食品高圧加工の動向

「フィッシュマーケット」
シドニー(オーストラリア)
KT
【CONTENTS】
随 想
泡盛を卒業論文のテーマに …………………………………………… <秋永孝義>… 538
シリーズ解説 食品高圧加工の最新動向(第1回)
食品高圧加工の動向 -関連科学技術の進展- …………… <山本和貴>… 540
シリーズ解説
シリーズ解説 わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策(第5回)
サプライチェーン・物流における食品ロスの現状と課題 … <石川友博>… 550
特別寄稿
産業余話
第7回:変化する資源取引契約 ……………………………………… <並河良一>… 556
海外技術・マーケット情報
2015年(第59回)軟包装受賞製品について…………………………………………………558
ミレニアル世代を取り込む巨大飲料ブランド………………………………………………561
富裕層だけではなくなった飲料のプレミアム志向………………………………………………563
後回しにされてきた食品腐敗への取り組み…………………………………………………564
可食性フィルムの製造…………………………………………………………………………568
高齢者の脳を守る………………………………………………………………………………570
中小食品企業の環境アセスメントを支援する SENSE プロジェクト……………………572
一刻者の独り言 第8回:国際化に対応した食品産業と研究開発(その四)
-食品の新たな機能性表示制度- …………………………………… <岩元睦夫>… 576
特別解説:
「水出し緑茶」の免疫調節メカニズム ………………………… <物部真奈美>… 578
特別解説:食肉製品の赤色化に関するリサーチ ―発色剤低減化のために― ………………………………… <坂田亮一>… 584
業界トピックス:ミネラルウォーター,猛暑で急上昇 …………………………………………… 588
業界の話題…………………………………………………………………………………………… 589
今月の統計…………………………………………………………………………………………… 592
最近の技術雑誌から………………………………………………………………………………… 594
開発目線の四方山話(第5話)モノづくりの三つの出合い ………………… <宿﨑幸一> … 599
表紙デザイン 大原 菜桜子
缶詰技術研究会 http://kangiken.net/
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随想
泡盛を卒業論文のテーマに
あき
なが
たか
よし
秋 永 孝 義
(琉球大学名誉教授
沖縄県知事認証泡盛マイスター登録番号477)

大学に勤務していたときは4月が近づくと私は
装置の試作品を無償で貸与してくれました。もと
気が重くなったものです。大学を退職して4年が
より,物理系で化学実験が不得意な多くの学生さ
過ぎようとしていますが,未だに思い出します。
んは,当時この装置が研究の先端だったこともあ
☆ ☆ ☆
り,われもわれもと,この装置を使った研究を始
卒業論文のテーマを決める時期です。登録は機
めました。いつでも手に入るということで,泡盛
械的なのですが,テーマによっては実行できるの
を材料に選んで,同一銘柄で熟成年数が違う泡盛
は天気次第であったりします。私が所属していた
を分析していた学生さんが「先生,判別分析で熟
のは農学部生物生産学科農産施設工学研究室で,
成年数が区別できました」と報告してきました。
主に,沖縄県産農産物の品質保持のための貯蔵や
原料の米はタイ産のインデカ米,仕込み酵母はほ
輸送方法について教育研究をしていました。学生
ぼ同じということは知っていたものの,酒造りの
さんは「マンゴーの貯蔵を,アセロラの貯蔵を,
知識は乏しいものでした。当時,知り合いの造り
島バナナの貯蔵をしたい」と価格も時期も考えず
酒屋さんに研究内容をたずねられて,酒の機器分
に提案してきます。いずれの果物も由緒正しいも
析と答えると「飲めば味が分かるのになんて面倒
のしか実験に使えませんので,市場の仲買商や JA
なことをやるの」と揶揄されたものでした。以来
の果実担当にその年の生育状況,市況等をたずね
10年ほど,泡盛の酒質を機器で分析する研究に携
て,予算を立て,予算内で実行可能で,且つ,品
わりました。しかし,教える立場にありながら私
質評価の指標が明らかな場合は OK を出します。
の泡盛についての知識は乏しく,詳しいことは発
しかし,生育状態や時折襲う台風は予測ができず,
酵の先生方に助けてもらっておりました。
今年は実験材料が入手できないので,果実を替え
☆ ☆ ☆
ようかということもしばしば。学生さんは急なこ
平成23年3月末に退職して,新聞記事で泡盛マ
ととはいえ,文献を再度検索して計画を立て直し
イスターの存在を知り,また,沖縄国際大学と沖
ます。中には途方に暮れて泣き出す女子学生さん
縄大学で養成講座もあることを知りました。学び
も出る始末。そこで,季節性がなく常時手に入る
直しができると遅ればせながら沖縄国際大学で平
材料を探すことになり,女子学生さんが多かった
成25年度の琉球泡盛学Ⅱから受講し,26年4月に
こともあり,沖縄そば,沖縄豆腐,ちんすこうな
琉球泡盛学Ⅰを受講しました。泡盛マイスター教
どを学生さんの意向を踏まえて材料にしました。
本Ⅰの最初には「泡盛マイスターとは」泡盛の消
いつの間にか大学のホームページで,私の専門の
費者の立場で琉球泡盛の知識を有する最高位を表
キーワードが伝統食品になっていました。そうこ
す称号とあります。講師の先生方の指導を受け,
うしているうちに知人が携帯型の近赤外分光分析
おかげさまで平成26年度の認定試験の学力試験に
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第1図 中赤外吸光スペクトルを用いたクラスター分析(平均連結法)のデンドログラム
(日本食品保蔵科学会誌 39 巻4号 206P より転載(転載許可済み))
合格,実技試験は泡盛をスマートに飲む機会がな
FTIR のデータはクラスター解析により興味深い結
く自信がなかったのですが,平成27年2月に受験
果を示してくれました。沖縄県内すべての酒造所
してなんとか合格しました。退職後の1年を沖縄
の泡盛を網羅的に分析したあるデータが第1図に
国際大学で学生として学んだわけです。私は退職
示すように産地ごとに分類できたのです。結果は
の数年前には,大学評価センターという大学評価
日本食品保蔵科学会誌に技術報告として投稿する
の仕事も経験しましたが,教育の評価は難しいも
ことができました。
のでした。沖縄国際大学の泡盛マイスター養成講
☆ ☆ ☆
座の評価は,私が認定試験合格したということで
台風が来襲しなければ,泡盛を研究材料に選ぶ
個人的には高い評価が得られたものと思います。
こともなかったでしょう。
今思えば,現役時代には学生さんの卒論指導で味
☆ ☆ ☆
やなんかがテーマにならなかったのが幸いでした。
先日,私は泡盛マイスターの研修の際にパッチ
卒論を専攻した学生さんの中には原料がほぼ同じ
テストを受け,見事に ALDH 2型部分欠損という
でこれだけ味が違うのは泡盛の原材料の一つ,水
下戸の烙印を押されました。学生時代から酒に弱
に秘密があるのではと,仕込み水と割水の分析を
かったので,酔わされないように酒を分析してみ
続け,そのためではないのでしょうが,伏見の酒
ようと考えたのかもしれません。ところで,泡盛
蔵に就職した学生さんもおりました。分析に用い
マイスターの認定書には「泡盛に関する広範な知
た装置も貸与された携帯型近赤外分光分析装置に
識と技術を有し泡盛の魅力を普及促進させること
とどまらず,大学の機器分析センターが所有して
ができるものと認証します」とあり,
「飲む能力」
いた中赤外分光分析装置や FTIR(フーリエ変換赤
とは記載がありません。
外分光装置)に進化していきました。とりわけ
食品と容器
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❖シリーズ解説❖
❖シリーズ解説❖
第1回
食品高圧加工の最新動向
食品高圧加工の動向
-関連科学技術の進展-
や ま も と・ か ず た か
東京大学大学院農学研究科博
士課程修了。農林水産省入所
後,食品総合研究所,スイス
連邦工科大学博士研究員等を
経て,現在,国立研究開発法
人農研機構食品総合研究所食
品工学研究領域食品高圧技術
ユニット長。
博士(農学)
◆1.はじめに◆
山 本 和 貴
シリーズ解説「食品加工における高圧利用の新
◆2.食品加工における
圧力利用の歴史◆
展開」が,本誌「食品と容器」に2005年11月1)
有史以来,食品の調理・加工といえば,火すな
から2008年6月
2)
わち熱を利用することであった。よって,食品の
まで連載されてから,現在は
いた
調理・加工操作に関する日本語では,焼く,炒め
2015年,およそ10年の歳月が過ぎた。
この間,社会情勢も科学技術も変化を遂げたが,
ひ へ ん
れん が
る,煮る,蒸す,煎る等の漢字は,火偏,連火等
へんぼう
果たして食品高圧加工における進展はどうであっ
の「火」を表現する偏旁を部首として含む。人類
ただろうか。本誌事務局から依頼を受けて,再度
は,火による加熱操作により,食品に焼き目,焦
シリーズ解説を企画し,この間の進展を概観する
げ目を付けて独特の風味を醸し出して美味しくし
こととなった。
たり,殺菌して保存期間を長くしたりしてきた。
本連載では,まずは動向を概観し,それに続い
現代社会では,火に加えて電子レンジ,電気オー
て,基礎,応用の両面から話題をちりばめ,装置,
ブン等も利用されるようになったが,これらも加
高圧加工食品についても触れる予定である。その
熱を積極的に利用した熱的操作である。
中には,食品に限らず重要と思われる高圧科学の
進展,実用化事例の紹介を含めたい。
な
一方,食品加工への圧力の利用は,ナポレオン
の時代からなされている。フランス軍の長期遠征
じ
本稿では,まず,これまで食品高圧加工に馴染
のために,ガラス瓶に食べ物を入れて密封加熱す
みのなかった方に,その概要をご理解頂くために,
ることにより,長期保存を可能にした。密封して
食品高圧加工を概説し,近年の進展について述べ
加熱すると同時に,瓶内の蒸気により圧力が数気
る。概説については,過去10年間に大きく変化
圧上昇し,滅菌されていたと考えられる。これを
がなく,冗長な部分も含まれるので,すでに勉強
基盤として,現在の食品工場では密封した容器を
されている方には退屈な部分も含まれるかも知れ
加圧下で加熱することによるレトルト食品(滅菌
ないが,ご容赦頂ければ幸いである。
食品)が製造されており,家庭では圧力釜による
加圧加熱で調理時間が短縮されている。しかし,
これらの加圧は,密閉系での加熱により,常圧よ
食品と容器
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食品高圧加工の動向-関連科学技術の進展-
りも数気圧程高くしているだけの消極的加圧に過
圧縮による温度上昇,減圧時には断熱膨張による
ぎない。つまり,従来の食品加工においての圧力
温度低下があるため,非加熱の操作ではなく,厳
利用は,加熱操作の補助的役割が主流であった。
密には非熱的操作でもない。しかし,放射線照射
しかし,1980年代後半に状況は一変した。数千
処理,低温プラズマ処理等の新しい食品加工技術
気 圧( 数 百 MPa) の 高 圧 力(HHP;High
と同様に,広義での非熱的操作に分類される。熱
Hydrostatic Pressure)を,食品加工で積極的に利
処理では,熱伝達・熱伝導の制約のため,食品を
用することが提案された。高圧処理(HHP 処理)
熱媒体に置いても,その中心温度が目的温度に到
は,圧力は利用するが,熱は積極的に利用しない
達するまで一定時間が必要である(第1図)。そ
という意味で,広義の非熱的(nonthermal)操作
れ故,食品の熱物性を十分に把握した上で予測し
といえる。1987年,当時京都大学助教授の林力丸
なければ,不十分な加熱が問題となることがある。
先生(故人・2014年8月3日没)が,高圧力の食
不完全な殺菌を避けるために,安全係数をかけて,
品加工への利用についての提言を和文で投稿
し
必要以上に長く熱処理すると,品質が劣化してし
て以降,食品高圧加工の研究開発が日本で盛んに
まうから注意が必要である。一方,高圧処理を含
なり,この流れは世界へと広がった。日本におい
めた圧力処理では,食品を圧力媒体に浸漬(注:
て芽吹いたこの革新的な加工技術,食品高圧加工
「しんせき」は誤読)して加圧すれば,ほぼ瞬時
技術により,圧力が新たな食品加工操作パラメー
に食品全体が目標圧力に到達する。よって均一な
タとして加わった。
食品加工が可能である。
3)
しん し
食品高圧加工処理における加圧・減圧時の温度
◆3.非熱的食品加工技術としての
高圧処理の特徴◆
変化は,加圧・減圧速度,容器形状,圧力媒体の
食品を加熱すると,色素成分,香気成分等の加
食品加工の圧力媒体として用いられる液体の水は,
圧縮率等に左右される。食品の構成成分であり,
熱生成物が生じたり,分子結合が切れて有用成分
1000気圧にしても数 % 程度しか圧縮されず,気体
が失われたりする等,様々な化学反応が起きる。
と比べると圧縮率が遙かに小さく,加圧時・減圧
これにより,加熱食品に成分変化が起こり,独特
時の温度変化も,冷房装置の室外機等のように気
な風味や色合いが醸し出される。
体を圧力媒体とする場合と比べて,遙かに少ない。
はる
一方,圧力での処理においては,化学反
応は原則的には促進されず,分子の巨視的・
微視的な物理的変化が起こる。例えば,巨
視的には,気泡分散系では気体の液体への
溶解による均一化で気泡が消失し,微視的
には,分子運動が制約を受けつつ,分子と
分子との間にある空隙を埋めるように分子
たんぱく
は詰め込まれる。特に蛋白質のような巨大
分子では,分子内・分子間の水素結合等が
切れ,各種分子により分子内の空隙が埋め
られて元の立体構造が崩れ,変性が起こる。
食品の高圧加工においては,この特異な
物理的変化を利用する。高圧処理は,積極
第1図 熱および圧力の伝達特性 56)
的な加熱は行わなくても,加圧時には断熱
食品と容器
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❖シリーズ解説❖
❖シリーズ解説❖
食品高圧加工の最新動向
因みに,大雑把な計算として理想気体を想定する
の基礎科学的な研究は,19世紀末から行われて
と,PV = nRT(P, 圧力 ; V, 体積 ; n, 気体のモル
おり4),1912年には高圧下での水の状態図5) が,
数 ; R, 気体定数 ; T, 絶対温度)の関係から,気
1914年 に は 卵 白 の 変 性 6) が 報 告 さ れ, 同 じ く
体を1000気圧にすれば,体積は元の99.9% の1
1914年に野菜,果物の微生物学的保存性と高圧
/1000に圧縮される。
処理との関連について報告されている7)。
しかしながら,高圧加工条件にもよるが,断熱
食 品 加 工 へ の 実 用 的 利 用 に 関 す る 研 究 は,
圧縮による10℃程度 /100MPa の温度上昇が観測
1987年の林3) による実用化の提言までは活発と
されることもある。一方,圧縮率が大きい空気の
はいえず,食品・生物関連の高圧研究は,これ以
混入による温度上昇が懸念されるが,食品は一般
降著しく進展した。また,これ以前には,セラ
に含水率が高いので,空気は加圧時に食品中の水
ミックス加工等に用いられてきた HIP(熱間等方
に溶け込み,温度変化への寄与が著しく減少する。
圧加圧 :Hot Isostatic Press)および CIP(冷間等
よって,食品高圧加工における空気混入は,断熱
方圧加圧:Cold Isostatic Press)が食品高圧加工
圧縮よりはむしろ,圧縮時間の増加による加工回
用として利用されることはなかった。当時の食品
数の減少の方が問題である。安く大量に作ること
科学者にとって,熱以外の操作パラメータの利用
を使命とする食品加工においては,空気の混入は
は革新的であり,高圧力利用という一種のブーム
避けるのが賢明である。
に湧いていた。農林水産省では,1989年から4
カ年計画で食品製造業11社および機械装置・計測
◆4.食品高圧加工の歴史◆
器・包装資材製造業10社からなる食品産業超高圧
食品加工においては,食品成分の変化,微生物
利用技術研究組合を運営し,11の研究課題を遂行
の不活性化等が重要である。長年の研究成果の蓄
した8)。卵黄・卵白の物性変化・殺菌,低温殺菌・
積により,食品への熱処理の影響に関しては,知
細胞損傷,包材への影響,カカオマス殺菌・カカ
見が多く,現在も日々蓄積している。しかし,食
オ脂テンパリング・カカオ後発酵,高粘性食品の
品への高圧処理の影響については,知見が少ない。
高圧処理,蜂蜜殺菌,水産物の高圧処理,緑茶飲
高圧力が生物・生物素材に及ぼす影響について
料の殺菌,乳・乳製品製造,解凍・不凍結低温貯
蔵・鮮度保持,食肉加工,
こうじ
麹 菌の高密度培養が課
題であった。同時に,温
度制御が可能で,衛生確
保の工夫を施した食品加
工用高圧装置の開発も行
われた。
これら一連の研究を通
じて着目されてきた食品
高圧加工の特徴は,均一
で瞬時に伝達可能なこと,
微生物を不活性化しつつ,
栄養素・香気成分・色素
第2図 食品高圧加工の特徴
食品と容器
(カラー図表を HP に掲載 C080)
56)
542
成分の損耗を最小化し,
でんぷん
澱粉,蛋白質等を変性し,
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食品高圧加工の動向-関連科学技術の進展-
液体含浸および気泡分散を促進し,貝類・甲殻類
が困難であること,装置の初期設備投資が大きく
の開脱殻を可能とすることである(第2図)。
中小企業には普及しづらいこと等から,食品高圧
加工技術開発を断念したり市場から撤退したりす
◆5.食品高圧加工における
研究開発◆
る企業も徐々に増え,研究も一時の勢いを失って
しまったかに思え
た。
1990年には,世界初の高圧加工食品が日本で
(第3図)
。食品衛生法
しかし,高圧力
では高圧殺菌が認められていないために,所定の
が生体成分もしく
熱殺菌との同等性を示し,個別に認可を得る必要
は生物に及ぼす影
があった。また,酵素失活する条件でないために
響についての研究
酸素が残存すること等から冷蔵流通されたが,生
は,国内外で着実
の風味を損なうことなく微生物を不活性化した画
に進められ,生物
期的な新規食品として耳目を集めた。ここで,
「殺
素材に及ぼす高圧
菌」ではなく「不活性化」という用語を用いるの
力の影響について
ジャムとして実現した
9,10)
第3図 世界初の高圧加工食品
「ジャム」(イチゴ,リンゴ , ブルー
の国際会議が1992 ベリー)57)
は,高圧処理では微生物が致死的に殺菌される場
年のフランスを皮
合もあるが,亜致死的に損傷を受けて回復しうる
損傷菌として残存する可能性があることを加味し
よもぎ
ているからである。また,高圧処理した蓬を練り
込み,新鮮な色調・風味を残した蓬餅11) も市販さ
れている(第4図)
。高圧処理により米粒に水を
含浸させてから炊き上げる高圧浸漬無菌包装米飯
も各種実用化している12)(第5図)
。この米飯を,
密閉した容器に発熱体とともに入れ,水を注いで
発熱させるだけで米飯15食をおかずと共に暖めて
供することを可能とした非常用米飯が開発されて
おり,長期保存可
第4図 高圧加工した蓬を練り込んだ餅 57)
能で美味しくて温
かいご飯が,災害
時等の緊急時にも
供給できる(第6
図)
。
高圧加工食品開
発当初は,殺菌に
主眼がおかれたが,
その後,納豆菌の
ように胞子を形成
して環境ストレス
に耐える芽胞菌に
ついては高圧殺菌
食品と容器
第6図 高圧浸漬無菌包装米飯の非常食としての利用例
(米飯 15 食 , レトルトおかず 5 種 × 各 3 食)59)
(カラー図表を HP に掲載 C081 ~ C084)
第5図 浸漬工程に高圧処理を利用
した高圧浸漬無菌包装米飯 57)
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❖シリーズ解説❖
❖シリーズ解説❖
食品高圧加工の最新動向
切りに,1995年日本,1996年ベルギー,1998年ド
工,食品工学に関する科学者が圧倒的に少ないの
イツで開催された。以降,高圧バイオサイエンス・
は,日本の悪い特徴である。
バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 国 際 会 議(International
Conference on High Pressure Bioscience and
◆6.食品物性変換◆
Biotechnology:HPBB) と し て 定 期 開 催 と な り,
澱粉は,水の共存下で加熱すると熱糊化するが,
こ
か
2000年に日本(京都)で第1回の HPBB が開催さ
高圧処理のみで糊化する現象(圧力糊化)が明ら
れて以降,2002年(ドイツ・ドルトムント)
,2004
かとなり,各種澱粉を対象に,圧力および温度の
年(ブラジル・リオデジャネイロ)
,2006年(日本・
影響が調べられた13)。圧力糊化澱粉の酵素受容性
つくば)
,2008年(米国・サンディエゴ)
,2010年
向上14) や特異な粘弾性挙動15, 16) も調べられ,また,
(ドイツ・フライジング)
,2012年(日本・大津)
,
高圧処理直後から観測される老化(急速老化)も
2014年(フランス・ナント)と開催されてきた。
発見された17)。しかし,この圧力糊化を系統的に
2016年にはカナダのトロントで開催される予定であ
把握するための研究は少なく18, 19),詳細な検討は
る。 欧 州 高 圧 研 究 グ ル ー プ(EHPRG: European
十分でなかった。筆者らは,系統的理解のため,
High Pressure Research Group)および高圧科学技
高圧処理した馬鈴薯澱粉の状態図を作成した20, 21)。
術発展のための国際協会(AIRAPT:Association
食品蛋白質に関しては,乳,卵,畜肉,魚肉の
Inter-nationale pour Avancement de la Recherche et
蛋白質について検討がある。α - ラクトグロブリ
de la Technologie aux Hautes Pressions /
ン,β - ラクトグロブリン,分離ホエー蛋白質と
International Association for the Advancement of
いった乳蛋白質のゲル化等の物性変化22),卵蛋白
High Pressure Science and Technology)は,近年合
質の加圧によるゲル化23),卵白アルブミンの加圧
同会議を開き,この中で,物理,化学,地球科学,
によるゾル - ゲル転移24),加圧によるミオシンの
装置等と肩を並べて生物関連,食品の研究発表があ
状態変化25),アクトミオシンのゲル - ゾル変換26-28),
る。その他,100カ国以上18,000名の会員を抱え,
魚肉蛋白質のゲル化29) 等が広く研究されている。
世界最大規模の国際食品科学学術大会を開催する米
高圧処理のみではゲル化しないα - ラクトグロブ
国の IFT(Institute of Food Technologists:食品技術
リンは,システイン添加によりゲル化する30)。
ばれいしょ
者協会)には,Nonthermal Division(非熱的加工部
チョコレート等の油脂系食品の成分,或いは微
会)があり,食品高圧加工の議論が進められ,非熱
生物の細胞膜構成成分である脂質の高圧力による
的加工部会のワークショップが毎年開催されている。
相転移についても知見が集められ,カカオ脂,大
日本国内では,生物関連高圧研究会が活発に活
豆油,パーム油,コプラ油等の固 - 液相転移31) や
動し,また,高圧討論会では,2004年の第45回
リン脂質二分子膜のゲル - 液晶相転移32, 33) 等が温
以降,物理,化学,材料,地学といった従来の高
度および圧力によって制御できることが分かって
圧科学に加えて,食品・生物関連のセッションが
いる。
設けられるようになった。2014年以降,生物関
連高圧研究会が高圧討論会と合同で開催されるよ
◆7.単位操作としての利用◆
うになった。しかし,日本国内には食品高圧科学
蛋白質の X 線構造解析には結晶化が不可欠だ
の専門家は,欧米,アジア諸国と比べると,極め
が,蛋白質自体が結晶化しにくいものであり,格
て少ないのが現状である。世界で高圧加工食品の
子欠陥の少ない良質な結晶を作るのは難しい。し
市場が拡大し,国内でも実用化に向けた機運が近
かし,蛋白質の中には,高圧下で結晶化が促進さ
年高まってきているところではあるが,一方で,
れるもの(例:グルコースイソメラーゼ)がある
食品科学において,食品高圧科学を含め,食品加
こと,静水圧であれば系内に速やかに均一に伝播
食品と容器
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で ん ぱ
2015 VOL. 56 NO. 9
食品高圧加工の動向-関連科学技術の進展-
する操作性の利点が結晶化制御に適しており,高
成製造法41, 42) が提案され,無塩醤油の製造が実
品質結晶の育成に圧力制御が有効であることから,
現している。酵母による発酵がないため独特の香
圧力は新たな晶析操作パラメータとしての可能性
気に欠けるが,高級醤油を少量添加した減塩醤油
を秘めている
として販売されている。同様の酵素反応促進によ
。
34, 35)
200 MPa までの加圧下では,水の融点が圧力
る商品開発の進展は顕著であり,健康食品・化粧
上昇に伴って低下するので,圧力移動凍結技術が
品として豚プラセンタを効率的に酵素分解して得
興味深い。例えば,-10℃で凍結している食品
たプラセンタエキスのみならず,スッポンエキス,
を100 MPa 以上に加圧すると氷が融解し,逆に0
ニンニクエキス等の各種エキス利用製品が実用化
℃以上で100 MPa に加圧した水は,加圧したま
されている。
ま-10℃付近に冷却することで漸く凍結する。
これらを利用した,豆腐36),寒天ゲル37),カラギ
◆8.微生物不活性化◆
ーナン37) の高圧凍結変性についての研究がある。
微生物,特に細菌の不活性化についての研究は,
乾燥穀類を水に浸漬するプロセスでは,長い吸
1899年4) 以降,食品高圧科学において最も歴史
水時間が問題となる。例えば,大豆では16 ~ 18
が長く,食品高圧加工が実用化して以降,知見が
時間が必要であるが,高圧液体含浸プロセスによ
飛躍的に増大した。特に,高圧処理による微生物
り短縮できる。高圧含浸無菌玄米飯では,吸水に
の損傷・回復に関連した研究は,近年盛んであり,
12時間程度が必要な玄米を高圧処理し,精白米と
高圧処理により細菌コロニーが検出されないこと
同等の30分で吸水を完了させることができる 。
が,殺菌の他に損傷を意味しうることが注目され
38)
ている43)。
また,高圧処理による低アレルゲン化も可能で
ある。コメのアレルゲン蛋白質を高圧処理によっ
食品高圧加工においては,香気成分,色素成分,
て抽出する技術により,低アレルゲンご飯および
栄養成分,機能性成分の損失を最小化しつつ,細
低アレルゲン米パンが開発されている 。
菌類を不活性化することで,高品質で安全な最小
39)
か
き
加工食品を生産することができる。高圧処理によ
さらに,高圧処理により,牡蠣の二枚貝が開き,
身が簡単に落ちることが知られており ,高圧処
る微生物不活性化を活用した実用化事例としては,
理は二枚貝の開脱殻,ロブスターの脱殻簡易化に
高圧加工ジャムの他に,高圧加工肉製品がある44)
用いられ,日本でも,牡蠣,アサリ等の二枚貝の
(第7図)。肉製品の製造では,まず熱処理によっ
高圧開脱殻が実用化されている。従来は専用の治
て一次殺菌を行うが,食品添加物を加えない場合
具を使って二枚貝を開殻し,さらに貝柱を削いで
は,ハムのスライス,ソーセージの切断,それら
40)
身を脱殻して加工用牡蠣としていたが,高圧処理
ではこれら操作が同時に行え,なおかつ手作業の
際に解決できなかった殻破片の混入クレーム問題
を最小化できる。近年は,開脱殻作業者の確保が
困難になりつつあることから,高圧処理による開
脱殻の自動化に注目が集まっている。開殻・脱殻
の機構については,未解明である。
100 MPa 程度の中高圧下では,雑菌は死なず
とも増殖抑制されるので,酵素活性を抑制する食
塩を添加せずに酵素活性を著しく高めることがで
第7図 熱処理(一次殺菌)後に高圧処理により二次殺
菌した肉製品 60)(カラー図表を HP に掲載 C085)
きる。この原理を利用して,塩無添加での魚醤促
食品と容器
545
2015 VOL. 56 NO. 9
❖シリーズ解説❖
❖シリーズ解説❖
食品高圧加工の最新動向
を抑えられる利点がある。
の包装の際に混入した乳酸菌等の腐敗菌が保存中
予測微生物学は,pH,温度,塩濃度等様々な
に増殖するために,賞味期限が短くなる。そこで,
包装後に二次処理として高圧処理を導入し,腐敗
環境条件における残存微生物の増殖挙動,殺菌工
菌を不活性化し,食品添加物を加えずに賞味期限
程における死滅挙動について実験データを集積し,
を延長することが可能である。高圧処理により賞
予測式で挙動を記述し,食品の殺菌における増
味期限が延長された肉製品は,各種日本に輸入さ
殖・死滅挙動を予測して,操作条件の最適化に活
れているが,高圧処理の表示義務はない。
かす学問である。細菌の増殖・死滅の経時変化を
納豆菌のような芽胞形成菌の殺菌は困難で,1
予測する動力学的予測手法に加え,高圧処理した
GPa でも完全には死滅させられないが,急速減
細菌の生存 / 死滅境界線を記述する統計的予測手
圧 す る 際 の 衝 撃 波(shockwave) を 利 用 し た
法49) が提示されており,今後さらに,予測微生
Shockwave 殺菌法の有効性が指摘されている45)。
物学的手法により微生物の高圧不活性化を評価し,
一 方,100 ~ 200 MPa で の 中 高 圧 処 理 ま た は
活用することが期待される。
一方,高圧による微生物不活性化機構の解明に
500 ~ 600 MPa での高圧処理によって,芽胞の
発芽が誘導される 。発芽後の栄養細胞状態では,
向けて,高圧力が生体に及ぼす影響について研究
通常の細菌と同様の条件で殺菌できるので,中高
が進められている。大腸菌,枯草菌,酵母等のゲ
圧処理により発芽誘導してから殺菌する方法,発
ノムが解明され,近年最も着目に値するのは,こ
芽させつつ同時に殺菌する自滅的発芽を誘導する
れらゲノム情報を元に遺伝子発現や遺伝子構造を
方法がある 。2009年に米国で認可された圧力
網羅的に解析する技術,ジェノミクス(genomics)
補助熱処理法(PATP, pressure-assisted thermal
である。ジェノミクスの核となるのは DNA マイ
process; ま た は 圧 力 補 助 熱 滅 菌 法 : PATS,
クロアレイであり,これは数 cm2のスライドガ
pressure-assisted thermal sterilization) で は,
ラス基板に数百から数万種類の DNA プローブ
46)
47)
予熱したスープ,マッシュポテト等の低酸性食品
(DNA の短鎖)を配置させたもので,高圧処理
(low-acid foods: pH.4.6以上&水分活性>0.85;
した微生物の mRNA を抽出して,特異的に発現
米 国 FDA 定 義 ) を500 ~ 700 MPa で 加 圧 す る
した遺伝子,もしくは逆に発現が抑制されてし
過程での断熱圧縮加熱により90 ~ 121℃に加熱
まった遺伝子を特定することができる50)。この手
し,長期保存を可能とする48)。高温加熱時間が短
法は,深海微生物等の高圧力耐性機構解明におい
いことから,従来のレトルト食品よりも品質低下
ても威力を発揮する。
近年は,米国大手コーヒーチェーン・Starbucks
社が,420L容量の食品高圧加工装置4台により
600 MPa で各種果汁を処理して微生物を制御し,
絞りたての生ジュースのようでありながら1カ月
前後の賞味期限を保証した高圧処理ジュース(第
8図)を,全国12,000店舗以上で展開すること
を発表した。高圧処理ジュース市場は,欧米,韓
国,台湾等,国外で伸びており,一方,国内では
高級生搾りジュースの店頭販売が人気を呼んでい
ることもあり,日本に輸出を希望する企業,日本
国内生産を目論む企業も現れている。しかしなが
第8図 米国大手コーヒーチェーンで販売されている高
圧処理ジュース 61)(カラー図表を HP に掲載 C086)
食品と容器
ら,日本の食品衛生法の基準を満たすためには,
546
2015 VOL. 56 NO. 9
食品高圧加工の動向-関連科学技術の進展-
起因すると考えられている。
熱殺菌との同等性を示して個別認可を得る必要が
あることから,海外各社は輸出に苦慮している。
同等性の証明には,同等性を示すために必要な微
◆10.食品高圧加工装置◆
生物の種類,その低減菌数等,必要条件の提示が
食品高圧加工においては,概して100 ~ 600
不可欠であるが,それが文書として明示されてい
MPa の高圧力が用いられる。1990年代から,工
ないので,個別に当局担当者に相談する以外には
業用の高圧加工装置が食品加工用として改良され
手立てがない。この現状は,科学的根拠のない貿
て利用されるようになった。高圧加工装置として
易制限として疑義があり,国際的に問題になりか
は,高圧容器にピストンを圧入して容積を減少さ
ねない。高圧処理ジュースの国際規格が存在しな
せて加圧する直接加圧法によるものと,高圧容器
い こ と か ら, 世 界 貿 易 機 関(World Trade
に高圧力の圧力媒体を圧入して加圧する間接加圧
Organization)における今後の非関税障壁問題
法によるものとがある。食品加工用の実用化装置
を回避する目的で,国際食品規格委員会(Codex
は,間接加圧法を採用している。また,食品加工
Alimentarius Commission)における国際規格
用実用化装置には,縦型と横型とがある(第9図)
。
の策定が求められてくる可能性がある。
従来は,縦型が主流であったが,近年は,大容量
を実現する横型が普及しつつある。食品加工では,
◆9.高圧処理が食品成分量に
及ぼす影響◆
大量処理で処理費用を抑制することが重要なため,
食品高圧加工においても,処理費用削減のために
容器の大型化が望まれる。容器大型化のためには,
野菜や果実を高圧処理することによって栄養成
分であるビタミン C
51)
容器径または容器長を増す選択があるが,容器径
や血圧降下効果のある機能
が増強され
を増すと,指数関数的に容器壁を厚くする必要が
ることが近年明らかとなりつつある。この増強機
あり,大幅なコストアップになるので,装置製造
構については解明されていないが,高圧処理にお
コスト抑制のために,容器長を増して対応するの
ける減圧時に細胞組織が破壊されることで,細胞
が理想的である。しかし,縦型で容積長を増すと,
内外の基質・代謝酵素の相互作用が高まることに
処理品が入ったカゴを,最低でも容器長の倍程度
性成分の GABA(γ - アミノ酪酸)
52)
の高さから釣り上げて
取り出さなければなら
ず,天井高さに制約さ
れる。一方,横型では,
設置場所の最大長に応
じて如何様にも容器長
を増せる利点があるが,
容器の開放時に圧力媒
体の水を全て取り出し,
容器密閉時に水を再度
大量に入れるという縦
型では不要な操作が必
要である。よって横型
第9図 縦型・横型の食品用高圧加工装置
(カラー図表を HP に掲載 C087)
食品と容器
547
58)
では,圧力媒体圧入用
ポンプ以外に,高速で
2015 VOL. 56 NO. 9
❖シリーズ解説❖
❖シリーズ解説❖
食品高圧加工の最新動向
圧力媒体を流入させる目的のポンプを併用するこ
では,国外では依然として殺菌および保存期間延
とによって,この問題点を解決している。横型の
長を目的とした研究が盛んである。一方,国内で
食品高圧加工装置は,最大処理量が525Lのもの
は,高圧加工により保存性を高めたジャムを入れ
が開発されており
たジャムパン等の殺菌目的以外に,液体含浸促進
,今後益々普及する可能性
53, 54)
がある。日本国内でも,近年,400 ~ 600 MPa
効果を利用した無菌包装米飯類,牡蠣の開脱殻,
の50 ~ 400L容量の食品高圧加工装置が近年開
効率的酵素分解による促成製造無塩醤油等が実用
発され市販され始めている 。
化しており,殺菌目的以外の研究も盛んである。
55)
また,食品産業界では,中小企業または小規模
食品加工においては,美味しさおよび利便性を
事業者数は,全体の事業者数の99.7% を占めて
追求しつつ,安全性を確保する必要がある。食品
いることが特徴であり,それ故に,食品高圧加工
高圧加工には,従来の熱加工と比べると,美味し
装置のような大規模な設備投資ができない事業者
さ,利便性の点で優れる利点がある。2005年頃
がほとんどである。そこで着目に値するのが,有
と比べると,PATP/PATS 法の出現,損傷回復に
償 加 工(toll processing/tolling) で あ る。 装 置
関する知見集積,海外で進展した高圧加工食品の
のみを保有する企業が,食品企業から持ち込まれ
問題解決があり,食品高圧加工はさらに進化を遂
た包装食品を,一回処理当たり,kg 等の単位当
げた感がある。今後は,殺菌を含めた従来課題を
たり等で課金して処理する業態である。有償加工
解決する手段としてのみならず,新しい食感,味
は,米国,カナダ,中国,台湾,ニュージーラン
等を実現する新たな食品を開発する手段としても
ド,オランダ,スペイン,アイルランド,イタリ
研究開発を深化させることが重要である。これに
ア,ドイツ,イギリス等で事業化されている。日
より,新たな実用化技術が生まれ,基礎科学にお
本国内でも有償加工は一部可能であり,中高圧処
ける新知見も続々と発見されるであろう。
理(100 MPa まで),高圧処理(600 MPa まで)
本シリーズの連載が進む中で,新たな動きが
の受託生産が実施されている。中小企業への食品
あった場合には,企画を柔軟に変更し,最新動向
高圧加工技術普及のためには,有償加工の更なる
をご紹介するよう努める。さらに,高圧科学の基
普及が不可欠である 。
礎についても,読者の皆様に役立つと思われる内
56)
容については,著者にできるだけ平易な解説をお
◆11.おわりに◆
願いして掲載する予定である。
近年の国際会議での食品高圧加工に関する発表
参 考 文 献
1)山本和貴 : 食品と容器 , 46(11), 614-619 (2005).
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53)http://avure.com/
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55)http://www.kobelco.co.jp/machinery/products/ip/
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61)山本和貴 , フルードパワーシステム , 46(4), 11-16
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549
2015 VOL. 56 NO. 9
⧻シリーズ解説⧻
第5回
わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策
サプライチェーン・物流における
食品ロスの現状と課題
い し か わ・ と も ひ ろ
慶 應 義 塾 大 学 経 済 学部
卒業。電機メーカー,コ
ンサルティング・ファー
ムを経て,現在,公益財
団法人 流 通 経 済 研 究 所
主任研究員。流通経済大
学非常勤講師等。
石 川 友 博
われている。そこでは,店舗納品用車両の総台数
●はじめに●
を削減することをベースに,店舗に対して多頻
度・小ロット・短リードタイム・高精度の配送サ
本稿では,サプライチェーン・物流における食
ービスが展開されている。
品ロスの現状と課題について解説する。まず,サ
プライチェーンにおける食品ロスの現状を,調査
メーカー~卸売業に関しても,メーカーは卸売
結果などを交えて捉える。次に,サプライチェー
業の時間指定納品など様々な納品ニーズに対応で
ンのオペレーションの現状から,サプライチェー
きる配送体制を採っている。一般にメーカーの最
ンにおける食品ロス発生の根本的原因を探る。以
低配送ロットは小さく設定されており,配送先数
上を踏まえて,サプライチェーンにおける食品ロ
も少なくない。
スの改善の方向性について,情報共有と業務連携,
このようなわが国における食品サプライチェー
商慣習の見直し,賞味期限設定・表示方法等の見
ンにおける状況は,消費者ニーズに応え,様々な
直し,消費者理解の拡大という4つの枠組みで解
サービスを提供するための各社の努力の成果とし
説する。
て,これまで評価されてきた。一方で,サプライ
チェーンでは,規格外品,売れ残り,返品が少な
●1.サプライチェーンにおける
食品ロスの現状●
からず発生している。そのため,本来食べられる
にもかかわらず捨てられてしまう「食品ロス」の
1-1)食品サプライチェーンにおけるメー
問題が指摘されている。
カーから店舗までの商品配送の現状
わが国の食品サプライチェーンでは,一般に,
1-2)サプライチェーンにおける食品ロスと
返品の発生規模
わが国の食品ロスは年間500 ~ 800万トン発生
店頭において消費者ニーズに合致した商品を品切
れなく提供するため,メーカー~卸売業および卸
していると推計されている。そのうち事業系は
売業~小売業間できめ細かな商品配送が行われて
300 ~ 400万トンである。その実態は,売れ残り,
いる。
規格外品,加工食品の返品などである。加工食品
卸売業~小売業に関しては,1990年代後半頃
については,売れ残りや規格外品も相当部分が返
から小売専用センターを通じた店舗配送が広く行
品されている。返品された商品は,大部分が廃棄
食品と容器
550
2015 VOL. 56 NO. 9
サプライチェーン・物流における食品ロスの現状と課題
めに商品が滞留してその結果「納品期限切れ」と
なる場合が中心である。
●2.サプライチェーンにおける
食品ロス発生の根本的原因●
食品ロスや返品は製配販各層に原因があり,複
合的な要因によって発生する。上記で確認したの
は,返品の直接のきっかけとなった原因である。
返品には直接的な原因と,その背景にある根本的
な原因がある。
庫内破損や汚破損などサプライチェーンでの規
格外品発生を除き,返品の根本的な発生原因は,
第1図 加工食品の業界全体の返品額推計
(卸売業→メーカー,2010 ~ 2014 年度,億円)
商品の発売・導入から終売までのプロセスに沿っ
出所:流通経済研究所 (2015)『加工食品ワーキンググループの
活動報告』2015 年 7 月
て整理することができる(第1表)。販売政策,
需要予測,在庫計画,在庫処分という一連のプロ
セスが適切に行われないことで,受注数と需要予
処分され,食品ロスとなる。
加工食品の業界全体の返品額は821億円 ( 卸売
測数,あるいは注文数と販売数が一致せずに,売
業→メーカー,2014年度 ) である(第1図)。返
れ残り在庫が発生する。これらが,サプライチェ
品 は 年 々 減 少 傾 向 で あ る も の の, 売 上 比 で は
ーンにおける食品ロス発生の根本的原因である。
0.76%を占めている。
そして,取引慣行が適切でないことで売れ残り在
庫の安易な返品要請・受入が行われる。
加工食品の場合,小売業から卸売業への返品理
由は,随時の商品改廃に伴う「定番カット」
,販売
●3.サプライチェーンにおける
食品ロスの改善の方向性●
期限を過ぎたために店頭から撤去され返品される
「販売期限切れ」
,および「特売残」が中心である
(第2図)
。卸売業からメーカーへの返品理由は,
3-1)情報共有と業務連携
上述の通り,受注数と需要予測数,あるいは注
「定番カット」と,販売見込みや安全在庫が多いた
文数と販売数が一致し
ないことによって,売
れ残り在庫が発生する。
そうしたズレを埋める
ために製配販の情報共
有を進める必要がある。
製配販が共有すべき情
報としては,小売店舗
の販売・在庫データ,
小売専用センターの出
第2図 サプライチェーンにおける加工食品の返品の直接的な原因
出所:流通経済研究所 (2015)『加工食品ワーキンググループの活動報告』2015 年 7 月
食品と容器
551
荷・在庫データ,小売
本部の販売計画情報
等がある。これらデー
2015 VOL. 56 NO. 9
⧻シリーズ解説⧻
区分
わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策
第1表 製配販各層における食品ロス・返品発生の根本的原因
的な商慣習と,それ
責任主体
ぞれの改善の現状の
製
製・配・販
発生理由
売れ残り
在庫の発生 製・配・販
需要予測が適切でない→生産数・注文数が過剰になる
返品の発生 製・配・販
取引慣行が適切でない→安易に返品要請・受入が行われる
製・販
取組や今後の方向性
販売政策が適切でない→押し込み在庫が発生する
を述べる。
在庫計画が適切でない→サービス水準・安全在庫が過剰になる
①納品期限
在庫処分が適切でない→値下げ等による処分数が過少になる
納品期限とは,消
出所:流通経済研究所
(2011)
『加工食品・日用雑貨における返品実態と返品削減の方策について』2011 年 6 月
をもとに筆者作成
費者に鮮度の良い食
品を提供するために
タ・情報をどのように共有し,どのように活用し
設けられた,店舗に納品される商品の鮮度に関す
て,発注や在庫管理の全体的な精度を高め,ズレ
る基準である。主に加工食品に適用されている。
を最小化していくかが課題である。
納品期限を過ぎると,品質に問題がなくても,通
3-2)商慣習の見直し
常ルートで販売できない。わが国では,製造日か
わが国の食品サプライチェーンは,上述の通り,
ら賞味期限までの期間の最初の3分の1時点を納
品期限とする場合が多い。
一般に,店頭において消費者ニーズに合致した商
品を品切れなく提供することを特徴としてきた。
この納品期限が見直されつつある。2013年度,
その中で,商慣習が形成されてきた。商慣習の中
ワーキングチームの呼びかけにより大手食品関連
には,時代や環境変化によって合理性を失い,食
事業者35社が参加する大規模な実証実験が半年
品ロスや返品の原因となっているものもあると考
間実施され,その結果から,ワーキングチームは,
えられる。結果的に消費者の負担を増やすことに
これまで明らかでなかった納品期限見直しの食品
もつながることから,食品ロス発生の原因となり
ロス削減効果に関し,「飲料と賞味期限180日以
うる商慣習については,可能な限り見直しが必要
上の菓子で4万トンの食品ロス削減が可能」との
である。以下で,サプライチェーンにおける代表
試算を初めて示し,納品期限見直しの重要性を提
第2表 大手スーパー・コンビニでの納品期限実運用の1/ 2への緩和状況
社 名
対象商品
飲料(ドライ飲料)
イオンリテール株式会社
菓子(賞味期限 180 日以上
株式会社イトーヨーカ堂
ユニー株式会社
株式会社東急ストア
株式会社サークルK
サンクス
開始時期
2015 年度中
に開始
飲料(ドライ飲料)
2013 年9月
菓子(賞味期限 180 日以上)
飲料(ドライ飲料,主要メー
2013 年9月
カー5社分)
飲料(ドライ飲料,主要メー
2013 年8月
カー5社分)
飲料(ソフトドリンク)
2013 年5月
実施地域
全店
全店
中京2センター
の管轄店舗
全店
全店
株式会社セブン-イレブン・ 飲料(ドライ飲料)
2014 年 11 月 全国 全店舗
ジャパン
菓子(賞味期限 180 日以上)
株式会社ファミリーマート 飲料(ドライ飲料)
2015 年4月
ミニストップ株式会社
飲料(主要メーカー2~3社 2015 年度中
で実施検討)
開始目標
株式会社ローソン
飲料(ソフトドリンク)
2015 年4月
から実施
全国 全店舗
552
これにイオン,イトーヨ
ーカ堂などの大手スーパー
や, 日 本 フ ラ ン チ ャ イ ズ
チェーン協会加盟の大手コ
ンビニチェーンが賛同し,
納品期限見直しの2分の1
への緩和が実現した(第2
表)。なお,納品期限緩和
に否定的な立場からすると
店舗での廃棄増加や消費者
からのネガティブな反応等
が懸念されるのだが,現在
まで納品期限を緩和した企
全国 全店舗
出所:流通経済研究所(2015)『加工食品ワーキンググループの活動報告』2015 年 7 月
食品と容器
言した。
業においてこれらは確認さ
れておらず,順調に進んで
いる。
2015 VOL. 56 NO. 9
サプライチェーン・物流における食品ロスの現状と課題
②店頭販売期限
消費者が,商品を購入してから消費
するまでの日数を十分に確保するため,
店舗では,賞味期限間近まで商品を販
売せず,一定期間を残して売場から商
品を撤去する。この際の期限を販売期
限という。小売業によって基準は異な
るが,加工食品の場合,製造から賞味
期限までの期間の残り3分の1の時点,
もしくは賞味期限から1カ月前と設定
しているケースが多い。販売期限が近
づいた商品は値引きなどによって売り
第3図 加工食品(缶詰,麺類,調味料,調理品)の商品カテゴリー別
購買間隔(中央値)
切りに努めるが,売れ残った場合には
小売店で廃棄処分されるか,場合に
備考:本分析は,株式会社インテージ「全国個人消費者パネル調査データベー
ス(SCI-personal )」(2013 年 ) を用いている (N = 50,000) 出所:流通経
済研究所 (2014)『消費者の加工食品の購買間隔について』2014 年 3 月
れ替えが頻繁に実施される。その際に売れ残りが
よっては卸売業やメーカーに返品されている。
発生しやすい。これらが食品ロスとなる。
しかし,わが国の消費者は,スーパー・コンビ
ニ等の食品小売店を高頻度に利用しており,家庭
新商品導入においては新商品の初回発注数量の
内在庫をさほど保有せずに食品を購入・消費して
納入業者への伝達が納品日前日であるケースが少
いると考えられる。飲料・菓子を対象とした店頭
なくない。新商品は需要予測が難しく,初回発注
消費者調査でも,1週間以内に消費するとの回答
数量が前日まで伝達されないと納入側の調整は極
者が飲料 で9割弱,菓子で8割弱にのぼり,購
めて難しくなる。そのため,メーカーや納入業者
入から消費までの期間は長くない。
で往々にして余剰在庫が発生し,食品ロスとなる。
また,大規模サンプルの消費者調査に基づいて,
終売プロセスでは,商品を店頭からカットする
商品カテゴリー別の購買間隔を集計分析したとこ
当日まで納入業者に商品供給を求めるケースが多
ろ,比較的短サイクルで加工食品を購入している
い。その場合,カット時点で必ずサプライチェー
場合が多いことが確認された(第3図)。
ンの上方に一定の流通在庫が残る。それらがカッ
ト後に行き場を失い,食品ロスとなる。
購買間隔は,購入から消費までの期間そのもの
を示すものではないものの,以上を踏まえると,
ローソンはこの商品入替プロセスを見直した。
食品ロス削減の観点からは,店頭における販売期
終売商品は店頭カット日から遡って4週間を過ぎ
限の最適化に向け,今後,消費者の家庭内在庫等,
た時点で,納入業者の在庫がなくなり次第販売を
消費行動に関する検証を進めることが望ましい。
終了し,それ以降商品供給を求めないことにした。
その結果によって,現在多くの食品小売店が,店
新商品の確定発注数量は,納入日1週間前までに
頭の販売期限を賞味期限の3分の1残し等に設定
納入業者やメーカーに伝達することとした。この
しているが,消費者の購入・消費特性を踏まえて,
終売時の流通在庫の売り切りと,新商品導入時に
販売期限を延長する方向で見直すことも検討すべ
おける発注〆前倒しにより,ローソン向けの食品
きだと考えられる。
流通経路において,納入事業者の在庫余剰に伴う
③商品入れ替え
返品が60%削減された(第4図)。
前述の通り,わが国の加工食品流通在庫の返品
コンビニ等を中心に,わが国の店舗では商品入
食品と容器
553
2015 VOL. 56 NO. 9
⧻シリーズ解説⧻
わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策
第4図 ローソンによる商品入替プロセス見直し 出所:製・配・販連携協議会
しかし,既存製品の中には賞味期限の見直しが行
(卸売業→メーカー)は年821億円あり,商品入
われなかったものもあり,必ずしもこうした現状
替を理由とするものが45.2%を占める(第1図,
第2図)
。ローソンの成果は,商品入替プロセス
を反映したものとなっていない場合もあると考え
見直しが食品ロス削減の大きな可能性を持つこと
られる。また,過度に厳しい安全係数を設定する
を示している。
ため,流通・消費可能期間が過少となっている場
④日付逆転が認められないことによる問題
合もあると考えられる。これらを見直し,賞味期
限を長くすることができれば,流通・消費可能期
食品のサプライチェーンでは,以前に納入した
間が延びて,ロス削減に寄与する。
商品より古い賞味期限日付の商品を,後から納入
することが認められないことが多い。先入れ先出
そのため,食品ロス削減の観点から,メーカー
しが原則である物流センターや店舗での商品管理
において,既存製品の賞味期限について科学的な
効率化のため,わが国の食品サプライチェーンの
知見に基づく再検証(業界団体が作成する期限の
各段階で広く採用されている。そのため,例えば,
設定に関するガイドラインマニュアルや安全係数
ある地域で過大となった商品を他地域に移動し販
の見直し等も含む)を行うとともに,得られた結
売しようとしても,品質的には問題ないにもかか
果に基づき,消費者の理解を得つつ賞味期限の延
わらず,日付逆転が認められないため,通常のル
長に取り組むことが,食品ロスの改善に有効であ
ートで販売することができないことが頻繁に発生
る。
これに対し,日本即席食品工業会では,これま
する。
現在,日付逆転が認められないことによる問題
での製造技術や包装技術の進歩から,賞味期限の
の軽減に寄与する取組として,賞味期限表示の年
延長が可能との結論を得たため,2013年6月に
月表示化が進められている。これに関しては,後
「即席めんの期限表示設定のためのガイドライン」
を改訂。2014年春より,賞味期限を1~2カ月
ほど言及する。
3-3)賞味期限設定・表示方法等の見直し
延長したカップ麺や袋麺が登場している。また,
近年,食品の製造過程における生産・衛生技術
に1,157品目の賞味期限延長が行われ,その後も
①賞味期限の延長
菓子や清涼飲料などで,2009年~ 2014年10月
227品目の延長予定がある 。
の向上や日持ちのする包装資材の開発など,商品
の品質を保持するための技術開発が行われてきた。
食品と容器
554
2015 VOL. 56 NO. 9
サプライチェーン・物流における食品ロスの現状と課題
②賞味期限表示の年月表示化
に入れる様子から,値引商品購入時の心理抵抗を
賞味期限の長い品目については,品質劣化のス
和らげることが重要と判断。自社のロス削減貢献
ピードが遅く,消費段階で日付管理する意味が乏
への思いも込め,値引シールには「地球と家計へ
しい反面,日付順に納入される流通段階で食品ロ
の思いやり」というコピーを入れ,POP で “ 消
スの発生につながる場合がある。
費期限が短くなった商品をただ廃棄せず,なるべ
また,賞味期限が3カ月以上の品目については,
くお買得に提供していること ”,“ それを購入い
ただくことで,廃棄は減り,エコにつながるこ
「年月」表示も認められている。
このため,賞味期限が長い品目については,
と ” を説明した。その結果,廃棄削減の効果が
あったという。
「年月」表示へ変更するなど消費者にとってわか
②食品の期限表示に関する理解拡大
りやすい期限表示となるように,メーカー各社で
また,筆者は食品ロス削減のための商慣習検討
工夫することが,食品ロスの改善に有効である。
ワーキングチームの事務局として活動してきたが,
これに対し,日本醤油協会は,「醤油の日付表
示に関するガイドライン」を作成する際,過度に
その中での事業者や消費者との意見交換の印象と
厳しい日付管理が深夜・早朝操業や返品等の原因
して,賞味期限等の食品の期限表示に関する消費
となっていたことに鑑み,賞味期限が3カ月超の
者理解はまだまだ十分ではなく,必要以上に期限
ものは,原則として年月表示としている。また菓
表示に敏感な購入・消費行動につながっている可
子や清涼飲料等では,2009年~ 2014年10月に
能性もあると考えられる。
賞味期限設定については,全日本菓子協会・加
209品目の年月表示化が実現し,今後も81品目の
延長が予定されている。例えば清涼飲料では,
盟企業が説明資料を作成する,情報提供を強化す
2013年5月製造分より,飲料大手5社の国産水
るなどの取組が進み,期限設定,および菓子業界
2L ペットボトルで年月表示に切り替えられ,
そのものに対する消費者理解が深まる機会となっ
2014年6月製造分からは,キリン,サントリー
ている。
の缶コーヒー,茶などで順次切り替えられている。
3-4)消費者理解の拡大
このように,食品サプライチェーンを構成する事
業者は,それぞれの立場・方法で期限表示・期限
消費者に,「もったいない」の観点から,食品
設定に関する情報提供を強化・継続し,消費者理
ロス削減の重要性や食品の期限表示(消費期限・
解促進を図ることが望ましい。それによって,消費
賞味期限)について十分理解してもらえるよう,
者の購買行動変化や,家庭でのロス削減に向けた
各種の取組を進めることが,食品ロス削減に有効
行動が拡大することで,食品ロス削減が図られる。
である。
●4.おわりに●
①食品ロス削減の重要性に関する理解拡大
例えば,日配品 ( パン,牛乳,豆腐,納豆な
本稿では,サプライチェーン・物流における食
ど ) は,賞味・消費期限が短く,消費者もこれに
品ロスの現状と課題について解説した。なお筆者
敏感で,すぐに消費する場合でも,日付の新しい
は,文中で触れたように,食品ロス削減のための
商品を選ぶ場合が多い。こうした消費者の行動が
商慣習検討ワーキングチームの事務局を務めてい
変われば,食品ロス削減につながる。しかし,小
る。商慣習の見直しは追加的投資を伴わない食品
売業には新鮮な商品を提供したい思いもあり,取
ロス削減策の1つである。これまで事業者の協力
組方が難しい。
を得て,文中で言及したいくつかの成果をあげて
これに関し,ウジイエスーパー(宮城県)は,
値引商品の購入者が商品を目立たないようにカゴ
食品と容器
きたが,さらなる商慣習見直しが進むよう,事務
局として引き続き取り組んで参りたい。
555
2015 VOL. 56 NO. 9
産業余話
液化工場だけでなく,積出港湾の建設も必要とな
第7回
る。天然ガスの産出地の多くは,都市から遠く離
れた,何もない地だからである。資源開発を行う
企業は,世界的な資源会社や日本の総合商社のよ
うな巨大企業であるが,この金額を右から左に出
す力はなく,複数の国際的金融機関から融資を受
なみ
かわ
りょう
けることになる。しかし金融機関も,このような
いち
並 河 良 一
巨額の融資については,プロジェクトがうまくい
く確証がなければ,リスクが大きすぎて,応じる
(帝京大学経済学部教授)
ことはできない。
Take or Pay とは
プロジェクトがうまくいくとは,産出された天
聞きなれない言葉だが,資源取引の契約に見ら
然ガス(LNG)が確実に売れることである。こ
れる条項に,Take or Pay(テイク・オア・ペイ)
のため,このようなプロジェクトでは,LNG の
がある。直訳すると「(資源を)引き取るか,支
購入者を探し,契約を先に締結して,この契約書
払うか」ということになるが,正確には「引き取
を金融機関に示して,融資を受けることになる。
れ,引き取れなくても支払え」ということである。
つまり,売り先が決まってから工場を建設する方
ずいぶんと乱暴な表現であるが,資源取引契約に
式である。しかもその契約期間が,20 年という
おいて,引き取り・支払い条件を定める条項とし
ような長期であること,契約期間の間,確実に支
て,長年機能してきた。Take or Pay は,現在で
払いがあることも求められる。このようにして,
も,LNG(液化天然ガス)取引では残っている。
Take or Pay 条項が導入されてきたのである。
資源の取引形態は,短期契約,スポット契約,
つまり,Take or Pay 条項は,資源開発に巨額
先物取引など需給を反映する取引と長期契約のよ
の資金が必要となることを背景に,発達してきた
うに,例えば 20 年間継続する固定的な取引に区
のである。
資源のない国
分される。長期契約でも,需給が緩和した局面で
需要側にとって不利な Take or Pay 条項を,
は,引き取り量減少の交渉をする余地がある。し
かし,長期契約に Take or Pay 条項が付加されると,
なぜ需要側は受け入れたのであろうか。Take or
引き取り量についての交渉の余地はなくなる。需
Pay は,欧米の国内資源取引においても,多用さ
要側(輸入側)は,余った資源については,自ら
れてきた。しかし,国際的な資源取引において,
需要企業を探すことになる。資源の需要量は,経
Take or Pay 条項を定着させてきたのは,資源の
済動向に左右されるため,20 年にわたり輸入量を
需要国としての日本である。
確約するという契約は,輸入側に不利である。他
第 1 の理由は,資源の確保が,日本の国是で
方,供給側(輸出側)は,需要の変化を気にせず
あるからである。日本は,資源に乏しく,エネル
に,供給し続けることができるので,有利になる。
ギー自給率(原子力を除く)は約4%であり,資
資源開発の初期投資
源の確保が重要な政策である。このため,資源
なぜ,Take or Pay のような不公平な契約条項が
の輸入側にとって不利な長期契約や Take or Pay
できたのであろうか? 最も大きな理由は,資源
を,日本は資源の確保の点から肯定的にとらえた
開発のファイナンスの確保とリスクヘッジである。
のである。「引き取り義務」を「引き取る権利」
と解したのである。
資源を生産して需要家に供給するためには,巨
第 2 の理由は,資源を輸入する日本側の投資金
額の初期投資が必要である。LNG プロジェクトの
場合は数千億円から1兆円の初期投資が必要となる。
額も巨大であることである。例えば,LNG の場合
洋上プラットホーム,陸地までの海底パイプライン,
には,国内でのガス化設備,ガスの貯蔵設備,LNG
食品と容器
556
2015 VOL. 56 NO. 9
タンカー等の投資が必要である。これらの設備投
に よ り 石 油 の 需 給 が ひ っ 迫 し, 原 油 価 格 は,
資を確実に償却するためには,償却額に見合った
2004 年頃の 30 ドルから,リーマンショック前
設備の稼働率を維持するのに十分な LNG を確保
の 2008 年には 130 ドルまで上昇した。しかし,
する必要がある。
石油を入手できないという恐れはなく,日本だけ
第 3 の理由は,LNG の需要家は電力会社とガ
でなく世界中で,かつての石油ショック時のよう
ス会社であることである。Take or Pay は需給を
な混乱はなかった。つまり,市場が存在すること
反映しないため,LNG コストは高くなるが,こ
により,資源の「量の問題」が「価格の問題」に
れら業界は,地域独占に守られ,料金が認可制で
転換したのである。
あったため,コスト上昇を料金に転嫁することが
市場があれば,資源を入手するために,長期契
できた。また,これら需要家は,法律で供給責
約や Take or Pay 条項は必要なくなるのである。
任を課せられているため,LNG の確保を重視し,
逆に,資源の供給側も,生産した資源の引き取り
Take or Pay を受け入れたという側面もある。
手がないという事態を心配することはなく,長期
中国は Take or Pay がきらい
契約や Take or Pay 条項に頼る必要がなくなる。
市場形成政策
では,LNG を輸入する国は,すべて Take or
では,どうすれば市場を形成できるであろうか。
Pay 条項を受け入れているのであろうか。オース
トラリアで日本と LNG の争奪戦を演じている中
石油の国際市場が形成されたのは,1980 年代中
国は,長期契約や Take or Pay を利用するのを
盤からである。当初,国際的に石油需給が緩和し
避ける傾向にある。中国はスポットで調達を図る
ており,原油価格が低下し,余剰の石油のスポッ
傾向が強く,長期契約にこだわってきた日本とは
ト取引が増加した。スポット取引では,需給を反
対照的である。日本企業は,資源生産国と長期的
映した価格が形成される。そうすると,価格変動
に良好な関係を築いて商売しようとするが,中国
に対するリスクをヘッジするために,先物取引が
企業は,コストに対する意識が強く,その場その
行われ,市場が形成されていった。いったん市場
場で最も安い LNG を調達しようとして,スポッ
形成の動きが始まると,需要側も供給側も,その
ト取引を多用する。したがって,Take or Pay 条
便利さ故に,雪崩を打って,市場に参加してきた
項は資源取引に必須というわけではない。
のである。
Take or Pay の崩壊
LNG については,日本政府も企業も,Take or
注目すべきは,スポット取引は,他の資源や欧
Pay を利用したくないと考えていたが,資源確保
米の天然ガス取引において,Take or Pay が崩壊
という呪縛から逃れることができないでいた。し
する引き金となった点である。
かし,資源確保のライバルである中国がスポット
石油取引では,Take or Pay は,現在はほとんど
取引を多用するという動きは,国際市場形成の契
用いられていない。その理由は,石油には国際市
機になるかもしれない。日本政府は 2014 年に東
場が存在するからである。日々の経済ニュースで,
京に世界初の LNG 市場を立ち上げている。この
原油価格が WTI 市場で 1 バレル 50 ドルなどと
市場が,成長するかは,市場への参加者の多寡に
報道されるのは,国際市場で形成された価格であ
よる。日本企業が,長期契約や Take or Pay 条
る。市場があれば,そこで形成された価格を支払
項に固執していると,市場は立ち枯れになるであ
えば,石油を入手できる。世界的に石油が不足す
ろう。今後の推移に注目したい。
れば,石油価格が上昇し,石油を入手するのに大
金が必要となる。しかし,市場があるということは,
金を払えば,とにもかくにも石油を入手できると
いうことを意味する。つまり,石油を入手できな
いという恐れはなくなるのである。中国の成長等
食品と容器
557
参考文献
1)R. Namikawa, Take-or-Pay under Japanese EnergyPolicy,
Energy Policy 31(13), p1327-p1337, 2003
2)並河良一,東アジアにおける LNG 市場の形成-需給
を反映した価格形成を-,
化学経済 51(10), p50-p60,2004
2015 VOL. 56 NO. 9
●
海外技術・マーケット情報 ●
2015年(第59回)軟包装受賞製品について
(Innovation Marks the 59th Annual FPA Winners)
Packaging World(USA)p.52(’15・3 )文献 № 6047
レーに必要とされる蓋が,個々のトレーの正確な
FPA(軟包装協会)主催による2015年 Flexible
寸法に合わせてフィルムからカットされる。
Packaging Achievement Awards に お い て,18
のパッケージが包装容器優秀性,印刷と棚見栄え,
Sealed Air 社と Mondini 社は共同で,最近シカ
技術革新性,サステナビリティ達成度をはじめと
ゴで開かれた Pack Expo International に Darfresh
する1つまたは複数のカテゴリーにおいて,22の
On Tray を展示した。将来的には,真空スキン
賞に認定された。
包装が一般的な欧州(オランダ,UK)に加え,
アメリカでの適用が見られるだろう。
2015年 FPA 最高功績賞の製品
②検体サンプリング容器が最高賞獲得
①廃棄物を出さない精肉用トレーのフィルム Intervoid Ⓡ Sterile(写真2)
シーリングシステム
製造者:CoverisTM 社
Cryovac Ⓡ Darfresh Ⓡ On Tray(写真1)
製造者:Sealed Air 社(Cryovac)
受賞内容:最高功績賞―包材供給者協会
受賞内容:最高功績賞―小売
FPA は,Intervoid Sterile はフレキシブルパッ
Darfresh On Tray は,軟包装協会が最高功績
ケージにおいて,統一的な保護,ラベリング,ト
賞(小売)に選定した新鮮な赤身肉の革新的な真
ラッキング,そして貯蔵システムを通して,医療,
空スキン包装システムである。知的財産的には
食品,そしてその他の検体サンプリングにとって,
Sealed Air 社(Cryovac)がこの技術の背後にい
主要なブレークスルーを示したという。
るが,製造機器の観点で重要な役割を担っている
「この比類ないパッケージによって,明確なコ
のは Mondini 社で,アメリカでは Harpak-Ulma
ストメリットを始め,環境に良くかつ安全なサプ
Packaging 社が代理権を持つ。従来の真空スキン
ライチェーンの利点を持った,単一で軽量かつ柔
パックトレーシステムに比べ,この製品はフレキ
軟性に富むサンプリング解決策が達成される。交
シブルフィルム蓋材を40%も節減し,フィルム
差汚染のリスクを排除しつつ,トレーサビリティ
スクラップを出さない環境に優しいシステムであ
と機能性を向上させたことから,Intervoid 製品
る。
には,食品接触の認可,および交差汚染に対する
フレキシブルフィルムは Mondini 社の真空ス
製品保証とセキュリティのための UN3373(生
キンカバー機器に送りこまれ,生産中に個々のト
物由来物質カテゴリー B)マークが付与されてい
写真1
写真2
食品と容器
558
2015 VOL. 56 NO. 9
る。殺菌されたバッグは独自の track-and-trace
を徹底的に阻止する一助となる。それにより,パ
識別(製品の軌跡と痕跡を追跡確認できる)と特
ンをより長く新鮮に保ち,40日以上もシェルフ
許取得済みのタンパーエビデントクロージャーお
ライフを延ばし,最大50%も製品収縮を減少さ
よび同テープが組み合わされているので,もし悪
せる。
戯されたあるいは正しく密封されていなければ,
④ Rust-Oleum 社 SpraySmartTM マ ー キ ン
‘STOP’ が表示される」と FPA は言う。
グペイントパウチ(写真6)
製造者:Printpack 社
2015年 FPA 金賞の製品
受賞部門:金賞―パッケージ優秀部門
① Dole フルーツ・野菜ミックス(写真3)
製造者:Emerald Packaging 社
同社のマーキングスプレーペイントは硬質エア
受賞部門:金賞―印刷&シェルフインパクト部門
ゾール容器にパックされていたが,これらは使い
Dole 社フル ー ツ・ 野 菜 ミ ッ ク ス は2014年 後
切れない塗料が残り有害廃棄物となっていた。効
半に新しく発売された3つのパウチシリーズで,
率よく使い切り,同じ容器重量ではより多くの塗
パッケージは革命的な HP Indigo wide-web デ
装範囲をカバーできる。そして使用済みのパウチ
ジタル印刷技術によって印刷されている。
はスペースを取らず,有害廃棄物として処分する
必要もない。また透明な部分により残量が容易に
②マスカット・デート(写真4)
製造者:Paharpur Cooling Towers 社
分かる。
⑤ Amcor 社 Dessiflex Ⓡ(写真7)
(部門名:Paharpur 3P)
受賞部門:金賞―印刷&シェルフインパクト部門
製造者:Amcor Flexibles 社
美的センスと最終的にはブランド価値を向上さ
受賞部門:金賞―技術イノベーション部門
せるマットコーティング。パウチの1番の利点は,
Amcor 社 Dessiflex Ⓡ は,容器内の湿気を取り
印刷が優れていることだ。グラフィックス,光
除くのにも,容器のシール部を通じての水分浸透
沢ある色彩の組み合わせ,そしてマット効果は,
を遅らせるのにも,すこぶる効果的である。乾燥
パックの上でデートしているかのように楽しい。
材付きパウチと比べ,環境フットプリントを約
③フレッシュネス・プラス (写真5)
20%削減する。
Ⓡ
製造者 :Sealed Air 社(Cryovac)
⑥ McCormick 社スキレットソースパウチ
受賞部門:金賞―サステナビリティ部門
(写真8)
金賞―技術イノベーション部門
製造者:Bemis Company 社
このガス置換包装は,画期的なアクティブバリ
受賞部門:金賞―パッケージ優秀部門
銀賞―サステナビリティ部門
アフィルムを使用し,手作りのパンへの酸素浸入
写真3
写真6
食品と容器
写真4
写真7
559
写真5
写真8
2015 VOL. 56 NO. 9
ダイカット・スパウトと切り離し “ キャップ ”
でき,再封できる等の特徴がこの高品質の製品に
により,新しい McCormick 社スキレットソース
とっては,結果的に独特の商品訴求をもたらす。
パッケージは,ボトルの外観と機能を持ちながら,
⑨ P.F. Chang 社モンゴリアンスタイルビーフ
(写真11)
パウチの効率性とサステナビリティを持っている。
独特の形状とスタンドアップ形態,ワクワクのグ
製造者:American Packaging Corporation
ラフィックスは,瞬時にして従来の McCormick
受賞部門:金賞―印刷&シェルフインパクト部門
社の一般的なドライ・スパイスから際立たせ,液
American Packaging Corporation は,高精細
状ソースの分野に参入する同社の強みとなる。
フレキソグラフィック印刷専門技術を活用して,
⑦幼児保護スライダー付き Medi-CRREOTM
くっきりとした色合いときれいな文字を持った,
(写真9)
今までよりシャープなイメージを提供する。
製造者:Pactech Packaging 社 /
⑩ Exponent 2TM(写真12)
Reynolds Presto Products 社
製造者:Rollprint Packaging Products 社
受賞部門:金賞―技術イノベーション部門
受賞部門:金賞―技術イノベーション部門
これは幼児保護クロージャーを使った世界初
金賞―パッケージ優秀部門
の幼児保護用フレキシブルパウチである。Medi-
Exponent 2TM はウルトラハイバリアの ClearFoil®
CRREOTM は, 毒 物 予 防 包 装 法 の 連 邦 規 則16
を化学的に不活性なシーラントと組み合わせたも
CFR 1700に規定されるテスト要件に合格した。
ので,特に優れたバリア性および透明性を要す
⑧ Ghirardelli ミルクチョコレート(写真10)
る用途に適している。すべてポリエステルであ
製造者:American Packaging Corporation
る Exponent 2TM は,従来のホイル(箔)構造と
受賞部門:金賞―印刷&シェルフインパクト部門
比べ,コスト削減とリサイクル機能を提供しつつ,
インライン・ラミネートの2つ折り背面印刷マッ
もっとも化学変化しやすい仕様にも,使用可能で
はく
ある。
トフィルム,光沢あるラッカー,容易に引き裂き
写真9
銀賞の製品と会社名(写真 13)
サステナビリティ部門
写真 11
写真 10
写真 13
D Gourmet Express Complete Meals - Berry Plastics
Corporation 社
技術イノベーション部門
A Amcor's SachetLite - Amcor Flexibles 社
B Potato Starch Film for Potato Bags Emerald Packaging 社
C McCormick Skillet Sauce Mix Pourable Pouch Bemis Company 社
E FlexAsept™ - Liqui-Box 社
F Kar's Nuts - Second Nature Wholesome Medley
PrimaPak™ Package - Clear Lam Packaging 社
パッケージ優秀部門
G Organic Girl Three Heart Romaine Stand-Up
Pouch with Velcro Closure - Emerald Packaging 社
印刷&シェルフインパクト部門
食品と容器
写真 12
560
2015 VOL. 56 NO. 9
●
海外技術・マーケット情報 ●
ミレニアル世代を取り込む巨大飲料ブランド
(Creating That Buzz)
Beverage World(USA)p.36(’15・2 )文献 № 6045
Budweiser,Coke,Pepsi といったビール,炭
のような大手炭酸飲料会社はミレニアル世代にア
酸飲料の巨大ブランドがこのところ売り上げを減
ピールする小規模ブランドの買収を進めてきた。
少させ苦戦を続けてきたが,業界筋の多くが,こ
ミレニアル世代は,非常に取捨選択にたけ,さ
うした状況を主として8000万人にも上る米国の
まざまな飲料を飲み世界中のフレーバーを楽しん
ミレニアル世代の影響によるものとしている。
でいる,と PepsiCo 社の Consumer Strategy &
Insights 部門副社長 S. Gvillo 氏は説明する。
2000億 ド ル と 推 定 さ れ る 購 買 力(2020年 に
また,スペイン系アメリカ人がミレニアル世代
は4000億ドルに達すると見られている)を持つ,
ほぼ1981年~ 2004年の間に米国で生まれたミレ
全体の17%を占め,強い影響力を持つ存在となっ
ニアル世代と歴史ある大手ブランドとは,初めか
ている。A-B 社が1960年以来メキシコ以外の国
ら馬が合わないところがあった。しかしながら,
では初めて販売する Montejo を米国市場に持ち
ここに来てこうした老舗ブランドがある程度の成
込んだ理由もここにある,と同社の Connections
功を収めており,そうしたブランドを持つ企業は
部門副社長 L. Herscovici 氏は述べている。
少なくとも以下の4つの対策を見いだしている。
ソリューション2:ソーシャルメディアを多用
飲料ブランドがミレニアル世代に入り込む上で,
1.ミレニアル世代が気に入っていると見られ
るブランドを取り込み,商品選択の幅を広
YouTube は最も重要なものになっている,と多
げる。
くのブランドマネジャーや販売開拓の専門家が指
摘している。
2.ミレニアル世代に入り込む道程としてソー
シャルメディアを多用する。
YouTube による広告・調査を手掛ける Strike
3.体験型販売開拓を展開する。
Social 社のリポートによれば,大手ブランドの
4.ブランドの純正さを維持するよう努める。
ビールメーカーは,2014年に YouTube に2300
ソリューション1:商品選択の幅を広げる
万ドル以上をつぎ込んだという。また,清涼飲料
過去何十年もの間,老舗ブランドの安心感が高
(LRB)ブランドが投じた額はさらに多く,4500
万ドルに上っている。
品質の製品であることを保証する役割を果たして
きたが,大手ブランドの名前がもはや品質を象徴
YouTube で見られるメーカー各社のビデオの
するものではなくなってしまっている,と消費者
中でも Bud Light の視聴回数が1億2000万回と
市場調査会社 The Hartman Group 社のアナリ
最も多く,一方,A-B 社のもう1つのブランド
スト H. Lundell 氏は言う。
大手ブランドは消費者
のこうした変化に対する
防衛策として,急速に品
ぞろ
揃えの拡大を図ってきた。
Anheuser-Busch InBev(A-B)
社のようなビール会社は
クラフトビールのメーカー
を買収し,Coke,Pepsi
食品と容器
第1図 ミレニアル世代
のスペイン系の若者に狙
いを定め,米国市場に登
場した Mantejo ビール。
第2図 (左)Budweiser ビールの広告動画 “ 仔犬 ”
は YouTube で最も多く聴取され,
(右)Pepsi の “Test Drive 2” は LRB でトッ
プの人気を博した。
561
2015 VOL. 56 NO. 9
第3図 Coke は “share
a Coke” キャンペーンで売
上げが伸び,2015 年夏も
キャンペーンを再実施。
第4図 米国のある街 が幸せなミレニア
ル世代の人々の記念に残る光景に変えられ
た,Bud Light の #upforwhatever キャ
ンペーンのシーン。
第5図 Brisk Iced Tea が City Slam
と組んで,ミレニアル世代が投稿して友達
どうしで交換し合える体験の場を作ろうと
いう試みもある。
Herscovici 氏は語っている。
Budweiser は視聴回数1億600万回の内,同ブラ
同様の体験型販売開拓の例として,Pepsi がス
ンドの費用負担とならないシェアされた回数が
ポ ン サ ー と な っ た Pepsi Super Bowl Halftime
5720万回と,最も多かった。
ショー,Brisk Iced Tea がスポンサーの,全米の
単 一 の ビ デ オ と し て は,Bud Light の Super
街中でのスラムダンク競技会 City Slam もある。
Bowl Puppy が最も視聴回数が多かった。
清涼飲料分野では,Coca-Cola 社が2014年の視
ソリューション4:ブランドの純正さを維持
ミレニアル世代は,大きな壁の中にいる巨大企
聴回数3億1600万回と圧倒的に多く,2位の Red
Bull は大きく引き離されて1億2000万回であった。
業に不信感を抱いている。ビールを造るのを自分
特定のビデオの視聴回数としては,Pepsi の “Jeff
の目で見ることができる街角の小さなビール工場
Gordon: Test Drive 2” が1740万回と首位で,そ
や,有機素材をすべてラベルに記載している新し
の94%がシェアされたものであった。
い飲料ブランド,といった “ 純正さ ” が彼らには
アピールする。昨年1月に2カ月間の販売促進の
ソリューション3:体験型販売開拓を展開
予定で売り出された,オリジナルバージョンの缶
広くミレニアル世代向けに成功したと認められ
入り Miller Lite が大好評を博した。
たキャンペーンの1つに,Whatever, USA, と称
して週末の町全体を Bud Light のブランドで飾
“Marketing to Millennials” の著者 J. Fromm
り上 げ た,#upforwhatever キ ャ ン ペ ー ン が あ
氏 は,1862年 に 登 場 し た 昔 な が ら の 製 品 で あ
る。キャンペーンに参加を希望するミレニアル
り な が ら, ミ レ ニ ア ル 世 代 を 取 り 込 む こ と に
世代から20万8000人以上の人々がオーディショ
成功している蒸留酒として,Bacardi を挙げる。
ンを受け,Bud Light のソーシャルチャンネルに
Bacardi U.S.A. 社ラム部門の副社長 A. Krishnan
消費者が参加することで,何百万回もの視聴回
氏 は,Bacardi “Untameable Since 1862” キ ャ
数,シェア,コメントに繋 がった,と A-B 社の
ンペーンの中で,“ 蒸留酒 ” と “ 精神 ” の双方を
つな
意味するスピリットという言葉を使って,くじけ
て飼いならされてしまうことのないバカルディ家
の伝統的スピリットが Bacardi ブランドになっ
ている,と強調している。
こうした各社のミレニアル世代を狙った販売活
動の結果,今,売り上げが少しずつ伸びてきてい
第 6 図 Miller Lite は, 発
売当初の容器を復活させてミ
レニアル世代が好む純正さを
アピールしている。
食品と容器
るが,これが長期的な成長に転じるかどうかを見
第 7 図 歴史のあるスピリッ
ツブランド Bacardi と伝統の
“ 不屈の精神 ”とを結びつけた
“Untameable” キャンペーン。
極めるには,今しばらく時間を要するところであ
る。 562
(桜田三郎)
2015 VOL. 56 NO. 9
●
海外技術・マーケット情報 ●
富裕層だけではなくなった飲料のプレミアム志向
(Top Shelf Goes Mainstream)
Beverage World(USA)p.44(’15・3 )文献 № 6046
90年代後半に Honest Tea 社がそれまでにない
100%ナチュラルで,(原料調達などの)倫理性
や持続可能性を兼ね備え,値段は普通の2倍もす
るボトル入り紅茶飲料を売り出した当時,プレミ
アム飲料と呼べるほどの飲料カテゴリーは存在し
ていなかったが,21世紀に入って以降,
「価格の
高い高級飲料は富裕層が飲むもの」,という常識
は崩れ,一般の人々も価格よりもその商品の中身,
すなわち,原材料や作り方,あるいはその飲料の
機能といったことに目を向けるようになってきた。
こうして,かつてはニッチな商品を扱う専門店
でなければ手に入らなかった Honest などのプレ
ミアム飲料が大手スーパーやコンビニでもみられ
第1図 Honest Tea などのブランド名は広く消費者に
知られ,そのブランド製品はコンビニなどでも入手可能
となった。
るようなってきた。Honest の場合も5年前なら
大都市でしか買えなかったものだが,いまでは地
方のコンビニでも手に入るようになった。これは
年で9%ダウン,2019年までにさらに5%落ち
消費者の可処分所得が増えたからというよりも,
込むものとみられている。市場規模は小さいもの
ツイッター,フェイスブックといったソーシャル
の大きい伸びをみせているのが高価格のスムー
メディアの発達によって商品に対する消費者の知
ジーで,繊維質,抗酸化作用,タンパク質,お
識が増えて,価値観が変化したことによるものだ。
よび代替食といった特徴を売りにしてこの5年
で166%もの成長を遂げている。ミネラルウォー
紅茶だけでなく
コーヒーもここ何年か紅茶と同じようなトレン
ターも,消費者はアルカリ飲料のように新たなコ
ドとなっている。RTD の紅茶やコーヒーなどの
ンセプトを求めており,それなりの伸びをみせて
マーケットは全体としては横ばい状態にあるが,
いるが,もともと価格が安いこともあって全体と
RTD コーヒーは2013年6%,その前年は9%と
してはさほどの規模には至っていない。
いう伸びをみせている。フラペチーノ人気や最近
アルコール飲料
ぜいたく
の「コールドブリュー」など,豆のタイプや作り
「ちょっと贅沢」という言葉はアルコール飲料業
方に消費者がますます詳しくなってきたことがそ
界でも消費者のプレミアム志向を映すものとなっ
の理由だ。
ている。今世紀初めの景気後退前にその兆しをみ
ゼロから大躍進
せていたプレミアム品,あるいはハイエンドと呼
コーヒーもさることながら,もっとすごいのが
ばれる商品を求める傾向は景気回復を受けて再び
ココナツウォーターである。いまでも1本3~4
勢いを増している。スポーツカーや海外でのバカ
ドルもするこの商品は2005年にはほぼゼロの状
ンスというような贅沢とは違って,平均的な所得
態であったのが現在では10億ドルに迫る市場と
の人でも「手の届く贅沢」として高級スコッチウ
なっている。その一方でジュース系飲料はこの5
イスキーやコニャックを買うことが増えてきて
食品と容器
563
2015 VOL. 56 NO. 9
いるのだ。かつて は 裕 福 な
「通」のものであった高級酒
も,ソーシャルメ デ ィ ア に
よって誰にでも知られるよう
になった結果である。調査会
社 Mintel 社 が22 ~ 65歳 過
ぎの飲酒年齢層に対して行っ
た 調 査 で, ウ イ ス キ ー, コ
ニャックといったダークスピ
リッツ飲料はプレミアム価格
第2図 ダークスピリッツを購入する際の年齢層と価格帯との関係
※ 25 ~ 44 歳はスパープレミアム / プレミアムの価格帯品を購入する。
出典:LIGHTSPEED GMI/MINTEL のものを買うと答えたのは,ソーシャルメディア
ひとつの参考になるかもしれない。小規模な地
をよく使ういわゆるミレニアル世代と団塊ジュニ
ビールメーカー各社が年代や性別を超えたプロ
アの世代に多かった。こうした傾向を反映して,
モーションを進めた結果,いま地ビールのシェア
Diageo,Beam Suntory といった大手スピリッ
はビール全体の10%にまで達している。ビール
ツメーカーはバーボンウイスキーの製造工場への
協会の資料によれば,2001年当時,地ビールファ
投資を強化している。
ンの中心は比較的所得の高い39歳の男性で,そ
地ウイスキーもまた
の居住地も都市部に集中していたが,現在では人
口構成年齢の変化や地ビールメーカーの増加など
プレミアム志向の追い風を受けているのは大手
スピリッツメーカーだけではない。年産5万ケー
によって,その様相は明らかに変わってきている。
ス以下,ないし5万~ 10万ケースの中小蒸留酒
女性消費者の増加,所得構成の6割にあたる低位
メーカーは全米で729社あるが,その総生産量は
層の所帯による消費の増加,地ビールメーカーの
2010年の70万ケースから5倍の350万ケースま
増加による消費者への地理的接近などがそれであ
でに伸び,米国全体のスピリッツ生産量の1.7%
る。ただ,ビール全体の消費量がこの5年で4%
を占めるに至っている。これを支えているのは別
ダウンしている中で,輸入ビールが8%伸びてい
に富裕層というわけではなく,飲酒年齢の中でも
ることもまた注目すべき点である。
所得レベルのあまり高くない若い層の人たちだと,
人々がプレミアム飲料を好むようになってきた
のは,お金に余裕ができたからというよりも,商
全米クラフト・スピリッツ協会はいう。
品選択の幅が非常に広くなったことや商品の情報
この比較的新しい「地スピリッツ」がこれから
が豊富になったことによるものだといえよう。
どう展開してゆくかを予想するのは難しいが,プ
(⼤池静男)
レミアム志向が顕在化している地ビールの動きは
●
海外技術・マーケット情報 ●
後回しにされてきた食品腐敗への取り組み
(Addressing Food Spoilage - The Elephant in the Room)
Food Technology(USA)p.32(’15・3 )文献 № 6042
ここ数年,チーズやヨーグルト,ソースなど
になった場合どんなことが起きるだろうか? デ
さまざまな食品腐敗事件が国内メディアの注目を
ジタル時代の今日,今まで以上に考えねばならな
集めた。食品会社は食品安全危機に備えている
い問題である。かつては,消費者は腐敗した製品
が,危険というより,厄介な品質問題でニュース
をゴミ箱に捨てるだけで,スマートフォンで写真
食品と容器
564
2015 VOL. 56 NO. 9
を撮ってソーシャルメディアで共有することはな
かった。これが食品腐敗に対する取り組みを遅ら
せた理由の1つである。
食品腐敗に対する枠組みの欠陥
欠陥製品回収の概念は腐敗製品と病原菌汚染製
品の両方に当てはまるが,“ 大発生 ” という用語
は病原菌汚染製品にのみ引用される。回収問題に
ならなければ腐敗製品の説明に “ 大発生 ” という
第1図 北米およびオセアニアにおける食品種類別
廃棄ロス
用語は使われない。
しかし,この用語はシェルフライフ経過による
腐敗と大規模な腐敗事件(処理不良や取り扱いミ
結果的にエネルギー投入量や土地資源,水,輸送
ス,問題のある原料素材に起因)との違いを明確
費も40%無駄になる。たとえ少量の腐敗低減でも
にするのに役立つ。両方とも腐敗菌による問題で
省エネ効果は大きい。
あるが,前者は品質責任が主として消費者や小売
さらに,2050年までに約90億人分の食料供給
業者にある製品固有の特質であり,後者は食品媒
が必要だといわれるが,食料利用効率の改善は食
介病原菌発生に非常に似ている。
料供給力の向上に有効である。ブランドの信頼性
一般に,“ 食品安全 ” は病原菌や化学物質,物
向上や腐敗によるリコール回避への動機付けに加
理的危険を除去し食品起因の病気を予防すること
え,経済や環境への影響もある。要するに,食品
をいう。“ 食品品質 ” は消費者のさまざまな好み
供給における細菌腐敗のグローバルな影響は,食
を網羅するために口語的に理解される用語である
が,酵素や環境,腐敗菌による化学分解に応じて,
食品の官能的な好ましさを表現するために専門的
大すべきことを示唆している。
生鮮農産物腐敗:衛生プログラムの重要性の手本
に使用される。
生鮮農産物や液体乳など腐りやすい製品の年間
Food Technology 誌2014年7月号に掲載の腐
廃棄率はほかの商品より高い。液体乳は熱処理で
敗検出パッケージの記事は,腐敗菌の代謝生成物
死滅しない芽胞形成菌の格好の培地になる。また,
を感知する新技術を説明している。しかし,この
生鮮農産物は本質的に熱処理されず腐敗菌に快適
パッケージは少量の病原性細胞による “ 腐敗 ” を
な生育環境を提供する。
検出できないため,検出に十分な生体アミンを放
農産物腐敗菌は主に収穫前の環境で発生し,互
出しないで危害を及ぼす “ 目に見えない来源から
いの表面や機器との接触によりサプライチェー
の腐敗 ” がこの技術の限界であると結論付けてい
ンを通して広がる。Erwinia 属菌は生鮮野菜の軟
る。確かに病原菌は非常に低量で病気を発症させ
腐病の原因菌の1つであり,植物の細胞壁を分
るが,腐敗は本質的に感覚によるものである。
解するペクチナーゼを産生しサクサク感を失わせ
る。Erwinia 属菌と異なり,高レベルの乳酸菌や
なぜ腐敗は問題なのか
酸性食品の pH を上げ,潜在する病原体を成育
Geotrichum 属菌(機械カビとして知られている)
させるカビ腐敗などのような,製品の安全性に直
は SSOPs(サニテーション標準作業手順)の不具
接影響するものでなければ規制当局や学界は腐敗
合を示す可能性がある。
菌にほとんど注意を払わなかった。商品や測定単
位(金額,重量,カロリー)によって異なるが,
米国の食品廃棄量は製造量の20 ~ 50%と見積も
腐敗菌の多くは,温度や pH,酸素利用性に
よ っ て 管 理 で き る。Erwinia 属 菌 は pH 中 性 で
20℃以上でのみ増殖する。冷却条件下では別の
られる。発展途上国でのロスの多くは消費者に届
く前に発生する。製品の40%が無駄になるなら,
食品と容器
品微生物学者の目標を安全に加え食品品質にも拡
565
農産物腐敗菌 Pseudomonas 菌の影響を受けやす
い。Pseudomonas 菌 と Erwinia 属 菌 は 低 pH で
2015 VOL. 56 NO. 9
糸発育のように成育が視認できる。
管理できる。一般に,コールドチェーンの維持と
ガス置換包装(特にカット農産物)は農産物腐敗
加工食品の腐敗:実例,取り組み,制約
細菌の発育は製品によって異なり,生鮮農産
防止の代表例であるが,特定の管理の追加はしば
しばほかの腐敗菌の温床になる。結局,SSOPs や
物の腐敗を遅らせる介入戦略は少ない。加工食品
GMPs(適正製造規範)
,GAPs(適正農業生産規
では,さまざまな予防手段やサニテーション戦略
範)によるサニテーション戦略が細菌腐敗低減の
が適用され,加工や処方にも腐敗を軽減する機会
最大の要件である。
がある。しかし,これらの処置は特定細菌の隠れ
みの
腐りやすい製品の効率的なサニテーション戦略
蓑になる場合がある。また,消費者の関心の変化
の開発が課題である。焦点は,初期腐敗や交差汚
(抗菌性添加剤低減,熱処理軽減,腐敗しやすい
染,副生成物の発生低減により,腐敗菌の増殖を
食材使用など)が食品加工に新しい腐敗課題をも
抑制することである。サプライチェーンの効果的
たらしている。
な管理は初期腐敗の発生を低減する。原材料の調
徹底した耐熱性カビの処理
達量や発注のタイミングはシェルフライフロスの
多くの場合,腐敗問題は製品品種によって異な
コストを予測して決定すべきである。
り一貫性がない。重要データの不足は腐敗の管理
また,サプライヤーに高品質の原料素材を要
を難しくする。食品腐敗の原因物質判定や汚染源
求すれば総腐敗量を減少できるが,微生物的品質
確認の追跡分析には迅速検査法が重要である。
のモニタリングは製品の特質が異なるため課題が
トマトベース製品を汚染させる Byssochlamys
ある。さらに,輸送中の打ち傷や擦り傷の最少化
fulva のような耐熱性カビは果実や野菜製品の
と,農作物への適切な施肥は植物の腐敗感染を低
加熱処理で生き残り,後になって(時には購入後
減する。初期腐敗を低減し,交差汚染を減少させ
長期間経って)カビが成育する。
「耐熱性カビは
ると製品の腐敗ロスが大きく減少する。厳格なサ
増殖が非常に遅く,判定に数日要することがあり
ニテーションプログラムは交差汚染を抑制する最
完成品検査は現実的でない」と Cargill 社の国際
良方策の1つである。腐敗品の迅速な除去は外傷
食品安全・品質・規制担当役員の J. Shebuski 氏
による除去品を低減させる。同様に,一般的な
は言う。
SSOPs の一環として無関係な有機物を加工環境
腐敗事件は特定の処理装置のセットアップや環
から排除すると腐敗菌の隠れ場がなくなる。また,
境条件など工場特有のユニークな事情によるもの
ミバエのような昆虫は細菌を拡散させるので,有
で,工場レベルで対処される場合が多い。安全同
害生物の管理も重要である。
様,従業員の行動は食品品質決定の大きい要素で
生菌数が10 / gに達すると製品は腐敗したと
ある。課題は,①食材品質のばらつき,②業務の
考えていいが,その前に変化が生じがちなので製
手抜き,③規定された標準テスト法欠如である。
品の官能特性を熟知しておく必要がある。細菌に
工場で腐敗事件が起きたときに簡単に利用で
よって腐敗力が異なるので細菌の同定が必要であ
きる迅速検査法があると問題対処に役立つ。しか
る。低細菌数は良好な微生物品質であるが,高細
し,
「誰も自分が抱えている腐敗問題を本気で話
菌数が腐敗と密接に関係するわけではない。細菌
さないため,バイオ企業は開発に投資しない」と
の種類と腐敗力がシェルフライフ予測に大きく関
Shebuski 氏は言う。生産者に自分たちが経験し
係する。
た問題を共有する気がなければ細菌腐敗への対処
6
Erwinia 属菌の高い腐敗力は細菌が合成する細
は難しい。病原菌を管理する規則や慣習の多くは
胞壁分解ペクチナーゼの働きによる。官能変化を
政府機関が収集する食品媒介病原菌の発生情報か
生ずる細菌は腐敗力が高く,一般に,①ペクチ
ら生まれている。従って,製品腐敗に関する情報
ナーゼやプロテアーゼ,リパーゼなど有機物分解
の収集は効果的な規制措置の確立に極めて重要で
酵素を産生する,②ガスを産生する,③カビの菌
ある。検査方法や標準の改善開発は加工環境から
食品と容器
566
2015 VOL. 56 NO. 9
の情報に大きく依存する。
トップダウンによる環境汚染物質の処理
Coca-Cola 社の品質・安全・環境担当役員 S.
Leighton 氏は,「腐敗菌の有無だけでなくパッ
ケージ全体を見る高感度試験法が欲しい。我々は
判定結果を待てるほど製品在庫に余裕がない」と
言う。 同氏は,安全と品質に対する自社の取り
組みにいくつかの類似点を認め,環境汚染に対処
する1つの戦略として重要管理点の代わりに重要
品質点を用いると言う。
第2図 腐敗製品の可視特性(リンゴジュース)
しかし一方で,同氏は安全と品質は非常に異な
① Alicyclobacillus による腐敗品は可視欠陥はないが強
い異臭がする。
②酵母による腐敗品(左端)はガス産生のため膨張し,
ジュースは濁る。
③カビによる腐敗品(中央2本)は菌糸の成育が見られる。
④微生物ではないが過度に光や熱に暴露されたものは変
色する(右端)。
ることを示唆し,「食品の安全と品質はあまりに
も長い間一緒にされていた。食品安全の推進には
特定の妥協不可のものがある。それは経営的意志
決定でない。しかし,品質に伴うリスク計算は事
業展望から得ることができる」と言う。Leighton
氏は,ボトル充填中に Alicyclobacillus や耐熱カ
変化に関与する腐敗化合物の特性解析は,製品品
ビ,Brettanomyces/Dekkera な ど, 環 境 汚 染 的
質の経時モニターや,特定微生物の腐敗能力を確
な腐敗問題を確認した。それ以降,ボトル充填工
認する別の迅速法である。卓上装置やパッケージ
程は Coca-Cola 社製造ラインの重要品質点とし
に組み込んだセンサーを用いて生体アミンを検査
て認識され,Coca-Cola 充填会社に管理標準を課
する方法もあるが,これらの技術はコスト効率や
した。これは内部監査を伴う非常に集権的な QA
適合性の改良が必要である。選択培地開発のため
システムである。
「Coca-Cola 社はブランド価値
には,主要な腐敗菌と特定製品の指標菌の同定が
を損なうことに敏感である。現在,我々の最大の
必要である。非培養ベース法開発のために,腐敗
問題は人である。我々は GMPs 維持のためにメ
力の高い種や菌株の同定とマーカーの同定が必要
ンタリティーを変えねばならない。これは技術的
である。
問題でなく人の問題である。正しい文化・教育・
有効な手順を確立するために,定点で行うサニ
訓練の推進によって人は食品科学を理解する」と
テーション手順と特定腐敗菌制御との関連づけが
同氏は言う。
必要である。これは,腐敗微生物学に用いる言語
フレームの進歩に加え,対話型での幅広いデータ
現在の方法と残されたニーズ
示唆のとおり,多くの資源とデータがまだ必要
収集と定期的モニタリングにかかっている。必要
である。腐敗細菌の検出や計数は,十分な感度と
なことの多くは,食品媒介病原菌管理で確立され
十分な迅速性,対象細菌だけを検出できる選択培
ていることと似ているが,会社の是正措置計画は
地と非培養ベース法の利用可否に制約される。ま
安全の場合と品質の場合では大幅に変わる。腐敗
だ一部細菌の選択培地はないが,腐敗細菌のモニ
に対する注意強化は知識や資源の不足を暴露する。
タリング作業は大部分培養ベースである。農産物
また,シェルフライフ延長に対する潜在的負担も
腐敗に対する診断作業の多くは,実験技術不足の
大きい。これらの問題は食品生産者にとってもは
ため現場や工場で視覚分析を行っている。
や無視できることではなく,腐敗問題に対処する
ための研究を計画的に行う必要がある。
学界とバイオテクノロジー企業は,病原菌のよ
(合田芳宏)
うに腐敗菌専用の適切な培地と非培養ベース技術
を開発する必要がある。微生物の代わりに,品質
食品と容器
567
2015 VOL. 56 NO. 9
●
海外技術・マーケット情報 ●
可食性フィルムの製造
(Producing Edible Films)
Food Technology(USA)p.120(’15・4 )文献 № 6050
可食性フィルムは何世紀もの間利用されてきた
が,商用利用が始まったのは1960年頃とごく最
近のことである。歴史的にはソーセージのケーシ
の
り
ングや寿司を巻く海苔などが代表的なものとして
挙げられ,さらに過去50年間で,新規多糖類や
タンパク質,脂質成分がさまざまな分野で可食性
フィルムの製造に用いられてきた。
可食性フィルム
写真1 可食性フィルムのドローダウン
キャスティング。
写真提供:米国農務省研究部門
可食性フィルムに用いることのできるすべての
成分は,米国食品添加物安全基準認証(GRAS:
Generally Recognized As Safe)のものとされ
ており,最初の商用フィルム成形剤の一つはヒド
ロキシプロピルメチルセルロースであった。また,
カラギーナンやペクチンなどの多糖類,大豆タン
じめとする親水コロイドがフィルムの骨格構造,
ろう
酸素バリア性をなす成分,蝋や脂肪酸などの脂質
は耐水性を向上させる成分として利用されている。
さらに,グリセロールやソルビトールは食用可塑
乾燥させる。多層フィルムを作る場合は,フィル
ム上にさらに塗装・乾燥を連続的に行う。
最適な配合と製造工程条件は研究室で確認され
ており,それはパイロットラインか商業製造設備
かのどちらか一方で実現される。水溶液を可食性
剤としてフィルムの柔軟性向上に,イヌリン等の
フィルムに変えるのは,基本的に塗布,乾燥,最
繊維質はフィルムの強度,つや消し,栄養強化の
終加工の3つの製造工程がある。
目的で使用される。また,栄養素,着色料,甘味
ロール式ナイフコーティングが通常,可食性
料,香味料,口臭除去剤などのような活性添加物
フィルムの商業生産に使用される。この方法では,
が,最終用途に適用させるため組み入れられる。
固定された硬質のナイフが,その下を移動する
か
キャスティング工程
キャスティング基材上の溶液を掻き取り,正確な
可食性フィルム製造の初めの段階はフィルム成
厚みの層に仕上げる。その未乾燥フィルムの厚さ
形のための処方開発である。フィルム成形溶液は
一般的に水溶性ポリマーや可塑剤,繊維,着色料,
香味料,甘味料を含んでいる。混合器は広範囲の
はキャスティング基材の上にあるナイフの高さを
微調節することで制御される。塗布段階の最適化
を考える上で大切なことは,配合,未乾燥フィル
成分を可溶化するためや,時には溶液を加熱する
間,シェアをかけるために使用される。その他,
脂質の乳化を必要とする場合もある。多くの溶液
ムの厚さ,粘度,固形物,温度,層の数および基
材である。スロットダイ押し出しは新しいタイプ
の塗装で,移動する基材上に水性塗料を塗装する
配合の固形物含有は20 ~ 35% の範囲で,粘度は
のに使用することができる。
可食性フィルムの製造に使われる2タイプの
Ⓡ
フィルム成形溶液はガラスやテフロン ,ポリ
食品と容器
の上からブレードあるいはロッドを引いて,均一
な厚みにする。塗装されたプレートはオーブンで
パク質やホエータンパク質などのタンパク質をは
1000 ~ 10000cP の間である。
エチレンなどの素材からなるプレートに注ぎ,そ
キャスティングラインは,スチールベルトへの
568
2015 VOL. 56 NO. 9
キャスティングと,プラスチックフィルムのよう
なウェブあるいはフレキシブルな基材へのキャス
ティングとがある。スチールベルトへのキャス
ティングの時,そのベルトはラインの両端にある
大きなドラムのまわりを回転する。溶液はライン
の一方の端で一様に供給され,水分除去のために
乾燥チャンバーを通して運ばれる。ステンレスス
チールベルトはフレキシブル基材にかかる経費を
除くと同時に,最適な均一性と伝熱,乾燥効率を
与える。しかし多くの可食性フィルム溶液はス
写真2 W erner Mathis 社の可食性フィルム
の連続パイロットキャスティングシス
テム。
写真提供:米国農務省研究部門
チールベルトに強く付着する。この場合,離型剤
を添加するか,またはスチールベルトの表面にフ
レキシブルな基材を用いる。ウェブキャスティン
グ,すなわちポリエステルフィルムのようなフレ
他のシート状フィルム市場においても,睡眠補
キシブルな基材や塗布された剥離紙への直接キャ
助,喉の痛み止め,栄養補助食品等1000万ドル
スティングは,キャスティングラインの第2のタ
規模の市場がある。また,食品に色や味,栄養成
イプである。乾燥機を通る際は,サポートロール
分を付与する用途にも使用されており,800万~
がウェブに安定性を与える。
1000万ドル規模の市場がある。
乾燥は,可食性フィルム成形の重要なステップ
近年では,寿司を巻く海苔の代わりや,低カロ
である。3つのステージ(予熱・恒率・減率)に
リーかつグルテンフリーであるためトルティー
分けてフィルムを乾燥させるゾーン乾燥は,それ
ヤやパンの代わりにも使用されるようになった。
ぞれのステージの乾燥の最適化や製造工程で欠陥
NewGem Foods 社はこの分野の先駆けであり,
がない高品質の製造に最も適している。熱風対流,
このほかにも市場の要求に対応した野菜や果物を
熱風衝突,蒸気および赤外線乾燥を含む,さまざ
使ったフィルムの製造も行っている。果物の味が
まなタイプの加熱を異なるゾーンで使用できる。
ついたフィルムは食肉製品の包装に使用され,こ
赤外線乾燥は,フィルムの予熱ステージ中の初期
れによって厄介な液体グレーズ(上塗り)が不要
の水分除去に特に効果的で,ほかのタイプの加熱
となる。さらには,デコレーションケーキや焼き
は,通常ゾーン単位で後段階の乾燥で使われる。
菓子にも多種多様なデザインを施すことが可食性
可食性フィルム製造工程の最後の段階は加工
インクと可食性フィルムの登場によって可能に
である。大きなフィルムロールは,より小さい
なった。
ロール,シート,ストリップ,もしくはダイカッ
ト(型抜)のような最終形状に加工が必要である。
可食性フィルムの今後
将来的には,熱押し出しや3D プリントが可食
シートやダイカッターのような種類が豊富なス
性フィルムの製造に導入され,プロバイオティク
リッターマシンは,この目的のために利用可能で
スや天然抗菌剤などの分野についても発展するこ
ある。
とが期待される。また,未来のナノサイエンスの
分野ではさらにフィルムの性質を変化させること
可食性フィルムの市場
最大の市場は,2000年に発売されて爆発的な
ができる見込みもある。最終的には,合成パッキ
ヒット商品となった Listerine マウスケアシート
ンの代替品にもなる可能性を秘めている。
に代表されるシート状フィルムで,現在でも年商
(勝谷好博)
1億ドルの市場規模を維持している。さらにその
食品と容器
569
2015 VOL. 56 NO. 9
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海外技術・マーケット情報 ●
高齢者の脳を守る
(Protecting the Aging Brain)
Food Technology(USA)p.109(’15・4 )文献 № 6049
スは,対象認知記憶,空間・位置記憶,嫌悪反応
AARP(全米退職者協会)の2014年の調査に
の保持において良好な結果を示した。
よると,健康的なライフスタイルを維持する上
で,脳の健康は心臓に次いで2番目に重要な要因
ホスファチジルセリンとホスファチジン酸
となっている。加齢により,反応時間の遅延,認
2つのパイロット試験によって,ホスファチジ
知症,アルツハイマー病など,認知機能に関わる
ルセリン(PS)とホスファチジン酸(PA)の組
さまざまなリスクが増大する。高齢者の脳を守り,
み合わせが,記憶や気分,認知機能の改善に効果
鋭敏にするのに役立つ可能性のある成分やサプリ
があることが示された。PS は細胞膜の構成成分
メントを紹介する。
であり,脳細胞に高濃度に見いだされる。試験で
ココアフラバノール
は,100mg の PS と80mg の PA の組み合わせを
これまで,ココアフラバノールは血液循環や心
1日に3回投与した。最初の試験では,記憶に問
臓の健康と関連づけられてきたが,記憶力改善と
題があり鬱傾向のない72人の高齢被験者に3カ
の関係が示唆された。50歳から69歳の37名の被
月間投与した結果,記憶や気分,認知への統計的
験者のうち,Mars 社が調製した高フラバノール
に有意な効果があった。さらに,96人のアルツ
(1日当たり900mg)カカオドリンクを摂った被
ハイマー病被験者に対する2カ月間の試験により,
験者において,老化による記憶力低下に関与する
日常的機能に対する顕著な安定化効果が示された。
脳歯状回機能に顕著な改善が見いだされ,記憶テ
Lonza 社は,Lipogen 社と提携し PS と PA を組
ストにおいても有意に良好な結果を示した。ココ
み合わせた MemreePlus を提供している。
アフラバノールの定期的な摂取により,おそらく
クルミ
インスリン感受性の改善を通じて,加齢による認
クルミにはオメガ3脂肪酸αリノレン酸(ALA)
知障害が抑えられるのであろう。認知障害のない
が含まれ,心臓の健康によいといわれている。ク
90名の高齢被験者への介入試験でも認知機能に
ルミの脳機能への影響についても研究されており,
効果があった。
アルツハイマー病のリスク軽減,発病の遅延,進
オメガ3脂肪酸
行の緩徐化の効果が示唆された。アルツハイマー
オメガ3脂肪酸,特に長鎖のエイコサペンタ
病モデル(AD-tg)マウスにおける,学習スキ
エ ン 酸(EPA) と ド コ サ ヘ キ サ エ ン 酸(DHA)
ル,記憶,不安感,運動活動,運動調整に対する
は心臓の健康に関与しているが,
認知機能にも関わっている可能
性がある。オメガ3多価不飽和
脂肪酸(n-3 PUFA)は,加齢に
よる認知機能の低下を防ぎ健康
を促進する有効な手段であるよ
うだ。19カ月齢のマウスに,n-3
PUFA 混 合 物, オ リ ー ブ 油, 非
添加飼料を8週間与えたところ,
n-3 PUFA を与えられた加齢マウ
食品と容器
写真1 ココアパウダーのフラバノ
ールは記憶機能を改善する可能性が
ある。
©msheldrake/iStock/Thinkstock
570
写真2 クルミのアルツハイマー病
の発症リスクを減らす潜在的な効能
について研究されている。
©Maxal Tamor/iStock/Thinkstock
2015 VOL. 56 NO. 9
食餌からの栄養補助の効果を分析した。人に換算
すると1日当たり1または1.5オンスに相当する,
6%または9%のクルミを含有する混合餌が与え
られた AD-tg マウスで,記憶,学習能力,不安感,
運動発達において有意な改善が認められた。
シチコリン
シチコリンは生体細胞に見いだされる天然物質
である。臨床試験において,加齢時に通常の認知
第 3 写真 ブルーベリーはアントシアニンが豊富
で循環器系とともに,脳の健康や老化にも有益で
ある。 ©Maxal Tamor/iStock/Thinkstock
機能を維持するのを助け,脳をフリーラジカルダ
メージから守ることが示された。物忘れを訴える
が,脳障害やアルツハイマー病の兆候のない平均
年齢79.9歳の被験者349名に,500mg のシチコ
み,高い抗酸化性と抗炎症活性を持つことが知ら
リン(Cognizin,Kyowa Hakko USA)を摂取し
れている。アントシアニンは,神経変性を軽減す
てもらい,3,6,9カ月後にテストした。ミニメ
ることが期待されるグルコースの排出改善ととも
ンタルステート検査の結果,コントロール群の被
に,脳中枢での神経のシグナル伝達の増加に関係
験者のスコアは有意に減少したが,シチコリンを
する。9人の高齢者にワイルドブルーベリー果汁
与えられた被験者のスコアはベースラインにとど
を毎日飲んでもらったところ,12週間で,対連
まった。
合学習と単語リスト記憶の改善が見られた。より
コリン
多量の長期にわたるベリー類とフラボノイドの摂
コリンは,神経伝達物質アセチルコリンの前駆
取が高齢女性の認知低下の遅延と関連するか評価
体で,細胞膜の構成成分であるホスファチジルコ
するため,看護士健康研究参加者に対して半定量
リンの一部として機能する。脳細胞やほかの生体
的な食頻度アンケートが1980年から4年ごとに
部分の情報伝達システムの統合にとって重要な成
実施された。ブルーベリーとイチゴのより多くの
分である。加齢時の認知機能の低下や過誤を招く
摂取が,認知低下の遅延と関連していた。
脳の変化を防ぐはたらきがある。脳の発達期にお
植物由来のサプリメント
けるコリンの供給が,成年および老年期の認知機
昨年,Kemin 社は,非 GMO 系統ペパーミント
能に影響するという報告があり,周産期栄養の重
由来のフェノール化合物 Neumentix を発売した。
要性が強調されている。
加齢よる記憶障害を持つ成人に対する12週間の
マグネシウム
試験においてワーキングメモリ1) の改善が認め
重い脳振とうの経験がある人にマグネシウムサ
られた。PLT Health Solutions 社の Synapsa は,
プリメントを勧められることがある。AIDP 社の
健常成人において,認識力に関して要求性の高い
Magtein は L- スレオニン酸のマグネシウム塩で,
環境下での,視覚処理,学習速度,ワーキングメ
動物実験により,記憶,認知,学習能力を改善す
モリ,情報保持,精神行動について有意に良好な
ることが示されている。神経の可塑性を増加させ,
結果を示した。 (門間美千子)
血液脳関門を容易に透過し,脳のシナプスを増加
させるといわれている。
訳注)
1)思考や作業時に一時的に情報を保持し処理する能力。
ブルーベリー
ブルーベリーは,高濃度のアントシアニンを含
食品と容器
571
2015 VOL. 56 NO. 9
●
海外技術・マーケット情報 ●
中小食品企業の環境アセスメントを支援するSENSEプロジェクト
(SENSE-project : Environmental Assessment for the Fruit Juice Industry)
Fruit Processing(DEU)p.66(’15・3,4 )文献 № 6048
取り組みの活用の仕方および相乗効果を示すこと
SENSE 研究プロジェクトは,果汁生産が環境
にある。
および社会に与える影響を測定する一連の主要環
境パフォーマンス指標(KEPI)の提案を行った。
1-1)SENSE ツールについて
ウェブサイトを利用した SENSE ツールは,環
本稿で論じるロードマップは,SENSE ツールの
方針策定の背景をかいつまんで説明し,SENSE
境的・社会的ライフサイクルアセスメント(LCA)
とその他の取り組みの活用の仕方およびその相乗
手法の簡易版を使って,中小企業が自社の製品の
効果を示すことを意図している。
影響度を計算することができるようにしたもので
ある。特に中小企業の必要性および対応能力に合
1.はじめに
中小企業は欧州の食品・飲料産業の根幹をなし
わせて作成されており,種々の製品および加工法
ており,企業数の99%,売上高の49%,そして
に対応できるよう柔軟性を持たせている。判定基
雇用数の63%を占めている。規模や事業内容は
準(第1表)は多くの公的機関や民間の環境的・
極めて多義にわたっている。これまで,こうした
社会的影響度を測定する取り組みで採用されてい
中小企業は(環境や社会へのマイナスの影響を減
るものと類似している。
らし)“ グリーン度 ” を測定することの利点を活
2.方針策定の背景
用することが困難であった(COM,2007)。
2-1)中小企業と法令
EU の食品・飲料政策の分野は複雑で,国単
SENSE ツールは,中小企業が欧州の食品・飲
料産業の環境的・社会的持続可能性の改善に取り
位および欧州共同体としての法律や民間の各種
組むことができるようにする,簡単,かつ,安価
証明機関の取り組みが最も多い分野の1つであ
な方法に対するニーズに応えるべく開発された。
る。多くの法律が介在しているということが中小
中小企業が環境的・社会的影響を測定する能力を
企業にとっては特に厄介な問題となる。ここで,
持ち,測定に取り組んでゆく決意を示すことがで
SENSE ツールは中小企業が履行しなければなら
きるようにすることが,自らの環境,社会へのマ
ないあらたな法令や基準をなすものではないこと
イナスの影響を軽減し,コストを削減し,効率を
を強調しておくことが重要である。SENSE ツー
高めて市場へのアクセスを拡大し競争力を高めて
ルは,中小企業が自身の実績を測定してベンチ
ゆく助けとなる。中小企業が自らの持続可能性を
マーク評価し,法律や行動計画を理解しそれに応
ベンチマーク評価できることで,継続的改善を実
第1表 持続可能性の実績記録(データ)を取り纏める
のに SENSE ツールで使用する指標(指針)
現できるようになる。それによって,より環境に
優しい製品および企業活動に対する社会,サプラ
イチェーンならびに政策期待に応える助けとなる。
また,顧客(メーカー,小売店,飲食サービス
業)が,中小企業の力量を評価し,より環境に優
しい製品を選択することを可能にする。
本稿で論じるロードマップの目的は,SENSE
ツールの方針策定の背景をかいつまんで説明し,
判明した課題を明らかにするとともに,その他の
食品と容器
572
環境面の評価
社会面の評価
非生物資源の枯渇
気候変動
淡水の生態毒性
人体に対する毒性(発癌性,他)
土地利用
土壌の酸性化
陸地,海水,淡水の富栄養化
水資源の枯渇
労働者の権利
労働条件
地域社会に対する影響
2015 VOL. 56 NO. 9
える対応を実施していることを示すためのツール
面の見方である。
である。
・こうした測定値が自分たちの事業とは関係ない
ものと見ている。
2-2)持続可能性を実現する食品政策と中小
企業
・問題点とその解決策を自ら見いだす能力(時間,
の影響を緩和し,世界市場での競争力を維持し,
・変革を行う能力(時間,経済力,要員)が欠け
経済力,要員)が欠けている。
欧州の複雑な社会的ニーズを満足させ,気候へ
とりわけ,一切の生産性や繁栄の究極のよりどこ
ている。
ろとなる天然資源を保護するために,EU の食品
3.進むべき方向
SENSE プロジェクトの目標は,食品分野の中
供給を環境により優しいものにしなければならな
い,ということに議論の余地はない。従って,持
小企業およびその製品がより環境に優しいものに
続可能性は,EU 域内の食品業界にとって極めて
なり,効率,生産性,競争力を大幅に高め,環境
重要な目標である。EU は,このことを以下のよ
に優しい製品に対する需要増大に応えるとともに,
うに規定している。
環境に対するマイナスの影響を減らし,資源効率
・人々の需要を満たす十分な食品供給を確保する
を高め,雇用促進と福利向上を図る一助となるこ
とであった。
ことの必要性。
・食品加工産業および主要生産分野における人々
ロードマップは,SENSE ツールが EU の政策
の活動が環境を保護するための要件と対立しな
目標および食品・飲料分野の事業におけるニーズ
いようにすることの必要性。
の双方の一助となることができるフレームワーク
および手段を明確にしている。主な推奨事項を以
・良好な生活水準と就労条件をもたらす雇用を実
下に列記する。
現する必要性。
EU の取り組みは,成長,競争力,福利なら
3-1)中小企業の取り組みと“持続可能性を
びに就労機会を長期的に維持できるかどうかは,
高める能力”の育成
まず取り掛かるべき任務は,中小企業の経営者
EU の産業界が持続可能性を自身の活動の中心に
据えることができるかどうかに懸かっていること
および従業員に対して,対応を求められている環
を強調するものとなっている。これを進めるため
境上の課題が,緊急,かつ,恩恵をもたらすもの
の鍵としてこれまで取り組んできたものが,実績
であり,自身に関わるものであることを理解して
を測定し,比較して改善を図るための方法の開発
もらうことである。各レベルでの教育,実践,実
であった。そこには,指標,目標,基準,行動規
施上の支援,ならびに複雑な選択肢があり特定す
範,製品表示,ライフサイクルアセスメント,な
るために時間を要する外部からの協力をどう求め
らびにフットプリント化技術が介在している。し
るかという点の手助けも必要となる。
かしながら,こうした取り組みはしばしば中小企
3-2)EU の政策を支援するための SENSE
業が取り入れることのできる手段を超えるもので
ツールの活用
SENSE ツールは,資源効率,持続可能な消費
あった。SENSE はこのギャップを埋めるための
および生産(SCP),産業開発,気候,エネルギー,
手助けをするものである。
中小企業の大多数が,大企業の活動に比べれば
環境に優しい製品の単一市場,企業の社会的責任
自分たちの環境に及ぼす影響は無視できる程度の
(CSR),共通農業政策(CAP),ならびに第7次
ものであると考えているが,EU の産業が環境に
環境行動計画等に関する EU の政策枠組みに適合
及ぼす影響の60 ~ 70%は中小企業の活動による
している。中小企業およびその産業分野全体とし
ものであることが調査から判明している。中小企
て,このツールを使って目標に対する進捗度を測
業が環境への影響を軽減するための対応に躊躇す
定し,自らの対応状況を示すことができる。
ちゅうちょ
ることには,以下の理由がある,というのが各方
食品と容器
573
2015 VOL. 56 NO. 9
3-3)その他の EU 制度・方法との相乗効果
ネットワーク(EEN),中小企業のための執行機
既に述べたとおり,SENSE は事業活動の環境・
関(EASME),Horizon 2020,等がある。こう
社会面の対応状況を測定し,報告するために EU
した取り組みは,すべての食品産業全体に適用さ
が開発してきた種々のツール,その他の取り組み
れるものであるが,SENSE ツールが有用となる
の中の1つである。重複をさけるため,こうした
分野別の政策手段もある。
ツールが相乗的に効果を発揮すること,データ収
こうした政策枠組みの中で,SENSE ツールを
集方法や目標がお互いに調和がとれていることが
活用して持続可能性の向上を図り,企業が自身の
重要である。
対応あるいは関連するデータの追跡,系統的デー
環境に優しい市場への中小企業の参加を促す取
タ管理の実績を示したり,資金調達のために実績
り組みとして,中小企業のための環境に優しい行
を示したりすることができる。現在,これらの取
動計画(Green Action Plan: GAP)
,ENVIFOOD
り組みの多くは開発段階にあるので,SENSE ツー
プロトコル,製品の環境フットプリント(Product
ルを採り入れて統合できる状況にある。
Environmental Footprint: PEF),公共機関によ
3-4)自主的基準および取り組みを支援する
る環境に優しい物資調達(Green Public Procurement
ための SENSE ツールの活用
食品供給においては,民間の自主的な認証制度
: GPP),Green EcoNet,EU 環境マネジメント
&監査計画(EMAS),環境法令順守支援プログ
や基準設定が一般的な特徴となっている。とりわ
ラム(Environmental Compliance Assistance
け,そうした複数の制度の要件が関わっている場
Program: ECAP)
,一般企業および中小企業の競
合,その基準を満足させることは負担になる,と
争力を高めるための計画(COSME),欧州企業
の報告が中小企業やその他の関係者から寄せられ
第2表 主要な行動の要旨
推奨事項
1.
2.
行動の範囲
中小企業を参加させて事業の改善の事例を
・環境に優しい技術や手法を採用することによる事業上の優位点を明確にする。
作り,“ 持続可能性を高める能力 ” の育成と ・持続可能性を高める能力を持たせるよう働きかけを行う。
実践的支援
・実践のための現地での個別的で具体的な支援を提供する。
・協力を求める上での手助けを行う。
・中小企業の信頼できるパートナーを見極める。
種々の分野で EU の政策を支援するために
SENSE を活用
・食品,持続的成長,競争力,資源効率の全体にわたる政策。
・環境に優しい製品の単一市場。
・中小企業のための環境行動計画(GAP)。
・企業の社会的責任(CSR)/ 事業責任。
・公共機関による環境に優しい物資調達(GPP)。
・環境,水,容器,廃棄物,気候,農薬使用に関する政策枠組み。
・分野に特化した政策。
3.
他の取り組みとの相乗効果を実現
・中小企業のための環境行動計画(GAP) に列記された行動。
・ENVIFOOD プロトコル。
・製品環境フットプリント(PEF)。
・Green EcoNet。
・EU 環境マネジメント&監査計画(EMAS)および EMAS Easy。
・環境適合支援プログラム(ECAP)。
・一般企業および中小企業の競争力を高めるための計画(COSME)。
・欧州企業ネットワーク(EEN)。
・中小企業のための執行機関(EASME)。
・Horizon 2020。
・分野に特化した手段。
4.
国単位,EU 圏,ならびに世界の自主的基準 ・SENSE を採り入れた中小企業を責任を果たす事業パートナーと
および計画を支援するための SENSE ツール 認識する,あるいはそうしたパートナーとして適合していることを SENSE
の活用
を活用して実証する。
・ISO14000,食糧農業機関持続性評価(SAFA),国連グローバルコンパクト
食農事業の原則(FAB),GlobalGAP 等の世界的取り組み。
・SGF 自主規制制度,果汁 CSR プラットホーム,等,特定分野の取り組み。
・小売業,製造業,食品サービス企業が推進する私的取り組み。
食品と容器
574
2015 VOL. 56 NO. 9
第2表は,SENSE の方針実行のロードマップ
ている。SENSE ツールは,そうした場合の重要
における主要推奨事項の要旨である。
な対応手段となり得る。
GlobalGAP,SGF Voluntary Control System,
4.結び
SENSE ツールは,欧州の中小食品・飲料企業
Fruit Juice CSR プラットホームのような制度の
運営機関に働きかけて,SENSE のデータを有効
に自社の活動の環境的・社会的影響を記録し分析
なものと認めてもらう,あるいは,相互に認め
する簡便な手段を提供するものである。このツー
合うようにすることが方針実現の1つの手段で
ルは,ほとんどの企業が容易に手にすることがで
ある。Fruit Juice CSR は,サプライチェーンに
きる情報を使用し,簡単に使えるように作られて
おける透明性の欠如,不十分な就労環境,低賃
いる。従って,これを活用することにより,中小
金,健康・安全上の問題,農薬の使用と水の管
企業が顧客,認証計画,法令からの要望がますま
理,といった懸念事項を特定して取り扱っており,
す高まっている環境的・社会的実績の報告を行う
SENSE ツールの指標もこうした点を対象として
ための要件を満たすことができる。基礎データを
いるので,CSR ロードマップを実行する上での
一貫性のある形で提供するこのツールにより,複
活用が考えられる。
数の取り組みにデータを入力する際の重複をさけ
果実産業分野に SENSE ツールを採り入れるた
ることができる。また,個々の中小企業が環境
めの極めて重要な課題は,小売業界の受け入れ体
的・社会的影響に関して行うデータ収集の記録を
制である。こうした点からも,採用推進のために
追跡し,認証制度,その他の目標を満足させる力
は中小企業のみならずそのサプライチェーンの
量があることを実証することが可能になる。
(桜田三郎)
パートナーへの直接の働きかけが必要である。
総会・研究発表会のご案内
日本清涼飲料研究会「第25回総会・研究発表会」
◇日時:2015年10月22日
(木)9:50~(受付9:20~)
◇会場:
⑴総会・研究発表会
(財)日本教育会館 一ツ橋ホール 〒101−0003 東京都千代田区一ツ橋 2-6-2
TEL 03−3230−2831
⑵懇親会 日本教育会館 9階 喜山倶楽部「平安」
TEL 03−3262−7661
◇参加費:
⑴研究発表会参加費
会 員 1,000円 ※日本清涼飲料研究会の法人・
団体会員:1社につき1名無料,一般 3,000円
⑵懇親会参加費 5,000円
※懇親会参加費につきましても,法人・団体会員
の方1名は無料です。
◇申込方法:下記ホームページよりお願いします。
http://www.j-sda.or.jp
◇プログラム
《研究発表》(10:10~11:45)
「ケモメトリックス手法を用いたコーヒーの品種等の予測」
後藤幸生
「コーヒーのフレーバーリリースに及ぼす牛乳と温度の影響
−新しいコーヒーフレーバーの開発に向けて−」
糸部尊郁
「ぶどう果実の香気分析」
服部雄飛
「天然水,ニアウォーター兼用無菌充填ラインにおける超省水
省エネの実現」
森若大貴
食品と容器
575
「機能性飲料の開発における分別殺菌の優位性について」
又吉りえ
「Alicyclobacillus acidocaldarius の酸性飲料における危害発
生要因の検討」
島谷佳奈果
「清涼飲料原料の高温性嫌気性芽胞細菌の標準検査法の開発
~ ILSI Japan 食品安全研究会 食品微生物研究部会~」
青山冬樹
○昼休み(11:45~13:10)
○総会,事業報告,表彰授与他(13:10~13:30)
《特別講演》(13:30~15:30)
「飲料等の分散系食品の品質 −評価法および安定化要因−」
松村康生
「だしのサイエンスとポテンシャル」
近藤高史
《研究発表》(15:45~17:15)
「国産最軽量キャップ開発」
櫻井拓也
「国産最軽量2L 大型 PET ボトル(28.9g)の開発
−アルカリイオンの水 2L−」
西島孝紀
「流体シミュレーションを利用したアセプボトル内面殺
菌評価手法の開発」
伊藤喬俊
「ブルーベリー葉熱水抽出物の抗酸化活性」
松浦 靖
「野菜飲料による抗抑うつ及び不安効果」
河野高徳
「天然吸着剤を用いた茶飲料からのカフェイン除去技術
の開発」
塩野貴史
○懇親会(17:30~19:30)喜山倶楽部「平安」
☆理事会(12:00~13:00)喜山倶楽部「芙蓉」
2015 VOL. 56 NO. 9
一刻者の独り言
第8回
国際化に対応した食品産業と研究開発(その四)
-食品の新たな機能性表示制度-
②「明らか食品」の特性に配慮した機能性表示制度の構築を
いわ
もと
むつ
お
岩 元 睦 夫 ((公社)日本フードスペシャリスト協会 会長)
時の厚生省が都道府県等に発出した「無承認無許
本誌の7月号に,この4月に発足した食品の新
たな機能性表示制度が,日米間で食品の定義が異
可医薬品の指導取締りについて」
(薬務局長通知,
なる上に,サプリメントの制度のない我が国に,
薬発第476号)があります。
「46通知」と知られる
独自の制度を有する米国の制度が導入されたとい
この通知は,薬事法上医薬品として製造,販売,
う矛盾を指摘しました。また,日米政府間の規制
品質,表示等について規制されるべきものであり
緩和協議におけるアジェンダの中で,サプリメン
ながら,食品の名目で製造販売されている不法な
トは長年にわたり米国の求める規制緩和の一つの
いわゆる「健康食品」が原因となって多発した健
課題であったという歴史的背景を記しました。
康被害に対処するため,
「医薬品の範囲に関する
そもそも,今回の新制度導入では,そのきっか
基準」を定めたものです。その内容は,基本的に
けとなった平成25年6月14日に閣議決定された
成分本質(原材料)を分類し,効能効果,形状お
規制改革実施計画の中の健康・医療分野における
よび用法用量が医薬品的であるか否かを判断する
「機能性表示の容認に向けた仕組みの整備につい
「食薬区分の判定方法」のための基準を定めたも
のです。
て検討」ということだけが注目されました。しか
一方,この通知で重要なことは,野菜,果物,
し,実際はこれ以外に「特定保健用食品制度にお
けるサプリメント等の形状規制の廃止の周知徹
菓子,調理品等のように,その外観,形状より見
底」,「食品表示に関する指導上,無承認無許可医
て「明らかに食品と認識される物」(以下,「明ら
薬品の指導取締りの対象としない明らかに食品と
か食品」と略す)および栄養改善法(現行は健康
認識される物の範囲の周知徹底」,「消費者にわか
増進法)の中の特殊栄養食品については,「食薬
りやすい表示への見直し」,「特定保健用食品の許
区分の判定方法」を適用するまでもなく食品と見
可申請手続きの合理化,迅速化」および「栄養機
なすとされたことです。換言すれば,「明らか食
能食品の対象拡大」を含む全体で6つの事項につ
品」の機能性表示に関しては,薬事法の対象とは
いて指示がなされました。
しないということです。その後の昭和62年9月
全体として米国のサプリメント制度に準拠した
には,「46通知」をさらに徹底するため「無承認
制度を導入する方向の流れの中で,「明らかに食
無許可医薬品監視指導マニュアル」が厚生省薬監
品と認識される物」に関する指摘だけは性格を異
課長通知として都道府県等に発出されました。
にするもので,食品関係者はもっと関心を持つべ
この中では,「口から摂取される物は医薬品等
きと思うのですが,その背景および具体的内容は
と食品のいずれかに該当するもので,医薬品等に
案外知られておりません。
該当しないもののみが食品とされる」というごく
ところで,我が国の食品機能性表示制度におい
当たり前の指摘がなされ,その上で「明らか食
て画期となった法的出来事に,昭和46年6月に当
品」について具体的な例示がなされました。例示
食品と容器
576
2015 VOL. 56 NO. 9
された食品は,①:野菜・果物・卵・食肉・海
も開発され,その典型が「特定保健用食品」(「ト
草・魚介等の生鮮食品およびその乾燥物(ただし
クホ」)です。
乾燥物のうち医薬品として使用される物は除く)
,
しかし,これまで「明らか食品」として,一般
②:加工食品,③:①および②の調理品,④:調
の加工食品や農林水産物に機能性表示を実施した
味料等であって,加工食品に関しては豆腐・納豆・
例はありませんでした。その背景として,食品行
味噌・ヨーグルトなどはもとより清酒・ビールや
政は「明らか食品」も機能性表示が可能な「トク
ケーキ等々,大よそ我々の食生活の中で日常的に
ホ」の枠組みで扱うことができるとの見解でそれ
摂取される食品は「明らか食品」であって,これ
以上の進展は見られませんし,一方で薬事法によ
らは薬事法の規制外にあることが再確認されまし
る規制を気遣う食品業界からの行政側に対する積
た。
極的な働きかけも弱かったことなどがあげられる
第5回
剤などの形状を有したいわゆるサプリメントです。
一刻者の独り言
つまり,「明らか食品」の対極がカプセルや錠
と思います。
そうした状況の下,新たな食品機能性表示制度
そんな中,一見して形状から明らかに食品と認識
の中で加工食品や農林水産物も対象とされたこと
できる上に,長い喫食経験があり安全性が担保さ
を前進と捉える向きもあります。しかし,新制度
れている「明らか食品」においては,機能性表示
はあくまでもサプリメントに関しては薬事法の下
をしてもサプリメントで危惧される大量摂取によ
で厳しく規制してきた制度を残しながら,サプリ
る弊害のリスクが少ないという前提に立っていま
メントに固有の制度を有する米国の制度を参考に
す。
規制を緩和したものです。そのサプリメントのた
話題を規制改革実施計画に戻します。計画に盛
めの新制度が,我が国では本来薬事法の規制外に
られた「食品表示に関する指導上,無承認無許可
ある「明らか食品」である加工食品や農林水産物
医薬品の指導取締りの対象としない明らかに食品
までもが組み込まれたことは,大きな矛盾を抱え
と認識される物の範囲の周知徹底」は,言うなら
た制度と言わざるを得ません。「食品の新たな機
ば,「46通知」で示され,その後の昭和62年に具
能性表示制度に関する検討会」においても,規制
体的な例示がなされた「明らか食品」については,
改革実施計画に盛られた加工食品と農林水産物に
薬事法による規制の対象外であることを周知徹底
設けるべき「一定のルール」について何らの検討
せよとの指示でした。これに対して,厚生労働省
もされず,特に品質上でバラツキが避けられない
は平成26年3月31日付けで「46通知」を再度都
農林水産物の扱いに関しては難しい課題が残って
道府県等に発出しその周知を図りましたが,サプ
います。
リメントの機能性表示解禁といったニュースの陰
消費者の関心は,健康で豊かな食生活を送りた
で,そのことがマスコミ等で大きく取り上げられ
いということです。そうしたニーズに応えるため
ることはありませんでした。
には,日常的に摂食する食品の機能性を的確に情
いわゆる食品機能性が話題になって30年余り,
報として伝えることが重要で,「明らか食品」で
野菜,果実,穀物等の農産物,畜産物,水産物な
ある加工食品や農林水産物については,サプリメ
どのまさに「明らか食品」の代表である農林水産
ントとは別のより緩やかな機能性表示制度を設け
物に含まれる多様な機能性成分が同定されるとと
ることを提言したいと思います。
もに,さまざまな手段でそれら成分の機能性の検
次号では,機能性表示に関して混乱をきたして
証がなされ,この中にはヒト介入試験も含まれま
きた原因である,日米間における食品の定義の違
す。また,これら機能性成分を利用した加工食品
い等について解説したいと思います。
食品と容器
577
2015 VOL. 56 NO. 9
●
特別解説
●
「水出し緑茶」の免疫調節メカニズム
も の べ・ ま な み
千葉 大 学 大 学 院自然 科
学 研 究科博士 過 程 修了。
東 京理科大 学 薬 学部助
手を経て,現在,農研機
構野菜茶業研究所茶業
研究領域主任研究員。
博士(理学)
物 部 真奈美
もに,新たな健康機能性も見いだされるように
1.はじめに
なってきた。
緑茶は昔から経験的に殺菌作用,消臭作用,覚
健康機能性を利用するためのお茶の飲み方とい
醒作用等の機能性に着目した利用や飲用がなされ
えば,「熱湯で淹れる」が当たり前に考えられて
てきたが,近年の分析技術の発展により,それら
きたが,これは煎じ薬としての考え方である。熱
の機能性がカテキン類(第1図)やカフェインに
湯で淹れると茶葉中から浸出する成分が多くなる
よるものであることが明らかになってきた。さら
ため,より多くの効果が得られる気がする。一方,
に,緑茶成分の生理学的な作用の解明が進むとと
嗜好飲料としての側面から見ると,緑茶の場合お
い
し こ う
茶を淹れる時の水温の違いで味が変化
することが昔から知られている。緑茶
成分の浸出効率が水温の違いにより異
なることを経験的に体得し,急須に注
ぐ水を低い温度から高い温度へと変化
させ,茶葉から浸出してくる緑茶成分
の微妙なバランスの違いが作り出す味
の変化を楽しむ繊細な飲み方がなされ
てきた。水温の違いで味が変化すると
いうことは緑茶浸出液中の成分構成が
変化しているということであり,熱湯
で淹れたお茶では見いだせなかった新
たな機能性が発見される可能性もある。
しかしこれまで,緑茶浸出液中の成分
バランスに着目した機能性研究はなさ
れてこなかった。ところが最近,その
成分バランスが鍵になるかもしれない
緑茶の機能性が見えてきた。その一つ
第1図 カテキン類の構造
食品と容器
578
2015 VOL. 56 NO. 9
が免疫調節作用である。「水出し緑茶」を飲用す
で静置して浸出させると,熱湯で淹れた時に比べ
ることで,生体防御に関わるタンパク質(抗体)
てカフェイン量は約半分に抑えられる4)。
の産生能が改善される可能性が出てきた1, 2)。こ
このように「水出し緑茶」は,熱湯で淹れた緑
こでは,その作用について考えられるメカニズム
茶に比べて機能性成分の主役として考えられてき
を解説するが,その前にまず「水出し緑茶」の特
た EGCG とカフェインが少ない。緑茶浸出液中
徴について説明する。
の両成分は,EGCG は苦渋味として,カフェイ
さ
ンは目が冴えるなど,感受性の高い人は特に両成
2.「水出し緑茶」の特徴
分を刺激として体感できる。理屈はともかくとし
低い温度で緑茶を淹れると苦渋味が減ることか
て「良薬口に苦し」という言葉もあるように,両
ら,上級煎茶などのようにアミノ酸やアミノ酸誘
成分が少ない「水出し緑茶」は薬的な要素の実感
導体(テアニン)を多く含む緑茶はうま味を感じ
が少ないため,機能性に関してはこれまであまり
やすくなる。これは,低い温度で淹れると苦渋味
関心を持たれなかったのかもしれない。
に関係するガレート基を持つカテキン,特にエピ
出が抑えられるためである。実際に水温を変えて
3.「水出し緑茶」にはあって,熱水で
淹れた緑茶にはない反応
浸出させた緑茶浸出液中のカテキン類の割合を第
生体防御の最前線では自然免疫という好中球や
ガロカテキンガレート(EGCG)(第1図)の浸
2図に示す。温度の低下とともに,EGCG の割
マクロファージなどの白血球による食作用(異物
合が減少し,エピガロカテキン(EGC)の割合
を取り込み分解する作用)を主体とした防御が行
が上昇することが分かる。EGC は水温が低い場
われている。さらに,マクロファージや樹状細胞
合でも,時間をかければその大半が浸出してくる
は食作用で得た情報をリンパ球(ヘルパー T 細
が,水温が低い場合,EGCG は時間をかけても
胞など)に提示して一度攻撃された病原体に攻撃
その多くが茶葉中に残ってしまう。そのため「水
されにくい防御体制を作る(獲得免疫)(第3図)。
出し緑茶」では浸出液中に含まれる EGC の割合
つまり,白血球による食作用は,防御体制を構築
が EGCG に比べて相対的に高くなる。
するにあたり最も基礎となる反応といえる。そこ
もう一つ冷水で浸出され難い成分としてカフェイ
ンがある。緑茶を冷蔵庫内の冷水(4~ 10℃)中
第2図 緑茶浸出液中のカテキンの含有割合3)
食品と容器
第3図 免疫機構の模式図
579
2015 VOL. 56 NO. 9
で,生体防御の基礎となるマクロファージの食作
た。EGCG も単独であれば活性が認められること
用を増強させる成分が緑茶浸出液中に含まれてい
から,次に各種カテキンの組み合わせ効果を調べ
るかどうかを調べることにした。
た。その結果,EGCG と ECG の組み合わせ(ガレ
ヒトの白血病細胞株である HL60細胞に活性型
ート型カテキン同士)では活性は無くならなかっ
ビタミン D を作用させると,マクロファージ様
たが,EGC と EGCG または EGC と ECG の組み
の細胞(異物を取り込み分解する作用を持つ細胞)
合わせ,すなわち EGC とガレート型カテキンを組
に分化することが知られており,病原体成分など
み合わせると活性が無くなってしまうことが分
の刺激によりマクロファージ様細胞の食作用活性
かった。前述した “ 活性を増強しない熱水浸出液 ”
は増強される。そこで,この細胞を用いて緑茶浸
は,その中に含まれるカテキンの状態がまさにこ
出液中に食作用活性を増強させる物質が含まれて
れと同じであり,EGC とガレート型カテキンであ
いるかどうかを調べた。茶葉を冷水(4℃)また
る EGCG がほぼ等量で含まれている(第2図)
。
は熱水(100℃)に入れ,その浸出液をマクロ
も と も と 有 意 な 活 性 を 示 さ な い EC や + C は,
ファージ様細胞に作用させたところ,冷水浸出液
EGC やガレート型カテキンにあまり影響しないこ
によって食作用活性が増強された。しかし,もう
とも分かった。
一方の熱水浸出液では活性は増強されなかった 。
そこで,緑茶浸出液中の主要カテキンである
活性を増強しなかった熱水浸出液中のカテキン含
EGC と EGCG に焦点を絞り,生体レベルでの活
量を調べると,EGC と EGCG は同程度の量が含
性を確認するため,小腸粘膜直下にある様々な免
まれていた。一方,活性を増強した冷水浸出液は,
疫細胞が集結するパイエル板と呼ばれる組織の
EGC 含量については熱水浸出液とほぼ同じだっ
IgA(異物を排除するタンパク質)産生能とマク
た が,EGCG 含 量 が 少 な い こ と に 気 づ い た。
ロファージの食作用活性に対する効果を調べた。
EGCG は免疫抑制作用を示す報告が多いことか
マ ウ ス に EGC ま た は EGCG( 総 量0.5 mg/ 日 )
ら,緑茶浸出液中にはマクロファージ様細胞の食
を2週間経口投与し,パイエル板リンパ球が産生
作用活性を増強させる物質が含まれているにもか
する IgA 量の変化を調べた。その結果,EGC を
かわらず,EGCG がその作用を妨害している可
経 口 投 与 し た 群 の IgA 産 生 量 は 増 加 し た が,
能性があるのではないかと考えた。
EGCG を投与した群では,逆に抑制された。さら
5)
に,EGC と EGCG を1対1の比率(熱水緑茶中
4.緑茶浸出液中の食作用活性化物質
と活性メカニズム
の比率)で混合したカテキン溶液(総量1mg/ 日)
をマウスへ2週間経口投与した群では,IgA の産
4−1)カテキン類
生が抑制された(第4図 A)
。そこで,EGC の比
ージ様細胞の食作用を増強する活性があるかどう
液を投与したところ,IgA 産生量が EGC 比率の
率を上げた(水出し緑茶の比率に近づけた)混合
まずは市販されているカテキン類にマクロファ
増加とともに上昇することが分かった(第4図 A)
。
かを調べた。その結果,EGC,EGCG,エピカテ
パイエル板マクロファージの食作用活性につい
キンガレート(ECG)にその活性があることが確
認された。EGC の活性が最も強く,予想に反して
ても,同じように EGC と EGCG 溶液を2週間経
EGCG にも活性があることが分かった。ECG は活
口投与して調べた。その結果,IgA の結果と同様
性を示すものの弱く,エピカテキン(EC)やカテ
に,EGC を経口投与した群のマクロファージの
キン(+ C)には有意な活性は認められなかった。
食作用活性は増強されたが,EGCG では増強さ
それぞれのカテキンの構造と活性強度を比較して
れず,EGC と EGCG の1対1混合液投与群では
みると,活性を発現するためには B 環に OH が3
活性は抑制された。しかし,IgA の結果と同様に,
つある構造が重要であり(第1図)
,同時にガレ
EGC 比率の増加とともに活性が上昇する結果と
なった(第4図 B)。
ート基を持つとその活性が弱まることが推察され
食品と容器
580
2015 VOL. 56 NO. 9
これらの結果から,EGC は
生体レベルでパイエル板マクロ
ファージの食作用活性を増強す
ることが可能であり,食作用が
活発になったことにより抗原
(異物)認識力が高まった結果,
より多くの抗原情報が他の免疫
細胞に伝わり,リンパ球の IgA
産生量の増加につながったと考
えられる。
一方 EGCG は,培養細胞レベ
ルでは単独であれば食作用活性
を増強したが,生体レベルでは
単独でも免疫系に対して抑制的
に作用した。EGCG は細菌成分
であるリポポリサッカライドな
第4図 カテキン混合液を2週間摂取後にマウスパイエル板細胞からの IgA 産
生量と食作用活性3)
水投与群の活性を100%としたときの相対値。異なるアルファベットは 有意差
(p < 0.001)を示す。
どによって誘導されるマウスマクロファージ由来
免疫細胞の活性調節に関与するセンサーの一つ
細胞のサイトカイン(液性因子)産生を,67kDa
に TRPM2(Transient receptor potential
ラミニンレセプター(67LR)を介して阻害(免疫
melastatin 2)がある。TRPM2は細胞内のカルシ
抑制的に作用)することが報告されている
。免
ウムイオン濃度を変化させて細胞活性を調節する
疫系は単一細胞による単一機能で制御されている
が,TRPM2は温度センサーであり,通常は48℃付
わけではなく,免疫細胞同士や周辺組織細胞とネッ
近の高温にしか反応しない。しかし,過酸化水素
トワークを形成することで成り立っている(第3
が作用すると反応温度閾値が下がり,体温域でも
8, 9)
いき
図)
。免疫細胞から産生されるサイトカインは,
活性化するようになる12)。そして,マクロファー
免疫系のネットワーク形成に重要な役割を果たし
ジの TRPM2が活性化すると,病原体などの異物
ており,様々な細胞シグナルが複雑に影響する生
に対する反応性が高まることが報告されている12)。
体では EGCG は全体として免疫抑制的に作用す
そこで,EGC による食作用活性の増強と TRPM2
ると考えられる。
との関連性を調べるために TRPM2の働きを阻害
4−2)EGC による食作用活性メカニズム
してみた。その結果,TRPM2の活性を阻害する
EGCG は生体レベルでは食作用活性の増強効
ことにより EGC による食作用活性の増強は抑制
果を見いだせないことから,ここでは EGC によ
された11)。つまり,EGC から発生する過酸化水素
る食作用活性の増強メカニズムについて説明する。
により TRPM2の活性温度閾値が下がり,マクロ
近年,低濃度レベルの過酸化水素が生体内シグ
ファージの食作用活性が増強されると考えられる。
第4図 B に示す通り,EGC の経口摂取により小
ナル伝達物質としての働きを持つことが明らかに
なってきている。そこで,EGC から発生する過
腸のパイエル板マクロファージの食作用活性が増
酸化水素に着目し,活性への関与を調べた。その
強していることから,この効果は生体レベルでも
結果,EGC によって増強された食作用活性は,
腸管免疫系に作用する可能性がある。加齢や生活
過酸化水素を分解するカタラーゼを作用させるこ
習慣による免疫調節の乱れの原因は明確ではない
とによって抑制された 。この結果から,EGC
が, 病 原 体 に 対 す る 反 応 の 低 下 の 原 因 が,
から発生する過酸化水素が免疫活性化シグナルと
TRPM2が関与するマクロファージの食作用活性
して働いている可能性が出てきた。
の低下に起因するものであれば「水出し緑茶」の
11)
食品と容器
581
2015 VOL. 56 NO. 9
飲用により改善される可能性がある。
が詳細は不明である。
HL60由来マクロファージ様細胞の食作用活性を
まずは RNA 含有水溶性高分子のマクロファー
4−4)一本鎖 RNA による活性メカニズム
4−3)一本鎖 RNA
増強する緑茶浸出液成分として,カテキン類以外
ジ様細胞への作用点を探った。水溶性高分子から
に一本鎖 RNA を見いだしている。冷水,熱水に
一本鎖 RNA のみを取り出すことは難しいため,
関係なく緑茶浸出液にエタノールを添加すると,
RNA 含有水溶性高分子として試験を行った。免疫
水溶性高分子(主に多糖類やタンパク質等)が沈
系の活性化に関与する核酸受容体として,Toll 様
殿してくるが,その中に一本鎖 RNA が含まれて
受容体3,7,8,9(TLR3,7,8,9)が知られて
いる。一本鎖 RNA は分裂成長が盛んな芽や上位
いる。中でも TLR7は一本鎖 RNA の受容体である
葉(芽から三葉程度の幼葉)の浸出液に多く含ま
こ と か ら,TLR7の 活 性 を 阻 害 す る 約20 bp の
れ,成熟葉(四葉以下の下位葉)では少なく,茎
DNA 配列を用いてこの活性に対する TLR7の関与
にはほとんど含まれない(第5図)
。そこで,カテ
を調べた。その結果,RNA 含有水溶性高分子によ
キンの食作用増強活性を調べた同じ方法で RNA
る食作用活性の増強は,TLR7を阻害することによ
含有水溶性高分子の活性を調べた。その結果,
り抑制された。一方,同じように TLR9(DNA 受
RNA 含有量の高い上位葉由来の水溶性高分子で有
容体)を阻害しても活性は抑制されなかったこと
意に食作用活性が増強され,RNA 含有量の減少に
から7),水溶性高分子中の一本鎖 RNA は,TLR7
伴い効果も減少した(第5図)
。RNA は緑茶浸出
を介して食作用活性を増強している可能性が高い
液中では安定であり,その理由の一つとして,カ
ことが分かった。TLR7は主にインフルエンザウイ
テキン類が RNA 分解酵素の活性を阻害する
こ
ルスなどの RNA ウイルス(RNA を遺伝情報とし
とが考えられる。また,他の要因としては,多糖
て持つウイルス)を認識する受容体であり,抗ウ
類と高次構造を形成している可能性も考えられる
イルス活性や抗腫瘍活性を持つインターフェロン
10)
α(IFN- α)の産生誘導にも関わっている。そこ
で,RNA 含有水溶性高分子によって IFN- αの産
生が可能かどうかを,培養細胞を用いて調べた。
マクロファージ様細胞へ分化させた THP-1細胞
(ヒト単球性白血病細胞株)へ RNA 含有水溶性高
分子を作用させたところ,THP-1細胞内で IFN- α
が産生されることが分かった13)。そこで,TLR7の
関与を確認するために TLR7の活性を阻害した結
果,IFN- αの産生は抑制された13)。
TLR7は 細 胞 の 小 胞 内 に あ る 受 容 体 で あ り,
RNA を含む高分子がどのようにしてこの小胞内
まで届くのか不明であった。小胞内へは食作用に
よって入る可能性が高いことから,食作用阻害剤
を作用させて IFN- αの産生に変化が現れるかど
うかを調べた。その結果,RNA 含有水溶性高分
子による IFN- αの産生が抑制された13)。この結
第5図 異なる部位由来の水溶性高分子による
作用活性と RNA 含有量の違い7)
果から,RNA 含有水溶性高分子は食作用により
グラフは,水溶性高分子で刺激しない活性を100%としたとき
の相対値。異なるアルファベットは有意差(p<0.001)を示す。
RNA 含有量は,水溶性高分子をアガロースゲル電気泳動後,エ
チジウムブロマイドで染色。
食品と容器
細胞内小胞に取り込まれて TLR7に作用すると考
えられる。
インフルエンザ予防のためのワクチンは RNA
582
2015 VOL. 56 NO. 9
レセプターである TLR7を活性化できなければ効
まったばかりであり,生体レベルでの検証も少な
14)
果が期待できない(獲得免疫を誘導できない) 。
い。従って,今回の「水出し緑茶」の免疫調節作
緑茶浸出液に含まれる RNA がウイルスに対する
用は感染症予防に有効といえるレベルではまだな
免 疫 応 答 に ど の 程 度 寄 与 す る か は 不 明 だ が,
く,今後,検証症例数が増えることで有効性が明
TLR7を活性化できる物質が緑茶に含まれている
らかとなる。また,作用メカニズムに関しても分
ことは興味深く,今後生体レベルでの TLR7への
子レベルで解明しなければならないことは多く,
作用の有無などを調べる必要がある。
メカニズムの解明が進めば,より有効な飲み方な
どの提案にもつながることが予想される。
5.おわりに
「水出し緑茶」の健康機能性に関する研究は始
参 考 文 献
1)物部真奈美ほか:冷水浸出緑茶の飲用が緑茶常飲者の
唾液中分泌型 IgA 量に与える効果に関する予備的検
討.茶研報,113:71-76(2012)
2)石坂信和ほか:ヒト介入試験による EGC の免疫賦活
作用の検証.農林水産資源を活用した新需要創出プロ
ジェクト,研究成果529,110-115(2015)
3)Monobe M et al.: Effect on the epigallocatechin
gallate/epigallocatechin ratio in a green tea
(Camellia sinensis L.) extract of differentextraction
temperatures and its effect on IgAproduction in mice.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 74: 2501-2501 (2010)
4)物部真奈美ほか : 真空保存容器を利用した水出し緑茶
の浸出特性.茶研報,116(別冊)
:124-125(2013)
5)物部真奈美ほか:緑茶冷水(4℃)浸出液のカテキン
浸出特性及び茶期・品種の異なる緑茶冷水浸出液がマ
クロファージ様細胞の貪食能へ与える影響.茶研報,
114:29-36(2012)
6)Monobe M. et al.: Enhancement of phagocytic
activity of macrophage-like cells bypyrogallol-type
green tea polyphenols through caspase signaling
pathways. Cytotechnology, 62: 201-203 (2010)
7)Monobe M. et al.: Enhancement of the phagocytic
activity of macrophage-like cells with a crude
polysaccharide derived from green tea (Camellia
sinensis) extract. Biosci. Biotechnol. Biochem. 74:
1306-1308, 2010.
8)Byun E. H. et al.: TLR4 signaling inhibitory pathway
食品と容器
583
induced by green tea polyphenol epigallocatechin 3-gallate through 67-kDa lamininreceptor. J. Immunol.,
185: 33-45, (2010)
9)Byun E. H. et al: Green tea polyphenolepigallocatechin
-3-gallate inhibits TLR2 signaling induced by
peptidoglycan through the polyphenol sensing
molecule 67-kDa laminin receptor. FEBSletter,
585:814-820 (2011)
10)Ghosh K.S. et al.: Green tea polyphenols asinhibitors
of ribonuclease A. Biochem. Biophys.Res. Commun.,
325: 807-811 (2004)
11)Monobe M. et al.: Green tea catechin induced
phagocytosis can be blocked by catalase and an
inhibitor of transient receptor potential melastatin2
(TRPM2). Cytotechnology, 66: 561-566 (2014)
12)Kashio M. et al.: Redox signal-mediatedsensitization
of transient receptor potentialmelastatin 2 (TRPM2)
to temperature affects macrophage functions. Proc.
Natl. Acad. Sci. USA., 109: 6745-6750 (2012)
13)Monobe M. et al.: A crude extract from immature
green tea (Camellia sinensis) leaves promotes
Toll-like receptor 7-mediated interferon- α production
in human macrophage-like cells.Cytotechnology,
64: 145-148 (2012)
14)Koyama S. et al.: Plasmacytoid Dendritic Cells
Delineate Immunogenicity of Influenza Vaccine
Subtypes. Sci Transl Med., 2(25): 25ra24 (2010)
2015 VOL. 56 NO. 9
●
特別解説
●
食肉製品の赤色化に関するリサーチ
―発色剤低減化のために―
さ か た・ り ょ う い ち
九 州大 学 大 学 院 農 学 研 究
科 博 士 取 得。 フン ボ ルト
財 団 研 究 員としてドイツ
国 立 食 肉 研 究 所 に 留 学。
現 在, 麻 布 大 学 獣 医学 部
動 物 応 用 科 学 科 教 授。
Fleischwirtschaf 誌 編 集
委 員,DLG ド イツ 農 業 協
会 ハ ム・ソー セ ー ジ 品 質
競 技 会 審 査 員 など 歴 任。
坂 田 亮 一
挙げられており,CO は筋肉色素のミオグロビ
1.はじめに
ン(Mb)と強く結合してカルボキシミオグロビ
一般の消費者がスーパーなどで食肉を購入する
ン(COMb)を形成する。CO の食品への添加は
際,食肉および食肉製品の色調は,におい,味,
我が国では法的には認められていないが,海外で
テクスチャーなどに先立つ品質評価の初期情報と
は実際に食品包装用の充填ガスとして使用され,
なり,消費者の購買意欲を大きく左右する。中で
CO 利用の研究も進められている3)。日本におい
も食肉製品は特有の赤色を有し,その色調は製品
ても CO 利用の有用性が認められれば,その実用
の価値を左右する重要な要素の1つであり,消費
化も可能であると考えられる。食肉加工において
者の購買意欲をそそるものである。食肉製品へ使
も CO により発色剤使用量を低減化できるなら,
用される発色剤には多くの利点がある反面,安
食品の安全を求める消費者のニーズに応えること
全性の面からその使用量は制限されている。近
が可能である。
年,食品の安全性への認識が高まっていることか
本研究では,はじめにヒマラヤ岩塩の中でも黄
ら,発色剤を用いることなく食肉製品に赤色化を
色塩(YS)に含まれる微量な亜硝酸塩,硝酸塩
もたらす加工法や,天然由来の食品素材などを検
が発色に影響していると推測し,これら両者の量
討する必要がある。国内外でも,今までに発色剤
と発色の関係を調べた。また,Mb との親和性が
の代替物を動物体由来や,他の天然物由来の物質
高く,食肉中の Mb と結合することで安定した
でスクリーニングしており ,食肉加工へのこれ
鮮赤色を呈する CO に着目し,CO 処理による食
らの応用研究は,食や健康を取り巻く環境を配慮
肉の赤色化効果を調べた。その方法として,食肉,
し保全する上でも重要である。一方で,食肉製品
塩漬肉,および酸化剤で処理した食肉に CO 処理
において不慮の赤色化発現や退色の問題が挙げら
を行い,各食肉試料中に含まれる Mb 誘導体と
れており,その原因解明や解決策が求められてい
CO との親和性を比較し,生成した COMb の熱
る。我々はこれまでに,種々の天然塩の中からヒ
安定性,抽出性,各 pH における生成量を比較し
マラヤ岩塩の添加が食肉に赤色化をもたらすこと
た。また発色剤との併用を想定し,発色色素であ
を報告した 。
るニトロシルミオグロビン(NOMb)に CO ガ
1)
2)
スを注入したときの食肉中での Mb 誘導体を調
発色剤を使用しない食肉製品で発生する予期
べた。
せぬ赤色化の原因として,一酸化炭素(CO)が
食品と容器
584
2015 VOL. 56 NO. 9
セトン抽出法で,上清および沈殿中の NOMb の存
2.実験の概要
在を調べた。また,NOMb モデル溶液(0.1% ま
ひきにく
たは0.02% Mb -1%NaAsA-0.1%NaNO2, pH5.5)
豚挽肉50gに対し約25mg の馬 Mb を加え,ヘ
ム色素量の多い豚モモ挽肉を作製した。これに2
に CO を注入し,吸収スペクトルを測定すること
%NaCl,0.1% アスコルビン酸 Na(NaAsA)
,亜
で,COMb の生成を調べた。
硝酸塩および硝酸塩を,NaNO2: KNO3 = 5:1.25,
5:2.5,5:5,5:10,5:20の5つ比率で添加
3.実験結果と考察
し真空包装後,4℃で4日間保存した。これらを
75℃で20分間加熱し,室温で冷却した後,L* 値
有効な硝酸塩,亜硝酸塩の比率を求める実験にお
び全ヘム色素量とニトロシルヘム色素量の測定を
いて,肉表面の色調は硝酸塩量が多くなるにつ
れ a* 値が減少傾向にあることから,退色したと
75%アセトンによる抽出法4) で行った。
推測される(第1図)。発色率を比較したところ,
ヘム色素量の濃度を変えた豚肉試料で,発色に
(明度)
,a* 値(赤色度)
,b* 値(黄色度)
,およ
次に豚モモ肉,牛モモ肉,鶏モモ肉,塩漬肉
両試験区ともに硝酸塩量1.25ppm 区が最も発色
(豚モモ肉 , 2% NaCl),酸化剤(1% 赤血塩添
率が低く,2.5ppm 区が最も高く,その後は硝酸
加)処理豚肉,YS 肉(豚モモ肉,2% YS),調
塩添加量が増加するにつれて発色率が減少する傾
整塩(MS:YS 中と同濃度の亜硝酸塩と硝酸塩を
向にあり,亜硝酸塩に対し硝酸塩量が多くなると
食塩に加えたもの)肉(豚モモ肉,2% MS)に
赤色化が阻害されるという結果が得られた(第2
図)。YS の赤色効果は,YS 中に含まれる様々な
CO 処理(CO ガスを直接注入)を行い,比較の
無機成分も影響していると考えられた。
ために窒素処理した試料を調製し,それぞれ15
いて,試料を10倍量の0.1M グリシン- NaOH 緩
各食肉の CO 処理実験において,豚肉,牛肉,
鶏肉,塩漬肉で a* 値が上昇した。これは肉中で
衝液(pH9.5)と混合して得られた肉抽出液の吸
Mb に CO が結びつき COMb が生成されたため
日間保存中に肉表面の色調の変化を観察した。続
収スペクトルを測定し,肉中の Mb 誘導体の種
類を調べた。
調製した COMb モデル溶液(0.1% Mb-0.2%
Na2SO2O4, pH5.5に CO 注入)を70℃で20分間
加熱し,生成した COMb の安定性を検討した。
さ ら に Mb 溶 液(0.1%) を pH5.0 ~ 9.0間 で
pH の異なる緩衝液に溶解し,0.2%Na2SO2O4を
添加後,CO 処理をして COMb 溶液を作製した。
それを各 pH 緩衝液で10倍希釈して吸収スペク
第1図 異なるヘム色素量の豚肉試料における a* 値 .
トルを測定し,COMb 調製時における pH の影
響を調べた。
また,CO 処理肉(豚モモ肉を CO 処理)と塩
漬肉(豚モモ肉に NaNO2 100ppm 添加 , 4日間
塩漬)を調製し,両サンプルを75% アセトン抽
出法で,各試料からの Mb 抽出率の差を比較した。
同試料を10倍量の0.1M グリシン - NaOH 緩衝液
(pH9.5)と混合して,得られた肉抽出液の吸収
スペクトルを測定し,それぞれの吸収スペクトル
から COMb の生成を確認した5)。その後75% ア
食品と容器
第2図 異なるヘム色素量の豚肉試料における発色率 .
585
2015 VOL. 56 NO. 9
と考えられる(第3図)。肉抽出液の吸収スペク
食肉の pH は通常5.5近傍にある6) ため,食肉製
トルでは色調測定結果と同じく,豚肉,牛肉,鶏
品作製時に CO を利用した赤色化現象を利用する
肉,塩漬肉区において COMb 特有の波長が確認
ことができ,また製品色調の長期維持も期待でき
され,これより肉中に COMb が形成されている
る。
ことが分かった。CO 処理した YS 区の水抽出液
さらに,COMb は通常の食肉製品で赤色を呈
は窒素処理区同様,NOMb の吸収スペクトルを
す NOMb とは異なる性質を持っていると考えら
示した(第4図)
。また MS 区でも同様であった。
れ る こ と か ら,CO と NO の Mb へ の 親 和 性の
これより,YS 区と MS 区の肉中には NOMb が
違いを比較検討した。その実験として COMb 肉
存在しており,CO 処理によっても COMb へ置
と塩漬肉中の Mb のアセトン抽出を試みたとこ
き換わらないと推測された。時間経過によってど
ろ,COMb の水抽出は可能であるが,ほとんど
の試料の吸収スペクトルの吸光度も低下するが,
アセトン抽出されず,NOMb のような発色率の
肉表面の色調に大きな変化は見られなかった。
測定は行えないことが示された(第6図)
。ただ
また,COMb の熱に対する安定性を調べる実験
し COMb に対しても全ヘム色素の抽出が可能で
では,COMb が安定的であることが示された(第
あった。NOMb モデル溶液に CO 処理を行った
5図)
。COMb 生成における pH の影響について,
場合,その吸収スペクトルが変化しないことから,
COMb 生成時は pH5.0 ~ 8.0で安定であり,pH
溶液中の NOMb は COMb へ置換しないと考え
が高くなるにつれて,生成されにくくなることが
ら れ た。 一 方, 作 製 し た COMb 肉 に NaNO2を
示唆された。これより,COMb は加熱後の時間
100ppm 添加する実験で,水抽出液の吸収スペ
経過によって減少することはなく,pH 環境が塩
クトルから,肉中の Mb 誘導体が実験開始時の
基性でなければ問題なく生成することが分かった。
COMb から NOMb に変化することが分かった。
このように NOMb は COMb へと置換されない
ことや,COMb は塩漬期間を経て NOMb へ変化
することから,NO の方が CO よりも Mb との親
和性が高く,食肉中では NOMb が安定であるこ
とが分かった。
4.おわりに
本研究では,はじめにヒマラヤ岩塩の中でも黄
色塩(YS)に含まれる微量な亜硝酸塩,硝酸塩が
第3図 CO 処理豚肉における水抽出スペクトル .
発色に影響していると推測し,これら両者の量と
第5図 加熱 COMb 溶液の時間経過に伴う
吸収スペクトルの変化 .
第4図 CO 処理 YS 区における水抽出スペクトル .
食品と容器
586
2015 VOL. 56 NO. 9
COMb が生成され,赤色効果が得られることを
確認した。さらに COMb が熱に対し安定的であ
り,pH5.0 ~ 8.0で COMb が安定に生成される
ことから,COMb は加熱後の時間経過によって
減少することはなく,pH 環境が塩基性でなけれ
ば問題なく生成することが分かった。次に CO と
NO の Mb への親和性の違いを比較検討したとこ
ろ,食肉試料から COMb は水抽出可能であるが,
アセトンではほとんど抽出されないことが分かっ
第6図 豚肉試料のアセトン抽出液吸収スペクトル .
た。また,NO の方が CO よりも Mb との親和性
が高く,食肉中において NOMb が安定であるこ
発色の関係を調べた。また,ミオグロビン(Mb)
との親和性が高く,食肉中の Mb と結合するこ
とが示された。
とで鮮赤色を呈する一酸化炭素(CO)に着目し,
謝 辞
CO 処理による食肉の赤色化効果を調べた。
本 研 究 の 一 部 は 科 学 研 究 費( 課 題 番 号
発色剤添加実験では,亜硝酸塩に対し硝酸塩量
25450411)で実施した。本研究の実験を担当し
が多くなると赤色化が阻害されるという結果が得
た本学卒業生の金子美如女史(現,プリマハム㈱)
,
られた。YS の赤色効果は,YS 中に含まれる様々
院生の三木 優氏,また CO 処理などで指導頂いた
な成分も影響していると考えられた。
本山三知代博士(農研機構,畜産草地研究所)に
CO 利用実験では,食肉へ CO を使用すると
感謝致します。
参 考 文 献
1)坂田亮一 . 2012. 食肉製品の加工における天然由来物
の利用 - 赤色化向上技術の追求 -, 食品と容器 53,
194–197.
2)金子美如・奥田泰士・押田敏雄・坂田亮一 . 2013. 岩
塩を添加した豚肉の発色に及ぼすヘム色素量の影響 .
第99回日本養豚学会大会講演要旨, p.17.
3)Mancini R, Hunt M. 2005. Current research in meat
color. Meat Science 71, 100-121.
食品と容器
587
4)坂田亮一 . 1999. 色調の測色法 / 吸収スペクトル法 . 食
品の科学 40, 209-223.
5)和賀正洋・沼田正寛・小齊喜一・坂田亮一 . 2013. 食
肉製品中一酸化炭素の簡易定性方法 . 食肉の科学
54, 128 -131.
6)Lawrie RA, Ledward DA. 2006. Lawrie’s meat
science, Seventh edition. CRC Press, p.87-88.
2015 VOL. 56 NO. 9
業
T
界
O
P
ト
ピ
I
ッ
C
ク
S
ス
なかったことから一時出荷を停止していた「ヨーグ
ミネラルウォーター,猛暑で急上昇
リーナ」も,6月から再開され,この勢いも大きい。
コカ・コーラシステムの「い・ろ・は・す」は,
飲料業界は夏本番を猛暑で締めくくり,近年に
6月までに20%以上の販売増を達成。夏本番は
ない盛上りをみせた。特に炭酸飲料や茶系飲料,
この勢いを加速した。同ブランドもフレーバー
スポーツドリンク,ミネラルウォーターなど止渇
系やスパークリングが牽引。従来の「みかん」
系飲料に勢いがつき,あとは残暑を待つばかりと
「りんご」に今年5月から「とまと」を追加。ま
なっている。
た,既存ラインナップのパッケージデザインをリ
今年1~3月のミネラルウォーターの販売量
ニューアルするなど,需要喚起策も怠りない。
は,昨年4月からの消費増税による仮需の反動減
があったが,4月以降は次第にその影響は薄れた。
更に7月を過ぎたあたりから好天も後押しして完
キリンビバレッジの「ボルヴィック」は,上半
期でほぼ横ばいに留まったが,「アルカリイオン
の水」は,15%増を記録し明暗を分けた。「アル
全に上昇気流に乗り,8月の猛暑で市場は一気に
カリイオンの水」は,使い勝手を考えて今年から
爆発した。
国産最軽量ボトルに切り換えるなどユーザビリ
ティを重視。「ボルヴィック」は,水分補給と栄
○依然としてフレーバー系,炭酸系が牽引
養補給が同時にできる「ボルヴィックプラスビタ
品目別では引き続きミネラルウォーターブラン
ミン」を7月から世界で初めて発売するなど新展
ングウォーターの売れ行きが好調で,この傾向は
伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズの「エビ
ドを冠にしたフレーバーウォーターやスパークリ
開に踏み切った。
昨年来変わりなく,今後もこれらが市場を牽引す
アン」は,最需要期にブランド認知を高めるため,
ることは間違いない。
東京,大阪で若年女性向けに「hunt キャンペー
に向けて価格戦に突入するが,今年は猛暑が幸
げた。
ン」を展開するなど積極的な販促活動が効果をあ
しかも国産の大容量サイズは,例年だと夏本番
いし,特売しなくても売れる環境が戻っており,
「お天気さまさま」の状態となっている。
アサヒ飲料の「アサヒおいしい水」は,上半期
で12%増を達成し,7~8月も好調だった。3
ミネラルウォーターはこれまで,生活飲用水と
月から採水地を強調するためパッケージデザイン
が進む中で,特に国産品は体力勝負の様相が強
物由来の冷涼素材にこだわったフレーバーウォー
質からの脱皮が図れたようだ。輸入品を中心とし
大塚食品の「クリスタルガイザー」も4月以降
してのポテンシャルはあるものの,サバイバル戦
をブラッシュアップ。6月から天然水と果実・植
かったが,猛暑到来により,今年は多少,特売気
ター「すきっとレモン」も発売した。
たパーソナルサイズも,フレーバーウォーターや
は回復基調にある。6月から700mLPET が大手
逃せず,ここでも猛暑の恩恵を受けたようだ。
と連動した広告展開が需要を押し上げた。
コンビニを皮切りに各チェーンに導入され,これ
スパークリングウォーターによるプラス作用も見
ポッカサッポロフード&ビバレッジが展開する
○新製品がマーケット活性化に寄与
ドイツの天然炭酸水「ゲロルシュタイナー」は,
そこで主要ブランドのこれまでの動向をみると,
しっかり水分を摂りながら食事を制限してライフ
サントリー食品インターナショナルの「サント
スタイルを見直す「ファスティング」という「美
本番も上乗せに成功した。大容量が安定成長した
して新習慣での飲用を訴求する展開が効果を発揮
リー天然水」は,6月まで11%増で推移し,夏
の新習慣」に注目し,ファッションモデルを起用
上に,「朝摘みオレンジ」や「スパークリング」
している。
など新ジャンルが加速。発売後の需要想定が少
食品と容器
588
(井上拓郎)
2015 VOL. 56 NO. 9
業界の話題
キョーラク,鮮度保持容器「ハ
クリボトル」が注目
日本食糧新聞社・日本食糧新聞電子版(http://news.nissyoku.co.jp/)より
規模のメーカーでも採用しやす
いメリットがある。
を示す。
豆 乳 の 生 産 量 は, こ の20年
加熱殺菌した液体を高温のま
で 約10倍 に 増 加 し た。14年
プラスチック製品の製造・加
ま容器に詰めるホットパック充
は27万9964kL で 過 去 最 高 を
工を行う,キョーラクが開発し
填が可能なため,より広範囲な
更新し,15年1~3月期の生
た鮮度保持容器「ハクリボト
食品に利用できる。海外特許も
産 量 も, 6 万8450kL( 前 年
ル」が注目されている。内袋と
数多く取得しており,国外への
比14.3%増)と大幅に伸びた。
外装による二重剥離構造のため,
供給も可能だ。
(日食 2015.07.24日付)
「定期的な愛飲者が増え,料理
同社はこれまで,マヨネーズ
への利用も広まっている」(日
酸化に弱い液体食品の品質を長
などに使うスクイズ性(絞り出
本豆乳協会)ことが需要拡大の
期間維持できる。その性能は高
しやすさ)に優れたポリエチレ
要因だ。
く評価されており,すでに醤油
ンを主材とする多層ボトルで多
やぽん酢,オリーブオイルなど
くの実績がある。ハクリボトル
で採用実績がある。今秋発売の
は新規アイテムだが,山内由夫
キ ッ コ ー マ ン 飲 料 は「豆乳
新商品に導入するメーカーも多
医療・食品開発部長は「特徴の
シリーズ」38味種48アイテム
く,量販店の店頭で目にする機
ある製品を開発し,付加価値を
(季節限定品含む)のパッケー
会が増えそうだ。
提供するのがわれわれの努め。
ジを,8月から順次リニューア
ハクリボトルは,二重剥離構
お客さまの商品価値の延長を支
ル。8月17日には新フレーバー
造によって内容物と空気の接触
援したい」と話し,今後の拡販
として「パイン」「キウイ」(各
を減らし,酸化による風味や香
に注力する。
200mL)を加える。10月12日
開封後も内容物が空気に触れず,
りの劣化を防ぐ多層容器。ブ
ロー成型ボトルを手掛けてきた
ノウハウを生かしながら開発を
進め,14年10月に本格的に販
主要メーカー各社も積極的な
施策を打つ。
活況呈する豆乳業界 15年生
の豆乳の日に向けては “ 豆乳で
ニュー提案で消費刺激
ペーンを実施。女性だけでなく,
産量,過去最高へ 新商品・メ
(日食 2015.07.24日付)
美活 ” をコンセプトにキャン
男性に向けたレシピ提案も行う。
豆乳業界が活況を呈してい
今春レギュラー商品の味と
内袋には高い酸素バリア性を
る。健康志向に底支えされた
パッケージを一新したマルサン
持つ樹脂を使用し,外装はしな
ユーザー層の広がりに加え,料
アイは,ブランド認知向上を図
やかな柔軟性を持たせた。ボト
理への使用頻度が高まったこと
り,消費者とのコミュニケー
ルを握り容器がへこむ際,内袋
が需要を押し上げた。主要メー
ションを強化する。各メディア
が外装から剥離して縮むため,
カーの商品施策も奏功し,売場
でレシピ提案を行い,Web を
内容物が減っても酸素に触れる
での存在感が高まっている。日
利用したプレゼントキャンペー
ことがない。酸化による褐変や
本豆乳協会によると,15年の
ンも実施する。9月7日には
風味の劣化を防げ,作りたての
生産量は過去最高だった前年実
新商品として「チーズケーキ」
品質を維持できる。
績(約28万 kL)を上回る32万
売を開始した。
「抹茶カロリー 50%オフ」(各
200mL)などを発売する。
打栓キャップにも対応し,瓶
kL に達する見込み。重山俊彦
や PET ボトルの充填ラインか
会長は,「料理への使用量が拡
らの切り替えが可能。新たに設
大すれば,5~6年後に生産量
すべての豆乳製品で九州産大豆
備を導入する必要がなく,中小
は50万 kL に達する」との見解
「ふくゆたか」を使用。野菜や
食品と容器
589
JA グ ル ー プ の ふ く れ ん は,
2015 VOL. 56 NO. 9
果実は九州産にこだわった。3
資源を集中しシェア向上を目指
る「蒲郡市ヘルスケア計画」に
月には,九州産食材を使用した
す」とし,今期は,大きく伸長
協力,高濃度カカオポリフェ
「ほうれん草」「キャロットミッ
したチョコ市場の成長を加速さ
ノール含有チョコレート摂取に
クス」を発売。8月には,福岡
せるため,大人の嗜好に耐え得
よる生活習慣病の予防・改善効
県のブランドイチゴ「博多あ
るプレミアムタイプの育成を強
果を調べる大規模臨床試験を同
まおう」を使用した商品をリ
化すると同時に機能性について
市,愛知学院大学と共同で14
ニューアルする。
も取組みを強化する考え。
年3月に開始した。大澤俊彦教
し こ う
また,不二製油は業務用とし
伊田 覚・菓子営業本部菓子
授は,(1)チョコ摂取前後で
て「USS 製 法 」 に よ る 豆 乳 ク
商品開発部長は,チョコ市場
血圧が低下(2)特に血圧が高
リームや低脂肪豆乳などを活用
は11年以降,伸長傾向にあり,
い群が,正常血圧群よりも血圧
したメニュー提案を加速させ,
第3次成長期にあるとし,市場
が 低 下( 3)HDL( 善 玉 ) コ
豆乳消費を刺激する。
の将来性について,(1)機能
レステロールの上昇(4)アン
日本豆乳協会も積極的に広報
性チョコを中心にビター系チョ
ケート調査で精神的・肉体的に
活動を行う。豆乳資格検定を実
コが習慣化し新たな需要が創
活動的になる−などの知見を
施するほか,高校生向けの「豆
造(2)プレミアムチョコへの
報告し,中間報告で公表した健
乳レシピ甲子園」や食育移動教
ニーズが高まり,流通菓子でも
康調査アンケートの「精神的,
室などで若年層への認知を高め,
本格的なプレミアムチョコ需要
肉体的に活動的になる」ことに
需要を後押しする。
が拡大(3)チョコ文化の進化
着目,因果関係を解明するため
に伴い,チョコのさまざまな楽
追加分析の結果,チョコの摂取
しみ方が普及し大人の嗜好品と
前後で,脳細胞の増加に必要と
しての需要が拡大−などの要
され,各種研究で,うつ病,ア
因から,市場成長は今後も継続
ルツハイマー型認知症や記憶・
明 治 は17日, 産 学 官 連 携 で
するとの考えを示した上で,明
学習など認知機能との関連性が
実施したカカオポリフェノール
治として,「機能性」「プレミア
報 告 さ れ て い る,BDNF が 上
研究成果報告およびチョコレー
ム」という二つの価値を支える,
昇することが分かったと説明し
ト市場の成長性と明治のチョコ
カカオ豆の産地・品質にこだわ
た。
に関する今後の取組み報告会を
り,豆から最終製品まで一貫生
中部地区有力流通業と報道関係
産する「Bean to Bar」を基本
者を招き開催した。
に据える考えを示した。
明治,カカオポリフェノール研
究成果報告 高カカオチョコ摂
取で認知症の予防示唆
(日食 2015/07/27日付)
愛知学院大学心身科学部の大
山地健人・食機能科学研究所
有力 SM,機能性表示食品もコー
ナー化 健康関連売場広がる
(日食 2015/07/29 日付)
6月からメーカー各社による
澤俊彦教授は,高カカオチョコ
機能性評価研究一・二部長は,
機能性表示食品が登場し始めた
の摂取で,うつ病,アルツハイ
明治が行った,動脈硬化モデル
のを受け,有力な食品スーパー
マー型認知症や記憶・学習など
マウスにカカオポリフェノール
(SM)各社も健康関連の売場を
認知機能との関連性が報告され
を摂取させると動脈硬化の容体
コーナー展開するなど拡充する
るタンパク質である脳由来神経
が抑制されることや臨床試験で,
動きが活発化してきた。マルエ
栄養因子(BDNF)が上昇する
高カカオポリフェノールを摂取
ツは機能性表示食品を1カ所に
ことが分かったと説明した上で
すると善玉コレステロールが増
集めたほか,一般的な食品より
今後,メカニズムの解明に向け
加し,悪玉コレステロールが減
栄養価が高い食品という「スー
研究を進める考えを示した。明
少し,動脈硬化指数が改善した
パーフード」をコーナー化する。
治の田上康孝取締役は,「強み
などの研究成果を紹介した。
ヨークベニマルは加工食品の売
であるチョコカテゴリーに経営
食品と容器
明治は,愛知県蒲郡市が進め
590
場で健康関連の食品を集めて大
2015 VOL. 56 NO. 9
ただ機能性表示食品について
や機能性の評価について情報提
マルエツの唐木田駅前店(=
小売側からはまだ慎重な見方も
供する(3)届けられていない
7月23日開店,東京都多摩市)
ある。関係者からは「トクホと
食品の機能性表示と広告を止め
は, 機 能 性 表 示 食 品 や「 ス ー
矛盾するところがあるのではな
(させ)る -- を挙げた。唐木氏
パーフード」など1カ所に集め
いか,冷静に対応したい」「商
は食品と医薬品の歴史などを踏
てコーナー展開する。機能性表
品が出揃う今秋まで様子を見た
まえて,機能性食品は微妙な効
示食品ではキリンの「食事の
い」との意見もある。
果のある食品と位置付けて,効
型のコーナーを作る。
生茶」
,カルピスの「アミール
ウォーター」をそれぞれ棚1段
まるごと使って陳列し,その上
段には森下仁丹やファンケルな
食の安全と安心を科学する会,機
能性表示食品制度でシンポ 課
題が浮き彫り,消費者に周知を
(日食 2015/07/31 日付)
能表示を例外的に認められた食
品と位置付けた。
戸部氏は健康被害の情報収集
体制の整備を事業者に求め,届
食の安全と安心を科学する会
出後も継続的に安全性に関する
(SFSS)は18日,東京大学・弥
情報を確認し,変更すべきこと
特定保健用食品(トクホ)飲
生講堂で食の安全と安心フォー
があればすぐに対応すべきと訴
料の売場では隣接して機能性
ラム「新たな機能性表示食品制
えた。小島氏は機能性表示食品
表示食品の POP をつけて訴求。
度ってどうなの? - 消費者と
だけでは健康になれないことが
「食事の生茶」が税抜き140円で,
食品企業の距離を縮めるため
分かっているので,本当の意味
同容量の他社のトクホ緑茶商品
に -」をタイトルにシンポジウ
の健康教育が重要とした。関口
が同170円なので価格面では割
ムを開いた。学識経験者,消費
氏は協議会について説明,今後
安感はある。
生活アドバイザー,業界代表な
の課題としてパンフレットなど
ノンアルコール飲料売場でも
どが講演し,パネリストとなっ
による情報発信,適正製造規範
POP をつけ「アサヒスタイルバ
て課題を浮き彫りにし,制度の
(GMP)に関する課題抽出と検
ランス」や「同ノンアルコール
目的の一つである,科学的根拠
討,機能成分の規格集などの策
ビールテイスト」
「キリンパー
が曖昧な一部の健康食品の淘汰
定,表示・広告自主ガイドライ
フェクトフリー」も並ぶ。
「スー
に向けて消費者に周知する必要
ンの検討を挙げた。
パーフード」も三尺1本使って,
性が示された。パネリストは消
パネルディスカッションでは
ココナツオイル,亜麻仁油,エ
費者庁前長官の阿南 久氏,東
事業者に不利な情報を公開すべ
ゴマ油などでコーナー化する。
京大学名誉教授の唐木英明氏,
きかなどで意見が割れ,制度そ
ヨークベニマルは栃木平柳店
日 本 消 費 生 活 ア ド バ イ ザ ー・
のものが企業が責任を持つとい
(= 7月17日開店,栃木県栃木
コンサルタント・相談員協会
う意味についても考え方が分か
市)で加工食品売場のゴンドラ
(NACS)・食生活特別委員会委
れた。会場からは「制度に『バ
で健康関連商品を集めた。サプ
員長の戸部依子氏,毎日新聞社
ランスのとれた食生活が重要』
リメントやスムージー,栄養補
生活報道部編集委員の小島正美
と明記されている点を評価すべ
助食品,美容・ダイエット,コ
氏,健康食品産業協会会長の関
き」など多様な意見が出ている。
コナツオイル,健康茶や酢など
口洋一氏の5氏。
どのサプリメントが並ぶ。各カ
テゴリーの売場にも陳列する。
と う た
SFSS・理事長の山崎 毅氏が
ジャンルに分けて各三尺1本使
阿南氏は講演で,制度そのも
「機能性表示食品は効果の可能
い,POP を棚上段に,床にも表
のがつくられた背景やプロセス
性がある食品」「消費者に周知
示をつけて目に留まりやすくし
を説明,喫緊の課題として,行
していくことが重要」として,
た。通路を挟んで向かいには健
政,事業者,科学者などが(1)
「科学的根拠があいまいな食品
康飲料やミネラルウォーターも
消費者に新しい制度を知らせる
をなくしていくことが重要」と
コーナー化して健康訴求を強める。 (2)届出情報に対する安全性
食品と容器
591
結んでいる。
2015 VOL. 56 NO. 9
今月の統計
食品と容器
592
2015 VOL. 56 NO. 9
今月の統計
第1表 包装資材・容器の原材料別出荷金額
2004年
億円
構成比
原材料別
(公益社団法人 日本包装技術協会調)
2009年
億円
構成比
2014年推定
構成比 前年比 5年前比10年前比
億円
紙 ・ 板 紙 製 品
24,481.2
42.2%
24,623.6
42.0%
23,127.5
40.8%
100.7%
プラスチック 製品
15,416.1
26.6
17,569.5
30.0
17,704.0
31.3
106.4
100.8
114.8
金
品
10,923.2
18.8
9,389.6
16.0
9,148.1
16.2
100.4
97.4
83.7
品
1,507.3
2.6
1,336.2
2.3
1,262.9
2.2
101.2
94.5
83.8
ガ
属
ラ
製
ス
製
93.9%
94.5%
木
製
品
1,653.4
3.0
1,736.1
3.0
1,277.7
2.3
98.9
73.6
77.3
そ
の
他
4,051.0
7.0
3,937.1
6.7
4,099.4
7.2
100.3
104.1
101.2
総
合
計
58,032.2
100.0
58,592.1
100.0
56,619.6
100.0
102.3
96.6
97.6
昨年(2014年)は一昨年に引き続き,震災からの復興,円安の経済情勢などにより,出荷金額・数量ともにわず
かな増加傾向が見られた。金額ではプラスチック製品(前年比106.4%),数量では紙・板紙製品(前年比101.7%)
がそれぞれ増加に寄与している。
第2表 包装資材・容器の原材料別出荷数量
(公益社団法人 日本包装技術協会調)
原材料別
2004年
千トン
構成比
2009年
千トン
構成比
千トン
紙 ・ 板 紙 製 品
12,653.9
60.1%
11,026.0
59.4%
11,911.9
63.3%
101.7%
108.0%
94.1%
プラスチック 製品
4,003.7
19.0
3,658.2
19.7
3,528.2
18.7
100.4
96.4
88.1
金
品
2,098.1
10.0
1,735.1
9.3
1,548.8
8.2
99.1
89.3
73.8
品
1,583.7
7.5
1,346.4
7.3
1,252.9
6.7
99.3
93.1
79.1
品
718.0
3.4
801.5
4.3
587.0
3.1
98.9
73.2
81.8
他
-
-
-
計
21,057.4
ガ
属
ラ
木
*
総
製
ス
製
製
そ
の
合
-
-
100.0
-
18,567.2
100.0
2014年推定
構成比 前年比 5年前比10年前比
-
-
18,828.8
-
100.0
101.0
101.4
89.4
*その他は2000年から統計値なし
第3表 平均気温,降水量,日照時間
平均気温(℃)
平年差 前年差
2014年 8月
9月
10月
11月
12月
2015年 1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
月間
月間
月間
月間
月間
月間
月間
月間
月間
月間
月間
下旬
月間
8月 上旬
中旬
食品と容器
27.7
23.2
19.1
14.2
6.7
5.8
5.7
10.3
14.5
21.1
22.1
29.2
26.2
29.7
27.6
+0.3
-0.6
+0.6
+0.9
-2.0
-0.3
-0.8
+0.9
-0.1
+2.2
+0.0
+2.2
+0.4
+2.0
+0.1
-1.5
-2.0
-0.7
+0.7
-1.6
-0.5
-0.2
-0.1
-0.5
+0.8
-1.3
+0.5
-0.6
+0.2
-0.7
(8月中旬まで・東京)
降水量(mm)
平年比 前年比
(%)
105.0
155.5
384.5
98.5
82.0
92.5
62.0
94.0
129.0
88.0
195.5
11.5
234.5
1.0
52.5
593
62
74
194
106
161
177
111
80
104
64
117
25
153
2
112
日照時間(h)
平年比 前年比
(%)
106
67
87
379
138
378
39
83
83
65
63
115
222
2
244
180.9
145.8
135.2
134.8
185.2
182.0
166.9
194.2
149.5
240.6
137.3
91.4
181.8
85.5
36.2
(%)
(%)
103
124
101
92
106
97
100
119
85
139
111
148
126
145
63
86
89
122
76
102
89
119
95
68
102
96
98
104
106
56
2015 VOL. 56 NO. 9
最近の技術雑誌から
社会における食産業の課題
高城孝助:食品と科学,57(8)65~72(’15)
国 内 編
〔解説〕茶飲料中のカテキン成分の変化とその効能への影響
芳野恭士:New Food Industry,57(8)12~20(’15)
分 析 ・ 測 定
微 生 物・ 酵 素
〔解説〕特集―食品の非破壊・迅速検査技術の進展―
食品と開発,50(8)4~15(’15)
○近赤外分光法による食品分析の進展と課題
………………………………………………池羽田晶文
○蛍光指紋計測技術の食品検査への利用
………………………粉川美踏・蔦 瑞樹・杉山純一
○食品の非破壊・迅速検査への NMR の応用……小林邦子
○近赤外分光法を活用したコーヒー生豆の格付け
…………………………………………………石脇智広
〔解説〕金属材料が患う微生物感染症
若井 暁:化学と生物,53(8)515~520(’15)
食
衛
生
〔解説〕欧州におけるプラスチック以外の食品接触材料
規制の動き
塩ビ食品衛生協議会報,185 37~61(’15.6)
〔解説〕特集―国際標準に基づく食品安全管理体制を構
築する/ GFSI 最新事情,ISO9001改定など―
月刊 HACCP,21(8)19~36(’15)
○ GFSI の最新動向…………………………………齋藤恵美
○ ISO 9001の改正ポイントと食品企業における適切な
対応を考える…………………………………宇野由華
○食品安全強化法の影響とフードディフェンスの必要性
について…………ウォーレン ストーン・片岡 愛
〔解説〕特集1―食品の品質をはかる―
フードケミカル,31(8)17~47(’15)
○食油脂劣化の管理手法―極性化合物測定による数値管
理のメリット―………………………………松本恭一
○コンパクト水質計を用いた飲料水,食品,野菜の水質
成分管理……………………………………小松佑一朗
○「Analysis for value ~分析が生みだす価値」/物理
特性に着目した穀物・食品の品質管理への四つの新
提案……………………………………………桂 順二
○食品表示法に対応した栄養成分分析…………大脇進治
○各社イチ押しの食品分析・測定機器……………編集部
○栄養成分分析機器一覧表…………………………編集部
〔解説〕企画特集―HACCP 施設の 「快適さ」 を支える技術
/ HACCP・PRP モニタリングと機器校正を考える―
月刊 HACCP,21(8)39~55(’15)
○食品施設におけるモニタリング機器の校正について
…………………………………………………田尻 守
◯【参考資料】HACCP テキスト 「安全な食品製造のた
めの予防管理を用いるシステムアプローチ」/第
10章「プロセスコントロールの必須点」
◯【参考資料】HACCP テキスト 「安全な食品製造のた
めの予防管理を用いるシステムアプローチ」/第
11章「重要パラメーターと許容限界」
◯【参考資料】HACCP テキスト 「安全な食品製造のた
めの予防管理を用いるシステムアプローチ」/第
12章「予防管理のモニタリング」
栄 養 ・ 健 康
〔解説〕特集―食品の新たな機能性表示制度をめぐる動向―
明日の食品産業,458(7,8)7~34(’15.7)
○農林水産物も対象となった新しい「機能性表示食品制
度」の概要……………………………………大谷敏郎
○機能性表示食品制度の創設経緯と制度概要
…………………………………………………中野祐輔
○現在の健康食品の課題と食品の新たな機能性表示制度
への期待………………………………………梅垣敬三
○消費者から見た機能性表示食品制度の今後の課題
…………………………………………………森田満樹
〔解説〕豚の食肉等の規格基準の設定―生食用としての
販売・提供の禁止―
井河和仁:食と健康,59(8)8~18(’15)
〔解説〕食肉加工品と介護食
別府 茂:日本食肉加工情報,781 7~10(’15.7)
〔解説〕新しい食品表示制度(1)
片野坂明子:食と健康,59(8)52~59(’15)
〔解説〕タンパク質の改質とおいしさづくり/タンパク質
の改質によるおいしさと栄養―調理技術の加工特性―
山﨑勝利:食品と科学,57(8)34~40(’15)
〔解説〕HACCP,新たな展開に向けて
食品と科学,57(8)14~26(’15)
○日本の HACCP の今後… ………………………広田鉄磨
〔解説〕食品市場におけるシニア層の取り込み/超高齢
食品と容器
品
594
2015 VOL. 56 NO. 9
最近の技術雑誌から
○ HACCP を取り巻く世界の潮流と日本の対応
…………………………………………………氷川珠恵
○小規模経営への HACCP の導入について…… 伊藤和代
飲
〔解説〕特集―ウォータービジネス2015/踊り場を迎え
たウォータービジネス―
Beverage Japan,38(7)22~44(’15.8)
○ミネラルウォーターの動向
○主要ミネラルウォーターブランドの動向
○ HOD 市場の動向
○主要 HOD ブランドの動向
○ウォータービジネスに役立つ資機材
〔解説〕年間特集―食品の品質保証技術―
食品機械装置,52(8)52~56(’15)
○輸入食品の安全性確保について………………處 眞也
〔解説〕特集2―食の安全衛生対策は今!―
食品包装,59(8)27~36(’15)
○食品安全における第三者認証の価値とは?/普及への
模索と制度関係者のアカウンタビリティを考える
…………………………………………………勝俣宏行
○飲料充填の異物混入対策で新提案/不良商品の市場供
給を未然に回避……………………… Takeda Works
○たった1本の毛髪も落とさないために/独自開発の商
品と指導力で食品製造現場に信頼の絆を構築
……………………………………毛髪シャットアウト
〔解説〕ニアウォーター新時代
Beverage Japan,38(7)49~54(’15.8)
○ニアウォーターの再活性化
○ “ 炭酸 ” ニアウォーターも拡大
○主要ブランドの動向
〔解説〕上期ビール類,「0・0」商品が機能系けん引/
発泡酒のみ出荷量プラス
酒類食品統計月報,57(5)24~25(’15.7)
添 加 物 ・ 副材料
〔解説〕特集―惣菜開発の新技術―
ジャパンフードサイエンス,54(8)38~53(’15)
○惣菜(サラダ類)への応用技術―寒天をはじめとする
多糖類の利用―………………栗原昌和・小池奈緒子
○外食・中食のフライ油事情……………………富沢直克
○醸造酢を配合した粉末製剤による日持ち向上技術
………………………………………………上野製薬㈱
Ⓡ
○日持向上剤・pH 調整剤製剤「アミカノン -Neo」
…………………………エーザイフード・ケミカル㈱
〔解説〕スポーツドリンク,熱中症予防ニーズ高まる/
14年実績は冷夏でマイナス
酒類食品統計月報,57(5)26~29(’15.7)
缶びん詰・レトルト食品
〔解説〕2014年の缶びん詰,レトルト食品生産動向―
(公社)日本缶詰びん詰レトルト協会:缶詰時報,
94(8)2~23(’15)
〔解説〕加熱における醤油調味液の香気成分の変化
孟 琦・今村美穂・小幡明雄・菅原悦子:日本調
理科学会誌,48(4)249~254(’15.8)
〔解説〕平成26年(1~12月)品目・缶型別缶詰生産数量
缶詰時報,94(8)36~68(’15)
〔解説〕特集3―スパイスが演出する春夏秋冬―
フードケミカル,31(8)72~80(’15)
○季節に合わせたスパイスの使い方……………近藤恭子
○生産減・世界需要増で高値続く…………………編集部
農
食
品
一
般
〔解説〕
【2014(平成26)
年度】酒類・食品企業の3月期決
算と次期見通し/15業種中9業種が増収増益を達成
酒類食品統計月報,57(5)53~66(’15.7)
産
〔解説〕ユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化と
その保護と継承
48
(4)
320~324
(’15.8)
江原絢子:日本調理科学会誌,
〔解説〕製粉各社,収益基盤の強化が課題/ TPP はじめ
変化見据えた取り組み進行
酒類食品統計月報,57(5)2~10(’15.7)
食 品 加 工・保 蔵
水 産 ・ 畜 産
〔解説〕低温スチーマーにおける高齢者に適したニンジン
の加工条件
豊泉友康・山本寛人・佐々木麻衣:日本食品科学工
学会誌,62(7)341~348(’15)
〔解説〕「養豚農業の振興に関する基本方針」について
歌丸恵理:日本食肉加工情報,781 2~6(’15.7)
食品と容器
料 ・ 醸 造
595
2015 VOL. 56 NO. 9
最近の技術雑誌から
〔解説〕酸性電解水とファインバブルの融合による高度殺
菌技術の確立
編集部:食品と開発,50(8)33~35(’15)
機
容 器 ・ 包 装
械 ・ 設 備
〔解説〕特集―輸送包装―
包装技術,53(8)3~35(’15)
○海外の評価試験動向からみた輸送包装の課題と取組み
……………………………………………………高木雅広
○ダイナフル・ボックスの開発-縦罫線裂け抑制ケース-
……………………………………………………山邊哲久
○誰でも簡単に組み立てられる立体構造緩衝材の構築
……………………………………………………佐藤賢志
○3軸同時振動に衝撃を複合した新しい輸送包装試験機
『BF-50SST』………………………………………上原雅史
○フィルム宙吊り包装「ゆりかーご」の開発/イチゴの傷
防止効果…………………………………………大石高也
○ジャストフィットボックスシステム……………江田直樹
〔解説〕特集―食品工場における省エネ対策―
食品機械装置,52(8)57~61(’15)
○気化放熱式涼風給気装置による省エネルギーでの作業環
境の改善…………………………………………岩田圭一
〔解説〕特集―混合・攪拌・乳化機器―
食品機械装置,52(8)62~70(’15)
○高圧ホモジナイザの構造と用途…………………滝田一磨
○羽根のない遠心攪拌機について…………………富岡康充
〔解説〕PET ボトル2015/進化するプリフォーム成形機
Beverage Japan,38(7)46~47(’15.8)
○プリフォーム成形機をめぐる最新事情
〔解説〕特集―食品工場の排水処理―
ジャパンフードサイエンス,54(8)16~37(’15)
○近年の食品工場排水処理の動向…………………田中一平
○食品工場排水への平膜を用いた膜分離活性汚泥処理
(MBR)の適用………………… ㈱クボタ 膜システム部
○パイル織物を活用した排水処理技術の実用化
……………玉田 卓・山際秀誠・高辻 渉・大家健司
○電気脱水機「ジータ」/電気浸透流により驚異的な含水
率を実現………………………………………㈱エイブル
○特許多重円盤型「ヘリオス脱水機E - タイプ」
…………………………………………………㈱ヘリオス
○大幅なコスト削減を実現する「AT-BC + MBR システム」
……………………………三菱化学エンジニアリング㈱
〔解説〕特集3―食と包装の検査装置2015年・夏―
食品包装,59(8)37~43(’15)
○カップやチューブ用検査機を積極展開/専用サイトで画
像処理用 LED 照明のオンライン販売も開始
……………………………………アイ・ピー・システム
○国内外での市場拡大受け商品名変更/ LED 使用の食品
向け異物検査用コンベヤー
…………………………サムテック・イノベーションズ
○まさに目視レベルの柔軟な検査能力/弁当の具材抜け,
カップ麺の調味料抜けなどを瞬時に検知
……………………… TDI プロダクトソリューション
○ウェット食品用色彩選別機に追い風/産業競争力強化法
に基づく「生産性向上設備投資促進税制」も後押し
…………………………………………………服部製作所
○高速かつ高精度で良否判定/多彩な検査関連ソリューシ
ョンを提案…………………ライオンエンジニアリング
○第3世代豆類外観検査装置を開発/黒豆・大豆・金時豆
食品と容器
などの豆類の手選別を強力にサポート
………………………………………ワイエムシステムズ
〔解説〕ユーザーの使いやすさを第一に目指した容器作り
/ヨーグルト容器とチューブ容器の改善点を追う
明治:食品包装,59(8)6~9(’15)
〔解説〕特集1―パッケージデザイン新展開 part Ⅰ―
食品包装,59(8)17~26(’15)
○デザイン料という対価でも実績/顧客の新商品やリニュー
アルを市場調査レベルからサポート
…………………………………デザインプロモーション
○商品のブランディングに多彩な実績/デジタルオンデマ
ンド印刷への柔軟な対応で新たな地平も模索
………………………………………岩崎デザイン事務所
○ “ 楽しい仕事 ” だからこそ “ 一生涯勉強 ” /関西在住デ
ザイナー同士の連帯強化へ各種活動にも意欲
…………………………………………………三原美奈子
〔解説〕軟包装時代の新ヒートシール講座/シールに対す
る種々の与件の影響(2)
大須賀 弘:食品包装,59(8)58~67(’15)
〔解説〕RF タグ進化論/人と社会と包装と/過大な欲望
寺浦信之:食品包装,59(8)68~73(’15)
そ
の
他
〔解説〕特集2―JASIS 2015―
フードケミカル,31(8)49~68(’15)
○アジア最大級の分析・科学機器総合展示会
○「フードサイエンス」を誘導する JASIS2015先端診断
イノベーションの貢献…………………………岩瀬 壽
○セミナープログラム
○ JASIS 2015 出展社 PICK UP !
596
2015 VOL. 56 NO. 9
最近の技術雑誌から
Prepared Foods (USA) Vol.184 Jun. (2015)
海 外 編
○ NPD グループが注目する5つのキートレンド
NPD Eyes Five Key Trends
邦文の題名は内容に従って付けてありま
すので,原題と異なる場合があります。
…………………………………………… 27~31
○増え続けるグルテンフリー食品
ご興味のある雑誌・記事がございました
らいつでも閲覧できますので,当会宛ご
連絡ください。
Land of the Free
L. A. Williams…………………………………… 37~43
○幼児や子供に合った食品・飲料ソリューションの開発
What to Feed Baby ?
K. T. Ayoob……………………………………… 46~64
○果物や野菜に帰依する消費者や製品開発者
Food Technology (USA) Vol.69 Jun. (2015)
Natural Appeal
A. M. Ramo………………………………………92~106
○第75回 IFT(IFT15)会議&展示会について
IFT Marks a Milestone in Chicago
○食品テクスチャーを決める4つの摂食パターン
Unexpressed Needs Drive Food Texture Choices
M. E. Kuhn… …………………………………… 30~47
M. Jeltema et al.……………………………… 108~110
○7月シカゴは食材の中心地となる
Chicago Will Be the Ingredients Capital in July
○食品へのガムやデンプンによる機能的処方
K. Nachay and M. Z. Bartelme… …………… 48~87
Functional Formulas with Gums and Starches
E. Pelofske… ………………………………… 124~130
○機能性成分の好ましい組み合わせ
A Healthy Assortment of Functional Ingredients
Beverage Industry (USA) Vol.106 Jun. (2015)
L. M. Ohr…………………………………………89~102
○2015科学技術プログラムが食品の安全と品質を提供
○「健康」のさらにその先を求めて進化する茶飲料
2015 Scientific Program Offers Food Safety & Quality
Moving Beyond Health and Wellness
N. H. Mermelstein…………………………… 103~119
S. Cernivec… …………………………………… 14~18
○発表や展示から提供されるパッケージ情報について
○2014年売り上げトップ100飲料会社
Presenters, Exhibitors to Parcel Out Packaging
The Top 100 Beverage Companies
Information
…………………………………………… 26~34
T. Tarver… …………………………………… 129~131
○最前線に立つ輸入ビール
(ハイネケン USA が投資する4つのコアブランド)
The World of Food Ingredients (NLD) Jun. (2015)
Bringing Imported Beer to the ‘Fourfront’
J. Storelli… ……………………………………… 36~39
○クリーンラベルと健康表示とのパラドックス
The Clean Label & Health Paradox
Beverage World (USA) Vol.134 Jun. (2015)
N. Diaz-Osborn & S. Osborn… ……………… 10~13
○動物性プロテインの機能的役割
○水不足 ー 成長の危機に直面する飲料会社
Functional Roles for Animal Proteins
Water Shortage
R. Wyers… ……………………………………… 20~24
A. Kaplan………………………………………… 32~36
○親水コロイド:食品健康分野で明らかになる役割
○2015年躍進が予想される8ブランド
Hydrocolloids: Emerging Roles for Healthy Specialties
Breakout Brands 2015
D. Seisun… ……………………………………… 32~34
H. Landi, J. Cioletti, A. Kaplan……………… 37~47
○ IFT15(フードエキスポ)プレビュー
○データ分析とゲノム配列決定をどう結合するか
Where Science Feeds Innovation
How to Fuse Data Analytics and Genome Sequencing
R. Wyers… ……………………………………… 44~46
S. Wright… ……………………………………… 48~52
○スポーツサプリメントとドーピングの脅威
Sports Supplements: The Doping Threat
Food Manufacture (GBR) Vol.90 Jun. (2015)
K. Worgan………………………………………… 74~77
○子供の食事における健康不安は肥満と歯科衛生
It’s Not All Child’s Play
食品と容器
597
2015 VOL. 56 NO. 9
最近の技術雑誌から
M. Knott … ……………………………………… 26~27
Rising to the Challenges
D. Schug… ……………………………………… 89~95
○ホログラムを用いたブランド保護・偽造防止システム
Holograms Overlooked for Security
○監査は食品安全に向けた協働作業
P. Gander ……………………………………………… 39
Auditing the Auditors
J. Koel… …………………………………………97~102
○食品の鮮度管理に利用されるスマートラベル
Testing the Temperature
The Canmaker (GBR) Vol.28 Jun. (2015)
P. Gander ………………………………………… 41~42
○成長し続ける中国の大手金属容器メーカー CPMC
Packaging World (USA) Vol.22 Jun. (2015)
Leading the Pack
M. Higuera… …………………………………… 27~28
○非 GMO コーンミールのパウチ充填ライン
Single-source Line for Pouch Packaging
○第1四半期トップ製缶メーカー設備投資10億ドル超え
P. Reynolds ……………………………………… 44~48
Deals and Expansions Dominate First Quarter
A. Stupay… ……………………………………… 35~36
○2015デュポン賞を獲得した包装容器
SkinnyPack at the Head of the Pack in Dupont
○開発し続ける缶,ボトル,蓋の徹底的な検査システム
Awards 2015
Faster and Better
A. M. Mohan et al. … ………………………… 50~56
D. Freitas… ……………………………………… 39~40
○ツインボウル充填機で蒸留酒の生産スピードアップ
○ソフトドリンク飲料メーカー AG Barr の紹介
Twin-bowl Filling Is Just the Ticket
Minimising Losses
P. Reynolds ……………………………………… 72~76
T. Woerndl… …………………………………… 43~44
Food Processing (USA) Vol.76 Jun. (2015)
Journal of Food Science (USA) Vol.80 Jun. (2015)
○2015食品・飲料業界トレンドを象徴する R&D チーム
○レタス上の大腸菌 O157:H7および総好気性細菌の制
D. Fusaro et al.… ……………………………… 26~39
Effectiveness of Active Packaging on Control
Healthful, Authentic, Wholesome
御に対するアクティブパッケージの有効性
of Escherichia Coli O157:H7 and Total Aerobic
○冷凍食品を健康市場に呼び戻す
Finding Innovation in the Frozen Category
Bacteria on Iceberg Lettuce
D. Phillips………………………………………… 53~56
H. Lu et al.… ………………………… M1325~ M1329
○骨健康の “ いろは ” について
○コンジョイント分析によるプロテイン飲料の属性評価
The ABCs (Actually CDK and M’s) of Bone Health
Identifying Key Attributes for Protein Beverage
M. Anthony,PhD.… ……………………………… WF-8
A. Oltman et al.……………………… S1383~ S1390
○技術より最高の実施例が食品安全の主要テーマ
Food Engineering & Ingredients (BEL) Vol.39
May/Jun. (2015)
Safety Culture Club
K. T. Higgins… ………………………………… 77~85
○食品・飲料製造業のインフラで着実に進む IOT 技術
○ナッツと全粒粉の健康効能:最新情報
Untethered Plant Controls
Health Benefits of Nuts and Whole Grains: an Update
K. T. Higgins… ………………………………… 93~96
…………………………………………… 12~15
○心血管の健康を促進する機能性食品と素材
Food Engineering (USA) Vol.87 Jun. (2015)
Matters of the Heart: Functional Foods and
Ingredients That Boost Cardiovascular Health
○食品安全マネジメントシステムの内部監査への対処
Understanding All the Implications of an Internal
…………………………………………… 13~15
Audit
○糖尿病やメタボリックシンドロームを防ぐ機能性食品と
R. F. Stier………………………………………… 25~26
素材
Functional Foods and Ingredients for Protection
○第38回プラント設備状況調査
38th Annual Plant Construction Survey
against Diabetes and Metabolic Syndrome
W. Labs…………………………………………… 47~87
…………………………………………… 16~18
○2015FA&M 会議で強調された革新と柔軟性がキー戦略
食品と容器
598
2015 VOL. 56 NO. 9
たボールペンの話,二つ目は実際に現物を手にし
開発目線の四方山話(第5話)
て,値段の安さとメカニズムに驚いた100円ガス
ライター,そして三つ目があるセミナーで聞いた
エチケットライオンの話です。
<ボールペン>
モノづくりの三つの出合い
今日では高級品から安価なものまで,あって当
たり前のように広く使われているボールペンです
が,発売当初は新しい筆記用具として注目され,
安いものではありませんでした。それでも評判が
しゅく ざき こう いち
良く高級品に位置づけられて,大変売れたようで
宿 﨑 幸 一 (エルダーズ代表責任者,元コーセー常務取締役研究本部長) す。ところが発売後,問題が起きました。長く使
下積み俳優がある映画監督と出会ったことが縁
ン先のボールが擦り減って突然インクが漏れて紙
で大スターになったとか,食の職人がある食べ物
を汚してしまったのです。これを解決できなけれ
に出合って独自の食べ物を作り出したとか,一冊
ば市場から撤退せざるをえないような大問題です。
の本との出合いが人生の転機になったなど,人は
そこでいろいろな研究機関が,擦り減らない硬い
いろいろなものとの偶然の出合いから,その後の
ボールの開発に取り掛かったのですが,これが難
生き方や人生に大きな影響を受けるものです。私
しくて解決の糸口がなかなかみつからず窮地に立
にも今まで,そうした出合いがいくつかありまし
たされました。そんな八方塞がりの時,ある担当
たが,ここでは製品開発という仕事をしていく中
者が見事に解決しました。硬いボールの開発に成
で若い頃,一番鮮明に記憶している三つの出合い
功したわけでも,そのほかの技術開発で解決した
について話してみたいと思います。化粧品会社に
のではないのですが,再び息を吹き返して売り上
入社して研究所配属となり,新製品開発の一翼を
げも上がり現在のように広く使われる筆記用具に
担うことになった頃のお話です。
生まれ変わりました。その方法はまさにコロンブ
い続けていくと,まだインクが残っているのにペ
入社するとまずは化粧品づくりに必要な基礎技
スの卵といえます。ペン先のボールが擦り減る前
術(乳化,可溶化,分散など)を一通り教わり,
に全部使い終わるようにインクの量を調整したの
製品開発の勉強という机上の段階を経て,先輩の
です。いわれてみるとそんなことかというような
指導を受けながら,知識,技術を実践で生かせる
ことではありますが,技術で解決できなかった問
よう経験を積み,それからいよいよモノづくりが
題を,アイディア,知恵で解決したのです。その
始まりました。その当時の化粧品は外国メーカー
頃,モノづくりは技術力が一番だと思っていた私
の方が進んでいて,日本製より勝れているものが
は,この話を聞いて目からうろこが落ちた思いで
多かったので舶来品を手本に,模倣して新製品づ
した。アイディア,知恵も技術力に勝るとも劣ら
くりをすることがほとんどでした。また従来品の
ない,モノづくりの強力な武器であると教えられ
改善,改良をするモノづくりも多く,独自の開発
た出合いでした。
<100円ガスライター>
製品は稀なことでした。しかし,模倣品,改善改
私が若い頃は今のように喫煙マナーが厳しくな
良品を作るにも技術的にはかなり難しく悩まされ
たものです。とにかくその頃の私は製品開発につ
かったので,いたるところでタバコを吸っている
いて,解らないこと,迷うことばかりでした。そ
人を見かけたものです。今ではタバコにライター
んな時に,他業界の三つのヒット商品(話題商
はつきものですが,まだマッチも盛んに使われて
品)に出合い,大いなる刺激と影響を受けたので
おり,ライターはかなり高価な高級ブランドのダ
す。一つ目は何気なく読んでいた記事に載ってい
ンヒルやデュポン製等を持つのがステイタスだっ
食品と容器
599
2015 VOL. 56 NO. 9
た時代です。最近,誤操作による爆発や火遊びに
です。ライオン株式会社がエチケットハミガキを
よる火災発生などの危険性から販売規制ができた
発売したのは1968年ですからもう50年くらい前
ようですが,1970年代に100円ガスライターが
のことですが,「このハミガキは虫歯予防ではな
発売されると,安価で便利な使い捨てライターと
く,口臭を消し相手に不快感を与えないエチケッ
して,あっという間に広まっていきました。タバ
トである」と使用目的を変えたのです。こうなる
コを吸わない私でも当時どうしてこんなに安く作
と歯磨きは虫歯予防のためという強制的心理的反
れるのだろうかと驚いて,少し調べてみました。
撃をする相手,場がなくなり,同時に若い女性が
従来のガスライターはまずガスを噴射した後,火
デートの前にエチケットとして使うようになり,
花を出して着火するという複雑な二段方式構造で
9割以上の女性が購入したといわれるほど売れた
あり,100円ガスライターは着火の火花とガスの
そうです。当時は今のようにマウスケア商品がな
噴射がほぼ同時,あるいはほんの少し後にガス噴
かったのでその先陣(代替)として使われたわけ
射される単純な一段方式で作られるということで
です。使用目的を変えたことによって別商品とし
した。私はそれまで,ガスが噴射した後に火花を
て扱われたことがヒット商品に繋がったのです。
照射しなければ着火しないと思い込んでいました
消費者にとって,この商品を使うことによってど
から,火花の後,あるいは同時にガスを噴射して
んな新しい生活ができるのかと期待の持てるもの
も着火するということを知って驚きました。思い
として,エチケットライオンは生活提案商品に生
込みの恐ろしさ,実験して確認する大切さを教え
まれ変わったのです。固定概念にとらわれずに柔
られた出合いでした。常識と思っても疑ってみる,
軟に自由奔放に考えることの大切さを学べた出合
本や文献に書かれていること,他人の実験結果な
いでした。
その頃の私の取り柄といえば,若さ,感受性,
どを鵜呑みにせず慎重に扱うようになりました。
<エチケットライオン>
やる気だけで,モノづくりの知識,技術,マー
一般的に歯を磨く習慣というものは親から「毎
ケッティングなどほとんど何一つ知らないも同然
日歯を磨かないと虫歯になってしまう」と注意さ
だったのですが,こうした出合いからモノづくり
れて,イヤイヤながらも続けていたものが習慣化
のマルチ目線が身についたのではないかと思いま
したもので,人は強制的にされると無意識に何ら
す。
かの形で反撃するのだそうです。その反撃の一つ
三つのヒット商品との出合いがその後の私のモ
としてハミガキはずっと同じものを使わずに,メ
ノづくりの原点になったといっても過言ではない
ーカーや種類をいろいろ変える人が多いのだそう
ような気がしています。
編
集
後
記
●最近は海といえばダイビングのみであったが,孫に海
第56巻 第 9号
を見せたく,娘夫婦と三浦海岸へ海水浴に行ってきた。
平成27年9月 1 日発行
初めての海では,波がくるたびに母親にしがみつき,波
が顔にかかると泣きそうになっていた。我が子の時はど
発行所 缶
うだっただろうと,家に帰りアルバムを取り出した。
〒103−0002 東京都中央区日本橋馬喰町 1−8−4
TEL 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 1
定 価
FAX 0 3( 3 6 6 3 )7 2 5 3
1部 800円
Eメール:[email protected]
年間 8,000円
郵便振替 0 0 1 5 0 − 0 − 4 2 2 1 5
(消費税・送料込)
井 俊 夫
編 集 人 荒
●夏といえばビアガーデン。ひと昔前では,ビアガーデ
ンといえばビールに枝豆・唐揚げ・焼き鳥で男性がメイ
ンであった。しかし最近は若い女性をターゲットとした
ビアガーデンも多く,テーブル間隔は広く,BBQ がメイ
ンであるがお洒落で,スイーツやアイスクリームもある。
またビアガーデンで飲み放題にもかかわらず,乾杯から
−禁無断転載−
サワーやモヒートではもうついていけません。 (一)
食品と容器
詰 技 術 研 究 会
発 行 人 田
嶋
一
乱丁・落丁本はお取り替えいたします。
600
雄
印 刷 所 大和サービス株式会社
2015 VOL. 56 NO. 9