牛乳に備わる三次機能の効果 三次機能とは「生態調整機能」とも呼ばれ、免疫系、内分泌系、神経系、循環器系などに働きか ける機能です。あらゆる環境の変化に対応し健康を維持できるのも、これらの調整機能が複雑 に働きあっているからこそです。そして、最近では体に備わった調整機能を高める働きが食品 にもあることがわかり、中でも牛乳は、一次機能(人間が生きるために必要な栄養を供給する機 能)、二次機能(感覚に訴え食欲を増進させる)、さらに三次機能まで高める優れた食品であるこ とが明らかになってきました。それでは、牛乳に期待できる三次機能とはどのようなものなの でしょうか、具体的に紹介します。 ●免疫系の調整 免疫系とは、体内に侵入してきた病原体やウイルスを血液中の抗体や白血球が攻撃して分解 し、自己防御するためのシステムのことです。牛乳は、この免疫系を活性化し抵抗力を付けて病 気になりにくい体を作るとともに、免疫系の行き過ぎを防ぎ、炎症作用やアレルギー症状を抑 えて調整する働きが期待できます。 免疫系の機能としては、病原菌やウイルスなどの異物を取り込んで分解するマクロファージ とリンパ球の連係プレーで成り立っていますが、そのリンパ球には、異物を認識して感染した 細胞を分解するT細胞、T細胞が認識した抗原に対して抗体を作り出すB細胞があります。牛 乳のたんぱく質成分のカゼインが消化されて生じるカゼインホスホペプチドには、このT細胞 やB細胞を活性化して、抗体の産生を促進する働きもあります。さらに、このカゼインにはその 構成成分であるκ - カゼインやその消化によって遊離するパラ- κ - カゼインとカゼイノグリ コペプチドが、リンパ球の増殖を抑えて抗体の産生を抑制します。このことは、アレルギー反応 のような過敏な免疫反応を調整する効果もあることを示しています。また、κ - カゼインには、 アレルギー反応を起こすヒスタミンの放出を抑制する働きもあります。 ●病原菌の感染予防 人間の母乳には、免疫グロブリンやラクトフェリンが含まれ、細菌やウイルス、アレルギーの 原因となる異種たんぱくの侵入を防ぎ、新生児を感染から守る働きがあります。同じように乳 牛の初乳にも免疫グロブリンが多く含まれています。これを生まれたての子牛に飲ませること で免疫力を高め、ウイルス性の下痢症を防ぐことが知られています。 また、ラクトフェリンに は、サルモネラ菌や病原性大腸菌の増殖を抑える作用があること が確認されています。 牛乳に期待できるのは、さまざまな生理機能物質です。細菌の細胞膜を分解して破壊するリ ゾチーム、細菌の増殖を防ぐ作用があるラクトペルオキシターゼなどの酵素、細菌やカビなど の感染性微生物を取り込んで分解するマクロファージなどです。乳脂肪から派生する脂肪酸に も感染防御作用があるといわれています。 ―15― 牛乳に備わる三次機能の効果 ●整腸作用 人間の腸管内には 100 兆個もの細菌が生息しています。腸管内では常に、消化吸収を助け腸内 を浄化する善玉菌と有害物質や病原菌を増殖させる悪玉菌とが拮抗し合っています。そして、 いかにして善玉菌を増やし悪玉菌をできるだけ抑えるかが、生活習慣病や発がんなどを防ぐひ とつの要因であることが、最近の研究でわかってきました。その善玉菌を優勢にするための食 品として考えられるのが牛乳なのです。 牛乳に含まれる乳糖は、腸内細菌の働きによって乳酸や酢酸に変換されると腸のぜん動運動 を高めて便秘を防ぎ、便を柔らかくする働きがあります。さらに悪玉菌が生産するアンモニア やアミンなどの腐敗物質や、発がん物質の増殖を防ぎます。また、牛乳に含まれるたんぱく質の κ -カゼインの分解物質カゼイノグリコペプチドには、善玉菌を増殖させる作用もあります。 人間の腸内でも最も多く存在し、有用な働きをするのがビフィズス菌です。ビフィズス菌が 多いということは、健康のひとつのバロメーターにもなるほどです。ビフィズス菌は老化やス トレス、食生活の乱れなどで減少してしまいますので、いかにビフィズス菌を増やしていくか が健康維持には大切な要因になります。牛乳に含まれるオリゴ糖は、このビフィズス菌の栄養 源になり、カゼイノグリコペプチドの増殖を促進する作用もあります。 ●血流の改善 血液中のコレステロールや中性脂肪が高くなると高脂血症を招き、 動脈硬化やさまざまな病気を引き起こします。牛乳に含まれるホエーたんぱく質にはコレステ ロールの合成を阻害する作用があり、また高コレステロールの食品を摂取したときに、その吸 収を抑制する働きもあります。 牛乳はコレステロールが高いと思われがちですが、その値は100g中12mgです。高コレステロ ール血症体質の人でも一日のコレステロール摂取量は、目標として300mg以下とされています から、牛乳をコップ1杯(200ml)飲んだとしても、そのコレステロール値は24mgで全体のわずか 8%に過ぎません。さらに牛乳は、栄養素密度の高いカルシウムやたんぱく質なども含んでいま す。他の食品でそれらを同じ量摂ろうとすると、必要以上のコレステロールを摂る可能性もあ ります。コレステロールが高いという思い込みで牛乳を敬遠するのは、もったいない話です。 また、エネルギーの過剰摂取や動物性脂肪の摂り過ぎも、コレステロールを上げる原因を作 りますが、栄養素密度の高い牛乳はエネルギーのコントロールに役立ちます。動物性脂質に関 しても、日本人の平均摂取量は27.2g/日(平成14年度国民栄養調査による)で、その最大供給 源は肉類や魚介類で、牛乳・乳製品のそれは全体の8%前後に過ぎません。 なお、コレステロールはとかく悪者扱いされがちですが、生命を維持していくためには欠か せない成分で、ステロイドホルモンの材料になったり、脂肪の消化を助ける働きもあります。過 剰摂取には注意が必要ですが、不足しても細胞膜や血管がもろくなり、脳出血や神経障害など 様々な障害が生じることになります。コレステロールや脂質をほどよく含み、血中コレステロ ールを適量に保つには、血中コレステロールを上げる要因の少ない牛乳は、好ましい食品のひ とつといえます。 ―16― 牛乳に備わる三次機能の効果 ●高血圧の改善 日本人に多い高血圧症の 90%は、原因が不明な本態性高血圧と呼ばれるものです。本態性高 血圧は、遺伝的因子を背景に環境的因子が加わって発症しますが、その環境因子で最も多いの が食事です。 高血圧を招く食事因子といえば、食塩の主成分ナトリウムの過剰摂取がよく知られるところ ですが、血圧が上がるメカニズムはまだ完全に明らかにされていません。ただ、ナトリウムが血 液循環量を増やして、心拍出量が増加するためだという説があります。そこで、このようなナト リウムの血圧上昇作用を妨げる働きで、最近注目されているのが牛乳に多く含まれカルシウム の働きです。アメリカのオレゴン大学で行った調査によると、カルシウムの摂取量が多いほど、 高血圧の頻度が低いという結果が報告されました。カルシウムが血圧を下げるメカニズムも今 のところ完全には解明されていませんが、ひとつにはカルシウムがナトリウムの排泄を促進す るからだといわれています。 また、腎臓から分泌されるたんぱく質分解酵素レニンの作用で、体内にできたアンジオテン シンが、血圧を上昇させる強い作用をもつことが知られています。アンジオテンシンはその前 物質に変換酵素が働きかけてできるのですが、この変換酵素の働きを牛乳のカゼインが消化さ れてできるペプチドが阻止すると考えられ、結果的に血圧の上昇を防ぐといわれています。 ●不眠の解消 心地よい眠りには、精神的な安定と落ち着きが何よりも必要です。微弱ながら誘眠作用のあ ることで知られるのが必須アミノ酸のひとつトリプトファンで、鎮痛や鎮静作用を持つ神経伝 達物質セロトニンの原料となります。このように神経を落ち着かせるトリプトファンは、様々 な食品のたんぱく質に含まれていますが、中でも牛乳は消化、吸収もよい食品なので、睡眠前に 摂取するのは最適といえます。 また、母乳中のたんぱく質が消化酵素によって分解されたペプチドには、神経を鎮静化する 働きがあることが解明されています。同じように牛乳のたんぱく質にも、酵素で分解すると数 種類のオピオイドペプチドが含まれますが、オピオイドペプチドは鎮静作用を示すペプチドの 総称でもあり、牛乳に含まれるオピオイドペプチドは、神経を落ち着かせ、睡眠を促進する作用 があるといえそうです。ただし、詳細はこれからの研究の進展に委ねられます。 そして、一般的によく知られているのが、牛乳に多く含まれるカルシウムが交感神経の働き を抑えることです。イライラや不安、緊張などは自律神経の交感神経が優位のときに起こりが ちですが、そんな時温めた牛乳をゆっくり飲むと、気分がリラックスできて心地よい眠りに誘 ってくれる効果もあります。24時間活動型の現代社会では、便利さが増えた反面ストレスも 増し、睡眠不足や眠っても浅い眠りしか得られず、体のだるさや体調不調を訴える人も少なく ありません。夜になると副交感神経が優位に働いて、自然に眠気が生じるように、牛乳の機能が 改めて注目されています。 ―8― ―17―
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