技術資料 道路護岸における波の打ち上げ特性と通行障害に関する検討 克俊* 木村 藤池 貴史** 上久保勝美*** 安倍 1.は じ め に 隆二**** 石本 敬志***** 2.現地の状況 臨海部の道路において自動車の安全な通行を確保す 現地観測は国道 336 号のなかでも、とくに越波が顕 るためには、越波による影響を抑えるために適切な護 著な日高管内えりも町字目黒の荒磯海岸において実施 岸を設置する必要がある。しかしながら、既設の道路 した。 護岸の場合には、種々の制約により護岸改良が行えな い場合が少なくない。こうした個所においては、高波 時に現地の越波状況を把握した上で、通行止め等の処 置が講じられている。 図−1に現地の平面地形を示す。護岸前面はほぼ平 行等深海岸で、海底勾配はおよそ 1/100 である。 図−2に観測対象とした直立護岸の断面形状を示 す。法面勾配が 1:0.4 で、上部にはパラペットが設 臨海道路における越波による通行障害に関しては、 1) 宇多ら が国道 8 号線の糸魚川海岸および東名高速道 置されており、高潮位(H.W.L.+1.8m)で法先水 深は 0.5mとなる。 路の由比海岸における事例を報告しており、全国的に みてもこうした問題を抱える区間が少なくない。北海 道においても、日高管内の国道 336 号、通称「黄金道 路」は越波の多発地帯であり、高波時には写真−1に 示すような越波が発生している。この区間を管理する 室蘭開発建設部浦河道路維持事業所では定期的なパト ロールに加えて、千葉ら 2)が開発した越波監視システ ムにより現地の状況を把握している。 本研究は、こうした越波現象が通行車両に及ぼす影 響を分析するとともに、その予測手法を確立すること を目的としている。 本資料では、水理模型実験によって現地における波 の打ち上げ特性を再現するとともに、高波時の交通障 害の実態について分析まで行なったものを報告する。 開発土木研究所月報 №541 1998 年 6 月 60 3.波の打ち上げ特性に関する水理模型実験 打ち上げ高さが大きいのは、汀線近傍における水位上 (1) 実験の方法 昇の影響を受けるためと考えられる。また、RW1/3 を 水理模型実験はすべて開発土木研究所港湾実験棟の h/H0′とH0′/L0 を用い定式化した。 大型造波水路(長さ85m、幅1.6m、高さ3.Om)にお いて実施した。実験模型は前出図−2 に示した直立護 岸を縮尺 1/10 で再現した。ただし護岸形状は単純な 直立壁とし波返し工は省略した。また護岸前面の海底 勾配は 1/30 とした。 ここで、H0′:換算沖波波高 h 写真−2 は実験における波の打ち上げ状況を示して いる。目視観察により実質部分に相当する水塊と、こ :法先水深 L0 :波長(1.56×T02) なお、式(1)の適用範囲は h/H0′=0∼0.4 とする。 れよりも小さな飛沫に区別した。ここでは両者の静水 面からの打ち上げ高さを読み取り、水塊の場合を Rw、飛沫の場合をRsと定義した。 図−4 は越波水塊の頻度分布を示している。横軸は R W を R W1/3 で無次元化し、縦軸は相対度数 P を示し ている。また最高値RWmax および 1/10 最大値RW1/10 水塊部分に着目した打ち上げ実験はすべて不規則波 は、実験結果よりそれぞれRW1/3 の 2.2 倍、1.4 倍で (1 波群 150 波)で行い、護岸の法先水深 h を 0∼4 あった。たとえば、 R W1/3 が 5mとすると、 R Wmax cm、波の周期T1/3 を 2.00∼3.79s、換算沖波波高H0′ は 11m、RW1/10 は 7mとなる。 を 7.0∼31.Ocm に変化させた。水塊の打ち上げ状況 はビデオカメラで撮影し、これを用いて静水面からの 高さを一波ごとに読み取り、打ち上げ高さの有義波諸 元に相当する打ち上げ高さRw1/3 を求めた。 一方飛沫部分に関しては、観測自体が難しいため規 則波を用いた。ビデオカメラにより飛沫と水塊の打ち 上げ高さを求め両者の比を求めた。実験範囲は前面水 深 h を 0∼12cm、波の周期Tを 2.00∼3.79s、換算 沖波波高H0′は 7∼31cm で変化させた。 (2) 越波水塊の打ち上げ特性 図−3 は波形勾配H0′/L0 をパラメーターとして、 R W1/3 を H 0 ′で無次元化した R W1/3 を H 0 ′と水深波高比 h/ H 0 ′の関係を示している。 R W1/3/ H 0 ′は h/ H 0 ′とと もに増大する傾向がある。またH0′/L0 が小さいほど 開発土木研究所月報 №541 1998 年 6 月 61 的大きな模型を用いたけれども、飛沫の打ち上げ高さ (3) 越波飛沫の打ち上げ特性 図−5は規則波実験で得られた飛沫と水塊の打ち上 げ高さ比RS/RW(=k)を示している。実験結果には に縮尺効果が現れており、こうした検討には現地デー タとの比較が必要である。 ばらつきが大きいが、波形勾配H0′/L0 の影響は小さ く、実験範囲内の平均値をとるとkは 1.5 程度、上限 値をとるとkは 2.0 程度であることがわかる。 (2) 通行障害事例の分析 越波水塊の落下によって普通乗用車のフロントガラ スが破損したケースについて検討した。 4.現地における波の打ち上げ特性と通行障害 図−7は当日の波高、周期、法先水深と、護岸天端 上の水塊の打ち上げ高さ R W* および越波流量 q の計 (1) 越波飛沫の打ち上げ特性 現地においては1995年1月から現在に至るまで、越 算値を示している。自動車に被害が発生した16時55分 波画像の取得が継続されている。このうち現地観測 ごろは潮位が高く、また H0′も増大している。 RW*1/3 データの解析を行なったのは表−1に示す5回であ は、護岸天端を越えることはないが、RW* max では6.O る。前出の写真−1に示した越波状況は1997年9月19 m程度と推定される。 日15時56分21秒に得られたもので、当日の15時から16 一般に自動車の安全な通行を確保するためには、護 時の間に取得された越波画像の中で最大規模のもので 岸の越波流量を10 -4m3/m/s以下に設定することが基 あった。該当する時刻の波浪諸元は波高 H 0 ′=3.4 準値である(たとえば合田 4 ) )。しかしながら、この m、周期 T =11.2s、法先水深hは0.4mとなった。 時の越波流量は10 -5m3/m/sのオーダーであり、基準 こうした越波飛沫をとらえた画像に対して、遠近補正 値を下回っているが、通行障害が発生している。 等の処理を行ってパラペットからの打ち上げ高さを求 (3) 道路の供用限界の指標について め、さらにこれを静水面からの高さに換算した。 越波による水塊や飛沫の飛散が自動車走行の安全性 現地で得られた5例を図−6中に×印でプロットし に及ぼす影響を検討した事例は少なく、高波が発生し た。係数k=2.5の曲線が現地データのほぼ上限を示 た場合には道路管理者が経験に基いて通行規制等を している。これに対し、先に示した実験結果は現地 行っているのが現状である。また、越波流量の小さな 3) データに比べて小さな値となっている。石田ら は縮 条件に対しては、実験精度や越波現象の変動のため推 尺1/30の模型実験を行い、構造物に波面が衝突した際 定値の信頼度が低下することが知られている。 に発生する飛沫にはフルード則が適用できないことを 本資料で提示した波の打ち上げ高さのうち、水塊は 明らかにしている。今回は実験縮尺1/10であり、比較 通行車両に直接的被害を与える指標であり、推定精度 を上げると通行止めの判断基準に、また飛沫は運転者 の一時的な視界障害や他車線への回避といった間接的 な影響を示す指標となりうる。一連の研究結果は道路 の維持のほか道路利用者への情報提供など多様に活用 できる可能性がある。 開発土木研究所月報 №541 1998 年 6 月 62 化した。飛沫のような小規模な現象に対しては、縮尺 1/10 の模型実験では現地よりも小さな値が得られた。 ③通行障害事例を分析した結果、越波流量が 10-5m3/ m/s の場合に、護岸天端からの水塊の最大打ち上げ 高さ RW* max が 6.Om程度でフロントガラスの破損が 発生したことが確認された。 本資料は直立護岸を対象としたものであり、消波護 岸に対しては別途検討する必要がある。 現地における越波データの取得に当っては、浦河道 路維持事業所の協力を得た。またデータ解析に当って は(財)日本気象協会北海道支部の西村修一氏、ならびに ㈲スタジオムーンの堀川和典氏の協力を得た。 さらに現地の海象データとしては、十勝港湾建設事 業所によって大津沖で取得された波浪データ、および 浦河港湾建設事務所によって庶野漁港で取得された潮 位データを使用させていただいた。ここに記して関係 各位に謝意を表する次第である。 参考文献 1)宇 多 高 明:現 場 の た め の 海 岸 Q & A 選 集 、全 国 海 岸 協 会 、 1994 年 、 236p. 5.まとめ 道路護岸における波の打ち上げ特性を明らかにする とともに、高波時の通行車両への障害と海象条件の関 係を分析した。主要な結論は以下のとおりである。 ①直立護岸を対象として行った越波実験結果に基づい て、水塊の打ち上げ高さの 1/3 最大値RW*1/3 を換算沖 波波高H0′と法先水深 h の関数として定式化した。 2)千 葉 隆 広・石 本 敬 志・加 治 屋 安 彦 :画 像 処 理 に よ る 越 波 監 視 シ ス テ ム の 開 発 に つ い て 、 開 発 土 木 研 究 所 月 報 No. 513、 1996 年 2 月 . 3)石 田 昭・花 田 昌 彦・細 井 正 延 :飛 沫 の 発 生 機 構 に 関 す る 実 験 的 研 究 、 第 29 回 海 岸 工 学 講 演 会 論 文 集 、 pp.385∼ 388、 1982 年 11 月 . 4)合 田 良 實 :港 湾 構 造 物 の 耐 波 設 計 (増 補 改 定 版 )、 鹿 島 出 版 会 、 333p、 1990 年 ②現地観測結果に基づいて飛沫の打ち上げ高さを定式 開発土木研究所月報 №541 1998 年 6 月 63
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