いまさら聞けない 高齢者医療・看護のポイント

いまさら聞けない
高齢者医療・看護のポイント
感覚は、触覚、温度覚、痛覚といった表在感覚
常に自分の身についての不安やストレスがつきま
機能と深部感覚機能が低下する。深部感覚機能は、
とう。たとえば、元気になった利用者に対して職
くるぶしの尖った所などの骨部に音叉を当てて振
員が「自宅に帰られますか」と言ったとき、その
動がどれくらいわかるかどうかで判定する。体温
方が家族と折り合いが悪く、家に自分の居場所が
調節が低下するので熱中症になりやすい反面、身
ないことをわかっていれば、大変な不安に陥り、
体が一度冷えると熱が戻らないため低体温にもな
いてもたってもいられず、ときにはパニック状況
りやすい。熱に対する感覚も鈍いので、あんかな
となることがある。理解力、判断力、推理力、洞
どによる足元の低温やけどに注意する。
察力は保持されるか、むしろ年を取ると高まる。
口腔については、歯が脆くなり、唾液の分泌が
低下し、口が渇いていることに気づきにくくなる。
噛む力、嚥下反射、味覚も低下する。口に合わな
全老健学術委員会委員長
江澤和彦
い義歯を使うと口内炎や潰瘍を併発し、痛みのた
め噛むことができず、ご飯が食べられないという
こともある。義歯の調整やケアにも十分な配慮が
高齢者は私たちが考えている以上に
身体機能が低下している
こすので爪の感染は重要である。
視覚も低下する。老眼により水晶体が混濁し、
必要である。
消化器系で多いのは排便の問題である。腸の機
視力低下や難聴も精神機能に影響を及ぼしたり、
容易に意識障害をきたしたりする。
認知症ケアは職員と利用者が
なじみの関係をつくるところから
利用者が不眠症だからといって、安易に薬を使
用するべきではないと考えている。人間には体内
リズムがあり、その周期は25時間と言われている。
屈折力・調節力が低下する。たとえば手元でメモ
能が低下すると便秘になりやすく、肛門の緊張の
日中の活動量や日中と夜間の環境のメリハリはど
まず高齢者の身体機能についてお話しする。高
をとり、パッと遠くのスクリーンを見たとき、画
減弱があるために失便しやすくなる。泌尿・生殖
うなっているか、体調が悪いのではないかなど身
齢者の全身状態は、意識レベル、外観(体型・姿
面にピントが合うのに時間を要する。照明も同じ
器系では腎機能が低下する。膀胱筋の減弱・膀胱
体症状をチェックし、不眠の対応に対するケアに
勢・歩行・顔色・皮膚色・体臭)
、バイタルサイ
明るさを感じるのに、20歳代の人と比べて60歳代
容量の減少により頻尿をきたしやすい。排尿障害
ついて検討する。褥瘡予防のために必要なことで
ンの変化で確認する。認知症の方でも意識障害の
の人では 2 倍、80歳代では 4 倍の照明が必要とな
や尿漏れ、失禁の問題は複雑に絡み合う。高齢者
はあるが、夜間の見回りや体位変換などを必要以
方でも、頭が痛いときは頭を押さえたり、おなか
る。高齢者は私たちが思っているよりも暗く見え
の排泄ケアは人の尊厳にかかわるので十分な配慮
上にやり過ぎると、それが不眠につながる恐れも
が苦しいとおなかをさすったりするので参考とな
ていて、視野も狭い。認知症と思われた人が白内
が必要だ。
ある。
る。しかし、高齢者は若年者と比べて定型的な症
障の手術をしたら視覚情報が増え、認知症様の症
骨については、骨粗鬆症により椎体骨が圧縮・
そのほか、高齢者の精神機能障害には、感情障
状を呈さない場合も多く、痛みなどの訴えも比較
状が消えてしまったということもあるので気をつ
扁平化し、身長が低くなったり骨折しやすくなる。
害、見当識障害、記憶障害、知覚障害などがある。
的少ないので、看護師は注意深く全身状態を確認
けていただきたい。
軟骨から水分が抜けて硬くなるためクッションの
しばしば遭遇する幻覚、妄想、心気症は知覚障害
役目が弱まり、関節の動きが悪くなる。
による。心気症というのは、どこも身体自体は悪
しなければならない。
皮膚は弾力性の低下をきたし、皮下脂肪が減少
聴覚が低下して聴こえ難くなり、言語知覚機能
が低下する。耳鳴りやめまいも起こりやすくなる。
筋肉の繊維は減少し、筋力や筋緊張は低下する。
くないのだが常に頭が重い、胸がしんどいなど不
する。特に角質層の水分が抜けるので乾燥状態と
ただ、気をつけていただきたいのは、耳は亡くな
廃用症候群で筋力が低下している方には、使って
定愁訴を訴えるのが特徴であり、これは不安の裏
なりやすい。老人性乾皮症になると強い痒みが生
る最期まで聴こえるということ。死期が近い状態
いない筋肉、いわば眠っている筋肉の目を覚ます
返しである。認知症には現在、唯一アリセプトと
じ、掻き傷から感染を起こすこともあるので日頃
でも、家族の優しい声かけや肌の触れ合いをご本
ことが必要であり、高齢者の筋力トレーニングは
いう薬が治療薬として認可されている。この薬は、
のスキンケアが重要となる。皮膚は非常に薄く、
人は十分わかっていらっしゃる。死期迫るなか、
決して強い負荷をかけるものではなく、低負荷で
認知症早期ほど有効で、アルツハイマーの進行を
血管ももろいため、皮下出血をきたしやすく、褥
温かい声かけに、目尻から一筋の涙が流れる光景
長続きするプログラムとなっている。
1 年ほど遅らせることができる。しかし、重度に
瘡もできやすい。若年者の皮膚とはまったく状況
を何度も見てきた。経管栄養や意識のない方であ
が異なるので、デリケートに対応する必要がある。
っても必ず声をかけることや皮膚のマッサージな
記銘力も低下するため、昔のことは覚えていても
爪は硬く肥大化し、脆く割れやすくなる。爪の
ど、肌の触れ合いをぜひお願いしたい。認知症や
名前や地名が思い出しにくくなり、認知症になる
本人の生活史に基づいたアセスメント、ケアプ
白癬菌症は外用剤ではなく内服治療を行う必要が
意識障害だからわからないということは絶対にな
とそれが顕著となる。注意集中力や持続力も低下
ランはとても大事であり、それが「最善の処方」
あり、爪疥癬は施設内で爆発的集団流行を引き起
い。すべてわかっていらっしゃる。
する。そして、孤独感、失望感、無気力感のなか、
となる。そのためには、利用者と職員がなじみの
12 ● 老健 2008.6
高齢者になると記憶力や学習能力が低下する。
なり、いろいろな周辺症状が出てきたとき、適切
なアセスメントやケアの対応が重要となる。
老健 2008.6 ● 13
関係をつくることが必要となる。そうすることに
と対抗できず、身体の免疫細胞もついていくこと
よってその利用者のいろいろな情報が得られる。
ができないこともしばしばである。そのことも考
たとえば、ユニットケアでは、職員も私服を着て
慮してきめ細かく対応していただきたい。
一緒に食事をする。一緒に食事をしながらこれは
おいしい、これは硬い、柔らかい、というような
ささいなことでも生活を共有し、それらを積み重
ていくことで、利用者は私たちを安心で信頼でき
る仲間として認めてくれるようになるだろう。
認知症の方でも職員が自分のことを大事に想っ
て見つめていてくれるだろうか、馬鹿にしていな
高齢者のケアでは
一人ひとりに応じた配慮が大切
高齢者のケアは、費用をかけずにできることが
たくさんある。なじみの食器や、本人が落ち着く
愛着のあるもの、写真などを持ち込むことも高齢
者ケアにつながる。
きらめたら、かかわっている方は救われない。
帯も含め想定することも大事。
リスクマネジメントについて。切迫性、非代替
転落に関しては転倒と同じく筋力・バランス・
性、一時性が同時にない限り、身体拘束をしては
ADL、認知症、ベッドマットレスの高さ、視力
ならない。これは高齢者虐待防止法という法律で
障害、薬剤の影響、転落の経験などが関係するた
も定められている。命にかかわるかどうか、どう
め、それらをきちんとアセスメントをし、施設で
しても他に方法がないのか、絶対的に一時的であ
何かテーマを決めて対策を練るのもよいだろう。
るか。この 3 つが揃ったとき、初めて身体拘束を
誤嚥には、メンデルセン症候群と不顕性誤嚥の
どうするかを考えることになっている。
2 つのタイプがある。メンデルセン症候群は、嘔
問題は普段のアセスメント。転倒骨折などが起
吐物を一気に飲み込む誤嚥で、場合によっては窒
こった場合、おそらく日々行っていることやケア
息や致命的な化学性肺炎を生じ命を失うこともあ
プランの内容が問われる。過去に、施設側が一時
る。不顕性誤嚥は、口腔・咽頭分泌物や胃液が少
情面は正常であるため、正直に、不安や不信感を
たとえば、転倒して大腿骨頸部骨折と診断され手
的に縛っていたとき、拘束していたときに筋力が
しずつ肺に入ってくるもの。ケアの現場では不顕
感じると不安定の表情となり、気分のよいときは、
術が必要となり病院に入院したとする。すると、
低下し、拘束解除後転んで骨折をきたしたという
性誤嚥にしばしば遭遇する。
とても和やかな表情となる。
入院当初、急激に精神状態が変化し病院で暴れる
考え方で、施設側の責任を問われた判例もある。
認知症とせん妄の区別が現場でついていない場
ことがあるが、これは急に環境が変わったことに
大切なことは、普段からの本人や家族との信頼関
摯な事後対応や客観的な記録を担保することが求
合がある。せん妄は認知症と違って回復する。せ
よる環境不適応のためである。高齢になればなる
係であることは言うまでもない。
められる。転倒を起こした時間、ひやり・はっと
ん妄の第一の原因は薬剤である。パーキンソン病
ほど環境の変化になじむのに時間がかかる。だれ
ケアプランは日勤、夜勤がだれであっても、履
を起こした時間といった「時間」の把握も大事で
の薬、うつ病の薬、安定剤、胃薬など、多彩な薬
でも自宅に帰りたいのは当たり前。環境をどうコ
行されなければならないという契約になっている。
ある。また、事件性があれば現場保存も重要なこ
剤が原因となりうる。
ーディネートしていくか。それがとても重要であ
たとえば、転倒骨折において、ケアプランには転
とになる。
る。部屋の温度、照明、転倒防止への配慮も必要
倒要注意とあるのに対応ができていないとなると、
だ。
施設側の不利益になりかねない。
「脱水に気をつ
いだろうか、ということはとてもよくわかる。感
そのほか、身体失調、環境変化、精神的ストレ
スもせん妄の原因となるため、慎重にアセスメン
トすることが大事である。
教科書どおりにはいかない
高齢者の病気
利用者にとって、職員に頼まなければ日常生活
高齢者ケアでは、環境への配慮も重要である。
事故が起こったときはどうするか。施設での真
誤嚥性肺炎を防ぐため
適切な食事ケアの検討を
食事の量なども大切なことであるが、だからと
けて 1 日1500cc水を摂る」というケアプランなら
言って 1 食 1 食にあまりナーバスにならなくても
ば 1 日のうち何時、何回に分けてどれくらいの水
高齢者の摂食・嚥下障害の原因として、脳血管
よい。数日単位の食事の量はどうなのか、体重の
分を摂るのかを明確に具体性をもって取り組んで
障害(球麻痺・仮性球麻痺)
、廃用性症候群など
増減はどうなのかといった視点も必要であろう。
いただきたい。
がある。球麻痺は、嚥下中枢自体が血管障害など
何より大事なことは、日常生活において「恥を
ケアプランは立案者の実力を反映するものだ。
で壊れ、嚥下の指令が大脳に出せない状態である。
動作ができないというのは大変なストレスになる。
かかせない」ということ。人生の大先輩にとにか
エビデンスに基づいて利用者の自立のためのケア
重度になると、まったく嚥下反射が起こらないこ
少しでもその利用者が一人でできることを増やし
く恥をかかせないようにしていただきたい。
プランになっているか。それが周知徹底し、ケア
ともある。仮性球麻痺というのは、嚥下中枢は障
ていく必要がある。たとえば、身体の右側が麻痺
万が一おもらしをしても、その後どう対応する
の一元化が図られているか。難しいことではある
害がなく、命令に対する実行を司る大脳機能の部
で動かない場合、左側を使って自分の身の回りの
かを施設でしっかりと検討してほしい。入浴に関
が、これらができて初めてケアプランとして成立
分が血管障害などを生じることによって嚥下障害
ことができるかどうか。実際、社会活動に参加し
しても朝に入る人、昼に入る人、シャワーだけの
する。
をきたすものである。しかし、訓練により飲み込
ている人ほど長生きしている。
人もいる。いろいろなライフスタイルがある。そ
3大介護事故は
転倒、転落、誤嚥
むことができるようになることもある。廃用性症
候群というのは、寝たきりによる嚥下障害のこと
高齢者の病気は、複数の疾患が合併しているこ
の点をできる範囲で、少しでも工夫を考えること
とが多い上、症状が非典型的である。つまり、教
が必要だ。そして、その方の無限の可能性を考え
科書どおりでは通用しない。合併症が多いとより
ることも大切。たとえば、今は植物状態で寝たき
転倒の原因は、筋力・バランス・ADL、認知
意識障害もきたしやすい。また、予備力が低下し
りでも 3 年後には起きて普通にしゃべっているか
症、環境、履物や衣類の状態、薬剤の影響などに
ろうが入っている方が起きて普通の生活をすると、
ており、日々生きていくことが精一杯であり、ひ
もしれない。そういうことはあり得ることである。
よるので、アセスメントをぜひお願いしたい。転
それだけで食べられるようなこともある。摂食・
とたび感染症や外傷などの外的ストレスを受ける
人の身体は奇跡が起きるものである。私たちがあ
倒を起こした方の転倒リスクはとても高く、時間
嚥下障害からは、低栄養、脱水が誘発されやすい
14 ● 老健 2008.6
である。実は嚥下中枢も大脳も致命的な障害はな
い。寝ているために食事が食べられないので、胃
老健 2008.6 ● 15
に役立つこともある。
会い、対光反射、心臓の音の有無を聞き「ご臨終
ので注意が必要である。なお、口のなかで細かく
きず、不安定な姿勢となり誤嚥の危険も高まる。
バラバラとなるいわゆる刻み食は、嚥下障害の方
骨に関しては女性のほうが骨粗鬆症が多く、骨
アルツハイマー病の初期症状は、さっきのこと
です」ということがタイムリーに行われることが
に誤嚥性肺炎を引き起こしやすく、見た目も悪く、
量が少ない。骨粗鬆症の方の骨は、目が粗く骨が
が思い出せない、ネクタイが結びにくい、電車に
求められることが多い。老健施設で看取りを行う
提供すべきではないことに留意する。
スカスカとなり、進行してくると、重みに耐えか
乗っていて目的地を忘れる、料理で同じようなメ
かどうかは、管理者や施設医師の方針によるとこ
肺炎は、脳卒中、心疾患、がんの 3 大死因に次
ね潰れてくる。診断基準は、椎体骨折の有無、脊
ニューが繰り返し出てくることなどがある。認知
ろが大きいが、在宅支援の結果、ご本人のニーズ
いで第 4 位で、死亡者の 9 割以上が65歳以上であ
椎X線の骨萎縮度、骨塩量値をもとに定められて
症は、早期発見、早期対応が予後に影響し重要と
の結果、看取りになったというケースもある。
る。一般に見られる市中肺炎と免疫力が落ちたコ
いる。骨塩量値は、若年成人平均値(20〜44歳)
なるため、早期発見に努めることも大切である。
看取りでは、喀痰吸引、点滴、酸素吸入などの
ンプロマイズドホストの方に発症する弱毒菌など
に比較してどれくらいかを基準としている。
特に認知症ケアでは、家族は大変苦労をするた
医療行為が必要になる。これらにどう対応してい
め、家族のレスパイトも考えなければならない。
くかも考える必要がある。全国の老健施設の約 7
が原因の院内肺炎の両者のパターンが高齢者肺炎
わが国は欧米より大腿骨頸部骨折の頻度が少な
でもみられる。原因は呼吸機能低下、気道絨毛運
く、布団を上げ下げし、畳で過ごし、大豆製品、
積極的に家族を支えることに介入しないと在宅連
〜 8 割は看護師が夜勤にいる。すなわち24時間配
動低下、免疫能低下、誤嚥(不顕性誤嚥・メンデ
小魚・海草や緑茶をよく摂る、といった和風の暮
携はとりにくくなる。
置している施設が相当多いと推測される。すなわ
ルセン症候群)などである。
らしは、骨を強くすることによいのかもしれない。
認知症の告知については、自殺するケースもあ
ち、転換型老健施設でなくても、従来の老健施設
また肺炎に無関係な症状ではあるが、尿失禁が
骨をつくるカルシウムは、牛乳・乳製品だと吸収
りうるので注意する。今は検査によって早期にわ
もかなり高い水準の看護体制になっているのであ
みられたり、ご飯を食べないのでおかしいと思い
率50%と最も高い。6 角チーズ 1 個のカルシウム
かるようになってきたが、果たして告知してよい
る。
調べていくと、その原因が肺炎だったという非定
量はだいたい牛乳 1 本分ほど。絹ごし豆腐より木
か慎重に考える必要がある。
型的なこともある。
綿豆腐の方がカルシウム量は 3 倍多い。また納豆
摂食・嚥下訓練で食物を用いずに行う訓練法と
して、のどのアイスマッサージ、嚥下体操、構音
訓練などがある。摂食・嚥下訓練の考え方は、①
嚥下反射を誘発、②食物が残留しない、③食物残
留除去、④気管に入りかかったものを出す、⑤気
脳の血管障害等の予防、脳のストレスの排除、記
としては、本来老健施設の役割ではない、若い介
くらいとなる。
憶・注意分割・思考力等の訓練などがある。さま
護職や死に立ち会ったことのない職員はなかなか
ざまな訓練法のプログラムがあるが、たとえば日
うまくできない、現行の法整備ではできないなど
記をつける方法。一昨日の晩ご飯は何だったか。
があがった。がんの末期への対応も今後求められ
二日前、三日前と、実際につけていくという訓練
ることが増える可能性があるが、スピリチュアル
法もある。
ケアの現場では、傾聴、共感等のスキルを必要と
家族を支えることも
認知症のケア
認知症は高齢者ほど多く、一つの老化現象であ
きるものとしては、のどのマッサージ、体幹角度
る。老化に何らかの発症危険因子が加わり、認知
の調整、食品の調整、食べる前の準備体操、一口
症が発症する。
食事介助に関しては、一口の量も個人差が大き
ところ、41%の施設が看取りを行っていた。課題
を週 2 回食べると、ビタミンKの血中濃度は 8 倍
管への侵入を防ぐ、というものである。すぐにで
量の調整、嚥下の意識化などがある。
一般的な認知症の予防には生活習慣病の予防、
全老健で平成19年に看取りに関して調査をした
認知症には中核症状と周辺症状がある。中核症
状は記憶障害や実行機能障害、失行、失認などで、
く、どのくらいがその人にとっての一口量なのか
周辺症状は睡眠障害、徘徊、せん妄、暴言・暴力
を検討し、スプーンを選択する。食事は椅子に座
などである。周辺症状は適切なケアやアセスメン
ったときから始まっている。その方が食事をする
トで改善が期待できる。
いずれにせよ、認知症に対しては、専門性の高
し、ときには個室のなかで 5 分、10分というまっ
い医療と介護の両者が調和して初めて改善へ導け
たくの沈黙の時間を共有することもある。経験、
るものであることは熟知しておくべきである。
熟練がないとなかなか職員は耐えることはできな
これからも高齢者の
尊厳を保ったケアを
いものである。
今後ますます高齢者に対して尊厳を保っていく
ことはとても大切なことになる。今日か明日でき
これから、年間160万人以上が死亡する状況が
ることが何かある。一つでも二つでも、小さなこ
環境や姿勢になっているのかどうか、そのことか
老年期の精神障害には、認知症と間違えやすい
やって来る。その方たちがどこで亡くなるのか。
とでも、私たちができることが必ずある。そのこ
ら考える。たとえばボーッとしているときに口の
ものも多い。特に認知症とうつ病の判別は、精神
在宅死の場合、そのとき立ち会わなくとも、死亡
とを忘れずに日々の職務をお願いしたい。好き好
なかに食物が入れば、当然誤嚥のリスクが高まる。
科医でも 1 回の診察では難しいこともあり、鑑別
後24時間以内に医師が診察していれば死亡診断書
んで病気になったり障害をきたしている人はいる
また椅子やテーブルの調整はどうなのか。私たち
には注意を要する。老人性認知症など、認知症を
を書くことができる。24時間を超えた場合でも、
はずもなく、だれもがその人にとっての普通の生
が日頃かかわる女性の高齢者の身長はだいたい
ひとくくりとすることが多いが、認知症には、脳
医師が死後診察し、診療していた疾患で亡くなっ
活を望んでいるのだから。そして、その生活の実
130cm台。その方が椅子に座ったとき、足が宙ぶ
血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型
たとされれば、死亡診断書が書ける。ただ、現在
現すなわち尊厳の保障を行っていくことが私たち
らりんにならないよう、利用者の身体にあった椅
認知症、前頭側頭型認知症、ピック病などいろい
の日本では、最後に呼吸が止まる瞬間に医師が立
の役割なのである。
子を用意することが必要である。椅子もテーブル
ろな疾患がある。これらは、タイプによって症状
も体に合わないと、当然前かがみになることがで
の違いがあり、特徴を理解していると現場のケア
16 ● 老健 2008.6
老健 2008.6 ● 17