,
声や「分かるかも」といった声が聞かれた。
平行四辺形の公式を考えられないかな」と
授業後のアンケ―トで「パソコン画面を見
児童に発問した。そこで,今日の学習のめ
て,学習へのやる気(興味)をもてました
あてをノ―トに書かせると, 「長方形の面
か」という質問に対して,回答者 31 人の全
積の式から平行四辺形の式を考える」とい
員が「とてもやる気(興味)をもった」
「や
っためあてを書くことができていた。
る気(興味)をもった」に回答していた。
アンケ―トでは,
「 パソコン画面が今日の学
授業を参観していただいた先生(以後
習のめあてを知るのに役だちましたか」の
「参観者」と表現)から「日頃はあまり算
質問に,回答者 32 人のうち,28 人が「と
数に積極的でない子も意欲的に手をあげて
ても役だった」4人が「役だった」と回答
いました」という話が出た。また,授業後,
していた。
児童がよってきて「明日も今日みたいな勉
前時に活用した画面を生かして本時のめ
強をするのですか」
「またやりたい」といっ
あてにつなぐディジタル教材にしたことで,
た感想を出していた。
めあてをとらえることができたと判断した
こうした児童の反応からも本時で使った
児童が多かったと考えられ,有効なディジ
ディジタル教材は「興味関心」を高めるこ
とに有効であったと考える。
イ
前時の復習ディジタル教材
タル教材となったといえる。
ウ
学習の課題をとらえさせる
課題解決を支援する
平行四辺形の面積を長方形への等積変形
平行四辺形の面積は長方形への等積変形
から求める方法を考えるときに,プリント
を使って求められる。このことを生かして,
を使って操作をしながら考えさせるように
平行四辺形の面積の公式へとつなげたいと
したが,うまく発想できない児童に対して,
考え,前時の復習から本時のめあてへつな
ヒントとなるようなディジタル教材を作成
げるようなディジタル教材を活用した。前
して活用した。
時に,使った長方形への等積変形の考え方
平行四辺形の三角形の部分がわかるよ
を説明する教材を復習用に修正・加工して,
うに線をいれ,三角形の部分だけ色を付け
本時の導入に活用した(資料―5)。児童は
る画面を提示した(資料―6, 7)。
前日に学習した「平行四辺形の面積は長方
この段階でほとんどの児童が三角形を切り
形に形を変えると求めることができる」を
取り,長方形を作ることに気付くことがで
情・長研- 5
資料―6
課題解決のヒントのディジタル教材
資料―8
課題解決のヒントのディジタル教材
資料―7
課題解決のヒントのディジタル教材
資料―9
課題解決のヒントのディジタル教材
き,自分のプリントを使って操作し,学習 い
場面で資料―8のような斜めの辺を底辺と
プリントに書き込むことができた。
したときの高さがどこになるかわからない
まだ,はっきりとわからない児童には,次
児童が多くいたので,ヒントの画像を提示
に三角形が消える画像を見せ, 「消えた三
した(資料―9)。特別に作成したわけでは
角形はどうしたらいいと思う」 となげかけ
ないが,問題として提示していた平行四辺
た。すると「あっわかった」といって操作
形を,図形の回転機能を使い,斜めの辺が
をはじめた。
底辺になるように動かして見せた。児童か
アンケ―トで 「パソコンの画面(児童に
らは「あっなんだ」
「これなら垂直な線をか
は教材をパソコン画面として説明した)が
ける」といって高さを書き込むことができ
平行四辺形の面積の求め方をわかりやすく
た。教科書を回して考えることもできたが,
するのに役だちましたか」という質問に,
底辺を下にして平行にもってくるには教科
15 人の児童が「とても役にたった」と回答
書を斜めにしなくてはいけないので,児童
していた。15 人は,最初にうまく発想がで
は気づきにくい。 実際に画像を回転させな
きなかった児童が多かった。逆に最初から
がら見せることでとらえやすくなったと考
自分の力で考えることができた児童は,自
える。授業後に感想を聞くと, 「平行四辺
分の考えを確かめられるという意識でみた
形を回転させたらわかったよ」 という声が
ようで「少し役だった」という回答が多か
聞かれた。
った。
エ
また,平行四辺形の高さを考える学習の
情・長研- 6
知識・理解の定着をはかる
前時に学習したことを確認するために復
資料―10
ことができた」67 人「思い出すことができ
前時の復習のディジタル教材
た」28 人の回答であった。参観者からは,
「前時の画像があった方が児童の発言が多
いようです。」「画像を見ることで思い出す
児童もいるようですね。」という感想があっ
た。
(5) 効果的でなかった事例
高さが外にある平行四辺形の面積を求める
学習で,等積変形を生かして公式が使えるこ
とを考えさせるときに,児童が発想した方法
資料―11
を説明できるディジタル教材を作成して活用
知識の定着を図る復習のディジタル教材
しようとした。しかし,児童の発想が多様に
出てきたため,準備していたものをつかうこ
とができなかった。そのため,授業が混乱し
児童の活動や思考を止めてしまうことになっ
た。この場合は,教材提示装置に,児童が操
作したプリント教材を映し,全体に発表させ
る方法がはるかに効果的であった。
ディジタル教材活用の目的が明確でなかっ
たり,利用するコンテンツや機器を十分に考
習のためのディジタル教材を作成し活用し
慮していなかったりすると授業のねらいを達
た。前時のディジタル教材を修正加工して,
成できないだけでなく,児童の思考を混乱さ
定着させたい内容だけにしたものを提示し,
せるものになる事例であった。
児童に画像を見せながら発問をするように
した。平行四辺形の底辺と高さがどこにな
るかを復習する時は資料―10,11 を提示し
2
第6学年
算数科における取組
(1) 単元名
「立体を調べよう」
た。
小単元
これは前時に底辺と高さをとらえさせる
ための図を一つのスライドにまとめて,見
「直方体と立方体」(4時間)
(2) 小単元の目標
せるようにしたものである。BCを底辺と
○
の性質をもとに調べようとする。
したときの高さはどこかな」
「 ABを底辺と
したときの高さはどこかな」と発問し,ス
直方体,立方体の性質を,既習の図形
○
立体図形の構成要素に着目して,直方
体や立方体の特徴や性質を考える。
クリ―ン上に細い棒で表現させた。
児童にとっては一度見た画像を使うので
○
かくことができる。
前時のことを思い出しやすく,積極的に発
○
表しようとする姿が見られた。
直方体,立方体の見取り図や展開図を
直方体や,立方体の辺,頂点,面の数
アンケ―トでも, 「パソコン画面で前の
を知るとともに,その展開図の見方を理
時間の学習を思い出すことができました
解する。また,面や辺の垂直と平行の関
か」という質問に,3回のアンケ―ト合計
係を理解する。
で回答者のべ 95 人のうち,「よく思い出す
情・長研- 7
(3) ディジタル教材活用の目的
資料―14 いろいろな立体の画面
本単元においては,次のような活用を目的
としてディジタル教材を作成した。
ア
児童生徒の興味関心を高めるため
イ
学習の課題をとらえさせるため
エ
知識・理解の定着をはかるため
(4) 活用の実際と児童の反応
ア
興味関心を高める
本単元の導入として,教科書では箱あて
ゲームに取り組むようになっているが,担
任との事前の打ち合わせのときに図形の学
面図形から立体図形へと形が変わる教材を
習が苦手な子が多く,図形の性質などうま
提示した(資料―12,13)。
く答えられない児童が多いと聞いたので,
児童は, クイズ形式の問題に興味をもち,
5年生の学習でも活用した図形の性質を確
積極的に発言をしていた。性質を思い出せ
認する教材をここでも活用して,これまで
ない図形には,ヒントを付け加えて提示す
に学習した図形の名称と性質について想起
るように作成していたことで,どの児童も
させた。その後, 「6年生ではこのような
思い出すことができていた。また,平面図
形の図形について学習します。」として,平
が立体図へ変化する画面を見て,多くの児
資料―12 平面が立体に変化するディジタル教材
童から「すごい」や「形が変わった」とい
った声が聞かれた。また,
「立体だ」という
つぶやきも聞かれた。つぎにいろいろな立
体の画面を表示し(資料―14),これから立
体について調べていくことを知らせた。
授業後の児童へのアンケ―トで, 「今日
のパソコン画面をみて,立体図形の学習に
やる気(興味)をもてましたか。」という質
問に対して,回答者 33 人全員が「とてもや
る気になった(興味を持った)」「やる気に
なった(興味を持った)」に回答していた。
フラシュッカ―ドのようにクイズ形式で
資料―13 平面が立体に変化したディジタル教材
提示したり,形の変化を動きで表現したり
した教材は,児童の興味関心を高めること
に有効であったと考える。
イ
学習の課題をとらえさせる
展開図を学習する時間に,箱を切り開い
た 図 を 書 く イ メ ― ジ を も た せ た い と 考え
た。実際に教師が箱を切り開いてみせると
いいが,小さな箱ではわかりにくく,大き
な箱だと作業に手間取ると考えた。特に本
時 は 展 開 図 を か く 時 間 を 児 童 に 多 く 与え
情・長研- 8
たいと考えたので,短時間で本時の学習を
エ
知識理解の定着をはかる
イ メ ー ジ さ せ る た め に デ ィ ジ タ ル 教 材を
直方体と立方体の特徴,性質を理解させ
作成した。教科書に問題としてのっている
る学習において,児童が調べたことを確認
図と同じものを,切り開いていく動きを入
し,理解を定着させるための教材を作成し
れて提示した(資料―15)。
た。児童が,実際の箱を使って辺や面,頂
児童は,提示画面をしっかりと見ていた。
点の数を調べたり,面の形や大きさに着目
その後,学習プリントに学習のめあてをか
した特徴,辺の長さに着目した特徴を調べ
かせたが,「直方体を切り開いた図をかこ
たりした後,確かめのための教材とした。
う」といった内容のことを書いた児童が多
とくに,直方体や立方体の分解を動きで表
かった。また,ほとんどの児童が展開図を
現し,見取り図ではわかりにくい裏側の面
プリントに書くことができた。
や辺など確認できるようにした。
授業後のアンケ―トでは,「パソコン画
また,同じ大きさ,面の色などもとらえ
面が今日の学習で何をするのか(学習のめ
やすいように考えた(資料―16.17.18)。
あて)を知るのに役だちましたか」という
実物を使って調べているため,多くの児
質問に,回答者 33 人の内,「とても役だっ
童は面などの数をきちんととらえられてい
た」20 人,「役だった」13 人と回答してい
たが,辺の数を数え間違えてしまう児童も
た。
いた。活用したディジタル教材は,直方体
図形が切り開かれていく動きがある教
や立方体の分解を動きで表現し,面や辺に
材 を 提 示 し た こ と で 学 習 の め あ て を イメ
数字を表示させるようにしたため,どこを
―ジすることができた児童は多かった。
数えているかがわかり,数え間違えていた
しかし,参観者からは実際に箱を切り開
児童は,画面を見ながら,再度,面や辺の
いた方が,わかりやすい児童もいたのでは
数を確かめていた。
ないかという意見もあり,大きく見せるこ
同じ大きさ,形の面を組合せがわかるよ
とや動きをいれたディジタル教材のよさは
うに,移動させ組合せの形で表示するよう
効果的であったが,学習のめあてをとらえ
にしたので,直方体や立方体の特徴をとら
させる教材としての課題も残った。
えきれなかった児童から「わかった」とい
資料―15
った反応が聞かれた。
課題をイメ―ジさせるディジタル教材
資料―16 直方体の特徴を確認するディジタル教材
情・長研- 9
資料―17
直方体の頂点を確認するディジタル教材
イズ形式で出題し発表させるようなディジ
学習を思い出したり,確かめたりするのに
役だちましたか」という質問に 33 人の内,
タル教材も作成し活用した(資料―19)。こ
れについてもアンケ―トで,「前の時間の
28 人が「とても役に立った」5人が「役に
立った」と回答していた。この2つの教材
に対して,参観者からも知識・理解の整理
や確認に役だつという意見が聞かれた。
しかし,クラス全体的な理解の状態は確
認できるが,個人の知識や理解がどの程度
資料―18
直方体の辺を確認するディジタル教材
できたかはわからないという意見も出され
た。
一斉学習用のディジタル教材として作成
したものは,プリントの活用やパソコンル
―ムで一人一人に活用させるなどの手立て
を併用することも必要であると考えた。
授業後のアンケ―トでは「パソコン画面
が,直方体や立方体の特徴をわかりやすく
するのに役だちましたか」という質問に,
回答者 33 人の内,31 人が「とても役だっ
た」と回答していた。
また,前時に学習した内容を,授業のは
じめに復習として,フラシュッカ―ドのク
資料―19
前時の復習ディジタル教材
情・長研- 10
○ 児 童 が 「 何 を す れ ば い い か わ か っ た」
第Ⅲ章
「課題を解決したい」「解決できそうだ」
研究のまとめ
と考えることができるようなコンテンツ
1
であること。
研究の成果
○ 児童のつまずきに適切なヒントとなる
(1) ディジタル教材活用の目的について
ような情報が含まれているもの。
ディジタル教材を活用するときの目的を4
というようなことが大切であると考える。
つに整理し教材作成をした。
活用の目的を整理したことにより,ディジ
高学 年 の算 数の 図 形と いっ た 限定 され た
タル教材を何のために使うかを考え作成し児
実践のみからの考えであるが,他の教科に
童の学習に役立てることができた。今回は算
おい て もデ ィジ タ ル教 材を 活 用す るに あ
数の図形での取組であったため,コンテンツ
たっ て 教師 が持 っ てお くべ き 視点 だと 考
の選択としてはプレゼンテーションソフトを
える。
活用した図だけになってしまい,多様なもの
にならなかった。しかし,授業後のアンケー
2
今後の課題
活用の目的を明確にしたディジタル教材は
トからディジタル教材の活用によって児童生
徒の関心意欲の高まりがあったと考えられる。
児童の関心意欲を高め,学力の向上を支援す
他の教科においても,今回整理した活用の
ることに有効であるが,次のような課題が残
目的に合わせコンテンツの選択をしていくこ
った。
とで児童生徒の関心意欲を高めることができ
○
プ ロ ジ ェ ク タ ー を 使 っ て 提 示 す る ディ
るディジタル教材の作成につながると思う。
ジタル教材を,授業中にいくつか活用する
(2) ディジタル教材の活用について
場合,同じ画像をずっと提示しておくこと
活 用 の 目 的 に 合 わ せ た 教 材 を 作 成 し 授業
はIC T機 器の台 数に 制限の ある 現状で
で活用をした。その中で次のような成果を得
は難しい。最近ではあまり使われなくなっ
た。
てきているが,OHPなどのICT機器の
○
特性な ども 考え併 用し て活用 する といっ
動きなどのアニメ―ションを活用し
た工夫も必要である。
て視覚的にとらえさせることで,児童の
○
興味関心を高めることができた。
○
○
視 覚 効 果 の 高 い 教 材 で あ る た め に ,イ
文章ではわかりにくいことを映像で
メ―ジが強くなりすぎてしまい,児童の発
イ メ ― ジ 的 に と ら え さ せ る こ と で 学習
想を 狭 いも のに し てし まう こ とが ある た
課題をつかませることができた。
め,活用の目的と学習のねらいとの関連を
児童の思考のヒントを映像で表示す
明確にしておく必要がある。
ることで,課題解決の支援をすることが
今後,学力向上のために,授業においてI
できた。
○
映像を活用して,前時の復習をするこ
CTを活用していくことはますます広がって
いくものと思われる。しかし,ICTを効果
とで知識理解の定着ができた。
以上のことから,児童の関心意欲を高め,
的に活用していくためには,児童生徒にどの
学力の向上を支援するICTの在り方として,
ような力をつけたいのか,そのためにICT
○ 活用の目的を明確にしたうえでICT
のどんな特性を生かすのか,そして,どのよ
機器の選択やコンテンツの選択をした
うな教材を活用することがいいのかを考えて
ディジタル教材の活用であること。
いくことが大切である。そこで重要になって
情・長研- 11
くるのは教員のICT活用能力の向上である
材を作ることは負担が大きいと考えられる。
と考える。例えば,教材の作成についてだけ
学年の教員のICT活用能力が向上し,分担
考えても,今回のディジタル教材は,教科書
しながら教材の作成ができるようになればよ
の通りに授業が進められ,どの学級でも使う
りよい教材の作成へとつながると考える。そ
ことができるように作成した。また,教材作
のことは,ICTを活用した授業の推進にも
成の時間も一つの教材に1時間もかからない
つながると考える。
ものであったが,やはり一人で単元全体の教
資料
1
文部科学省(ホ―ムペ―ジ)
http://www.mext.go.jp/
2
教育情報ナショナルセンタ―
http://nicer.go.jp/
3
独立行政法人メディア教育開発センタ―
http://www.nime.ac.jp/
4
ベネッセ教育開発センタ―
http://benesse.jp/berd/index.shtml
参考文献
1
国立政策研究所
平成12,13年度
2
文部省
小学校学習指導要領
学習意欲に関する調査研究報告
大蔵省印刷局
研究指導者
福
岡
哲
朗
(主任指導主事)
広
樹
(那珂小学校教諭)
長期研修員
猪
迫
情・長研- 12
(平成18年)
(平成10年)