A net Vol.20 No.1 2016 独立行政法人国立病院機構東京医療センター 院長 福澤諭吉と女性 武田 純三 社会では、女性は男性に附属した生活を送ってきたが、 日本の近代化のためには女性も教育を受け、財を保有 西澤直子 著 し、経済的自立を成し遂げて、一身独立すべきと考え 慶應義塾大学出版会 2011年12月 本体2,500円 + 税 てきた。また、女性の意識改革だけではだめで、男性 ていた。女性への教育の必要性を重んじ、学校を開い が変わる必要も訴えてきた。男性に刷り込まれてきた 女性観、すなわち女性とはこうあるべきものであるとい う固定概念が、大きな障害となっていると考えていた。 その時代から150年を経ようとしている。日本の女 現在国家試験を受けて医師になる学生の 3 分の 1 が 性の自立は進んだのであろうか。女性医師の自立はど 女性で、女性医師の占める割合は増えてきている。 うであろうか。医学部では男女に係らず、同等の教育 中でも麻酔科は、女性が多い診療科の一つである。 を受けられるようになっている。成績は一般的に女性 海外の一流企業での女性CEOは珍しくないが、日本 の方が優秀である。しかし、女性の責任者の数は圧倒 ではまだまだ少なく、安倍政権では女性の幹部登用を 的に少ない。増加する女性医師を活用するためには、 スローガンに挙げている。自分の周りを見回してみて 女性の自覚と男性の意識変革と、良質な女性麻酔科医 も、学会の代議員にはいても理事会では少なく、教授 を養成する事にあるのかもしれない。 会や公的病院の院長となると非常に少ない。女性医師 本書は、女性の福澤研究家の目を通して見た、男性 の働き方に関しては、麻酔科学会の委員会やシンポジ 福澤諭吉の女性論である。本の帯には『男子亦この書 �� ウムで取上げ、保育所、勤務体制、優遇策など多くの を読むべし』と書かれているが、男性、女性を問わず 対策が検討されてきたが、特効薬的な策は無かったと 読んでみて欲しい。 いうのが実情である。 根本的な女性論の議論をと思い、母校である慶應義 塾の創始者:福澤諭吉先生が、当時女性に関してどの ような考えを持っていたのかと思っていた。そんな折 に手にしたのが、西澤直子氏による『福澤諭吉と女性』 である。慶應義塾には、福澤諭吉やその門下生、慶應 義塾関係者について資料収集・調査研究を行っている “福澤研究センター”がある。西澤氏は、福澤研究セ ンターの教授である。 慶應関係者でなくても『独立自尊』という言葉はご 存知と思う。福澤は、独立自尊であるためには一身独 立が必要で、一身独立があって一家独立、一家独立が 一国独立に繋がると考えていた。家督を護るための男 プロフィール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 武田 純三 Junzo Takeda 独立行政法人国立病院機構東京医療センター 院長 1973年 3 月:慶應義塾大学医学部卒業 1997年 4 月:慶應義塾大学医学部麻酔学教室 教授 2005年 6 月∼2007年 5 月:日本麻酔科学会 理事長 2009年 8 月:慶應義塾大学病院 院長 2014年 4 月:独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 院長、 現在に至る 同 年 6 月:慶應義塾大学医学部三四会長 (同窓会長) このコーナーでは、お薦めしたい本 (ジャンルは問いません) についてご執筆いただける方を募集しております。詳細は巻末informationをご覧ください。 26
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