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片木 智年
1960 年高知県生まれ。慶應義塾大学文学部卒
パリ第3大学博士課程修了
(博士・フランス文学)
。
現在、慶應義塾大学文学部教授。
専門:フランス古典文学・おとぎ話論
フランス史・文学分野での訳書の他に、著書『星の王子さま☆学』慶應義塾大学出版
会(2005)、
『少女が知ってはいけないこと:神話とおとぎ話に描かれた〈女性〉
の歴史』PHP 研究所(2008)など。
一度きりの人生で出会えたことを、感謝したくなる本。
時にそんな幸運な出会いに恵まれることがありますが、多くの人々にとって、『星の王子さ
ま』は、まさしくそんな一冊のようです。世界百数十カ国語に訳され、日本でも愛され続
けてきたフランス文学の珠玉。タイトルからして、子供だけに向けられた本と誤解されが
ちですが、ナチスに屈した故郷フランスを離れ、アメリカに亡命した作者サン=テグジュ
ペリが、祖国開放戦線への復帰を前に思いの丈を綴っていった遺品です。
1年後、コルシカ島の基地を飛び立った飛行士サン=テグジュペリは、快晴の地中海に消
えました。美しい夏の朝でした。
本作では、作者自身の少年時代の幻を思わせる「王子さま」と、語り手の間の対話が、清
澄な砂漠を舞台に、繰り広げられます。やがて「王子さま」は自分の星に戻っていくため
に、毒蛇にくるぶしをかませて、砂の上に倒れるのですが、翌朝、死体は見つかりません。
不思議なお話です。しかし全編を通じて、生と死をめぐる瞑想、死を超えて生きようとす
ること、死を超えて愛し続けようとすること、そんな希求が表現され、子供・大人を問わ
ず、私たちの心に消し去り難い印象を残しているのです。
この Le Petit Prince の原文は、厳選された語彙と、研ぎ澄まされたシンプルな構文で
書かれた、平易、かつニュアンスに充ちたフランス語です。それゆえ、しっかりと原文
を理解するだけでなく、表現手段としての日本語の可能性を探りながらの翻訳作業が大
切になります。
人類文学史上に輝き続けるであろうこの稀代の名編を、新たな日本語で生まれ変わらせる。
そんな作業に一緒に参加してみませんか?