日本の技文化見聞塾 教科書の内容予定 全巻揃うと【日本の技文化大観】になります。 第一章 金工 第六章 伝統的造型に光る 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 和鉄製法と洋鉄 刀剣 鍛冶職人と刃物 金工の技 造園と瓦 大工と木の職人 家を造る 彫刻 第ニ章 生活用品 第七章 習慣伝統と民具 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 第一回、 神事としきたり 第ニ回、 彫刻とその拵え 第三回、 人形と甲冑 第四回、 工芸と民具 最古の自然の技 自然素材の技 生活金物の技 ガラスの技 第三章 装いについて 第八章 職人芸 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 装飾品 鼈甲、真珠、簪、象牙、 古代布 染め物 織物 大道芸職人 チンドンなど 神事からの太神楽 大衆伝統芸 座敷芸 第四章 伝統と現代の狭間で 第九章 老舗 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 木製品と指物 民芸箪笥と工芸箪笥 運ぶ技と見せる技 和紙について 第五章 豊かさ 第一回、 第ニ回、 第三回、 第四回、 見ると聞く(楽器と写真機) 文化の香り 浮世絵 学ぶ道具 祭りと習慣 江戸前 寿司、テンプラ、ウナギ 江戸の菓子 城下町 誇り高き職人 第十章 特集 第一章 生活用品 第一回 最古の自然の技 自然の素材を活かして物を作る職人 職人技の原点 関連余談 縄の編み方 1 生活必需品は物々交換で 日本の職人です。 【自分の作品】 【誇りに付いて】 2 自然を愛した人達 マタギとサンカ 関連余談 山窩(サンカ) 生活の中から生れた昔の技 編組物は技の原点 1 編組物の各種自然素材 蔦類(つた) 【山ぶどう】 【マタタビ】マタタビ科 【アケビ】 【コクワ】(コクワ蔓・シラクチヅル・猿梨・ イカダムスビ)、マタタビ科 【藤】 【葛】 関連余談 秋の七草とは、 2 編組物の各種自然素材 草木類 最も身近な材料 【稲藁】(いなわら) 関連余談 昔の雨合羽 【茅と荻】萱場の植物 3 水辺や湿地にある植物 【蒲】(ガマ・御簾草 みすくさ)ガマ科 【葦】(あし・よし)イネ科 【マコモ】イネ科 関連余談 マコモタケについて 【菅】(すげ) カヤツリグサ科 【ヒロロ】 ※ スゲの仲間です。 関連余談 パピルス(カミガヤツリ) 【い草】(イグサ科 【杞柳】(きりゅう) 関連余談 水害とコリヤナギ 4 浮き草 【ホテイアオイ】布袋草 別名ウオーターヒヤシンス。 今回は写真が主役であり重要でした。 当会に植物の写真は全く無く、素晴らしいご研究の成 果を気持ちよくご協力頂きました先生や一般の方々に 心より感謝致します。 元 北里大学 薬用植物学 児島博士 岡山理科大学 生物地球システム学科 波田善夫先生 群馬大学 社会情報学部 社会統計学研究室 青木繁伸 先生 神戸市教育委員会 白岩先生 「木々の移ろい」梶本興亜先生 ・・・ 他、本教書の末尾にご協力者各位を一覧で掲載させて いただきました。 民間で活躍されている方々も多数おります。URLを掲 載しておきますのでご覧下さい。 第二章 生活用品 第1回 最古の自然の技 自然の素材を活かして物を作る 生活作品を作る職人の技は大きく分けて二種に分かれます。 基本となる技を中心にそのバリエーションを駆使して作る職人と、多種の技を組み合わせて作る職人がいます。前 者は、編組物(へんそもの)のように編むという技を変えずにそのバリエーションを駆使し作品を作ります。太古 の時代より連綿と続く技種が多く、まさに“技の王道”と言えるものです。ここから技文化がはじまり、様々な工 夫と生活での必要性から複合技に進化していったと思われます。後者は、例えば金工ですが、鍛金、切嵌、彫金な ど全く異なる製法で構成されています。 1.職人技の原点 太古の時代より今に伝わる技には、縄や焼き物・漆・古代布・そして 竹櫛などがあります。 職人技の原点と言うべき技は偶然性の発見ではなく、現在の職人文化 に繋がる経緯を考え、人間の工夫が明確に加わったものになると思い ます。例えば、焼き物ですが、初めから焼く知恵を持っていたはずは なく、火事やたき火の後に、その変化を発見したものです。縄を考え てみて下さい。“経験と知恵”と工夫により考えられた初期技であり 明らかに他とは異なります。それでは櫛を考えて見ましょう。竹の串 を縛るのに紐が必要です。従って当時の技として考えれば縄は偉大な る発明であります。又、全世界のどの地域にあっても不思議な事に、 全く同じ製法であり、自然の蔦(つた)から発想したものと思われま す。蔦をほどいて見ると分りますが、内がわに巻き付いていく力を感 じます。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -1 関連余談 縄の編み方 実際に手ぬぐいなどを使って編んでみましょう。まず2本の手ぬぐいを用意して下さい。2本の先端を押さえ てもらい、1本ずつ左にねじります。ねじった手ぬぐい2本をこんどは、右巻で縄状にしっかりとからめて下 さい。手を離します。互いにほどけようとする力が働き干渉してほどけま せん。この作業を一人の手で一気に捻りながら二本を巻き込んでいきます。 人類は全く同じ技法を誰から教わったと言う訳ではなく、地球の各地で同 じ発明したことは素晴らしいことです。どうも人間ゆえの“思考機能と動 機能”に一定の法則があるのかもしれません。さらに驚くことは製法が進 化せず今もって変わりません。 名工会ではこの“知恵とこの発見”に敬意を評し、“縄を綯う(なう)技” を人類の最初の職人技としました。因に日本職人名工会のマークは縄をモ チーフにしており、当会のデザイナー本田氏が考えたものです。 1.生活必需品は物々交換で 太古の人も、今の人も人間は一人で生きていく事はできません。 助け合う交流を土台にして活動をしてきました。土地に適した産物や得意な技で身近な物を作り人達と交換をして いました。集団生活の中では次第に、得意な技分野に分かれ、手先の器用な者が縄をなうといった専門分野に変っ ていきます。必要な技の全ては常に工夫し改良してきました。編む技も、しだいに面を編むことを発見し籠などが 作られます。軟質の材料で編む事が布に進化します。初期の布を原始布とか古代布と呼んでいますが、自然の材料 から繊維を取って編む布を言い“藤布や葛布”など現在も作られています。 全く同じ発想から身近に使える草木の繊維で“シナ布やクバ布”などもあります。布については別に機会をもうけ 勉強します。生活する為に、便利な集落を形成し商圏らしきものがしだいに生まれてきます。 土地にない珍しいものを欲しがるのは古代も変わりません。山里に住んでいる人達は動物を狩ったり籠を作ったり して、川辺や海辺の集落に下りて物々交換をします。作物を作るのに便利な場所に住み付く人も出てきます。 2.自然を愛した人達 マタギとサンカ 自然の中での生活をする人達は明治時代までいました。狩りを専門に行なう人達や、生活に適した場所を求めジプ シーのように移動生活をする人達です。前者をマタギ(狩猟の民)、後者をサンカ(移動する民)と言います。 近年、町場の人達から蔑視されてきたことや、法律外の生活もあり次第に圧力がかかり、町場に自然と吸収され消 えていきました。しかし彼等の真の姿は誇り高きプロの職人集団とも言える人達でした。 自然を相手にした各種の技は彼等の生活の中から生まれ、里に伝えられ今日の自然系の伝統工芸に繋がったと思わ れます。そう断言しても過言ではありません。囲炉裏(いろり)に鍋をかける自在鈎はサンカの発明ですが、特別 な神話とともに伝えられたものです。 “自在 鈎のかかった囲炉裏”はまさに田舎を象徴する 風景であります。サンカにしてもマタギにして も独特の文化を持っており厳しい戒律がありま した。 職人集団と思われるサンカの職業ですが多面に 渡り、個人の特性に合わせ、芸人、連歌師、山 の仕事、鍛冶屋、細工師、そして仕事をしなが ら全国を旅する人もいました。 箕を作っている山窩 『山窩社会の研究』より 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -2 独自の文字があり知性溢れる人達も多かったようです。マタギは狩猟の民で頭領がおり、様々な作業を分担し専門 に行う猟師がいて、その技を駆使し動物を狩ります。 自然の民は日本全国に分布し集落を作り、特にサンカは全国にネットを張っていました。 関連余談 山窩(サンカ) 山辺、川辺、そして海辺などに集落を作り、定期的に移動する生活をしていました。山だけでに住んでいたわ けではなく、学者の間では山窩と言う呼び名が“適切なのか”といった議論もあるようです。サンカが得意と する職種の中に文化的な部門(?)があり、そのひとつに連歌師がいます。後の時代の井原西鶴や俳句等に繋 がる源流と言われています。鎌倉から室町に流行った文芸の種で、参加した連歌師が長句(上句)と短句(下 句)を交互に詠んで百句続けます。 世界でも類をみない文学史上貴重なもので、今から500年ほど前にあった日本独自のものです。連歌師はサン カが多く当然、身分はいやしく低く見られました。 しかし、山窩の中には、その器量や知性から将軍や大名のそばに雇われ、高い地位に上りつめていった優れた 人が多数育っています。例えば、茶道の“茶筅作り”を考えたのが称名寺の住職 村田珠光ですが、実際に茶筅を考えて作ったのはサンカの連歌師 高山宗砌(そうぜい)です。連歌師が何故 茶筅かと不思議ですが、職人集団のサンカであれば作る事は可能です。 調べてみるとサンカの職業の中に確かに茶筅があります。このことは彼等が誇り高きプロの職人集団であった 証でもあります。現在の茶筅の地は昔鷹山といいましたが、高山宗砌の働きから高山にかわりました。出雲の 阿国(歌舞伎の開祖的な人)、斎藤道三もサンカと言った説もあるようです。山窩(さんか)やマタギについ ては、これからもふれていきます。 2.生活の中から生れた昔の技 最も古い“編むと言う技”のヒントとなった自然素材からまずは勉強しましょう。 編組物は技の原点 編組(“編む、組む”と書いて“へんそ”)と読みます。最近は“編み組み”と分りやすくしている県もあります。 笊(ざる)、籠(かご)、竹細工、ヒゴ細工、各種草木編組(ヒロロ細工、菅細工、稲藁細工、他)、つづら、明け 荷、イタヤ細工、簾と帚、杞柳細工、籐細工、他。 私達も技が発明される以前の時代を想像し、大自然の中での生活をイメージして見ましょう。 始めに衣食住が問題です。住居は洞穴とします。まず“何をするか”ですが、生活は自分の体を朝から晩まで動か さなくては何も作れません。又何も生まれません。目的を持って身近な山や川など周辺の地域をまず散策します。 とりあえず自生する食物を採取します。こうして様々な体験を重ね“知識と経験”を身に付けていきます。そのプ ロセスは“実践と言う体験”を土台に、次の目的を重ねて新たな挑戦をします。繰り返すことで失敗やら成功を重 ね知恵が備わり生活や“道具”を作る方式がまとまっていきます。 原始の時代、最も始めに必要となった道具は、採った物をまとめて持ち帰る為の縛る物です。 蔦を切って使います。潰れやすい果物であれば大きな葉を取って包み、軽く蔓で縛って束ねます。この蔓を取る為 に、絡みをはずす必要があります。この作業から縄を発明するヒントが生まれたはずです。もう一つ自然の中で生 活する場合、忘れてはならないことがあります。 危険や自然災害は、今よりはるかに多いはずです。野生の自然環境、蛇や熊、火山の噴火や地震、そして日食など 自然の天変もあり、今とは比べられないほど激しく脅威もありました。 反対に自然の恵みや暖かい気候などに対する感謝の気持ちも今よりはるかに大きなものです。 偉大な自然の力を恐れ、又、感謝をする繰り返しから、自然は心の拠り所になっていきます。 運命的な状況を自覚することで精神文化が生まれ“自然を崇拝する祈り”が自然発生します。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -3 こうした事例の一つですが、縄の発明は物を縛るだけではなく、権利を示す囲いにも使われます。品物を縛ること からひとつの所有権にも気付くはずです。縄で示す囲いを“縄張り”といいますが、 “犯してはならない”所場 を例え、ヤクザはこの縄張りを絶対な物として真似ています。 垣根なども囲う意識から発展した物です。 神聖な場所を区分する“習慣”が伝承として現代の中にも見られます。敷地の中に神聖な場所を備えたり、結界を 張る意味から仏壇のしめ縄があります。又、神社には外周を囲む垣根のように森(鎮守の森)があり、俗世と神が 降りてくる場所とを仕切っています。神社の古木には御神木として縄が巻いてあります。これも神が降りてくる場 所です。 家を立てる時、神主が来て祈る地鎮祭も縄張りの中に神の降りて頂く場所を作っています。 相撲の横綱(しめ縄の種)もおかされざる地位を示す物です。縄は“縄張りを示す囲いと縛る”目的を持っていま すが、縄は編むという作業から工夫され紐状から面状に広がり進化します。その結果、細い蔓(つる)を使って籠 (かご)を編むことが可能となり、しなやかな木は小割にして編みやすくするなどの工夫も発見します。 綺麗に作る美意識や“見映えを考える感情”が加わり飛躍的に進化します。 こうした編む技術が、当時そのままに伝承技として今日まで脈々と続いているのは実に楽しい事です。石器時代か ら各位の祖先が行なってきたわけですから、自分に置き換え過去に思いを馳せる事は意義有る事です。“未来に向 かう”以上にわくわくする冒険の旅であります。 美しい海、星空が輝き月の光は驚く程の光で輝き、透明感のある空気と風、そして咲き乱れる花々など今とは全く 違うはずです。そんなことを考えながら基本となる蔦から紹介致します。 1.編組物の各種自然素材 蔦類(つた) 代表的な蔦類は、山ぶどう 、マタタビ、アケビ、コクワ、藤蔓(ふじづる)、葛(くず)などです。これらの蔓 (つる)は強靱で、製品作りは蔓をそのまま使うことや、皮を剥いで使う場合、そして皮を剥いだ残りの芯材をさ らに均等に裂いて使うものなどがあります。 【山ぶどう】 山葡萄 山葡萄の蔓と葉 山葡萄篭 蔓の表皮が茶褐色になった頃に採取します。細い蔓のまま使う場合もありますが、皮を剥いで皮を使うことが多い ようです。 採取の最適な時期は、6月中旬∼7月中旬頃です。 外側の皮を一番皮と言いますが細工をすると野趣溢れた感じになります。二番皮は均等に裂いて使いますから揃っ ており作品は綺麗に仕上がります。作業に入る場合、一週間ほど水に浸し、しなやかにします。他の蔓との違いは 使い込むほど艶が出てきます。山葡萄は全国に分布し数種あります。 ヤマブドウ、タケシマヤマブドウ、チョウセンヤマブドウやシラガブドウ等です。 実はワイン用として栽培しているものもありますが、交配した雑種もかなりあり正確な種類は分りません。果実は 小さく低糖度で酸味が強いのが共通した特徴です。自然の味ゆえに加工した場合、大変美味しいとの事です。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -4 【マタタビ】マタタビ科 マタタビ、虫こぶあり 米とぎ笊 蕎麦笊 採取は職人ごとに決まった場所でマタタビが絶えないように採取する地域もあります。 ヒゴ作りは長さと太さを揃えますが、作業は蔓が乾かない生のうちに行います。蔓専用の道具で裂いて、皮と芯の 柔らかい部分は使いません。主に笊や籠を作ります。素朴なマタタビの籠は編み上がりの目がつまっていて綺麗に 仕上がり人気があります。製品が出来たら外気にさらし乾燥させます。 実は焼酎に漬けて健康酒とします。実は天木実(てんもくじつ)と言い漢方としても使われ血行を良くし、利尿、鎮 痛、強心、冷え性、神経痛、リュウマチなどの効果があります。 虫こぶとなって変形した実がありますがこれは「マタタビアブラムシ」という小さな昆虫によって出来るもので木 天蓼(もくてんりょう)と言います。ちなみに蔓(つる)は天木蔓(てんもくつる)いずれも乾燥した場合の漢方 名です。マタタビの実はネコ科の動物が大好きで、気持ちよさそうに酔って体を木や実に擦り付けたり噛んだりし ます。おもしろがって遊ぶ人もいるはずですがネコにとっては麻薬のようなものらしく身体の弱いネコには少しだ けにした方が良いという事です。 【アケビ】 アケビ アケビの実 ムベ アケビの籠 本州、九州、中国地方などに分布しています。ツル系の植物で山裾の南斜面にある木に巻きついたものが良質です。 採取は揚水が止まる11月から、始まる3月ぐらいの間です。作品は、蔓のまま使うことが多く、野趣溢れ心温ま る風合いのものが出来ます。バスケット、果物篭など、どちらかと言えばインテリア的な趣向の作品です。 日本には数種のアケビがありますが、土壌の水分含有の違いで繁殖する種類が変わるようです。アケビ、ミツバア ケビ、ゴヨウアケビ、シロバナアケビ,そして常葉(トキワ)のムベ(別名、トキワアケビ・イノチナガ・郁子) などがあります。アケビも自然交配で雑種が結構ある様です。細工はミツバアケビが適しています。 漢方では木を木通(もくつう)と言い、実を木通子といいます。乾燥させたものですが、様々な要因からくる“む くみの利尿剤”です。 実は甘くて美味しいのですが、黒い小さな種が沢山あって食べるのは結構面倒です。 若い葉は茹でてアクをとり、和え物などにします。実の厚い皮はそのまま生で食べられそうですが、かじってみる とニガウリ以上でとても口には出来ません。茹でて水で晒し、細目に切ってミソ油炒めにすると美味しく頂けます。 名前の語源ですが、果実は熟すと縦に綺麗に割れ“どうぞ食べて下さい”といった感じから、「開け実(アケ ミ)」と言う説があります。又、アケビ種に「ムベ」といった種がありますが普通のアケビのように割れません。 そこで“口が開く一般のアケビを「アケムベ」”と言う説もあります。口を空いた“あくび”の状態であると言う のもあります。いずれもアケビに変化したとのことです。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -5 【コクワ】(コクワ蔓・シラクチヅル・猿梨・イカダムスビ)、マタタビ科 山地に生える落葉の蔓性(つる)の植物。非常に強く、 吊り橋や筏を結ぶのに使われます。 籠などには皮の繊維を使って背負い縄、絆、頭巾等の原 料、弓の蔓、製紙原料としても使っていたとの事です。 実の大きさは2∼3 センチの広楕円形∼球形で食べられま す。味はまさにキウイと同じです。この日本のキウイは 毛が生えていません。楽しい情報ですからキウイを食べ コクワ コクワの実断面 直径2cm程度 た時など話の種にして下さい。キウイも“シナ猿梨”と 言う別名があり当然仲間です。マタタビの種ですから猫も酔っぱらいます。猿梨の実は焼酎に漬けたり、ジャムに する人もいます。疲労回復の効果があるそうです。 コクワ細工が少ないのは実を楽しむことから大切にしており必要以外はあまり切らないと言う人もいます。又、猿 梨の蔦の乾いた木は、太古の昔、火を起こす発火の擦り木として使ったようです。現存するコクワの蔓を使った吊 り橋があります。日本三大奇橋の一つ、徳島県西祖谷山村の「祖谷(いや)のかずら橋」(日本三大奇橋とは※) であり「猿梨のつる」で作られています。コ クワの蔓は火であぶると柔らかくなることか ら縛る事が出来るようになります。 ※ 日本三大奇橋・・「徳島県・かずら橋 (写真)、山梨県・猿橋、山口県岩国・錦帯 橋、」という説と「猿橋、錦帯橋そして栃木 日光・神橋」と言う説がありますが、奇橋と いった点では猿橋とかずら橋は別格であり上 の組み合わせがそれに適していると思われま す。日光の神橋は神秘的で美しい橋であるこ とは言うまでもありません。 徳島県西祖谷山村の 「祖谷(いや)のかずら橋」 かずら橋アップ 【藤】 山藤 藤棚 藤布 藤蔓はそのまま編む場合、アートなバスケットや籠が出来あがります。又、割ってヒゴを作り編むこともしますが 花がきれいなせいなのか余り見かけません。何と言っても繊維をとって作るアンギン(縄文時代の布)“古代布あ るいは原始布”の代表格である木であります。藤蔓は、日差しのあたる場所で、真っ直ぐに伸びた高い樹木に絡ん でいる蔓が上等とされます。マメ科の花であり美しく棚に這わせると、桜と同様に見事なもので、時代を超えて 人々に愛され、古い書物などにも多数紹介されています。又、踊りや浮世絵にも花見をする姿などが残っています。 豆のサヤが出来ますが食べたという話は聞きません。藤については身近なもので余り説明は不要と思います。しか し材料が手薄な為、貴重な生地となっています。現在も作られています。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -6 【葛】豆科 葛は、秋の七草(※)に数えられていま す。繁殖力の強い蔓で、都会地でも自 然が残る電車線路の土手や囲む金網塀、 人の入らない傾斜地の木などにからみ ついています。 夏から秋にマメ科の特有の赤紫のきれ いな花を付けます。これを鑑賞しない のは余りの繁殖力から嫌われているせ いなのかも知れません。 蔓の繊維からこれも原始布が作られて 葛の花 います。蔓のままバスケットやオブジ ェなども作ります。葛の根は、葛根 (かっこん)と言って有名な漢方薬で 葛の葉 す。又、根から、上質のデンプンがとれることから昔は盛んに行われ、20年物などの根は20cm前後の驚くほど太 いものでした。今はこうした大きな物はないそうです。取れるデンプンが本物の葛粉(くずこ)です。 子供の頃、風邪をひいた時などにお母さんがお湯に溶かした葛粉にお砂糖を入れて飲ませてくれました。トロッと したおいしいお菓子のような飲み物です。葛粉がうまくスーパーなどでも売っていたら作ってもらってみてはどう ですか。片栗粉の種ですが、本物であれば味は良いはずです。“黒蜜ときな粉”をかけて食べる美味しい“くずも ち”ですが、本葛粉を使っているのは吉野でもわずか数軒、あとは他の高級な澱粉を使っているそうです。江戸の くずもちは小麦粉などの上質な澱粉を使っています。もともと澱粉菓子の製法はどれも類似しており、因みに蕨餅 も同様で蕨の根っ子から取った澱粉のお菓子です。 葛の語源ですが、奈良には昔「葛村」と呼ばれているところがあり、今でも学校や駅名にその名残を見ます。又、 「国栖」と呼ばれる地域が吉野川上流にあり、万葉集には「国栖ら(クニスラ)」という言葉が出てくるそうです。 国栖らの人は川辺にいた当時の職人集団 サンカに近い人ではないかと思います。その証とも思える歌舞をしてい たという説や、草の根から澱粉をとって里に出て売っていたなどを聞くとどうもそんな感じがします。 この澱粉とその植物の名前を総称し「クズ」と呼んでいたという説です。有名な吉野葛ですが、スーパーなどで売 っているものは残念ながら本物は少ないとのことでした。 葛布 関連余談 秋の七草とは 萩(はぎ)、桔梗(ききょう)、葛(くず)、撫子(なでしこ)、尾花(おばな)、藤袴(ふじばかま)、女 郎花(おみなえし)を言います。 ※尾花とはススキのことです。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -7 2.編組物の各種自然素材 草木類 最も身近な材料 【稲藁】(いなわら) 俵 稲 実の一粒がお米になります。 藁 藁ぞうり 背負い鑿 稲はお米を作る植物で、その実を取った“葉や茎”の部分を乾燥したものが稲藁(いなわら)です。東京で唯一の ワラの職人“柳田利中親方”が“都会の子供達は藁を知らない”言っていました。近くの学校にワラ細工を教える 目的で出かけています。その時に必ず色々な種類の稲穂を持って行くそうです。実際に触って学ぶことは強い印象 が残るようで、子供達がや大学生や社会人になっても時々、町で呼び止められ御礼を言われるそうです。 藁は編みやすいのが特徴ですが、実際に編む段階は、藁打ちといって叩いて繊維をほぐし柔らかくします。今のお じいさん達の中には、子供の頃、役目としてやらされた人が沢山いるはずです。大正、昭和の中頃頃までは、どの 田舎でも、どの農家でも籠(かご)笊(ざる)や蓑(みの)そして敷物(むしろ)や藁草履(わらぞうり)などを 自作しているという話はよく聞いたものです。当時は子供でも草履程度は作れました。 因に藁草履とわらじは違います。わらじは旅に使う藁草履ですから、長い紐が付いています。足首にしっかりと結 び付けます。稲藁以外の草や竹の皮で作った草履やわらじもありますが、結局、稲藁が最も丈夫です。それと今迄 “イネ科”と言う植物が沢山出てきました。ススキ、マコモ、葦、茅、また、驚く事に竹や笹も全部お米の仲間で す。我らのお米は偉いやつだと感心します。 現在、ワラ細工を作る人がいなくなり、地域の工芸品になっています。75才前後のお年寄りとお話しをする機会が あれば、子供の頃に経験した“藁について”のお話を聞いてみて下さい。楽しいはずです。お年寄りの大切さも分 るはずです。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -8 関連余談 昔の雨合羽 昔は蓑(みの)と言って雨合羽のかわりに藁で羽織るものを編みました。 菅笠などと合わせての雨具です。浮世絵などを見ても笠をさしている人の 姿はほとんどありません。 江戸の末期にやっと番傘が出てくる程度です。番傘とは地域の番地を明記 したことから付いた名称です。因に長柄の傘は僧侶など特別な人だけしか 使えません。又、白い傘は武士が使いました。贅沢品であり色々な決まり も一時期あったようです。 ※ 因に、傘は中国から長柄の傘が伝承しましたが折りたためる傘を作った のは日本のようです。江戸の頃は海外にも輸出していたと言います。 蓑 それと菅笠ですが、奄美地方や沖縄には、スゲ笠と同じような笠があり ます。クバといって、ヤシ科のビロウの葉を使っています。パナマ帽に も使われています。又、繊維を取って布も作りました。 アダンの葉も刺をとって同様の使い方をします。アダンとはタコノキ科、 いずれも浜辺等にそよいでいます。パインのような実がなりますから御 存じの方もいるはずです。タコが立ち上がったような形の根が地上に出 ています。 クバ畑 クバ製品 アダン ビロウヤシ(クバ) タコノキ タコノキの実 竹の皮も菅笠と同じような笠を作ります。もちろん色々な編む材料として使われ草 履も作ります。竹の皮は昔は握り飯を包んだりもしました。肉屋さんで肉やコロッ ケを買うと竹の皮で包んでくれました。包んだ 後、端を少し裂いて紐にして縛ります。手早い 動きで子共の頃感心して見ていたものです。昔 から竹系の植物の葉で編んだ食べ物は腐りにく いと言われています。その後、竹皮が経木(き ょうぎ・木を削った物)に変わりました。現在 は経木も殆ど見なくなり淋しい感じです。昔は 納豆などを三角に包んでいました。 おむすびを竹の皮で包む おむすびを経木で包む(シナノキ) 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -9 【茅と荻】萱場の植物 ススキ・カヤ(オバナ) オギ 白川郷茅葺き作業 茅葺き屋根の家 「茅」かやとは(ススキのこと。萱の字も使う、オバナ・尾花)イネ科ススキ属 「荻」オギとはイネ科ススキ属、見てはススキであり間違える植物ですが、ススキより穂が密で豪華です。 この二つの茎は主に簾やヨシズ等組み物に使います。非常に硬く藁のように編むものには向いていませんが、葉は 細工に使います。しかしオギ細工をする人もいますが、効率が悪く職人が使うといった話は過去あまり聞きません。 簾(すだれ)職人の中には、水中の葦(よし)に対して、陸上の葦(あし)といった言い方をする人もいます。 茅葺きの材料としてはススキもオギも同じように使われます。草丈は2mを越え河原に多く見られます。オギは自 然の中では強い様ですが刈り取りに弱く、2回程刈られると勢いをなくします。逆にススキは刈り取りや焼く事で 翌年勢いを盛り返します。正反対の性質を持っています。すすきが原を萱場と言いますが、管理は一年に一回、火 を付けて焼き原にします。土地の風物詩となっています。 3.水辺や湿地にある植物 蒲(ガマ)・葦(よし・あし)・マコモはその代表格です。 葉は、ムシロやゴザ、背負い蓑(みの)。茎は簾(すだれ)、ヨシズ(日よけ)、簀の子(すのこ),葉で丸い座 蒲団などを作ります。現在も昔程ではありませんがこれらの材料を使いそれなりの作品を作っています。 【蒲】(ガマ・御簾草 みすくさ)ガマ科 御簾草の御簾とは簾(すだれ)の丁寧な言い 方で、部屋で使う高級な簾と考えて下さい。 因に部屋の仕切りとして使うもの外に下げる もの、縦にしてヨシズの様に使う物があります。 蒲の種類はガマ、ヒメガマ、コガマで、ほと んどの湿地帯で見られるのはヒメガマです。 若葉は食用になります。“蒲の穂綿”とは穂 先にあるソーセージの様な部分がふわふわの 繊維状に開花します。 大黒様の歌の中で『蒲の穂綿にくるまれば、 ウサギはもとの白ウサギ』とありますが、実 際に調べてみると、花粉等に薬効がありまん ざら嘘でもないようです。 又、蒲の穂は様々な“語源”となっています。 例えば、綿の代わりに使った時代もあって、 蒲 蒲の穂綿 布団を昔は蒲団(ふとん)と書きました。又、 魚のすり身を竹輪のように棒に巻き付け、その姿が蒲の穂や鉾のような形になり、すり身の加工品を総称して蒲鉾 (かまぼこ)と呼ぶようになり、蒲の字が使われています。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -10 蒲の穂綿は火を付ける時の火口(ほぐち・火種材)としても使われました。硝石や硫黄を混ぜて着火を良くさせ、 火打ち石の火花をこの火口(ほぐち)に点火させました。 ※ 火打ち石とは、マッチが無い時代のライターのような道具で、鋼の板と石をぶつけて火花を散らす道具。この 火口に引火させ、口でふいて火力を上げ“付け木”に移しそれを火種とします。石種は瑪瑙(めのう)、玉随(ぎ ょくずい)、石英、水晶、黒曜石などを使いました。鋼は出来るだけ炭素量が多いものが良いようです。 厄よけや縁起として出かける時に、火花で送る等の習慣もあります。 火打石 をぶっつけた火花 火打石 セット 【葦】(あし・よし)イネ科 「葦(あし)」,「葦(よし)」「芦(あし)」と書きますが全て 同じ植物です。簾、よしず、茅葺き屋根の下張りなどにも使います。 根は地下茎で長く這って大群落となります。水中の茎周りは藻類や 細菌が繁殖し、水の浄化をしているといいます。もっとも水辺の抽 水植物は少なからずこうした働きがあります。 茎は硬く中空で、高さは3m程になります。葦 原は水辺の自然の宝庫ですあり同時に波によ る浸食などから岸を守る役目もします。 古事記の中に葦船が出てきます。浮力が強い 事から実証する為のプロジェクトが日本にも 葦 いくつかあります。パピルスの船もあります から実戦することは意義ある活動と思います。 勿論大成功と言う事です。 よしず 【マコモ】イネ科 北海道から九州の湖岸や中域の河川などに大群生し2mほどの高さになります。 弥生時代までは、種子は食用としていました。今でも食用とする民族がいるよ うです。古くから茎葉を神社の祭事などに使う神の草として使われます。葉が 長い為、編み草として、蓑(みの)、筵(むしろ)などの生活用品も作ってい ました。古代では薬としても使われ重要な草であります。 漆芸の天才、且つ元祖とも言うべき存在の“玉楮象谷”の象谷塗には、 コモス と言って、マコモの茎に出来る粉を使い独特の梨地のような味を出しています。 コモスはイネ科の植物の病気とも言える黒穂菌に侵されることで出来るものです。 又、黒穂病が成熟し段階の胞子は油を加えてマコモ墨として“まゆ墨”に使っ たり、絵の具の代用として使っていたこともあります。マコモはそれだけでは なく実に有効な植物であり独自の「マコモ耐熱菌」と言われるものが培養でき、 その耐熱温度は1000度でも死なないということです。しかも人間の身体に良い とされ有効な研究が始まっていると言う事です。 マコモ 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -11 関連余談 マコモタケについて マコモタケとは食用として作る栽培種の茎の芯の部分を指して言います。タケノコではありません。現在、水 田で栽培され、秋の収穫期には株のところが「マコモタケ」と呼ばれるように太くなります。竹もマコモも稲 の仲間ですから名称も何となく納得できます。 自生しているものでは、太くなるのはあまりないようです。従って自然の改良栽培種であります。マコモタケ の種はイネ科の植物に共通する病気の一つ黒穂菌の寄生によって根元の部分が肥大すると言うわけです。中国 ではこの若い茎を菰角(こもづの)と言って食用にします。高級食材ですが、最近はスーパーなどにも並んで います。 マコモダケ マコモダケ用 田んぼ 三重県の農業改良普及センター 資料より 【菅】(すげ) カヤツリグサ科 世界中にある菅の種類は7000種90属と言われ日本にもかなりの種があります。 北海道から九州まで分布しており、余りに沢山あることから面白いらしく研究する人が結構います。東京にも80種 ぐらいあるそうです。都内の原っぱや家を壊した後の空き地などでも沢山見かけます。特徴としては、茎は枝も節 も無く直立しています。パピルスを小型にしたような三角の茎の種も見られます。現在、水田で育てているのはカ サスゲぐらいです。 名前の通りスゲカサ(三角な笠)を作ります。地域によっては蓑(みの・雨合羽、背負い蓑)を作ることからミノス ゲとも呼ばれています。スゲの草履は一日で壊れたと言う事ですが、昔の様に履いて歩く訳ではありませんからそ れはそれであります。最近は工芸品として動物の細工など小物も作っています。 菅笠 ミノスゲ(カサスゲ) 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -12 【ヒロロ】※ スゲの仲間です。 ミヤマカンスゲ(山菅)、オクノカンスゲを総称して土地の言葉でヒロロと言います。 ミヤマカンスゲ オクノカンスゲ ヒロロ細工 ヒロロ縄 ヒロロとは、只見川や伊南川地域などで呼ばれている名称です。山合の湿った所にミヤマカンスゲは自生します。 オクノカンスゲは寒さに強い種類で採取期が全く異なります。 ヒロロに限らずスゲの仲間の繊維は強くしなやかで材料としては最適です。その特徴を活かし繊細な織が出来る事 から、素晴らしいバックなどが作られています。 シナの木の硬い皮の内側にある繊維質の部分を糸にして、ヒロロと編み込んだりもします。 他にカラムシなどの植物の繊維、ミョウガ の繊維なども使われるようです。 ヒロロは多年草ですから翌年も出て来ます。 恵みを絶やさないために隔年採取をしてい ます。抜く時も足でヒロロの根元をふんで、 根元近い茎から長い葉を選んで抜きとります。 ヒロロ細工の基本は、1本の細い縄作りか シナノキの葉 ら始めます。縄の太さは3ミリほどで100 m前後なってから製作に入ります。昔から 農閑期の副業として営まれてきました。 シナノキ カラムシ採取 (チョマ・マオ・クサマオは同種) 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -13 関連余談 カヤツリグサ科の植物は歴史の中で主役でした。 パピルス(カミガヤツリ) カヤツリグサ科のパピルスは歴史の中で主役でした。北アフリカ及び中部アフ リカ原産で東ヨーロッパなどにも分布しています。大型の抽水植物で2∼3mほ どになります。昔は高さ5∼10mになり茎の太さが10cmほど大きくなるものが あったようです。薄い皮だけを剥がして並べて乾燥し紙状にしたことから、紙 の原点とも言われます。従って紙とは作り方が全く異なりますが、papyrusが paperの語源となっています。因に、紙の変わりに使われていた古代の物として、 葉、竹簡、木簡、粘土板などがあります。 【い草 】イグサ科 長く美しいイグサだけで作った 最上級品 「ひげ」が揃った上級品 ヒゲ・両端の断ち切りの部分・ 長い程良い もっとも一般的な中級品 アパート・貸家などに使用される 普及品使用される普及品 畳表に使われます。北海道から沖縄までの日当たりの良い湿地等に自生している植物です。 世界に約300種、日本には50種前後あります。草の長さは1.5m前後です。 産地で作っている“い草”は自然種の栽培型です。 昔は広島(備後表)や岡山が有名でしたが、現在は熊本と福岡で国産の85%を占めています。 とは言え全体的にみれば、中国や朝鮮の輸入品に完全に押されているのが現状です。 イグサ畳の良いところは、い草の芯がスポンジのような組織であり、これが部屋の湿度を調整するといった働きが あるようです。畳の他に民芸品等を編んだりします。“縄のれん”もイグサの縄で作りますが、最近はビニールな ど他の材質でも作っています。和蝋燭(わろうそく)の灯芯も“い草”で作ります。皮を剥いだ中身を使います。 非常に熟練を要する作業で、これが出来るのは現在数名です。竹の串の周りにこの芯を巻き付けてその上から素手 で溶かした蝋を形よく巻き付けていきます。最後にこの竹芯を抜きます。この空間で対流が起きて自然に炎がゆら ぎます。煤は一般のロウソクと比べ極めて少ない為、お寺などでもよごれない事から使われます。葉には薬効があ るようですが強いものでは無く、従って青汁としては上等なものかも知れません。 い草畑 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -14 【杞柳】(きりゅう) 細く長い枝が湧き立つように上に向かいしなやかに伸びる柳田を見ると、細工をする為にあることがすぐにわかり ます。植物名はコリヤナギと言います。現在、兵庫県の豊岡の伝統工芸品として伝承しています。 細工は昭和の中期ぐらい迄、どの家にもあった籠箱“行李(こおり)”が代表的な物です。 カビが“発生しにくい”ことと“虫が付きにくい”ことなどの特徴から季節の着物を詰めておくのに最適です。行 李の蓋は下籠に対し二重にかぶるほどの深さがあり、入れたものが下篭から盛り上がってきても蓋が深いので沢山 入って便利です。基本的な大きな行李の寸法は80cmほどの長四角で、小さい物は弁当入れの“飯行李”まで各種 あります。行李箱というと旅行の鞄のような物であること、そして行と言う字から考えて移動用の軽量な籠であっ たと思われます。引越しなど物を運ぶ時も非常に便利です。着物を入れた場合、樟脳(しょうのう・クスノキから 抽出する防虫剤)を入れ押し入れにしまいました。翌年の虫干しは樟脳くさくて気になったなどはよくある話でし た。艶やかで美しい事から作品は幅広く、バスケット、大小の行李、 旅行用トランクなど、籐細工のようなものまであります。コリ柳だけ ではなく竹等でも作られていました。しかしコリヤナギというくらい ですから本家と思われます。歴史ですが、編組物は太古の昔からあり、 どの地方でも残っている記録がその歴史になっています。 コリヤナギは外来種ですが各地域に繁殖し、工芸材とされてから産業 として始まったはずですから相当古いはずです。豊岡が1200年前と言 う事であれば、それ以前からあったと思われます。 外来文化の窓口のほとんどが朝鮮半島からで、コリヤナギも同じルー トで入ってきた植物と言われます。 W47cm×D33cm×H19cmの中形の行李。 生産地としては日本一が兵庫の豊岡、次いで岐阜県、他には静岡県な どで、その他、各地で小規模に作られていたようです。とは言っても 今は全ての職人数を合わせても10名前後であります。しかし豊岡では 広く作る人を育てその成果が上がっています。 コリヤナギ コリヤナギ 関連余談 水害とコリヤナギ 岐阜県での話ですが、明治の頃、長良川と糸貫川の間の生津地域は、毎年水害があり産品が駄目になって住民 は生活が成り立たず大変でした。この土地の西掘弥市はこの問題と取り組み、考えたのがコリヤナギを植えて 編む事でした。コリヤナギは水害程度では全く影響が有りません。 結果として“行李”製作がこの村を救います。1927年当時が最盛期で800人前後職人が従事し欧米にもかなり の量を輸出して隆盛をきわめていました。今は確か一人しかいないはずです。 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -15 コリヤナギは水辺の植物であり、その地域は環境から昔は水害の問題がありました。 兵庫の産地、円山川地域も川辺ですから同じような境遇で、地域の産業として当時は盛んでした。 時代が変わり、もう一つ大きな問題が浮上しました。自然材料の採取ですが、川辺の地域は山間部と違い開発が早 く、その影響が出てきます。豊岡においても例外ではありません。現在の対策は、職人さんが自ら田んぼで栽培し 補填しています。栽培法ですが、コリヤナギの細い脇枝を秋に刈り取り、春に数本ずつまとめて田の土に挿して 植えます。それゆえコリヤナギの栽培は燃え立つようにそよいで正に編む材料として見えたわけです。新芽を出 す程度まで待って採取します。理由は皮と茎が剥がれやすい為です。 製法は、皮を剥いた枝を使います。きれいに洗い陰干しをして夏の終わり頃に素晴らしい材料が仕上ります。 コリヤナギの性質は、水分を含むと柔らかくなり乾くと硬化すると言う事で、この性質を利用して細工をします。 ※ 兵庫は有名な鞄の産地ですが、これも杞柳細工のトランクから始まったそうです。 4.湿地や野原にある植物 【ホテイアオイ】布袋草 別名ウオーターヒヤシンス ホテイアオイ ホテイアオイの花 日本でもこれが増えすぎて、やっかいな害草になっている地域もあるそうです。 水に浮いてプックリと膨らんだ可愛らしい葉と奇麗な花が咲くあの植物です。金魚鉢に入れると綺麗ですね。数年 前、これを駆除する為に水辺に上げた布袋アオイの根というか茎が乾燥し強い蔦になっていることから、これを見 たタイの人が副収入として考え出した素材です。 一村一品運動のような発想ですが、ともかく軽くて丈夫であることからバッグを作ったり、シートなどを編み始 めました。日本でもカウチソファーなどに既に使っています.座り心地も良いそうです。 ※ 自然の中に、まだまだ発見できるものがあると言うことを知らされました。 ウオーターヒヤシンスの材 布袋アオイの根 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -16 日本の職人です。 【自分の作品】 職人が道具や作品を作る場合、使いやすい物や“今より良いもの”を常に心掛けて作ります。 単なる作業とは異なり、気持や自分の思いを作品に活かせるのは自分しかいません。 ゆえに“自分が作ったと言う誇りと技の歴史を継承する誇り”を持っことが職人の気概です。それがなければ量 産品でも、誰れが作っても良いと言う事になります。 【誇りについて】 頑固な父でした。常に“職人が作る工芸とは何か”を考えていました。 「芸術性や創造性ばかりに興味を持ち、作家を自認する人が多くなり“自分と 作品の見せ方”ばかりを考え実に軽薄な感じがする。職人として誇りを持たなければ・・」 というのが父の口癖でした。 父の腕は、こうした人達の芸術品よりはるかに生命観に溢れ、美しいと言われます。 頑固な父でしたが私の誇りであります。 ご協力頂きました各位をご紹介致します。有難うございます。 岡山理科大学 生物地球システム学科 波田善夫様 群馬大学 社会情報学部 社会統計学研究室 青木繁伸先生 元 北里大学 薬用植物学 児島博士 神戸市教育委員会事務局 白岩先生 「木々の移ろい」梶本興亜 「禁煙と健康のページ」http://www.kymrtc.net/ 秋田県鹿角市 阿部 満様 北海道 日高セカンド村 河原 一栄様 参考写真(打診中であり、現在会員用の教書にのみ参考にお借りしています。) 参考文献 『サンカ社会の研究』三角寛(絶版、現代書館より復刊) 第二章 生活用品/第一回 最古の自然の技 -17
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