「海洋安全保障シンポジウム」開催 海洋政策研究財団は、10 月 24 日

「海洋安全保障シンポジウム」開催
海洋政策研究財団は、10 月 24 日(土)
、横浜港大桟橋に停泊中の護衛艦「ひゅうが」の
艦内において、防衛省と「海洋安全保障シンポジウム」を共催した。本シンポジウムは、
翌 25 日に海上自衛隊によって挙行された観艦式の事前行事の一環として実施されたもので
あり、防衛省と民間財団が護衛艦を会場としてシンポジウムを共催する初めての試みとな
った。
シンポジウムは、午前の第1部「海洋安全保障のための国際協力」と午後からの第2部
「経済大動脈の安全確保に向けた取組み」の二部構成として実施され、それぞれに 120 名
を超える聴講者が参加し、活発な意見交換がなされた。実施後、発表者および聴講者から、
時宜に適したトピックが取り上げられ、内容も充実しており極めて有意義で参考となった
との所見が多く寄せられた。
実施の概要
1
第1部「海洋安全保障のための国際協力」
第1部は、今日のグローバル経済を支える海上交通路の安全確保などを含む海洋安全保
障のための国際協力の在り方を討議することを目的として実施された。冒頭、防衛省海上
幕僚監部防衛部長の武居智久海将補が、
「グローバルな海洋安全保障における協調的行動の
意義-地域安全保障へのインプリケーション-」と題して、海上自衛隊と海洋安全保障協
力について基調講演し、それを受けて、拓殖大学大学院の森本敏教授の司会のもと、在日
米海軍司令官リチャード・B・レン少将、在日本国英国大使館付国防武官ギャレス・デリ
ク大佐、ヴァンダービルト大学のジェームズ・アワー教授、慶応義塾大学の阿川尚之教授、
外務省総合政策局の石井正文参事官、防衛省の高見澤將林防衛政策局長の 6 名のパネリス
トが活発に議論を交わした。
基調講演において武居部長は、海上交通が日本の生命線であることに変わりはないが、
海運界のグローバル化が進む一方で海上交通への脅威も多様化し、海上交通路周辺の地域
にはテロや国内紛争あるいは国家間紛争が顕在しおり、海洋安全保障のための国際協力が
求められているとし、グローバルな海洋安全保障への協力と協調を通して地域の安全保障
環境を改善することの必要性を強調した。
これを受けて、レン少将は、アメリカ海軍はかつての 600 隻海軍構想から今や 250 隻海
軍となっており、グローバルな海洋安全保障のためにはグローバル・マリタイム・パート
ナーシップの具現化が必要であるとし、現在ソマリア沖で実施されている多国間海賊対処
はその良い例示であると述べた。デレク大佐からは、ソマリア沖での NATO 軍をはじめとす
る多国籍海軍による海賊対策は効果的であり、海上自衛隊の参画を大きく評価するとのコ
メントがあった。
アワー教授は、今日の多様化する脅威には国際協力が必須であり、米海軍艦艇の減少傾
向を考慮した場合、日米同盟の強化が重要であると述べ、阿川教授は日米同盟が中核とな
って国際海洋安全保障協力を推進することの必要性を強調した。石井参事官は、日本のシ
ーレーンのすべてを防衛するための方策、海賊問題の根源への対処の方策、シーレーン防
衛の国際的なルール作りの三点を考えることが重要であると指摘し、高見澤防衛政策局長
は、日本のトータルな力の有効活用として、海上自衛隊、海上保安庁、民間商船界の協力
態勢が重要であるとし、インターオペラビリティーを図ること、経験を共有すること、情
報を共有することの必要性を述べた。
2
第2部「経済大動脈の安全確保に向けた取組み」
第2部では、ソマリア沖の海賊取締りを取り上げ、海上自衛隊、海上保安庁及び商船界
がどのように連携して海上交通の安全確保に努めるべきかについて、海洋政策研究財団の
秋山昌廣会長の司会のもとで議論した。
先ず、日本船主協会の半田收常務理事が、海賊事件が多発するアデン湾を商船がどのよ
うに通過しており、海賊被害を避けるためには何が必要か等について、概要以下の通り陳
述した。
-日本船主協会
半田收常務理事のプレゼンテーション
・スエズ運河を経由して欧州とアジアを結ぶ海上交通の要衝であるアデン湾は、長さ約
1,000km、幅約 400km と長大で、海賊対策が極めて講じ難い海域である。ちなみに、マラ
ッカ海峡の長さは約 500km、幅は約 140km である。アデン湾は年間約 2 万隻の船舶が通
航しており、そのうち日本船主協会加盟船舶は約 2,100 隻である。
・アデン湾では、2008 年に 92 件、2009 年 10 月 15 日までに 119 件の海賊事件が発生し
ており、そのうち日本企業に関係する船舶は 2008 年が 12 件、2009 年 10 月 15 日までが 1
件である。海賊は梯子を掛けて乗り込みを図るが、逃走する船にはロケットランチャー等
の重火器で攻撃を加える。攻撃された船体には弾痕で無数の穴があき、船橋のガラスが破
壊されることもある。
・海運業界では、アデン湾に設定された安全回廊を位置通報をしつつ通航し、海賊情報
があれば、有志連合軍に救助を要請するようにしている。また、護衛を受けやすくするた
め船団航行方式に加わるよう努めている。しかし、安全回廊は長さ約 900km、東京から博
多までの距離ほどあり、護衛艦艇が十分にあるとは言えない。アデン湾を避けて喜望峰回
りとすると、スエズ運河経由に比べて約 6,500km、日数にして 6~10 日ほど増えることに
なり、経済的にもアデン湾を通航せざるを得ない船舶の方が多い。
・日本船主協会は、昨年、日本政府に具体的対策を早急にとることを要望、2009 年 3 月
に海上警備行動により海上自衛隊の艦艇が海賊対処のために派遣され、7 月には海賊対処の
新法が制定されるに至った。
・海上自衛隊の護衛活動は内外から極めて高く評価されている。直接護衛方式、スケジ
ュールの正確性などから護衛船団への海賊行為は皆無であり、護衛を受けた船舶から多く
の感謝状が寄せられている。海賊問題の根本的解決はソマリアの自立と安定であるが、短
期的に難しい状況に鑑み、護衛活動の継続は必要である。
上記発表を受ける形で、防衛省海上幕僚監部指揮通信情報部長の吉田正紀海将補と前派
遣海賊対処行動艦艇部隊指揮官の五島浩司1等海佐・前派遣海賊対処行動航空部隊指揮官
の福島博 1 等海佐そして海上保安庁の鈴木洋警備救難部管理課長から、海上自衛隊と海上
保安庁による海賊対処の現状が紹介された。
-海上自衛隊からのプレゼンテーション
・スエズ運河から日本に至る約 13,000km のシーレーンは日本経済を支える大動脈であ
り、海賊多発海域を避けて喜望峰回りで運航すると、約 6,000km、10 日間ほどの航程増加
となることから、海賊対処のための船舶の護衛は必須である。
・海賊対策には国際的な取り組みが必要であり、国連安保理決議に基づき、EU 諸国海軍
部隊、アメリカを中心とする有志連合諸国、中国、ロシア、日本などの独自に活動する部
隊等が、アデン湾・ソマリア沖での海賊対策に当たっている。
・海上自衛隊の艦艇部隊は、ジブチを基地として、護衛艦 2 隻により派遣以来 338 回に
及ぶアデン湾での安全回廊における船舶の直接護衛を実施している。海上警備行動下にお
いては、日本関係船舶(日本籍船舶、日本人乗船船舶、日本の船舶運航事業者が運航する
または日本の積荷を輸送する日本にとって重要な船舶)を、また海賊対処の新法「海賊行
為処罰及び海賊行為への対処に関する法律」の成立後は、日本関係船舶以外の船舶につい
ても護衛している。
・海賊船は漁船に似ていることなどから見つけだすことは非常に難しく、他の国の派遣
海軍部隊等との情報交換が必須である。それでも、護衛開始以来、当該海域における日本
関係船舶の被害はなく、対処は有効であると考えている。護衛した商船から多くの感謝の
メッセージが寄せられている。
・航空部隊は、ジブチに P-3C2 機を派遣して 2009 年 6 月から警戒監視を実施しており、
海賊船の疑いのある水上目標を水上部隊に通報している。
-海上保安庁警備救難部
鈴木洋管理課長のプレゼンテーション
・海上保安庁は、「海賊対策室」を設置し、海賊行為に積極的な対応を続けている。
・東南アジでは、1990 年代後半から海賊行為が急増した。1999 年にはアロンドラ・
レインボー号事件が発生、当時の小渕総理が ASEAN 首脳会議において海賊被害防止の
ための沿岸警備機関による会議開催を提唱し、2000 年に「海賊対策国際会議」が開催
され“アジア海賊対策チャレンジ 2000”が採択された。これに基づき、マラッカ海峡
で巡視船による哨戒を開始することになった。また、2001 年には南シナ海で官民連携
海賊対策訓練が開始され、2009 年まで 16 回実施されている。さらに、2004 年に「ア
ジア海上保安機関長官級会合」が開始され、2009 年までに 15 回が開催されている。
・海上保安庁による東南アジア海域での海賊対策としては、①沿岸国の人材育成支援、
②情報収集・提供体制の構築・強化、③事案発生後の巡視船・航空機の派遣、があげられ
る。
・ソマリア沖・アデン湾の海賊対処としては、①海上自衛隊派遣護衛艦への「ソマリア
周辺海域派遣捜査隊」の同乗、②ソマリア周辺諸国の海上法執行能力向上のための人材育
成支援、③国際会議への参加、等を実施している。
・「ソマリア周辺海域派遣捜査隊」は、3 月の派遣から護衛艦に 8 名の保安官を同乗させ
ている。同乗保安官の任務は司法警察職員としての法執行であり、海上保安庁法第 31 条に
基づいて実施している(海上自衛官には海賊を逮捕する等の司法警察権はない)
。なお、海
上保安庁と海上自衛隊は、2 月に海賊対策合同訓練を実施しており、海賊対策における共同
を慣熟させている。
その後、ReCAAP 情報共有センターの伊藤嘉章事務局長から海賊の発生状況等が、
また、
海洋政策研究財団の小谷哲男研究員から海賊と海賊対策の歴史等が紹介され、最後に外務
省総合外交政策局の原田美智雄海上安全保障政策室長から日本としての海賊対策方針等が
述べられた。概要は以下のとおりである。
-ReCAAP 情報共有センター
伊藤嘉章事務局長のプレゼンテーション
・1990 年代、東南アジアで海賊行為が多発し、世界のアロンドラ・レインボーやテンユ
ウ号事件のように重大な事件も発生するようになった。マラッカ海峡は、世界の貿易量の
約 30%、原油の約 50%が通航しており、海賊対策が国際社会の大きな課題となった。2001
年、当時の小渕総理が ASEAN+3 首脳会談において ReCAAP 作成交渉を提案、2004 年に
初の複数政府間における海賊対策として情報共有センター(Information Sharing Center:
ISC)をシンガポールに設置する合意を得た。
・ISC は、①情報共有、②キャパシティービルディング、③他の関係機関との協力強化、
を三本柱とし、ReCAAP 加盟各国に設置された連絡窓口をフォーカルポイントとして、船
主、海運会社、税関、海軍、沿岸警備隊、等と組織的に連携するよう組織されている。
・ISC は、定期刊行物により海賊事案の報告・分析を紹介している。2004 年以降の傾向
として、海賊事案は減少しつつある。
・ソマリア沖の海賊対策には、ソマリア周辺諸国に ReCAAP の活動内容を溶解すると共
に情報共有センターの設置を支援するなどの貢献をしている。
-海洋政策研究財団
小谷哲男研究員のプレゼンテーション
・アメリカ合衆国独立後初の戦争となった 1801 年からのバーバリー戦争は、北アフリカ
で猛威を振るうイスラム海賊に対する戦いであった。海賊の歴史は長い。北欧のヴァイキ
ング、東アジアの倭寇、カリブ海のバカーニアなどが跳梁する歴史の中で、海賊の定義や
対応などが慣習的に定められていった。
・国際法上、海賊は「人類共通の敵」であり、公海上における私的目的のために行われ
る不法な暴力行為であり、すべての国家の公船に航海における警察権の行使と裁判権が与
えられている。
・現代、海賊の多発海域はマラッカ海峡、インドネシア群島水域、アデン湾、ソマリア
沖であり、西アフリカのナイジェリア沖あるいは中南米の沿岸域でも発生している。マラ
ッカ海峡周辺では、マラッカ協議会、海賊対策国際会議や ReCAAP などの多国間枠組み、
沿岸国に対する巡視船提供等の支援等、日本が主導する官民協力によって海賊は減少して
いる。アデン湾・ソマリア沖の海賊に対しては、日本船主協会の日本政府に対する要望等
を踏まえて、日本財団と海洋政策研究財団が「ソマリア沖海賊対策緊急会議」を開催する
など、日本としての対応の必要性の気運が高まり、海上自衛隊の艦艇・航空機が派遣され
て海賊対策に当たっている。
-外務省総合外交政策局
原田美智雄海上安全保障政策室長のプレゼンテーション
・アデン湾は欧州とアジア・中近東を結ぶ交通の要衝であり、年間 2 万隻が航行し、そ
のうち約1割は日本関係船舶である。当該海域に出没する海賊は、海賊母船で商船等を探
し、ねらいを定めて小型船に乗り移って襲う方式が一般的であり、ロケットランチャー等
で重武装し、人質を捕って身代金を要求する。
・国連安全保障理事会決議に基づき、欧米諸国、日本、中国、韓国、ロシア、インドな
ど 27 カ国以上の国・国際機関が艦艇や航空機を派遣して対応している。この他、ソマリア
沖海賊対策に関する安保理閣僚級会合、IMO ソマリア周辺海域海賊対策地域会合など多数
の国際的枠組みがあり、そのうちのソマリア沖海賊対策コンタクトグループ会合の第 4 回
会合は日本が議長国を務めた。
・日本では、2009 年 3 月に海上警備行動が発令され、海上自衛隊の護衛艦が派遣された。
6 月には海賊対処法が成立し、現在では同法に基づきすべての船舶を対象として護衛活動が
実施されている。10 月 19 日現在で、護衛実績は 330 隻に上る。P-3C も派遣され、各国海
軍に情報を提供しており、極めて効果的との国際的な評価を得ている。
それぞれの発表は 10 分程度で時間の制約はあったものの、要点を絞った簡潔なブリーフ
ィングでソマリア沖の海賊対策の全体像を把握することができ、聴講者を交えての意見交
換や質疑応答が活発になされた。
シンポジウムの構成は別紙の通りである。
海洋政策研究財団と海上自衛隊では、本シンポジウムでの発表・質疑応答を要約した冊
子を作成中であり、関係各部と希望者に配布する計画である。
シンポジウム当日、横浜港大桟橋にイージス艦「こんごう」(手前)と共に停泊する「ひゅ
うが」(左側)
「ひゅうが」艦内で実施中のシンポジウム
別紙
防衛省・海洋政策研究財団共催「海洋安全保障シンポジウム」
第1部「海洋安全保障のための国際協力」
1
目
的
海上自衛隊が、日米同盟を基盤としつつ、インド洋や中東地域への関与を拡大して
いる今日、わが国海上交通の安全確保にも直結するグローバルな海洋安全保障の推進
という観点から、わが国が進めるべき国際協力の方向性について意見を交換する。
2
内
容
(1) シンポジウムの案内
総合司会:大塚海夫(海上自衛隊幹部学校副校長)
(2)主催者挨拶
秋山昌廣(海洋政策研究財団会長)
(3) 第 1 部の議事進行要領説明
第1部司会:森本敏(拓殖大学大学院教授)
(4) 基調講演
武居智久(海上幕僚監部防衛部長)
(5)討
論
討論者
ヴァンダービルト大学教授
在日米海軍司令官
ジェームズ・アワー
リチャード・B・レン少将
在日本国英国大使館付国防武官
慶応義塾大学常任理事
阿川尚之
外務省総合政策局参事官
防衛省防衛政策局長
ギャレス・デリク大佐
石井正文
高見澤將林
(6)聴衆を含めての質疑・応答
第2部「経済大動脈の安全確保に向けた取組み」
1
目
的
ソマリア沖海賊対処に焦点を当て、海上交通の安全確保のための商船界・海上保安
庁・海上自衛隊の連携の方向性について議論する。
2
内
容
(1)第1部の議事進行要領説明
秋山昌廣(海洋政策研究財団会長)
(2)プレゼンテーション
①
半田收(日本船主協会常務理事)
内容:海運の重要性、海賊被害の報告、海運業界の取組み、政府への期待等
②
吉田正紀海将補(海上幕僚監部指揮通信情報部長)
五島浩司 1 等海佐(前派遣海賊対処行動艦艇部隊指揮官)
福島博
1等海佐(前派遣海賊対処行動航空部隊指揮官)
内容:海上自衛隊の関与、護衛任務の概要、商船・海保・各国海軍との連携等
③
鈴木洋(海上保安庁警備救難部管理課長)
内容:マラッカ海峡での海賊対策への貢献、アデン湾での海上自衛隊との連携、
新法の下での取り組み等
④
伊藤嘉章(ReCAAP 情報共有センター事務局長)
内容:ReCAAP の概要、マラッカ海峡およびソマリア沖海賊問題の現状等
⑤
小谷哲男(海洋政策研究財団研究員)
内容:海賊問題の歴史と教訓、民間の役割と官民協力の必要性等
⑥
原田美智雄(外務省海上安全保障政策室長)
内容:海賊問題の現状、国連等を通じた取り組み、地域の能力構築への貢献等
(3)聴衆を含めての質疑・応答(40 分)