TMI 中国最新法令情報

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TMI 中国最新法令情報
―(2011 年 5 月号)―
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
弊事務所では、お客様の中国ビジネスのご参考までに、本「TMI 中国最新法令情報」を
発行させていただいております。ぜひご活用下さい。記事の内容やテーマについてご要望
やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下さい。
また、バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきます
ので、併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/office/china/index.html)
目次
********************************
一.中国最新法規情報
1.主な中央法規
(1) 第三者電子ビジネス取引プラットフォームサービス規範
(2) 音楽・映像製品輸入管理弁法
(3) オンラインショッピング分野における知的財産権侵害及び偽物劣悪商品の製造・販
売の取締をより一層推進することに関する商務部等の通知
(4) 証券会社の自己売買業務における投資範囲に関する中国証券監督管理委員会の規
定
2.主な司法解釈等
(1) 中国法院知的財産権司法保護状況(2010 年)
(2) 最高人民法院知的財産権案件年度報告(2010 年)
二.特集・中国契約法の概要その 5
23.契約法各論の鳥瞰~各論のはじめに
24.売買契約その 1~売買契約とは
25.売買契約その 2~売買目的物に関するルール 1
26.売買契約その 3~売買目的物に関するルール 2
1
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三.上海法務事情
1.「上海市中小企業発展促進条例」の施行
2.「上海市養犬管理条例」施行
一.中国最新法規情報(2011 年 4 月公布分)
**************
1.主な中央法規
(1) 第三者電子ビジネス取引プラットフォームサービス規範
商務部
①
2011 年 4 月 1 日公布
同日施行
背景
中国では、オンラインビジネスの活発化に伴い、第三者電子ビジネス取引プラ
ットフォーム1が大きな成功を収めた。近年日本の大手 IT 会社も中国のオンライン
ビジネスに進出したため、日本でも注目を集めた。こういった背景の下で、商務
部はオンラインビジネスの取引プラットフォームを規制する本規範を公布した。
②
主な内容
本規範では、各取引プラットフォームに、購入者が一定期間内において無条件
で注文の取消しができる冷静期間(クーリングオフ制度)を設けることを奨励し
ている。但し、これは強制的な規定ではなく、かつ、設けた場合でも生鮮食品、
化粧品又は薬品等を除外することができる。
また、本規範では、1 日の取引金額が1億元以上である取引プラットフォームに
対して、異地情報保存システムを設置する義務が定められた。取引者の個人情報
については、最終ログイン日から、取引情報については、取引発生日から、少な
くとも 2 年間保存しなければならない。これにより、地震又は電力停止等の緊急
事故へのバックアップが図られる。
さらに、本規範では、紛争が生じた場合において、売主の代わりに買主に賠償
する「売主保証金」サービスの提供を奨励している。この制度の導入により、消
費者にとってより安心できるオンラインショッピングが期待できると思われる。
その他、本規範では、各取引プラットフォームがその取引規定を改定する際に、
30 日前までに当該改定内容を公告しなければならないと定めている。
(2) 音楽・映像製品輸入管理弁法
新聞出版総署・税関総署
①
2011 年 4 月 6 日公布
同日施行
背景
2011 年 3 月の国務院による「音楽・映像製品管理条例」の改正に伴い、新聞出
1
「第三者電子ビジネス取引プラットフォーム」〔第三方电子商务交易平台〕とは、電子ビジネス活動に
おいて、取引当事者(2者間又は多数間)に対して、取引のマッチング及び関連するサービスを提供す
る情報ネットワークシステムの総体をいうと定義される(第 3.2 条)。
2
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版総署と税関総署が本弁法を公布した。
②
主な内容
まず、2008 年の国務院の部門調整により、音楽・映像製品の輸入管理権は文化
部から新聞出版総署に移された。その後に、「音楽・映像製品管理条例」が相応に
改正されたのに合わせて、「音楽・映像製品輸入管理規則」も改正され、当該主管
部門権限の移転が反映された。
本弁法によれば、音楽・映像製品を輸入する企業は、所定の書類を提出し、新
聞出版総署の許認可を受けてからはじめて当該輸入業務を開始することができる。
また、本弁法によれば、音楽・映像製品を輸入する際に、音楽・映像製品輸入審
査表、輸入契約草案等の書類を提出し、新聞出版総署の審査を受けなければなら
ず、音楽・映像製品のタイトル又は内容を勝手に変更したり、増減したりしては
ならない。
中国は、世界貿易機関(WTO)における米中間の出版物の市場参入問題をめぐ
る処理結果を受け止めて、出版市場をさらに開放する姿勢を見せたが、音楽・映
像製品の輸入はまだ規制の厳しい分野と言わざるを得ない。
(3) オンラインショッピング分野における知的財産権侵害及び偽物劣悪商品の製造・
販売の取締をより一層推進することに関する商務部等の通知
商務部等
①
2011 年 4 月 21 日公布
同日施行
背景
アリババや淘宝(タオバオ)等において、知的財産権侵害及び偽物の製造・販
売案件が、頻発しているため、かかる犯罪をより厳しく取り締まることを目的と
し、商務部をはじめとする 9 部門が本通知を公布した。
②
主な内容
本通知では、より厳しく処理するといった、一般的な姿勢表明の文言以外に、
オンライン取引プラットフォームに対する取り締まりの強化が注目される。特に、
業界大手の淘宝(タオバオ)、易趣(www.ebay.com.cn)、拍拍(www.paipai.com)
に知的財産権侵害及び偽物の製造・販売を自主的により厳しく管理させるため、
各オンライン取引プラットフォームに対し、自ら知的財産権侵害及び偽物販売に
関わる恐れのあるオンラインショップを調査・処分し、その状況を毎週、国又は
省レベルの行動指導弁公室に報告する義務が定められた。オンライン取引プラッ
トフォームの管理が基準を満たさず、かつ、期限内に改善されない場合には、当
該オンライン取引プラットフォームのインターネット接続が停止される可能性も
ある。
(4) 証券会社の自己売買業務における投資範囲に関する中国証券監督管理委員会の規
定
3
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中国証券監督管理委員会
①
2011 年 4 月 29 日公布
2011 年 6 月 1 日施行
背景
金融業界において、デリバティブが続々と開発され、その中にはリスクの高い
商品も多数存在する。従来、証券会社の自己売買業務において、どこまで取引で
きるか明確でなかったため、証券監督管理委員会は、取引範囲の明確化を図り、
本規定を制定した。一方、近年非上場のハイテク新興企業の株式等が、証券会社
の店頭市場において取引され始めたが、本規定により、証券会社が自己売買業務
として、これらの株式等を取引できるようになったため、将来の店頭市場の発展
に大きな影響を与えると思われる。
②
主な内容
本規定では、証券会社は下記の範囲内の金融商品に限り自己売買業務で取引で
きると明確に定められている。
ア.中国国内の証券取引所において、既に取引されている又は法により取引され
得る証券。
イ.中国国内の銀行間取引市場において、既に取引されている又は法により取引
され得る以下の証券。
(ア)政府債券
(イ)国際開発機構人民元債券
(ウ)中央銀行手形
(エ)金融債券
(オ)短期融資券(企業が発行する短期無担保約束手形)
(カ)社債
(キ)中期手形
(ク)企業債券
ウ.金融機構の店頭市場において、既に取引されている又は法により取引され得
る証券。
なお、上記の範囲に関しては、次の例外がある。
(a) 証券会社が引受業務を行うとき又はリスクヘッジのときには、所定範囲外
の金融商品を取引できる。
(b) 証券会社は、自己売買業務の子会社を設立して、所定範囲外の金融商品を
取引させることができるが、その場合において、証券会社は当該子会社に融
資又は担保を提供してはならない。
2.主な司法解釈等
(1) 中国法院知的財産権司法保護状況(2010 年)
最高人民法院
2011 年 4 月 12 日公布
最高人民法院は 2011 年 4 月 12 日に 2010 年の知的財産権司法保護状況に関する報
4
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告書(中国語及び英語)を公布した。本報告書は中国語版 1.3 万字、英語版約 8000
字に及び、本報告書を通じて中国の 2010 年の知的財産権保護における成果を知らし
めることを目的としている。
報告書の主な注目すべき点は以下のとおりである。
知的財産権案件の審理においては、民事案件が、引き続き司法保護の主役である。
2010 年に各地の地方人民法院が受理した知的財産権に関る民事案件は 42,931 件で、
前年度の 40.18%増となった。これらの民事案件の訴訟金額が 794,801.33 万元にも上
昇した一方、行政案件と刑事案件の案件受理数もそれぞれ前年度に比べ 25%と
9.58%の増加を見せた。
また、2010 年から、全国各地において、各人民法院が知的財産権審判法廷を設置
し、知的財産権に関する民事・行政・刑事案件を統一的に審理する制度が始まった。
現在既に 5 箇所の高級人民法院、49 箇所の中級人民法院及び 42 箇所の地方人民法院
が当該制度を導入したが、これから更に全国的に広がっていくと思われる。
このように、案件受理数の増加及び専門的な知的財産権審判組織の設置からも、中
国における知的財産権に対する保護の強化が伺われる。
(2) 最高人民法院知的財産権案件年度報告(2010 年)
最高人民法院
2011 年 4 月 13 日公布
上記(1)の司法保護状況に関する報告の公布と同時に、最高人民法院は知的財産権
案件年度報告を公布した。本報告書は7万字以上にのぼり、近いうちに中国法制出版
社により出版される予定であり、ここでは既に公表されたダイジェスト版より注目さ
れる案件を数件選び紹介する。
①【(2009)民提字第 84 号】特許権侵害案件
最高人民法院は、特許法第 11 条の規定につき、方法特許権の保護範囲はその特
許方法により製造される原始製品にまで及び、原始製品をさらに処理して製造さ
れた製品までは及ばないという判断を示した。
②【(2010)民提字第 39 号】ネットカフェに関わる著作権侵害案件
最高人民法院は、国外の音楽・映像作品の著作権者は行政の許認可を受けるこ
となく自らの合法的権益を保護することができるという判断を示した。
③【(2009)行提字第 2 号】著名商標の複製・模倣に関する案件
最高人民法院は、著名商標の複製・模倣に該当するかどうかの判断について、
被異議申立商標の登録前に、被異議申立人が同じ類別の商品において似ている登
録商標を既に保有する場合において、被異議申立商標が著名商標より前記の既に
所有する登録商標に似ているときには、著名商標の複製・模倣に該当しないとい
う判断を示した。
④【(2009)民申字第 1882 号】商標権侵害案件
最高人民法院は、商標権侵害商品を販売する者は、製造者との共同権利侵害に
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なり、連帯責任を負わなければならないが、その責任は販売行為により権利者に
もたらした損害に止まり、製造者の商標権侵害責任を一緒に負うわけではないと
いう判断を示した。
本報告書からは、近年中国で起きている知的財産権案件の特徴が伺える。まず、市
場シェア競争に関る特許、技術秘密及び商標案件をはじめ、裁判結果が当事者の利益
に大きな影響を与える案件が近年増加してきた。また、生物、化学工業及び医薬等の
高新技術分野において、案件の事実認定が困難な案件もますます増えている。さらに、
インターネットの発展に伴って、知的財産権製品がより便利に広まり、新しいビジネ
スモデルが生まれつつあるため、新しい類型の知的財産権製品に関する紛争及び不正
競争による紛争が急激に増加している。
(彭涛、鍾雪垠・中国弁護士(東京))
二.特集・中国契約法の概要その 5 ******************
23.契約法各論の鳥瞰~各論のはじめに
(1) 契約法各論で規定する契約の種類
契約法第 130 条以下では契約法各論として、典型的な契約類型について具体的に規
定している。
なお、契約法で規定されている類型以外の内容の契約も有効であり、実務上は、個々
のケースに応じた様々な内容の契約が締結される2。
【図 22】
契約法で規定する契約の種類
├
目的物の所有権移転を主な目的とする契約
│
├
売買契約
│
├
電力供給使用契約
│
└
贈与契約
│
├
目的物の使用を主な目的とする契約
│
├
金銭貸借契約
│
├
賃貸借契約
│
└
ファイナンスリース契約
│
2
さらに、契約法では、取引法である民事法の適用がある取引契約のみ規定対象となっていることにも注
意すべきである。その他、例えば、労働契約は社会法である労働法令が、中外合弁契約は組織法である
中外合弁経営企業法がそれぞれ適用される等、民事法以外の法分野の規律を受ける契約も存在する。
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├
仕事の完成を主な目的とする契約
│
├
請負契約
│
├
建設工事契約
│
├
運送契約
│
│
├
旅客運送契約
│
│
├
貨物運送契約
│
│
└
複合運送契約
│
└
技術契約
│
├
技術開発契約
│
├
技術譲渡契約
│
├
技術コンサルティング契約
│
└
技術サービス契約
│
├
目的物の保管を主な目的とする契約
│
├
寄託契約
│
└
倉庫保管契約
│
└
仕事の遂行を主な目的とする契約
├
委任契約
├
斡旋契約
└
仲介契約
(2) 契約法各論の理解の必要性
契約法各論で規定された類型の契約について、実務上は、契約書を作成して、当事
者間で詳細な取り決めを行うことが多いが、当事者間で取り決めのない場合や不明確
な場合には、契約法の規定が適用される。また、契約作成に当たっては、当該系契約
類型の基本的ルールを理解しておく必要がある。
そこで以下では、契約法で規定する各種契約の内、代表的な契約類型について説明
する。
24.売買契約その 1~売買契約とは
(1) 売買契約の意義
売買契約とは、売主が目的物の所有権を買主に移転し、買主が代金を支払う契約を
いう(契約法第 130 条)。売買契約は、企業活動のみならず個人の日常生活においても
最も頻繁に利用されることが多い典型的な基本契約類型の一つと言える。そのため、
その他の類型の有償契約においても、当該契約に関する規定がない場合には、売買契
約の規定が補充的に準用されている(契約法第 174 条)。
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(2) 売買契約の内容
本特集の第 1 回目で説明した通り 3、契約の内容は当事者の合意により決せられるが、
契約法は売買契約における一般的な契約内容として、次の事項を例示している(契約法
第 131 条・第 12 条第 1 項)。
①
当事者の名称・氏名、住所
②
目的
③
数量
④
品質
⑤
代金
⑥
履行期限、履行地、履行の方式
⑦
違約責任
⑧
紛争解決方法
⑨
包装方式
⑩
検査の基準・方法
⑪
決算方法
⑫
契約の使用言語・効力
これらの事項は売買契約の内容として通常規定されるものであるが、具体的な取引
内容に応じて、これ以外の事項を規定できるのは、もちろんである。
(3) 売買契約の種類
契約法で規定する売買契約類型をまとめると、次の通りである。
【図 23】
売買契約
├
│
(通常の)売買契約
=
│
売主が目的物の所有権を買主に移転し、買主が代金
を支払う売買契約(契約法第 130 条)
│
├
│
分割売買契約
=
│
売買目的物の引渡・売買代金の支払いが複数回に分
割されて行われる売買契約
│
(契約法第 166 条・第 167 条)
│
├
│
見本売買
=
│
売買目的物が見本品又はその説明の品質と同一と
する売買契約(契約法第 168 条参照)
│
├
3
試用売買
契約の一般的内容については、2011 年 1 月号の本特集のうち、第 2 項(3)で触れている。
8
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│
=
│
買主が売買目的物の試用期間中に目的物を購入す
るか否かを決定することができる売買契約
│
(契約法第 171 条参照)
│
├
入
│
札
=
売主にとって最も有利な購入条件を示す者と売買契
│
約を締結するため、複数の購入希望者に代金金額等
│
の購入条件記載の文書を提出させ、提示条件により
│
売主が買主を決める売買契約(入札法第 10 条・
│
第 27 条・第 28 条・第 36 条・第 40 条・第 46 条参照)
│
└
競
売
=
公開価額競争の形式により、特定の物品又は財産権
利を最高価額申込人に譲渡する売買契約4
(競売法第 3 条参照)
(4) 見本売買
以上の売買契約類型の内、契約書の記載だけでは売買目的物の形状・性質等の特定
が困難な場合に、かかる特定を確実かつ簡便にできる売買手法として見本売買がある。
見本売買とは、当事者間で売買目的物の品質を約定するにあたり見本を設定し、当
該見本と同等の品質を有する物を売買目的物とする売買契約である。例えば、布製テ
ーブルクロス 1,000 枚を購入する際に、当事者間で見本となるテーブルクロスの布地
を選出し 5、かかる見本と同品質のテーブルクロスを売買目的物とする場合である。
そこで、目的物引渡の際において、当該目的物が見本と同品質の物かを確認するこ
とを可能とするため、当事者は見本を封印保管しなければならず、また、当該見本の
品質につき説明を付すことができる(契約法第 168 条)。
なお、買主が見本に隠れた瑕疵があることを知らない場合、引渡された売買目的物
が見本と同等の品質であっても、当該目的物は同種の物が通常有する品質基準を満た
さなければならない(契約法第 169 条)。
以上のように、見本売買は、見本が確定されていれば、売買目的物に関する専門的
知識がなくとも当該見本と同等のレベルの物を売買目的物とすべきことが法的に保証
される売買手法であり、見本の設定の仕方次第では活用の余地が広い売買手法といえ
よう。
4
入札との対比において競売の意義を説明すると、「売主にとって最も有利な購入条件を示す者と売買契
約を締結するため、一定の場に出品された物品の購入希望者に購入条件をその場で提示させて競わせ、
提示条件により売主が買主を決める売買契約」ということができよう。
5
見本は常に売買目的物と同じ物である必要はない。テーブルクロスの例でいえば、当該テーブルクロス
の材質と色は見本と同等とし、テーブルクロス全体のデザインと大きさは別途仕様書で決めるというこ
とも可能である。
9
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25.売買契約その 2~売買目的物に関するルール 1
(1) はじめに
売買契約の主要な目的は、第一に買主が目的物の所有権を取得することであり、第
二に売主がその対価たる売買代金を取得することにある。
そこで、契約法においても、売買目的物及び売買代金について詳細な規定がなされ
ている。売買代金については後述することとし、ここではまず売買目的物について説
明する。
(2) 売買目的物の権利の帰属
売買目的物は、売主の所有に属するか、又は売主が処分権を有する必要がある(契約
法第 132 条)。売買契約自体は当事者の約定により発生する権利義務(債権)であり、売
買目的物の帰属がどのような状態でもかかる約定は可能であるが、その権利義務の内
容として、売主は買主に売買目的物の所有権を移転するという義務がある以上、かか
る義務の実効性確保のため、売主が売買目的物の所有権を有するか、又は処分権を有
することが前提となるからである。
売買目的物については、以上のように売主に所有権又は処分権があることが前提と
なるが、このことは、当該目的物と第三者との関係において見ると、買主の売買目的
物の権利取得を確実として取引の安全を図るため、売主は売買目的物について第三者
が買主に対して何ら権利を主張しないことを保証する義務を原則として負うこととな
る。但し、買主が売買契約締結時に第三者が当該目的物に権利を有していることを知
っていた場合、又は法令で別途定める場合 6には取引の安全を図る必要はないため、か
かる義務は負わない(契約法第 150 条・第 151 条)。
また、売買目的物に対して第三者が権利を有する可能性が高いことを証する証拠が
ある場合、買主は、売主が相応の担保を提供しない限り、相応の代金支払いを留保す
ることもできる(契約法第 152 条)。
(3) 売買目的物の所有権移転
売主は、買主に目的物又は目的物受領のための証書を引き渡すとともに、目的物の
所有権を移転する義務を負う(契約法第 135 条)。売買目的物の所有権は、別途法令・
当事者の約定で定める場合7を除いて、目的物を引き渡す時に売主から買主に移転する
(契約法第 133 条)。
なお、知的財産権の含まれるコンピュータ・ソフトウェア等を売買目的物とする場
合、別途法令・当事者の約定で定める場合を除いて、当該知的財産権は買主に帰属し
ないので注意すべきである(契約法第 137 条)。
6
例えば、抵当権設定者が抵当権設定登記済み不動産を第三者に譲渡する場合。なお、譲渡人は、譲受人
に抵当権設定の事実を告知する必要がある(担保法第 49 条)。
7
例えば、買主が代金支払いその他の売買契約上の義務を履行しない場合、売買目的物の所有権は売主に
帰属すること(所有権留保)を約定できる(契約法第 134 条)。
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26.売買契約その 3~売買目的物に関するルール 2
(1) 売買目的物の引渡
ア.引渡期限
売買目的物の引渡期限について契約法の規定をまとめると、次の通りである。
【図 24】
引渡期限
├
│
契約で引渡期限を定めた場合
⇒
期限までに引渡し(契約法第 138 条)
│
├
│
契約で引渡期間を定めた場合
⇒
期間内に随時引渡し(契約法第 138 条)
│
├
│
契約で引渡期限・引渡期間を定めない場合・不明確な場合
⇒
①
協議の上補充合意で決定(契約法第 61 条)
│
↓
│
②
①で決定できない場合、契約の関連条項・取
│
│
引慣行で決定(契約法第 61 条)
│
↓
│
②で決定できない場合、契約法第 62 条第 4 号で
│
決定
│
├
債務者
│
│
⇒
│
│
│
│
│
└
│
債権者に必要な準備期間を与え
随時履行可能
債権者
⇒
│
債務者に必要な準備期間を与え
随時請求可能
│
└
契約成立前に買主が売買目的物を占有している場合
⇒
契約の効力発生時が引渡し時(契約法第 140 条)
イ.引渡場所
売買目的物の引渡場所について契約法の規定をまとめると、次の通りである。
【図 25】
引渡場所
├
│
契約で引渡場所を定めた場合
⇒
当該場所で引渡し(契約法第 141 条第 1 項)
│
11
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└
契約で引渡場所を定めない場合・不明確な場合
⇒
①
協議にて補充の合意で決定(契約法第 61 条)
↓
②
①で決定できない場合、契約の関連条項・取
│
引慣行で決定(契約法第 61 条)
↓
②で決定できない場合
├
│
目的物の輸送が必要な場合
⇒
売主は第一番目の輸送請負人に
│
引渡し、輸送して買主に引渡す
│
(契約法第 141 条第 2 項第 1 号)
│
└
目的物の輸送が不要な場合
├
当事者が契約締結時に目的物が
│
特定の場所にあることを知って
│
いる場合
│
│
⇒
当該場所で引渡し
(契約法第 141 条第 2 項第 2 号)
│
└
当事者が契約締結時に目的物が
特定の場所にあることを知らな
い場合
⇒
売主の契約締結時の営
業地で引渡し
(契約法第 141 条第 2 項第 2 号)
ウ.数量超過・不足の目的物引渡
引渡す売買目的物の数量が約定より超過又は不足となる場合の処理方法をまと
めると、次の通りである。
【図 26】
引渡数量の過不足
│
├
│
契約で約定した数量に足りない数量を引き渡した場合
⇒
契約の不完全履行として違約責任が生じる 8
│
(契約法第 107 条)
│
8
もっとも、買主の利益を侵害しないには、買主はかかる引渡しを拒絶することができないことに注意す
べきである(契約法第 72 条)。
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└
契約で約定した数量を超過する数量を引き渡した場合
├
買主が当該超過部分を受領した場合
│
⇒
買主は契約の価額に従い代金支払が必要
│
(契約法第 162 条)
│
└
買主が当該超過部分を受領拒絶した場合
⇒
買主は遅滞なく売主に通知が必要
(契約法第 162 条)
エ.分割引渡
売主が買主に売買目的物を分割して引渡す債務において、一部の目的物が約定に
符合しない場合の取り扱いをまとめると、次の通りである。
【図 27】
売買目的物の分割引渡において、1 回分の目的物を引渡さない場合
・引渡しが契約の定めに合致しない場合
├
│
補正により契約の目的を実現できる場合
⇒
約定に合致する引渡しを履行する
│
├
当該回分の目的物が契約の目的を実現できなくなった場合
│
├
当該目的物と他の各回の目的物が相互依存してい
│
│
る場合
│
│
⇒
│
│
│
│
│
└
│
買主は引渡済・引渡前の各回の目的物に
つき解除可能(契約法第 166 条第 3 項)
当該目的物と他の各回の目的物が相互依存してい
ない場合
│
⇒
買主は当該回分につき契約解除可能
│
(契約法第 166 条第 1 項)
│
└
残りの各回の目的物の引渡しが契約の目的を実現できなく
なった場合
├
当該目的物と他の各回の目的物が相互依存してい
│
る場合
│
⇒
│
買主は引渡済・引渡前の各回の目的物に
つき解除可能(契約法第 166 条第 3 項)
│
└
当該目的物と他の各回の目的物が相互依存してい
ない場合
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⇒
買主は当該回分・残りの各回の目的物に
つき契約解除可能
(契約法第 166 条第 2 項)
オ.売買目的物の包装方式
売買目的物の包装についての規定をまとめると、次の通りである。
【図 28】
包装方式
├
│
契約で包装方式を定めている場合
⇒
契約の定めによる(契約法第 156 条)
│
└
契約で包装方式を定めていない場合・不明確な場合
⇒
①
協議にて補充の合意で決定(契約法第 61 条)
↓
②
①で決定できない場合、契約の関連条項・取
│
引慣行で決定(契約法第 61 条)
↓
②で決定できない場合
├
│
一般的な包装方式がある場合
⇒
│
└
一般的な包装方式による
(契約法第 156 条)
一般的な包装方式がない場合
⇒
目的物を保護するに足りる包装
方式による(契約法第 156 条)
(つづく)
(山田美好・弁護士(上海))
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三.上海法務事情
**************************
1.「上海市中小企業発展促進条例」の施行
6 月 1 日から、
「上海市中小企業発展促進条例」が施行される。これは、中小企業の経
営環境を改善と健全な発展を目的として 2003 年 1 月 1 日から施行された「中小企業促進
法」を上海にて具体化するための地方法令である。
(1) 「中小企業」の概念
「中小企業」の範囲については、2003 年 2 月に公布された国の通知によれば、主な
業種について、次のとおりである。
従業員数
中国
中型
売上額
小型
中型
資産総額
小型
中型
小型
工業
~2000 人
~300 人
~3 億元
~3000 万元
~4 億元
~4000 万元
建築業
~3000 人
~600 人
~3 億元
~3000 万元
~4 億元
~4000 万元
小売業
~500 人
~100 人
~1.5 億元
~1000 万元
卸売業
~200 人
~100 人
~3 億元
~3000 万元
ちなみに、日本の中小企業基本法による分類は、上記に対応する範囲で、次のとお
りである。
日本
従業員数
中小企業
資本金
小規模
中小企業
製造業
~300 人
~20 人
~3 億円
建設業
~300 人
~20 人
~3 億円
小売業
~50 人
~5 人
~5000 万円
卸売業
~100 人
~5 人
~1 億円
小規模
このように、中国でいう「中小企業」は、大まかに見て、日本のそれよりも、10 倍
程度大きな規模の会社までを含む概念であり、非常に範囲が広い。これは、中国の人
口が日本の 10 倍以上あり、また、中国では、従来は労働集約型の産業が多かったこと
に照らすと、一定の合理性を有する差異だといえる。
中国における日系企業は、この中小企業に含まれる場合が多いといえる。
(2) 条例の内容
条例では、まず、創業支援として、創業園区を建設して経営場所を提供することや、
資金援助、財政補助等を実施するとされる。また、中小企業が「集合債券」を発行し
て資金調達をすることや、非上場企業の株式(持分)の取引促進機制の整備が規定さ
れている。
従来は、外商投資企業には、税制面を含む、様々な優遇策があったが、2008 年に企
業所得税の一般的な優遇がなくなり、さらに、昨年 12 月からは、都市保護建設税や、
教育費附加の、外商投資企業への免除が廃止されて、「内国民待遇」となった。
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中小企業支援策は、元々中国の民間企業の発展を目指して行われているものである
が、建前上は、外商投資企業への適用は排除されないため、今後は、内資企業と同様、
中小企業支援策を受けられる条件があれば、これを積極的に活用すべきであるといえ
る。
2.「上海市養犬管理条例」の施行
本稿 2 月号で紹介した同条例が、5 月 15 日に施行された。
2 月の公布時に未定であった管理サービス費用は、内環路以内が 500 元、それ以外が
300 元、農村部は 100 元となるほか、去勢犬はその半額と定められた。また、予防接種
費用は輸入ワクチンが 60 元、国産ワクチンが 40 元、鑑札(IC チップ)は 60 元とされる。
従来、内環路以内で毎年 2000 元の登録費用がかかったのと比べると、大幅な減額である。
なお、新制度の導入に合わせて、
「上海市飼
犬情報管理システム」9が立ちあげられ、オン
ラインで、予防接種の予約等ができるように
なった。筆者が実際に使ってみたところ、ユ
ーザー登録の上で、飼主と飼犬の各種情報(住
所地ごとに管理するため不動産権利証の番号
も必要)を入力すると、簡単に登録ができた。
後は、指定の日に予防接種を受けて、身分証
明書、賃貸借契約書等の必要書類を持参して
登録手続を行うことになる。
この方法は、外商投資企業の各種認可手続や、就業証の更新等の際に、先にオンライ
ン申請を行って、後で書類原本を持参するという、近時の行政手続のシステムと同様で
ある。
(山根基宏・弁護士(上海))
監
修:何連明・外国法事務弁護士(東京)
編集主幹:山根基宏・弁護士(上海)
編集協力:王嶺・弁護士(東京)、葉雋宜・パラリーガル(上海)
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http://www.ccar.org.cn/
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