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慢性痛治療薬の最近の話題
トラマドール塩酸塩 /
アセトアミノフェン配合錠
(トラムセット 配合錠)
®
Tramadol Hydrochloride/Acetaminophen
Combination(( TRAMCET Combination Tablets))
®
獨協医科大学麻酔科学教室
山口重樹 Ⅰ)
北島敏光 Ⅱ)
トラマドール塩酸塩 / アセトアミノフェン配合錠(TA 錠)は,1 錠中に非オピオイド鎮痛薬で
あるアセトアミノフェン 325mg とオピオイド鎮痛薬であるトラマドール塩酸塩 37.5mg を含有す
る合剤である.本邦においては,トラマドールが医療用麻薬の指定を受けていないため,TA 錠も
医療用麻薬指定ならびに向精神薬の指定を受けないオピオイド鎮痛薬である.また,TA 錠は他
のオピオイド製剤と比べて多彩な薬理作用(オピオイド,三環系抗うつ薬,アセトアミノフェン)
を有するため,本邦では各種慢性痛に広く使用されていくと考えられる.一方,TA 錠にも副作
用の多様性,投与量の上限など多くの注意点があり,添付文書に記載された効能・効果,用量・
用法,注意点を遵守した適正使用が望まれる.
はじめに
ル塩酸塩 / アセトアミノフェン配合錠(TA 錠)の臨床
使用開始によって,今後,多くの慢性痛患者が救われる
ものと考えられる.
近年,様々なオピオイド製剤が本邦において認可され
TA 錠は,1 錠中に非オピオイド鎮痛薬であるアセトア
ている 1).そして,がん性痛のみならず非がん性の慢性
ミノフェン 325mg とオピオイド鎮痛薬であるトラマドー
痛に使用できるオピオイド製剤も増え,痛みを訴える多
ル塩酸塩 37.5mg を含有する合剤である.両者の作用機
くの患者が救われている.今,本邦はオピオイド鎮痛薬
序や薬物動態が異なることから,相加効果を目的に配合
の夜明けを迎えているといってもよい.特に,トラマドー
された製剤である 1).また,両者とも長期処方に適した
獨協医科大学麻酔科学教室
Ⅰ)Shigeki Yamaguchi 教授
那須赤十字病院
Ⅱ)Toshimitsu Kitajima 院長
Tramadol Hydrochloride/Acetaminophen Combination ( TRAMCET ® Combination Tablets)
薬物であるため,多くの国や地域で TA 錠は慢性痛のオ
ンコーワ® 注 1 号,現トラマール® 注)が臨床使用開始
ピオイド治療の選択肢の 1 つとして重宝されている.すで
されたものの,経口製剤の開発が遅れてしまい,トラマ
にアジアでは韓国を中心に処方量が着実に増えている.
ドールは忘れられていたオピオイド鎮痛薬になっていた.
しかし,TA錠もオピオイド鎮痛薬であることに変わり
そして,ドイツでの経口剤の臨床使用開始から遅れる
ない.オピオイド鎮痛薬は患者の痛みを緩和することで
こと三十数年,2010 年に本邦においてもトラマドールの
生活の質を改善するが,使い方を誤ると患者を容易に害
経口剤が承認され(2012 年現在,適応はがん疼痛のみ)
,
してしまう 2).特に,TA 錠は薬理学的特性,製剤の特殊
がん疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の有用な選択肢の
性など,従来のオピオイド鎮痛薬と異なることが多く,
1 つとなっている.
処方医はそれらの特性を正確に理解しなければならない.
トラマドールの特徴は,他のオピオイド鎮痛薬と異な
本稿では,TA 錠の有効性のみならず安全性,問題点,
る薬理作用を有することである 1).トラマドールの化学
構造式はモノアミン骨格とオピオイド骨格からなり,ト
使用方法について述べる.
ラマドールそのものの薬理作用はノルアドレナリン,セ
ロトニンの再取り込み阻害作用を発揮するものが多く,
トラマドールについて
トラマドールについて
オピオイド受容体に強い親和性を有するものは主たる代
謝産物のモノ-O - 脱メチル体(M1)である(図 1 ).
トラマドールは 1962 年に合成されてからすでに 50 年
したがって,トラマドールの薬理学的作用は三環系抗
が経過し,古き良きオピオイド鎮痛薬であり,多くの国
うつ薬に類似した作用とオピオイドとしての作用を併せ
や地域で様々な痛みに対して広く使用されている.しか
持ち,侵害受容性痛や神経障害性痛など幅広い痛みに有
し,本邦では 1978 年にトラマドール注射液(旧クリスピ
効な可能性がある.
μ受容体結合能が高い
H3C
N
CH3
トラマドール
H3C
CH3
H
OH
OH
M1
NH2
H
NH
H
H3C
NH
H
OH
NH2
H
OH
OH
M5
M2
OCH3
OCH3
OH
OH
N
H
OH
H3C
ノルアドレナリン・セロトニン
取り込み阻害作用が強い
OCH3
OH
M3
M4
図 1 トラマドールの代謝過程
一方,トラマドールはそれらの薬理学的作用を併せ持
節リウマチ,帯状疱疹後神経痛,糖尿病性神経障害性痛)
つため,副作用や問題点を考慮して処方しなければなら
において長期( 1 年間)にわたる有効性が示されている 4).
ない.また,トラマドールには後述するセロトニン症候
同時に行われた試験では,TA 錠の単回投与において下
群という重篤な副作用の発現を予防するために,投与量
顎埋伏智歯抜歯術の術後痛が有意に軽減され,急性痛に
の上限(75 歳未満:400mg/ 日,75 歳以上:300mg/ 日)
対する有効性も示されている.また,海外では,整形外
が設定されている.
科領域の術後痛 5),線維筋痛症 6),化学療法後の末梢神
経障害 7)などの疾患における有効性も示されている.
アセトアミノフェンついて
アセトアミノフェンついて
効能・効果について
効能・効果について
アセトアミノフェンは古くから小児解熱鎮痛薬として
使用され,アスピリンと同等の鎮痛,解熱作用を有し,
添付文書上の効能・効果は「非オピオイド鎮痛剤で治
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と比較して優れた
療困難な非がん性慢性疼痛,抜歯後の疼痛における鎮痛」
薬剤プロファイルを持っているため ,海外では非オピ
であり,がん疼痛に適応がない.一方,トラマドール単
オイド鎮痛薬の第一選択薬として広く使用されている.
剤(トラマール ® カプセル)の効能・効果は「軽度から中
本邦では,アセトアミノフェンの解熱作用への評価は高
等度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」となっており,
いが,優れた鎮痛効果を認識する医療者は非常に少なく,
非がん性慢性疼痛に適応がない.したがって,現時点で
アセトアミノフェンの鎮痛薬として恩恵を受ける患者は
は,両剤の臨床使用に際しては使い分ける必要がある.
少なかった.その原因は,本邦における用量の設定が極
また,「慢性疼痛患者においては,その原因となる器
端に少なかったからである.しかし,2011年 1 月に最大
質的病変,心理的・社会的要因,依存リスクを含めた包
用量が国際標準( 1 回 1,000mg,1 日 4,000mg)に改定
括的な診断を行い,本剤の投与の適否を慎重に判断する
され,アセトアミノフェンの鎮痛薬としての期待が高ま
こと」という記載があり,オピオイド鎮痛薬としての認
りつつある.
識の下に使用することが義務づけられている.
3)
特に,アセトアミノフェンには NSAIDs のような末梢
性のシクロオキシゲナーゼ阻害作用がほとんどなく,胃
粘膜障害,腎機能障害,血小板凝集抑制などの副作用の
用量・用法について
用量用法について
出現がまれであり,高齢者,抗凝固療法中の患者,長期
間にわたって鎮痛薬の投与が必要な患者等において有用
性が高い.
添付文書上の用量・用法は,非がん性慢性疼痛に際し
ては「通常,成人には,1 回 1 錠,1 日 4 回経口投与す
一方,アセトアミノフェンは規定用量を超えると肝機
る.投与間隔は 4 時間以上空けること.なお,症状に応
能障害(10,000mg/日以上では重症肝障害)の危険性が
じて適宜増減するが,1 回 2 錠,1 日 8 錠を超えて投与
あり,厳密な投与量の管理(4,000 mg/日を超えない),
しないこと.また,空腹時の投与は避けることが望まし
定期的な肝逸脱酵素(ALT,AST 等)の検査などが必
い」,抜歯後の疼痛では「通常,成人には,1 回 2 錠を
要となる.
経口投与する.なお,追加投与する場合には,投与間隔
を 4 時間以上空け,1 回 2 錠,1 日 8 錠を超えて投与し
有効性について
有効性について
ないこと.また,空腹時の投与は避けることが望ましい」
と記載されている.
ただし,これはあくまでも添付文書上の規約であって,
TA 錠の有効性は侵害受容性痛,神経障害性痛ともに
TA 錠の投与開始にあたっては,少量から始め,副作用
示されている.本邦での臨床試験において,NSAIDs が
に忍容できる範囲内で漸増することが望ましい.TA 錠
無効であった各種疼痛疾患(腰痛症,変形性関節症,関
の投与が考慮される患者では,それまでにオピオイド鎮
Tramadol Hydrochloride/Acetaminophen Combination ( TRAMCET ® Combination Tablets)
痛薬を使用したことがない場合が多く,医療安全あるい
また,TA 錠はトラマドールとアセトアミノフェンを
は患者の薬物への印象などを考慮して,慎重に投与開始
配合することにより,単独投与と比較して各々の投与量
することが望ましい.
を減じることができた結果,副作用の発現率が有意に低
く抑えられたとの報告もある 8).
国内外でのトラマドールの副作用および発現頻度を
配合錠の問題点について
配合錠の問題点について
表 2 に示すが,オピオイドとしての嘔気・嘔吐,便秘,眠
気など,三環系抗うつ薬に類似したものとして口渇,眩暈
本剤は両者の合剤であり,処方量は錠数で数えられる
などの発生頻度が比較的高いことが報告されている9 〜 11).
ため,トラマドールおよびアセトアミノフェンの 1 日の
したがって,トラマドールの処方開始にあたっては,副
総投与量が判り難くなってしまう.TA 錠の処方錠数と
作用の予防対策としての制吐薬,緩下薬の併用や,少量
各々の薬物成分の総投与量を表 1 に示すが,最高用量の
からの投与開始などが考慮されるべきである.
8 錠ではトラマドール塩酸塩が 300 mg/日,アセトアミ
アセトアミノフェンによる肝機能障害は多くは重篤で
ノフェンが 2,600mg/日に達する.TA 錠では,常に総投
はなく,投与中止によって容易に改善される.また,定
与量を把握しながら処方することが重要で,添付文書上
期的な採血検査によって容易に発見できる.
の投与量の上限は様々な薬害から患者を守るために厳守
されなければならない.
規制を受けないオピオイドについて
規制を受けないオピオイドについて
副作用について
副作用について
他のオピオイド鎮痛薬と異なり,TA 錠は第 2 種向精
神薬や医療用麻薬といった規制が存在しない.そのた
前述したが,TA 錠は独特の薬理学的そして製剤的特
め,容易に処方できる反面,不必要な処方による氾濫の
徴を有するため,処方医が念頭におかなければならない
危険性もある.TA 錠に配合されるトラマドールの代謝
副作用は他のオピオイド鎮痛薬とは少し異なる.簡単に
産物 M1(図 1 )は,比較的強いμ受容体への親和性を
述べれば,TA 錠ではオピオイド,三環系抗うつ薬,ア
有し,他のオピオイド鎮痛薬との換算比も知られている
セトアミノフェンの 3 つの薬理学的副作用を考慮しな
ければならない.
表 1 トラマドール塩酸塩 / アセトアミノフェン配合剤
(トラムセット®)のトラマドール塩酸塩とアセトア
ミノフェンの含有量
表 2 トラマドール塩酸塩の副作用と発現率
(文献 9 ∼11より引用・改変)
対象疾患
腰痛,関節症
筋骨格系疾患
がん性痛
副作用全般
71 %
―
67.8%
トラムセット®
トラマドール塩酸塩
(mg)
アセトアミノフェン
(mg)
眠 気
17%
2.4%
18.7%
眩 暈
15%
4.6%
8.6%
1錠
37.5
325
便 秘
11%
0.3%
30.0%
2錠
75
650
嘔 気
17%
6.1%
29.2%
嘔 吐
7%
1.7%
19.5%
下 痢
6%
―
―
3錠
112.5
975
4錠
150
1,300
5錠
187.5
1,625
6錠
225
1,950
7錠
262.5
2,275
2,600
8錠
300
口 渇
5%
1.6%
―
食欲不振
5%
―
8.6 %
疲労感
5%
1.9%
―
頭 痛
11%
―
6.4 %
痙 攣
1 %未満
―
―
(表 3 )
.モルヒネとトラマドールの力価比は 5 :1 であ
することが望ましい 1).退薬症候の 1 つである本来の痛
り,トラマドール塩酸塩 150mg/日はモルヒネ 30mg/日
みの増強は,痛みの管理を悪化させる契機になることも
に相当する.TA 錠は他のオピオイドと同様の認識で処
考えられ,退薬症候は避けたい問題点といえる.
方することが望ましく,次のように取り扱うことが推奨
されている 1).
・患者に TA 錠を定期的に内服させるべきである.
乱用・依存について
乱用・依存について
・TA 錠の長期内服後は,漸減,中止する必要がある.
・処方医は TA 錠の身体依存の可能性を考慮しなけれ
ばならない.
オピオイド鎮痛薬の乱用・依存は,慢性痛のオピオ
イド治療において最も危惧される問題である.しかし,
・処方医は TA 錠を処方している患者を注意深く診察
するべきである.
TA 錠の乱用・依存の発現の可能性は低いと考えられて
いる.その理由としては,TA 錠に含まれるトラマドー
ル自身(代謝前)のオピオイド受容体への作用が弱く,
他のオピオイド鎮痛薬のような気分の変調を引き起こし
退薬症候について
退薬症候について
にくいことが推察されている.
しかし,一部の地域ではトラマドールの乱用が問題と
オピオイド鎮痛薬の突然の休止は退薬症候を引き起こ
なっており 12),心理社会的背景が複雑な慢性痛患者にお
す.TA 錠中止後の退薬症候の発現は少ないとされてい
ける TA 錠の乱用・依存の危険性を常に念頭においてお
る.しかし,トラマドールからの退薬症候の報告も数多
くべきである.
くみられる .長期に投与された場合,TA 錠は緩徐に
1)
減量,中止するべきである.TA 錠 4 錠 /日では,トラ
マドールの投与量は 150 mg/日に達し,モルヒネ換算量
セロトニン症候群について
セロトニン症候群について
30mg/日に達する.このことを考えれば,TA錠の突然の
休薬がいかに危険であることが容易に理解できる.
減量の方法に定説はないが,25%ずつ 1 週間毎に減量
セロトニン活性を高める薬物の使用あるいは併用は,
脳内のセロトニン(5 - HT)活性が亢進し,様々な自律
神経症状,精神症状を呈する可能性がある(図 2 )13).
表 3 トラマドール塩酸塩と他のオピオイド製剤の効力比
(文献 1 より引用・改変)
オピオイド鎮痛薬
効力比 vs トラマドール
コデイン
1:1
*
ジヒドロコデイン(dihydrocodeine)
1:1
デキストロプロポキシフェン
*
(dextropropoxyphene)
1:1
ペチジン
1:1
モルヒネ
5:1
*
メタドン(methadone)
20:1
*
ハイドロモルフィン(hydromorphine)
40:1
オキシコドン
10:1
ブプレノルフィン(口腔内崩壊錠)
150∼300:1
フェンタニル(貼付剤)
500∼750:1
*は本邦未承認
トラマドールもセロトニンの再取り込みを抑制するた
め,セロトニン症候群の発生が危惧される.したがっ
て,TA 錠の処方に際しては,併用薬には十分に留意す
る必要がある.添付文書上に記載されている併用禁忌薬
としてはモノアミン酸化酵素阻害薬(セレギリン塩酸塩)
が,併用注意薬としては三環系抗うつ薬,選択的セロ
トニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake
inhibitor:SSRI)等がある.
慢性痛患者では,抗うつ薬が併用されていることも少
なくないため,TA 錠との併用によりセロトニン症候群
発生の危険性が高まることを常に念頭におくべきであ
る.特に,本邦における最近の抗うつ薬処方の傾向をみ
ると,SSRI の処方が増えているので注意が必要である.
TA 錠の処方を開始する際には必ず内服薬を確認し.抗
うつ薬の中止・減量を考慮,場合によっては他のオピオ
イド鎮痛薬の選択を考えるべきである.
Tramadol Hydrochloride/Acetaminophen Combination ( TRAMCET ® Combination Tablets)
錠の投与量を増量しても効果がなく,副作用も全くみ
SSRI の代表的な薬であるパロキセチンは CYP2D6 へ
の強い阻害作用を有している 14).そのため,パロキセチ
られない場合は CYP2D6 の代謝不良を疑うべきである.
ンの併用はトラマドールの M1 への代謝が抑制され,オ
そのような場合,他のオピオイド鎮痛薬を選択すべきで
ピオイド受容体を介した鎮痛効果が減弱するのみなら
ある.
ず,トラマドールによるセロトニン再取り込み抑制が増
強され,セロトニン症候群を引き起こす可能性が他の抗
アセトアミノフェンの投与量について
アセトアミノフェンの投与量について
うつ薬と比べて高いと考えられる.
本邦での多くの感冒薬にアセトアミノフェンが含まれ
CYP2D6
の代謝不良について
CYP2D6
の代謝不良について
ているため,TA 錠使用中の患者での感冒薬や解熱薬の
使用に際しては注意が必要である.組み合わせによって
CYP2D6 の代謝不良者では,CYP2D6 を介して代謝さ
は,本邦でのアセトアミノフェンの 1 日最大用量である
れる薬物の代謝が著しく低下している.アジア系の人種
4,000 mg/日を超えてしまう可能性がある.添付文書に
において CYP2D6 の代謝不良者は数%の割合で存在し
はそれらの薬との併用は避けるべきと記載されている.
ているといわれている 15).そのような患者では,トラマ
表 4 に一般用医薬品,医療用医薬品のアセトアミノフェ
ドールの鎮痛効果は減弱している可能性がある.健常者
ンの含有量を示すので,参考にしてほしい 2).
と比較して代謝不良者では,内服後の M1 の血中濃度が
重篤な肝機能障害(アセトアミノフェン中毒)はアセ
著しく低下していて,侵害受容に対する鎮痛効果が減弱
トアミノフェンの総投与量が 10 g/日を超えた際に起こ
していることが報告されている 16).残念ながら,本邦で
ることが多い.本邦でのアセトアミノフェンの過量摂取
は CYP2D6 の代謝不良者のスクリーニングを行うことは
による重肝障害の報告の多くは,アセトアミノフェンを
できない.
含有した市販薬の誤用,乱用である.したがって,TA
しかし,CYP2D6 の代謝不良者ではトラマドールの副
錠が他のアセトアミノフェン配合製剤と同様に過量摂取
作用発現が少ない傾向にあると報告 17)されている.TA
される可能性も否定できないので注意が必要である.
縮 瞳
発 汗
興 奮
腸管蠕動亢進
(下痢)
下肢に強い
反射亢進
下肢に強い
振戦
下肢に強い
クローヌス
頻 脈
血圧の異常
(多くは高血圧)
図 2 セロトニン症候群の臨床
(文献 13 より引用・改変)
Tramadol Hydrochloride/Acetaminophen Combination ( TRAMCET ® Combination Tablets)
表 4 感冒薬および解熱薬のアセトアミノフェンの含有量
(文献 1 より引用・改変)
おもな一般用医薬品
タイレノール
®
カゼリック顆粒
エキセドリン
®
医療用医薬品
300mg/錠
SG顆粒
270mg/包
PL顆粒
150mg/錠
グレラン ® エース 150mg/錠
ベンザ エース
150mg/錠
セデス ®・ハイ
125mg/錠
サリドン ® エース 110mg/錠
新ルル ®A
100mg/錠
パブロンS
100mg/錠
新セデス ®
80mg/錠
おわりに
おわりに
250mg/包
他のオピオイドと比べて独特の薬理学的作用を有す
150mg/包
る,副作用が少ない,法の規制が少ない,安価であるな
アンヒバ 坐薬
50,100,200mg
どの理由により,今後,慢性痛において TA 錠が処方さ
®
アルピニー® 坐薬
50,100,200mg
カロナール ®
200,300mg/錠
れる可能性が増えると考えられる.TA 錠によって救わ
れる慢性痛患者も多いが,そのために適切な TA 錠の処
方は大前提である.添付文書上の効能・効果,用量・用
法,注意点を遵守した TA 錠処方が望まれる.
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