夢ある農業応援誌 にいがた普及だより No.57/2013.7 株式会社 曽我農園 特集 現地の課題を解決します! 農村女性の起業 新発田 新津 スペシャリストに聞く 糸魚川 新潟に生きる シリーズ 〜地域農業者の動き〜 三条 長岡 南魚沼 十日町 柏崎 上越 きらり直売所 期待のニューファーマー 〜新規就農者の活動紹介〜 01 特集 10 農村女性の起業 05 新発田 高齢者給食宅配からスタートした加工企業グループ 「しばた旬の会」企業組合を設立し、更なる発展を目指す! 新津 女性の視点を発揮して直売活動を実践 糸魚川 地域に潤いを与える農村女性起業活動 新潟に生きる 〜地域農業者の動き〜 三条 売り込め吉田本町春きゅうり! !~PR大作戦~ 長岡 小千谷食おこし隊の活動 南魚沼 養液土耕システム研究会が発足 十日町 えだまめの産地化を目指してがんばっています 柏崎 米品質のV字回復を目指して土作りの研修を行いました 上越 妙高山麓直売センターとまと、リニューアルオープン! スペシャリストに聞く 野菜栽培における土壌分析と適正施肥の 重要性 12 シリーズ きらり直売所 JA越後中央 農産物直売所「越王の里」 (新潟市西蒲区) 13 期待のニューファーマー ~新規就農者の活動紹介~ たのしくつくるとおいしくなる!(村上) 14 ボイス 〜農で輪、話、和〜 藤田 けい子さん(糸魚川) 伊藤 敏明さん(佐渡) 08 現地の課題を解決します! 新規導入生産者の加工向けたまねぎ安定 栽培の検討 農業大学校研修案内 農に夢中 〜今月の表紙〜 農村女性起業の取組について 農村女性の起業 農村女性起業とは、農村女性が主体となって取り組む直売・農 産加工などの経済活動をいいます。農村女性起業の取組は、女性 の経済的自立や農業経営への参画を促すとともに、地域の資源や 文化を活かした特産品づくりなど地域活性化につながると期待さ れています。 県内における取組件数は横ばいですが、法人数や年間 500 万円 以上販売起業数は緩やかに上昇しています。 農業の6次産業化推進において、女性はその担い手としてます ます活躍が期待されています。 そこで、県では普及指導センターを通じて、発展意欲のある農 村女性起業者に対し、専門家等との連携により技術改善、販売戦 略、経営管理手法等の課題解決に向けた支援を行っています。経 営普及課においても次代の起業家・経営者を育成するため、昨年 度からセミナーを開催し、ビジネスビジョンの作成や事業開始に 必要な知識習得等を支援しています。 農村女性が起業活動を通して技術や経営センスを一層磨き、経 営者として活躍されるよう引き続き支援していきます。 (経営普及課 羽鳥 由美子) 平成 24 年度セミナー開催の様子 1 新発田 〜農村女性の起業〜 高齢者給食宅配からスタートした 加工起業グループ「しばた旬の会」 企業組合を設立し、さらなる発展を目指す! 倉島 みゆき 新発田農業普及指導センター 「しばた旬の会」企業組合は、平成 22 年4月に くり等の支援とともに、県中小企業団体中央会の 設立された弁当類の製造販売を行う法人です。組 協力を得て、法人化や労務管理、法人会計の習得 合員は女性農業者6名で、主に高齢者向け弁当宅 等を支援しました。 配、地元のコミュニティー活動団体からの注文弁 当の製造・宅配事業等を行っています。 今後の事業の展開 平成 24 年3月からは、月 1 回、新発田市米倉の 旧大庄屋を改築した交流センターで、 一般市民向 今までは、コミュニティービジネスとして高齢 けの「旬の田舎弁当を味わう会」と銘打った食事 者自立支援事業を主体とする活動でしたが、今後 会を開催するなど、新しい企画にチャレンジして はさらに一般市民向け事業の拡大に向けて、名物 います。自らも制作に協力した書籍「しばたのお 商品の開発やイベントによる知名度アップと顧客 かず」の掲載レシピを取り入れるなど、新発田ら 確保を図る計画です。 しさ溢れる内容で、リピーターが多い人気イベン 普及指導センターは、今後も、組合の定款に謳 トとなっています。 われている「組合員の経済的地位の向上」と、農 村地域の課題解決の両立を目指す組合の活動を支 起業のきっかけ 援していきます。 平成 12 年、JA北越後女性部有志が助け合い 組織「ひまわり会」を結成し、市が行う「高齢者 配食サービス事業」の弁当配達にボランティアと して協力したのが、活動の始まりです。 その後、平成 16 年に「ひまわり会」の中から 弁当の製造を検討するグループ「旬の会」が生ま れ、平成 18 年から市の事業であった弁当製造を 業者から引き継ぎ、事業を本格的に始めました。 しばた旬の会の皆さん 法人化 任意組合で行っていた活動を、よりしっかりと 責任を持った事業活動とするため、法人化を検討 した結果、民主性を重視した「企業組合」を選択 しました。 普及指導センターでは、オリジナルレシピの開 発や、お客様ニーズの把握による魅力的な弁当づ 2 自ら生産した野菜や、山菜をふんだんに使ったお弁当 新津 〜農村女性の起業〜 女性の視点を発揮して 直売活動を実践 大西 寿美 新津農業普及指導センター 新潟市秋葉区北潟の国道 403 号線交差点付近に あげられます。珍しい野菜には調理方法などの 農産物直売所「農家の店」があります。元気な従 POP がついており、消費者が買いやすいように 業員のあいさつに迎えられて店内に入ると、商品 工夫がされています。 棚には四季折々の野菜や花とともに加工品や野菜 三つ目は、レストランなどの飲食業との連携で 苗などが並べられています。 す。日頃から飲食業の方々と情報交換を行い、そ この直売所は地元JAの所有ですが、運営は女 のニーズを捉え、西洋野菜やハーブなどを生産し 性農業者のグループに任されています。この 「農 供給・販売しています。 家の店」の代表を務める仲川日出子さんは、秋葉 このように、仲川さん自らが持つアイディアと 区で水稲と野菜を生産し、ほぼ毎日、収穫した農 ネットワークで直売所のメンバーを引っ張り、活 産物を直売所で販売する一方、農村地域生活アド 動を活性化させ、消費者・実需者に喜ばれる直売 バイザーの地区の会長も務めています。 活動を展開しています。 仲川さんはこの 「農家の店」 の代表を平成 19 普及指導センターでは、商品PRや接客マナー 年の開店当初から担っており、その頃から特徴の など販売力の向上に向けた支援を通じ、仲川さん ある店作りを目指し取り組んできました。 に続く起業家を育成していきます。 その特徴の一つに品揃えの豊富さがあげられま す。仲川さんが新品種や珍しい野菜などの情報を 集め、直売所の仲間たちに栽培に取り組むよう声 をかけたり、栽培方法を工夫し早出しに取り組む ことで、一般の食品スーパーにも引けをとらない 充実した売り場となっ ています。 また、5年前から直 売所会員が共同で漬物 の製造販売を開始し、 さらに今年からは笹団 子の製造販売にも取り 組むこととなり、季節 折々の目玉商品として お客様を引きつける味のある手書き POP さらに品揃えが充実す ることになりました。 特徴の二つ目に、農 産 物 の 紹 介 POP や 掲 示板による情報提供が 出荷中の仲川日出子さん 3 糸魚川 〜農村女性の起業〜 地域に潤いを与える 農村女性起業活動 伊藤 和美 糸魚川農業普及指導センター 農村女性の起業活動は、地域に定着してきてお り、農業の担い手としてだけでなく地域活性化に 果たす役割が注目されています。 糸魚川農業普及指導センターでは、このような 起業活動を農村女性の経営参画・社会参画促進の 機会として位置づけ、起業の発展のため、農産加 工技術や販路開拓、新規商品開発などの支援を 行ってきました。 食品加工に欠かせない“衛生管理”について研修 糸魚川市の現状について 工を始めたい人を対象に、食品衛生法や衛生管理 農村女性が経営を担っている起業数は、個人ま の研修を保健所と連携して開催しました。また、 たはグループを併せて 11 経営体あり、個人(法 個別相談では、先進事例の紹介や販売管理方法、 人含む)で7、組織が4経営体となっています。 (普 事業計画の作成方法等について情報を提供してい 及指導センター調べ、平成 25 年5月現在) ます。 業種内容は様々で、漬物、菓子(洋菓子、あ られ等)、そば、もち等の食品加工や直売所運 営、農家レストランがあり、売上は数十万円から 3千万円を超えるものまであります。 地域活性化型女性起業の事例紹介 「JA女性部有志による直売所の開設」 平成 24 年7月、糸魚川市能生谷地域に「JA ひ すい女性部直売所ひまわり」が新たにオープンし 普及指導センターの支援内容 ました。これは、地域住民の憩いの場の提供と、 会員の栽培した野菜を販売したいという思いを実 普及指導センターでは、昨年度、新たに農産加 現したものです。直売所では野菜の他、会員自慢 の手作りこんにゃくやすでに起業している会員の ビ ー ナ ス (特産「越の丸なす」を使っ 商品「美茄子マドレ」 たマドレーヌ菓子)なども販売し、農村女性のネッ トワークを活かした活動となっています。 今後の活動 普及指導センターでは、農家の所得確保や農業 の6次産業化の促進に向け、今後も農村女性起業 女性のネットワークを最大限に活用してオープン 4 の経営発展を支援していきます。 遠藤 由紀夫 三条農業普及指導センター 三条 売り込め吉田本町春きゅうり !! 〜PR大作戦〜 燕市旧吉田町の本町地区の「本町そ菜出荷組合(会 長:瀬戸正秋氏、会員 10 名) 」は今年で創立 40 周年を 迎えます。燕市のきゅうり出荷量は県内市町村では2 番目。特に、地元では「もとまち春キュウリ」の名で 知られ、今年は3月 10 日に初出荷されました。一般 的な春きゅうりの出荷は4月頃なのに対し、同組合の 出荷は県内トップクラスの早さです。しかし、PR不 足のためか、燕でもきゅうりが栽培されているの?と 聞かれることもしばしばです。 そこで 「もとまち春キュ ウリ」の認知度を上げるため、本町のきゅうり栽培者 の若手で組織する「チームこせがれ」のリーダーであ る青年農業士の樋浦幸彦さんが中心となり、PR活動 に力を入れることにし ました。 4 月 17 日 に は き ゅ うりの新しい食べ方を 提案しようと、吉田本 町そ菜出荷組合員とそ の家族 14 名を対象に、 野菜ソムリエの山岸拓 吉田もとまち春キュウリのPRチラシ 小泉 貴広 小千谷食おこし隊の活動 小千谷食おこし隊は、農業と商・工業が連携して行 う「食」の商品開発を通じて、地域に新たな事業分野 を創出することを目的として平成 22 年度に結成され ました。構成員は 33 名(うち農業者は4名)で、小 千谷商工会議所に事務局があります。 これまでにも、 小千谷産魚沼コシヒカリを使った 「ま めたんぽ」や地元特産キクイモを使った「キクイモあ られ」「キクイモチップス」、小千谷のイメージキャ ラクターのよし太 くんをかたどった 「よし太くん焼き」 などを開発し、地 元農産物の活用推 進と併せて小千谷 の知名度アップを きっかけ作り交流会 図っています。 真さんを講師に迎えて料理実習を開催しました。中で もきゅうりを使ったクリームパスタは「新感覚でおい しい」と参加者から大好評でした。 また、燕三条地場産業振興センター内のレストラン 「メッセピア」では、 4月 15 日〜 26 日までの平日、きゅ うりのステーキなど燕市吉田本町産きゅうりを使用し たランチメニュー「デイリーランチ」を提供しました。 さらに、5月 14 日には組合で地元FMラジオ放送 の1時間生放送に出演し、ハート型や星型のきゅうり の栽培方法を紹介しました。 これからは、栽培だけでなく、食べ方や食育活動に も力を入れ、 「もとまち春キュウリ」のファン拡大を 目指します。 普及指導センターで は、栽培技術の指導だ けでなく、今後は、販 売戦略やPR方法につ いても指導・助言をし ていきます。 地元FMラジオ放送への生出演 長岡農業普及指導センター 長岡 こうした取組を進めるために重要なのは、農業者と 商・工業者とのマッチングです。このため、「きっか けづくり交流会」を主催し、商・工業者の結びつきを 推進しています。 平成 24 年度の交流会では成功事例が紹介され、そ の中で農事組合法人農園ビギンの南雲代表からは、市 内飲食店とのネギの直接取引によって販売価格安定・ 出荷調整作業の省力化に結びついた事例の発表があり ました。また当日は、農園ビギンのネギを使ったネギ ピザの試食会等も行われました。 参加した農業者からは、 新たな販路開拓や商品開発、 原料供給体制のマッチング機会が得られ、大変有意義 な商談会だったと好評でした。 普及指導センターは、今後も、オブザーバーとして 小千谷食おこし隊の活動を支援し、地域農業者の6次 産業化を推進します。 5 野本 英司 南魚沼農業普及指導センター 南魚沼 養液土耕システム研究会が発足 南魚沼地域では、水稲育苗ハウスの後利用と、園芸 栽培の検討会を開催し、参集した生産者、JA、普及 導入による収益確保のため、平成 23 年から養液土耕 指導センターで品目や作型、栽培技術、販売先等につ トマトの取組が始まっています。取組規模は、平成 いて打ち合わせを行ったところ、抑制作型により6戸 23 年は1戸3a、平成 24 年は3戸 7.6 aでしたが、平 がミニトマトで市場出荷、1 戸がミディトマトで地元 成 25 年は7戸で約 20 aと拡大の見込みとなりました。 直売所等への販売を計画することとなりました。ミ これまで、普及指導センターやJAから個々の生産者 ディトマト栽培者については、生食の他に乾燥トマト に働きかけたり、群馬県への先進地視察を実施した結 づくりにも取り組む予定です。 果、徐々に栽培者や栽培面積が拡大してきました。 またJA魚沼みなみでも、生産者が増えてきたこと 本年の4月 17 日には、JA魚沼みなみが養液土耕 から、養液土耕システム研究会を発足し、生産者間で の情報交換など連携を強 化していくこととしてい ます。 養液土耕に対する取組 はまだ日が浅いことから、 普及指導センターでは実 証ほを設置して技術実証 を行い、システム研究会 を通じて技術の普及を図 養液土耕トマト栽培の模様 ることとしています。 群馬県へ先進地視察 岸田 涼子 十日町農業普及指導センター えだまめの産地化を目指してがんばっています 十日町 十日町地域では、近年え だまめの栽培面積が拡大し ており、当地域での産地振 興を図るため、十日町農業 振興協議会園芸部会におい て、えだまめ研究会を発足 しました。 会員の栽培面積、品種や 販売先などそれぞれ事情が 6 平成 25 年 1 月 土壌病害研修会の開催 平成 25 年 5 月 直は機械を活用した大規模栽培 異なるため、共通課題である土壌病害対策、センチュ チ栽培と不織布による生育の前進化について実証栽培 ウ対策について勉強会を行い、産地として安定供給に を行っています。 向けた取組をしています。 また、新しい産地であるため地元での認知度が低く、 当地域で最も面積規模が大きい苗場高原生産組合で えだまめの地元消費も少ないため、飲食業と連携した は、センチュウ問題と収量の増加、盆前の過剰供給時 夏場のえだまめフェアの開催や、観光業と農家が連携 の販売対策が課題となっています。 したえだまめもぎとりツアーの企画などにより、知名 それぞれの課題を解決すべく新潟県農業総合研究所 度のアップを図り、地元の産業として盛り上げていき やメーカーと連携を図りながら、対策に取り組んでい たいと考えています。 ます。 普及指導センターでは、今後もえだまめ産地として さらに当地域では豪雪地で雪解けの遅いほ場が多い 振興を図るため、栽培技術の高位安定化や6次産業化 ため、普及指導センターでは早期出荷を目指し、マル の推進を積極的に行っていきます。 田中 文浩 柏崎農業普及指導センター 米品質のV字回復を目指して土づくりの研修を行いました 柏崎 平成 24 年産柏崎・刈羽地域のコシヒカリの1等級 比率は 36%で、前年より 43 ポイント低下しました。 この品質低下の要因の1つに根域不足が指摘されてい ます。そこで、土づくりの取組拡大をとおして高品質 な柏崎・刈羽米を生産することを目的に、春の主要作 業の開始前と秋に研修会を開催することとしました。 第1回目として、4月3日に刈羽村で「土づくり推進 研修会」を行いました。 普及指導センターからは土づくりの必要性や具体的 な実践方法を、JA柏崎からは 24 年冬に行った土壌 分析結果に基づ 深耕の実演:低速運転で作土層を確保 き、地区別に不 タリーやスタブルカルチによる耕耘のポイントを参加 足している成分 者に伝えながら、15㎝以上の深耕を実演しました。 を補う土づくり この研修会で、 「土づくりの目的が理解できた」、 「適 資材の投入や根 切な耕耘により深耕 15cm を確保できることが分かっ 域の拡大につい た」など農業者の理解が深まりました。 て説明しました。 この結果を広く周知するとともに、今年の秋には2 また、JA農機 回目の土づくり研修会を開催し、稲わら秋すき込みの センターはロー 深耕・土づくりの重要性を研修 和田 茂 実演を行う予定です。 上越農業普及指導センター 妙高山麓直売センターとまと、リニューアルオープン! 上越 妙高市坂口新田にある「妙高山麓直売センターとま つり」も開かれ、炭火によるパン焼、竹細工などを楽 と」は、国道 18 号線沿いに位置しており、 雪解けを待っ しむコーナーが設置されるなど、2日間で 1,800 人を て収穫される山菜や、高原トマトをはじめとする旬の 超えるお客さんが訪れ、賑わいました。 野菜、妙高市産の米、加工品等が販売されています。 売り場スペースが拡大したことで、より多くの野菜 月に1回イベントを開催して集客に努めており、地 類の陳列と、ゆったりとした買物ができるようになり、 元客だけでなく、妙高市を訪れる観光客にも広く利用 売り上げ増と集客力アップが期待されます。 されています。 普及指導センターでは、直売センターに隣接する地 周辺農家にとっては所得確保のための大切な直売所 域との連携も深めながら、安全・安心、高品質な農産 であり、普及指導センターでは、農作物の栽培指導等、 物の生産や、地域活性化を支援していきます。 利用農家の支援に携わってきました。 開設から9年目を 迎える今年、店舗の 増改築工事が完了 し、5月3日にはリ ニューアルオープン を記念して、関係者 を招いての式典が開 催されました。 また、翌日にかけ て「妙高ちびっこま 広くなった店内 記念式典オープニングセレモニー 7 加工向けたまねぎ新規導入者に対する 安定栽培技術の習得 佐藤 惠美子 農業大学校(前:長岡農業普及指導センター) 1 課題の背景 ⑴ 県では、稲作農家等の収益の柱づくりに向け園芸導入を進めており、加工向けの野菜の取組にも力 を入れています。中でもたまねぎは、数年前から加工・業務需要が高まっており、また栽培面でも稲 作と作業競合が少なく、JA全農にいがた(以下全農)が専用機械を貸し出すなど機械化も進んでお り、年々作付け面積が増えています。 ⑵ 長岡地域は、全農の提案もあり3年前から栽培が始まりました。機械定植に適した苗作りや、越冬 率の向上による収量増加が課題でしたが、新規導入の稲作農家に対し、機械定植に対応した安定栽培 技術の習得を目指し、実証試験に取り組むこととしました。 2 実証試験に向けた優良事例調査 ⑴ 管内多収ほ場調査 前年度の多収農家の調査で、①育苗時に発芽安定のため遮光資材による昇温対策を行った、②播種、 定植時期を早め越冬前までの生育量が確保できたところは高い越冬率となった、③玉肥大向上のため 干ばつ・雑草対策を徹底したことが確認できました。 ⑵ 先進地事例調査(富山県JAとなみ野) 富山県内では全自動移植機等による大面積栽培が進んでいました。セルトレイ育苗では播種を前進 させ越冬前の根張りを良くし、越冬後の生育を促進することが大切とのことでした。 3 現地実証試験結果 多収ほ場調査と先進地調査を踏まえ、新規に導入する3農家で実証栽培を行いました。加工向けたま ねぎは、直径7㎝以上が出荷規格ですが㎏単価が 45 円前後と安価なため、目標単収を4t以上に設定 しました。3農家ほ場の耕種概要と収量結果は表1となります。 ⑴ 半自動定植機に適したセルトレイ育苗 機械定植に適した苗は、トレイか 表1 実証ほの耕種概要と収量結果 ら根鉢を崩さず抜けることで活着が 促 進 され る 苗 です。288 穴 ト レ イ の置き方や穴の型によって根鉢形成 に差が見られました。地面から離し て台の上に上げて育苗したり穴が丸 型のトレイに比べ、育苗箱に入れ直 に地面に置いたり穴が角型のトレイ は、根鉢形成が遅くトレイから抜け にくい状況でした。 8 ⑵ 半自動定植機の精度と苗質、定植時期 ①機械定植の精度は、砕土のよいほ場では良好でしたが、土 壌水分が高い水田転作地では砕土が悪く、欠株、転び苗が 多い状況でした。 ②ハウス内育苗では、セルトレイ苗は葉が伸びやすく、葉が 倒れてくる場合、定植1週間前までの間に2〜3回葉切り を行います。今回、機械に葉が絡まったため定植の時に 15㎝程度まで短く葉切りを行ったほ場では苗の活着が非 常に悪く、葉切りの長さや行う時期は根張りに大きく影響 することがわかりました。 ③ 10 月に定植したA及びCほ場は、越冬前後とも生育良好 でした。一方 11 月定植で苗を直前に葉切りしたBほ場は、 定植後生育が進まず越冬率も低い状況でした。冬を迎え るまでの生育日数不足と、ダメージを受けた苗の活着不 良により、越冬前に十分根が張れなかったため、翌春の 株の消滅につながったと思われます。 ⑶ 安定栽培に向けた越冬後管理 ほ場の乾燥や雑草は、越冬後の肥料吸収等の妨げになるた め対策が必要です。黒マルチのBほ場は越冬後春の強風で剥 がれ、ビニールのあおりで株の傷みも発生しました。一方4 月上旬に除草剤を散布した後籾殻で被覆したA及びCほ場 は、重粘土の転作ほ場でも、乾燥による表土固結やヒビ、雑 草を抑制し、たまねぎの生育・肥大に効果がありました。 丸形穴 角形穴 図1 丸型穴と角型穴の根鉢形成の違い Aほ場 Bほ場 図2 Aほ場、Bほ場の越冬前生育状況 4 結果とまとめ 単収 4.5 t達成できたAほ場を中心に栽培管理と収量を比 較・検討し、安定栽培に必要なポイントを整理しました。 ⑴ 機械作業に適したほ場作り(細かい砕土)と転作ほ場の排 水対策(高畝、明きょ等) ⑵ セル苗は播種、定植時期を厳守し 50 日で育苗(8月 25 日 〜9月1日までの播種、10 月 15 日〜 25 日までの定植) ⑶ 葉切りは定植1週間前までに終え、定植直前に行う場合は、 20㎝程度にし極端に短く切らない。 ⑷ マルチは使わず、越冬後は除草剤(土壌処理剤)散布後に 畝面を籾殻で被覆 ⑸ 目標とする生育目安は、越冬前の葉鞘径7㎜、収穫時の草 丈 60㎝以上、生葉数7枚以上、葉鞘径2㎝程度と考えられ ます。 図3 A、Bほ場の生育の推移 5 今後の課題 初めてたまねぎ栽培に取り組んだ3農家のうち、2農家が概 ね目標収量を達成しましたが、収益確保に向けた省力化やコス ト低減など今後の課題も見つかりました。手植えとは異なる点 を留意の上、課題の解決により、少雪地域での普及が期待され ます。 図4 半自動定植機による植え付けの様子 (1日10a程度可能) 9 野菜栽培における 土壌分析と適正施肥の重要性 1 全国的に痩せた土が「メタボな土」に変化している 火山灰土を含めた痩せた土壌がいつの間にか養分過剰の「メタボな土」に変わっている例が全国の園 芸産地で認められています。 表1の I 県の例では、火山灰土(黒ボク土)の非常に痩せていた土がハウス栽培による過剰施肥により、 EC(硝酸態窒素の量を推定できる)、リン酸、塩基類のカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)及び カリウム(K)が大幅に上昇して、驚くようなメタボな土に変化しています。 また、表2の T 県の露地スイカ及びニンジンの年間二作ほ場の例では、毎年石灰を施用しているに もかかわらず、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等土壌中の塩基類が減少し、土壌 pH が低く 土壌の酸性化が進んでいます。これは、年間二作の野菜栽培による肥料の多施用で土壌中に生成された 多量の硝酸態窒素が降雨により土壌中のカルシウムやマグネシウム等塩基類を伴いながら下層に流亡し、 塩基類の溶脱量が石灰施用量を上回っていたための土壌酸性化でした。この事例では、下層に流亡した 硝酸態窒素による地下水汚染も懸念されます。 本県においても、現地実証ほや展示ほの土壌分析結果を見ると、収穫後のハウス土壌でリン酸量が 700mg/100g(300mg/100g を超えると過剰害が出る場合がある)前後、塩基飽和度が 170%(土壌が塩 基を吸着できる最大量の 170%)に達している信じられないような土壌があるなど「メタボ化」が進ん でいます。 2 メタボな土が土壌病害を助長している メタボな土壌では、アブラナ科野菜の根こぶ病、ジャガイモそうか病、セルリー萎黄病、スイカのホ モプシス根腐病等の土壌病害が発生しやすくなります。 表3のそうか病の例では、病原菌の生育を抑える土壌中の活性アルミニウムが、施肥したリン酸と結 合して減少したことにより病害が多発生した「メタボな土の弊害」の典型的な例です。 10 3 「土づくり迷信」からの脱却 なぜ、上記のようなメタボな事例が全国的に広がっているのでしょうか ? 主な理由として「土づくり 迷信」があります。野菜農家の方は土壌や肥料に対する関心が強く、堆肥等の施用量も多いため、施肥 量に堆肥からの肥料成分が上乗せされ、ほ場に大量の施肥成分が蓄積します。農家の方は土壌診断結果 よりも「土づくり迷信」を信じている場合が少なくなく、加えて減肥栽培に対する不安感も強いことか ら、JA 等が土壌分析結果を示しても何ら手を打たない農家の方が多くいると思われます。 一方、関係機関のアドバイスにより施肥改善を行い、土壌病害を大幅に減らした上に、収量を減らす 事無く、肥料代を半減することができた事例もあります。皆さんも是非、「土づくり迷信」から「土壌 分析結果に基づいた土づくり」への脱却を図ってください。 土づくり迷信 ①「肥やし」を施せば、施すほど良い作物がたくさん獲れる。 ②「土づくり」の決め手は堆肥だ。 ③野菜づくりには石灰資材を必ず施用する。 ④黒ボク土(火山灰土壌)には、リン酸資材を必ず施用する。 ⑤堆肥は、土づくり資材で肥料では無い。 ⑥完熟堆肥は「土」と同じで、たくさん施すほど土が良くなる。 4 ハウス栽培の減肥方法 養分の過剰蓄積が特に問題となっているハウス土壌において、化学肥料を減肥するには、2つの方法 が考えられます。一つは①肥料そのものの肥効を調節する方法で、もう一つは②装置等を用いて肥料の 添加量を調節する方法です。①の方法としては、肥効調節型肥料の局所施肥や育苗ポット施肥等で 25 ~ 30%の減肥が可能となります。②の方法は、養液土耕等による施肥管理で、リアルタイム診断によ り施肥量を加減します。 なお、本県では平成 24 年度に農業総合研究所園芸研究センターが発表した、施設野菜におけるリン 酸の減肥栽培や露地野菜のさといもの畝内部分施肥による減肥の研究成果が農業総合研究所のホーム ページ(http://www.ari.pref.niigata.jp)において確認できますので参考にしてください。 (表は平成 24 年度野菜茶業課題別検討会「野菜栽培における適正施肥のための技術開発の現状と展望」より抜粋) 【経営普及課 農業革新支援担当(環境保全型農業) 長谷川雅義】 11 ❖JA越後中央 農産物直売所 「越王の里」 新潟市西蒲区 昨秋グランドオープンした「越王の里」 「越王の里(こしわのさと)」農産物直売所は、 お客様に喜んで頂けるよう、季節にあわせてお 消費者と生産者の交流を図りながら、地域活性化 盆花フェアー、おけさ柿フェアー等のイベントも と農業振興を図ることを目的に、JA越後中央が 行っています。是非お立ち寄りください。 開設しています。 直売所は、新潟市西蒲区の県道新潟寺泊線、竹 野町交差点側にあり、長年地域の中核となる直売 所として親しまれてきました。近年手狭となって きたので、平成 24 年9月に床面積をこれまでの 2倍に拡大し、新たな直売所としてグランドオー プンしました。 当地域は、岩室温泉や、越前浜・角田浜海水浴 場にも近いため、年間を通じて多くの観光客や地 域の方が訪れます。 特産果実の越王おけさ柿、いちじく、小玉すい かをはじめ、新鮮な野菜、地元の食材をふんだん 年間を通じて加工品を揃えています に活用した農産加工品などを豊富に取り揃えてい ます。 現在の出荷者は約 160 名。栽培や加工、販売 について研究しながら、工夫をこらした商品を出 荷しています。 これからの季節のオススメ商品は、果物ではす いか、ぶどう、もも。野菜ではスイートコーン、 えだまめ、トマト、なすが本番を向かえます。また、 漬物等の加工品も多種多様に取り揃えています。 12 ◆営業期間 通年営業 ◆営業時間 10:00〜15:00 (12月〜9月 ) 10:00〜16:00 (10月 〜11月 ) ◆住所 新潟市西蒲区竹野町 2435−1 ◆問い合わせ電話番号 0256−72−2332 と る く つ く たのし ! る な く し おい 佐藤 淳 村上農業普及指導センター 村上市の農業生産法人㈲神林カントリー農園の 期待の担い手3名を紹介します。 まずは、最も長く勤務している高橋俊之さん (30)です。高橋さんは最初、アルバイトとして 入社しましたが、次第に農業の奥深さに魅入られ、 一生の仕事にしようと決意しました。その後、正 社員となり、昨年からは、もち加工の工場長とし て重責を担っています。また、施設野菜の責任 者として、主にトマト、きゅうりの栽培に力を入 れています。昨年は普及指導センターと共に栽培 トマトの誘引管理 にいそしむ皆さん 管理技術の向上を図った結果、初めて目標に近い 収量を上げることができました。しかし、現状に センスや労務管理、接客技術を農業に活かしたい 満足せず、自ら作成した収支計画を社長に提出し、 と考え、地元に就職しました。米の生産を主に担っ 今年度はさらにハウス2棟で新規に作付けを始め ている他、営業として全国の百貨店を飛び回り忙 ました。「今後はさらなる品目拡大を図っていき しい毎日を送っています。将来の目標を尋ねると、 たい」と力強く語ってくれました。 「アップル社に負けないくらい創造的な会社にし 忠日郷さん(33)は若者向けのアパレルショッ ていきたい」と大きな夢を語ってくれました。 プの店長を務めていましたが、そこで培った経営 近藤豪哉さん(30)は以前土木関係の仕事に 従事していましたが、かねてより興味があった農 業へ転職しました。前職で培った技術を活かし、 ハウスの修繕や施工時に力を発揮しています。 「農 業は難しいが、楽しくて仕方ない。今後は稲作に 精通するとともに、もち加工や施設野菜の技術も 習得し、会社を引っ張っていくような人材になり たい」と笑顔で語ってくれました。 彼らは社是である「たのしくつくるとおいしく なる!」を体現するような楽しい農業を実践して います。常に前向きな彼らは当法人だけではなく、 地域農業の牽引役として今後の活躍が大いに期待 左より近藤さん、忠さん、高橋さん されます。 13 最近思うこと 糸魚川農村地域生活アドバイザー連絡会 米とカキの養殖の二本立て 佐渡指導農業士 会長 藤田 けい子(糸魚川市) 会長 伊藤 敏明(佐渡市) 5月の連休、農作業の合間を縫って、夫 新潟県農業教育センターを卒業して早 40 と一緒に山菜採りに行った。いつ頃作られた 数年。親爺の跡を継ぎ、水稲と加茂湖での か、急峻な山奥に入っても農業用水路が引 カキの養殖を行っています。 かれ、田を潤していた。一方、かつては田で 農業を嫌って他産業へ行った人もいたけれ あった所々が主を失い、荒れ果てたところも ど、俺は自由と自然を相手に人に優しい米作 多かった。今ほど農業機械も無い中で、こ りを行っています。 んな高い所で田んぼを作ってきた先人の思い 佐渡でも高齢化が進み、作り手のいなく はどんなだったろう。 なった田を預かり、作業委託を含めて約 7 ヘ 5月中旬、補植をしながら山脈を見上げる クタール作付けています。美味しく安全・安 と、雲一つ無い青空の下、焼山、火打など 心をモットーに栽培していることから、口コミ の残雪が、近くの山々の新緑に映え、うっと で評価が広がり消費者への直接販売も行っ りとする光景だった。—この当たり前の風景 ています。 をいつまでも残したい—と強く感じた。 2 年前に自分の田んぼに 2009 年生まれ TPP 協定では、すべての関税を原則撤 の朱鷺(第5回放鳥の雄)が餌を取りに来ま 廃するという。広大な農地が続く他国と、海 した。それから多いときには11 羽が飛来し、 からすぐに何mもの落差のある土地の日本が、 ドジョウやザリガニを食べており、自分の 同じ土俵で競えと言うことか。それぞれの国 やってきた米作りが朱鷺に認められた思いで の構えも、自然条件も、地代、機械代、人 す。 件費なども違うのに。日本人の胃袋を、他国 カキの養殖では、ヘテロカプサというカ に任せていいのだろうか。 キに害を与えるプランクトンが大発生して大変 私は、身近な人たちと力を合わせて、学 な時期もありましたが、近年はヘテロカプサ 校給食や産直市など、地産地消活動をやっ の害もなくなって、まずまずの収獲量を得るこ ていきたい。 “国破れて山河なし”ということ とができるようになりました。 にならなければよいが。最近思うことです。 これからも体が許す限り、妻と 2 人で米と カキの養殖に励みたいと思います。 14 済 済 済 済 済 済 【研修の詳細についての照会先】 新潟県農業大学校研修センター 新しくオープンした直売所の前で 〒953-0041 新潟市西蒲区巻甲12021 TEL 0256-72-8547 FAX 0256-73-3001 E-mail [email protected] http://www.pref.niigata.lg.jp/nogyodai/1213895134083.html 株式会社曽我農園は平成 24 年、新潟市北区に設立された法人 です。これまでは家族経営で法人格はありませんでしたが、規模 の拡大に伴い、後継者の曽我新一さんが法人化に踏み切りました。 曽我農園の一番の売りは、野菜ソムリエサミット食味部門・購入 部門でダブルで大賞となった「金筋トマト」です。大人気で手狭 になっていた直売所も広い駐車場を完備した場所へ移転し、平成 25 年3月新たにオープンしました。今後、益々の経営発展が期 待されます。
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