第 3 回 「子ども兵、社会復帰支援の現場から」

2012 年度パナソニック提供
龍谷講座 in 大阪
社会貢献・国際協力入門講座
第 3 回 「子ども兵、社会復帰支援の現場から」
日時:5 月 23 日(水) 午後 7 時~午後 8 時 30 分
会場:龍谷大学 大阪梅田キャンパス 研修室
講師:小川 真吾
特定非営利活動法人 テラ・ルネッサンス 理事長
URL http://www.terra-r.jp/
第 5 回の講師は特定非営利活動法人テラ・ルネッサンスで理事長を務める小川真吾さんです。テラ・ルネッサンス
は 2001 年からウガンダ共和国(以下、ウガンダ)やコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で元・子ども兵の社会復帰
支援に取り組んでいます。また、紛争による被害者を支援する立場から、カンボジアでの地雷除去活動や武器の取引
規制キャンペーンを実施しています。小川さんは、同 NGO のアフリカ駐在代表として、ウガンダ及びコンゴで元子
ども兵の社会復帰支援事業に長年に渡り取り組んできました。主な著書に『ぼくらのアフリカに戦争がなくならない
のはなぜ?』(合同出版)
、共著書に『ぼくは 13 歳
職業、兵士。』
(合同出版)などがあります。
講座概要
講座では、貴重な映像や資料を通じて、子ども兵の問題や支援活動の状況が語られ、加えて、紛争の犠牲者の多く
は子どもや女性であり、物流が断たれ移動が制限されることに起因するという酷薄な現実が指摘されました。講座後
半では、紛争が続く原因を歴史的要因と経済的要因の双方から分析し、私たちの日常の生活と関連させながらアフリ
カが抱える問題を考えました。
アフリカ中東部の紛争と子ども兵の状況
アフリカ中東部では、当時のスーダン第一次
内戦(1955 年~1972 年)からダルフール紛争
(2003 年~2010 年)に至るまで、主なものだ
けでも 5 カ国で 9 つの紛争が勃発しました。そ
の間の死亡者数は、935 万人と推定され、子ど
も兵は 20 万 8 千人に上るといわれます。この
地域における紛争の特徴として、小さな子ども
が徴兵され戦闘に加担している点があげられ
ます(左図参照)
。ウガンダでは 6 万 6 千人以
上の子ども兵が存在し、ルワンダでは多くの子
どもがジェノサイド(大量虐殺)に関わってい
ました。しかし、アフリカでは出生証明書がな
作成:小川真吾
(特活)テラ・ルネッサンス
い場合が多く、政府の正確な統計も存在しない
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ことから、子ども兵は“目に見えない兵士”と称されます。つまり、実際の数を把握するのは困難であり、現実には、
確認されている以上の子どもが紛争に駆り出されたと考えられます。
ウガンダ北部の子ども兵
ウガンダは緑や水に恵まれ経済開発も順調でしたが、植民地時代の意図的な分断統治により、北部と南部で大きな
格差が生じていました。第二次大戦後に独立して共和制に移行したものの、分断統治の名残や東西冷戦下の大国の思
惑の中でクーデタが相次ぎ、不安定な情勢が続きます。1990 年代半ば以降、南西部中心のウガンダ政府に対して、
北部出身者中心の武装組織「神の抵抗軍」が反政府活動を行っており、6 万 6 千人の子どもを誘拐し徴兵したといわ
れています。
2005 年の紛争当時、小川さんが支援活動の拠点としていたウガンダ北部のグル県では、ナイト・コミューターと
呼ばれる子どもたちが、多い時には 1 万人にものぼりました。彼/彼女らは、武装勢力から逃れるため、夜になると
村から町の中心街やシェルター、教会や病院の敷地に避難します。こうした状況は、子ども兵の過酷さを表していま
す。扱いやすく安価な小型銃が拡散したことにより、子どもが最前線で戦闘に参加し、戦力となることを可能にしま
した。また、コンゴでは麻薬を用いて意識を混濁させた子ども兵に、地雷原を歩かせるといった事例も報告されてい
ます。ウガンダでは、誘拐後、自分の家に連れて行かれ、親族の殺害を強要されるという痛ましい光景が多くみられ
ました。自分の村の襲撃や、子どもの誘拐を強いられてきた彼らが、健全な精神と健康を取り戻すことは容易ではあ
りません。さらに、元少女兵の現状はより深刻といえます。大人兵と結婚を強制され、望まない妊娠と出産を強いら
れてきました。彼女たちは、自身の社会復帰を果たした後も、大きなトラウマに対処しながら幼い子どもを育ててい
かなければなりません*。
*
テラ・ルネッサンスが行っている元子ども兵社会復帰支援プロジェクトの詳細については、以下のサイトから閲覧できます。
http://www.terra-r.jp/contents/index.php?itemid=29&catid=17
アフリカの紛争要因と私たちの日常とのつながり
子ども兵の支援を継続しても、紛争がなくならない限り根本的な問題解決にはつながりません。紛争の原因は 19
世紀初頭まで続いた奴隷貿易とその後の植民地支配という歴史的要因、先進国と深く関わる政治的要因の二点がいわ
れますが、グローバル化が進む現在、「武器・資金・知識と情報」という三つの要素が複雑に交差している点に留意
する必要があります。アフリカで蔓延する小型武器の最大の輸出国は欧米諸国です。世界では 92 カ国 1249 の企業が
製造に関わり、米英仏の武器による経済的利益は三国の ODA(政府開発援助)総額を上回ります。また、武装組織
をつくり戦闘を継続するための資金や、大衆の扇動や政治介入のための知識や情報をもった人材がアフリカに流入
し、資源輸入国である外部勢力と結びつくことで紛争を引き起こしていることも長期化させる要因と考えられます。
最後に、小川さんは、アフリカで起こっている紛争は、その地域だけが原因を作りだしているのではなく、私たち
が享受している豊かな生活にも関係することを指摘します。例えば、日本はスーダンの石油を輸入していましたが、
その資金は、スーダン政府を通してウガンダの神の抵抗軍に流れたといわれています。神の抵抗軍は、多くの子ども
を誘拐し子ども兵として徴兵してきました。現在、アフリカの資源の多くを中国が購入していますが、中国で生産さ
れた安価な商品は日本にも輸入されています。こうした複雑な世界の状況や紛争の背景に関心を持ち、周りの人に伝
えること、そして自分たちにできることを考える必要があります。例えば、食糧問題や金融資本の流れを知る、リサ
イクルへの取り組み、省エネを心がけるということも、自分たちができることです。過去にアフリカを侵略していな
い日本は、アフリカ諸国から信頼されている数少ない先進国です。小川さんは、アフリカの平和を構築するために、
私たちができることは沢山あるのでないかと問いかけ、講座を締めくくりました。