Paris souvenirs - Mayumi Okura works

Paris souvenirs
パリ スヴニール
大藏 麻由美 + Dominique CUNIN
(ドミニク キュナン)
Paris souvenirs
パリスヴニール2009/2010 インタラクティブインスタレーション
テーブルの上におかれた大小のスノードーム。
中には変形されたパリの街の一部がそれぞれ入っている。
ドームはパリの街の地図を元に配置されているが、
テーブルの上には地図はない。
観客は手に取って雪を降らせ近くで中の街を覗く事も出来る。
スノードームのおかれている場所の下には日付となんでもないその日の出来事が書
かれている。観客はその出来事とスノードームの中の街を見比べる事でその場で起こ
った事を追憶する事が出来る。
3Dモデルを3Dプリンターをつかってプラスチックのオブジェにしたものがスノードー
ムの中に入っている。
そのオブジェクトはパリの街を実際に散歩してその記録(時間と
行動)
を元に3Dモデルで表されたパリの街を変形(膨張、縮小)
されている。
Contexte et du Concept Projet
コンセプトとコンテクスト
観光地を訪れる時、必ず目にするのはお土産屋さん
ではないだろうか。
そしてだれもが一度は何かを購入したり誰
かにプレゼントをしたのではいだろうか。
スノードームがお土産の代名詞的存在になったのは1878年
のパリ万国博覧会にさかのぼる。元はペーパーウェイトとして
愛好家にたしなまれていたものだが世界中から万博を訪れた
人々の万博に来た記念として買われて行った。
それ以来スノ
ードームはお土産の代表格になる。
当時もエッフェル塔や凱
旋門やサクレクール寺院など、今のパリの土産物屋に山積み
されているスノードームとあまり変わらないオブジェクトがな
らんでいたことだろう。
このお土産が大人気となった一つの理由として、
ひとつの万
博の出し物があった。気球にのってパリの上空を散歩すると
いうものであった。夜の11時まで運行されていたその気球は
当時万博の中で一番の人気を誇っていたと言われている。
そ
して少しさかのぼる事1857年に成功したナダールによって撮
影された世界初の航空写真であるパリ上空からの写真が存
在し、人々は技術の発展によって新しい視点から街を見る事
が出来るようになる。
この視点は都市の内部からは得る事の
出来ない視点であり、街そのものへのイメージの定着の変化
の始まりだともいえるだろう。新たなる視点の登場とによって
都市空間への距離というものは失われ都市はイメージになり
全体から眺めれるもの、へと変化したのではないだろうか。都
市空間は現地点から目の前の景観のみではなく、
サクレクール寺院周辺の土産物屋
地図的 なイメージをもって認識へも埋め込まれてゆく。
これは近
年盛んに開発の進むあたらしい地図の形であり、GoogleMapや
GoogleEarthなどにおける地図という機能によって生まれる都
市空間に対してのイメージ、都市を見る者と、見られる物としての
都市との間に起こるイメージの揺らぎにも似ている感動だろう。
ナダールが飛行船にのって手に入れたファインダー越しの都市の
景観の写真は、
その後の
「イメージが世界を変える」
という、
現在ま
でのイメージと世界の架け橋の発端としてつながる。
ナダールのこ
の航空写真はヴェルター ベンヤミンに
「対物レンズに初めて発
見の可能性がひらけた」
と言わしめた。写真という装置が単に人
の目が見る事ができる視界の記憶する装置、
というだけでなく、
イ
メージの代弁者として、見る事が禁じられていたものやみることが
1868年7月16日に行われたナダールにによる航空写真 凱旋門界隈にて。 24x30cm
不可能だった対象へも、視点をのばすことになっていく。
カメラの
出現と天空からの視点を可能にする気球の存在によって、都市は
ミニチュアの世界へひきずりこまれていったのである。
そこからと
あるパリのガラス職人がかれの自然なインスピレーションによって
スノードームの中にミ ニチュアの都市のモニュメントを埋め込む、
というわかりやすい、
また観客の多くが同じように体験したその都市
空間への感動をオブジェクトに変換させる事によって、爆発的ヒット
のお土産を生み出す。
イメージ空間としての都市として、
イメージとし
て構成された一つの世界観、
など、
そうした視覚的認識がこの時期
の人々に急速にひろまっていったのだろう。
人々は自然にパリ万博へ
きた興奮の肩代わりとしてちいさなスノードームにおさめられたパリ
の街を記憶の象徴として世界中のそれぞれの自宅にもってかえった
のである。そして地に足をつけて移動する場合、
ここからあそこへと
街の中を移動することは、風景を追憶しながら、
あるいはいつもの道
ならば何も考えずに目的地へと歩く事も出来る。
そして反対に、観光
などでとある街を訪れた場合にはその街の景観や風景を見落とさ
ないようにゆっくりとあるく。
(ときには記憶を保存するためにカメラ
を使う)。場所と時間の狭間に人が関わる時、
それぞれは必ずしもお
なじ経過をたどるわけではない、
と言い換える事も出来るだろう。
あ
る場所は私たちの関心をひきつけ、
あるいは注意すら払わずに通り
過ぎることもある。風景のヴォリーュムはいつも流動的で、私たちの
記憶の中の都市空間は私たちの環境への関心によって変化する。
私たちの記憶の都市空間は私たちの関心のままに進化し、私たちは
それを持ち続ける。
そして移動時間のなかで使用した時間の経過は都市空間の変形へ
の揺れ動きを許す。
ある目的地への道筋は目的地へたどり着くため
に、
その道の中での風景の変動には注意を払われない。
その場合、
道のりの間の私たちの記憶は目的地にたどり着くという思いによっ
て通り過ぎる風景は私たちの内部の都市空間の記憶にはあまり影
響がない。
例えばとある古いカフェで待ち合わせをして、
その場にたどり着く事
が目的の場合、
目に入るのは道の名前や標識、
あるいは同じよ
うな古い建物やカフェではないだろうか。
それは目的地を探すとい
うことによって移動時間が使用されるので漠然とした風景への関
心(とくに待ち合わせや遅刻している時は)
は全く払われない。急ぎ
足だろうし、到着するということへの関心が強くなっているだろう。
重要なものは意識を占領する。待ち合わせの場所はは誇張された
ように意識の中にあらわれる。
あるいは、移動手段をメトロを選択した場合ではメトロの車内の記
憶のみが空間の移動の記憶になる。駅から駅への移動のため私た
ちの中の地理的な関心は駅の名前ぐらいになってくる。
その間も物
理的に私たちの肉体は街の空間の中を移動している。
しかし、私た
ちの内部の都市空間の記憶はメトロの車内の状況になる。通過し
た時間のなかで私たちが使った時間の使い方は記憶の都市空間
の変形への揺れ動きを許す。
その揺れは例えて結うなら拡大鏡の
効果、
オペラグラスによってある場所を膨張させるように。
そして関
心に比例してあるいは風景を縮小させる。
現在の衛星写真や街の
精密な3Dモデルの置き換えから生まれる都市空間へのイメージ。
従来のポストカード的イメージではない知られざる場の映像のア
ーカイブをビジュアル的空間力をもったあらたなイメージによって
訪れた事のない街へもかなりの精密度でわたしたちは都市を覗き
見る事が出来る。
しかし、現実に街を歩く時、
わたしたちはその全て
を観ているわけではないし、記憶しているわけでもない。観光地に
おいてもその場で生活するのならばそれは生活の空間であり観光
地ではないのである。
観る事、地理と個人の間に生まれる連動。私たちの主観的な地図
の形は様々であり、
すべてのテクノロジーを使用しても曖昧でゆら
ぎを持ったものである。
それをスノードームとして出力することによ
って、思い出の代弁者としたオブジェクトの制作は私たちの都市空
間における記憶の形を再確認する行為でもある。
1:GPSトラックをGoogleEarthに重ねあわせる
!
!
!"#$%&"'()(*+',-./',($)0"(,123,-)'&,4",4+5*6*"4,1++54",7)$(8,
街に出る時、GPSをもって出かける。
自分たちの道筋と滞在時間が記録される。
2:GarminGPSと地図とサクレクール寺院
3:GPSトラック
Résultat des premières transformations de trajet GPS en objet 3D
4:4日間のカルティエランタン界隈での行動
2:3DプリンターソフトCatalystEXによって表されるモデルの断面図。
蓄積されたデーターを元に、
3Dモデルで表されたパリの街
を変形させる。
長く滞在した場所は膨張し、
よりモデルも精密になり、通り
過ぎた場所や同じ界隈でも実際目にしていない箇所は縮小
されより単純な形態に変形される。
1:GPSのデーターを元に変形された3Dモデル。
3:GPSのデーターを元に変形された3Dモデル。
3Dプリンター Dimension Printerによって出力される。
3DプリンターソフトCatalystEX に3Dモデルを入力し、空洞がないか
チェックした後、
3Dプリンター Dimension Printer にデーターを入力
し、
モデルを出力する。
大藏 麻由美/ Mayumi OKURA
1977年愛知県生まれ、
パリ在住 [email protected]
http://mayumi.okura.free.fr
アーティスト・研究者。2002年多摩美術大学絵画科日本画専攻卒業。2004年フランスに渡
り、
ナンシー国立高等美術学校3年に編入、DNAP首席、DNSEP審査員の奨励次席で卒業。
デジタル メディアを作品制作に用い始める。彼女の芸術作品は、記憶、存在と不在、また、時
間や知覚の概念に基づいている。彼女の作品では観客ーここでは観客は作品へ働きかける事
が出来る、
あるいは観客は鑑賞者になる、
また、
じょじょに暴かれる対象物に向かい合っている
証人ーを多様な状況へと差し伸べられる。彼女が存在させているのは一つの象徴的な場であ
り、
そのなかにたたずむ観客にとってはある種の特別な環境の体験である。2006年から1年間
(平成18年度)、文化庁海外新進芸術家に選出され現代美術派遣員としてフランスへ派遣。現
在 ジャンルイ ボワシエ氏と藤幡正樹氏による共同博士論文指導パリ第8大学博士課程在
籍、
パリ国立高等装飾美術学校研究室「モビリティーの形」(ENSAD-Lab FdM)にアーティス
ト・研究者として所属。
またパリ第八大学インタラクティブ美学研究所の研究員。作品は、
フラ
ンス、
日本、
スイス、韓国などで展覧会で発表され、また、2010年「テラニュメリカ TerraNumerica」(シチュ Citu /キャップデジタル Cap Digital、
パリ)、
「リフト10/Lift10」(リフト Lift/
ヘッド Head、
ジュネーブ)等の研究プログラムにも定期的に参加、発表している。
ドミニク・キュナン / Domminique CUNIN
1980年フランス生まれ、
パリ在住 [email protected]
http://dominique.cunin.free.fr
ナンシー国立高等美術学校、
ポワティエ欧州立高等映像学校修士課程修了。彼のアートプ
ロジェクトは、
デジタル映像技術を経由した、空間の表現と読み解きをテーマとする。彼の制作
は、
コンピューターグラフィックアニメー ションやビデオ、
インタラクティブインスタレーション、
実験的なソフトウェアの開発、
オンライン共有空間上での作品体験、
さらにモバイルディバイ
スを使用した作品などにその力が注がれている。金沢市立美術工芸大学との交換留学プログ
ラムで1年間日本に滞在、
それをきっかけに日本語の勉強を深め、現在ではとても流暢に話す
ことができる。現在パリ第8大学博士課程在籍、博士号担当教授にジャンルイ ボワシエ氏。
パリ国立高等装飾美術学校研究室(EnsadLab)研究員、またパリ第八大学インタラクティブ
美学研究所のアーティスト研究者として所属。ヴァランシエンヌ大学、
ナンシー国立高等美
術学校(ARC)講師。2007年欧州文化首 都ルクセンブルクの公式プログラム、
「コンティニュア
ム Continuum」展のキュレーターを務める。彼の作品は、
「イン-アウトIn-Out」(2006-2008
、パリ - Citu)、
「ロスタイム、
セカンドライフの残したもの Temps Perdu, Vestiges d’une
second life 」(ギャラリー9/ナンシー国立高等美術学校、2009年 )等の研究プログラムに
関連する展覧会に参加。
また、
オンライン ジャーナル
『So Multiples』(2010年)、著書『R&C
―研究とクリエーション― 』(Burozoïque、2009年)など。
提供
パリスヴニールはフランス文化庁研究企画のプロジェクト Cap-Digitalの研究内容の一つで
ある TerraNumericaテラニュメリカ で Citu (パリ第一大学、
パリ第八大学共同研究ラボラ
トリー)の提供によって発表される。
また国立ナンシー美術大学校から3Dプリンターの協賛
をうける。
アレクサンドル ブリュニョニの助力のもとに2009年から2010年にわたり制
作された。
コンセプト及び作品の権利は大藏麻由美とドミニク キュナンによるものである。
http://mayumi.okura.free.fr/wordpress/?page_id=114