精神障害のある方の雇用・実習受け入れによる企業のイメージ変化

精神障害のある方の雇用・実習受け入れによる企業のイメージ変化について
~イメージ尺度・インタビュー調査の結果より~
◎谷口さつき¹
山本隆博¹
池田浩之¹²
(¹NPO 大阪精神障害者就労支援ネットワーク; ²兵庫教育大学連合大学院)
1.問題と目的
の一助を担うことを目的に行うこととした。
厚生労働省が 2008 年の「患者調査」により推計した
ところ精神疾患患者は 323 万人おり、常用雇用されて
いる精神障害のある方は 2 万 9 千人と推計される。精
2.方法
本研究は、JSN から訓練を経た精神障害のある方を
神障害のある方を取り巻く雇用環境においては、施
雇用している、又は実習を受け入れている企業を無作
策・法整備等により目まぐるしく変化している。
為で 10 社抽出し、インタビュー調査と質問紙による調
障害者自立支援法(2007)のもと設立された就労移行
査を行った。インタビューの対象者は、実際に現場で
支援事業所、NPO 大阪精神障害者就労支援ネットワー
当事者と関わりを持っている方 15 名(現場で働いてい
ク(以下、JSN)は精神障害のある方を一般雇用へと
るリーダー等)とした。インタビューでは、過去に精
繋げる支援活動を続けている。 その支援の過程の中で
神障害のある方と関わったことがあるかを聞き、関わ
一般企業から体験実習や雇用を受け入れる前に「精神
りを持つ前後でその印象に変化があったかどうかを質
障害のある方は何をするのかわからない 、怖い」など
問紙に記入していただいた。質問紙は SD 法(SD:
のイメージを持っているということを何度となく聞い
Semantic Differential method)に則ったイメージ尺度
た。その一方で、精神障害のある方と実際に接してみ
の項目(全 20 項目、2 対の単語のどちらにあてはまる
ると「最初とイメージが違った」
「健常者と変わらない」
かを 7 件法できいたもの)と、厚生労働省による就労
という声もあがっていた。精神障害のある方と接する
に関するチェックリスト(「就労移行支援のためのチェ
機会のある学生を対象とした調査では、授業や実習前
ックリスト」の概要:p3)を参考にし、就労に関するイ
の学習により、漠然とした不安を減少できる、さらに
メージとして JSN 独自に作成したもの(全 10 項目)を使
はイメージが肯定的なものに変化したり、理解を深め
用した。計 2 枚の質問紙をインタビュー中に「精神障
ていくことが可能である(東口・米沢・菅野他, 1989;
害者と接する前」、
「精神障害者と接した後」に分け、2
峰岸・古屋, 2000)ということが明らかになっている。
回記入して頂いた。
また厚生労働省が精神障害者を雇用している事業所に
対し行ったアンケート調査(「平成 20 年度における障
3.結果
害者の職業紹介状況等」)によると、職務遂行や職場適
質問紙による精神障害者に対するイメージ(図 1)
応についての「基礎体力」
「出退勤等の労働習慣」では
は接触前には否定的なイメージを抱いている項目が多
「問題ない」と答えた企業が多く見られ ていた。実際
い。しかし、全項目において接触前よりも接触後の方
に受け入れた企業は、精神障害のある方の基本的な職
がイメージは良くなっている。中でも接触後のイメー
業能力を認めていると思われる。
ジが大きく変化した項目は⑯『親しみにくい・親しみ
これらのことから、一般企業が抱いている精神障害
のある方に対するイメージは、接触体験と実際に働い
ている様子を見ることによって変化する可能性がある
と思われる。
やすい』④『近づきがたい・ひとなつっこい』⑧『責
任感のない・責任感のある』である。
質問紙による精神障害者の就労に関するイメージ
(図 2)においても、接触前には否定的なイメージを
本研究は、企業側の精神障害のある方との接触体験
抱いている項目が多い。しかし、こちらも全項目にお
前後でのイメージ変化を明らかにすることで、その結
いて接触前よりも接触後の方がイメージは良くなって
果を接触した経験のない企業に示し、雇用促進的役割
いる。
点線=接触前
実践=接触後
点線=接触前
実線=接触後
図 1. 精神障害のある方との接触前後のイメージ変化
図 2. 精神障害のある方との接触前後による「就労」に
関するイメージ変化について
特に、接触前と比べ接触後のイメージが大きく変化し
た項目は②『休む→休まない』④『指示理解がない→
る発言も多く聞き出せた。図 1 にもあるが、精神障害
指示理解ある』⑤『会話ができない→会話ができる』
に対するイメージが接触前から既にネガティブな印象
であった。
になっているため、受け入れへのハードルが高いとい
インタビュー結果においては、症状の個人差が企業
うこと、しかし実際に会うとその印象は変わり、
「普通
としては不安だが、受け入れてみると普通だったとい
の方」と思うようになるとのことだった。これらのこ
う意見が多く見られた。また、受け入れてはいるが、
とから精神障害のある方への偏見などが、障害者雇用
自社内のマンパワー不足から今後の受け入れに関して
や企業実習などにおいて改善される可能性が示唆され
は慎重に検討したいという意見も複数うかがえた。
た。
一方で、企業では依然精神障害のある方への普遍的
4.考察
な対応を持っていると自覚しているわけではなく、
本研究では、精神障害のある方の雇用・実習受け入
個々人の症状の違いや企業側のマンパワー不足などを
れによる企業のイメージ変化について SD 法による質
理由に次回の受け入れに対して不安を感じていること
問紙とインタビュー調査により明らかにすることを目
も明らかになった。
的に行った。
今後これらのイメージ変化をもたらす 精神障害のあ
結果より、雇用や実習で受け入れたことのある企業
る方の雇用・企業実習を促進させるために、障害者雇
における精神障害のある方のイメージは接触前と比べ、
用等における企業の抱えている問題・不安を解消して
変化があることが明らかになった。このイメージの変
いく支援側の活動が益々求められる。
化には、心理学上で言われる「単純接触効果」がある
程度影響していると思われる。しかし本研究で作成し
5.発表者連絡先
ている就労に関するイメージは、実際の作業能力や出
NPO 法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク
勤状況を直接見たことによる影響が大きいと思われ、
単純接触効果以外の確実なイメージの変化と言えるの
ではないかと考えられる。
またインタビュー調査により、その変化の根拠とな
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就労支援員・研究員
谷口さつき