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レジメ9
テーマ
地球温暖化問題のコントロール手法
時限
5 限(16:40~18:10)
科目
担当教官
ページ数
日付
くわなきんぞう
3
2012 年 7 月 2 日
環境経済学
桑名謹三
1. ボーモル・オーツ税(環境税)
①企業が排出する温室効果ガスの排出量に定率で課税する手法。
②温室効果ガスの排出に伴い税を負担しなければならなくなるので企業の生産コス
トが増加してしまう。
③したがって,ボーモル・オーツ税は,企業に温室効果ガスの排出量を減らすイン
センティブを与える。
④しかしながら,温室効果ガスの排出量を減らすにもコスト(削減費用)がかかる。
⑤そこで,企業は,税負担と削減費用の和を最小化しようとする。
⑥税負担と削減費用の和を最小化したとき,税率と限界削減費用が等しくなる。
⑦ボーモル=オーツ税によって,社会全体の温室効果ガスの削減費用が最小化される。
⑧政策目標の温室効果ガスの削減量を達成するための税率は不明であるため,実際
の政策においては,試行錯誤的に税率を変化させて,削減目標を達成することと
なる。
⑨ボーモル・オーツ税は,ピグー税のように社会的厚生を最大化することを目的と
したものではない。つまり,ボーモル・オーツ税は,外部不経済の費用(環境汚
染による被害額)が算出できないことを前提として,汚染物質(地球温暖化問題
の場合は温室効果ガス)の削減コストの最小化を政策目標としたものである。
⑩ピグー税からボーモル・オーツ税への政策の転換には,政策が目標とする経済効
率性の大きな転換があったということである。
⑪ボーモル・オーツ税は,グランドファザリング方式の排出権取引に比べて企業の
負担が大きくなる。
⑫また,税制としては,所得レベルが低い人たちの相対的負担が,所得レベルが高
い人たちの相対的負担に比べて大きくなるという逆進性を有する。
⑬温室効果ガス削減のための政策としては問題ないが,SO2 などの短期的に毒性を発
生する汚染物質を削減するためにボーモル=オーツ税を実施すると,汚染物質の濃
度が高いホットスポットが生じる。
2. 排出権取引(排出量取引)
① 企業に温室効果ガスの排出権を与えて,その排出権の売買ができるようにする。
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② そうすると,より安い費用で温室効果ガスを削減できる企業は多めに排出量を削
減し排出権を売り,逆に高い費用で温室効果ガスを削減する企業は,排出権を購
入することとなる。
③ つまり,温室効果ガスの排出量削減について効率的な企業間の分業が達成できる。
④ 温室効果ガスの排出権の取引市場で,排出権の価格が決定される。
⑤ 企業は,温室効果ガスの排出権の購入額と温室効果ガスの削減費用の和を最小化
しようとする。なお,温室効果ガスの排出権を販売する場合は,負の購入額がか
かるとみなす。
⑥ その結果,各企業の限界削減費用が排出権の価格に等しくなる。
⑦ つまり,ボーモル・オーツ税と同じ効果を有する。⇒社会全体の温室効果ガスの
削減費用が最小化される。
⑧ 排出権価格がいくらになるのかを政府は予想できない。
⑨ 社会全体の温室効果ガスの排出量の削減量は,政府が決定することができる。
⑩ 温室果ガス削減のための政策としては問題ないが,SO2 などの短期的に毒性を発
生する汚染物質を削減するために排出権取引を実施すると,汚染物質の濃度が高
いホットスポットが生じる。
⑪ 排出権の企業への配分方法には,ア)オークション方式,イ)グランドファザリ
ング方式がある。
⑫ オークション方式は,政府が企業に排出権を販売する方式であり,企業の負担は,
ボーモル・オーツ税と同様に大きくなる。
⑬ また,ボーモル・オーツ税と同様に逆進性を有する。
⑭ グランドファザリング方式は,政府が無料で排出権を企業に配分する方式である。
⑮ この場合,企業の負担は,オークション方式の排出権取引・ボーモル=オーツ税よ
りも小さくなる。
⑯ 逆進性を有するものの,その程度は,オークション方式の排出権取引・ボーモル=
オーツ税よりも小さくなる。
⑰ ただし,どの産業にどの程度の排出権を割り当てるべきかについての基準がない
ことから,政策を実施する段階で,産業間で利害の対立が生じる。
⑱ つまり,グランドファザリング方式の排出権取引は,企業の負担が小さいという
メリットがあるものの,政治的に実施するのが難しい。
3. 現実の政策
① 日本においては,公健法に基づいて,大気汚染の被害者救済のための原資とする
べく,企業が排出する SO2 を対象とした課徴金が企業に課せられていた。
これは,
ボーモル=オーツ税に相当するものであるが,現時点は,企業の SO2 排出量が激
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減しており,ボーモル=オーツ税的効果はない。
② ボーモル=オーツ税は,EU のいくつかの国で実施されているが,汚染物質の排出
量の削減コストを最小化することを目的とした,純粋のボーモル=オーツ税を実施
しているところはない。
③ 企業の負担が大きくなるため,排出権取引とポリシーミックスされていたり,税
源確保のための税であって企業に汚染物質の削減インセンティブを与えるような
税率が採用されなかったりしているのが現状である。
④ 日本でも,温暖化対策のボーモル=オーツ税(炭素税)の導入が一時期検討された
が実施されていない。
⑤ グランドファザリング方式の排出権取引については,米国で SO2 の排出権取引が
実施されたのが最初である。
⑥ 現在では,EU において,温室効果ガス削減のためにグランドファザリング方式
の排出権取引が導入されている。
⑦ 日本でも,温室効果ガス削減のためのグランドファザリング方式の排出権取引の
導入が検討されている。
4. 本日の授業のポイント
ボーモル=オーツ税や排出権取引が提唱される前の,新古典派が主張するメインの環境
政策はピグー税であった。ピグー税は,ア)社会的厚生の最大化,イ)外部不経済の費
用(環境汚染による被害額)の削減費用の最小化というメリット(経済効率性)を持っ
ていた。しかしながら,外部不経済の費用(環境汚染による被害額)を測定する手法が
ない(特に地球温暖化問題においては,その被害額を測定することは不可能である)と
いう現実がピグー税実施のための障壁となっていた。そこで,その現実を前提として,
ピグー税とは別の経済効率性を実現するための政策として,新古典派が提唱したのが,
ボーモル=オーツ税・排出権取引である。
ボーモル=オーツ税・排出権取引では,社会全体の汚染物質の排出量の削減コストが最
小化される。これは,経済効率性に関する発想の大きな転換があったことを意味する。
実際の政策に目を向ければ,海外においては,温暖化対策としてボーモル=オーツ税・
排出権取引が実施されているものの,日本においては政治的問題から実施されていない。
なお,温暖化対策としてのボーモル=オーツ税・排出権取引は,所得レベルの低い人た
ちにとって負担が大きくなる逆進性を有することから,それの対策を講じたうえで,実
施すべきであろう。
以上
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